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<図1>
  • 特開-複合型負極活物質球 図1
  • 特開-複合型負極活物質球 図2
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  • 特開-複合型負極活物質球 図7
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099997
(43)【公開日】2023-07-14
(54)【発明の名称】複合型負極活物質球
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/38 20060101AFI20230707BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20230707BHJP
   H01M 4/58 20100101ALI20230707BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20230707BHJP
   C01B 33/02 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
H01M4/38 Z
H01M4/36 A
H01M4/36 C
H01M4/58
H01M4/48
H01M4/36 E
C01B33/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022200214
(22)【出願日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】63/296,299
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/077,542
(32)【優先日】2022-12-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512306818
【氏名又は名称】輝能科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】PROLOGIUM TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.6-1, Ziqiang 7th Rd., Zhongli Dist., Taoyuan City, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】楊思▲ダン▼
【テーマコード(参考)】
4G072
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072AA24
4G072BB05
4G072BB07
4G072DD05
4G072DD06
4G072GG02
4G072HH01
4G072JJ34
4G072MM02
4G072QQ09
4G072TT01
4G072UU30
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB01
5H050CB02
5H050CB11
5H050CB29
5H050FA17
5H050FA18
5H050HA05
5H050HA14
5H050HA18
(57)【要約】      (修正有)
【課題】良好な電子伝達特性を維持できる複合型負極活物質球を提供する。
【解決手段】本発明は、ほぼ孔のない導電性金属芯12及び前記導電性金属芯の表面上に分布している複数のケイ素又はケイ素化合物粒子14を含む複合型負極活物質球10を開示する。ケイ素又はケイ素化合物粒子の体積の一部は、導電性金属芯の中に埋め込まれている。リチウムとの合金化・脱合金化の際に、ケイ素又はケイ素化合物粒子は導電性金属芯との良好な接触を維持できる。従って、複合型負極活物質球は良好な電気伝導特性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合型負極活物質球であって、前記複合型負極活物質球は、
室温で第1平均粒径を有する導電性金属芯、及び、
第2平均粒径を有し、前記導電性金属芯の表面に分布し、前記導電性金属芯の外表面に直接接触し、一部が前記導電性金属芯に埋め込まれた複数のケイ素又はケイ素化合物粒子であって、前記導電性金属芯は前記ケイ素又はケイ素化合物粒子の共通の内部導電性要素を担う、複数のケイ素又はケイ素化合物粒子、を含み、
