(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099905
(43)【公開日】2023-07-14
(54)【発明の名称】潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 28/00 20060101AFI20230707BHJP
【FI】
C23C28/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000108
(22)【出願日】2022-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】古谷 真一
(72)【発明者】
【氏名】青山 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】鯉渕 駿
(72)【発明者】
【氏名】松田 武士
【テーマコード(参考)】
4K044
【Fターム(参考)】
4K044AA02
4K044AA06
4K044AB02
4K044BA10
4K044BA21
4K044BB03
4K044BC01
4K044BC05
4K044CA11
4K044CA18
4K044CA53
(57)【要約】
【課題】プレス成形が困難な複雑な成形を施される亜鉛系めっき鋼板において、プレス成形時の割れ危険部位での摺動抵抗が小さく、面圧が高く型カジリの発生が想定される部位において優れたプレス成形性を有し、特に、広範囲な表面粗度の鋼板に対して優れたプレス成形性を有する潤滑皮膜を備えた亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】付着量5g/m2以上の金属亜鉛層を有する亜鉛系めっき鋼板の表面に、融点が120℃以上140℃以下、かつ平均粒径が3.0μm以下のポリオレフィンワックスを10質量%以上含有する、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂の少なくともいずれか1種である有機樹脂を、片面当たりの有機樹脂皮膜付着量W(g/m2)と鋼板の算術平均粗さRa(μm)との関係がW≧0.12×Ra2+0.1の範囲内となるように形成する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面に下層として付着量5g/m2以上の金属亜鉛層を有し、上層として有機樹脂およびワックスを含む皮膜が形成された潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板であって、前記有機樹脂がアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂の少なくともいずれか1種であり、前記ワックスは融点が120℃以上140℃以下、かつ平均粒径が3.0μm以下のポリオレフィンワックスであり、皮膜中のワックスの割合が10質量%以上であり、前記皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)と金属亜鉛層表面の算術平均粗さRa(μm)との関係が下記式(1)の範囲である潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
W≧0.12×Ra2+0.1・・・(1)
【請求項2】
前記皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)と金属亜鉛層表面の算術平均粗さRa(μm)との関係が下記式(2)の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
W≧0.25×Ra2+0.1・・・(2)
【請求項3】
前記皮膜の片面当たりの付着量Wが2.0g/m2以下である請求項1または2に記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
【請求項4】
前記金属亜鉛層表面の算術平均粗さRaが0.4μm以上2.5μm以下である請求項1~3のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
【請求項5】
前記ワックスの平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下である請求項1~4のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
【請求項6】
前記皮膜中のワックスの割合が50質量%未満である請求項1~5のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
【請求項7】
前記皮膜の片面当たりの付着量Wが0.9g/m2以下である請求項3~6のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
【請求項8】
