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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100055
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60L 15/20 20060101AFI20240719BHJP
   H02P 29/62 20160101ALI20240719BHJP
【FI】
B60L15/20 J
H02P29/62
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003765
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102141
【弁理士】
【氏名又は名称】的場 基憲
(74)【代理人】
【識別番号】100137316
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 宏
(72)【発明者】
【氏名】古西 敬之
(72)【発明者】
【氏名】田添 和彦
【テーマコード(参考)】
5H125
5H501
【Fターム(参考)】
5H125AA01
5H125AC12
5H125BA00
5H125CA01
5H125EE05
5H125EE08
5H125EE42
5H501AA20
5H501BB05
5H501BB11
5H501CC04
5H501DD04
5H501GG05
5H501GG11
5H501HA08
5H501HA09
5H501HB08
5H501HB16
5H501JJ03
5H501JJ08
5H501JJ17
5H501JJ25
5H501LL01
5H501LL22
5H501LL23
5H501LL33
5H501LL35
5H501LL39
5H501MM05
5H501PP02
(57)【要約】
【課題】歯打ち音を低減しつつ、電動車の運転者によるアクセルペダルの操作に基づく要求トルクに対する応答性を向上し得るモータ制御装置を提供する。
【解決手段】モータ制御装置は、トルク指令値を制御するトルク指令値制御部と、電動車のモータのトルクが電動車の駆動軸のトルクに伝達されない不感帯区間が終了したか否かを判断する不感帯区間判断部を備える。トルク指令値制御部が、電動車の要求トルク値に基づいてトルク指令値を制限トルク値よりも小さくかつ制限トルク値から一定の範囲内に設定される限界トルク値にする。不感帯区間判断部が不感帯区間が終了したと判断するまで、トルク指令値制御部がトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値未満にする。不感帯区間判断部が不感帯区間が終了したと判断したとき、トルク指令値制御部がトルク指令値を要求トルク値にする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク指令値を制御するトルク指令値制御部と、電動車のモータのトルクが前記電動車の駆動軸のトルクに伝達されない不感帯区間が終了したか否かを判断する不感帯区間判断部を備えたモータ制御装置であって、
前記トルク指令値制御部が、前記モータの制限トルク値以上である前記電動車の要求トルク値に基づいて、トルク指令値を前記制限トルク値よりも小さくかつ前記制限トルク値から一定の範囲内に設定される限界トルク値にし、
前記不感帯区間判断部が前記不感帯区間が終了したと判断するまで、前記トルク指令値制御部が、前記限界トルク値にされたトルク指令値を前記限界トルク値以上前記制限トルク値未満にし、
前記不感帯区間判断部が前記不感帯区間が終了したと判断したとき、前記トルク指令値制御部が、前記限界トルク値以上前記制限トルク値未満にされたトルク指令値を前記要求トルク値にする
ことを特徴とするモータ制御装置。
【請求項2】
前記モータの温度を測定するモータ温度センサと、前記モータの温度が高温域にあるか低温域にあるかを判断するモータ温度判断部と、前記限界トルク値を補正する限界トルク値補正部を更に備え、
前記モータ温度判断部が前記モータの温度が高温域にあると判断したとき、前記限界トルク値補正部が、前記限界トルク値を前記一定の範囲内において大きくし、
前記モータ温度判断部が前記モータの温度が低温域にあると判断したとき、前記限界トルク値補正部が、前記限界トルク値を前記一定の範囲内において小さくする
ことを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記要求トルク値の時間変化率が所定値よりも大きいか否かを判断する要求トルク値判断部を更に備え、
