(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100058
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】樹脂組成物の回収方法および粉状体
(51)【国際特許分類】
C08J 11/08 20060101AFI20240719BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20240719BHJP
B29B 17/02 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C08J11/08 ZAB
C08L69/00
B29B17/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003769
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】今里 健太
(72)【発明者】
【氏名】武田 強
【テーマコード(参考)】
4F401
4J002
【Fターム(参考)】
4F401AA23
4F401AB01
4F401BA13
4F401BB08
4F401CA51
4F401EA55
4F401EA62
4J002BN152
4J002CG011
4J002EW046
4J002FD136
(57)【要約】
【課題】ポリカーボネート樹脂組成物から効率的に有用成分であるポリカーボネート樹脂を含む成分を選択的に回収する樹脂組成物の回収方法および該樹脂組成物から得られる粉状体を提供する。
【解決手段】ドリップ防止剤および難燃剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物から、ポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を得る樹脂組成物の回収方法において、(1)ポリカーボネート樹脂組成物の一部または全部を有機溶媒に浸漬する工程、(2)未溶解固体成分と有機溶媒溶液とを分離する工程、(3)分離後の有機溶媒溶液からポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を固体として回収する工程を少なくとも含む樹脂組成物の回収方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドリップ防止剤および難燃剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物から、ポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を得る樹脂組成物の回収方法において、(1)ポリカーボネート樹脂組成物の一部または全部を有機溶媒に浸漬する工程、(2)未溶解固体成分と有機溶媒溶液とを分離する工程、(3)分離後の有機溶媒溶液からポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を固体として回収する工程を少なくとも含む樹脂組成物の回収方法。
【請求項2】
有機溶媒が、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項1に記載の樹脂組成物の回収方法。
【請求項3】
浸漬する工程の処理温度が10~80℃である請求項1に記載の樹脂組成物の回収方法。
【請求項4】
ドリップ防止剤がフッ素系樹脂である請求項1に記載の樹脂組成物の回収方法。
【請求項5】
難燃剤がリン系難燃剤である請求項1に記載の樹脂組成物の回収方法。
【請求項6】
ポリカーボネート樹脂組成物は、さらにスチレン系樹脂を含む請求項1に記載の樹脂組成物の回収方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物の回収方法により得られたポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を含有する樹脂組成物の粉状体。
【請求項8】
平均粒径が0.3~3.0mmである請求項7に記載の樹脂組成物の粉状体。
【請求項9】
ポリカーボネート樹脂成分100重量部に対して、難燃剤成分を5~50重量部含有する請求項7に記載の樹脂組成物の粉状体。
【請求項10】
ポリカーボネート樹脂成分と難燃剤成分との合計量が樹脂組成物の粉状体の70重量%以上である請求項7に記載の樹脂組成物の粉状体。
【請求項11】
請求項7に記載の方法により得られた樹脂組成物の粉状体を用いてポリカーボネート樹脂組成物へリサイクルする方法。
【請求項12】
リサイクルされたポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を含み、ポリカーボネート樹脂成分100重量部に対して、難燃剤成分を5~50重量部含む樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂組成物からポリカーボネート樹脂を含む成分を選択的に得る樹脂組成物の回収方法および該樹脂組成物から得られる粉状体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂(以下、PCと略すことがある)は優れた機械的性質、電気的性質、耐熱性、耐寒性、透明性等を有しており、レンズ、コンパクトディスク等の光ディスク、建築材料、自動車部品、OA機器のシャーシー、カメラボディー等様々な用途に利用されている材料であり、その需要は年々増加している。PCの需要の増加に伴い、廃棄されるPC製品の多くは焼却若しくは地中に埋める等の方法で処理される。これは、PCの需要の増加から石油資源の枯渇を加速させるだけでなく、地球環境の悪化を促進する。そのため、廃棄されたプラスチックを再利用(リサイクル)することが重要になってきた。
【0003】