前記有機樹脂がアルカリ可溶性樹脂である請求項1~7のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、請求項1~8のいずれかに記載の有機樹脂およびワックスが含まれる塗料を、亜鉛系めっき鋼板の少なくとも片面に塗布し乾燥する潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項10】
前記乾燥時の鋼板の最高到達温度が60℃以上140℃以下である請求項9に記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項11】
前記塗料における前記有機樹脂およびワックスの割合が1質量%以上25質量%以下である請求項9または10に記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【請求項12】
前記式(1)を満足しないときに、前記式(1)を満足するように付着量W(g/m2)又は鋼板の算術平均粗さRa(μm)のうち少なくとも一つを変更する工程をさらに備える請求項9~11のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス成形における摺動性に優れた潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法に関するものである。特に厳しい絞り加工時でも成形性に優れる潤滑皮膜を備えた潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛系めっき鋼板は自動車車体用途を中心に広範な分野で広く利用される。通常、亜鉛系めっき鋼板は、プレス成形を施した後に使用に供される。しかし、亜鉛系めっき鋼板は、冷延鋼板に比べてプレス成形性が劣るという欠点を有する。これはプレス金型での亜鉛系めっき鋼板の摺動抵抗が冷延鋼板に比べて大きいことが原因である。すなわち、金型とビードでの摺動抵抗が大きい部分で、摺動抵抗が大きい亜鉛系めっき鋼板がプレス金型に流入しにくくなり、鋼板の破断が起こりやすい。
【0003】
そのため、亜鉛系めっき鋼板使用時のプレス成形性を向上させる方法として、高粘度の潤滑油を塗布する方法が広く用いられる。しかし、この方法では、潤滑油が高粘性であるため、塗装工程で脱脂不良による塗装欠陥が発生する。また、プレス時の油切れにより、プレス性能が不安定になる等の問題がある。このため、亜鉛系めっき鋼板自身のプレス成形性の改善が要求されている。
【0004】
上記の問題を解決する方法として、各種潤滑表面処理鋼板が検討されている。
【0005】
特許文献1には、樹脂皮膜表面から固体潤滑剤を0.01~1.5μm突出させた潤滑皮膜を被覆した金属板が記載されている。
【0006】
特許文献2には、ポリウレタン樹脂に潤滑剤を含有させた皮膜を0.5~5μm被覆したプレス成形性に優れた潤滑表面処理金属製品が記載されている。
【0007】
特許文献3には、エポキシ樹脂中に潤滑剤を添加したアルカリ可溶型有機皮膜を鋼板上に形成させる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10-52881号公報
【特許文献2】特開2000-309747号公報
【特許文献3】特開2000-167981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1~3では、含有する潤滑剤等による潤滑効果で潤滑性は発現するものの、複雑な成形において必ずしもプレス成型性が十分なものではなかった。特に鋼板の表面粗度が変化した場合に安定的に良好なプレス成形性を得ることが出来なかった。
【0010】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、プレス成形が困難な複雑な成形を施される亜鉛系めっき鋼板において、プレス成形時の割れ危険部位での摺動抵抗が小さく、面圧が高く型カジリの発生が想定される部位において優れたプレス成形性を有し、特に、広範囲な表面粗度の鋼板に対して優れたプレス成形性を有する潤滑皮膜を備えた潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0011】
また、自動車用鋼板として用いられる場合には、塗装工程の中のアルカリ脱脂工程において十分な脱膜性を有することも必要とされ、そのような用途では、併せて良好な脱膜性を有することを更なる目的とする。
【0012】
ここで、亜鉛系めっき鋼板とは鋼板上に亜鉛を主体とするめっき皮膜を形成させた鋼板である。亜鉛を主体とするめっき皮膜には、意図的に亜鉛以外の成分を添加せず、亜鉛と不可避的不純物からなる亜鉛めっきや、亜鉛を主体とし、鉄、ニッケル、アルミニウム、マグネシウム等の合金元素やアルミナ、シリカ等の化合物を添加した亜鉛めっき等が挙げられる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、プレス成形性を飛躍的に改善するためには、鋼板の表面に付着量5g/m2以上の金属亜鉛層を備えた亜鉛系めっき鋼板の上層に融点120℃以上140℃以下かつ平均粒径が3.0μm以下のポリオレフィンワックスを含有する有機樹脂皮膜を形成し、鋼板の表面粗度と皮膜付着量を制御することで上記課題を解決できることを見出した。