前記要求トルク値判断部が前記要求トルク値の時間変化率が所定値よりも大きいと判断したとき、前記トルク指令値制御部が、トルク指令値を前記限界トルク値にせずにそのまま前記要求トルク値にする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記モータの回転数を算出するモータ回転数算出部と、前記駆動軸の回転数を算出する駆動軸回転数算出部を更に備え、
前記不感帯区間判断部が、前記モータの回転数と前記駆動軸の回転数との差分に基づいて前記モータと前記駆動軸とが同期したと判断することにより前記不感帯区間が終了したと判断する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記トルク指令値制御部が、前記限界トルク値以上前記制限トルク値未満にされたトルク指令値を前記要求トルク値にする際に、トルク指令値を経時的に増加させることを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記トルク指令値制御部が、トルク指令値を経時的に増加させる際に、前記限界トルク値以上前記制限トルク値未満にされたトルク指令値と前記要求トルク値との差が大きいほど、トルク指令値の単位時間当たりの増加量を大きくする
ことを特徴とする請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記要求トルク値が前記制限トルク値未満の変更要求トルク値に変更されたか否かを判断する変更判断部を更に備え、
前記不感帯区間判断部が前記不感帯区間が終了したと判断するまでの間に、前記変更判断部が前記要求トルク値が前記変更要求トルク値に変更されたと判断したとき、前記トルク指令値制御部が、前記限界トルク値以上前記制限トルク値未満にされたトルク指令値を前記変更要求トルク値にする
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ制御装置に係り、さらに詳細には、歯打ち音を低減しつつ、電動車の運転者によるアクセルペダルの操作に基づく要求トルクに対する応答性を向上し得るモータ制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、コーストや減速から速やかに加速するようなシーンでも、急峻なトルク変化に伴い発生する音や振動を抑制する電動車両の制御装置を開示している。この電動車両の制御装置は、車両情報に基づいてモータトルク指令値を設定し、駆動輪につながるモータのトルクを制御する。そして、この電動車両の制御装置は、トルク指令値演算手段と、モータトルク制御手段と、を備える。トルク指令値演算手段は、モータトルクが車両の駆動軸トルクに伝達されない不感帯区間を有する車両の駆動力伝達系の固有振動周波数を低減するフィルタリング処理をモータトルク指令値に施す。また、モータトルク制御手段は、モータトルク指令値にフィルタリング処理が施されることによって求められるトルク指令値に従ってモータトルクを制御する。さらに、この電動車両の制御装置においては、トルク指令値演算手段は、不感帯区間におけるモータトルク指令値の変化率を所定の上限値に制限するレートリミッタ処理を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2017-221056号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のような電動車両の制御装置においては、不感帯区間において、トルクの応答性を悪化させない範囲で、モータトルク指令値の時間変化率(傾き)の上限値を制限しているので、運転者の要求トルクに対する応答性の向上に関して改善の余地があった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであって、歯打ち音を低減しつつ、電動車の運転者によるアクセルペダルの操作に基づく要求トルクに対する応答性を向上し得るモータ制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、トルク指令値制御部が、要求トルク値に基づいてトルク指令値を所定の限界トルク値にし、不感帯区間が終了するまでトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値以下で維持し、不感帯区間が終了したときにトルク指令値を要求トルク値にすることにより、前記目的が達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち、本発明のモータ制御装置は、トルク指令値を制御するトルク指令値制御部と、電動車のモータのトルクが電動車の駆動軸のトルクに伝達されない不感帯区間が終了したか否かを判断する不感帯区間判断部を備える。
