(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023099999
(43)【公開日】2023-07-14
(54)【発明の名称】リチウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20230707BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230707BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230707BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230707BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20230707BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M10/052
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】14
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2022203331
(22)【出願日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】63/296,315
(32)【優先日】2022-01-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/083,038
(32)【優先日】2022-12-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】512306818
【氏名又は名称】輝能科技股▲分▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】PROLOGIUM TECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.6-1, Ziqiang 7th Rd., Zhongli Dist., Taoyuan City, Taiwan
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】楊思▲ダン▼
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK03
5H029AL06
5H029AL11
5H029AL12
5H029AM03
5H029AM07
5H029AM16
5H029BJ13
5H029CJ22
5H029DJ08
5H029DJ16
5H029EJ03
5H029EJ11
5H029HJ00
5H029HJ01
5H029HJ02
5H029HJ12
5H029HJ18
5H050AA15
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB12
5H050DA02
5H050DA09
5H050EA11
5H050EA22
5H050FA04
5H050FA17
5H050GA22
5H050HA00
5H050HA01
5H050HA02
5H050HA12
5H050HA18
(57)【要約】 (修正有)
【課題】熱暴走を抑制することが可能なリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】正極に添加したイオン供与体を含むリチウム二次電池である。イオン供与体は、充放電時のリチウム二次電池の電気化学反応に関与しない。イオン供与体は、リチウム二次電池の温度上昇による熱エネルギーを吸収し、反応性アニオン性基を放出することが可能である。反応性アニオン性基は正極活物質と反応し、正極活物質の可逆性を低下させる。また、正極活物質は、リチウムイオン抽出に伴って高エネルギー状態から低エネルギー状態になり、リチウム二次電池の熱暴走を効果的に抑制する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池であって、前記リチウム二次電池は、
正極活物質を有する正極、
負極活物質を有する負極、
前記正極と前記負極との間にイオン伝導性を付与し、リチウムイオンを前記正極と前記負極との間で移動させ、充放電のための電気化学反応を行う電解質系、並びに