【0014】
本発明は、以上の知見に基づき完成されたものであり、その要旨は以下の通りである。
[1]少なくとも片面に下層として付着量5g/m2以上の金属亜鉛層を有し、上層として有機樹脂およびワックスを含む潤滑皮膜が形成された潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板であって、前記有機樹脂がアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂の少なくともいずれか1種であり、前記ワックスは融点が120℃以上140℃以下、かつ平均粒径が3.0μm以下のポリオレフィンワックスであり、皮膜中のワックスの割合が10質量%以上であり、前記皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)と金属亜鉛層表面の算術平均粗さRa(μm)との関係が下記式(1)の範囲である潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
W≧0.12×Ra2+0.1・・・(1)
[2]前記皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)と金属亜鉛層表面の算術平均粗さRa(μm)との関係が下記式(2)の範囲であることを特徴とする[1]に記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
W≧0.25×Ra2+0.1・・・(2)
[3]前記皮膜の片面当たりの付着量Wが2.0g/m2以下である[1]または[2]に記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
[4]前記金属亜鉛層表面の算術平均粗さRaが0.4μm以上2.5μm以下である[1]~[3]のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
[5]前記ワックスの平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下である[1]~[4]のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
[6]前記皮膜中のワックスの割合が50質量%未満である[1]~[5]のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
[7]前記皮膜の片面当たりの付着量Wが0.9g/m2以下である[3]~[6]のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
[8]前記有機樹脂がアルカリ可溶性樹脂である[1]~[7]のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板。
[9][1]~[8]のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法であって、[1]~[8]のいずれかに記載の有機樹脂およびワックスが含まれる塗料を、亜鉛系めっき鋼板の少なくとも片面に塗布し乾燥する潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[10]前記乾燥時の鋼板の最高到達温度が60℃以上140℃以下である[9]に記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[11]前記塗料における前記有機樹脂およびワックスの割合が1質量%以上25質量%以下である[9]または[10]に記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
[12] 前記式(1)を満足しないときに、前記式(1)を満足するように付着量W(g/m2)又は鋼板の算術平均粗さRa(μm)のうち少なくとも一つを変更する工程をさらに備える[9]~[11]のいずれかに記載の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法。
【0015】
本発明において、金属亜鉛層は冷延鋼板または熱延鋼板上に形成されためっき層である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板と金型等との摩擦係数が顕著に低下してプレス成形性に優れた亜鉛系めっき鋼板が得られる。このため、複雑な成形を施される比較的強度の低い亜鉛系めっき鋼板に本発明を適用すると、安定的に優れたプレス成形性を有することになる。
【0017】
また、プレス成形時の面圧が上昇する高強度亜鉛系めっき鋼板においても、プレス成形時の割れ危険部位での摺動抵抗が小さく、面圧が高く型カジリの発生が想定される部位において優れたプレス成形性を有する潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板が得られる。
【0018】
