(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099688
(43)【公開日】2023-07-13
(54)【発明の名称】コア/シース構造、フロック製品の製造方法及びフロック製品
(51)【国際特許分類】
B29C 64/314 20170101AFI20230706BHJP
B29C 64/118 20170101ALI20230706BHJP
B33Y 70/10 20200101ALI20230706BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20230706BHJP
【FI】
B29C64/314
B29C64/118
B33Y70/10
B33Y10/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084630
(22)【出願日】2023-05-23
(62)【分割の表示】P 2021203507の分割
【原出願日】2021-12-15
(71)【出願人】
【識別番号】518390309
【氏名又は名称】ムーン クリエイティブ ラボ インク.
【氏名又は名称原語表記】Moon Creative Lab Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100067736
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100192212
【弁理士】
【氏名又は名称】河野 貴明
(74)【代理人】
【識別番号】100200001
【弁理士】
【氏名又は名称】北原 明彦
(72)【発明者】
【氏名】ナウム・ナヴェー
(72)【発明者】
【氏名】ギラード・オトーグスト
(72)【発明者】
【氏名】ダニット・ペレグ
(72)【発明者】
【氏名】大原 徹也
(57)【要約】
【課題】快適な触感を有する造形物又はフロック製品を提供する。
【解決手段】コア/シース構造は、造形材料又は前記造形材料の溶融硬化物である造形物を構成するコア/シース構造であって、線状の形状を有し、外周面を有し、第1の熱可塑性ポリマーを含むコアと、前記外周面を覆い、第2の熱可塑性ポリマーと前記第2の熱可塑性ポリマーに分散される、繊維及び粒子からなる群より選択される少なくとも1種とを含むシースと、を備える。フロック製品は、熱可塑性ポリマーを含む造形材料又は前記造形材料の溶融硬化物である造形物であり表面を有する本体と、前記表面上に配置された接着層と、前記接着層に突き刺さったフロックと、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)熱可塑性ポリマーを含む造形材料又は前記造形材料の溶融硬化物である造形物である被処理物の表面上に接着層を配置する工程と、
b)前記接着層にフロックを突き刺す工程と、
c)工程b)の後に前記接着層を硬化させる工程と、
を備えるフロック製品の製造方法。
【請求項2】
工程b)は、静電堆積により前記接着層に前記フロックを突き刺す
請求項1に記載のフロック製品の製造方法。
【請求項3】
工程b)は、前記フロックが前記接着層から突出する状態で前記接着層に前記フロックを突き刺す
請求項1又は2に記載のフロック製品の製造方法。
【請求項4】
前記フロックは、繊維及び粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む
請求項1から3までのいずれかに記載のフロック製品の製造方法。
【請求項5】
前記被処理物は、熱可塑性ポリウレタンを含み、
前記接着層は、ポリウレタンを含む
請求項1から4までのいずれかに記載のフロック製品の製造方法。
【請求項6】
熱可塑性ポリマーを含む造形材料又は前記造形材料の溶融硬化物である造形物であり表面を有する本体と、
前記表面上に配置された接着層と、
前記接着層に突き刺さったフロックと、
を備えるフロック製品。
【請求項7】
前記フロックは、前記接着層から突出する
請求項6に記載のフロック製品。
【請求項8】
前記フロックは、繊維及び粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む
請求項6又は7に記載のフロック製品。
【請求項9】
前記本体は、熱可塑性ポリウレタンを含み、
前記接着層は、ポリウレタンを含む
請求項6から8までのいずれかに記載のフロック製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コア/シース構造、フロック製品の製造方法及びフロック製品に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、消耗品フィラメントを開示する。当該消耗品フィラメントは、付加製造システムにおいて、溶融させられ、押し出される。当該消耗品フィラメントは、コア部と、コア部を包むシース部と、を備える。コア部は、第1のベースポリマーのマトリックスと、マトリックスに分散させられた粒子と、を備える。シース部は、第2のベースポリマーを備える。コア部の粒子は、金属粒子、非金属粒子、磁性体粒子及びこれらの組み合わせから選択され、フェライト粒子であってもよい(段落[0005])。コア部の粒子は、シース部の外面を貫通しない(段落[0074])。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許出願公開第2017/0268133号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示された消耗品フィラメントを用いて造形物が製造された場合は、当該造形物は、ゴム様の触感、プラスチック様の触感等を有し、快適な触感を有しない。
【0005】
本開示は、この問題に鑑みてなされた。本開示の一態様は、例えば、快適な触感を有する造形物又はフロック製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様のコア/シース構造は、造形材料又は前記造形材料の溶融硬化物である造形物を構成するコア/シース構造であって、線状の形状を有し、外周面を有し、第1の熱可塑性ポリマーを含むコアと、前記外周面を覆い、第2の熱可塑性ポリマーと前記第2の熱可塑性ポリマーに分散される、繊維及び粒子からなる群より選択される少なくとも1種とを含むシースと、を備える。
【0007】
本開示の他の一態様のフロック製品の製造方法は、a)熱可塑性ポリマーを含む造形材料又は前記造形材料の溶融硬化物である造形物である被処理物の表面上に接着層を配置する工程と、b)前記接着層にフロックを突き刺す工程と、c)工程b)の後に前記接着層を硬化させる工程と、を備える。
【0008】
