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  • 特開-熱伝導性シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099539
(43)【公開日】2023-07-13
(54)【発明の名称】熱伝導性シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20230706BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20230706BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230706BHJP
   C08K 5/01 20060101ALI20230706BHJP
   C08L 83/07 20060101ALI20230706BHJP
   C08L 83/08 20060101ALI20230706BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
C08L83/04
C08K5/01
C08L83/07
C08L83/08
C08J5/18 CFH
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068696
(22)【出願日】2023-04-19
(62)【分割の表示】P 2022574661の分割
【原出願日】2022-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2021160133
(32)【優先日】2021-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】313001332
【氏名又は名称】積水ポリマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】梅谷 寛
(72)【発明者】
【氏名】関 知範
(72)【発明者】
【氏名】金子 俊輝
(57)【要約】
【課題】高い熱伝導率と良好な柔軟性を確保しつつ、剥離性に優れ、かつ移行の少ない熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【解決手段】オルガノポリシロキサンからなるマトリクスと、前記マトリクスに含まれる熱伝導性充填材と、メチルフェニルシリコーンと、25℃において液状である炭化水素化合物とを含む、熱伝導性シート。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オルガノポリシロキサンからなるマトリクスと、前記マトリクスに含まれる熱伝導性充填材と、メチルフェニルシリコーンと、25℃において液状である炭化水素化合物とを含む、熱伝導性シート。
【請求項2】
静的荷重Fsと動的荷重Fdの比であるFs/Fdが0.35未満である、請求項1に記載の熱伝導性シート。
【請求項3】
前記炭化水素化合物が流動パラフィンである、請求項1又は2に記載の熱伝導性シート。
【請求項4】
前記メチルフェニルシリコーンが、マトリクス100体積部基準で、5~100体積部である請求項1~3のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項5】
前記炭化水素化合物の含有量が、マトリクス100体積部基準で、1~80体積部である請求項1~4のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項6】
ジメチルシリコーンオイルをさらに含む、請求項1~5のいずれかに記載の熱伝導性シート。
【請求項7】
前記ジメチルシリコーンオイルがマトリクス100体積部基準で、2~100体積部である請求項6に記載の熱伝導性シート。
【請求項8】
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンと、熱伝導性充填材と、メチルフェニルシリコーンと、25℃において液状である炭化水素化合物とを含む、熱伝導性組成物。
【請求項9】
前記炭化水素化合物が流動パラフィンである、請求項8に記載の熱伝導性組成物。
【請求項10】
ジメチルシリコーンオイルをさらに含む、請求項8又は9に記載の熱伝導性組成物。
【請求項11】
請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導性シートと、前記熱伝導性シートの少なくとも一方の面に剥離シートとが貼り合わされている熱伝導性シート積層体。
【請求項12】
請求項1~7のいずれかに記載の熱伝導性シートが、発熱体と放熱体との間に介在している電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱伝導性シートに関する。
【背景技術】
【0002】
コンピュータ、自動車部品、携帯電話等の電子機器では、半導体素子や機械部品等の発熱体から生じる熱を放熱するためにヒートシンクなどの放熱体が一般的に用いられる。放熱体への熱の伝熱効率を高める目的で、発熱体と放熱体の間には、熱伝導性シートが配置されることが知られている。熱伝導性シートは、電子機器内部に配置させるとき圧縮して用いられることが一般的であり、そのため高い柔軟性が必要とされ、さらに放熱性を高めるため、熱伝導率を高くする必要がある。
こうしたニーズに応えるべく、従来から、熱伝導率が高く、かつ柔軟性を有する熱伝導性材料が提案されてきており、例えば、特許文献1では、低架橋密度のシリコーンを主剤としつつ、主剤に対して熱伝導性充填材を多量に配合したパテ状放熱シートが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-042096号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、熱伝導性充填材を多量に配合した場合、主剤と熱伝導性充填材とを混合したときに、主剤不足の影響でそれらの成分が十分まとまらず、熱伝導性充填材の一部が粉末状のまま残るなどして、熱伝導性組成物のシート化が困難となる場合がある。また、シート化できた場合でも、熱伝導性充填材同士を充分にまとまりのあるものすることができず、例えば剥離シートから剥離したときに、放熱シートが破損したり、放熱シートの一部が剥離シートに残存したりしてしまうことがある。
主剤不足による上記問題に対処するため、可塑剤を多量に配合することも考えられるが、その場合、熱伝導性材料を被着体に接触させた場合に可塑剤が被着体に移行し、また剥離した際に被着体に残渣として残ってしまい、被着体を汚染させ、熱伝導性シートの信頼性を低下させるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、高い熱伝導率と良好な柔軟性を確保しつつ、剥離性に優れ、被着体への可塑剤の移行の少ない熱伝導性シートを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討の結果、オルガノポリシロキサンからなるマトリクス、及び熱伝導性充填材を含む熱伝導性シートにおいて、メチルフェニルシリコーン及び25℃において液状である炭化水素化合物を含有させることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、以下の[1]~[12]を提供する。
【0007】
[1]オルガノポリシロキサンからなるマトリクスと、前記マトリクスに含まれる熱伝導性充填材と、メチルフェニルシリコーンと、25℃において液状である炭化水素化合物とを含む、熱伝導性シート。
[2]静的荷重Fsと動的荷重Fdの比であるFs/Fdが0.35未満である、[1]に記載の熱伝導性シート。
