(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099821
(43)【公開日】2023-07-13
(54)【発明の名称】選択的スプライシングのアプタマー媒介性調節による遺伝子発現の調節
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20230706BHJP
C12N 15/115 20100101ALI20230706BHJP
C12N 15/86 20060101ALI20230706BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12N15/115 Z
C12N15/86 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086977
(22)【出願日】2023-05-26
(62)【分割の表示】P 2021069174の分割
【原出願日】2016-02-02
(31)【優先権主張番号】62/110,919
(32)【優先日】2015-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】517271175
【氏名又は名称】メイラグティーエックス ユーケー アイアイ リミティド
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100197169
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 潤二
(72)【発明者】
【氏名】アレックス アール.ボイン
(72)【発明者】
【氏名】エフ.オリビア ダノス
(72)【発明者】
【氏名】ジェイ.マイケル フォレス
(72)【発明者】
【氏名】シュエツゥイ グオ
(57)【要約】
【課題】プラットフォーム、そして、アプタマーリガンド(例えば、小分子)への曝露を使用して標的遺伝子の発現を調節するために該プラットフォームの提供。
【解決手段】標的遺伝子の発現を調節するためのポリヌクレオチドカセットであって、
a.リボスイッチ、
b.5’イントロンと3’イントロンに隣接する、選択的にスプライスされるエクソンを含み、
ここで、前記リボスイッチが、(i)前記3’イントロンの5’スプライス部位を含むステムを含むエフェクター領域、及び(ii)アプタマーを含み、
ここで、前記選択的にスプライスされるエクソンが、標的遺伝子mRNAへスプライスされるとき、前記選択的にスプライスされるエクソンが、標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含む、ポリヌクレオチドカセットの提供。
【選択図】
図1a
【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的遺伝子の発現を調節するためのポリヌクレオチドカセットであって、
a.リボスイッチ、
b.5’イントロンと3’イントロンに隣接する、選択的にスプライスされるエクソンを含み、
ここで、前記リボスイッチが、(i)前記3’イントロンの5’スプライス部位を含むステムを含むエフェクター領域、及び(ii)アプタマーを含み、
ここで、前記選択的にスプライスされるエクソンが、標的遺伝子mRNAへスプライスされるとき、前記選択的にスプライスされるエクソンが、標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含む、ポリヌクレオチドカセット。
【請求項2】
前記アプタマーが、小分子リガンドに結合する、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項3】
前記5’及び3’イントロンが、前記標的遺伝子からの内在性イントロンに由来する、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項4】
前記5’及び3’イントロンが、前記標的遺伝子にとって外来性である、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項5】
前記5’及び3’イントロンが、ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロン2に由来する、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項6】
前記5’イントロンが、前記標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含む、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項7】
前記5’及び3’イントロンが、それぞれ独立に、約50~約300ヌクレオチドの長さである、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項8】
前記5’及び3’イントロンがそれぞれ独立に、約125~約240ヌクレオチドの長さである、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項9】
前記エフェクター領域ステムが、約7~約20塩基対の長さである、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項10】
前記エフェクター領域ステムが、8~11塩基対の長さである、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項11】
前記選択的にスプライスされるエクソンが、ヒトジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子のエクソン2、変異ヒトWilms腫瘍1エクソン5、マウスカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIIデルタエクソン16、又はSIRT1エクソン6から成る群に由来する、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項12】
前記選択的にスプライスされるエクソンが、配列番号15のヒトDHFRからの改変エクソン2である、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項13】
前記選択的にスプライスされるエクソンが、合成されたものである、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項14】
前記選択的にスプライスされるエクソンが、エクソンスプライスエンハンサーの配列を変更すること、エクソンスプライスサイレンサーの配列を変更すること、エクソンスプライスエンハンサーを加えること、及びエクソンスプライスサイレンサーを加えることから成る群の1若しくは複数によって改変された、請求項1に記載のポリヌクレオチドカセット。
【請求項15】
標的遺伝子の発現を調節する方法であって、
a.標的遺伝子内に請求項1~14のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドカセットを挿入し、
b.細胞内にポリヌクレオチドカセットを含む前記標的遺伝子を導入し、そして
c.前記標的遺伝子の発現の誘導に有効な量でアプタマーに特異的に結合する小分子リガンドに前記細胞を晒すこと、
を含む方法。
【請求項16】
前記ポリヌクレオチドカセットが、前記標的遺伝子のタンパク質コード領域内に挿入される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記標的遺伝子の発現が、前記小分子リガンドが不存在であるときの発現レベルに比べて、前記小分子リガンドが存在しているときに、約5倍よりも高い、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
前記標的遺伝子の発現が、前記小分子リガンドが不存在であるときの発現レベルに比べて、前記小分子リガンドが存在しているときに、約10倍よりも高い、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
2以上のポリヌクレオチドカセットが、前記標的遺伝子内に挿入される、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
前記2以上のポリヌクレオチドカセットが、異なった小分子リガンドに特異的に結合する異なるアプタマーを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記2以上のポリヌクレオチドカセットが、同じアプタマーを含む、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリヌクレオチドカセットを含む前記標的遺伝子が、前記標的遺伝子の発現のためにベクターに組み込まれる、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
前記ベクターが、ウイルスベクターである、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターから成る群から選択される、請求項22に記載の方法。
【請求項25】
哺乳動物の眼内において標的遺伝子の発現を調節する方法であって、
a.(i)リボスイッチ及び(ii)5’イントロン及び3’イントロンに隣接する選択的にスプライスされるエクソンを含むポリヌクレオチドカセット、を包含する標的遺伝子を含むベクターを眼内に導入し、ここで、前記リボスイッチが、前記3’イントロンの5’スプライス部位を含むステムを含むエフェクター領域と、小分子リガンドに結合するアプタマーとを含み、ここで、前記選択的にスプライスされるエクソンが、前記標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含み、そして、
b.前記標的遺伝子の発現の誘導に有効な量で小分子リガンドを前記哺乳動物に提供すること、
を含む方法。
【請求項26】
前記ベクターが、眼内注射によって眼内に導入される、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記ベクターが、ウイルスベクターである、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターから成る群から選択される、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記ポリヌクレオチドカセットが、前記標的遺伝子のタンパク質コード配列内に配置される、請求項25に記載の方法。
【請求項30】
前記5’及び3’イントロンが、前記標的遺伝子からの内在性イントロンに由来する、請求項25に記載の方法。
【請求項31】
前記5’及び3’イントロンが、前記標的遺伝子にとって外来性である、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記5’及び3’イントロンが、ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロン2、変異ヒトWilms腫瘍1エクソン5、マウスカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIIデルタエクソン16、又はSIRT1エクソン6から成る群に由来する、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記5’イントロンが、前記標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記5’及び3’イントロンが、それぞれ独立に、約50~約300ヌクレオチドの長さである、請求項25に記載の方法。
【請求項35】
前記5’及び3’イントロンが、それぞれ独立に、約125~約240ヌクレオチドの長さである、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
前記エフェクター領域ステムが、約7~約20塩基対の長さである、請求項25に記載の方法。
【請求項37】
前記エフェクター領域ステムが、8~11塩基対の長さである、請求項25に記載の方法。
【請求項38】
前記選択的にスプライスされるエクソンが、ヒトジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子のエクソン2に由来する、請求項25に記載の方法。
【請求項39】
前記選択的にスプライスされるエクソンが、エクソンスプライスエンハンサーの配列を変更すること、エクソンスプライスサイレンサーの配列を変更すること、エクソンスプライスエンハンサーを加えること、エクソンスプライスサイレンサーを加えること、から成る群のうちの1若しくは複数によって改変された、請求項25に記載の方法。
【請求項40】
前記選択的にスプライスされるエクソンが、配列番号15からの改変DHFRエクソン2である、請求項25に記載の方法。
【請求項41】
請求項1~14のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドカセットを包含する標的遺伝子を含む組み換えポリヌクレオチド。
【請求項42】
前記ポリヌクレオチドカセットが、前記標的遺伝子のタンパク質コード配列内に配置される、請求項41に記載の組み換えポリヌクレオチド。
【請求項43】
請求項1~14のいずれか1項に記載のポリヌクレオチドカセットを包含する標的遺伝子を含むベクター。
【請求項44】
前記ベクターが、ウイルスベクターである、請求項43に記載のベクター。
【請求項45】
前記ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターから成る群から選択される、請求項44に記載のベクター。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2015年2月2日に出願された米国特許出願第62/110,919号に対する優先権を主張するものであり、それを全体が参照により本明細書中に援用される。
本発明の分野
【0002】
本発明は、プラットフォーム、そして、小分子への曝露を使用して標的遺伝子の発現を調節するために該プラットフォームを使用する方法を提供する。該プラットフォームは、標的遺伝子内に配置され、且つ、5’イントロン-選択的エクソン-3’イントロンに関連して配置された合成リボスイッチを含む、ポリヌクレオチドカセットを特徴とする。該リボスイッチは、エフェクター領域と、リガンド(例えば、小分子)を結合し、そして、リガンドへの曝露によって標的遺伝子発現の制御を提供するアプタマーとを含む。
【背景技術】
【0003】
スプライシングとは、それによって新生プレメッセンジャーRNA(プレmRNA)からイントロン配列が取り除かれ、エクソン同士が一つに結合されて、mRNAを形成するプロセスを指す。スプライス部位は、エクソンとイントロンの間の連結点にあり、イントロンの5’末端と3’末端の異なったコンセンサス配列によって規定される(すなわち、それぞれスプライスドナー部位とスプライスアクセプター部位)。選択的プレmRNAスプライシング、又は選択的スプライシングは、複数のエクソンを含むヒト遺伝子の大部分で起こる広範囲のプロセスである。それは、スプライソソームと呼ばれる多くの多成分系の構造物によって実施され、そしてそれは、小核リボ核タンパク質(snRNP)及び多種多様な補助タンパク質の集合体である。様々なcis調節配列を認識することによって、スプライソソームは、エクソン/イントロン境界を規定し、イントロン配列を取り除いて、そして、エクソンを最終的な翻訳可能メッセージ(すなわち、mRNA)にスプライスする。選択的スプライシングの場合では、最終的にコードするメッセージを変えるために、特定のエクソンが含まれ得るか又は除かれ得ることがあり、それによって、得られる発現タンパク質を変化させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
標的遺伝子(例えば、治療用導入遺伝子(therapeutic transgene))の発現の調節がさまざまな状況で必要である。遺伝子の治療的発現の文脈において、導入遺伝子の調節発現を可能にする技術は、発現レベルとそのタイミングを調節することによって安全性を高める可能性を有する。タンパク質発現を制御するための調節されたシステムは実用的であり、場合によっては、安全、且つ、有効な治療への適用のために極めて重要な役割を担っている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、本発明は、(a)リボスイッチと(b)5’イントロンと3’イントロンに隣接する、選択的にスプライスされるエクソンとを含む、標的遺伝子の発現の調節のためのポリヌクレオチドカセットであって、ここで、該リボスイッチが(i)3’イントロンの5’スプライス部位を含むステムを含むエフェクター領域及び(ii)アプタマーを含み、ここで、該選択的にスプライスされるエクソンが標的遺伝子mRNAへスプライスされたとき、該選択的にスプライスされるエクソンが標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含むものを提供する。一実施形態において、アプタマーは、小分子リガンドに特異的に結合する。
【0006】
一実施形態において、標的遺伝子の発現の調節のためのポリヌクレオチド(「遺伝子調節カセット」「調節カセット」又は「ポリヌクレオチドカセット」)は、標的遺伝子からの内在性イントロンに由来する5’及び3’イントロンを含む。一実施形態において、5’及び3’イントロンは、標的遺伝子にとって外来性である。一実施形態において、5’及び3’イントロンは、ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロン2に由来する。一実施形態において、5’イントロンは、標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含む。一実施形態において、5’及び3’イントロンはそれぞれ独立に、長さが約50~約300ヌクレオチドである。一実施形態において、5’及び3’イントロンはそれぞれ独立に、長さが約125~約240ヌクレオチドである。一実施形態において、5’及び/又は3’イントロンは、イントロンスプライスエンハンサー、イントロンスプライスエンハンサー、5’スプライス部位、3’スプライス部位、若しくは分岐点配列を含むか、又はその配列を変更するように改変された。
