(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100043
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】乗客コンベア
(51)【国際特許分類】
B66B 23/22 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B66B23/22 E
B66B23/22 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003746
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(71)【出願人】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 雄司
(72)【発明者】
【氏名】仲條 勇人
(72)【発明者】
【氏名】若山 椋
(72)【発明者】
【氏名】小岩 秀幸
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA01
3F321CE06
3F321CE21
(57)【要約】
【課題】製造が容易な内側デッキを備える乗客コンベアを提供できる。
【解決手段】乗客コンベアは、循環移動する無端状に連結された複数の踏段と、踏段の側方に鉛直方向に沿って配置されるスカートガードと、欄干部と、欄干部を支持するデッキと、デッキの踏段側の上部を覆う内側デッキと、を備える乗客コンベアであって、内側デッキは、デッキの上部を覆う上面部と、デッキの側面に略平行であり、上面部と一体に形成され、内側デッキをスカートガードに固定する複数の取付部と、を備え、内側デッキにおける取付部のそれぞれは、他の取付部と上面部を介してのみ接続される。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
循環移動する無端状に連結された複数の踏段と、
前記踏段の側方に鉛直方向に沿って配置されるスカートガードと、
欄干部と、
前記欄干部を支持するデッキと、
前記デッキの前記踏段側の上部を覆う内側デッキと、を備える乗客コンベアであって、
前記内側デッキは、
前記デッキの上部を覆う上面部と、
前記デッキの側面に略平行であり、前記上面部と一体に形成され、前記内側デッキを前記スカートガードに固定する複数の取付部と、を備え、
前記内側デッキにおける前記取付部のそれぞれは、他の前記取付部と前記上面部を介してのみ接続される、乗客コンベア。
【請求項2】
請求項1に記載の乗客コンベアであって、
前記内側デッキは、前記上面部を第1の辺とし、前記取付部を第2の辺とする、略L字型の断面形状を有する、乗客コンベア。
【請求項3】
請求項1に記載の乗客コンベアであって、
前記取付部を覆うモールをさらに備える、乗客コンベア。
【請求項4】
請求項3に記載の乗客コンベアであって、
前記モールは、前記内側デッキとともに前記スカートガードに固定されるモール固定部と、
前記モール固定部と前記内側デッキとの間に挟まれ、前記上面部の前記取付部側の一部を前記内側デッキの長手方向にわたって覆うモール覆い部とを備える、乗客コンベア。
【請求項5】
請求項1に記載の乗客コンベアであって、
前記取付部と前記上面部との境界には、前記取付部と前記上面部との接続面積を減らすための切り欠き部が設けられる、乗客コンベア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗客コンベアに関する。
【背景技術】
【0002】
乗客搬送用の乗客コンベア、たとえばエスカレータには、製造コストの低減を含む様々な要求がされている。特許文献1には、無端状に走行するステップの側方に鉛直方向に沿って配置されるスカートガードと、前記スカートガードの前記ステップとの反対側の領域に配置されてその一部が前記スカートガードの上部側を覆う内デッキとが互いに重なる領域を覆う長尺部材を備え、前記長尺部材には、前記内デッキを介して前記スカートガードに締結される締結部材のねじ部を挿入するための固定穴が形成され、前記長尺部材のうち前記固定穴の前記締結部材挿入側には、前記固定穴に挿入された前記締結部材の頭部を覆う環状の爪部が形成されていることを特徴とする乗客コンベア用スカートモールが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載されている発明では、内側デッキの構造に改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1の態様による乗客コンベアは、循環移動する無端状に連結された複数の踏段と、前記踏段の側方に鉛直方向に沿って配置されるスカートガードと、欄干部と、前記欄干部を支持するデッキと、前記デッキの前記踏段側の上部を覆う内側デッキと、を備える乗客コンベアであって、前記内側デッキは、前記デッキの上部を覆う上面部と、前記デッキの側面に略平行であり、前記上面部と一体に形成され、前記内側デッキを前記スカートガードに固定する複数の取付部と、を備え、前記内側デッキにおける前記取付部のそれぞれは、他の前記取付部と前記上面部を介してのみ接続される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、製造が容易な内側デッキを備える乗客コンベアを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図7】モールにより覆われる内側デッキの範囲を説明する図
【
図10】変形例2における内側デッキの上面部と取付部の境界の別形態を示す図
【発明を実施するための形態】
【0008】
―第1の実施の形態―
以下、
図1~
図8を参照して、乗客コンベアの第1の実施の形態を説明する。
【0009】
図1は、乗客コンベア1の概略図である。本実施の形態では、図面間の相関を明示するために相互に直交するXYZ軸を定義する。
図1では図示上方がZ軸のプラス側、図示右側がY軸のプラス側、図示手前がX軸のプラス側である。乗客コンベア1は、建築構造物の上階床と下階床の床に設置され人間が乗降するコンベア、いわゆるエスカレータである。乗客コンベア1は、建築構造物に設置されたフレーム2と、複数の踏段3と、踏段3を駆動させる駆動機4と、欄干部5と、欄干部5を支持するデッキ6と、下部乗降床71と、上部乗降床72と、を備える。
【0010】
フレーム2は、下部乗降床71と上部乗降床72にまたがって設置される。フレーム2は、高さ方向、すなわちZ軸座標値が変化する直線の区間である直線区間21と、下部乗降床71から直線区間21までの下部遷移区間22と、直線区間21から上部乗降床72までの上部遷移区間23と、を含む。以下では、フレーム2における下部乗降床71から上部乗降床72に向かって延在する方向をフレーム2の長手方向と呼ぶ。フレーム2の幅方向はX軸方向である。
【0011】
踏段3は、フレーム2に設けられた不図示のガイドレールに沿って下部乗降床71から上部乗降床72へ向かって、または上部乗降床72から下部乗降床71に向かって移動する。踏段3は無端状に連結されており、駆動機4により循環移動する。
【0012】
欄干部5は、踏段3をX軸方向から挟み込むように1対設けられる。ただし
図1では作図の都合により一方の欄干部5のみを図示している。欄干部5は、欄干パネル51と、欄干パネル51の周辺に配される移動手摺52と、を備える。移動手摺52は、踏段3の動きに同期して、踏段3と同じ方向に移動する。デッキ6は、フレーム2の長手方向に沿って、フレーム2の幅方向の両端に設けられる。デッキ6は、フレーム2の直線区間21の全てと、下部遷移区間22の一部と、上部遷移区間23の一部とを覆う。
【0013】
図2は、乗客コンベア1における下部遷移区間22の斜視図である。
図2では、踏段3のX軸マイナス側に配される欄干部5およびデッキ6を示している。デッキ6は内側デッキ61、外側デッキ62、およびスカートガード63を含む。デッキ6は、欄干部5を支持するために欄干部5の下部、すなわちZ軸のマイナス側に配され、X軸の両側から欄干部5を挟み込んでいる。欄干パネル51は透明な場合もあるが、本図では欄干パネル51は不透明であるとして背後の物体を透過させていない。そのため
図2では外側デッキ62は図示されていない。
【0014】
欄干パネル51の下部であって踏段3に近い側には内側デッキ61が配され、その逆側には外側デッキ62が配される。内側デッキ61は、
図2に示すように湾曲した形状を有する。スカートガード63は、踏段3の側方に鉛直方向、すなわちZ軸方向に沿って配置される。
【0015】
図3は、内側デッキ61の断面図である。ただし
図3の右上の囲みは後述するモール64部分の分解図であり、右下の囲みは内側デッキ61の概略構成図である。
図3では、内側デッキ61に隣接する欄干パネル51と、さらにX軸マイナス側に隣接する外側デッキ62も記載している。
【0016】
