(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024000001
(43)【公開日】2024-01-04
(54)【発明の名称】面状推進システム、航走体、航走体の航走方法、及び、航走体の操船方法
(51)【国際特許分類】
B63H 5/15 20060101AFI20231222BHJP
B63H 5/10 20060101ALI20231222BHJP
B63H 25/42 20060101ALI20231222BHJP
【FI】
B63H5/15 Z
B63H5/10
B63H25/42 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022098502
(22)【出願日】2022-06-19
(71)【出願人】
【識別番号】721009461
【氏名又は名称】山本 茂
(72)【発明者】
【氏名】山本 茂
(57)【要約】
【課題】航走体において、船体形状と推進器の間の水流に関する関係を分離して、船体形状に関係なく配置できて、船尾における船尾波の低減と圧力抵抗の減少を図ることができる面状推進システム、航走体、航走体の航走方法、及び、航走体の操船方法を提供する。
【解決手段】複数基の推力発生ユニット20を互いに連結して、帯状又は面状の面状推進構造体11を形成して、この面状推進構造体11を、航走体1の船尾等に船体から離間して配置する。推力発生ユニット20の仕切壁21内の推進器22を個別に制御して、面状推進構造体11に航走体1の航走に必要な推進力を得る。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数基の推力発生ユニット(20)を帯状又は面状に配置して形成する面状推進構造体(11)と、前記推力発生ユニット(20)を個別に制御する制御装置(14)を備えていると共に、
前記推力発生ユニット(20)が仕切壁(21)と前記仕切壁(21)内の推進器(22)と前記推進器(22)を駆動する駆動装置(23)を備えて構成され、
前記推力発生ユニット(20)が前記仕切壁(21)を介して互いに連結されていることを特徴とする面状推進システム。
【請求項2】
前記推力発生ユニット(20)の仕切壁(21)の外形が、正三角形、正四角形、正六角形、正八角形のいずれかの形状をしていることを特徴とする請求項1に記載の面状推進システム。
【請求項3】
前記推進器(22)の動力源を電力又は流体圧とすることを特徴とする請求項1に記載の面状推進システム。
【請求項4】
前記推力発生ユニット(20)が流入する流れから電気を発電する電動発電機(23A、23B、23C)を備えて構成されることを特徴とする請求項1に記載の面状推進システム。
【請求項5】
前記推進器(22)がコア駆動の推進器(22A)又はリム駆動の推進器(22B、22C、22D)であることを特徴とする請求項1に記載の面状推進システム。
【請求項6】
前記推力発生ユニット(20)が二重反転プロペラを備えて構成されることを特徴とする請求項1に記載の面状推進システム。
【請求項7】
前記推力発生ユニット(20)が可変ピッチプロペラを備えていることを特徴とする請求項1に記載の面状推進システム。
【請求項8】
前記推力発生ユニット(20)の基数(N)の60%以上かつ100%以下において、隣接する前記推力発生ユニット(20)のプロペラ(22a)の回転方向が互いに逆方向に構成されていることを特徴とする請求項1に記載の面状推進システム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の面状推進システム(10)を備えると共に、少なくとも航走体(1)の航走時において、前記面状推進構造体(11)を、船尾に船体とは離間させて配置していることを特徴とする航走体。
【請求項10】
請求項1~8のいずれか1項に記載の面状推進システム(10)を備えると共に、少なくとも航走体(1)の航走時において、前記面状推進構造体(11)を、船側(1a)若しくは船底(1b)に当接して配置、又は、船側(1a)若しくは船底(1b)に対して離間した位置に配置していることを特徴とする航走体。
【請求項11】
前記面状推進構造体(11)を水面上、又は、甲板上若しくは船内に移動する移動機構を備えたことを特徴とする請求項9に記載の航走体。
【請求項12】
前記面状推進構造体(11)を水面上、又は、甲板上若しくは船内に移動する移動機構を備えたことを特徴とする請求項10に記載の航走体。
【請求項13】
請求項9に記載の航走体(1)の前進時における航走方法であって、前記面状推進構造体(11)を構成する前記推力発生ユニット(20)の流出流の流速が、これらの流速の平均値の80%以上でかつ120%以下になるように調整しながら、前記面状推進構造体(11)の推力を発生して航走することを特徴とする航走体の航走方法。
【請求項14】
請求項10に記載の航走体(1)の前進時における航走方法であって、前記面状推進構造体(11)を構成する前記推力発生ユニット(20)の流出流の流速が、これらの流速の平均値の80%以上でかつ120%以下になるように調整しながら、前記面状推進構造体(11)の推力を発生して航走することを特徴とする航走体の航走方法。
【請求項15】
請求項9に記載の航走体(1)の前進時における航走方法であって、一部の前記推力発生ユニット(20)が水面上に露出している状態で航走する時に、水面上に露出している前記推力発生ユニット(20)の稼働を停止すると共に、水没している前記推力発生ユニット(20)の一部又は全部を稼働して、前記面状推進構造体(11)の推力を発生して航走することを特徴とする航走体の航走方法。
【請求項16】
請求項10に記載の航走体(1)の前進時における航走方法であって、一部の前記推力発生ユニット(20)が水面上に露出している状態で航走する時に、水面上に露出している前記推力発生ユニット(20)の稼働を停止すると共に、水没している前記推力発生ユニット(20)の一部又は全部を稼働して、前記面状推進構造体(11)の推力を発生して航走することを特徴とする航走体の航走方法。
【請求項17】
請求項9に記載の航走体(1)における操船方法であって、前記面状推進構造体(11)を構成する前記推力発生ユニット(20)の一部分の推力(Tn)又は抵抗(Tn)を、前記推力発生ユニット(20)の他の部分の推力(Tn)又は抵抗(Tn)と異ならせることにより、操船モーメント(Mt)を発生させることを特徴とする航走体の操船方法。
【請求項18】
請求項10に記載の航走体(1)における操船方法であって、前記面状推進構造体(11)を構成する前記推力発生ユニット(20)の一部分の推力(Tn)又は抵抗(Tn)を、前記推力発生ユニット(20)の他の部分の推力(Tn)又は抵抗(Tn)と異ならせることにより、操船モーメント(Mt)を発生させることを特徴とする航走体の操船方法。
【請求項19】
請求項9に記載の航走体(1)における操船方法であって、前記推力発生ユニット(20)の一部若しくは全部、又は、前記面状推進構造体(11)の一部若しくは全体において、航走体(1)に対する取り付け方向を変化させることにより、操船モーメント(Mt)を発生させることを特徴とする航走体の操船方法。
【請求項20】
請求項10に記載の航走体(1)における操船方法であって、前記推力発生ユニット(20)の一部若しくは全部、又は、前記面状推進構造体(11)の一部若しくは全体において、航走体(1)に対する取り付け方向を変化させることにより、操船モーメント(Mt)を発生させることを特徴とする航走体の操船方法。
【請求項21】
請求項9に記載の航走体(1)における操船方法であって、前記推力発生ユニット(20)の一部若しくは全部、又は、前記面状推進構造体(11)の一部若しくは全体において、航走体(1)に対する取り付け位置を変化させることにより、操船モーメント(Mt)を発生させることを特徴とする航走体の操船方法。
【請求項22】
請求項10に記載の航走体(1)における操船方法であって、前記推力発生ユニット(20)の一部若しくは全部、又は、前記面状推進構造体(11)の一部若しくは全体において、航走体(1)に対する取り付け位置を変化させることにより、操船モーメント(Mt)を発生させることを特徴とする航走体の操船方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水上又は水中を航走する航走体に備える面状推進システム、航走体、航走体の航走方法、及び、航走体の操船方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水上を航行する船舶や水中を潜航する潜水船等の航走体においては、航走体が航走する際に、水面に発生する波に起因する造波抵抗や、摩擦抵抗と圧力抵抗等の水の粘性に起因する抵抗を受けるため、これらの抵抗に抗する推進力を必要とする。
【0003】
この推進力を得るために、従来技術においては、船舶や潜水艦では、推力を発生するためのプロペラ推進器、旋回式推進器(ポッド推進器、アジマス推進器)、ウォータージェット推進器などの推進器を、多くの場合、船体の後部即ち船尾に配置している。
【0004】
そして、推進器を船尾に配置する場合では、ディーゼルエンジン、タービンエンジン等の主機関と推進器との間の動力伝達を、プロペラ回転軸等の機械的伝動機構を介して行う場合が多く、主機関も船尾側に配置する構成が多い。そのため、主機関の配置用の容積を船尾側に確保する必要があり、船尾形状が太くなる。その結果、船尾の流れにおいて、船体に引きずられタ流れである伴流(後流)が大きくなって、圧力抵抗が大きくなり易いという問題がある。
【0005】
また、水上航走体では、推進器と舵を船尾に配置する場合は、舵を推進器の後流中に配置して舵の性能を大きくするために、推進器の上方に延長した船尾に舵取機を設けて、舵を船尾の下に配置している。また、舵を設けずに旋回式推進器を船尾に配置する場合でも、船尾の形状を大きく変化させることなく、推進器の上方に延長した船尾の下に旋回式推進器を配置している。
【0006】
この船尾における主機関と推進器と舵の配置の関係から船尾の形状が有る程度の限定されてしまうため、水上航走体では、船尾において、船底から船尾端にかけて上昇流が生じて、造波抵抗の原因となる船尾波が発生する。また、推進器に流入する流れにおいて、この上昇流れと推進器の上側に船尾が張り出していることにより、上下方向に非対称な流れが発生する。それと共に、推進器のプロペラの回転駆動により、推進器の前方の流れにも影響が生じて左右方向にも関しても非対称な流れが発生する。これらのために、推進器に流入する流れは複雑な流れとなり、推進効率の低下やプロペラの振動などの問題が生じている。また、推進器の直上に船尾の延長部分があることにより、プロペラの振動に加えて船体振動も問題となっている。
【0007】
この航走体の船尾波対策として、船尾における上昇流を抑えるために、船尾の底部に凹部を設けたり、トリムタブ、ウェッジ、ダックテイルなどと呼ばれる水流偏向体を設けたりすることが提案されてきている。
【0008】
より詳細には、船尾の底部の形状に関しては、例えば、船底面に船尾トンネルを構成して、航行時に船底面に沿う水流を船尾のプロペラの上部へ導くと共に、プロペラよりも後方の位置に上昇傾斜から下降傾斜に移行する変曲部を有する凹部を設けて、この下降傾斜における凹部の湾曲度合を連続的に減少させることで、前方の船底からプロペラ上部に向かう上方向の流れを、変曲部を境にして、変曲部から船尾端に向かう下方向の流れに変化させて、船尾端に生じる波崩れや造波を抑制して、船尾造波抵抗を低減する船舶の船尾構造が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、水流偏向体に関しては、例えば、船尾端の船底に設けた後ろ下がりに傾斜した水流偏向体(ウェッジ)と水流偏向体から下側に突出する整流板を備えることで、船底から船尾の後方に上昇してくる水流を抑えると共に外側へ向かう流れの形成を防止して、船尾の沈下量の低減と船尾波の発生の抑制を図る船尾形状が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0010】