前記正極に添加して、前記電気化学反応中は不活性であるイオン供与体であって、前記イオン供与体は、反応性アニオン性基、及び前記反応性アニオン性基に結合したカチオンを含み、熱エネルギーを吸収することにより前記反応性アニオン性基を放出し、前記正極活物質と反応するイオン供与体
を含み、
前記反応性アニオン性基は、少なくともホウ素‐酸素結合、硫黄‐酸素結合、ケイ素‐酸素結合、アルミニウム‐酸素結合、又はリン‐酸素結合を有する
ことを特徴とするリチウム二次電池。
【請求項2】
前記正極活物質はリチウムコバルトマンガン酸化物であり、ニッケルの重量割合は75%を超えることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項3】
前記反応性アニオン性基は、AlO2
-、PO4
3-、P2O7
4-、AlSiO4
-、B4O7
2-、SO3‐R-、SO2‐R-、SiO3
-、HPO4
2-、SO3
2-、H2PO2
-、HPO3
2-、P2O6
-、P3O9
3-、BO2
-、BO3-、P4O13
6-、SO7
2-、S2O3
2-、SO5
2-、S2O8
2-、S2O6
2-、S2O4
2-、P3O10
5-、B2O5
4-、H2PO4
-、又はS2O5
2-であり、式中、Rは、水素、アルキル、アリール、アラルキル、又はアルカリールから成る群より選択される置換基であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項4】
前記反応性アニオン性基は非対称型であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項5】
前記反応性アニオン性基はSO7
2-又はSO3
2-であることを特徴とする請求項4に記載のリチウム二次電池。
【請求項6】
前記反応性アニオン性基はSO7
2-であることを特徴とする請求項4に記載のリチウム二次電池。
【請求項7】
前記反応性アニオン性基はP2O7
4-であることを特徴とする請求項4に記載のリチウム二次電池。
【請求項8】
前記イオン供与体は、分子量が前記反応性アニオン性基より大きい主鎖アニオン性基を有し、前記反応性アニオン性基は、主骨格アニオン性基の端部又は側部に位置することを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項9】
前記イオン供与体は正極活物質粒子間に分布しているか、又は前記正極の表面に塗布することを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項10】
前記リチウム二次電池は更に、負極活物質粒子間に分布しているか、又は前記負極の表面に塗布しているリチウム受容体を含み、前記リチウム受容体はリチウムと反応してリチウム合金又はリチウム化合物を形成することが可能であるが、前記電気化学反応には関与せず、前記リチウム受容体がリチウムと反応する電位は、前記負極の前記負極活物質がリチウムと反応する電位とは異なることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項11】
前記リチウム受容体は無機材料又は有機ポリマーであり、前記無機材料はLi4Ti5O12、Fe4(P2O7)3、FeS2、Cu2P2O7、TiS2、又はこれらの混合物を含み、前記有機ポリマーはポリイミド(PI)、ポリイミド誘導体、又はこれらの混合物を含むことを特徴とする請求項10に記載のリチウム二次電池。
【請求項12】
前記イオン供与体は極性溶液中で解離しないことを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項13】
前記負極活物質は炭素、ケイ素、又はリチウム金属であることを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【請求項14】
前記カチオンは+1~+3の範囲の価数を有することを特徴とする請求項1に記載のリチウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウム二次電池、特に、熱暴走を抑制することが可能なリチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池は、自動車、消費者用途及び産業用途のウェアラブル製品、携帯装置、エネルギー貯蔵装置等の様々な製品に広く使用されており、これらのリチウムイオン電池は人間の日常生活のほぼ全ての分野において応用されている。しかし、携帯電話バッテリーや電気自動車の発火又は爆発など、リチウムイオン電池に関する事故が度々聞かれるようになっている。これらは全て、リチウムイオン電池には依然として安全性の問題に対する包括的かつ効果的な解決策が見出されていないことに起因している。
