(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099959
(43)【公開日】2023-07-14
(54)【発明の名称】歯車装置及びセンサ設置部材
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20230707BHJP
G01L 1/22 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
F16H1/32 A
G01L1/22 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022000264
(22)【出願日】2022-01-04
(71)【出願人】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 修
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 由久
【テーマコード(参考)】
2F049
3J027
【Fターム(参考)】
2F049AA11
2F049BA13
2F049CA01
3J027FA43
3J027GB03
3J027GC03
3J027GC13
3J027GC22
3J027GD04
3J027GD08
3J027GD12
3J027GE11
(57)【要約】
【課題】センサの検出値のバラツキを抑制する技術を提供する。
【解決手段】内歯歯車28Aと、内歯歯車28Aと噛み合う外歯歯車と、を備える歯車装置であって、内歯歯車は、内周に内歯が設けられた内歯リング部40と、内歯リング部40の径方向外側に設けられた外側リング部42と、内歯リング部と外側リング部42との間に設けられ、内歯リング部40よりも変形しやすい構成とされた変形容易部44と、を備え、変形容易部44には歪みセンサ50が設置され、変形容易部44は、変形容易部44が単一な素材により径方向に向かって均一な軸方向厚みで形成されている場合に比べて、歪みの径方向分布のバラツキ範囲が小さくなるように構成されている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内歯歯車と、
前記内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、を備える歯車装置であって、
前記内歯歯車は、
内周に内歯が設けられた内歯リング部と、
前記内歯リング部の径方向外側に設けられた外側リング部と、
前記内歯リング部と前記外側リング部との間に設けられ、前記内歯リング部よりも変形しやすい構成とされた変形容易部と、を備え、
前記変形容易部には歪みセンサが設置され、
前記変形容易部は、前記変形容易部が単一な素材により径方向に向かって均一な軸方向厚みで形成されている場合に比べて、歪みの径方向分布のバラツキ範囲が小さくなるように構成されている歯車装置。
【請求項2】
前記変形容易部は、径方向に向かって軸方向厚みを変化させている請求項1に記載の歯車装置。
【請求項3】
前記変形容易部は、径方向内側から径方向外側に向けて、軸方向厚みを徐々に減少させている請求項2に記載の歯車装置。
【請求項4】
前記変形容易部は、前記歪みセンサを設置する設置面において軸方向に対して垂直となり、前記設置面とは軸方向反対側にある反対面において前記軸方向に対して傾斜している請求項3に記載の歯車装置。
【請求項5】
前記変形容易部は、リング状をなす請求項1から4のいずれかに記載の歯車装置。
【請求項6】
前記変形容易部上に設けられ前記歪みセンサを埋める保護材を備える請求項5に記載の歯車装置。
【請求項7】
前記内歯歯車は、前記変形容易部に設けられ軸方向に凹む凹部を備え、
前記保護材は、前記凹部内に設けられる請求項6に記載の歯車装置。
【請求項8】
前記変形容易部は、周方向に間隔を空けて設けられる複数の柱部である請求項1から4のいずれか1項に記載の歯車装置。
【請求項9】
所定の状態量を検出するセンサが設置されるセンサ設置部を有するセンサ設置部材であって、
前記センサ設置部は、単一な素材により特定方向と直交する方向の寸法が前記特定方向に向かって均一に形成されている場合と比べ、前記状態量の前記特定方向での分布のバラツキ範囲が小さくなるように構成され、
前記センサ設置部は、前記センサの大きさよりも範囲の広いセンサ設置領域を有し、前記センサ設置領域における前記特定方向の任意の位置に前記センサを設置可能に構成されるセンサ設置部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、歯車装置及びセンサ設置部材に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、内歯歯車と、内歯歯車の外周面に設置した歪みゲージとを備える歯車装置を開示する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、特許文献1の開示技術に関して検討を進めた結果、次の新たな認識を得るに至った。センサとなる歪みゲージの設置位置によってはセンサの検出値にバラツキが生じる。これは、センサとして歪みゲージ等の歪みセンサを用いる場合に限らず、状態量を検出するセンサをセンサ設置部材に設置するうえで共通する問題である。
【0005】
本開示の目的の1つは、センサの検出値のバラツキを抑制する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の歯車装置は、内歯歯車と、前記内歯歯車と噛み合う外歯歯車と、を備える歯車装置であって、前記内歯歯車は、内周に内歯が設けられた内歯リング部と、前記内歯リング部の径方向外側に設けられた外側リング部と、前記内歯リング部と前記外側リング部との間に設けられ、前記内歯リング部よりも変形しやすい構成とされた変形容易部と、を備え、前記変形容易部には歪みセンサが設置され、前記変形容易部は、前記変形容易部が単一な素材により径方向に向かって均一な軸方向厚みで形成されている場合に比べて、歪みの径方向分布のバラツキ範囲が小さくなるように構成されている。
【0007】