また、船尾における水流とプロペラとの関係の改善対策として、プロペラ前方に船尾用仕切壁や船尾フィンを設けたり、プロペラの後方に舵フィンを設けたりする様々な方法が提案されてきている。
【0011】
より詳細には、船尾用仕切壁に関しては、例えば、プロペラの直前に角度範囲が180度から270度の開度の略円弧状の船尾用仕切壁(部分小型仕切壁)を取り付けて、この船尾仕切壁本体の傾き角度を所定の角度範囲内にすることにより、仕切壁本体を船体に付加しても船体の抵抗を増加させることなく、プロペラにより生じる非対称の流れに対応して、船殻効率を改善する方法が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
また、船尾フィンに関しては、例えば、船体の船尾側のビルジに設けられて、根元部と先端部で水平面に対する角度が相違する船尾フィンを設けることで、船側に沿って後方に流れる水流と船底に沿って後方に流れる水流が交差して発生するビルジ渦を、プロペラの回転面に適正に誘導して、プロペラの推進効率を向上する方法が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【0013】
また、舵フィンに関しては、例えば、舵の両側に張り出す前進翼形状のフォアフィンと、プロペラの後流が下降流になる側のみに配置される後退翼形状のアフトフィンを備えることで、プロペラ後流を利用してフィンに働く前方成分の力によって推進方向の力を発生させて、プロペラの推進効率を向上する船舶舵フィン装置が提案されている(例えば、特許文献5参照)。
【0014】
そして、従来技術においては、航走体の航走に必要な推進力の増大への対応に関しては、プロペラの性能向上とプロペラの大径化と推進器の基数の増加で対応している。このプロペラの性能向上に関しては、可変ピッチプロペラ、ハイスキュープロペラ、スーパーキャビテーションプロペラ、サーフェスプロペラ、二重反転プロペラなどが開発され、実用化が進んでいる。
【0015】
この二重反転プロペラでは、プロペラによる回転流の発生に伴うエネルギー損失を減少するために、後方プロペラを設けてこのプロペラを逆方向に回転させることで、前方プロペラにより発生した回転流のエネルギーを回収している。これに関しては、例えば、船体側の主プロペラの後方にポッド推進器のポッドプロペラを対向させて配置することで二重反転プロペラを構成する二重反転プロペラ推進方式の船舶が提案されている(例えば、特許文献6参照)。
【0016】
また、プロペラの大径化に関しては、船尾の船底との間の隙間(クリアランス)が狭くなると、キャビテーション、船体振動、プロペラ振動などの問題が発生する。また、軽荷状態では、プロペラ先端の水面上へ露出の問題があり、推進器の一部が水面上に露出しないように、バラスト調整して、船尾が船首よりも深く沈む船尾トリムの姿勢を取る必要が生じ、船体の造波抵抗や粘性抵抗等の推進抵抗が大きくなってしまうという問題がある。
【0017】
また、推進器の基数に関しては、一基の推進器では必要な推進力に不足する場合や、軍用船のように冗長性が求められる場合には、推進器の基数を増加することで対応している。この推進器の基数に関しては、必要な推進力を賄うために合推進器の基数を増やす場合では、三基までの推進器の配置が多く、せいぜい五基までと考えられる。具体的には、一基の場合は、船尾中央に一基で、二基の場合は、船尾中央に対して対称配置の二基で、三基の場合は、船尾中央とその両側の二基の計三基が配置されている。
【0018】
そのため、さらに大きな推進力を得るためには、個々の推進器の推力を大きくする必要があり、設計、製造、保守において、高度な技術が必要となるという問題がある。また、推進器の複数基の配置に伴う船尾形状や、通常では推進器毎に設けられる主機関を複数基配置するためのスペースの確保や配置レイアウトの問題が生じる。
【0019】
また、その一方で、近年では、プロペラの中心軸を駆動して推力を得るポッド推進器や、プロペラの周囲のリムを駆動するリム駆動の推進器等が実用化されてきている。また、船体の船尾管を通過する主機関の駆動軸からの機械的伝動機構から動力を得ないで、電力等を用いて、プロペラを駆動する方式も実用化されてきている。
【0020】
このポッド推進装置においては、電動モータでプロペラを駆動するポッド推進装置が提案されており、例えば、その電動モータの冷却に関して、強制冷却空気の流れを周期的に変化させる方法が提案されている(例えば、特許文献7参照)。
【0021】
また、旋回自在なポッドにおいて、二重反転プロペラを、前方のプロペラに対して、ポッドの後方に仕切壁付きのプロペラを設けて構成することで、直進時と旋回時とを問わず、低速で高荷重度の作動状態で高い推進器効率を得るコンパクトなダブルエンド型二重反転システムの推進装置が提案されている(例えば、特許文献8参照)。
【0022】
そして、リム駆動の推進器として、例えば、従来技術におけるプロペラ軸が貫通する船尾管からの浸水の問題と、プロペラの中間軸のスペース確保の問題と、主機関の機関室配置の制約の問題の解決を図るために、プロペラ羽根と、このプロペラ羽根の周囲に設けられたプロペラ仕切壁と、このプロペラ仕切壁に設けられたリニアモータの回転子と、この回転子に協動するように船体側に設けられたリニアモータの固定子とを備えた無駆動軸プロペラ装置が提案されている(例えば、特許文献9参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0023】
【特許文献1】特開2017-77754号公報
【特許文献2】特開2010-30402号公報
【特許文献3】特開2015-221652号公報
【特許文献4】特開2019-156309号公報
【特許文献5】特開2020-175741号公報
【特許文献6】特開2014-40169号公報
【特許文献7】特表2017-518220号公報
【特許文献8】特開2012-96767号公報
【特許文献9】特開昭61-235295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0024】
上記のように、従来技術の水上航走体及び水中航走体においては、推進器が配置されている船体後方に主機関を配置することにより、船体後方の形状、特に船尾形状に大きな制約があり、この船尾形状に起因する船尾波と複雑な伴流に対応するため、船尾形状やプロペラの周囲の流れについて、多大な研究開発が行われてきている。言い換えれば、主機関の後方配置、及び、推進機構並びに操舵機構の船尾配置に起因して発生する流れ場への対応の問題がある。
【0025】
また、単独または2~5基の少数基の推進器で推進力を得ているため、船尾の流れに対して推進器の作動による影響が大きく、船尾の流れが非対称となり、複雑な流れ場となる。この流れ場に対して、船尾フィンや舵フィン等の整流用部材による整流対策や、二重反転プロペラなどによる回転損失エネルギーの低減が必要となる。そのため、これらの現象に対しても多大な研究開発が行われてきている。言い換えれば、少数基の推進器による流れ場の変化への対応の問題がある。
【0026】
さらに、少数基の推進器で推進力を得ているので、航走体で大きな推進力を得るためには、個々の推進器の推力を大きくする必要がある。この対策の一つとして、プロペラの大径化があるが、このプロペラの大径化には限界がある。例えば、電動モータをポッド推進器のポッド内に収容している場合には、この電動モータを冷却する必要が有り、一基あたりの容量が大きく成るとこの冷却が困難になる。言い換えれば、少数基の推進器による推進力確保に対して、推進器の推力の増大における限界の問題がある。
【0027】
さらに、軽荷状態における船体姿勢に関して、推進器の没水深度を確保するために船体姿勢を船尾トリムとするために、推進効率の悪化だけでなく、本来であったら不要な推進力が必要になって燃費が悪化する上に、船尾トリムとするためのバラスト水に関して、バラストタンクの容積の確保とバラスト水の排出にともなうバラスト水処理の問題がある。
【0028】
本発明は上記のことを鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、水上を航行する船舶等の水上航走体や潜水艦等の水中を航行する水中航走体等の航走体において、船体形状と推進器の間の水流に関する関係を分離して、面状に配置した推力発生ユニットの個別制御で船体形状によって変化する伴流へ対応することで、船体形状に関係なく配置できて、船尾における船尾波の低減と圧力抵抗の減少を図ることができ、しかも、容易に航走体の推進性能及び操船性能を向上できる面状推進システム、航走体、航走体の航走方法、及び、航走体の操船方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0029】
上記のような目的を達成するための本発明の面状推進システムは、複数基の推力発生ユニットを帯状又は平形状又は曲面状に配置して形成する面状推進構造体と、前記推力発生ユニットを個別に制御する制御装置を備えていると共に、前記推力発生ユニットが仕切壁と前記仕切壁内の推進器と前記推進器を駆動する駆動装置を備えて構成され、前記推力発生ユニットが前記仕切壁を介して互いに連結されていることを特徴とする面状推進システムである。
【0030】
この「推力発生ユニット」は、仕切壁の入口側から流入した水を推進器で加速又は素通り又は減速してから仕切壁の出口側に排出すると共に推力又は抵抗を発生する装置である。この推進器を囲む仕切壁の外形部分は隣接する推力発生ユニットとの連結部分となると共に、仕切壁の内部に流入する水の流出方向を整える整流機能を持つ。
【0031】
また、「面状推進構造体」は、個別に制御可能な推力発生ユニットの流入側と流出側の向きを揃えて推力が発生する部分を面状に配置した構造体である。この面状推進構造体は、配置される場所に応じて、後方(推力発生ユニットで水が流出する方向)から見た形状が、帯状又は面状になるように、推力発生ユニットを並べて配置する。また、推力発生ユニットの前後方向に関しては、必ずしも推力発生ユニットの流入面や流出面を揃えて平面的に配置する必要は無く、凹凸が有ってもよく、全体として曲面を形成するように配置してもよい。
【0032】
そして、これらの推力発生ユニットは、直線状、曲線状、凹凸線状、平面状、曲面状、凹凸面状等に配置して、相互の仕切壁の一部を共有することで連結されたり、又は、仕切壁同士を当接して連結されたり、又は、連結部材を介して相互の仕切壁の間を連結されたりする。
【0033】
上記の構成の面状推進システムによれば、推力の小さい推力発生ユニットを集めて、大きな推力を得るので、この推力発生ユニット自体は、従来の推力の大きい推進装置に比べて小型化できる。そのため、推力発生ユニットの製造には、高度な技術や特別な材料や大きな設備が不要となる。そして、設計、実験、製造、メンテナンス、交換等が容易な小推力の推力発生ユニットを用いることで、推力発生ユニットの規格化、量産化、低コスト化、短納期化を図ることができる。また、面状推進構造体を比較的小型の推力発生ユニットの集合体とすることにより、個々の航走体又はシリーズ船型等の航走体に合わせた推進器の注文生産から抜け出すことができ、面状推進システムを低コスト化することができる。
【0034】
