(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009985
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】角度検出システム、モータ駆動システム、及び角度検出方法
(51)【国際特許分類】
H02P 29/00 20160101AFI20230113BHJP
【FI】
H02P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113715
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】501137636
【氏名又は名称】東芝三菱電機産業システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(74)【代理人】
【識別番号】100135301
【弁理士】
【氏名又は名称】梶井 良訓
(72)【発明者】
【氏名】青木 淳一
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501CC01
5H501GG03
5H501GG05
5H501HB07
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ17
5H501JJ25
5H501KK06
5H501LL22
5H501LL60
5H501MM19
(57)【要約】
【課題】レゾルバの初期位置を容易に調整できる。
【解決手段】角度検出システムは、レゾルバと、制御装置とを備える。レゾルバは、モータの角度を検出する。制御装置は、前記レゾルバの角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて、前記モータを速度制御する。前記制御装置は、前記レゾルバの角度検出値に含まれる前記モータの角度の真値に対するオフセットを前記レゾルバの初期位置に基づいて補償した角度検出値を生成可能に形成されていて、前記モータの角度の真値とのオフセットを検出する検出期間に調整用角度検出値を生成して、前記調整用角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて前記モータを速度制御して、前記検出期間中に検出された前記モータの電流の検出値又は前記速度推定値を前記調整用角度検出値に対応付けて用いて、前記レゾルバの初期位置を推定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの角度を検出するレゾルバと、
前記レゾルバの角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて、前記モータを速度制御する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、
前記レゾルバの角度検出値に含まれる前記モータの角度の真値に対するオフセットを前記レゾルバの初期位置に基づいて補償した角度検出値を生成可能に形成されていて、
前記モータの角度の真値とのオフセットを検出する検出期間に調整用角度検出値を生成して、前記調整用角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて前記モータを速度制御して、
前記検出期間中に検出された前記モータの電流の検出値又は前記速度推定値を前記調整用角度検出値に対応付けて用いて、前記レゾルバの初期位置を推定する、
角度検出システム。
【請求項2】
前記制御装置は、
前記検出期間中に検出された前記モータの電流の検出値がより小さいときの前記調整用角度検出値に基づいて、前記レゾルバの初期位置を推定する、
請求項1に記載の角度検出システム。
【請求項3】
前記制御装置は、
前記検出期間中に検出された前記速度推定値がより大きいときの前記調整用角度検出値に基づいて、前記レゾルバの初期位置を推定する、
請求項1に記載の角度検出システム。
【請求項4】
前記制御装置は、
前記検出期間中に前記モータに流す駆動電流を制限して、前記速度推定値を検出する、
請求項3に記載の角度検出システム。
【請求項5】
レゾルバによって軸の角度が検出されるモータと、
請求項1から請求項4の何れか1項に記載の角度検出システムと
を備えるモータ駆動システム。
【請求項6】
