(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100004
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】アークスタート制御方法、アークスタート制御プログラム、電源、アークスタート制御システム、溶接方法および付加製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 9/095 20060101AFI20240719BHJP
B23K 9/067 20060101ALI20240719BHJP
B23K 9/12 20060101ALI20240719BHJP
B23K 9/04 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B23K9/095 505B
B23K9/067
B23K9/12 305
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003686
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕志
(72)【発明者】
【氏名】北村 佳昭
(72)【発明者】
【氏名】山▲崎▼ 圭
【テーマコード(参考)】
4E082
【Fターム(参考)】
4E082AA03
4E082AA04
4E082AA08
4E082EF02
4E082EF07
4E082EF23
4E082EF24
(57)【要約】
【課題】溶接方法または溶着方法を問わず、安定して定常溶接期間に移行させる。
【解決手段】溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する方法において、アークスタート期間は、溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から送給制御法で定常溶接に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、第2制御期間は、第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、移行区間では、平均送給速度設定値に加え、送給制御法に係る制御条件を変動させる。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する方法であって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、アークスタート制御方法。
【請求項2】
前記第2制御期間における前記送給制御法は、
正送期間と逆送期間を1周期とし、
前記1周期における、ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件として、
溶接電流、アーク電圧、および溶接速度の条件のうち少なくとも1つ以上を制御すること
を特徴とする、請求項1に記載のアークスタート制御方法。
【請求項3】
前記移行区間において、前記平均送給速度設定値以外に変動させる前記制御条件は、
正送期間と逆送期間を1周期としたときのワイヤ周波数、
ワイヤ振幅、
ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件の開始タイミング、
ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件の終了タイミング、
溶接電流の設定値、および、
アーク電圧の設定値、
のうち、少なくとも一つであること
を特徴とする、請求項2に記載のアークスタート制御方法。
【請求項4】
ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件として、少なくとも溶接電流を含み、
前記溶接電流の制御は、ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて、前記溶接電流の抑制期間と非抑制期間とを切替える制御であり、
前記移行区間において、前記平均送給速度設定値以外に変動させる前記制御条件は、少なくとも、前記溶接電流の非抑制期間の開始タイミングおよび前記溶接電流の非抑制期間の終了タイミングであること
を特徴とする、請求項3に記載のアークスタート制御方法。
【請求項5】
前記初動区間は、前記平均送給速度設定値を所定の値に維持する維持部を含み、
前記維持部において、所定の時間、またはアーク電圧およびアーク長のうち少なくとも一方に基づいて、前記初動区間の終了が決定されること、
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
【請求項6】
前記移行区間において、変動させる前記制御条件の設定値は、
予め定めた周期単位と、
正送期間と逆送期間を1周期としたときのワイヤ周波数単位のうち、少なくとも一方に応じて変動させること、
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
【請求項7】
前記初動区間における平均送給速度設定値FW-AVE1と、定常溶接における平均送給速度設定値FW-AVE2との間の比(FW-AVE1/FW-AVE2)が0.9以下となるように制御すること
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
【請求項8】
前記移行区間において、
前記平均送給速度設定値は、直線状、曲線状またはステップ状に大きくなるように変動し、
前記ワイヤ周波数は、直線状、曲線状またはステップ状に大きくなるように変動し、
前記ワイヤ振幅は、直線状、曲線状またはステップ状に小さくするように変動すること、
を特徴とする、請求項3に記載のアークスタート制御方法。
【請求項9】
前記移行区間において、前記制御条件を、所定の時間、または、所定の傾きの値に基づいて変動させること
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
【請求項10】
前記第2制御期間の開始タイミングは、前記第1制御期間において形成した初期溶滴が短絡した直後であるか、または、形成した初期溶滴が任意の大きさになった直後であること
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
【請求項11】
前記第1制御期間における、前記溶接開始からアークを発生させるまでのステップは、
溶接開始後に、溶接ワイヤを予め定めた初期送給速度で正送給を行いながら、前記溶接ワイヤと母材間の通電判定後、予め定めた時間、予め定めた第1の溶接電流値を維持する第1の区間と、
前記第1の区間後に、予め定めた時間、溶接電流を第2の溶接電流値まで増加させる立上り部と、前記第2の溶接電流値を維持する維持部とを有する第2の区間と、
を有し、
前記第2の区間後に、前記溶接ワイヤを予め定めた送給速度で逆送給を行いながら、アークを発生させること
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
【請求項12】
前記第1制御期間における、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間は、
アーク発生後、溶接ワイヤの送給を停止しながら、予め定めた第3の溶接電流値で、予め定めた時間維持する第3の区間を有すること、
を特徴とする、請求項1から請求項4のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
【請求項13】
ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する、アークスタート制御プログラムであって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
少なくとも電源を備えるシステムのコンピュータに対し、
前記移行区間において、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させる機能を
実行させる、アークスタート制御プログラム。
【請求項14】
ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する機能を有する電源であって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記電源は、前記移行区間において、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、電源。
【請求項15】
ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する、アークスタート制御システムであって、
前記アークスタート制御システムが少なくとも電源を備え、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、アークスタート制御システム。
【請求項16】
ガスシールドアーク溶接法による溶接方法であって、
少なくとも電源を備えるシステムが、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御し、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、溶接方法。
【請求項17】
ガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造方法であって、
少なくとも電源を備えるシステムが、付加製造開始から付加製造の定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御し、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、付加製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶接方法を問わず、安定したアークスタートを行うためのアークスタート制御方法、アークスタート制御プログラム、電源、アークスタート制御システム、溶接方法および付加製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスシールドアーク溶接は、短絡溶接方法、パルス溶接方法や送給制御溶接方法など、用途に応じて様々な溶接方法で溶接を行うが、いずれの方法であっても、溶接開始から、安定した溶接になる期間(以降、「定常溶接期間」とも称する。)に至るまでに、アーク発生時の短絡、溶融池が形成されていないことによるアーク不安定、および設定値に至るまでの溶接条件変動による溶滴移行の不安定などが起こる過渡溶接期間が存在する。そのため、従来では、この過渡溶接期間(以降、「アークスタート期間」とも称する。)を制御することで、アーク発生時の短絡安定、アーク不安定や溶滴移行の不安定の改善を行い、スパッタの低減や良好なビード形状を確保している。
【0003】