前記第1平均粒径は前記第2平均粒径の10倍を超える、
複合型負極活物質球。
【請求項2】
前記導電性金属芯は232℃未満の低融点の金属から成る請求項1に記載の複合型負極活物質球。
【請求項3】
前記導電性金属芯は、インジウム、スズ、アルミニウム、ビスマス、又はゲルマニウムから選択される少なくとも2種の材料を混合することにより形成した合金である請求項2に記載の複合型負極活物質球。
【請求項4】
前記ケイ素又はケイ素化合物粒子の材料は純ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、又はこれらの組み合わせから選択される請求項1に記載の複合型負極活物質球。
【請求項5】
前記ケイ素又はケイ素化合物粒子の粒径は10~500ナノメートルの範囲である請求項1に記載の複合型負極活物質球。
【請求項6】
前記導電性金属芯はほぼ孔を持たない請求項1に記載の複合型負極活物質球。
【請求項7】
前記導電性金属芯は第1電位でリチウムイオンと合金化可能であり、前記ケイ素又はケイ素化合物粒子は第2電位で前記リチウムイオンと合金化可能であり、前記第1電位は前記第2電位より高い請求項1に記載の複合型負極活物質球。
【請求項8】
前記複合型負極活物質球は更に導電性材料を含み、前記導電性材料の一部は前記導電性金属芯の外表面に直接接触している請求項1に記載の複合型負極活物質球。
【請求項9】
前記導電性金属芯の前記外表面の少なくとも50%は前記ケイ素又はケイ素化合物粒子に被覆される請求項1に記載の複合型負極活物質球。
【請求項10】
前記第1平均粒径は0.1マイクロメートル~50マイクロメートルの範囲であり、前記第2平均粒径は10ナノメートル~500ナノメートルの範囲である請求項1に記載の複合型負極活物質球。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム電池の負極活物質、特に、共通の導電性金属芯を有する複合型負極活物質球に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、他のエネルギー貯蔵装置と比較してエネルギー密度が高く、及び/又はサイクル寿命が長いことから、自動車、消費者用途及び産業用途のウェアラブル製品、携帯機器、エネルギー貯蔵機器等の様々な製品に広く使用されている。これらのリチウムイオン電池は人間の日常生活のほぼ全ての分野において見られる。
【0003】
リチウムイオン電池で共通して使用されている負極活物質は黒鉛である。しかし、放電容量理論値は約360mAh/gと限界があるため、高容量リチウム電池中の黒鉛の使用は限定的である。そこで、リチウムイオン電池の負極活物質として、リチウムと合金化できる他の材料、例えばケイ素が徐々に黒鉛にとって代わってきている。ケイ素の容量理論値は4200mAh/gと黒鉛を大きく上回るが、充放電時にケイ素は300%以上体積膨張する。この膨張に起因する力により、ケイ素は結晶又は境界に沿って破断する。
【0004】
そのため、リチウム電池の負極へケイ素を適用することを可能にするために、様々な新規の構造が提案されている。例えば、ケイ素ナノ粒子又はナノワイヤは、粒径を最小限にすることにより表面を大きくできるようにしてある。膨張に起因する力を解放し、亀裂を回避する。しかし、ケイ素をナノ化した後は、より導電性の高い材料や接着剤が必要となる。また、電極中で電気化学反応を起こし得る活物質の割合が大幅に減少する。更に、ケイ素をナノ化すると、表面積が大きくなりすぎて、分散が困難になる。スラリーの調製がより困難になる。更に、表面積が大きくなるほど、抵抗値の高い固体電解質相間(SEI)層の面積も大きくなり、SEI層の量も多くなる。リチウム資源の消費が増加することになる。従って、ナノスケールのケイ素をいくらか積み重ね、凝集させることにより二次マイクロ粒子構造を形成する。この構造では、内部に配置したケイ素によりSEI層の形成を回避できる。リチウムとの反応によりケイ素の体積が変化すると、元の状態では互いに接触しているケイ素粒子間に間隙が生じる。このため、リチウムはケイ素粒子同士の接触点からもはや拡散できなくなる。
【0005】
別の構造としては、体積膨張を吸収できるナノホールを有するマイクロスケールのケイ素球体が提案されている。しかし、ナノホールを有するマイクロスケールのケイ素球体の表面積は、同じ重量であれば、ホールを持たないナノスケールのケイ素球体の表面積とほぼ同じである。従って、電解液がナノホールに浸透してSEI層を形成する場合、SEI層の再生量及びリチウム資源の消費量が大きくなるという問題が残されている。