本開示のセンサ設置部材は、所定の状態量を検出するセンサが設置されるセンサ設置部を有するセンサ設置部材であって、前記センサ設置部は、単一な素材により特定方向に向かって前記特定方向と直交する方向の寸法が均一に形成されている場合と比べ、前記状態量の前記特定方向での分布のバラツキ範囲が小さくなるように構成され、前記センサ設置部は、前記センサの大きさよりも範囲の広いセンサ設置領域を有し、前記センサ設置領域における前記特定方向の任意の位置に前記センサを設置可能に構成される。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、センサの検出値のバラツキを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】第1実施形態の歯車装置の側面断面図である。
【
図2】第1実施形態の第1内歯歯車の正面図である。
【
図4】(a)は、
図3と同じ視点から見た基準条件にある変形容易部の模式的な断面形状、(b)は、その曲げモーメントMの径方向分布、(c)は、その軸方向厚みhの二乗の径方向分布、(d)は、その応力σの径方向分布、(e)は、そのヤング率Eの径方向分布、(f)は、その歪みεの径方向分布を示す図である。
【
図5】(a)は、
図3と同じ視点から見た第1実施形態の変形容易部の断面形状、(b)は、その曲げモーメントMの径方向分布、(c)は、その軸方向厚みhの二乗の径方向分布、(d)は、その応力σの径方向分布、(e)は、そのヤング率Eの径方向分布、(f)は、その歪みεの径方向分布を模式的に示す図である。
【
図6】(a)は、
図3と同じ視点から見た第2実施形態の変形容易部断面形状、(b)は、その曲げモーメントMの径方向分布、(c)は、その軸方向厚みhの二乗の径方向分布、(d)は、その応力σの径方向分布、(e)は、そのヤング率Eの径方向分布、(f)は、その歪みεの径方向分布を模式的に示す図である。
【
図7】(a)は、
図3と同じ視点から見た第3実施形態の変形容易部の断面形状、(b)は、その曲げモーメントMの径方向分布、(c)は、その軸方向厚みhの二乗の径方向分布、(d)は、その応力σの径方向分布、(e)は、そのヤング率Eの径方向分布、(f)は、その歪みεの径方向分布を模式的に示す図である。
【
図8】第4実施形態の第1内歯歯車を
図2と同じ視点から見た図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態を説明する。同一の構成要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。各図面では、説明の便宜のため、適宜、構成要素を省略、拡大、縮小する。図面は符号の向きに合わせて見るものとする。
【0011】
(第1実施形態)
図1を参照する。歯車装置10は、入力軸12と、入力軸12の回転を伝達する歯車機構14と、歯車機構14から出力回転を取り出したうえで被動機械に出力する出力部材16と、歯車機構14を収容するケーシング18と、を備える。この他に、本実施形態の歯車装置10は、入力軸12となる起振体軸20と、歯車機構14の外歯歯車26(後述する)に対して軸方向に配置されるカバー22A、22Bと、を備える。カバー22A、22Bは、外歯歯車26に対して軸方向一側(
図1中右側、ここでは反負荷側)に配置される第1カバー22Aと、外歯歯車26に対して軸方向他側(
図1中左側、ここでは負荷側)に配置される第2カバー22Bとを含む。被動機械の具体例は特に限定されないものの、例えば、コンベア、車輪、工作機械、ロボット装置等である。
【0012】
歯車装置10は、撓み噛み合い型歯車装置である。この歯車装置に用いられる歯車機構14は、撓み歯車となる外歯歯車26と、外歯歯車26と噛み合う噛合歯車となる内歯歯車28A、28Bとを備える。この歯車機構14は、起振体軸20の起振体30(後述する)によって撓み歯車(外歯歯車26)を撓み変形させることで外歯歯車26及び内歯歯車28A、28Bの一方を自転させ、その自転成分を出力回転として出力部材16から取り出し可能である。本実施形態では出力部材16となる第2カバー22Bとともに外歯歯車26を自転させることができる例を示す。本実施形態の歯車機構14は、ケーシング18に対する相対回転が拘束された第1内歯歯車28Aと、ケーシング18に対して相対回転可能な第2内歯歯車28Bとを用いた、筒型の撓み噛み合い型歯車機構である。
【0013】
起振体軸20は、駆動源(不図示)から伝達される回転動力によって回転可能である。駆動源は、例えば、モータ、ギヤモータ、エンジン等である。
【0014】
起振体軸20は、外歯歯車26(撓み歯車)を撓み変形させる起振体30を備える。起振体30は、自身の回転により撓み歯車を撓み変形させることができる程度の剛性を持つ。起振体30の外周形状は、起振体軸20の軸方向に直交する断面において楕円状をなす。本明細書での「楕円」とは、幾何学的に厳密な楕円に限定されず、略楕円も含まれる。
【0015】
撓み歯車となる外歯歯車26は、可撓性を持つ筒状部材である。撓み歯車となる外歯歯車26は、起振体軸受32を介して起振体30に相対回転自在に支持される。
【0016】
噛合歯車となる内歯歯車28A、28Bは、起振体30の回転に追従して変形しない程度の剛性を持つ。第1内歯歯車28Aは、外歯歯車26の外歯数(例えば、100)とは異なる内歯数(例えば、102)を持ち、第2内歯歯車28Bは、外歯歯車26の外歯数と同数の内歯数を持つ。
【0017】
本実施形態のケーシング18は、第1内歯歯車28Aを兼ねる第1ケーシング部材34Aと、第2内歯歯車28Bに対して径方向外側に配置される第2ケーシング部材34Bと、第1ケーシング部材34Aを挟んで第2ケーシング部材34Bとは反対側に配置される第3ケーシング部材34Cとを備える。各ケーシング部材34A、34B、34CはボルトBによって互いに一体化される。ケーシング18は、歯車装置10の外部の被固定部材(不図示)に固定される。ケーシング18の第2ケーシング部材34Bと第2内歯歯車28Bとの間には両者の相対回転を許容する主軸受36が配置される。
【0018】
第1カバー22Aは、ボルト、圧入等を用いてケーシング18と連結されることで、ケーシング18と一体化される。第2カバー22Bは、ボルト、圧入等を用いて第2内歯歯車28Bと連結されることで、第2内歯歯車28Bと一体化される。
【0019】