モータの角度を検出するレゾルバの角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて、前記モータを速度制御する角度検出システムの角度検出方法であって、
前記レゾルバの角度検出値に含まれる前記モータの角度の真値に対するオフセットを前記レゾルバの初期位置に基づいて補償した角度検出値を生成可能に形成されていて、
前記モータの角度の真値とのオフセットを検出する検出期間に調整用角度検出値を生成して、前記調整用角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて前記モータを速度制御するステップと、
前記検出期間中に検出された前記モータの電流の検出値又は前記速度推定値を前記調整用角度検出値に対応付けて用いて、前記レゾルバの初期位置を推定するステップと、
を含む角度検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、角度検出システム、モータ駆動システム、及び角度検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レゾルバは、その軸の角度(回転位置)を検出することで、軸に連結されたモータの回転子の角度を検出することに利用される。レゾルバには、その基準の位置に対する絶対位置を検出可能なものがある。角度検出システムの検出精度を高める際に、レゾルバの基準の位置をモータの基準の位置に整合させるためにレゾルバの初期位置の調整が困難なことがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、レゾルバの初期位置を容易に調整できる角度検出システム、モータ駆動システム、及び角度検出方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の角度検出システムは、レゾルバと、制御装置とを備える。レゾルバは、モータの角度を検出する。制御装置は、前記レゾルバの角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて、前記モータを速度制御する。前記制御装置は、前記レゾルバの角度検出値に含まれる前記モータの角度の真値に対するオフセットを前記レゾルバの初期位置に基づいて補償した角度検出値を生成可能に形成されていて、前記モータの角度の真値とのオフセットを検出する検出期間に調整用角度検出値を生成して、前記調整用角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて前記モータを速度制御して、前記検出期間中に検出された前記モータの電流の検出値又は前記速度推定値を前記調整用角度検出値に対応付けて用いて、前記レゾルバの初期位置を推定する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【
図1】実施形態のモータ駆動システムのブロック図。
【
図2】実施形態の角度検出値に付加する角度調整量Δθcの大きさとモータ2の速度ωと電流Iとの関係を説明するための図。
【
図3】実施形態の角度検出値に付加する角度調整量Δθcの大きさとモータ2の速度ωと電流Iとの関係を説明するための図。
【
図4】実施形態の出力のオフセットを相殺するための処理のフローチャート。
【
図5】変形例の角度検出値に付加する角度調整量Δθcの大きさとモータ2の速度ωと電流Iとの関係を説明するための図。
【
図6】変形例の角度検出値に付加する角度調整量Δθcの大きさとモータ2の速度ωと電流Iとの関係を説明するための図。
【
図7】変形例の出力のオフセットを相殺するための処理のフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態の角度検出システム、モータ駆動システム、及び角度検出方法を、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的又は概念的なものであり、各部の機能の配分などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。
【0008】
以下の説明では、同一又は類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。
