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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009989
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】発汗分布計測装置、発汗分布計測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20230113BHJP
   A61B 5/01 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A61B5/00 N
A61B5/01 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113720
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【弁理士】
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】戸川 達男
(72)【発明者】
【氏名】田中 志信
【テーマコード(参考)】
4C117
【Fターム(参考)】
4C117XB01
4C117XE06
4C117XE48
4C117XG13
4C117XG22
4C117XJ13
4C117XJ14
4C117XK05
4C117XK09
4C117XK14
(57)【要約】
【課題】対象者の負担を低減して発汗状態を計測することができる発汗分布計測装置等を提供する。
【解決手段】発汗分布計測装置は、対象者99に向かう気流を発生させる送風部(送風装置100)と、気流が発生しているときの対象者99の体表面における第1温度分布を検知する検知部(検知装置200)と、検知された第1温度分布に基づいて対象者99の発汗分布を算出して出力する演算部(演算装置300)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象者に向かう気流を発生させる送風部と、
前記気流が発生しているときの前記対象者の体表面における第1温度分布を検知する検知部と、
検知された前記第1温度分布に基づいて前記対象者の発汗分布を算出して出力する演算部と、を備える
発汗分布計測装置。
【請求項2】
前記気流は、前記対象者の周囲の外気温よりも高い温度である
請求項1に記載の発汗分布計測装置。
【請求項3】
前記気流は、前記対象者の前記体表面の温度よりも高い温度である
請求項1に記載の発汗分布計測装置。
【請求項4】
前記検知部は、さらに、前記気流が発生していないときの前記対象者の体表面における第2温度分布を検知し、
前記演算部は、検知された前記第1温度分布及び前記第2温度分布の差に基づいて前記対象者の前記発汗分布を算出する
請求項1~3のいずれか1項に記載の発汗分布計測装置。
【請求項5】
前記演算部は、
前記対象者の前記体表面上の1以上の位置の各々を、発汗がある発汗位置及び発汗がない非発汗位置のいずれかに分類し、
前記発汗分布として、前記発汗位置及び前記非発汗位置が2次元状に並ぶ画像を出力する
請求項1~4のいずれか1項に記載の発汗分布計測装置。
【請求項6】
前記演算部は、
検知された前記第1温度分布における第1位置の第1温度から、前記第1位置とは異なる第2位置の第2温度を差し引いて差分値を算出し、
算出した前記差分値が所定の閾値以上である場合に、前記第2位置が、前記発汗位置であることを示す前記発汗分布を算出する
請求項5に記載の発汗分布計測装置。
【請求項7】
前記演算部は、
前記対象者の前記体表面上の1以上の位置の各々を、3段階以上の発汗の程度に応じた3種類以上の位置のいずれかに分類し、
前記発汗分布として、前記3種類以上の位置が2次元状に並ぶ画像を出力する
請求項1~4のいずれか1項に記載の発汗分布計測装置。
【請求項8】
対象者に向かう気流を発生させ、
前記気流が発生しているときの前記対象者の体表面における第1温度分布を検知し、
検知された前記第1温度分布に基づいて前記対象者の発汗分布を算出して出力する