【0007】
一実施形態において、リボスイッチのエフェクター領域ステムは、長さが約7~約20塩基対である。一実施形態において、エフェクター領域ステムは、長さが8~11塩基対である。
【0008】
一実施形態において、選択的にスプライスされるエクソンは、ヒトジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(DHFR)のエクソン2、変異ヒトWilms腫瘍1エクソン5、マウスカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIIデルタエクソン16、又はSIRT1エクソン6に由来する。一実施形態において、選択的にスプライスされるエクソンは、配列番号15からの改変DHFRエクソン2である。一実施形態において、選択的にスプライスされるエクソンは、エクソンスプライスサイレンサーの配列を変更すること、エクソンスプライスエンハンサーの配列を変更すること、エクソンスプライスエンハンサーを加えること、及びエクソンスプライスドナーを加えることから成る群のうちの1若しくは複数で改変された。一実施形態において、選択的にスプライスされるエクソンは、合成されたものである(すなわち、天然に存在するエクソンに由来しない)。
【0009】
別の態様において、本発明は、(a)標的遺伝子内に(例えば、上記及び本明細書中に記載の)本発明のポリヌクレオチドカセットを挿入し、(b)細胞内にポリヌクレオチドカセットを含む標的遺伝子を導入し、そして(c)標的遺伝子の発現の誘導に有効な量でアプタマーに特異的に結合する小分子リガンドに該細胞を晒すこと、を含む標的遺伝子の発現を調節する方法を提供する。
【0010】
一実施形態において、標的遺伝子の発現は、小分子リガンドが不存在であるときの発現レベルに比べて、小分子リガンドが存在しているときに、約5倍より高い。一実施形態において、標的遺伝子の発現は、小分子リガンドが不存在であるときの発現レベルに比べて、小分子リガンドが存在しているときに、約10倍より高い。
【0011】
一実施形態において、ポリヌクレオチドカセットは、標的遺伝子のタンパク質コード領域内に挿入される。一実施形態において、2以上のポリヌクレオチドカセットが、標的遺伝子内に挿入される。一実施形態において、2以上のポリヌクレオチドカセットが、異なった小分子リガンドに特異的に結合する異なったアプタマーを含む。別の実施形態において、2以上のポリヌクレオチドカセットが、同じリガンドに特異的に結合する同じアプタマー又は異なったアプタマーを含む。
【0012】
一実施形態において、ポリヌクレオチドカセットを含む標的遺伝子は、標的遺伝子の発現のためにベクターに組み込まれる。一実施形態において、ベクターは、ウイルスベクターである。更なる実施形態において、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターから成る群から選択される。
【0013】
別の態様において、本発明は、哺乳動物の眼内の標的遺伝子の発現を調節する方法であって、(a)(i)リボスイッチ及び(ii)5’イントロン及び3’イントロンに隣接する選択的にスプライスされるエクソンを含むポリヌクレオチドカセットを包含する標的遺伝子を含むベクターを眼内に導入し、ここで、該合成リボスイッチは、3’イントロンの5’スプライス部位を含むステムを含むエフェクター領域、及びリガンドに特異的に結合するアプタマーを含み、ここで、該選択的にスプライスされるエクソンは、その選択的にスプライスされるエクソンが標的遺伝子mRNAへスプライスされるとき、標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含み;そして、(b)標的遺伝子の発現の誘導に有効な量でリガンドを該哺乳動物に提供すること、を含む方法を提供する。一実施形態において、リガンドは小分子である。
【0014】
一実施形態において、ベクターは、眼内注射によって眼内に導入される。一実施形態において、ベクターは、ウイルスベクターである。一実施形態において、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターから成る群から選択される。
【0015】
一実施形態において、眼内の標的遺伝子の発現の調節のためのポリヌクレオチドは、標的遺伝子からの内在性イントロンに由来する5’及び3’イントロンを含む。一実施形態において、5’及び3’イントロンは、標的遺伝子にとって外来性である。一実施形態において、5’及び3’イントロンは、ヒトβ-グロビン遺伝子のイントロン2に由来する。一実施形態において、5’イントロンは、標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含む。一実施形態において、5’及び3’イントロンはそれぞれ独立に、長さが約50~約300ヌクレオチドである。一実施形態において、5’及び3’イントロンはそれぞれ独立に、長さが約125~約240ヌクレオチドである。一実施形態において、5’及び/又は3’イントロンは、イントロンスプライスエンハンサー、イントロンスプライスエンハンサー、5’スプライス部位、3’スプライス部位、又は分岐点配列を含むか、又はその配列を変更するように改変された。一実施形態において、リボスイッチのエフェクター領域ステムは、長さが約7~約20塩基対である。一実施形態において、エフェクター領域ステムは、長さが8~11塩基対である。一実施形態において、選択的にスプライスされるエクソンは、ヒトジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(DHFR)のエクソン2、変異ヒトWilms腫瘍1エクソン5、マウスカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIIデルタエクソン16、又はSIRT1エクソン6に由来する。一実施形態において、選択的にスプライスされるエクソンは、配列番号15からの改変されたDHFRエクソン2、ヒトDHFRからの改変されたエクソン2である。一実施形態において、選択的にスプライスされるエクソンは、エクソンスプライスサイレンサーの配列を変更すること、エクソンスプライスエンハンサーの配列を変更すること、エクソンスプライスエンハンサーを加えること、エクソンスプライスドナーを加えることから成る群の1若しくは複数によって改変された。一実施形態において、選択的にスプライスされるエクソンは、合成されたものである(すなわち、天然に存在するエクソンに由来しない)。
【0016】
一態様において、本発明は、(例えば、先に記載した)標的遺伝子の調節発現のためのポリヌクレオチドカセットを包含する標的遺伝子を含む組み換えポリヌクレオチドを提供する。一実施形態において、ポリヌクレオチドカセットは、標的遺伝子のタンパク質コード配列内に配置される。
【0017】
一態様において、本発明は、(例えば、先に記載した)標的遺伝子の調節発現のためのポリヌクレオチドカセットを包含する標的遺伝子を含むベクターを提供する。一実施形態において、ベクターはウイルスベクターである。一実施形態において、ウイルスベクターは、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、及びレンチウイルスベクターから成る群から選択される。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1a】ルシフェラーゼ遺伝子のコード配列内に挿入された切断ヒトβ-グロビンイントロン2(IVS2Δ)を有するスプライシング構築物「Con1」の概略図。名称「Luci Exon 1」及び「Luci Exon 2」は、5’及び3’コード配列へのルシフェラーゼ遺伝子の分割を指す。挿入イントロン配列IVS2Δのスプライシングが、完全長のタンパク質に翻訳される完全長のmRNAをもたらす。
【
図1b】ルシフェラーゼ発現に対するイントロン挿入とスプライス部位配列の効果。Con1からCon7は、異なったイントロンスプライス部位を有する(表1を参照のこと)。Con1は、その本来のIVS2 5’スプライス部位及び3’スプライス部位(それぞれ「5’ss」及び「3’ss」)を有するIVS2Δを有する。Con2からCon7は、IVS2Δが挿入されているが、表1で列挙したように異なる5’ss及び3’ss配列を有する。Con8には、IVS2Δイントロンを有さない。Con1からCon3は、イントロン挿入のないルシフェラーゼ対照(Con8)と比較して、ルシフェラーゼ発現に対してイントロン挿入による効果がないことが実証された。より弱いスプライス部位を有する、Con4からCon7は、低減されたルシフェラーゼ発現を示した。
【
図2a】示されるエクソン包含(I)及び排除(II)スプライシングパターンを有するイントロン-エクソン-イントロンカセットの概略図。星印(◆)はDHFRエクソン2内の終止コドンを意味する。選択的DHFRエクソンがスプライシングによって標的遺伝子(ルシフェラーゼ)mRNA内に含まれるとき(I)、得られた転写産物は、インフレーム終止コドンを包含し、そしてその終止コドンは、ルシフェラーゼ遺伝子発現を妨げる。終止コドン包含選択的DHFRエクソンが、最終的なmRNAから排除されたときだけ、標的遺伝子が発現される(II)。
【
図2b】ルシフェラーゼ遺伝子の発現に対するDHFR選択的エクソンの包含又は排除の効果。
図2aに示したイントロン-エクソン-イントロンカセットを包含する様々なルシフェラーゼレポーター構築物でトランスフェクトしたHEK293細胞に対して、ルシフェラーゼアッセイが実施された。野生型スプライス部位配列を有するDHFRエクソン2(DHFR_wt)を、5’ssに変異を包含するか(DHFR_wt5ssC)若しくはより強力なCon1 5’ssで置換した天然5’ssを有するか(DHFR_Con15ss)、又はCon4由来の弱い5’ssを有する(DHFR_Con45ss)DHFRエクソンと比較した。2b及び2cのレーン1で使用される構築物は、Con1であり、そしてそれは、
図1及び実施例1に示されている。ルシフェラーゼmRNA内へのDHFRエクソン2の挿入は、ルシフェラーゼ発現の減少を引き起こしたが、それは、DHFRエクソン2の5’ss(すなわち、スプライスドナー)が(DHFR_wtをDHFR_wt5ssCと比較して)変異したときには、起こらなかった。DHFRエクソンの5’ssがCon1からより強力な5’ssに置換されたとき(構築物DHFR-Con1 5’ss)、DHFRエクソンの包含が促進され、そして、Con1と比べて545分の一の低いルシフェラーゼ発現につながった。野生型5’ssを置換するのに(実施例1のCon4からの)弱い5’ssを使用したとき、この部位の低減されたスプライシングが、DHFRエクソン包含を妨げ、それによって、増強されたルシフェラーゼ発現を可能にした。
【
図2c】DHFRエクソン配列内のエクソンスプライシングエンハンサー(ESE)又はサプレッサー(ESS)エレメントは、選択的DHRFエクソンのスプライシングに影響を及ぼし、そして、標的遺伝子の発現を調節する。DHFRエクソン2内のSRp40結合部位の変異は、ルシフェラーゼ発現の激減をもたらした:DHFR_wtmtSRp40発現とCon1の発現とで2,982倍の違いがあった(
図2c DHFR_wtmtSRp40;表2)。より強力なSC35結合部位(表2、StrSC35)を作り出すための、スプライシングエンハンサーSC35の推定結合部位の変異は、Con1(
図2c、DHFR_wtStrSC35)と比較して、ルシフェラーゼ発現を更に減少させた(139分の一)、それはおそらく、DHFRエクソンの包含の増強された効率のためである。スプライシングエンハンサーSC35の結合部位をスプライシングインヒビターhnRNP A1(表2、SC35hnRNP A1)の結合部位で置換することは、野性型DHFRエクソン2と比較して、ルシフェラーゼ発現の4.3倍の増大につながった(
図2c、DHFR_wt SC35hnRNP A1)。
【
図3a】選択的DHFRエクソン2の5’ssにヘアピン構造を含むイントロン-エクソン-イントロンカセットの概略図。DHFR 5’ssがヘアピン構造内に埋め込まれているとき、DHFRエクソンは転写産物には含まれず、よって、ルシフェラーゼが発現されることができる(×は、ヘアピン内に埋められたDHFRエクソン5’ssを表す)。
【
図3b】
図3aで例示されたイントロン-エクソン-イントロンカセットで試験された4種類の異なったヘアピンの配列と構造。
【
図3c】標的遺伝子発現に対するDHFRエクソン2の5’ssにおけるヘアピン構造の効果。Con1 5’ss配列を有するDHFRエクソンを包含する構築物は、スプライスされたmRNA内へのDHFRエクソンの包含により、ルシフェラーゼ発現を効率的に抑制する(DHFR_Con15ss、
図3c)。しかしながら、ヘアピン構造内へのDHFRエクソンの5’ssの埋め込みは、DHFRエクソンの包含を効率的に妨げ、そして、ルシフェラーゼ発現を可能にする(DHFR_Con1 5ss_HP15
図3c)。破壊されたステムを有するヘアピン配列は、ルシフェラーゼ発現を回復しない(
図3c.DHFR_Con15ss_HP15x)。DHFR_wtmtSRp40構築物(実施例2)は、DHFRエクソンの5’ssがヘアピン構造で安定して隔離されない限り、ルシフェラーゼを発現しない(DHFR_wtmtSRp40_HP15)。ヘアピンの不安定化は、強いスプライシング活性を有する変異体SRp40結合部位に関連して一層ルシフェラーゼの発現を妨げる(DHFR_wtmtSRp40_HP15x)。
【
図4a-4b】合成リボスイッチを包含するイントロン-エクソン-イントロン調節カセットによる遺伝子調節の概略図。アプタマー/リガンド結合の不存在下、アプタマー配列がヘアピンステム形成を妨害し、DHFRエクソン5’ssを利用可能なままにし、DHFRエクソンの包含につながり、これにより、翻訳を妨げ、タンパク質の発現を妨害する(
図4a)。アプタマー/リガンド結合が起こるとき、アプタマーにおけるリガンド依存性構造変化がステム形成を安定させ、DHFRエクソンの5’ssを隔離して、DHFRエクソン排除及びルシフェラーゼ遺伝子発現をもたらす(
図4b)。
【
図4c】異なる接続ステム長を有するヘアピンステム及びテオフィリンアプタマーの形状。テオフィリンアプタマーのステムは、DHFRエクソン5’ssを隔離するヘアピンのステムに直接連結され、20bpの合成ステムを作り出す。ステム配列は切断され、異なったステム長を有する一連のヘアピンを作り出す。それぞれ20bp、9bp、8bp、及び7bpのステム長を有するDHFR_Theo1、12、13及び14のステム構造を示す。テオフィリンは(▲)として記号化される。
【
図4d】テオフィリンの存在及び不存在下での標的遺伝子発現に対する、テオフィリンアプタマーを使用した様々なステム長の効果。実施例4に記載のとおり製造された調節カセットを含むテオフィリンアプタマーによって調節したルシフェラーゼ発現を示すグラフ(
図4c)。20bpから下は9bpまでのステム長を有する構築物Theo1から12では、ヘアピンステムは、アプタマー/リガンド結合の不存在下では、安定構造を形成するのに十分な長さのものであった。DHFR_Theo13は、リガンドの不存在下でも安定したヘアピンステムを形成せず、これにより、DHFRエクソン5’ssが隠されずに、DHFRエクソンの包含をもたらし、ルシフェラーゼ発現を妨げた。テオフィリンの存在下、ヘアピンは安定しているため、DHFRエクソン5’ssはスプライシング機構にとって利用不可能である。このことは、DHFRエクソンの排除をもたらし、そして、ルシフェラーゼ発現を可能にする。3mMのテオフィリンの存在下、DHFR_Theo_13は、発現の非誘導ベースラインレベルを上回る43倍の誘導を実証する。DHFR_Theo_14は、テオフィリンありでも、又はテオフィリンなしでもルシフェラーゼ発現を示さず、この7bpのステムが、アプタマーがそのリガンドに結合したときでさえ、短すぎて、安定したヘアピンを形成することができないことを示唆している。結果として、DHFRエクソンは転写産物へとスプライスされ、そして、ルシフェラーゼ発現が妨げられる。
【
図5a-1】ヘアピンステムとアプタマーPIステムの連続切断によって作り出したxpt-グアニンアプタマー及びDHFRエクソン5’ss配列を接続する合成ステムの配列。グアニンは(●)として記号化される。
【
図5a-2】ヘアピンステムとアプタマーPIステムの連続切断によって作り出したxpt-グアニンアプタマー及びDHFRエクソン5’ss配列を接続する合成ステムの配列。グアニンは(●)として記号化される。
【
図5b】アプタマーリガンド結合に対応してルシフェラーゼ発現を調節するリボスイッチの能力に対するステム長の効果。異なるステム長の18種類のリボスイッチが、調節カセット内に挿入され、そして、その構築物が、HEK293細胞内にトランスフェクトされ、500μΜのグアニンの存在又は不存在下で培養された。グアニンの不存在下、構築物G14からG18では、無調節Con1対照と比較して、ルシフェラーゼ発現の低減を実証する。グアニン存在下では、ルシフェラーゼ発現は、程度が変化するまで回復した。
【
図5c】アプタマーリガンド結合に対応してルシフェラーゼ発現を調節するリボスイッチの能力に対するステム長の効果の更なる分析。構築物G11からG18を、ルシフェラーゼアッセイを使用して確認した。
【
図5d】
図5dは、Con1と相対的なルシフェラーゼのベース及び誘導レベルを示す。グアニンの不存在下、構築物G14からG17は、アプタマーリガンド(この場合グアニン)によるルシフェラーゼ発現の明らかな調節を実証する。グアニンの不存在下、ルシフェラーゼ発現レベルは低い。グアニンの存在下、ルシフェラーゼ発現は、有意に活性化された。
図5dは、グアニンを用いた誘導に対してこれらの調節された構築物に関して、達成されたCon1対照発現に対する%を示す。
【
