(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023009994
(43)【公開日】2023-01-20
(54)【発明の名称】CMP工程用後洗浄剤組成物
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20230113BHJP
C11D 1/72 20060101ALI20230113BHJP
C11D 3/20 20060101ALI20230113BHJP
C11D 1/722 20060101ALI20230113BHJP
C11D 3/04 20060101ALI20230113BHJP
C11D 3/30 20060101ALI20230113BHJP
【FI】
H01L21/304 647A
C11D1/72
C11D3/20
C11D1/722
C11D3/04
C11D3/30
H01L21/304 622Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021113728
(22)【出願日】2021-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(71)【出願人】
【識別番号】511078417
【氏名又は名称】クラークソン ユニバーシティ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】殿谷 大輔
(72)【発明者】
【氏名】スリャデバラ ヴィ. バブ
(72)【発明者】
【氏名】ジフン ソ
(72)【発明者】
【氏名】スリ シヴァ ラマ クリシュナ ハヌップ ヴェギ
(72)【発明者】
【氏名】アリ オスマン
【テーマコード(参考)】
4H003
5F057
5F157
【Fターム(参考)】
4H003AC08
4H003AC09
4H003AC23
4H003DA05
4H003DA09
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4H003EA16
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4H003EB13
4H003EB16
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5F057AA21
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5F157BF59
5F157DB03
5F157DB57
(57)【要約】
【課題】基板を平坦化した研磨面上に残る金属残渣や有機残渣の除去及び付着抑制に優れ、腐食抑制にも優れるCMP工程用後洗浄剤組成物を提供する。
【解決手段】(A)脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有するノニオン系界面活性剤、(B)有機酸化合物、及び、(C)pH調整剤を含むことを特徴とするCMP工程用後洗浄剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有するノニオン系界面活性剤、(B)有機酸化合物、及び、(C)pH調整剤を含むことを特徴とする、CMP工程用後洗浄剤組成物。
【請求項2】
酸化剤の含有量が、前記CMP工程用後洗浄剤組成物100質量%に対して、1.0質量%以下であることを特徴とする請求項1に記載のCMP工程用後洗浄剤組成物。
【請求項3】
前記脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造は、炭素数6以上の脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有し、2種以上のアルキレンオキシドのブロックポリマー構造を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のCMP工程用後洗浄剤組成物。
【請求項4】
前記脂肪族アルコールは、炭素数6以上の、二級又は三級アルキルアルコールであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のCMP工程用後洗浄剤組成物。
【請求項5】
前記pH調整剤は、塩基性pH調整剤であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のCMP工程用後洗浄剤組成物。
【請求項6】
前記塩基性pH調整剤は、水酸化物、有機アミン、有機アミン塩、及び、アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする請求項5に記載のCMP工程用後洗浄剤組成物。
【請求項7】
前記有機酸化合物は、カルボン酸化合物、及び、アスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のCMP工程用後洗浄剤組成物。
【請求項8】
セリアを研磨砥粒として用いるCMP工程用後洗浄剤組成物であることを特徴とする、請求項1~7のいずれかに記載のCMP工程用後洗浄剤組成物。
【請求項9】
半導体製造プロセスにおいて、酸化ケイ素及び/又は窒化ケイ素を含む膜表面の洗浄に用いることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のCMP工程用後洗浄剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造プロセスにおけるCMP(化学機械研磨)工程用後洗浄剤組成物に関する。より詳しくは、CMP工程後の基板表面の金属残渣や有機残渣の除去及び付着抑制に優れ、かつ、腐食抑制に優れたCMP工程用後洗浄剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
CMP(Chemical-Mechanical-Planarization/Polishing、化学機械平坦化/研磨)とは、半導体製造プロセスにおけるウェハ表面の平坦化技術の一種で、化学研磨剤、研磨パッドを使用し、化学作用と機械的研磨の複合作用で、ウェハ表面の凹凸を削って平坦化する研磨技術である。平坦化したウェハ表面には、砥粒や研磨屑の金属残渣が残留する。また、ウェハ表面は、金属活性が高く、腐食(酸化)しやすいため、防食剤により保護膜を形成することが行われ、研磨後に上記保護膜の成分が、有機残渣として残留することがある。これらの残留物は、半導体の電気特性等に悪影響を及ぼすため、除去する必要があり、その除去のためにCMP工程後に洗浄が行われる。
【0003】
CMP工程後洗浄は、通常、洗浄剤を用いた化学洗浄と、ブラシ等を用いた物理洗浄とを組み合わせて行われる。上記洗浄剤として、通常、主成分、キレート剤、界面活性剤等を含む洗浄剤組成物が使用される。
