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特開2023-99650硫黄含有化合物およびポリマーならびにそれらの電気化学セルでの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099650
(43)【公開日】2023-07-13
(54)【発明の名称】硫黄含有化合物およびポリマーならびにそれらの電気化学セルでの使用
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/02 20160101AFI20230706BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230706BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20230706BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20230706BHJP
   H01M 4/60 20060101ALI20230706BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230706BHJP
   H01M 10/0565 20100101ALI20230706BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20230706BHJP
   H01M 10/0568 20100101ALI20230706BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20230706BHJP
【FI】
C08G75/02
C08G73/10
H01M4/62 Z
H01M10/052
H01M4/60
H01M4/58
H01M10/0565
H01M10/0569
H01M10/0568
H01M10/0567
【審査請求】有
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023080125
(22)【出願日】2023-05-15
(62)【分割の表示】P 2020518728の分割
【原出願日】2018-10-02
(31)【優先権主張番号】2,981,012
(32)【優先日】2017-10-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CA
(71)【出願人】
【識別番号】513138072
【氏名又は名称】ハイドロ-ケベック
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(74)【代理人】
【識別番号】100181674
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 貴敏
(74)【代理人】
【識別番号】100181641
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 大輔
(74)【代理人】
【識別番号】230113332
【弁護士】
【氏名又は名称】山本 健策
(72)【発明者】
【氏名】ラシェル レヴスク-ベランジェ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレア パオレラ
(72)【発明者】
【氏名】ジャン-クリストフ ダイグル
(72)【発明者】
【氏名】バジル コマリウ
(72)【発明者】
【氏名】ミシェル アルマンド
(72)【発明者】
【氏名】カリム ザジブ
(57)【要約】
【課題】硫黄含有化合物およびポリマーならびにそれらの電気化学セルでの使用を提供すること。
【解決手段】本技術は、正極材料、特にリチウム電池で使用するための硫黄含有ポリマーまたは有機化合物に関する。より具体的には、この硫黄含有ポリマーまたは化合物を活性電極材料として使用することにより、硫黄と活性有機カソード材料を組み合わせることが可能になる。本技術はまた、本明細書において定義される硫黄含有ポリマーまたは有機化合物の、または特にリチウム電池における固体ポリマー電解質(SPE)として、電解質の添加剤としての使用にも関する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IIの化合物:
【化24】

[式中、
Aは、置換または非置換のアリールおよびヘテロアリール基、ならびにそれらの縮合または非縮合多環式等価物から選択され電子の非局在化を許容する不飽和基であり;
Rは、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレン、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレンオキシ、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレングリコール、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレンオキシC2-6アルキレン、直線状または分岐鎖ポリ(C2-6アルキレングリコール)、C6-12アリーレン、C3-12シクロアルキレン、C5-12ヘテロアリーレン、およびC3-12ヘテロシクロアルキレンから選択される置換または非置換有機連結基であり;
mは、前記化合物のジスルフィド結合に挿入された硫黄原子の数を表し、0ではない、すなわち、m>0ある]。
【請求項2】
mは、0<m≦8、または1≦m≦6、または1≦m≦4である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
Rが、ベンゼン、エチレン、プロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、およびエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体の基から選択される、請求項1または2に記載の化合物。
【請求項4】
Aが、ベンゼン、ナフタレン、ペリレン、およびビフェニル基から選択される、請求項1から3のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が式II(a):
【化25】
[式中、Rおよびmは、請求項1から3のいずれか一項に定義される通りである]
の化合物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物が式II(b):
【化26】
[式中、mは、請求項1または2に定義される通りである]
の化合物である、請求項1から4のいずれか一項に記載の化合物。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に定義される化合物および必要に応じて硫黄元素導電性材料、バインダー、またはそれらの少なくとも2つの組合せを含む電極材料。
【請求項8】
前記導電性材料が、カーボンブラック、Ketjen(商標)カーボン、シャウィニガンカーボン、アセチレンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンファイバーおよびカーボンナノチューブ、またはそれらの少なくとも2つの組合せから選択される、請求項7に記載の電極材料。
【請求項9】
前記バインダーがポリエーテル型のポリマーバインダー、フッ素化ポリマー、または水溶性バインダーである、請求項7または8に記載の電極材料。
【請求項10】
前記ポリエーテル型のポリマーバインダーが直線状、分岐鎖、および/または架橋したものであり、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、またはこれら2つの混合物(またはEO/PO共重合体)に基づき、架橋可能な単位を必要に応じて含む
前記フッ素化ポリマーバインダーが、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)であるまたは
前記水溶性バインダーが、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、またはACM(アクリレートゴム)であり、必要に応じてCMC(カルボキシメチルセルロース)を含む、
請求項9に記載の電極材料。
【請求項11】
集電体に適用された、請求項7から10のいずれか一項に記載の電極材料を含む正極。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に定義される化合物および必要に応じて硫黄元素を含む電解質。
【請求項13】