なお、上記において、高強度とは引張強度(TS)が440MPa以上を想定しており、比較的強度の低いとはTSが440MPa未満を想定している。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図2】
図1中のビード形状・寸法を示す概略斜視図である。
【
図3】本件発明の対象となる塗料についての各種潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板表面粗さと各種皮膜厚さでの摩擦係数を記す図である。
【
図4】本件発明の対象外の塗料についての各種潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板表面粗さと各種皮膜厚さでの摩擦係数を記す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0021】
本発明は、少なくとも片面に下層として付着量5g/m2以上の金属亜鉛層を有し、上層として有機樹脂およびワックスを含む皮膜が形成された潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板であって、前記ワックスは、融点120℃以上140℃以下かつ平均粒径が3.0μm以下のポリオレフィンワックスあり、皮膜中のワックスの割合が10質量%以上であることを特徴とする。さらに、皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2) と鋼板の算術平均粗さRa(μm)との関係が下記式(1)の範囲であることを特徴とする。
W≧0.12×Ra2+0.1・・・(1)
本発明における金属亜鉛層は、製造方法は限定されず、例えば溶融めっき法、電気めっき法、蒸着めっき法、溶射法などの各種の製造方法により鋼板上に亜鉛系めっきを施すことにより形成することが出来る。また、亜鉛めっき処理後に合金化処理を施す合金化溶融亜鉛めっき鋼板を用いることもできる。さらに、金属亜鉛層として、亜鉛-アルミニウム合金めっき、亜鉛-アルミニウム-マグネシウム合金めっき、亜鉛-ニッケル合金めっきなど亜鉛以外の金属が含まれる亜鉛系めっき鋼板を使用しても、金属亜鉛の付着量が5g/m2以上であればよい。金属亜鉛層が有機潤滑皮膜の下層として存在することで、摺動時に金型と有機潤滑皮膜中のワックス成分との付着を促進し、金型がワックス成分で被覆されやすくなるため、金属亜鉛層がない場合と比べて、優れた潤滑効果が得られる。また、金属亜鉛層は鋼板よりも軟質であるため、摺動時の変形抵抗が小さく、摩擦係数が低くなりやすい。金属亜鉛層が5g/m2未満の場合には前述の亜鉛層による潤滑効果が十分に得られない場合があり、また、耐食性が劣る。
【0022】
本発明に用いるワックスは融点120℃以上140℃以下かつ平均粒径が3.0μm以下のポリオレフィンワックスであれば限定されない。
【0023】
ワックスとしてポリオレフィンワックスを用いるのは、表面エネルギーが低く、自己潤滑性を有するため、良好な潤滑性が得られるためである。また、ポリオレフィンは密度や分子量を制御することで融点を120℃以上140℃以下に調整することも比較的容易である。
【0024】
融点が120℃以上140℃以下の場合には、ポリオレフィンワックス自身の自己潤滑性に加え、プレス成形時の摺動によりワックスが半溶融状態となることで有機樹脂と混合した潤滑皮膜成分が金型表面を被覆することが可能であり、金型と鋼板の直接の接触を抑制することで優れた潤滑効果が得られる。融点が120℃未満の場合には、プレス成形時の摺動による摩擦熱で完全に溶融しワックス自身の十分な潤滑効果が得られない上に前述した金型の被覆効果も得られない。また、融点が140℃を超えると、摺動時に溶融せず十分な潤滑効果が得られず、金型の被覆効果も得られない。
【0025】
ワックスの融点が120℃以上140℃以下の場合には、プレス成形時の摺動状態において皮膜中のワックスが効率的に金型に付着し、脱落しにくくなる現象が生じ、高い潤滑効果が得られると考えられる。融点が120℃未満の場合には、皮膜が金型に付着しても付着力が弱く、摺動されたときに皮膜が脱落しやすくなる。融点が140℃超の場合には皮膜が金型に付着しにくくなる。さらに融点が125℃以上135℃以下であることが好ましい。
【0026】
ここで、ワックスの融点とは、JIS K 7121:1987「プラスチックの転移温度測定方法」に基づき測定される融解温度である。
【0027】
ワックスの平均粒径が3.0μmを超えると、摺動時に有機樹脂と混合しにくくなり、前述した金型の被覆効果が得られず十分な潤滑性が得られない。ワックスの平均粒径は好ましくは1.5μm以下である。より好ましくは0.5μm以下、さらにより好ましくは0.3μm以下である。
【0028】
ワックスの平均粒径は0.01μm以上であることが好ましい。0.01μm未満では摺動時に潤滑油に溶解しやすくなり、十分な潤滑性向上効果が発揮されない場合があり、皮膜を形成させるための塗料中でも凝集しやすいため塗料安定性も低い。さらに好ましくは0.03μm以上である。
【0029】