そして、この面状推進構造体が小型の推力発生ユニットの集合体で構成されるので、個々の推力発生ユニットにおいては、流入面積が小さくなる分だけ、流入する流れが均等化される。そのため、推力発生ユニットが単体で発生する振動及び騒音を小さくすることができる。また、集合体として、隣接する推力発生ユニットの振動同士及び騒音同士を相互干渉させることにより、振動及び騒音の低減を図ることもできるようになる。そして、振動及び騒音に対する構造的な対策も比較的容易となる。これらにより、音響探知に対するステルス性を増すことができる。
【0035】
また、航走体に必要とされる推力が推力発生ユニットの推力の合計となるので、必要とされる推力に応じて、推進器の数と配置を考慮するだけで済み、新たに必要な推力に対応する推進器を設計及び製造する必要が無くなる。また、実船が航行した後、例えば、海上公試運転(船舶建造の最終段階で行う性能試験)の後でも、推進力が不足又は過剰となった場合には、推力発生ユニットを追加または減少することで推進力を比較的容易に増減できる。さらに、面状推進システムを備えた航走体の運用方法の変更などで推力が過剰又は不足となった場合でも、一部の推力発生ユニットの稼働停止や取り外しや追加等で容易に対応できる。
【0036】
そして、上記の面状推進システムにおいて、前記推力発生ユニットの仕切壁の外形が、正三角形、正四角形、正六角形、正八角形のいずれかの形状をしていることが好ましい。この構成により、隣接する推力発生ユニットをこれらの仕切壁の辺同士を介して連結することにより、推力発生ユニットを帯状又は面状に配置し易くなる。特に正六角形とした場合には、仕切壁の形状が円形に近くなり、仕切壁内の流れを比較的均等化し易く、また、推力発生ユニットを蜂の巣状に配置することで、密集した形で多様な形状の面状推進構造体を容易に形成できるようになる。
【0037】
そして、上記の面状推進システムにおいて、前記推進器の動力源を電力又は流体圧とすることが好ましい。これらの動力を電力線や油圧配管などで伝達する構成により、面状推進構造体を備える航走体からの機械的な動力伝達機構(歯車や回転軸等)が不要になり、面状推進構造体の構成を簡単化できる。また、機械的な動力伝達機構を収容する没水部分が不要になるので、推進抵抗を低減して推進性能も高めることができると共に、推力発生ユニットを小型化できる。従って、面状推進構造体においても、推進抵抗を減少して推進性能を高めることができる。また、機械的な動力伝達機構に起因する振動や騒音を無くすことができ、音響に関するステルス性を高めることができる。
【0038】
そして、上記の面状推進システムにおいて、前記推力発生ユニットが流入する流れから電気を発電できる電動発電機を備えて構成されることが好ましい。この構成により、推力発生ユニットを抵抗の一部として使用できるようになり、一部又は全部の推力発生ユニットを抵抗として使用することで、面状推進構造体を舵及びブレーキの代わりに使用することができるようになる。さらに、船尾波の流速の速い部分に配置された推力発生ユニットで、船尾波の波エネルギーの一部を回収したりすることができ、船舶全体から見た場合に省エネルギー効果を得ることができるようになる。
【0039】
また、上記の面状推進システムにおいて、前記推進器がコア駆動の推進器又はリム駆動の推進器であることが好ましい。このコア駆動方式は、ポッド推進器などで従来から用いられているプロペラの中心に設けた回転軸でプロペラを回転させる駆動方式である。このコア駆動方式を採用することで、容易に推力発生ユニットの推進器を構成できる。また、リム駆動方式は、プロペラの中心部の回転軸を回転させずに、プロプラの周囲のリムを回転させる駆動方式である。このリム駆動方式を用いることで、中心部の流れを有効利用でき、推進効率を向上できる。
【0040】
そして、上記の面状推進システムにおいて、前記推力発生ユニットが二重反転プロペラを備えて構成されることが好ましい。この構成により、推力発生ユニットの前方プロペラによる水流の回転エネルギーを後方プロペラで回収できるので、推力発生ユニットの推進効率を向上することができる。また、推力発生ユニットから流出する水の回転流が著しく抑制されるので、面状推進構造体の後流における渦流が減少し、航走体と面状推進構造体との全体構成から見たときのエネルギー損失を減少することができる。なお、二重反転プロペラは機構が複雑になるので、プロペラの回転方向を互いに逆方向にした一対の面状推進構造体を前後に配置してもよい。
【0041】
そして、上記の面状推進システムにおいて、前記推力発生ユニットが可変ピッチプロペラを備えていることが好ましい。この構成により、個々の推力発生ユニットの発生推力の調整及び回生エネルギーの回収電力の調整が容易となる。
【0042】
そして、上記の面状推進システムにおいて、前記推力発生ユニットの基数の60%以上かつ100%以下において、隣接する前記推力発生ユニットのプロペラの回転方向が互いに逆方向に構成されていることが好ましい。この構成により、隣接する推力発生ユニットから流出する水の回転方向が逆方向となるので、互いに干渉させることにより、面状推進構造体の後流における渦流を減少させて、航走体と面状推進構造体との全体構成から見たときのエネルギー損失を減少することができる。
【0043】
そして、上記のような目的を達成するための本発明の航走体は、上記の面状推進システムを備えると共に、少なくとも航走時において、前記面状推進構造体を、船尾に船体とは離間させて配置していることを特徴とする航走体である。
【0044】
あるいは、本発明の航走体は、上記の面状推進システムを備えると共に、少なくとも航走時において、前記面状推進構造体を、船側若しくは船底に当接して配置、又は、船側若しくは船底に対して離間した位置に配置していることを特徴とする航走体である。
【0045】
この「航走体」は水上航走体又は水中航走体である。そして、本発明の航走体における効果は、特に、水上航走体では、船舶の浮力による分類で「最も一般的な船体下部が水面下に沈むことで浮力を得る船である。航行時と停船時のいずれでも浮力を得る方法に変りはない。」という「排水量型船舶」において効果が大きい。また、水中航走体では、調査用若しくは探査用の潜水艇、軍用の潜水艦等で効果が大きい。
【0046】
また、「少なくとも航走時において」という意味は「航走時でないときは、この位置に無くてもよい」という意味である。言い換えれば、出入港時や停泊時などの自航しないときには、推進用機器を、航走時とは別の場所に移動又は収納しておいてもよいということである。
【0047】
この面状推進航走体を構成する個々の推力発生ユニットにおいては、流入面積が比較的小さいので、流入する流れが均等化し、比較的単純な流れとなる。また、個々の推力発生ユニットの流出速度の調整が容易となり、面状推進構造体の後方の流れの流速を面状推進構造体の前方の流れ場よりも、より均等化できる。これにより、個々の推力発生ユニットにおける流れを単純化でき、推力発生ユニットにおける推進効率の維持と振動の抑制と騒音の抑制を図ることができる。
【0048】
そして、面状推進構造体を船尾に配置する航走体では、面状推進構造体を、航走体の船尾と離間させて配置することにより、船尾近傍の伴流の複雑な流れが干渉し合った後の比較的単純化された流れ場に面状推進構造体を配置できる。また、面状推進構造体を船側若しくは船底に配置する航走体では、伴流などにより、流れが複雑となる船尾及び船尾の近傍を避けて、航走体の船体による流れ場の乱れが比較的小さい流れ場に、面状推進構造体を配置できる。
【0049】
これらの構成により、船体の近傍の流れ場と面状推進構造体による流れ場との相互影響を小さくすることができる。つまり、面状推進構造体による船体への流体力学的な相互影響を著しく低減できる。その結果、船体の推進性能と面状推進構造体の推進性能を分離して扱うことができるようになり、面状推進システムと航走体の船体の研究開発、設計、製造を別個に行うことができるようになる。その結果、人的資源、物理的資源を節約できる。
【0050】
さらに、個々の推力発生ユニットの流出水の流速を個別に制御することで、航走体と面状推進構造体の全体で見たときに、その後流の乱れを小さくすることができるので、後流によるエネルギー損失を小さくすることができる。また、後流に関係深いウェーキを小さくできるので、ウェーキの視認及び音響による航走体の発見に対してのステルス性を増すことができる。
【0051】
また、構造的には、面状推進構造体の振動が船体へ伝達される伝搬経路を、面状構造体と船体を連結する支持体に絞ることができる。従って、振動及び騒音への対策を単純化でき、支持体で振動の伝搬防止対策を行うことで、大きな振動低減効果を得ることができる。言い換えれば、従来技術における、船体の伴流における流れの乱れに起因する推進効率の低下、船体振動、プロペラ騒音等を解決できる。
【0052】
また、製造に際しては、量産化できる推力発生ユニットの組み合わせで面状推進構造体を形成できる。そのため、航走体の建造工程の進捗状態と関係なく、航走体の建造と平行して、面状推進構造体を構成及び製造できる。従って、工期を短くすることができる。また、面状推進構造体を航走体から簡単に分離できるので、メンテナンスも船体と分離して行うことができ、部分的な推力発生ユニットの交換や航路変更に伴う推進力の変更なども容易に行えるようになる。
【0053】
上記の航走体において、前記面状推進構造体を水面上、又は、甲板上若しくは船内に移動する移動機構を備えて構成する。これにより、航走体の接岸時等で面状推進構造体が邪魔になる場合に、面状推進構造体を移動することができる。例えば、カーフェリーなどでは、面状推進構造体を船尾の上側に回動して、船尾側又は船側を接岸可能にすることにより、車両などの荷役を容易にすることができる。さらに、面状推進構造体を水面上に移動することにより、停泊中に水生生物により推力発生ユニットが汚染されるのを防止することができ、また、面状推進構造体のメンテナンス作業、交換作業などが容易となる。
【0054】
そして、本発明の航走体の航走方法は、上記の航走体の前進時における航走方法であって、前記面状推進構造体を構成する前記推力発生ユニットの流出流の流速が、これらの流速の平均値の80%以上でかつ120%以下になるように調整しながら、前記面状推進構造体の推力を発生して航走することを特徴とする航走体の航走方法である。
【0055】
この航走方法によって、推力発生ユニットの流出流の流速が均等化することにより、面状推進構造体の後方の流れが面状に一様化されるので、航走体と面状推進構造体の系の後流においては、大きな乱れのある伴流が無くなり、伴流に伴う損失エネルギーを低減できる。また、航走体の周囲の水域に対する面状推進構造体による攪乱が小さくなるので、航跡が小さくなる。その結果、上空からの監視やウェーキ探知魚雷に対するステルス性を高めることができる。
【0056】
なお、ここでは、推力発生ユニットの流出流の平均流速を均等化することで航跡の減少を図っているが、さらに、面状推進構造体の後流が、航走体の周囲の水流により速やかに混合して、航跡が早期に消滅するような面状推進構造体の後方の流速分布を水槽試験やCFD(数値流体力学:計算流体力学)などで求めて、この流速分布になるように個々の推力発生ユニットの推力を調整することが望ましい。この流速分布は、水槽実験、数値流体力学手法(CFD)、実船における実験などで求められるものと考える。
【0057】
また、本発明の航走体の航走方法は、上記の航走体における操船方法であって、一部の前記推力発生ユニットが水面上に露出している状態で航走する時に、水面上に露出している前記推力発生ユニットの稼働を停止すると共に、水没している前記推力発生ユニットの一部又は全部を稼働して、前記面状推進構造体の推力を発生して航走することを特徴とする航走体の航走方法である。