以上の歯車装置10の動作を説明する。駆動源によって入力軸12が回転すると歯車機構14が作動する。歯車機構14が作動すると、入力軸12の回転に対して変速(本実施形態では減速)された出力回転が、歯車機構14から出力部材16を通して取り出される。
【0020】
本実施形態では、起振体軸20の起振体30が回転すると、起振体30の形状に合わせた楕円状をなすように外歯歯車26が撓み変形させられる。このように外歯歯車26が撓み変形すると、外歯歯車26と内歯歯車28A、28Bの噛合位置が起振体30の回転方向に変化する。このとき、異なる歯数を持つ外歯歯車26と第1内歯歯車28Aの噛合位置が一周する毎に、これらの噛み合う歯が周方向にずれていく。この結果、これらのうちの一方(本実施形態では外歯歯車26)が自転し、その自転成分が出力回転として出力部材16から取り出される。本実施形態において、外歯歯車26と第2内歯歯車28Bは、互いに同じ歯数を持つため同期し、外歯歯車26の自転成分は、外歯歯車26と同期する第2内歯歯車28Bを通して、出力部材16としての第2カバー22Bから取り出される。
【0021】
図2、
図3を参照する。
図2では後述する保護材62を省略する。以下、第1内歯歯車28Aの軸心CL1に沿った方向を軸方向Xとし、その軸心CL1と同心の円の半径方向及び円周方向を、単に径方向及び周方向という。
【0022】
第1内歯歯車28Aは、内歯リング部40と、内歯リング部40の径方向外側に設けられた外側リング部42と、内歯リング部40と外側リング部42との間に設けられる変形容易部44と、を備える。
【0023】
内歯リング部40は、リング状をなし、その内周に外歯歯車26と噛み合う内歯46が設けられる。
【0024】
外側リング部42は、リング状をなし、歯車装置10の外部の被固定部材に一体化される。本実施形態の外側リング部42は、ケーシング18を構成する他のケーシング部材33B、34CにボルトBを用いて連結され、そのケーシング部材34B、34Cを介して被固定部材に一体化される(
図1参照)。この他にも、外側リング部42は、被固定部材に直接的に一体化されてもよいし、他部材(例えば、第1カバー22A)を介して被固定部材に一体化されてもよい。本実施形態の外側リング部42には、ケーシング部材34B、34Cに連結するボルトBを通すための貫通穴48が周方向に間隔を空けて形成される。
【0025】
変形容易部44は、内歯リング部40の外周に繋がるとともに外側リング部42の内周に繋がる。変形容易部44は、被固定部材に外側リング部42が一体化された状態のまま、外歯歯車26との噛み合いに起因して内歯リング部40にトルクが付与された場合に、内歯リング部40よりも周方向に変形しやすい構成とされている。変形容易部44は、このような場合に、内歯リング部40よりも周方向での変形量が大きくなるともいえる。本実施形態の変形容易部44は、外側リング部42に対して軸方向厚みを小さくしているが、外側リング部42の軸方向厚み以上の軸方向厚みであってもよい。この他にも、本実施形態の変形容易部44は、内歯リング部40に対して軸方向厚みを小さくしているが、内歯リング部40の軸方向厚み以上の軸方向厚みであってもよい。本実施形態の変形容易部44は、リング状をなす。本実施形態の変形容易部44は、軸方向Xに貫通する穴部を形成することなく周方向の全周に亘り連続するリング状をなす。
【0026】
第1内歯歯車28Aの変形容易部44には変形容易部44の歪み(本実施形態においては、周方向の歪みと径方向の歪みが合成された歪み)を検出するための歪みセンサ50が設置される。本実施形態の歪みセンサ50は歪みゲージである。この他にも歪みセンサ50は、例えば、ピエゾ素子等であってもよい。歪みセンサ50は、前述のように変形容易部44が周方向に変形することで歪んだときに、その歪み量を検出可能である。本実施形態の歪みセンサ50は、周方向に等角度間隔を空けた位置において変形容易部44に設置される。なお、歪みセンサ50の個数や周方向での配置間隔は、特に限定されない。
【0027】
歪みセンサ50によって検出される歪みは、例えば、第1内歯歯車28Aの内歯リング部40に付与されるトルクの算出に用いられる。詳しくは、歪みセンサ50は、トルクを算出するための演算装置(不図示)に電気的に接続される。演算装置は、マイクロコンピュータ等のCPU、ROM、RAMの組み合わせである。歪みセンサ50は、歪み量を示す信号を取得すると、その取得した信号を演算装置に出力する。歪みセンサ50によって検出した歪みと第1内歯歯車28Aに付与されるトルクとの間には相関関係がある。演算装置は、歪みとトルクの相関関係を規定する関係式又は関係テーブルを参照することで、検出した歪みからトルクを算出することができる。
【0028】
歪みゲージである歪みセンサ50は、所定の結線方式(1ゲージ法、2ゲージ法、4ゲージ法等)に従ってブリッジ回路(不図示)を構成するように結線される。ここでは四つの歪みゲージを用いた4ゲージ法の結線方式を例示する。この結線方式は、この他にも、一つの歪みゲージを用いた1ゲージ法、二つの歪みゲージを用いた2ゲージ法等のいずれを用いてもよい。歪みセンサ50に作用する歪みは、ブリッジ回路を介して歪み量を示す電圧信号として演算装置に出力される。
【0029】
図4(a)~
図4(f)を参照する。第1内歯歯車28Aの変形容易部44が単一な素材により径方向に向かって均一な軸方向厚みh[mm](以下、単に厚みhともいう)で形成されている場合を基準条件という。変形容易部44は、基準条件にあるとき、単一な素材により形成されることで、径方向に向かって均一なヤング率E[MPa]になる。
【0030】
第1内歯歯車28Aの変形容易部44が基準条件にあるとき、次に説明する歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεを判断するにあたり、変形容易部44の素材及び厚みの他の条件は、比較元の条件と共通となる。例えば、基準条件と比較元の条件との間で第1内歯歯車28Aの内歯リング部40及び外側リング部42の構造は共通である。また、基準条件と比較元の条件との間で内歯リング部40に付与されるトルクの大きさの他に、被固定部材に対する外側リング部42の一体化の仕方も共通である。また、基準条件と比較元の条件との間で、変形容易部44の厚みh以外の形状、つまり、変形容易部44の軸方向から見た形状は共通となる。例えば、本実施形態のように変形容易部44がリング状をなす場合、基準条件の構造と比較元の構造とのいずれにおいても、変形容易部44は軸方向から見て共通の形状を持つリング状をなす。また、後述の実施形態のように変形容易部44が複数の柱部70(
