(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009990
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】チップおよび被誘導具装置
(51)【国際特許分類】
A61B 17/32 20060101AFI20230113BHJP
A61B 10/02 20060101ALI20230113BHJP
A61B 10/04 20060101ALI20230113BHJP
A61B 1/018 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
A61B17/32 528
A61B10/02 130
A61B10/04
A61B1/018 515
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113721
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】502394058
【氏名又は名称】シルックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100132621
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 孝行
(74)【代理人】
【識別番号】100123364
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 徳子
(72)【発明者】
【氏名】清水 隆年
(72)【発明者】
【氏名】覚野 講平
【テーマコード(参考)】
4C160
4C161
【Fターム(参考)】
4C160EE22
4C160NN03
4C160NN10
4C160NN13
4C161GG15
(57)【要約】
【課題】ガイドワイヤによる誘導がスムーズであり、簡単な構造でガイドワイヤに対する困難な操作を解消したチップおよび被誘導具装置を提供する。
【解決手段】チップ1は、細長の円筒管形状を呈し、可撓性を有する屈曲自在の材料から成形され、保持部10と、保持部10と一体成型されるベース部20とを備える。また、保持部10は、側面が長手方向に沿って開口し開閉自在の第1開口部11と、常に開口している第2開口部12と、チップ1の両端部を貫通する貫通孔13と、を有している。第1開口部11が閉じた状態において、ガイドワイヤGを保持し、開いた状態においてガイドワイヤGを解放する。被誘導具装置50は、チップ1と、チップ1を固定する被誘導具30と、シース40とを備える。シース40を保持部10の外周に周接することで第1開口部11が閉じ、被誘導具30をシース40から押し出すことで第1開口部11が開く。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め体内に挿入しているガイドワイヤ沿って移動するチップであって、
前記ガイドワイヤを保持する保持部と、
前記保持部と接続されるベース部と、
前記保持部と前記ベース部とを貫通する貫通孔と、を備え、
前記保持部には、前記保持部の長手方向に沿って開口する第1開口部と、
前記第1開口部に連結する第2開口部と、が形成され、
前記第1開口部は、開閉自在であり、前記第2開口部は常に開口され、
前記第1開口部が閉じているときは、前記ガイドワイヤを保持し、前記第1開口部が開いているときは、前記ガイドワイヤを解放することを特徴とする、
チップ。
【請求項2】
前記チップは、円筒管形状を呈し、可撓性を有する屈曲自在の材料から成形され、
前記第1開口部が閉じた状態において、前記ガイドワイヤの配置方向と前記チップの中心軸とがほぼ一致していることを特徴とする、
請求項1に記載のチップ。
【請求項3】
前記第1開口部を閉じた状態において、前記第1開口部の前記貫通孔の外径は、前記ガイドワイヤの外径よりも大きいことを特徴とする、
請求項1または2に記載のチップ。
【請求項4】
前記保持部は所定の長さを有することを特徴とする、
請求項1~3の何れか1項に記載のチップ。
【請求項5】
前記保持部の外径は、前記ベース部の外径より大きいことを特徴とする、
請求項1~4の何れか1項に記載のチップ。
【請求項6】
請求項1~5の何れか1項に記載のチップと、
前記チップを先端側で固定する被誘導具と、
前記チップと前記被誘導具を覆う円筒管形状のシースと、を備えることを特徴とする、
被誘導具装置。
【請求項7】
少なくとも前記保持部の一部が前記シースにより覆われる場合、前記第1開口部が閉じ、
前記保持部が前記シースから離間する場合、前記第1開口部が開くことを特徴とする、
請求項6に記載の被誘導具装置。
【請求項8】
