(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100023
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】薬剤用スペースを有する歯科用マウスピースの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61C 17/00 20060101AFI20240719BHJP
A61C 19/06 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61C17/00 E
A61C17/00 Z
A61C19/06 A
A61C19/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003716
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】514306629
【氏名又は名称】株式会社DSi
(74)【代理人】
【識別番号】110001151
【氏名又は名称】あいわ弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 浩志
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052MM05
(57)【要約】
【課題】適切なサイズの薬剤用スペースを有する、歯科用マウスピースを提供する。
【解決手段】歯科用マウスピースの製造方法は、腔内印象に基づいて歯科模型を作成するステップと、前記歯科模型の表面の所定の位置に、形成すべき薬剤用スペースのサイズに応じて予め用意された肉盛材を接着するステップと、前記肉盛材が接着された前記歯科模型を原型としてマウスピースを成型するステップと、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内印象に基づいて歯科模型を作成するステップと、
前記歯科模型の表面の所定の位置に、形成すべき薬剤用スペースのサイズに応じて予め用意された肉盛材を接着するステップと、
前記肉盛材が接着された前記歯科模型を原型としてマウスピースを成型するステップと、を含む
歯科用マウスピースの製造方法。
【請求項2】
マウスピースを成型するステップは、前記原型を樹脂シートで被覆し加熱又は加圧する工程を含む
請求項1記載の歯科用マウスピースの製造方法。
【請求項3】
マウスピースを成型するステップは、前記原型をスキャンして得た3Dデータに基づきマウスピースを出力する工程を含む
請求項1記載の歯科用マウスピースの製造方法。
【請求項4】
歯科模型の表面に接着して、歯科用マウスピースに薬剤用スペースを形成するための肉盛材であって、
前記肉盛材の量は、形成可能な前記薬剤用スペースの容積に応じて提供可能である
肉盛材。
【請求項5】
前記肉盛材はペースト状であって、
時間経過と共に硬化する性質を備え、
形成可能な前記薬剤用スペースの容積に応じて分包されている
請求項4記載の肉盛材。
【請求項6】
前記肉盛材は所定の断面を押し出した紐状の外形を有し、
形成可能な前記薬剤用スペースの容積に応じて切断して使用される
請求項4記載の肉盛材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薬剤用スペースを有する歯科用マウスピースの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、歯周病をはじめとする口腔感染症の予防及び治療、虫歯の予防及びホワイトニング等の用途で歯科用マウスピースが用いられている。患者の歯列に合わせて作成された歯科用マウスピースの内側に薬剤を塗布し、これを口腔内に装着することにより、薬剤を長時間にわたって歯列や歯肉に密着させておくことができる。
【0003】
歯科用マウスピースのなかには、内側に薬剤をとどめておくための特別なスペースを備えたものもある。例えば特許文献1には、歯頸部歯肉ライン(歯列と歯肉の境目付近)に沿って設けられた溝状の薬剤用スペースを有する歯科用マウスピースが開示されている。
【0004】
特許文献1によると、歯科用マウスピースの製造方法は例えば次の通りである。まず、口腔内印象により歯形の石膏模型を作成する。次に、石膏模型の歯頸部歯肉ラインに沿ってたこ糸等の部材を接着してから、加熱したポリエチレンシートを石膏模型に被せて加圧、冷却する。その後、ポリエチレンシートを石膏模型から取り外し、不要部分をトリミングすると歯科用マウスピースが完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1記載の方法では、所望のサイズの薬剤用スペースを形成することができない。すなわち、患部の状態等に応じて特定の量の薬剤を特定の位置にとどまらせたいというニーズに、従来の歯科用マウスピースは応えることができない。
【0007】
そこで、特定のサイズの薬剤用スペースを特定の位置に備えた歯科用マウスピースの製造方法を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