図5e】xpt-G17リボスイッチを包含する調節カセットは、数多くの異なった哺乳動物細胞型においてリガンドに対応した遺伝子発現調節を可能にした。DHFR_G17をHepG2、AML12、RD及びC2C12細胞株にトランスフェクトし、グアニンを用いた処理に対する誘導ルシフェラーゼ発現についてアッセイした。グアニンが細胞培養液に加えられていない非誘導ベースライン発現レベルと比較した、細胞をリガンド存在下で培養したときのルシフェラーゼ発現の誘導倍率を示す。
【
図5f】ウイルスベクターに関連するxpt-G17包含調節カセットによるルシフェラーゼの調節。xpt-G17調節カセットを包含するルシフェラーゼ遺伝子を有する構築物を、AAVベクター骨格に移入し、細胞をトランスフェクトするために使用した。細胞を、グアニンの存在又は不存在下で培養した。グアニン存在下でのルシフェラーゼの誘導倍率が示され、発現の1687倍の誘導が、グアニンを用いた処理において見られた。
【
図5g】アプタマー結合リガンドに対応した調節カセットによる抗体の調節。xpt-G17リボスイッチを有するイントロン-エクソン-イントロン調節カセットを、抗KDR抗体配列のリーダーペプチド配列内に挿入し、そして、得られた構築物を、HEK293細胞内にトランスフェクトした。ELISAによってアッセイした場合、未処理細胞と比較して、リガンドでのトランスフェクト細胞の処理によって抗体タンパク質発現の80倍の誘導があった。誘導された発現レベルは、Con1イントロン配列を包含する対照構築物の約40%に達した。
【
図5h】アプタマー/リガンド結合に対応した調節カセットによる分泌エリスロポイエチンタンパク質(EPO)の調節。xpt-G17リボスイッチを有するイントロン-エクソン-イントロン調節カセットを、マウスエリスロポエチン(Epo)遺伝子内に挿入し、そして、得られた構築物をHEK293細胞内にトランスフェクトした。ELISAによってアッセイした場合、低レベルのEPO発現が、グアニン不存在下で観察された。グアニン存在下、EPO発現の140倍の誘導が観察された。
【
図6a】様々なプリンリボスイッチステムの構築物を、調節カセットで試験した。プリンは●として記号化される。
【
図6b】
図6b-6e。異なったアプタマーベースのリボスイッチ(
図6aで例示したリボスイッチステム)を包含する調節カセットを用いた構築物の用量応答。
図6bは、グアニンに対するグアニンアプタマー包含調節カセットの応答である。
【
図6c】
図6cは、グアノシンに対するグアニンアプタマー包含調節カセットの応答である。
【
図6d】
図6dは、2’dGに対するグアニンアプタマー包含調節カセットの応答である。
【
図6e】
図6eは、アデニンに対するアデニンアプタマー包含調節カセットの応答である。
【
図7a】グアニンによるxpt-G17包含調節カセットを用いたEGFPの誘導。xpt-G17リボスイッチを有するイントロン-エクソン-イントロンカセットを、EGFP遺伝子内にクローニングした。構築物で安定的にトランスフェクトしたHEK293細胞を、500μΜのグアニンで処理し、処理の6時間後にGFP発現をフローサイトメトリー分析によってアッセイした。グアニン処理は、EGFP発現の増強をもたらした、
図7a、(B)。
【
図7b】リガンドの存在又は不存在に対応した標的遺伝子発現。xpt-G17を包含するリボスイッチを含むイントロン-エクソン-イントロンカセットを有するEGFPを安定的にトランスフェクトしたHEK293細胞を、500μΜのグアニンで3日間処理し、そして、24時間毎に3日間、フローサイトメトリー分析によってアッセイした。グアニン含有培地を細胞から洗い流し、そして、更に10日間、グアニン処理なしでそれらを培養し続け、そして、EGFP発現を観察した。細胞培地中にグアニンが存在したとき、EGFP発現は増大した。グアニンEGFPの使用中止により、発現は失われた。
【
図8a】2コピーのxpt-G15包含調節カセットによって調節されたルシフェラーゼ発現。グラフは、標的遺伝子内に挿入された単独のxpt-G17又はxpt-G15を包含する調節カセットを有する構築物、及び2コピーのxpt-G15を包含する調節カセットを有する構築物のグアニン用量応答を示す(xpt-G15ダブル)。
【
図8b】異なった調節カセットによって調節された組織培養細胞内のEGFP発現。1コピーのxpt-G17を包含するカセット(EGFP-xpt-G17)は、低い非誘導ベースライン発現をもたらし(A)、EGFP-xpt-G15構築物を含む細胞と比較して、低い誘導レベルの発現に達する(D)。1コピーのxpt-G15包含カセット(EGFP-xpt-G15)では、より高い非誘導ベースライン発現(B)並びにより高い誘導発現(E)を得た。2コピーのxpt-G15を包含するカセット(EGFP-xpt-G15ダブル)を包含する構築物により、誘導発現レベルを低減することなく(F)、バックグラウンド非誘導発現が低減され(C)、これにより、誘導倍率は増強された。細胞をグアニンで処理し、そして、処理の24時間後に撮像した。
【
図8c】xpt-G15及びxpt-G17リボスイッチを包含する調節カセットは、グアニン及びグアノシンの両方に応答した。EGFP発現の定量化(平均蛍光強度)を、フローサイトメトリーによって分析し、そして、誘導倍率を、グアニン又はグアノシン処理で得られた平均蛍光強度(MFI)を処理なしで得られたMFIで割ることで計算した。グアニン及びグアノシンでの処理で、同様のレベル及び誘導倍率を得た。
【
図8d】1コピーのYdhl-A5を包含する調節カセットに加え1コピーのxpt-G17を包含する調節カセットを含む構築物からのルシフェラーゼ発現。この構築物でトランスフェクトしたHEK293細胞を、グアニン若しくはアデニン、又はその両方で処理した。ルシフェラーゼの最も高い誘導は、それらの最高濃度での両リガンドの併用で見られた。
【
図9a】xpt-G17リボスイッチを含むイントロン-エクソン-イントロン調節カセットによって調節されたルシフェラーゼ発現に対するイントロン切断の効果。
図9aは、誘導倍率を示し、及び
図9bは、Con1と比較した、ルシフェラーゼ発現率を示す。
【
図9b】xpt-G17リボスイッチを含むイントロン-エクソン-イントロン調節カセットによって調節されたルシフェラーゼ発現に対するイントロン切断の効果。
図9aは、誘導倍率を示し、及び
図9bは、Con1と比較した、ルシフェラーゼ発現率を示す。
【
図9c】イントロン-エクソン-イントロン調節構築物DHFR_G17から欠失された配列の略図。欠失配列は、白抜きの棒線によって示され、残留配列は塗りつぶした横棒によって示される。
【
図9d】
図9cで示された、遺伝子調節に対する様々なイントロン欠失の効果。選択的DFIFRエクソンに隣接するイントロン内の配列が、エクソンのスプライシング及び相対遺伝子調節を改変した。例えば、DHFR-G17_2IR_3は、標的遺伝子発現の倍率の有意な増大をもたらすイントロン欠失を示す。
図9dは、誘導倍率を示し、それに対して、
図9eは、Con1対照に対するタンパク質発現の絶対レベルを示す。
【
図9e】
図9cで示された、遺伝子調節に対する様々なイントロン欠失の効果。選択的DFIFRエクソンに隣接するイントロン内の配列が、エクソンのスプライシング及び相対遺伝子調節を改変した。例えば、DHFR-G17_2IR_3は、標的遺伝子発現の倍率の有意な増大をもたらすイントロン欠失を示す。
図9dは、誘導倍率を示し、それに対して、
図9eは、Con1対照に対するタンパク質発現の絶対レベルを示す。
【
図10a】様々なエクソンが、遺伝子発現を調節するためのイントロン-エクソン-イントロン調節カセットにおいて選択的エクソンとして機能し得る。
図10aは、様々なエクソンを有する構築物が、様々な非誘導ベースライン及びルシフェラーゼ発現の誘導(500μΜのグアニン)レベルを有することを示す。
【
図10b】
図10bは、これらの構築物を用いた誘導倍率を示し、そして、CaMKIId-e16により、SRp40活性化変異を伴ったDHFRエクソン(mtDHFR)と同等な誘導倍率を生じた。
【
図11a】マウスでのin vivoにおけるルシフェラーゼ発現の調節。2コピーのxpt-G15調節カセットを包含する構築物(xpt-G15ダブル、実施例8、
図8a)を、水圧注入によってマウスの肝臓に送達した。マウスには、様々な用量のグアノシンを、DNA送達の2時間及び12時間後に経口的に投与し、その後、撮像した。リガンドの経口服用は、マウス肝臓において調節された標的遺伝子の発現の用量依存的な活性化をもたらした(
図11a及び
図11b)。
【
図11b】マウスでのin vivoにおけるルシフェラーゼ発現の調節。2コピーのxpt-G15調節カセットを包含する構築物(xpt-G15ダブル、実施例8、
図8a)を、水圧注入によってマウスの肝臓に送達した。マウスには、様々な用量のグアノシンを、DNA送達の2時間及び12時間後に経口的に投与し、その後、撮像した。リガンドの経口服用は、マウス肝臓において調節された標的遺伝子の発現の用量依存的な活性化をもたらした(
図11a及び
図11b)。
【
図11c】別の実験では、グアノシンが腹膜内に投与された(
図11c)。像は、100mg/kg又は300mg/kg投与量のいずれかを用いたグアノシン処理前後のルシフェラーゼ発現を示す。
【
図11d】グラフ(
図11d)では、ルシフェラーゼ活性を、平均光子/秒/mm
2±s.d. (n=5)として表した。
【
図12】マウス網膜におけるリボスイッチベースのAAVベクターによって媒介されたEGFP導入遺伝子発現。網膜下注射の8日後の、AAV2/8-GTX7によって媒介された網膜におけるEGFP導入遺伝子発現を示す蛍光眼底写真(露出時間:30秒)。
【
図13a】経時的な網膜におけるEGFP導入遺伝子発現のバリエーションを示す、AAV2/8-GTX7を網膜下に注射した単一のマウス眼内の代表的な眼底像。A~E:ベクター注射2、8、9、10及び12日後に200msの露出時間で白色光照射下にて撮影された像。円は、定量化のためのROIとみなした瞳孔を通して見える網膜領域を示す。F~J:30秒の露出時間で475±25nmの光照射下で撮影した像であり、ベクター注射2、8、9、10及び12日後にてeGFP蛍光を示している。K~O:ベクター注射2、8、9、10及び12日後に30秒の露出時間を用いて475±25nmの光照射下で撮影した像であり、ROI(円)内で強度閾値50を超えたピクセルを強調表示した。
【
図13c】AAV2/8-GTX7の網膜下注射後に経時的に定量化されたマウス網膜におけるEGFP導入遺伝子発現。蛍光眼底写真を、次の時点:AAV2/8GTX7の網膜下注射の2、8、9、10及び12日後、にて撮影した。露出時間:30秒、分析のためのピクセル強度閾値:50。腹腔内誘導を、AAV2/8-GTX7の網膜下注射の8、9及び10日後における撮像後に実施した。加えて、硝子体内誘導を、AAV2/8-GTX7の網膜下注射の11日後に実施した。Dunnettの補正及び対照点としての注射8日後を用いた一元配置ANOVAに基づいて示された統計的有意性。
【
図13d】AAV2/8-GTX5(陽性対照)の網膜下注射後に経時的に定量化されたマウス網膜におけるEGFP導入遺伝子発現。蛍光眼底写真を、次の時点:AAV2/8-GTX5の網膜下注射の2、8、9、10及び12日後、にて撮像した。露出時間:10秒、分析のためのピクセル強度閾値:190。グアノシンの腹腔内投与を、AAV2/8-GTX5の網膜下注射の8、9及び10日後の撮像後に実施した。加えて、グアノシンの硝子体投与を、AAV2/8-GTX5の網膜下注射の11日後に実施した。Bonferroni補正を伴った一元配置ANOVAを適用し、そして、グアノシンを用いた処理に対して、EGFPの発現において統計的に有意な相違がないことが分かった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
発明の詳細な説明
本発明は、5’イントロン-選択的エクソン-3’イントロンに関連するリボスイッチを含む遺伝子調節カセットを提供する。遺伝子調節カセットとは、標的遺伝子のDNA内に組み込まれると、得られたプレmRNAのアプタマー/リガンド媒介性選択的スプライシングによって標的遺伝子の発現を調節する能力を提供する組み換えDNA構築物を指す。本発明に関連するリボスイッチは、小分子リガンドの存在を感知し、そして、選択的エクソンのスプライシングを変更することに一緒に関与するセンサー領域(例えば、アプタマー)及びエフェクター領域を包含する。一実施形態において、目的遺伝子の発現は、アプタマーリガンドが存在するときに増強され、そして、リガンドが存在しないときに低減される。
【0020】
リボスイッチ
【0021】
「リボスイッチ」という用語は、本明細書中で使用される場合、RNAポリヌクレオチドの調節セグメントを指す。本発明に関連するリボスイッチは、リガンド(例えば、小分子)の存在を感知し、そして、選択的エクソンのスプライシングを変更することに一緒に関与するセンサー領域(例えば、アプタマー)及びエフェクター領域を包含する。一実施形態において、リボスイッチは、遺伝子組み換えによるものであり、2以上の起源由来のポリヌクレオチドを利用する。「合成の(synthetic)」という用語は、リボスイッチに関連して本明細書中で使用される場合、天然に存在しないリボスイッチを指す。一実施形態において、センサー及びエフェクター領域は、ポリヌクレオチドリンカーによって連結される。一実施形態において、ポリヌクレオチドリンカーは、RNAステム(すなわち、二本鎖であるRNAポリヌクレオチド領域)を形成する。
【0022】
エフェクター領域
【0023】
一実施形態において、エフェクター領域は、3’イントロンの5’スプライス部位(「5’ss」)配列(すなわち、選択的エクソンの3’間近に存在するイントロンスプライス部位配列)を含む。エフェクター領域は、3’イントロンの5’ss配列、及び3’イントロンの5’ss配列と相補的な配列を含む。アプタマーがそのリガンドに結合したとき、エフェクター領域が、ステムを形成し、これにより、選択的エクソンの3’末端のスプライスドナー部位に対するスプライシングが妨げられる(例えば、
図4bを参照のこと)。特定の条件下(例えば、アプタマーがそのリガンドに結合しないとき)、エフェクター領域は、選択的エクソンの3’末端にあるスプライスドナー部位を利用する機会を提供する状況で、標的遺伝子mRNA内への選択的エクソンの包含に導く(例えば、
図4aを参照のこと)。
【0024】
エフェクター領域のステム部分は、アプタマーのリガンド結合により、選択的エクソンの選択的スプライシングを実質的に妨げるのに十分な長さ(及びGC含量)のものでなければならず、一方で、リガンドが十分な量で存在しないときには、スプライス部位を利用することを可能にもする。本発明の実施形態において、エフェクター領域のステム部分は、3’イントロンの5’ss配列及びその相補的配列に加えて、ステム配列を含む。本発明の実施形態において、この追加のステム配列は、アプタマーステムからの配列を含む。ステム部分の長さと配列は、リガンドが存在しないときには、許容し得る標的遺伝子のバックグラウンド発現を可能にし、且つ、リガンドが存在するときには、許容し得る標的遺伝子の発現レベルを可能にするステムを同定するために、既知の技術を使用して改変できる(例えば、実施例4及び5、並びに
図4c及び4d、5a、5b、5c、5dを参照のこと)。例えば、ステムが長過ぎる場合、それは、リガンドの存在又は不存在下で、3’イントロンの5’ss配列を利用する機会から遠ざけ得る。ステムが短すぎる場合、それは、3’イントロンの5’ss配列を隔離できる安定したステムを形成できず、その場合、選択的エクソンは、リガンドの存在又は不存在下で、標的遺伝子メッセージにスプライスされる。一実施形態において、エフェクター領域ステムの全長は、約7塩基対~約20塩基対である。いくつかの実施形態において、ステムの長さは、約8塩基対~約11塩基対である。いくつかの実施形態において、ステムの長さは、8塩基対~11塩基対である。ステムの長さに加えて、ステムのGC塩基対含量が、ステムの安定性を改変するために変更できる。
【0025】
アプタマー/リガンド
【0026】
「アプタマー」という用語は、本明細書中で使用される場合、リガンドに特異的に結合するRNAポリヌクレオチドを指す。「リガンド」という用語は、アプタマーによって特異的に結合される分子を指す。一実施形態において、リガンドは、例えば、脂質、単糖、セカンドメッセンジャー、他の天然物及び代謝産物、核酸、並びにほとんどの治療薬を含む低分子量(約1,000ダルトン未満)分子である。一実施形態において、リガンドは、2以上のヌクレオチド塩基を有するポリヌクレオチドである。
【0027】
アプタマーは結合領域を有し、そしてそれは、意図された標的分子(すなわち、リガンド)と複合体を形成することができる。結合の特異性は、無関係な分子に対するアプタマーの解離定数と比較した場合に、そのリガンドに対するアプタマーの相対的な解離定数(Kd)の点から規定され得る。これにより、リガンドは、無関係な材料より高い親和性でアプタマーに結合する分子である。一般的に、そのリガンドに関するアプタマーのKdは、無関係な分子とアプタマーのKdに比べて、少なくとも約10倍低い。他の実施形態において、Kdは、少なくとも約20倍低い、少なくとも約50倍低い、少なくとも約100倍低い、及び少なくとも約200倍低い。アプタマーは一般的に、長さが約15~約200ヌクレオチドである。より一般的に、アプタマーは、長さが約30~約100ヌクレオチドである。
【0028】
リボスイッチの一部として組み込まれ得るアプタマーは、天然のアプタマー、若しくはその修飾物、或いはde novoで設計されたアプタマーか又は指数関数的濃縮によるリガンドの系統的進化法(SELEX)によって合成的にスクリーニングされたアプタマーである。小分子リガンドに結合するアプタマーの例としては、これだけに限定されるものではないが、テオフィリン、ドーパミン、スルホロダミンB、及びセロビオースカナマイシンA、リビドマイシン、トブラマイシン、ネオマイシンB、バイオマイシン、クロラムフェニコール、ストレプトマイシン、サイトカイン、細胞表面分子、及び代謝産物が挙げられる。小分子を認識するアプタマーの総説に関しては、例えば、Famulok, Science 9:324-9 (1999) and McKeague, M. & DeRosa, M.C. J. Nuc. Aci. 2012を参照のこと。別の実施形態において、アプタマーは相補的なポリヌクレオチドである。
【0029】