【0003】
リチウム電池の発火又は爆発という危険な事象の主な原因は熱暴走である。リチウム電池の熱暴走の主な原因は、電池内のSEI(固体電解質相間)膜、電解質、結合剤、並びに正極及び負極活物質の温度上昇により誘発される熱分解に起因する発熱反応としての熱である。現在、熱暴走を抑制する方法は、安全機構の作動箇所によって、電池セル外部及び電池セル内部の2タイプに分類される。電池セル外のタイプでは、デジタル演算シミュレーション用いる監視システムが利用されている。電池セル内のタイプは更に物理的又は化学的な方法に分けられる。電池セル外デジタル監視システムでは、電池セル外側の専用保護回路及び専用管理システムを利用し、使用プロセス中の電池の安全な監視を促進する。熱遮断セパレータなどの電池セル内の物理的タイプでは、電池セルが高温になるとセパレータの孔を閉じてイオンの通過を遮断する。
【0004】
電池セル内部の化学タイプは、規模制御タイプ又は電気化学反応タイプと定義できる。規模制御タイプでは、電解質に難燃剤を添加し、熱暴走の規模を制御する。電気化学反応タイプの例としては、以下が挙げられる。
a.モノマー又はオリゴマーを電解質中に添加する。温度が上昇すると重合が起こり、イオン移動が減速する。従って、温度が上昇するにつれイオン伝導性が低下し、セル内の電気化学反応速度が減速する、
b.正極温度係数(PTC)抵抗材料を正極層又は負極層と、隣接する集電層との間に挟持する。電池セルの温度が上昇すると、電気絶縁性が向上する。正極層又は負極層と、隣接する集電層との間の電力伝送効率が低下し、電気化学反応速度も低下する、
c.改質層を正極活物質の表面に形成する。電池セルの温度が上昇すると、改質層は緻密膜へと変形し、電荷転送の抵抗が増加し、電気化学反応速度が低下する。
【0005】
しかし、上記の方法は、イオン/電子移動経路を受動的に遮断して発熱を低減することのみを目的としており、熱暴走を引き起こす最大エネルギーを発生させる主原因や、電気化学反応全体の主反応体、即ち活物質は目的の対象外である。
【0006】
従って、本発明は、活物質からの熱暴走の問題を解決する全く新しいリチウム二次電池を提供する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、正極に配置したイオン供与体を含むリチウム二次電池を提供することを目的とする。イオン供与体は、充放電動作に関与しない。イオン供与体は、熱エネルギーを吸収して反応性アニオン性基を放出できる。反応性アニオン性基は正極活物質と反応し、正極活物質の可逆性を低下させる。また、ある特定の反応性アニオン基により、正極活物質の格子構造は、リチウムイオン抽出に伴って高エネルギー状態から低エネルギー状態になる。従って、リチウムイオン抽出に伴い正極は安定状態となり、リチウム二次電池の熱暴走を効果的に抑制する。
【0008】
本発明の別の目的は、正極に配置したイオン供与体及び負極に配置したリチウム受容体を含むリチウム二次電池を提供することである。イオン供与体は、熱エネルギーを吸収し、反応性アニオン基を放出し、正極活物質と反応し、リチウムイオン抽出に伴う正極活物質中の酸素結合能を向上させることが可能である。従って、リチウムイオン抽出箇所に起因する大量の原子酸素の放出が回避される。負極では、負極に埋め込まれた過剰なリチウムはリチウム受容体へと拡散し、負極のリチウム濃度を低下させる。従って、負極は安定状態を呈し、熱暴走を効果的に抑制する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を実現するために、本発明は、正極、負極、及び正極と負極との間にイオン伝導性を付与する電解質系を含むリチウム二次電池を開示する。リチウムイオンを、正極と負極との間で移動させ、充放電のための電気化学反応を行う。電気化学反応時に不活性であるイオン供与体を正極に添加する。イオン供与体は反応性アニオン性基、及び該反応性アニオン性基に結合したカチオンを含む。イオン供与体は熱エネルギーを吸収し、反応性アニオン性基を放出できる。反応性アニオン性基は正極活物質と反応し、正極活物質の可逆性を低下させる。また、ある特定の反応性アニオン基により、正極活物質の格子構造は、リチウムイオン抽出に伴って高エネルギー状態から低エネルギー状態になる。従って、リチウムイオン抽出に伴い正極は安定状態となり、熱暴走事象の発生を防止する。
【0010】
本発明の更なる応用範囲は、以下に示す詳細な説明から明らかになるであろう。しかし、本発明の趣旨及び範囲内での様々な変更及び修正は、この詳細な説明から当業者には明らかになることから、詳細な説明及び具体例は、本発明の好ましい実施形態を示しながらも例示としてのみ付与していることは理解すべきである。