トルク指令値制御部が、モータの制限トルク値以上である電動車の要求トルク値に基づいて、トルク指令値を制限トルク値よりも小さくかつ制限トルク値から一定の範囲内に設定される限界トルク値にする。
不感帯区間判断部が不感帯区間が終了したと判断するまで、トルク指令値制御部が限界トルク値にされたトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値未満にする。
不感帯区間判断部が不感帯区間が終了したと判断したとき、トルク指令値制御部が限界トルク値以上制限トルク値未満にされたトルク指令値を要求トルク値にする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トルク指令値制御部が、要求トルク値に基づいてトルク指令値を上述の限界トルク値にし、不感帯区間が終了するまでトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値以下で維持し、不感帯区間が終了したときにトルク指令値を要求トルク値にしたため、歯打ち音を低減しつつ、電動車の運転者によるアクセルペダルの操作に基づく要求トルクに対する応答性を向上し得るモータ制御装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明のモータ制御装置の一実施形態を備えた電気自動車の主要構成の一例を示すブロック図である。
図2】本実施形態のモータ制御装置における時間と各トルク値との関係の一例を示すグラフ図である。
図3】本実施形態のモータ制御装置における時間と各トルク値との関係の他の例を示すグラフ図である。
図4】本実施形態のモータ制御装置における時間と各トルク値との関係の更に他の例を示すグラフ図である。
図5】時間と重み係数aとの関係を示すグラフ図である。
図6】本実施形態のモータ制御装置における時間と各トルク値との関係の更に他の例を示すグラフ図である。
図7】本実施形態のモータ制御装置における時間と各トルク値との関係の更に他の例を示すグラフ図である。
図8】モータ側ギアと駆動軸側ギアとの関係の概略を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のモータ制御装置の一実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下で引用する図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1は、本実施形態のモータ制御装置を備えた電気自動車の主要構成の一例を示すブロック図である。
【0012】
本実施形態における電動車は電気自動車であるが、本発明における電動車は車両の駆動源の一部又は全部としてモータを備え、モータの駆動力により走行可能な自動車であればよく、電気自動車だけでなく、ハイブリッド自動車や燃料電池自動車も含まれる。
【0013】
本実施形態においては、例えば、モータコントローラ110の制御に基づいて電源であるリチウムイオン二次電池や全固体電池などの二次電池からなるバッテリー100からインバータ120を介してモータ130に電力が供給される。そして、その電力によって生じるモータ130の動力が減速機150及び駆動軸160を介して駆動輪170a,170bに伝達されて電気自動車が加速する。
【0014】
モータコントローラ110には、車速V、アクセル開度θ、モータ130の回転子位相α、モータ130の電流i(iu、iv、iw)、モータ130の温度T、駆動輪170a,170bの回転角速度ωw等の車両状態を示す信号がデジタル信号として入力される。モータコントローラ110は、入力された信号に基づいてモータ130を制御するためのパルス幅変調(PWM)信号を生成し、生成したPWM信号に応じてインバータ120の駆動信号を生成する。
【0015】
モータコントローラ110は、後述するセンサからの入力に応じて、モータ130の制御するモータ制御装置1を備えている。また、このモータ制御装置1は、例えば、図示しないCPU(Central Processing Unit)と、ROM(Read Only Memory)と、RAM(Random Access Memory)を備えている。
【0016】
CPUは、ROMからプログラムやデータをRAM上に読み出し、処理を実行することによって、モータ制御装置1全体の制御や機能を実現する演算装置である。CPUやROM,RAM等は、同一パッケージ内に集積され得る。また、モータ制御装置1は、CPUに替えて、DSP(Digital Signal Processor)等の他の論理演算プロセッサや論理回路等が用いられる構成であってもよい。
