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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099700
(43)【公開日】2023-07-13
(54)【発明の名称】(メタ)アクリルモノマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 67/475 20060101AFI20230706BHJP
   C07C 69/54 20060101ALI20230706BHJP
   C08J 11/10 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
C07C67/475
C07C69/54 Z
C08J11/10 ZAB
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084706
(22)【出願日】2023-05-23
(62)【分割の表示】P 2022564213の分割
【原出願日】2022-05-20
(31)【優先権主張番号】P 2021085660
(32)【優先日】2021-05-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】508067736
【氏名又は名称】マイクロ波化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】山内 智央
(72)【発明者】
【氏名】萩本 陽和
(72)【発明者】
【氏名】角田 圭
(72)【発明者】
【氏名】出口 友香里
(57)【要約】
【課題】本発明の目的は、(メタ)アクリル樹脂の解重合系の不均一性を抑制し、且つ系内部にまで効率的にマイクロ波を到達しやすくする、(メタ)アクリルモノマーの製造方法を提供することにある。
【解決手段】仕込み(メタ)アクリル樹脂にマイクロ波を照射して混合し、低分子化(メタ)アクリル樹脂を含む溶融物を得る工程1と、前記溶融物に、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加して混合し、前記溶融物中に追加の(メタ)アクリル樹脂を含む混合物を得る工程2と、前記混合物にマイクロ波を照射して混合し、(メタ)アクリルモノマーを得る工程3と、を含む(メタ)アクリルモノマーの製造方法によれば、(メタ)アクリル樹脂の解重合系の不均一性を抑制し、且つ系内部にまで効率的にマイクロ波を到達しやすくすることができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
仕込み(メタ)アクリル樹脂にマイクロ波を照射して混合し、解重合温度において前記仕込み(メタ)アクリル樹脂よりもマイクロ波吸収能が低い成分を含む溶融物を得る工程1と、
前記溶融物に、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加して混合し、前記溶融物中に追加の(メタ)アクリル樹脂を含む溶融混合物を得る工程2と、
前記溶融混合物にマイクロ波を照射して混合し、(メタ)アクリルモノマーを得る工程3と、を含む、(メタ)アクリルモノマーの製造方法。
【請求項2】
前記工程1において、前記仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量が2.5kg以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程1において、前記仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量が80kg以上である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項4】
前記工程2及び工程3が繰り返される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項5】
工程2において、前記追加の(メタ)アクリル樹脂が、解重合温度に供された熱履歴を有しないものである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程2において、前記追加の(メタ)アクリル樹脂の添加量が、前記仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量100重量部当たり、20重量部以下である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項7】
前記工程2において、前記追加の(メタ)アクリル樹脂は、前記仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量100重量部から1~20重量部減少したタイミングで添加される、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記工程3を300~360℃の温度条件で行う、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記マイクロ波の周波数が0.8~6GHzである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記工程1~3を、側壁が逆円錐形の底部を有する容器内で行う、請求項1に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(メタ)アクリルモノマーの製造方法に関する。より具体的には、本発明は、(メタ)アクリル樹脂から(メタ)アクリルモノマーを回収する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル樹脂及びメタクリル樹脂(以下、「アクリル」及び「メタクリル」を包括して「(メタ)アクリル」と記載する。)は、高い透明性及び耐衝撃性を持つ非結晶性の熱可塑性プラスチックである。(メタ)アクリル樹脂は加工及び着色が容易であるため、無機ガラスの代用品として、液晶テレビ及び液晶ディスプレイの導光板、照明器具のカバー、建築物及び乗り物の窓材、バイクの風防、航空機のキャノピー、腕時計の風防、並びに水槽等、広範な用途に用いられている。
【0003】
(メタ)アクリル樹脂は今後も産生量の増大が見込まれる。その一方で、資源保全の観点から、化石原料からモノマーを製造することなく、廃棄される(メタ)アクリル樹脂を解重合することでモノマーをリサイクルする技術が検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、(メタ)アクリル樹脂が溶解した溶液を加熱して、前記(メタ)アクリル樹脂を分解する方法において、前記溶液中に不活性ガスおよび/または水蒸気を供給しながら加熱することを特徴とする(メタ)アクリル樹脂の分解方法が記載されており、具体的には、ジャケット式で熱媒を流す方法、電気ヒータ加熱、燃料燃焼によるバーナー方式を用いて加熱することが記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、(メタ)アクリル酸エステル単位を50質量%以上含む(メタ)アクリル樹脂を、大気圧下での沸点が250℃以上である溶媒に溶解もしくは膨潤させた樹脂含有液に、マイクロ波を照射して(メタ)アクリル樹脂を分解し、得られた(メタ)アクリル酸エステルを分離する(メタ)アクリル酸エステルの回収方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006-232966号公報