前記平均粒径とは体積平均径のメジアン径であり、レーザー回折/散乱法により求められる。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置partica LA-960V2(株式会社堀場製作所製)を用いて、純水で希釈した試料を測定することにより求めることが出来る。
【0030】
ポリオレフィンワックスの中でもポリエチレンワックスを用いた場合に最も高い潤滑効果が得られるため、ポリエチレンワックスを用いることが好ましい。
【0031】
皮膜中のワックスの質量割合は10質量%以上とする。10質量%未満の場合には十分な潤滑効果が得られない。皮膜中のワックスの質量割合は15質量%以上であれば、特に良好な潤滑効果が得られる。また、皮膜中のワックスの質量割合は50質量%未満であることが好ましい。50質量%以上では、ベース樹脂成分の不足によりワックスが脱落しやすく、亜鉛系めっき鋼板への密着性が劣り、皮膜として安定に存在できない場合がある。また、自動車用鋼板として用いられる場合に塗装工程の中のアルカリ脱脂工程において十分な脱脂性が得られない場合があり、また、アルカリ可溶型の有機樹脂を使用した場合でも、アルカリ脱脂工程で十分に脱膜せず皮膜が残存し、塗装性を劣化させる場合がある。さらに好ましくは30質量%以下である。
【0032】
ここで、皮膜中のワックスの質量割合とは、皮膜中の樹脂の固形分の質量と皮膜中のワックスの固形分の質量との合計質量に対する皮膜中のワックスの固形分の質量の割合である。
【0033】
具体的な測定方法としては、樹脂およびワックスについて、亜鉛系めっき鋼板上の付着量が既知の試験片を作成し、FT-IR測定装置により赤外吸収スペクトルを測定し、樹脂およびワックスそれぞれに由来するピーク強度から樹脂およびワックスそれぞれの付着量の検量線を作成する。次に、測定対象の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の赤外吸収スペクトルを測定し、検量線から樹脂およびワックスの付着量を求めることで皮膜中のワックスの質量割合を求めることが出来る。
【0034】
本発明において有機樹脂はワックスを亜鉛系めっき鋼板表面に保持するバインダーとしての役割を担う。前述した摺動時に形成されるワックスと有機樹脂の混合物の金型被覆による摺動効果は無機系バインダーではポリオレフィンとの親和性が低いために発揮されない。有機樹脂としてはアクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂が使用可能である。
【0035】
本発明に用いるアクリル系樹脂とは、アクリル酸、メタクリル酸などの分子中にカルボキシ基を1個有する不飽和モノカルボン酸、上記不飽和モノカルボン酸のエステル、およびスチレンの中から選ばれる1種もしくは複数からなる重合体または共重合体、またはそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、アミン塩等の誘導体である。
【0036】
分子中のカルボキシ基が2個以上の脂肪酸をモノマーとしたアクリル系樹脂の場合には塗料安定性が劣るおそれがあるため、本発明では分子中にカルボキシ基を1個有する脂肪酸もしくはその脂肪酸エステルをモノマーとするアクリル系樹脂を用いる。
【0037】
エポキシ系樹脂は特に限定されないが、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂などが挙げられる。
【0038】
ウレタン系樹脂は特に限定されないが、分子中にカルボキシ基を有することが好ましい。
【0039】
フェノール系樹脂は特に限定されないが、水系溶媒に溶解もしくは分散可能なレゾール系フェノール樹脂が好ましい。
【0040】
酢酸ビニル系樹脂は特に限定されないが、ポリ酢酸ビニルを用いることが好ましい。
【0041】
ポリエステル系樹脂は特に限定されないが、カルボキシ基を有するモノマーを構成成分として含有するポリエステル樹脂が好ましい。
【0042】
また、これらの樹脂は2種以上を混合して使用することもできる。さらに、アルカリ可溶性有機樹脂を用いることで、塗装工程のアルカリ脱脂により脱膜させることが可能となり、その後の塗装性が良好となる。
【0043】
本発明において有機樹脂とワックス以外の成分として、表面調整剤や消泡剤、分散剤を含んでもよい。また、防錆性を向上させる防錆剤を添加することもできる。
【0044】
本発明では、上記皮膜を亜鉛系めっき鋼板表面に形成する際に、広範囲な表面粗度の亜鉛系めっき鋼板に対し、広範囲な付着量範囲の皮膜を形成してプレス成形性を評価し、限定された亜鉛系めっき鋼板表面粗度と皮膜付着量との関係式を満たす領域でのみ安定して良好なプレス成形性を満たすことを見出した。一般に、亜鉛系めっき鋼板の表面粗度が大きくなるほど鋼板の凸部において潤滑皮膜が薄くなりやすく、プレス成形された場合に金型との摺動で皮膜が削り取られて下地の亜鉛系めっき鋼板が露出しやすくなり、潤滑効果が得られにくくなる。しかし、本発明の技術を用いることで、摺動時に金型への潤滑皮膜成分の付着が促進され、亜鉛系めっき鋼板の粗度が大きい場合でも金型側が保護されることにより潤滑性が損なわれない。
【0045】