実施形態において「接続されている」とは、電気的に接続されていることを含む。「XXに基づく」とは、「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含み得る。「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含み得る。「XX又はYY」とは、XXとYYのうち何れか一方の場合に限定されず、XXとYYの両方の場合も含み得る。これは選択的要素が3つ以上の場合も同様である。「XX」及び「YY」は、任意の要素(例えば任意の情報)である。「インバータ」は、交流を出力する電力変換器であって、例えば、DC/ACコンバータなどが含まれる。「モータ」は、交流電力によって駆動される誘導電動機などの回転電機のことである。「モータの回転速度」のことを単に「モータの速度」ということがある。
【0009】
以下の説明に示す「電流の測定値」とは、実際の電流の測定値、実際の電流の大きさを示す指標値、又は電流の大きさを示す推定値のことである。
【0010】
(実施形態)
図1は、実施形態に係るモータ駆動システム1を例示するブロック図である。例えば、モータ駆動システム1は、モータ速度制御装置10を備える。モータ速度制御装置10は、回転位置補正装置の一例である。モータ駆動システム1は、さらに、モータ2(
図1中の記載はM。)、及びレゾルバ2A(
図1中の記載はSS。)を備えていてもよい。モータ駆動システム1は、角度検出システムの一例である。
【0011】
モータ速度制御装置10は、モータ2、及びレゾルバ2Aに接続されている。モータ速度制御装置10は、レゾルバ2Aによって検出されたモータ2の実際の速度が、所望の速度指令値ω*に一致するように、モータ2の速度を制御する。
【0012】
モータ2は、複数の巻線を備え、各巻線が、後述するインバータ30の出力に接続されている。インバータ30は、電力変換器の一例である。例えばインバータ30は、直流電源20(図中にDCと記載。)から供給される直流電力を変換して、モータ2を駆動させる。例えば、インバータ30からの交流が各巻線に流れると、電磁的な作用によりモータ2が回転する。例えば、モータ2の軸には、レゾルバ2Aの軸がフランジ結合などの方法で機械的に連結されていて、モータ2の軸の回転に応じてレゾルバ2Aの軸が連動して回転する。
【0013】
レゾルバ2Aは、自らの軸の位置に応じた交流信号を生成する。例えば、レゾルバ2Aは、1次側巻線の電流によって励磁された磁束を2次側巻線によって検出する。2次側巻線に励起される電圧又は電流は、励磁された磁束の方向と2次側巻線の方向の角度差に応じた位相情報を含む交流信号になる。レゾルバ2Aは、その交流信号を自らの軸の位置の検出信号として生成する。
【0014】
なお、実施形態のレゾルバ2Aは、その内部に信号変換器を含む。信号変換器は、自らの軸の位置に応じた交流信号に基づいて、レゾルバ2Aの軸の角度を示す指標値、つまりモータ2の軸の角度を示す指標値(角度検出値θe2という。)を生成する。換言すれば、このレゾルバ2Aは、モータ2の軸の角度の検出結果に対応する角度検出値θe2を生成して出力する。信号変換器は信号処理のための電子回路を含む。そのため、信号変換器が出力する信号に角度のオフセットが含まれることがある。なお、この信号変換器は、レゾルバ2Aの外部に別体で構成されていてもよく、後述するモータ速度制御装置10の一部として含まれていてもよい。以下の説明では、レゾルバ2Aに内蔵される場合について説明する。
【0015】
例えば、モータ速度制御装置10は、モータ2を駆動するインバータ30の制御装置である。モータ速度制御装置10は、回転位置補正装置の一例である。
【0016】
モータ速度制御装置10は、回転位置補正部3と、速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7(図中の記載はPWM。)と、電流値変換部8と、基準位置推定部9とを含む。なお、速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7は、制御部の一例である。この制御には一般的な手法を適用してよい。
【0017】
速度制御部5は、速度指令値ω*とモータ2の速度推定値ωFBKとの速度偏差に所定の速度応答ゲインを乗じて駆動トルクの指令値を生成する。速度指令値ω*は、例えばプログラマブルコントローラ(PLC)等の上位制御装置から供給される。速度指令値ω*は、所望の値が設定され、設定後から次の値が設定されるまでその値に維持される。モータ2の速度推定値ωFBKについて後述する。