廃PCおよびその組成物をリサイクルする方法は、熱エネルギーとして回収するサーマルリサイクル、製品にある割合で混合し、加工して製品とするマテリアルリサイクル、化学的に分解してプラスチックの原材料にまで戻して、プラスチック製造に再使用するケミカルリサイクルがある。サーマルリサイクルは、プラスチックを焼却して熱を取りだすので、二酸化炭素と水が生成し、本質的には地球環境を破壊し、資源を減少させていることになる。今後は、サーマルリサイクル比率の低減が望まれている。PC樹脂組成物のマテリアルリサイクルは、資源の消費に関しては、一番環境の負荷が少なく、環境的に望ましい。しかしながら、PC以外にも様々な樹脂や添加剤を含むため、混合できる製品が限定され、製品に混入できる割合が少なく、リサイクルできる量が限られるという課題がある。ケミカルリサイクルは、PC成分を原材料であるビスフェノールAまで分解するので、そのまま製造に利用することが可能であり、産業上有用なリサイクル方法である(特許文献1、2)。一方で分解には多大なエネルギーを要するという課題がある。また、PC以外の樹脂を含む樹脂組成物からのケミカルリサイクルは分解効率が低いことが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭40-016536号公報
【特許文献2】特開2002-212335号公報
【特許文献3】特開2001-302844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ポリカーボネート樹脂組成物から効率的に有用成分であるポリカーボネート樹脂を含む成分を選択的に回収する樹脂組成物の回収方法および該樹脂組成物から得られる粉状体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、ドリップ防止剤および難燃剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物を有機溶媒に浸漬させることにより、驚くべきことに、温和な条件でポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を主に含有する有機溶媒溶液と未溶解固体成分に分離できること、その有機溶媒溶液を分離し、分離した溶媒溶液よりポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を固体として回収する工程を経ることで、ポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を選択的に回収できることを見出した。さらに回収した樹脂組成物から得られる粉状体(パウダー)がリサイクル材料として好適であることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0008】
1.ドリップ防止剤および難燃剤を含有するポリカーボネート樹脂組成物から、ポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を得る樹脂組成物の回収方法において、(1)ポリカーボネート樹脂組成物の一部または全部を有機溶媒に浸漬する工程、(2)未溶解固体成分と有機溶媒溶液とを分離する工程、(3)分離後の有機溶媒溶液からポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を固体として回収する工程を少なくとも含む樹脂組成物の回収方法。
2.有機溶媒が、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒である前項1記載の樹脂組成物の回収方法。
3.浸漬する工程の処理温度が10~80℃である前項1に記載の樹脂組成物の回収方法。
4.ドリップ防止剤がフッ素系樹脂である前項1記載の樹脂組成物の回収方法。
5.難燃剤がリン系難燃剤である前項1記載の樹脂組成物の回収方法。
6.ポリカーボネート樹脂組成物は、さらにスチレン系樹脂を含む前項1に記載の樹脂組成物の回収方法。
7.前項1~6のいずれか1項に記載の樹脂組成物の回収方法により得られたポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を含有する樹脂組成物の粉状体。
8.平均粒径が0.3~3.0mmである前項7に記載の樹脂組成物の粉状体。
9.ポリカーボネート樹脂成分100重量部に対して、難燃剤成分を5~50重量部含有する前項7に記載の樹脂組成物の粉状体。
10.ポリカーボネート樹脂成分と難燃剤成分との合計量が樹脂組成物の粉状体の70重量%以上である前項7に記載の樹脂組成物の粉状体。
11.前項7~10のいずれかに記載の方法により得られた樹脂組成物の粉状体を用いてポリカーボネート樹脂組成物へリサイクルする方法。
12.リサイクルされたポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を含み、ポリカーボネート樹脂成分100重量部に対して、難燃剤成分を5~50重量部含む樹脂組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ポリカーボネート樹脂組成物から効率的にポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を選択的に回収でき、回収したポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を含有する樹脂組成物から得られる粉状体がリサイクル性に優れた原料として利用できることから、本発明の奏する工業的効果は格別である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
<ポリカーボネート樹脂組成物>
本発明において、使用されるポリカーボネート樹脂組成物は、成分として、ポリカーボネート樹脂、ドリップ防止剤、難燃剤を少なくとも含有する。本発明で使用されるポリカーボネート樹脂組成物は、後述するリサイクル材(製品の一部として使用された成形品から回収される廃プラスチック材や成形工程で発生する不良品や不用品等)が好適に用いられる。
【0012】
(ポリカーボネート樹脂成分)
ポリカーボネート樹脂成分としては、界面重合法や溶融重合法等公知の方法で製造されたものでよく、分子量は粘度平均分子量で1000~100000のものが好ましい。