【0004】
CMP工程後洗浄用の組成物については、これまでに広く研究されている(特許文献1~5)。
例えば、特許文献1には、特定の有機第4級アンモニウム水酸化物と、界面活性剤と、キレート剤と、硫黄原子を有するアミノ酸及び/又はその誘導体と、ベンゾトリアゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール及びその誘導体からなる群から選ばれる少なくとも1種とを含み、pHが9以上である半導体デバイス用基板洗浄液が記載されている。
また、特許文献2には、基体上に残存するセリウム化合物を従来技術よりも安全で容易に減少させることが可能な洗浄液として、水と、アルカリ性雰囲気下で還元性を示す糖類と、アルカリ性成分とを含有し、25℃におけるpHが7以上であるCMP後洗浄液が記載され、特許文献3には、アルカノールアミン化合物及び複素環含有アミン化合物からなる群より選ばれる少なくとも1種と、第4級アンモニウム水酸化物と、クエン酸と、アスコルビン酸を含む、半導体ウェハを洗浄する洗浄液が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-154625号公報
【特許文献2】特開2014-225503号公報
【特許文献3】特開2020-96053号公報
【特許文献4】特開2018-107353号公報
【特許文献5】国際公開第2019/073931号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来のCMP工程用後洗浄剤組成物では、CMP工程後の基板(ウェハ)表面に存在する、研磨剤に由来する砥粒又は研磨屑等の金属残渣や防食剤由来の有機残渣の除去や、付着防止機能が未だ充分とは言えず、改善の余地があった。特に、セリア(酸化セリウム:CeO2)粒子を含む研磨スラリーを使用して、SiO2基板上でCMPを行うと、基板上でSi-O-Ce結合が形成され、基板上にセリア粒子が残留し易くなるといった問題があった。また、これらの残留物を除去するためには過酸化水素等の取り扱いに注意を要する成分を使用する必要があった。
また、半導体ウェハは、基板上に配線となる金属膜や絶縁膜等の堆積層が形成され、これらには銅、コバルト、タンタル、タングステン、チタン等を含む各種金属化合物材料が使用される。CMP後には、これらの各種金属化合物材料がウェハ表面に露出するため、CMP工程用後洗浄剤組成物は、これらの金属化合物材料に対しても優れた洗浄機能と腐食抑制機能を発揮しうることが望ましい。更に、近年は、半導体デバイスの高速化、高集積化がますます進み、より一層高度なCMP加工特性が求められている。
【0007】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、基板を平坦化した研磨面上に残る金属残渣や有機残渣の除去及び付着抑制に優れ、腐食抑制にも優れるCMP工程用後洗浄剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、CMP工程用後洗浄剤組成物について種々検討したところ、特定のノニオン系界面活性剤と、有機酸化合物と、pH調整剤とを組み合わせて使用することにより、特にセリアを研磨砥粒として用いてCMP工程を行ったウェハ表面上の金属残渣や有機残渣の除去及び付着抑制が格段に向上し、かつ、腐食抑制にも優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、(A)脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有するノニオン系界面活性剤、(B)有機酸化合物、及び、(C)pH調整剤を含むことを特徴とする、CMP工程用後洗浄剤組成物である。
【0010】
上記CMP工程用後洗浄剤組成物は、酸化剤の含有量が、上記CMP工程用後洗浄剤組成物100質量%に対して、1.0質量%以下であることが好ましい。
【0011】
上記脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造は、炭素数6以上のアルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有し、2種以上のアルキレンオキシドのブロックポリマー構造を含むことが好ましい。
【0012】
上記脂肪族アルコールは、炭素数6以上の、二級又は三級アルキルアルコールであることが好ましい。
【0013】
上記pH調整剤は、塩基性pH調整剤であることが好ましい。
【0014】
上記塩基性pH調整剤は、水酸化物、有機アミン、有機アミン塩、及び、アンモニウム塩からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0015】
上記有機酸化合物は、カルボン酸化合物、及び、アスコルビン酸からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことが好ましい。
【0016】
上記CMP工程用後洗浄剤組成物は、セリアを研磨砥粒として用いるCMP工程用後洗浄剤組成物であることが好ましい。
【0017】
上記CMP工程用後洗浄剤組成物は、半導体製造プロセスにおいて、酸化ケイ素及び/又は窒化ケイ素を含む膜表面の洗浄に用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、ウェハ表面上の金属残渣や有機残渣の除去及び付着防止に優れ、かつ、腐食抑制にも優れる。本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、半導体製造プロセスにおける、特にセリアを研磨砥粒として用いるCMP工程用後洗浄剤組成物として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】実施例1~2、比較例1~2の洗浄剤組成物を用いて、洗浄性能評価用SiO
2基板A-1、A-2を洗浄処理した場合と、未洗浄の場合の、上記基板の表面状態を表すAFM画像である。
【
図2】実施例3~5、比較例3の洗浄剤組成物を用いて、洗浄性能評価用SiO
2基板A-1、A-2を洗浄処理した場合の、上記基板の表面状態を表すAFM画像である。
【
図3】実施例1、3、6の洗浄剤組成物を用いて、洗浄性能評価用SiN基板B-1、B-2を洗浄処理した場合と、未洗浄の場合の、上記基板の表面状態を表すAFM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を詳述する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0021】
1.CMP工程用後洗浄剤組成物