【0006】
上記の欠点を解消するために、SiOやSi/Cなどの充填材をナノホールに配置することが導き出された。形成後、SiOはSi及びケイ酸リチウム(LiSi)を形成し、ケイ酸リチウムがSiに挟持されたような状態になる。Si/Cは初期段階で存在する炭化物であり、SEI層を形成するための形成面積を減少させる。しかし、ケイ酸リチウムの形成もリチウムの消費につながる。充填材の存在は、全体的なクーロン効率を低下させ、利用率を減少させる。また、米国特許出願第16/514953号明細書のように、数種のナノスケールケイ素粉体を網羅する、液体金属を用いた複合構造が提案されている。この構造の利点は、表面積全体が比較的小さく、導電性が良好であり、液体金属が膨張を吸収できることである。しかし、ケイ素及び電解質に形成したSEI層と比較して、電解質に接触する液体金属により形成したSEI層は、構造安定性が不十分で、崩壊しやすい。更に、電気化学反応における液体金属のクーロン効率や利用率も不十分である。
従って、ケイ素の上記問題点を克服するために複合型負極活物質球を提供する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願第16/514953号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、複合型負極活物質球を提供することを目的とする。ケイ素又はケイ素化合物粒子は、リチウムとの合金化/脱合金化の際にケイ素又はケイ素化合物粒子の体積変化が生じた場合、埋め込み部を介して導電性金属芯との良好な接触を維持できる。従って、複合型負極活物質球は良好な電子伝達特性を維持できる。
【0009】
本発明の別の目的は、複合型負極活物質球を提供することである。導電性金属芯の材料は、リチウムと合金化可能な材料から選択する。ケイ素又はケイ素化合物粒子を組み付ける前に、導電性金属芯の表面に予備リチウム化処理を行うことが可能である。従って、リチウムイオンの不可逆的な損失を低減するために、導電性金属芯をリチウム源として使用する。
【0010】
本発明の別の目的は、複合型負極活物質球を提供することである。隣接するケイ素又はケイ素化合物粒子間に、共有SEI膜を配する。導電性金属芯の大部分の外表面は、ケイ素又はケイ素化合物粒子に被覆されている。従って、複合型負極活物質球をリチウム電池に適合させた後では電解質の損失が効率的に低減される。
【0011】
本発明の別の目的は、複合型負極活物質球を提供することである。マイクロスケールの導電性金属芯は、ナノスケールのケイ素又はケイ素化合物粒子が付着した担体として利用する。リチウム電池用負極スラリーの混合物は、分散しやすいようにマイクロスケールとなる。ナノスケールのケイ素又はケイ素化合物粒子は凝集しやすく、分散しにくいという欠点を解決できる。
【0012】
本発明の別の目的は、複合型負極活物質球を提供することである。導電性金属芯の硬度は、ケイ素又はケイ素化合物粒子の硬度より低い。従って、導電性金属芯は、充放電によるケイ素又はケイ素化合物粒子の膨張により生じる応力を吸収するために変形できる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の目的を実現するために、本発明は、導電性金属芯、及び前記導電性金属芯の表面に分布する複数のケイ素又はケイ素化合物粒子を含む複合型負極活物質球を開示する。導電性金属芯は、室温における第1平均粒径を有し、ケイ素又はケイ素化合物粒子は第2平均粒径を有する。ケイ素又はケイ素化合物粒子は導電性金属芯の外表面に直接接触している。また、ケイ素又はケイ素化合物粒子の一部は導電性金属芯内に埋め込んでいる。このため、ケイ素又はケイ素化合物粒子の体積変化の発生中、ケイ素又はケイ素化合物粒子は導電性金属芯に直接接触した状態を維持することが可能である。従って、導電性金属芯は、ケイ素又はケイ素化合物粒子の共通の内部導電性素子を担う。また、第1平均粒径は第2平均粒径の10倍を超える。
【0014】
本発明の更なる適用範囲は、以下に示す詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、本発明の趣旨及び範囲内での様々な変更及び修正は、この詳細な説明から当業者には明らかになることから、詳細な説明及び具体例は、本発明の好ましい実施形態を示しながらも例示としてのみ付与していることは理解すべきである。