特許文献1は、短絡溶接方法の場合のアークスタート期間の制御について開示している。溶接の開始を指示した後、短絡発生時からアーク発生時までの短絡期間ではワイヤ送給速度を後退送給とし、アーク発生時から次の短絡発生時までのアーク期間では前記ワイヤ送給速度を前進送給として溶接を行い、その後に前記ワイヤ送給速度を一定速度に切り替えて溶接を行うことで、アークが発生してからアークが安定するまでのスパッタ発生量を低減できる。
【0004】
特許文献2は、パルス溶接方法の場合のアークスタート期間の制御について開示している。アークスタート期間に短絡溶接制御から所定の時間(t1)経過すると、パルス波形の立ち上がりの傾きおよび/または立ち下がりの傾きを定常溶接のパルス波形よりも緩やかとしたパルス波形を出力するパルス溶接に移行し、溶融プールが十分に形成された後に、定常溶接のパルス波形を出力するように制御することで、アークが発生してから、アークが安定するまでのスパッタ発生量を低減することができる。
【0005】
特許文献3は、正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを発生させて溶接する送給制御溶接方法のアークスタート期間の制御について開示している。溶接を開始する際に、定常溶接期間に収束するまでの過渡溶接期間中は、送給速度の逆送ピーク値の絶対値及び正送ピーク値の絶対値を経時的に大きくすることで、過渡溶接期間から定常溶接期間に切り換わるときの溶接状態を安定化することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-169555号公報
【特許文献2】国際公開第2012/032703号
【特許文献3】特開2021-74732号公報
【特許文献4】国際公開第2015/163101号
【特許文献5】特開2020-49506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、短絡溶接方法、パルス溶接方法や送給制御溶接方法など、いずれの方法であっても、アークスタート期間の制御は行われているが、そのアークスタート期間の制御の難度は、送給制御溶接方法が最も高くなる。これは、送給制御溶接方法は、ワイヤ周波数やワイヤ振幅といった送給制御由来の制御条件があり、定常溶接期間に至るまで多種多様の条件を制御する必要があるため、他の方法と比較し、制御が非常に難しくなる。結果として、溶滴移行やアークの不安定が起こりやすくなり、スパッタの発生やビード形状に悪影響を及ぼす虞が生じる。
【0008】
また、送給制御溶接方法の中にも種類があり、特許文献4に代表されるように、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間とアーク期間とを発生させる短絡移行の形態をベースとして溶接するタイプ(以降、「短絡型送給制御法」とも称する。)と、特許文献5に代表されるように、溶接ワイヤの送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り換え、短絡期間の発生を抑止させるグロビュール移行の形態をベースとして溶接するタイプ(以降、「短絡抑制型送給制御法」とも称する。)が挙げられる。
【0009】
短絡抑制型送給制御法は、短絡型送給制御法と比べて、ワイヤ先端の溶滴サイズが大きくなる溶接条件のため、定常溶接期間に至るまでに、溶滴サイズを徐々に大きくするように条件を変動しなければならないが、定常溶接期間に近づく程、溶滴の揺動が大きくなり、溶滴移行の不安定、アーク不安定が発生しやすくなる。このため、特に定常溶接期間へ切り替える前後の範囲で、スパッタの発生やビード形状不良の発生が起こりやすくなる。
【0010】
ここで、特許文献3は、アークスタート期間の制御が困難な送給制御溶接方法を適用した場合であるが、「短絡型送給制御法」のタイプであって、さらにアークスタート期間の制御が難しい「短絡抑制型送給制御法」のタイプについて解決できる制御ではない。また、特許文献1~3は、各々の溶接方法に応じたアークスタート期間の制御方法であって、複数の溶接方法で共通して適用できるアークスタート期間の制御方法ではなく、汎用性に欠ける。少なくとも、特許文献1または2の技術を、アークスタート期間の制御が難しくなる送給制御溶接方法に転用しても、アークスタート期間から定常溶接期間までに発生する溶接的な不安定を十分に抑止することはできない。
【0011】
よって、本発明は、ガスシールドアーク溶接において、溶接方法を問わず、溶接方法として短絡抑制型送給制御法を適用した場合であっても、安定して定常溶接期間に移行することができるアークスタート制御方法、アークスタート制御プログラム、電源、アークスタート制御システム、溶接方法および付加製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、下記の構成からなる。
(1) ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する方法であって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、アークスタート制御方法。
【0013】
(2) ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する、アークスタート制御プログラムであって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
少なくとも電源を備えるシステムのコンピュータに対し、
前記移行区間において、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させる機能を
実行させる、アークスタート制御プログラム。
【0014】
(3) ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する機能を有する電源であって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記電源は、前記移行区間において、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、電源。
【0015】
(4) ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する、アークスタート制御システムであって、
前記アークスタート制御システムが少なくとも電源を備え、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、アークスタート制御システム。
【0016】
(5) ガスシールドアーク溶接法による溶接方法であって、
少なくとも電源を備えるシステムが、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御し、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、溶接方法。
【0017】
(6) ガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造方法であって、
少なくとも電源を備えるシステムが、付加製造開始から付加製造の定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御し、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、付加製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ガスシールドアーク溶接において、溶接方法を問わず、特に溶接方法として短絡抑制型送給制御法を適用した場合であっても、アークスタート期間から定常溶接期間までに発生する溶接的な不安定を防止し、特に、スパッタの抑制、および良好なビード形状を得ることができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係る溶接システムの構成例を示す概略図である。
【
図2】本実施形態における溶接電源、溶接制御装置、およびサーボアンプの制御に係る概略構成を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態におけるワイヤ送給速度と、ワイヤ先端位置と、電流検出信号との関係性を例示するグラフである。
【
図4】本実施形態に対応するタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明に係るアークスタート制御方法、アークスタート制御プログラム、電源、アークスタート制御システム、溶接方法および付加製造方法の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
なお、本実施形態は溶接ロボットを用いた場合の一例であり、本発明に係るアークスタート制御方法、アークスタート制御プログラム、電源、アークスタート制御システム、溶接方法および付加製造方法は本実施形態の構成に限定されるものではない。例えば、溶接ロボット本体の代わりに台車を用いた自動溶接装置を適用してもよいし、可搬型の小型溶接ロボットを適用してもよい。また、本実施形態では、アークスタート制御が最も難しい短絡抑制型送給制御法の場合、即ち、アークスタート制御後、短絡抑制型送給制御法で溶接を行う場合の一例となるが、本発明は、短絡抑制型送給制御法以外にも、短絡型送給制御法、パルスマグ溶接法、炭酸ガス溶接法などに適用してもよい。
【0022】
本実施形態においては、ガスシールドアーク溶接のうち消耗式電極である溶接ワイヤを適用したガスメタルアーク溶接(以降、「GMAW」とも称する)方法について説明する。しかし、本開示に係る溶接システムは、ガスメタルアーク溶接を活用した付加製造用のシステムについても同様に適用可能である。なお、フィラーワイヤを適用したTIGなどの非消耗式電極の場合も本開示に該当する。
【0023】
ここで、GMAWを活用した付加製造技術について、具体的には、金属積層造型技術(WAAM:Wire and Arc Additive Manufacturing)において有用である。なお、付加製造という用語は、広義では積層造形又はラピットプロトタイピングの用語で用いられることがあるが、本発明においては、統一して付加製造の用語を用いる。本発明に係る手法を付加製造技術に活用する場合は、「溶接」を「溶着」、「付加製造」又は「積層造形」等に言い換えられる。例えば、溶接として扱う場合は「溶接条件」となるが、付加製造として本発明を活用する場合は、「溶着条件」と言い換えたり、溶接として扱う場合は「溶接システム」となるが、付加製造として本発明を活用する場合は、「付加製造システム」と言い換えたりすることができる。
【0024】
図1は、本実施形態に係る溶接システム50の構成例を示す概略図である。溶接システム50は、溶接ロボット110と、溶接制御装置120と、溶接電源140と、コントローラ150と、サーボアンプ160と、サーボモータ170と、プッシュモータ180と、ワイヤバッファ190とを備えている。プッシュモータ180は溶接ワイヤ100を送給する。