【0058】
この選択的稼働の航走方法によって、水面上に露出した推力発生ユニットの稼働による不具合が無くなると共に、航走体の姿勢を推進抵抗の少ない姿勢に維持しつつ、推力発生ユニットの推進効率の良い稼働領域で、航走体の航走に必要な推力を得ることができる。従って、推進効率を向上でき、省エネルギーで航走できる。また、軽荷状態においても、船尾トリムを取る必要が無いので、船尾トリム用のバラスト水が不要になり、バラストタンクやバラスト水処理装置も不要になる。
【0059】
そして、本発明の航走体の操船方法は、上記の航走体における操船方法であって、前記面状推進構造体を構成する前記推力発生ユニットの一部分の推力又は抵抗を、前記推力発生ユニットの他の部分の推力又は抵抗と異ならせることにより、操船用ーメントを発生させることを特徴とする航走体の操船方法である。
【0060】
この操船方法では、面状推進構造体の推力発生ユニットの個別制御により、操船モーメントを発生できるので、舵及び操舵機が不要になる。そのため、船尾形状の自由度が格段に増加し、より推進性能が良い船尾形状を採用できるようになる。
【0061】
または、本発明の航走体の操船方法は、上記の航走体における操船方法であって、前記推力発生ユニットの一部若しくは全部、又は、前記面状推進構造体の一部若しくは全体において、航走体の前後方向に対する取り付け方向を変化させることにより、操船モーメントを発生させることを特徴とする航走体の操船方法である。
【0062】
この操船方法では、推力発生ユニットや面状推進構造体の取り付け方向を変化させる機構が必要になるが、非常に強力な操船モーメントを得ることができるようになる。また、舵及び操舵機が不要になるため、船尾形状の自由度が格段に増加し、より推進性能が良い船尾形状を採用できるようになる。この取り付け方向を変化させる機構としては、例えば、面状推進構造体の支持部材を伸縮可能に構成するだけという比較的簡単な構成を採用することができる。
【0063】
または、本発明の航走体の操船方法は、上記の航走体における操船方法であって、前記推力発生ユニットの一部若しくは全部、又は、前記面状推進構造体の一部若しくは全体において、航走体に対する取り付け位置を変化させることにより、操船モーメントを発生させることを特徴とする航走体の操船方法である。
【0064】
この操船方法では、操船時の推力発生ユニットの位置と操船モーメントの発生方向及び大きさを自由に変更できるので、操船性能を著しく向上させることが容易にできる。また、推力発生ユニットは元々独立したものであるので、この推力発生ユニットの位置変更は簡単な構成で容易に行うことができる。また、面状推進構造体が小規模の場合は、面状推進構造体そのものを移動することも容易にできる。
【発明の効果】
【0065】
本発明の面状推進システムによれば、従来技術では、シリーズ船型に合わせて注文生産的に設計及び製造された1基~5基程度の比較的少数基の推進器を用いているが、比較的小型で機構が単純で、規格化及び量産化が可能な推力発生ユニットの組み合わせで推進機構を構成するので、注文生産から脱却して、事前生産が可能となる。また、納期を著しく短縮できる。さらに、航走体の船体の製造工期と推進機構の製造工期を分離できる。
【0066】
また、面状推進構造体における推進力調整を推力発生ユニットの個数で調整できる。そのため、航走条件が変化して、航走体に必要な推進力が変化した場合でも容易に対応できる。その上、大きな推進力を得る場合でも、推力発生ユニットの個数を増加することで対応できるので、大推進力を発生させるための推進機構が不要になり、この推進機構のための高度な技術力が不要になり、それに伴い、大規模の研究開発用の施設や大規模の製造設備が不要になる。
【0067】
本発明の航走体によれば、支持部材等を用いて面状推進構造体を配置する構成であるので、駆動軸を船尾管に通すという、高度な技術を要する工事が不要になる。また、主機関及び発電機の位置を船尾に限定する必要がなくなるので、船体形状の自由度が著しく増加する。また、面状推進構造体の配置位置を船体と離間させて配置する構成では、船体の流場と面状推進構造体の流場との干渉が小さくなるので、船体の流場に関する研究と面状構造体に関する流場の研究とを分離できる。従って、研究開発の人的資源や設備や資金の節約ができる。
【0068】
本発明の航走体の航走方法によれば、各推力発生ユニットから流出する水の平均流速を均等化することにより、推力発生ユニットを推進効率が良い状態で稼働でき、全体としての推進効率を向上できる。また、面状推進構造体の後流が略同じ流速に均等化されるので、この後流による損失エネルギーを小さくすることができる。また、面状推進構造体の後流が外部の流れと攪乱が少ない状態で混合し易く、後流に起因する航跡を小さくすることができ、航跡の視認に対するステルス性を向上できる。
【0069】
また、本発明の航走体の航走方法によれば、露出する推力発生ユニットの稼働を停止することにより、プロペラ先端の露出に伴う振動と騒音の問題を回避できる。従って、船尾トリムを取る必要が無くなるので、船尾トリム用のバラスト水が不要になり、バラストタンクとバラスト水の処理装置も不要となる。また、船尾トリムを採用しないので、推力発生ユニットの軸方向を傾けることが無く、常時、推進効率の良い状態で稼働できる。
【0070】
本発明の航走体の操船方法によれば、推力発生ユニットの推力若しくは抵抗の大きさの調整、又は、推力発生ユニット若しくは面状推進構造体の取り付け方向の変化、又は、推力発生ユニット若しくは面状推進構造体の取り付け位置の変化という比較的簡単な操作により操船モーメント得ることができる。その結果、舵及び操舵機構が不要になるので、舵を装備するための船尾構造が不要になり、船尾形状の自由度が増す。
【0071】
そして、本発明によれば、水上を航行する船舶等の水上航走体や潜水艦等の水中を航行する水中航走体等の航走体において、船体形状と推進器の間の水流に関する関係を分離して、面状に配置した推力発生ユニットの個別制御で船体形状によって変化する伴流へ対応するので、船体形状に関係なく配置できて、船尾における船尾波の低減と圧力抵抗の減少を図ることができ、しかも、容易に航走体の推進性能と操船性能を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0072】
【
図1】
図1は本発明の第1の実施の形態の航走体(船舶)における面状推進システムの構成を模式的に示す平面図である。
【
図4】
図4は本発明の第2の実施の形態の航走体(船舶)における面状推進システムの構成を模式的に示す平面図である。
【
図7】
図7は本発明の第3の実施の形態の航走体(潜水艦)における面状推進システムの構成を模式的に示す平面図である。
【
図10】
図10は推進器がコア駆動のプロペラである推力発生ユニットを模式的に示す図であり、(a)は側断面図で、(b)は正面図である。
【
図11】
図11は推進器が電磁式のリム駆動のプロペラで、かつ、プロペラ翼を固定する中心部がある推力発生ユニットを模式的に示す図であり、(a)は側断面図で、(b)は正面図である。
【
図12】
図12は推進器が機械式のリム駆動のプロペラで、かつ、プロペラの中心を回転軸で支持する推力発生ユニットを模式的に示す図であり、(a)は側断面図で、(b)は正面図である。
【
図13】
図13は推進器が流体圧式のリム駆動のプロペラで、かつ、プロペラ中心軸が無い推力発生ユニットを模式的に示す図であり、(a)は側断面図で、(b)は正面図である。
【
図14】
図14は推進器がウォータージェット推進器のポンプである推力発生ユニットを模式的に示す図であり、(a)は側断面図で、(b)は正面図である。
【
図15】
図15は面状推進構造体を船尾から離間して配置した航走体を模式的に示す図であり、(a)は底面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図16】
図16は面状推進構造体を船体の側方に配置した航走体を模式的に示す図であり、(a)は底面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図17】
図17は面状推進構造体を船尾の側面に配置した航走体を模式的に示す図であって、(a)は底面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図18】
図18は面状推進構造体を船体の底面に配置した航走体を模式的に示す図であって、(a)は底面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図19】
図19は側方配置の面状推進構造体の前後回動の移動機構を模式的に示す図であり、(a)は平面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図20】
図20は側方配置の面状推進構造体の横回動の移動機構を模式的に示す図であり、(a)は平面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図21】
図21は船尾配置の面状推進構造体の前後回動の移動機構を模式的に示す図であり、(a)は平面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図22】
図22は側方配置の面状推進構造体の昇降の移動機構を模式的に示す図であり、(a)は平面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図23】
図23は本発明の航走体(船舶)の前進時における面状推進構造体の流出流の流速分布をイメージ的に示す図であり、(a)は平面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図24】
図24は本発明の航走体(潜水艦)の前進時における面状推進構造体の流出流の流速分布をイメージ的に示す図であり、(a)は平面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図25】
図25は軽荷状態における推力発生ユニットの選択的稼働の例を示す図であり、(a)は側面図で、(b)は背面図である。
【
図26】
図26は低速航走における推力発生ユニットの選択的稼働の例を示す図であり、(a)は側面図で、(b)は背面図である。
【
図27】
図27は面状推進構造体を船尾に配置した航走体の操船モーメントの発生方法を説明するための平面図であり、(a)は右舷側と左舷側の推力の差により発生する操船モーメントを示す図で、(b)は右舷側の推力と左舷側の抵抗により発生する操船モーメントを示す図である。
【
図28】
図28は面状推進構造体を船体の側方に配置した航走体の操船モーメントの発生方法を説明するための平面図であり、(a)は左右の推力発生ユニットにおける推力の差により発生する操船モーメントを示す図で、(b)は左右の推力発生ユニットにおける推力と抵抗により発生する操船モーメントを示す図である。
【
図29】
図29は、船尾配置の個々の推力発生ユニットの方向変更で発生する操船モーメントを模式的に示す平面図であり、(a)は直進時を示す図で、(b)は推力発生ユニットの一部を方向変更した場合を示す図で、(c)は推力発生ユニットの全体を方向変更した場合を示す図である。
【
図30】
図30は、船尾配置の面状推進航走体の方向変更で発生する操船モーメントを模式的に示す平面図であり、(a)は直進時を示す図で、(b)は面状推進構造体の一部を方向変更した場合を示す図で、(c)は面状推進構造体の全体を方向変更した場合を示す図である。
【
図31】
図31は、推力発生ユニットの位置移動で発生する操船モーメントを模式的に示す平面図であり、(a)は直進時を示す図で、(b)は推力発生ユニットの一部を位置移動した場合を示す図で、(c)は推力発生ユニットの全部を位置移動した場合を示す図である。