前記第1開口部が閉じた状態において、前記被誘導具装置の移動方向は、前記ガイドワイヤの配置方向とほぼ平行になることを特徴とする、
請求項6または7に記載の被誘導具装置。
【請求項9】
前記シースには、前記シースの両端部を貫通するシース貫通孔が設けられ、
前記シースの先端側には、前記シース貫通孔と前記シースの外面を連通する連通孔が設けられ、
前記第1開口部が閉じた状態において、前記保持部の前記第2開口部と前記連通孔が重なり合うように配置されていることを特徴とする、
請求項6~8の何れか1項に記載の被誘導具装置。
【請求項10】
前記シースが前記保持部の外周を周接して前記第1開口部が閉じた状態において、前記ガイドワイヤは、前記保持部の先端と前記第2開口部および前記連通孔に挿通され、
前記シースが前記保持部から離間して前記第1開口部が開いた状態において、前記ガイドワイヤは、前記シースの先端と前記連通孔に挿通されていることを特徴とする、
請求項6~9の何れか1項に記載の被誘導具装置。
【請求項11】
前記被誘導具は、ブラシを有する細胞診ブラシであることを特徴とする、
請求項6~10の何れか1項に記載の被誘導具装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞診ブラシ等の被誘導具を案内するチップと、そのチップを有する被誘導具装置に関する。
【背景技術】
【0002】
体内検査や治療を行う際、予め体内に挿入させたガイドワイヤの誘導により体内の目的部位まで到達させる被誘導具である、カテーテル、バスケット鉗子、細胞診ブラシ、バルーン等が使用されている。しかしながら、ガイドワイヤとの間で操作性等の問題があるため、それを解決する方法がいくつか提案されている(特許文献1~3参照)。
【0003】
特許文献1には、カテーテル本体の遠位側にガイドワイヤルーメンが形成されると共に、カテーテル本体内を近位側から遠位側に向けて延びて、デバイスや薬剤等をガイドする目的ルーメンを備え、上記目的ルーメンの遠位端は、上記ガイドワイヤルーメンに連通しているカテーテルであり、より効率の良いモノレール式のカテーテルを提供できることが開示されている。
【0004】
特許文献2には、先端チップにその前面と、外周面との間を連通するガイドワイヤ挿通孔を設けたバスケット鉗子であり、ガイドワイヤによるガイドによって目的部位に導きやすい上、バスケット部の内部に結石を取り込み易いことが開示されている。
【0005】
特許文献3は、処置部の先端部に、ガイドワイヤが挿通される挿通孔を有する先端チップが設けられ、前記処置部と前記先端チップとが、連結部を介して、前記操作ワイヤの長さ方向に延びる軸線を中心として互いに回転可能に連結されている内視鏡用処置具であり、シースを細く軟らかく維持しつつ、種々の状況に応じて迅速かつ適切に処置部を動作させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-135744号公報
【特許文献2】特開2011-19937号公報
【特許文献3】特開2006-263159号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1のカテーテルでは、モノレール式(ラピッドエックスチェンジ式)を採用することで、カテーテルにおいてガイドワイヤで案内される部分の長さが短くなり、カテーテルの操作性が向上している。特許文献2のバスケット鉗子では、先端チップにガイドワイヤを挿通させることでガイドワイヤがシース(カテーテルに類するチューブ)内に挿入される長さを短縮して操作性を向上し、特にバスケット鉗子において結石をバスケット内部に取り込みやすくしている。
【0008】
特許文献3の内視鏡用処置具では、特許文献2の分割出願を公知技術とし、先端チップを設けた構成では、軸線を中心としてブラシを回転させると、先端チップを介してガイドワイヤも軸線を中心として回転してしまうため、操作ワイヤとガイドワイヤとが絡まってしまい、適正な動作が困難になることを解決している。そして、軸線を中心として操作ワイヤを回転させると、それに伴って処置部が回転する。しかし、連結部によって、先端チップが動かない状態で、操作ワイヤおよび処置部のみが回転することになるので、操作ワイヤおよび処置部を回転させても、ガイドワイヤが操作ワイヤに絡みつくのを防止することができるとしている。
【0009】
しかしながら、チップ(先端チップ)に常にガイドワイヤが挿入された状態にあるとガイドワイヤとの位置関係が問題となる。特許文献2では、弾性ワイヤからガイドワイヤを大きく離間させる必要があり、体内の細い管組織内では内視鏡下において困難な作業となる。また、特許文献3は抜け防止と回転動作の両方を行うため複雑な構造であるという問題点があった。
【0010】