本開示の他の一態様のフロック製品は、熱可塑性ポリマーを含む造形材料又は前記造形材料の溶融硬化物である造形物であり表面を有する本体と、前記表面上に配置された接着層と、前記接着層に突き刺さったフロックと、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の造形材料を模式的に図示する斜視図である。
【
図2】第1実施形態の造形材料を模式的に図示する断面図である。
【
図3】第1実施形態の造形材料の試作品の断面の写真である。
【
図4】第1実施形態の変形例の造形材料を模式的に図示する断面図である。
【
図5】第2実施形態の造形物を模式的に図示する平面図である。
【
図6】第2実施形態の造形物に備えられる線状体を模式的に図示する断面図である。
【
図7】第2実施形態の造形物の試作品に備えられる線状体の断面の全体の電子顕微鏡(SEM)写真である。
【
図8】第2実施形態の造形物の試作品に備えられる線状体の断面の周辺部のSEM写真である。
【
図9】第2実施形態の造形物と当該造形物に当たった人間の肌との界面の付近を模式的に図示する拡大断面図である。
【
図10】第2実施形態の造形物の試作品の断面のSEM写真である。
【
図11】第2実施形態の造形物の試作品の断面のSEM写真である。
【
図12】モノフィラメントを用いて製造された造形物の試作品の断面のSEM写真である。
【
図13】モノフィラメントを用いて製造された造形物の試作品の断面のSEM写真である。
【
図14】モノフィラメントを用いて製造された造形物の試作品の上面のSEM写真である。
【
図15】モノフィラメントを用いて製造された造形物の試作品の上面のSEM写真である。
【
図16】第1実施形態の変形例の造形材料を用いて製造された造形物の試作品のSEM写真である。
【
図17】ポリエステル製のモノフィラメントの顕微鏡写真である。
【
図18】ポリエステル製のマルチフィラメントの顕微鏡写真である。
【
図19】第2実施形態の造形物の製造に用いられる3次元(3D)プリンタを模式的に図示する側面図である。
【
図20】第3実施形態のフロック製品を模式的に図示する平面図である。
【
図21】第3実施形態のフロック製品と当該フロック製品に当たった人間の肌との界面の付近を模式的に図示する拡大断面図である。
【
図22】第3実施形態のフロック製品の製造に用いられる静電堆積装置を模式的に図示する斜視図である。
【
図23】第3実施形態のフロック製品の製造の流れを示すフローチャートである。
【
図24】第3実施形態のフロック製品に備えられる本体の試作品の写真である。
【
図25】第3実施形態のフロック製品の試作品の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、図面については、同一又は同等の要素には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0011】
1 第1実施形態
1.1 造形材料の概略
図1は、第1実施形態の造形材料を模式的に図示する斜視図である。
図2は、第1実施形態の造形材料を模式的に図示する断面図である。
図3は、第1実施形態の造形材料の試作品の断面の写真である。
【0012】
図1、
図2及び
図3に図示される第1実施形態の造形材料1は、造形物を製造するために用いられる。造形材料1を用いて造形物が製造される際には、造形材料1が溶融させられ、溶融させられた造形材料に形状が与えられ、形状が与えられた造形材料が硬化させられる。これにより、造形材料1の溶融硬化物である造形物が製造される。したがって、造形材料1は、造形物を製造するために消費される消耗品である。
【0013】
造形材料1は、例えば、3次元(3D)プリンタにより造形物を製造するために用いられ、熱溶解積層(FDM)法により造形物を製造するために用いられる。ただし、造形材料1が、3Dプリンタ以外の造形装置により造形物を製造するために用いられてもよく、FDM法以外の造形方法により造形物を製造するために用いられてもよい。FDM法は、熱溶解フィラメント製造(FFF)法とも呼ばれる。
【0014】
造形材料1は、線状の形状を有し、熱可塑性を有する。造形材料1が造形物を製造するために用いられる際には、造形材料1が長さ方向に送られながら加熱される。これにより、造形材料1が溶融させられる。また、造形材料1は、可撓性及び弾性を有する。これらの特徴を有する造形材料1は、フィラメントとも呼ばれる。造形材料1が3Dプリンタにより造形物を製造するために用いられる場合は、造形材料1は、円状の断面形状を有し、3Dプリンタに適合する直径を有する。当該直径は、例えば、1.75mm又は2.85mmである。ただし、造形材料1が、円状の断面形状以外の断面形状を有してよく、1.75mm又は2.85mm以外の直径を有してもよい。
【0015】
造形材料1の主要部は、熱可塑性を有する。これにより、造形材料1を溶融させて造形材料1を複数の成分に分離することができる。また、造形材料1から新たな造形材料又は他の種類の製品を製造することができる。このため、造形材料1は、リサイクル可能である。
【0016】
造形材料1は、そのまま、造形物を自作する消費者に自作(DIY)市場で販売することができる。また、造形材料1を用いて製造された造形物は、通常の消費者に通常の店舗及び通常の市場で販売することができる。
【0017】
1.2 造形材料の断面構造及び材質
図1、
図2及び
図3に図示されるように、造形材料1は、2層構造を有し、コア111及びシース112を備えるコア/シース構造101により構成される。シース112は、シェルとも呼ばれる。コア/シース構造101は、コア/シェル構造とも呼ばれる。造形材料1が、3層構造以上の多層構造を有してもよい。2層構造以上の多層構造を有する造形材料1は、マルチフィラメントとも呼ばれる。マルチフィラメントとの対比において、1層構造を有する造形材料は、モノフィラメントと呼ばれる。
【0018】
コア111は、線状の形状を有する。コア111は、柔軟性を有する。コア111は、円状の断面形状を有する。コア111が、円状の断面形状以外の断面形状を有してもよい。シース112は、コア111の外周面111Sを覆う。したがって、シース112は、コア111の径方向外側に配置される外側層であり、造形材料1の径方向最外側に配置される最外側層である。
【0019】
図2に図示されるように、コア111は、第1の熱可塑性ポリマー121を含む。シース112は、第2の熱可塑性ポリマー122、並びに繊維及び粒子からなる群より選択される少なくとも1種(以下では、「繊維/粒子」という)123を含む。
【0020】
第2の熱可塑性ポリマー122は、マトリクスとなる。繊維/粒子123は、マトリクスとなる第2の熱可塑性ポリマー122に分散される。繊維/粒子123は、製造される造形物の表面に突起を形成し、製造される造形物に快適な触感を付与する。