【
図32】
図32は、面状推進構造体の位置移動で発生する操船モーメントを模式的に示す平面図であり、(a)は直進時を示す図で、(b)は面状推進構造体の一部を位置移動した場合を示す図で、(c)は面状推進構造体の全部を位置移動した場合を示す図である。
【
図33】
図33は従来技術の船舶の前進時における後流の流速分布をイメージ的に示す図であり、(a)は平面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【
図34】
図34は従来技術の潜水艦の前進時における後流の流速分布をイメージ的に示す図で、(a)は平面図で、(b)は側面図で、(c)は背面図である。
【発明を実施するための形態】
【0073】
〔イントロ〕以下、図面を参照して本発明に係る面状推進システム、航走体、航走体の航走方法、及び、航走体の操船方法の実施の形態について説明する。
【0074】
〔図の概説〕
図1~
図9は面状推進システムの構成を模式的に示す図であり、
図1~
図6は本発明に係る水上航走体の排水量型の船舶を例示する図で、
図7~
図9は、本発明に係る水中航走体の潜水艦を例示する図である。なお、
図1~
図7の航走体1の船体没水部の形状は対称翼型形状(NACA0020の翼型の形状)を例示している。また、
図10~
図14は、推力発生ユニットの推進器を模式的に例示する図であり、
図15~
図18は、航走体における面状推進構造体の配置を例示する図である。
【0075】
そして、
図19~
図22は、航走体における面状推進構造体の移動機構を例示する図である。
図23と
図24は航走体の前進時の流出流の流速分布を例示する図である。
図25と
図26は航走体の航走状態と推力発生ユニットの選択的稼働を例示する図である。
図27~
図32は、航走体における操船モーメントに関する図である。
図33と
図34は従来技術における航走体の前進時の流出流の流速分布を例示する図である。
【0076】
なお、図面は本発明を説明するための概略図であり、必ずしも正確な寸法の比率で示されているものでもなく、船型、各種構造物の形状、大きさ、相対位置などは必ずしも正確に示されていない。
【0077】
〔面状推進システム〕最初に、本発明に係る実施の形態の面状推進システムについて図面を参照しながら、説明する。
図1~
図9に示すように、面状推進システム10は、複数基Nの推力発生ユニット20を帯状又は面状に配置して形成する面状推進構造体11と、この推力発生ユニット20を個別に制御する制御装置14を備えて構成される。そして、推力発生ユニット20は、仕切壁21と、この仕切壁21内の推進器22と、この推進器22を駆動する駆動装置23を備えて構成される。さらに、推力発生ユニット20は仕切壁21を介して互いに連結されて構成される。より具体的には、仕切壁21は、仕切壁21の一部を互いに共有されていたり、仕切壁21の一部が当接していたり、又は、仕切壁21の一部が連結部材により連結されていたりする。
【0078】
この面状推進システム10は、
図1、
図4、及び、
図7に示すように、面状推進構造体11と支持機構12と駆動源13と制御装置14を有して構成される。この面状推進構造体11は、推力発生ユニット20を帯状又は面状に配置して構成される。支持機構12は面状推進構造体11を航走体1に固定すると共に、面状推進構造体11で発生する推進力Ttを航走体1に伝達する。
【0079】
駆動源13は電力等の駆動エネルギーを動力供給ライン13a経由で推力発生ユニット20の駆動装置23に送る装置である。この駆動源13は、主機関等の機関2によって駆動される。制御装置14は、制御信号ライン14a経由で、駆動源13と推力発生ユニット20の駆動装置23を制御する。また、制御装置14は、必要に応じて機関2も制御する。機関2はディーゼルエンジンやガスタービンエンジン等で構成される。これらの装置は、通常は、航走体1に配置される。また、面状推進構造体11は、通常は、航走体1の外部に、航走体1とは別体として配置される。
【0080】
〔推力発生ユニット〕そして、面状推進構造体11を形成する推力発生ユニット20は、
図1の推力発生ユニットの拡大図及び
図10~
図14に示すように、仕切壁21と推進器22と駆動装置23を備えて構成される。仕切壁21は、推進器22の周囲を囲って、隣接する推進器22同士の干渉を抑制する。また、推進器22は、プロペラやポンプ等で構成されて、水を流入して加速又は減速して流出させることにより、推力Tn(Tn>0)又は抵抗Tn(Tn≦0)を発生する。それと共に、推進器22は、流出流Wnを発生して面状推進構造体11の後流の流速分布を形成する。駆動装置23は電動発電機や油圧モータ等で構成されて、推進器22を駆動する。
【0081】
〔推力発生ユニットの仕切壁〕推力発生ユニット20の仕切壁21は、
図10~
図14に示すように、流入口21aと筒部21bと流出口21cを有して筒状に形成される。この仕切壁21は、推進器22を支持する部材となると共に、推進器22で発生する流れが隣接する推進器22に流れ込むことを防止して、推進器22同士の干渉を抑制する。これにより、推力発生ユニット20の単独での推進性能の評価を基に、面状推進構造体11の推進性能を推定し易くする。また、この仕切壁21は、航走体1に配置されたときだけでなく、造船所への搬送するときにもおいても、推進器22を保護する機能を併せ持つ。
【0082】
この推力発生ユニット20の仕切壁21の外形は、正面から見たときに、円形であっても、多様な形状であってもよいが、正三角形、正四角形、正六角形、正八角形の形状をしていることが好ましい。仕切壁21が正多角形の形状をしていると、仕切壁21を製造し易い上に、面状推進構造体11を構成するときに、仕切壁21の相互の間において隙間無く面状に組み立てられるというメリットがある。特に、正六角形に形成すると、蜂の巣状に隙間が無い状態で面状に組み立てられるようになる。
【0083】
また、仕切壁21の筒部21bの内側の形状は、必ずしも外形と同じ形状をしている必要はない。仕切壁21の内側の形状が円形であると、水流が周方向に均等になり、推力発生ユニット20の振動が減少するので、仕切壁21の内側の形状は、外形の形状とは関係なく、円形又は円形に近い形状に形成することが好ましい。特に、推進器22にリム駆動のプロペラ22aなどの回転体を使用する場合には、仕切壁21の内側は円形に形成することが好ましい。
【0084】
また、隣接する仕切壁21同士の間に隙間21eが有ってもよいが、この隙間21eを水が通過するように形成すると、摩擦抵抗や圧力抵抗の増加の原因になるので、隙間21eは少ない方が良い。なお、この隙間21eの部分や仕切壁21の内部に、動力供給ライン13aと制御信号ライン14aを配置する。
【0085】
この仕切壁21の断面形状に関しては、翼型形状等の抵抗が少ない形状とすることが好ましい。この仕切壁21の断面形状においては、従来技術で採用されてきている各種の船尾フィンや船尾ダクト等の断面形状が参考になると考えられる。そして、この仕切壁21は面状推進構造体11に組み立てられたときに、全体としての推進抵抗が少ない形状に形成され、かつ、推進器22との関係で、より良い推進効率を発揮できるように設計及び製造されることが望ましい。
【0086】
〔推力発生ユニットの推進器〕推力発生ユニット20の推進器22は、仕切壁21の内側を通過する水を加速及び減速する装置である。この推進器22としては、固定ピッチプロペラ、可変ピッチプロペラ、二重反転プロペラなどを用いることができる。これらのプロペラは、現状でも、アジマススラスター、ポッド推進器等の旋回式推進器やサイドスラスター等で実用化されている。また、この推進器22としては、ウォータージェット推進装置で使用されているポンプ等も用いることができる。
【0087】
さらには、この推進器22として、現状ではまだ実用化の前の段階ではあるが、将来的には電磁力で水流を起こす電磁推進器なども用いることができる。この電磁推進では、超電導電磁石を利用して強力な磁場を作り出して、磁場内の海水に電流を流してローレンツ力により海水を噴射する。この電磁推進器では、プロペラが無いので、プロペラ回転に伴うキャビテーションや騒音の問題を回避できる。
【0088】
そして、この推進器22の動力源に関しては、電力又は油圧等の流体圧とすることが好ましい。言い換えれば、推進器22が電力を駆動源13とする電気推進システムを用いているか、あるいは、推進器22が油圧などの流体圧を駆動源13とする流体圧システムを用いていることが好ましい。また、推進器22の構造に関しては、コア駆動の推進器22A又はリム駆動の推進器22B、22C、22Dで構成される。
【0089】
これらの推進器22の動力源を電力又は流体圧とすることで、推進器22と発電機13又は流体圧の供給源との間の動力伝達機構を、電線又は配管で形成される動力供給ライン13aとすることができる。つまり、これらの動力源を用いることで、推進器22を駆動するためのギヤボックスと駆動軸等の機械的な動力伝達機構が不要になる。特に、主機関の回転速度を落とすための歯車列が不要になり、ギア音の騒音の問題が無くなるので、静音性が増す。
【0090】
そのため、推進器22に必要な容積が著しく低減する。また、発電機13や流体圧の供給源との間の距離を長くすることもでき、推進器22と発電機13や流体圧の供給源の配置の自由度が著しく増加する。さらに、主機関2、発電機13などが配置される機関室と、推進器22とを離間して配置できるようになるので、航走体1における機器の配置上(レイアウト)の制約が少なくなり、配置上の自由度を著しく増加することができる。また、航走体1において、プロペラ回転軸を貫通させるための船尾管が不要になる。
【0091】
また、流体圧システムでは、油圧や空圧等の流体圧を使用するが、油圧を用いる油圧システムでは、例えば、航走体1の内部の油圧ポンプから油圧ラインで送油される作動油によって、ポッド内部の油圧モータを駆動してプロペラを回転する。この場合には、可変容量型の油圧ポンプを用いることで、電動モータを使用した場合に必要とされる変速機や冷却システムを不要にして、配置上の自由度を増すことができる。空圧システムでは発生できる駆動力の大きさは劣るが、万一破損した場合であっても海洋汚染の危険性が小さくなる。
【0092】
そして、この推進器22では、流入水を加速する場合には推力Tn(>0)を発生し、流入水を減速する場合には抵抗Tn(<0)を発生する。この流入水を減速する場合には、推進器22で流入水の運動エネルギーの一部を回生電力等の形態で回収することが好ましい。言い換えれば、推力発生ユニット20が流入水の流れから電気を発電できる電動発電機を備えて構成されることが好ましい。例えば、プロペラ22aを回転駆動する駆動装置23として電動機と発電機とを兼用する電動発電機回生モータを使用することで、流入水の減速時には回生電力を得るように構成する。
【0093】
図10に、コア駆動の推進器22Aを用いる場合を示す。
図10では、電動発電機23Aを用いてプロペラ回転軸22Acを回転させることで、プロペラ22Aaのプロペラボス22Abを回転させている。そして、このプロペラ回転軸22Acをポッド22Adで保持することで、プロペラ22Aaをポッド22Adで保持している。また、このポッド22Adは支持部材21dで仕切壁21に支持されている。
【0094】
また、
図11~
図13に、リム駆動の推進器22B、22C、22Dを用いる場合を示す。
図11では、リング状のリニアモータ23Bを用いて、プロペラ22Baを回転している。また、プロペラ22Baの中心にプロペラ22Baに固定された固定支持部22Bbを設けている。