【特許文献2】特開2007-230905号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の技術は、加熱手段に加えて所定のガスを供給する手段が必要となり、設備が煩雑である。特許文献2の技術は、マイクロ波を加熱手段として用いるシンプルな解重合系であるものの、溶媒の使用も要するため、溶媒が加熱されることによる不所望の副産物が生じる点で問題がある。
【0008】
(メタ)アクリル樹脂は、室温においてマイクロ波吸収能が低いが、高温になるにしたがって、マイクロ波吸収能が高くなる特性を持つ。(メタ)アクリル樹脂の解重合温度(一般的には280℃以上)付近ではマイクロ波吸収能が高いため、マイクロ波で効率的に(メタ)アクリル樹脂を加熱して分解させることが本来期待できる。このため、本発明者は、マイクロ波を加熱手段として用い、且つ、溶媒を用いずに原料(メタ)アクリル樹脂の溶融系を用いた解重合を試みた。しかしながら、本発明者が実際に検討したところ、マイクロ波の吸収能が高いという、解重合において本来的に有利であるはずの(メタ)アクリル樹脂の特性が、当該樹脂の溶融物の表面部分で局所的にマイクロ波を吸収してしまうために、溶融物に対してマイクロ波を深く浸透させることができず、結果として内部の(メタ)アクリル樹脂までマイクロ波が到達しにくくなり均一な解重合を困難にするという課題に予期せず直面した。さらに、これらの問題は、解重合系のスケールが大きくなると一層顕著であった。
【0009】
そこで、本発明は、(メタ)アクリル樹脂の解重合系の不均一性を抑制し、溶融物全体で効率的に解重合を進行させることが可能な(メタ)アクリルモノマーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、鋭意検討の結果、(メタ)アクリル樹脂にマイクロ波の照射及び混合により得られるマイクロ波吸収能が低くなった成分を含む溶融物に、(メタ)アクリル樹脂を新たに系外から添加して混合し、前記溶融物中に分散させた状態でマイクロ波を照射することで、(メタ)アクリル樹脂の解重合系の不均一性が抑制されるとともに、系内部にまで効率的にマイクロ波が到達しやすくなることを見出した。本発明は、この知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 仕込み(メタ)アクリル樹脂にマイクロ波を照射して混合し、解重合温度において前記仕込み(メタ)アクリル樹脂よりもマイクロ波吸収能が低い成分を含む溶融物を得る工程1と、
前記溶融物に、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加して混合し、前記溶融物中に追加の(メタ)アクリル樹脂を含む溶融混合物を得る工程2と、
前記溶融混合物にマイクロ波を照射して混合し、(メタ)アクリルモノマーを得る工程3と、を含む、(メタ)アクリルモノマーの製造方法。
項2. 前記工程1において、前記仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量が2.5kg以上である、項1に記載の製造方法。
項3.前記工程1において、前記仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量が80kg以上である、項1又は2に記載の製造方法。
項4. 前記工程2及び工程3が繰り返される、項1~3のいずれかに記載の製造方法。
項5. 工程2において、前記追加の(メタ)アクリル樹脂が、解重合温度に供された熱履歴を有しないものである、項1~4のいずれかに記載の製造方法。
項6. 前記工程2において、前記追加の(メタ)アクリル樹脂の添加量が、前記仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量100重量部当たり、5~20重量部である、項1~5のいずれかに記載の製造方法。
項7. 前記工程2において、前記追加の(メタ)アクリル樹脂は、前記仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量100重量部から1~20重量部減少したタイミングで添加される、項1~6のいずれかに記載の製造方法。
項8. 前記工程3を300~360℃の温度条件で行う、項1~7のいずれかに記載の製造方法。
項9. 前記マイクロ波の周波数が0.8~6GHzである、項1~8のいずれかに記載の製造方法。
項10. 前記工程1~3を、側壁が逆円錐形の底部を有する容器内で行う、項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、(メタ)アクリル樹脂の解重合系の不均一性を抑制し、且つ系内部にまで効率的にマイクロ波を到達しやすくする、(メタ)アクリルモノマーの製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の(メタ)アクリルモノマーの製造方法に用いられる装置の一例の概略図を示す。
図2】本発明の(メタ)アクリルモノマーの製造方法に用いられる装置の他の一例の概略図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.基本工程
本発明の(メタ)アクリルモノマーの製造方法は、仕込み(メタ)アクリル樹脂にマイクロ波を照射して混合し、解重合温度において前記仕込み(メタ)アクリル樹脂よりもマイクロ波吸収能が低い成分を含む溶融物を得る工程1と;前記溶融物に、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加して混合し、前記溶融物中に追加の(メタ)アクリル樹脂を含む溶融混合物を得る工程2と;前記溶融混合物にマイクロ波を照射して混合し、(メタ)アクリルモノマーを得る工程3と、を含むことを特徴とする。
【0015】
工程2は工程1の後に行われ、工程3は工程2の後に行われる。工程2は、マイクロ波を照射せずに又はマイクロ波を照射しながら行われることができ、好ましくはマイクロ波を照射しながら行われる。工程2で添加される追加の(メタ)アクリル樹脂は、工程1で準備された仕込み(メタ)アクリル樹脂とは時間差で、溶融物中で低分子化(メタ)アクリル樹脂(追加の(メタ)アクリル樹脂よりも分子量が小さい(メタ)アクリル樹脂)へ解重合され、解重合の進行に伴い(メタ)アクリルモノマーまで分解される。
【0016】
工程2及び工程3は繰り返されることが好ましい。工程2及び工程3の繰り返しにおいては、例えば先の工程2で追加の(メタ)アクリル樹脂が添加された溶融混合物が調製されるとともに、追加の(メタ)アクリル樹脂が低分子化(メタ)アクリル樹脂へ解重合され、解重合の進行に伴い(メタ)アクリルモノマーまで分解される間に、後の工程2で新たに追加の(メタ)アクリル樹脂が添加された溶融混合物が調製される。つまり、工程2及び工程3の繰り返しにおいては、解重合系に、新たな(メタ)アクリル樹脂を含む溶融混合物が分散した状態を更新し続けることができる。