前記電解質が、溶媒中の塩を含む液体電解質であるか、または溶媒中の塩および必要に応じて溶媒和ポリマーを含むゲル電解質であるか、または溶媒和ポリマー中の塩を含む固体ポリマー電解質(SPE)である、請求項12に記載の電解質。
【請求項14】
前記液体またはゲル電解質の前記溶媒が、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、ビニレンカーボネート(VC)、酪酸メチル(MB)、γ-バレロラクトン(γ-VL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグリム、トリメトキシメタン、スルホラン、メチルスルホラン、テトラヒドロフラン、およびそれらの混合物から選択される極性非プロトン性溶媒である、請求項13に記載の電解質。
【請求項15】
前記液体、ゲルまたは固体ポリマー電解質の前記塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾレート(LiTDI)、リチウム4,5-ジシアノ-1,2,3-トリアゾレート(LiDCTA)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、硝酸リチウム(LiNO)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、フッ化リチウム(LiF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSOCF)(LiTf)、フルオロアルキルリン酸リチウムLi[PF(CFCF](LiFAP)、リチウムテトラキス(トリフルオロアセトキシ)ボレートLi[B(OCOCF](LiTFAB)、リチウムビス(1,2-ベンゼンジオラト(2-)-O,O’)ボレートLi[B(C](LBBB)およびそれらの組合せから選択されるリチウム塩である、請求項13または14に記載の電解質。
【請求項16】
記化合物が添加剤である、請求項12から15のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項17】
前記電解質が、電解質バインダーをさらに含む請求項12から16のいずれか一項に記載の電解質。
【請求項18】
カソード、電解質、およびアノードを含む電気化学セルであって、
前記カソードが、請求項7から10のいずれか一項に定義される電極材料を含む
前記カソードが、請求項11に定義される正極である
前記電解質が、請求項12から17のいずれか一項に定義される通りである;または
前記カソードが、極であり、請求項11に定義される通りであり、そして前記電解質が、請求項12から17のいずれか一項に定義される通りである、
電気化学セル。
【請求項19】
請求項18に定義される電気化学セルを含むリチウム電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は、適用法に基づき、2017年10月2日出願のカナダ特許出願第2,981,012号の優先権を主張する。その内容は、参照によりその全文があらゆる目的で本明細書に組み込まれる。
【0002】
技術分野
本願は、特にリチウム電池において、正極の電気化学的活物質として、固体ポリマー電解質(SPE)として、または電解質の添加剤として使用するためのポリマーおよびオリゴマーの分野に関する。
【背景技術】
【0003】
地球環境への意識は、温室効果ガスの問題およびその地球への影響に対する答えを見つけるために多くの科学者に影響を与えている。輸送は温室効果ガス排出において主要な役割を果たすということが分かっているので、輸送を電化することは間違いなく地球温暖化への解決策の一部である。したがって、環境により優しく、より手頃な価格で、より安全で、化石燃料の性能に近い性能(自律性および電力など)を提供する新しい電池材料を設計することが重要である。
【0004】
有機カソードは、エネルギー貯蔵に関する需要を満たすことができる電池の製造の最有力候補である。これらの材料の利点は、合成温度がインターカレーション材料の合成温度よりも大幅に低いことである(Armandら、Nature,2008,451,652)。さらに、それらは豊富に存在する元素で構成され、優れた電気化学性能を提供する(Le Gallら、Journal of Power Sources,2003,316-320)。一方、それらの最大の欠点は、活物質が電解質に溶出することに関連し、それは電池の安定性に大きく影響する(Chenら、ChemSusChem.,2008,1,348-355)。電気化学的に活性な有機ポリマーは、サイクル性のより高い材料を得るために、活物質の溶解を抑制または低減することを可能にすることができる(Zengら、Electrochimica Acta,2014,447-454)。
【0005】
硫黄元素も、高いエネルギー密度をもつ電池の製造の候補である。実際に、リチウム硫黄(Li-S)電池は、この元素によって提供される利点、すなわち1675mAh/gという大容量と非常に豊富であることを考慮すると非常に有望である。後者は、硫黄が石油精製の副産物であるという事実に起因している(Hyunら、ACS Energy Letters,2016,1,566-572)。しかし、Li-Sバッテリーには、サイクル中の硫黄の還元によって生成されるポリスルフィド(Li、x=4~8)の溶解をはじめとする数個の欠点もある。その上、ひとたび溶解すると、ポリスルフィドは、「シャトル効果」と呼ばれる、リチウム表面(アノード)を不安定化させる現象に関与する。この現象は、安定性の低下および低いクーロン効率をもたらす(Zhouら、J.Am.Chem.Soc.2013,135,16736-16743)。
【0006】
この問題を解決するために使用される1つの戦略は、硫黄粒子のカプセル化を伴う。例えば、Zhouら(J.Am.Chem.Soc.2013,135,16736-16743)は、硫黄をポリアニリン(PANI)でコーティングして、このシェルの内部のポリスルフィドを固定化した。硫黄をカプセル化することにより、電池の安定性を高めることが可能になる。しかし、この元素の添加は、活物質中の硫黄の量をたった58重量%に制限する。つまり、この材料の42重量%は電気化学的に不活性な材料からなり、それにより電極材料の電荷密度を低下させる。この戦略により、97%を超えるクーロン効率をまだ得ることができるが、それでも長期サイクル性には限界がある。
【0007】
炭素-硫黄複合材料の合成も提示されている。例えば、Wangら(Journal of Power Sources,2011,7030-7034)は、グラフェン-硫黄複合材料を合成した。この新しい材料は、固有の導電率を高めることだけでなく、理論値とほぼ同等の初期容量を達成することも可能にする。しかし、グラフェンが存在することにより、ポリスルフィド溶解の現象を抑制することはできず、この材料は、硫黄自体と同等の容量損失を有する。
【0008】
硫黄に富むポリマーを得るために、硫黄元素と1またはそれを超える有機モノマーとの共重合も調査されている。硫黄が159℃を超えて加熱されると、(S)環の開環が起こり、それによりラジカル重合を受けることのできるジラジカルが生成される。Chungら(Nature Chemistry,2013,5,518-524)は、Li-S電池用の、硫黄に富む共重合体を開発した。硫黄元素は、逆加硫により、異なるパーセンテージの1,3-ジイソプロペニルベンゼン(DIB)と共重合された。共重合により、ポリスルフィドの溶解を制限することができるマトリックスを作製することが可能になる。それらの電気化学的結果は、優れたクーロン効率および良好な容量保持を示す。しかし、上に提示されるように、使用される有機モノマーは電気化学的に非活性であり、そのことにより、不活性な塊の存在、および結果的にエネルギー密度の低下がもたらされる。
したがって、例えば、先行する材料のいくつかの利点を組み合わせると同時に、それらの少なくとも1つの欠点を排除する、新しい電極材料の開発が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Armandら、Nature,2008,451,652
【非特許文献2】Le Gallら、Journal of Power Sources,2003,316-320
【非特許文献3】Chenら、ChemSusChem.,2008,1,348-355
【非特許文献4】Zengら、Electrochimica Acta,2014,447-454
【非特許文献5】Hyunら、ACS Energy Letters,2016,1,566-572
【非特許文献6】Zhouら、J.Am.Chem.Soc.2013,135,16736-16743