【0025】
溶接電源140は、不図示のプラスのパワーケーブルを介して、消耗式電極である溶接ワイヤ100に通電できるように溶接ロボット110に接続され、不図示のマイナスのパワーケーブルを介して、ワーク(以降、「母材」とも称する)200と接続されている。この接続は、逆極性で溶接を行う場合である。正極性で溶接を行う場合、溶接電源140は、極性を逆にすればよい。
【0026】
また、溶接電源140とプッシュモータ180が信号線によって接続され、溶接ワイヤの送り速度を制御することができる。本実施形態の送給制御において、プッシュモータ180は、正転方向のみ行っており、後述するサーボモータ170は正転、逆転方向に切り替えが行われる。
【0027】
溶接ロボット110は、エンドエフェクタとして溶接トーチ111を備える。溶接トーチ111は、溶接ワイヤ100に通電させる通電機構、すなわち溶接チップを有する。溶接ワイヤ100は、溶接チップからの通電により先端からアークを発生させ、その熱で溶接の対象であるワーク200を溶接する。なお、溶接チップは一般的に、コンタクトチップとも称されることがある。
【0028】
溶接トーチ111は、シールドガスを噴出する機構となるシールドガスノズルを備える。シールドガスは特に限定しないが、本実施形態で用いる制御の特性上、グロビュール移行の形態を取るガス組成にすればなおよく、具体的には、電位傾度の高い炭酸ガス、窒素ガス、水素ガス、酸素ガスのうち少なくとも一つのガスが含まれることが好ましい。また、汎用性の観点から、アルゴンガス(以降、「Arガス」とも称する)との混合ガスの場合は、少なくとも炭酸ガスが10体積%以上混合した系がより好ましく、炭酸ガスが90体積%以上混合した系がさらに好ましく、炭酸ガス単体で用いることがさらにより好ましい。なお、シールドガスは、不図示のシールドガス供給装置から供給される。
【0029】
サーボモータ170は溶接トーチ111近傍に設けられる。サーボモータ170に接続されたサーボアンプ160がサーボモータ170を制御する。本実施形態は、溶接トーチ111がサーボモータ170から独立した構成としているが、溶接トーチ111の中にサーボモータ170を備える構成のトーチであってもよい。サーボモータ170は、正逆送給指令に基づいて、正転、逆転方向に切り替えを行い、送給制御を行う。また、サーボアンプ160は高速演算処理を可能とし、後述のように正逆送給指令生成部161を有する。
【0030】
プッシュモータ180とサーボモータ170の間にはワイヤバッファ190が配置される。プッシュモータ180は正転方向のみ、サーボモータ170は正転および逆転方向にワイヤを送給することにより、プッシュモータ180とサーボモータ170とで送給方向が異なる場合がある。そのため、送給経路内でワイヤに大きな負荷がかかり易い状況が生じる。このような送給の状況においても適正に送給制御が可能となるよう、ワイヤバッファ190を設けて、ワイヤの座屈などを抑制する。
【0031】
本実施形態で使用する溶接ワイヤ100は特に問わない。例えば、フラックスを含まないソリッドワイヤと、フラックスを含むフラックス入りワイヤのどちらを用いてもよい。また、溶接ワイヤ100の材質も問わない。例えば、材質は軟鋼でもよいし、ステンレス、アルミニウム、チタンでもよく、ワイヤ表面にCuなどのめっきがあってもよい。溶接ワイヤ100の径も特に問わない。本実施形態の場合、好ましくは、径の上限を1.6mm、下限を0.8mmとする。
【0032】
また、本実施形態においてワーク200の具体的構成は特に問わず、継手形状、溶接姿勢や開先形状などの溶接条件も特に問わない。溶接制御装置120は、主に溶接ロボット110の動作を制御する。よって、溶接制御装置120はロボットコントローラと言い換えてもよい。溶接制御装置120は、あらかじめ溶接ロボット110の動作パターン、溶接開始位置、溶接終了位置、溶接条件、ウィービング動作等を定めた教示データを保持し、溶接ロボット110に対してこれらを指示して溶接ロボット110の動作を制御する。また、溶接制御装置120は、教示データに従い、溶接作業中の溶接電流、溶接電圧、送給速度などの溶接条件を溶接電源140に与える。
【0033】
なお、
図1に示すように、本実施形態の溶接システム50は、溶接制御装置120が溶接電源140から独立した構成としているが、溶接電源140の中に溶接制御装置120を備える構成であってもよい。
【0034】
コントローラ150は、溶接制御装置120に接続され、溶接ロボット110を動作させるためのプログラムの作成又は表示、教示データの入力等を行う。ユーザがコントローラ150に入力した情報は溶接制御装置120に与えられる。また、コントローラ150は、溶接ロボット110のマニュアル操作を行う機能も有していてよい。コントローラ150と溶接制御装置120の間の接続は、有線又は無線の種類を特に問わない。
【0035】
溶接電源140は、溶接制御装置120からの指令により、溶接ワイヤ100及びワーク200に電力を供給することで、溶接ワイヤ100とワーク200との間にアークを発生させる。また、溶接電源140は、溶接制御装置120からの指令により、プッシュモータ180の制御信号を出力する。
【0036】
次に、
図2および
図3を参照して、本実施形態に係る溶接システム50の機能構成について詳細に説明する。
図2は、本実施形態における溶接電源140、溶接制御装置120、およびサーボアンプ160の制御に係る概略構成を示すブロック図である。
図3は、本実施形態におけるワイヤ送給速度と、ワイヤ先端位置と、電流検出信号との関係性を例示するグラフである。
【0037】
溶接電源140は溶接制御装置120とデジタル通信で接続されており、溶接制御装置120はサーボアンプ160とデジタル通信で接続されている。すなわち、デジタル通信接続したサーボアンプ160、溶接制御装置120、および溶接電源140の順に、ライン型で接続されている。これは、サーボアンプ160と溶接電源140とがデジタル通信で間接的に接続されている状態と解釈することができる。なお、サーボアンプ160、溶接電源140、溶接制御装置120の順にライン型で接続されてもよい。これは、サーボアンプ160と溶接電源140とがデジタル通信で直接的に接続されている状態と解釈することができる。
【0038】
なお、本実施形態では溶接電源140と溶接制御装置120の間は産業用のフィールドネットワークの一つであるCAN(Controller Area Network)で、溶接制御装置120とサーボアンプ160間は産業用のフィールドネットワークの一つであるEtherCAT(Ethernet for Control Automation Technology)(登録商標)でそれぞれ通信されているが、これらには限られない。
【0039】
(溶接電源の機能構成)
溶接電源140の制御系部141は、例えば、溶接制御装置120又は不図示のコンピュータによるプログラムの実行を通じて実行される。溶接電源140の制御系部141には、電流設定部36が含まれる。本実施形態における電流設定部36は、溶接ワイヤ100に流れる溶接電流を規定する各種の電流値を設定する機能を有する。電流設定部36は、電流制御の各期間において期間が開始される時間と終了する時間を設定する機能を有する。
電流設定部36は、目標電流設定部36Aと、ワイヤ先端位置変換部36Bと、電圧設定部36Cとを有する。目標電流設定部36Aは、電流制御に係るピーク期間Dap、立下がり期間Ddwn、ベース期間Db、および立上り期間Dupの各期間について、それぞれの期間開始時間と終了時間を設定する機能を有する。ワイヤ先端位置変換部36Bは、溶接ワイヤ100の先端位置の情報を求める機能を有する。
【0040】
なお、各種条件設定は、例えば、予め作業者が入力した設定値、予め用意した波形制御テーブルや溶接条件のデータベースなどに基づいて決定すればよい。設定値、テーブル、データベースなどは、溶接システム50の構成要素のうちいずれかに保存されていてよい。設定値、テーブル、データベースなどは例えば、溶接制御装置120や溶接電源140などに保存されていてよい。
【0041】
なお、電流非抑制期間TIP(本実施形態ではDupとDap期間の合計)、電流抑制期間TIB(本実施形態ではDdwnとDb期間の合計)に係るピーク期間Dap、立下がり期間Ddwn、ベース期間Db、立上り期間Dupの各期間の各種条件設定は、予め用意した波形制御テーブルに基づいて波形制御テーブルリニア演算部37で決定すればよい。なお、ここでいう各種条件設定とは、本実施形態において電流値、時間または位相などの条件設定を意味する。
【0042】
溶接電流は、ワイヤ先端位置に係る位相(以降、「ワイヤ位置位相」または「位置位相」と称する)に基づいて、電流非抑制期間TIPと電流抑制期間TIBの溶接電流を交互に繰り返すパルス波形を示す。なお、本実施形態において、ワイヤ先端位置がチップ側に最も近づく場合を0°、母材側に最も近づく場合を180°とした0~360°(0~2π)のワイヤ位置位相に基づいて、ピーク期間Dap、立下がり期間Ddwn、ベース期間Db、立上り期間Dupのタイミングを制御している。
【0043】
制御系部141が保存する溶接条件情報における平均送給速度Favgの設定値に基づいて、波形制御テーブルリニア演算部37で算出された電流非抑制期間TIPにおけるピーク期間Dapの設定電流値Iap(以降、「ピーク電流Iap」とも称する)と、電流抑制期間TIBにおけるベース区間Dbの設定電流値Ib(以降、「ベース電流Ib」とも称する)が電流設定部36に設定される。
【0044】
本実施形態の場合、溶接電流は基本的にピーク電流Iapとベース電流Ibの2値で制御される。このため、ベース期間Dbの開始時間は、ベース電流Ibが開始する時間、すなわちベース電流開始時間を表す。また、電流抑制期間Dbが終了する時間は、ベース電流Ibが終了する時間、すなわちベース電流終了時間を表す。このベース期間Dbの開始される時間、ベース期間Dbが終了する時間、立下がり期間Ddwnの期間(時間)、立下がり期間Ddwnの期間(時間)は波形制御テーブルリニア演算部37において算出される。ピーク期間Dapが開始される時間は、ピーク電流開始時間と表現されてもよく、ピーク期間Dapが終了する時間は、ピーク電流終了時間と表現されてもよい。なお、
図3に示される通り、ピーク電流終了時間のタイミングは、ワイヤ位置位相が0°を開始としたときの設定期間d1で決定され、ピーク電流開始時間のタイミングはピーク電流終了時間を開始としたときの設定期間d2で決定されるとよい。この設定期間は位相で設定するとよく、例えば、d1を190°、d2を120°と設定した場合には、ワイヤ位置位相が190°(d1)の位置でピーク電流が終了し、ワイヤ位置位相が310°(d1+d2)の位置でピーク電流が開始することになる。
【0045】
なお、上記における種々の開始時間や終了時間などは、時間を基準として説明を行っている。しかし、ワイヤ位置位相の値を基準として、ワイヤ位置位相から時間または周期cycに値を変換して処理が行われてもよい。すなわち、ワイヤ位置位相、時間、および周期cycの値は相互に変換可能であるため、いずれの値を基準にして制御を行ってもよい。