本発明は、(A)脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有するノニオン系界面活性剤、(B)有機酸化合物、及び、(C)pH調整剤を含むことを特徴とする、CMP工程用後洗浄剤組成物である。
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、ウェハ表面上の金属残渣や有機残渣の除去及び付着防止に優れ、かつ、腐食抑制にも優れる。特に、セリアを研磨砥粒として用いてCMP工程を行ったウェハ表面の洗浄に使用することにより、その効果がより一層発揮される。また、本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、半導体製造プロセスにおいて、酸化ケイ素及び/又は窒化ケイ素を含む膜表面の洗浄に用いる場合に、上述した効果がより一層発揮される。
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物が、金属残渣、セリア砥粒残渣や有機残渣の除去及び付着防止に優れ、かつ、腐食抑制にも優れるのは、本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物に含まれるノニオン系界面活性剤が基板表面及び砥粒残渣や汚れの界面に浸透して洗浄液主成分の水中に浮き上がらせつつ、有機酸化合物が汚染物質と基板の界面に形成された共有結合を切断することで汚染物を基板表面から除去できるためと推測される。加えて、CMP工程後に現れた金属堆積膜表面に有機酸化合物が吸着することで、洗浄液中に共存する化学成分間の電気化学的相互作用を平衡状態として、金属堆積膜を構成する金属種の腐食電位や腐食電流値を低減させることができるためと推測される。
【0022】
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物に含まれる各成分について、説明する。
(A)ノニオン系界面活性剤
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有するノニオン系界面活性剤(以下、「成分(A)」とも称する。)を含む。このような特定のノニオン系界面活性剤を含むことにより、基板表面及び砥粒残渣や汚れの界面に浸透して洗浄剤組成物主成分の水中に浮き上がらせた状態を安定的に保持することができる。
【0023】
上記脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造とは、脂肪族アルコールにアルキレンオキシドが付加した構造である。
【0024】
上記脂肪族アルコールとしては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブチルアルコール、ペンチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ラウリルアルコール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、メタンジオール、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール等のアルキルアルコール;シクロペンチルアルコール、シクロヘキシルアルコール、シクロヘプチルアルコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール等のシクロアルキルアルコール;アリルアルコール等が挙げられる。
なかでも、構造や付加位置による疎水性の調整が比較的容易であることから、アルキルアルコールが好ましい。上記アルキルアルコールは、直鎖状、分岐状のいずれであってもよい。
【0025】
上記脂肪族アルコールの炭素数は、6以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。また、上記アルコールの炭素数は、18以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましい。
【0026】
上記脂肪族アルコールは、固体残渣界面への高い浸透力と金属腐食抑制に優れる点で、二級又は三級アルコールであることが好ましく、二級アルコールであることがより好ましい。
上記脂肪族アルコールは、炭素数6以上の、二級又は三級アルキルアルコールであることが好ましい。
上記脂肪族アルコールは、1価であっても、2価や多価であってもよいが、製造の容易さ・コスト面で有利である点で、1価アルコールが好ましい。
【0027】
上記脂肪族アルコールに付加されるアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド等が挙げられる。
なかでも、エチレンオキシド、及び、プロピレンオキシドからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、エチレンオキシド、及び、プロピレンオキシドの混合型がより好ましい。
上記脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造は、2種以上のアルキレンオキシドを含むことが好ましい。上記脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造は、炭素数6以上のアルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有し、2種以上のアルキレンオキシドのブロックポリマー構造を含むことが好ましい。
【0028】
上記脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造としては、例えば、一級アルコールエトキシレート、二級アルコールエトキシレート、三級アルコールエトキシレート、アセチレン系一級アルコールエトキシレート、アセチレン系一級ジアルコールエトキシレート、アセチレン系二級アルコールエトキシレート、アセチレン系二級ジアルコールエトキシレート、アセチレン系三級アルコールエトキシレート、アセチレン系三級ジアルコールエトキシレート等が挙げられる。
上記エトキシレートは、少なくともエチレンオキシド(EO)が付加されたものであり、エチレンオキシド(EO)と他のアルキレンオキシド(例えば、プロピレンオキシド(PO))が付加されたものも含む。
【0029】
上記脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造は、洗浄剤組成物中で分離しないで均一溶液を形成し得る点で、曇点が25℃以上であることが好ましく、曇点が40℃以上であることがより好ましい。上記曇点は、1%水溶液としたノニオン系界面活性剤を攪拌・温度監視しながら降温させ、目視で透明になる温度を観測する方法により求めることができる。
【0030】