【非特許文献7】Wangら、Journal of Power Sources,2011,7030-7034
【非特許文献8】Chungら、Nature Chemistry,2013,5,518-524
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様によれば、本記載は、式Iのポリマー:
【化1】
(式中、
Aは、電子の非局在化を許容する不飽和基、例えば、置換または非置換のアリールおよびヘテロアリール基、ならびにそれらの縮合または非縮合多環式対応物から選択され;
Rは、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレン、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレンオキシ、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレングリコール、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレンオキシC2-6アルキレン、直線状または分岐鎖ポリ(C2-6アルキレングリコール)、C6-12アリーレン、C3-12シクロアルキレン、C5-12ヘテロアリーレン、およびC3-12ヘテロシクロアルキレンから選択される置換または非置換有機連結基であり;
mは、ポリマーリンクのジスルフィド結合に挿入された硫黄原子の平均数を表し、ゼロであり得ず、すなわち、m>0、例えば0<m≦8、または1≦m≦6、または1≦m≦4であり;かつ
nは、ポリマー中の単位の平均数を表し、例えば、nは2~500、または5~300の範囲内であり得る)
に関する。
【0011】
一実施形態によれば、Aは、ベンゼン、ナフタレン、ペリレンおよびビフェニル基から選択される。例えば、Aは、ベンゼン基であり、ポリマーは式I(a):
【化2】
(式中、R、mおよびnは、本明細書に定義される通りである)
のポリマーである。
【0012】
別の実施形態によれば、Rは、ベンゼン、エチレン、プロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、およびエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体の基から選択される。
【0013】
ポリマーの例は、式I(b):
【化3】
(式中、mおよびnは、本明細書に定義される通りである)
によっても例示される。
【0014】
別の態様によれば、本記載は、式IIの化合物:
【化4】
(式中、AおよびRは、本明細書に定義される通りであり、mは、化合物のジスルフィド結合に挿入された硫黄原子の数を表し、例えば、m>0、例えば、0<m≦8、または1≦m≦6、または1≦m≦4である)
に関する。
【0015】
この化合物の一例は、式II(a):
【化5】
(式中、Rおよびmは、本明細書に定義される通りである)
で表される。
【0016】
化合物の別の例は、式II(b):
【化6】
(式中、mは本明細書に定義される通りである)
によって例示される。
【0017】
別の態様によれば、本記載は、本明細書において定義されるポリマーまたは化合物を含む電極材料に関する。例えば、電極材料は、導電性材料、バインダー、または両方の組合せをさらに含む。電極材料は、遊離硫黄元素(S)を含むこともある。
【0018】
一実施形態によれば、導電性材料は、カーボンブラック、Ketjen(商標)カーボン、シャウィニガンカーボン、アセチレンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンファイバー(例えばカーボンナノファイバー(例えば、気相で形成されたVGCF)など)、カーボンナノチューブ、またはそれらの少なくとも2つの組合せから選択される。
【0019】
一実施形態によれば、バインダーは、ポリエーテル型のポリマーバインダー、フッ素化ポリマー型、または水溶性バインダーである。一例によれば、ポリエーテル型のポリマーバインダーは、直線状、分岐鎖、および/または架橋したものであり、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、またはこれら2つの組合せ(またはEO/PO共重合体)に基づき、架橋可能な単位を必要に応じて含む。別の例によれば、フッ素化ポリマーバインダーは、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)である。最後に、水溶性バインダーの例には、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、またはACM(アクリレートゴム)が挙げられ、必要に応じてCMC(カルボキシメチルセルロース)を含む。
【0020】
さらなる態様によれば、本記載は、集電体に適用された、本明細書において定義される電極材料を含む正極に関する。
【0021】
さらなる態様によれば、本記載は、本明細書において定義されるポリマーまたは本明細書において定義される化合物を含む電解質にも関する。一実施形態によれば、電解質は、溶媒中の塩を含む液体電解質である。一代替形態によれば、電解質は、溶媒中の塩および必要に応じて溶媒和ポリマーを含むゲル電解質である。第2の代替形態によれば、電解質は、溶媒和ポリマー中に塩を含む固体ポリマー電解質(SPE)である。例えば、本明細書において定義されるポリマー、または本明細書において定義される化合物は添加剤である。あるいは、SPEの溶媒和ポリマーは、本明細書において定義されるポリマー、または本明細書において定義される化合物である。別の実施形態によれば、塩はリチウム塩である。一実施形態によれば、電解質は、硫黄元素、バインダー、添加剤またはそれらの少なくとも2つの組合せをさらに含む。
【0022】
別の態様は、カソード、電解質、およびアノードを含む電気化学セルに言及し、ここでカソードは、本明細書において定義される電極材料を含む。代替実施形態によれば、これらの電気化学セルは、本明細書において定義される、負極、電解質および正極を含む。代替実施形態によれば、これらの電気化学セルは、本明細書において定義される、カソード、アノードおよび電解質を含む。本記載は、そのような電気化学セルを含むリチウム電池にも言及する。
【0023】
最後に、本記載は、本明細書において定義されるポリマーおよび化合物、電極材料、電解質材料、電極、電解質、およびそれらを含む電気化学セルを製造するためのプロセスに言及する。これらの電気化学セルの使用、より詳細には、携帯機器、例えば、携帯電話、カメラ、タブレットまたはラップトップでの、電気自動車またはハイブリッド車での、あるいは再生可能エネルギー貯蔵での使用も企図される。
本発明の実施形態において、例えば以下の項目が提供される。
(項目1)
式Iのポリマー:
【化18】
[式中、
Aは、電子の非局在化を許容する不飽和基、例えば、置換または非置換のアリールおよびヘテロアリール基、ならびにそれらの縮合または非縮合多環式等価物から選択され;
Rは、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレン、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレンオキシ、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレングリコール、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレンオキシC2-6アルキレン、直線状または分岐鎖ポリ(C2-6アルキレングリコール)、C6-12アリーレン、C3-12シクロアルキレン、C5-12ヘテロアリーレン、およびC3-12ヘテロシクロアルキレンから選択される置換または非置換有機連結基であり;
mは、ポリマーリンクのジスルフィド結合に挿入された硫黄原子の平均数を表し、ゼロであり得ず、すなわち、m>0、例えば0<m≦8、または1≦m≦6、または1≦m≦4であり;かつ
nは、ポリマー中の単位の平均数を表し、例えば、nは2~500、または5~300の範囲内であり得る]。
(項目2)
Aが、ベンゼン、ナフタレン、ペリレン、およびビフェニル基から選択される、項目1に記載のポリマー。
(項目3)
前記ポリマーが式I(a):
【化19】
[式中、R、mおよびnは項目1に定義される通りである]
のポリマーである項目1または2に記載のポリマー。
(項目4)
Rが、ベンゼン、エチレン、プロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、およびエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体の基から選択される、項目1から3のいずれか一項に記載のポリマー。