【0017】
ROMは、電源を切ってもプログラム(例えば、不感帯区間判断用プログラム、モータ温度判断用プログラム、限界トルク値補正用プログラム、要求トルク値判断用プログラム、モータ回転数算出用プログラム、駆動軸回転数算出用プログラム、変更判断用プログラム)やデータ(例えば、制限トルク値データ、限界トルク値データ、所定値データ、重み係数aデータ、アクセル開度-トルクテーブルデータ、ロータ温度-誘起電圧データ、モータ温度(ロータ温度、ステータ温度)-モータ回転数データ、ギア比データ)を保持することができる不揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。格納されるプログラムやデータには、例えば、コンピュータ全体を制御する基本ソフトウェアであるOS(Operating System)、OS上において各種機能を提供するアプリケーションソフトウェア等がある。モータ制御装置1は、SSD(Solid State Drive)等を備えていてもよい。
【0018】
RAMは、上述したプログラムやデータを一時保持する揮発性の半導体メモリ(記憶装置)である。
【0019】
インバータ120は、例えば、各相ごとに2個のスイッチング素子を備える。インバータ120は、駆動信号に応じてスイッチング素子をオン/オフすることにより、バッテリー100から供給される直流電流を交流電流に変換して、モータ130に交流電流を供給する。スイッチング素子としては、例えば、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)や金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ(MOSFET)等のパワー半導体素子を挙げることができる。
【0020】
モータ(三相交流モータ)130は、インバータ120から供給される交流電流により駆動力を発生し、減速機150及び駆動軸160を介して、左右の駆動輪170a,170bに駆動力を伝達する。また、モータ130は、電気自動車の走行時に駆動輪170a,170bの回転力によって回転するときに回生駆動力を発生させる。このとき、インバータ120は、モータ130の回生運転時に発生する交流電流を直流電流に変換して、バッテリー100に直流電流を供給する。このようにして、電気自動車の運動エネルギーが電気エネルギーとして回収される。
【0021】
モータ回転センサ131は、例えば、レゾルバやエンコーダであり、モータ130の回転子位相αを検出する。
【0022】
モータ温度センサ132は、例えば、測温抵抗体や熱電対、サーミスタであり、モータ130の温度T(ロータ温度Tr、ステータ温度Ts)を測定する。また、モータ温度センサ132は、例えば、ロータに組み込まれることがあるネオジム磁石等の永久磁石の温度をモータ130の温度Tとして測定するようにしてもよい。
【0023】
電流センサ140は、モータ130に流れる3相交流電流iu、iv、iwを検出する。ただし、3相交流電流iu、iv、iwの和は0であるため、任意の2相の電流を検出して、残りの1相の電流は演算により求めてもよい。
【0024】
減速機150は、例えば、モータ側ギア151、駆動軸側ギア152等の複数のギアを有し、モータ130の回転数を減らした状態で、駆動軸160を介して、駆動輪170a,170bに伝達する。
【0025】
駆動輪回転センサ171a,171bは、例えば、駆動輪170a、170bの位相を検出する電磁誘導式の回転センサである。
【0026】
上述のような電気自動車においては、通常、モータ130によるトルク発生が不要な停止時や走行時における不要な損失の発生を抑えるために、インバータ120によりモータ130のPWM制御が行われる。
【0027】
また、モータ130においては、通常、ロータ温度が高くなるにしたがってモータ130の誘起電圧が低くなるという関係がある。また、モータ130においては、通常、ロータ温度を一定としたときステータ温度が低くなるにしたがって回転数が高くなるという関係もある。
【0028】
モータ130のPWM制御が行われるときには、モータコントローラ110は車両状態を示す信号を取得する。本実施形態では、車両状態を示す信号として、車速V(km/h)、アクセル開度θ(%)、モータ130の回転子位相α(rad)、モータ130に流れる三相交流電流i(iu、iv、iw)(A)、モータ130の温度T(K)、駆動輪170a,170bの回転角速度ωw(rad/s)、バッテリー1の直流電圧値Vdc(V)(図示せず)が入力される。
【0029】