【0046】
また、サーボアンプ160からの位相同期信号と位相遅延補正量信号に基づいて、ワイヤ先端位置変換部36Bがワイヤ先端位置を決定する。なお、本実施形態において、ワイヤ先端位置は、前述のとおりワイヤ位置位相として角度(0~2π)を用いて表現されてよい。
【0047】
位相遅延補正量信号は、位相遅延補正部38から出力される。位相遅延補正部38は図示を省略するデータベースを有する。このデータベースには、各種溶接条件ごとに、周期性のある設定情報とサーボモータ170の実際の正逆送給動作の動作信号との差異を予め算出したデータが記憶されている。例えば、溶接条件がワイヤ正逆周波数である場合、用いるワイヤ正逆周波数の値に応じて、上記のデータベースに基づき、位相遅延補正量が決定され、位相遅延補正量信号として位相遅延補正部38から出力される。
【0048】
溶接電源140の電源主回路は、三相交流電源(以降、「交流電源」とも称する)1と、1次側整流器2と、平滑コンデンサ3と、スイッチング素子4と、トランス5と、2次側整流器6と、リアクトル7とで構成される。
【0049】
交流電源1から入力された交流電力は、1次側整流器2により全波整流され、さらに平滑コンデンサ3により平滑されて直流電力に変換される。次に、直流電力は、スイッチング素子4によるインバータ制御により高周波の交流電力に変換された後、トランス5を介して2次側電力に変換される。トランス5の交流出力は、2次側整流器6によって全波整流され、さらにリアクトル7により平滑される。リアクトル7の出力電流は、電源主回路からの出力として溶接チップに与えられ、消耗式電極としての溶接ワイヤ100に通電される。
【0050】
溶接ワイヤ100はプッシュモータ180及びサーボモータ170によって送給され、母材200との間にアークを発生させる。溶接ワイヤ100の先端を母材200に向かって移動させる正送給期間を、正送給期間TPと表記する。溶接ワイヤ100の先端を母材200の位置する方向と逆方向に移動させる逆送給期間を、逆送給期間TNと表記する。本実施形態の場合、送給モータは、正送給期間TPと逆送給期間TNとを合わせて1周期として、周期的に溶接ワイヤ100を送給する。なお、溶接ワイヤの先端とは、通常、ワイヤ先端に垂下する溶滴の存在を無視した場合のワイヤ先端を指すものとする。すなわち、アークによって溶融されたワイヤは即時、母材200へ移行したとみなす。
【0051】
プッシュモータ180による溶接ワイヤ100の送給は、プッシュフィーダ制御部39に基づく制御信号によって制御される。なお、送給速度の平均値は、溶融速度とほぼ同じである。本実施形態の場合、プッシュモータ180による溶接ワイヤ100の送給も溶接電源140により制御される。
【0052】
また、プッシュフィーダ制御部39は、ワイヤバッファ190の状態に応じて制御を行う。本実施形態において、ワイヤバッファ190は、プッシュモータ180とサーボモータ170間の送給経路でワイヤに大きな負荷がかからないように、ワイヤバッファ190にワイヤの遊び部(モータ間による送給の影響でワイヤが弛んだ場合に逃げる隙間部分)を設け、ワイヤバッファ190に内蔵されたセンサであるアブソリュートエンコーダによって、ワイヤのバッファ量を回転角度として検出する。検出値はシリアルアナログ変換部191によってアナログ信号に変換され、電気角演算部で電気角が算される。算出された電気角は溶接電源のA/D入力部40に入力される。
【0053】
A/D入力部40からの電気角と、電気角調整部41において予め設定された電気角の基準値との間の差分を取った差分信号が、プッシュフィーダ制御部39に入力される。プッシュフィーダ制御部39はこの差分信号に基づいて、適正なワイヤのバッファ量となるように、プッシュモータ180を制御することによって、送給系に大きな負荷をかけないようにする干渉制御を行う。なお、本実施形態では前述のような干渉制御を行っているが、これに限られるわけではない。また、本実施形態では、ワイヤバッファ190に内蔵されたアブソリュートエンコーダを用いたが、これに限られるわけでもない。例えば、回転角度センサを用いてもよく、この場合、シリアルアナログ変換部191は設けなくともよい。
【0054】
電流設定部36には、溶接チップと母材200との間に加える電圧の目標値である電圧設定信号Vapが電圧設定部36Cから与えられる。
【0055】
一方、電圧検出信号Voは実測値である。本実施形態では、電圧検出信号VoはローパスフィルターLPFを通過し、後述する離脱検出部33を経て、後述する離脱検出信号DTRとともに電流設定部36に入力される。なお、電圧比較部を設け、電圧設定信号Vapと電圧検出信号Voとの差分を増幅し、電圧誤差増幅信号として電流設定部36に出力する構成としてもよい。
【0056】
電流設定部36は、アークの長さ(以降、「アーク長」とも称する)が一定になるようにピーク期間Dapの溶接電流を制御する。電流設定部36は、電圧設定信号Vapと電圧検出信号Voとに基づいて、少なくともピーク期間、立ち上がり期間、ベース期間、立ち上り期間を決定し、設定する。なお、ピーク電流Ipの値、ベース電流Ibの値を再設定してもよい。設定された期間又は値に応じた電流設定信号CCsetを電流誤差増幅部(PWM)34に出力する。
【0057】
電流誤差増幅部34は、目標値として与えられた電流設定信号CCsetと電流検出部31で検出された電流検出信号Ioとの差分を増幅し、電流誤差増幅信号Edとしてインバータ駆動部30に出力する。インバータ駆動部30は、電流誤差増幅信号Edによってスイッチング素子4の駆動信号Ecを補正する。
【0058】
電流設定部36には、溶接ワイヤ100の先端からの溶滴の離脱を検知する信号となる離脱検出信号DTRも入力される。離脱検出信号DTRは、離脱検出部33から出力される。離脱検出部33は、電圧検出部32が出力する電圧検出信号Voの変化を監視し、その変化から溶接ワイヤ100からの溶滴の離脱を検知する。なお、離脱検出部33は検出手段の一例である。
【0059】
離脱検出部33は、例えばLPFを通した電圧検出信号Voを微分又は二階微分した値を検出用の所定の閾値と比較することにより、溶滴の離脱を検出する。検出用の閾値は、図示を省略する記憶部にあらかじめ記憶されている。なお、離脱検出部33は、実測値である電圧検出信号Voと電流検出信号Ioとから算出される抵抗値の変化に基づいて、離脱検出信号DTRを生成してもよい。
【0060】
波形制御テーブルリニア演算部37には、送給される溶接ワイヤ100の平均送給速度Favgが与えられる。平均送給速度Favgは、送給設定データ部35に予め記憶されている。なお、送給設定データ部35は本実施形態においては溶接電源140内にあるが、溶接制御装置120内に送給設定に係る各種の情報を記憶させておき、各種の情報を溶接制御装置120から溶接電源140へと出力してもよい。
【0061】
波形制御テーブルリニア演算部37は、与えられた平均送給速度Favgに基づいて、ピーク電流Ip、ベース電流Ib、ベース電流Ibが開始する時間、ベース電流Ibが終了する時間などの値を決定し、電流設定部36へ出力する。なお、上述のようにワイヤ位置位相、時間、および周期cycの値は相互に変換可能であるため、ベース開始の位相の設定値などを時間または周期cycの値に換算して、換算後の値を電流設定部36へ出力してもよい。
【0062】
本実施形態では、平均送給速度Favgを波形制御テーブルリニア演算部37に入力しているが、平均送給速度Favgに関連する値を設定値として波形制御テーブルリニア演算部37に入力し、波形制御テーブルリニア演算部37がその設定値を平均送給速度Favgに置き換えて用いてもよい。例えば、図示を省略する記憶部に平均送給速度Favgと、その平均送給速度Favgに対して最適な溶接が可能となる平均電流値のデータベースが記憶されている場合、平均電流値を設定値として用い、設定値を平均送給速度Favgに置き換えて用いてもよい。
【0063】
送給設定データ部35は、平均送給速度Favgの他、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sfおよびワイヤ正逆周期Tfなどの設定値を記憶していてもよい。なお、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sfおよびワイヤ正逆周期Tfは、入力された平均送給速度Favgに基づいて決定されてもよい。また、送給設定データ部35はこれら以外の設定値を送給設定データとして記憶してもよい。なお、本実施形態においては、ワイヤ振幅Wfの値は、
図3で示す波高Whを指す。即ち、設定値であるワイヤ振幅Wfは波高Whと同値としている。
【0064】
本実施形態では、平均送給速度Favgよりも送給速度が大きい期間を正送給期間とし、平均送給速度Favgよりも送給速度が小さい期間を逆送給期間として、正送給期間と逆送給期間とが交互に現れる送給(以降、「振幅送給」と省略して称する)となる。なお、平均送給速度Favgよりも送給速度が小さい期間とは、平均送給速度Favg未満を指し、マイナスの送給速度、すなわち、ワイヤ先端が母材200のある位置と逆方面へ移動する速度を含む。ワイヤ振幅Wfは平均送給速度Favgに対する変化幅を与え、ワイヤ正逆周期Tfは繰り返し単位であるワイヤ振幅の変化の時間を与える。ワイヤ正逆周波数Sfはワイヤ正逆周期Tfの逆数である。
【0065】
送給設定データ部35に記憶された平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、およびワイヤ正逆周期Tfは、デジタル通信部42から、溶接制御装置120のデジタル通信部122へと入力される。本実施形態において、これらの送給設定データの通信はCAN通信で行っている。
【0066】
溶接シーケンス部43は、ティーチングデータに基づいて、アイドル、ガスフロー、アークスタート、溶接中、アンチスティックの順で各タスクを処理する。なお、
図2において、溶接制御装置120が有する溶接条件情報を、便宜上、溶接電源140の中においても破線で囲って示している。
【0067】
(溶接制御装置の機能構成)
溶接制御装置120のデジタル通信部122には、前述のとおり、CAN通信によって、溶接電源140の送給設定データ部35から、平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、ワイヤ正逆周期Tfなどの送給設定データが入力される。溶接制御装置120は、これらの送給設定データをサーボアンプ160のデジタル通信部162へ出力するためのデジタル通信部123を有する。本実施形態において、溶接制御装置120のデジタル通信部123とサーボアンプ160のデジタル通信部162との間はEtherCAT(登録商標)通信で接続される。
【0068】
(サーボアンプの機能構成)