図12では、仕切壁21の外側に配置した電動発電機23Cを用いてリング23Caを回転させることにより、プロペラ22Caを回転させている。また、プロペラ22Caの中心にプロペラ22Caを回転支持する回転軸22Cbを設けている。そして、
図13では、油圧源23Dからの油圧でリング23Daを回転させることでプロペラ22Daを回転させている。また、プロペラ22Daの中心側を開放している。
【0095】
なお、
図10~
図13にプロペラ推進器を示したが、
図14に、プロペラ推進器とは、別の構成のウォータージェット推進タイプで、電動発電機23Eでポンプ22Eのブレード22Eaを駆動している例を示す。この
図14では、電動発電機23Eの前後で、ブレード22Eaの回転方向を逆にすることにより、推力発生ユニット20の流出流Wnの回転流によるエネルギー損失を低減している。
【0096】
そして、推力発生ユニット20は二重反転プロペラ22aを備えて構成されることが好ましい。この構成により、推力発生ユニット20の流出流Wnの回転流を低減させることができるので、面状推進構造体11の後流における渦流が減少し、エネルギー損失を減少することができる。また、推力発生ユニット20の前方のプロペラ22aによる水流の回転エネルギーを後方のプロペラ22aで回収できるので、推力発生ユニット20の推進効率を向上することができる。
【0097】
あるいは、推力発生ユニット20が単独のプロペラ22aを備えて構成され、かつ、プロペラ22aが可変ピッチプロペラであることが好ましい。この構成により、個々の推力発生ユニット20の発生推力の調整及び回生エネルギーの回収電力の調整が容易となる。さらに、推力発生ユニット20の流出流Wnの流速の調整も容易に行うことができ、面状推進構造体11の後流における流速分布を好ましい分布に調整できる。
【0098】
この推力発生ユニット20の推力Tn又は抵抗Tnは、推進器22によって流入水(質量Mnw)の流速Vn1に対して流出水の流速Vn2が変化させることで発生する。つまり、流出水の流速Vn2に基づく運動量(Mn2=Mnw×Vn2×Vn2/2)と流入水の流速Vn1に基づく運動量(Mn1=Mnw×Vn1×Vn1/2)との差(Mn2-Mn1)に応じて、推力Tn又は抵抗Tnが発生する。より詳細には、流出側の運動量Mn2が流入側の運動量Mn1よりも大きい場合は、推力Tn(Tn>0)を発生する。逆に、流出側の運動量Mn2が流入側の運動量Mn1よりも小さい場合は、抵抗Tn(Tn<0)を発生する。
【0099】
そして、この推力発生ユニット20の推力Tnと抵抗Tnに関する推進性能は、推力発生ユニット20の模型を用いての試験水槽における単独試験で推定したり、推力発生ユニット20は余り大きくないので、実機規模の性能試験をしたりすることで把握できる。このときに、航走体1の影響を考えなくて済むので、試験回数が少なくて済み、推力発生ユニット20に関する試験に必要な人的資源や費用を節約できる。
【0100】
〔面状推進構造体〕面状推進構造体11は、
図1~
図9に示すように、複数基の推力発生ユニット20を、帯状又は面状に配置すると共に、仕切壁21を介して互いに連結して形成される。この面状推進構造体11は、推力発生ユニット20で発生する推力Tnの総和としての推進力Tt(=ΣTn)を発生することにより、航走体1の航走に必要な推進力Ttを得る。また、推力発生ユニット20を個別に制御することにより、航走体1の操船に必要な操船モーメントMtを得る。
【0101】
それと共に、推力発生ユニット20で発生する流出流Wnを調整制御することにより、面状推進構造体11の後方に生じる流出流の流速分布を、全体的な流れの損失エネルギーが小さくなるように調整する。これにより、航走体1と面状推進構造体11の系全体としての推進性能を向上させる。
【0102】
さらに、面状推進構造体11の採用により、航走体1と推進機構と分離する。つまり、面状推進構造体11の流れ場と航走体1の流れ場を分離することにより、航走体1の推進性能と面状推進構造体11の推進性能を分離する。これにより、推進機構との関係を考えずに、航走体の船型形状を設計できるようになる。特に、船尾配置の推進器と舵から船尾形状を解放できるので、航走体の船尾形状における自由度が増加する。また、航走体1に船尾管及び船尾管を貫通するプロペラ回転軸が不要になるので、船尾管にプロペラ回転軸を挿通するための高度な技術が不要になる。
【0103】
そして、航走体1に必要な推進力Ttに対する推力発生ユニット20の基数Nに関しては、必要な推進力Ttを推定できれば、予め製造しておいた推力発生ユニット20の推力Tnから基数N(N≧Tt/Tn)を推定できる。あるいは、基数Nを多目にして推力発生ユニット20を実船に配置して、実航海の試験運転によって、適当な基数Nに減少することで対応してもよい。
【0104】
また、製造工程に関しては、完成した航走体1の船体に支持機構12を用いて面状推進構造体11を設置して、動力供給ライン13aと制御信号ライン14aを接続するだけであるので、航走体1の製造工程と関係なく面状推進構造体11を設計及び製造できる。また、面状推進構造体11を構成する推力発生ユニット20は規格化して量産しておくことが可能となるので、コストを低減できる。
【0105】
〔航走体と面状推進構造体〕そして、本発明に係る実施の形態の航走体1は、上記の面状推進システム10を備えると共に、少なくとも航走体1の航走時において、面状推進構造体11を、船尾に船体とは離間させて配置して構成される。あるいは、上記の面状推進システム10を備えると共に、少なくとも航走体1の航走時において、面状推進構造体11を、船側1a若しくは船底1bに当接して、又は、船側1a若しくは船底1bに対して離間した位置に配置して構成される。
【0106】
【0107】
そして、船尾配置の場合は、
図15に示すように、航走体1の航走方向Xに関しての横断面(Y-Z面)において、航走体1の後流が存在する領域R1を、面状推進構造体11が覆うように配置することが好ましい。また、船尾系波Waが有る場合は、この船尾系波Waの伝搬範囲(存在範囲)Raを、面状推進構造体11が覆うように配置することが望ましい。この船尾系波Waは、航走方向Xに対して片舷約19度の角度の扇形状に伝搬する。
【0108】
これらを考慮した場合に、
図15に示すように、平面図で片舷約19度の扇形の外形線と後流範囲の外形線との交点P1が、面状推進構造体11を配置するときの、航走方向Xの位置X1と幅方向Yの位置Y1の目安となる。また、上下方向Zの目安としては、船底の位置Zdが上下方向Zの下側の位置Z1の目安となり、位置X1における船尾系波Waの上昇位置Zwが上下方向Zの上側の位置Z2の目安となる。
【0109】
この船尾の後流の領域R1と船尾系波Waの伝搬範囲Raを考慮した配置により、航走体1の後流を面状推進構造体11により整流して、航走体1の後流によるエネルギー損失を回収して、航走体1と面状推進構造体11の系全体としての後流によるエネルギー損失を小さくすると共に、船尾系波Waの波エネルギーの一部を面状推進構造体11で回収又は消費して、船尾系波Waを低減する。これらにより、航跡と船尾系波Waのエネルギーを低減することができる。
【0110】
また、
図16~
図18に示すように、面状推進構造体11を船側1a若しくは船底1bに配置する場合は、面状推進構造体11が、航走体1の航走方向Xに関しての横断面(Y-Z面)において、面状推進構造体11の流れと航走体1の流れとの干渉を避ける場合と、逆に、航走体1の流れを面状推進構造体11により整流する場合とが考えられる。
【0111】
航走体1の流れとの干渉を避ける場合には、
図16及び
図17に示すように、面状推進構造体11を船側1a若しくは船底1bからある程度離間して配置する。これにより、航走体1が発生する流れの外に面状推進構造体11が配置されることで、航走体1の船体が発生する境界層や剥離流やビルジ渦等の流れの影響が無くなる。その結果、面状推進構造体11の推力発生の特性を航走体1の流れの特性と切り離すことができ、推進力Ttや操船モーメントMtの制御などが容易となる。また、航走体1と面状推進構造体11のそれぞれの推進性能と操船性能を流体力学的に分離して単純化して解析及び設計できるようになる。
【0112】
一般的には、航走体1により船首波や船首肩波の船首系波Wfが発生するので、その伝搬領域Rfの外側に配置しようとすると、航走体1の前側部分が有利となる。また、
図16に示すように、面状推進構造体11を航走体1の流れの範囲外ではあるが、船首系波Wfの伝搬の範囲Rfの一部を含むように配置する場合は、面状推進構造体11により、船首系波Wfの波エネルギーの一部を回収又は消費して、船首系波Wfを低減することができる。
【0113】
そして、航走体1の流れを整流する場合は、
図17に示すように、面状推進構造体11を航走体1の後流の範囲R1をカバーするように配置する。この場合は、航走体1の流れに積極的に関与して、面状推進構造体11の水流調整機能により、航走体1の船体表面の流れや後流を制御して、航走体1の摩擦抵抗や圧力抵抗を低減する。
【0114】
一方、
図18に示すような、面状推進構造体11の船底1bへの配置は、水上を航走する航走体1では、あまり実用的ではない。しかし、水中を航走する航走体1では、推進性能のみならず、操船性能にも関係するので、実用的であると考える。
【0115】
〔面状推進構造体の支持機構〕次に、面状推進構造体11の支持機構12に関して説明する。この面状推進構造体11の支持機構12は、航走体1に面状推進構造体11を装備するための構造物である。この支持機構12は、面状推進構造体11を航走体1に支持すると共に、面状推進構造体11で発生する推進力Ttを航走体1に伝達する。
【0116】
面状推進構造体11を、航走体1の船側1a若しくは船底1bに当接して配置する場合は、航走体1の船体に面状推進構造体11を直接固定する場合と、航走体1の船体の外側から面状推進構造体11を支持機構12で支持して、面状推進構造体11を船体に当接させる場合がある。これらの場合では、船体に当接する面状推進構造体11の部分に面状推進構造体11からの振動を抑制する緩衝部材を配置することが好ましい。
【0117】
一方、面状推進構造体11を、航走体1の船尾に航走体1の船体とは離間させて配置している場合と、面状推進構造体11を、航走体1の船側1a若しくは船底1bに対して離間した位置に配置する場合では、言い換えれば、航走体1の船体と別体で面状推進構造体11を構成する場合は、常時、定位置に固定配置されている必要は無く、少なくとも航走体1の航走時において、面状推進構造体11は支持機構12により航走体1に固定される。
【0118】
この離間配置の場合では、航走体1の流れ場の面状推進構造体11への影響を著しく少なくすることができるので、推進器22で発生する水流の変動による振動を殆んど排除できる。また、推進器22に起因する船体振動の要因を、支持機構12を経由する振動伝達に絞ることができる。従って、支持機構12に振動緩和機構を設けるなどの工夫をすることにより推進器22による航走体1への振動の伝搬を著しく小さくすることができる。言い換えれば、従来技術におけるプロペラと舵の船尾配置に起因する船体振動及びキャビテーションの問題を解決できる。
【0119】
なお、面状推進構造体11は支持機構12の負担を考えると、沈下力や質量が小さい方が良いので、面状推進構造体11の沈下力を軽減するために、仕切壁21に浮力を付与したり、隙間21eの部分に浮力材を設けたりして、浮力を発生することが好ましい。また、推力発生ユニット20は、大きさが小さいので、必ずしも金属製である必要は無く、プラスチックやカーボン繊維などの軽量の材料を採用してもよい。
【0120】