【0018】
電流制御部6は、速度制御部5の出力に接続されている。電流制御部6は、速度制御部5から供給される駆動トルクの指令値と、モータ2に供給されるトルク電流成分の推定値(電流iFBKという。)との差に応じて生成される電圧指令値V*を出力する。
【0019】
PWM制御部7は、PWM制御(Pulse Width Modulation制御)によってインバータ30を制御することにより、モータ2を駆動させる。例えば、PWM制御部7の入力は、電流制御部6の出力に接続され、その出力がインバータ30に接続されている。PWM制御部7は、電流制御部6によって生成された電圧指令値V*に応じてモータ2を駆動するようにインバータ30のゲート制御信号を出力する。
【0020】
例えば、インバータ30の出力に接続される配線には、各相の相電流を夫々検出する変流器CTが設けられていてもよい。変流器CTは、3相交流の各相の配線のうち少なくとも2相の配線に設けられていてもよい。
【0021】
電流値変換部8は、変流器CTによって検出された相電流の瞬時値と、モータ2の回転に対応する基準位相θ0とに基づいて、相電流の大きさの指標値である電流検出値iFBKを生成する。電流制御部6は、電流検出値iFBKを用いて電流制御を実施してもよい。
【0022】
基準位置推定部9は、モータ駆動システム1のモータ2に接続されているレゾルバ2Aの初期位置を推定する。初期位置とは、モータ2の回転子の基準位置に対応付けられるレゾルバ2Aの基準位置のことである。換言すると、初期位置とは、モータ2の回転子の機械的な基準位置に対するレゾルバ2Aが出力する電気信号上の基準位置のことである。モータ2の回転子が基準位置にあるときに、レゾルバ2Aの基準位置が一致する状態が理想状態である。しかしながら、レゾルバ2Aの初期位置が0にならない場合がある。基準位置推定部9は、相電流の大きさ(電流検出値iFBK)と、後述する速度推定値ωFBKとに基づいて、上記のレゾルバ2Aの初期位置を推定する。これの詳細について後述する。
【0023】
回転位置補正部3の第1入力は、レゾルバ2Aの出力に接続されている。例えば、回転位置補正部3は、レゾルバ2Aから出力される角度検出値θe2を受けて、モータ2の速度制御のために利用する。回転位置補正部3の第2入力は、基準位置推定部9の出力に接続されている。例えば、回転位置補正部3は、基準位置推定部9が出力する位置補正指令値を、回転位置補正に利用する。
【0024】
例えば、回転位置補正部3は、検出値補正部31と、速度変換部32とを備える。
検出値補正部31は、補正値生成部31aと、減算器31bとを備える。補正値生成部31aは、基準位置推定部9が出力する位置補正指令値に基づいて、位置補正指令値に対応する角度調整量Δθcを生成する。減算器31bは、角度検出値θe2から角度調整量Δθcを減算して、角度推定値θe1を生成する。角度調整量Δθcは、角度補正情報の一例である。
【0025】
速度変換部32は、検出値補正部31によって生成された角度推定値θe1を取得して、角度推定値θe1に基づいて、前述の速度推定値ωFBKなどを生成する。
【0026】
なお、モータ速度制御装置10は、例えば、CPUなどのプロセッサを含み、プロセッサが所定のプログラムを実行することによって、回転位置補正部3、速度制御部5、電流制御部6、PWM制御部7、電流値変換部8、基準位置推定部9などの機能部の一部又は全部を実現してもよく、電気回路の組み合わせ(circuitry)によって上記を実現してもよい。モータ速度制御装置10は、内部に備える記憶部の記憶領域を利用して各データの転送処理、及び解析のための演算処理を、プロセッサによる所定のプログラムの実行によって実行してもよい。
【0027】
次に、
図2から
図4を参照して、レゾルバ2Aの検出結果に生じた角度情報のズレ(オフセット)を補正する事例について説明する。
【0028】
図2と
図3は、実施形態の角度検出値に付加する角度調整量Δθcの大きさとモータ2の速度ωと電流Iとの関係を説明するための図である。
【0029】
モータ2の軸にレゾルバ2Aの軸を結合した結果、モータ2の軸の基準位置と、レゾルバ2Aの軸の基準位置との間に機械的なオフセットが生じることがある。また、レゾルバ2Aの軸の基準位置と、変換器によって変換された角度情報との間に電気的なオフセットが生じることがある。これらのオフセットが生じると、レゾルバ2Aが出力する信号からモータ2の軸の位置を正確に検出することが困難になる。以下、機械的なオフセットと電気的なオフセットを区別することなく説明する場合には、単に、「出力値のオフセット」と呼ぶ。例えば、出力値のオフセットが0であれば、機械的なオフセットと電気的なオフセットの合成値が0になるように、初期位置が調整された状態にある。