車速V(km/h)は、図示しない車速センサや、図示しないブレーキコントローラ等の他のコントローラから通信によって取得される。または、車速V(km/h)は、モータ130の機械的な角速度であるモータ回転角速度ωmに駆動輪(タイヤ)動半径Rを乗算して得られた値をファイナルギアのギア比で除算して車速v(m/s)を求め、車速v(m/s)に3600/1000を乗算することによって単位変換して求めるようにしてもよい。
【0030】
アクセル開度θ(%)は、図示しないアクセル開度センサから取得する。または、アクセル開度θ(%)は、図示しない車両コントローラ等の他のコントローラから通信によって取得される。なお、予め定められたアクセル開度-トルクテーブルを参照することにより、トルク指令値Tmfが設定される。
【0031】
モータ130の回転子位相α(rad)は、モータ回転センサ131から取得される。モータ130の回転数Nm(rpm)は、回転子の角速度ω(電気角)をモータ130の極対数で除算してモータ回転角速度ωm(rad/s)を求め、そのモータ回転角速度ωmに60/(2π)を乗算して求められる。回転子の角速度ω(rad/s)は、回転子位相αを微分することにより求められる。
【0032】
モータ130の電流i(iu、iv、iw)(A)は、電流センサ140から取得される。
【0033】
駆動輪回転角速度ωw(rad/s)は、駆動輪回転センサ171a,171bによりそれぞれ検出された値の平均値を微分することにより算出される。
【0034】
直流電圧値Vdc(V)は、バッテリー1とインバータ3との間の直流電源ラインに設けられた電圧センサ(図示せず)により検出する。または、直流電圧値Vdc(V)は、バッテリーコントローラ(図示せず)から送信される電源電圧値を用いて求める。
【0035】
モータコントローラ110は、トルク指令値Tmf、モータ回転角速度ωm、及び直流電圧値Vdcに基づいて、d軸電流目標値id、q軸電流目標値iqを求め、d軸電流id及びq軸電流iqをそれぞれ、d軸電流目標値id及びq軸電流目標値iqに一致させるための電流制御を行う。
【0036】
例えば、モータコントローラ110は、まず、入力された三相交流電流値iu、iv、iwと、モータ130の回転子位相αとに基づいて、d軸電流id及びq軸電流iqを求める。次いで、モータコントローラ110は、d軸、q軸電流指令値id、iqと、d軸、q軸電流id、iqとの偏差から、d軸、q軸電圧指令値vd、vqを算出する。
【0037】
さらに、モータコントローラ110は、d軸、q軸電圧指令値vd、vqと、モータ130の回転子位相αから、三相交流電圧指令値vu、vv、vwを求める。しかる後、モータコントローラ110は、求めた三相交流電圧指令値vu、vv、vwと直流電圧値Vdcから、PWM信号tu(%)、tv(%)、tw(%)を求める。
【0038】
このようにして求められたPWM信号tu、tv、twにより、インバータ120のスイッチング素子が開閉されることで、トルク指令値Tmfに示された所望のトルクでモータ130が駆動することになる。
【0039】
モータコントローラ110における本実施形態のモータ制御装置1は、トルク指令値を制御するトルク指令値制御部10と、電気自動車のモータのトルクが電気自動車の駆動軸のトルクに伝達されない不感帯区間が終了したか否かを判断する不感帯区間判断部20を備えている。
【0040】
そして、トルク指令値制御部10が、モータ130の制限トルク値以上である電気自動車の要求トルク値に基づいて、トルク指令値を制限トルク値よりも小さくかつ制限トルク値から一定の範囲内に設定される限界トルク値にする(図2参照)。
【0041】
制限トルク値は、例えば、モータ130において歯打ち音が発生してしまうトルク値(歯打ち音発生トルク値)に基づいて、バックラッシュによる歯打ち音の発生を防止しつつ、要求トルクに対する応答性を向上し得る範囲に設定することができる。制限トルク値を歯打ち音発生トルク値としてもよい。この制限トルク値は、例えば、実車を用いた予備試験により設定することができる。また、限界トルク値は、例えば、永久磁石の一例であるネオジム磁石を有するロータを備えたモータにおいて、モータの温度が20℃以上80℃未満の中温域にある場合、制限トルク値よりも20%低い値以上10%低い値以下の範囲内で設定することができる。この限界トルク値は、例えば、実車を用い、磁石温度を変動させた予備試験により設定することができる。
【0042】
さらに、不感帯区間判断部20が不感帯区間が終了したと判断するまで、トルク指令値制御部10が限界トルク値にされたトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値未満にする(図2参照)。なお、不感帯区間が終了するときとは、詳しくは後述するが、例えば、トルク指令値に従って得られる実トルク値が得られ、さらにその実トルク値に従って駆動軸が回転するときである。