(項目5)
前記ポリマーが式I(b):
【化20】
[式中、mおよびnは項目1に定義される通りである]
のポリマーである、項目4に記載のポリマー。
(項目6)
式IIの化合物:
【化21】
[式中、AおよびRは、項目1、2および4のいずれか一項に定義される通りであり;mは、前記化合物のジスルフィド結合に挿入された硫黄原子の数を表し、例えば、m>0、例えば、0<m≦8、または1≦m≦6、または1≦m≦4である]。
(項目7)
前記化合物が式II(a):
【化22】
[式中、Rおよびmは、項目6に定義される通りである]
の化合物である、項目6に記載の化合物。
(項目8)
前記化合物が式II(b):
【化23】
[式中、mは、項目6に定義される通りである]
の化合物である、項目6に記載の化合物。
(項目9)
項目1から5のいずれか一項に定義されるポリマー、または項目6から8のいずれか一項に定義される化合物を含む電極材料。
(項目10)
硫黄元素をさらに含む、項目9に記載の電極材料。
(項目11)
導電性材料、バインダー、または両方の組合せをさらに含む、項目9または10に記載の電極材料。
(項目12)
前記導電性材料が、カーボンブラック、Ketjen(商標)カーボン、シャウィニガンカーボン、アセチレンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンファイバー(例えばカーボンナノファイバー(例えば、気相で形成されたVGCF)など)、およびカーボンナノチューブ、またはそれらの少なくとも2つの組合せから選択される、項目11に記載の電極材料。
(項目13)
前記バインダーがポリエーテル型のポリマーバインダー、フッ素化ポリマー、または水溶性バインダーである、項目11または12に記載の電極材料。
(項目14)
前記ポリエーテル型のポリマーバインダーが直線状、分岐鎖、および/または架橋したものであり、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、またはこれら2つの混合物(またはEO/PO共重合体)に基づき、架橋可能な単位を必要に応じて含む、項目13に記載の電極材料。
(項目15)
前記フッ素化ポリマーバインダーが、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)またはPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)である、項目13に記載の電極材料。
(項目16)
前記水溶性バインダーが、SBR(スチレン-ブタジエンゴム)、NBR(アクリロニトリル-ブタジエンゴム)、HNBR(水素化NBR)、CHR(エピクロロヒドリンゴム)、またはACM(アクリレートゴム)であり、必要に応じてCMC(カルボキシメチルセルロース)を含む、項目13に記載の電極材料。
(項目17)
集電体に適用された、項目9から16のいずれか一項に記載の電極材料を含む正極。
(項目18)
項目1から5のいずれか一項に定義されるポリマー、または項目6から8のいずれか一項に定義される化合物を含む電解質。
(項目19)
前記電解質が、溶媒中の塩を含む液体電解質である、項目18に記載の電解質。
(項目20)
前記電解質が、溶媒中の塩および必要に応じて溶媒和ポリマーを含むゲル電解質である、項目18に記載の電解質。
(項目21)
前記溶媒が、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、γ-ブチロラクトン(γ-BL)、ビニレンカーボネート(VC)、酪酸メチル(MB)、γ-バレロラクトン(γ-VL)、1,2-ジメトキシエタン(DME)、1,2-ジエトキシエタン(DEE)、2-メチルテトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、ホルムアミド、アセトアミド、ジメチルホルムアミド、ジオキソラン、アセトニトリル、プロピルニトリル、ニトロメタン、エチルモノグリム、トリメトキシメタン、ジオキソラン誘導体、スルホラン、メチルスルホラン、プロピレンカーボネート誘導体、テトラヒドロフラン、およびそれらの混合物から選択される極性非プロトン性溶媒である、項目19または20に記載の電解質。
(項目22)
前記電解質が、溶媒和ポリマー中の塩を含む固体ポリマー電解質(SPE)である、項目18に記載の電解質。
(項目23)
前記ポリマーまたは前記化合物が添加剤である、項目18から22のいずれか一項に記載の電解質。
(項目24)
前記溶媒和ポリマーが、項目1から5のいずれか一項に定義される前記ポリマーまたは項目6から8のいずれか一項に定義される前記化合物である、項目22に記載の電解質。
(項目25)
前記電解質が、硫黄元素をさらに含む、項目18から24のいずれか一項に記載の電解質。
(項目26)
前記塩がリチウム塩である、項目19から25のいずれか一項に記載の電解質。
(項目27)
前記塩が、ヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾレート(LiTDI)、リチウム4,5-ジシアノ-1,2,3-トリアゾレート(LiDCTA)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、硝酸リチウム(LiNO)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、フッ化リチウム(LiF)、過塩素酸リチウム(LiClO)、ヘキサフルオロヒ酸リチウム(LiAsF)、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム(LiSOCF)(LiTf)、フルオロアルキルリン酸リチウムLi[PF(CFCF](LiFAP)、リチウムテトラキス(トリフルオロアセトキシ)ボレートLi[B(OCOCF](LiTFAB)、リチウムビス(1,2-ベンゼンジオラト(2-)-O、O’)ボレートLi[B(C](LBBB)およびそれらの組合せから選択される、項目26に記載の電解質。
(項目28)
前記電解質が、電解質バインダーをさらに含む、項目18から27のいずれか一項に記載の電解質。
(項目29)
前記電解質バインダーが、ポリエーテル型のポリマーバインダー、フッ素化ポリマー、または水溶性バインダーである、項目28に記載の電解質。
(項目30)
前記フッ素化ポリマーバインダーがポリフッ化ビニリデン(PVDF)である、項目29に記載の電解質。
(項目31)
カソード、電解質、およびアノードを含む電気化学セルであって、前記カソードが、項目9から16のいずれか一項に定義される電極材料を含む、電気化学セル。
(項目32)
負極、電解質および項目17に定義される正極を含む、電気化学セル。
(項目33)
カソード、アノードおよび項目18から30のいずれか一項に定義される電解質を含む電気化学セル。
(項目34)
負極、電解質および正極を含む電気化学セルであって、前記正極が項目17に定義されるものであり、前記電解質が項目18から30のいずれか一項に定義されるものである、電気化学セル。
(項目35)
項目31から34のいずれか一項に定義される電気化学セルを含むリチウム電池。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1図1は、容量(mAh/g)および容量保持の結果の割合を、(A)ポリイミドジスルフィドを含むセル1(基準)のサイクル数、および(B)35重量%の硫黄を含むポリイミド-co-ポリスルフィドを含むセル2のサイクル数の関数として示す。
【0025】
図2図2は、実施例1(c)に示した共重合体を含むセル2のC/10における第1のサイクルの容量の結果(mAh/g)を電圧(V)の関数として示す定電流曲線を示す。
【0026】
図3図3は、セル3(点線)、セル4(太い実線)およびセル5(細い実線)の第1の充放電サイクルの容量の結果(mAh/g)を電圧(V)の関数として示す定電流曲線を示す。
【0027】
図4図4は、セル6(点線)およびセル7(実線)の第1の充放電サイクルの容量の結果(mAh/g)を電圧(V)の関数として示す定電流曲線を示す。
【0028】
図5図5(A)は、実施例1(h)の活物質を含むセル8(点線)および9(実線)のサイクリックボルタンメトリー曲線を示し、図5(B)は、セル8および9の第1の充放電サイクルの容量の結果(mAh/g)を電圧(V)の関数として表す定電流曲線を示す。
【0029】
図6図6は、実施例1(b)、(c)、(d)に示した活性電極材料、共重合で使用したモノマー、硫黄を添加しないイミド共重合体、および硫黄元素の赤外線透過スペクトルを示す。
【0030】
図7図7は、実施例1(f)および1(g)に示した活性電極材料、共重合で使用したモノマー、硫黄元素、および硫黄を添加しない共重合体の赤外線透過スペクトルを示す。