【0030】
図2の(a)と(b)は、レゾルバ2Aの出力値にオフセットがない理想的な状況で、レゾルバ2Aの出力値に対して角度調整量を付加した場合のモータ2の速度ωと、モータ2に流す駆動電流Iの関係を示す。例えば、
図2の(a)と(b)の横軸は、付加した角度調整量の大きさを示し、その原点は、モータ2の軸の基準位置とレゾルバ2Aの軸の基準位置の両方に対応付けられている。
【0031】
図2の(a)と(b)に示すように、モータ2を、速度指令値ω
*で駆動する場合、駆動電流Iは、付加した角度調整量が0の場合の値が小さくなり、付加したオフセットΔθcが大きくなるほどその値が大きくなる。このような試験を行う際には、過大な電流が流れないように留意する必要がある。
【0032】
図3の(a)と(b)は、レゾルバ2Aの出力値にオフセット(θoffset)が生じている状況で、レゾルバ2Aの出力値に対して角度調整量を付加した場合のモータ2の速度ωと、モータ2に流す駆動電流Iの関係を示す。例えば、
図3の(a)と(b)の横軸は、付加した角度調整量の大きさを示し、その原点は、モータ2の軸の基準位置に対応付けられている。θoffsetは、レゾルバ2Aの出力値に生じたオフセットを示す。
【0033】
図3の(a)と(b)に示すように、モータ2を、速度指令値ω
*で駆動する場合、駆動電流Iは、付加した角度調整量Δθcがθoffsetである場合の値が小さくなり、付加した角度調整量Δθcがθoffsetから離れるほどその値が大きくなる。このような試験を行う際には、過大な電流が流れないように留意する必要がある。このように、付加する角度調整量Δθcの大きさを調整して、駆動電流Iの値が小さくなるときの角度調整量Δθcの大きさを識別することで、レゾルバ2Aの出力値に含まれたオフセットの大きさを識別できる。
【0034】
図4を参照して、実施形態の出力のオフセットを相殺するための処理について説明する。
図4は、実施形態の出力のオフセットを相殺するための処理のフローチャートである。
【0035】
モータ速度制御装置10の回転位置補正部3は、レゾルバ2Aの出力値に付加する角度調整量Δθcの起点にする初期値を所定の角度に定める(ステップSA1)。その所定の角度は、モータ2の1回転の中で任意の角度に定めてよい。モータ速度制御装置10は、下記の手順によって一巡するように角度調整量Δθcを走査する。
【0036】
例えば、基準位置推定部9は、電流値変換部8の出力に基づいて、角度調整量Δθcに対応する電流値の大きさを検出する(ステップSA2)。モータ速度制御装置10は、その電流値の大きさを、角度調整量Δθcの各角度に対応付けて記録する(ステップSA3)。回転位置補正部3は、角度調整量Δθcの大きさを所定量変更する(ステップSA4)。モータ速度制御装置10は、角度調整量Δθcを一巡させる走査が終了したか否かを識別する(ステップSA5)。その結果、一巡させる走査が終了していない場合には、モータ速度制御装置10は、ステップSA2からの処理を繰り返す。
【0037】
一巡する走査を終了したのち、基準位置推定部9は、各角度の電流値の大きさを比較して、最も小さな電流値を示す角度を選択する(ステップSA6)。
基準位置推定部9は、これにより選択された角度を、レゾルバ2Aの出力値に含まれたオフセットとして識別して、補正値生成部31aが生成する角度調整量Δθcの大きさを、ステップSA6において選択した角度にして(ステップSA7)、一連の処理を終える。
【0038】
この手順により、レゾルバ2Aの出力値に含まれたオフセットに対応する角度調整量Δθcを決定することができる。モータ速度制御装置10は、この角度調整量Δθcを用いて、モータ2を駆動させる。
【0039】
上記の実施形態によれば、モータ駆動システム1(角度検出システム)は、レゾルバ2Aと、モータ速度制御装置10とを備える。モータ速度制御装置10は、モータ2の角度を検出するレゾルバ2Aの角度検出値に基づいた速度推定値ωFBKと、所望の値の速度指令ω*