【0043】
なお、要求トルク値に対する応答性の向上の観点からは、トルク指令値を限界トルク値にする際のトルク指令値の時間変化率は、限界トルク値にされたトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値未満にする際のトルク指令値の時間変化率よりも大きい関係を有することが好ましい。また、限界トルク値にされたトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値未満にする際には、トルク指令値を限界トルク値に維持したままとしてもよい。
【0044】
さらに、不感帯区間判断部20が不感帯区間が終了したと判断したとき、トルク指令値制御部10が限界トルク値以上制限トルク値未満にされたトルク指令値を要求トルク値にする(図2参照)。
【0045】
また、本実施形態のモータ制御装置1は、モータ130の温度を測定するモータ温度センサ132と、モータ130の温度が高温域にあるか低温域にあるかを判断するモータ温度判断部30と、限界トルク値を補正する限界トルク値補正部40を更に備えていることが好ましい(図1参照)。
【0046】
そして、モータ温度判断部30がモータ130の温度が高温域にあると判断したとき、限界トルク値補正部40が限界トルク値を一定の範囲内において大きくすることが好ましい(図3参照)。
【0047】
限界トルク値は、例えば、永久磁石の一例であるネオジム磁石を有するロータを備えたモータにおいて、モータの温度が80℃以上150℃未満の高温域にある場合、制限トルク値よりも10%低い値以上1%低い値以下の範囲内で設定することが好ましい。
【0048】
また、モータ温度判断部30がモータ130の温度が低温域にあると判断したとき、限界トルク値補正部40が限界トルク値を一定の範囲内において小さくすることが好ましい(図3参照)。
【0049】
限界トルク値は、例えば、永久磁石の一例であるネオジム磁石を有するロータを備えたモータにおいて、モータの温度が-40℃以上20℃未満の低温域にある場合、制限トルク値よりも25%低い値以上15%低い値以下の範囲内で設定することが好ましい。
【0050】
さらに、本実施形態のモータ制御装置1は、要求トルク値の時間変化率が所定値よりも大きいか否かを判断する要求トルク値判断部50を更に備えていることが好ましい(図1参照)。
【0051】
そして、要求トルク値判断部50が要求トルク値の時間変化率が所定値よりも大きいと判断したとき、トルク指令値制御部10がトルク指令値を限界トルク値にせずにそのまま要求トルク値にすることが好ましい。
【0052】
図2図4図6図7に示すようにトルク指令値を制御するモータ130を備えた電気自動車においては、所定値は、例えば、300Nm/msecに設定することが好ましい。この所定値は、電気自動車の諸元に応じて設定することが好ましい。
【0053】
さらに、本実施形態のモータ制御装置1は、モータ130の回転数を算出するモータ回転数算出部60と、駆動軸160の回転数を算出する駆動軸回転数算出部70を更に備えていることが好ましい(図1参照)。
【0054】
そして、不感帯区間判断部20が、モータ130の回転数と駆動軸160の回転数との差分に基づいてモータ130と駆動軸160とが同期したと判断することにより不感帯区間が終了したと判断することが好ましい。
【0055】
さらに、本実施形態のモータ制御装置1においては、トルク指令値制御部10が、限界トルク値以上制限トルク値未満にされたトルク指令値を要求トルク値にする際に、トルク指令値を経時的に増加させることが好ましい(図4参照)。
【0056】
図6の場合と比較して、図4の場合のように要求トルクが相対的に小さいときには、図5において点線で示すような時間を変数とする関数である重み係数aに基づいてトルク指令値を増加させる。なお、トルク指令値Tmf、要求トルク値Tmd、限界トルク値Tmendと重み係数aとの関係は、次の式:Tmf=a×Tmd+(1-a)×Tmend(0≦a≦1)で表すことができる。
【0057】
さらに、本実施形態のモータ制御装置1においては、トルク指令値制御部10が、トルク指令値を経時的に増加させる際に、限界トルク値以上制限トルク値未満にされたトルク指令値と要求トルク値との差が大きいほど、トルク指令値の単位時間当たりの増加量を大きくすることが好ましい(図6及び図4参照)。
【0058】
図4の場合と比較して、図6の場合のように要求トルクが相対的に大きいときには、図5において実線で示すような時間を変数とする関数である重み係数aに基づいてトルク指令値を増加させる。