【0021】
第1の熱可塑性ポリマー121及び第2の熱可塑性ポリマー122は、それぞれ、コア111及びシース112の主成分である。
【0022】
第1の熱可塑性ポリマー121及び第2の熱可塑性ポリマー122は、同じ種類の熱可塑性ポリマー及び異なる種類の熱可塑性ポリマーのいずれであってもよい。第1の熱可塑性ポリマー121及び第2の熱可塑性ポリマー122の各熱可塑性ポリマーは、1種の熱可塑性ポリマーであってもよいし、2種以上の熱可塑性ポリマーの混合物であってもよい。
【0023】
各熱可塑性ポリマーは、例えば、剛性成分及び可撓性成分からなる群より選択される少なくとも1種を含み、望ましくは、可撓性成分を含む。
【0024】
剛性成分は、例えば、熱可塑性樹脂を含む。
【0025】
熱可塑性樹脂は、例えば、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン(ABS)、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレンテレフタラート(PET)及びその他ポリエステル派生物、ポリカーボネート(PC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアミド(PA)、スチレンベースのポリマー、ポリ塩化ビニル(PVC)並びにアクリルベースのポリマーからなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0026】
可撓性成分は、例えば、熱可塑性エラストマーを含む。コア111又はシース112が熱可塑性エラストマーを含むことにより、コア111又はシース112の可撓性及び弾性がそれぞれ向上し、造形材料1の可撓性及び弾性が向上する。また、製造される造形物に備えられるコア又はシースの可撓性及び弾性がそれぞれ向上し、製造される造形物の可撓性及び弾性が向上する。
【0027】
熱可塑性エラストマーは、例えば、オレフィン系熱可塑性エラストマー(TPO)、スチレン系熱可塑性エラストマー(TPS)、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー(TPVC)、アミド系可塑性エラストマー(TPAE)、エステル系熱可塑性エラストマー(TPEE)、ウレタン系熱可塑性エラストマー(TPU)及びアクリル系エラストマーからなる群より選択される少なくとも1種を含み、望ましくは、TPUを含む。
【0028】
繊維/粒子123は、天然物及び合成物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。天然粉末や繊維の例として、ラミー、綿、羊毛、絹、キトサンなどが挙げられる。ミネラル粉末の例として、チョークや炭酸カルシウムがある。
【0029】
コア111及びシース112の少なくとも一方が、強化成分を含んでもよい。コア111又はシース112が強化成分を含むことにより、コア111又はシース112の強度がそれぞれ向上し、造形材料1の強度が向上する。また、製造される造形物に備えられるコア又はシースの強度がそれぞれ向上し、製造される造形物の強度が向上する。強化成分は、例えば、フィラーを含む。フィラーは、例えば、繊維、粒子、微粒子粉末、ナノ粒子、ナノ繊維及びこれらに類似する添加物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。フィラーは、例えば、天然物及び合成物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0030】
コア111及びシース112の少なくとも一方が、可塑剤に加えて液体添加物を含んでもよい。コア111及びシース112の少なくとも一方が、気孔を形成するための添加物を含んでもよい。コア111又はシース112が気孔を形成するための添加物を含むことにより、製造される造形物に備えられるコア又はシースに多数の気孔がそれぞれ形成され、製造される造形物に備えられるコア又はシースの可撓性、弾性及び通気性が向上し、製造される造形物の可撓性、弾性及び通気性が向上する。気孔を形成するための添加物は、例えば、起泡剤及び発泡剤からなる群より選択される少なくとも1種を含む。コアまたはシースのいずれかが発泡し、他の層が発泡していない発泡コア/シース構造のフィラメントは、非発泡層の強度と一貫性が高いため、完全発泡構造のフィラメントよりも高い強度を持つ。
【0031】
コア111が、上述した成分に該当しない粒子、添加物、混合物等を含んでもよい。粒子、添加物、混合物等は、マトリックスとなる第1の熱可塑性ポリマー121に分散される。シース112が、上述した成分に該当しない粒子、添加物、混合物等を含んでもよい。粒子、添加物、混合物等は、マトリックスとなる第2の熱可塑性ポリマー122に分散される。
【0032】
第1の例においては、第1の熱可塑性ポリマー121は、70ショアAの硬度を有するTPUである。また、第2の熱可塑性ポリマー122は、60ショアAの硬度を有するTPUである。
【0033】
第2の例においては、第1の熱可塑性ポリマー121は、TPUである。また、第2の熱可塑性ポリマー122は、PVAである。また、繊維/粒子123は、天然繊維である。
【0034】
第3の例においては、第1の熱可塑性ポリマー121は、TPUである。また、第2の熱可塑性ポリマー122は、TPU及びPVAの混合物である。また、シース112は、起泡剤を含む。
【0035】
第4の例においては、第2の熱可塑性ポリマー122は、TPUである。また、繊維/粒子123は、天然繊維である。
【0036】
第5の例においては、第1の熱可塑性ポリマー121及び第2の熱可塑性ポリマー122は、TPUである。また、繊維/粒子123は、ラミー繊維である。
【0037】
コア111の直径に対するシース112の外径の比は、コア111を構成する材料及びシース112を構成する材料の組成又は質量分率を反映し、1:1.01から1:10までの広い範囲内で制御することができる。
【0038】
1.3 造形材料の製造方法
造形材料1は、適切なフィードブロック及びノズルを用いてコア111を構成する材料及びシース112を構成する材料を共押し出しすることにより製造することができる。造形材料1がコア111及びシース112以外の層を備える場合も同様である。
【0039】
例えば、造形材料1が製造される際には、コア111を構成する材料及びシース112を構成する材料が共押し出しラインにおいて共押し出しされる。共押し出しラインは、ふたつの押し出し機、フィードブロック/マルチマニフォールドダイヘッド及びノズルを備える。ふたつの押し出し機は、コア111を構成する材料からなるフィード及びシース112を構成する材料からなるフィードからなるふたつのフィードをそれぞれ形成する。フィードブロック/マルチマニフォールドダイヘッドは、形成されたふたつのフィードを収束させる。ノズルは、収束させられたフィードを用いて造形材料1を共押し出しする。