上記ノニオン系界面活性剤としては、具体的には、例えば、ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドからなるブロックポリマー系、アセチレンポリアルキレンオキサイド系の界面活性剤等が挙げられる。なかでも、洗浄剤組成物による金属積層膜の腐食を抑制しうる点で、ポリアルキレンオキサイドアルキルエーテル系界面活性剤、ポリエチレンオキサイドとポリプロピレンオキサイドからなるブロックポリマー系界面活性剤が好ましい。
【0031】
上記ノニオン系界面活性剤は、下記一般式(1)又は(2)で表される化合物であることがより好ましい。
【0032】
【0033】
(式(1)中、R1、R2及びR3は、同一又は異なって、水素原子、又は、アルキル基を表す。R4及びR5は、同一又は異なって、アルキレン基を表す。x及びyは、同一又は異なって、0~50の整数を表す。(x+y)は1以上の整数である。
式(2)中、R6、R7、R8及びR9は、同一又は異なって、水素原子、又は、アルキル基を表す。R10、R11、R12、R13及びR14は、同一又は異なって、アルキレン基、又は、アルキニレン基を表す。x及びyは、同一又は異なって、0~50の整数を表す。(x+y)は1以上の整数である。)
【0034】
上記一般式(1)において、R1、R2及びR3で表されるアルキル基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
上記アルキル基の炭素数は、1~20であることが好ましく、1~18であることがより好ましく、1~16であることが更に好ましい。
上記アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、iso-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、ヘプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、2,2-ジメチルペンチル基、2,3-ジメチルペンチル基、2,4-ジメチルペンチル基、3-エチルペンチル基、2,2,3-トリメチルブチル基、オクチル基、メチルヘプチル基、ジメチルヘキシル基、2-エチルヘキシル基、3-エチルヘキシル基、トリメチルペンチル基、3-エチル-2-メチルペンチル基、2-エチル-3-メチルペンチル基、2,2,3,3-テトラメチルブチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等の直鎖状または分岐状のアルキル基等が挙げられる。
【0035】
上記一般式(1)において、分子構造がコンパクトになり高い浸透性が発現しうる点で、R1、R2及びR3のうち2つ以上の置換基がアルキル基であることが好ましい。
【0036】
上記一般式(1)において、R1、R2及びR3の炭素数の合計は、5~19であることが好ましく、7~17であることがより好ましく、9~15であることが更に好ましく、11~13であることが最も好ましい。
【0037】
上記一般式(1)において、R4及びR5で表されるアルキレン基は、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。
上記アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、2-プロピレン基、n-ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、ネオペンチレン基、ヘプタメチレン基、オクタメチレン基、ノナメチレン基、デカメチレン基、メチルメチレン基、メチルエチレン基、1-メチルペンチレン基、1,4-ジメチルブチレン基等が挙げられる。なかでも、炭素数2又は3のアルキレン基が好ましい。
【0038】
上記一般式(2)において、R6、R7、R8及びR9で表されるアルキル基としては、上述したR1、R2及びR3で表されるアルキル基と同様のものが挙げられる。
なかでも、分子構造がコンパクトになり高い浸透性が発現しうる点で、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、又は、iso-ブチル基が好ましい。
【0039】
上記一般式(2)において、R6、R7、R8及びR9の炭素数の合計は、界面活性剤の失水性と疎水性のバランスの観点から、5~20であることが好ましく、6~16であることがより好ましく、8~12であることが更に好ましい。
【0040】
上記一般式(2)において、R10、R11、R12、R13及びR14で表されるアルキレン基としては、上述したR4及びR5で表されるアルキレン基と同様のものが挙げられる。
R10、R11、R12、R13及びR14で表されるアルキニレン基としては、例えば、エチニレン基、プロピニレン基、ブチニレン基、ブタジイニレン基等が挙げられる。
なかでも、R10、R11、R12、R13としては、アルキレン基が好ましく、炭素数2又は3のアルキレン基が好ましい。
また、R14としては、アルキニレン基が好ましく、炭素数2又は3のアルキニレン基がより好ましい。
【0041】
上記一般式(1)及び(2)において、x及びyは、同一又は異なって、0~50の整数であることが好ましく、0~30の整数であることがより好ましく、0~24の整数であることが更に好ましく、0~16であることが最も好ましい。
xは、アルキレンオキシド(R4O)、(R10O)及び(R12O)の平均付加モル数を表し、yは、アルキレンオキシド(R5O)、(R11O)及び(R13O)の平均付加モル数を表す。x及びyは、いずれのアルキレンオキシドにおいて、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
上記一般式(1)において、xは、1~20の整数であることが好ましく、3~18の整数であることがより好ましく、5~16の整数であることが更に好ましい。
上記一般式(1)において、yは、0~20の整数であることが好ましく、0~15の整数であることがより好ましく、1~10の整数であることが更に好ましい。
上記一般式(2)において、xは、1~20の整数であることが好ましく、1~12の整数であることがより好ましく、2~8の整数であることが更に好ましい。
上記一般式(2)において、yは、0~20の整数であることが好ましく、0~8の整数であることがより好ましく、0~5の整数であることが更に好ましい。
【0042】
(x+y)は1以上の整数である。すなわち、xとyの少なくとも一方は1以上の整数である。
上記一般式(1)において、(x+y)は、1~50の整数であることが好ましく、3~30の整数であることがより好ましい。
上記一般式(2)において、(x+y)は、1~50の整数であることが好ましく、2~30の整数であることがより好ましい。