本発明は上述した事情に鑑み、ガイドワイヤによる誘導がスムーズであり、簡単な構造でガイドワイヤに対する困難な操作を解消したチップおよび被誘導具装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の発明者は、上述した問題点に関して鋭意研究開発を続けた結果、以下のような画期的なチップおよび被誘導具装置を見出した。
【0012】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様は、予め体内に挿入しているガイドワイヤ沿って移動するチップであって、ガイドワイヤを保持する保持部と、保持部と接続されるベース部と、保持部とベース部とを貫通する貫通孔と、を備え、保持部には、保持部の長手方向に沿って開口する第1開口部と、第1開口部に連結する第2開口部と、が形成され、第1開口部は、開閉自在であり、第2開口部は常に開口され、第1開口部が閉じているときは、ガイドワイヤを保持し、第1開口部が開いているときは、ガイドワイヤを解放することを特徴とする、チップにある。
【0013】
かかる第1の態様によれば、第1開口部が閉じてガイドワイヤを保持することで、ガイドワイヤに沿って、チップを確実に体内の目的部位まで到達させることができる。また、第1開口部を開くことでガイドワイヤが解放され、チップとガイドワイヤは、それぞれ独立して動作することが可能となる。すなわち、第1開口部の開閉動作のみによる簡単な構造でガイドワイヤの保持と解放を実現することができる。そして、ガイドワイヤによる誘導がスムーズであり、簡単な構造でガイドワイヤに対する困難な操作を解消することができる。
【0014】
本発明の第2の態様は、チップは、円筒管形状を呈し、可撓性を有する屈曲自在の材料から成形され、第1開口部が閉じた状態において、ガイドワイヤの配置方向とチップの中心軸とがほぼ一致していることを特徴とする、第1の態様に記載のチップにある。
【0015】
ここで、「ほぼ一致」とは、完全一致だけでなく、多少角度(例えば、ガイドワイヤとチップの中心軸とが5度以内の角度)を有するように配置されている状態を含む概念である。
【0016】
かかる第2の態様によれば、チップがガイドワイヤ上を移動する際、ガイドワイヤの配置方向(挟持するガイドワイヤの部分の軸方向)に沿って確実に体内を移動でき、特に複雑に移動方向が変わる器官内においてもガイドワイヤに的確に追従することが可能となる。
【0017】
本発明の第3の態様は、第1開口部を閉じた状態において、第1開口部の貫通孔の外径は、ガイドワイヤの外径よりも大きいことを特徴とする、第1または第2の態様に記載のチップにある。
【0018】
かかる第3の態様によれば、第1開口部によるガイドワイヤの保持は、遊嵌であり、チップの移動中にガイドワイヤとの摩擦を最小限に抑えることができるので、チップをスムーズに誘導することができる。
【0019】
本発明の第4の態様は、保持部は所定の長さを有することを特徴とする、第1~第3の態様の何れか1つに記載のチップにある。
【0020】
かかる第4の態様によれば、第1開口部によるガイドワイヤの保持が安定し、ガイドワイヤに沿った動きが容易となる。
【0021】
本発明の第5の態様は、保持部の外径は、ベース部の外径より大きいことを特徴とする、第1~第4の態様の何れか1つに記載のチップにある。
【0022】
かかる第5の態様では、ガイドワイヤを保持する大きさが確保できると共にガイドワイヤを保持しないベース部を小型化することができ、軽量化とコスト削減が図れる。
【0023】
本発明の第6の態様は、第1~第5の何れか1つに記載のチップと、チップを先端側で固定する被誘導具と、チップと被誘導具を覆う円筒管形状のシースと、を備えることを特徴とする、被誘導具装置にある。
【0024】
かかる第6の態様は、簡単な構造のチップによる先導で被誘導具およびシースが体内の目的部位に到達でき、ガイドワイヤと独立に被誘導具を動作することができるので、ガイドワイヤへの絡みなどが無くなり、スムーズな被誘導具での処置が可能となる。
【0025】
本発明の第7の態様は、少なくとも保持部の一部がシースにより覆われる場合、第1開口部が閉じ、保持部がシースから離間する場合、第1開口部が開くことを特徴とする、第6の態様に記載の被誘導具装置にある。
【0026】
かかる第7の態様によれば、保持部に対するシースの装着と非着の動作で、簡単に第1開口部の開閉を行うことができる。
【0027】
本発明の第8の態様は、第1開口部が閉じた状態において、被誘導具装置の移動方向は、ガイドワイヤの配置方向とほぼ平行になることを特徴とする、第6または第7の態様に記載の被誘導具装置にある。
【0028】
かかる第8の態様によれば、被誘導具装置の体内移動をガイドワイヤに沿って抵抗なくスムーズに行うことができる。
