(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099996
(43)【公開日】2023-07-14
(54)【発明の名称】壁構造および壁構造の施工方法
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20230707BHJP
【FI】
E04B2/56 604F
E04B2/56 643A
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022199465
(22)【出願日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2022000104
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高谷 真次
(72)【発明者】
【氏名】田中 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】久保田 淳
(72)【発明者】
【氏名】日向 大樹
(72)【発明者】
【氏名】久田 昌典
(72)【発明者】
【氏名】羽田 尚広
【テーマコード(参考)】
2E002
【Fターム(参考)】
2E002EA08
2E002EB13
2E002FA04
2E002FB07
2E002HA02
2E002HB02
2E002JA01
2E002JA02
2E002JB02
2E002MA12
(57)【要約】
【課題】構造性能に優れた壁構造および壁構造の施工方法等を提供する。
【解決手段】壁構造は、木質板材31を用いて形成された木質耐震壁3を有し、木質耐震壁3の表側と裏側に位置する木質板材31が、板面同士が対向するように配置される。木質耐震壁3の表裏の木質板材31の上下端同士はボルトにより連結され、木質耐震壁3の表裏の双方において、複数の木質板材31が、木質耐震壁3の幅方向に並べて配置される。木質耐震壁3の表裏の木質板材31は、木質耐震壁3の幅方向の位置をずらして配置され、木質耐震壁3の表裏のうちの一方の木質板材31が、他方の複数の木質板材31とボルトにより連結される。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質板材を用いて形成された壁体を有する壁構造であって、
前記壁体の表側と裏側に位置する前記木質板材が、板面同士が対向するように配置され、
前記壁体の表裏の木質板材の上下端同士が、連結材により連結され、
前記壁体の表裏の双方において、複数の前記木質板材が、前記壁体の幅方向に並べて配置され、
前記壁体の表裏の木質板材が、前記壁体の幅方向の位置をずらして配置され、
前記壁体の表裏のうちの一方の前記木質板材が、他方の複数の前記木質板材と前記連結材により連結されたことを特徴とする壁構造。
【請求項2】
前記壁体が、柱と梁を有するフレームに囲まれ、
前記壁体と前記フレームの梁とが接合されたことを特徴とする請求項1記載の壁構造。
【請求項3】
前記梁から前記壁体側に接合板が突出し、
前記接合板が、前記壁体の表裏の木質板材の間に挟まれ、
前記連結材が、前記接合板を貫通することを特徴とする請求項2記載の壁構造。
【請求項4】
前記壁体の表裏の木質板材の間で、前記壁体の幅方向と高さ方向の全長に亘ってボードが配置されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の壁構造。
【請求項5】
前記壁体の表裏の木質板材の間に、表裏の木質板材のずれ止めを行うためのずれ止め材が設けられることを特徴とする請求項1記載の壁構造。
【請求項6】
前記壁体が、柱と梁を有するフレームに囲まれ、
前記壁体の表裏の木質板材の対向面の溝部により形成された前記壁体の孔に、前記フレームから突出する鉄筋が挿入され、前記連結材である接着材が充填されたことを特徴とする請求項1記載の壁構造。
【請求項7】
前記孔の前記フレーム側の端部が拡幅され、当該拡幅部分に筒体が配置され、
前記筒体の軸方向の一部が、前記フレームの前記壁体側の面に形成された凹部に収容され、
前記鉄筋が前記筒体に通され、前記筒体および前記凹部に固化材が充填されたことを特徴とする請求項6記載の壁構造。
【請求項8】
木質板材を用いて形成された壁体を有する壁構造の施工方法であって、
前記壁体の表側と裏側に位置する前記木質板材を、板面同士が対向するように配置する工程(a)と、