一実施の形態では、歯科用マウスピースの製造方法は、口腔内印象に基づいて歯科模型を作成するステップと、前記歯科模型の表面の所定の位置に、形成すべき薬剤用スペースのサイズに応じて予め用意された肉盛材を接着するステップと、前記肉盛材が接着された前記歯科模型を原型としてマウスピースを成型するステップと、を含む。
一実施の形態では、歯科用マウスピースの製造方法において、マウスピースを成型するステップは、前記原型を樹脂シートで被覆し加熱又は加圧する工程を含む。
一実施の形態では、歯科用マウスピースの製造方法において、マウスピースを成型するステップは、前記原型をスキャンして得た3Dデータに基づきマウスピースを出力する工程を含む。
一実施の形態では、肉盛材は、歯科模型の表面に接着して、歯科用マウスピースに薬剤用スペースを形成するための肉盛材であって、前記肉盛材の量は、形成可能な前記薬剤用スペースの容積に応じて提供可能である。
一実施の形態では、前記肉盛材はペースト状であって、時間経過と共に硬化する性質を備え、形成可能な前記薬剤用スペースの容積に応じて分包されている。
一実施の形態では、前記肉盛材は所定の断面を押し出した紐状の外形を有し、形成可能な前記薬剤用スペースの容積に応じて切断して使用される。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、特定のサイズの薬剤用スペースを特定の位置に備えた歯科用マウスピースの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を適用した具体的な実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
まず、本実施の形態にかかるマウスピース1の概要について説明する。
図1はマウスピース1の外形を示す全体図、
図2はマウスピース1の使用状態を示す図である。
図2に示すように、マウスピース1は歯列及び歯肉に被せて使用されるものであり、マウスピース一の内側が歯列及び歯肉の表面に密着してぴったり覆うように形成されている。ただし、マウスピース1の一部分が外側に向かって膨張しており、これによりマウスピース1の内側が歯列及び歯肉に密着しない空間が形成されている。これを薬剤用スペース11という。
図3は、薬剤用スペース11の略中心部A-A′における断面図である。
図3では、マウスピース1の断面を斜線のハッチングにより、薬剤用スペース11をグレーの着色により示している。薬剤用スペース11は、内部に薬剤を塗布しない状態においては空洞である。
薬剤用スペース11は、例えば歯周病の発症部位など特定の位置に設けられる。また、薬剤用スペース11は、例えば歯周病の進行を抑え又は改善するための薬剤を規定量収容できるだけの容積(サイズ)を有している。使用者は、薬剤用スペース11内にペースト状の薬剤を規定量塗布したうえでマウスピース1を装着する。これにより、薬剤用スペース11に収容保持された薬剤を歯周病の発症部位である歯頸部歯肉ライン等にピンポイントで接触させることができる。加えて、薬剤用スペース11を除くマウスピース1の内側は歯周病発症部位周縁の歯列及び歯肉に密着しているため、薬剤が流失したり、唾液等がマウスピース1内に浸入して薬剤が薄まったりすることを防止できる。したがって、薬剤を所望の部位に長時間とどめておくことが可能となる。
【0013】
次に、マウスピース1の製造方法について説明する。
(1)歯科模型の作成
口腔内印象に基づいて、使用者の歯列及び歯肉を模した歯科模型を作成する。しかも軽の作成方法は公知であるが、典型的には、粘土(シリコン印象材等)で使用者の歯の型取りを行い、型に石膏を流し込むことにより歯科模型を作成できる。又は、口腔内スキャナーを使用して使用者の口腔内形状の3Dデータを取得し、3Dプリンタを使用して3Dデータに基づく歯科模型を出力しても良い。
【0014】
(2)歯科模型に薬剤用スペース形成用の肉盛材を接着
歯科模型の表面の所定の位置に、薬剤用スペース形成用の肉盛材を接着する。肉盛材は、典型的には歯科模型上の、患者の歯周病等の発症がみられる箇所に接着される。
【0015】
肉盛材として、種々の素材及び形状の材料を使用することができる。肉盛材に特に好適な材料としては、時間経過に伴って硬化する性質を有する、流動性のある樹脂材料(ペースト)がある。例えば、シリコン、エポキシ、レジン等の樹脂に硬化剤を混合したペーストは、当初は柔らかく加工が極めて容易であるが、数分から数時間程度の時間が経過すると硬化して形状を保つ。同様に、時間経過と共に硬化する性質を有するゴム、ボンド、パテ等、又は光や熱により硬化する性質を有する樹脂、ゴム、ボンド、パテ等も肉盛材として好適である。この肉盛材の特徴は、任意の形状の肉盛を形成しやすい点にある。また、体積が予め計量されたペーストを提供することで、所定の容積の薬剤用スペースを容易に形成することができる。例えば、硬化後に30mm3の体積になるペースト状肉盛材をパッケージ(分包)して提供すれば、これを肉盛することにより30mm3の薬剤用スペースを形成することができる。異なる体積のペースト状肉盛材を複数提供することで、所望の容積の薬剤用スペースを容易に形成することができる。例えば30mm3、40mm3、50mm3用に分包されたペースト状肉盛材を使い分けることで、30mm3、40mm3、50mm3の容積を有する薬剤用スペースを作り分けることができる。