【0029】
本発明の第9の態様は、シースには、シースの両端部を貫通するシース貫通孔が設けられ、シースの先端側には、シース貫通孔とシースの外面を連通する連通孔が設けられ、第1開口部が閉じた状態において、保持部の第2開口部と連通孔が重なり合うように配置されていることを特徴とする、第6~第8の態様の何れか1つに記載の被誘導具装置にある。
【0030】
かかる第9の態様によれば、ガイドワイヤの挿入口が1箇所にまとまり、ガイドワイヤを挿通させることが容易であり、被誘導具装置の体内移動中の抵抗を解消させることができる。
【0031】
本発明の第10の態様は、シースが保持部の外周を周接して第1開口部が閉じた状態において、ガイドワイヤは、保持部の先端と第2開口部および連通孔に挿通され、シースが保持部から離間して第1開口部が開いた状態において、ガイドワイヤは、シースの先端と連通孔に挿通されていることを特徴とする、第6~第9の態様の何れか1つに記載の被誘導具装置にある。
【0032】
かかる第10の態様によれば、ガイドワイヤによる確実な誘導と目的部位での適切な位置関係が確保され、ガイドワイヤを中心とする内視鏡下の手術等を実現できる。また、第1開口部が開き、ガイドワイヤがチップから開放された後で、チップを連通孔よりも先端の反対側方向(手前側方向)に移動させると、ガイドワイヤはチップと接触することはなく、連通孔に挿通された状態となる。その状態で被誘導具装置を抜去すると、ガイドワイヤのみを体内に残すことができる。その結果、そのガイドワイヤを利用して異なる被誘導具装置を容易に体内に挿入することができる。すなわち、本実施態様の被誘導具装置は、体内にガイドワイヤのみを残すように抜去できるので、そのガイドワイヤを利用して異なる被誘導具装置を容易に体内に挿入することができる。
【0033】
本発明の第11の態様は、被誘導具は、ブラシを有する細胞診ブラシであることを特徴とする、第6~第10の態様の何れか1つに記載の被誘導具装置にある。
【0034】
かかる第11の態様によれば、ガイドワイヤに絡むことのなく、ブラシを前後に動かしたり、回転させることができる、その結果、適切に細胞を採取することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明に係るチップの一例を示し、(a)は側面図、(b)は(a)のA-A断面図、(c)は(a)のB-B断面図である。
【
図2】
図1に基づくチップの断面を示し、(a)は第1開口部が閉じた時、(b)は第1開口部が開いた時である。
【
図3】本発明に係るチップを固定した被誘導具の一例を示す側面図である。
【
図4】本発明に係るシースの一例を示す断面図である。
【
図5】本発明に係る被誘導具装置示す側面図である。
【
図6】
図5の先端部分を別の角度から見た側面図である。
【
図7】
図5において、ガイドワイヤを解放した状態を示す側面図である。
【
図8】十二指腸乳頭部にできた腫瘍組織を採取することを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下に添付図面を参照して、本発明に係るチップの実施形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
(実施形態1)
【0037】
図1は、本発明に係るチップの一例を示し、(a)は概略側面図、(b)は(a)のA-A概略断面図、(c)は(a)のB-B概略断面図である。
図2は、
図1に基づくチップの断面を示し、(a)は第1開口部が閉じた時、(b)は第1開口部が開いた時の状態を示すものである。
図1および
図2に基づいて、本実施形態のチップを詳述する。
【0038】
図1に示すように、本実施形態のチップ1は、細長の円筒管形状を呈し、可撓性を有する屈曲自在の材料から成形され、保持部10と、保持部10と一体成型されるベース部20とを備えている。
【0039】
保持部10は、側面が長手方向(中心軸方向)に沿って開口する第1開口部11と、第1開口部11と連続して形成され、第1開口部11とベース部20との間に開口する第2開口部12と、チップ1の両端部を貫通する貫通孔13と、を有している。第1開口部11は開閉自在であり、第1開口部11の開閉によりガイドワイヤGを保持および解放を行うことができるようになっている。
【0040】
第2開口部12は常に開口し、ガイドワイヤGが第1開口部11に保持された状態において、ガイドワイヤGの挿通孔になっている。例えば、第1開口部11の先端部をガイドワイヤGの入口とすると、第2開口部12は出口となる。
【0041】
そして、
図2(a)に示すように、チップ1の第1開口部11が閉じることで、ガイドワイヤGが貫通孔13内に保持され、