前記壁体の表裏の木質板材の上下の端部同士を、連結材により連結する工程(b)と、
を有し、
前記壁体の表裏の双方において、複数の前記木質板材が、前記壁体の幅方向に並べて配置され、
前記壁体の表裏の木質板材が、前記壁体の幅方向の位置をずらして配置され、
前記壁体の表裏のうちの一方の前記木質板材が、他方の複数の前記木質板材と前記連結材により連結されることを特徴とする壁構造の施工方法。
【請求項9】
前記工程(a)において、前記壁体の表裏のうちの一方の前記木質板材を配置した後、当該木質板材の幅方向の一部に他方の前記木質板材を重ねて配置する作業を、前記壁体の幅方向に繰り返すことを特徴とする請求項8記載の壁構造の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は壁構造および壁構造の施工方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、CLT(Cross Laminated Timber)やLVL(Laminated Veneer Lumber)などの木質系の板材を鉄骨造(S造)や鉄筋コンクリート造(RC造)のフレームに嵌め込み、木質耐震壁として用いる事例が増えている。
【0003】
その一例として、特許文献1には、板面同士が対向するように2枚の木質板材を配置し、これらの木質板材を連結することで形成された木質耐震壁を、フレームに囲まれた面内に設けることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、このような壁構造において、さらなる構造性能の向上が望まれている。この点、特許文献1では木質耐震壁の表裏の木質板材の位置が対応しており、n枚の木質耐震壁をフレームで囲まれた面内に並べて配置するだけでは、各木質耐震壁が外力に対し独立して機能し、木質耐震壁全体の剛性が、木質耐震壁1枚分の剛性のn倍にしかならない。
【0006】
本発明は前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、剛性に優れた壁構造および壁構造の施工方法等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達成するための第1の発明は、木質板材を用いて形成された壁体を有する壁構造であって、前記壁体の表側と裏側に位置する前記木質板材が、板面同士が対向するように配置され、前記壁体の表裏の木質板材の上下端同士が、連結材により連結され、前記壁体の表裏の双方において、複数の前記木質板材が、前記壁体の幅方向に並べて配置され、前記壁体の表裏の木質板材が、前記壁体の幅方向の位置をずらして配置され、前記壁体の表裏のうちの一方の前記木質板材が、他方の複数の前記木質板材と前記連結材により連結されたことを特徴とする壁構造である。
【0008】
本発明では、複数の木質板材を、壁体の表裏で位置をずらしつつ並べ、壁体の表裏の木質板材を連結材により連結することで、これらの木質板材の全体により、一体に変形する一枚の壁体を構築でき、剛性に優れた壁構造が得られる。
【0009】
前記壁体が、柱と梁を有するフレームに囲まれ、前記壁体と前記フレームの梁とが接合されることが望ましい。
これにより、壁体が、柱と梁によるフレームを有する構造物に加わる外力に対して抵抗し、耐震壁として有効に機能させることができる。
【0010】
前記梁から前記壁体側に接合板が突出し、前記接合板が、前記壁体の表裏の木質板材の間に挟まれ、前記連結材が、前記接合板を貫通することが望ましい。
これにより、連結材を利用して壁体と梁との接合を行うことができ、且つ施工時には2枚の木質板材をフレームの面外方向から移動させて接合板を挟むように配置すればよいので、壁構造の施工が容易になる。
【0011】
前記壁体の表裏の木質板材の間で、前記壁体の幅方向と高さ方向の全長に亘ってボードが配置されることが望ましい。
これにより、防火や遮音を目的とした区画処理をボードにより行うことができる。
【0012】
前記壁体の表裏の木質板材の間に、表裏の木質板材のずれ止めを行うためのずれ止め材が設けられることも望ましい。
これにより、表裏の木質板材の一体性が向上する。
【0013】
