(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099828
(43)【公開日】2023-07-13
(54)【発明の名称】心臓補綴具のための情報マーカ及びその使用方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/24 20060101AFI20230706BHJP
【FI】
A61F2/24
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087039
(22)【出願日】2023-05-26
(62)【分割の表示】P 2019076443の分割
【原出願日】2014-11-14
(31)【優先権主張番号】61/904,565
(32)【優先日】2013-11-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】316015442
【氏名又は名称】ガイズ アンド セント トーマス エヌエイチエス ファウンデーション トラスト
(71)【出願人】
【識別番号】507020152
【氏名又は名称】メドトロニック,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(72)【発明者】
【氏名】バパット ヴィナヤク
(72)【発明者】
【氏名】ライアン ティモシー
(57)【要約】
【課題】1つの態様において、元々の心臓補綴具内に置換補綴心臓弁を移植する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの情報マーカを含む心臓補綴具、及びこの心臓補綴具の使用方法を開示する。少なくとも1つの情報マーカは、心臓補綴具に関連する、例えば、メーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ及び日付のうちの1つ又は2つ以上などのあらゆる好適な情報を示すことができる。また、心臓補綴具は、例えば、補綴心臓弁又は弁形成補綴具などのいずれかの好適な補綴具を含むことができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元々の心臓補綴具内に置換補綴心臓弁を移植する方法であって、
前記元々の心臓補綴具の少なくとも1つの情報マーカを検出するステップと、
前記元々の心臓補綴具の前記少なくとも1つの情報マーカによって提供される情報に基づいて前記置換補綴心臓弁を選択するステップと、
前記元々の心臓補綴具によって定められる開口部内に前記置換補綴心臓弁を位置付けるステップと、を含んでいる、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記元々の心臓補綴具の前記少なくとも1つの情報マーカは、前記元々の心臓補綴具に関連するメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ及び日付のうちの1つ又は2つ以上を示す、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記置換補綴心臓弁を選択するステップは、前記元々の心臓補綴具の前記少なくとも1つの情報マーカによって提供される情報に基づいて特定のモデルの置換補綴心臓弁を選択するステップを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記元々の心臓補綴具は、元々の補綴心臓弁を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記元々の心臓補綴具は、弁形成補綴具を含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項6】
補綴心臓弁又は弁形成補綴具を含む心臓補綴具であって、該心臓補綴具に関連するメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ及び日付のうちの1つ又は2つ以上を示す少なくとも1つの情報マーカを備える、
ことを特徴とする心臓補綴具。
【請求項7】
前記心臓補綴具は、外科的に移植された補綴心臓弁を含む、
請求項6に記載の心臓補綴具。
【請求項8】
前記心臓補綴具は、リング又はバンドで構成された弁形成補綴具を含む、
請求項6に記載の心臓補綴具。
【請求項9】
前記少なくとも1つの情報マーカは、蛍光透視可視化技術を用いて見ることができる、 請求項6に記載の心臓補綴具。
【請求項10】
前記少なくとも1つの情報マーカは、複数のマーカを含む、
請求項6に記載の心臓補綴具。
【請求項11】
前記少なくとも1つの情報マーカは、放射線不透過材料で形成された英数字を含む、
請求項6に記載の心臓補綴具。
【請求項12】
前記少なくとも1つの情報マーカは、バーコード、QRコード(登録商標)及びバイナリコードのうちの少なくとも1つを含む、
請求項6に記載の心臓補綴具。
【請求項13】
元々の心臓補綴具と置換補綴心臓弁との組み合わせであって、前記元々の心臓補綴具は、前記元々の心臓補綴具に関連するメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ及び日付のうちの1つ又は2つ以上を示す少なくとも1つの情報マーカを備える、
ことを特徴とする組み合わせ。
【請求項14】
前記少なくとも1つの情報マーカは、蛍光透視可視化技術を用いて見ることができる、 請求項13に記載の組み合わせ。
【請求項15】
前記少なくとも1つの情報マーカは、複数のマーカを含む、
請求項13に記載の組み合わせ。
【請求項16】
前記少なくとも1つの情報マーカは、放射線不透過材料で形成された英数字を含む、
請求項13に記載の組み合わせ。
【請求項17】
前記少なくとも1つの情報マーカは、バーコード、QRコード(登録商標)及びバイナリコードのうちの少なくとも1つを含む、
請求項13に記載の組み合わせ。
【請求項18】
前記元々の心臓補綴具は、弁形成補綴具を含む、
請求項13に記載の組み合わせ。
【請求項19】
前記元々の心臓補綴具は、元々の補綴心臓弁を含む、
請求項13に記載の組み合わせ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
〔関連出願との相互参照〕
本出願は、2013年11月15日に出願された「心臓補綴具のための情報マーカ及びその使用方法(INFORMATION MARKERS FOR HEART PROSTHESES AND METHODS OF USING SAME)」という名称の米国仮特許出願第61/904,565号の利益を主張するものであり、この仮特許出願はその全体が引用により本明細書に組み入れられる。