一実施形態において、アプタマーは、特定の小分子リガンドに結合するように設計されている。アプタマーを設計する方法としては、例えばSELEXが挙げられる。SELEXを使用した、小分子に選択的に結合するアプタマーを設計する方法は、例えば米国特許第5,475,096号、同第5,270,163号、及びAbdullah Ozer, et al. Nuc. Aci. 2014に開示されており、そしてそれらを参照により本明細書に援用する。SELEXプロセスの変法は、米国特許第5,580,737号及び同第5,567,588号に記載されており、そしてそれらを参照により本明細書に援用する。
【0030】
アプタマーを同定するための選択技術は、一般的に、無作為化されるか又は変異誘導された領域を含む所望の長さのDNA又はRNA分子の大量のプールを調製することを伴う。例えば、アプタマー選択のためのオリゴヌクレオチドプールは、約15~25ヌクレオチドの長さがあり、且つ、PCRプライマーの結合に有用な特定配列領域が隣接する無作為化された20~100ヌクレオチドの領域を含んでもよい。オリゴヌクレオチドプールは、標準的なPCR技術、又は選択された核酸配列の増幅を可能にする他の手段を使用して増幅される。DNAプールは、RNAアプタマーが所望されるときには、in vitroで転写されて、RNA転写物のプールを作製し得る。次に、RNA又はDNAオリゴヌクレオチドのプールは、所望のリガンドに特異的に結合するそれらの能力に基づいて選択にかけられる。選択技術としては、例えば、アフィニティークロマトグラフィーが挙げられるが、他の分子に特異的に結合するそれらの能力に基づく核酸の選択を可能にする任意のプロトコールが使用され得る。小分子に結合し、細胞内で機能するアプタマーを同定するための選択技術は、細胞ベースのスクリーニング法を伴ってもよい。アフィニティークロマトグラフィーの場合では、オリゴヌクレオチドを、カラム内の基材上又は磁性ビーズ上に固定された標的リガンドと接触させる。オリゴヌクレオチドは、通常の生理的条件を模倣した塩濃度、温度、及び他の条件の存在下でのリガンド結合に関して好ましくは選択される。プール内のリガンドに結合するオリゴヌクレオチドは、カラム又はビーズ上に保持され、そして、非結合配列は洗い流される。次に、リガンドに結合するオリゴヌクレオチドは、(RNA転写物を利用する場合には、逆転写後に)(通常、溶出後に)PCRによって増幅される。選択過程は、合計で選別手順の約3~10反復ラウンドにわたって選択配列に対して繰り返される。次に、得られたオリゴヌクレオチドは、増幅され、クローニングされ、そして、標的リガンドに結合することができるオリゴヌクレオチドの配列を同定するために標準的な手順を使用して配列決定される。アプタマー配列がいったん同定されると、アプタマーは、変異誘導したアプタマー配列を含むオリゴヌクレオチドのプールから開始する選択の追加ラウンドを実施することによって、更に最適化され得る。
【0031】
in vivoにおけるアプタマースクリーニングは、次の1若しくは複数のラウンドから成るin vitro選択(例えば、SELEX)を使用してもよい。例えば、Konig, J.ら(RNA. 2007, 13 (4): 614-622、参照により本明細書に援用する)は、アプタマーのin vivo選択のための連結SELEX及び酵母3-ハイブリッドシステムについて記載する。
【0032】
選択的エクソン
【0033】
本発明の遺伝子調節ポリヌクレオチドカセットの一部である選択的エクソンは、プレmRNAに転写され、標的遺伝子のmRNA内に選択的にスプラスされることができる任意のポリヌクレオチド配列であり得る。本発明の遺伝子調節カセットの一部である選択的エクソンは、選択的エクソンが標的遺伝子mRNA内に包含されたとき、そのmRNAからの標的遺伝子の発現を妨げるか又は低減するように、翻訳を阻害する少なくとも1つの配列を含む。好ましい実施形態において、選択的エクソンは、該選択的エクソンがスプライシングによって標的遺伝子mRNA内に含まれる場合に、標的遺伝子とインフレームの終止コドン(TGA、TAA、TAG)を含む。実施形態において、選択的エクソンは、終止コドンに加えて、又は終止コドンに代わるものとして、例えば、mRNAの分解につながるマイクロRNA結合部位を含む、該選択的エクソンがスプライシングによって標的遺伝子mRNA内に包含された場合に、翻訳を低減するか、又は実質的に妨げる他の配列を含む。一実施形態において、選択的エクソンは、mRNAの分解をもたらすmiRNA結合配列を含む。一実施形態において、選択的エクソンは、このポリペプチド配列を包含するタンパク質の安定性を低減するポリペプチド配列をコードする。一実施形態において、選択的エクソンは、分解のためにこのポリペプチド配列を包含するタンパク質を指示するポリペプチド配列をコードする。
【0034】
選択的エクソンのスプライシングのベースレベル又はバックグラウンドレベルは、エクソンスプライスエンハンサー(ESE)配列及びエクソンスプライスサプレッサー(ESS)配列を変更することによって、及び/又は選択的エクソン内にESE又はESS配列を導入することによって最適化され得る。選択的エクソンの配列に対するそのような変化は、これだけに限定されるものではないが、部位特異的変異誘導(site directed mutagenesis)を含めた、当該技術分野で知られている方法を使用して達成され得る。あるいは、(例えば、選択的エクソンのすべて又は一部を含む)所望の配列のオリゴヌクレオチドは、商業的供給元から得られ、そして、遺伝子調節カセット内にクローニングされ得る。ESS及びESE配列の同定は、例えば、ESEfinder3.0(Cartegni, L. et al. ESEfinder: a web resource to identify exonic splicing enhancers. Nucleic Acid Research, 2003, 31(13): 3568-3571)及び/又は他の利用可能な供給元を含めた、当該技術分野で知られている方法によって達成され得る。
【0035】
一実施形態において、選択的エクソンは、標的遺伝子にとって外来性であるが、標的遺伝子が発現される生物体に起因する配列に由来し得る。一実施形態において、選択的エクソンは、合成配列である(実施例10を参照のこと)。
【0036】
一実施形態において、選択的エクソンは、天然のエクソンである(実施例10を参照のこと)。別の実施形態において、選択的エクソンは、既知のエクソンのすべて又は一部に由来する(実施例10を参照のこと)。この文脈において、「由来する(derived)」とは、天然のエクソン又はその一部に対して実質的に相同であるが、例えば、標的遺伝子配列とインフレームの終止コドンを導入若しくは削除するか、又はエクソンスプライスエンハンサーを導入若しくは削除する、及び/又はエクソンスプライスサプレッサーの導入若しくは削除するために、様々な変異を含み得る配列を包含する選択的エクソンを指す。一実施形態において、選択的エクソンは、ヒトジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(DHFR)のエクソン2、変異ヒトWilms腫瘍1エクソン5、マウスカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIIデルタエクソン16、又はSIRT1エクソン6に由来する。
【0037】
5’及び3’イントロン配列
【0038】
選択的エクソンは、5’及び3’イントロン配列に隣接する。本発明の遺伝子調節カセットで使用できる5’及び3’イントロン配列は、標的遺伝子をスプライスアウトでき、アプタマーを結合するリガンドの存在又は不存在によって、標的遺伝子mRNA又はmRNA内に選択的エクソンを含む標的遺伝子のいずれかを作り出す任意の配列であり得る。5’及び3’イントロンはそれぞれ、スプライシングが起こるのに必要な配列、すなわち、スプライスドナー、スプライスアクセプター、分岐点配列を有する。一実施形態において、遺伝子調節カセットの5’及び3’イントロン配列は、1若しくは複数の天然イントロン又はその一部に由来する。一実施形態において、5’及び3’イントロン配列は、切断ヒトβ-グロビンイントロン2(IVS2Δ)に由来する。他の実施形態において、5’及び3’イントロン配列は、SV40mRNAイントロン(Clonetech製のpCMV-LacZベクターで使用される)、ヒトトリオースリン酸イソメラーゼ(TPI)遺伝子のイントロン6(Nott Ajit, et al. RNA. 2003, 9:6070617)、又はヒト第IX因子からのイントロン(Sumiko Kurachi et al. J. Bio. Chem. 1995, 270(10), 5276)、標的遺伝子それ自体の内在性イントロン、或いは調節されるスプライシングに十分な要素を含む(Thomas A. Cooper, Methods 2005 (37):331)任意のゲノムフラグメント又は合成イントロン(Yi Lai, et al. Hum Gene Ther. 2006: 17(10): 1036)に由来する。
【0039】
一実施形態において、本発明の選択的エクソン及びリボスイッチは、標的遺伝子の内在性イントロン内に存在するように設計される。すなわち、イントロン(又は実質的に同様のイントロン配列)は、標的遺伝子のその位置に天然に生じる。この場合、選択的エクソンのすぐ上流のイントロン配列は、5’イントロン又は5’イントロン配列とも呼ばれ、選択的エクソンのすぐ下流のイントロン配列は、3’イントロン又は3’イントロン配列とも呼ばれる。この場合、内在性イントロンは、選択的エクソンの5’末端及び3’末端に隣接するスプライスアクセプター配列及びスプライスドナー配列を含むように改変される。
【0040】
本発明の遺伝子調節カセット内のスプライスドナー及びスプライスアクセプター部位は、強化又は弱化されるように改変されてもよい。すなわち、スプライス部位は、標準的なクローニング法、部位特異的変異誘導などによるスプライスドナー又はアクセプターのコンセンサスにより近づくように改変されてもよい。スプライスコンセンサスにより類似したスプライス部位は、スプライシングを促進する傾向があって、これにより強化される。スプライスコンセンサスとそれほど類似していないスプライス部位は、スプライシングを妨げる傾向があって、これにより弱化される。イントロンの最も一般的な種類のスプライスドナーのコンセンサス(U2)は、A/C A G || G T A/G A G T(ここで、||は、エクソン/イントロン境界を意味する)である。スプライスアクセプターのコンセンサスは、C A G || G(ここで、||は、エクソン/イントロン境界を意味する)である。スプライスドナー及びアクセプター部位における特定のヌクレオチドの頻度は、当該技術分野で記載されている(例えば、Zhang, M.Q., Hum Mol Genet. 1988. 7(5):919-932を参照のこと)。5’ss及び3’スプライス部位の強さは、選択的エクソンのスプライシングを調節するように調整され得る。
【0041】
遺伝子調節カセット内の5’及び3’イントロンに対する追加の改変は、イントロンスプライシングエンハンサーエレメント及び/又はイントロンスプライシングサプレッサーエレメントを改変、削除及び/又は付加すること、及び/又は分岐部位配列を改変することを含めて、スプライシングを改変するようにおこなわれ得る。
【0042】
一実施形態において、5’イントロンは、標的遺伝子とインフレームの終止コドンを含むように改変された。5’及び3’イントロン配列はまた、隠れたスプライス部位を取り除くように改変されてもよく、そしてそれは、公的に利用可能なソフトウェアを用いて同定され得る(例えば、Kapustin, Y. et al. Nucl. Acids Res. 2011. 1-8を参照のこと)。5’及び3’イントロン配列の長さは、例えば、ウイルス発現構築物のサイズ要件を満たすように調節されてもよい。一実施形態において、5’及び3’イントロン配列は独立に、長さが約50~約300ヌクレオチドである。一実施形態において、5’及び3’イントロン配列は独立に、長さが約125~約240ヌクレオチドである。
【0043】
標的遺伝子
【0044】
本発明の遺伝子調節カセットは、標的細胞、組織又は生物体で発現され得る任意の標的遺伝子の発現を調節するために使用できるプラットフォームである。「標的遺伝子」という用語は、細胞内に導入され、RNAに転写され、そして、適当な条件下で翻訳及び/又は発現されることができるポリヌクレオチドを指す。あるいは、標的遺伝子は、標的細胞にとって内在性であり、そして、本発明の遺伝子調節カセットは、標的遺伝子内(例えば、内在性標的遺伝子の既存のイントロン内)に配置される。標的遺伝子の例は、治療用ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドである。一実施形態において、標的遺伝子が本発明の遺伝子調節カセットを使用して発現されるとき、該標的遺伝子は、選択的エクソンを含む融合タンパク質として発現されない。選択的エクソンの包含は、例えば、選択的エクソンを含むメッセージの分解を引き起こすことによってmRNAの翻訳を最小化する、又はそうでなければ、例えば、その未熟な切断により、機能的な標的遺伝子の発現を妨げる。一実施形態において、標的遺伝子は、組み換えDNA構築物が転写されるべき細胞にとって外来性である。別の実施形態において、標的遺伝子は、組み換えDNA構築物が転写されるべき細胞にとって内在性である。一実施形態において、選択的エクソンは、標的遺伝子のコード配列とインフレームの終止コドンを包含してもよい。他の実施形態において、選択的エクソンは、標的遺伝子の転写産物分解を駆動する及び/又は翻訳を遮断する他の配列を包含してもよい。
【0045】
本発明の標的遺伝子は、タンパク質をコードする遺伝子であっても、又は非タンパク質コーディングRNAをコードする配列であってもよい。例えば、標的遺伝子は、構造タンパク質、酵素、細胞シグナル伝達タンパク質、ミトコンドリアタンパク質、ジンクフィンガータンパク質、ホルモン、輸送タンパク質、増殖因子、サイトカイン、細胞内タンパク質、細胞外タンパク質、膜貫通タンパク質、細胞質タンパク質、核タンパク質、受容体分子、RNA結合タンパク質、DNA結合タンパク質、転写因子、翻訳機構、チャネルタンパク質、モータータンパク質、細胞接着分子、ミトコンドリアタンパク質、代謝酵素、キナーゼ、ホスファターゼ、交換因子、シャペロンタンパク質、及びこれらのいずれのモジュレーターをコードする遺伝子であってもよい。実施形態において、標的遺伝子は、エリスロポイエチン(Epo)、ヒト成長ホルモン(hGH)、転写活性化因子様エフェクターヌクレアーゼ(TALEN)、ヒトインスリン、CRISPR関連タンパク質9(cas9)、又は例えば、治療用抗体を含む免疫グロブリン(又はその一部)をコードする。
【0046】
発現構築物
【0047】
本発明は、標的遺伝子をコードし、且つ、本発明の遺伝子調節カセットを包含するポリヌクレオチドを、標的細胞内に導入するための組み換えベクターの使用を企図する。多くの実施形態において、本願発明の組み換えDNA構築物は、宿主細胞におけるDNAの複製、及びその細胞における適正なレベルでの標的遺伝子の発現をもたらすDNAセグメントを含む追加のDNAエレメントを含む。発現制御配列(プロモーター、エンハンサーなど)が、標的細胞における標的遺伝子の発現を促進するそれらの能力に基づいて選択されることを、当業者は理解している。「ベクター」とは、in vitro又はin vivoにおいて宿主細胞内に送達されるべきポリヌクレオチドを含む組み換えプラスミド、酵母、人工染色体(YAC)、ミニクロモソーム、DNAミニサークル又は(ウイルス由来配列を含む)ウイルスを意味する。一実施形態において、組み換えベクターは、ウイルスベクター又は複数のウイルスベクターの組み合わせである。
【0048】
標的細胞、組織、又は生物体における標的遺伝子の発現のためのウイルスベクターは、当該技術分野で知られており、アデノウイルス(AV)ベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、レトロウイルス及びレンチウイルスベクター、並びに単純ヘルペスウイルス1型(HSV1)ベクターが挙げられる。
【0049】
アデノウイルスベクターとしては、例えばE1及びE3領域の欠失によって複製不全にしたヒトアデノウイルス2型及びヒトアデノウイルス5型ベースのベクターを含む。転写カセットがE1領域に挿入され、そして、組み換えE1/E3欠失AVベクターを得る。また、アデノウイルスベクターは、(大容量の「中身のない(gutless)」又は「中身を抜かれた(gutted)」ベクターとしても知られている)ヘルパー依存性大容量アデノウイルスベクターを含むが、それは、ウイルス性コード配列を含まない。これらのベクターは、ウイルスDNA複製及びパッケージングに必要とされるシス作用性エレメント、主に末端逆位反復配列(ITR)及びパッケージングシグナル(Ψ)を包含する。これらのヘルパー依存性AVベクターゲノムは、数100塩基対から最大で約36kbの外来DNAを担持するポテンシャルを有する。
【0050】
組み換えアデノ随伴ウイルス「rAAV」ベクターとしては、これだけに限定されるものではないが、AAV-1、AAV-2、AAV-3、AAV-4、AAV-5、AAV-7及びAAV-8、AAV-9、AAV-10などを含めた、任意のアデノ随伴ウイルス血清型に由来する任意のベクターが挙げられる。rAAVベクターは、全体又は一部削除されたAAV野生型遺伝子、好ましくはRep及び/又はCapの遺伝子の一個以上を有するが、機能的な隣接するITR配列を保有する。機能性ITR配列は、AAVゲノムのレスキュー(rescue)、複製、パッケージング、及び潜在的染色体組込みのために保有される。ITRは野生型ヌクレオチド配列である必要はないので、その配列が機能的なレスキュー、複製、及びパッケージングをもたらす限り、(例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失又は置換によって)変更されてもよい。
【0051】
あるいは、レンチウイルスベクターなどの他のシステムが、本発明の実施形態に使用され得る。レンチウイルスベースのシステムは、非分裂細胞並びに分裂細胞に形質導入し、そしてそれらを、例えばCNSの非分裂細胞、を標的化する適用を有用にする。レンチウイルスベクターは、ヒト免疫不全ウイルス及びそのようなウイルスに由来し、宿主ゲノム内に組み込まれ、非常に長期間にわたる遺伝子発現の可能性を提供する。