本発明は、以下の詳細な説明から更に完全に理解されるであろう。この詳細な説明は例示としてのみ付与しており、よって本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の複合型負極活物質球の模式図である。
図2】電池セルに適合させた場合の、本発明の複合型負極活物質球の模式図である。
図3】隣接するケイ素又はケイ素化合物粒子間でSEI膜が共有されている状態を示す、本発明の複合型負極活物質球の模式図である。
図4】ケイ素又はケイ素化合物粒子の一部が導電性金属芯に埋め込まれている状態を示す、本発明の複合型負極活物質球の模式図である。
図5】様々な粒径のケイ素又はケイ素化合物粒子を積み重ね、ケイ素又はケイ素化合物粒子が導電性金属芯に埋め込まれている状態を示す、本発明の複合型負極活物質球の模式図である。
図6】様々な粒径のケイ素又はケイ素化合物粒子を積み重ね、ケイ素又はケイ素化合物粒子が導電性金属芯に埋め込まれている状態を示す、本発明の複合型負極活物質球の模式図である。
図7】ケイ素又はケイ素化合物粒子のSEI膜の一部が共有されている状態を示す、本発明の複合型負極活物質球の模式図である。
図8】本発明の複合型負極活物質球の別の実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
特定の実施形態に関し、特定の図面を参照して本発明を説明するが、本発明は図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈してはならない。記載した図面は模式的なものに過ぎず、非限定的なものである。図面において、要素の一部の寸法は、説明を目的として誇張し、縮尺通りには図示していない場合もある。
【0017】
本明細書全体を通じて「1実施形態」又は「実施形態」を参照することは、実施形態に関して説明する特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に包含されていることを意味する。従って、本明細書全体を通じて様々な箇所において見られる表現「1実施形態では」又は「実施形態では」は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すわけではないが、全てが同じ実施形態を指す場合もある。更に、本開示から当業者に自明であるように、1つ以上の実施形態において、特定の特徴、構造、又は特性は任意の好適な方法で組み合わせてもよい。
【0018】
図1を参照されたい。本発明は、孔をほぼ持たない導電性金属芯12、前記導電性金属芯12の表面に分布する複数のケイ素又はケイ素化合物粒子14、及び導電性材料16を含む複合型負極活物質球10に関する。図1に示すように、ケイ素又はケイ素化合物粒子14は、導電性金属芯12の表面に直接接触している。しかし、図5図7を参照すると、導電性金属芯12の表面に直接接触していない他のケイ素又はケイ素化合物粒子17が存在する場合がある。これらのケイ素又はケイ素化合物粒子17をケイ素又はケイ素化合物粒子14の表面に積み重ね、ケイ素又はケイ素化合物粒子14によって覆われていない導電性金属芯12の表面が露出することを更に抑制する。このように、導電性金属芯12と電解質との接触面積は更に低減できる。導電性金属芯12の外表面に直接接触するケイ素又はケイ素化合物粒子14については、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の一部(体積の一部)が導電性金属芯12に埋め込まれており、即ち外表面上に単点接触又は接続しているだけではない。ケイ素又はケイ素化合物粒子14の埋め込み部分は、形成後の総体積の少なくとも10%である。導電性金属芯12は、室温では第1平均粒径及び第1平均硬度を有し、ケイ素又はケイ素化合物粒子14は第2平均粒径及び第2平均硬度を有する。第1平均粒径は第2平均粒径の10倍を超える。第1平均粒径は0.1マイクロメートル~50マイクロメートルの範囲であり、第2平均粒径は10ナノメートル~500ナノメートルの範囲である。第2平均硬度は、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の一部(体積の一部)を導電性金属芯12に埋め込みやすくするために、第1平均硬度より高い。図4に示すように、導電性金属芯12の外表面に直接接触したケイ素又はケイ素化合物粒子14は、導電性金属芯12から露出する露出部14a、及び導電性金属芯12に埋め込まれた埋め込み部14bを含む。