【0017】
本発明の特に好ましい形態においては、仕込み(メタ)アクリル樹脂にマイクロ波を照射して混合して得たマイクロ波吸収能の低い成分を含む溶融物に対し、マイクロ波を照射して混合しながら追加の(メタ)アクリル樹脂を連続的又は断続的に添加して混合しながら解重合を進行させ、(メタ)アクリルモノマーを得ることができる。
【0018】
本発明の製造方法で用いられる解重合系は通常密閉状態であり、生成物であるモノマーは気体の性状である。生成したモノマーは、解重合系雰囲気に連通して設けられる冷却装置によって液化されて回収される。
【0019】
なお、本発明の一形態では、回収されるモノマー中の不純物量の増加を抑制する観点から、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加せずに解重合する工程及び/又は撹拌を行わずに解重合する工程をさらに含まないことが好ましい。
【0020】
2.工程1
工程1においては、仕込み(メタ)アクリル樹脂にマイクロ波を照射して混合し、解重合温度において前記仕込み(メタ)アクリル樹脂よりもマイクロ波吸収能が低い成分を含む溶融物を得る。
【0021】
工程1において、「マイクロ波を照射して混合し」には、マイクロ波を照射しながら混合する態様と、マイクロ波を照射した後に混合する態様とを含む。
【0022】
仕込み(メタ)アクリル樹脂とは、最初に解重合系に供する材料としての(メタ)アクリル樹脂を指す。この(メタ)アクリル樹脂の具体的な態様として、好ましくは(メタ)アクリル樹脂を含むプラスチック材、より好ましくは(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄プラスチック材が挙げられる。仕込み(メタ)アクリル樹脂は、一度に投入してもよいし、仕込み(メタ)アクリル樹脂全体の温度均一性等の観点から、複数回に分けて投入してもよい。複数回に分けて投入する場合、先に投入した分の仕込み(メタ)アクリル樹脂が解重合系温度に到達した時又は到達するまでに、目的の仕込み量まで残りの分の仕込み(メタ)アクリル樹脂を投入する。例えば仕込み(メタ)アクリル樹脂を2回に分けて投入する場合、1回目に投入した分の仕込み(メタ)アクリル樹脂が解重合系温度に到達した時又は到達するまでに、残りの2回目の分の仕込み(メタ)アクリル樹脂を投入する。例えば仕込み(メタ)アクリル樹脂を3回以上に分けて投入する場合、1回目に投入した分の(メタ)アクリル樹脂が解重合系温度に到達した時又は到達するまでに、目的の仕込み量まで、複数回に分けて、順次、目的の仕込み量まで、残りの分の仕込み(メタ)アクリル樹脂を投入する。複数回に分けて残りの分の仕込み(メタ)アクリル樹脂を投入する場合も、1回目に投入した分の仕込み(メタ)アクリル樹脂と2回目以降に投入した分の仕込み(メタ)アクリル樹脂の全体が解重合系温度に到達した時又は到達するまでに、次の分の仕込み(メタ)アクリル樹脂を投入する。
【0023】
仕込み(メタ)アクリル樹脂としては、具体的には、アクリル酸、メタクリル酸、及びそれらのエステルからなる群より選択される(メタ)アクリルモノマーを構成単位として有するポリマーが挙げられる。アクリル酸エステルとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸ブチル等が挙げられ、メタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル等が挙げられる。仕込み(メタ)アクリル樹脂には、上記(メタ)アクリルモノマーのいずれか1種に由来する構成単位を単独で含まれていてもよいし、上記(メタ)アクリルモノマーの異なる2種以上に由来する構成単位が組み合わされた状態で含まれていてもよい。
【0024】
仕込み(メタ)アクリル樹脂に含まれる(メタ)アクリルモノマー由来の構成単位としては、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、一層好ましくは95重量%以上が挙げられ、最も好ましくは100重量%である。仕込み(メタ)アクリル樹脂が(メタ)アクリルモノマー以外の他のモノマー由来の構成単位を含む場合、他のモノマーとしては、無水マレイン酸、スチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリルからなる群より選択されるモノマーが挙げられる。
【0025】
仕込み(メタ)アクリル樹脂の重量平均分子量としては特に限定されないが、例えば80,000~2,000,000、好ましくは100,000~2,000,000が挙げられる。なお、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により、標準ポリスチレン換算で測定される値である。
【0026】
仕込み(メタ)アクリル樹脂を含む上記プラスチック材において、(メタ)アクリル樹脂の配合割合としては特に限定されないが、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、一層好ましくは95重量%以上が挙げられる。また、(メタ)アクリル樹脂を含む上記プラスチック材に含まれる樹脂中、(メタ)アクリル樹脂が占める割合としては特に限定されないが、好ましくは70重量%以上、より好ましくは80重量%以上、さらに好ましくは90重量%以上、一層好ましくは95重量%以上、最も好ましくは100重量%である。(メタ)アクリル樹脂を含む上記プラスチック材において、樹脂以外に含まれてよい添加成分としては、染料、顔料、無機フィラー等が挙げられる。
【0027】
仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量としては特に限定されない。一方、本発明の製造方法は、解重合系を均一性高く加熱し、系内部にまで効率的にマイクロ波を到達しやすくすることができるため、元来、解重合系の加熱が不均一になりやすく系内部にマイクロ波が到達しにくくなる問題が顕著になる大スケールの解重合系であっても、本発明の効果を良好に得ることができる。このような観点から、本発明の一形態における仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量の好ましい例としては、2.5kg以上、2.8kg以上、kg以上、又は3.2kg以上、より好ましくは50kg超、さらに好ましくは80kg以上、一層好ましくは100kg以上が挙げられる。本発明における仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量の上限としては特に限定されないが、例えば2000kg以下又は1000kg以下が挙げられる。なお、仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量は、仕込み(メタ)アクリル樹脂を複数回に分けて投入する場合にあっては、1回目から当該複数回目の分までの仕込み(メタ)アクリル樹脂の総量(つまり、目的の仕込み量)をいう。仕込み(メタ)アクリル樹脂を複数回に分けて投入する場合の好ましい仕込み量としては、50kg超が挙げられる。この場合、1回目の分の投入量を50kg以下とし、その後、目的の仕込み量まで適宜残りの仕込み(メタ)アクリル樹脂を投入することができる。