【0052】
遺伝子調節カセットを包含する標的遺伝子を担持するプラスミド、YAC、ミニクロモソーム、及びミニサークルを含めたポリヌクレオチドはまた、例えば、担体として陽イオン性脂質、ポリマー、又はその両方を使用した非ウイルスベクターシステムによって細胞又は生物体内に導入され得る。コンジュゲートしたポリ-L-リシン(PLL)ポリマー及びポリエチレンイミン(PEI)ポリマーシステムもまた、ベクターを細胞内に送達するのに使用できる。細胞にベクターを送達するための他の方法としては、細胞培養物と生物体の両方に対し、水圧注射(hydrodynamic injection)及びエレクトロポレーションおよび超音波の使用が挙げられる。遺伝子送達のためのウイルス及び非ウイルス送達システムの総説に関しては、Nayerossadat, N. et al.(Adv Biomed Res. 2012; 1 :27)(参照により本明細書に援用する)を参照のこと。
【0053】
標的遺伝子の発現を調節する方法
【0054】
一態様において、本願発明は、(a)本発明の遺伝子調節カセットを標的遺伝子内に挿入し;(b)遺伝子調節カセットを含む標的遺伝子を細胞内に導入し;そして、(c)該細胞を、アプタマーに結合するリガンドに晒すことによって標的遺伝子(例えば、治療遺伝子)の発現を調節する方法を提供する。一実施形態において、リガンドは小分子である。態様において、標的細胞における標的遺伝子の発現は、それが導入された細胞に所望の特性を与えるか、又はそうでなければ、所望の治療帰結に導く。
【0055】
好ましい実施形態において、遺伝子調節カセットは、(5’又は3’非翻訳領域よりも)標的遺伝子のタンパク質コード配列に挿入される。一実施形態において、単一遺伝子調節カセットは標的遺伝子内に挿入される。他の実施形態において、2、3、4又はそれより多くの遺伝子調節カセットが標的遺伝子に挿入される。一実施形態において、2つの遺伝子調節カセットが標的遺伝子内に挿入される。複数の遺伝子調節カセットが標的遺伝子内に挿入されるとき、それらはそれぞれ、単独のリガンドが、複数のカセットで選択的スプライシングを調節し、それによって、標的遺伝子発現を調節するのに使用され得るように、同じアプタマーを含み得る。他の実施形態において、複数の遺伝子調節カセットが標的遺伝子内に挿入され、それぞれが、複数の異なった小分子リガンドへの曝露が標的遺伝子発現を調節するように、異なったアプタマーを含み得る。他の実施形態において、複数の遺伝子調節カセットが標的遺伝子内に挿入され、そしてそれぞれ、別個の5’イントロン、選択的エクソン、及び3’イントロン配列を含む。これは、組換えを削減し、そして、ウイルスベクター内への取り込みの容易さを改良するのに有用であり得る。
【0056】
治療の方法と医薬組成物
【0057】
本発明の一態様は、遺伝子治療によって送達された治療用タンパク質のレベルを調節する方法を提供する。この実施形態において、「標的遺伝子」は、治療用タンパク質をコードし得る。「標的遺伝子」は、細胞にとって内在性又は外来性であるタンパク質をコードし得る。
【0058】
アプタマー駆動リボスイッチを有する調節カセットを包含する治療用遺伝子配列が、例えば、ベクターによって、体内の標的細胞に送達される。「標的遺伝子」の細胞特異性は、ベクター内のプロモーター又は他のエレメントによって制御され得る。標的遺伝子を包含するベクター構築物の送達、及び調節された標的遺伝子の安定的なトランスフェクションをもたらす標的組織のトランスフェクションは、治療用タンパク質を産生する第1ステップである。
【0059】
しかしながら、標的遺伝子配列内の調節カセットの存在のため、標的遺伝子は有意なレベルで発現されない、すなわち、それは、調節カセットリボスイッチ内に包含されるアプタマーに結合する特異的リガンドの不存在下、「オフ状態」である。アプタマー特異的リガンドが投与されたときにだけ、標的遺伝子発現を活性化する。
【0060】
標的遺伝子を包含するベクター構築物の送達と活性化リガンドの送達は、一般的に、時間が離れている。活性化リガンドの送達は、標的遺伝子が発現される時期、並びにタンパク質の発現レベルを制御する。リガンドは、これだけに限定されるものではないが、経口的、筋肉内(EVI)、静脈内(IV)、眼内、又は局所的を含めた数多くの経路によって送達され得る。
【0061】
リガンドの送達のタイミングは、標的遺伝子の活性化のための要件に依存する。例えば、標的遺伝子によってコードされた治療用タンパク質が常に必要とされる場合、経口の小分子リガンドが毎日又は一日複回、送達されて、標的遺伝子の連続的な活性化とそしてこれによる、治療用タンパク質の連続的発現を確実にする。標的遺伝子に長時間の作用効果がある場合、誘導リガンドは、より低い頻度で投与され得る。
【0062】
本願発明は、調節カセット内のアプタマーに特異的なリガンドの一時的な投薬によって決定される様式で、治療用導入遺伝子の発現が時間的に制御されることを可能にする。リガンド投与に対するだけの治療用導入遺伝子の発現は、リガンドの不存在下で標的遺伝子がオフにできることで、遺伝子治療処理の安全を高める。
【0063】
異なったリガンドが標的遺伝子を活性化することを可能にするために、異なったアプタマーを使用できる。本発明の特定の実施形態において、調節カセットを包含する各治療遺伝子は、特定の小分子によって活性化されるカセット内の特定のアプタマーを有する。これは、各治療遺伝子が、その中に収容されているアプタマーに特異的なリガンドによってのみ活性化されることを意味する。これらの実施形態において、各リガンドは、1種類の治療遺伝子しか活性化しない。このことは、いくつかの別々の「標的遺伝子」が、一個体に送達され得ること、及びそれぞれが各標的遺伝子内に収容された調節カセット内に包含されたアプタマーに特異的なリガンドの送達によって活性化される可能性をもたらす。
【0064】
本願発明は、その遺伝子が身体に送達され得る任意の治療用タンパク質(エリスロポイエチン(EPO)又は治療用抗体など)が、活性化リガンドを送達したときに、身体によって産生されることを可能にする。治療薬タンパク質送達のこの方法は、その後、注射されるか又は注入される、斯かる治療用タンパク質、例えば、癌に使用されるか、又は炎症性疾患若しくは自己免疫疾患を遮断するための抗体、の体外での製造に置き換わり得る。調節された標的遺伝子を包含する身体が生物製剤を製造する工場になり、そしてそれは、遺伝子特異的リガンドが投与されたときに、スイッチが入る。
【0065】
治療用タンパク質の投薬の投与量レベルとタイミングは、治療効果に重要であり得る。例えば、癌に向けたAVASTINR(抗VEGF抗体)の送達においてである。本発明は、治療用タンパク質のレベル及び効果に関する観察に対応した投薬の容易さを高める。
【0066】
一実施形態において、標的タンパク質は、特定のDNA配列を標的化及び編集し得るヌクレアーゼであってもよい。斯かるヌクレアーゼとしては、Cas9、ジンクフィンガー含有ヌクレアーゼ、又はTALENが挙げられる。これらのヌクレアーゼの場合には、ヌクレアーゼタンパク質は、標的内在性遺伝子を編集するために十分な短期間しか必要としない可能性がある。しかしながら、無調節ヌクレアーゼ遺伝子が身体に送達される場合、このタンパク質は、細胞の残りの寿命の間存在する可能性がある。ヌクレアーゼの場合には、より長い間ヌクレアーゼが存在すれば、オフターゲット編集の高い危険性が存在する。斯かるタンパク質の発現調節には、有意な安全上の利点がある。この場合、調節カセットを包含するヌクレアーゼ標的遺伝子を包含するベクターを、体内の適当な細胞に送達できる。標的遺伝子は、カセット特異的リガンドの不存在下で「オフ」状態にあり、そのため、ヌクレアーゼは産生されない。活性化リガンドが投与されたときにだけ、ヌクレアーゼが産生される。十分な編集が起こるのを可能にするのに十分な時間が経過したとき、リガンドは、取り去られ、再投与されない。これにより、ヌクレアーゼ遺伝子は、その後「オフ」状態になり、更なるヌクレアーゼが産生されず、編集が停止する。このアプローチは、CEP290内の変異群によって引き起こされるLCA10及びABCA4内の変異群によって引き起こされるシュタルガルト疾患などの多くの遺伝性網膜障害を含め、遺伝子状態を補正するのに使用され得る。
【0067】
特異的リガンド投与によってのみ活性化される治療用タンパク質をコードする調節された標的遺伝子の投与が、多くの異なったタイプの疾患、例えば、治療用抗体を用いた癌、免疫調節性タンパク質又は抗体を用いた免疫障害、代謝性疾患、調節された遺伝子として抗C5抗体又は抗体フラグメントを用いたPNH、或いは、治療用抗体を用いた目の血管新生、並びに免疫調節性タンパク質を用いた乾燥AMDなどの奇病、を処置するための治療遺伝子を調節するのに使用され得る。
【0068】
さまざまな特定の疾患及び病状の処理を可能にする、さまざまな特定の標的遺伝子が、本発明の使用に好適である。例えば、インスリン又はインシュリン類似物(好ましくはヒトインスリン又はヒトインスリンの類似体)が、I型糖尿病、II型糖尿病、又はメタボリックシンドロームを治療するための標的遺伝子として使用されてもよく;ヒト成長ホルモンが、成長異常に罹患している小児又は成長ホルモン欠乏の成人を治療するための標的遺伝子として使用されてもよく;エリスロポイエチン(好ましくはヒトエリスロポイエチン)が、慢性腎臓病による貧血、骨髄形成異常による貧血、又は癌化学療法による貧血を治療するための標的遺伝子として使用されてもよい。
【0069】
本発明は、例えば、嚢胞性線維症、血友病、筋ジストロフィー症、サラセミア、又は鎌状赤血球貧血などの単一遺伝子欠陥によって引き起こされる疾患を治療するのに特に好適であり得る。よって、ヒトβ-、γ-、δ-、又はζ-グロビンが、β-サラセミア又は鎌状赤血球貧血を治療するための標的遺伝子として使用されてもよく;ヒト第八因子又は第九因子が、血友病A又は血友病Bを治療するための標的遺伝子として使用されてもよい。
【0070】
本発明に使用されるリガンドは、一般的に、患者への投与に好適な医薬組成物を形成するために1若しくは複数の医薬的に許容し得る担体と組み合わせられる。医薬的に許容し得る担体としては、一般的に医薬技術分野で使用される、溶媒、結合剤、希釈剤、崩壊剤、潤滑剤、分散媒、コーティング剤、抗菌剤及び抗真菌剤、等張化剤、及び吸収遅延化剤などが挙げられる。医薬組成物は、錠剤、丸薬、カプセル剤、トローチなどの形態であり得、そして、それらの意図された投与経路に適合できるように処方される。投与経路の例としては、非経口、例えば、静脈内、皮内、鼻腔内、皮下、経口、吸入、経皮(局所)、経粘膜、及び直腸が挙げられる。
【0071】
リガンドを含む医薬組成物が、標的遺伝子を好ましく調節できるのに十分なリガンドの量が患者に送達されるような服薬スケジュールで患者に投与される。リガンドが小分子であり、且つ、投薬形態が、錠剤、丸薬、又は同様のものであるとき、好ましくは、医薬組成物は、0.1mg~10gのリガンド;0.5mg~5gのリガンド;1mg~1gのリガンド;2mg~750mgのリガンド;5mg~500mgのリガンド;又は10mg~250mgのリガンドを含む。
【0072】
医薬組成物は、1日1回投与されても、又は1日に複数回(例えば、1日に2、3、4、5回若しくはそれ以上)投与されてもよい。あるいは、医薬組成物は、1日1回より低い頻度、例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日毎に1回、又は1カ月に1回若しくは数カ月毎に1回、投与され得る。本発明のいくつかの実施形態において、医薬組成物は、例えば、一回、二回、三回といったわずかな回数だけ、患者に投与され得る。
【0073】
本発明は、標的遺伝子によってコードされた治療用タンパク質の発現増加を必要としている患者を治療する方法を提供し、該方法は、アプタマーのためのリガンドを含む医薬組成物を患者に投与することを含み、ここで、該患者は、標的遺伝子を含む組み換えDNAを以前に投与されたことがあり、ここで、該標的遺伝子は、標的遺伝子のプレmRNAを選択的スプライシングし、それによって、治療用タンパク質の発現を増強することによって、アプタマーのリガンドにより標的遺伝子の発現を調節する能力を提供する本発明の遺伝子調節カセットを包含する、方法である。
【0074】
製品とキット
【0075】
本明細書中に記載した方法において使用するためのキット又は製品もまた提供する。態様において、キットは、好適な包装中に(例えば、遺伝子調節カセットを包含する標的遺伝子を含むベクターの送達のための組成物のための)本明細書中に記載した組成物を含む。(注射のための眼組成物などの)本明細書中に記載した組成物のための好適な包装は、当該技術分野で既知であり、例えば(血管、アンプル)が瓶に入れるバイアル(密閉バイアルなど)、ジャー、フレキシブル包装(例えば、密閉Mylar又はポリ袋)などが挙げられる。これらの製品は、更に滅菌及び/又は密封されてもよい。
【0076】
本発明はまた、本明細書中に記載した組成物を含むキットも提供し、そして、本明細書中に記載した用途など、該組成物を使用する方法に対する取扱説明書を更に含んでもよい。本明細書中に記載したキットは、他のバッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び例えば、本明細書中に記載した任意の方法で投与をおこなうための取扱説明書を伴った添付文書を含めた、商業的観点及びユーザーの観点から望ましいその他の物品を更に含んでもよい。例えば、いくつかの実施形態において、キットは、本発明の遺伝子調節カセットを含む標的遺伝子の発現のためのrAAV、注射に好適な医薬的に許容し得る担体、並びに次の:バッファー、希釈剤、フィルター、針、シリンジ、及び注射をおこなうための取扱説明書を伴った添付文書、のうちの1以上を含む。いくつかの実施形態において、キットは、眼内注射、筋肉内注射、静脈内注射などに好適である。
【0077】
「相同性(Homology)」及び「相同(homologous)」とは、本明細書中で使用される場合、2つのポリヌクレオチド配列又は2つのポリペプチド配列の間の同一性の割合を指す。一方の配列と他方の配列との間の一致は、当該技術分野において既知の技術によって決定できる。例えば、相同性は、配列情報をアラインし、そして、容易に入手可能なコンピュータプログラムを使用することによって2つのポリペプチド分子の直接比較により決定できる。あるいは、相同性は、相同領域間で安定した二重鎖を形成する条件下でのポリヌクレオチドのハイブリダイゼーションと、それに続く、一本鎖特異的ヌクレアーゼを用いた消化、そして、消化した断片の大きさの決定によって決定できる。2つのポリヌクレオチド又は2つのポリペプチド配列は、上記の方法を使用して測定した場合に、適切な挿入又は欠失を用いて最適にアラインされた後、それぞれ、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、及び少なくとも約95%のヌクレオチド又はアミノ酸が、規定の分子長にわたって一致すつとき、互いに「実質的に相同である」。
【0078】
基準ポリペプチド又は核酸配列に関する「配列同一性の割合」は、配列のアライン及び必要に応じて、配列同一性の最大の割合を達成するためのギャップ導入後に、基準ポリペプチド又は核酸配列のアミノ酸残基又はヌクレオチドと同一の候補配列のアミノ酸残基又はヌクレオチドのパーセンテージと定義される。アミノ酸又は核酸配列同一性の割合を決定する目的のためのアラインメントは、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを含めた、公的に入手可能なコンピューターソフトウェアプログラムを使用して、当業者に既知の方法によって達成できる。
【0079】
「ポリヌクレオチド」又は「核酸」という用語は、本明細書中で使用される場合、リボヌクレオチド又はデオキシリボヌクレオチドのいずれか、任意の長さのポリマー形態のヌクレオチドを指す。よって、この用語としては、これだけに限定されるものではないが、一本鎖、二本鎖、多重らせんDNA若しくはRNA、ゲノムDNA、cDNA、DNA-RNAハイブリッド、又はプリン及びピリミジン塩基を含むポリマー、或いは他の天然、化学的に若しくは生化学的に改変された、非天然、又は誘導体化ヌクレオチド塩基が挙げられる。
【0080】
「異種の(Heterologous)」又は「外来性(exogenous)」とは、それが比較されるか又はそれが組み込まれるその他の実体とは遺伝子型が異なる実体に由来することを意味する。例えば、遺伝子工学技術によって異種細胞型に導入されたポリヌクレオチドは、異種ポリヌクレオチドである(そして、発現される場合、異種ポリペプチドをコードし得る)。同様に、ウイルスベクターに組み込まれる細胞性配列(例えば、遺伝子又はその一部)は、そのベクターに対する異種ヌクレオチド配列である。
【0081】
本明細書中に開示した発明の原理におけるバリエーションが当業者によって行われる可能性があり、且つ、斯かる修飾が本発明の範囲内に含まれるはずであることが意図されることを理解及び想定すべきである。以下の実施例は、本発明を更に例示するものであるが、どのような形であれ本発明の範囲を制限するものと解釈されるべきではない。本明細書中に引用されたすべての参照文献をそれらの全体として、参照によって本明細書中に援用する。
【実施例0082】
実施例1.調節遺伝子の発現に対するスプライス部位強度の効果
【0083】
実験手順
【0084】