発汗分布計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発汗分布計測装置、発汗分布計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、対象者の発汗状態を計測するための装置等が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2021-83931号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Y. Kuno著, The physiology of human perspiration. J & A Churchill, London, 1934年発行, p29-31
【非特許文献2】V. Minor著, Ein neues Verfahren zu der klinischen Untersuchung der Schweisabsonderung. Dtsch Z Nervenheilkunde 1928年発行vol. 101, p302‐308
【非特許文献3】犬飼洋子著、発汗試験~一般病院や開業医院でもできる方法~.自律神経 2015年発行vol. 52、p192-197
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の発汗状態を計測するための装置等は、対象者の負担が大きいという課題がある。そこで、本発明では、対象者の負担を低減して発汗状態を計測することができる発汗分布計測装置等を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る発汗分布計測装置は、対象者に向かう気流を発生させる送風部と、前記気流が発生しているときの前記対象者の体表面における第1温度分布を検知する検知部と、検知された前記第1温度分布に基づいて前記対象者の発汗分布を算出して出力する演算部と、を備える。
【0007】
また、本発明の一態様に係る発汗分布計測方法では、対象者に向かう気流を発生させ、前記気流が発生しているときの前記対象者の体表面における第1温度分布を検知し、検知された前記第1温度分布に基づいて前記対象者の発汗分布を算出して出力する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対象者の負担を低減して発汗状態を計測することができる発汗分布計測装置等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施の形態に係る発汗分布計測装置の概略構成図である。
図2図2は、実施の形態に係る発汗分布計測装置の動作を示すフローチャートである。
図3図3は、実施の形態に係る発汗分布計測装置によって出力される発汗分布の概念図である。
図4A図4Aは、実施例に係る発汗分布の計測について説明する第1図である。
図4B図4Bは、実施例に係る発汗分布の計測について説明する第2図である。
図4C図4Cは、実施例に係る発汗分布の計測について説明する第3図である。
図4D図4Dは、実施例に係る発汗分布の計測について説明する第4図である。
図5図5は、実施例に係る発汗分布の計測例について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本発明に至った経緯)
従来、発汗過多又は発汗過少を示す発汗障害という疾患が知られている。この発汗障害は、有病率10%以上の疾患であり、治療を望む人の数が比較的多い疾患である。特に、重度の疾患の場合は、日常生活に支障をきたすため、生活の質を著しく低下させることが知られている。発汗障害の診断、治療及び生活上のケアのためには、発汗状態の検査が必要である。特に、発汗過多又は発汗過少を示す部位(身体上の位置)及び程度を明らかにするために、発汗状態の検査を行い、発汗分布を知る必要がある。
【0011】
初期の研究において、体表の発汗の有無及び発汗の分布を可視化するために、様々な方法が試みられたこと知られている(非特許文献1等参照)。例えば、石炭の微粉を吹きつけ、発汗がある部位に付着させて可視化する方法、吸取紙を各部位に接触させた後に、塩化銀溶液に浸して光を当て、発汗のない部位の吸取紙を黒く変色させて、発汗がある部位の吸取紙を白抜きにする方法、フクシン(紅色染料)のアルコール溶液を体表に塗布した後、体表に紙を接触させてと発汗部のみに紅色染料を残留させる方法、吸湿した際に変色するローダミン及び塩化コバルト等を用いる方法等があった。その後、1928年にミノールがヨウ素デンプン法を発表した(非特許文献2参照)。この方法は、ミノール法とも呼ばれ、広く普及し、今日でもほとんど原法のままで施行されている。