前記壁体が、柱と梁を有するフレームに囲まれ、前記壁体の表裏の木質板材の対向面の溝部により形成された前記壁体の孔に、前記フレームから突出する鉄筋が挿入され、前記連結材である接着材が充填されることも望ましい。また前記孔の前記フレーム側の端部が拡幅され、当該拡幅部分に筒体が配置され、前記筒体の軸方向の一部が、前記フレームの前記壁体側の面に形成された凹部に収容され、前記鉄筋が前記筒体に通され、前記筒体および前記凹部に固化材が充填されることも望ましい。
本発明では、上記の接着材と鉄筋により壁体とフレームとを接合することも可能であり、壁体の表裏の木質板材は接着材により一体化される。さらに、上記の筒体と固化材により鉄筋を実質的に太径化し、より大きなせん断力を負担させることも可能である。
【0014】
第2の発明は、木質板材を用いて形成された壁体を有する壁構造の施工方法であって、前記壁体の表側と裏側に位置する前記木質板材を、板面同士が対向するように配置する工程(a)と、前記壁体の表裏の木質板材の上下の端部同士を、連結材により連結する工程(b)と、を有し、前記壁体の表裏の双方において、複数の前記木質板材が、前記壁体の幅方向に並べて配置され、前記壁体の表裏の木質板材が、前記壁体の幅方向の位置をずらして配置され、前記壁体の表裏のうちの一方の前記木質板材が、他方の複数の前記木質板材と前記連結材により連結されることを特徴とする壁構造の施工方法である。
第2の発明は、第1の発明の壁構造の施工方法である。
【0015】
前記工程(a)において、前記壁体の表裏のうちの一方の前記木質板材を配置した後、当該木質板材の幅方向の一部に他方の前記木質板材を重ねて配置する作業を、前記壁体の幅方向に繰り返してもよい。
これにより、壁構造の施工が容易になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、剛性に優れた壁構造および壁構造の施工方法等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図12】木質耐震壁30aの構築方法について説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0019】
(1.壁構造1)
図1は、本発明の実施形態に係る壁構造1を示す図である。壁構造1は、フレーム2と、フレーム2に囲まれた木質耐震壁3を有する。フレーム2と木質耐震壁3は、接合部4において接合金物41やボルト42、固化材44等を用いて接合される。
【0020】
フレーム2は、柱21と梁22を有する枠状架構である。本実施形態において、柱21と梁22はRC(鉄筋コンクリート)造の部材であるが、SRC(鉄骨鉄筋コンクリート)造、S造などの部材としてもよい。
【0021】
木質耐震壁3は、木質板材31を用いて形成された壁体である。木質板材31にはCLTやLVLなどの木質系の板材を用いることができる。CLT、LVLについては既知であり、説明を省略する。
【0022】
(2.木質耐震壁3)
図2は、木質耐震壁3の水平方向断面を示す図である。木質耐震壁3では、木質耐震壁3の表側と裏側に位置する木質板材31が、板面同士が対向するように配置される。
【0023】
なお、木質耐震壁3の表側は、木質耐震壁3の面外方向の両側のうちの一方を指し、木質耐震壁3の裏側は、木質耐震壁3の面外方向の両側のうちの他方を指す。木質耐震壁3の面外方向は、
図2の上下方向に対応する。
【0024】
木質耐震壁3では、表側、裏側のそれぞれで、複数の木質板材31が木質耐震壁3の幅方向に並べて配置される。なお、「幅」とは柱21間のスパン方向の長さに対応する。
【0025】
特に本実施形態では、木質耐震壁3の幅方向の両端部を除き、同程度の幅Lの木質板材31が用いられ、木質耐震壁3の表裏の木質板材31が、上記幅Lの半分だけずらしつつ、千鳥状に配置される。
【0026】
木質耐震壁3の表裏の木質板材31の間には、後述する接合板412の厚さ分の隙間が設けられる。また、木質耐震壁3の幅方向に隣り合う木質板材31の間にも隙間が設けられ、当該隙間にはガスケット33が配置される。
【0027】
ガスケット33は、遮音や断熱を目的とし、木質耐震壁3の高さ方向の全長に亘って配置される。ガスケット33は、当該隙間の背後(木質耐震壁3の内部側)に位置する木質板材31に、接着材等で貼り付けることができる。ただし、ガスケット33をシールに代えても良く、ガスケット33を省略することも可能である。
【0028】
(3.接合部4)