該ポリカーボネート樹脂成分は、各種ジオール化合物から誘導される繰り返し単位を含み、かかるジオール化合物としては、脂肪族ジオール化合物、脂環式ジオール化合物、芳香族ジヒドロキシ化合物のいずれでも良く、国際公開第2004/111106号パンフレット、国際公開第2011/021720号パンフレットに記載のジオール化合物やジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールなどのオキシアルキレングリコール類が挙げられる。
【0013】
前記脂肪族ジオール化合物としては、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1.9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-n-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサングリコール、1,2-オクチルグリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、2,3-ジイソブチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジイソアミル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2-プロピル-1,3-プロパンジオールなどが挙げられる。
【0014】
前記脂環式ジオール化合物としては、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール、ペンタシクロペンタデカンジメタノール、3,9-ビス(2-ヒドロキシ-1,1-ジメチルエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、イソソルビドなどが挙げられる。
【0015】
前記芳香族ジヒドロキシ化合物としては、α,α’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-m-ジイソプロピルベンゼン(ビスフェノールM)、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィド、ビスフェノールA、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、3,9-ビス(4-オキシ-3-メトキシフェニル)-2,4,8,10,-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンおよび1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)デカンなどが挙げられる。
なかでも芳香族ジヒドロキシ化合物から誘導される繰り返し単位を含むことが好ましく、ビスフェノールAから誘導される繰り返し単位を含むことが特に好ましい。
【0016】
また、末端停止剤(分子量調節剤)としては、1価のフェノール化合物が好ましく用いられ、フェノール、p-クレゾール、p-エチルフェノール、p-イソプロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-クミルフェノール、p-シクロヘキシルフェノール、p-オクチルフェノール、p-ノニルフェノール、2,4-キシレノール、p-メトキシフェノール、p-ヘキシルオキシフェノール、p-デシルオキシフェノール、o-クロロフェノール、m-クロロフェノール、p-クロロフェノール、p-ブロモフェノール、ペンタブロモフェノール、ペンタクロロフェノール、p-フェニルフェノール、p-イソプロペニルフェノール、2,4-ジ(1’-メチル-1’-フェニルエチル)フェノール、β-ナフトール、α-ナフトール、p-(2,4’,4’-トリメチルクロマニル)フェノール、2-(4’-メトキシフェニル)-2-(4’’-ヒドロキシフェニル)プロパン等のフェノール類等の単独または2種以上の混合物が用いられる。
【0017】
(ドリップ防止剤成分)
本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物に含まれるドリップ防止剤は、フッ素成分を含有することが好ましい。このドリップ防止剤の含有により、有機溶媒での浸漬工程および分離工程にて、未溶解成分と有機溶媒溶液成分の分離性を良好なものとすることができると考えられる。
【0018】
フッ素成分を含有するドリップ防止剤としては、フィブリル形成能を有する含フッ素ポリマーを挙げることができ、かかるポリマーとしてはポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン系共重合体(例えば、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体など)、米国特許第4379910号公報に示されるような部分フッ素化ポリマー、フッ素化ジフェノールから製造されるポリカーボネート樹脂などを挙げることができる。中でも好ましくはポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称することがある)である。フィブリル形成能を有するPTFEの分子量は極めて高い分子量を有し、せん断力などの外的作用によりPTFE同士を結合して繊維状になる傾向を示すものである。その分子量は、標準比重から求められる数平均分子量において100万~1000万、より好ましく200万~900万である。かかるPTFEは、固体形状の他、水性分散液形態のものも使用可能である。
【0019】
ドリップ防止剤のポリカーボネート樹脂組成物中の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは0.1~3重量部、より好ましくは0.15~2重量部、さらに好ましくは0.2~1重量部である。ドリップ防止剤が上記範囲を超えて少なすぎる場合には有機溶媒での浸漬工程および分離工程における分離性が不十分となることがある。一方、ドリップ防止剤が上記範囲を超えて多すぎる場合には、リサイクル時にドリップ防止剤が成形品表面に析出し外観不良となることがある。
【0020】
(難燃剤成分)