【0012】
ミノール法では、ヨウ素をひまし油と無水アルコールとの混合液に溶解させて体表に塗布し、乾燥後、デンプンを体表に散布する。すると、発汗のない部位は一様にデンプンの白色となり、一方で、発汗がある部位は黒色に変色する。ミノール法には、発汗を2次元情報として客観的に記録できる点で他の方法では代替できない特徴がある。しかし、発汗計測の性能としては定量性が低いうえに、薬剤の塗布及び検査後の洗い流しが必要で、患者への負担が大きいという課題がある。また、湿度が低く発汗が少ないと、汗の水分が蒸発してしまうため、ミノール法では検出できなくなるという問題もある。
【0013】
そこで、汗の水分によって発色するラップフィルムを体表に貼り付けるラップフィルム法、ヨウ素の無水アルコール溶液を塗布して乾燥させた後に、デンプンを混合したひまし油を塗布する和田・高垣法などが開発されたものの、従来のミノール法と比較して、従来のミノール法の方が全身の発汗分布を正確に描出できる点で最も適しているとされている(非特許文献3参照)。このように、ミノール法は、多くの改良や変法が試みられてきたものの、ミノール法を越える方法はいまだに開発されていない。
【0014】
そこで本発明は、上記に鑑みてなされ、身体に薬剤の塗布やフィルムの貼付などの操作を行うことなく、非接触で発汗分布を算出で得られた値として計測することができる装置を提供する。本発明では、発汗によって現れる水分の蒸発を熱量の変化として観測することを利用している。つまり、本発明は、発汗があれば水分が体表に現れ、これが蒸発するときに奪われる蒸発熱によって体表が冷やされることを利用する。
【0015】
体表の温度(体表温)は皮膚の熱伝導率や血流量などの影響を受け、また、体表組織の熱的性質は部位による違いが大きいので、体表の温度分布のみから計測対象者(以下単に対象者ともいう)の発汗分布を定量的に求めることは難しい。そこで、体表に気流をあてることができるようにし、気流をあてる前と後との体表温の変化(又は、差分)をサーモカメラ等の計測装置で計測すると、発汗のない部位(非発汗位置ともいう)に比べて、発汗のある部位(発汗位置ともいう)では汗の水分の蒸発に伴って発生する蒸発熱によって、体表が冷却される吸熱効果が生じる。
【0016】
この体表温の変化の差によって、汗の有無をとらえることが可能となる。特に、汗の水分を蒸発させるために用いられる気流を温風(温熱気流)とすると、熱負荷によって体表は温められることと、一方で、発汗位置では汗の水分の蒸発による吸熱とが同時に生じる。温風による熱負荷を上回る吸熱が起これば、発汗位置では体表が冷却され、非発汗位置では、熱負荷によって体表が暖められるので、体表温の変化の差をより顕著なものとすることができる。この結果、発汗がない又は比較的少ない部位と発汗が多い部位とを識別でき、吸熱の程度によって発汗分布を定量的に計測することが可能となる。
【0017】
上記をシミュレーションに基づいて説明する、現実的な発汗検査条件における温風による熱負荷と汗の蒸発による吸熱との算出法を示す。現実的な発汗検査条件としては、温風の温度と体表温との差ΔTが5℃程度であればよい。温風による熱負荷Qは、温風から体表への熱伝達率をhとし、熱流の断面積をAとしたとき、以下の式(1)によって表される。
【0018】
【数1】
【0019】
温風がない、すなわち、風速0m/sのとき、熱伝達率hは、約5J/mKsである。そして、例えば、風速5m/sの温風がある場合、熱伝達率hは、約15J/mKsである。それぞれを式1に代入すると、温風がない状態から風速5m/sの温風がある状態に変化した場合、1cmに1分間に加わる熱負荷の変化ΔQは、約0.3J/cm・minである。また、体表温を30℃固定、相対湿度を50%RH固定と仮定したとき、温風がない、すなわち、風速0m/sのとき、水の蒸発量Eは、約0.6mg/cmminである。そして、例えば、風速5m/sの温風がある場合、水の蒸発量Eは、約2.7mg/cmminである。したがって、温風がない状態から風速5m/sの温風がある状態に変化した場合、水の蒸発量の変化ΔEは、約2.1mg/cmminである。水の蒸発熱(約2.5J/mg)を用いると、水の蒸発量の変化に伴う吸熱量の変化ΔQは、約5.2J/cm・minである。
【0020】