【0028】
仕込み(メタ)アクリル樹脂にマイクロ波を照射することにより、樹脂が加熱されて溶融し、さらに解重合温度に達すると、マイクロ波が照射された箇所で解重合が部分的に進行することで、(メタ)アクリル樹脂の溶融物中に低分子化(メタ)アクリル樹脂(すなわち、仕込み(メタ)アクリル樹脂よりも分子量が小さい(メタ)アクリル樹脂)が生じ、混合操作により溶融物中に分散される。
【0029】
工程1におけるマイクロ波の照射出力としては、仕込み(メタ)アクリル樹脂を、その解重合が進行する温度に加熱できる出力が適宜選択される。工程2において(メタ)アクリル樹脂の解重合を進行させる温度としては、例えば280℃以上、具体的には300~390℃、好ましくは320~390℃、より好ましくは325~370℃、さらに好ましくは330~360℃、一層好ましくは335~350℃が挙げられる。
【0030】
工程1において解重合系へ照射するマイクロ波の具体的な照射出力については、設定温度及び仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量等に応じて適宜設定すればよいが、実効出力(入射波(kW)から反射波(kW)を差し引いた値)で、例えば1kW以上、好ましくは1.2kW以上、より好ましくは1.5kW以上が挙げられる。当該照射出力(実効出力)の上限としては特に限定されないが、例えば200kW以下が挙げられる。
【0031】
工程1において解重合系へ照射するマイクロ波の周波数としては、特に限定されないが、例えば0.8~6GHzが挙げられる。マイクロ波を溶融物内部まで到達させることをより容易とする観点から、当該周波数としては、好ましくは0.8~2.5GHz、より好ましくは0.8~1.5GHz、さらに好ましくは0.8~1GHz又は0.9~0.95GHzが挙げられる。なお、本発明の製造方法では、マイクロ波を溶融物内部まで到達させることができるため、本来的には深く浸透させる点で有利ではない2.5GHz超6GHz以下又は1.5GHz超6GHz以下、特に4~6GHzといった周波数のマイクロ波を用いても、マイクロ波を溶融物内部まで到達させることが可能である。
【0032】
工程1における混合の方法としては特に限定されず、例えば撹拌子にて混合する方法、溶融物を収容している容器自体を回転させる方法、それらの方法の両方を組み合わせる方法等が挙げられる。混合の程度としては、溶融物の組成が均一になる程度であればよい。
【0033】
工程1により得られる溶融物は、解重合温度において仕込み(メタ)アクリル樹脂よりもマイクロ波吸収能が低い成分を含む。当該マイクロ波吸収能が低い成分は、仕込み(メタ)アクリル樹脂溶融物へのマイクロ波照射により生じる成分であって具体的には定かではないが、可能性として、上記の低分子化(メタ)アクリル樹脂、及び/又は、当該低分子化(メタ)アクリル樹脂以外の副生成物(例えば、(メタ)アクリルモノマーへ変換されない、最終的に残渣として残る成分)が考えられる。解重合温度において仕込み(メタ)アクリル樹脂よりもマイクロ波吸収能が低い成分の存在の確認は、当該確認をすべき溶融物と、仕込み(メタ)アクリル樹脂とについて、同じ温度(但し解重合温度範囲内)で複素誘電率の実部及び複素誘電率の虚部を測定し、さらにそれらに基づいてマイクロ波の電力半減深度を算出することで行うことができる。
【0034】
3.工程2
工程2においては、工程1で得られた溶融物に、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加して混合し、当該溶融物中に追加の(メタ)アクリル樹脂を含む溶融混合物を得る。
【0035】
工程2において、「追加の(メタ)アクリル樹脂を添加して混合し」には、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加しながら混合する態様と、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加した後に混合する態様とを含む。
【0036】
工程1で得られた溶融物は、解重合温度において仕込み(メタ)アクリル樹脂に比べてマイクロ波吸収能が低い成分を含んでいるため、溶融物自体が、解重合温度において仕込み(メタ)アクリル樹脂に比べてマイクロ波吸収能が低くなっている。工程2では、マイクロ波吸収能が低くなっている溶融物に、追加の(メタ)アクリル樹脂を添加して混合し、溶融物中に分散させることで、溶融混合物の内部までマイクロ波を到達させることができる。
【0037】
なお、本発明において工程2で添加するものとして規定する「追加の(メタ)アクリル樹脂」は、仕込み(メタ)アクリル樹脂の溶融物に比べてマイクロ波吸収能が低くなっている溶融物に添加するものであるが、工程2で添加する「追加の(メタ)アクリル樹脂」とは別に、工程2以外の工程で別の追加の(メタ)アクリル樹脂を添加することも許容する。工程2以外の工程で「別の追加の(メタ)アクリル樹脂」を添加する態様としては、工程1で「解重合温度において前記仕込み(メタ)アクリル樹脂よりもマイクロ波吸収能が低い成分を含む溶融物」を得る前のタイミングで1回又は複数回の「別の追加の(メタ)アクリル樹脂」を添加する態様が挙げられる。
【0038】
追加の(メタ)アクリル樹脂の具体的な態様として、好ましくは(メタ)アクリル樹脂を含むプラスチック材、より好ましくは(メタ)アクリル樹脂を含む廃棄プラスチック材が挙げられる。
【0039】
追加の(メタ)アクリル樹脂の種類、(メタ)アクリルモノマー由来の構成単位の含有比率、他のモノマーの種類、及び重量平均分子量としては、仕込み(メタ)アクリル樹脂について述べた例示から選択することができる。また、追加の(メタ)アクリル樹脂を含むプラスチック材中の(メタ)アクリル樹脂の配合割合、樹脂以外に含まれてよい添加成分についても、仕込み(メタ)アクリル樹脂を含むプラスチック材を含むプラスチック材について述べた例示から選択することができる。追加の(メタ)アクリル樹脂又はそれを含むプラスチック材は、仕込み(メタ)アクリル樹脂又はそれを含むプラスチック材と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0040】
追加の(メタ)アクリル樹脂の具体的な性状としては、固体であってもよいし、溶融状態であってもよい。
【0041】
また、追加の(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル樹脂の解重合系の不均一性をより一層抑制し、溶融物全体でより一層効率的に解重合を進行させる観点から、解重合温度に供された熱履歴を有しないものであることが好ましい。つまり、当該観点からは、追加の(メタ)アクリル樹脂は、いったん解重合系に供されていたものが再投入されるのではなく、解重合系に供されていないものが新たに投入されることが好ましい。