〔面状推進構造体の移動機構〕次に、面状推進構造体11の移動機構15に関して説明する。航走体1と面状推進構造体11の規模にもよるが、この面状推進システム10は、
図19~
図22に示すように、面状推進構造体11を水面上、又は、航走体1の甲板上若しくは船内に移動する移動機構15を備えて構成することが好ましい。
【0121】
この面状推進構造体11の移動機構15の移動方式としては、
図19~
図21に示すような鉛直面内での回転軸回りに回動する回動式の移動方式や、
図22に示すような移動用レールに沿って移動する昇降式の移動方式等がある。これらの方式を用いて面状推進構造体11を航走体1の甲板上若しくは船内に移動する。
【0122】
この移動機構15により、航走体1の接岸時等において、面状推進構造体11が邪魔にならないようにすることができる。また、航走体1が航走していないときに、面状推進構造体11を水面WLより上に移動することで、面状推進構造体11における水生生物などによる汚染を防止できる。また、面状推進構造体11を甲板上若しくは船内に移動することで、面状推進構造体11の保守点検、推力発生ユニット20の交換が容易に実施できるようになる。
【0123】
〔航走体の後流の水流調整〕次に、面状推進構造体11の水流調整に関して説明する。この水流調整は、航走体1の航走に必要な推進力Ttを得ると共に、流れの攪乱が少ない状態で、航走体1の周囲の外部流と混合することで、後流による損失エネルギーを小さくするために行われる。
【0124】
このために必要な推力発生ユニット20における流速の変化量に関しては、航走体1の船体の伴流分布によって、推力発生ユニット20毎に異なる。例えば、死水領域に近い部位に配置された推力発生ユニット20では流入水の略ゼロの流速Vn1から流出水の目標の流速Vn2tまで加速する必要がある。一方、一様流の外部領域に近い部位に配置された推力発生ユニット20では流入水の流速Vn1は一様流の流速Vsに近いので、この流速Vn1から流出水の目標の流速Vn2tまで加速する必要がある。また、船尾系波Waあるいは船首系波Wfに関係して流入水の流速Vn1が速い場合には、流出水の目標の流速Vn2tまで減速する必要がある。
【0125】
この流速の変化量が大きい場合には、仕切壁21を流れる水は非圧縮性であるので、仕切壁21の前後で水の流速に大差があると、流路抵抗が増加する可能性がある。そのため、仕切壁21の流路の長さを短くしたり、仕切壁21と推進器22の間に大きめの隙間を設けたり、仕切壁21の外側から内部に水が出入りできるように仕切壁21を壁面に孔や切り欠きを設けて形成したり、仕切壁21同士の間に大きめの隙間21eを設けたりする。
【0126】
さらには、仕切壁21の前後の一方(後方が好ましい)の断面積を変化可能に構成する。また、流路断面積を自動で変化させる場合は圧力で変化する弾性体(図示しない)を仕切壁21の内側に配置したり、流速に応じて機械的に仕切壁21の内側の形状を変化させたりする。これらの構成により流路抵抗の増加を抑制する。
【0127】
また、航走体1の伴流分布における流速の変化が大きく、面状推進構造体11の各部位の推力発生ユニット20における流入水の流速Vn1の差異が大きい場合には、可変ピッチプロペラの採用などで流入水の流速Vn1に対する対応範囲を広めておいたり、推力発生ユニット20を、流速の変化量に応じて、減速用、加速用、調速用等に分けて構成しておいたりすることで対応する。
【0128】
さらに、航走体1の後流に渦流や波が有って、面状推進構造体11の各部位における流入水において、横断面(Y-Z面)方向の流速成分(幅方向Y、上下方向Zの流速成分)が有る場合には、仕切壁21等により流出流Wnの流れ方向をできるだけ航走方向Xにして、渦流成分を減少することが好ましい。
【0129】
また、この渦流対策の一つとして、推力発生ユニット20が単独のプロペラ22aを備えて構成されているときには、制御装置14が、推力発生ユニット20の基数Nの60%以上において、隣接する推力発生ユニット20のプロペラ22aの回転方向が互いに逆方向になるように制御することが好ましい。
【0130】
この制御により、隣接する推力発生ユニット20の流出流Wnの回転方向が互いに逆方向となるので、これらを干渉させることにより、面状推進構造体11の後側の流れにおける渦流成分を減少させる。また、隣接する推力発生ユニット20の振動の干渉により、面状推進構造体11の振動も低減できる。これにより、航走体1と面状推進構造体11との全体の系で見たときのエネルギー損失を減少することができる。なお、ここでいう「60%以上」の数値に特に意味がある訳ではなく、この程度であれば、構成が明確になり、また、この構成の効果があると考えた数値である。
【0131】
〔面状推進構造体による流速分布の制御〕そして、この面状推進構造体11による流速分布の制御では、この面状推進構造体11を形成する推力発生ユニット20のそれぞれを個別に制御する。この推力発生ユニット20の制御では、推力発生ユニット20で発生する推力Tnの総和ΣTnが、面状推進構造体11で必要とされる推進力Ttになるように制御すると共に、面状推進構造体11の後流分布Vpが均等分布などの予め設定した流速分布となるように制御する。
【0132】
そして、推力発生ユニット20の個別制御では、推力発生ユニット20に推力Tnまたは抵抗Tnを計測する推力センサー(図示しない)を設けて、推力発生ユニット20が発生する推力Tnをリアルタイムで計測する。この推力センサーは、仕切壁21あるいはプロペラ22aの支持部材に張り付けた歪ゲージ等で容易に形成できる。また、流出水の流速Vnも計測値を用いることがより好ましく、この流出水の流速Vnを計測する流速センサー(図示しない)も推力発生ユニット20の後部又は後方に配置した超音波流速計、電磁流量計、ピトー管等で容易に形成できる。
【0133】
これらの流速センサーと推力センサーのリアルタイムの計測値を制御に用いて、プロペラ回転数Npnに対するフィードバック制御等の制御を行う。この推力センサーにより、航走時の各推力発生ユニット20の推力Tnを得て、航走体1に作用する全体の推進力Tt(ΣTn)を算出しながら、各推力発生ユニット20を制御する。
【0134】
より詳細には、面状推進構造体11と航走体1との相対位置と航走体1の載荷状態と航走速度とによって、各推力発生ユニット20に流入する流入水の流速Vn1が異なる。特に、航走体1の後流領域においては、推力発生ユニット20の位置によって流入水の流速Vn1が異なるので、その位置の流速Vn1に対応して、流入水に対して加速及び減速の制御を行う。
【0135】
さらには、船首系波Wfや船尾系波Waが存在する領域では、波の山の水面表面の近傍では流速が速くなるので、流入水を減速し、一方、波の谷の水面表面の近傍では流速が遅くなるので、流入水を加速する。これらの制御により、船首系波Wfや船尾系波Waの波の伝搬エネルギーを低減する。
【0136】
そして、この推力発生ユニット20の制御では、流入水を加速する低速流領域では、電動発電機をプロペラ22aやポンプの駆動装置23として使用し、また、流入水を減速する高速流領域では、電動発電機をプロペラ22aやポンプで駆動される発電装置として使用し、回生電力を得る。なお、流入水の流速Vn1を変化させる必要のない等速流領域では、流れの邪魔にならない回転数でプロペラ22aを回転させるか、回転摩擦の小さい場合はプロペラ22aを空転させる。
【0137】
なお、簡易的な制御としては、流速センサーの代わりに、予め、プロペラ回転数Npnと流出水の流速Vn2の関係を測定して、この関係のデータベースを作成しておいて、それぞれの推力発生ユニット20において、流出水の目標の流速Vn2tが設定されたときに、このデータベースに基づいてプロペラ回転数Npnになるように制御する。実際には、流出水の流速Vn2は流入水の流速Vn1の影響を受けるので、流出水の流速Vn2が目標とする流速Vn2tからずれる可能性があるが、略目的の流速を得られる。
【0138】
〔航走体の航走方法〕次に、本発明の実施の形態に係る航走体の航走方法について説明する。この航走体の前進時における航走方法では、航走体1と面状推進構造体11の系の後流における伴流発生に伴う損失エネルギーが最小になるように各推力発生ユニット20の流出水の流速Vnを制御する。言い換えれば、面状推進構造体11の後方においては、面状推進構造体11の後流の平均流速Vnmと、外側の一様流の流速Vsとの差を小さくして、航跡のエネルギーと伝搬する波(船首系波、船尾系波)のエネルギーを小さくする。
【0139】
例えば、面状推進構造体11を構成する推力発生ユニット20の流出水の流速Vn2を均等化する。より具体的には、面状推進構造体11を構成する推力発生ユニット20の後流の流速Vn2が、これらの流速Vn2の平均値Vn2mの80%以上でかつ120%以下になるように調整しながら、面状推進構造体11の推進力Ttを発生して航走する。これにより、比較的簡単な制御で、面状推進構造体11で発生する推進力Tt(=ΣTn)を確保しながら、面状推進構造体11の後流の平均流速Vn2mと、外側の一様流の流速Vsとの差を小さくする。
【0140】
この制御では、航走体1の形状に関わらず、推力発生ユニット20からの流出水の流速Vn2を一様流の流速Vsに近い流速Vn2mにする制御を行う。そのため、推力発生ユニット20の推力Tnの総和Ttと、それぞれの推力発生ユニット20からの流出水の流速Vn2の制御だけで済む。従って、航走体1の伴流分布を細かく考慮する必要が無くなり、面状推進構造体11における推力発生ユニット20の基数Nと配置形状と、これらに基づくカバーする流域が主な設計要素となるので、面状推進構造体11の設計を非常に簡略化できる。
【0141】
また、この制御では、航走体1と面状推進構造体11とを含めた系全体で見たときに、面状推進構造体11の後方では、流出水が一様流の流速Vsに近い流速Vn2mで排出されるので、伴流による攪乱領域が著しく縮小される。これにより、伴流発生に伴うエネルギー損失が抑制され、推進効率が向上する。また、航走体1の周囲の水域に対する伴流に起因する航跡が小さくなるので、上空からの監視やウェーキ探知魚雷に対するステルス性を高めることができる。
【0142】
視覚的に分かり易いように、
図23及び
図24に、本発明の船舶と潜水艦における面状推進構造体11の後流の均等化した流速分布Vdのイメージの図を示し、
図33及び
図34に、従来技術の船舶及び潜水艦における後流の流速分布Vdのイメージの図を示す。なお、
図33に示すような一つのプロペラを用いている場合には、後流にプロペラによる回転流が発生するが、
図34に示すように、二重反転プロペラを用いる場合は、後流の回転流を抑制することができる。
【0143】
なお、この航走方法では、推力発生ユニット20の流出水の流速Vnを均等化することで後方へ散逸するエネルギーの減少を図っているが、この流速分布Vdが必ずしも最適な流速分布と確定できていない。そのため、さらに、水槽実験、数値流体力学手法(CFD)、実船における実験などにより、面状推進構造体11の後流が航走体1の周囲の一様流により速やかに混合して、面状推進構造体11の後方へ散逸するエネルギーが小さくなる流速分布Vdを求めて、この求められた流速分布Vdになるように個々の推力発生ユニット20の推力Tnを調整することがより好ましい。
【0144】
〔航走体の軽荷状態の航走方法〕そして、本発明の実施の形態に係る航走体の航走方法では、航走体1の載荷状態特に軽荷状態によって水面上に露出する推力発生ユニット20が発生する場合には、
図25に示すように、航走体1の載荷状態によって水面上に露出する推力発生ユニット20の駆動を停止すると共に、水没している推力発生ユニット20の一部又は全部を駆動して、面状推進構造体11の推進力Ttを発生して航走することが好ましい。
【0145】