内側デッキ61は、
図3の右下の囲みに示すように断面が略L字形状である。以下では、長辺部分を上面部611と呼び、短辺部分を取付部612と呼ぶ。上面部611のX軸マイナス側の端部が欄干パネル51に装着される固定具511により固定される。
図3の右上の囲みに示すように、取付部612は、モール64とともにビス65を用いてスカートガード63に固定される。
図3の右上の囲みにおける破線の丸、すなわちA部に示すように、モール64は取付部612を覆うだけでなく、上面部611のX軸プラス側の端部から所定距離までの領域も覆う。
【0017】
図4は、組み立て前の内側デッキ61の形状を示す図である。本図は組み立て前の形状を示すので、XYZ軸を図示していない。内側デッキ61は、板材を最終的に配される乗客コンベア1のR形状に沿って扇状に切り出し、ビス65が通る穴を形成し、取付部612のみ折り曲げて形成される。板材からの切り出しは、たとえばレーザー加工により実現できる。
【0018】
図5は、内側デッキ61の配置を示す図である。矢印M1で示すように内側デッキ61を移動させて、内側デッキ61を曲げ形状に合わせて配置する。
【0019】
図6は、モール64の配置を示す図である。矢印M2で示すように、内側デッキ61の取付部612を覆うようにモール64を配置する。そして
図3に示したように、ビス65を用いてモール64および内側デッキ61をスカートガード63に固定する。
【0020】
図7は、モール64により覆われる内側デッキ61の範囲を説明する図である。なお
図7は概念的な説明を目的としており、図示される内側デッキ61の形状は正確ではない。
図7の上部はモール64に覆われていない内側デッキ61を示し、
図7の下部はモール64に覆われている内側デッキ61を示す。
【0021】
図7に示す内側デッキ61は、上側が上面部611であり下側が取付部612である。正確には、内側デッキ61の図示下側であって板材が存在するそれぞれの領域が取付部612である。上面部611は、それぞれの取付部612と接続される。内側デッキ61において、それぞれの取付部612は直接には接続されず、上面部611を介してのみ他の取付部612と接続される。モール64に覆われていない場合は、取付部612の有無により図示下部の端部は凹凸を有し、断続的な隙間が生じる。
【0022】
図3の右上に示したように、モール64は上面部611の取付部612側の一部の領域も覆う。これをわかりやすく示したのが
図7の下部であり、ハッチング領域64Cがモール64により覆われる領域である。すなわち、取付部612の有無に関わらず端部の位置が一定となり、隙間が隠蔽される。
【0023】
(比較例)
図8は、上述した内側デッキ61とは異なる比較内側デッキ61Zを示す図である。比較内側デッキ61Zは、断面形状が角括弧の形状を有している。比較内側デッキ61Zの断面形状は、四角形の一辺を消去した形状とも言える。比較内側デッキ61Zは、内側デッキ61と同様の上面部611と、比較取付部612Zとを備える。それぞれの比較取付部612Zは、上面部611を介することなく接続される。
【0024】
比較内側デッキ61Zの製造方法は次のとおりである。まず、板材を曲げて断面形状を成形する。次に、金型に押し当てながら両端を引張りながら曲げ形状に成形する。この比較内側デッキ61Zの製造には、たとえば次の3つの問題点がある。第1に、引張曲げ成形用の専用設備および金型整備が必要である。第2に、材料ごとに成形時条件の微調整が必要であり製作にノウハウが必要である。第3に、成形時に力を加えて曲げるため材料の白化等意匠面への影響がある。
【0025】
これに対して本実施の形態における内側デッキ61は、レーザー加工機やプレス機などの汎用機械で製作可能である。また、折り曲げる領域が最小限であり表面の意匠への影響が少ない。さらに、力を加えて曲げないため材料の白化が生じにくい。
【0026】
上述した第1の実施の形態によれば、次の作用効果が得られる。
(1)乗客コンベア1は、循環移動する無端状に連結された複数の踏段3と、踏段3の側方に鉛直方向に沿って配置されるスカートガード63と、欄干部5と、欄干部5を支持するデッキ6と、デッキ6の踏段3側の上部を覆う内側デッキ61と、を備える。内側デッキ61は、デッキ6の上部を覆う上面部611と、デッキ6の側面に略平行であり、上面部611と一体に形成され、内側デッキ61をスカートガード63に固定する複数の取付部612と、を備える。内側デッキ61における取付部612のそれぞれは、他の取付部612と上面部611を介してのみ接続される。そのため乗客コンベア1の内側デッキ61は、比較内側デッキ61Zとは異なり製造が容易である。