図2(b)に示すように、第1開口部11が開くことで、ガイドワイヤGがチップ1から開放される。
【0042】
第1開口部11が閉じた状態において、第1開口部11の貫通孔13の内面はガイドワイヤGに摺動自在に周接し、当該周接状態は、ガイドワイヤGの配置方向とチップ1の中心軸方向がほぼ一致するような関係にある。チップ1が体内移動中は、移動方向によりガイドワイヤGの配置方向とチップ1の中心軸が多少ずれることがあるが、静止状態においてほぼ一致している。これにより、ガイドワイヤGの配置方向に沿ってスムーズにチップ1が移動できる。
【0043】
また、体内においてチップ1は、ガイドワイヤGに誘導されて移動するため、第1開口部11が閉じた状態においても、第1開口部11で形成される貫通孔13の径は、ガイドワイヤGの外径よりも大きくなっており、移動中の摩擦等による抵抗を最小限に抑え、操作性を良好にしている。
【0044】
予め挿入されたガイドワイヤGに沿ってチップ1が移動する時は、保持部10でガイドワイヤGを保持しているため、チップ1を正確に、かつ容易に目的部位まで到達させることができる。そして、チップ1が目的部位に到達した後、第1開口部11が開口し、ガイドワイヤGがチップ1から解放されて離間することで、チップ1がガイドワイヤGと独立して動作等が可能となる。
【0045】
ここで、保持部10は所定の長さを有していることで、ガイドワイヤGを包み込むように保持でき、複雑な体内移動時においても、ガイドワイヤGが外れることがない。ここで、「所定の長さ」は特に限定されないが、例えば2mm~20mm、2mm~10mmまたは2mm~5mm等が挙げられる。また、保持部10の外径はベース部20の外径よりも大きく形成され、ガイドワイヤGを保持するための大きさを確保でき、一定の径に比較して軽量化することができると共に、コストダウンが図ることができる。
【0046】
チップ1の材質は、ステンレス等の金属でも良いが、そのような硬い材料の場合、ガイドワイヤGに損傷を与える場合もあり、以下のような金属より軟質な材料が好ましい。チップ1の材質としては、例えば、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン、EEP)や各種ゴム(シリコンゴム)、各種エラストマー(ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー)、その他各種プラスチック(ポリアミド、エチレン酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリスルフォン、アクリルニトリルブタジエンスチレン)などの材料から選択することができる。
【0047】
保持部10と一体形成されるベース部20は、円筒管状であり、ガイドワイヤGに誘導される被誘導具30と連結されている。本実施形態では、被誘導具30として細胞診ブラシを一例に挙げて、以下に説明する。
【0048】
図3は、本実施形態に係るチップを固定した被誘導具の一例を示す概略側面図である。この図に基づいて細胞診ブラシを説明する。
【0049】
細胞診ブラシ30aは、体内の細胞を採取して細胞を検査する細胞診査に用いられる検査用の医療器具であり、細長のワイヤ等からなるシャフト31と、シャフト31の一端側にブラシ32が設けられ、他端側に操作部33が設けられている。チップ1とシャフト31との連結は、例えば、シャフト31のブラシ32が配置されている側の先端をチップ1のベース部20の貫通孔13に挿入固定することにより行われるが、接着剤、溶着、等でもよく、固定方法は限定されない。
【0050】
次に、
図4は、本実施形態に係るシースの一例を示す断面図である。この図に基づいてシースを説明する。
【0051】
細胞診ブラシ30aが体内に挿入される場合、細胞診ブラシ30aはシース40に覆われる。シース40は、細長の円筒管形状を呈し、可撓性を有する樹脂等から成形され、径の中央には両端部を貫通するシース貫通孔41が設けられているチューブである。
【0052】
また、シース40の先端側には、シース貫通孔41とシース40の外面を連通する連通孔42が設けられ、連通孔42を貫通してガイドワイヤGがシース40の外面からシース貫通孔41内を通過してシース40の先端から露出する。ここで、シース40の他端側は細胞診ブラシ30aに取り付けられている操作部33と連動していてもよく、別途独自に操作部等を備えていてもよい。
【0053】
連通孔42は、シース40の軸方向に沿って長孔形状をなし、細胞診ブラシ30aがガイドワイヤGにより誘導される状態において、ガイドワイヤGがシース40等に絡むことなく、シース40および細胞診ブラシ30aの移動がスムーズに行われる大きさとなっている。
【0054】