図8参照)である場合、基準条件の構造と比較元の構造とのいずれにおいても、変形容易部44を構成する複数の柱部70は、軸方向から見て、共通の形状を持つ。
【0031】
第1内歯歯車28Aと外歯歯車26との噛み合いにより、第1内歯歯車28Aの内歯リング部40にトルクが付与されると、第1内歯歯車28Aの変形容易部44には曲げモーメントM[Nm]が作用する。この曲げモーメントMは、第1内歯歯車28Aの径方向内側から径方向外側に向かって連続的に減少する径方向分布となる(
図4(b)参照)。この一例として、曲げモーメントMは、第1内歯歯車28Aの軸心CL1からの距離rに対して負の傾きを持って比例する径方向分布となる。
【0032】
距離rの位置において径方向に直交する断面での第1内歯歯車28Aの変形容易部44の軸方向側面(後述の設置面52)での応力σ(曲げ応力)[N/m
2]と、その断面での断面係数Z[m
3]とを想定する。一般に、応力σは、曲げモーメントMと断面係数Zとに依存しており、曲げモーメントMが減少すると減少し、断面係数Zが減少すると増加する。この一例として、応力σは、曲げモーメントMと断面係数Zの逆数との積に対して正の傾きを持って比例する値となる。仮に、基準条件にある場合に、径方向に直交する断面での径方向及び軸方向に直交する方向での幅が一定であるとする。このとき、径方向に直交する断面での断面係数Zの径方向分布が均一となるため、応力σは、曲げモーメントMの径方向分布と同様に、径方向内側から径方向外側に向かって連続的に減少する径方向分布となる(
図4(d)参照)。ここでは、応力σは、曲げモーメントMと同様、距離rに対して負の傾きを持って比例する径方向分布となる例を示す。
【0033】
また、曲げモーメントMが作用したときの、距離rの位置において径方向に直交する断面での変形容易部44の軸方向側面での歪みε[―]と、その断面でのヤング率E[Mpa]とを想定する。一般に、歪みεは、応力σとヤング率Eとに依存しており、応力σが減少すると減少し、ヤング率Eが減少すると増加する。この一例として、歪みεは、応力σとヤング率Eの逆数との積に対して正の傾きを持って比例する値となる。仮に、基準条件にある場合に、径方向に直交する断面での径方向及び軸方向に直交する方向での幅が一定であるとする。このとき、径方向に直交する断面でのヤング率Eの径方向分布が均一となるため、歪みεは、応力σの径方向分布と同様、径方向内側から径方向外側に向かって連続的に減少する径方向分布となる(
図4(f)参照)。ここでは、歪みεは、曲げモーメントMと同様、距離rに対して負の傾きを持って比例する径方向分布となる例を示す。
【0034】
この結果、基準条件にあるとき、径方向外側に向かうに連れて曲げモーメントMが減少すると、歪みεは、その曲げモーメントMの減少分だけ減少し、その減少分だけ歪みεのバラツキ範囲Δεが大きくなる。ここでの径方向分布のバラツキ範囲(ここではΔε)とは、言及している対象の径方向での最大値と最小値との差分値をいう。ここでは、距離r0の位置にある変形容易部44の内周端部において歪みεが最大値となり、距離r1の位置にある変形容易部44の外周端部において歪みεが最小値となる例を示す。以下、基準条件にある構造のバラツキ範囲には末尾に0(例えば、Δε0)を付し、実施形態の構造のバラツキ範囲には末尾に1(例えば、Δε1)を付す。また、ここでのバラツキとは、測定値の誤差に関するバラツキではなく、センサ(ここでは歪みセンサ50)によって測定される状態量(ここでは歪み)の分布に関するバラツキをいう。歪みセンサ50の設置位置が径方向に変化したとき、この歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεの分だけ、その検出値にバラツキが生じる。本実施形態の第1内歯歯車28Aの変形容易部44は、次に説明するように、基準条件にある場合よりも、この歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεを小さくするように構成される。
【0035】
図5を参照する。前述の通り、距離rの位置において曲げモーメントMが作用したときの応力σは、曲げモーメントMと断面係数Zとに依存している。また、一般に、任意の断面における断面係数Zは、その断面の厚みhに依存しており、厚みhが増加すると増加する。これらをまとめると、応力σは、曲げモーメントMと厚みhに依存しており、曲げモーメントMが減少すると減少し、厚みhが減少すると増加する。この一例として、応力σは、曲げモーメントMと厚みhの二乗の逆数との積に正の傾きを持って比例する値となる。
【0036】
径方向外側に向かって曲げモーメントMが減少したとき、厚みhが径方向に向かって均一である場合(基準条件にある場合)、曲げモーメントMの減少分に応じた分だけ応力σが減少し、その応力σの減少分だけ応力σのバラツキ範囲Δσ(ひいてはΔε)が大きくなる(
図4(d)、
図4(f)参照)。ここで、本実施形態の変形容易部44は、このような曲げモーメントMの減少に伴う応力σの減少分の少なくとも一部を補償する(つまり、元に戻す)ように、径方向内側から径方向外側に向けて厚みhを徐々に減少させている(
図5(a)、(c)参照)。これにより、径方向に向かって厚みhを均一にする場合(基準条件にある場合)よりも応力σの減少量を小さくすることができ、応力σのバラツキ範囲Δσを小さくすることができる(
図5(d)参照)。ひいては、応力σのバラツキ範囲Δσを小さくすることで、基準条件にある場合よりも、歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δσも小さくすることができる(
図5(f)参照)。これを言い換えると、変形容易部44は、基準条件にある場合よりも応力σのバラツキ範囲Δσ(歪みεのバラツキ範囲Δε)を小さくするように、径方向に向かって厚みhを変化させているともいえる。
【0037】