【0040】
1.4 変形例
図4は、第1実施形態の変形例の造形材料を模式的に図示する断面図である。
【0041】
図1、
図2及び
図3に図示される第1実施形態の造形材料1においては、コア111が、中実体である。これに対して、
図4に図示される第1実施形態の変形例の造形材料1Mにおいては、コア111が、多孔質体である。したがって、造形材料1Mにおいては、コア111に多数の気孔が形成されている。これにより、コア111の柔軟性、可撓性、弾性及び通気性を向上することができ、造形材料1Mの柔軟性、可撓性、弾性及び通気性を向上することができる。また、製造される造形物に備えられるコアの柔軟性、可撓性、弾性及び通気性を向上することができ、製造される造形物の柔軟性、可撓性、弾性及び通気性を向上することができる。多孔質体であるコア111は、マルチフィラメントを模したものである。
【0042】
2 第2実施形態
2.1 造形物の概略
図5は、第2実施形態の造形物を模式的に図示する平面図である。
【0043】
図5に図示される第2実施形態の造形物2は、第1実施形態の造形材料1を用いて製造される。このため、造形物2は、造形材料1の溶融硬化物である。
【0044】
造形物2は、新しいタイプのテキスタイル(布)又はファブリック(布製品)である。造形物2は、例えば、持続的に身体に着用することができる被服を構成する。被服は、衣服、帽子、手袋、靴下、履物、装身具等である。造形物2が、被服以外の物品を構成してもよい。
【0045】
被服は、消費者により自作される自作品、特定の消費者に向けて作製される注文品及び不特定の消費者に向けて作製される既製品のいずれであってもよい。ただし、3Dプリンタによる造形物2の製造は、自作品及び注文品に好適である。
【0046】
造形物2は、通常の消費者に通常の店舗及び通常の市場で販売することができる。
【0047】
造形物2の主要部は、熱可塑性を有する。これにより、造形物2を溶融させて造形物2を複数の成分に分離することができる。また、造形物2から新たな造形物又は他の種類の製品を製造することができる。このため、造形物2は、使用された後にリサイクル可能である。
【0048】
造形物2の特性は、製造に用いる造形材料1を構成する材料、製造に用いる造形材料1の構造、造形物2を製造する際のプロセスパラメータ等により調整することができる。調整は、造形物2の製造容易性に加えて、造形物2の可撓性、柔らかさ、強さ及び通気性を向上するために行われる。
【0049】
2.2 造形物の平面形状
図5に図示されるように、造形物2は、第1の線状体201及び第2の線状体202を備える。
【0050】
各第1の線状体201は、蛇行しながら第1の方向D1に伸びる。第1の線状体201は、第2の方向D2に配列される。隣接する第1の線状体201の間には、間隙が存在する。各第2の線状体202は、蛇行しながら第2の方向D2に伸びる。第2の線状体202は、第1の方向D1に配列される。隣接する第2の線状体202の間には、間隙が存在する。第2の方向D2は、第1の方向D1と垂直をなす。これにより、平面視において、第1の線状体201は、第2の線状体202と交差する。また、造形物2は、格子状の平面形状を有する。造形物2が、
図5に図示される構造と異なる構造を有してもよい。
【0051】
第2の線状体202は、第1の線状体201の上に配置される。第2の線状体202は、第1の線状体201に接触する。
【0052】
2.3 線状体の断面構造及び材質
図6は、第2実施形態の造形物に備えられる線状体を模式的に図示する断面図である。
図6には、第1実施形態の造形材料の大きさと第2実施形態の造形物に備えられる線状体の大きさとを比較することができるようにするために、当該造形材料が破線で図示されている。
【0053】
図6に図示される線状体210は、上述した各第1の線状体201及び各第2の線状体202である。
【0054】
線状体210は、造形材料1を長さ方向に引き延ばすことにより形成される。このため、
図6に図示されるように、線状体210も、コア231及びシース232を備えるコア/シース構造221により構成される。ただし、線状体210の直径は、造形材料1の直径より小さい。また、コア231の直径は、コア111の直径より小さい。また、シース232の厚さは、シース112の厚さより薄い。
【0055】
線状体210に備えられるコア231及びシース232は、造形材料1に備えられるコア111及びシース112にそれぞれ由来する。このため、コア231は、線状の形状を有する。シース232は、コア231の外周面231Sを覆う。コア231は、第1の熱可塑性ポリマー121を含む。シース232は、第2の熱可塑性ポリマー122及び繊維/粒子123を含む。繊維/粒子123は、第2の熱可塑性ポリマー122に分散される。線状体210に備えられるコア231及びシース232は、造形材料1に備えられるコア111及びシース112が含みうる成分をそれぞれ含みうる。コア231が、多孔質体であってもよい。
【0056】
図7は、第2実施形態の造形物の試作品に備えられる線状体の断面の全体の電子顕微鏡(SEM)写真である。
図8は、第2実施形態の造形物の試作品に備えられる線状体の断面の周辺部のSEM写真である。
【0057】
図7のSEM写真においては、コア231とシース232との明確な界面を確認することができないものの、コア231となる領域に、繊維/粒子123をほとんど確認することができず、シース232となる矢印の先の領域に、分散した繊維/粒子123を確認することができる。また、
図8のSEM写真においても、コア231とシース232との明確な界面を確認することができないものの、コア231となる領域に、繊維/粒子123をほとんど確認することができず、シース232となる円の内部に、分散した繊維/粒子123を確認することができる。したがって、
図7及び
図8のSEM写真からは、シース232に繊維/粒子123が含まれ、繊維/粒子123が第2の熱可塑性ポリマー122に分散していることを把握することができる。なお、コア231とシース232との明確な界面を確認することができないのは、シース232の主成分である第2の熱可塑性ポリマー122は、コア231の主成分である第1の熱可塑性ポリマー121と似ており、第1の熱可塑性ポリマー121と同じ場合もあるからである。
【0058】
図9は、第2実施形態の造形物と当該造形物に当たった人間の肌との界面の付近を模式的に図示する拡大断面図である。
【0059】
図9に図示されるように、線状体210は、線状体本体241及び突起242を備える。
【0060】
線状体本体241は、線状体210の主要部を構成する。突起242は、線状体本体241の外周面241Sから突出し、線状体210の外周面に特徴的な不規則な凹凸を形成する。