[3]前記炭化水素化合物が流動パラフィンである、[1]又は[2]に記載の熱伝導性シート。
[4]前記メチルフェニルシリコーンが、マトリクス100体積部基準で、5~100体積部である[1]~[3]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[5]前記炭化水素化合物の含有量が、マトリクス100体積部基準で、1~80体積部である[1]~[4]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[6]ジメチルシリコーンオイルをさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の熱伝導性シート。
[7]前記ジメチルシリコーンオイルがマトリクス100体積部基準で、2~100体積部である[6]に記載の熱伝導性シート。
[8]アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンと、熱伝導性充填材と、メチルフェニルシリコーンと、25℃において液状である炭化水素化合物とを含む、熱伝導性組成物。
[9]前記炭化水素化合物が流動パラフィンである、[8]に記載の熱伝導性組成物。
[10]ジメチルシリコーンオイルをさらに含む、[8]又は[9]に記載の熱伝導性組成物。
[11][1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導性シートと、前記熱伝導性シートの少なくとも一方の面に剥離シートが貼り合わされている熱伝導性シート積層体。
[12][1]~[7]のいずれかに記載の熱伝導性シートが、発熱体と放熱体との間に介在している電子機器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高い熱伝導率と良好な柔軟性を確保しつつ、剥離性に優れ、被着体への可塑剤の移行の少ない熱伝導性シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】熱抵抗測定機の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[熱伝導性シート]
本発明の熱伝導性シートは、オルガノポリシロキサンからなるマトリクスと、熱伝導性充填材と、メチルフェニルシリコーンと、25℃において液状である炭化水素化合物を含む。以下、熱伝導性シートの各成分について、詳細に説明する。
【0011】
<マトリクス>
本発明における熱伝導性シートは、オルガノポリシロキサンからなるマトリクスを含む。オルガノポリシロキサンは、縮合反応型、付加反応型のいずれでもよいが、熱伝導性充填材を高充填し易く、また触媒等により硬化温度を容易に調整できることから、付加反応型が好ましい。マトリクスは、例えば、硬化性シリコーン組成物を硬化することで得ることができる。硬化性シリコーン組成物は、例えば主剤と硬化剤からなるとよい。
【0012】
硬化性シリコーン組成物は、付加反応型の場合、熱伝導性充填材を高充填し易いという観点から、主剤としてのアルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、硬化剤としてのハイドロジェンオルガノポリシロキサンとを含有することが好ましい。
なお、硬化性シリコーン組成物は、硬化前は液状であることが好ましい。硬化性シリコーン組成物は、硬化前に液状であることで、熱伝導性充填材を高充填しやすく、さらには、炭化水素化合物を硬化性シリコーン組成物中に分散させやすくなる。なお、本明細書において液状とは、常温(23℃)、1気圧下で液体のものをいう。
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンとをマトリクスとして含むことにより、両者が付加反応して架橋体が形成され、形状保持性及び取扱い性に優れた熱伝導性シートを得ることができる。
アルケニル基含有オルガノポリシロキサンとしては、ジメチルシロキサン単位を少なくとも有するオルガノポリシロキサンを使用できる。具体的には、ビニル両末端ポリジメチルシロキサン、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジフェニルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-メチルフェニルシロキサンコポリマー、ビニル両末端ジメチルシロキサン-ジエチルシロキサンコポリマーなどのビニル両末端オルガノポリシロキサンなどが挙げられる。
ハイドロジェンオルガノポリシロキサンは、ヒドロシリル基(SiH)を2つ以上有する化合物であり、主剤であるアルケニル基含有オルガノポリシロキサンを硬化させることができる。
【0013】
また、マトリクスは、熱伝導性シートの保形性を確保できるようにするために、3次元架橋していることが好ましい。そのためには、例えば付加反応型の場合、1分子中にアルケニル基を少なくとも3以上有するアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、またはケイ素原子に付加する水素を少なくとも3以上有するハイドロジェンオルガノポリシロキサンを少なくとも含有する硬化性シリコーン組成物を硬化させればよい。中でも、ケイ素原子に付加する水素を少なくとも3以上有するハイドロジェンオルガノポリシロキサンを少なくとも含有する硬化性シリコーン組成物が好ましい。
【0014】
マトリクスの含有量の下限は、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは3体積%以上であり、より好ましくは4体積%以上であり、さらに好ましくは5体積%以上である。一方、マトリクスの含有量の上限は、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは30体積%以下であり、より好ましくは20体積%以下であり、さらに好ましくは15体積%以下である。
また、マトリクスの含有量は、熱伝導性シート全量に対して、好ましくは3~30体積%であり、より好ましくは4~20体積%であり、さらに好ましくは5~15体積%である。マトリクスの含有量がこれら下限値以上であると、熱伝導性シートを成形し易くなり、これら上限値以下であると、熱伝導性充填材の含有量を増加させることができ、得られる熱伝導性シートの熱抵抗値を低下させることができる。
なお、本明細書において、「~」で示す範囲は、「~」の前後に記載されている所定の数値以上から所定の数値以下までの範囲であることを意味する。
【0015】
<熱伝導性充填材>
熱伝導性シートは、熱伝導性充填材を含有する。熱伝導性充填材は、マトリクス中に分散された状態で含有される。熱伝導性充填材をマトリクス中に分散させた状態で含有することで、熱伝導性シートの熱伝導性を高くすることができ、放熱性を高めることができる。熱伝導性充填材は、非異方性充填材であっても、異方性充填材であってもよいし、これらを併用してもよい。
【0016】
非異方性充填材は、そのアスペクト比が2以下であり、好ましくは1.5以下である。また、アスペクト比を2以下とすることで、熱伝導性組成物の粘度が上昇するのを防止して、高充填にすることが可能になる。
【0017】
非異方性充填材の具体例は、例えば、金属、金属酸化物、金属窒化物、金属水酸化物、炭素材料、金属以外の酸化物、窒化物、炭化物などが挙げられる。また、非異方性充填材の形状は、球状、不定形の粉末などが挙げられる。
非異方性充填材において、金属としては、アルミニウム、銅、ニッケルなど、金属酸化物としては、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛など、金属窒化物としては窒化アルミニウムなどを例示することができる。金属水酸化物としては、水酸化アルミニウムが挙げられる。さらに、炭素材料としては球状黒鉛などが挙げられる。金属以外の酸化物、窒化物、炭化物としては、石英、窒化ホウ素、炭化ケイ素などが挙げられる。