本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物に含まれる難燃剤は、リン系難燃剤であることが好ましい。本発明のリン系難燃剤としては、ホスフェート化合物が好ましく、特にアリールホスフェート化合物が好ましい。かかるホスフェート化合物は、従来難燃剤として公知の各種ホスフェート化合物を示すが、より好適には下記一般式(I)で表される1種または2種以上のホスフェート化合物を挙げることができる。
【0021】
【化1】
(式中のXは、ハイドロキノン、レゾルシノール、ビス(4-ヒドロキシジフェニル)メタン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ケトン、およびビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイドからなる群より選ばれるジヒドロキシ化合物より誘導される二価フェノール残基であり、nは0~5の整数、またはn数の異なるリン酸エステルの混合物の場合はそれらの平均値であり、R
4、R
5、R
6、およびR
7はそれぞれ独立したフェノール、クレゾール、キシレノール、イソプロピルフェノール、ブチルフェノール、およびp-クミルフェノールからなる群より選ばれるアリール基より誘導される一価フェノール残基である。)
【0022】
上記式(I)のホスフェート化合物は、異なるn数を有する化合物の混合物であってもよく、かかる混合物の場合、平均のn数は好ましくは0.5~1.5、より好ましくは0.8~1.2、さらに好ましくは0.95~1.15、特に好ましくは1~1.14の範囲である。上記式(I)のXを誘導する二価フェノールの好適な具体例としては、レゾルシノール、ビスフェノールA、およびジヒドロキシジフェニルで、中でも好ましくはレゾルシノール、ビスフェノールAである。上記式(I)のR4、R5、R6、およびR7を誘導する一価フェノールの好適な具体例としては、フェノール、クレゾール、キシレノール、2,6-ジメチルフェノールで、中でも好ましくはフェノール、および2,6-ジメチルフェノールである。上記式(I)のホスフェート化合物の具体例としては、トリフェニルホスフェートおよびトリ(2,6-キシリル)ホスフェートなどのモノホスフェート化合物、並びにレゾルシノールビスジ(2,6-キシリル)ホスフェート)を主体とするホスフェートオリゴマー、4,4-ジヒドロキシジフェニルビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするホスフェートオリゴマー、およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするリン酸エステルオリゴマーが好適で、中でもレゾルシノールビスジ(2,6-キシリル)ホスフェート)を主体とするホスフェートオリゴマー、4,4-ジヒドロキシジフェニルビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするホスフェートオリゴマー、およびビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主体とするリン酸エステルオリゴマーが好ましい。
【0023】
リン系難燃剤のポリカーボネート樹脂組成物中の含有量は、ポリカーボネート樹脂100重量部に対して、好ましくは3~50重量部であり、より好ましくは4~40重量部、さらに好ましくは5~30重量部である。難燃剤が上記範囲内であると、優れた難燃性を有する樹脂組成物となり好ましい。
【0024】
(スチレン系樹脂成分)
本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物中には、スチレン系樹脂成分をさらに含んでいても良い。かかるスチレン系樹脂は、芳香族ビニル化合物の重合体または共重合体、またこれと必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体およびゴム質重合体より選ばれる1種以上を共重合して得られる重合体である。
【0025】
芳香族ビニル化合物としては、特にスチレンが好ましい。芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物を好ましく挙げることができる。特に好適なシアン化ビニル化合物としてはアクリロニトリルが挙げられ、特に好適な(メタ)アクリル酸エステル化合物としてはメチルメタクリレートを挙げることができる。
【0026】
シアン化ビニル化合物および(メタ)アクリル酸エステル化合物以外の芳香族ビニル化合物と共重合可能な他のビニル単量体としては、グリシジルメタクリレートなどのエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミドなどのマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸などのα,β-不飽和カルボン酸およびその無水物が挙げられる。
【0027】
上記芳香族ビニル化合物と共重合可能なゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ジエン系共重合体(例えば、スチレン・ブタジエンのランダム共重合体およびブロック共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、並びに(メタ)アクリル酸アルキルエステルおよびブタジエンの共重合体など)、エチレンとα-オレフィンとの共重合体(例えば、エチレン・プロピレンランダム共重合体およびブロック共重合体、エチレン・ブテンのランダム共重合体およびブロック共重合体など)、エチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体(例えばエチレン・メタクリレート共重合体、およびエチレン・ブチルアクリレート共重合体など)、エチレンと脂肪族ビニルとの共重合体(例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体など)、エチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー(例えば、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体など)、アクリル系ゴム(例えば、ポリブチルアクリレート、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、およびブチルアクリレートと2-エチルヘキシルアクリレートとの共重合体など)、並びにシリコーン系ゴム(例えば、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とからなるIPN型ゴム;すなわち2つのゴム成分が分離できないように相互に絡み合った構造を有しているゴム、およびポリオルガノシロキサンゴム成分とポリイソブチレンゴム成分からなるIPN型ゴムなど)が挙げられる。