【0031】
図8図8は、実施例1(h)に示した活物質、共重合で使用したモノマー、硫黄元素、および硫黄を添加しない共重合体の赤外線透過スペクトルを示す。
【0032】
図9図9は、実施例1(c)に示した共重合体のイオン導電率の結果(S cm-1)を温度(K-1)の関数として示す。
【0033】
図10図10は、実施例1(d)に示した共重合体のイオン導電率の結果(S cm-1)を温度(K-1)の関数として示す。
【0034】
図11図11は、実施例1(g)に示した共重合体のイオン導電率の結果(S cm-1)を温度(K-1)の関数として示す。実施例5(c)に記載されるフィルムのイオン導電率値は(A)に示され;実施例5(d)に記載されるプレスされた粉末の形態のイオン導電率値は(B)に示される。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本明細書で使用されるすべての技術的および科学的な用語および表現は、本技術に関連する分野の当業者によって一般に理解されるものと同じ定義を有する。それでも、使用されるいくつかの用語および表現の定義は、以下に提供される。
【0036】
本明細書において使用される「約」という用語は、ほぼ、その付近、およびおよそを意味する。「約」という用語が数値に関連して使用される場合、それは、例えば、公称値に対して10%の変動で数値を上下に変更する。この用語は、例えば、測定装置または丸めによる実験誤差も考慮に入れることがある。
【0037】
値の範囲が本願において言及されている場合、その範囲の下限および上限は、特に明記しない限り、常に定義に含まれる。
【0038】
本明細書に記載される化学構造は、当分野の基準に従って描かれている。また、描かれている炭素原子などの原子に不完全な原子価が含まれているように見える場合には、たとえ水素原子が明示的に描かれていない場合でも、原子価は1またはそれを超える水素原子によって満たされていると見なされる。
【0039】
本明細書において使用される、用語「アルキル」または「アルキレン」とは、直鎖または分岐鎖基を含む、1~16個の炭素原子を有する飽和炭化水素基を指す。アルキル基の例としては、限定されないが、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、イソプロピル、tert-ブチル、sec-ブチル、イソブチルなどが挙げられる。アルキル基が2つの官能基の間に位置する場合、アルキレンという用語、例えばメチレン、エチレン、プロピレンなども使用され得る。「C-Ciiアルキル」および「C-Ciiアルキレン」という用語は、数「i」から数「ii」までの炭素原子を有するアルキルまたはアルキレン基をそれぞれ指す。
【0040】
本明細書において使用される、「アリール」または「アリーレン」という用語は、共役した単環系または多環系(縮合もしくは非縮合)において、4n+2個のπ(パイ)電子(nは1~3の整数である)を有し、6~20個の環原子を有する芳香族基を指す。多環系は、少なくとも1つの芳香環を含む。この基は、直接結合されるかまたはC-Cアルキル基を介して接続されてよい。アリール基の例としては、限定されないが、フェニル、ベンジル、フェネチル、1-フェニルエチル、トリル、ナフチル、ビフェニル、テルフェニル、インデニル、ベンゾシクロオクテニル、ベンゾシクロヘプテニル、アズレニル、アセナフチレニル、フルオレニル、フェナントレニル、アントラセニル、ペリレニルなどが挙げられる。アリール基が2つの官能基の間に位置する場合、アリーレンという用語も使用され得る。アリールまたはアリーレンという用語には、置換された基または置換されていない基が含まれる。例えば、「C-Cアリール」という用語は、環構造中に6個から指定された「n」個の炭素原子を有するアリール基を指す。
【0041】
「置換された」という用語は、基に関連している場合、少なくとも1つの水素原子が適切な置換基で置き換えられている基を指す。置換基の限定されない例は、シアノ、ハロゲン(すなわちF、Cl、Br、またはI)、アミド、ニトロ、トリフルオロメチル、低級アルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、低級アルコキシ、アリールオキシ、ベンジルオキシ、ベンジル、アルコキシカルボニル、スルホニル、スルホネート、シラン、シロキサン、ホスホナト、ホスフィナトなどを含む。これらの置換基は、許容される場合、例えば、この基がアルキル基、アルコキシ基、アリール基等を含む場合に置換されることもできる。
【0042】
本記載は、硫黄元素と有機モノマーの共重合、または、硫黄と、ジスルフィド結合を含む化合物との反応に関する。例えば、本願は、硫黄と電気化学的に活性なポリイミドとの共重合の結果であるポリマーを含む。あるいは、硫黄の反応をジイミドジスルフィドと行い、それによりどちらも電気化学的に活性なスルフィドセグメントと有機セグメントを含む化合物を得る。これらの化合物およびポリマーは、溶解の問題を低減または排除することによって硫黄の電気化学的性能を改善するだけでなく、レドックス反応で同様に活性である有機セグメントの存在を考えると、容量に寄与することもあり得る。したがって、本明細書において定義されたポリマーまたは化合物を含む電極材料は、ハイブリッド有機硫黄正極材料と特徴付けることができる。
【0043】
例えば、このポリマーは、電気化学的に活性なポリイミドセグメントと、-S-(S)-S-(m≧1)の形式のポリスルフィドセグメントで構成される共重合体である。ポリマーの例は、式I:
【化7】
(式中、
Aは、電子の非局在化を許容する不飽和基、例えば、置換または非置換のアリールおよびヘテロアリール基、ならびにそれらの縮合または非縮合多環式対応物から選択され;
Rは、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレン、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレンオキシ、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレングリコール、直鎖または分岐鎖C2-6アルキレンオキシC2-6アルキレン、直線状または分岐鎖ポリ(C2-6アルキレングリコール)、C6-12アリーレン、C3-12シクロアルキレン、C5-12ヘテロアリーレン、およびC3-12ヘテロシクロアルキレンから選択される置換または非置換有機連結基であり;
mは、ポリマーリンクのジスルフィド結合に挿入された硫黄原子の平均数を表し、ゼロであり得ず、すなわち、m>0、例えば0<m≦8、または1≦m≦6、または1≦m≦4であり;かつ
nは、ポリマー中の単位の平均数を表し、例えば、nは2~500、または5~300の範囲内であり得る)
によって表される。
【0044】
一例によれば、Aは、ベンゼン、ナフタレン、ペリレンおよびビフェニル基から選択されてよい。
【0045】
例えば、Aは、ベンゼン基であり、ポリマーは、式I(a):
【化8】
(式中、R、mおよびnは、本明細書に定義される通りである)
のポリマーである。
【0046】
別の例によれば、Rは、ベンゼン、エチレン、プロピレン、ポリ(エチレングリコール)、ポリ(プロピレングリコール)、およびエチレングリコールとプロピレングリコールの共重合体の基から選択されてよい。
【0047】
例えば、AおよびRは、ベンゼン基であり、ポリマーは、式I(b)またはI(c):
【化9】
(式中、mおよびnは、本明細書に定義される通りである)
のポリマーである。
【0048】
別の例によれば、活物質はむしろ式IIの化合物:
【化10】
(式中、AおよびRは、本明細書に定義される通りであり、mは、化合物のジスルフィド結合に挿入された硫黄原子の平均数を表し、例えば、m>0、例えば、0<m≦8、または1≦m≦6、または1≦m≦4である)
である。
【0049】
例えば、Aは、ベンゼンであり、ポリマーは、式II(a):
【化11】
(式中、Rおよびmは、本明細書に定義される通りである)
のポリマーである。
【0050】
例えば、Rはベンゼンであり、ポリマーは、式II(b):
【化12】
(式中、mは上記に定義される通りである)
のポリマーである。
【0051】
本願はまた、硫黄元素との反応による重合および硫化のステップを含む、本明細書において定義され、有機硫化物ハイブリッドを含むポリマーの合成のためのプロセスを記載し、これらのステップは任意の順序で行われる。例えば、このプロセスは以下のステップを含む:
a)電気化学的に活性なポリイミドを形成するための、二無水物とジアミンジスルフィドとの間の重縮合による重合;および
b)電気化学的に活性なポリイミドと硫黄元素Sの共重合による、ポリスルフィドセグメント(-(S)-の形式;m≧1)の挿入。