図3は、フレーム2の梁22と木質耐震壁3の上端との接合部4を示す図であり、当該接合部4について、梁軸方向と直交する断面を見たものである。
【0029】
接合部4では、接合金物41とボルト42を用いて梁22と木質耐震壁3とが接合され、梁22と木質耐震壁3の隙間にモルタル等の固化材44が充填される。
【0030】
接合金物41は、ベースプレート411、接合板412、脚部413等を有する。
【0031】
ベースプレート411は、梁22の木質耐震壁3側の表面に沿って設置される鋼製の板材である。脚部413は、ベースプレート411の梁22側の面に固定され、梁22のコンクリートに埋設される。脚部413にはアンカーボルトなど各種の鋼材を用いることができる。
【0032】
接合板412は、孔4121を有する鋼製の板材(孔あき鋼板)である。接合板412は、ベースプレート411の木質耐震壁3側の面に固定され、板面が木質耐震壁3の面内方向となるように配置される。
【0033】
木質板材31は、貫通孔311を有する。貫通孔311は、木質耐震壁3を面外方向(
図3の左右方向に対応する)に貫通する。木質耐震壁3の外面には、貫通孔311の先端に当たる位置で凹部312が形成される。
【0034】
接合板412は梁22から木質耐震壁3側に突出し、木質耐震壁3の表裏の木質板材31の間に挟み込まれる。これらの木質板材31は、貫通孔311の位置を接合板412の孔4121の位置に合わせて配置され、両木質板材31の貫通孔311と接合板412の孔4121とが木質耐震壁3の面外方向に連通する。
【0035】
これらの孔には連結材であるボルト42が挿通され、両木質板材31の凹部312内に突出するボルト42の両端部にナット43が締め込まれる。これにより木質耐震壁3の表裏の木質板材31の上端同士が接合板412を挟んで連結され、梁22と木質耐震壁3が接合される。ナット43およびボルト42の両端部は、木質板材31の凹部312内に収められ、木質耐震壁3の外面から外側に突出することはない。
【0036】
なお本実施形態では、接合板412が梁22のスパン方向の全長に亘って連続するように設けられる(
図1参照)が、梁22のスパン方向に間隔を空けて必要な箇所のみに設けることも可能である。固化材44は、フレーム2と木質耐震壁3との間の応力伝達のため、梁22のスパン方向の全長に亘って充填される。ただし、場合によっては固化材44を省略することも可能である。
【0037】
以上は木質耐震壁3の上端と上側の梁22の接合部4についての説明であるが、木質耐震壁3の下端と下側の梁22の接合部4に関しても同様のディテールが採用される。木質耐震壁3の左右端と左右の柱21との接合部4も同様のディテールとなるが、木質耐震壁3の左右端に関しては、柱21と接合しないことも可能である。ただし、柱21と接合する方が、木質耐震壁3とフレーム2の一体性がより高くなり、耐力や剛性の面で好ましい。
【0038】
(4.壁構造1の施工方法)
壁構造1を施工する際は、
図4(a)に示すように、フレーム2の構築時に接合金物41をフレーム2(
図4(a)の例では梁22)の所定の位置に固定しておく。そして、木質耐震壁3をフレーム2で囲まれた位置に形成する。
【0039】
この際、木質耐震壁3の表裏のうちの一方の木質板材31を、
図4(b)の矢印aに示すように面外方向から移動させ、所定の位置に配置して接合板412に一旦仮止めする。仮止めは、例えば接合板412の孔4121を利用し、ボルト等を用いて行うことができる。
【0040】
本実施形態では、木質耐震壁3の表裏のうちの他方の木質板材31についても、同じく
図4(c)の矢印aに示すように面外方向から移動させ、木質耐震壁3の表裏の木質板材31を、接合板412を挟むように配置する。なお前記の仮止めは事前に解除しておく。
【0041】
図4(c)に示すように、木質耐震壁3の表裏の木質板材31の貫通孔311の位置は、接合板412の孔4121の位置に対応しており、
図3等で説明したように、これらの孔にボルト42を通し、その両端部にナット43を締め込む。そして、フレーム2と木質耐震壁3の隙間にモルタル等の固化材44を充填する。以上の手順により、木質耐震壁3の構築およびフレーム2との接合が行われ、壁構造1が施工される。なお前記したように、固化材44は省略することも可能である。
【0042】
(5.木質板材31とボルト42の構成)
図5(a)は、木質耐震壁3の表裏の木質板材31とボルト42の構成を分解して示す斜視図である。