【0043】
上記一般式(1)において、-(R4O)x(R5O)yHは、ノニオン系界面活性剤の製造が容易で、かつ親水性と疎水性を制御できる点で、-(CH2CH2O)xH、-(CH2CH2O)x(CH2CH(CH3)O)yHであることが好ましく、-(CH2CH2O)x(CH2CH(CH3)O)yHであることがより好ましい。
【0044】
上記一般式(2)において、-(R10O)x(R11O)y-H、及び、-(R12O)x(R13O)y-Hとしては、製造が容易である点で、-(CH2CH2O)xH、-(CH2CH2O)x(CH2CH(CH3)O)yHであることが好ましく、-(CH2CH2O)xHであることがより好ましい。
【0045】
上記ノニオン系界面活性剤は、1種のみ使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0046】
上記ノニオン系界面活性剤(成分(A))の含有量は、CMP工程用後洗浄剤組成物100質量%に対して、0.005~3質量%であることが好ましく、0.01~1質量%であることがより好ましく、0.1~0.5質量%であることが更に好ましい。
【0047】
(B)有機酸化合物
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、有機酸化合物(以下、「成分(B)」とも称する。)を含むことが好ましい。有機酸化合物を更に含むことにより、有機酸化合物が汚染物質と基板の界面に形成された共有結合を切断し、汚染物を基板表面から除去できると考えられる。加えて、CMP工程後に現れた金属堆積膜表面に有機酸化合物が吸着することで、洗浄液中に共存する化学成分間の電気化学的相互作用を平衡状態とし、金属堆積膜を構成する金属種の腐食電位や腐食電流値を低減させることができると考えられる。
【0048】
上記有機酸化合物としては、カルボン酸化合物、アスコルビン酸、フェノール化合物、ホスホン酸、ボロン酸等が好ましく挙げられる。なかでも、工程後に有機酸化合物残渣を純水やアルコールのリンスで容易に除去でき、次工程への悪影響を極力小さくすることができる点で、カルボン酸化合物、アスコルビン酸が好ましく、カルボン酸化合物がより好ましい。
【0049】
上記カルボン酸化合物としては、カルボキシル基を有する有機酸化合物が挙げられ、例えば、酢酸、安息香酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、ヘプチル酸、オクタン酸、ラウリル酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸等のモノカルボン酸化合物;シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸、マレイン酸、グルコン酸、フマル酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、5-ノルボルネンジカルボン酸等のジカルボン酸化合物;クエン酸等のトリカルボン酸化合物;アスパラギン酸、グルタミン酸、グリシン、アラニン、フェニルアラニン、ロイシン、イソロイシン、システイン、メチオニン、チロシン、バリン、トレオニン、セリン、プロリン、トリプトファン、アスパラギン、グルタミン、リシン、アルギニン、ヒスチジン等のアミノ酸;エチレンジアミン四酢酸、プロピレンジアミン四酢酸等のアミノポリカルボン酸;等が挙げられる。また、これらの誘導体を含んでもよい。
【0050】
なかでも、上記カルボン酸化合物は、ジカルボン酸化合物、トリカルボン酸化合物、アミノポリカルボン酸であることが好ましく、クエン酸、シュウ酸、5-ノルボルネンジカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸であることがより好ましく、クエン酸、シュウ酸、5-ノルボルネンジカルボン酸、エチレンジアミン四酢酸であることが更に好ましい。
【0051】
上記有機酸化合物は、1種のみ用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0052】
上記有機酸化合物(成分(B))の含有量は、CMP工程用後洗浄剤組成物100質量%に対して、0.05~10質量%であることが好ましく、0.1~7質量%であることがより好ましく、0.5~4質量%であることが更に好ましい。
【0053】
(C)pH調整剤
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、pH調整剤(以下、成分(C)とも称する。)を含むことにより、水中において未酸化状態での化学種の安定性を向上させることができる。
本発明において使用するpH調整剤としては、所望のpHに調整することができる化合物であれば特に限定されず、公知の酸性化合物、又は、塩基性化合物が挙げられる。なかでも、水の分解による酸素の発生や金属成分の洗浄液への溶解に伴う水素の発生を抑制できる点で、上記pH調整剤は、塩基性pH調整剤であることが好ましい。CMP工程用後洗浄剤組成物を塩基性に調整することで、ウェハ表面の腐食抑制効果をより一層高めることができる。
【0054】
上記酸性化合物としては、例えば、硝酸、硫酸、塩酸、リン酸、ホウ酸等が挙げられる。
【0055】
上記塩基性化合物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン等のアルカノールアミンや、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等のアルキルアミンや、アニリン、トルイジン等の芳香族アミンや、ピロール、ピリジン、ピコリン、ルチジン等の含窒素複素環式化合物等の有機アミン;上述した有機アミンの塩(有機アミン塩);水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化トリメチル-2-ヒドロキシエチルアンモニウム(コリン)、水酸化トリエチル(ヒドロキシエチル)アンモニウム等の第4級アンモニウム塩;炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、カルバミン酸アンモニウム等のアンモニウム塩;アンモニア等が挙げられる。なかでも、水酸化物、有機アミン、有機アミン塩、アンモニウム塩が好ましく、水酸化物、アンモニウム塩がより好ましい。
【0056】
上記pH調整剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上併用してもよい。
【0057】
上記pH調整剤(成分(C))の含有量は、CMP工程用後洗浄剤組成物100質量%に対して、0.01~15質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましく、0.5~5質量%であることが更に好ましい。