【背景技術】
【0002】
病変又は他の理由による不完全な心臓弁は、様々な異なるタイプの心臓弁手術を用いて修復又は置換することができる。典型的な心臓弁手術としては、全身麻酔下で行われる心臓切開手術法が挙げられ、この手術中は心臓が停止し、人工心肺装置によって血流が制御される。この種の弁手術は高侵襲性であり、患者は、例えば、感染症、脳卒中、腎不全、及び人工心肺装置の使用に関連する副作用などの数多くの深刻なリスクに曝される。
【0003】
最近では、補綴心臓弁、弁形成補綴具などの、元々の心臓補綴具の低侵襲性経皮的置換に対する関心が高まっている。このような外科技術では、患者の皮膚に非常に小さな開口部を形成し、そこから体内に弁アセンブリを挿入し、カテーテルに似た送達装置を介して心臓に送達させる。この技術は、上述した心臓切開手術法などの高侵襲性の形態よりも好ましいことが多い。肺動脈弁置換との関連では、いずれもTower他によって出願された特許文献1及び2に、ウシの頸静脈の弁付き部分を拡張ステント内に取り付け、置換肺動脈弁として使用することが記載されている。この置換弁は、バルーンカテーテルに取り付けられ、機能しなくなった肺動脈弁の位置に血管系を介して経皮的に送達され、バルーンによって拡張されて弁尖を右心室流出路に押し付け、置換弁を固定密閉する。非特許文献1及び2に記載されるように、置換肺動脈弁を、生来の肺動脈弁、又は弁付き導管内に位置する人工肺動脈弁と置き換えるために移植することができる。
【0004】
弁手術では、病変した生来のヒト心臓弁と置き換えるために様々なタイプ及び構成の補綴心臓弁が使用されている。いずれかの特定の補綴心臓弁の実際の形状及び構成は、ある程度置換先の弁(すなわち、僧帽弁、三尖弁、大動脈弁又は肺動脈弁)に依存する。一般に、補綴心臓弁の設計は、置換先の弁の機能を再現しようと試みるものであり、従ってバイオ補綴具又は機械的心臓弁補綴具のいずれかと共に使用する弁尖状構造を含む。
【0005】
経皮的に送達される置換弁は、ステント弁を形成するように拡張ステント内に何らかの形で取り付けられた弁付き血管部分を含むことができる。このような経皮的に移植される弁を準備するには、最初にステント弁を拡張された即ち潰れていない状態で準備し、その後にカテーテルのバルーン部分の周囲で、できるだけカテーテルの直径に近付くまで潰す即ち圧縮させる。
【0006】
引用により本明細書に組み入れられる非特許文献2及び3などには、概ね同様の構成を有する他の経皮的に送達される補綴心臓弁が提案されている。これらの技術は、送達された補綴具の位置を維持するために、拡張された支持構造と生来の組織との間の摩擦タイプの係合に少なくとも部分的に依拠するが、ステントと、ステントを拡張するために使用されることがあるバルーンとによってもたらされる半径方向の力に応答して、周囲の組織にステントが少なくとも部分的に移植されるようにすることもできる。従って、これらの経カテーテル技術では、従来のように患者の生来の組織に補綴心臓弁を縫い付ける必要がない。
【0007】
同様に、引用によって本明細書に開示が組み入れられている非特許文献1には、生体弁の経皮的送達も記載されている。この弁は、以前に移植された弁付き又は弁無し導管、或いは以前に移植された弁内で拡張ステントに縫合される。この場合も、置換弁を配置して維持するために、二次的な弁ステントの半径方向拡張が用いられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0199971号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2003/0199963号明細書
【特許文献3】米国特許第3,671,979号明細書
【特許文献4】米国特許第4,056,854号明細書
【特許文献5】米国特許第4,994,077号明細書
【特許文献6】米国特許第5,332,402号明細書
【特許文献7】米国特許第5,370,685号明細書
【特許文献8】米国特許第5,397,351号明細書
【特許文献9】米国特許第5,554,185号明細書
【特許文献10】米国特許第5,855,601号明細書
【特許文献11】米国特許第6,168,614号明細書
【特許文献12】米国特許出願公開第2004/0034411号明細書
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Bonhoeffer他著、「肺動脈弁の経皮的挿入(Percutaneous Insertion of the Pulmonary Valve)」、Journal of the American College of Cardiology、2002年、第39巻、1664~1669頁
【非特許文献2】Bonhoeffer他著、「肺位置におけるウシの弁の経カテーテル置換(Transcatheter Replacement of a Bovine Valve in Pulmonary Position)」、Circulation、2000年、第102巻、813~816頁
【非特許文献3】Criber,A.他著、「石灰沈着性大動脈狭窄のための大動脈弁補綴具の経カテーテル挿入(Percutaneous Transcatheter Implantation of an Aortic Valve Prosthesis for Calcific Aortic Stenosis)」、Circulation、2002年、第106巻、3006~3008頁
【非特許文献4】Anderson H.R.他著、「補綴心臓弁の管腔的移植(Transluminal implantation of Artificial Heart Valves)」、EUR Heart J.、1992年、第13巻、704~708頁
【非特許文献5】Anderson,J.R.他著、「新規拡張可能補綴心臓弁の管腔的カテーテル挿入(Transluminal Catheter Implantation of New Expandable Artificial Cardiac Valve)」、EUR Heart J.、1990年、第11巻、(補遺)224a
【非特許文献6】Hilbelt S.L.著、「外植型ポリウレタン製3弁尖心臓弁補綴具の評価(Evaluation of Explanted Polyurethane Trileaflet Cardiac Valve Prosthesis)」、J Thorac Cardiovascular Surgery、1989年、第94巻、419~429頁