図5(a)では接合板412等の接合金物41の図示は省略している。これは後述する
図5(b)、(c)においても同様である。
【0043】
本実施形態では、木質耐震壁3の表裏の木質板材31が、木質耐震壁3の幅方向(
図5(a)の奥行方向に対応する)にずらして配置され、木質耐震壁3の表裏のうちの一方(例えば裏側)の木質板材31が、他方(例えば表側)の2枚の木質板材31とボルト42により連結される。これにより、木質耐震壁3の剛性が向上する。
【0044】
すなわち、
図5(b)に示すように、木質耐震壁300の表裏の木質板材31の位置を合わせ、表裏の木質板材31をボルト42によって連結する場合、表裏の木質板材31からなる木質耐震壁300をn枚ならべても、これらの木質耐震壁300が独立して挙動する。この場合、木質板材31(木質耐震壁300)の幅をLとしたときに、n枚の木質耐震壁300の全体の幅はn×Lとなり、n枚の木質耐震壁300の全体の曲げ剛性は、n×L
3に比例する。
【0045】
一方、
図5(a)のように木質耐震壁3の表裏の木質板材31の位置をずらし、表裏の木質板材31を、木質耐震壁3全体の幅がn×Lとなるように並べた場合、木質耐震壁3の全体の木質板材31が一体となって挙動し、木質耐震壁3の全体の曲げ剛性が(n×L)
3に比例することを期待できる。結果、
図5(b)の例に比べ、n
2倍の剛性が得られる。
【0046】
また
図5(b)の例では、木質板材31の面内の曲げモーメントMに対し、木質板材31の幅方向の両端部のボルト42が最も曲げ応力を負担し、幅方向の中央部のボルト42はあまり曲げ応力を負担しない。結果、幅方向の中央部のボルト42は、ほぼせん断力Sにしか抵抗できず、無駄が大きい。
【0047】
しかしながら、本実施形態では、表裏の木質板材31の位置を対応させるのではなく、
図5(a)に示すように木質板材31の幅の半分だけ表裏の木質板材31の位置をずらすことで、表裏の一方(例えば裏側)の木質板材31の幅方向の中央部のボルト42が、他方(例えば表側)の木質板材31では幅方向の端部に位置し、曲げ応力を負担する。従って、ボルト42全体を曲げモーメントに対し効果的に抵抗させることができ、全体としてボルト42の本数を低減することが可能になる。
【0048】
さらに、ボルト42が曲げ応力に抵抗する際には、
図5(c)の矢印p1に示すように、当該ボルト42からの力の流れが、木質耐震壁3の表裏のうちの一方の木質板材31の隅部からその下方の隅部に伝わり、当該隅部からこれと対角線上に位置する隅部に向かい(矢印p2参照)、そこからボルト42を介して木質耐震壁3の表裏のうちの他方の木質板材31の隅部に移る(矢印p3参照)。この後、力の流れは、当該木質板材31の隅部からその下方の隅部に伝わり(矢印p4参照)、当該隅部からこれと対角線上に位置する隅部に向かい(矢印p5参照)、ボルト42を介して木質耐震壁3の表裏のうちの一方の木質板材31に戻る(矢印p6参照)。
【0049】
本実施形態では、以上の過程p1~p6を繰り返し、木質耐震壁3に作用する力の流れが、表裏の木質板材31を行き来しながら木質耐震壁3の幅方向に伝播する効果が期待できる。なお、
図5(c)では木質板材31の連結に用いるボルト42およびナット43のうち一部のみを図示している。
【0050】
以上説明したように、本実施形態では、複数の木質板材31を、木質耐震壁3の表裏で位置をずらしつつ並べ、木質耐震壁3の表裏の木質板材31をボルト42により連結することで、これらの木質板材31の全体により、一体に変形する一枚の木質耐震壁3を構築でき、剛性に優れた壁構造1が得られる。
【0051】
また木質耐震壁3はフレーム2の梁22と接合され、柱21と梁22によるフレーム2を有する構造物に加わる外力に対して抵抗し、耐震壁として有効に機能させることができる。特に本実施形態では、前記した接合部4により、ボルト42を利用して木質耐震壁3と梁22との接合を行うことができ、且つ施工時には2枚の木質板材31をフレーム2の面外方向から移動させて接合板412を挟むように配置すればよいので、壁構造1の施工が容易になる。
【0052】
しかしながら、本発明は上記の実施形態に限らない。例えば本実施形態では木質耐震壁3の表裏の木質板材31の間に隙間を設けているが、隙間が無くてもよく、この場合は接合板412に対応する位置のみ、接合板412を収容するための切欠きを木質板材31に形成すれば良い。
【0053】