とに基づいて、モータ2を速度制御する。モータ速度制御装置10は、レゾルバ2Aの角度検出値に含まれるモータ2の角度の真値に対するオフセットをレゾルバ2Aの初期位置に基づいて補償した角度検出値を生成可能に形成されている。モータ速度制御装置10は、モータ2の角度の真値とのオフセットを検出する検出期間に調整用角度検出値を生成して、前記調整用角度検出値に基づいた速度推定値ωFBKと、所望の値の速度指令ω*とに基づいてモータ2を速度制御する。モータ速度制御装置10は、上記の検出期間中に検出されたモータ2の駆動電流の検出値を調整用角度検出値に対応付けて用いて、レゾルバ2Aの初期位置を推定する。これにより、モータ駆動システム1は、レゾルバ2Aの初期位置を容易に調整できる。
【0040】
なお、上位の装置は、レゾルバ2Aの基準位置を調整するときの速度指令値ω*の大きさを、モータ2に過度な電流が流れないような大きさに設定するとよい。
【0041】
速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7は、速度推定値ωFBKが速度指令値ω*になるように、モータ2を制御する。速度制御部5と、電流制御部6と、PWM制御部7は、モータ2を制御する制御部の一例である。
【0042】
なお、モータ速度制御装置10は、上記の検出期間中に検出されたモータ2の駆動電流の検出値がより小さいときの調整用角度検出値に基づいて、レゾルバ2Aの初期位置を推定するとよい。
【0043】
(実施形態の変形例)
図5から
図7を参照して、実施形態の変形例について説明する。上記の実施形態では、モータ2の速度を維持して基準位置を走査する一手法を例示したが、この手法に制限されない。これに代えて、本変形例では、モータ2の駆動電流を所定値に制限することで電流を維持して基準位置を走査する事例について説明する。本変形例によれば、モータ2の駆動電流が過大になることに対する留意が不要になる。以下、詳細に説明する。
【0044】
変形例のモータ速度制御装置10は、レゾルバ2Aの初期位置の検出期間に、モータ2の駆動電流を所定の範囲内に制限する。なお、電流制御部6とPWM制御部7の何れかが、モータ2の駆動電流を所定の範囲内に制限するように形成されていてよい。例えば、電流制御部6は、制御により指定される制限値によって駆動電圧の指令値を制限することで、モータ2の駆動電流を所定の範囲内に制限するとよい。PWM制御部7は、制御により指定される制限値によってゲートパルスのDUTYを制限することで、モータ2の駆動電流を所定の範囲内に制限するとよい。この制限は、後述する基準位置推定部9からの制御により行われる。
【0045】
図5から
図7は、前述の
図2から
図4にそれぞれ対応する。
図5と
図6は、変形例の角度検出値に付加する角度調整量Δθcの大きさとモータ2の速度ωと電流Iとの関係を説明するための図である。
【0046】
図5と
図6に示す事例では、駆動電流を所定の大きさ(上限値UL)に制限することを条件にする。例えば、駆動電流の上限値ULとして、モータ2を速度指令値ω
*で駆動するときに流れる駆動電流の大きさよりも小さい値を設定する。これにより、基準位置の調整中に、速度指令値ω
*の大きさに対して、十分な駆動電流が流すことができない状態になる。そのため、モータ2の速度は、常に速度指令値ω
*に対して不足した状態が形成される。
【0047】
図5の(a)と(b)は、レゾルバ2Aの出力値にオフセットがない理想的な状況で、レゾルバ2Aの出力値に対して角度調整量Δθcを付加した場合のモータ2に流す駆動電流Iとモータ2の速度ωの関係を示す。
【0048】
図5の(a)と(b)に示すように、モータ2の駆動電流を上限値ULで制限する場合、モータ2の速度は、速度指令値ω
*に対応する速度に達しない。モータ2の速度は、付加したオフセットが0の場合に速くなり、付加した角度調整量Δθcが大きくなるほど遅くなる。
【0049】
図6の(a)と(b)は、レゾルバ2Aの出力値にオフセットが生じている状況で、レゾルバ2Aの出力値に対して角度調整量Δθcを付加した場合のモータ2に流す駆動電流Iとモータ2の速度ωの関係を示す。
【0050】
図6の(a)と(b)に示すように、モータ2を、速度指令値ω
*で駆動しようとしても駆動電流Iが上限値ULで制限される場合、速度指令値ω