【0058】
(D)酸化剤
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、更に、酸化剤を含んでもよいが、金属腐食を抑制する観点では、酸化剤を含まないことが好ましい。
上記酸化剤としては、例えば、過酸化水素、オゾン、硝酸、亜硝酸、過硫酸、重クロム酸、過マンガン酸、それらの塩等が挙げられる。なかでも、半導体分野で求められる高純度品の入手の容易性や廃棄の容易性の点で、過酸化水素が好ましい。
【0059】
上記酸化剤(成分(D))の含有量は、CMP工程用後洗浄剤組成物100質量%に対して、1.0質量%以下であることが好ましい。上記酸化剤の含有量は、金属膜の腐食原因となるおそれの観点から、CMP工程用後洗浄剤組成物100質量%に対して、0.5質量%以下であることがより好ましく、0.1質量%以下であることが更に好ましく、0.05質量%以下であることが更により好ましく、0.03質量%以下であることが特に好ましく、0質量%であることが最も好ましい。
【0060】
(E)他の成分
上記CMP工程用後洗浄剤組成物は、上述した成分(A)、(B)、(C)及び(D)以外に、必要に応じて他の成分(E)を含んでもよい。上記他の成分(E)としては、例えば、溶媒、キレート剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、腐食抑制剤等が挙げられる。これらの含有量は、適宜設定することができる。
【0061】
上記溶媒としては、例えば、水、N-メチル-2-ピロリジノンやN,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性有機溶剤、低級アルコール、芳香族アルコールやグリコール等のプロトン性有機溶剤等が挙げられる。なかでも、上記溶媒は、水を含むことが好ましい。上記溶媒は、水と、アルコール等の他の溶剤とを含む混合液等であってもよい。
【0062】
上記キレート剤としては、例えば、N,N,N’,N’-エチレンジアミンテトラキス( メチレンホスホン酸)、グリシン-N,N-ビス(メチレンホスホン酸)、 ニトリロトリス(メチレンホスホン酸)等のホスホン酸系キレート剤、メタンチオール、チオフェノール、グルタチオン等のチオール系キレート剤、トリフェニルホスフィン、1 , 2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン等が挙げられる。
【0063】
上記アニオン系界面活性剤としては、例えば、脂肪族モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、N-アシルサルコシン塩、N-アシルグルタミン酸塩のカルボン酸型アニオン系界面活性剤;ジアルキルスルホコハク酸塩、アルカンスルホン酸塩、アルファオレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩-ホルムアルデヒド縮合物、アルキルナフタレンスルホン酸塩、N-メチル-N-アシルタウリン塩等のスルホン酸型アニオン系界面活性剤;アルキル硫酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩、油脂硫酸エステル塩等の硫酸エステル型アニオン系界面活性剤;及び、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸塩のリン酸エステル型アニオン系界面活性剤が挙げられる。
【0064】
上記カチオン系界面活性剤としては、例えば、モノアルキルアミン塩、ジアルキルアミン塩、トリアルキルアミン塩等のアルキルアミン塩型カチオン系界面活性剤;及び、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムブロミド、ジアルキルジメチルアンモニウムアイオダイド、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルトリメチルアンモニウムアイオダイド、アルキルベンジルジメチルアンモニウムクロライド等の第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0065】
上記腐食抑制剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、3-アミノトリアゾール、トリアルキルアミン、アンモニア、尿酸、メラミン、ウレア及びチオウレア等の含窒素有機化合物、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール等の水溶性ポリマー、炭素数4以下のアルキルアルコール系化合物、クロム酸塩、モリブデン酸塩、タングステン酸塩、亜硝酸塩等の酸化被膜型防錆剤、重合リン酸塩、亜鉛塩、含硫黄有機化合物等の沈澱被膜型防錆剤、アルカノールアミン、アルキレンアミンエチレンオキシド付加物、アルキルリン酸エステル塩、各種界面活性剤等の吸着被膜型防錆剤等が挙げられ、なかでも、含窒素有機化合物が好ましく、アゾール系化合物がより好ましく、ジアゾール系化合物、イミダゾール系化合物、トリアゾール系化合物、テトラゾール系化合物、チアゾール系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、及びそれらの誘導体が更に好ましい。
上記腐食抑制剤は、1種のみ用いてもよいし、2種以上併用してもよい。なかでも、上記腐食抑制剤は、ベンゾトリアゾール系化合物が好ましく、ベンゾトリアゾールが特に好ましい。
【0066】
上記CMP工程用後洗浄剤組成物は、25℃におけるpH(水素イオン濃度)が7.5以上の水溶液であることが好ましい。上記CMP工程用後洗浄剤組成物のpHが上述の範囲であると、金属膜の腐食化を抑制することができる。
上記CMP工程用後洗浄剤組成物のpH(25℃)は、8.0以上であることがより好ましく、8.5以上であることが更に好ましい。
上記CMP工程用後洗浄剤組成物のpHの調整は、上述したpH調整剤の含有量を適宜調整することにより、行うことができる。
上記pHは、pHメータ(例えば、F71S、堀場製作所製)を用いて求めることができる。
【0067】
<調製方法>
上記CMP工程用後洗浄剤組成物は、上述した成分(A)、成分(B)、成分(C)、及び、必要に応じて成分(D)や成分(E)を混合することにより調製することができる。上記混合は、特に限定されず、公知の混合手段により行うことができる。
【0068】
<使用方法>
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、半導体製造プロセスにおけるCMP工程後洗浄の工程において使用されるものである。より具体的には、本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、半導体製造プロセスにおけるCMP工程後の半導体基板(ウェハ)を洗浄する工程において使用されることが好ましい。