【0052】
一例によれば、共重合体の有機セグメントは、ピロメリト酸二無水物(1)と4-アミノフェニルジスルフィド(2)との間の重縮合によって合成されてポリイミド(3)を形成する。例えば、重縮合は約150℃の温度で行われる。共重合体は、スキーム1に例示される重合プロセスによって調製することができる:
【化13】
【0053】
一例によれば、ポリスルフィドセグメント(-(S)-の形式;m≧1)は、次にジスルフィド結合に挿入される。次に、挿入は、150℃もしくはそれを超える温度、または185℃もしくはそれを超える温度、または160℃~200℃の間の温度で、ジスルフィド結合を含む電気化学的に活性なポリイミドおよび硫黄元素Sを加熱することにより、行うことができる。加熱ステップは、硫黄元素S環を開環させて、ポリスルフィドセグメント(-(S)-の形式;m≧1)をジスルフィド結合に挿入し、ポリスルフィドを形成することを可能にする。ポリスルフィドセグメントの挿入は、スキーム2に例示されるプロセスによって行うことができ、このプロセスでは、ポリスルフィドセグメント(-(S)-の形式;m≧1)の挿入が185℃でポリイミド(3)のジスルフィド結合に対して行われ、ポリイミド-co-ポリスルフィド(4)が得られる:
【化14】
あるいは、本願は、以下のステップを含む、本明細書において定義され、有機硫化物ハイブリッドを含むポリマーを合成するためのプロセスを記載する:
a)ジアミンジスルフィドと硫黄元素Sの重合によって行われる、ポリスルフィドを形成するセグメント(-(S)-の形式;m≧1)の挿入によるアミノ-硫黄コモノマーの合成;および
b)ポリイミドを形成するためのアミノ-硫黄コモノマーと二無水物の重縮合。
【0054】
一例によれば、ポリスルフィドセグメント(-(S)-の形式;m≧1)は、ジアミンジスルフィドのジスルフィド結合に挿入される。挿入は、150℃もしくはそれを超える温度、または185℃もしくはそれを超える温度、または160℃~200℃の間の温度で、硫黄元素Sおよびジスルフィド結合を含むジアミンジスルフィドを加熱することにより行うことができる。加熱ステップは、硫黄元素S環を開環させて、ポリスルフィドセグメントをジスルフィド結合に挿入し、ポリスルフィドを形成することを可能にする。ポリスルフィドセグメントの挿入は、スキーム3に例示されるプロセスによって行うことができ、このプロセスでは、ポリスルフィドセグメントの挿入が、185℃で4-アミノフェニルジスルフィド(2)のジスルフィド結合で行われ、アミノ-硫黄コモノマー(3)が得られる:
【化15】
【0055】
一例によれば、次に、重合は、アミノ-硫黄コモノマー(3)とピロメリト酸二無水物(4)との間の重縮合によって行われて、ポリイミド-co-ポリスルフィド(5)を形成する。重縮合は、例えば約150℃の温度で行うことができる。ポリマーは、スキーム4に例示される重合プロセスによって調製することができる:
【化16】
ここで、mおよびnの値は、反応混合物中の硫黄の質量百分率の関数として決定される。共重合体中の硫黄の質量百分率は、0.1%~99.9%、例えば、5%~95%の間で変動し得る。ポリマーは、特に挿入ステップで高い割合の硫黄が含まれている場合に、ジスルフィド結合に挿入されていない、残留する一定量の遊離硫黄元素を含むこともある。
【0056】
本願はまた、電気化学的活物質として本明細書において定義されるポリマーまたは化合物を含む正極材料を提唱する。一例によれば、正極材料は、導電性材料、バインダー、またはそれらの組合せをさらに含むことがある。電極材料は、遊離硫黄元素(S)を含むこともある。
【0057】
導電性材料の限定されない例は、炭素源、例えばカーボンブラック、Ketjen(商標)カーボン、シャウィニガンカーボン、アセチレンブラック、グラファイト、グラフェン、カーボンファイバー(例えばカーボンナノファイバー、例えば、気相で形成されたVGCFなど)、およびカーボンナノチューブ、またはそれらの少なくとも2つの組合せなどを含み得る。例えば、導電性材料は、VGCFとKetjen(商標)ブラックの組合せである。
【0058】
バインダーの限定されない例は、直線状、分岐鎖、および/または架橋ポリエーテル型のポリマーであり、ポリ(エチレンオキシド)(PEO)、ポリ(プロピレンオキシド)(PPO)、またはこれら2つの組合せ(またはEO/PO共重合体)に基づき得、架橋可能な単位を必要に応じて含むポリマー;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)またはポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのフッ素化ポリマー;あるいは、例えばスチレン-ブタジエンゴム(SBR)、アクリロニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、水素化NBR(HNBR)、エピクロロヒドリンゴム(CHR)、またはアクリレートゴム(ACM)などの水溶性バインダーである水溶性バインダーを含み、必要に応じてカルボキシメチルセルロース(CMC)を含む。例えば、バインダーはPVDFであり、塗布のために正極材料の他の成分と混合されるときにN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解され、この溶媒はその後に除去される。
【0059】
一例によれば、正極材料は、集電体(例えば、アルミニウム、銅)に適用することができる。あるいは、正極は自立することができる。例えば、集電体はアルミニウムである。
【0060】
本願はまた、少なくとも、本明細書において定義される正極材料、負極および電解質を含む電気化学セルも提唱する。次に、電池のさまざまな成分とのその適合性のために電解質が選択される。任意の種類の電解質、例えば、液体、ゲルまたは固体の電解質が企図される。
【0061】
本願はまた、本明細書において定義されるポリマーまたは本明細書において定義される化合物を含む電解質を提唱する。
【0062】
一例によれば、電解質は、溶媒中の塩を含む液体電解質である。一代替形態によれば、電解質は、溶媒中の塩および必要に応じて溶媒和ポリマーを含むゲル電解質である。別の代替形態によれば、電解質は、溶媒和ポリマー中に塩を含む固体ポリマー電解質(SPE)である。
【0063】
相溶性のある電解質は、通常、少なくとも1つのリチウム塩、例えばヘキサフルオロリン酸リチウム(LiPF)、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)、リチウム2-トリフルオロメチル-4,5-ジシアノイミダゾレート(LiTDI)、リチウム4,5-ジシアノ-1,2,3-トリアゾレート(LiDCTA)、リチウムビス(ペンタフルオロエチルスルホニル)イミド(LiBETI)、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF)、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)、硝酸リチウム(LiNO)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)、フッ化リチウム(LiF)など、および非水性溶媒(有機)または溶媒和ポリマーに溶解したそれらを含む組成物を含む。例えば、電解質は、ジメトキシエタン(DME)および1,3-ジオキソラン(DOL)(DME/DOL)に溶解したLiTFSIであり、それには硝酸リチウム(1%、LiNO)が含まれている。
【0064】
別の例によれば、電解質は、硫黄元素、電解質バインダー、セパレータ、添加剤またはそれらの少なくとも2つの組合せをさらに含んでよい。
【0065】
例えば、電解質バインダーはPVDF(ポリフッ化ビニリデン)である。例えば、電解質は、0重量%~25重量%の間、特に0重量%~20重量%の間、より特に5重量%~15重量%の間、さらにより特に7重量%~13重量%の間、理想的には10重量%の電解質バインダーを含む(上限および下限を含む)。
【0066】
セパレータの限定されない例には、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、セルロース、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびポリプロピレン-ポリエチレン-ポリプロピレン(PP/PE/PP)膜が含まれ得る。
【0067】