【0059】
さらに、本実施形態のモータ制御装置1は、要求トルク値が制限トルク値未満の変更要求トルク値に変更されたか否かを判断する変更判断部80を更に備えていることが好ましい。
【0060】
そして、不感帯区間判断部20が不感帯区間が終了したと判断するまでの間に、変更判断部80が要求トルク値が変更要求トルク値に変更されたと判断したとき、トルク指令値制御部10が限界トルク値以上制限トルク値未満にされたトルク指令値を変更要求トルク値にすることが好ましい(図7参照)。
【0061】
次に、本実施形態の利点について説明する。本実施形態においては、トルク指令値制御部10が、要求トルク値に基づいてトルク指令値を上述の限界トルク値にし、不感帯区間判断部20が不感帯区間が終了したと判断するまでトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値以下で維持し、不感帯区間判断部20が不感帯区間が終了した判断したときにトルク指令値を要求トルク値にする。これにより、不感帯区間において、トルクの応答性を悪化させない範囲で、実トルク値の時間変化率(傾き)の上限値を制限する従来例(図2参照)と比較して、歯打ち音を低減しつつ、電動車の運転者によるアクセルペダルの操作に基づく要求トルクに対する応答性を向上させることができる。
【0062】
図8は、実線によりPWM制御OFFのときのモータ側ギアと駆動軸側ギアとの関係の概略を説明する図である。また、図8は、点線によりPWM制御ONのときのモータ側ギアと駆動軸側ギアとの関係の概略を説明する図でもある。
【0063】
歯打ち音は、例えば、PWM制御OFFのときの運転者のアクセルペダルの操作に応じて要求トルク値が変化したことによってPWM制御ONになる際に、噛み合う2つのギア(モータ側ギア151、駆動軸側ギア152)が掛け変わるときに発生する。より具体的には、駆動軸側ギア152の歯がモータ側ギア151の歯面Aに接し、歯面Bに掛け替え位置(バックラッシュ)dがあるときであって、モータ側ギア151が矢印ωwで示す方向に回転したとき、バックラッシュdを駆動軸側ギア152の歯が移動した後に、駆動軸側ギア152の歯がモータ側ギア151の歯面Bに押し付けられたときに発生する。このバックラッシュdを駆動軸側ギア152の歯が移動する所定時間tはt=(2×d×Jm/Tm)1/2で算出される。ここで、Jmはモータ端イナーシャ(既知量)、Tmはモータトルク(操作量)である。また、モータ側ギア相対速度(制御量)VrはVr=Tm/Jm×tで算出される。
【0064】
そして、所定時間tにおいてトルク指令値を上述の限界トルク値以上制限トルク値未満にし、ギアが掛け変わるときのモータ側ギア相対速度Vrを所定の範囲内、言い換えれば歯打ち音が発生しない歯打ち音限界速度以下に制御することが可能となるので、歯打ち音を低減できる。さらに、限界トルク値を時間によらず一定としたため、要求トルクに対する応答性を損なうことがない。
【0065】
さらに、本実施形態においては、上述のような利点を得るにあたり、ギアの位置制御を含む制御系とする場合と比較して、制御系の変更規模が小さいという副次的な利点もある。
【0066】
また、本実施形態においては、モータ温度判断部30が上述のようにモータ130の温度が高温域にあると判断したとき限界トルク値補正部40が限界トルク値を一定の範囲内において大きくし、モータ温度判断部30が上述のようにモータ130の温度が低温域にあると判断したとき限界トルク値補正部40が限界トルク値を一定の範囲内において小さくする。これにより、上述した利点に加えて、モータにおける永久磁石の磁気温度特性によらず、歯打ち音を低減しつつ、要求トルクに対する応答性を向上させることができる。より具体的には、モータにおいて電流フィードバック制御によりトルクをフィードフォワード的に制御する場合と比較して、永久磁石の磁気温度特性に起因するギアが掛け変わるときに歯打ち音限界速度を超えることや実トルクが不足することがない。
【0067】
さらに、本実施形態においては、要求トルク値判断部50が要求トルク値の時間変化率が所定値よりも大きいと判断したとき、トルク指令値制御部10がトルク指令値を限界トルク値にせずにそのまま要求トルク値にする。これにより、上述した利点に加えて、運転者が歯打ち音や振動の低減よりも加速性を要求する場合において、加速性を向上させることができる。また、このような所定値が設定されるとき、通常、歯打ち音は、電気自動車の周囲環境の騒音よりも小さく問題とならない。また、運転者が失速感を感じるリスクを低減できる。
【0068】