【0061】
繊維/粒子123は、線状体本体241の外周面241Sと交差する交差繊維/交差粒子251を含む。交差繊維/交差粒子251の一方の端部は、線状体本体241を構成する第2の熱可塑性ポリマー122に埋まる。これにより、交差繊維/交差粒子251が線状体本体241に固定され、交差繊維/交差粒子251が線状体本体241から脱落することを抑制することができる。交差繊維/交差粒子251の残部は、線状体本体241の外周面241Sから突出し、突起242を構成する第2の熱可塑性ポリマー122に覆われる。これにより、交差繊維/交差粒子251が露出することを抑制することができ、人間の肌261が交差繊維/交差粒子251に直接的に接触することを抑制することができる。突起242は、交差繊維/交差粒子251の残部及び交差繊維/交差粒子251の残部を覆う第2の熱可塑性ポリマー122を備える。線状体本体241を構成する第2の熱可塑性ポリマー122及び突起242を構成する第2の熱可塑性ポリマー122は、連続しており、一体化している。
【0062】
形成される不規則な凹凸は、マトリックスに分散される繊維/粒子の充填率が高くなった場合に形成される凹凸に類似する。当該凹凸は、「山と谷」と記述することができる。線状体210においては、突起242が山となり、隣接する突起242の間、すなわち、第2の熱可塑性ポリマー122がリッチな領域が谷となる。
【0063】
形成される不規則な凹凸の大きさは、繊維/粒子123の形状、大きさ等により制御することができる。このため、造形物2の表面の粗さは、繊維/粒子123の形状、大きさ等により制御することができる。
【0064】
人間の肌261が造形物2に当たった場合は、人間の肌261が突起242に接触し、人間の肌261と線状体本体241の外周面241Sとの間に間隙262が形成される。形成された間隙262には、空気流を生成することができる。このため、人間の肌261が造形物2に当たった場合は、間隙262に生成される空気流により、人間の肌261を迅速に乾燥させることができ、人間の肌261を良好に冷却することができる。このため、造形物2は、ゴム様の触感、プラスチック様の触感等を有さず、布様の触感を有し、快適な触感を有する。
【0065】
また、人間の肌261が造形物2に当たった場合は、人間の肌261が突起242を弱い力でそらすことができる。また、人間の肌261が造形物2の表面に弱くしか接触せず、人間の肌261と造形物2との間に発生する摩擦力は小さい。これにより、造形物2は、柔らかい触感を有する。
【0066】
図10及び
図11は、第2実施形態の造形物の試作品の断面のSEM写真である。
【0067】
図10及び
図11のSEM写真においては、突起242が、シース112から突出しており、線状体210の外周面に不規則な凹凸を形成していることを確認することができる。
【0068】
図12及び
図13は、モノフィラメントを用いて製造された造形物の試作品の断面のSEM写真である。
図14及び
図15は、モノフィラメントを用いて製造された造形物の試作品の上面のSEM写真である。
【0069】
図12、
図13、
図14及び
図15のSEM写真においては、モノフィラメントを用いて製造された造形物の試作品に備えられる線状体の表面は、滑らかで清浄であり、顕著な凹凸を有しないことを確認することができる。なお、
図14及び
図15のSEM写真において、白色のスポットは、ゴミである。
【0070】
上述した特徴を有する造形物2は、可撓性、強さ、通気性、ウィッキング性、制御された粗さ及び滑らかさを有し、布様の触感を有し、快適な触感を有する。また、造形物2の色は、変更することができる。
【0071】
図16は、第1実施形態の変形例の造形材料を用いて製造された造形物の試作品のSEM写真である。
図17は、ポリエステル製のモノフィラメントの顕微鏡写真である。
図18は、ポリエステル製のマルチフィラメントの顕微鏡写真である。
【0072】
図17に示されるポリエステル製のモノフィラメントは、強く、硬く、こわばっている。このため、ポリエステル製のモノフィラメントは、被服に使用することができない。また、当該モノフィラメントが用いられた場合は、造形物の表面に不規則な凹凸を形成することができない。
【0073】
一方、
図18に示されるポリエステル製のマルチフィラメントは、柔らかく、こわばっていない。このため、ポリエステル製のモノフィラメントは、被服に使用することができる。また、当該マルチフィラメントが用いられた場合は、造形物の表面に不規則な凹凸を形成することができる。しかし、ポリエステル製のモノフィラメントを用いる場合は、3Dプリンタにより造形物を印刷することはできない。
【0074】
図16のSEM写真においては、コア111が多孔質体である造形材料1Mを用いて3Dプリンタにより製造される造形物の表面に、不規則な凹凸が形成されていることを確認することができる。
【0075】
2.4 造形物の製造方法
図19は、第2実施形態の造形物の製造に用いられる3Dプリンタを模式的に図示する側面図である。
【0076】
図19に図示される3Dプリンタ271は、造形材料1を用いてFDM方式により造形物2を印刷する。以下では、造形材料1をフィラメント1という。
【0077】
3Dプリンタ271には、フィラメントスプール281が取り付けられる。3Dプリンタ271は、プリントヘッド282、駆動機構283及びプレート284を備える。
【0078】
フィラメントスプール281は、フィラメント1を供給する。
【0079】
プリントヘッド282は、供給されたフィラメント1を溶融させて溶融物を生成し、生成した溶融物288を吐出する。プリントヘッド282は、プレート284の上面284Sの鉛直方向上方に配置される。このため、吐出された溶融物288は、落下してプレート284の上面284Sの上に供給される。溶融物288は、プレート284の上面284Sの上に直接的に供給されてもよいし、プレート284の上面284Sの上に既に供給されている溶融物又は当該溶融物の硬化物に重ねてプレート284の上面284Sの上に供給されてもよい。
【0080】
駆動機構283は、プリントヘッド282をプレート284の上面284Sと平行をなす方向に移動させる。これにより、溶融物288が供給される位置が移動する。駆動機構283は、溶融物288が供給される位置を印刷範囲内の任意の位置にすることができる。
【0081】
プレート284は、供給された溶融物288を支持する。支持された溶融物288は、硬化して溶融硬化物になる。プレート284は、当該溶融硬化物を支持する。
【0082】