【0042】
追加の(メタ)アクリル樹脂の添加のタイミング及び添加量(1回当たり)の具体例については、好ましくは、仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量100重量部当たり、20重量部以下、さらに好ましくは1~20重量部、より好ましくは2~18重量部、一層好ましくは3~15重量部が減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を添加することが挙げられる。
【0043】
より具体的には、仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量が1kg以上50kg未満である場合、当該仕込み量100重量部から1~15重量部、好ましくは3~15重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましく;仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量が50kg以上80kg未満である場合、当該仕込み量100重量部から1~5重量部、好ましくは2.5~5重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましく;仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量が80kg以上400kg未満の場合、当該仕込み量100重量部から1~4重量部、好ましくは2~4重量部、より好ましくは3~4重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましく;仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量が400kg以上の場合、当該仕込み量100重量部から1~3重量部、好ましくは1.5~3重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましい。
【0044】
工程2は、マイクロ波を照射せずに又はマイクロ波を照射しながら行うことができるが、製法上の制御の煩雑さを回避する観点から、好ましくはマイクロ波を照射しながら行うことができる。
【0045】
工程2における温度は、追加の(メタ)アクリル樹脂が少なくとも溶融する温度であればよく、また、工程1で挙げた、解重合が進行可能な温度であってもよい。製法上の制御の煩雑さを回避する観点から、工程1と同じ温度条件とすることができる。温度制御は、マイクロ波の照射により行うことができる。
【0046】
工程2における混合の方法としては特に限定されず、例えば撹拌子にて混合する方法、溶融混合物を収容している容器自体を回転させる方法、それらの方法の両方を組み合わせる方法等が挙げられる。混合の程度としては、溶融混合物の組成が均一になる程度、つまり、追加の(メタ)アクリル樹脂が溶融物混合物中で均一に分散される程度であればよい。
【0047】
4.工程3
工程3においては、工程2で得られた溶融混合物にマイクロ波を照射して混合し、(メタ)アクリルモノマーを得る。
【0048】
工程3において、「マイクロ波を照射して混合し」には、マイクロ波を照射しながら混合する態様と、マイクロ波を照射した後に混合する態様とを含む。
【0049】
工程2で得られた溶融混合物中には、溶融混合物表面における局所的なマイクロ波吸収が抑制され内部までマイクロ波が到達可能になった状態の溶融物中に追加の(メタ)アクリル樹脂が分散されているため、溶融物全体で解重合反応を進行させることができると考えられる。なお、追加の(メタ)アクリル樹脂については、仕込み(メタ)アクリル樹脂に遅れて時間差で解重合が進行する。また、工程3は混合しながら行うため、局所的に過剰に加熱される部位が生じることも抑制されることで、回収モノマー中の不所望の副生成物を低減させることができる。
【0050】
工程3におけるマイクロ波の照射出力としては、解重合が進行可能な温度に加熱できる出力が適宜選択される。工程3において解重合を進行させる温度としては、例えば280℃以上、具体的には300~390℃、好ましくは320~390℃が挙げられる。
【0051】
(メタ)アクリルモノマー回収速度をより一層向上させる観点から、工程3において解重合を進行させる温度としては、好ましくは325~390℃、より好ましくは330~390℃、さらに好ましくは335~390℃、一層好ましくは340~390℃、より一層好ましくは345~390℃、特に好ましくは350~390℃が挙げられる。
【0052】
一方、回収モノマー液中の目的の(メタ)アクリルモノマーの純度をより一層向上させる観点から、工程3において解重合を進行させる温度としては、好ましくは320~380℃、より好ましくは320~370℃、さらに好ましくは320~360℃、一層好ましくは320~355℃、より一層好ましくは320~345℃、特に好ましくは320~342℃、最も好ましくは320~340℃が挙げられる。回収モノマー液中の目的の(メタ)アクリルモノマーの純度が向上していることは、回収モノマー液中に占める(メタ)アクリルモノマーの重量割合が増加していること、及び/又は、当該重量割合には反映されにくい場合がある微量成分の量が低減していることによっても確認できる。上記微量成分としては、目視又は彩度測定により確認できる着色成分、及び/又は、クロマトグラフィーにより確認できるイソ酪酸メチル等が挙げられる。
【0053】
製法上の制御の煩雑さを回避する観点から、工程3において解重合を進行させる温度は、工程1及び/又は工程2と同じ温度条件とすることができる。温度制御は、マイクロ波の照射により行うことができる。
【0054】
工程3において解重合系へのマイクロ波の具体的な照射出力については、設定温度及び解重合系のスケール等に応じて適宜設定すればよいが、実効出力(入射波(kW)から反射波(kW)を差し引いた値)で、例えば1kW以上、好ましくは1.2kW以上、より好ましくは1.5kW以上が挙げられる。当該照射出力(実効出力)の上限としては特に限定されないが、例えば200kW以下が挙げられる。
【0055】
工程2において解重合系へ照射するマイクロ波の周波数としては、特に限定されないが、例えば0.8~6GHzが挙げられる。マイクロ波を溶融混合物内部まで到達させることをより容易とする観点から、当該周波数としては、好ましくは0.8~2.5GHz、より好ましくは0.8~1.5GHz、さらに好ましくは0.8~1GHz又は0.9~0.95GHzが挙げられる。なお、本発明の製造方法では、マイクロ波を溶融混合物内部まで到達させることができるため、本来的には深く浸透させる点で有利ではない2.5GHz超6GHz以下又は1.5GHz超6GHz以下、特に4~6GHzといった周波数のマイクロ波を用いても、マイクロ波を溶融混合物内部まで到達させることが可能である。
【0056】
工程3における混合の方法としては特に限定されず、例えば撹拌翼にて混合する方法、溶融混合物を収容している容器自体を回転させる方法、それらの方法の両方を組み合わせる方法等が挙げられる。混合の程度としては、溶融混合物の組成が均一になる程度であればよい。