また木質耐震壁3の幅方向に隣り合う木質板材31同士を相互に連結することも可能であり、これにより木質耐震壁3の剛性をさらに高めることができる。
【0054】
また、壁構造1の施工時には、例えば
図6(a)~(d)に示すように、木質耐震壁3の表裏のうちの一方の木質板材31を配置した後、その幅方向の一部に、他方の木質板材31を重ねて配置する作業を、木質耐震壁3の幅方向に繰り返してもよい。この場合、施工途中で表裏の木質板材31を連結することで仮止め等の手間が省けるなど、壁構造1の施工が容易になる。
【0055】
また、前記のガスケット33に代えて、制震のため、板状のゴム等を用いた粘弾性ダンパーなどの粘弾性体を用いてもよく、これにより、地震等の発生時に、粘弾性体の復元力による吸収エネルギーを確保することが可能になる。
【0056】
また本実施形態では、木質耐震壁3の幅方向の端部を除き、木質耐震壁3の表裏の木質板材31の幅を同じとし、表裏の木質板材31の位置をその幅の半分だけずらしているが、表裏の木質板材31の配置方法はこれに限定されない。例えば
図7に示すように、木質耐震壁3の表裏の木質板材31の幅、あるいは木質耐震壁3の幅方向に並べる木質板材31の幅を変えることも可能であり、表裏の木質板材31をずらす大きさも、木質板材31の幅の半分に限ることはない。
【0057】
また
図8に示すように、木質耐震壁3aの表裏の木質板材31の隙間にボード35を配置し、木質耐震壁3aを間仕切り壁として、防火や遮音を目的とした区画処理を行うこともできる。ボード35は木質耐震壁3の幅方向と高さ方向の全長に亘って配置され、前記のガスケット33は省略される。木質耐震壁3aの幅方向に隣り合う木質板材31同士の隙間は、バッカー材やシール材等の間詰材(不図示)で間詰めし、ボード35を隠す処理を施すことも可能である。
【0058】
この場合の施工手順としては、例えば前記の
図4(b)または
図4(c)に示す工程において、木質板材31の板面に予めボード35を貼り付けた状態で当該木質板材31の建て込みを行うことが可能である。あるいは、木質耐震壁3aの表裏の一方の木質板材31を建て込んだ後、その板面にボード35を貼り付けて固定し、その後、他方の木質板材31の建て込みを行うことも可能である。これは、前記のガスケット33や粘弾性体などについても同様である。
【0059】
また、本実施形態では柱21や梁22をRC造、SRC造、S造などとするが、柱21や梁22の構造は特に限定されず、例えばCFT造(コンクリート充填鋼管構造)、木造などとしてもよい。柱21や梁22がS造やCFT造である場合には、接合板412を工場溶接または現場溶接によって柱21や梁22に固定することが可能である。
【0060】
また、
図9(a)の木質耐震壁3bに示すように、表裏の木質板材31のずれ止めを行うためのコマ材5(ずれ止め材)を設け、これにより表裏の木質板材31の一体性を向上させてもよい。
【0061】
図9(b)は
図9(a)の線A-Aによる木質耐震壁3bの厚さ方向の断面である。コマ材5は、表裏の木質板材31の間の空間36内に配置される。この空間36は、表裏の木質板材31の対向面の対応する位置に設けた凹部361を組み合わせて形成される。
【0062】
コマ材5の素材は、軽くて剛性と強度が高いものが望ましく、一般的な木材が好適であるが、鋼材やコンクリート片等でもよい。また
図9(a)の例では、直方体状のコマ材5を、木質耐震壁3bの面内の縦横に間隔を空けて複数配置しているが、コマ材5の形状、サイズ、数、配置方法等は特に限定されず、必要なずれ止め効果が得られるように適宜定めればよい。
【0063】
木質耐震壁3bの構築時には、例えば木材の加工工場において、事前に、表裏の木質板材31のうちの一方の木質板材31の凹部361にコマ材5を取り付けておけばよい。コマ材5は、木質板材31に座掘りした凹部361に挿入し、木質板材31の現場への運搬時に脱落しないように、接着材やビス(不図示)で木質板材31に一体化される。ただし、施工現場で一方の木質板材31を先行して建て込んだ後、当該木質板材31の凹部361にコマ材5を取り付けてもよい。それ以外の構築手順は前記と同様である。
【0064】
なお、
図9(a)、(b)の例ではフレーム2aの梁22aが鉄骨梁であり、接合部4aの接合金物41aとして、前記した接合板412が溶接等により鉄骨梁のフランジに直接固定される。またこの例では、梁22aと木質耐震壁3bの間の固化材44も省略されている。