つまり、非発汗位置における熱負荷の変化に対して、約17倍の熱量の変化が発生することがわかる。この熱量の変化の差を利用すれば、サーモカメラなどの非接触式の検知器を用いて、温風があてられた対象者の発汗を例えば10段階など、複数段階にわたる発汗のレベル(又は程度)のいずれであるかを定量的に示すような発汗分布を算出することなどができる。このようにして、対象者の負担を低減しつつも、高感度で対象者の発汗状態を計測することができる発汗分布計測装置等を実現できる。
【0021】
(発明の概要)
上記課題を解決するための、本開示の一態様に係る発汗分布計測装置は、対象者に向かう気流を発生させる送風部と、気流が発生しているときの対象者の体表面における第1温度分布を検知する検知部と、検知された第1温度分布に基づいて対象者の発汗分布を算出して出力する演算部と、を備える。
【0022】
送風部によって発生した気流により、対象者の発汗がある部位において、汗の水分の蒸発に伴う蒸発熱によって体表面における温度の低下が生じる。上記のような発汗分布計測装置は、第1温度分布を検知することによって、低下した温度にあたる部位を特定することができる。そして、温度が低下した部位を発汗がある部位として示す発汗分布を算出して出力することができる。ここでの対象者の発汗分布の算出には、対象者の身体に薬剤等の塗布を必要とせず、気流をあてて第1温度分布を検知するのみでよいので、対象者の身体的負担が少なくて済む。また、薬剤等の塗布や、その洗浄などの操作も必要ないため、発汗分布の算出が比較的迅速に行える。このように、本開示の発汗分布計測装置では、対象者の負担が少なく、かつ、簡便に発汗分布の算出(つまり発汗分布の計測)を行うことができる。。
【0023】
また、例えば、気流は、対象者の周囲の外気温よりも高い温度であってもよい。
【0024】
これによれば、対象者の周囲の外気との間で熱交換によって変化するときの体表温を、比較的高く維持できる。つまり、体表温よりも外気温のほうが低い場合においても、熱交換による体表温の低下をより小さくすることができるが、体表温よりも外気温のほうが高い場合においては、熱交換による体表温の上昇をより大きくすることができる。この結果、発汗がある部位における汗の水分の蒸発によって低下する体表温と、発汗がない部位における、外気温よりも高い温度の気流である温風によって熱交換されて変化する体表温との差を拡大しやすい。これにより、温度分布に基づいて算出される発汗分布を明確化することができる。
【0025】
また、例えば、気流は、対象者の体表面の温度よりも高い温度であってもよい。
【0026】
これによれば、対象者の周囲の外気との間で熱交換によって変化するときに、体表温よりも外気温のほうが高いため、熱交換による体表温を確実に上昇することができる。この結果、発汗がある部位における汗の水分の蒸発によって低下する体表温と、発汗がない部位における、体表温よりも高い温度の気流である温風によって熱交換されて上昇する体表温との差を拡大しやすい。これにより、温度分布に基づいて算出される発汗分布を明確化することができる。
【0027】
また、例えば、検知部は、さらに、気流が発生していないときの対象者の体表面における第2温度分布を検知し、演算部は、検知された第1温度分布及び第2温度分布の差に基づいて対象者の発汗分布を算出してもよい。
【0028】
これによれば、気流が発生しているときと、気流が発生していないときとの、それぞれにおいて検知された温度分布に基づき、体表温に差のある部位を特定できる。そして、演算部は、この体表温に差のある部位を含む発汗分布を算出できる。
【0029】
また、例えば、演算部は、対象者の体表面上の1以上の位置の各々を、発汗がある発汗位置及び発汗がない非発汗位置のいずれかに分類し、発汗分布として、発汗位置及び非発汗位置が2次元状に並ぶ画像を出力してもよい。
【0030】
これによれば、発汗のある位置と発汗のない位置とが2次元状に並んでいるので、対象者の身体のどの位置で発汗が生じ、どの位置で発汗が生じていないのかが、一見するだけで把握できる画像を出力できる。
【0031】
また、例えば、演算部は、検知された第1温度分布における第1位置の第1温度から、第1位置とは異なる第2位置の第2温度を差し引いて差分値を算出し、算出した差分値が所定の閾値以上である場合に、第2位置が、発汗位置であることを示す発汗分布を算出してもよい。
【0032】