【0057】
5.工程2及び工程3の繰り返し
工程2及び工程3を繰り返す形態においては、局所的なマイクロ波吸収が抑制され内部までマイクロ波が到達可能になった状態の溶融物中に、追加の(メタ)アクリル樹脂を含む溶融混合物が分散した状態を更新し続けることができる。すなわち、工程2及び工程3を繰り返す形態においては、均一且つ系内部にまで効率的にマイクロ波を到達できる解重合を維持できるため溶融物全体で解重合対象の新陳代謝が終始効率的に起こり、解重合系が大スケールであっても効率的な解重合が可能となる。
【0058】
工程2及び工程3を繰り返す形態において、再び追加の(メタ)アクリル樹脂を添加する工程2のタイミングとしては特に限定されない。
【0059】
例えば、再び追加の(メタ)アクリル樹脂を添加する工程2のタイミングとしては、先行する工程2で添加した追加の(メタ)アクリル樹脂に相当する量のモノマーが回収されたタイミング、具体的には、n回目の工程2で仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量100重量部当たりx重量部の追加の(メタ)アクリル樹脂を添加した場合、当該x重量部におおよそ相当する重量のモノマーが液化され回収されたタイミングで、(n+1)回目の工程2として、仕込み(メタ)アクリル樹脂の仕込み量100重量部当たりx重量部の追加の(メタ)アクリル樹脂を再び添加することができる。
【0060】
また、例えば、容器内の温度制御の精度を向上させ、所望の解重合温度で分解を進行させることをより容易にする観点から、再び追加の(メタ)アクリル樹脂を添加する工程2のタイミング及び追加添加量としては、前回の追加の(メタ)アクリル樹脂を添加した時の容器内の(メタ)アクリル樹脂の総量を100重量部とした場合、当該総量100重量部から1~20重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましい。より具体的には、前回の追加の(メタ)アクリル樹脂を添加した時の容器内の(メタ)アクリル樹脂の総量が1kg以上50kg未満である場合、当該総量100重量部から1~15重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましく;前回の追加の(メタ)アクリル樹脂を添加した時の容器内の(メタ)アクリル樹脂の総量が50kg以上80kg未満である場合、当該総量100重量部から1~5重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましく;前回の追加の(メタ)アクリル樹脂を添加した時の容器内の(メタ)アクリル樹脂の総量が80kg以上400kg未満の場合、当該総量100重量部から1~4重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましく;前回の追加の(メタ)アクリル樹脂を添加した時の容器内の(メタ)アクリル樹脂の総量が400kg以上の場合、当該総量100重量部から1~3重量部減少したタイミングで、当該減少量に相当する量の追加の(メタ)アクリル樹脂を補充することが好ましい。
【0061】
6.(メタ)アクリルモノマー製造装置
本発明の(メタ)アクリルモノマーの製造方法に用いることができる装置の構成としては、上記の工程1~3の実施を可能とする構成を有していれば特に限定されるものではない。
【0062】
本発明の(メタ)アクリルモノマーの製造方法に用いることができる装置の一例を図1に示す。図1に示す装置は、解重合反応の場を提供する容器10と;容器10内部の反応溶融物を撹拌翼211,212にて撹拌するための撹拌装置20と;容器10内部に連通するように設けられ気密窓31で封止された、マイクロ波をR1方向に入射するための導波管30と;容器10内部に連通するように設けられた、容器10内へ(R2方向に)追加添加するプラスチック材を収容するための容器40と;容器10内の反応溶融物の温度を測定するための温度計50と;容器10内部に連通するように設けられた、容器10内で気化したモノマーをフレキホース61を介して冷却するための冷却装置60(具体的にはスパイラルコンデンサを採用し、チラー設定温度は0℃とした。)と;冷却装置60で冷却された液化モノマーを回収する容器70とを含む。図1の例では、容器10の底部は丸底(深さ方向に凸となる湾曲形状の皿状)形状であり、撹拌翼211,212は両側パドル形状(但し、一方側のパドルと他方側のパドルとは、撹拌翼211では面方向がいずれも回転軸方向に平行であり、撹拌翼212では面方向が互いに直交するように設けられている)のものが垂直方向(図1の上下方向)に高さを違えて設けられており、且つそれらは垂直方向視で直交するように設けられている。下部の撹拌翼211は水平方向視で底部内壁形状に沿った形状をなしていることにより、効率的な撹拌を可能にしている一方、上部の撹拌翼211は任意形状(例えば矩形平板形状)をなしている。
【0063】
本発明の(メタ)アクリルモノマーの製造方法に用いることができる装置の他の一例を図2に示す。図2に示す装置は、少なくとも容器10a及び撹拌翼211aの形状が図1の示す装置と異なる。容器10aは、側壁が逆円錐形の底部を有する。このような底部形状を有することで、容器10aは、図1の装置における容器10に比べて、底部(先端部)に電荷が集まり、その付近で電界強度が高くなるため、マイクロ波をより深部まで浸透しやすく、さらに均一な反応を行うことができる。
【実施例0064】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0065】
[実施例1]
(1)プラスチック材
解重合に供する(メタ)アクリル樹脂を含む上記プラスチック材として、ポリメタクリル酸メチル(以下において、PMMAとも記載する。)を用いた。このPMMAは、メタクリル酸メチル(MMA)とアクリル酸メチル(MA)とが、MMA:MA=98:2(重量比)で重合したポリマーであり、重量平均分子量は114,190(GPC法により、展開溶媒テトラヒドロフラン、標準ポリスチレン換算で測定)であった。このプラスチック材は、PMMA100%で構成されている。また、このプラスチック材は、仕込み(メタ)アクリル樹脂及び追加の(メタ)アクリル樹脂として用いた。
【0066】
(2)モノマー製造装置
プラスチック材からのモノマー製造に用いた装置の概略図を図1に示す。当該装置は、解重合反応の場を提供する容器10と;容器10内部の反応溶融物を撹拌翼211,212にて撹拌するための撹拌装置20と;容器10内部に連通するように設けられ気密窓31で封止された、マイクロ波をR1方向に入射するための導波管30と;容器10内部に連通するように設けられた、容器10内へ(R2方向に)追加添加するプラスチック材を収容するための容器40と;容器10内の反応溶融物の温度を測定するための温度計50と;容器10内部に連通するように設けられた、容器10内で気化したモノマーをフレキホース61を介して冷却するための冷却装置60(具体的にはスパイラルコンデンサを採用し、チラー設定温度は0℃とした。)と;冷却装置60で冷却された液化モノマーを回収する容器70とを含む。容器10の底部は丸底(深さ方向に凸となる湾曲形状の皿状)形状であり、撹拌翼211,212は両側パドル形状(但し、一方側のパドルと他方側のパドルとは、撹拌翼211では面方向がいずれも回転軸方向に平行であり、撹拌翼212では面方向が互いに直交するように設けられている)のものが垂直方向(図1の上下方向)に高さを違えて設けられており、且つそれらは垂直方向視で直交するように設けられている。下部の撹拌翼211のパドルは水平方向視で底部内壁形状に沿った形状をなし、上部の撹拌翼211のパドルは矩形平板形状をなしている。