【0065】
また本実施形態ではボルト42を用いて木質耐震壁とフレームとの接合を行っているが、ボルト42以外の機構を用いて接合を行うことも可能である。以下、ボルト42以外の機構を用いて接合を行う例を第2の実施形態として説明する。第2の実施形態は第1の実施形態と異なる点について説明し、同様の構成については図等で同じ符号を付すなどして説明を省略する。また、第1、第2の実施形態で説明する構成は必要に応じて組み合わせることができる。
【0066】
[第2の実施形態]
図10(a)は、本発明の第2の実施形態に係る壁構造10を示す図である。第2の実施形態の壁構造10は、木質耐震壁30とフレーム2とを、鉄筋45を用いた接合部40によって接合する点で第1の実施形態の壁構造1と主に異なる。
【0067】
図10(b)は、
図10(a)の線B-Bによる木質耐震壁30の厚さ方向の断面を示したものである。この例では、木質耐震壁30の上下の端部が接合部40によってフレーム2の梁22と接合される。接合部40は、梁22から木質耐震壁30側に突出する鉄筋45を、木質耐震壁30の孔37に挿入し、当該孔37に接着材46を充填したものである。接着材46としてはエポキシ樹脂等が用いられるが、これに限ることはない。接着材46は鉄筋45および木質板材31への接着性を有するものであればよく、モルタル等を用いることも可能である。
【0068】
木質耐震壁30の表裏の木質板材31の対向面の対応する位置には、鉛直方向の溝部371が設けられる。上記の孔37は、表裏の木質板材31の溝部371同士を組み合わせて形成される。表裏の木質板材31は、孔37内の接着材46により一体化される。すなわち、接着材46は、表裏の木質板材31の連結材として機能する。
【0069】
図10(a)に示すように、接合部40は、木質耐震壁30の上下の端部において、木質耐震壁30の幅方向に間隔を空けて複数設けられる。また上下の梁22と木質耐震壁30の隙間には、モルタル等の固化材44が充填される。
【0070】
また本実施形態では、表裏の木質板材31が、上記の接着材46に加え、ビス6によっても連結される。ビス6は、木質耐震壁30の幅方向において、接合部40の両隣に設けられる。
図10(b)の上部にはビス6の一部が示されており、ビス6は、鉛直方向に間隔を空けて複数設けられる。これらのビス6は、表裏の木質板材31から交互に打ち込まれる。ただし、ビス6は省略することも可能である。
【0071】
図10(b)は、木質耐震壁30の幅方向の端部の接合部40を示したものであるが、当該接合部40では、鉄筋45の梁22側の根元部分に付着除去部451が形成される。付着除去部451は、鉄筋45と接着材46との付着を防いだ区間であり、鉄筋45の周囲にスポンジ等の巻付材を巻き付けたり、鉄筋45の周囲を粘土等で埋めたりすることによって形成できる。また接着材46の充填区間と付着除去部451の区間との間に、付着除去部451の区間への接着材46の流入を防ぐ部材を配置してもよい。
【0072】
付着除去部451を設けない場合、木質耐震壁30に面内の回転モーメントが生じた際に鉄筋45が降伏して伸びる区間が、木質耐震壁30と梁22の間の隙間のみとなり、鉄筋45の伸びが当該区間に集中することで鉄筋45が脆性的に破断する恐れがあるが、上記のように付着除去部451を設けることで、鉄筋45の伸びる区間を付着除去部451の範囲に拡げることができ、鉄筋45の伸びが狭い区間に集中するのを避けて脆性的な破断を防ぐことができる。
【0073】
回転モーメントによる鉄筋45の伸びは木質耐震壁30の幅方向の両端部で最も大きくなるので、付着除去部451は、当該両端部の鉄筋45に対して設けるとよい。なかでも、鉄筋45の伸びが特に大きい木質耐震壁30の幅方向の両端では、付着除去部451の長さを最も大きくし、その内側(木質耐震壁30の幅方向の中央側)に位置する鉄筋45では、付着除去部451の長さをより小さくできる。
【0074】
これらの鉄筋45よりもさらに内側に位置する、木質耐震壁30の幅方向の中間部の鉄筋45では上記の伸びが比較的小さいので、付着除去部451は特に必要でない。なお、
図10(a)の例では、鉄筋45の梁22からの突出長さが、木質耐震壁30の幅方向の両端部で大きく、木質耐震壁30の幅方向の中間部ではより小さくなるが、鉄筋45の突出長さはこれに限らず、木質耐震壁30の幅方向で一定であってもよい。また上記の梁22はRC造であるが、S造とすることも可能であり、この場合、鉄筋45の端部を鉄骨梁に溶接等で予め固定する。