本実施形態の変形容易部44は、径方向外側に向かって厚みhを徐々に減少させるうえで、曲げモーメントMの減少に伴う応力σの減少分の全てを補償するように厚みhを連続的に減少させている。このように応力σの減少分の全てを補償するうえで、本実施形態の変形容易部44は、応力σに対して依存性を持つ曲げモーメントMと厚みhの二乗の逆数との積を一定に保つように、曲げモーメントMの減少に合わせて厚みhを連続的に減少させている。
図5(a)では、説明の便宜から、厚さhと距離rとが線形の関係にあるように示すが、このように厚みhを減少させた場合、実際は、
図5(c)に示すように、厚さhの二乗と距離rとが線形の関係となる。これにより、応力σの径方向分布を均一にすることができ、そのバラツキ範囲Δσをゼロにすることができる(
図5(d)参照)。ひいては、歪みεの径方向分布を均一にすることができ、そのバラツキ範囲Δεをゼロにすることができる(
図5(f)参照)。
【0038】
このように歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεを小さくする場合、そのバラツキ範囲Δεは、基準条件にある場合よりも小さくなるほど好ましい。例えば、基準条件にあるときのバラツキ範囲Δε0の1/2以下のバラツキ範囲Δε1にすると好ましく、バラツキ範囲Δε0の1/5以下のバラツキ範囲Δε1にするとより好ましい。
【0039】
なお、このように径方向内側から径方向外側に向けて厚みhを徐々に減少させることで、変形容易部44は内周側端部において最も厚みhを大きくし、その外周側端部において最も厚みを小さくすることになる。これにより、変形容易部44の厚みに関して外周側端部と同じ径方向で均一な厚みにする場合と比べ、最も曲げモーメントMが大きくなる変形容易部44の内周側端部での局所的な歪みの増大を抑制することができる。
【0040】
以上の変形容易部44は、歪みセンサ50を設置する設置面52と、設置面52とは軸方向反対側にある反対面54とを備える。変形容易部44は、設置面52において軸方向に対して垂直となり、反対面54において軸方向に対して傾斜している。反対面54は、径方向外側に向かうに連れて設置面52に連続的に近づくように形成されることになる。変形容易部44は、反対面54において軸方向に対して傾斜させることで、径方向内側から径方向外側に向けて厚みhを連続的に減少させている。なお、本実施形態においては、設置面52及び反対面54は、凹凸のない平坦面とされている。設置面52及び反対面54の具体例は、これに限定されるものではなく、例えば、凹部や凸部を有したり、貫通孔が設けられたりしてもよい。
【0041】
以上の特徴の効果を説明する。
【0042】
変形容易部44は、基準条件にある場合に比べて、歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεが小さくなるように構成されている。よって、変形容易部44に対する歪みセンサの設置位置が径方向に変化したとしても、歪みセンサ50の検出値(歪み)のバラツキを抑制することができる。これにより、歪みセンサ50の検出値のバラツキを抑制するために要求される歪みセンサ50の径方向での設置位置の要求精度を緩和することができる。
【0043】
変形容易部44は、径方向に向かって軸方向厚みを変化させることで、基準条件にある場合よりも歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεが小さくなるように構成している。よって、変形容易部44の軸方向厚みの径方向分布を変化させるといった簡単な手段によって、歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεを容易に小さくすることができる。
【0044】
また、変形容易部44は、径方向内側から径方向外側に向かって軸方向厚みを徐々に変化させることで、歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεが小さくなるように構成している。よって、軸方向厚みを徐々に変化させるといったより簡単な手段によって、歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεをより容易に小さくすることができる。
【0045】
歪みセンサ50の設置作業のための作業台の平坦面上に第1内歯歯車28Aを配置する場合を考える。本実施形態の変形容易部44は、設置面52において軸方向に対して垂直となる。よって、第1内歯歯車28Aの軸心CL1と作業台の平坦面の法線方向と合わせるように第1内歯歯車28Aを配置したとき、その周方向及び径方向での位置によらず作業台の平坦面からの法線方向での設置面52の距離を一定にすることができる。ひいては、作業台の平坦面に対して一定の距離の箇所にある設置面52の位置を容易に把握でき、その設置面52に対する歪みセンサ50の設置作業を容易にすることができる。また、変形容易部44は、反対面54において軸方向に対して傾斜しているため、前述のように、径方向内側から径方向外側に向けて厚みhを連続的に小さくすることができる。
【0046】
本実施形態の変形容易部44は周方向に連続するリング状をなす。よって、周方向に間隔を空けた複数の柱部70によって変形容易部44を構成する場合と比べ、変形容易部44に作用する応力を軽減でき、高い許容応力を確保することができる。
【0047】
次に、歯車装置10の他の特徴を説明する。
図3を参照する。第1内歯歯車28Aは、変形容易部44に設けられ軸方向に凹む凹部60を備える。凹部60は、外側リング部42と内歯リング部40との間に設けられ、その底部に変形容易部44の設置面52が設けられる。凹部60は、外側リング部42及び内歯リング部40に対して軸方向に凹む。
【0048】
歯車装置10は、歪みセンサ50を埋める保護材62を備える。保護材62は、歪みセンサ50を保護する役割を持つ。本実施形態の保護材62は、第1内歯歯車28Aの周囲にある外部空間に対して歪みセンサ50を隔離することで、外部空間の湿度から歪みセンサ50を保護する。この場合、保護材62は、防湿性を持つコーティング剤によって構成する。この他にも保護材62は、例えば、外部空間の汚れ等から歪みセンサ50を保護してもよい。
【0049】