これによれば、簡易な計算によって発汗分布を算出することができる。一つの第1温度分布において、例えば、確実に発汗の有無が反映されるように設定された閾値に対して、当該閾値以上の差分値を示す第1温度及び第2温度をそれぞれ示す第1位置及び第2位置が存在する場合に、この第2位置を発汗がある発汗位置であることを示す発汗分布が出力される。なお、このとき、第2温度は発汗位置での汗の水分の蒸発によって温度が低下しているため、第1温度よりも低く、差分値は、正の値となる。
【0033】
また、例えば、演算部は、対象者の体表面上の1以上の位置の各々を、3段階以上の発汗の程度に応じた3種類以上の位置のいずれかに分類し、発汗分布として、3種類以上の位置が2次元状に並ぶ画像を出力してもよい。
【0034】
これによれば、3段階以上の発汗の程度に応じた3種類以上の位置が2次元状に並ぶ画像を出力できる。出力される画像は、3段階以上の発汗の程度の情報を含むため、対象者の身体のどの位置でどの程度の発汗が生じているのかが、一見するだけで把握できる。
【0035】
また、本開示の一態様に係る発汗分布計測方法では、対象者に向かう気流を発生させ、気流が発生しているときの対象者の体表面における第1温度分布を検知し、検知された第1温度分布に基づいて対象者の発汗分布を算出して出力する。
【0036】
これによれば、上記の発汗分布計測装置と同様の効果を奏することができる。
【0037】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本開示の包括的または具体的な例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される、数値、構成要素、構成要素の配置位置および接続形態、並びに、ステップおよびステップの順序等は、一例であって本開示を限定する主旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0038】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、各図において縮尺などは必ずしも一致していない。各図において、実質的に同一の構成に対しては同一の符号を付しており、重複する説明は省略または簡略化する。
【0039】
(実施の形態)
まず、実施の形態に係る発汗分布計測装置の構成について図1を用いて説明する。図1は、実施の形態に係る発汗分布計測装置の概略構成図である。本実施の形態における発汗分布計測装置は、複数の装置からなるシステムとして実現される。ただし、以下に説明する発汗分布計測装置の各機能部を1つの筐体に収容することで、発汗分布計測装置を1つの装置として実現することもできる。
【0040】
発汗分布計測装置は、図1に示すように、送風装置100と、検知装置200と、演算装置300と、を備える。送風装置100は、対象者99から左右対称に2つ配置されている。これは、対象者99の左右に均一な温風を供給するための配置であるが、例えば、1つの装置によって均一な面状の温風を発生することができれば、送風装置100は1つであってもよい。送風装置100は、送風器102と加熱器101と、を有する。送風器102は、供給される電力などを用いて図示しない駆動部(例えばモータ)等が回転翼を回転させることで、回転翼の後部にある空気を回転翼の前部へと押し出して気流を発生させる機能部である。送風器102は、回転翼の前後方向が、送風器102と対象者99とを結ぶ方向に一致しており、発生した気流を対象者99に向かわせる姿勢で配置されている。送風器102は、後述する演算装置300などと無線通信することにより、駆動部の駆動量が制御される。例えば、演算装置300から駆動部をオンする信号を受信することで、送風器102はあらかじめ設定された風量の気流を発生させる。また、例えば、演算装置300から駆動部をオフする信号を受信することで、送風器102は気流の発生を停止させる。また、送風器102は、その風量が可変であってもよい。
【0041】
加熱器101は、供給される電力などを用いて電熱線等に電流が供給されることで、当該電熱線の抵抗値に応じた熱を発生する機能部である。加熱器101によって発生した熱は、加熱器101の周囲を加熱する。ここに、送風器102によって発生した気流が供給されると、加熱された空気が気流として移動することとなる。このようにして送風装置101は、対象者99に向かう、加熱された空気の気流(すなわち温風)を発生させる。なお、上記では、送風器102によって発生する気流の下流側に加熱器101を配置する例を示したが、送風器102によって発生する気流の上流側に加熱器101を配置しても同様の効果が生じる。したがって、送風器102によって発生する気流の流線上のどこかに加熱器101が配置されていれば、本実施の形態の送風装置100と同様の装置を実現できる。また、詳細は後述するが、加熱器101による空気の加熱は必須の構成ではない。この場合に、送風装置100には送風器102のみが備えられればよい。送風装置100は、送風部の一例である。上記の送風装置100の構成は一例であり、対象者99に向かう温風を発生させることができればどのような装置が送風装置100の代わりに用いられてもよい。