これらの中では、酸化アルミニウム、窒化アルミニウムが好ましく、酸化アルミニウムがより好ましい。
非異方性充填材は、上記したものを1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0018】
非異方性充填材の平均粒径は0.1~100μmであることが好ましく、0.3~90μmであることがより好ましい。平均粒径を上記下限値以上とすることで、非異方性充填材の比表面積が必要以上に大きくならず、多量に配合しても液状組成物の粘度は上昇しにくく、非異方性充填材を高充填しやすくなる。
また、非異方性充填材の充填量を高める観点から、粒径の異なる非異方性充填材を2種類以上併用することが好ましい。
【0019】
なお、非異方性充填材の平均粒径は、電子顕微鏡等で観察して測定できる。より具体的には、電子顕微鏡や光学顕微鏡、X線CT装置を用いて、任意の非異方性充填材50個の粒径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0020】
異方性充填材は、形状に異方性を有する充填材であり、配向が可能な充填材である。異方性充填材としては、繊維状材料、及び鱗片状材料から選択される少なくとも1種が好ましい。異方性充填材は、一般的にアスペクト比が高いものであり、アスペクト比が2を越えるものであり、5以上であるものも使用することができる。また、アスペクト比の上限は、特に限定されないが、実用的には100である。
なお、アスペクト比とは、短軸方向の長さに対する長軸方向の長さの比であり、繊維材料においては、繊維長/繊維の直径を意味し、鱗片状材料においては鱗片状材料の長軸方向の長さ/厚さを意味する。
【0021】
異方性充填材は、繊維状材料である場合、その平均繊維長が、好ましくは10~500μm、より好ましくは20~350μm、さらに好ましくは50~300μmである。また、繊維状材料の平均繊維長は、熱伝導性シートの厚さよりも短いことが好ましい。厚さよりも短いことで、繊維状材料が熱伝導性シートの表面から必要以上に突出したりすることを防止する。
なお、上記の平均繊維長は、異方性充填材を顕微鏡で観察して算出することができる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の異方性充填材50個の繊維長を測定して、その平均値(相加平均値)を平均繊維長とすることができる。
【0022】
また、異方性充填材が鱗片状材料である場合、その平均粒径は、10~400μmが好ましく、15~300μmがより好ましく、20~200μmがさらに好ましい。なお、鱗片状材料の平均粒径は、異方性充填材を顕微鏡で観察して長径を直径として算出することができる。より具体的には、例えば電子顕微鏡や光学顕微鏡を用いて、任意の異方性充填材50個の長径を測定して、その平均値(相加平均値)を平均粒径とすることができる。
【0023】
異方性充填材は、熱伝導性を有する公知の材料を使用すればよい。異方性充填材としては、具体的には、炭素繊維、鱗片状炭素粉末で代表される炭素系材料、金属繊維で代表される金属材料や金属酸化物、窒化ホウ素や金属窒化物、金属炭化物、金属水酸化物、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維等が挙げられる。
異方性充填材は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
熱伝導性充填材の含有量の下限は、熱伝導性シート全量基準で、50体積%以上であることが好ましく、60体積%以上であることがより好ましく、70体積%以上であることがさらに好ましい。一方、熱伝導性充填材の含有量の上限は、熱伝導性シート全量基準で、90体積%以下であることが好ましく、87体積%以下であることがより好ましく、84体積%以下であることがさらに好ましい。
また、熱伝導性充填材の含有量は、熱伝導性シート全量基準で、50~90体積%の範囲であることが好ましく、60~87体積%の範囲であることがより好ましく、70~84体積%の範囲であることがさらに好ましい。熱伝導性充填材の含有量がこれら下限値以上であると、熱伝導性シートの熱抵抗値が低下して放熱性が高まる。熱伝導性充填材の含有量がこれら上限値以下であると、熱伝導性組成物の流動性が低くなることを防止し、シート化がし易く、表面状態のよい熱伝導性シートを得やすくなる。
【0025】
本発明の熱伝導性シートは、メチルフェニルシリコーン及び25℃において液状である炭化水素化合物を含む。メチルフェニルシリコーン及び25℃において液状である炭化水素化合物は、熱伝導性シートにおいて可塑剤として含有される。
【0026】
<メチルフェニルシリコーン>
メチルフェニルシリコーンは、ポリシロキサン結合中のケイ素原子に、側鎖としてメチル基の代わりにフェニル基が部分的に置換した構造式を持つ非反応性のシリコーンである。メチルフェニルシリコーンは、例えば、メチルフェニルシロキサン単位又はジフェニルシロキサン単位の少なくともいずれかと、ジメチルシロキサン単位を有する化合物を使用するとよい。
本発明において、熱伝導性シートは、メチルフェニルシリコーンを含有することで、剥離シートなどの被着体に対する剥離性が良好になる。また、可塑剤として25℃において液状である炭化水素化合物をさらに含有しても、被着体などに対する可塑剤成分の移行量を抑えることができる。その原理は、定かではないが、以下のように推定される。
メチルフェニルシリコーンは、フェニル基を含有することで、マトリクスと相溶しにくくなるため、比較的熱伝導性シートの表面に相対的に偏在しやすいが、熱伝導性シートの表面に偏在したメチルフェニルシリコーンが熱伝導性シート中の他の可塑剤の染み出しを抑制する役割を果たす。その結果、メチルフェニルシリコーンを含む可塑剤が、被着体に移行することを抑制することができる。また、メチルフェニルシリコーンは、表面に相対的に偏在しやすいことで熱伝導性シートの剥離性も良好にできる。
さらに、熱伝導性シートは、メチルフェニルシリコーンを含有することで柔軟性も良好にしやすくなる。
【0027】
また、メチルフェニルシリコーンは、オイル状態やオリゴマー状態で添加することができるが、他の可塑剤と相溶し、他の可塑剤の被着体などへの移行をより有効に防止できる点で、オイル状態で添加することが好ましい。また、メチルフェニルシリコーンの動粘度は、25℃において10~100,000cStの範囲であることが好ましく、マトリクスへの分散性の観点から100~1000cStの範囲がより好ましい。なお、動粘度は、JIS Z 8803:2011に準拠して測定されるものとする。
【0028】
メチルフェニルシリコーンの中では、JIS K 0062:1992に準拠して測定した屈折率が1.427以上のメチルフェニルシリコーンオイルを用いることが好ましい。屈折率は、メチルフェニルシリコーンオイルにおいてフェニル基量の指標となる。屈折率の高いメチルフェニルシリコーンオイルは、屈折率が低いメチルフェニルシリコーンオイルに比べて、一般的にフェニル基の含有量が多いとされる。そのため、屈折率の高いメチルフェニルシリコーンオイルを使用することで、メチルフェニルシリコーン含有量が比較的少量の場合でも、他の可塑剤の移行をより有効に抑制することができる。そして、メチルフェニルシリコーンオイルの含有量を減らした分を更に熱伝導性充填材の充填に充てることが出来るので、より熱伝導率の高い熱伝導性シートの提供が可能となる。