本発明は、以下の詳細な説明から更に完全に理解されるであろう。この詳細な説明は例示としてのみ付与しており、よって本発明を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明に従った、イオン供与体を添加した場合又は添加しない場合での、示差走査熱量計のサーモグラムである。
【
図2】本発明に従った、イオン供与体を添加した場合又は添加しない場合での、示差走査熱量計のサーモグラムである。
【
図3】本発明に従った、イオン供与体を添加した場合又は添加しない場合での、示差走査熱量計のサーモグラムである。
【
図4】本発明に従った、イオン供与体を添加した場合又は添加しない場合での、示差走査熱量計のサーモグラムである。
【
図5】本発明に従った、イオン供与体を添加した場合又は添加しない場合での、示差走査熱量計のサーモグラムである。
【
図6】本発明に従った、イオン供与体を添加した場合又は添加しない場合での、示差走査熱量計のサーモグラムである。
【
図7】本発明に従った、イオン供与体を添加した場合又は添加しない場合での、示差走査熱量計のサーモグラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
特定の実施形態に関し、特定の図面を参照して本発明を説明するが、本発明は図面に限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定される。特許請求の範囲におけるいかなる参照符号も、範囲を限定するものとして解釈してはならない。記載した図面は模式的なものに過ぎず、非限定的なものである。図面において、要素の一部の寸法は、説明を目的として誇張し、縮尺通りには図示していない場合もある。
【0013】
本明細書で使用する用語は、特定の実施形態を説明することのみを目的とし、一般的な発明概念を限定することを意図するものではない。本明細書で使用する場合、単数形「a」、「an」、及び「the」は、文脈が別段に明示していない限り、複数形も含むことを意図している。別段に定義していない限り、本明細書で使用する全ての用語(技術用語及び科学用語を含む)は、例示的な実施形態が属する技術分野における当業者により一般的に理解されている用語と同じ意味を有する。一般的に使用されている辞書で定義されるような用語は、関連する技術の文脈における意味と一致する意味を有すると解釈すべきであり、本明細書で明示的に定義していない限り、理想化した意味又は過度に正式な意味で解釈すべきではないことは更に理解されているものとする。
【0014】
本明細書全体を通じて「一実施形態」又は「実施形態」を参照することは、実施形態に関して説明する特定の特徴、構造、又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に包含されていることを意味する。従って、本明細書全体を通じて様々な箇所において見られる表現「一実施形態では」又は「実施形態では」は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すわけではないが、全てが同じ実施形態を指す場合もある。更に、本開示から当業者に自明であるように、1つ以上の実施形態において、特定の特徴、構造、又は特性は任意の好適な方法で組み合わせてもよい。
【0015】
本発明は、熱暴走を効果的に抑制することが可能なリチウム二次電池を開示する。該リチウム二次電池は、正極活物質を有する正極、負極活物質を有する負極、及び正極と負極との間にイオン伝導性を付与する電解質系を含む。リチウムイオンを、正極と負極との間で移動させ、充放電のための電気化学反応を行うことができる。正極にはイオン供与体を添加する。イオン供与体は、電気化学反応中は不活性であり、即ち電気化学反応に関与しない。イオン供与体は、反応性アニオン性基、及び該反応性アニオン性基に結合したカチオンを含む。イオン供与体は、熱エネルギーを吸収した後、反応性アニオン性基を放出する。反応性アニオン性基は、正極活物質と反応し、正極活物質の可逆性/活性を減少させる。また、ある特定の反応性アニオン基により、正極活物質の格子構造は安定状態になる。従って、正極活物質は、リチウムイオン抽出に伴い、高エネルギー状態から低エネルギー状態になり、リチウム二次電池の熱暴走を抑制する。リチウム二次電池の温度が第1温度に達したときに、リチウム二次電池により熱エネルギーをイオン供与体に吸収させてもよい。カチオンと反応性アニオン性基との結合強度は、当業者であれば、その材料の選択により調整することが可能である。第1温度では、イオン供与体は、カチオンと反応性アニオン性基との結合を切断するために十分な運動エネルギーを得ることが可能であるので、反応アニオン性基は自由に移動できる。従って、本発明のイオン供与体は、極性溶液中で解離して反応性アニオン性基を放出することはなく、即ち、イオン供与体は極性溶液中で解離しない。反応性アニオン性基を熱エネルギーで作動し、イオン化する。