従って、リチウムイオンの抽出及び挿入に起因する合金化/脱合金化によりケイ素又はケイ素化合物粒子14の体積が変化した場合、導電性金属芯12の外表面に直接接触しているケイ素又はケイ素化合物粒子14は、埋め込み部14bを介した導電性金属芯12との直接的接触を維持し、複合型負極活物質球10が電子伝達特性を良好に維持できるようにする。よって、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の体積変化に起因する電気伝導ボイドの問題を効率的に解決することが可能となる。例えば、ボイドは、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の合金化/脱合金化の際に体積膨張と収縮とが反復することにより発生する場合がある。ケイ素又はケイ素化合物粒子14の体積が膨張すると、カーボンブラックやカーボンナノチューブなどの導電性添加剤が押されて遠ざかる。ケイ素又はケイ素化合物粒子14の体積が収縮して元に戻るか、又は亀裂が入った場合、移動した導電性添加剤とケイ素又はケイ素化合物粒子14との間に間隙が現れることになる。電子はこの間隙を越えて輸送できず、これをいわゆる「ボイド」と呼ぶ。
【0019】
導電性材料16は、導電性金属芯12又はケイ素もしくはケイ素化合物粒子14に、あるいはその両方に直接接触している。本発明では、導電性材料16が導電性金属芯12に直接接触すると、導電性金属芯12を介してケイ素又はケイ素化合物粒子14に電子を輸送したり、又はケイ素もしくはケイ素化合物粒子14から外部へ電子を輸送することも可能になる。これにより、導電性金属芯12は、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の共通の内部電気素子を担う。
【0020】
更に、導電性金属芯12の材料は、第1電位でリチウムと合金化可能な材料から選択し、ケイ素又はケイ素化合物粒子14は、第2電位でリチウムと合金化可能である。第1電位は第2電位と異なる。好ましくは、第1電位は第2電位より高い。従って、ケイ素又はケイ素化合物粒子14をリチウムと合金化又は脱合金化すると、導電性金属芯12は、リチウムと合金化しない不動態に留まる。この不動態において、導電性金属芯12はリチウムの拡散ホストを担う。拡散したリチウムは、導電性金属芯12中に合金として現れ、複合型負極活物質球10のリチウム保持量を拡大させる。更に、導電性金属芯12中の拡散リチウムは、ケイ素又はケイ素化合物粒子14に向かって拡大し、リチウム源を担う場合もある。上述したように、導電性金属芯12は、リチウムイオンと合金化することが可能である。従って、ケイ素又はケイ素化合物粒子14を組み付ける前に、導電性金属芯12の表面に、予備リチウム化とも呼ばれるリチウム拡散又はドーピング処理を行う。その後、導電性金属芯12とケイ素又はケイ素化合物粒子14とを混合し、本発明の複合型負極活物質球10を調製する。混合方法は、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の一部を押圧して導電性金属芯12に埋め込むボールミルプロセスであってもよい。実用では、複合型負極活物質球10は電池セルに利用する。予備リチウム化した導電性金属芯12をリチウム源として使用し、電池セル充放電時のリチウムイオンの不可逆的な損失を低減する。
【0021】
また、図5及び図6に示すように、様々な粒径のケイ素又はケイ素化合物粒子14及び17を積み重ねる。導電性金属芯12に直接配置又は接触させるケイ素又はケイ素化合物粒子14は導電性金属芯12に部分的に埋め込まれることになる。導電性金属芯12の表面は、ケイ素又はケイ素化合物粒子14に押圧され、圧痕19が形成される。様々な粒径のケイ素又はケイ素化合物粒子14は圧痕19に充填しても、積み重ねてもよい。図5では、粒径の小さいケイ素又はケイ素化合物粒子14を圧痕19に接触させている。粒径の大きいケイ素又はケイ素化合物粒子17を粒径の小さいケイ素又はケイ素化合物粒子14の表面に積み重ねている。図6では、小粒径及び大粒径のケイ素又はケイ素化合物粒子14を圧痕19に接触させている。
【0022】