*に対応する速度に達しない。モータ2の速度は、付加した角度調整量Δθcがθoffsetである場合に最も早くなり、付加した角度調整量Δθcがθoffsetから離れるほど遅くなる。このように、付加するオフセットΔθcの大きさを調整して、モータ2の速度ωの値が最も大きくなるときの角度調整量Δθcの大きさを識別することで、レゾルバ2Aの出力値に含まれたオフセットθoffsetの大きさを識別できる。
【0051】
図7を参照して、変形例のレゾルバ2Aの出力値のオフセットθoffsetを相殺するための処理について説明する。
図7は、変形例の出力のオフセットを相殺するための処理のフローチャートである。
【0052】
モータ速度制御装置10の回転位置補正部3は、レゾルバ2Aの出力値に付加する角度調整量Δθcの起点にする初期値を所定の角度に定める(ステップSB1)。その所定の角度は、モータ2の1回転の中で任意の角度に定めてよい。モータ速度制御装置10は、下記の手順によって一巡するように角度調整量Δθcを走査する。
【0053】
例えば、基準位置推定部9は、電流値変換部8の出力に基づいて、角度調整量Δθcに対応するモータ2の速度ωを検出する(ステップSB2)。モータ速度制御装置10は、そのモータ2の速度ωを、オフセットΔθcの各角度に対応付けて記録する(ステップSB3)。回転位置補正部3は、角度調整量Δθcの大きさを所定量変更して(ステップSB4)。モータ速度制御装置10は、角度調整量Δθcを一巡させる走査が終了したか否かを識別する(ステップSB5)。その結果、一巡させる走査が終了していない場合には、モータ速度制御装置10は、ステップSB2からの処理を繰り返す。
【0054】
一巡する走査を終了したのち、基準位置推定部9は、各角度のモータ2の速度ωの大きさを比較して、最も大きな値を示す角度を選択する(ステップSB6)。
基準位置推定部9は、これにより選択された角度を、レゾルバ2Aの出力値に含まれたオフセットとして識別して、補正値生成部31aが生成する角度調整量Δθcの大きさを、ステップSB6において選択した角度にして(ステップSB7)、一連の処理を終える。
【0055】
この手順により、レゾルバ2Aの出力値に含まれたオフセットに対応する角度調整量Δθcを決定することができる。モータ速度制御装置10は、この角度調整量Δθcを用いて、モータ2を駆動させる。
【0056】
上記の変形例によれば、モータ駆動システム1は、モータ2の角度の真値とのオフセットを検出する検出期間に調整用角度検出値を生成して、調整用角度検出値に基づいた速度推定値ωFBKと、所望の値の速度指令ω*とに基づいてモータ2を速度制御して、その検出期間中に検出された速度推定値を調整用角度検出値に対応付けて用いて、レゾルバ2Aの初期位置を推定する。これにより、モータ駆動システム1は、レゾルバ2Aの初期位置を容易に調整できる。
【0057】
なお、モータ速度制御装置10は、上記の検出期間中に検出された速度推定値がより大きいときの調整用角度検出値に基づいて、レゾルバ2Aの初期位置を推定するとよい。モータ速度制御装置10は、上記の検出期間中にモータ2に流す駆動電流を制限して、速度推定値を検出するとよい。
【0058】
以上に説明した少なくとも一つの実施形態によれば、角度検出システムは、レゾルバと、制御装置とを備える。レゾルバは、モータの角度を検出する。制御装置は、前記レゾルバの角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて、前記モータを速度制御する。前記制御装置は、前記レゾルバの角度検出値に含まれる前記モータの角度の真値に対するオフセットを前記レゾルバの初期位置に基づいて補償した角度検出値を生成可能に形成されていて、前記モータの角度の真値とのオフセットを検出する検出期間に調整用角度検出値を生成して、前記調整用角度検出値に基づいた速度推定値と、所望の値の速度指令とに基づいて前記モータを速度制御して、前記検出期間中に検出された前記モータの電流の検出値又は前記速度推定値を前記調整用角度検出値に対応付けて用いて、前記レゾルバの初期位置を推定する。これにより、角度検出システムは、レゾルバの初期位置を容易に調整できる。
【0059】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0060】
1 モータ駆動システム、2 モータ、3 回転位置補正部、4 履歴情報処理部、5 速度制御部、6 電流制御部、7 PWM制御部、8 電流値変換部、9 基準位置推定部、10 モータ速度制御装置(回転位置補正装置)、20 直流電源、30 インバータ、31 検出値補正部、32 速度変換部