このメチルフェニルシリコーンの屈折率は、例えば、熱伝導性組成物もしくはその硬化した成形体にローラー等で圧力をかけて、そのブリードしたオイルを単離した後に、JIS K 0062:1992に準拠した方法で測定することができる。
【0029】
メチルフェニルシリコーン含有量の下限は、マトリクス100体積部基準で、5体積部以上であることが好ましく、10体積部以上であることがより好ましく、20体積部以上であることがさらに好ましい。一方、メチルフェニルシリコーンの含有量の上限は、マトリクス100体積部基準で、100体積部以下であることが好ましく、70体積部以下であることがより好ましく、50体積部以下であることがさらに好ましい。また、メチルフェニルシリコーンは、マトリクス100体積部基準で5~100体積部含まれていることが好ましく、10~70体積部含まれていることがより好ましく、20~50体積部含まれていることがさらに好ましい。メチルフェニルシリコーンの含有量が5体積部以上であると、炭化水素化合物などの他の可塑剤の染み出しを防止でき、結果として被着体への移行量を抑制できる。また、熱伝導性シートに十分な柔軟性を付与することができ、熱伝導性シートをパテ状にしやすくなる。
また、100体積部以下とすることで、熱伝導性シートからメチルフェニルシリコーンの染み出し量が必要以上に多くなることを防止することができる。また、熱伝導性シートの保形性や機械強度などが低下することも防止できる。
【0030】
<炭化水素化合物>
本発明で使用する炭化水素化合物は、25℃において液状のものである。本発明において、25℃において液状である炭化水素化合物を使用することで、熱伝導性充填材を多量に含有している場合でも、柔軟性に優れた熱伝導性シートを得ることができ、熱伝導性シートをパテ状にしやすくなる。25℃において液状の炭化水素化合物として、具体的には、スクワラン、スクワレン、パラフィン、プリスタン、ポリイソブチレン等が挙げられる。
本発明で使用する炭化水素化合物としては、流動パラフィンであることが好ましい。炭化水素化合物として流動パラフィンを使用することにより、熱伝導性シートの柔軟性をより優れたものとすることができる。
炭化水素化合物は、平均分子量が200~500であることが好ましく、225~350であることがより好ましく、250~300であることがさらに好ましい。炭化水素化合物の平均分子量が上記下限値以上であると、炭化水素化合物の被着体に対する移行量を抑制しやすくなる。また、熱伝導性シートの機械強度などが低下するのも抑制しやすくなる。他方、炭化水素化合物の平均分子量が上記上限値以下であると、他の成分との相溶性に優れるようになり、良質な熱伝導性シートを形成しやすくなる。また、熱伝導性シートの柔軟性を高くしやすくなる。
炭化水素化合物の密度は、特に限定されないが、0.80~0.90g/cmであることが好ましく、0.82~0.87g/cmであることがより好ましく、0.83~0.86g/cmであることがさらに好ましい。
炭化水素化合物の40℃における動粘度は、100cSt以下であることが好ましく、70cSt以下であることが好ましく、50cSt以下であることがさらに好ましい。動粘度が上記上限値以下であると、熱伝導性シートの柔軟性を高くしやすくなり、パテ状にもしやすくなる。また、炭化水素化合物が熱伝導性シートを構成する他の成分と相溶しやすくなり、良質な熱伝導性シートを得やすくなる。他方、炭化水素化合物の40℃における動粘度は、好ましくは3cSt以上、より好ましくは5cSt以上であり、さらに好ましくは8cSt以上である。炭化水素化合物の動粘度を上記下限値以上とすると、被着体に対する移行量を抑制しやすくなり、また、熱伝導性シートの機械強度などが低下するのも抑制しやすくなる。上記観点から、炭化水素化合物の40℃における動粘度は、3~100cStの範囲であることが好ましく、5~70cStの範囲であることがより好ましく、8~50cStの範囲であることがさらに好ましい。
【0031】
炭化水素化合物の含有量の下限は、マトリクス100体積部基準で、1体積部以上であることが好ましく、5体積部以上であることがより好ましく、10体積部以上であることがさらに好ましい。一方、炭化水素化合物の含有量の上限は、マトリクス100体積部基準で、80体積部以下であることが好ましく、60体積部以下であることがより好ましく、30体積部以下であることがさらに好ましい。また、炭化水素化合物の含有量は、マトリクス100体積部基準で、1~80体積部が好ましく、5~60体積部がより好ましく、10~30体積部がさらに好ましい。炭化水素化合物の含有量が上記下限値以上であると、柔軟性に優れた熱伝導性シートを得ることができ、熱伝導性シートをパテ状にしやすくなる。他方、炭化水素化合物の含有量が上記上限値以下であると、被着体に対する移行量を抑制することができる。
【0032】
<その他の可塑剤>
本発明で使用する可塑剤としては、上記炭化水素化合物、及びメチルフェニルシリコーン以外の可塑剤を使用してもよい。そのような可塑剤としては、メチルフェニルシリコーン以外の非反応性のシリコーンオイルを使用することが好ましい。その他の可塑剤として使用するシリコーンオイルは、例えばストレートシリコーンオイルであり、中でもジメチルシリコーンオイルがより好ましい。ジメチルシリコーンオイルを含有させることにより、熱伝導性シートの柔軟性がより向上しやすくなる。
ジメチルシリコーンオイルの動粘度は、25℃において10~100,000cStの範囲であることが好ましく、マトリクスへの分散性、柔軟性の観点から50~1000cStの範囲がより好ましい。
【0033】
本発明の熱伝導性シートにジメチルシリコーンオイルを含有する場合、ジメチルシリコーンオイルの含有量の下限は、マトリクス100体積部基準で、2体積部以上であることが好ましく、5体積部以上であることがより好ましく、10体積部以上であることがさらに好ましい。一方、ジメチルシリコーンオイルの含有量の上限は、マトリクス100体積部基準で、100体積部以下であることが好ましく、70体積部以下であることがより好ましく、50体積部以下であることがさらに好ましい。また、本発明の熱伝導性シートにジメチルシリコーンオイルを含有する場合、ジメチルシリコーンオイルの含有量は、マトリクス100体積部基準で、2~100体積部が好ましく、5~70体積部がより好ましく、10~50体積部がさらに好ましい。ジメチルシリコーンオイルの含有量が上記下限値以上であると、柔軟性に優れた熱伝導性シートを得ることができ、熱伝導性シートをパテ状にしやすくなる。他方、ジメチルシリコーンオイルの含有量が上記上限値以下であると、被着体に対する移行量を抑制することができる。
【0034】
<分散剤>
本発明に係る熱伝導性シートは、分散剤を含有してもよい。熱伝導性シートは、分散剤を含有することで、熱伝導性充填材の含有量を多くしても、熱伝導性充填材をマトリクス中に分散させやすくなる。分散剤としては、シラン化合物が挙げられる。
【0035】
上記シラン化合物としては、例えばアルコキシシラン化合物が挙げられる。アルコキシシラン化合物は、ケイ素原子(Si)が持つ4個の結合のうち、1~3個がアルコキシ基と結合し、残余の結合が有機置換基と結合した構造を有する化合物である。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロトキシ基、ブトキシ基、ペントキシ基、及びヘキサトキシ基が挙げられる。アルコキシシラン化合物は、二量体として含有されていてもよい。
【0036】
アルコキシシラン化合物の中でも、入手容易性の観点から、メトキシ基又はエトキシ基を有するアルコキシシラン化合物が好ましい。アルコキシシラン化合物の有するアルコキシ基の数は、無機物としての熱伝導性充填材との親和性を高めるという観点から、3であることが好ましい。アルコキシシラン化合物は、トリメトキシシラン化合物及びトリエトキシシラン化合物から選ばれる少なくとも一種であることがより好ましい。