プラスミド構築物:Luci-BsaI-アクセプター:CMVプロモーターを含むDNA断片を、制限酵素SpeI及びNotIによってpHAGE-CMV-eGFP-W(Harvard University)ベクターから切り離し、この断片をSpeI及びNotIで消化したpHDM-G(Harvard University)ベクター内にクローニングした。得られたベクター内のSV40 Ori配列を包含する断片を、BsmI及びBstXIで消化することによって欠失させ、3’オーバーハングを取り除き、そして、連結した。その後のベクターを、部位特異的変異誘導(Agilent)に供し、AmpR遺伝子内のBsaI部位を欠失させた。得られたベクターを、次に、NotI及びBamHIで消化し、NotI-BsaI-BamHI部位を包含する断片に連結して、最終的なLuci-BsaI-アクセプターベクターを作り出した。pHDM-Gを、スプライシングに重要でないと思われる中間部分の欠失を包含するヒトβ-グロビンイントロン2(「IVS2Δ」)の鋳型として使用した(表5、配列番号1を参照のこと)。pGL3-プロモーター(Promega)をホタルルシフェラーゼ遺伝子の鋳型として使用した。構築物8:ルシフェラーゼ遺伝子を、プライマーLuc-For-BsaI及びLuci-Rev-BsaIを使用して、PCRによって増幅した。PCR産物を、BsaIで消化し、BsaIで消化したLuci-BsaI-アクセプターベクター内にクローニングした。イントロン配列の各末端に異なった5’ss及び3’ssを有するイントロンIVS2Δを挿入したルシフェラーゼ遺伝子を発現するスプライシング構築物1~7(Con1~7、配列番号1~7)を、3つのBsaIによって消化したPCR産物をBsaI消化したLuci-BsaI-アクセプター内に連結することによって作製した。pGL3-プロモーターベクターを、ルシフェラーゼ鋳型として使用し、そして、pHDM-Gを、IVS2Δの鋳型として使用した。Con1~7のPCR断片を増幅するのに使用したプライマー対は、以下のとおりである: Con1:Luci-For-BsaI/Luci-スプライス-Rev_1、IVS2-BsaI-For/IVS2-BsaI-Rev_1及びLuci-スプライス-For_1/Luci-Rev-BsaI;Con2:Luci-For-BsaI/Luci-スプライス-Rev_2、IVS2-BsaI-For/IVS2-BsaI-Rev_2、及びLuci-スプライス-For_2/Luci-Rev-BsaI;Con3:Luci-For-BsaI/Luci-スプライス-Rev_3、IVS2-BsaI-For/IVS2-BsaI-Rev_3、及びLuci-スプライス-For_3/Luci-Rev-BsaI;Con4:Luci-For-BsaI/Luci-スプライス-Rev_4、IVS2-BsaI-For/IVS2-BsaI-Rev_1、及びLuci-スプライス-For_4/Luci-Rev-BsaI;Con5:Luci-For-BsaI/Luci-スプライス-Rev_1、IVS2-BsaI-For/IVS2-BsaI-Rev_1及びLuci-スプライス-For_5/Luci-Rev-BsaI;Con6:Luci-For-BsaI/Luci-スプライス-Rev_1、IVS2-BsaI-For/IVS2-BsaI-Rev_1及びLuci-スプライス-For61/Luci-Rev-BsaI;Con7:Luci-For-BsaI/Luci-スプライス-Rev_1、IVS2-BsaI-For/IVS2-BsaI-Rev_1及びLuci-スプライス-For71/Luci-Rev-BsaI。すべての構築物をDNA配列決定によって確認した。
表1.スプライシング構築物(Con1~7)のスプライス部位。イントロン/エクソン境界を||で記した。
【表1】
【0085】
トランスフェクション:3.5×10^4個のHEK293細胞を、トランスフェクション前日に96ウェル-平底プレート内で平板培養した。プラスミドDNA(500ng)を、チューブ又は96ウェル-底プレートに加えた。別々に、TransIT-293試薬(Mirus;1.4μL)を、50μLのOpti-memI培地(Life Technologies)に加え、そして、室温(RT)にて5分間静置した。次に、50μLのこの希釈したトランスフェクション試薬を、DNAに加え、混合し、そして、室温(「RT」)にて20分間インキュベートした。最終的に、7μLのこの溶液を、96ウェルプレート内の細胞のウェルに加えた。
【0086】
培養細胞のホタルルシフェラーゼアッセイ:培地交換の24時間後、プレートを、インキュベータから取り出し、研究室ベンチ内で数分間、RTと平衡にさせ、次に、吸引した。Glo-溶解バッファー(Promega、100μL、RT)を加え、プレートを少なくとも5分間RTのままにした。次に、ウェル内容物を、50μLの粉砕によって混合し、そして、20μLのそれぞれのサンプルを、glo-溶解バッファーで10%に希釈した20μLの透明なglo試薬(Promega)と混合した。96ウェルを乳白色の384ウェルプレート上に間隔をおいて配置した。RTにて5分間のインキュベーションに続いて、発光を、500mSecの読取り時間を用いてTecan機器を使用して計測した。ルシフェラーゼ活性を、平均相対光単位(RLU)±標準偏差として表した。
【0087】
結果
【0088】
スプライシングベースの遺伝子調節プラットフォームを構築するために、発明者らは最初に、(i)目的の遺伝子、この場合、ホタルルシフェラーゼ遺伝子、のコード配列(CDS)内にイントロンを挿入する効果(
図1a)、及び(ii)遺伝子発現に対する様々な5’ss及び3’ssの効果を試験した。各末端に様々な5’ss及び3’ssを有する切断ヒトβ-グロビンイントロン2(IVS2Δ)を、ホタルルシフェラーゼ遺伝子のコード配列内に挿入して、スプライシング効率を試験した。構築物Con8にはIVS2Δイントロンが無く、そして、Con1(配列番号1)には、その本来のIVS2 5’及び3’ss配列を有するIVS2Δがある。構築物Con2~Con7(配列番号2~7)は、表1で列挙した様々な5’及び3’ss配列を伴ったIVS2Δを有する。
図1bに示されるように、ルシフェラーゼ遺伝子内への天然IVS2スプライス部位を伴ったIVS2Δの挿入は、遺伝子発現に影響しなかった(Con1対Con8を比較する)。しかしながら、様々な強度を有するスプライス部位配列でのIVS2ΔのIVS2スプライス部位の置換は、ルシフェラーゼ発現を有意に減少させた。
図1bに示されるように、変更された5’ssを有するCon2及びCon3は、Con1及びCon8と同様の発現レベルを有したが、しかしながら、Con4における5’ssの変化及びCon5からCon7までの3’ss変化は、ルシフェラーゼ発現を有意に低減した(Con4~Con7をCon8と比較する)。そのため、スプライス部位の相違は、標的遺伝子発現に影響する。Con1をさらなる開発のために使用した。
【0089】
実施例2.イントロン-エクソン-イントロンカセット、および、標的遺伝子発現の修飾におけるスプライシングに対するcis-エレメントの効果
【0090】
実験手順
【0091】
推定上のエクソンスプライスエンハンサー(ESE)配列を、ESEfinder3.0を使用して予測した。天然5’ss(DHFR-wt;(表2);配列番号47)、Cに変異させた4つのヌクレオチドを有する天然5’ss(DHFR-wt5ssC;(表2);配列番号48)、Con1(DHFR-Con15ss;表2;配列番号49)又はCon4(配列番号DHFR-Con45ss、配列番号50)からの5’ss配列のいずれかを伴った、イントロンフランキング配列を伴った野性型ヒトジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)エクソン2を合成した(IDT)。DHFRエクソン2内のESE及びエクソンスプライスサプレッサー(ESS)配列の効果を試験するために、様々なDHFRエクソン2変異体を合成した(表2に列挙した)。
【0092】
これらの様々なDHFRエクソン2配列のすべてを、Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用してCon1構築物内のIVS2Δイントロンのほぼ中央にクローニングした。
【0093】
構築物を、DNA配列決定(Genewiz)によって確認した。DNAを、実施例1に記載のとおりHEK293細胞内にトランスフェクトし、そして、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。
表2.DHFRエクソン2を包含する改変スプライス調節配列。下線を引いた配列は、DHFRエクソン2内の改変スプライス調節配列を示す。
【表2】
【0094】
結果
【0095】
野性型ヒトDHFRエクソン2及び隣接したイントロン配列(配列番号8)を、Con1構築物内のIVS2Δイントロンのほぼ中央に挿入した。この形状は、そこで、標的遺伝子のイントロン配列内の外来性エクソンが、選択的エクソンスプライシングを改変することによって標的遺伝子の発現が調節されることを可能にする選択的エクソンとしての役割を果たし得るプラットフォームを作り出す。この形態において(
図2a)、スプライシング事象は、おそらく、標的遺伝子の5’部分とDHFRエクソンとの間、並びにDHFRエクソンと標的遺伝子の3’部分との間に起こり、標的遺伝子mRNA内へのDHFRエクソンの包含をもたらす。DHFRエクソンがmRNA内に含まれたときに、選択的DHFRエクソンがインフレームで存在する未成熟終止コドンを含むので、それによって、ルシフェラーゼ遺伝子発現が低減する。しかしながら、選択的DHFRエクソンの5’ss(すなわち、3’イントロンの5末端のスプライスドナー部位)が変異するか又は利用不可能になり、この部位でのスプライシングを妨げるとき、DHFRエクソンがmRNAから除かれるので、mRNAが効率的に翻訳され、そして、標的遺伝子タンパク質が発現される(
図2a)。
【0096】
発明者らは最初に、変更していないその天然シスエレメント、並びに5’ss配列が強化又は弱化された他の様々なバージョンを用いてDHFRエクソン2のスプライシングを試験した。DHFR_wt作製するためのCon1のイントロン配列内への、天然5’ss及び3’ssを伴ったDHFRエクソン(配列番号8)の挿入は、選択的DHFRエクソンを含まないCon1と比較して、ルシフェラーゼ発現を有意に減少させた。DHFR_wt構築物からの発現は、Con1に比べて116分の一である(
図2b)。
【0097】
DHFRエクソンの5’ssが、非機能性配列(DHFR_wt5ssC;配列番号48)に変異するとき、DHFRエクソンの包含が妨げられ、そして、ルシフェラーゼ発現は、Con1のレベルに回復した(
図2aII、2b、2c)。
【0098】
DHFRエクソンの5’ssがより強力な5’ss、この場合、Con1から5’ss(DHFR_Con1 5ss;配列番号49)で置換されたとき、DHFRエクソンの包含が増強され、Con1と比べて、ルシフェラーゼ遺伝子発現の545分の1への減少につながった(
図2b)。しかしながら、Con4から弱い5’ssを使用したとき(DHFR_Con4 5ss;配列番号50)、DHFRエクソンは含まれず、そして、ルシフェラーゼ発現は増強される(
図2b)。
【0099】
エクソンスプライシングエンハンサー(ESE)又はサプレッサー(ESS)エレメントは、スプライシングにおいて決定的役割を担っており、そして、それらの機能は状況に依存することが多い。DHFRエクソン内に配置された推定上のスプライシング調節配列の効果を試験した。推定上のスプライシングエンハンサー、DHFRエクソン内に位置しているSRp40結合部位が変異したとき(表2、DHFR_mtSRp40;配列番号51)、DHFRエクソンの包含は劇的に高められ、Con1と比較して、ルシフェラーゼ発現の2982分の一の減少をもたらした(
図2c、DHFR_wtおよびDHFR_mtSRp40)。
【0100】
別のスプライシングエンハンサー、(ESEファインダーによって予測した)DHFRエクソン内のSC35結合部位が、より強力なSC35結合配列(表2、DHFR_StrSC35、配列番号52)へと変異したとき、DHFRエクソンの包含が高められ、Con1と比較して、139分の一にルシフェラーゼ発現を減少させた(
図2c、DHFR_wtStrSC35)。これは、天然DHFRエクソン(DHFR_wt、
図2b)を包含する構築物を用いて見られたものよりもわずかに大きい減少である。
【0101】
スプライシングエンハンサー、SC35結合部位がスプライシングインヒビター(hnRNP A1結合部位)(表2、DHFR_wtSC35hnRNPA1、配列番号53)に変異したとき、DHFRエクソンの包含は、増強したルシフェラーゼ発現を導く効果が低かった(
図2c、DHFR_wtとDHFR_wtSC35hnRNPA1)。
【0102】
標的遺伝子、この場合はルシフェラーゼの発現を、選択的エクソン、この場合インフレームで存在する終止コドンを包含する選択的DHFRエクソン、の包含又は排除によって、オンかオフに切り換えられるイントロン-エクソン-イントロンカセットを作製した。選択的エクソンの包含をもたらすスプライシングが、遺伝子発現を低減する一方で、スプライシングが選択的エクソンを排除したとき、遺伝子発現は増強された。選択的エクソン5’ss、又はスプライシングを改変するエクソン内の配列の強さ又は弱さが、外来性エクソンの包含又は排除に対するそれらの影響を介して、標的発現のレベルを変化させる。
【0103】
実施例3.標的遺伝子発現の調節に対する選択的エクソン5’スプライス部位におけるヘアピン形成の効果
【0104】
実験手順
【0105】
5’ssがヘアピン構造内に埋め込まれた、天然3’及び5’ss配列を伴ったDHFRエクソン2を包含する配列を合成し(IDT)、そして、Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用して、示したベクター内にクローニングニングした。実施例1に記載のとおり、構築物をHEK293細胞内にトランスフェクトし、そして、ルシフェラーゼ活性についてアッセイした。
【0106】
結果
【0107】
発明者らは、ヘアピンステム構造内へのDHFRエクソンの5’ssの埋め込みが、スプライシング及び選択的DHFRエクソンの包含に対して影響する可能性があるか、そして、これにより標的遺伝子発現が変化するか否かを試験した(
図3aに例示した)。
【0108】
Con1 5’スプライス部位(DHFR_Con15ss;配列番号49)配列を伴った選択的DHFRエクソンの包含は、Con1(
図3c、DHFR_Con15ss)と比較して、ルシフェラーゼ発現を無効にした。5’ssの全配列を埋め込んだ15塩基対(bp)のヘアピン構造を、DHFR_Con 15ss内に設計して、DHFR_Con 15ss_HP15(配列番号54)を作製した(
図3a)。15bpのヘアピン構造の存在が、Con1レベルまでルシフェラーゼ発現を完全に回復し、ヘアピンが5’ssのアクセシビリティを無効にし、それによって、選択的DHFRエクソンの包含を無効にした(
図3c、Con1、DHFR_Con15ssとDHFR_Con15ss_HP15)。
【0109】
対照的に、「壊れたステム(broken stem)」を有する15bpのヘアピン(
図3b、Con15ss_15HPx、配列番号55)は、ルシフェラーゼ発現を回復できず(
図3c、DHFR_Con15ss_HP15x)、完全なステムが、5’スプライス部位のアクセシビリティを調節し、それによって、選択的エクソンの包含又は排除を決定する際のRNAの二次構造に重要な成分であることを示唆している。
【0110】
同じ実験を、増強されたスプライシング効率を有する変異SRp40結合部位を伴ったDHFRエクソンを含む構築物を使用して実施した(DHFR_wtmtSRp40、実施例2を参照のこと)。ヘアピン内へ5’ssを埋め込むことで、ルシフェラーゼ発現は回復したが、その一方で、ヘアピンを壊すことは、ルシフェラーゼ発現をブロックした(
図3c、DHFR_wtmtSRp40、DHFR_wtmtSRp40H_P15、及びDHFR_wtmtSRp40_HP15x)
【0111】
よって、ヘアピン構造内への選択的エクソンの5’ssの埋め込みは、その5’ssのアクセシビリティを妨げ、それによって、mRNA内への選択的エクソンの包含を妨げ、そして、標的遺伝子タンパク質の発現を可能にすることによって標的遺伝子発現を回復させることができる。標的遺伝子タンパク質の発現が、二次RNA構造を介して外来性選択的エクソンの5’ssの利用可能性を変更することによって調節することができる、遺伝子発現プラットフォームを作製した。
【0112】
構築物DHFR_wtmtSRp40(配列番号58)(以降、「mtDHFR」とも呼ぶ)を、更なるリボスイッチ開発のために使用した。
【0113】
実施例4.選択的スプライシングを介して標的遺伝子発現を調節するためのテオフィリンアプタマーの使用
【0114】
実験手順
【0115】
様々な長さを有するヘアピンステムに結合したアプタマー配列のクローニングを容易にするために、DHFR-アクセプターベクターを構築した。使用したテオフィリンアプタマー配列は:ggcgatacCAGCCGAAAGGCCCTTGgcagcgtc(配列番号9)であった。5’末端に4ヌクレオチドのオーバーハングを有するテオフィリンアプタマーオリゴヌクレオチド(「oligos」)を合成し(IDT)、アニーリングし、BsaIで消化したDHFR-アクセプターベクターに連結した。実施例1に記載のとおり、テオフィリンアプタマーを包含する調節カセット伴ったルシフェラーゼレポーター構築物で、HEK293細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後に、培地を吸引し、そして、3mMのテオフィリンを含む又は含まない新しい培地を加え、そして、テオフィリン処理の20~24時間後に、ルシフェラーゼをアッセイした。誘導倍率を、アプタマーリガンド存在下で得られたルシフェラーゼ活性をアプタマーリガンド不存在下で得られた値で割った商として表した。ルシフェラーゼ活性のレベルを、ルシフェラーゼ遺伝子のCDS内にIVS2ΔイントロンがないCon1構築物によって産生されたルシフェラーゼ活性のレベル(最大発現と見なされる)のパーセントとして表した。
【0116】
結果
【0117】
終止コドン包含選択的エクソンの5’スプライス部位のアクセシビリティを調節し、それによって、標的遺伝子タンパク質の発現を調節するために、アプタマー配列を、DHFR5’ssのイントロン部分及びその相補配列を埋め込んだヘアピン構造のステムに取り付けた。この形態において、アプタマー配列の挿入は、ヘアピンステムの形成を妨げ、DHFR5’ssをアクセス可能なままにし、これにより、選択的DHFRエクソンの包含をもたらし、そして、標的遺伝子タンパク質の発現を妨げる(
図4a)。
図4bで示したように、アプタマー/リガンド結合が起こるとき、リガンド結合によって引き起こされるアプタマーの構造変化が、安定したステム形成のためにDHFR5’ssとその相補的配列がまとまり、これにより、DHFR5’ssを隠し、DHFRエクソンを排除し、そして、標的遺伝子タンパク質の発現をもたらす。