【0067】
(3)操作手順
空の容器10にPMMA(1回目の分の仕込みPMMA)2.8kgを投入し、撹拌装置20にて撹拌しながら、マイクロ波発振器(図示省略)で生じさせたマイクロ波(周波数2.45GHzのマイクロ波。以下において同様。)を、導波管30を伝って容器10内のPMMAに入射し、PMMAを溶融状態とした。温度計50で温度を計測しながら撹拌及びマイクロ波の照射を継続し、340℃まで昇温させた。撹拌及びマイクロ波の照射を継続しながら、容器40から、PMMA(2回目の分の仕込みPMMA)0.4kgを容器10内に添加した。容器10内で生じたモノマーガスは、フレキホース61を介して冷却装置60で冷却して液化し、容器70に回収した。撹拌及びマイクロ波の照射を継続しながら、容器70に回収されたモノマーの重量が約0.4kg増えるごとに、容器40から、PMMA(追加のPMMA)を約0.4kgずつ添加する操作を繰り返した。容器70に回収されたモノマーは、追加のPMMAを添加するタイミングで約0.4kgごとに取り出し(分取し)、後述の(5)の解析を行った後、プールした。追加のPMMAを添加する操作は、おおよそ10分に1回の頻度で行い、仕込みPMMAの溶融から約300分の時点まで継続させた。追加PMMAの添加合計量は、11.2kgであった。終始、マイクロ波を照射する間、撹拌も継続することで、容器10内の反応溶融物の温度を均一に保ち、且つ、反応溶融物の内部までマイクロ波を到達させやすくした。解重合中、マイクロ波の実効出力は、1.5~2.3kW(平均1.7kW)であった。また、仕込みPMMAの溶融から約300分の時点まで、追加のPMMAの添加がおおよそ10分に1回のほぼ一定の頻度であったため、終始良好な反応効率が保たれていた。
【0068】
(4)分解率の分析
仕込みPMMAと追加PMMAの合計量との総重量をA(g)、容器10中の残渣重量をR(g)とした場合の分解率(%)つまり(A-R)/R×100を算出した。本実施例による分解率は、80.4%であった。
【0069】
(5)回収物の分析
容器70に回収したモノマー液を、1.0重量%の濃度となるようにアセトン溶剤にて100倍希釈し、得られた希釈液をガスクロマトグラフ(GC-FID、島津製作所製GC-2010)による絶対検量線法に供し、回収したモノマー液中のメタクリルモノマー(メタクリル酸メチル;MMA)の含有量を測定した。容器70に回収したモノマー液中のMMAの含有量のうち、最初に回収(分取)したモノマー液については、MMAの含有量は99.19重量%であった。分解が進むにつれて、容器70に回収(分取)したモノマー液中のMMAの含有量は減少し、分解率80.4%の時点で容器70に回収(分取)したモノマー液においては、MMAの含有量は96.35重量%であった。
【0070】
さらに、上記の希釈液を用いたGC分析において、容器70に回収したモノマー液中の副生成物の1つであるイソ酪酸メチル(MIBA)のピークの面積値を、MIBA含有量として読み取った。容器70に回収したモノマー液中のMIBA含有量のうち、最初に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量はピークの面積値で625であった。分解が進むにつれて、容器70に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量は増加し、分解率80.4%の時点で容器70に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量は、ピークの面積値で1,184であった。
【0071】
また、分解率80.4%まで解重合を行って得られた残渣0.40gを用い、以下の測条件に供し、複素誘電率の実部e'及び複素誘電率の虚部e''並びにそれらから導出されるマイクロ波の電力半減深度を計算した。結果を表1に示す。表1においては、仕込みPMMAについても同条件で測定した結果を対比して示した。なお、残渣の重量平均分子量は、27,263であった。
【0072】
(測定条件)
使用機器: 空洞共振器 (凌和電子)
周波数: 915MHz
測定温度: 340℃
石英管: f 10 mm × 8 mm
2: 100 mL/min
【0073】
【表1】
【0074】
表1に示されるように、解重合により生じた残渣成分は、仕込みPMMAに比べて複素誘電率の虚部e''が低く、マイクロ波の電力半減深度が深くなっていることが確認された。このことから、解重合系に繰り返し添加した追加のPMMAのうち、いずれかの追加のPMMAを添加したタイミングから、溶融物がこのようなマイクロ波浸吸収能の低い残渣成分を溶融物中に蓄積することで溶融物自体のマイクロ波吸収能が低下しており、これによって、溶融物に対してマイクロ波を深く浸透させることが可能になり、解重合系の不均一性が抑制され、効率的な解重合が可能になったと合理的に推認できる。
【0075】
[実施例2]
実施例1と同様の材料及び装置を用い、且つ、実施例1と同量の仕込みPMMAを同様に仕込み、マイクロ波(周波数2.45GHz)による加熱温度を350℃、解重合中のマイクロ波の実効出力を2.1~2.5kW(平均2.2kW)、追加のPMMA(1回当たり0.4kg)を添加する操作をおおよそ8分に1回の頻度で行い、仕込みPMMAの溶融から約250分の時点まで継続させ、追加PMMAの添加合計量を12.8kgとしたことを除いて実施例1と同じ操作を行った。実施例1と同様に、分解率及び回収物の分析を行った。なお、容器10内の反応溶融物の温度を均一に保ち、且つ、反応溶融物の内部までマイクロ波を到達させやすくした。また、仕込みPMMAの溶融から約250分の時点まで、追加のPMMAの添加がおおよそ8分に1回のほぼ一定の頻度であったため、終始良好な反応効率が保たれていた。
【0076】
本実施例による分解率は80.0%であった。容器70に回収したモノマー液中のMMAの含有量のうち、最初に回収(分取)したモノマー液については、MMAの含有量は98.81重量%であった。分解が進むにつれて、容器70に回収(分取)したモノマー液中のMMAの含有量は減少し、分解率80.0%の時点で容器70に回収(分取)したモノマー液においては、MMAの含有量は95.34重量%であった。さらに、最初に回収したモノマー液から分解率80.0%の時点で回収したモノマー液の全てを総合した場合、MMAの含有量の平均は97.26重量%であった。
【0077】