【非特許文献7】Block P C.著、「高齢者における経皮大動脈弁形成後の臨床的及び血行動態的な経過観察(Clinical and Hemodyamic Follow-Up After Percutaneous Aortic Valvuloplasty in the Elderly)」、The American Jounal of Cardiology、1998年10月1日、第62巻
【非特許文献8】Boudjemline,Y.著、「経皮的大動脈弁置換のためのステップ(Steps Toward Percutaneous Aortic Valve Replacement)」、Circulation、2002年、第105巻、775~558頁
【非特許文献9】Boudjemline,Y.著、「子羊の下行大動脈における弁の経皮的移植(Percutaneous Implantation of a Valve in the Descending Aorta In Lambs)」、EUR Heart J.、2002年、第23巻、1045~1049頁
【非特許文献10】Kulkinski,D.著、「外科的大動脈弁置換の未来:経管的移植技術の初期発展段階で得られる教訓(Future Horizons in Surgical Aortic Valve Repiacement: Lessons Learned During the Early Stages of Developing a Transluminal Implantation Technique)」、ASAIO J、2004年、第50巻、364~368頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
移植された心臓補綴具をこれらの経皮的技術を用いて取り替える場合、医師又は臨床医は、元々移植されていた補綴具との使用に適した置換弁を選択できるように、この特定の元々の補綴具のいくつかの特性を知る必要がある。例えば、元々移植されていた補綴具のメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ、日付、又はその他の特性などの情報は、適切な置換弁を選択する上で医師又は臨床医の指針となることができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示は、1つの態様において、元々の心臓補綴具内に置換補綴心臓弁を移植する方法を提供する。この方法は、元々の心臓補綴具の少なくとも1つの情報マーカを検出するステップと、元々の心臓補綴具の少なくとも1つの情報マーカによって提供される情報に基づいて置換補綴心臓弁を選択するステップと、元々の心臓補綴具によって定められる開口部内に置換補綴心臓弁を位置付けるステップとを含む。
【0012】
本発明は、別の態様において、補綴心臓弁又は弁形成補綴具を含む心臓補綴具であって、この心臓補綴具に関連するメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ、日付のうちの1つ又は2つ以上を示す少なくとも1つの情報マーカを含む心臓補綴具を提供する。
【0013】
本発明は、別の態様において、元々の心臓補綴具と置換補綴心臓弁との組み合わせであって、元々の心臓補綴具が、この元々の心臓補綴具に関連するメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ、日付のうちの1つ又は2つ以上を示す少なくとも1つの情報マーカを含む組み合わせを提供する。
【0014】
本開示のこれらの及びその他の態様は、以下の詳細な説明から明らかになる。しかしながら、上記の概要は、いかなる場合にも特許請求する主題に対する限定として解釈すべきではなく、この主題は、審査手続き中に補正されることもあるので、添付の特許請求の範囲のみによって定められる。
【0015】
本明細書全体を通じ、同様の要素を同じ参照数字によって示す以下の添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】元々の補綴心臓弁の一実施形態の概略的側面図である。
【
図2】置換補綴心臓弁の一実施形態の概略的側面図である。
【
図3】
図2の置換補綴心臓弁の概略的平面図である。
【
図4】
図1の元々の補綴心臓弁に対して位置付けられた
図2の置換補綴心臓弁の概略的側面図である。
【
図5】
図4の弁及び弁フレームの概略的平面図である。
【
図6】弁形成補綴具の一実施形態の概略的斜視図である。
【
図7】
図6の弁形成補綴具に対して位置付けられた
図2の置換補綴心臓弁の概略的側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般に、本開示は、少なくとも1つの情報マーカを含む心臓補綴具の様々な実施形態を提供する。この情報マーカは、いくつかの実施形態では、蛍光透視法、磁気共鳴画像法(MRI)、心エコー図などのいずれかの好適な臨床画像技術を用いて検出することができる。情報マーカは、心臓補綴具に関連するメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ日付の1又は2以上などの、移植されている元々の心臓補綴具に関する情報を医師又は臨床医に提供することができる。この情報は、どの置換補綴心臓弁を患者に移植すれば、元々の心臓補綴具に適合し、又は特定の元々の心臓補綴具への再介入要件を満たすことができるかを判断する上で臨床医を支援することができる。
【0018】
これらの情報マーカは、医師又は他のヘルスケア提供者が、患者に心臓補綴具が移植されているかどうかを判断し、移植されている場合には補綴具のメーカー、モデルなどを判別し、また移植されている補綴具を考慮して緊急時に患者を治療する際にいずれかの特別な予防措置が必要であるかどうかを判断するのを支援する上で、緊急時にも有用となり得る。
【0019】
マーカは、複数の方法で情報を伝えることができる。例えば、マーカの一部として含まれる形状を、放射線不透過材料の「切り取り」部分によって部分的に定めることができる。具体例として、連続的であったはずの放射線不透過材料面からメーカーのロゴを切り取り、この切り取り部分の画像を用いて製品のメーカーを特定することができる。他の切り取り形状は、心臓弁のモデルなどを示すことができる。
【0020】
いくつかの実施形態では、画像技術を用いてこのようなマーカを見た場合、切り取り部分が、伝えるべき情報の「ネガ」画像として現れる。すなわち、情報を伝える役割を果たすのは、放射線不透過材料の存在ではなく、このような材料の一部の欠如(すなわち「切り取り」部分)である。
【0021】
一般に、開示する様々な情報マーカの実施形態は、あらゆる好適な心臓補綴具に含めることができる。例えば、いくつかの実施形態では、元々の心臓補綴具が、例えば
図1の補綴心臓弁10などの元々の補綴心臓弁を含むことができる。他の実施形態では、元々の心臓補綴具が、例えば