ガイドワイヤGの先端は、予め体内の目的部位まで内視鏡等を利用して移動させることができるので、ガイドワイヤGを連通孔42に挿通させることでシース40の先端も当該目的部位まで誘導させることができる。シース40内全体にガイドワイヤGを挿通する方式もあるが、その場合ガイドワイヤGとブラシ32が干渉することになる、もしくはシャフト31が中空であり中にガイドワイヤGが挿通される構造である必要があるため、本実施形態では、シース40の先端側ではガイドワイヤGがシース40内を挿通し、シース40の連通孔42からシース40の外側にガイドワイヤGが配置されるモノレール式を採用している。
【0055】
シース40の管径は、細胞診ブラシ30aが体内に入る時点で、チップ1およびブラシ32が先端側で収納できる大きさとなっている。ガイドワイヤG挿通時のチップ1の保持部10の外径はシース40内径よりも大きく形成されていることが好ましく、シース40に保持部10が被覆された際に、保持部10の第1開口部11が接近することで、保持部10の外径が縮小され、ガイドワイヤGを安定して保持できる。なお、シース40の管径は一定でもよいし、先端側が太くそれ以外は細くてもよい。
【0056】
シース40は、例えば熱可塑性樹脂を押出成形および延伸することで形成できる。熱可塑性樹脂の例としては、例えば、FEPやPTFE等のフッ素系、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系、PBT、PET、PVDF、ポリスチレン系、塩ビ系、ウレタン系、アミド系等のエラストマー等が挙げられる。
【0057】
図5は、本発明に係る被誘導具装置を示す側面図である。
図6は、
図5の先端部分を別の角度から見た側面図である。
図7は、
図5において、ガイドワイヤを解放した状態を示す側面図である。
図5~
図7に基づいて、被誘導具装置について説明する。
【0058】
被誘導具装置50は、チップ1と、チップ1を固定した被誘導具30と、シース40とを備えている。本実施形態において、被誘導具30の一例は細胞診ブラシ30aである。
【0059】
細胞診ブラシ30aをシース40内に挿入することで、細胞診ブラシ30aとシース40とを一体化することができる。その際、チップ1の第1開口部11の外表面とシース40の内表面が周接し、第1開口部11が閉じた状態になる。同時に、シース40の連通孔42と第2開口部12が重なり合う位置にくることで、ガイドワイヤGが保持部10内で連通された状態となる。なお、第1開口部11の閉じた状態において、シース40の先端側端部と第1開口部11の先端側端部とが接しても近接していてもよい。すなわち、第1開口部11の全部がシース内に収納されていてもよいし、第1開口部11の先端側の一部がシースから突出するように、第1開口部11の一部がシース内に収納されていてもよい。
【0060】
チップ1およびシース40は、円筒管形状を成していることで、シース40のシース貫通孔41の表面がチップ1の保持部10外周を均等に挟持することができ、シース40の中心軸に沿う様にチップ1の中心軸が配置される。また、チップ1の中心軸はガイドワイヤGの配置方向(挟持するガイドワイヤの部分の軸方向)とほぼ一致しているので、ガイドワイヤGの外周を均等に保持することができる。その結果、シース40および細胞診ブラシ30aの体内での移動中のブレが少なくなり、安定した移動と、操作性の向上を図ることができる。特に、体内の移動は、内視鏡下で行うため、操作性が難しいが、本実施形態の被誘導具装置50の使用は操作する操作者(医者)の負担を軽減することができる。また、特許文献2、3のように、ガイドワイヤGの配置方向に対して傾斜した方向にチップがあると、操作中の抵抗等によりスムーズな動きが抑制されるという問題点があるが、本発明ではその問題点を解決している。
【0061】
そして、ガイドワイヤGをチップ1に挿入することで、細胞診ブラシ30aおよびシース40がガイドワイヤGに沿って移動可能となる。また、
図6に示されるように、保持部10の第2開口部12と、シース40の連通孔42とが、重なり合うように(連通するように)配置されるので、ガイドワイヤGを挿入する開口部分が一箇所に纏まり、ガイドワイヤGと被誘導具装置50とを、一直線上に並べることができる。これにより、細胞診ブラシ30aとシース40とがガイドワイヤGよって誘導され(
図6矢印方向参照)、体内の目的部までスムーズに到達することができる。
【0062】
このような移動は、シース40内に細胞診ブラシ30aを配置させ、チップ1をシース40で被覆して第1開口部11を閉じさせ、次いで保持部10の先端からガイドワイヤGを第1開口部11が包み込むように挿入させて、第2開口部12およびシース40の連通孔42からガイドワイヤGをシース40の外側に配置させることで初めて実現できる。