【0118】
テオフィリンアプタマーの弱いステムをヘアピンステムに直接連結することによって、テオフィリンアプタマーを試験した(
図4c、DHFR_Theo1)。ステムが長過ぎる場合、それは、アプタマー/リガンド結合の不存在下で安定した構造を形成し得るが、それに対して、短すぎる場合、それは、リガンドの存在下であっても、安定したステムを決して形成しない。そのため、安定した二次構造がアプタマー/リガンド結合に対してのみ形成されるように、ステムの長さが最適化される必要がある。リガンドの存在下ではステム形成を可能にするが、リガンドの不存在では形成されない、最適なステム長を決定するために、テオフィリンアプタマーをmtDHFR(実施例2の表2に記載)内にクローニングし、一連のステムの切断(truncation)を実施した、多くの構築物を作製した。
図4cは、この一連の切断の4種類の構築物を示す。
【0119】
図4dは、テオフィリンの存在又は不存在下、この欠失シリーズの構築物からのルシフェラーゼの発現を示す。20bpから下は9bpまでのステム長を有するテオフィリン1からテオフィリン12までの構築物では、ステム長は、アプタマー/リガンド結合の不存在下でさえ安定した二次構造を形成するのに十分であった。これにより、ルシフェラーゼ発現が、テオフィリンの存在下及び不存在下の両方で、Con1と同様のレベルが見られた。
【0120】
構築物DHFR_Theo13では、ルシフェラーゼ発現は、テオフィリンの不存在下で抑制された。これは、選択的DHFRエクソンの包含及び遺伝子発現の抑制につながる、mtDHFRエクソン5’ssの利用可能性を示す。しかしながら、テオフィリンの存在下、ルシフェラーゼ発現がオンに切り替えられ、テオフィリンを用いない発現レベルの43倍、及びCon1対照ベクターによって発現されるルシフェラーゼレベルの約56%の誘導をもたらした。そのため、アプタマーリガンド、テオフィリンの存在下で標的遺伝子タンパク質の発現を有効にする、哺乳類のオン-リボスイッチが作製された。
【0121】
実施例5.選択的スプライシングを介して標的遺伝子発現を調節するためのxptグアニンアプタマーの使用
【0122】
実験手順
【0123】
以下の配列:
cactcatataatCGCGTGGATATGGCACGCAAGTTTCTACCGGGCACCGTAAATGTCcgactatgggtg(配列番号10)
を有するXpt-グアニンアプタマーを、リボスイッチを構築するのに使用した。グアニンアプタマー及び4ヌクレオチドの5’オーバーハングを有するヘアピンステムの配列を含むOligosを合成し(IDT)、アニーリングし、次に、BsaIで消化したDHFR-アクセプターベクターに連結した。実施例1に記載のとおり、HEK293細胞をトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後に、培地を吸引し、500μΜのグアニンを含む又は含まない新しい培地を加えた。グアニン処理の20~24時間後に、実施例1及び実施例4に記載のとおり、ルシフェラーゼ発現をアッセイした。HepG2、AML12、RD、及びC2C12(ATCC)を、ATCCによって推薦されたプロトコールを使用して培養した。xpt-G17リボスイッチ(配列番号15)を包含するイントロン-エクソン-イントロンカセットを、Gibsonクローニングストラテジー(NEB)を使用して、抗KDR抗体遺伝子のリーダーペプチド配列及びマウスエリスロポエチン遺伝子内のStuI部位内に挿入した。マウスエリスロポイエチン(Epo)又は抗KDR抗体を含む構築物を、HEK293細胞内にトランスフェクトした。トランスフェクションの4時間後に、培地を吸引し、500μΜのグアニンを含む又は含まない新しい培地を加えた。上清を、抗KDR抗体の産生又はマウスEpoの産生のいずれかに関するELISAアッセイ(R&D Systems)に供した。
【0124】
結果
【0125】
選択的スプライシングのアプタマー媒介性調節によって標的遺伝子発現を制御するための追加のアプタマー/リガンドの使用を、バチルス・ズブチリス(Bacillus subtilis)由来のxpt-グアニンアプタマーをステムPIからヘアピンステムまで取り付けることによって試験した(
図5a、DHFR_G1)。実施例4と同様に、18種類の構築物を、
接続ステムの一連の切断によって作製し(
図5a及び5b、DHFR-G1~G18、調節カセットを包含したxpt-G1~G18とも呼ばれる)、グアニンアプタマーに関して最適な長さのヘアピンステムを得、これにより、アプタマー/リガンド結合の連絡が5’ssアクセシビリティとエクソンスプライシングを可能にした。
図5bに示されるように、24bpから下は12bpまでのステム長を有する、構築物DHFRG1~G13によると、ルシフェラーゼ発現は、アプタマーリガンドであるグアニンの存在又は不存在下、選択的DHFRエクソン及びxpt-グアニンアプタマーの挿入の影響を受けない。このことは、ステムの長さが、リガンドの不存在下と存在下の両方で安定した構造を形成するのに十分であり、mRNA内への選択的エクソンの包含を妨げること示唆する。しかしながら、構築物DHFR_G14~DHFR_G18では、ルシフェラーゼ発現は、追加グアニンの不存在下で抑制された。μΜのグアニンを加えたとき、これらの構築物からのルシフェラーゼ発現が誘導された(
図5b)。
【0126】
構築物G11~G18の更なる厳格な確証は、グアニン処理によるルシフェラーゼ発現の明らかな調節を再び示した(
図5c)。xpt-G17(配列番号15)(
図5a)を包含するDHFR_G17構築物は、発現の2000倍の誘導を示し、Con1(最大発現と見なされる)によって発現されたルシフェラーゼレベルの約65%をもたらした。誘導のこの高いダイナミックレンジは、リガンドの不存在下での非常に低い非誘導ベースラインレベルの発現の活性化からもたらされた。構築物DHFR_G16(
図5a)は、非誘導ベースライン発現に対して約800倍の誘導を生じ、最大発現の83%のレベルであった(
図5cと5d)。加えて、構築物DHFR_G14及びG15は、ルシフェラーゼのより高い非誘導ベースライン発現により低い誘導倍率で、最大発現の約100%を示した。
【0127】
イントロン-エクソン-イントロンカセット内の合成リボスイッチの全般的な機能性及び適用可能性を試験するために、発明者らは、構築物(DHFR_G17)を包含するxpt-G17を複数のヒト及びマウス細胞株にトランスフェクトした。これらの様々な細胞株では、グアニン処理は、HepG2細胞では500倍超の誘導で、他の細胞株では低い誘導倍率で、遺伝子発現の有意な誘導を生じた(
図5e)。様々な細胞株における様々な誘導倍率は、トランスフェクション効率、並びに細胞型に特有のスプライシング調節物質の発現プロファイルの違いを反映している可能性がある。更に、xpt-G17リボスイッチ(DHFR_G17)を包含する調節カセットを伴うルシフェラーゼ遺伝子は、AAV骨格に移入されたとき(
図5f)、同じレベルの誘導を得、遺伝子調節効果がベクター骨格に依存していないことを示した。
【0128】
ルシフェラーゼ遺伝子の調節に加えて、xpt-G17包含調節カセットはまた、分泌タンパク質、抗KDR抗体及びエリスロポイエチン(Epo)調節においても試験した。xpt-G17包含調節カセットを、抗KDR抗体及びエリスロポイエチンのコード配列内に挿入した。
図5g及び5hに示されているように、グアニン処理は、リガンド不存在下の細胞からのそれぞれの分子の産生と比較して、抗のKDR抗体産生における80倍の誘導及びEpo産生における140倍の誘導をもたらした。
【0129】
これらの結果は、AAV介在性遺伝子送達における潜在的治療標的遺伝子のタンパク質発現調節、及びこの遺伝子調節カセットの適用における全般的な機能性及び適用可能性を実証する。これにより、発明者らは、哺乳動物細胞内でのアプタマー特異的リガンドの存在に対応した標的遺伝子タンパク質発現に対してスイッチングが可能である合成哺乳類「オン」-リボスイッチを作り出した。
【0130】
実施例6.様々なプリンアプタマーを、選択的スプライシングを介して標的遺伝子発現を調節するのに使用し得る。
【0131】
実験手順
【0132】
表3で列挙した以下のアプタマー配列を、リボスイッチを構築するのに使用した:
表3
【表3】
【0133】
結果
【0134】
発明者らの遺伝子調節システムにおいて追加アプタマーを試験するために、発明者らは、様々なグアニン及びアデニンアプタマーをイントロン-mtDHFR-イントロンカセットに連結することによって複数のグアニン及びアデニン応答性リボスイッチを作り出すために、先の実施例に記載と同じストラテジー及び方法を使用した(
図6a)。試験したグアニンリボスイッチは、グアニンに対応してルシフェラーゼ遺伝子の発現を効率的に調節した(
図6b)。更に、発明者らは、これらのグアニンリボスイッチが、グアニン(
図6b)だけではなく、グアノシン(
図6c)、及び2デオキシグアノシン(2’dG)(
図6d)にも応答して標的遺伝子の発現を調節したことを発見した。
【0135】
多数のアデニンリボスイッチ(
図6a)を作り出し、そしてまた、遺伝子調節機能性も実証した(
図6e)。
【0136】
試験した構築物を包含する様々なアプタマーの遺伝子発現調節における相違は、5’ssのアクセシビリティ、選択的エクソンの包含、そのため、標的遺伝子発現に影響し得るアプタマー/リガンド結合親和性及びアプタマー二次構造における相違を反映している可能性がある。イントロン-エクソン-イントロン遺伝子調節カセットは、所望のレベルの遺伝子調節を達成するためにアプタマー配列を変更することによって最適化できる。
【0137】
実施例7.哺乳類のグアニンリボスイッチによって調節される標的遺伝子発現のオン/オフの状況
【0138】
実験手順
【0139】
イントロン-mtDHFR-アプタマー-イントロンカセットを、PCR増幅し、Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用してpEGFP-C1ベクター内にクローニングした。リボスイッチを用いてEGFPを安定して発現する細胞株を入手するために、HEK-293細胞を、20ngのプラスミドDNAを用いてエレクトポレーション処理した。エレクトロポレーションの48時間後に、細胞培養物を、カセットを安定して発現する細胞について、800μg/mlのG418を用いて2週間選別した。細胞をトリプシン処理し、そして、細胞懸濁液を、Guava EasyCyte 8HT機器を使用してGFP蛍光強度のフローサイトメトリー解析に供した。得られたデータを、GuavaSoft2.2.2を使用して分析した。
【0140】
結果
【0141】
発明者らのイントロン-エクソン-イントロン調節カセットを包含する標的遺伝子の発現が、リボスイッチ内に包含されたアプタマーに特異的なリガンドへの曝露によって調節できることを更に実証するために、xpt-G17リボスイッチ(配列番号15)を含むイントロン-mtDHFR-イントロンカセットを、EGFP遺伝子内に挿入し、HEK293細胞を安定的にトランスフェクトした。グアニンの存在下、EGFP発現はオンに切り替えられた(
図7a)。蛍光は、グアニン処理後6時間にはもう検出され、3日間のグアニン処理を通じて増加し、そして、未処理細胞と比較して、300倍近い誘導に達し(
図7b)、そして、アプタマーリガンドの存在下で標的遺伝子発現の「オン」状態を示した。グアニンが細胞培養から取り除かれたとき、EGFP発現は減少し、そして、アプタマー特異的リガンドの不存在下での標的遺伝子発現の「オフ」状態を示した(
図7b)。これにより、発明者らは、それによって哺乳動物細胞内における標的遺伝子の発現が、特異的アプタマーリガンドの存在又は不存在によって調節される、合成リボスイッチを包含するイントロン-エクソン-イントロンカセットを含んだ遺伝子調節プラットフォームを作製した。
【0142】
実施例8.標的遺伝子発現の調節に対する複数の調節カセットの効果
【0143】
実験手順
【0144】
Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用して、構築物を作製した。HEK293細胞を示した構築物でトランスフェクトし、トランスフェクションの4時間後に、500μΜのグアニン又は1mMのグアノシン(Sigma)で処理した。ルシフェラーゼ活性を、実施例5に記載のとおりアッセイした。
【0145】
結果
【0146】
調節カセット(DHFR_G15、実施例5)を包含するxpt-G15(配列番号46)を伴った構築物は、非誘導のベース発現レベルと比較して、グアニン処理に応答してルシフェラーゼ発現の60倍の誘導を示し、そして、Con1によるルシフェラーゼ発現のレベルの約100%に達した(
図8a)。これは、高レベルで必要とされる治療用タンパク質を調節するときに、有用な特徴である。
【0147】
対照的に、調節カセット(DHFR_G17)を包含するxpt-G17を伴った構築物は、低い非誘導ベースライン発現のせいで、2181倍のかなり高い誘導倍率を有したが、Con1と比較して、誘導による最大発現レベルはかなり低かった(
図8a)。
【0148】
2コピーのxpt-G15を包含する調節カセット(xpt-G15ダブル;配列番号64)が、誘導による最大ルシフェラーゼの最大発現レベルを下げることなく、発現の基礎レベルを低減できるか否かを試験するために、2コピーのxpt-G15を包含する調節カセットをルシフェラーゼ遺伝子内に埋め込み、各コピーを該遺伝子配列内の別の場所に埋め込んだ。2コピーのxpt-G15を包含する調節カセットが存在するとき、非誘導ベースライン発現は減少し、最大発現レベルを下げることなく、かなり高い誘導倍率(60倍~1008倍)をもたらした(
図8a)。
【0149】
xpt-G15ダブルカセット(xpt-G15ダブル;配列番号64)に関するグアニンのEC50は、単一コピーのよりストリンジェントなxpt-G17包含カセットを包含する構築物に関するグアニンのEC50と比べて、5分の一であり(43μΜ対206μΜ)、これにより、リガンド応答の感度は増強された(
図8a)。
【0150】
誘導倍率及び最大誘導遺伝子発現を高めるために、2コピーの低ストリンジェント調節カセットを使用するストラテジーを、EGFP遺伝子にも適用した。
図8b及び8cに示されるように、ルシフェラーゼ調節の結果と一致して(
図8a)、EGFP遺伝子(EGFP-xpt-G15)内の単一コピーのxpt-G15調節カセットは、構築物(EGFP-xpt-G17)を包含するxpt-G17調節カセットと比較したときに、EGFP発現のより高い非誘導ベースラインレベルを作り出した。しかしながら、2コピーのxpt-G15調節カセットを、別の配置にてEGFP遺伝子内に挿入したとき(EGFP-xpt-G15ダブル)、非誘導ベースライン発現レベルは、xpt-G17のレベルまで減少し、同時に、EGFPの誘導レベルは、Con1-EGFP対照より高くさえあった(
図8c)。
【0151】
更に、1コピーのxpt-G17を包含する調節カセットと1コピーのYdhl-A5アデニンリボスイッチを包含する調節カセットを、ルシフェラーゼ遺伝子内に埋め込んだ。ルシフェラーゼ発現は、アデニンの添加(25倍)又はグアニンの添加(120倍)のいずれか単独で誘導されたが、しかしながら、有意に高いレベルの誘導は、それぞれそれらが使用した最高濃度でのアデニンとグアニンの併用を用いて達成された(最高2966倍)(
図8d)。これらの結果は、標的遺伝子発現の調節における選択的スプライシングベースのリボスイッチのモジュール性を実証する。
【0152】
遺伝子組み換えを減らし、且つ、2以上の調節カセットを包含するウイルスベクターの製造の容易さを高めるために、様々なイントロン及びエクソン配列を伴った調節カセットを、単一の標的遺伝子に使用され得るので、これらは、同一又は異なるガンド応答性アプタマーを含み得る。
【0153】
実施例9.アプタマー媒介性選択的スプライシングを介した標的遺伝子発現調節に対するイントロンサイズ及び配列の効果
【0154】
実験手順
【0155】
Con1構築物を、上流又は下流イントロン欠失のいずれかを有するイントロン断片のPCR増幅のための鋳型として使用した。単一のイントロン欠失を有する構築物を作り出すために、PCR産物を、Golden Gateクローニングストラテジー(NEB)を使用してxpt-G17リボスイッチを包含する構築物内にクローニングした。上流及び下流イントロン欠失の両方を有する構築物を作り出すために、下流イントロン配列内に単一の欠失を有する構築物からEcoRIとBamHIによって切り離した断片を、上流イントロン配列内に単一の欠失を有するEcoRIとBamHIで消化した構築物内にクローニングした。
【0156】
結果
【0157】
イントロンは、エクソンスプライシングを促進し得る(イントロンスプライシングエンハンサー、ISE)又は抑制し得る(イントロンスプライシングサプレッサー、ISS)エレメントを包含する。発明者らが作り出したすべてのリボスイッチの中で、xpt-G17が、誘導倍率及び誘導された遺伝子発現レベルの両方に関して最高の調節能力を実証した。イントロン-エクソン-イントロンカセットでxpt-G17リボスイッチを使用して、発明者らは、システムを更に最適化するために、イントロン配列及びイントロンの長さ、並びにスプライス部位において一連の修飾をおこなった。
【0158】
最初に、イントロン修飾の効果を、mtDHFRエクソンの上流又は下流のいずれかのイントロン配列内に単一の欠失を導入することによって試験した(
図9a、9b)。リボスイッチを包含するxpt-G17を伴った16種類の構築物、xpt-G17-IR-1~xpt-G17-IR-16(これらの構築物のうちの13個の配列を表5、配列番号16~28に示す)を作製した。次に、
図9cで示したように、上流及び下流イントロン欠失を組み合わせて、より大きいイントロン欠失を作り出した。
図9d及び9eに示されるように、2つのイントロン欠失(2IR)で作製した16種類の構築物、構築物2IR-1~2IR-10(配列番号29~38)は、ルシフェラーゼの誘導発現レベルを下げることなく、有意に高い誘導倍率を示し、2IR-3に誘導倍率の最大の改善があった(4744倍)。加えて、発明者らはまた、mtDHFRエクソンの上流に変異3’ssを有する構築物も作製し、そしてまた、下流イントロンのサイズも減少させた。