図6の弁形成補綴具80などの弁形成補綴具を含むことができる。
【0022】
本開示の特徴は、大動脈弁、僧帽弁、肺動脈弁、静脈弁、胃弁及び/又は三尖弁の置換に使用することができる。いくつかの実施形態では、本開示の補綴心臓弁が、(心肺バイパスの有無、及び高頻度ペーシングの有無に関わらず)血管内送達に非常に適する。本開示に関連する方法は、複数回繰り返すことができるので、必要又は所望の場合には、本開示の複数の心臓補綴具を互いに上下又は内外に取り付けることができる。
【0023】
図1は、補綴心臓弁10の一実施形態の概略的側面図である。本明細書で説明する置換補綴心臓弁と置き換える前に弁10が患者に移植されていた場合、この弁10を元々の補綴心臓弁とすることができる。弁10は、患者の生来の心臓弁領域内に縫合又は別様に固定することなどによって患者の心臓に移植することができる典型的な構成の弁である。本明細書で言及する生来の心臓弁は、人間の心臓弁のいずれか(すなわち、僧帽弁、三尖弁、大動脈弁又は肺動脈弁)とすることができ、移植される(例えば、外科的に移植される)補綴心臓弁10のタイプ及び向きは、移植先の生来の心臓弁の特定の形態、形状及び機能に対応する。通常、弁10は、その内部領域に複数の弁尖が取り付けられるが、この図では、説明を明確にするためにこのような弁尖は示していない。補綴心臓弁10は、例えば外科的に移植された補綴心臓弁、経カテーテル補綴心臓弁などのいずれかの好適な心臓弁とすることができる。
【0024】
一般に、弁10は、ステント構造14を含む弁構造12を含み、ステント構造14からは、複数のステントポスト又は交連ポスト16が延びる。ステント構造14とステントポスト16とを含む弁構造12の全部又は一部は、組織、ポリマー、繊維又は布材料などとすることができる、縫い付けなどによって心臓弁10の弁尖(図示せず)が取り付けられた可撓性の被覆物によって覆うことができる。ステント構造14は、ワイヤ形態とすることもできる。さらに、当業で周知のように、ステントポスト16の各々の内部構造は、剛性ではあるが若干の弾性的屈曲が可能な材料で形成することができる。この構造により、ステントポスト16は、外力を加えることによって
図1に示す向きから偏向した向きに移行することができる。この外力が除去又は低減されると、ステントポスト16は、再び
図1に示す向きに戻ることができる。或いは、ステントポストは、弁10の中心軸に向かって又は中心軸から離れて少なくともわずかに傾くこともできる。
【0025】
弁構造12は、流入端22から流出端24に延びる開口部又は内部領域20(全体を指す)を定める概ね管状である。開口部20は、基本的に弁構造12に取り囲まれ、弁構造12内に取り付けられた弁尖は、移植先の生来の心臓弁の管腔の内外への流体が選択的に流れるようにする。すなわち、開口部20は、弁尖の動きを通じ、挿入先の生来の心臓弁の管腔に対して選択的に開閉する。
【0026】
患者によっては、典型的な外科技術を用いて補綴心臓弁10が移植され、生来の心臓弁の弁輪又は弁縁にステントリング14が縫い付け又は取り付けられる。或いは、例えばU字型クリップなどの、弁を適所に保持するための低侵襲技術、若しくは新規補綴心臓弁の低侵襲的及び/又は経皮的移植に使用される様々な他の技術及び機構を用いて患者内に人工弁を配置することもできる。
【0027】
本開示の装置及び技術に従って用いられる補綴心臓弁(例えば、本明細書で説明する心臓弁10及び置換補綴心臓弁50)は、組織弁尖を有する補綴心臓弁、又はポリマー弁尖を有する合成心臓弁などの様々な異なる構成を含むことができる。このように、これらの心臓弁は、あらゆる心臓弁に取って代わるように特別に構成することができる。
【0028】
図示の実施形態では、弁10が、少なくとも1つの情報マーカ70を含む。少なくとも1つの情報マーカ70は、例えばステント構造14上又は弁の密封用スカート上などの、弁10上又は弁10内のいずれかの好適な位置に位置決めされる。さらに、少なくとも1つの情報マーカ70は、あらゆる好適な情報を含むことができる。例えば、いくつかの実施形態では、少なくとも1つの情報マーカ70が、医師が好適な可視化技術を用いて検出できるようないずれかの好適なサイズの1又は2以上の項目又は印を用いて、補綴心臓弁10に関連するメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ及び日付のうちの1つ又は2つ以上を示すことができる。少なくとも1つの情報マーカ70は、いずれかの好適な技術を用いて形成することができ、本明細書でさらに説明するようないずれかの好適な材料を含むことができる。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの情報マーカ70を放射線不透過性とすることができる。
【0029】
図1の弁10は1つの情報マーカ70を含むが、あらゆる好適な数の情報マーカを含めることもでき、いくつかの実施形態では、各々が同じものであって、例えば同じ情報を伝達する2又は3以上の情報マーカが含まれる。他の実施形態では、2又は3以上の情報マーカ70の各々が異なる情報を含むこともできる。例えば、1つの情報マーカは、弁10のメーカーに関する情報を含むことができ、別の情報マーカは、弁が製造された日付、又は外科的に移植された日付に関する情報を含むことができる。
【0030】
図1に示すように、少なくとも1つの情報マーカ70は、「X」、「2」及び「A」として示されている複数の個々の項目又は印を含む。マーカ70には、これより多くの又は少ない数のこのような項目を含めることもできる。図示の実施形態では、これらの項目が文字列の配置で示されている。他の実施形態では、マーカ70が、2次元配列の文字又は他の何らかの2次元パターンなどの別の形で配置された個々の項目を有することもできる。いくつかの実施形態では、マーカ70が、全ての項目が他のマーカと同じ平面上に整列しているとは限らない3次元配列の項目を含むことができる。この3次元配列は、弁10が撮像装置に対して様々な位置又は配向にある時などに、複数の角度からマーカが見えるようにする上で有用となり得る。いくつかの実施形態では、少なくとも1つの情報マーカ70が、複数の方向から情報が見えるように各々が異なる平面内に配置された複数の項目セット例を含むことができる。
【0031】
本明細書で説明するように、特定の項目には、その項目が占める位置によって意味を割り当てることができる。例えば、連続する一連の項目における最初の1つ又は2つ以上の項目(例えば、項目「X」)については、補綴心臓弁10のモデルを示すように指定することができる。連続する一連の項目における2番目の1つ又は2つ以上の項目は、弁10の特徴集合を示すことなどができる。2次元又は3次元配列、或いは他のパターンを用いて少なくとも1つの情報マーカ70を形成する場合には、同様にこれらの配列又は他のパターン内の項目に、その項目の位置によって特定の意味を割り当てることもできる。このように、項目自体だけでなく項目の位置を用いて弁10に関連する情報を伝えることもできる。