【0063】
保持部10の第1開口部11は、シース40に包まれる状態にあることで第1開口部11が閉じられ、ガイドワイヤGを摺動自在に保持できる。すなわち、第1開口部11を閉じるように保持部10の外表面をシース40で覆い、保持部10の外表面とシース40のシース貫通孔41の内面とが周接することで、第1開口部11が開くことを抑制している。そして、保持部10でガイドワイヤGを保持したまま摺動し、ガイドワイヤGの誘導でチップ1を体内の目的部位に到達させることができる。
<ガイドワイヤGの解放>
【0064】
目的部位(被検組織部位)にチップ1が到達すると、操作部33を操作してチップ1およびブラシ32をシース40の前方に押し出すことで、保持部10がシース40から外れ、第1開口部11が開くことになる。その結果、ガイドワイヤGが保持部10から解放され、ガイドワイヤGがチップ1の外側で離間した位置に移動する。ここで、ガイドワイヤGが、シース40の先端側でシース40内に挿入されていることで、シース40の先端側は目的部位からずれることがなく、ブラシ32が目的部位での細胞摂取を確実に行うことができ、同時にガイドワイヤGとの絡みない採取が実現できる。
【0065】
特に、ブラシ32は、被検組織部位の細胞を採取する場合、被検組織部位に押し当て、ブラシ32の軸回りに回転させる。回転の際、ガイドワイヤGと細胞診ブラシ30aとが分離し、独立していることで、ガイドワイヤGにブラシ32が絡むことを防止することができる。すなわち、ガイドワイヤGを抜去することなく、ブラシ32の軸回りに回転させて被検組織部位の細胞を採取することができる。また、ブラシ32以外の被誘導具30であるバルーン、カテーテル、ステント、バスケット鉗子等を操作する場合も、ガイドワイヤGを抜去する必要もなくなる。
【0066】
ブラシ32を回転等させて被検組織部位から細胞を採取し、再びブラシ32をシース40内に挿入し、チップ1、細胞診ブラシ30aおよびシース40を体内から取り出すことで細胞採取が完了する。
【0067】
図8は、十二指腸乳頭部にできた腫瘍組織を採取することを示す模式図である。
図8に基づいて、被誘導具装置50の使用の一例を説明する。
【0068】
この図に示すように、十二指腸100と総胆管101の境界の十二指腸乳頭部102近傍に腫瘍103が発生している。この腫瘍103が良性なのか悪性なのかを調べるために細胞診査を行う。ガイドワイヤGを腫瘍103の近傍まで挿入させ、被誘導具装置50がガイドワイヤGに誘導されて、目的部位である腫瘍103に到達する。体内器官は複雑であり、種々の方向に曲がりながら内視鏡下で誘導されるが、チップ1の保持部10によりガイドワイヤGを保持していることで、スムーズに目的部位まで細胞診ブラシ30aを送り込むことができる。目的部位において、細胞診ブラシ30aをシース40の前方に押し出すことで、保持部10の第1開口部11が開き、ガイドワイヤGと細胞診ブラシ30aが分離し、独立することで、ブラシ32を腫瘍103に擦り当てながら回転させることで、腫瘍103の一部の細胞を採取することができる。
(他の実施形態)
【0069】
上述した実施形態では、被誘導具の一例として細胞診ブラシを説明したが、本発明はこれに限定されない。被誘導具としては、例えば、バルーン、カテーテル、バスケット鉗子等が挙げられる。
【0070】
また、上述した実施形態では、保持部とベース部とを一体成型するようにしたが、本発明はこれに限定されず、例えば、保持部とベース部とを別体で形成し、それらを接続(結合)してもよい。
【0071】
さらに、上述した実施形態では、保持部の外径がベース部の外径よりも大きくなるようにチップを構成したが、本発明はこれに限定されず、例えば、保持部の外径とベース部の外径とが同じになるようにチップを構成してもよい。このように構成しても、上述した実施形態と同様の効果が得られる。
【0072】
本発明のチップおよび被誘導具装置は、正確に容易に目的部位に到達させることができ、到達後にガイドワイヤを解放することでガイドワイヤと独立な動き(前後移動・摺動、回転等)ができるので、ガイドワイヤと被誘導具との絡みやガイドワイヤの影響を極力抑えることができる。
【0073】
本発明のチップは、予め体内に挿入しているガイドワイヤ沿って移動するチップであって、ガイドワイヤを保持する保持部と、保持部と一体成型されるベース部と、保持部とベース部とを貫通する貫通孔と、を備え、保持部には、保持部の長手方向に沿って開口する第1開口部と、第1開口部に連結する第2開口部と、が形成され、第1開口部は、開閉自在であり、第2開口部は常に開口され、第1開口部が閉じているときは、ガイドワイヤを保持し、第1開口部が開いているときは、ガイドワイヤを解放することができる。
【0074】