3Dプリンタ271が造形物2を印刷する際には、プリントヘッド282に、溶融物288を吐出させながら、駆動機構283に、造形物2に備えられる線状体210が印刷される線状領域の上方を移動させる。これにより、当該線状領域の上に線状溶融物が形成される。形成された線状溶融物は、硬化して線状体210になる。
【0083】
プリントヘッド282は、フィラメントフィーダ291、ヒータ292及びノズル293を備える。
【0084】
フィラメントフィーダ291には、プリントヘッド282に供給されたフィラメント1が挿入される。フィラメントフィーダ291は、挿入されたフィラメント1を長さ方向に送ってヒータ292に挿入する。
【0085】
ヒータ292は、挿入されたフィラメント1を加熱して溶融物288を生成し、生成した溶融物288をノズル293に供給する。
【0086】
ノズル293は、供給された溶融物288を吐出する。
【0087】
プリントヘッド282がフィラメント1を溶融させて溶融物288を生成する際には、コア/シース構造が維持される。このため、線状体210は、コア/シース構造221を有する。ただし、フィラメント1が引き延ばされるため、線状体210の直径は、フィラメント1の直径より小さくなる。また、シース232の厚さは、シース112の厚さより薄くなる。例えば、線状体210の直径は、フィラメント1の直径の約1/4となる。また、シース232の厚さは、シース112の厚さの約1/4となる。この場合は、1.75mmの直径を有するフィラメント1は、約0.40mmの直径を有する線状体210となる。また、0.2mmの厚さを有するシース112は、約0.05mmの厚さを有するシース232となる。
【0088】
フィラメント1に備えられるシース112に含められる繊維/粒子123の大きさ、例えば、繊維の長さ又は粒子の径は、印刷される線状体210に備えられるシース232の厚さより十分に小さくなるように選択される。このため、造形物2が印刷される際に繊維/粒子123がコア231に侵入することは起こりにくい。このため、繊維/粒子123の大部分は、シース232にとどまり、繊維/粒子123の一部は、線状体本体241の外周面111Sと交差する交差繊維/交差粒子251となる。
【0089】
3 第3実施形態
3.1 フロック製品の概略
図20は、第3実施形態のフロック製品を模式的に図示する平面図である。
図21は、第3実施形態のフロック製品と当該フロック製品に当たった人間の肌との界面の付近を模式的に図示する拡大断面図である。
【0090】
図20及び
図21に図示される第3実施形態のフロック製品3は、造形材料を用いて製造される造形物にフロッキングが施された製品である。
【0091】
フロック製品3は、新しいタイプのテキスタイル又はファブリックである。フロック製品3は、例えば、持続的に身体に着用することができる被服を構成する。被服は、衣服、帽子、手袋、靴下、履物、装身具等である。フロック製品3が、被服以外の物品を構成してもよい。
【0092】
被服は、消費者により自作される自作品、特定の消費者に向けて作製される注文品及び不特定の消費者に向けて作製される既製品のいずれであってもよい。ただし、3Dプリンタによる造形物の製造及びフロッキングによるフロック製品3の製造は、自作品及び注文品に好適である。
【0093】
フロック製品3の主要部は、熱可塑性を有する。これにより、フロック製品3を溶融させてフロック製品3を複数の成分に分離することができ、フロック製品3から新たなフロック製品又は他の種類の製品を製造することができる。このため、フロック製品3は、使用された後にリサイクル可能である。これより、地球環境のための持続可能性及び循環性を向上することができる。製造される他の種類の製品は、共押し出しフィラメントであってもよい。共押し出しフィラメントへのリサイクルは、ポリマー中の繊維の有無によって異なるが、特性の劣化を最小限に抑えながら行うことができる。
【0094】
3.2 フロック製品の構造
図20及び
図21に図示されるように、フロック製品3は、本体301、接着層302及びフロック303を備える。
【0095】
本体301は、造形材料を用いて製造される造形物すなわち造形材料の溶融硬化物である造形物である。造形材料は、一層構造を有する造形材料であってもよいし、多層構造を有する第1実施形態の造形材料1であってもよいし、その他の造形材料であってもよいが、熱可塑性ポリマーを含む。本体301は、3Dプリンタにより製造される。本体301が、造形材料そのものであってもよい。
【0096】
接着層302は、本体301の表面301Sの上に配置され、本体301の表面301Sを覆う。接着層302は、フロック303を本体301の表面301Sに接着し、フロック303を本体301の表面301Sの上に固定する。
【0097】
フロック303は、接着層302に突き刺さる。フロック303の一方の端部は、接着層302に埋まる。フロック303の残部は、接着層302の外側に配置される。このため、フロック303は、接着層302から突出する。
【0098】
図21に図示されるように、人間の肌311がフロック製品3に当たった場合は、人間の肌311がフロック303に接触し、人間の肌311と本体301及び接着層302からなる構造物の表面との間に間隙321が形成される。形成された間隙321には、空気流を生成することができる。このため、人間の肌311がフロック製品3に当たった場合は、間隙321に生成された空気流により、人間の肌311を迅速に乾燥させることができ、人間の肌311を良好に冷却することができる。このため、フロック製品3は、ゴム様の触感、プラスチック様の触感等を有さず、布様の触感を有し、快適な触感を有する。
【0099】
また、人間の肌311がフロック製品3に当たった場合は、人間の肌311がフロック303を弱い力でそらすことができる。また、人間の肌311がフロック製品3の表面に弱くしか接触せず、人間の肌311とフロック製品3との間に発生する摩擦力は小さい。これにより、フロック製品3は、柔らかい触感を有する。
【0100】
本体301は、熱可塑性ポリマーを含む。熱可塑性ポリマーは、望ましくは、熱可塑性ポリウレタンである。本体301の特性は、製造に用いる造形材料により調整することができる。
【0101】
接着層302は、接着剤の硬化物からなる。
【0102】
接着剤は、本体301及びフロック303に適合するように調整される。
【0103】
接着剤は、熱可塑性接着剤又は熱硬化性接着剤であり、望ましくは、熱硬化性接着剤である。接着剤が熱硬化性接着剤である場合は、接着層302の耐久性を向上することができる。一方で、接着剤が熱可塑性接着剤である場合は、フロック303の静電堆積を容易に行うことができる。
【0104】
接着剤は、ポリマー接着剤であり、望ましくはポリウレタン系接着剤又はアクリル系接着剤であり、さらに望ましくは、ポリウレタン系接着剤である。接着剤がポリウレタン系接着剤である場合は、柔軟性を有するポリウレタンが接着層302に含まれ、接着層302がフロック製品3の柔軟性を損なうことを抑制することができる。