【0032】
図1に示す実施形態では、少なくとも1つの情報マーカ70に含まれる項目の各々が英数字である。いくつかの実施形態では、この代わりに、又はこれに加えて、マーカ70が、他のいずれかのタイプの記号又は幾何学的形状を含むことができる。このような記号は、予め定めること(例えば、#、%、@など)も、又は完全に任意とする(例えば、メーカーのロゴなどの、メーカーによって定められる記号)こともできる。他の実施形態では、少なくとも1つのマーカ70が、バーコード、QRコード(登録商標)、バイナリコード、又はその他の好適なコードを含むことができる。
【0033】
いくつかの実施形態では、マーカ70を形成するために使用される項目セット内の項目の各々が、共通の製造工程を通じて作成されたもの、同じ材料で形成されたもの、ほぼ同じサイズ(例えば、材料の長さ、幅、形状及び/又は厚み)を有するもの、項目の位置及び/又は配向を固定又は保持するために使用する(単複の)特徴が類似するもの、などの同様の特徴を有することができる。共通の特徴(例えば、サイズ)を有することにより、選択された項目の組み合わせを同じマーカ内に容易に組み込むことができる。
【0034】
図1のマーカ70内の記号は、伝えるべき情報の「ポジ」の輪郭を提供すると言うことができる。本明細書で説明するように、このことは、マーカ70に使用する材料が実際の切り取り文字を形成することを意味する。具体例として、この例の文字「X」、「2」及び「A」は、放射線不透過材料から切り取られた、又は別様に形成されたものである。マーカ70の残り部分(すなわち、放射線不透過物を担持する物体)は、ポリマーなどの非放射線不透過材料で形成することができる。この情報のポジ像は、放射線不透過材料の一部が切り取られて情報を提供するネガ像と対照的である。具体例として、放射線不透過材料のシートから文字「A」、「B」及び「C」を切り取ると、画像技術を用いてマーカ70を見た時に切り取った画像が見えるようになる。これは、暗い部屋に窓を通して光を当てることにより、隣接する壁に窓の輪郭が現れるようなものである。本明細書では、様々な実施形態においていずれのタイプの画像も検討されるが、
図1に示すタイプのポジ像を使用すると、特にマーカが比較的小さい場合に、識別しやすいマーカ70を提供することができる。
【0035】
本明細書で上述したように、このような項目セットから選択された1又は2以上の項目を含むマーカは、多くの方法で情報を伝えることができる。まず、マーカに含めるように選択した各項目は、その項目の固有の形状、サイズ及び/又はその他の物理的特徴によって情報を伝えることができる。例えば、文字「M」のように形成された項目は、(例えば、「この装置は、MRI条件的に安全である」などの)特定の意味を割り当てることができる固有の形状を有する。同様に、製造ロゴの形状に形成された項目を用いて装置のメーカーを伝えることもできる。何らかの任意の形状を割り当てられた異なる項目は、心臓弁のモデルに関連付けることができる。この実施形態では、マーカに含まれる各固有の項目を用いて必要な情報を伝えるので、マーカ内の項目の順序又はその他の配置はそれほど重要でない場合もある。
【0036】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの情報マーカに含まれる項目の空間的関係が重要な場合もある。例えば、ある情報マーカは、心臓弁上の後から前に文字列の形で配置された一連の3つの項目「MM1」を含むことができる。この文字列内の最初の項目「M」は、弁のメーカーを示すことができる。文字列内の次の項目「M」は、弁のモデルを示すことができ、文字列内の3番目の項目「1」は、弁の特徴集合を特定することができる。従って、たとえマーカ内の2つの項目が同じもの(すなわち、「M」)であっても、これらの項目は、マーカ内の空間的配置に基づいて異なる意味を持つ。さらに別の例では、最初の2文字「MM」に、弁の特徴集合を示す特定の意味を割り当てることもできる。従って、この例では、空間的配置、及びマーカに含めるように選択した項目の両方が、心臓弁に関連する情報を提供する。
【0037】
別の実施形態では、空間的な配置が、場合によっては情報を伝えることもできる2次元の、さらには3次元の態様を有することができる。例えば、マルチショット成形工程を用いて、情報マーカに3次元の性質を加えることができる。この3次元マーカの形状及び/又は3次元内の項目の位置を用いて情報を伝えることができる。
【0038】
3次元マーカは、例えば心臓弁の向きが分からない時に様々な方向から読み取り可能であるような有用性を有することができる。1つの例では、3次元マーカが、複数の放射線不透過項目を利用して、複数の平面内で同じ情報を伝えることができる。例えば、いずれも装置のメーカーを伝える2つの項目「M」を、同じ3次元マーカ内の2つの実質的に垂直な平面内に存在するように配置することができる。これにより、患者内における心臓弁の向きが分からない時に、撮像装置が項目の少なくとも一方を容易に読み取れるようにすることができる。
【0039】
いくつかの実施形態では、少なくとも1つの情報マーカ70を、特定の画像技術を用いた時にマーカが配置されている面とは逆側のステントポスト面から(すなわち、ステントポスト「を通して」)情報マーカ70が見える材料で作成することができる。従って、これらの印は、交連ポストの逆側から見ると、マーカの指向性に起因して後向きに、又は元々のマーカの鏡像として表示されるようになる。しかしながら、いくつかの実施形態では、補助装置を付けていない目には、マーカ70がこの「後向き」の配向で見えず、特定の可視化装置を用いた場合にのみ、この配向で見えるようにすることもできる。他の実施形態では、(単複の)マーカが、ステントの厚み全体を貫いて延びることができ、或いは可視化装置を用いなくても両側から見えるように他の何らかの方法で提供される。換言すれば、マーカ70と共にあらゆる好適な配向を利用して、マーカが後向きの時に見えるようにすることも、或いは見えないようにすることもできる。
【0040】