別の例によれば、電解質は、本明細書において定義される塩を溶媒和ポリマー中に含む固体ポリマー電解質(SPE)であり、該溶媒和ポリマーは本明細書において定義されるポリマーである。例えば、SPEは、60重量%~95重量%の間、特に65重量%~90重量%の間、より特に70重量%~85重量%の間、さらにより特に75重量%~85重量%の間、理想的には80重量%の本明細書において定義されるポリマーを含む(上限および下限を含む)。例えば、SPEは、5重量%~40重量%の間、特に10重量%~35重量%の間、より特に15重量%~30重量%の間、より特に15重量%~25重量%の間、理想的には20重量%の塩を含む(上限および下限を含む)。
【0068】
本願はまた、カソード、アノードおよび本明細書において定義される電解質を含む電気化学セルも提唱する。本願はまた、カソード、アノードおよび電解質を含む電気化学セルも企図し、ここで電解質およびカソードは本明細書において定義される通りである。
【0069】
別の態様によれば、本願の電気化学セルは、リチウム電池に含まれる。例えば、リチウム電池はリチウム-硫黄電池である。
【0070】
別の態様によれば、本願の電気化学セルは、携帯機器、例えば、携帯電話、カメラ、タブレットまたはラップトップで、電気自動車またはハイブリッド車で、あるいは再生可能エネルギー貯蔵で使用される。
【実施例0071】
以下の実施例は例示であり、記載された本発明の範囲をさらに限定するものと解釈されるべきではない。
【0072】
実施例1-有機硫黄ハイブリッド活性電極材料の合成
a)ピロメリト酸二無水物、4-アミノフェニルジスルフィドおよび硫黄(5重量%)の共重合
電極材料の合成を、マグネチックバーを装備した25mLフラスコ内で行った。活性電極材料を、0.085gの硫黄元素S(0.33mmol)と0.745gの4-アミノフェニルジスルフィド(3mmol)を合わせることにより調製した。次に、フラスコを密閉し、不活性ガス(N)流下に置いた。フラスコの空気がパージされたら、混合物を、均一な液体が得られるまで約30分間、500rpmの一定の撹拌下で185℃の温度に加熱した。次に、混合物を150℃の温度に冷却した後、密閉したキャップを取り外して、事前に有機溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた0.654gのピロメリト酸二無水物(3mmol)を添加した。次に、混合物を含有するフラスコを覆い、撹拌下(500rpm)で26時間、150℃の温度で保持した。次に、混合物を冷却した。このようにして生成された固体を回収し、テトラヒドロフラン(THF)で洗浄し、未反応の硫黄を昇華させるために真空下で乾燥させた。最後に、生成された活性電極材料(ポリマー)中の硫黄の割合を元素分析によって測定した。この実施例の活性電極材料は、5%の硫黄を含んでいた。
【0073】
b)ピロメリト酸二無水物、4-アミノフェニルジスルフィドおよび硫黄(25重量%)の共重合
この活性電極材料の合成を、実施例1(a)に示されるプロセスに従って行った。アミノ-硫黄コモノマーの合成のための硫黄元素Sおよび4-アミノフェニルジスルフィドの質量は、それぞれ0.309g(1.206mmol)および0.447g(1.8mmol)であり、重縮合のためのピロメリト酸二無水物の質量は、0.393g(1.8mmol)であった。このように生成された活性電極材料は、元素分析により測定して25重量%の硫黄を含んでいた。
【0074】
c)ピロメリト酸二無水物、4-アミノフェニルジスルフィドおよび硫黄(35重量%)の共重合
この活性電極材料の合成を、実施例1(a)に示されるプロセスに従って行った。アミノ-硫黄コモノマーの合成のための硫黄元素Sおよび4-アミノフェニルジスルフィドの質量は、それぞれ1.033g(4.026mmol)および1g(4.026mmol)であり、重縮合のためのピロメリト酸二無水物の質量は、0.878g(4.026mmol)であった。このように生成された活性電極材料は、元素分析により測定して35重量%の硫黄を含んでいた。
【0075】
d)ピロメリト酸二無水物、4-アミノフェニルジスルフィドおよび硫黄(63重量%)の共重合
この活性電極材料の合成を、実施例1(a)に示されるプロセスに従って行った。アミノ-硫黄コモノマーの合成のための硫黄元素Sおよび4-アミノフェニルジスルフィドの質量は、それぞれ2.463g(9.6mmol)および0.397g(1.6mmol)であり、重縮合のためのピロメリト酸二無水物の質量は、0.349g(1.6mmol)であった。このように得られた活性電極材料は、元素分析により測定して63重量%の硫黄を含んでいた。
【0076】
e)ピロメリト酸二無水物、4-アミノフェニルジスルフィドおよび硫黄(95重量%)の共重合
この活性電極材料の合成を、実施例1(a)に示されるプロセスに従って行った。アミノ-硫黄コモノマーの合成のための硫黄元素Sおよび4-アミノフェニルジスルフィドの質量は、それぞれ8.978g(35mmol)および0.248g(1mmol)であり、重縮合のためのピロメリト酸二無水物の質量は、0.218g(1mmol)であった。このように生成された活性電極材料は、元素分析により測定して95重量%の硫黄を含んでいた。
【0077】
f)1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4-アミノフェニルジスルフィドおよび硫黄(20重量%)の共重合
【化17】
電極材料の合成を、マグネチックバーを装備した25mLフラスコ内で行った。活性電極材料を、0.923gの硫黄元素S(3.6mmol)と0.447gの4-アミノフェニルジスルフィド(1.8mmol)を合わせることにより調製した。次に、フラスコを密閉し、不活性ガス(N)流下に置いた。フラスコの空気がパージされたら、混合物を、均一な液体が得られるまで約30分間、500rpmの一定の撹拌下で185℃の温度に加熱した。次に、混合物を150℃の温度に冷却した後、密閉したキャップを取り外して、事前に有機溶媒であるN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解させた0.483gの1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(1.8mmol)を添加した。次に、混合物を含有するフラスコに覆いをし、撹拌下(500rpm)で26時間、150℃の温度で保持した。次に、混合物を冷却した。このようにして生成された固体を集め、テトラヒドロフラン(THF)で洗浄し、未反応の硫黄を昇華させるために真空下で乾燥させた。最後に、生成された活性電極材料(ポリマー)中の硫黄の割合を元素分析によって測定した。この実施例の活性電極材料は、20%の硫黄を含んでいた。
【0078】
g)1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4-アミノフェニルジスルフィドおよび硫黄(30重量%)の共重合
活性電極材料の合成を、実施例1(f)に示されるプロセスに従って行った。アミノ-硫黄コモノマーの合成のための硫黄元素Sおよび4-アミノフェニルジスルフィドの質量は、それぞれ2.052g(8mmol)および1.987g(8mmol)であり、重縮合のための1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物の質量は、2.145g(8mmol)であった。このように生成された活性電極材料は、元素分析により測定して30重量%の硫黄を含んでいた。
【0079】
h)重縮合とそれに続く硫黄(20重量%)の挿入によるピロメリト酸二無水物とシスタミンの共重合
共重合体の合成を、マグネチックバーを装備した100mLフラスコ内で行った。この物質は、7.614gのシスタミン二塩酸塩(0.5mol)と10.91gのピロメリト酸二無水物(0.5mol)を合わせることにより調製した。次に、混合物を撹拌下(500rpm)で26時間、150℃の温度に加熱した。次に、混合物を冷却した。このようにして生成された固体を回収し、テトラヒドロフラン(THF)で洗浄した。次に、1.204gのこの共重合体をNMPに分散させ、1.856gの硫黄元素S(50重量%)を添加した。次に、フラスコを密閉し、不活性ガス(N)流下に置いた。フラスコの空気がパージされたら、混合物を500rpmの一定の撹拌下で約20時間、185℃の温度に加熱した。次に、混合物を冷却した。このようにして生成された固体を回収し、テトラヒドロフラン(THF)で洗浄し、真空下で乾燥させて未反応の硫黄を昇華させた。最後に、生成された活性電極材料(ポリマー)中の硫黄の割合を元素分析によって測定した。この実施例の活性電極材料は、20%の硫黄を含んでいた。
【0080】
実施例2-電気化学セルの調製
a)カソード