保護材62は、第1内歯歯車28Aの変形容易部44上に塗布等によって設けられる。保護材62は、凹部60内に設けられ、凹部60内において少なくとも部分的に充填される。保護材62は、変形容易部44の変形を許容するできる素材を用いて構成される。これを実現するうえで、保護材62は、例えば、流動性を持つ半固体又は弾性体によって構成される。半固体は、例えば、ワックス、粘土等であり、弾性体は、例えば、ゴム等である。
【0050】
以上の歪みセンサ50を埋める保護材62はリング状の変形容易部44上に設けられる。よって、周方向に間隔を空けた複数の柱部70により変形容易部44を構成する場合と比べ、リング状の変形容易部44を軸方向Xに保護材62が抜け出にくくすることができる。ひいては、変形容易部44上に保護材62を設けるときに良好な作業性を得ることができる。
【0051】
保護材62は、リング状をなす変形容易部44に設けられる凹部60内に設けられる。よって、変形容易部44上に保護材62を塗布等により設けるうえで凹部60内に保護材62をとどめ易くなり、その凹部60外の第1内歯歯車28Aの他の箇所に意図せず保護材62が付着してしまう事態を避け易くなる。ひいては、変形容易部44上に保護材62を設けるときに良好な作業性を得ることができる。
【0052】
(第2実施形態)
図6を参照する。ここまで、
図5では、曲げモーメントMの減少に伴う応力σの減少分の少なくとも一部を補償するように厚みhを徐々に減少させるうえで、その厚みhを連続的に減少させる例を説明した。この他にも、同様に厚みhを徐々に減少させるうえで、その厚みhを段階的に減少させてもよい(
図6(c)参照)。この場合、同じ厚みhの箇所(例えば、距離r0~raまでの箇所)では、曲げモーメントMの減少に伴い径方向外側に向かうに連れて応力σが連続的に減少する。また、厚みhが変化する箇所(例えば、距離ra、rb、rcの箇所)で応力σが不連続的に増加することで、曲げモーメントMの減少に伴う応力σの減少分の一部が補償される、つまり、元に戻る(
図6(d)参照)。厚みhと歪みεとの間でも、厚みhと応力σとの関係と同様のことがいえる(
図6(f)参照)。この結果、径方向外側に向かって連続的に減少する応力σ(歪みε)の径方向分布となる基準条件にある場合と比べて、応力σ(歪みε)の径方向分布全体でのバラツキ範囲Δσ(Δε)を小さくすることができる。
【0053】
(第3実施形態)
図7を参照する。ここまで、基準条件にある場合よりも歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεを小さくするように、径方向に向かって厚みhを変化させる例を説明した。本実施形態では、基準条件にある場合よりも歪みεの径方向分布のバラツキ範囲Δεを小さくするように、径方向に向かってヤング率Eを変化させる例を説明する。なお、本実施形態では、径方向に向かって厚みhを変化させずに均一にする例を説明する(
図7(c)参照)。
【0054】
前述の通り、距離rの位置において曲げモーメントMが作用したときの歪みεは、距離rの位置における径方向に直交する断面に作用する応力σと、その断面のヤング率Eとに依存しており、応力σが減少すると減少し、ヤング率Eが減少すると増加する。また、前述の通り、応力σは、曲げモーメントMに依存しており、曲げモーメントMが減少すると減少する。これらをまとめると、歪みεは、曲げモーメントMとヤング率Eとに依存しており、曲げモーメントMが減少すると減少し、ヤング率Eが減少すると増加する。
【0055】
径方向外側に向かって曲げモーメントMが減少したとき、ヤング率Eが径方向に向かって均一である場合(基準条件にある場合)、曲げモーメントMの減少分に応じた分だけ歪みεが減少し、その歪みεの減少分だけ歪みεのバラツキ範囲Δεが大きくなる(
図4(f)参照)。ここで、本実施形態の変形容易部44は、このような曲げモーメントMの減少に伴う歪みεの減少分の少なくとも一部を補償する(つまり、元に戻す)ように、径方向内側から径方向外側に向けてヤング率Eを徐々に減少させている(
図7(e)参照)。これにより、径方向に向かってヤング率Eを均一にする場合(基準条件にある場合)よりも、歪みεの減少量を小さくすることができ、歪みεのバラツキ範囲Δεを小さくすることができる(
図7(f)参照))。言い換えると、変形容易部44は、基準条件にある場合よりも歪みεのバラツキ範囲Δεを小さくするように、径方向に向かってヤング率Eを変化させているともいえる。
【0056】
本実施形態の変形容易部44は、径方向外側に向かってヤング率Eを徐々に減少させるうえで、曲げモーメントMの減少に伴う歪みεの減少分の一部を補償するように、そのヤング率Eを段階的に減少させている。この場合、同じヤング率Eの箇所(例えば、距離r0~raまでの箇所)では径方向外側に向かうに連れて歪みεが連続的に減少する。また、ヤング率Eが変化する箇所(例えば、距離ra、rb、rcの箇所)で歪みεが不連続的に増加することで、曲げモーメントMの減少に伴う歪みεの減少分の一部が補償、つまり、元に戻ることになる。この結果、径方向外側に向かって連続的に減少する歪みεの径方向分布となる基準条件にある場合と比べ、歪みεの径方向分布全体でのバラツキ範囲Δεを小さくすることができる。この他にも、径方向外側に向かってヤング率Eを徐々に減少させるうえで、第1実施形態と同様、径方向外側に向かってヤング率Eを連続的に小さくしてもよい。
【0057】
このように径方向に向かってヤング率Eを変化させるうえで、例えば、ヤング率Eの異なる複合材料で変形容易部44を構成し、その一部の素材の量を調整して、変形容易部44全体としてみた場合のヤング率Eの径方向分布を変化させてもよい。これは、たとえば、変形容易部44をインサート成形品により構成し、母材にインサートするインサート材(繊維材等)の量を調整する場合を想定している。この他にも、変形容易部44を複数素材または単数素材で構成し、その素材そのもののヤング率Eの径方向分布を変化させてもよい。
【0058】
ここまで、曲げモーメントMの減少に伴う応力σ又は歪みεの減少分の少なくとも一部を補償するように、径方向に向かって厚みh及びヤング率Eの一方を変化させる例を説明した。これに限定されず、これら応力σ又は歪みεの少なくとも一部を補償するように、径方向に向かって厚みh及びヤング率Eの両方を変化させてもよい。
【0059】
(第4実施形態)