良好なプレス成形性を示す皮膜付着量範囲は次の通りである。
【0046】
皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)と亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)との関係が式(1):W≧0.12×Ra2+0.1を満たす範囲で良好なプレス成形性を得ることが出来る。W<0.12×Ra2+0.1の場合には皮膜付着量が足りず、金型側の保護効果が十分に得られず、良好なプレス成形性が得られない。
【0047】
さらに好ましくは式(2):W≧0.25×Ra2+0.1を満たす範囲とすることである。
【0048】
皮膜のうち、摺動性に主として寄与するのはプレス加工時に金型と接触する亜鉛系めっき鋼板凸部に存在する皮膜成分である。金型と接触する鋼板凸部の面積はRa2に比例して減少する傾向にあると考えられる。従って、Ra2に比例して皮膜付着量を増加させることで、摺動性に寄与する皮膜成分量が十分に確保することが出来ると考えられる。
【0049】
付着量Wは2.0g/m2以下であることが好ましい。2.0g/m2を超えると脱膜性や溶接性が劣る場合がある。付着量Wは0.9g/m2以下であることが特に好ましい。付着量Wが0.9g/m2以下であれば、脱膜性が特に良好となる。
【0050】
皮膜付着量は、皮膜塗布前後の亜鉛系めっき鋼板の重量差を面積で除する方法や、皮膜塗布後の亜鉛系めっき鋼板の皮膜をアルカリ水溶液や有機溶剤により完全に除去し、皮膜除去前後の亜鉛系めっき鋼板の重量差を面積で除する方法により、求めることが出来る。
【0051】
亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRaは0.4μm以上2.5μm以下であることが好ましい。
【0052】
0.4μmより小さい場合にはプレス成形時に起こりうる微細な傷が目立ちやすい場合がある上に、プレス成形時にカジリが発生する場合がある。2.5μmを超えると、必要な皮膜付着量が大きくなり、製造コストが増加することや、塗装後の鮮鋭性が劣化する場合がある。
【0053】
亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)はJIS B 0633:2001(ISO 4288:1996)に従い測定することが出来る。例えば、Raが0.1より大きく2以下の場合には、カットオフ値および基準長さを0.8mm、評価長さを4mmとして、測定した粗さ曲線から求める。Raが2を超え、10以下の場合にはカットオフ値および基準長さを2.5mm、評価長さを12.5mmとして、測定した粗さ曲線から求める。
【0054】
次に、亜鉛系めっき鋼板の金属亜鉛層の上層に有機樹脂およびワックスを含む皮膜を形成させる方法について説明する。
【0055】
亜鉛系めっき鋼板の金属亜鉛層の上層に融点120℃以上140℃以下かつ平均粒径が3.0μm以下のポリオレフィンワックスを含有する有機樹脂皮膜を形成する方法としては溶媒に有機樹脂を溶解もしくは分散した有機樹脂溶液もしくはエマルジョンにワックスを添加した塗料を鋼板表面に塗布して乾燥する方法が適用可能である。ここで塗料は、有機樹脂の固形分としての質量(MA)、ワックスの固形分としての質量(MB)、C={MB/(MA+MB)}×100としたときの、Cが10質量%以上となるように調整する。
【0056】
塗料における皮膜成分(有機樹脂とポリオレフィンワックス)の質量割合は1質量%以上25質量%以下であることが好ましい。
【0057】
塗料の溶媒としては水または有機溶剤を用いる。
【0058】
塗料における皮膜成分の質量割合が1質量%未満や25質量%超えの場合には塗布時にムラが発生する場合がある。塗布方法は特に制限されないが、例としてロールコーターやバーコーターを使用する方法や、スプレー、浸漬、刷毛による塗布方法が挙げられる。塗布後の亜鉛系めっき鋼板の乾燥方法は一般的な方法で行うことができる。例えば、熱風による乾燥や、IHヒーターによる乾燥、赤外加熱による方法が挙げられる。乾燥時の亜鉛系めっき鋼板の最高到達温度は60℃以上140℃以下であることが好ましい。60℃未満では乾燥に時間がかかる上に、防錆性が劣る場合がある。140℃を超える場合はワックスが溶融、合体し、粒径が粗大化することで潤滑性が劣化する場合がある。
【0059】
本発明の亜鉛系めっき鋼板の製造方法においても、皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)と亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)との関係が式(1):W≧0.12×Ra2+0.1を結果的に満たせば、良好なプレス成形性を有する潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板を製造することができる。
【0060】