サーボアンプ160のデジタル通信部162には、EtherCAT(登録商標)通信によって、平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、ワイヤ正逆周期Tfなどの送給設定データが入力される。サーボアンプ160の正逆送給指令生成部161は、デジタル通信によって入力された設定情報、すなわち送給設定データに基づいて、正送給または逆送給の送給指令を生成する。正逆送給指令生成部161は、ワイヤ振幅Wfおよびワイヤ正逆周期Tfから振幅送給速度Ffを算出し、振幅送給速度Ffと平均送給速度Favgとに基づいて、送給速度指令信号Fwをサーボモータ170に出力する。
【0069】
本実施形態の場合、送給速度指令信号Fwは、次式で表される。
Fw=Ff+Favg ・・・式(A)
【0070】
また、正逆送給指令生成部161は、離脱検出部33から与えられる離脱検出信号DTRにより、振幅送給のどのワイヤ位置位相で離脱が発生したかを検知してもよい。ただし、式(A)で表される送給速度指令信号Fwは、溶接ワイヤ100の先端からの溶滴の離脱が想定する期間内に検知されている場合に限られる。想定する期間内に溶滴の離脱が検出されなかった場合、正逆送給指令生成部161は、送給速度指令信号Fwを一定速度による送給制御に切り替えてもよい。例えば、正逆送給指令生成部161は、送給速度指令信号Fwを平均送給速度Favgによる送給に切り替える。平均送給速度Favgによる送給から、式(A)で表される送給制御への切り替えは、溶滴の離脱が検知されるタイミングに応じて定まる。
【0071】
サーボアンプ160は、送給速度指令信号Fwに基づいて、サーボモータ170のインバータ制御を行う。また、サーボアンプ160の同期信号生成部163は位相同期信号を溶接電源140に出力する。この位相同期信号は、送給速度指令信号Fwに基づいて生成される。
【0072】
なお、溶接電源140と、サーボアンプ160の同期信号生成部163との間は、少なくともアナログ入出力で接続されていてよい。この場合、溶接電源140にはサーボアンプ160からアナログ入出力を介して同期信号が入力される。平均送給速度Favg、ワイヤ振幅Wf、ワイヤ正逆周波数Sf、ワイヤ正逆周期Tfなどの送給設定データをデジタル通信で伝送する一方で、同期信号についてはアナログ通信で伝送することにより、デジタル通信とアナログ通信を用途に応じて効率的に使い分けることができる。
【0073】
ここで、送給速度指令信号Fwに係る位相(以降、「送給速度位相」とも称する)は、正送給の開始を0°、正送給の終了および逆送給の開始を180°(π)、逆送給の終了を360°(2π)としている。本実施形態において、位相同期信号は、送給速度位相の同期信号、ワイヤ位置位相の同期信号となる。送給速度位相の同期信号は、正送給期間(0~πの位置)をONとし、逆送給期間(π~2π位置)をOFFとする同期信号となる。一方、ワイヤ位置位相の同期信号は、ワイヤが正逆送されるときの波高の中心位置より母材200側に近づく期間(0.5π~1.5πの位置)をONとし、ワイヤ振幅の中心位置よりチップ側に近づく期間(1.5π~0.5πの位置)をOFFとする同期信号となる。この位相同期信号と、前述の位相遅延補正量に基づいて、溶接電源140におけるワイヤ先端位置変換部(deg)36Bにより溶接ワイヤ100の先端位置、即ち、ワイヤ位置位相が決定される。
【0074】
<アークスタート制御>
次に、本願開示に係るアークスタート制御について説明する。
図4は、本実施形態に対応するタイミングチャートである。
【0075】
アークスタート制御は、アーク起動信号(以降、溶接開始信号とも称する)Stから初期溶滴成長・短絡までの制御を第1制御期間とし、初期溶滴形成後から定常溶接期間の開始までの制御を第2制御期間としている。第2制御期間では送給制御法を適用する。以下、第1制御期間、第2制御期間について詳細に説明する。
【0076】
<第1制御期間>
図4に示す時刻t1~t10の第1制御期間には、アークを発生させるまでの制御と、後述する第2制御期間に移行するために必要となる初期溶滴を生成するまでの制御とが含まれる。これらの制御方法は特に問わないが、以下のように制御することが好ましい。
【0077】
(アークを発生させるまでの制御:時刻t1~t8)
溶接開始信号Stが入力され、溶接位置において溶接シーケンス部43がアークスタート状態になると、溶接ワイヤが母材に向かって送給され、溶接ワイヤと母材とが接触した後、短絡することで初期アークが発生する。ここで適切な制御を行わなければ、ワイヤの溶断や初期アークの失敗が生じる虞がある。
【0078】
(時刻t1~t8間のワイヤ送給速度の制御)
時刻t1で溶接開始信号StがONになった後、時刻t2において、溶接位置にて、母材へ向かって、予め設定した初期送給速度で正送給を行う。この初期速度が大きすぎると、溶接ワイヤが母材を強く押すことによって、ワイヤの座屈やトーチの振動が生じるため、初期送給速度は小さいほどよい。また、適用するワイヤの鋼種、ワイヤの線径に応じて初期送給速度を変更するとよい。
【0079】
時刻t2で溶接ワイヤと母材とが接触した後、後述する溶接電流の制御を行いつつ、初期送給速度、または初期送給速度以下の送給速度で後述する溶接電流の制御第2区間の終了時刻t6まで維持する。これにより、溶接ワイヤは余熱され、ワイヤの溶断を防止することができる。なお、本実施形態では、初期送給速度を時刻t6まで維持している。
【0080】
ワイヤ送給速度は、時刻t6において、予め定めた送給速度で逆送を行う。予め定めた時刻t8期間までワイヤ送給速度を逆送することによって、スムーズに初期アークを発生させることができ、初期アークの失敗を防止することができる。言い換えれば、初期アークは、逆送給を行う期間、次項t6から時刻t8の間で発生する。なお、逆送給の送給速度および時間は予め設定しておけばよい。ワイヤ送給速度Fwの数値がマイナスの場合は逆送給、プラスの場合は正送給を意味する。また、逆送給の送給速度が早すぎる、もしくは逆送給を行う時間が長すぎると、アーク長が過度に大きくなり、アーク不安定やアーク切れが生じる虞があるため、-25m/minより遅く、逆送給を行う時間は15ms以下となるように設定しておくことが好ましい。ワイヤの溶断を防止し、失敗する事無く初期アークを発生させることができる。
【0081】
(時刻t1~t8間の溶接電流の制御)
時刻t2において、溶接ワイヤと母材が接触し、通電判定がなされた時刻t3の後、定電流制御とし、溶接電流を予め定めた極小電流(第1の溶接電流)で、時刻t4まで溶接電流I0を一定時間維持するように制御する第1の区間を設ける。なお通電判定は、例えば数A程度を閾値として、閾値を超えたら通電したと判定されるとよい。
【0082】
ワイヤの溶断現象を防止するため、初期アークが発生するまでに、ワイヤの余熱期間を設けることは知られている。ここで、溶接ワイヤと母材が接触する初期段階は、ワイヤの温度が常温で硬く、初期送給速度に応じて、母材に対し押し付ける力が加わっている。そのため、接触後すぐにワイヤを余熱するための電流条件に移行するとワイヤが急に軟化し、ワイヤの溶断が起こりやすくなる。そこで本実施形態では、後述する第2の区間で行うワイヤの余熱に入る前に第1の区間を設ける。第1の区間において極小電流を一定期間かけ、ワイヤの温度の温度を徐々に上げることにより、溶接ワイヤと母材が接触する初期段階のワイヤの溶断を防止することができる。
【0083】
なお、第1の区間の溶接電流I0は、ワイヤの溶断を防止するため、5A以下に設定することが好ましく、3A以下に設定するとなお好ましい。また、ワイヤが座屈しにくいように、第1の区間の溶接電流I0が1A以上であることが好ましい。また、第1の区間の時間は、ワイヤの溶断を防止するため、0.5ms以上とすることが好ましく、0.8m以上とすることが好ましい。ワイヤが座屈しにくように、1.5ms以下とすることが好ましい。なお、この第1の区間の電流、時間の設定値は、各種条件によって異なるため、条件に応じて、第1の区間の電流、時間の条件が抽出できるようにデータベースを構築しておけばよい。
【0084】
前述のとおり、第1の区間後、ワイヤを余熱するための第2の区間を設けるとよい。第2の区間は、予め定めたワイヤの余熱条件まで増加させる立上り部と、予め定めたワイヤの余熱条件を維持する維持部とで構成されるとよい。第2の区間の立上り部は、ワイヤの余熱条件のうち、溶接電流I0を目標値とした傾きを予め設定しておけばよい。これにより、ワイヤの溶断が起こることなく、予め定めたワイヤの余熱条件に移行することができる。
【0085】
なお、制御の容易性の観点から傾きは予め定めた制御周期(A/10μs)ごとに変化量を設定することが好ましいが、ワイヤ正逆周波数ごとの変化量(A/cyc)を求めるようにしてもよい。これは、本実施形態において設定される他の傾きについても同様に当てはまる。
【0086】
第2の区間の維持部は予め定めた一定の溶接電流値で維持するとよく、軟鋼、ワイヤ線径0.8~1.4mmφを対象とした本実施形態においては、30~80Aの範囲で設定するとよい。また、第2の区間の維持部の終了時間、即ち第2の区間の終了時間となる時刻t6は、第2区間の開始からの経過時間を予め設定することで決定する。軟鋼、ワイヤ線径0.8~1.4mmφを対象とした本実施形態においては、10~24msの範囲で設定しておくことが好ましく、14~20msの範囲で設定しておくことがさらに好ましい。
【0087】
以上のように第2の区間を設けることによって、時刻t6からt8の間で初期アークを安定的に発生させることができる。なお、この第2の区間の電流、時間の設定値は、各種条件によって異なるため、条件に応じて、第2の区間の電流、時間の条件が抽出できるようにデータベースを構築しておけばよい。
【0088】
(時刻t1~t8間のアーク電圧の制御)
本実施形態では、上述のとおり、定電流制御としているため、アーク電圧は制御した溶接電流に沿って変動する。言い換えれば、アーク電圧の制御は、時刻t1~t8間において制御を必要としない。なお、時刻t7でアークの発生後、定電圧制御に切り替えて、時刻t8までアーク長が一定となるようにアーク電圧を制御してもよい。
【0089】
(初期溶滴を形成し、第2制御区間が開始されるまでの制御:時刻t8~t10間)
初期アークを発生させ、後述する第2制御期間に入る前段階として、初期溶滴を形成する制御となる。この制御が適切になされなければ、送給制御法を適用する第2制御期間の初期段階において、長期短絡が発生する虞があり、長期短絡によってスパッタが増大する可能性が生じる。
【0090】
(時刻t8~t10間のワイヤ送給速度の制御)
時刻t8において、後述する電流制御が終了する時刻t9まで、ワイヤ送給を停止(ワイヤ送給速度Fw=0m/min)させることによって、溶接ワイヤ先端を溶融させ、初期溶滴を形成させる。すなわち、時刻t8からt9の期間は初期溶滴の形成期間として、ワイヤ送給速度Fwと溶接電流I0とを制御する。初期溶滴を形成後、短絡判別信号Sdがhighになる時刻t10まで、予め定めた送給速度で正送する。
【0091】