【0042】
検知装置200は、例えば、サーモカメラによって実現される。検知装置200は、対象者99の方向を撮像することで、対象者99が撮像された画像を出力することができる。ここで出力される画像は、いわゆる熱画像であり、検知装置200の撮像方向に直交する2次元面上の熱量を、各ピクセルの輝度値として並べた情報である。検知装置200による撮像のタイミングは、演算装置300によって決定される。このため、検知装置200は、演算装置300と通信可能に接続されており、演算装置300からの撮像信号を取得して、そのタイミングで撮像を行う。なお、検知装置200は、例えば、時間領域において複数の画像が連続的に生成される動画像を出力してもよい。この場合、撮像信号は、動画像の撮像を開始するタイミングで演算装置300から送信される。また、演算装置300は、動画像の撮像を終了するタイミングで撮像停止信号を送信する。検知装置200は、検知部の一例である。上記の検知装置200の構成は一例であり、対象者99の体表面における熱画像を検知することができればどのような装置が検知装置200の代わりに用いられてもよい。
【0043】
演算装置300は、プロセッサとメモリとを有する、コンピュータによって実現される。演算装置300は、上記のように、送風装置100及び検知装置200の制御を行う他、検知装置200から出力された画像を取得して、この画像から対象者99の発汗分布を演算して出力する。発汗分布の詳細は後述する。演算装置300は、演算部の一例である。上記の演算装置300の構成は一例であり、対象者99の発汗分布を算出して出力することができればどのような装置が演算装置300の代わりに用いられてもよい。
【0044】
次に、図2を用いて、発汗分布計測装置の動作について説明する。図2は、実施の形態に係る発汗分布計測装置の動作を示すフローチャートである。図2に示すように、発汗分布演算装置の動作が開始されると、まず、検知装置200は、演算装置300からの撮像信号により送風装置100による温風が発生してない状態で熱画像(つまり第2温度分布)を検知する(S101)。次に、送風装置100は、演算装置300からの信号により温風を発生する(S102)。次に、検知装置200は、演算装置300からの撮像信号により送風装置100による温風が発生している状態で熱画像(つまり第1温度分布)を検知する(S103)。以上のステップS101~ステップS101は、検知装置200による動画像の撮像が開始されたあとに送風装置100による温風の発生が開始されることで実現してもよい。
【0045】
演算装置300は、検知装置200から第1温度分布及び第2温度分布を取得して、これらに基づき、対象者の発汗分布を算出して出力する(S104)。以下、ステップS104の詳細について説明する。演算装置300は、検知装置200から取得した第2温度分布から第1温度分布を差し引くことにより、差分の温度分布(差分画像)を生成する。上記したように、第2温度分布は、対象者99の平時の体表面温度の分布となっている。仮に第2温度分布が検知されたときに対象者99が発汗していても、汗の水分の蒸発による吸熱は支配的ではないので、熱画像上の変化はそれほど大きくない。そして、第1温度分布は、対象者99の体表面から汗の水分が温風によって積極的に蒸発しているときの体表面温度の分布となっている。
【0046】
このため、差分の温度分布では、対象者99の発汗位置において、比較的高い体表面温度(に対応する輝度値)から、比較的低い体表面温度(に対応する輝度値)が引かれ、正の数値が残りうる。一方で、差分の温度分布では、対象者99の非発汗位置において、比較的高い体表面温度(に対応する輝度値)から、比較的高い体表面温度(に対応する輝度値)が引かれ、0に近い数値が残りうる。そこで、このような正の数値と0に近い数値とを識別可能な閾値を設定することで、差分の温度分布における発汗位置と非発汗位置とを区別することができる。このような閾値は、実験的又は経験的に決定されればよい。例えば、閾値として、0.1℃、0.3℃、0.5℃、0.7℃、1℃、2℃、3℃、4℃、及び、5℃等の0.1℃~数℃の数値が設定される。このとき、検知装置200によって検知される各ピクセルでのS/N比などが考慮されてもよい。