カソード材料は、60重量%のハイブリッド有機硫化物電極材料、すなわち実施例1のポリイミド-co-ポリスルフィド、またはポリイミドジスルフィド(基準)、30重量%の導電性カーボン(15% VGCFおよび15% Ketjen(商標)600カーボン)および10重量%のバインダー、すなわちN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に溶解したポリフッ化ビニリデン(PVDF)で構成される。集電体はアルミニウムである。溶媒は塗布後に蒸発する。
【0081】
b)電解質
電解質は、ジメトキシエタン(DME)と1,3-ジオキソランの混合物(DME/DOL)に溶解したリチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(LiTFSI)の1M溶液、および硝酸リチウム(1%、LiNO)で構成される。
【0082】
c)アノード
アノードは薄膜の形態の金属リチウムで構成される。
【0083】
d)電気化学セル
セルは、したがって次の要素で調製される:
Li/電解質/カソード/Al
【0084】
セル1
セル1は、実施例2(a)に示されるジスルフィドポリイミドを含む基準カソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0085】
セル2
セル2は、実施例1(c)の電極材料を含む実施例2(a)に示されるカソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0086】
セル3
セル3は、実施例1(d)の電極材料を含む実施例2(a)に示されるカソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0087】
セル4
セル4は、実施例1(e)の電極材料を含む実施例2(a)に示されるカソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0088】
セル5
セル5は、実施例1(b)の電極材料を含む実施例2(a)に示されるカソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0089】
セル6
セル6は、実施例1(f)の電極材料を含む実施例2(a)に示されるカソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0090】
セル7
セル7は、実施例1(g)の電極材料を含む実施例2(a)に示されるカソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0091】
セル8
セル8は、実施例1(h)の(硫黄を添加しない)電極材料を含む実施例2(a)に示されるカソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0092】
セル9
セル9は、20重量%の硫黄を含有する実施例1(a)の電極材料を含む実施例2(a)に示されるカソード、実施例2(b)に示される電解質、および実施例2(c)に示される金属リチウムで構成されるアノードを含む。
【0093】
実施例3-電気化学的特性
電気化学測定を、実施例2(d)の電気化学セルで実施した。図1に実証されるように、ジスルフィド結合に挿入された硫黄の存在により、改良された容量およびサイクル性を有する、より性能の高い材料を得ることが可能になる。図1(A)および1(B)はそれぞれ、セル1(基準)およびセル2のサイクル数の関数として、容量および容量保持の結果を示す。実際、提示された結果を比較することにより、容量および容量保持の割合の大幅な改善を、セル1と比較してセル2について観察することができる。
【0094】
図2は、セル2のC/10における第1のサイクルの容量の結果を電圧の関数として示す。新しい材料の容量へのポリマーの寄与は、約2.2Vのプラトーの存在によって確認することができる。セル2は、C/10で290mAh g-1の第1の放電容量を得、C/2で100サイクル後に、65%の容量保持率を得る。
【0095】
図3は、C/10におけるセル3~5の第1の充放電曲線を示す。初期容量は、活物質の性質によって異なる。セル3、セル4およびセル5で得た容量は、それぞれ407mAh g-1、570mAh g-1および277mAh g-1である。
【0096】
図4は、セル6および7のC/10における第1のサイクルの容量の結果を電圧の関数として示す。新しい材料の容量への硫黄の寄与は、およそ2.05Vのプラトーの存在によって確認することができる。セル6は、C/10で305mAh g-1の第1の放電容量と、C/2で50サイクル後に91%の容量保持率を得る。セル7の場合、第1の放電の容量はC/10で443mAh g-1であり、50サイクル後の容量保持率は75%である。
【0097】
図5(a)は、セル8および9のサイクリックボルタモグラムを示す。硫黄の添加の、酸化および還元ピークの強度への影響を確認することが可能である。さらに、図5(b)で観察され得るように、硫黄を追加すると容量の増加が得られる。セル8は、C/10で138mAh g-1の初期放電容量と、C/2で100サイクル後に37%の容量保持率を得る。セル9の場合、第1の放電で得られる容量はC/10で195mAh g-1であり、100サイクル後の容量保持率は50%である。
【0098】
実施例4-材料組成の特性評価および決定
実施例1に提示された材料の組成は、透過赤外分光スペクトルを使用して決定した。図6は、実施例1(b)、(c)、(d)に示した活性電極材料の赤外線透過スペクトルならびに共重合中に使用したモノマーのスペクトル、硫黄を添加しないイミド共重合体の赤外線透過スペクトルおよび硫黄元素の赤外線透過スペクトルを示す。
【0099】
図7は、実施例1(f)および1(g)に示した活性電極材料の赤外線透過スペクトルならびに共重合で使用したモノマーのスペクトル、硫黄元素の赤外線透過スペクトルおよび硫黄を含まない共重合体の赤外線透過スペクトルを示す。
【0100】
図8は、実施例1(h)に示した活性電極材料の赤外線透過スペクトルならびに共重合で使用したモノマーのスペクトル、硫黄元素の赤外線透過スペクトルおよび硫黄を添加しない共重合体の赤外線透過スペクトルを示す。
【0101】
実施例5-イオン導電率
a)実施例1(c)に示した材料のイオン導電率の測定
イオン導電率の結果を、実施例1(c)に示した共重合体について得た。これを行うために、実施例1(c)に示した共重合体を、有機溶媒(NMP)中で、リチウム塩(LiTFSI)およびバインダー(PVDF)と混合した。均一な分散液を、厚さ27μmのステンレス鋼箔に塗布した。次に、フィルムを120℃の温度で16時間乾燥させた。NMPが蒸発し、70:20:10(質量百分率)の比(共重合体:LiTFSI:PVDF)が得られた。
【0102】
次に、得られたフィルムを2つのステンレス鋼電極の間に配置し、コインセルに組み立てて、イオン導電率を測定した。電気化学インピーダンス分光測定を、さまざまな温度(25℃、40℃、60℃および80℃)で800kHzと100Hzの間で実施した。
【0103】
図9のグラフは、測定された導電率値を温度の関数として示す。3.06×10-6S・cm-1の最大値が80℃の温度で得られた。
【0104】
b)実施例1(d)に示した材料のイオン導電率の測定
実施例1(d)に示した硫黄含有共重合体の温度の関数としての導電率を、実施例5(a)に示した方法および比を使用して測定した。イオン導電率の結果を図10に示す。1.12×10-8S・cm-1の最大値が80℃の温度で得られた。
【0105】
c)実施例1(g)に示した材料のイオン導電率の測定
実施例1(g)に示した硫黄含有共重合体の温度の関数としての導電率を、実施例5(a)に示した方法および比を使用して測定した。結果を図11(A)に示す。6.43×10-9S・cm-1の最大値が80℃の温度で得られた。
【0106】
d)実施例1(g)に示した材料のイオン導電率の測定
イオン導電率を、実施例1(g)に示した硫黄含有共重合体について2度目として測定した。これを行うために、実施例1(g)に示した硫黄含有共重合体を、20重量%のリチウム塩(LiTFSI)と混合した。この固体混合物を、150℃の温度で30分間、2つのステンレス鋼電極間でプレスした。次に、電気化学インピーダンス分光測定を、さまざまな温度(25℃、40℃、60℃および80℃)で800kHzと100Hzの間で測定した。結果を図11(B)に示す。1.1×10-5S・cm-1の最大イオン導電率が40℃の温度で得られた。
【0107】
企図される本発明の範囲から逸脱することなく、上記の実施形態のいずれかに多数の修正を行うことができる。本願において言及されるいずれの参考文献、特許、または科学文献の文書も、あらゆる目的においてその全文が参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11