時刻t10において、後述する第2制御期間に入り、短絡後ワイヤを逆送することで、スパッタが発生することなく、安定的に送給制御法に切り替えることができる。なお、初期溶滴の形成後を時刻t10として、送給速度を逆送することで、第2制御期間に入ってもよいが、より安定に第2制御期間に入ることができることから、初期溶滴の短絡後を時刻t10とすることがより好ましい。
【0092】
(時刻t8~t10間の溶接電流の制御)
時刻t8において、溶接電流I0は予め定めた電流、時間で溶接ワイヤ先端を溶融させ、初期溶滴を形成させるとともに、溶融池を広げる。溶接電流および時間は溶接ワイヤの鋼種やワイヤ線径等の各種条件によって変わるため、適切な条件を適宜設定すればよい。軟鋼、ワイヤ線径0.8~1.4mmφを対象とした本実施形態においては、溶接電流I0を100~140A、時間を10~30msの範囲で設定することが好ましく、初期溶滴が揺動することなく、安定的に初期溶滴を形成させ、かつ後述する第2制御期間を安定させるために必要となる溶融量の溶融池を得ることができる。なお、この溶接電流、時間の設定値は、各種条件によって異なるため、条件に応じて、溶接電流、時間の条件が抽出できるようにデータベースを構築しておけばよい。
【0093】
(第2制御期間)
第2制御期間の開始タイミングは、第1制御期間において形成した初期溶滴が短絡した直後であるか、または、形成した初期溶滴が任意の大きさになった直後であってよい。なお、本実施形態においては、第1制御期間において形成した初期溶滴が短絡した直後を第2制御期間の開始タイミングとし、送給制御に変更している。
【0094】
第2制御期間には、送給制御法を安定させるための初動区間と、定常溶接に安定するための移行区間の制御区間を設ける。ここで、初動区間は
図4における時刻t10~t12の期間であり、移行区間は、
図4における時刻t12~t13の期間である。これらの区間で、以下に説明する制御を行うことにより過度な短絡、溶滴の揺動、アーク偏向を抑制することができるため、ビード外観不良やスパッタの増大が起こることなく、定常溶接に至ることができる。
【0095】
(初動区間:時刻t10~t12の期間)
時刻t10において、送給制御法に切り替える。溶接制御法は短絡型送給制御法でもよいし、短絡抑制型送給制御法でもよいが、過度な短絡を防止するため短絡抑制型送給制御法とすることが好ましく、本実施形態においては、短絡抑制型送給制御法を適用している。初動区間は、送給制御法を安定させるための制御区間とし、送給制御法に変更時の過渡的な不安定を抑止する立上り部と送給制御自体を安定させる維持部から構成される。
【0096】
図4において、ワイヤ送給速度Fwを実線で、平均送給速度を破線でそれぞれ示している。初動期間の立上り部は、時刻t10で短絡が検出されると、溶接ワイヤは逆送し、送給速度を予め定めた初期の平均送給速度に変更し、予め定めた初動区間維持部の平均送給速度に達するまでの時刻t11までとなる。初期の平均送給速度は、初動区間維持部の平均送給速度よりも小さく設定することで、短絡解消後の安定したアークの発生と、アーク発生後に適切なアーク長の確保ができる。なお、初期の平均送給速度は、-15~2m/minの範囲で設定することがより好ましい。
【0097】
また、時刻t10において、平均送給速度の条件のほか、ワイヤ正逆周波数、ワイヤ振幅、ピーク期間の設定電流、ピーク期間の設定電圧、ピーク期間を開始するワイヤ位置、ピーク期間を終了するワイヤ位置の条件のうち、少なくとも一つを初動区間維持部の条件とは異なる値を設定値とし、初動区間維持部に至るまでに変動させてもよい。例えば、時刻t10において、短絡直後の逆送時のみ、ワイヤのふり幅を初動区間における維持部の条件の倍以上の値とし、アーク長を確保するように制御してもよい。
【0098】
初動区間立上り部の時間は、予め傾きを設定しておいてもよいし、時間を設定してもよいが、制御の容易性から予め傾きを設定しておくことが好ましい。なお、制御の容易性から傾きはワイヤ正逆周波数において1周期(cyc)ごとに変化量を設定することが好ましいが、予め定めた制御周期(μsec)ごとの変化量(mpm/μsec)を求めるようにしてもよい。
【0099】
初動区間維持部は、送給制御法を安定させるための制御区間であり、定常溶接時の平均送給速度条件よりも低い平均送給速度の条件で一定期間維持する。この制御区間を設けることにより、送給制御による溶滴移行を安定化させることで、不規則なタイミングで長期的に起こる短絡(以降、長期短絡とも称する)を防止でき、スパッタの低減および良好なビード形状を確保することができる。
【0100】
なお、初動区間維持部における平均送給速度設定値FW-AVE1は、定常溶接の平均送給速度設定値FW-AVE2に対する比率(FW-AVE1/FW-AVE2)で0.9以下、特に0.2~0.7の範囲であることが好ましい。例えば、定常溶接の平均送給速度設定値FW-AVE2が16m/minの場合、初動区間維持部における平均送給速度設定値FW-AVE1は、3.2~11.2m/minの範囲で設定することが好ましい。また、平均送給速度の値によって溶滴移行が安定する最適値が変わる、平均送給速度と関連の深いワイヤ正逆周波数、ワイヤ振幅、ピーク期間の設定電流、ピーク期間の設定電圧、ピーク期間を開始するワイヤ位置位相、ピーク期間を終了するワイヤ位置位相の条件のうち、少なくとも一つを初動期間維持部の条件とは異なる値を設定値とし、後述する移行区間において定常溶接部に至るまでに変動させてもよい。この場合、平均送給速度設定値に加えて、これらの条件のうち少なくとも一つの条件を変動させる条件として組合わせる必要がある。
【0101】
初動区間は、平均送給速度設定値を所定の値に維持する維持部(時刻t11~t12)を含んでいる。維持部において、アーク電圧およびアーク長のうち少なくとも一方に基づいて、初動区間の終了が決定されてよい。
【0102】
(移行区間:時刻t12~t13の期間)
移行区間において、平均送給速度設定値を変動させる。移行区間において、平均送給速度設定値以外の制御条件を変動させてもよい。移行区間において変動させる平均送給速度設定値以外の制御条件は、
・正送期間と逆送期間を1周期としたときのワイヤ周波数、
・ワイヤ振幅、
・ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件の開始タイミング、
・ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件の終了タイミング、
・溶接電流の設定値、
・アーク電圧の設定値、
のうち、少なくとも一つである。
【0103】
ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件は、少なくとも溶接電流I0を含む。溶接電流I0の制御は、ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて、溶接電流I0を抑制期間と非抑制期間とを切替える制御である。この場合、移行区間において、平均送給速度設定値以外に変動させる前記制御条件は、少なくとも、溶接電流I0の非抑制期間の開始タイミングおよび溶接電流I0の非抑制期間の終了タイミングであってよい。
【0104】
移行区間において、変動させる制御条件の設定値は、予め定めた周期単位と、正送期間と逆送期間を1周期としたときのワイヤ周波数単位のうち、少なくとも一方に応じて変動させてよい。
【0105】
移行区間において、平均送給速度設定値は、直線状、曲線状またはステップ状に大きくなるように変動する。ワイヤ周波数は、直線状、曲線状またはステップ状に大きくなるように変動する。ワイヤ振幅は、直線状、曲線状またはステップ状に小さくするように変動する。
【0106】
移行区間においては、前記制御条件を、所定の時間、または、所定の傾きの値に基づいて変動させる。
【0107】
ピーク期間を開始するワイヤ位置位相、ピーク期間を終了するワイヤ位置位相は、短絡抑制型送給制御法特有の条件である。ワイヤ位置に応じて電流を制御する短絡抑制型送給制御法を適用する場合は、ピーク期間を開始するワイヤ位置、ピーク期間を終了するワイヤ位置の条件を初動区間維持部で設定し、後述する移行区間において定常溶接部に至るまでに変動させることがさらにより好ましい。以下に、ワイヤ正逆周波数、ワイヤ振幅、ピーク期間の設定電流、ピーク期間の設定電圧、ピーク期間を開始するワイヤ位置位相、およびピーク期間を終了するワイヤ位置位相の各条件に係る効果について説明する。
【0108】
(ワイヤ正逆周波数)
初動区間維持部におけるワイヤ正逆周波数は、定常溶接部における条件より小さく設定する。これにより、長期短絡や溶滴のつりあがりを抑制し、溶滴移行を安定化させる効果を有する。上記効果を得るために、定常溶接条件に対して0.8倍以下に設定するとより好ましい。
【0109】
(ワイヤ振幅)
初動区間維持部におけるワイヤ振幅は、定常溶接部における条件より大きく設定する。これにより、溶滴の揺動を抑え、長期短絡や溶滴のつりあがりが防止されるため、溶滴移行を安定化させる効果を有する。上記効果を得るために、定常溶接条件に対して1.2倍以上に設定するとより好ましい。
【0110】
(ピーク期間の設定電流)
初動区間維持部におけるピーク期間の設定電流は、ワイヤ溶融バランスをとるため、定常溶接部における条件より小さく設定する。これにより、溶滴のつりあがりを抑制し、溶滴移行を安定化させる効果を有する。好ましくは、ワイヤ速度が一定以上遅い場合に、設定初動区間維持部におけるピーク期間の設定電流を小さく設定してよい。
【0111】
(ピーク期間の設定電圧)
初動区間維持部におけるピーク期間の設定電圧は、定常溶接部におけるピーク期間の設定電流に対し、高く設定する。これにより、アーク長を確保し、長期短絡を抑制することができる。例えば、定常溶接部の「ピーク期間の設定電圧/ピーク期間の設定電流」の比率よりも、初動区間維持部における「ピーク期間の設定電圧/ピーク期間の設定電流」の比率の方が大きくなるように設定すればよい。
【0112】
(ピーク期間を開始するワイヤ位置位相、ピーク期間を終了するワイヤ位置位相のタイミング)
初動区間維持部におけるピーク期間を開始するワイヤ位置位相および/もしくはピーク期間を終了するワイヤ位置位相は、定常溶接部における条件より早めに設定する。これにより、溶滴移行が安定し、スパッタの低減効果が得られる。電流位相が遅いと、溶滴の離脱が遅れ、アークによる押上げの影響で溶滴が浮遊しやすいからである。
【0113】
以上のように、初動期間維持部は平均送給速度設定値に加えて、上記の各条件のうち少なくとも一つの条件の設定値を変更することで、溶滴移行を安定化、即ちアークスタート期間において送給制御法を安定化させることができる。なお、上記条件をすべて変更するとさらに好ましい。
【0114】
また、初動区間維持部は、本実施形態のように、予め定めた時間の間継続する制御とすればよい。予め設定する時間は、初動区間維持部において、アーク長が安定する時間を予め調査して決定するとよい。なお、アーク長が安定したと判定した後に終了時刻を決定する方法としてもよい。アーク長の判定方法は特に問わないが、アーク電圧V0(検出電圧)を監視し、判定する方法とすればよい。