【0016】
反応性アニオン性基は、少なくともホウ素‐酸素結合、硫黄‐酸素結合、ケイ素‐酸素結合、アルミニウム‐酸素結合、又はリン‐酸素結合を有していればよい。イオン供与体は、リチウム二次電池の正極上に配置し、正極の正極活物質粒子に隣接又は直接接触している。例えば、イオン供与体を正極の正極活物質粒子と混合し、正極活物質粒子間にランダムな分布を形成する。あるいは、イオン供与体は正極の表面に塗布する。電解質系は、固体電解質、半固体電解質、液体電解質、又はこれらの組み合わせであってもよい。イオン供与体は電解質系には溶解しない。
【0017】
少なくともホウ素‐酸素結合、硫黄‐酸素結合、ケイ素‐酸素結合、アルミニウム‐酸素結合、又はリン‐酸素結合を有する反応アニオン性基は、正極活物質と反応して正極を無効化し、熱暴走を効果的に抑制できる。本実施形態では、反応性アニオン性基は、AlO2
-、PO4
3-、P2O7
4-、AlSiO4
-、B4O7
2-、SO3‐R-、SO2‐R-、SiO3
-、HPO4
2-、SO3
2-、H2PO2
-、HPO3
2-、P2O6
-、P3O9
3-、BO2
-、BO3-、P4O13
6-、SO7
2-、S2O3
2-、SO5
2-、S2O8
2-、S2O6
2-、S2O4
2-、P3O10
5-、B2O5
4-、H2PO4
-、又はS2O5
2-から選択する。Rは、任意の置換基から選択する。例えば、Rは、水素、アルキル、アリール、アラルキル、又はアルカリールを含む置換基から選択する。反応性アニオン基は対称型又は非対称型とすることが可能であるが、非対称型反応性アニオン性基は対称型反応性アニオン性基より好ましい。硫黄含有酸化物を例にとると、SO7
2-又はSO3
2-はSO4
2-より非対称構造が大きく、SO7
2-はSO3
2-より非対称構造が大きい。従って、SO7
2-はSO3
2-より好ましく、SO3
2-はSO4
2-より好ましい。酸化リンでは、P2O7
4-はPO4
3-より非対称構造が大きい。P2O7
4-はPO4
3-より好ましい。SO4
2-は作用部分から分離することがほぼ不可能な対称型である。従って、SO4
2-が本発明の反応アニオン性基を担うことは困難である。また、反応性アニオン性基を有する正極活性物質と反応させる場合、カチオンの選択はより多様化でき、例えば、ナトリウム、カリウム、銅、マグネシウム、カルシウム、又は鉄等の+1~+3の範囲の価数を有する金属イオンを選択できる。従って、ピロリン酸銅(Cu2P2O7)、ピロリン酸鉄(Fe4(P2O7)3)などの化合物を適合させることが可能である。
【0018】
更に、イオン供与体は、分子量が反応アニオン性基より大きい主鎖アニオン性基も有することが可能である。反応アニオン性基は、主骨格アニオン性基の端部又は側部に位置する。
【0019】
本発明では、リチウム二次電池の負極にリチウム受容体、又はいわゆる新規のリチウムホストを更に配置する。このリチウム受容体は、リチウムと反応してリチウム合金又はリチウム化合物を形成することが可能であるが、充放電時のリチウム二次電池の正極及び負極の電気化学反応には関与しない。つまり、リチウム合金化又は負極へのリチウムイオン挿入時には、リチウム受容体は不活性である。リチウム受容体がリチウムと反応する電位は、負極の負極活物質がリチウムと反応する電位とは異なる。例えば、リチウム受容体がリチウムと反応してリチウム合金又はリチウム化合物を形成する電位は、負極の負極活物質がリチウムと反応してリチウム合金又はリチウム化合物を形成する電位より高い。このため、リチウム受容体は、リチウム二次電池の充放電に関与しない。リチウム受容体はリチウム二次電池の負極上に配置し、負極活物質に隣接又は直接接触している。例えば、リチウム受容体は負極の負極活物質粒子と混合し、負極活物質粒子間に分散させるか、又は負極の表面に塗布する。
【0020】