【0037】
アルコキシシラン化合物の有する有機置換基に含まれる官能基としては、例えば、アクリロイル基、アルキル基、カルボキシル基、ビニル基、メタクリロイル基、芳香族基、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、エポキシ基、ヒドロキシル基、及びメルカプト基が挙げられる。
ここで、上記マトリクスの前駆体として、付加反応型のオルガノポリシロキサンを用い、かつ硬化触媒として白金触媒を使用する場合、マトリクスを形成するオルガノポリシロキサンの硬化反応に影響を与え難いアルコキシシラン化合物を選択して用いることが好ましい。具体的には、アルコキシシラン化合物の有機置換基は、アミノ基、イソシアネート基、イソシアヌレート基、ヒドロキシル基、又はメルカプト基を含まないことが好ましい。
【0038】
アルコキシシラン化合物は、熱伝導性充填材の分散性を高めることで、熱伝導性充填材を高充填し易くなることから、ケイ素原子に結合したアルキル基を有するアルキルアルコキシシラン化合物、すなわち、有機置換基としてアルキル基を有するアルコキシシラン化合物を含むことが好ましい。ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、4以上であることが好ましい。また、ケイ素原子に結合したアルキル基の炭素数は、アルコキシシラン化合物自体の粘度が比較的低く、熱伝導性組成物の粘度を低く抑えるという観点から、16以下であることが好ましい。
【0039】
アルコキシシラン化合物は、一種類又は二種類以上を使用することができる。アルコキシシラン化合物の具体例としては、アルキル基含有アルコキシシラン化合物、ビニル基含有アルコキシシラン化合物、アクリロイル基含有アルコキシシラン化合物、メタクリロイル基含有アルコキシシラン化合物、芳香族基含有アルコキシシラン化合物、アミノ基含有アルコキシシラン化合物、イソシアネート基含有アルコキシシラン化合物、イソシアヌレート基含有アルコキシシラン化合物、エポキシ基含有アルコキシシラン化合物、及びメルカプト基含有アルコキシシラン化合物が挙げられる。これらの中では、アルキル基含有アルコキシシラン化合物が好ましい。
【0040】
アルキル基含有アルコキシシラン化合物としては、例えば、メチルトリメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、及びn-デルトリメトキシシランが挙げられる。アルキル基含有アルコキシシラン化合物の中でも、イソブチルトリメトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリエトキシシラン、シクロヘキシルメチルジメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、及びn-デシルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種が好ましく、n-オクチルトリエトキシシラン及びn-デシルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも一種がより好ましく、n-デシルトリメトキシシランが特に好ましい。
【0041】
分散剤は、揮発性化合物であってもよい。本明細書において、揮発性化合物は熱重量分析で2℃/分の条件で昇温したときの重量減少が90%となる温度T1が70~300℃の範囲にあること、及び沸点(1気圧)が60~200℃の範囲にあることの少なくともいずれかの性質を備える化合物を意味する。ここで、重量減少が90%となる温度T1とは、熱重量分析前の試料の重量を100%として、そのうち90%の重量が減少する温度(すなわち、測定前の重量の10%となる温度)を意味する。分散剤が揮発性化合物である場合には、分散剤として上記シラン化合物のうち揮発性シラン化合物を使用すればよい。
なお、分散剤は、後述する通り、硬化前の熱伝導性組成物に配合されるとよいが、揮発性化合物である場合には、硬化時の加熱により分散剤の一部又は全部が揮発してもよい。したがって、硬化前の熱伝導性組成物に分散剤が配合される場合でも、硬化後の熱伝導性シートにおいては分散剤が含有されないこともある。
【0042】
<添加剤>
熱伝導性シートは、必要に応じて上記以外の添加剤を含有してもよい。添加剤としては、例えば、粘着剤、難燃剤、酸化防止剤、着色剤、沈降防止剤などから選択される少なくとも1種以上が挙げられる。また、上記したように硬化性シリコーン組成物を使用する場合などには、硬化を促進させる硬化触媒などが配合されてもよい。硬化触媒としては、白金系触媒が挙げられる。
【0043】
<静的荷重Fs、動的荷重Fd>
本発明の熱伝導性シートは、パテ状であることが好ましい。パテ状である熱伝導性シートは、柔軟性が高いため、適度に圧縮して電子機器内部に配置させることができる。そのため、電子機器内部において、電子部品、放熱体などに対して密着させることができ、放熱性を高めることができる。
パテ状であることは、例えば自重で変形せずに形状保持性があり、かつ荷重等で変形した際に元の形状には戻らない、または戻り難い性質といえる。こうした性質は「静的荷重Fs」と「動的荷重Fd」とで表現できる。
「動的荷重Fd」とは、遅くはない所定の速度で押圧したときの荷重で、シート(硬化物)の硬さ(すなわち、変形に対する応力の大きさ)を示す指標である。また、シート状を維持する形状保持性にも関係する。
一方、「静的荷重Fs」は、所定深さに押圧した後、所定時間経過したときの荷重であり、変形した状態からの反発力(すなわち、元の形状に戻る力)の大きさの指標となる。
以上の点を踏まえ、パテ状であることをFd、Fsにより表現すると、Fdが相対的に適度な大きい値となり、Fsが相対的に小さな値となる。
本発明の熱伝導性シートは、静的荷重Fsと、動的荷重Fdによって示される比であるFs/Fdが0.35未満であることが好ましい。Fs/Fdが0.35未満であると、熱伝導性シートに良好な柔軟性を付与することができ、熱伝導性シートをパテ状とすることができる。こうした観点を踏まえると、Fs/Fdは、0.30以下であることがより好ましく、さらに好ましくは0.25以下、0.20以下であることがよりさらに好ましい。他方、Fs/Fdの下限は、特に限定されないが、熱伝導性シートの形状保持性及び取扱い性の観点から、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.10以上である。また、上記観点から、Fs/Fdは、0.05以上0.35未満であることが好ましく、0.05~0.3であることがより好ましく、0.10~0.25であることがさらに好ましく、0.10~0.20であることがよりさらに好ましい。また、動的荷重Fdについては、一定値以下であったほうがよく、好ましくは100N以下、より好ましくは50N以下、さらに好ましくは30N以下である。また、動的荷重Fdの下限は、特に限定されないが、例えば5N以上である。また、動的荷重Fdの範囲は、5~100Nであることが好ましく、5~50Nであることがより好ましく、5~30Nであることがさらに好ましい。
なお、Fs、Fdは、実施例に記載する方法により、それぞれ測定することができる。
【0044】
Fs/Fdは、熱伝導性シートの各成分の配合比、マトリクスの架橋密度を調整することで上記範囲内とすることができる。例えば、メチルフェニルシリコーン、炭化水素化合物、これら以外の可塑剤の配合比を高くすることで、Fs/Fdは小さくなる傾向にある。また、マトリクスの架橋密度を低くしても、Fs/Fdは小さくなる傾向にある。
【0045】
<40%圧縮荷重、8psi圧縮率>