導電性金属芯12は、インジウム(融点156.6℃)、スズ(融点231.9℃)、アルミニウム(融点660.4℃)、ビスマス(融点271.4℃)、又はゲルマニウム(融点937.7℃)から選択する少なくとも2種の材料を混合することにより形成した合金である低融点金属から成る。上記低融点金属とは、融点が232℃未満の合金を意味する。例えば、合金は、スズ45%及びビスマス55%の組成を有し、融点が約150℃である。低融点金属の硬度はケイ素又はケイ素化合物粒子14の硬度より低い。即ち、低融点金属はケイ素又はケイ素化合物粒子14より軟らかい。従って、導電性金属芯12は、ケイ素又はケイ素化合物粒子14からの押圧により変形させてもよい。更に、図1を参照すると、導電性金属芯12は円形で図示されている。実用では、導電性金属芯12は、任意の他の幾何学的パターン又は不規則な形状で形成してもよい。更に、導電性金属芯12の組成を変更することにより、導電性金属芯12は電池セルの動作温度において、特定の柔らかさを示す場合もある。導電性金属芯12を変形させて、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の膨張を吸収させるか、又は更に、膨張に起因するケイ素又はケイ素化合物粒子14及び17のひび割れを埋めることが可能である。脱合金の際にケイ素又はケイ素化合物粒子14の体積が収縮すると、充填した金属が絞り出されることになる。そして、絞り出された金属は、ケイ素又はケイ素化合物粒子14及び17の新たな導電性接点を担うことが可能になる。
【0023】
ケイ素又はケイ素化合物粒子14及び17の材料は、純ケイ素、酸化ケイ素、窒化ケイ素、又は任意の組み合わせなどの任意のケイ素系負極活物質から選択する。様々な粒径の分布により、ケイ素又はケイ素化合物粒子14を凝集力の高い導電性金属芯12の表面上に配置し、表面被覆を向上させることが可能となる。例えば、導電性金属芯12の外表面の少なくとも50%、好ましくは85%を超える外表面をケイ素又はケイ素化合物粒子14で被覆又は遮蔽する。ケイ素又はケイ素化合物粒子14の粒径は10~500ナノメートルの範囲にある。ナノスケールのケイ素又はケイ素化合物粒子14は体積に対する表面積の比率が高く、リチウムイオンが接触及びインターカレーションするための反応面積を増加させる。しかし、凝集力があるため、ナノスケールのケイ素又はケイ素化合物粒子14は、電極スラリー内に分散しにくく、実用上の主な障害となっている。従って、本発明では、ナノスケールのケイ素又はケイ素化合物粒子14を付着させる担体として、凝集力の高い導電性金属芯12を利用する。電極スラリーの主な分散体は、ナノスケールのケイ素又はケイ素化合物粒子14ではなく、マイクロスケールの複合型負極活物質球10となる。ナノスケール粒子が凝集しやすく、分散しにくいという欠点を解消することが可能になる。
【0024】
本発明の導電性材料16としては、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンファイバー、カーボンブラック、黒鉛粒子、天然黒鉛、人造黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、金属粉、又は導電性ポリマーが挙げられる。導電性材料16は、リチウム電池に適用可能な導電性材料であれば、上述した材料に限定されない。導電性材料16が導電性金属芯12に接触すると、電子は、導電性金属芯12に接触したケイ素又はケイ素化合物粒子14に、又はケイ素又はケイ素化合物粒子14から伝達できる。また、導電性材料16は、ケイ素又はケイ素化合物粒子14と混合し、導電性金属芯12上に配置してもよい。
【0025】
複合型負極活物質球を用いた電池セルの模式図である図2を参照されたい。図示のように、複合型負極活物質球10は、図示していない結合剤と混合し、負極集電体222の表面に塗布し、負極22となる。また、電池セル20は、正極24、及び負極22と正極24との間に配置したセパレータ26を備える。上記正極24の正極活物質242は当技術分野で用いる任意の材料から、何ら制限なく選択してもよい。例えば、正極活物質として、リチウムイオンの挿入及び抽出が可能な化合物、例えば、リチウムと、コバルト、ニッケル、マンガン、及びこれらの組み合わせから選択する材料とを含む化合物を用いてもよい。
【0026】
正極24の導電性材料及び/又は結合剤は、負極22のものと同一であっても異なっていてもよい。負極22と正極24との間に配置したセパレータ26は、当技術分野で利用可能な任意の材料、例えば電解質中のイオン移動に対して抵抗が低い材料から形成してもよい。例えばセパレータ26は、負極22と正極24とを隔離する板状形態であってもよく、ガラス繊維、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、及びこれらの組み合わせから選択する材料から形成し、各材料は有孔不織布又は織布であってもよい。セパレータ26は固体電解質であってもよい。図2では、電池セル20の包装部材として、正極集電体244、負極集電体222、及び正極集電体244と負極集電体222との間に挟持した接着剤枠28を用い、外部環境から電極を隔離している。しかし、このことは、本発明の複合型負極活物質球10がこのような電池セルにのみ使用されることを限定するものではない。複合型負極活物質球10は、負極活物質としてケイ素系材料を用いた様々な電池セル又は電池構造体に広く使用できる。