【0069】
上記半導体基板の材料としては、例えば、シリコン、炭化シリコン、窒化シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム、ガリウムリン、インジウムリン等が挙げられる。
【0070】
また、上記半導体基板は、金属配線がなされていてもよく、上記金属配線としては、例えば、銅配線、タングステン配線、アルミニウム配線、又は、これらの金属と他の金属との合金配線等が挙げられる。上記他の金属としては、タングステン(W)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、クロム(Cr)等の金属が挙げられる。
【0071】
上記半導体基板は、バリアメタル層を含んでいてもよい。例えば、上記半導体基板が銅配線を含む場合、銅(Cu)の拡散防止のためにバリアメタル層が形成される。上記バリアメタル層としては、タンタル(Ta)、コバルト(Co)、チタン(Ti)、ルテニウム(Ru)、及び、これらの金属を含む化合物からなる層が挙げられる。
【0072】
上記半導体基板は、防食処理されたものであってもよい。防食処理としては、半導体基板の表面を防食剤で処理する方法等が挙げられる。上記防食剤としては、特に限定されず、公知の防食剤を使用できるが、なかでも防食効果が高い点で、アゾール系防食剤が好適に用いられる。上記アゾール系防食剤としては、アゾール系、トリアゾール系、テトラゾール系、オキサゾール系、イソオキサゾール系、オキサジアゾール系、チアゾール系、イソチアゾール系、チアジアゾール系等が挙げられる。上記処理方法としては、特に限定されず、上記半導体基板の表面に防食剤を塗布して加熱する方法等の公知の方法が挙げられる。上記処理により、上記半導体基板の表面に保護膜が形成される。
【0073】
上記半導体基板は、絶縁膜を含んでいてもよい。上記絶縁膜としては、例えば、p-TEOS熱酸化膜、窒化シリコン(SiN)、窒化炭化シリコン(SiCN)、低誘電率膜Low-k(SiOC、SiC)、コバルトシリサイド(CoSi2)等が挙げられる。
【0074】
CMP工程後の半導体基板の表面には、上述した金属配線や保護膜、絶縁膜の研磨屑が残留している。
【0075】
更に、CMP工程後の半導体基板表面には、CMP工程において使用される化学研磨剤が残留している場合がある。上記化学研磨剤は、砥粒のスラリーであり、砥粒には、CeO2、Fe2O3、SnO2、MnO、SiO2等の金属酸化物が使用される。従って、CMP工程後の半導体基板の表面には、これらの金属酸化物の残留物が存在する場合がある。
また、上記半導体基板表面には、研磨屑やスラリー中の金属と防食剤とが反応した有機金属錯体等の有機残渣が残留する場合もある。
【0076】
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、上述した金属残渣や有機残渣が存在するCMP工程後の半導体基板の表面の洗浄に好適に用いることができる。本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物を用いてこのような残渣が存在する半導体基板の表面を洗浄することにより、上記残渣を好適に除去することができる。また、上記残渣が半導体基板の表面に再付着するのを抑制することができる。更に、半導体基板の表面が腐食するのを抑制することができる。
【0077】
特に、セリアを研磨砥粒として用いたCMP工程を行ったウェハ表面では、Si-O-Ce結合が形成され、その結果、セリア(CeO2)粒子が残留し易くなるといった問題があった。そのため、過酸化水素水等の取り扱いに注意を要する成分を使用して酸化させることにより、セリア粒子の残留を抑制する方法が用いられていた。しかしながら、本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物を用いると、過酸化水素を含まなくても、セリア粒子を良好に除去することができる。このように、上記CMP工程用後洗浄剤組成物は、セリアを研磨砥粒として用いるCMP工程用後洗浄剤組成物であることが好ましい。
【0078】
また、本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物は、半導体製造プロセスにおいて、酸化ケイ素及び/又は窒化ケイ素を含む膜表面の洗浄に用いることが好ましい。上記CMP工程用後洗浄剤組成物は、特に、酸化ケイ素及び/又は窒化ケイ素を含む膜表面(基板表面)の洗浄に使用される場合に、上述した残渣の除去や再付着の防止をより一層好適に行うことができる。更に、半導体基板の表面が腐食するのを抑制することができる。
【0079】
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物を用いてCMP工程後の基板表面を洗浄する方法としては、特に限定されず、公知の方法で行えばよく、例えば、CMP工程後の基板(ウェハ)をCMP工程用後洗浄剤組成物に浸漬して洗浄する方法や、スピン式やスプレー式、更には超音波洗浄で洗浄する方法等が挙げられる。また複数の基板を一度に処理するバッチ式であってもよいし、基板を一枚ずつ処理する方法であってもよい。
【0080】
本発明のCMP工程用後洗浄剤組成物を用いて基板表面を洗浄する方法において、洗浄時間は特に限定されず、通常の方法であればよいが、効率性の観点から、例えば、10~300秒、好ましくは15~250秒である。上記洗浄時間とは、上記CMP工程用後洗浄剤組成物と基板表面との接触時間を意味する。
また、上記洗浄を行う場合の温度としては、特に限定されず、例えば、5~80℃が挙げられ、好ましくは10~70℃、より好ましくは10~65℃が挙げられる。雰囲気としては、洗浄剤組成物中の溶存酸素を低減させる点で、窒素ガス、アルゴンガス等の流通による不活性雰囲気下とすることが好ましい。
【実施例0081】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0082】
実施例1~6、比較例1~3
<洗浄剤組成物の調製>
表1に示すような、洗浄剤組成物100質量%における各成分の質量%となるように、水に、ノニオン系界面活性剤、有機酸化合物、酸化剤、pH調整剤を混合した後、pHが12(25℃)となるように水酸化カリウムを添加して、実施例及び比較例の洗浄剤組成物を調製した。
【0083】
【0084】
なお、表1中の化合物は、具体的には下記のとおりである。
ノニオン系界面活性剤A:
【0085】
【化2】
(式中、R
1=H、R
2及びR
3はいずれも炭素数1~12の直鎖アルキル基であり、R
2とR