本発明の熱伝導性シートの40%圧縮荷重の下限は、好ましくは1N以上であり、より好ましくは2N以上であり、さらに好ましくは3N以上である。一方、本発明の熱伝導性シートの40%圧縮荷重の上限は、好ましくは25N以下であり、より好ましくは20N以下であり、さらに好ましくは15N以下である。また、本発明の熱伝導性シートの40%圧縮荷重は、好ましくは1~25Nであり、より好ましくは2~20Nであり、さらに好ましくは3~15Nである。また、本発明の熱伝導性シートは、該シートを8psiの力で圧縮した場合の圧縮率(以下、「8psi圧縮率」という。)の下限は、20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の熱伝導性シートは、該シートを8psiの力で圧縮した場合の圧縮率の上限は、70%以下であることが好ましく、65%以下であることがより好ましく、60%以下であることがさらに好ましい。また、本発明の熱伝導性シートは、該シートを8psiの力で圧縮した場合の圧縮率が20~70%であることが好ましく、25~65%であることがより好ましく、30~60%であることがさらに好ましい。
40%圧縮荷重及び8psi圧縮率が上記下限値以上であると、形状保持性及び取り扱い性に優れた熱伝導性シートを得ることができる。また、40%圧縮荷重及び8psi圧縮率が上記上限値以下であると、熱伝導性シートが柔軟性に優れるようになる。
なお、40%圧縮荷重、及び8psi圧縮率はいずれも、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0046】
<熱抵抗値>
本発明の熱伝導性シートの熱抵抗値は、好ましくは2.00℃/W以下であり、より好ましくは1.50℃/W以下、さらに好ましくは1.20℃/W以下である。熱抵抗値がこのような値であると、発熱体から放熱体へ熱を伝達させやすい熱伝導性シートとなる。熱抵抗値は小さければ小さいほどよいが、例えば0.1℃/W以上であるとよい。なお、該熱抵抗値は、熱伝導性シートを30%圧縮した状態で測定した厚み方向の熱抵抗値であり、具体的には実施例に記載の方法で測定される。
【0047】
熱伝導性シートの厚さは、特に限定されず、熱伝導性シートが搭載される電子機器の形状や用途に応じて、適宜設定されるとよいが、例えば0.1~5mmの範囲であるとよい。
また、熱伝導性シートは、一方又は両方の面に剥離シートが貼り合わせされて、熱伝導性シートと、該熱伝導性シートの少なくとも一方の面に剥離シートとが貼り合わされている熱伝導性シート積層体を形成していてもよい。剥離シートは、使用前において熱伝導性シートを保護し、使用時に熱伝導性シートから剥離するとよい。熱伝導性シートは、上記した通り、剥離性に優れることから、剥離シートから剥離する際に、剥離シートに熱伝導性シートの一部が残ることを抑えることができる。剥離シートは、樹脂シートであってもよいし、樹脂シートの少なくとも一方の面に剥離処理されたものであってもよい。樹脂シートは、後述する製造方法で説明する通り、熱伝導性シートの製造のために使用した樹脂シートをそのまま使用してもよい。
【0048】
[熱伝導性シートの製造方法]
本発明の熱伝導性シートの製造方法は、特に限定されないが、例えば、以下の工程X、及び工程Yを備える製造方法により製造できる。
工程X:少なくとも、マトリクスを得るためのマトリクス前駆体と、熱伝導性充填材と、メチルフェニルシリコーンと、炭化水素化合物とを混合し、熱伝導性組成物を得る工程
工程Y:工程Xで得た熱伝導性組成物を加熱により硬化する工程
以下、各工程について詳細に説明する。
【0049】
<工程X>
工程Xでは、少なくとも、マトリクス前駆体、熱伝導性充填材、メチルフェニルシリコーン、及び25℃において液状である炭化水素化合物を混合して熱伝導性組成物を得る。なお、マトリクス前駆体は、マトリクスを構成するための硬化前の成分よりなるものであり、上記した硬化性シリコーン組成物などを使用するとよい。熱伝導性組成物には、必要に応じて、適宜、メチルフェニルシリコーン及び炭化水素化合物以外の可塑剤、分散剤、添加剤などがさらに混合されてもよい。熱伝導性組成物を構成する各成分の混合は、例えば公知のニーダー、混練ロール、ミキサー、振動撹拌機などを使用するとよい。
工程Xでは、熱伝導性組成物は、各成分を均一に混合できるようにする観点から、流動性を有していることが好ましい。また、熱伝導性組成物に配合された分散剤は、揮発性化合物である場合には、工程Yにおける加熱により少なくとも一部が揮発してもよい。硬化前の熱伝導性組成物において、分散剤は、マトリクス前駆体100体積部に対して、例えば1~30体積部配合され、好ましくは5~20体積部配合されればよい。
【0050】
<工程Y>
工程Yは、熱伝導性組成物を加熱により硬化する工程である。熱伝導性組成物を加熱する際の温度は、硬化性シリコーン組成物などのマトリクス前駆体を加熱により硬化できる限り、特に限定されず、室温(23℃)より高ければよいが、好ましくは50℃以上の温度で加熱するとよい。また、加熱温度は、特に限定されないが、熱伝導性組成物が熱劣化しない程度の温度であればよく、例えば180℃以下、好ましくは150℃以下である。また、熱伝導性組成物の加熱は、1段階で行ってもよいし、2段階以上で行ってもよい。2段階以上で行う場合は、少なくともいずれかの段階で加熱温度が上記範囲内であればよいが、全ての段階で加熱温度が上記範囲内であるほうが好ましい。また、加熱時間合計は、例えば10分~3時間程度である。また、2段階以上で行う場合、例えば1段階目において熱伝導性組成物を半硬化させ、2段階目以降の加熱により熱伝導性組成物を全硬化させるとよい。
また、熱伝導性組成物が揮発性化合物である分散剤を含有する場合、工程Yでは、上記加熱によって分散剤の少なくとも一部を揮発させてもよい。分散剤は、硬化前において熱伝導性充填材を組成物中に分散させておくことで、工程Yにおいて揮発されても、その分散状態を熱伝導性シートにおいても維持することができる。
【0051】
工程Yでは、熱伝導性組成物は、ブロック状、シート状などの所定の形状に成形したうえで、上記の通りかつ加熱して硬化させるとよい。また、工程Yでは、熱伝導性組成物は、熱伝導性充填材として異方性充填材を含有する場合には、異方性充填材を一方向に配向したうえで加熱により硬化させるとよい。異方性充填材は、磁場配向法、流動配向法などにより配向させるとよい。
【0052】
工程Yでは、工程Xで得た熱伝導性組成物を金型内部に注入して、ブロック状、シート状などの所定の形状に成形するとよい。また、2枚の樹脂シート間に熱伝導性組成物を挟み加圧することで、シート状に成形してもよい。
熱伝導性組成物を2枚の樹脂シートに挟む方法は特に制限されないが、熱伝導性組成物を2枚のシートのうちの一方の樹脂シートの表面上に塗工して、もう一方の樹脂シートを塗工した面上に重ね合わせる方法が挙げられる。加圧する手段は特に限定されず、例えばロールやプレスなどにより行うとよい。
【0053】
上記2枚の樹脂シートは、特に限定されず、ガス低透過性フィルムであってもよいし、ガス透過性フィルムであってもよい。2枚の樹脂フィルムは、例えば一方がガス透過性フィルムであってもよいし、両方がガス透過性フィルムであってもよい。ガス透過性フィルムを使用することで、熱伝導性組成物に揮発性化合物である分散剤が配合される場合、工程Yの加熱時に分散剤を熱伝導性組成物から容易に揮発できるようになる。
ここで、ガス透過性とは、液体は透過できないが気体は透過できる性質を意味し、ガス透過性フィルムは、酸素透過度が例えば、5.0×10cm/m・day・MPa以上である。一方、ガス低透過性フィルムの酸素透過度は、5.0×10cm/m・day・MPa未満である。ここで酸素透過度は、JIS K7126-2に準拠して測定される。
【0054】