【0027】
図3及び図1を参照されたい。図に示すように、本発明の複合型負極活物質球10から成る電池を充放電すると、複合型負極活物質球10の表面に固体電解質界面(SEI)膜18が形成される。SEI膜18は、電解質と接触すると、リチウムと合金化可能な物質の表面上に形成される。本発明では、導電性金属芯12の外表面の大部分をケイ素又はケイ素化合物粒子14で被覆し、電解質との接触を効果的に低減し、SEI膜を形成する。従って、電解質の損失を低減する。更に、隣接する2つのケイ素又はケイ素化合物粒子14の間のSEI膜18は、共有SEI膜18aであり、図中の点線付き領域aで記した部分である。共有SEI膜18aが存在することにより、分離したケイ素又はケイ素化合物原料粒子と比較して、SEI膜18の量は削減される。従って、電解質の損失は更に低減される。図7では、導電性金属芯12の表面に、様々な粒径のケイ素又はケイ素化合物粒子14及び17を積み重ねている。隣接するケイ素又はケイ素化合物粒子14及び17のSEI膜18の一部の間には、共有SEI膜18aが存在する。
【0028】
ケイ素又はケイ素化合物粒子14及び17の表面に形成したSEI膜は、導電性金属芯12の表面に直接形成したSEI膜より薄く、より安定的で、リチウムイオンが通過しやすい。このことは、ケイ素又はケイ素化合物粒子14及び17のクーロン効率の向上につながる。低融点金属を用いてケイ素又はケイ素化合物粒子を完全に被覆した米国特許出願第16/514953号明細書と比較すると、本発明の導電性金属芯12の表面は大部分がケイ素又はケイ素化合物粒子14で被覆されている。導電性金属芯12と電解質との接触面積は大幅に低減できる。また、本発明では、リチウムイオンの通過に適さない、導電性金属芯12の表面に直接形成した不良なSEI膜の割合も低減する。
【0029】
また、図8に示すように、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の表面の少なくとも一部、例えば75%に炭化物シェル32を形成し、電解質とケイ素又はケイ素化合物粒子14とが直接接触することを最小限にしている。従って、ケイ素表面上の末結合手に起因する電解質分解が低減される。好ましくは、炭化物シェル32は、ケイ素又はケイ素化合物粒子14の表面の90%を超える部分に形成する。
【0030】
従って、本発明は、ほぼ孔の無い導電性金属芯、及び前記導電性金属芯の表面に分布する複数のケイ素又はケイ素化合物粒子を含む複合型負極活物質球を提供する。導電性金属芯の外表面に直接接触しているケイ素又はケイ素化合物粒子の一部を導電性金属芯に埋め込む。リチウムイオン抽出及び挿入に伴う合金化/脱合金化によりケイ素又はケイ素化合物粒子の体積が変化した場合、ケイ素又はケイ素化合物粒子は埋め込み部分を介して導電性金属芯との直接接触を維持し、複合型負極活物質球は良好な電子伝達特性を維持する。また、隣接するケイ素又はケイ素化合物粒子間に共有SEI膜が存在する。導電性金属芯の外表面の大部分をケイ素又はケイ素化合物粒子で被覆しているため、電解質損失は効率的に低減される。更に、導電性金属芯の材料は、リチウムイオンと合金化可能な材料から選択する。ケイ素又はケイ素化合物粒子を組み付ける前に、導電性金属芯の表面に予備リチウム化処理を行うことが可能である。従って、導電性金属芯をリチウム源として、リチウムイオンの不可逆的損失を低減する。あるいは、導電性金属芯はリチウムの拡散ホストを担い、複合型負極活物質球のリチウムの受容量又は放出量を拡大し、電気化学システムの動作性能を向上させる。よって、本発明の複合型負極活物質球から成る電池セルは、上述した利点に基づいて充放電性能の優れた再現性を示すことが可能となる。
【0031】
以上、本発明を説明してきたが、本発明は多くの方法で変形してもよいことは自明である。このような変形は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱していると見なすべきではなく、当業者にとって自明であるような全ての変更は、以下の特許請求の範囲内に包含されることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
【外国語明細書】