リチウム二次電池の充電動作中は、負極にリチウムイオンが過剰に析出及び拡散する。負極は、原材料の特性とは異なるリチウムの材料特性を示すようになる。それは非常に不安定である。しかし、リチウム原子は負極から、濃度差、及び第2温度でのリチウム二次電池の熱エネルギーにより作動したリチウム受容体へ拡散する。負極のリチウム濃度は減少し、元の原料に近い材料特性が現れる。従って、負極は、より低いエネルギーで安定状態を呈する。第2温度は第1温度と同じであっても異なっていてもよい。負極の負極活物質は、炭素、ケイ素、又はリチウム金属であってもよい。リチウム受容体は、無機材料、例えばLi4Ti5O12、Fe4(P2O7)3、FeS2、Cu2P2O7、TiS2、又はこれらの混合物であってもよい。例えば、FeS2は1.5~2.5ボルトでリチウムと合金化し、炭素、ケイ素、又はリチウム金属は0~0.1ボルトでリチウムと電気化学反応する。従って、リチウム合金化、又は負極へのリチウムイオン挿入の際、リチウム受容体は不活性である。
【0021】
あるいは、リチウム受容体は、150℃を超える温度に耐えられる有機ポリマーであってもよい。有機ポリマーは、1.5~3.5ボルトでリチウムと合金化する。有機ポリマーの上記動作電圧を回避するために、負極活物質を前処理することが可能である。負極活物質が炭素又はケイ素である場合、炭素又はケイ素をリチウム化し、有機ポリマーの上記動作電圧を回避する。また、有機ポリマーは、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)などのポリイミド誘導体、ポリアリールエーテルケトン(PAEK)、又はこれらの混合物であってもよい。例えば、PIを2.5ボルトでリチウムと合金化する。
【0022】
リチウム二次電池は、イオン供与体を含むか、又は更にリチウム受容体を含んでもよい。本発明のリチウム二次電池は更に、イオンを通過させるための孔を有する電気絶縁性材料、又は固体電解質などのイオン伝導性かつ電気絶縁性材料から成るセパレータを含んでもよい。負極の負極活物質は炭素材料、ケイ素系材料、これらの混合物、又はリチウム金属であってもよい。炭素材料の例としては、黒鉛化炭素材料や非晶質炭素材料、例えば、天然黒鉛、変性黒鉛、黒鉛化メソカーボンマイクロビーズ、ソフトカーボン(コークスなど)、及びハードカーボンが挙げられる。ケイ素系材料としては、ケイ素、酸化ケイ素、ケイ素‐炭素複合体、及びケイ素合金が挙げられる。正極の正極活物質は、ニッケルの重量割合が75%を超えるリチウムコバルトマンガン酸化物、例えばNCM811であってもよい。
【0023】
以下、本発明の効果を検証するために、様々な実験を実施する。本実験で用いた電解質は、LiPF6、LiBF4等の塩を添加した、有機電解質、コロイド状電解質、ポリマー電解質などの非水系電解質、又はEC(エチレンカーボネート)、PC(ポリカーボネート)などの炭酸塩溶媒である。
【0024】
以下の表1は、イオン供与体を添加した場合と添加しない場合とでの、発生酸素に関する試料間の差を示す表である。試料1は、重量比で76.61%のNCM811、3.26%の導電性材料、1.63%の接着剤、及び18.5%の電解質という組成である。試料1の生成方法では、重量比で76.61%のNCM811、3.26%の導電性材料、1.63%の接着剤、及び18.5%の電解質を混合し、混合物を正極集電体上に塗布し、正極活物質層を形成する。次に、正極活物質層の表面に、セパレータ、負極活物質層、負極集電体を順次積み重ねる。正極集電体と負極集電体との間に挟持した密閉枠を用い、正極活物質層、セパレータ、及び正極集電体と密閉枠と負極集電体との間にある負極活物質層を密閉し、積層型電池シートを形成する。積層型電池シートは100%SOC(充電状態)で形成する。その後、形成した正極活物質層を削り取り、0.9Nで1分間押圧してシートを形成し、試料1を得る。試料2の生成方法では、重量比で76.61%のNCM811、3.26%の導電性材料、1.63%の接着剤、及び18.5%の電解質を混合し、混合物を正極集電体上に塗布し、正極活物質層を形成する。次に、正極活物質層の表面に、セパレータ、負極活物質層、及び負極集電体を順次積み重ねる。正極集電体と負極集電体との間に挟持した密閉枠を用い、正極活物質層、セパレータ、及び正極集電体と密閉枠と負極集電体との間にある負極活物質層を密閉し、積層型電池シートを形成する。積層型電池シートは100%SOC(充電状態)で形成する。その後、形成した正極活物質層を削り取り、同重量のNa2B4O7と混合して粉砕する。この混合物を0.9Nで1分間押圧してシートを形成し、試料2を得る。試料2では、Na2B4O7はイオン供与体を担う。試料3~6は、イオン供与体、即ちNa2B4O7をNa2SiO3、NaAlSiO4、Na2SO3、及びNa2S2O5に置き換える以外は、試料2で説明した方法と同じ方法で生成する。試料1~6は、それぞれガスクロマトグラフィ‐質量分析(GC‐MS)により分析する。この分析では、試料1~6をGC‐MS分析用の専用試料瓶に入れる。グローブボックス内で、試料瓶内の酸素をアルゴンで置換する。その後、空気の進入を避けるためにパラフィルムを用いて試料瓶を密閉する。GC‐MS分析では、ヘッドスペース抽出温度は200℃、抽出時間は20分である。その後、1mlの試料を40℃から250℃に加熱する。以下の表1に示すように、上記GC‐MS分析後、イオン供与体を添加した試料の発生酸素量は大幅に低減できる。