製造方法の他の実施形態として、前記式(1)を満足しないときに、前記式(1)を満足するように、付着量W(g/m2)又は亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)のうち少なくとも一つを意図的に変更する工程をさらに備えてもよい。これにより、良好なプレス成形性を有する潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板をより確実に製造するよう管理することができる。
【0061】
当該工程を操業中に行う一例として、亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)の目標値または測定値に応じて、前記式(1)を満足するように、皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)を決定する工程を有し、塗布工程において、決定した付着量Wとなるように塗布量を調整することが挙げられる。より具体的には、亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)の値を、前記式(1)に代入し、当該代入した前記式(1)を満足するように、皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)を決定する。ここで、「亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)の値を、前記式(1)に代入する」とは、厳密に前記式(1)と同一の式に代入する態様に限られず、これらの前記式(1)を常に満足する、より狭い範囲の不等式に代入する態様も含む。このような管理を行うことで、例えば連続して通板する亜鉛系めっき鋼板が切り替わる、または圧延ロールの摩耗、などの事情により、亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)が大きく変わることで前記式を満足しないとき(実際に前記式(1)を満足しなくなった時、前記式(1)を満足しなくなる事情が生じた場合)でも、前記式(1)を満足するように管理することができる。
【0062】
なお、潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の亜鉛系めっき鋼板の表面粗さは、潤滑皮膜を被覆する前に測定してもいいし、潤滑皮膜をアルカリ水溶液や有機溶剤により完全に除去した後に測定してもよい。
【0063】
前記式(1)を満足するように亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)を調整する場合、適宜公知の方法を適用できる。亜鉛系めっきの下地鋼板が熱延鋼板の場合は、鋼板中のSi添加量によって熱延時のスケール厚さを調整することで、酸洗によりスケールを除去した後の鋼板の表面粗さを調整できる。また、熱延時のデスケーリング(水圧でスケールを粉砕・除去する工程)の強度を調整することでも鋼板の表面粗さを調整することができる。亜鉛系めっきの下地鋼板が冷延鋼板の場合は、調質圧延時のロール荷重またはロール表面粗さを変更することで、鋼板の表面粗さを調整することができる。また、亜鉛系めっき後の鋼板に対し、調質圧延時のロール荷重またはロール表面粗さを変更することで、亜鉛系めっき層の表面粗さを調整することができる。
【0064】
以上、操業中に前記式(1)を満たすように管理する実施形態の例を説明したが、操業開始前に皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)と亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)とが前記式を満足するか否かを予め確認し、満足しない場合に皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)と亜鉛系めっき鋼板の算術平均粗さRa(μm)とのうちいずれか一つを予め変更する亜鉛系めっき鋼板の製造条件決定方法として実施しても構わない。このような製造条件決定方法は、潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の製造方法の一部の工程として実施してもよいし、単独の工程として実施してもよい。
【実施例0065】
以下、本発明を実施例により説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0066】
表1に示す算術平均粗さRaと金属亜鉛付着量を有する板厚0.8mmの合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)、電気亜鉛めっき鋼板(EG)、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)を用い、
表2に示す組成の塗料をバーコーターで塗布し、鋼板の最高到達温度が80℃となるようIHヒーターで乾燥することで潤滑処理鋼板とした。なお、A~Gの鋼板はいずれも270MPa級の引張強度を有する。
【0067】
(1)プレス成形性(摺動特性)の評価方法
プレス成形性を評価するために、各供試材の摩擦係数を以下のようにして測定した。
【0068】