【0027】
(2)内側デッキ61は、上面部611を第1の辺とし、取付部612を第2の辺とする、略L字型の断面形状を有する。内側デッキ61は、適切な形状に加工した板材の端部に形成した取付部612を折り曲げることで形成されるので、比較内側デッキ61Zのように断面形状を角括弧の形状にする必要がなく、製造が容易である。比較内側デッキ61Zは、金型に押し当てながら板材の両端を引張りながら曲げ形状に成形するので、断面を角括弧の形状にする必要があった。しかし本実施の形態における内側デッキ61は製造方法が異なるので、略L字型の断面形状とすることができる。
【0028】
(3)取付部612を覆うモール64を備える。そのため、取付部612の有無に関わらず端部の位置が一定となり、取付部612が存在しない箇所の隙間が隠蔽される。
【0029】
(変形例1)
図9は、変形例1におけるモール64Aを示す図である。モール64Aは、モール固定部641とモール覆い部642とを含む。モール固定部641は、内側デッキ61とともにスカートガード63に固定される。モール覆い部642は、モール固定部641と内側デッキ61との間に挟まれ、内側デッキ61の上部の一部を内側デッキ61の長手方向にわたって覆う。モール覆い部642をモール固定部641と別部材とすることで、モール覆い部642の先端部、すなわち
図9のX軸マイナス側の端部を上面部611の表面に密着可能に加工しやすくなる。
【0030】
この変形例1によれば、次の作用効果が得られる。
(4)モール64は、内側デッキ61とともにスカートガード63に固定されるモール固定部641と、モール固定部641と内側デッキ61との間に挟まれ、上面部611の取付部612側の一部を内側デッキ61の長手方向にわたって覆うモール覆い部642とを備える。
【0031】
(変形例2)
図10は、内側デッキ61の上面部611と取付部612の境界614の別形態を示す図である。上述した実施の形態では、それぞれの取付部612の境界614の長さは、取付部612における内側デッキ61の長手方向の長さと同一であった。しかし、切り欠きを設けることで取付部612の境界614の長さを、取付部612における内側デッキ61の長手方向の長さよりも短くしてもよい。
【0032】
境界614Aのように、境界部分の両方の端部に切り欠きを設けることで、取付部612の境界614の長さを取付部612における内側デッキ61の長手方向の長さよりも短くしてもよい。また境界614Bのように、境界部分の内側デッキ61の長手方向中央に切り欠きを設けることで、取付部612の境界614の長さを取付部612における内側デッキ61の長手方向の長さよりも短くしてもよい。
【0033】
この変形例2によれば、次の作用効果が得られる。
(5)取付部612と上面部611との境界には、取付部612と上面部611との接続面積を減らすための切り欠き部が設けられる。そのため、折り曲げが必要となる内側デッキ61の上面部611と取付部612の境界部分における直線部分を減らすことで、歪みの発生を抑制できる。
【0034】
(変形例3)
内側デッキ61の断面形状はL字型に限定されない。たとえば、欄干パネル51に装着される固定具511の形状に合わせて、任意の断面形状としてもよい。また、比較内側デッキ61Zと同様に、断面を角括弧の形状にしてもよい。
【0035】
(変形例4)
上述した内側デッキ61は、デッキ6の一部の区間でのみ採用されてもよい。内側デッキ61は、
図1に示すデッキ6の一部であり、デッキ6はフレーム2の直線区間21、下部遷移区間22、および上部遷移区間23にわたって存在する。上述した内側デッキ61は、非直線区間において有用であり、特に直線区間21では内側デッキ61とは異なる構造でもよい。また、
図3に示したモール64は必須の構成ではなく、乗客コンベア1はモール64を備えなくてもよい。
【0036】
上述した各実施の形態および変形例は、それぞれ組み合わせてもよい。上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
1 :乗客コンベア
3 :踏段
5 :欄干部
6 :デッキ部
52 :移動手摺
61 :内側デッキ
62 :外側デッキ
63 :スカートガード
64 :モール
611 :上面部
612 :取付部
641 :モール固定部
642 :モール覆い部