いくつかの実施形態では、心臓弁上又は心臓弁内に提供する少なくとも1つの情報マーカ70を、適切な画像技術を用いた時に患者の体外から見えるように放射線不透過材料で作成することができ、及び/又はエコー源性又はその他の特性を有するようにすることができる。マーカ70は、白金、イリジウム、タングステン、硫酸バリウム及びその他の放射線不透過材料などで作成することができる。いくつかの実施形態では、マーカ70を、縫合繊維又はシリコンなどのエラストマを含む、放射線不透過材料又はエコー源性材料を浸透させた材料で構成することができる。このようにして、マーカ70を用いて心臓弁に関連する選択情報を提供することができる。
【0041】
少なくとも1つの情報マーカ70は、いずれかの好適な技術を用いて心臓弁のいずれかの表面上又は表面内に提供することができる。いくつかの実施形態では、マーカ70を弁の表面上に直接、配置することができる。他の実施形態では、マーカ70を、まず本明細書で説明したように形成し、その後にいずれかの好適な技術を用いて弁の表面に取り付けることができる。また、いくつかの実施形態では、これらの予め形成したマーカをステントフレームの開口部に挿入することもできる。
【0042】
一定期間後に、古い心臓弁を機能的に交換するために、以前に移植した補綴心臓弁に対して置換補綴心臓弁を配置又は移植することが望ましくなる可能性もある。この可能性は、以前に移植した又は修復した補綴心臓弁が、狭窄、弁の故障、構造的血栓症、炎症、弁機能不全及び/又はその他の病状などの様々な要因の1つ又は2つ以上に起因して機能的に不十分であると判断された場合に生じ得る。本開示のいくつかの実施形態では、不完全性の原因に関わらず、比較的複雑かつ侵襲性の高い心臓切開術により、以前に移植した補綴心臓弁を取り除いて第2の同様の構成の補綴心臓弁を移植するのではなく、以前に移植した又は修復した不十分な補綴心臓弁(例えば、元々の補綴心臓弁10)を定位置に残して置換心臓弁を配置し、この置換心臓弁が以前に移植した補綴心臓弁に機能的に取って代わるようにする。置換弁を移植する前に、以前に移植した不十分な補綴心臓弁の弁尖は、カッター及びレーザーなどの様々な技術を用いて除去することも、或いは不十分な弁内の適所に弁尖を残し、例えばオリフィスのサイズを拡大するバルーンを用いて、恐らくは置換弁の移植時に血管壁の方に押しやり、又は置き換え前に押し出すようにすることもできる。
【0043】
弁が移植部位に正しく配置されていることを確認するには、例えば、(1)置換弁の周囲の弁周囲漏出がないこと(これらの送達システムでは、弁内及び弁周囲の流れが考慮されるので、血液が弁内を流れている間に検査できるという利点がある)、(2)冠状動脈に対する置換弁の回転配向が最適であること、(3)置換弁が適所にある状態で冠状動脈流が存在すること、(4)生来の患者の解剖学的構造に対して置換弁輪が長手方向に正しく位置合わせされていること、(5)置換弁の洞領域の位置が生来の冠状動脈流を妨げないことの確認、(6)弁周囲漏出を最低限に抑えるように密封用スカートが解剖学的特徴と位置合わせされていることの確認、(7)最終的な始動前に置換弁が不整脈を誘発しないことの確認、(8)置換弁が僧帽弁などの隣接する弁の機能を妨げないことの確認、及び(9)正常な心臓リズムの確認、などのいくつかの因子を単独で又は組み合わせて考慮することができる。
【0044】
図2~
図3に、置換補綴心臓弁50の1つの例示的な実施形態を示す。弁50は、ステント構造52と、その内部に位置してステント構造52に取り付けられた弁構造54とを含む。弁50は、大まかにステント52の外周回りに延びる、一方の端部に隣接する密封用スカート62をさらに含む。一般に、本明細書で説明するステントは、心臓弁に所望の圧縮性及び強度を与えるように相対的に配置された数多くの支柱部分又はワイヤ部分を含む支持構造を含む。本明細書では、本開示のステントの様々な構成の他の詳細についても説明するが、大まかに言えば、本開示のステントは、概ね管状の支持構造であり、この支持構造に弁構造を固定してステント弁を作成する。
【0045】
本明細書で説明するステントの支持構造のいくつかの実施形態は、潰れた状態から広がった状態に移行できるように配置された一連のワイヤ又はワイヤセグメントとすることができる。ステントは、支持構造を含む金属又はその他の材料で形成された多くの個々のワイヤをさらに含むことができる。これらのワイヤは、広がった状態の時からステントの内径が大幅に減少する収縮状態に折り畳むこと又は圧縮することができ、その潰れた状態において、弁を取り付けられたこのような支持構造を、例えばバルーンカテーテルなどの送達装置を覆って取り付けることができるように配置される。支持構造は、バルーンカテーテルの拡張などによって望ましい時に拡張できるように構成される。このようなステントに使用する送達システムは、新たなステントを所望の位置に正しく配置できるように回転配向能力及び軸配向能力を有するべきである。
【0046】
他の実施形態におけるステントの支持構造のワイヤは、ニッケルチタン合金(例えば、ニチノール)などの形状記憶材料で形成することもできる。この材料を使用すれば、支持構造は、熱又はエネルギーなどの付与、或いは外力(例えば、シースによってもたらされる圧縮力)の除去などによって収縮状態から拡張状態に自己拡張することができる。通常、この支持構造は、ステントの構造を損なうことなく圧縮及び再拡張を繰り返すことができる。本開示のいくつかの実施形態では、ステント52が、外力の付与及び除去によって圧縮及び拡張可能な一連のワイヤで作成され、例えば、直径約0.011~0.015インチの一連のニチノールワイヤを含むことができる。ステントの支持構造は、単一片の材料からレーザー切断することも、或いは多くの様々な構成要素から組み立てることもできる。これらのタイプのステント構造では、ステント構造を送達するために使用できるシステムの一例として、ステントが配置されるまでステントを覆い、配置された時点でシースを引っ込めてステントを拡張させる引き込み式シース付きカテーテルが挙げられる。
【0047】
弁構造54は、ステント機構58に取り付けられた複数の弁尖56を含む。ステント機構58は、ステント内に固定される別個の構成要素とすることも、或いは、実際にはステントに縫い付けられた2つの弁尖片が「ピーク」領域又は交連領域を形成する通常領域とすることもできる。一般に、図に関連して説明する図示の弁構造は、複数の弁尖を収容し、複数弁尖構造のための対応する数の交連ポストを有する心臓弁(例えば、心臓弁10)に取って代わるように構成される。本開示の置換補綴心臓弁は、一般に3つの弁尖を含むが、3を上回る又は下回る数の弁尖を組み込むこともできる。
【0048】
本明細書で言及したように、置換心臓弁は、組織弁尖を有する置換心臓弁、或いはポリマー、金属又は組織工学によって形成された弁尖を有する合成心臓弁などの様々な異なる構成を含むことができ、あらゆる心臓弁に取って代わるように特異的に構成することができる。
【0049】