【0115】
(移行区間:時刻t12~t13の期間)
移行区間は、定常溶接条件まで、初動区間維持部の条件を変動させる過渡的な期間となる。変動させる条件は、平均送給速度設定値に加えて、上述したワイヤ正逆周波数、ワイヤ振幅、ピーク期間の設定電流、ピーク期間の設定電圧、ピーク期間を開始するワイヤ位置、ピーク期間を終了するワイヤ位置のうち少なくとも一つの条件を変動させる条件として組合わせるとより好ましい。変動量は予め、移行区間の時間を設定しておくとよく、目標値である定常溶接条件に向かって直線状(リニア)に変動することが好ましいが、例えば、曲線状(指数的に増減)でもよいし、ステップ状に変動させてもよい。なお、アーク長を安定させやすいという観点から、直線状(リニア)または曲線状(指数的に増減)に変動するように設定することがより好ましい。平均送給速度設定値の変動ごとに、平均送給速度設定に係る条件(ワイヤ正逆周波数、ワイヤ振幅、ピーク期間の設定電流、ピーク期間の設定電圧、ピーク期間を開始するワイヤ位置、ピーク期間を終了するワイヤ位置のうち少なくとも一つ)も適した値に変動するため、過渡的な期間においても安定した溶滴移行を実現でき、定常溶接に至るまでスパッタの低減と良好なビード形状を確保することができる。
【0116】
(定常溶接区間:時刻t13以降)
上記の制御によって、定常溶接が送給制御法であっても、スパッタの低減と良好なビード形状を確保することができるアークスタートが達成できる。特に、定常溶接が短絡抑制型送給制御法である場合に好適である。また、時刻t13の時点では、アークスタートの過渡的な期間は超えているので、定常溶接が短絡溶接法やMAG溶接法、パルスMAG溶接法であっても適用できる。例えば時刻t13で送給制御を停止し、短絡溶接法やMAG溶接法、パルスMAG溶接法などに移行すればよい。すなわち、本実施形態は定常溶接の溶接方法を問わず、適用できるアークスタート制御方法であると言える。
【0117】
<アークスタート制御方法の処理例>
次に、本実施形態に係るアークスタート制御についての処理例を説明する。当該処理例においては、溶接ワイヤが、軟鋼ソリッドワイヤ、ワイヤ径1.2φであり、突出し25mmの条件である。溶接開始信号Stの時間変化、ワイヤ送給速度Fwの時間変化、溶接電流I0の時間変化、アーク電圧V0の時間変化、および、短絡判別信号Sdの時間変化(highの場合に短絡)を示す。
【0118】
(第1制御期間:時間t1~t10)
[(1)時刻t1より前の期間:待機時間]
時刻t1より前の期間は、溶接シーケンス部43において、アイドル状態であり、溶接開始信号Stはlowレベルとなる。溶接停止状態であるため、ワイヤ送給速度Fw、溶接電流I0、アーク電圧V0は、0となり、その他の信号もlowレベルとなる。
【0119】
[(2)時刻t1~t2の期間]
時刻t1において、溶接開始信号Stがhighレベルに変化すると、教示プログラムに従って、溶接ロボット110は溶接開始位置へ移動する。この溶接ロボット110の移動により、溶接トーチ111が溶接開始位置に到着すると、溶接シーケンス部43はガスフローの状態となり、シールドガスが流れる(プリフロー)。一定時間シールドガスが流れた後、溶接シーケンス部43はアークスタート状態に移行し、時刻t2において溶接電源140はアーク電圧V0(検出電圧)となるように出力する。このときのアーク電圧V0は無負荷電圧となる。
【0120】
[(3)時刻t2~t3の期間]
溶接電源140がアーク電圧V0に基づいて設定電圧であるアーク電圧を出力後、母材200に向かって、溶接ワイヤ100が送給される。本実施形態においては、ワイヤ送給速度Fwを時刻t6まで、予め定めた送給速度値(m/min)一定で送給する。時刻t3において、溶接ワイヤ100が母材200と接触(短絡)すると、アーク電圧V0は無負荷電圧から数V程度の小さな値の電圧値に低下する。このとき、溶接電源140は電圧値の低下によって、短絡状態を判別すると、短絡判別信号Sdをhighレベルに変化させる。
【0121】
[(4)時刻t3~t4の期間]
時刻t3において、短絡後、通電により、電流判別信号Cdはhighとなり、溶接電流I0(検出電流)が3Aを超えると、溶接電源140は、定電流制御で溶接電流I0(検出電流)が5A以下の予め定めた値で一定になるように、時刻t3から予め定めた時間(msec)後の時刻t4まで制御する。
【0122】
[(5)時刻t4~t5の期間]
ワイヤ余熱の立上り期間である。時刻t4において溶接電源140は、定電流制御で、予め定めた溶接電流値(A)を目標値の増加率(A/μs)となるように溶接電流I0を増加させる。そして、予め定めた溶接電流値に到達した時刻がt5となる。
【0123】
[(6)時刻t5~t7の期間]
ワイヤ余熱の維持時間経過後にリトラクトスタート動作が行われる。溶接電源140は、時刻t5から定電流制御で予め定めた溶接電流値を維持しつつ、時刻t4の溶接電流I0の立上りから、予め定めた時間経過後の時刻t6に、ワイヤ送給速度Fwを正送給から逆送給に変化させ、溶接ワイヤを引き戻すことにより、強制的に短絡を解消させ(短絡判別信号Sdをlowレベルにする)、時刻t7で初期アークを発生させる。初期アークが発生すると、アーク電圧V0は、短絡時の低い電圧から、数十V程度のアーク電圧値に増加する。
【0124】
[(7)時刻t7~t8の期間]
初期溶滴の形成スタート時期である。溶接電源140は、時刻t6のワイヤ送給速度Fwを逆送給に変化時から予め定めた時間後の時刻t8おいて、ワイヤ送給速度Fwを0m/minに変化させ、ワイヤ送給を停止させる。
【0125】
[(8)時刻t8~t9の期間]
初期溶滴の形成時期である。ワイヤ送給を停止した時刻t8において、溶接電源140は、溶接電流I0を予め定めた値に変化させ、予め定めた時間後の時刻t9まで、溶接電流I0を予め定めた値で維持する。
【0126】
[(9)時刻t9~t10の期間]
初期溶滴の形成完了~送給準備の時期である。時刻t9において、溶接電源140は、溶接電流I0を低下させ、ワイヤ送給速度Fwは停止状態(0m/min)から正送給に変化させ、短絡判別信号Sdがhighレベルになる時刻t10まで維持する。
【0127】
(第2制御期間:時間t10~t11)
[(10)時刻t10~t11の期間]
初動区間立上り部の時期である。時刻t10において、溶接電源140は、ワイヤ送給速度Fwを、正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法に変更し、溶接電源140は、平均送給速度0m/min、その他の条件は初動区間の維持部の条件に変化させ、まずワイヤを逆送給させ、短絡を解消させる。
【0128】
短絡解消後、初動区間の維持部の条件で、溶接電源140は、予め定めた傾きに基づいて、予め定めた初動区間維持部の平均送給速度条件となる平均送給速度まで増加させる。このとき、予め定めた初動区間維持部の平均送給速度に達した時刻を時刻t11とする。なお、ワイヤ溶融バランスを考慮し、ワイヤ速度のみではなく、ピーク電流も時間の経過に応じて変させてもよい。
【0129】
[(11)時刻t11~t12の期間 ]
初動区間維持部の時期である。時刻t11から時刻t12まで溶接電源140は、予め定めた初動区間維持部の条件、時間で維持する。
【0130】
[(12)時刻t12~t13の期間]
時刻t12において、溶接電源140は、初動区間維持部の条件を、予め設定した定常溶接時の溶接条件に変化させる。また、変化量は、目標値と予め定めた時間によって、傾きが決定する。傾きは、平均送給速度、ワイヤ振幅、ピーク期間の設定電流、ピーク期間の設定電圧に関しては、予め定めた周期である100μsecごとに変化し、ワイヤ周波数、ピーク期間を開始するワイヤ位置、ピーク期間を終了するワイヤ位置は、ワイヤ正逆周期ごとに変化させ、直線状(リニア)に変化させる。
【0131】
[(13)時刻t13以降:定常溶接]
時刻t13において、溶接シーケンス部43はアークスタートの状態から溶接中の状態に変化する。時刻t13以降は、溶接制御装置120に予め設定した溶接条件情報と波形制御テーブルに基づいた定常溶接時の溶接条件で溶接を行う。
【0132】
作業者は、初動区間維持部の平均送給速度を予め設定することができ、その平均送給速度の設定値に基づいて、波形制御テーブルリニア演算部37から、設定した平均送給速度に応じた初動区間維持部の溶接条件と移行区間における変化量(傾き)を抽出し、電流設定部36へ出力する。
【0133】
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0134】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0135】
(1) ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する方法であって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、アークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、ガスシールドアーク溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接方法または溶着方法を問わず、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【0136】
(2) 前記第2制御期間における前記送給制御法は、
正送期間と逆送期間を1周期とし、
前記1周期における、ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件として、
溶接電流、アーク電圧、および溶接速度の条件のうち少なくとも1つ以上を制御すること
を特徴とする、(1)に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、正送期間と逆送期間からなる1周期におけるワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御条件を適宜制御することにより、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【0137】
(3) 前記移行区間において、前記平均送給速度設定値以外に変動させる前記制御条件は、
正送期間と逆送期間を1周期としたときのワイヤ周波数、
ワイヤ振幅、
ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件の開始タイミング、
ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件の終了タイミング、
溶接電流の設定値、および、
アーク電圧の設定値、
のうち、少なくとも一つであること
を特徴とする、(2)に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、移行区間において上述の制御条件のうち1以上を適宜制御することにより、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【0138】