図9d及び9e(構築物DHFR_3ssC_1~5)に示されるように、これらの改変は、相対誘導倍率を更に改良したが、それにもかかわらず、この場合、誘導された発現のレベルの低減が観察された(3ssC_3に関して64%から32%へ)。
【0159】
これらの結果は、イントロン-エクソンアプタマー-イントロンカセットの遺伝子調節能力が、所望のレベルの遺伝子調節を達成するために選択的エクソンに隣接したイントロン配列を改変することによって最適化され得ることを示す。
【0160】
実施例10.遺伝子調節カセットにおける複数の天然エクソン並びに合成エクソンの使用
【0161】
実験手順
【0162】
変異ヒトWilms腫瘍1エクソン5(mutWT1-e5、配列番号61)、SIRT1エクソン6(SIRT1-e6、配列番号62)、マウスカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼIIデルタエクソン16、又は17(Camk2d-e16又はe17、配列番号59、60)、及び合成エクソンENEEE(配列番号63)の配列を合成し(IDT)、Gibsonクローニングキット(NEB)を使用して、DHFRエクソンの代わりにDHFR-G17ベクター内にクローニングした。プラスミドDNAをHEK293細胞内にトランスフェクトし、500μΜのグアニンによって処理し、そして、ルシフェラーゼアッセイを、実施例1に記載の通り行った。5’及び3’スプライス部位を有するそれぞれのエクソンの配列は、大文字のエクソン配列と共に示されている(表5、配列番号59~63)。
【0163】
結果
【0164】
発明者らのイントロン-エクソン-アプタマー-イントロンカセットの調節機能が特定のエクソン配列に制限されないことを確認するために、発明者らは、グアニンxpt-G17リボスイッチ(DHFR-xpt-G17)を包含する構築物内のmtDHFRエクソンを、複数の様々な天然及び変異エクソン、並びに既知のエクソンスプライスエンハンサー配列(ESE)を包含する合成エクソンで置換した。
図10に示されているとおり、CamkIId-e16エクソンを伴った調節カセットは、DHFR-xpt-G17と比較して、ほとんど同等な誘導倍率を生じたが、ベース及び誘導ルシフェラーゼ発現の両方で低レベルであった。他のエクソンを包含するカセットもまた、ベース及び誘導ルシフェラーゼ発現の両方で変わりやすいレベルを示した。これにより、アプタマー媒介性選択的スプライシング遺伝子調節カセットは、エクソン特異的でなく、またmDHFR-e2エクソンに限定されない。
【0165】
効果的な選択的スプライシング事象を作り出すことができるエクソンは、アプタマー介在性遺伝子調節カセットに好適である。これらの結果は、このイントロン-エクソンアプタマー-イントロンカセットの遺伝子調節能力が、選択的エクソン内の配列、並びに周囲のイントロン配列、例えば、選択的エクソンの5’ss及び3’ss配列のスプライシング強度、並びに本明細書中に記載の選択的エクソン内のESE及びESS配列、を改変することによって最適化できることを更に示す。
【0166】
実施例11.マウスのin vivoにおけるアプタマー媒介性選択的スプライシングによる標的遺伝子発現の調節
【0167】
実験手順
【0168】
水圧DNA送達(Hydrodynamic DNA delivery)と薬物療法:生理的食塩水(Qiagen Endofreeキット)中に希釈した、2コピーのxpt-G15を包含する調節カセット(xpt-G15ダブル、配列番号64、実施例8、
図8a)を伴ったルシフェラーゼ遺伝子を包含するエンドトキシン不含プラスミドDNA5μg又は10μgを、6~7週齢のCD-1雌マウスに5~10秒かけて10%体重の体積で尾静脈を通して注射した。グアノシン(Sigma)を、水中の0.5%のメチルセルロース/0.25%のTween80(Sigma)中に新たに懸濁し、そして、DNA注射後2時間又は12時間に経口投与されるか、又はDNA送達後、5時間、12時間、16時間、及び24時間に腹腔内注射(IP)によって送達された。
【0169】
非侵襲性の生きた動物の生物発光造影:造影前に、マウスを、2%のイソフルランで麻酔し、150gm/kg体重のルシフェリンを注射し、そして、ルシフェリン注射後2~5分以内に、DNA注射後の示された時点にてBruker Xtremeシステムを使用して像を撮影した。ルシフェラーゼ活性を平均光子/秒±s.dとして表した。誘導倍率を、グアノシンで処理したマウスで得られた光子/秒を、グアノシン処理なしのマウスで得られた値で割った商として計算した。
【0170】
結果
【0171】
発明者らは、in vivoにおいてマウスにおけるイントロン-エクソン-イントロン調節カセットの遺伝子調節機能を評価した。ルシフェラーゼ遺伝子内に2コピーのxpt-G15リボスイッチを包含する構築物(xpt-G15ダブル)のエンドトキシン不含プラスミドDNAを、水圧注射によってマウスの肝臓に送達し、そして、グアノシンを腹腔内に投与した。発明者らは、グアノシン送達の2つの経路を試験した。1つの実験(
図11a及び11b)では、マウスに、DNA送達後2時間と12時間で様々な用量のグアノシンを経口的に投与し、次に、撮影した。
図11aに示されるように、グアノシンによって処理したマウスは、DNA後9時間により高いルシフェラーゼ発現を示した。グアノシン処理したマウスにおけるルシフェラーゼ発現は、徐々に増加し、そして、DNA注射後48時間に最高レベルに達し、その後、発現は減少した。
【0172】
別々の実験で(
図11c及び
図11d)、グアノシンを腹腔内に投与した。DNA注射(P.I.)の4時間後、及び、グアノシン処理前に、各群のマウスは同様のレベルのベースのルシフェラーゼ活性を示した(
図11)。次に、マウスを、対照としてのビヒクル又はグアノシンのいずれかによって処理した。P.I.の11時間で、すべてのマウスでルシフェラーゼ活性が増加し、ルシフェラーゼ遺伝子発現は、肝臓におけるDNA水圧注射後12時間でピークに達するという報告と一致した。しかしながら、グアノシンによって処理したマウスでは、未処理のマウスのそれと比較して、有意に高いレベルのルシフェラーゼ発現があり、非誘導ベースライン発現と比較して、4.7倍及び16.2倍の誘導が、それぞれ100mg/kg及び300mg/kgのグアノシンによって見られた。
【0173】
これにより、スプライシングベースの遺伝子調節カセットは、調節カセット内に包含されたアプタマーに特異的なリガンドの投与に対応して、用量依存様式で、動物体内のin vivoにおいて遺伝子発現を調節することが示された。
【0174】
実施例12.アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを介したマウス網膜へのリボスイッチ構築物の送達
【0175】
実験手順
【0176】
AAVプラスミド構築物:(以下の表に記載の)2つのリボスイッチ発現構築物を、AAVゲノムとしてパッケージできる形式に分子クローニングによって適合させた。
表4
【表4】
【0177】
EGFP導入遺伝子を中心にベースとした発現構築物(GTX5~7)を、制限酵素MfeIとNheIで消化し、リボスイッチ誘導性エレメント及びEGFP導入遺伝子を包含する~1400bpのDNA断片を切り離した。pD10 AAVゲノムプラスミドもまた、MfeIとNheIで消化し、AAV ITRs、CMVプロモーター、及びSV40ポリアデニル化シグナルを包含する4475bpの断片を切り離した。2つの断片を、T4 DNAリガーゼを使用して連結し、AAV2ゲノムとしてパッケージされることが可能である、以下の構造:
[ITR]-[CMV]-[5’EGFP]-[リボスイッチエレメント]-[3’EGFP]-[SV40]-[ITR]
を有するプラスミド包含配列をもたらす。
【0178】
得られたプラスミド構築物すべてを、DNA配列決定によって確認し、そして、以下の規則に従って命名した:pD10-GTX#
【0179】
AAVベクター製造と力価測定(titration):アデノ随伴ウイルス(AAV)を、3つのプラスミドを用いたHEK-293T細胞の一過性トランスフェクションによってin vitroにおいて製造した。
(i)pD10骨格ベースのウイルスゲノムプラスミド。
(ii)AAV2 Rep78遺伝子及びウイルスカプシド遺伝子を包含するAAVパッケージングプラスミド。多くの様々なAAV血清型が、カプシド遺伝子配列を変更することによって作製され得るが、本ケースの場合、AAV8カプシドを使用した。
(iii)ヘルパープラスミド(pHGTI-Adeno1)。このプラスミドは、AAVがパッケージ及びアッセンブルを必要とするアデノウイルス遺伝子のほぼ最小限のセットを提供する。
【0180】
これらのプラスミドを、1:1:3の比でHEK-293T細胞内にトランスフェクトし、150cm2プレートの80~90%コンフルエントあたり、合計50μgのプラスミドDNAをトランスフェクトした。典型的な製造作業は、斯かるプレート20枚から行った。使用したトランスフェクション試薬は、ポリエチレンイミン(PEI)であり、2.25:1(w/w)のPEI対DNA比であった。トランスフェクションの72時間後に、細胞を、プレートから物理的に剥がし、遠心分離によってペレットにし;得られた細胞ペレットを、20mLのTRIS密度バッファー中に再懸濁した。次に、ペレットを、反復凍結/解凍/ボルテックスサイクルによって溶解させ、そして、溶解物中に残っている任意のパッケージされていないDNAをベンゾナーゼ(Benzonase)消化によって破壊した。次に、溶解物を、50mLの全量まで希釈する前に、デッドエンド濾過及び遠心分離によって浄化した。
【0181】
次に、浄化した溶解物を、事前にプログラムされたプロトコールに従って作動するAKTA Pure装置のAVBカラム(両方GE Healthcare)を使用して、親和性ベースのFPLC手順を介して精製した。FPLCカラムからの最終的なAAV包含溶出液を、10,000MW排除Vivaspin4遠心濃縮器(GE Healthcare)中の5000×gでの遠心分離によって~200μLの体積まで濃縮し、(高塩類溶出緩衝液を希釈するために)2mLのPBS-MKを加え、そして、溶出液を、同じ濃縮器を使用して~200μLまで再濃縮した。この材料は、精製したAAVウイルスを構成し、そして、適切な場合には、アリコートに分け、そして、-80℃にて保存した。
【0182】
ベクター力価を、精製したベクターのサンプルに直接(SV40ポリアデニル化シグナルに対して標的化した)qPCRを使用して確立した。得られたサイクル閾値を、既知の検量線と比較して、1mLあたりのベクターゲノムの数を計算した。
【0183】
リボスイッチAAVベクターを、以下の規則に従って命名した:
AAV2/[カプシド 血清型#]-GTX#
【0184】
マウスの網膜下注射:網膜下腔内へのベクターの注射を、5μLのハミルトンシリンジに装着した、手引書に指示された10mm、34ゲージ針を使用して、全身麻酔下のマウスに対して実施した。針チップを、手術用顕微鏡を介した網膜観察によって注射位置に誘導した。ベクターを導入するすべての眼において、2×2μLの注射を実施し、一方の注射は眼の上半球に配置し、他方を下半球に配置した。注射後、得られた網膜剥離の特質及び注射した材料の何らかの逆流を記録した。
【0185】
蛍光眼底写真:網膜下注射に続いて、EGFP導入遺伝子発現を、取り付けられたライカDC500デジタルカメラを有するスリットランプ(SC16、Keeler)を使用したFundus写真によって定期的に評価した。動物を、全身麻酔下におき、それらの瞳孔を、1%の局所トロピカミドで散大させた。接触媒質溶液(Viscotears)で被覆した角膜上にカバーガラスを置くことによって、角膜の屈折力を中和した。明るい白色光の下、器具を調整し、及び動物を配置した。網膜が鮮明なフォーカス下にあり、及び視神経円板を視界の中心に置き、次に、明視野像を200msの露出時間を使用して撮像した。導入遺伝子(EGFP)蛍光を、光源のフィルタリング(475±25nm)によって評価し、そして、10~30秒の露出時間で2枚の更なる像を撮像した。
【0186】
結果
【0187】
リボスイッチ構築物(表4)は、連結産物のDNA配列決定によって示されたとおりAAVゲノムとしてパッケージされることができるフォーマットにうまくクローニングされた。得られた構築物から、pd10-GTX7及びpd10-GTX5を、AAV2/8ウイルスベクターとして更に製造した。製造したベクターは、qPCRによって次の力価を有することを示した:
AAV2/8-GTX7:1.17×1013ベクターゲノム/mL
AAV2/8-GTX5:1.73x1013ベクターゲノム/mL
【0188】
次に、これらの2つのベクターを、網膜下に注射し、そして、蛍光眼底写真によって発現を評価する前に、EGFP導入遺伝子発現が発症するように8日間放置した。
図12は、AAV2/8-GTX7が注射された網膜でEGFPが発現したことを示す。導入遺伝子発現は低いが、AAV2/8-GTX7からの実質的な発現は、(加えられなかった)リガンドに応答したアプタマー媒介性選択的スプライシングを介した誘導後において、予想されたもののみである。
【0189】
実施例13.AAV送達後の、マウス網膜におけるin vivoでの調節カセット媒介性選択的スプライシングによる標的遺伝子発現の調節
【0190】
手順
【0191】
蛍光眼底写真(EGFPシグナル)の定量化:すべての操作及び像の分析を、GNU Image Manipulation Program(GIMP、オープンソース)を使用しておこなった。先に記載したように、それぞれの網膜の3つの像を、造影の各時点で撮像した:白色光(200ms)、475±25nm(10秒)、及び475±25nm(30秒)。最初に、これらの3つの像を、層として重ね、そして、ガイドとして白色光像を使用して、着目の領域(ROI)を、瞳孔を通して見える網膜全体を網羅するように規定した。2つ475±25nm(EGFP蛍光)像に対して、閾値ツールを使用して、規定した閾値を超える強度値を有するピクセルだけを強調した。閾値は、バックグラウンドからのEGFPシグナルの明確な分離を規定することに基づいて、及び分析のために適当なダイナミックレンジを提供するために選択した。ROI内の閾値を超えたピクセル数を、各像について記録した。眼の間で見える網膜領域のばらつきにつながる瞳孔の変動する散大を補正するために、閾値を超えたピクセル数を、ROI内のピクセルの総数で割った。
【0192】
誘導:標的遺伝子発現のリボスイッチ媒介性誘導を、次に記載した2つの投与経路を介して実施した:
【0193】
腹腔内注射(I.P.):100μLの体積の[水中の75mg/mlのグアノシン+0.5% w/vのメチルセルロース+0.25% v/vのTween80]を、13mm、30ゲージの針を使用して、腹腔内腔に注射した。これは、25gの体重の成体マウスにおいて300mg/kgのグアノシン用量と一致する。
【0194】
硝子体内注射(I-Vit.):2μLの体積の[PBS-MK中のImMのグアノシン+2.5%のDMSO]を、手引書に指示された10mm、34ゲージの針を使用して硝子体内に注射した。注射時の針チップ位置は、視神経円板の真上の水晶体の下であり、手術用顕微鏡を介した網膜観察によってこの位置に誘導した。
【0195】
結果
【0196】
00日目に、合計9つの眼に、次のように実施例12に記載のとおり網膜下注射した:
-6つの眼にAAV2/8-GTX7(G15リボスイッチエレメントによって調節されるCMVプロモーターからのEGFP導入遺伝子発現)
-3つの眼に、AAV2/8-GTX5(陽性対照構築物、CMVプロモーターからの無調節EGFP導入遺伝子発現)
【0197】
実施例12に記載の蛍光眼底写真撮影を、02、08、09、10及び12日目におこなった。
【0198】
08、09及び10日目の蛍光眼底写真後に、すべての眼が腹腔内注射を介した誘導を受けた。すべての眼が、11日目の硝子体内注射を介して誘導を受けた。蛍光シグナルを、先に記載したように定量化し、そして、実例となる像を
図13aに示す。
【0199】
AAV2/8からの遺伝子発現は、最大になるまで7日間かかることが知られているので、ベクター注射後の最初の8日間は、誘導をおこなわなかった。そのため、8日目の発現レベルを、誘導前のベースラインとみなした。2ラウンドのI.P.誘導後のベクター注射後10日目に、導入遺伝子発現は、
図13c及び
図13a(L対N)に示されているように、このベースラインと比較して、~3.5×(P≦0.05、一元配置ANOVA、Dunnetts)に増加した。
【0200】
ベクター注射後12日目、硝子体内誘導の24時間後、及び最後のI.P.誘導の48時間後、導入遺伝子発現は、
図13c及び
図13a(L対O)に示されているように、ベースラインと比較して、~9×(P≦0.001、一元配置ANOVA、Dunnetts)に増加した。硝子体内誘導後のこれだけ大きな誘導は、この誘導経路が腹腔内注射より効果的であろうことを意味している(しかし、明確に示されていない)。
【0201】
誘導前後のEGFP導入遺伝子発現における差異を示すより高解像度の像を、
図13bに示す。
【0202】
同じ期間及び同じ誘導処方計画にわたって、無調節対照ベクターAAV2/8-GTX5によって媒介されたEGFP発現レベルは、有意に変化することなく(一元配置ANOVA、Bonferroni)、
図13dに示されているように、ほぼ一定量を維持した。GTX7対GTX5によって媒介された発現レベルの大きな違いのため、それぞれの像のセットは、異なる露出時間(それぞれ30秒と10秒)及び閾値(それぞれ50と190)を必要とした。
【0203】
このデータは、GTX7構築物ベースのG15からの導入遺伝子発現が、マウス網膜においてアプタマー媒介性選択的スプライシングを介して調節されたことを明確に示す。GTX7から誘導された最大の導入遺伝子発現レベルは、誘導不可能な陽性対照構築物GTX5によって媒介されたものより低かった。
表5.説明と関連配列。特に明記しない限り、エクソン配列は大文字で示し、そして、イントロン配列は小文字で示す。
【表5】
【表6】
【表7】
【表8】
【表9】
【表10】
【表11】
【表12】
【表13】
【表14】
【表15】
【表16】