弁尖は、自己組織、異種移植材料、又は当業で周知の合成物などの様々な材料で形成することができる。弁尖は、ブタ、ウシ又はウマの弁などの同質の生体弁構造として提供することもできる。或いは、弁尖を(例えば、ウシ又はウマの心膜弁尖のように)互いに無関係に提供し、後でステントの支持構造に組み立てることもできる。別の代替例では、ステントと弁尖を同時に製造することもでき、例えば、テキサス州サンアントニオのAdvanced Bio Prosthetic Surface(ABPS)社で製造された高強度ナノ製造NiTiフィルムなどを用いて実現することができる。
【0050】
より一般的に言えば、置換心臓弁のための支持構造と1又は2以上の弁尖との組み合わせは、あらゆる既知の補綴心臓弁設計を含む、図示し説明したものとは異なる様々な他の構成を取ることができる。いくつかの実施形態では、弁尖を有する支持構造を、バルーン拡張型であるか、自己拡張型であるか、それとも展開型であるかに関わらず、(例えば、全て引用により本明細書に教示が組み込まれている特許文献3~12、非特許文献1、2及び4~10に記載されるような)いずれかの既知の拡張可能補綴心臓弁構成とすることができる。
【0051】
図4~
図5に、元々の補綴心臓弁10の開口部20内に置換補綴心臓弁50を位置決めした、元々の補綴心臓弁と置換補綴心臓弁とを組み合わせた1つの実施形態を示す。説明を目的として、心臓弁10の開口部がはっきりと見えるようにステント構造14の一部を取り除いているが、通常、ステント構造14は、既に患者に移植されている連続リング構造である。
【0052】
いくつかの実施形態では、置換弁50が、元々の心臓弁10の領域に経皮的に送達される。置換弁50がバルーン拡張式ステントを含む場合には、送達カテーテル、バルーンカテーテル及びガイドワイヤを含む経カテーテルアセンブリの提供を含むことができる。当業ではこの種の送達カテーテルがいくつか知られており、これらのカテーテルは、バルーンカテーテルを受け入れる内腔を定める。さらに、バルーンカテーテルは、ガイドワイヤが摺動自在に配置される内腔を定める。
【0053】
さらに、バルーンカテーテルは、膨張源に接続されたバルーンを含む。なお、本明細書で説明したように、移植されるステントが自己拡張タイプのステントである場合、バルーンは不要であり、ステントの配置までステントを圧縮状態に維持するためにシース又は他の拘束手段が使用される。いずれにせよ、バルーン拡張式ステントでは、経カテーテルアセンブリが、移植位置までの所望の経皮的アプローチに適したサイズにされる。例えば、経カテーテルアセンブリは、頚動脈、頚静脈、鎖骨下静脈、大腿動脈又は大腿静脈などにおける開口部を介して心臓弁に送達できるようなサイズにすることができる。基本的には、経カテーテルアセンブリの使用を容易にするために、いずれかの経皮的肋間貫入を行うことができる。
【0054】
本明細書で上述したように、あらゆる好適な元々の心臓補綴具には、情報マーカの様々な実施形態を含めることができる。例えば、
図6は、弁形成補綴具80を含む元々の心臓補綴具の一実施形態の概略的斜視図である。
図6に示す実施形態では、弁形成補綴具80が、開口部84を定めるリングである。補綴具80はリングの形を取っているが、例えば、バンドなどのあらゆる好適な形状を取ることができる。弁形成補綴具80は、補綴具上又は補綴具内のいずれかの好適な位置に存在する少なくとも1つの情報マーカ82も含む。
図1の少なくとも1つの情報マーカ70に関する設計検討及び可能性は、全て
図6の少なくとも1つの情報マーカ82にも等しく当てはまる。
【0055】
弁形成補綴具80は、いずれかの好適な弁形成補綴具を含むことができる。さらに、補綴具80を用いて、例えば、大動脈弁、僧帽弁、肺弁、静脈弁、胃弁、三尖弁などのいずれかの好適な弁を修復することもできる。そして、あらゆる好適な技術又は技術の組み合わせを用いて患者内の好適な位置に補綴具80を移植することができる。
【0056】
状況によっては、弁形成補綴具を用いて以前に修復されたことがある患者の弁が、例えば
図2の置換補綴心臓弁50などの置換補綴心臓弁との完全な置換を必要とする場合もある。このような状況では、より侵襲性の低い方法として、弁形成補綴具を適所に残し、この弁形成補綴具によって定められる開口部内に置換補綴心臓弁を位置決めすることができる。
【0057】
例えば、
図7は、
図6の弁形成補綴具80に対して位置決めされた
図2の置換補綴心臓弁50の概略的側面図である。
図7に示すように、置換補綴心臓弁50は、弁形成補綴具80によって定められた開口部84内に位置付けられる。置換補綴心臓弁50は、あらゆる好適な技術又は技術の組み合わせを用いて弁形成補綴具80の開口部84内に位置付けることができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、置換補綴心臓弁50の送達前に、医師又は臨床医が、元々の補綴心臓弁(例えば、
図1の元々の補綴心臓弁10又は
図6の弁形成補綴具80)の少なくとも1つの情報マーカ70を検出することができる。置換補綴心臓弁50は、元々の心臓補綴具の少なくとも1つの情報マーカ(例えば、
図1の元々の補綴心臓弁10の少なくとも1つの情報マーカ70、又は
図6の弁形成補綴具80の少なくとも1つの情報マーカ82)によって提供される情報に基づいて選択することができる。例えば、少なくとも1つの情報マーカ70は、元々の心臓補綴具に関連するメーカー、タイプ、モデル、特徴、サイズ及び日付のうちの1つ又は2つ以上に関する情報を示すことができる。医師又は臨床医は、この情報を用いて、元々の心臓補綴具に適合する適切な置換補綴心臓弁50を決定することができる。このような情報を用いて、元々の心臓弁への再介入要件を満たしている適切なサイズ、形状、モデルなどの置換心臓弁に関する指示を行うルックアップテーブル、ソフトウェアなど、又はその他の種類の文献において適切な置換弁を特定することができる。
【0059】
元々の心臓補綴具の少なくとも1つの情報マーカは、あらゆる好適な技術を用いて検出することができる。例えば、いくつかの実施形態では、蛍光透視可視化技術を用いてマーカを検出又は読み取りできるように、少なくとも1つの情報マーカが放射線不透過材料を含むことができる。
【0060】
置換ステントは、送達前に、ステント構造の恒久的変形を引き起こすことなくできるだけ小さくなるように、収縮状態でバルーンを覆って取り付けられる。拡張状態に比べると、支持構造は、支持構造自体及びバルーン上に圧縮され、拡張状態における内径に比べて小さな内径を定める。この説明は、バルーン拡張式ステントの送達に関するものであるが、送達システムがバルーンを含まず、いくつかの実施形態ではシース又はステントが配置されるまでステントを圧縮状態に維持する他の何らかのタイプの構成を含む自己拡張式ステントにも同じ基本手順が当てはまる。