3の炭素数の合計が11~13、R
4=-C
2H
4-、R
5=-CH
2CH(CH
3)-、x=12、y=3、xとyは平均付加モル数を表す。)を満たす複数の化合物の混合物。
ノニオン系界面活性剤B:
【0086】
【化3】
(式中、nはエチレンオキサイドの平均付加モル数を表し、n=9.5。)
【0087】
EDTA:エチレンジアミン四酢酸
【0088】
得られた実施例及び比較例の洗浄剤組成物について、下記の洗浄性能評価を行った。
<洗浄性能評価>
(調製例1)正帯電型セリアナノ粒子分散液A-1の調製
平均粒径90nmのコロイダルセリア(製品名HC90、ソルベイ社製)を0.05質量%の濃度で超純水中に分散させながら、プロリン(シグマアルドリッチ社製)を0.025質量%の濃度になるように添加して攪拌し、最後に硝酸でpH=4.0に調整することで正帯電型セリアナノ粒子分散液A-1を得た。
【0089】
(調製例2)正帯電型セリアナノ粒子分散液A-2の調製
平均粒径30nmのコロイダルセリア(製品名HC30、ソルベイ社製)を0.05質量%の濃度で超純水中に分散させながら、プロリン(シグマアルドリッチ社製)を0.025質量%の濃度になるように添加して攪拌し、最後に硝酸でpH=4.0に調整することで正帯電型セリアナノ粒子分散液A-2を得た。
【0090】
(調製例3)負帯電型セリアナノ粒子分散液B-1の調製
平均粒径90nmのコロイダルセリア(製品名HC90、ソルベイ社製)を0.05質量%の濃度で超純水中に分散させながら、クエン酸(シグマアルドリッチ社製)を0.025質量%の濃度になるように添加して攪拌し、最後に硝酸でpH=5.0に調整することで負帯電型セリアナノ粒子分散液B-1を得た。
【0091】
(調製例4)負帯電型セリアナノ粒子分散液B-2の調製
平均粒径30nmのコロイダルセリア(製品名HC30、ソルベイ社製)を0.05質量%の濃度で超純水中に分散させながら、クエン酸(シグマアルドリッチ社製)を0.025質量%の濃度になるように添加して攪拌し、最後に硝酸でpH=5.0に調整することで負帯電型セリアナノ粒子分散液B-2を得た。
【0092】
(調製例5)洗浄性能評価用SiO2基板の作製
シリコンウエハ上にSiO2を約10~50nmの厚みで堆積させた1cm四方の試験片を準備し、100mLの上記正帯電型セリアナノ粒子分散液A-1又はA-2をビーカー中に入れて、磁気回転子で300rpmにて攪拌しながら、試験片を1分間浸漬した。取り出した試験片を純水ですすぎ洗いして室温乾燥して、洗浄性能評価基板A-1、A-2とした。基板の表面状態は原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した。使用機器はXE-300P(Park Systems社製)で、PPP-NCHR AFMプローブを用いて非接触モード(観察条件:スキャンレート0.5Hz、観察エリア5μm×5μm)とした。
【0093】
(調製例6)洗浄性能評価用SiN基板の作製
シリコンウエハ上にSiNを約10~50nmの厚みで堆積させた1cm四方の試験片を準備し、100mLの上記負帯電型セリアナノ粒子分散液B-1又はB-2をビーカー中に入れて、磁気回転子で300rpmにて攪拌しながら、試験片を1分間浸漬した。取り出した試験片を純水ですすぎ洗いして室温乾燥して、洗浄性能評価基板B-1、B-2とした。基板の表面状態は原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察した。使用機器はXE-300P(Park Systems社製)で、PPP-NCHR AFMプローブを用いて非接触モード(観察条件:スキャンレート0.5Hz、観察エリア5μm×5μm)とした。
【0094】
(洗浄処理)
上記実施例又は比較例の洗浄剤組成物100mLをビーカー中に秤量し、上記洗浄性能評価基板を洗浄剤組成物中に浸漬して、超音波洗浄装置(8895、Cole-Parmer社製)を用いて、1分間の超音波照射(処理条件:出力115W、40KHz、ビーカー内温度:25℃)による洗浄処理を行った。超音波照射後、取り出した洗浄性能評価基板を純水ですすぎ洗いして、上記と同様の方法で洗浄性能評価基板の表面状態を観察した。
【0095】
図1に、実施例1~2と、比較例1~2の洗浄剤組成物を用いて、洗浄性能評価用SiO
2基板(評価基板A-1、A-2)を洗浄処理した場合と、未洗浄の場合の、上記基板の表面状態を表すAFM画像を示す。これらの洗浄剤組成物は、過酸化水素を含まない。
未洗浄の洗浄性能評価基板の表面状態からは、90nmのコロイダルセリア(セリアナノ粒子分散液A-1)で汚染された場合は、白色の異物が確認され、30nmのコロイダルセリア(セリアナノ粒子分散液A-2)で汚染された場合では異物のサイズが細かくなり、且つ密度が増していることが分かり、粒径の細かいコロイダルセリアほど吸着しやすいことがうかがえる。
成分(A)、(B)、(C)の3種類を全て含有する実施例1~2の洗浄剤組成物を用いて洗浄処理を行った場合では、コロイダルセリアの粒径が30nmの細かい場合であってもきれいに除去できることが確認できた。成分(A)、(B)、(C)の1つ以上が欠けた比較例1~2の洗浄剤組成物を用いた場合では、コロイダルセリアの粒径が90nmの場合でも洗浄残渣が確認された。
【0096】
図2に、実施例3~5、比較例3の洗浄剤組成物を用いて、洗浄性能評価用SiO
2基板(評価基板A-1、A-2)を洗浄処理した場合の、上記基板の表面状態を表すAFM画像を示す。これらの洗浄剤組成物は、過酸化水素を含む。実施例3~5の洗浄剤組成物を使用した場合は、良好な洗浄性能が確認され、コロイダルセリアの粒径が30nmの細かい場合であってもきれいに除去でき、優れた洗浄性能を有することが確認された。
一方、ノニオン系界面活性剤Bを含む比較例3の洗浄剤組成物を使用した場合は、コロイダルセリアの粒径が90nmの場合でも洗浄残渣が確認された。
【0097】
図3に、実施例1、3、6の洗浄剤組成物を用いて、洗浄性能評価用SiN基板(評価基板B-1、B-2)を洗浄処理した場合と、未洗浄の場合の、上記基板の表面状態を表すAFM画像を示す。
実施例の洗浄剤組成物は、未洗浄基板と比較して、コロイダルセリアの粒径が90nmの場合であっても、コロイダルセリアの粒径が30nmの場合であっても、共に優れた洗浄性能を有することが確認された。
【0098】
以上より、成分(A)脂肪族アルコールのアルキレンオキシド付加体構造を有するノニオン系界面活性剤、(B)有機酸化合物、及び、(C)pH調整剤を含有する洗浄剤組成物の高い洗浄性能が示された。過酸化水素などの酸化剤を含有する洗浄剤組成物も優れた洗浄性能を示すが、性能水準は含有しないものと同等であった。酸化剤の使用は、金属部品の腐食や人体への健康被害が懸念されることから、含有する必要はないと判断できた。