【0025】
【0026】
図1~3を参照されたい。図は、試料1に対する試料3、5、又は6の示差走査熱量計のサーモグラムである。これらの試料を適量、へらで採取する。次いで、試料を示差走査質量分析(DSC)専用試料トレイに載せ、試料トレイを密閉する。該試料について、5℃/分の速度で30℃から300℃へ昇温させながら、DSC試験を行う。図から、イオン供与体を添加した試料では、発熱反応の開始温度を高温側にシフトできることが分かる。従って、リチウム二次電池はより高温に耐えられるようになる。
【0027】
以下の表2は、リチウム受容体を添加した場合と添加しない場合での、発生酸素に関する試料間の差を示す表である。
【0028】
試料7は、重量比で76.61%のNCM811、3.26%の導電性材料、1.63%の接着剤、及び18.5%の電解質という組成である。試料7の生成方法では、NCM811、導電性材料、接着剤、及び電解質を混合し、電極膜を形成する。次に、該電極膜をコイン形セルの正極として使用する。コイン形セルは、100%SOC(充電状態)で形成する。その後、電極膜を試料7として直接採用する。試料8は、重量比で66.61%のNCM811、3.26%の導電性材料、1.63%の接着剤、18.5%の電解質、及び10%のCu2P2O7という組成である。試料8の生成方法では、重量比で66.61%のNCM811、3.26%の導電性材料、1.63%の接着剤、18.5%の電解質、及び10%のCu2P2O7を混合し、電極膜を形成する。該電極膜をコイン形セルの正極として使用する。コイン形セルは、100%SOC(充電状態)で形成する。その後、電極膜を試料8として直接採用する。試料8では、Cu2P2O7がイオン供与体を担う。試料9~11は、イオン供与体、即ちCu2P2O7を修飾する以外は、試料8で説明した方法と同じ方法で生成する。試料9では、Fe4(P2O7)3がイオン供与体を担う。試料10では、KAl(SO4)2がイオン供与体を担う。試料11では、NaAIO2がイオン供与体を担う。これらの試料は、それぞれガスクロマトグラフィ‐質量分析(GC‐MS)で分析する。この分析では、試料をGC‐MS分析用の専用試料瓶に入れる。グローブボックス内で、試料瓶内の酸素をアルゴンで置換する。その後、空気の進入を避けるためにパラフィルムを用いて試料瓶を密閉する。GC‐MS分析では、ヘッドスペース抽出温度は200℃、抽出時間は20分である。その後、1mlの試料を40℃から250℃に加熱する。以下の表2に示すように、上記GC‐MS分析後、イオン供与体を添加した試料の発生酸素量は、試料7と比較して大幅に低減できる。
【0029】
【0030】
図4~7を参照されたい。図は、試料7に対する試料8、9、10、又は11の示差走査熱量計のサーモグラムである。これらの試料を適量、へらで採取する。次いで、試料をDSC専用試料トレイに載せ、試料トレイを密閉する。該試料について、5℃/分の速度で30℃から300℃へ昇温させながら、DSC試験を行う。図から、イオン供与体を添加した試料では、発熱反応の開始温度を高温側にシフトできることが分かる。従って、リチウム二次電池はより高温に耐えられるようになる。
【0031】
以下の表3は、リチウム受容体を添加した場合と添加しない場合での、発生ガスに関する試料間の差を示す表である。試料12は、重量比で62.153%のC/SiO、2.049%の導電性材料、4.098%の接着剤、及び31.7%の電解質という組成である。試料12の生成方法では、重量比で62.153%のC/SiO、2.049%の導電性材料、4.098%の接着剤、及び31.7%の電解質を混合し、混合物を負極集電体上に塗布し、負極活物質層を形成する。次に、負極活物質層の表面に、セパレータ、正極活物質層、及び正極集電体を順次積み重ねる。正極集電体と負極集電体との間に挟持した密閉枠を用い、正極活物質層、セパレータ、及び正極集電体と密閉枠と負極集電体との間にある負極活物質層を密閉し、積層型電池シートを形成する。積層型電池シートは100%SOC(充電状態)で形成する。その後、形成した負極活物質層を削り取り、0.9Nで1分間押圧してシートを形成し、試料12を得る。