【0061】
経カテーテルアセンブリは、ステントがバルーンに取り付けられた状態で、患者の経皮的開口部(図示せず)を通じて送達カテーテルによって送達される。移植位置は、バルーンカテーテルが送達カテーテル内に別様に引っ込められた状態で送達カテーテルの遠位端から延びるガイドワイヤを患者の体内に挿入することによって特定される。その後、バルーンカテーテルを送達カテーテルからガイドワイヤに沿って遠位に進め、バルーン及びステントを移植位置に位置決めする。別の実施形態では、低侵襲性の外科切開を通じて(すなわち、非経皮的に)ステントが移植位置に送達される。さらに別の実施形態では、開心/開胸手術を通じてステントが送達される。
【0062】
本明細書では、置換弁の1つの例示的な実施形態について説明しているが、この置換弁のステントは、
図2に示すものとは少なくとも若干異なる構造を有することができると理解されたい。すなわち、このステントは、その両端部に同じ又は異なる数のクラウンを有することができ、及び/又は両端部のいずれかよりも密度の高い又は低いワイヤを中央部に有することができる。このステントは、ステントの第1及び第2の端部間に、第1及び第2の端部よりも大きな直径を有する中央球状領域をさらに含むことができる。この球状領域は、患者内にステントを位置付ける(例えば、大動脈弁の洞領域における)解剖学的構造の輪郭に概ね一致するように構成することができる。これとは別に、又はこれに加えて、ステントは、中央部分の両側から延びるフレア部分を含むことができる。このようなステントは、ステントを適所に固定する支援を行うために隣接する心室内にフレア部が延びる一方で、生来の解剖学的機能を妨げないように患者の解剖学的構造(例えば、大動脈)内に位置付けることができる。
【0063】
ステント送達過程では、ステントが送達システムから解放されるまで、過程中におけるあらゆる時点で置換弁が全体的又は部分的にシース内に引き込み可能であることが有利となり得る。このことは、送達先の患者の解剖学的構造及び/又は元々の心臓補綴具に対するステントの位置が正しくないと判断された場合にステントを再配置するのに有用となり得る。
【0064】
上述したように、少なくとも1つの情報マーカは、例えば放射線不透過材料又は放射線不透過物浸透材料などのいずれかの好適な材料で作成することができる。この目的で選択される放射線不透過材料は、生体適合性とすることができる。このような材料としては、タングステン、タンタル、白金、金、ケイ酸バリウム、及びHastelloy(登録商標)金属などの合金が挙げられる。
【0065】
このような材料から放射線不透過性マーカを形成する工程は様々である。いくつかの実施形態では、エッチング工程を用いてマーカの項目を形成することができる。この工程は、感光性ポリマープレートに対するマスクとして耐光性コーティングを施すフォトエッチング工程とすることができる。プレート上に光を投影した後にプレートを洗浄して、マスクとして使用した耐光性材料を除去する。その後、さらなる洗浄ステップを用いて、光に曝された金属の一部を化学的に除去することができる。他の実施形態では、耐光性コーティングと露出金属とを1回の洗浄ステップで除去することができる。当業者に周知の他の同様のエッチング工程を使用することもできる。
【0066】
説明したマーカで使用する放射線不透過項目を形成する別の機構は、放射線不透過材料のシートから項目を打ち抜くものである。例えば、文字を打ち抜く雄部及び雌部を有するダイセットに材料のリボンを供給することができる。1つの例では、打ち抜かれた項目が、打ち抜き加工中に互いに完全に分離せず、離脱タブを介してこのような項目の大型シートに接続されたままとすることができる。使用前に、それぞれのタブをねじり、曲げ、切断し、又は別様に壊すことにより、所望の項目を大型の項目シートから分離することができる。これにより、単独では非常に小さいものとなり得る項目を容易に保存し、使用の直前まで群として管理することが可能になる。このような打ち抜き加工及び離脱タブを使用することにより、ギザギザのエッジ及び/又はバリを有する放射線不透過項目を作成することができる。
【0067】
放射線不透過項目を製造するさらに別の技術は、レーザー切断技術を用いるものである。レーザー切断では、非常に厳しい公差と滑らかなエッジがもたらされ、小さな放射線不透過マーカを読み取りやすくすることができる。しかしながら、材料によっては、この技術を用いた処理が高価又は困難なものもある。特に、この技術は、大量生産レベルでは高価になり得る。
【0068】
放射線不透過項目を形成するさらに別の選択肢は、焼結工程を伴う。この技術によれば、接着剤と混合した粉末状の放射線不透過材料を型に押し込み、全ての接着剤が消散して放射線不透過粒子が互いに結合するまで焼く。この種の工程では、後の成形工程中に使用するポリマーの分子に付着しやすい多孔質構造が生じ、ポリマーが受け入れられる程度は、ポリマーの分子サイズに依存する。
【0069】
金属射出成形を用いて放射線不透過項目を形成することもできる。このシナリオでは、放射線不透過粉末又はスラリを圧力下で型に注入する。その後、放射線不透過粒子が互いに結合するまで粉末又はスラリを焼く。この工程でも、焼結と同様に比較的多孔性の放射線不透過項目を生じることができる。
【0070】
さらに、いくつかの実施形態では、弁に関連するタイプのマーカを形成するために、放射線不透過物が浸透した縫合糸を用いて弁の縫合線又は縫合パターンを作成することもできる。
【0071】
本明細書で引用した全ての参考文献及び刊行物は、これらが本開示と直接的に矛盾する程度を除き、その全体が引用によって本開示に明確に組み入れられる。本開示の例示的な実施形態を説明し、本開示の範囲内で考えられる変形例にも言及した。本開示におけるこれらの及びその他の変形例及び修正例は、本開示の範囲から逸脱することなく当業者に明らかになり、従って本開示は、本明細書に示す例示的な実施形態に限定されるものではないと理解されたい。従って、本開示は、以下に示す特許請求の範囲のみによって限定されるべきである。
【手続補正書】
【提出日】2023-05-30
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
元々の心臓補綴具内に置換補綴心臓弁を移植する方法であって、
前記元々の心臓補綴具の少なくとも1つの情報マーカを検出するステップと、
前記元々の心臓補綴具の前記少なくとも1つの情報マーカによって提供される情報に基づいて前記置換補綴心臓弁を選択するステップと、
前記元々の心臓補綴具によって定められる開口部内に前記置換補綴心臓弁を位置付けるステップと、を含んでいる、
ことを特徴とする方法。