図8を参照する。本実施形態の歯車装置10は、第1実施形態と比べて、変形容易部44の構成において相違する。詳しくは、変形容易部44は、周方向に間隔を空けて設けられる複数の柱部70である。本実施形態の複数の柱部70は、径方向に直線的に延びている。複数の柱部70の具体的な構成は特に限定されず、例えば、クランク状に延びていてもよい。柱部70の個数は四個である例を示すが、その数は特に限定されない。
【0060】
(実施形態の別観点の説明)ここまで説明した第1内歯歯車28Aを別の観点から説明する。
図3、
図5を参照する。ここまで、第1内歯歯車28Aは、所定の状態量Aとして歪みを検出するセンサ80が設置されるセンサ設置部82を有するセンサ設置部材84の一例として説明した。実施形態でいえば、ここでのセンサ80は歪みセンサ50であり、センサ設置部82は変形容易部44である。
【0061】
また、センサ設置部82は、単一な素材により第1特定方向Daと直交する第2特定方向Dbの寸法が第1特定方向Daに向かって均一に形成されている場合(つまり、基準条件を満たす場合)で、かつ、予め定められた使用環境にある場合、センサ80により検出される状態量Aの第1特定方向Daでの分布にバラツキがある例を説明した。実施形態でいえば、ここでの第1特定方向Daは径方向であり、第2特定方向Dbは軸方向Xである。また、実施形態でいえば、ここでの「予め定められた使用環境」とは、被固定部材に第1内歯歯車28Aの外側リング部42が一体化され、その内歯リング部40にトルクが付与される歯車装置10の運転時の使用環境をいう。また、実施形態でいえば、状態量Aの第1特定方向Daでの分布にバラツキがあるとは、
図4(f)の歪みεの径方向分布がバラツキ範囲Δεでバラツキを持つことをいう。
【0062】
また、センサ設置部82は、このような基準条件を満たす場合と比べ、センサ80により検出される状態量Aの第1特定方向Daでの分布のバラツキ範囲ΔA(実施形態ではΔε)が小さくなるように構成される例を説明した。また、ここでいうセンサ設置部82における第1特定方向での状態量Aの分布のバラツキ範囲ΔAを小さくするうえで、その状態量(実施形態では歪みε)に依存性を持つセンサ設置部82に関するパラメータの第1特定方向Daでの分布を調整する例を説明した。実施形態でいえば、ここでの「パラメータ」とは、変形容易部44(センサ設置部82)の厚さh、ヤング率Eをいう。
【0063】
また、第1内歯歯車28Aの変形容易部44は、センサ80が設置されるセンサ設置領域86を有する例を説明した。実施形態でいえば、ここでのセンサ設置領域86は、変形容易部44の設置面52である。このセンサ設置領域86は、センサ80の大きさよりも範囲を広くしている。ここでの「センサ80の大きさよりも範囲の広い」とは、センサ設置領域86を通る法線方向から見たセンサ80の外形よりもセンサ設置領域86(設置面52)の範囲が広いことを意味する(
図2参照)。このセンサ設置領域86からは、センサ設置部82における面と面とがなす角部は除外される。センサ設置部82は、このようなセンサ設置領域86の第1特定方向Da(第1実施形態では径方向)での任意の位置にセンサ80を設置可能に構成される。
【0064】
このように、センサ設置部材84のセンサ設置部82は、基準条件にある場合に比べて、状態量Aの第1特定方向Daでの分布のバラツキ範囲ΔAが小さくなるように構成されている。よって、センサ設置部82のセンサ設置領域86に対するセンサ80の設置位置が径方向に変化したとしても、センサ80の検出値(状態量)のバラツキを抑制することができる。また、これにより、センサ80の検出値のバラツキを抑制するために要求されるセンサ80の第1特定方向Daでの設置位置の要求精度を緩和することができる。また、センサ設置領域86の第1特定方向Daでの任意の位置にセンサ80を設置可能なため、センサ80の設置時に良好な作業性を得ることができる。
【0065】
このような効果を得るうえでセンサ設置部材84とセンサ80の組み合わせは特に限定されない。例えば、センサ80は、歪みセンサ50の他にも、温度センサ、加速度センサ等でもよい。
【0066】
この一例として、センサ80として温度センサ、センサ設置部材84としてケーシング18を使用する例を説明する。ここでは、ケーシング18の筒状部がセンサ設置部82、ケーシング18の外周面がセンサ設置領域86、軸方向Xが第1特定方向Da、径方向が第2特定方向Dbとなる例を説明する。前述のように、センサ設置部82は、基準条件を満たす場合で、かつ、予め定められた使用環境にある場合、センサ80により検出される状態量A(次に説明する温度)の第1特定方向Da(軸方向X)での分布にバラツキがあるとする。
【0067】
センサ80として温度センサを用いる場合、所定の状態量Aとして温度を検出する。この状態量Aとなる温度に対して依存性を持つセンサ設置部82に関するパラメータとして、例えば、放熱量がある。センサ設置部82における第1特定方向Da(軸方向X)での状態量Aの分布のバラツキ範囲ΔAを小さくするうえでは、その放熱量の第1特定方向Daでの分布を調整してもよい。例えば、第1特定方向Daで高温になる箇所では放熱量を大きくし、第1特定方向Dbで低温になる箇所では放熱量を小さくすることで、第1特定方向での状態量A(温度)の分布のバラツキ範囲ΔAを小さくする。
【0068】
このように温度に対して依存性を持つパラメータ(放熱量)の第1特定方向Da(軸方向X)での分布を調整するうえでは、センサ設置部82における第2特定方向Db(径方向)での寸法及び素材の物性のいずれかの分布を調整する。例えば、センサ設置部82におけるセンサ設置領域86に第2特定方向Db(径方向)に延びるフィン部を設けることで、その第2特定方向Dbでの寸法を調整してもよい。フィン部を設けることで放熱量を調整する場合、例えば、フィン部の高さ、密度等を調整することで放熱量を調整する。フィン部を高くする、又は、フィン部の密度を高くするほど放熱量を大きくでき、フィン部を低くする、又は、フィン部の密度を低くするほど放熱量を小さくできる。この他にも、センサ設置部82における素材の物性の第1特定方向Daでの分布として、放熱量に関係する物性(例えば、熱抵抗)を調整してもよい。例えば、熱抵抗を小さくするほど放熱量を大きくでき、熱抵抗を大きくするほど放熱量を小さくできる。
【0069】