これにより、第1開口部が閉じてガイドワイヤを保持するので、ガイドワイヤに沿ってチップが確実に体内の目的部位まで到達する。また、第1開口部を開くことでガイドワイヤが解放され、チップとガイドワイヤとは、それぞれ独立して動作することが可能となる。このように、第1開口部の開閉動作のみによる簡単な構造でガイドワイヤの保持と解放とを実現することができる。そして、ガイドワイヤによる被誘導具の誘導がスムーズであり、簡単な構造でガイドワイヤに対する困難な操作を解消することができる。
【0075】
本発明のチップの一態様として、例えば、チップは、円筒管形状を呈し、可撓性を有する屈曲自在の材料から成形され、第1開口部が閉じた状態において、ガイドワイヤの配置方向とチップの中心軸とがほぼ一致している。これにより、チップがガイドワイヤ上を移動する際、ガイドワイヤの配置方向に沿って確実に体内を移動でき、特に複雑に移動方向が変わる器官内においても、チップはガイドワイヤに的確に追従することが可能となる。
【0076】
本発明のチップの一態様として例えば、第1開口部を閉じた状態において、第1開口部の貫通孔の外径は、ガイドワイヤの外径よりも大きい。これにより、第1開口部によるガイドワイヤの保持は、遊嵌であり、チップの移動中にガイドワイヤとの摩擦を最小限に抑えることができ、チップをスムーズに誘導することができる。
【0077】
本発明のチップの一態様として例えば、保持部は所定の長さを有する。これにより、第1開口部によるガイドワイヤの保持が安定し、ガイドワイヤに沿った動きが容易となる。
【0078】
本発明のチップの一態様として例えば、保持部の外径は、ベース部の外径より大きい。これにより、ガイドワイヤを保持する大きさが確保できると共にガイドワイヤを保持しないベース部を小型化することができるので、軽量化とコスト削減が図れる。
【0079】
本発明の被誘導具装置は、チップを先端側で固定する被誘導具と、チップと被誘導具を覆う円筒管形状のシースと、を備える。これにより、簡単な構造のチップによる先導で被誘導具およびシースが体内の目的部位に到達させることができ、かつガイドワイヤと独立に被誘導具を動作できることでガイドワイヤへの絡みなどが無くなり、スムーズな被誘導具での処置が可能となる。
【0080】
本発明の被誘導具装置の一態様として例えば、少なくとも保持部の一部がシースにより覆われる場合、第1開口部が閉じ、保持部がシースから離間する場合、第1開口部が開く。これにより、シースの装着と非着の動作で、簡単に第1開口部を開閉することができる。
【0081】
本発明の被誘導具装置の一態様として、例えば、第1開口部が閉じた状態において、被誘導具装置の移動方向は、ガイドワイヤの配置方向とほぼ平行になる。これにより、被誘導具装置の体内移動をガイドワイヤに沿って抵抗なくスムーズに行うことができる。
【0082】
本発明の被誘導具装置の一態様として、例えば、シースには、シースの両端部を貫通するシース貫通孔が設けられ、シースの先端側には、シース貫通孔とシースの外面を連通する連通孔が設けられ、第1開口部が閉じた状態において、保持部の第2開口部と連通孔が重なり合うように配置されている。これにより、ガイドワイヤの挿入口が1箇所にまとまり、ガイドワイヤを挿通させることが容易であり、被誘導具装置の体内移動中の抵抗を解消させることができる。
【0083】
本発明の被誘導具装置の一態様として、例えば、シースが保持部の外周を周接して第1開口部が閉じた状態において、ガイドワイヤは、保持部の先端と第2開口部および連通孔間に挿通され、シースが保持部から離間して第1開口部が開いた状態において、ガイドワイヤは、シースの先端と連通孔間に挿通されている。これにより、ガイドワイヤによる確実な誘導と目的部位での適切な位置関係が確保され、ガイドワイヤを中心とする内視鏡下の手術等を実現できる。
【0084】
本発明の被誘導具装置の一態様として、例えば、被誘導具は、ブラシを有する細胞診ブラシである。これにより、ガイドワイヤに絡むことのなくブラシを前後動かし、回転させることができる。その結果、適切に細胞を採取できる。
【0085】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のチップおよび被誘導具装置は、簡単な構造で確実に目的部位まで誘導され、ガイドワイトとの絡みがないことを望む分野に最適である。
【符号の説明】
【0087】
1 チップ
10 保持部
11 第1開口部
12 第2開口部
13 貫通孔
20 ベース部
30 被誘導具
30a 細胞診ブラシ
31 シャフト
32 ブラシ
33 操作部
40 シース
41 シース貫通孔
42 連通孔
50 被誘導具装置
100 十二指腸
101 総胆管
102 十二指腸乳頭部
103 腫瘍
G ガイドワイヤ