【0047】
また、汗の水分の蒸発による体表温の低下は、徐々に大きくなる。さらに、対象者99の発汗が止めば水分が完全蒸発するまでに徐々に温風による熱負荷が支配的となって体表温が上昇に転じる。つまり、第1温度分布を検知するタイミングによっては、第2温度分布と第1温度分布との差分値が0に近づく可能性がある。そこで、第1温度分布を検知するタイミングは、水の蒸発が定常状態に近づく最も早いタイミングなど、実験的又は経験的に定められる温風の発生以後の所定のタイミングに設定される。所定のタイミングとしては、例えば、温風の発生から数十秒~数百秒経過したタイミングに設定される。また、例えば、検知装置200が動画像を出力する構成の場合、単に第1温度分布と第2温度分布都の差分値が最大になるタイミングのフレームが第1温度分布として用いられればよい。
【0048】
以上の例では、差分の温度分布における各ピクセルの位置を発汗位置と非発汗位置とのいずれかに分類する例を説明した。したがってこの場合に出力される発汗分布は、発汗位置及び非発汗位置が2次元状に並ぶ画像である。発汗分布の一例を、図3の概念図を用いて説明する。図3は、実施の形態に係る発汗分布計測装置によって出力される発汗分布の概念図である。図3では、発汗位置をドットハッチングを付した領域98によって示し、非発汗位置を白抜きの領域97によって示している。このように、従来のミノール法のように白黒の2値によって発汗の有無の分布を対象者99の画像上の像99aに重ねて出力することができる。
【0049】
また、上記の検出原理によれば、差分の温度分布における各ピクセルの位置を、例えば3段階以上の、数段階~十数段階にわたる発汗のレベル(程度)に応じた3種類以上の位置のいずれかに分類することもできる。これによれば、従来のミノール法では識別することが困難であった発汗の程度までを可視化することができ、発汗障害と診断される場合にも、その部位や程度などを詳細に知ることができるので、疾患に対する治療の選択幅を拡大できることが期待される。
【0050】
なお、出力される発汗分布は上記の概念図に示すような例に限られない。例えば、人体に対して、あらかじめ発汗をしやすい部位(頭部、胸部、腋部、及び、膝裏部等)を特定し、特定された各部位に対応する複数のピクセルの発汗のレベルを平均して、当該部位の発汗のレベルを算出し、人を模した図形上で上記の特定された各部位ごとに発汗のレベルに応じた表示色などでカラースケール表示をしてもよい。また、カラースケールに代えて発汗のレベルに応じた濃淡などでグレースケール表示をしてもよいし、特定の各部位を示す文字(「腋部」等)と発汗のレベルを示す数値(「レベル8」等)との組み合わせで表示をしてもよい。対象者の身体における少なくとも2以上の部位について、それぞれの部位の発汗のレベルを個別に示す情報が含まれていれば、本発明において出力される発汗分布の概念に該当する。
【0051】
また、上記の例では、時間領域において互いに異なる第1タイミング及び第2タイミングで第1温度分布及び第2温度分布の検知を行う例を説明したが、発汗分布計測装置は、1つのタイミングで計測された温度分布に基づいて、発汗分布を算出することもできる。例えば、演算装置300は、検知された第1温度分布における第1位置の第1温度から、第1温度分布における第1位置とは異なる第2位置の第2温度を差し引いて差分値を算出し、算出した差分値が上記のような所定の閾値以上である場合に、第2位置が、発汗位置であるとして発汗分布を算出してもよい。
【0052】
(実施例)
以下、上記の実施の形態に基づく実施例を説明する。図4Aは、実施例に係る発汗分布の計測について説明する第1図である。図4Bは、実施例に係る発汗分布の計測について説明する第2図である。図4Cは、実施例に係る発汗分布の計測について説明する第3図である。図4Dは、実施例に係る発汗分布の計測について説明する第4図である。
【0053】