(4) ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて制御する条件として、少なくとも溶接電流を含み、
前記溶接電流の制御は、ワイヤ位置位相または送給速度位相に応じて、前記溶接電流の抑制期間と非抑制期間とを切替える制御であり、
前記移行区間において、前記平均送給速度設定値以外に変動させる前記制御条件は、少なくとも、前記溶接電流の非抑制期間の開始タイミングおよび前記溶接電流の非抑制期間の終了タイミングであること
を特徴とする、(3)に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、溶接電流の抑制期間と非抑制期間との切替えタイミングを適宜制御することにより、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【0139】
(5) 前記初動区間は、前記平均送給速度設定値を所定の値に維持する維持部を含み、
前記維持部において、所定の時間、またはアーク電圧およびアーク長のうち少なくとも一方に基づいて、前記初動区間の終了が決定されること、
を特徴とする、(1)から(4)のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、アーク電圧やアーク長に基づいて、移行区間の制御へと処理を遷移させることができる。
【0140】
(6) 前記移行区間において、変動させる前記制御条件の設定値は、
予め定めた周期単位と、
正送期間と逆送期間を1周期としたときのワイヤ周波数単位のうち、少なくとも一方に応じて変動させること、
を特徴とする、(1)から(4)のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、周期または周波数を基準にして制御条件を変動させることができる。
【0141】
(7) 前記初動区間における平均送給速度設定値FW-AVE1と、定常溶接における平均送給速度設定値FW-AVE2との間の比(FW-AVE1/FW-AVE2)が0.9以下となるように制御すること
を特徴とする、(1)から(4)のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、例えば初動区間の平均送給速度を、定常溶接期間について予め定めた平均送給速度に基づいて、比として設定することができる。
【0142】
(8) 前記移行区間において、
前記平均送給速度設定値は、直線状、曲線状またはステップ状に大きくなるように変動し、
前記ワイヤ周波数は、直線状、曲線状またはステップ状に大きくなるように変動し、
前記ワイヤ振幅は、直線状、曲線状またはステップ状に小さくするように変動すること、
を特徴とする、(3)に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、各種の制御条件を、種類に応じて適切な態様で変動させることができる。
【0143】
(9) 前記移行区間において、前記制御条件を、所定の時間、または、所定の傾きの値に基づいて変動させること
を特徴とする、(1)から(4)のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、制御条件の変動速度を、時間または傾きに基づいて設定することができる。
【0144】
(10) 前記第2制御期間の開始タイミングは、前記第1制御期間において形成した初期溶滴が短絡した直後であるか、または、形成した初期溶滴が任意の大きさになった直後であること
を特徴とする、(1)から(4)のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、初期溶滴の状態をトリガーとして、第1制御期間から第2制御期間へと制御態様を移行することができる。
【0145】
(11) 前記第1制御期間における、前記溶接開始からアークを発生させるまでのステップは、
溶接開始後に、溶接ワイヤを予め定めた初期送給速度で正送給を行いながら、前記溶接ワイヤと母材間の通電判定後、予め定めた時間、予め定めた第1の溶接電流値を維持する第1の区間と、
前記第1の区間後に、予め定めた時間、溶接電流を第2の溶接電流値まで増加させる立上り部と、前記第2の溶接電流値を維持する維持部とを有する第2の区間と、
を有し、
前記第2の区間後に、前記溶接ワイヤを予め定めた送給速度で逆送給を行いながら、アークを発生させること
を特徴とする、(1)から(4)のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、溶接開始からアーク発生までの期間についての送給速度および溶接電流を適切に制御することができる。
【0146】
(12) 前記第1制御期間における、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間は、
アーク発生後、溶接ワイヤの送給を停止しながら、予め定めた第3の溶接電流値で、予め定めた時間維持する第3の区間を有すること、
を特徴とする、(1)から(4)のうちいずれか一項に記載のアークスタート制御方法。
このアークスタート制御方法によれば、アーク発生から初期溶滴の形成までの期間についての送給速度および溶接電流を適切に制御することができる。
【0147】
(13) ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する、アークスタート制御プログラムであって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
少なくとも電源を備えるシステムのコンピュータに対し、
前記移行区間において、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させる機能を
実行させる、アークスタート制御プログラム。
このアークスタート制御プログラムによれば、ガスシールドアーク溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接方法または溶着方法を問わず、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【0148】
(14) ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する機能を有する電源であって、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記電源は、前記移行区間において、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、電源。
この電源によれば、ガスシールドアーク溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接方法または溶着方法を問わず、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【0149】
(15) ガスシールドアーク溶接法による溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御する、アークスタート制御システムであって、
前記アークスタート制御システムが少なくとも電源を備え、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、アークスタート制御システム。
このアークスタート制御システムによれば、ガスシールドアーク溶接またはガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接方法または溶着方法を問わず、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【0150】
(16) ガスシールドアーク溶接法による溶接方法であって、
少なくとも電源を備えるシステムが、溶接開始から定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御し、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、溶接方法。
この溶接方法によれば、ガスシールドアーク溶接において、溶接方法または溶着方法を問わず、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【0151】
(17) ガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造方法であって、
少なくとも電源を備えるシステムが、付加製造開始から付加製造の定常溶接期間に移行するまでのアークスタート期間を制御し、
前記アークスタート期間は、
溶接開始からアークを発生させるまでの期間と、アーク発生後、初期溶滴を形成する期間とを含む第1制御期間と、
少なくとも前記初期溶滴を形成する期間の後、送給速度を正送期間と逆送期間とに交互に切り替える送給制御法への変更時から前記送給制御法で前記定常溶接期間に移行するまでの第2制御期間とを少なくとも有し、
前記第2制御期間は、
前記第2制御期間の開始から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値よりも低い、平均送給速度で任意の時間維持する初動区間と、前記初動区間終了時の平均送給速度から、定常溶接の送給速度または平均送給速度設定値に移行する移行区間とを含み、
前記移行区間では、前記平均送給速度設定値に加え、前記送給制御法に係る制御条件のうち、少なくとも1つの前記制御条件を変動させること、
を特徴とする、付加製造方法。
この付加製造方法によれば、ガスシールドアーク溶接法を活用した付加製造において、溶接方法または溶着方法を問わず、安定して定常溶接期間に移行することができる。
【符号の説明】
【0152】
1 交流電源
2 1次側整流器
3 平滑コンデンサ
4 スイッチング素子
5 トランス
6 2次側整流器
7 リアクトル
30 インバータ駆動部
31 電流検出部
32 電圧検出部
33 離脱検出部
34 電流誤差増幅部
35 送給設定データ部
36 電流設定部
36A 目標電流設定部
36B ワイヤ先端位置変換部
36C 電圧設定部
37 波形制御テーブルリニア演算部
38 位相遅延補正部
39 プッシュフィーダ制御部
40 A/D入力部
41 電気角調整部
42 デジタル通信部
43 溶接シーケンス部
50 溶接システム
100 溶接ワイヤ
110 溶接ロボット
111 溶接トーチ
120 溶接制御装置
122 デジタル通信部
123 デジタル通信部
140 溶接電源
141 制御系部
150 コントローラ
160 サーボアンプ
161 正逆送給指令生成部
162 デジタル通信部
163 同期信号生成部
170 サーボモータ
180 プッシュモータ
190 ワイヤバッファ
191 シリアルアナログ変換部
200 ワーク