さらに、本実施形態においては、不感帯区間判断部20が、モータ130の回転数と駆動軸160の回転数との差分に基づいてモータ130と駆動軸160とが同期したと判断することにより不感帯区間が終了したと判断する。これにより、上述した利点に加えて、ギアガタ量、モータイナーシャのバラツキ、モータ側ギアのフリクション、永久磁石の磁気温度特性を考慮する必要なく、モータの不感帯区間の終了を必要最小限の時間で判断でき、より加速性を向上させることができる。また、運転者が加速遅れ感を感じるリスクを低減できる。
【0069】
さらに、本実施形態においては、トルク指令値制御部10が、限界トルク値以上制限トルク値未満にされたトルク指令値を要求トルク値にする際に、トルク指令値を経時的に増加させる。これにより、上述した利点に加えて、振動の発生を低減することができる。換言すれば、トルク指令値制御部10が、上述のトルク指令値を要求トルク値にする際に、トルク指令値を経時的に増加させることにより、トルク指令値の時間変化率をなまらせることができ、駆動軸のねじれを低減することができる。
【0070】
さらに、本実施形態においては、トルク指令値制御部10が、トルク指令値を経時的に増加させる際に、限界トルク値以上制限トルク値未満にされたトルク指令値と要求トルク値との差が大きいほど、トルク指令値の単位時間当たりの増加量を大きくする。これにより、上述した利点に加えて、要求トルク値が大きい場合であっても、加速性を増加させ、要求トルクに対する応答性を向上させることができる。また、運転者が加速遅れ感を感じるリスクを低減できる。
【0071】
さらに、本実施形態においては、不感帯区間判断部20が不感帯区間が終了したと判断するまでの間に、変更判断部80が要求トルク値が変更要求トルク値に変更されたと判断したとき、トルク指令値制御部10が、限界トルク値以上制限トルク値未満にされたトルク指令値を変更要求トルク値にする。これにより、上述した利点に加えて、不要となった上述の歯打ち音低減制御をすることなく、要求トルクに対する応答性を向上させることができる。また、運転者が減速遅れ感や突き出され感を感じるリスクを低減できる。
【0072】
以上、本発明を一実施形態によって説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形が可能である。
【0073】
本発明においては、歯打ち音を低減しつつ、電動車の運転者によるアクセルペダルの操作に基づく要求トルクに対する応答性を向上させるべく、トルク指令値制御部が、要求トルク値に基づいてトルク指令値を上述の限界トルク値にし、不感帯区間が終了するまでトルク指令値を限界トルク値以上制限トルク値以下で維持し、不感帯区間が終了したときにトルク指令値を要求トルク値にすることを骨子とする。
【0074】
従って、上述の実施形態においてはロータにネオジム磁石等の永久磁石が組み込まれたモータを例示して説明したが、本発明においてはロータの永久磁石はネオジム磁石に限定されず、従来公知の他の永久磁石を適用することもできる。また、その場合、永久磁石の磁気温度特性に応じて限界トルク値も適宜変更することができる。さらに、本発明においてはモータのロータとして巻線界磁型ロータを適用することもできる。
【0075】
また、上述の実施形態においてはモータの回転数と駆動軸の回転数との差分に基づいて不感帯区間の終了を判断する不感帯区間判断部を例示して説明したが、本発明においてはこれに限定されない。例えば、不感帯区間が終了するまでの所定時間をギアガタ量、モータイナーシャのバラツキ、モータ側ギアのフリクションに基づいて算出して不感帯区間の終了を判断する不感帯区間判断部を適用することもできる。
【0076】
また、上述した好適な構成要素は、必ずしも必須の構成要素ではなく除去することも可能であり、さらに、モータ制御装置、モータコントローラ、バッテリー、モータコントローラ、インバータ、モータ、モータ回転センサ、モータ温度センサ、電流センサ、減速機、駆動輪回転センサなどの仕様の細部を変更することも可能である。
【符号の説明】
【0077】
1 モータ制御装置
10 トルク指令値制御部
20 不感帯区間判断部
30 モータ温度判断部
40 限界トルク値補正部
50 要求トルク値判断部
60 モータ回転数算出部
70 駆動軸回転数算出部
80 変更判断部
100 バッテリー
110 モータコントローラ
120 インバータ
130 モータ
131 モータ回転センサ
132 モータ温度センサ
140 電流センサ
150 減速機
151 モータ側ギア
152 駆動軸側ギア
160 駆動軸
170a,170b 駆動輪
171a,171b 駆動輪回転センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8