【0016】
また、ゴム、樹脂等の弾性又は可塑性のある素材を予め細長く形成した材料も肉盛材として好適である。
図4にこのタイプの紐状肉盛材の一例を示す。この例では、紐状肉盛材はかまぼこ型すなわち中高で略半月型の断面を有し、当該断面を押し出した外形を備えている。下面は略平坦にカットされており、下面に接着剤を塗布して歯科模型に接着しやすくなっている。なお、本発明はこの形態に限定されるものではない。紐状肉盛材をはさみやナイフで任意の長さに切り分け、適宜折り曲げるなど変形させたうえで接着剤等で歯科模型に貼り付けることで肉盛を行う。この肉盛材の特徴は、断面形状が一定であるため、所定の長さを切り分けた際の肉盛材の体積を容易に計算できる点にある。例えば、断面積が3mm
2の肉盛材であれば、10mm切り分けて肉盛することにより30mm
3の薬剤用スペースを形成することができる。異なる断面積を有する紐状肉盛材を複数提供することで、所望の容積の薬剤用スペースを容易に形成することができる。例えば3mm
2、4mm
2、5mm
2の紐状肉盛材を使い分けることで、同じ10mm幅であっても30mm
3、40mm
3、50mm
3の容積を有する薬剤用スペースを作り分けることができる。
【0017】
また、任意の素材を予め特定の体積に形成した材料も肉盛材として好適である。
図5にこのタイプの簡易型肉盛材の一例を示す。この例では、簡易型肉盛材の形状はドーム状である。下面は略平坦にカットされており、下面に接着剤を塗布して歯科模型に接着しやすくなっている。なお、本発明はこの形態に限定されるものではない。簡易型肉盛材を接着剤等で歯科模型に貼り付けることで肉盛が行われる。簡易型肉盛材の特徴は、予め体積が決定しているため、所望の容積の薬剤用スペースを容易に形成できる点にある。体積が30mm
3の肉盛材であれば、簡易型肉盛材を肉盛することにより30mm
3の薬剤用スペースを形成できる。異なる体積を有する簡易型肉盛材を複数提供することで、所望の容積の薬剤用スペースを容易に形成することができる。例えば30mm
3、40mm
3、50mm
3の簡易型肉盛材を使い分けることで、30mm
3、40mm
3、50mm
3の容積を有する薬剤用スペースを作り分けることができる。
【0018】
なお肉盛材は、容量ではなく、形成される薬剤スペースに充填可能な薬剤の重量を指標として提供されても良い。例えば、薬剤1mg用、3mg用、5mg用の異なるサイズの肉盛材を提供できる。又は、肉盛材は、形成される薬剤スペースに薬剤を充填した場合の効果持続可能時間ごとに提供されても良い。持続時間1時間用、3時間用、5時間用の異なるサイズの肉盛材を提供できる。又は、肉盛材は、適用部位に応じて典型的に使用される容量のものを提供しても良い。例えば、前歯用(薬剤3mg)、奥歯用(薬剤5mg)など部位ごとに異なるサイズの肉盛材を提供できる。
【0019】
肉盛材を、歯科模型表面の、歯周病の発症部位など薬剤を滞留させたい位置に接着する。例えば歯頸部歯肉ラインに沿って3cm程度にわたって歯周病が認められ、30mm3の薬剤投与が必要と認められる場合、30mm3のペースト状肉盛材を練って長さ3cm程度の帯状に形成し、歯科模型の該当箇所に貼り付ける。患部が歯間であれば、歯間部(歯間乳頭)に肉盛材を押し込み、密着させる。
【0020】
(3)マウスピースの成型
肉盛材が接着された歯科模型を原型としてマウスピースを成型する。典型的には、歯科模型に肉盛材を接着した状態で、樹脂シートを歯科模型に被せ、さらに密閉用カバー(図示せず)を被せて加熱、加圧する。冷却後、樹脂シートを歯科模型から取り外し、不要部分をトリミングして、マウスピース1が完成する。
又は、3Dスキャナを使用して肉盛材が接着された歯科模型の3Dデータを取得し、3Dプリンタを使用して3Dデータに基づくマウスピースを出力しても良い。
【0021】
樹脂シートの材料は、典型的にはポリエチレン、ポリカーボネート等であるがこれらに限定されるものではない。
【0022】
このようにして成型されたマウスピース1は、使用者の歯列及び歯肉の形状を正確に再現すると同時に、肉盛材によって所定の容量を有する薬剤用スペースを形成する。
【0023】
本実施の形態によれば、患部の状態や、患者の口腔内形状等に応じた最適なサイズの薬剤用スペースを有する歯科用マウスピースを提供することができる。これにより、適量の薬剤を確実に患部に接触させ、かつ薬剤が流れ出ることがないように保持することができる。
【0024】
また、上述の実施の形態では歯周病等の治療を想定した歯科用マウスピースの提供方法について主に開示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他の任意の用途向けの歯科用マウスピースにも適用可能である。例えば、歯周病予防のためのトリートメントやホワイトニング等の美容、審美用途に適用することができる。
【符号の説明】
【0025】
1 マウスピース
11 薬剤用スペース