図4A図4Dでは、被験者の前腕部に汗の水分を模した水を塗布し、水を塗布していない前腕部の別の位置との間で温風をあてたときの体表温の経時変化を示している。なお、図4A図4Dでは、(a)に水を塗布した位置(発汗位置)の体表温の経時変化を示し、(b)に水を塗布していない位置(非発汗位置)の体表温の経時変化を示している。また、図4Aでは、温風として、24℃の温風を発生させ、図4Bでは、温風として、28℃の温風を発生させ、図4Cでは、温風として、35℃の温風を発生させ、図4Dでは、温風として、40℃の温風を発生させている。なお、温風の速度(風速)は図4A図4Dのいずれにおいても約1.5m/secで揃えられている。つまり、図4A図4Dによって、温風の風温による温度変化(及び差分値)への影響を検討しているといえる。
【0054】
図4A図4Dに示すように、24℃及び28℃の風温の気流であっても、発汗位置と非発汗位置との間で明らかな温度変化の差がみられ、気流を温風とせずとも発汗分布の算出に十分な温度分布が得られることがわかる。また、24℃及び28℃の風温よりも35℃の温風のほうが、35℃の温風よりも40℃の温風のほうが、それぞれ発汗位置と非発汗位置との間で差が拡大されることがわかる。これは、特に非発汗位置における熱負荷での体表温の上昇によって差分値が上乗せされることによるものと推定される。
【0055】
また、図5は、実施例に係る発汗分布の計測例について説明する図である。図5では、実際に発汗が生じる状況において、被験者の顔面において4つの位置の体表温の経時変化を示している。ここでは、発汗が生じる状況として、カプサイシンなどの発汗を促進する辛み成分を含む食事を摂食しているときに45℃の温風をあてて温度分布の検知を行った。そして、図5に示す(a)は、上記の状況における被験者の額の体表温の経時変化を示し、(b)は、上記の状況における被験者の左目の下の体表温の経時変化を示し、(c)は、上記の状況における被験者の顎の体表温の経時変化を示し、(d)は、上記の状況における被験者の右目の下の体表温の経時変化を示している。図中に示すように、右目の下及び左目の下の体表温の経時変化は、ほぼ同じ傾向を示している。また、額の体表温の経時変化は、一度低下した後に急激に上昇を示している。一方で、顎の体表温の経時変化は、ほぼ横ばいであり、非発汗領域であることがわかる。ここで、詳細なデータは示さないが、被験者の額、右目の下及び左目の下においては、肉眼で発汗が観察されている。そのため、(a)、(b)、及び、(d)に示す体表温の一過性の低下が、発汗による汗の水分の蒸発で体表が冷却されたことによるものを高感度に反映するものといえる。
【0056】
このように、本発明によれば非接触で対象者の負担を低減しつつも、高感度に発汗の有無及び程度を発汗分布として算出して出力することができる。
【0057】
(その他の実施の形態)
以上、本発明に係る発汗分布計測装置について、上記実施の形態および各変形例に基づいて説明したが、本開示は、上記の実施の形態および各変形例に限定されるものではない。例えば、上記実施の形態等に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本開示の趣旨を逸脱しない範囲で実施の形態等における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本開示に含まれる。
【0058】
例えば、別の臨床所見による発汗障害の態様に応じて、本発明の適用の仕方を変化させてもよい。例えば、温熱性発汗試験では、環境温を段階的に上昇させ、温度段階ごとに体表温が定常状態にあることをサーモカメラで確認して発汗分布の計測を行い、順次、次の温度段階に移るという操作を行う。また、例えば、精神性発汗試験では、ハンドグリップなどの運動負荷や暗算などの知的活動負荷を与えながら発汗分布の計測を行う。
【0059】
また、本発明は、上記のような発汗障害の診断などに用いられる他、発汗の程度や部位を可視化できる利点に基づいて、映像を介しての発汗状態を提示することなどに応用できる。その他、運動時等の水分補給の目安とするなど種々の応用が期待できる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
対象者の発汗状態を発汗分布として可視化する用途等に利用可能である。
【符号の説明】
【0061】
99 対象者
100 送風装置
101 加熱器
102 送風器
200 検知装置
300 演算装置
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5