試料13は、重量比で31.0765%のC/SiO、1.0245%の導電性材料、2.049%の接着剤、15.85%の電解質、及び50%のCaHPO4という組成である。試料13の生成方法では、重量比で62.153%のC/SiO、2.049%の導電性材料、4.098%の接着剤、及び31.7%の電解質を混合し、混合物を負極集電体上に塗布し、負極活物質層を形成する。次に、負極活物質層の表面に、セパレータ、正極活物質層、及び正極集電体を順次積み重ねる。正極集電体と負極集電体との間に挟持した密閉枠を用い、正極活物質層、セパレータ、及び正極集電体と密閉枠と負極集電体との間にある負極活物質層を密閉し、積層型電池シートを形成する。積層型電池シートは100%SOC(充電状態)で形成する。その後、形成した負極活物質層を削り取り、同重量のCaHPO4と混合して粉砕する。この混合物を0.9Nで1分間押圧してシートを形成し、試料13を得る。
【0032】
試料14の製造方法は試料13の製造方法とほぼ同じである。CaHPO4だけはCu2P2O7に置き換えてある。酸素、一酸化炭素、及び気体状アルカンの分析にはGC‐MSを利用し、水素の分析にはGC‐TCD(ガスクロマトグラフィ‐熱伝導性検出器)を利用する。分析では、ヘッドスペース抽出温度は200℃、抽出時間は20分である。その後、1mlの試料を40℃から250℃に加熱する。以下の表3に示すように、上記の分析後、イオン供与体を添加していない試料13の発生酸素量は試料12と比較して増加し、イオン供与体を添加した試料14の発生酸素量は試料12と比較して減少している。
【0033】
【0034】
以下の表4は、リチウム受容体を添加した場合と添加しない場合での、発生ガスに関する試料間の差を示す表である。試料15は、重量比で62.153%のC/SiO、2.049%の導電性材料、4.098%の接着剤、及び31.7%の電解質という組成である。試料15の生成方法では、重量比で62.153%のC/SiO、2.049%の導電性材料、4.098%の接着剤、及び31.7%の電解質を混合し、電極膜を形成する。次に、この電極膜をコイン形セルの正極として使用する。コイン形セルは、100%SOC(充電状態)で形成する。その後、電極膜を試料15として直接採用する。試料16は、重量比で52.153%のC/SiO、2.049%の導電性材料、4.098%の接着剤、31.7%の電解質、及び10%のCu2P2O7という組成である。試料16の生成方法では、上記の材料全てを混合し、電極膜を形成する。該電極膜をコイン形セルの正極として使用する。コイン形セルは、100%SOC(充電状態)で形成する。その後、電極膜を試料16として直接採用する。試料17の生成方法は試料16の生成方法とほぼ同じである。Cu2P2O7だけはFe4(P2O7)3に置き換えてある。試料15~17は、それぞれGC‐MS/GC‐TCD(ガスクロマトグラフィ‐熱伝導性検出器)により分析する。この分析では、試料15~17をGC‐MS/GC‐TCD分析用の専用試料瓶に入れる。グローブボックス内で、試料瓶内の酸素をアルゴンで置換する。その後、空気の進入を避けるためにパラフィルムを用いて試料瓶を密閉する。酸素、一酸化炭素、及び気体状アルカンの分析にはGC‐MSを利用し、水素の分析にはGC‐TCDを利用する。分析では、ヘッドスペース抽出温度は200℃、抽出時間は20分である。その後、1mlの試料を40℃から250℃に加熱する。以下の表4に示すように、イオン供与体を添加した試料16及び17の発生ガス量は試料15と比較して大幅に低減できる。
【0035】
【0036】
従って、本発明は、熱暴走を抑制することが可能なリチウム二次電池を提供する。正極にイオン供与体を添加するか、又は負極にリチウム受容体を更に添加する。イオン供与体は、リチウム二次電池の温度上昇による熱エネルギーを吸収し、反応性アニオン性基を放出することが可能である。反応性アニオン性基は正極活物質と反応し、正極活物質の可逆性/活性を低下させる。また、ある特定の反応性アニオン基により、正極活物質の格子構造は、リチウムイオン抽出に伴って高エネルギー状態から低エネルギー状態になる。従って、リチウムイオン抽出に伴い正極は安定状態となる。負極では、過剰なリチウムを受け取り、負極の元の原料に近い材料特性を示すためにリチウム受容体を使用する。従って、負極は安定状態を呈し、熱暴走を効果的に抑制する。
【0037】
以上、本発明を説明してきたが、本発明は多くの方法で変形してもよいことは自明である。このような変形は、本発明の趣旨及び範囲から逸脱していると見なすべきではなく、当業者にとって自明であるような全ての変更は、以下の特許請求の範囲内に包含されることを意図している。
【外国語明細書】