ガス透過性フィルムとしては、多孔質フィルム、無孔ガス透過性フィルムなどが挙げられる。多孔質フィルムは、複数の孔を有するフィルムであり、ポリマーとフィラーの混合物や、ポリマー同士の混合物などにより形成される。無孔ガス透過性フィルムは、多孔質フィルムに形成されているような孔を有さないフィルムであり、ガス透過性を有するフィルムである。中でも、ガス透過性フィルムは、無孔ガス透過性フィルムが好ましい。
【0055】
ガス透過性フィルムを構成するポリマーとしては、特に制限されないが、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、ポリメチルペンテン、エチルセルロース、ポリテトラフルオロエチレンやフッ素変性樹脂等のフッ素系樹脂などが挙げられる。これらの中でも、ポリメチルペンテンから形成された無孔ガス透過性フィルムが好ましい。ポリメチルペンテンから形成されたガス透過性フィルムは適度な厚みを有していながら高いガス透過性を有すため、マトリクスを硬化させる際に、揮発性化物を適切に揮発させることができ、さらにガス透過性フィルムをシートから剥離する際に、剥離性に優れる。ポリメチルペンテンから形成された無孔ガス透過性フィルムを用いれば、熱伝導性組成物を塗布したとき孔の中にマトリクス前駆体が浸入しないため特に剥離性に優れ、さらにフィルム表面に孔がないため孔に起因する凹凸が形成されず、凹凸の少ない表面状態のよい1次シートが得られる。
【0056】
ガス透過性フィルムは、前記ポリマーを単体で使用したガス透過性フィルムでもよいし、ガス透過性の異なるポリマーで形成した複数の樹脂層を積層して多層ガス透過性フィルムとして使用してもよい。この場合、前述のポリマー以外の樹脂であっても薄い樹脂層とすることで、全体として5.0×10cm/m・day・MPa以上の酸素透過度を有する多層ガス透過性フィルムを構成すれば良い。
【0057】
熱伝導性シートを使用する際には、表面の樹脂シートを剥離して使用するため、上記樹脂シートは、剥離性のよい樹脂からなる剥離フィルム、または少なくとも一方の表面に剥離層を備える剥離フィルムであることが好ましい。
【0058】
樹脂フィルムの厚さは、特に限定されないが、例えば5~300μmであり、好ましくは10~250μmであり、より好ましく30~200μmである。厚さは、所望の酸素透過度となるように適宜調整するとよい。
【0059】
熱伝導性充填材が異方性充填材を含む場合、異方性充填材は、磁場配向法、流動配向法により配向させてもよい。
磁場配向法では、熱伝導性組成物を金型などの内部に注入したうえで磁場に置き、異方性充填材を磁場に沿って配向させるとよい。そして、硬化性シリコーン組成物などのマトリクス前駆体を硬化させることで配向成形体を得るとよい。熱伝導性組成物の硬化は、上記の通りの加熱条件により行うとよい。
配向成形体としてはブロック状のものとすることが好ましいが、シート状のものであってもよい。シート状のものとすることで、配向成形体は、スライスすることなくそのまま熱伝導性シートとして使用することができる。一方でブロック状とすることで、異方性充填材の配向性が高められる。
【0060】
流動配向法では、熱伝導性組成物に剪断力をかけて、面方向に沿って異方性充填材が配向された一次シートを製造する。より具体的には、流動配向法では、まず、工程Xにおいて調製された熱伝導性組成物に対して剪断力を付与しながら平たく伸長させてシート状(一次シート)に成形する。剪断力をかけることで、異方性充填材を剪断方向に配向させることができる。シートの成形手段として、例えば、バーコータやドクターブレード等の塗布用アプリケータ、もしくは、押出成形やノズルからの吐出等により、樹脂フィルム上に熱伝導性組成物を塗工し、その後、必要に応じて乾燥したり、熱伝導性組成物を半硬化させたり、全硬化させたりするとよい。一次シートの厚さは、50~5000μm程度とすることが好ましい。一次シートにおいて、異方性充填材はシートの面方向に沿う一方向に配向している。
【0061】
一次シートは、後述するようにブロックとせずにそのまま硬化して熱伝導性シートとして使用してもよい。また、一次シートを、配向方向が同じになるように複数枚重ねて積層した後、必要に応じて加熱により硬化させつつ、熱プレス等により一次シートを互いに接着させることで積層ブロック(ブロック状の配向成形体)を形成してもよい。
また、積層ブロックを形成する場合には、一次シートの互いに重ね合わせる面の少なくとも一方に、真空紫外線を照射させた後、一次シートを重ね合わせてもよい。真空紫外線を照射された面を介して、一次シートを重ね合わせると、一次シート同士が強固に接着できる。また、真空紫外線を照射させる場合には、一次シートは、他の一次シートに重ね合わせる前に全硬化させておいてもよく、一次シートを重ね合わせて積層ブロックを形成する際には加熱などにより硬化させる必要はない。
【0062】
上記のとおり、ブロック状の配向成形体を形成する際には、得られた配向成形体を、異方性充填材が配向する方向に対して垂直に、スライスなどにより切断するとよい。スライスは、例えばせん断刃などで行うとよい。切断により得られたシート状の成形体は、そのまま熱伝導性シートとしてもよいが、さらに別の処理をしてもよい。例えば切断面である各表面を研磨するなどしてもよい。表面の研磨は、例えば、研磨紙を使用して行うとよい。
【0063】
[熱伝導性シートの用途]
熱伝導性シートは、電子機器内部などにおいて使用される。具体的には、熱伝導性シートは、発熱体と放熱体との間に介在させられ、発熱体で発した熱を熱伝導して放熱体に移動させ、放熱体から放熱させる。ここで、発熱体としては、電子機器内部で使用されるCPU、パワーアンプ、バッテリー等の電源などの各種の電子部品が挙げられる。また、放熱体は、ヒートシンク、ヒートパイプ、ヒートポンプ、電子機器の金属筐体などが挙げられる。熱伝導性シートは、両表面それぞれが、発熱体及び放熱体それぞれに密着し、かつ圧縮して使用される。
【0064】
[熱伝導性組成物]
本発明は、さらに熱伝導性組成物を提供するものである。熱伝導性組成物は、上記のとおり、硬化することで熱伝導性シートとなるものである。熱伝導性組成物は、アルケニル基含有オルガノポリシロキサンと、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンと、熱伝導性充填材と、メチルフェニルシリコーンと、25℃において液状である炭化水素化合物とを含むものである。熱伝導性組成物に含まれる上記炭化水素化合物としては、流動パラフィンであることが好ましい。
また、熱伝導性組成物は、メチルフェニルシリコーン以外の可塑剤を含有してもよい。熱伝導性組成物に含まれるメチルフェニルシリコーン以外の可塑剤としては、ジメチルシリコーンオイルが好ましい。
熱伝導性組成物は、さらに、分散剤、添加剤を含有してもよい。
アルケニル基含有オルガノポリシロキサン、ハイドロジェンオルガノポリシロキサン、熱伝導性充填材、及びメチルフェニルシリコーン、25℃において液状である炭化水素化合物、メチルフェニルシリコーン以外の可塑剤、分散剤、及び添加剤の詳細は、上記で説明したとおりであり、その含有量も上記で述べたとおりであるので、詳細な説明は省略する。
ただし、上記では各成分の含有量について、熱伝導性シート全量基準で述べた部分があるが、熱伝導性シートは、熱伝導性組成物から形成されたものであるので、上記で述べた熱伝導性シート全量基準の含有量は、熱伝導性組成物においては、熱伝導性組成物全量基準の含有量とみなすことができる。