次に、センサ設置部材84とセンサ80の組み合わせの他の一例として、センサ80として加速度センサ、センサ設置部材84としてケーシング18を使用する例を説明する。ここでは、温度センサの例と同様、ケーシング18の筒状部がセンサ設置部82、ケーシング18の外周面がセンサ設置領域86、軸方向Xが第1特定方向Da、径方向が第2特定方向Dbとなる例を説明する。前述のように、センサ設置部82は、基準条件を満たす場合で、かつ、予め定められた使用環境にある場合、センサ80により検出される状態量A(加速度)の第1特定方向Da(軸方向X)の分布にバラツキがあるとする。
【0070】
センサ80として加速度センサを用いる場合、所定の状態量Aとして加速度を検出する。この状態量Aとなる加速度に依存性を持つセンサ設置部82に関するパラメータとして剛性がある。ここでの剛性とは、センサ設置部材84のセンサ設置部82そのものの剛性をいうのではなく、センサ設置部材84と周辺部材とを組み合わせた構造全体の剛性をいう。センサ設置部82における第1特定方向(軸方向)での状態量Aの分布のバラツキ範囲ΔAを小さくするうえでは、その剛性の第1特定方向Daでの分布を調整すればよい。剛性を大きくするほど加速度を小さくでき、剛性を小さくするほど加速度を大きくできる。例えば、第1特定方向Daで高加速度になる箇所では剛性を大きくし、低加速度になる箇所では剛性を小さくすることで、第1特定方向での状態量A(加速度)の分布のバラツキ範囲ΔAを小さくする。
【0071】
このように加速度に対して依存性を持つパラメータ(剛性)の第1特定方向Da(軸方向X)での分布を調整するうえでは、センサ設置部82における第2特定方向Db(径方向)での寸法及び素材の物性のいずれかの分布を調整する。例えば、センサ設置部82における第2特定方向Db(径方向)での厚みを調整することで、剛性を調整してもよい。第2特定方向(径方向)での厚みを厚くするほど高剛性にでき、第2特定方向での厚みを薄くするほど低剛性にできる。この一例として、ケーシング18の主軸受36と径方向に重なる箇所は高剛性となり、そこから第1特定方向(軸方向)に遠ざかるにつれて低剛性となる。そこで、ケーシング18の主軸受36と径方向に重なる箇所から遠ざかるほどセンサ設置部82における第2特定方向Dbでの厚みを厚くすることで、低剛性となる箇所を高剛性化して、第1特定方向での状態量A(加速度)の分布のバラツキ範囲ΔAを小さくしてもよい。この他にも、センサ設置部82における素材の物性の第1特定方向Daでの分布として、剛性に関係する物性(例えば、ヤング率)を調整してもよい。例えば、ヤング率を大きくするほど剛性を大きくでき、ヤング率を小さくするほど剛性を小さくできる。
【0072】
次に、ここまで説明した各構成要素の変形形態を説明する。以下、符号の末尾に「A、B」を付した構成要素(内歯歯車等)を総称するときは、これを省略する。
【0073】
歯車装置10は、互いに噛み合う外歯歯車26及び内歯歯車28を備えるものであれば、その具体例は特に限定されない。歯車装置10は、例えば、撓み噛み合い型歯車装置の他にも、偏心揺動型歯車装置、単純遊星歯車装置等でもよい。また、偏心揺動型歯車装置の場合、揺動歯車と噛み合う噛合歯車の軸心上にクランク軸が配置されるセンタークランクタイプの他に、噛合歯車の軸心からオフセットした位置にクランク軸が配置される振り分けタイプでもよい。また、撓み噛み合い型歯車装置の具体例は特に限定されず、例えば、カップ型、シルクハット型でもよい。また、撓み噛み合い型歯車装置の場合、内歯歯車28A、28Bが撓み歯車となってもよい。
【0074】
歪みセンサ50の変形容易部44に対する設置位置は特に限定されない。変形容易部44の軸方向両側の側面のうちのいずれに設置されていてもよいし、変形容易部44が複数の柱部70の場合、その周方向側面に設置されていてもよい。
【0075】
変形容易部44は、軸方向厚みの径方向分布を変化させる場合、基準条件にある場合よりも歪みの径方向分布のバラツキ範囲を小さくするという条件を満たすのであれば、軸方向厚みを徐々に減少させるという構成は必須とはならない。この条件を満たすのであれば、変形容易部44は、例えば、径方向内側から径方向外側に向けて、軸方向厚みを徐々に減少させる箇所の他に、軸方向厚みを増加させる箇所を含んでいてもよい。
【0076】
変形容易部44は、設置面52において軸方向に対して傾斜していてもよい。この場合、反対面54において軸方向に対して傾斜していてもよいし、反対面54において軸方向に対して垂直となっていてもよい。
【0077】
歯車装置10は保護材62を備えなくともよい。第1内歯歯車28Aは保護材62が設けられる凹部60を備えていなくともよい。
【0078】
ここまでセンサ設置部材84は歯車装置10に用いられる構成部品を例にしたが、その具体例は特に限定されず、歯車装置10以外の各種機械装置の構成部品でもよい。この機械装置は、歯車装置10の他にも、例えば、モータ、アクチュエータ等の動力伝達装置(歯車装置10を含む)でもよいし、ロードセル等でもよい。
【0079】
以上の実施形態及び変形形態は例示である。これらを抽象化した技術的思想は、実施形態及び変形形態の内容に限定的に解釈されるべきではない。実施形態及び変形形態の内容は、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態」との表記を付して強調している。しかしながら、そのような表記のない内容でも設計変更が許容される。図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。実施形態及び変形形態において言及している構造/数値には、製造誤差等を考慮すると同一とみなすことができるものも当然に含まれる。
【0080】
以上の構成要素の任意の組み合わせも有効である。例えば、実施形態に対して他の実施形態の任意の説明事項を組み合わせてもよいし、変形形態に対して実施形態及び他の変形形態の任意の説明事項を組み合わせてもよい。
【符号の説明】
【0081】
10…歯車装置、26…外歯歯車、28A,28B…内歯歯車、40…内歯リング部、42…外側リング部、44…変形容易部、46…内歯、50…歪みセンサ、52…設置面、54…反対面、60…凹部、62…保護材、70…柱部、80…センサ、82…センサ設置部、84…センサ設置部材、86…センサ設置領域。