【0105】
ポリウレタン系接着剤は、例えば、水系若しくは溶剤系のポリウレタン分散液、又は液体ポリウレタンである。
【0106】
フロック303は、繊維及び粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む。フロック303は、天然物及び合成物からなる群より選択される少なくとも1種を含む。天然物は、例えば、コットン、ウール及びビスコースからなる群より選択される少なくとも1種を含む。ただし、天然物が、コットン、ウール及びビスコース以外の物質を含んでもよい。合成物は、ポリエステル、ポリアミド(ナイロン)、ポリウレタン、ポリ乳酸(PLA)、ポリエチレン及びポリプロピレンからなる群より選択される少なくとも1種を含む。合成物が、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ乳酸、ポリエチレン及びポリプロピレン以外の物質を含んでもよい。
【0107】
フロック繊維は、例えば、0.1mm以上5mm以下の長さを有し、望ましくは、0.4mm以上0.8mm以下の長さを有する。フロック繊維の長さがこれらの範囲より短くなった場合、フロック繊維がポリマーに埋没して表面に突き出ず、表面の触感に影響を与えない場合がある。また、フロック繊維の表面への突出部分が短すぎると、繊維が立ったままの状態となり、チクチクとした触感を与える。フロック繊維の長さがこれらの範囲より長くなった場合は、繊維の重量がより大きくなることにより、フロッキング・プロセスにおいて繊維の堆積が十分でなくなる可能性がある。フロック繊維が長すぎると、繊維が倒れてしまうので、フワフワとした触感が失われる恐れがある。
【0108】
フロック繊維は、例えば、数μm以上数100μm以下の径を有する。フロック繊維の径がこの範囲より細くなった場合、一般論として、製造作業中の現場で大量の粉塵が発生し、これらが肺に到達すれば肺疾患を引き起こす危険がある。製品のエンドユーザーの場合、フロック繊維が印刷された布の表面に付着しているため、同様の問題は生じ得ない。また、繊維の強度が弱まり耐久性に問題が生じる。フロック繊維の径がこの範囲より太い場合、シースの厚みに見合わず、ポリマーに繊維をフロックする(埋め込む或いは分散させる)ことが困難になる可能性がある。また、太すぎる繊維径はゴワゴワした感触を与えるため柔らかさが失われ、触感を悪化させる。
【0109】
第1の例においては、本体301は、TPUからなるモノフィラメントを用いて製造される。また、接着剤は、ポリウレタン系接着剤である。また、フロック303は、コットン繊維である。これにより、本体300が柔らかになり、フロック製品3の表面の触感が快適な触感となるので、フロック製品3を快適な被服とすることができる。
【0110】
図20及び
図21に図示されるように、フロック製品3は、第1の線状体331及び第2の線状体332を備える。
【0111】
各第1の線状体331は、蛇行しながら第1の方向D1に伸びる。第1の線状体331は、第2の方向D2に配列される。隣接する第1の線状体331の間には、間隙が存在する。各第2の線状体332は、蛇行しながら第2の方向D2に伸びる。第2の線状体332は、第1の方向D1に配列される。隣接する第2の線状体332の間には、間隙が存在する。第2の方向D2は、第1の方向D1と垂直をなす。これにより、平面視において、第1の線状体331は、第2の線状体332と交差する。また、フロック製品3は、格子状の平面形状を有する。
【0112】
第2の線状体332は、第1の線状体331の上に配置される。第2の線状体332は、第1の線状体331に接触する。
【0113】
上述した特徴を有するフロック製品3は、柔らかさ、心地よさ、通気性、ウィッキング性、制御された粗さ及び滑らかさを有し、布様の触感を有し、快適な触感を有する。すなわち、フロッキングは、3Dプリンタにより印刷された造形物を真に着用可能なテキスタイル又はファブリックに変換することができる。また、フロック製品3の色は、変更することができる。
【0114】
3.3 フロック製品の製造方法
図22は、第3実施形態のフロック製品の製造に用いられる静電堆積装置を模式的に図示する斜視図である。
【0115】
図22に図示される静電堆積装置341は、鉛直方向下方から鉛直方向上方へフロック303を飛翔させるアップ式の静電堆積装置である。静電堆積装置341が、アップ式の静電堆積装置以外の静電堆積装置であってもよい。例えば、静電堆積装置341が、鉛直方向上方から鉛直方向下方へフロック303を飛翔させるダウン式の静電堆積装置等であってもよい。
【0116】
図22に図示されるように、静電堆積装置341は、第1の電極351、第2の電極352、チャンバー353及び電源354を備える。
【0117】
第1の電極351は、平板状の形状を有する。第1の電極351は、水平に設置される。
【0118】
第2の電極352は、平板格子状の形状を有する。第2の電極352は、第1の電極の鉛直方向上方に配置される。第2の電極352は、水平に設置される。このため、第2の電極352は、第1の電極351と平行をなす。第2の電極352は、接地される。
【0119】
チャンバー353は、第1の電極351及び第2の電極352を収容する。
【0120】
電源354は、直流高電圧を発生する。電源354の正極361は、第1の電極351に電気的に接続される。電源354の負極362は、第2の電極352に電気的に接続され、接地される。これにより、発生させられた直流高電圧が第1の電極351と第2の電極352との間に印加される。
【0121】
フロック303がワーク371に静電堆積させられる場合は、第1の電極351の上面351Sの上にフロック303が載せられる。また、第2の電極352の上方にワーク371が設置される。その後に、電源354が、第1の電極351と第2の電極352との間に直流高電圧を印加する。これにより、フロック303が帯電し、帯電したフロック303が第1の電極351の上面351Sの上から第2の電極352を経由してワーク371まで飛翔する。その際に、帯電したフロック303は、第2の電極352に形成された間隙を通過する。ワーク371に到達したフロック303は、ワーク371に付着する。これにより、フロック303がワーク371に静電堆積させられる。
【0122】
図23は、第3実施形態のフロック製品の製造の流れを示すフローチャートである。
【0123】
フロック製品3が製造される際には、
図23に示されるステップS101からS106までが実行される。ステップS101は、3Dプリンタにより本体301を印刷する1次プロセスである。ステップS101に続くステップS102からS105までは、印刷された本体301の表面に対して行われる、静電堆積すなわち静電フロッキングにより本体301の表面の触感及び外観を修正する2次プロセスである。