【0075】
この第2の実施形態でも、第1の実施形態と同様の効果が得られる。加えて、第2の実施形態では、鉄筋45を溝部371で挟んだ構成とすることで木質板材31の施工が容易になり、また表裏の木質板材31を連結する接着材46の区間を、木質耐震壁30の鉛直方向の中心により近い位置まで延長することができるので、表裏の木質板材31の一体性が向上する。
【0076】
なお、鉄筋45の突出端や、鉄筋45の突出部分の途中等に、鉄筋45よりも拡幅した拡幅部(不図示)を設けることで、鉄筋45の接着材46に対する定着性を向上させることも可能であり、これにより鉄筋45の突出長さや孔37の長さを小さくすることができる。上記の拡幅部は、例えば定着板やナット等を用いて形成できるが、これらに限ることはない。
【0077】
また
図11(a)に示すように、木質耐震壁30aの幅方向の中間部の鉄筋45を省略することも可能であり、この場合は、当該鉄筋45が負担していたせん断力を、木質耐震壁30aの幅方向の両端部の接合部40aで負担させる。
【0078】
図11(b)は、
図11(a)の線C-Cによる木質耐震壁30aの厚さ方向の断面であり、木質耐震壁30aの幅方向の端部の接合部40aを示したものである。この例では、木質耐震壁30aの孔37aの梁22側の端部が拡幅しており、当該拡幅部分に、鉄筋45に通した鋼管452(筒体)が収容される。孔37aは、前記と同様、表裏の木質板材31の対向面に設けた溝部371aにより形成される。
【0079】
また、梁22はRC造であり、その木質耐震壁30a側の面には凹部221が形成される。上記の鋼管452の軸方向の一部は凹部221内に収容され、凹部221の内側および鋼管452の内部には固化材である無収縮モルタルMorが充填される。
【0080】
これにより、接合部40aの鉄筋45を実質的に太径化し、接合部40aで負担できるせん断力を増加させ、木質耐震壁30aの幅方向の中間部の鉄筋45を省略しても、木質耐震壁30aに加わるせん断力に耐え得る構造とできる。鋼管452の内径は、例えば鉄筋45の径よりも10mm以上大きくする。
【0081】
図12は木質耐震壁30aの構築方法について説明する図である。木質耐震壁30aを構築するには、まず
図12(a)に示すように、梁22の凹部221から突出する鉄筋45に、矢印に示すように鋼管452を挿通させる。そして、
図12(b)に示すように、鋼管452の軸方向の一部を凹部221に収容し、凹部221の内側および鋼管452内に無収縮モルタルMorを充填する。次に、
図12(c)に示すように、孔37aの拡幅部分に鋼管452が収まるように表裏の木質板材31を設置し、これらの木質板材31と梁22との間の隙間に固化材44を充填する。
【0082】
その後、孔37a内に接着材46を充填することで、
図11(b)等に示す木質耐震壁30aが構築される。鋼管452と孔37aの拡幅部分との間には隙間が無く、接着材46は充填されない。また
図12(a)~(c)には下側の梁22が図示されているが、上側の梁22に関しては、当該梁22と表裏の木質板材31との間の隙間と、上側の梁22の凹部221とに、固化材である無収縮モルタルMorを同時に充填すればよい。
【0083】
なお、鋼管452およびその内部の無収縮モルタルMorは、鉄筋45を実質的に太径化するほか、前記の付着除去部451と同様の機能も有する。また鋼管452等を用いて鉄筋45を実質的に太径化するのに代えて、梁22と木質耐震壁30aの間の摩擦力を向上させるための機構を設けることも可能であり、この場合は、木質耐震壁30aの幅方向の両端部の鉄筋45に、前記した付着除去部451を設けることも可能である。
【0084】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0085】
1、10:壁構造
2、2a:フレーム
3、3a、3b、30、30a、300:木質耐震壁
4、4a、40、40a:接合部
21:柱
22、22a:梁
31:木質板材
33:ガスケット
35:ボード
37、37a:孔
41、41a:接合金物
42:ボルト
43:ナット
44:固化材
45:鉄筋
46:接着材
411:ベースプレート
412:接合板
413:脚部
451:付着除去部
452:鋼管