図1は、摩擦係数測定装置を示す概略正面図である。同図に示すように、供試材から採取した摩擦係数測定用試料1が試料台2に固定され、試料台2は、水平移動可能なスライドテーブル3の上面に固定されている。スライドテーブル3の下面には、これに接したローラ4を有する上下動可能なスライドテーブル支持台5が設けられ、これを押上げることにより、ビード6による摩擦係数測定用試料1への押付荷重Nを測定するための第1ロードセル7が、スライドテーブル支持台5に取付けられている。上記押し付け力を作用させた状態でスライドテーブル3を水平方向へ移動させるための摺動抵抗力Fを測定するための第2ロードセル8が、スライドテーブル3の一方の端部に取付けられている。なお、潤滑油として、スギムラ化学工業(株)製のプレス用洗浄油プレトンR352Lを試料1の表面に塗布して試験を行った。
【0069】
図2は使用したビードの形状・寸法を示す概略斜視図である。ビード6の下面が試料1の表面に押し付けられた状態で摺動する。
図2に示すビード6の形状は幅10mm、試料の摺動方向長さ59mm、摺動方向両端の下部は曲率4.5mmRの曲面で構成され、試料が押し付けられるビード下面は幅10mm、摺動方向長さ50mmの平面を有する。
【0070】
摩擦係数測定試験は、
図2に示すビードを用い、押し付け荷重N:400kgf、試料の引き抜き速度(スライドテーブル3の水平移動速度):20cm/minとし行った。供試材とビードとの間の摩擦係数μは、式:μ=F/Nで算出した。
【0071】
摩擦係数が0.125以下の場合を特に優れた摺動性であるとして◎、0.125を超え0.150以下を良好な摺動性であるとして〇、0.150を超える場合は不十分として×として評価した。
【0072】
(2)脱膜性の評価方法
本発明に係る潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板が、自動車用途で使用される場合を想定して、脱脂時の脱膜性を評価した。鋼板の脱膜性を求めるために、まず、各試験片をアルカリ脱脂剤のファインクリーナーE6403(日本パーカライジング(株)製)で脱脂処理した。かかる処理は、試験片を、脱脂剤濃度20g/L、温度40℃の脱脂液に所定の時間浸漬し、水道水で洗浄することとした。かかる処理後の試験片に対し、蛍光X線分析装置を用いて表面炭素強度を測定し、かかる測定値と予め測定しておいた脱脂前表面炭素強度および無処理鋼板の表面炭素強度の測定値を用いて、以下の式により皮膜剥離率を算出した。
【0073】
皮膜剥離率(%)=[(脱脂前炭素強度-脱脂後炭素強度)/(脱脂前炭素強度-無処理鋼板の炭素強度)]×100
潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の脱膜性は、かかる皮膜剥離率が98%以上となるアルカリ脱脂液への浸漬時間により、以下に示す基準で評価した。下記◎と〇の場合に脱膜性が良好であると判定した。
◎(特に良好):30秒以内
○(良好) :30秒超え60秒以内
△(不十分) :60秒超え120秒以内
×(不良) :120秒超え
【0074】
【0075】
【0076】
【0077】
【0078】
得られた結果を表3、4に示した。表3、4の式(1)判定、式(2)判定はそれぞれ式(1)、式(2)を満足する場合を〇、満足しない場合を×とした。
【0079】
表3、4によれば、本発明例の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板は、いずれも優れたプレス成形性を有している。これに対し、本発明の技術的特徴を有さない比較例の亜鉛系めっき鋼板はいずれもプレス成形性に劣っている。
【0080】
更に、本発明の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の中で、潤滑皮膜の片面当たりの付着量W(g/m2)が、W≧0.25×Ra2+0.1であり、潤滑皮膜のワックスの融点が125℃以上135℃以下であり、潤滑皮膜のワックスの平均粒径が0.01μm以上0.5μm以下で潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板は特にプレス成形性が良好であることが明らかである。
【0081】
図4に示すように、本発明の対象でない塗料を塗布した亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面粗さが大きいほど高摩擦係数を示す傾向が見られた。
【0082】
一方、
図3に示すように、本発明の対象となる塗料を塗布し、かつ、式(1)を満たす潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板は、亜鉛系めっき鋼板の表面粗さが変化した場合でも安定して低摩擦係数を示すことから、亜鉛系めっき鋼板の表面粗さの製造時の変化に対しても安定して良好なプレス成形性が得られている。
【0083】
また、本発明例の潤滑皮膜被覆亜鉛系めっき鋼板の脱膜性は、皮膜中のワックスの質量割合が50%以上およびまたは潤滑皮膜の片面当たりの付着量Wが0.9g/m2超である場合を除いて◎(特に良好)となった。