【0124】
ステップS101においては、被処理物となる本体301が製造される。本体301は、3Dプリンタにより製造され、FDM法により製造される。ただし、本体301が、3Dプリンタ以外の造形装置により製造されてもよく、FDM法以外の造形方法により製造されてもよい。
【0125】
続くステップS102においては、本体301の表面301Sの上に接着層302が配置される。これにより、本体301及び接着層302からなるワーク371が作製される。その際には、本体301の表面301Sに液状の接着剤がスプレー法、ブラッシング法、ローラーコーティング法、ドクターブレード法等により塗布される。これにより、本体301の表面301Sの全体に広がる薄い接着層302が形成される。塗布される接着剤は、静電堆積に適合するように選択される。配置された接着層302は、フロック303と本体301との間の接着を促進する。
【0126】
続くステップS103においては、フロック303及びワーク371がチャンバー353に導入される。その際には、フロック303が第1の電極351の上面351Sの上に載せられる。また、ワーク371が、第2の電極352の鉛直方向上方に配置される。
【0127】
続くステップS104においては、フロック303が接着層302に突き刺される。フロック303は、静電堆積により接着層302に突き刺される。その際には、電源354が第1の電極351と第2の電極352との間に直流高電圧を印加する。これにより、フロック303が帯電し、帯電したフロック303が第1の電極351の上面351Sの上から第2の電極352を経由してワーク371まで飛翔する。ワーク371に到達したフロック303は、接着層302に付着する。これにより、フロック303は、接着層302を介して本体301の表面301Sに接着され、本体301の表面301Sを覆う。これにより、新たな触感がもたらされる。付着したフロック303の一方の端部は、接着層302に埋まって接着層302に固定される。付着したフロック303の残部は、接着層302の外側に配置される。これにより、フロック303が、接着層302から突出する。このため、フロック303は、フロック303が接着層302から突出する状態で接着層302に突き刺される。フロック303が繊維である場合は、フロック303は、本体301の表面301Sと略垂直をなす状態で接着層302に突き刺される。
【0128】
続くステップS105においては、接着層302が硬化させられる。その際には、接着層302が加熱等により乾燥及び焼き締められる。
【0129】
続くステップS106においては、清掃が行われる。その際には、接着層302により本体301に接着されていない余剰のフロック303が除去される。これにより、フロック製品3が完成する。
【0130】
手持ち可能な静電塗布装置等により手作業でフロッキングが行われてもよい。
【0131】
図24は、第3実施形態のフロック製品に備えられる本体の試作品の写真である。
図25は、第3実施形態のフロック製品の試作品の写真である。
【0132】
図24に示されるフロッキングが行われる前の本体301と、
図25に示されるフロッキングが行われた後のフロック製品3と、を比較すると、フロッキングが行われることにより複雑な凹凸をフロック製品3の表面に形成することができることを理解することができる。
【0133】
本体301の表面301Sの上に接着層302を配置するステップS102、及びフロック303を接着層302に突き刺すステップS104は、ごく短時間しか要さず、例えば、3-10分しか要しない。工程を自動化した場合、更なる時間の短縮が可能である。しかし、接着層302を硬化させるステップS105は、長時間を要し、例えば、数時間を要する。ただし、接着剤の選択により、ステップS105に要する時間を短縮することは可能である。
【0134】
本体301の表面301Sのフロック303の被覆状態は、ステップS104における静電堆積のパラメータを調整することにより調整することができる。例えば、当該パラメータを調整することにより、本体301の表面301Sの全体をフロック303で均一に被覆することもできるし、フロック303の密度が勾配を有するように本体301の表面301Sをフロック303で被覆することもできる。
【0135】
フロック製品3の触感は、フロック303の種類、デシテックス(dTex)及び長さを調整することにより調整することができる。フロック303の密度は、本体301、接着剤の特性、フロック303の特性及びプロセス条件を調整することにより調整することができる。
【0136】
フロック303は、本体301の材料の影響を受けにくいが、接着剤の選択により調整することができる。これらにより、様々な用途に適合するフロック製品3を製造することができる。
【0137】
フロック製品3の特性は、本体301の特性の影響を受けにくく、接着剤の選択により調整することができる。なぜならば、接着層302がフロック303を本体301に接続する中間層として機能するからである。
【0138】
ひとつの種類のフロック303では得られないフロック製品3の構造及び特性を得るために、ふたつ以上の種類のフロック303が組み合わされてもよい。
【0139】
上述したフロック製品の製造方法を実行するために、顧客の要求又は季節限定コレクションに応じて上述した1次プロセス及び2次プロセスを実行する工場が設立されてもよい。顧客の要求に応じて上述した2次プロセスのみを実行する工場が設立されてもよい。この場合は、本体300は、顧客により提供される。
【0140】
本開示は、上記実施の形態に限定されるものではなく、上記実施の形態で示した構成と実質的に同一の構成、同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成で置き換えてもよい。
【符号の説明】
【0141】
1 造形材料(フィラメント)、101 コア/シース構造、111 コア、112 シース、121 第1の熱可塑性ポリマー、122 第2の熱可塑性ポリマー、123 繊維/粒子、1M 造形材料、2 造形物、201 第1の線状体、202 第2の線状体、210 線状体、221 コア/シース構造、231 コア、232 シース、241 線状体本体、242 突起、251 交差繊維/交差粒子、261 人間の肌、271 3Dプリンタ、281 フィラメントスプール、282 プリントヘッド、283 駆動機構、284 プレート、288 溶融物、3 フロック製品、301 本体、302 接着層、303 フロック、311 人間の肌、331 第1の線状体、332 第2の線状体、341 静電堆積装置、351 第1の電極、352 第2の電極、353 チャンバー、354 電源、361 正極、362 負極。