容器70に回収したモノマー液中のMIBA含有量のうち、最初に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量は672であった。分解が進むにつれて、容器70に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量は増加し、分解率80.0%の時点で容器70に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有対量は、1,475であった。さらに、最初に回収したモノマー液から分解率80.0%の時点で回収したモノマー液の全てを総合した場合、MIBA含有量の平均は1,063であった。
【0078】
[実施例3]
実施例2で、仕込みPMMAの溶融から約250分の時点まで追加PMMAを添加し続けた後、撹拌及びマイクロ波(周波数2.45GHz)照射を続けながら追加PMMAを添加することなく、分解率95.4%となるまで解重合を続けた。実施例1と同様に、分解率及び回収物の分析を行った。
【0079】
本実施例による分解率95.4%の時点で容器70に回収(分取)したモノマー液中のMMAの含有量は78.28重量%であった。さらに、最初に回収したモノマー液から分解率95.4%の時点で回収したモノマー液の全てを総合した場合、MMAの含有量の平均は96.25重量%であった。
【0080】
本実施例による分解率95.4%の時点で容器70に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量は、24,916であった。さらに、最初に回収したモノマー液から分解率95.4%の時点で回収したモノマー液の全てを総合した場合、MIBA含有量の平均は1778であった。
【0081】
[実施例4]
空の容器10に実施例1と同様の材料であるPMMA(1回目の分の仕込みPMMA)50kgを投入し、撹拌装置20にて撹拌しながら、マイクロ波発振器(図示省略)で生じさせたマイクロ波(周波数915MHzのマイクロ波。)を、導波管30を伝って容器10内のPMMAに入射し、PMMAを溶融状態とした。温度計50で温度を計測しながら撹拌及びマイクロ波の照射を継続し、350℃まで昇温させた。撹拌及びマイクロ波の照射を継続しながら、容器40から、PMMA40kg(2回目の分の仕込みPMMA)を容器10内に添加し、仕込みPMMAの総量を90kg(目的の仕込み量)とした。容器10内で生じたモノマーガスは、フレキホース61を介して冷却装置60で冷却して液化し、容器70に回収した。撹拌及びマイクロ波の照射を継続しながら、容器70内のPMMAの重量が約3kg減少するごとに、容器40から、PMMA(追加のPMMA)を減少量に相当する約3kgずつ添加する操作を繰り返した。容器70に回収されたモノマーは、約40kg溜まるごとに取り出し(分取し)、前述の(5)の解析を行った後、プールした。追加のPMMAを添加する操作は、おおよそ5分に1回の頻度で行い、仕込みPMMAの溶融から約360分の時点まで継続させた。追加PMMAの添加合計量は、250kgであった。終始、マイクロ波を照射する間、撹拌も継続することで、容器10内の反応溶融物の温度を均一に保ち、且つ、反応溶融物の内部までマイクロ波を到達させやすくした。解重合中、マイクロ波の実効出力は、20~24kW(平均22kW)であった。また、仕込みPMMAの溶融から約360分の時点まで、追加のPMMAの添加がおおよそ5分に1回のほぼ一定の頻度であったため、終始良好な反応効率が保たれていた。また、実施例1と同様に、分解率及び回収物の分析を行った。
【0082】
本実施例による分解率は、95.1%であり、容器70に回収したモノマー液中のMMAの含有量のうち、最初に回収(分取)したモノマー液については、MMAの含有量は91.67重量%であった。分解が進むにつれて、容器70に回収(分取)したモノマー液中のMMAの含有量は減少し、分解率95.1%の時点で容器70に回収(分取)したモノマー液においては、MMAの含有量は89.46重量%であった。
【0083】
本実施例によって容器70に回収したモノマー液中のMIBA含有量のうち、最初に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量は0.06重量%であった。分解が進むにつれて、容器70に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量は増加し、分解率95.1%の時点で容器70に回収(分取)したモノマー液中のMIBA含有量は、0.14重量%であった。
【0084】
[まとめ]
上記実施例1~4の諸条件及び結果を下記表2に示す。
【0085】
【表2】
【0086】
実施例1~4に示される通り、追加PMMAを投入しながらマイクロ波加熱によりPMMAを解重合することで、高いモノマー回収率が達成された。また、解重合終了時までコンスタントに追加PMMAを投入した実施例2と対比した、追加PMMAを投入しない解重合工程をさらに行った実施例3に示されるように、追加PMMAを投入しない解重合工程を付加することで、PMMA分解は進むものの副生成物の量が多くなった。つまり、追加PMMAを投入しながらマイクロ波加熱によるPMMA解重合を行うことにより、PMMAの解重合系の不均一性を抑制し、且つ系内部にまで効率的にマイクロ波を到達しやすくなった結果、副生成物の生成を抑制し、目的生成物の収量を向上させることができることが判った。なお、追加PMMAを投入しながらマイクロ波加熱によりPMMAを解重合する工程を行うことによる効果がこのように各段に優れているため、比較例3に示されるように、追加PMMAを投入しない解重合工程をさらに付加したとしても、全体としては(実施例2には及ばないものの)目的生成物の優れた収率が達成できており、また、実施例4に示されるように、反応スケールを極端に増大させても、当該反応スケールの割に副生成物が極めて定量に抑えられ且つ目的生成物の優れた収量が達成できていた。
【0087】
[実施例5]
実施例1と同様の材料を用い、且つ、容器を100mL容量の容器、仕込みPMMAの量を10g、追加のPMMAの添加量を1回当たり1g、添加回数を合計100回とし、マイクロ波(周波数915MHz)による解重合のための加熱温度を、350℃(添加回数1~60回時点)、375℃(添加回数61~90回時点)、360℃(添加回数91~100回時点)の順で変遷させたことを除いて、実施例1と同じ操作を行った。添加回数40回、50回、及び60回の時点;添加回数70回、80回、及び90回の時点;並びに、添加回数100回の時点でそれぞれ容器70に回収(分取)したモノマー液について、以下のようにして彩度c*を測定した。
【0088】
容器70に回収したモノマー液を、1cm石英セルを用い、紫外可視赤外分光光度計(日本分光社製、V-600)による測定に供し、色度値(L***)を測定した。黄色の着色度は以下の式により彩度c*に換算した。彩度c*の値が大きいほど、着色が強い。結果を表3に示す。
【0089】
【数1】
【0090】
【表3】
【0091】
表3から明らかな通り、解重合温度が375℃の場合に比べて、360℃の場合に、顕著な彩度の減少が認められた。さらに、360℃の場合に比べて、350℃の場合にも彩度の減少が認められた。つまり、375℃、360℃及び350℃の順に着色が少なくなることが認められたため、この順で、着色に係る副成分の生成が抑制されることが認められた。
図1
図2