この選択的稼働の航走方法によって、露出した推力発生ユニット20の稼働による不具合が無くなるので、従来技術のように船尾配置のプロペラを水没させるための船尾トリムで航走する必要が無くなる。そのため、航走体1の姿勢を推進抵抗の少ない姿勢に維持しつつ、推力発生ユニット20の推進効率の良い稼働領域で、航走体1の航走に必要な推進力Ttを得ることができる。従って、推進効率を向上でき、省エネルギーで航走できる。また、船尾トリムを取る必要が無いので、船尾トリム用のバラスト水が不要になり、バラストタンクやバラスト水処理装置も不要になる。
【0146】
〔航走体の低速時の航走方法〕また、低速時における航走体の航走方法では、
図26に示すように、一部の推力発生ユニット20aを推進効率の良い状態で稼働して、必要な推進力Ttを得て、残りの推力発生ユニット20bの稼働を停止したり、空回りさせたりする。これにより、推力発生ユニット20aをエネルギー効率が良い状態で稼働させて航走体1を航走させることができる。この場合においても、稼働する推力発生ユニット20の分布を、面状推進構造体11の後方の流速分布Vdも合わせて考慮しながら、面状推進構造体11の後方へ散逸するエネルギーが小さくなるようにすることがより好ましい。
【0147】
〔航走体の操船方法〕次に、本発明に係る実施の形態の航走体の操船方法について説明する。なお、以下で説明する第1~第3の航走体の操船方法は、単独でもよく、組合せでもよい。そして、第1の航走体の操船方法は、
図27及び
図28に示すように、面状推進構造体11を構成する推力発生ユニット20の一部分の推力Tn又は抵抗Tnを、推力発生ユニット20の他の一部分の推力Tn又は抵抗Tnと異ならせることにより、操船モーメントMtを発生させる方法である。この操船方法では、面状推進構造体11の個々の推力発生ユニット20の推力Tnと抵抗Tnの制御により、操船モーメントMtを発生する。
【0148】
また、帯状又は面状に配置された推力発生ユニット20の推力Tn又は抵抗Tnを個別に変化させることにより、上下左右のヨウモーメント(旋回モーメント)及びトリムモーメント(潜航又は浮上モーメント)等の操船モーメントMtだけでなく、斜め方向のモーメントも発生できる。この操船方法は、面状推進構造体11の規模が大きい大型船に向いている。
【0149】
また、第2の航走体の操船方法は、
図29に示すように、推力発生ユニット20の一部若しくは全部、又は、
図30に示すように、面状推進構造体11の一部若しくは全体において、航走体1の前後方向Xに対する取り付け方向αを変化させることにより、操船モーメントMtを発生させる方法である。この操船方法では、推力発生ユニット20を個別に方向変化できるように構成したり、推力発生ユニット20の上下方向の列または幅方向Yの行を方向変化できるように構成したりする。これらの構成により、ヨウモーメント及びトリムモーメント等の操船モーメントを発生する。
【0150】
この操船方法では、推力発生ユニット20や面状推進構造体11の取り付け方向αを変化させる機構が必要になるが、例えば、旋回モーメントを発生する場合では、面状推進構造体11を上下方向の回転軸で支持し、面状推進構造体11の側方を支持する支持部材を伸縮可能に構成するという比較的簡単な構成により、非常に強力な操船モーメントMtを得ることができる。そして、この操船方法で、推力発生ユニット20及び面状推進構造体11の一部を動かす場合は、面状推進構造体11の規模が大きい大型船に向いており、面状推進構造体11の全体を動かす場合は、面状推進構造体11の規模が小さい小型船に向いている。
【0151】
そして、第3の航走体の操船方法は、
図31に示すように、推力発生ユニット20の一部若しくは全部、又は、
図32に示すように、面状推進構造体11の一部若しくは全体において、航走体1に対する取り付け位置を変化させることにより、操船モーメントMtを発生させる方法である。面状推進構造体11の一部の推力発生ユニット20を、幅方向Y又は上下方向Zに移動または回動させることにより、モーメントレバーを大きくして操船モーメントMtを発生する。この操船方法では、推力発生ユニット20は元々独立したものであるので、この推力発生ユニット20の位置変更は比較的簡単な構成で容易に行うことができる。
【0152】
〔航走体の停船及び後進方法〕また、航走体の停船及び後進方法は、推力発生ユニット20を個々に制御して、停止や後進に必要な抵抗や後進力を容易に得ることができる。この場合においても、面状推進構造体11を航走体1の船体と離間して配置している場合には、航走体1の流れの影響を受け難いので、停止に必要な抵抗や後進力の大きさを推定し易く、また、この停止時や後進時に航走体1に無用なモーメントが発生するのを回避できる。さらには、停止時や後進時においても、面状推進構造体11の推力発生ユニット20を個別に制御することにより、航走体1を操船することができる。
【0153】
〔船尾構造単純化〕上記のような操船方法を用いることで、操船時の推力発生ユニット20の位置と操船モーメントMtの発生方向及び大きさを自由に変更できるので、操船性能を著しく向上させることが容易にできる。また、舵及び操舵機が不要になるので、船尾形状の自由度が格段に増加する。従って、推進性能が良い船尾形状を採用できるようになる。また、舵や推進器が直接航走体1の船体に配置されないので、舵性能を向上するための舵フィンや推進器の推進性能を向上するための船尾フィン等が不要になるので、船体没水部の船尾部の構造を著しく単純化できる。
【0154】
〔水中航走体におけるメリット〕また、水上を航走する船舶(水上航走体)においては、操船モーメントMtは、主として、ヨウモーメント(旋回モーメント)であるが、水中を航走する潜水艦(水中航走体)においては、更にトリムモーメント(潜航又は浮上モーメント)等が必要になる。従来技術の潜水艦においても、X舵の船尾舵システムにより、前後方向Xに垂直な軸回りのモーメントを発生できるが、面状推進構造体11により、多様な方向のモーメントを容易に発生できるようになり、運動性が向上する。
【0155】
〔本発明の効果〕本発明の実施の形態の面状推進システム10、航走体1、航走体の航走方法及び、航走体の操船方法によれば、以下のような、航走体1からの推進システムの独立化による推進力への対応性の向上、製造工程の分離、船体設計の自由度の増大、及び、面状推進構造体の流出流の流速分布の調整による推進効率の向上、航跡の低減の効果を得られる。
【0156】
〔推進システムの独立化〕従来技術では、航走体1の船尾に配置されるために、航走体1の船尾の後流の影響を考慮しながら、推進器の性能の設定、設計及び製造を行ってきたのに対して、本発明では、航走体1の後流と推進システムの性能を分離することで、航走体1の後流を考慮せずに、推力発生ユニット20の基数Nと帯状又は面状の配置により、航走体1の航走に必要な推進力Ttを供給する。つまり、面状推進システム10を船尾から離間して配置したり、船側1aや船底1bに配置したりすることにより、推進システムを航走体1の後流と分離することで、航走体1の船体の形状を推進器と切り反して設計できるようになる。模型船による水槽試験において、航走体と推進器の干渉を考慮するための自航試験が不要になる。
【0157】
〔推進力への対応性の向上〕本発明では、面状推進システム10に関して、航走体1の航走に必要な推進力Ttに対しては、推力発生ユニット20の基数Nで対応し、航走体1の後流の流速分(伴流分布)への対応を、推力発生ユニット20の帯状又は面状配置の形状と、推力発生ユニット20の個別制御で行う。そのため、航走体1だけの推進抵抗及び必要とされる推進力Ttの設定から推力発生ユニット20の基数Nを設定できる。
【0158】
また、本発明では、必要な推進力Ttの予測が実船で異なった場合でも、推進力Ttの増減を推力発生ユニット20の基数Nの増減で容易に対応できる。特に、類型形状の船などで、推進抵抗及び必要な推進力Ttの概算の推定が出来ていれば、実船では少し多めの基数Nで航走して、実施に稼働する推力発生ユニット20の基数Nuの増減を行うことにより、実航海で使用する基数Nuに設定することができる。従って、模型船での水槽実験での抵抗試験等を低減したり又は不要にしたりすることができる。
【0159】
〔製造工程の分離〕また、本発明では、面状推進構造体11を航走体1に支持機構12で取り付けて、電力線や流体圧用配管等の動力供給ライン13aと制御信号ライン14aを、船体に搭載する制御装置14との間に設けるだけで、面状推進システム10を航走体1に搭載できるので、航走体1の建造工程に関係なく、面状推進システム10を設計及び製造できる。また、面状推進システム10の搭載も短期間で比較的簡単に行うことができるので工期を短縮できる。
【0160】
〔船体設計の自由度の増大〕また、本発明では、航走体の船尾の形状を舵や推進器の配置によって制限されることがなくなり、船体設計の自由度が著しく拡大する。その結果、船体の推進抵抗を著しく低減できるようになる。その上、船尾管を貫通するプロペラ駆動軸が不要になるので、主機関を船尾に配置する必要が無くなる。それに伴い、船体が損傷した場合の船尾管からの浸水の問題が無くなる。また、電力や流体圧等を駆動源とすることにより、発電機や流体圧の発生源からの距離を大きく取れるので、これらの駆動源を駆動する主機関の配置位置を船尾に配置する必要を無くすことができる。そのため、主機関の配置の自由度が増大し、これによっても、船体の形状の自由度がより増大する。
【0161】
〔推進効率の向上〕そして、本発明では、航走体1の後流の範囲をカバーして、推力発生ユニット20の個別制御により、面状推進構造体11の後流を一様化することにより、航跡となる損失エネルギーを小さくして推進効率を高くする。より詳細には、航走体1の伴流分布に対応させて、推力発生ユニット20に流入する流速Vn1に対してその推力発生ユニット20を個別に制御して、推力発生ユニット20の流出水の流速Vn2を一様化する。これにより、航走体1と面状推進構造体11の全体の系としての水流の攪乱量を低減して、後流の損失エネルギーを小さくする。これにより推進効率を向上させる。
【0162】
従って、本発明の実施の形態の面状推進システム10、航走体1、航走体の航走方法及び、航走体の操船方法によれば、水上を航行する船舶等の水上航走体や潜水艦等の水中を航行する水中航走体等の航走体1において、船体形状と推進器の間の水流に関する関係を分離して、面状に配置した推力発生ユニット20の個別制御で船体形状によって変化する伴流へ対応するので、船体形状に関係なく配置できて、船尾における船尾系波Waの低減と圧力抵抗の減少を図ることができ、しかも、容易に航走体1の推進性能と操船性能を向上することができる。
【符号の説明】
【0163】
1 航走体
2 機関
3 プロペラ
4 舵
10 面状推進システム
11 面状推進構造体
12 支持機構
13 駆動源
13a 動力供給ライン
14 制御装置
14a 制御信号ライン
15 移動機構
15a 移動用レール
20 推力発生ユニット
21 仕切壁
21a 流入口
21b 筒部
21c 流出口
21d 支持部材
21e 隙間
22 推進器
22a、22Aa、22Ba,22Ca、22Da プロペラ
22A コア駆動の推進器
22Ab プロペラボス
22Ac プロペラ回転軸
22Ad ポッド
22B リム駆動の推進器
22Bb 固定支持部
22Cb 回転軸
23 駆動装置
23A、23C 電動発電機
23B リニアモータ
23D 油圧源
Tn 推力発生ユニットの推力又は抵抗
Tt 航走体の推進力
Wa 船尾系波
Wf 船首系波
WL 水面(航走時喫水線)
Wn 推力発生ユニットの流出流
X 前後方向(航走体の前後方向)
Y 幅方向(航走体の幅方向)
Z 上下方向(航走体の上下方向)