また、マトリクス100体積部基準で述べた部分があるが、マトリクスは上記のとおり、硬化性シリコーン組成物などのマトリクス前駆体から形成されたものであり、熱伝導性組成物においては、熱伝導性組成物に含有される、マトリクスを構成するための硬化前の成分(例えば硬化性シリコーン樹脂)を意味するものである。したがって、上記で述べたマトリクス100体積部基準で述べた含有量は、熱伝導性組成物においては、マトリクス前駆体100体積部基準の含有量とみなすことができる。マトリクス前駆体は、典型的には硬化性シリコーン組成物であり、より具体的にはアルケニル基含有オルガノポリシロキサン、ハイドロジェンオルガノポリシロキサンからなるものである。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0066】
[測定、評価]
本実施例では、以下の方法により、測定及び評価を行った。
【0067】
<剥離性>
各実施例、比較例で得られた熱伝導性シートからポリメチルペンテンフィルムを剥離した。
ポリメチルペンテンフィルムを剥離するときに、ポリメチルペンテンフィルムの表面に熱伝導性シートの残渣がほとんど残らずに、剥離後も熱伝導性シートの表面をきれいに維持できたものを「A」、多くの残渣が残ってしまい熱伝導性シートの表面が荒れた状態になってしまったものを「B」と評価した。
【0068】
<残存量>
上記剥離後、10mm×10mmの面積あたりのポリメチルペンテンフィルムに移行した、熱伝導性シートの残渣の重量(以下、「残存量」ということがある。)を測定した。具体的には、熱伝導性シートから剥離した後の10mm×10mmのポリメチルペンテンフィルムの重量から、使用前の10mm×10mmのポリメチルペンテンフィルムの重量を差し引いて残存量を算出した。
【0069】
<40%圧縮荷重>
大きさが12mm×12mmで厚さが2mmの試験片を作製し、その後ロードセルにより、熱伝導性シートの元の厚さの40%分だけ、熱伝導性シートを圧縮させ、その状態を8分間維持したときの荷重を測定した。
【0070】
<8psi圧縮率>
大きさが12mm×12mmで厚さが2mmの試験片を作製し、その後ロードセルにより、8psiの圧縮応力により熱伝導性シートを圧縮した場合における、熱伝導性シートの圧縮率を算出した。圧縮率は以下の式により算出した。40%圧縮荷重及び8psi圧縮率は、25℃環境下で測定した。
圧縮率(%)=(圧縮時の厚さ(mm)/元の厚さ(mm))×100
【0071】
<Fs、Fd>
大きさが15mm×15mmで厚さが2mmの試験片を作製し、その後ロードセルを用いて、以下(1)(2)の手順に沿ってFs、Fdの測定を行った。試験片の厚さは、熱伝導性シートの厚みと同じにした。
(1)25℃環境下で、1mm/minの速度で、30%圧縮(元の厚さの70%の厚さとなる厚さまで圧縮)を行った。この圧縮を行っている間の最大応力を測定し、該最大応力を動的荷重Fdとした。
(2)25℃環境下で、30%圧縮を行った状態を5分間維持し、該維持後の荷重を測定し、得られた荷重を静的荷重Fsとした。
【0072】
<熱抵抗値>
熱抵抗値は、図1に示すような熱抵抗測定機を用い、以下に示す方法で測定した。
具体的には、各試料について、本試験用に大きさが12mm×12mmの試験片Sを作製した。そして各試験片Sを、測定面が12mm×12mmで側面が断熱材21で覆われた銅製ブロック22の上に貼付し、上方の銅製ブロック23で挟み、ロードセル26によって厚さが1.4mm(元の厚さの70%)となるように荷重をかけた。ここで、下方の銅製ブロック22はヒーター24と接している。また、上方の銅製ブロック23は、断熱材21によって覆われ、かつファン付きのヒートシンク25に接続されている。次いで、ヒーター24を発熱量25Wで発熱させ、温度が略定常状態となる10分後に、上方の銅製ブロック23の温度(θj0)、下方の銅製ブロック22の温度(θj1)、及びヒーターの発熱量(Q)を測定し、以下の式(1)から各試料の熱抵抗値を求めた。
熱抵抗=(θj1-θj0)/Q ・・・ 式(1)
式(1)において、θj1は下方の銅製ブロック22の温度、θj0は上方の銅製ブロック23の温度、Qは発熱量である。
【0073】
[熱伝導性シート中の使用成分]
熱伝導性シートの製造には、以下の各成分を使用した。
【0074】
<マトリクス>
・アルケニル基含有オルガノポリシロキサン
・ハイドロジェンオルガノポリシロキサン
【0075】
<可塑剤>
・ジメチルシリコーン:25℃動粘度110cSt
・メチルフェニルシリコーン:25℃動粘度125cSt、屈折率1.49、比重1.065
・流動パラフィン:平均分子量400、密度0.852g/cm、40℃動粘度37cSt
【0076】
<分散剤>
・n-デシルトリメトキシシラン:熱重量分析で2℃/分の条件で昇温したときの重量減少が90%となる温度T1は187℃
【0077】
<熱伝導性充填材>
・酸化アルミニウム1・・平均粒径0.5μm
・酸化アルミニウム2・・平均粒径3μm
・酸化アルミニウム3・・平均粒径40μm
・酸化アルミニウム4・・平均粒径70μm
【0078】
[実施例1]
表1の配合に従って作製した熱伝導性組成物を、2枚のポリメチルペンテンフィルムの間に挟み、スペーサーを用いて、熱伝導性組成物の厚さが2mmとなるように延伸してから、該組成物を80℃で12時間加熱することにより硬化させることにより熱伝導性シートを得た。
【0079】
[実施例2~5、比較例1~3]
熱伝導性組成物の配合を表1のとおり変更した以外は、実施例1と同様にして、厚さ2mmの熱伝導性シートを得た。
【0080】
【表1】
【0081】
以上の実施例の結果から明らかなように、本発明の要件を満たす熱伝導性シートは、熱伝導率が高く、かつ良好な柔軟性が得られたと共に、剥離性に優れ被着体への移行量も抑えることができた。
これに対し、比較例1で作製された熱伝導性シートは、25℃において液状である炭化水素化合物を含有するもののメチルフェニルシリコーンを含有しないため、柔軟性が十分でなく、剥離性が不十分で被着体への移行量も抑えることができなかった。また、比較例2においては、熱伝導性組成物が粉状となり、熱伝導性シートを作製することができなかった。さらに、比較例3では、25℃において液状である炭化水素化合物を含有しないため、柔軟性が不十分でパテ状にすることもできなかった。
【0082】
なお、実施例4と比較例1については、赤外分光法によって移行物質の分析を行った。赤外分光法は、Nicolet iS5(サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)を使用し、ATR法(ダイヤモンドプリズム)で行った。
赤外吸収スペクトルについてリファレンスとの吸光度の比較から、ジメチルシリコーン:メチルフェニルシリコーン:流動パラフィンの質量割合を見積もったところ、実施例4が6:76:18、比較例1が88:0:12となった。
実施例4では、配合比が28:37:34であることから、移行物質はメチルフェニルシリコーンの割合が多かった。移行量が0.06mgであることから、メチルフェニルシリコーンが移行を低減し、またジメチルシリコーンと流動パラフィンの移行を抑制しているものと推定できる。すなわち、メチルフェニルシリコーンは、表面に相対的に偏在することで、他の可塑剤が染み出して移行することを抑制する一方で、メチルフェニルシリコーン自体の移行は抑えられ、結果として、剥離シートへの移行量が抑えることができたと推定できる。また、メチルフェニルシリコーンは、表面に偏在することで、剥離性も良好になると推定できる。
一方で、比較例1では、配合比が72:0:28であることから、ジメチルシリコーンの移行割合が多かった。また、移行量は1.3mgであり、実施例4と比較すると圧倒的に多量であり、ジメチルシリコーンと流動パラフィンの移行を十分に抑制できなかった。
【符号の説明】
【0083】
21 断熱材
22 下方の銅製ブロック
23 上方の銅製ブロック
24 ヒーター
25 ヒートシンク
26 ロードセル
S 試験片
θj0 上方の銅製ブロックの温度
θj1 下方の銅製ブロックの温度
図1