【0028】
上記スチレン系樹脂として具体的には、例えば、ポリスチレン樹脂、HIPS樹脂、MS樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AES樹脂、ASA樹脂、MBS樹脂、MABS樹脂、MAS樹脂、およびSMA樹脂などのスチレン系樹脂、並びに(水添)スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂、(水添)スチレン-イソプレン-スチレン共重合体樹脂などを挙げることができる。なお、(水添)の表記は水添していない樹脂および水添した樹脂のいずれをも含むことを意味する。ここでMS樹脂はメチルメタクリートとスチレンから主としてなる共重合体樹脂、AES樹脂はアクリロニトリル、エチレン-プロピレンゴム、およびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、ASA樹脂はアクリロニトリル、スチレン、およびアクリルゴムから主としてなる共重合体樹脂、MABS樹脂はメチルメタクリレート、アクリロニトリル、ブタジエン、およびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、MAS樹脂はメチルメタクリレート、アクリルゴム、およびスチレンから主としてなる共重合体樹脂、SMA樹脂はスチレンと無水マレイン酸(MA)から主としてなる共重合体樹脂を示す。
【0029】
これらの中でも、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体樹脂(ABS樹脂)が好ましい。また、スチレン系重合体を2種以上混合されていても良い。
かかるABS樹脂は塊状重合、懸濁重合、乳化重合のいずれの方法で製造されたものでもよいが、特に塊状重合によるものが好ましい。
スチレン系樹脂の含有量はポリカーボネート樹脂100重量部に対して、3~60重量部が好ましく、4~50重量部がより好ましく、5~40重量部がさらに好ましい。
【0030】
(その他の成分)
本発明で用いるポリカーボネート樹脂組成物には、発明の効果を損なわない範囲でその他の成分が含まれていても良い。具体的には、熱安定剤、酸化防止剤、離型剤(脂肪酸エステル等)、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、増白剤、紫外線吸収剤、耐候剤、抗菌剤、顔料、染料、充填剤、強化剤、他樹脂やゴム等の重合体等の改質改良剤が例示される。
【0031】
また、本発明において、使用されるポリカーボネート樹脂組成物は成形品のリサイクル材であることが好ましい。成形品のリサイクル材とは、(i)成形品が製品の一部として市場で使用され、消費者等においてその製品の使用期間が終了し、回収された成形品のリサイクル材、並びに(ii)市場に出る前の成形の過程で発生する不良品やスプルー、ランナーなどの成形工程で付随して発生する成形物、および製品化工程での不良品、在庫として不用になった成形品などバージンペレットを少なくとも一度加工した成形物のリサイクル材を指す。これら(i)および(ii)を広く成形品のリサイクル材として本発明に使用することができる。リサイクル材は、通常、製品からプラスチック部材を同種部品に仕分けをしながら回収した後、粉砕機を用いて粉砕される。粉砕機としては、例えば圧縮式粉砕機(ロールクラッシャーなど)、衝撃式粉砕機(インパクトクラッシャー、ハンマーミルなど)、切断式またはせん断式粉砕機(カッターミル、往復動式粉砕機、低速回転式粉砕機(二軸せん断粉砕機など)など)、衝撃せん断式粉砕機(シュレッダーなど)、および各種微粉砕機(ボールミル、ディスクミル、ピンミル、ハンマーミル、ターボミル、ジェットミルなど)などを挙げることができる。上記の中でも成形品を直接供給可能で、粉砕効率に優れ、かつ必要とされる粒径に対応するなどの点から切断式またはせん断式粉砕機が好ましい。その中でも低速回転式粉砕機が、靭性の高い外装成形品などにおいても適度なカサ密度を有し好ましい粉砕物が得られやすく好ましい。かかる低速回転式粉砕機としては一軸型、二軸型、三軸型などいずれのタイプも使用可能である。
【0032】
また粉砕機の回転刃や固定刃の状態を良好に保つことが重要である。回転刃や固定刃などが摩耗していると、靭性の高い材料では破断面の変形が大きくなる傾向がある。かかる変形は不必要にカサ密度を増加させ製造工程上も好ましくない。粉砕物のカサ密度と真密度の比(カサ密度/真密度)は、その下限が好ましくは0.3(特に好ましくは0.38)であり、その上限が好ましくは0.5(特に好ましくは0.49)である。
【0033】
リサイクル材の形状や大きさは特に限定されるものではないが、後工程への供給性、取り扱い性などの点から粉砕物の粒径(最大の粒体長径に相当する)は好ましくは1~30mm、より好ましくは1~15mm、更に好ましくは1.5~12mm、特に好ましくは2~10mmの範囲である。なお、かかる粉砕物の粒径は、標準篩法に準じて測定することが可能である。また、上記粒径の粉砕物は、目的とする粒径に近い目開きのスクリーンを破砕機に設置することにより得られる。
【0034】
成形品に印刷塗膜、シール、ラベル、化粧塗装膜、導電塗装、導電メッキ、金属蒸着などが施されている場合、これらを除去した粉砕物および除去しない粉砕物のいずれも使用可能である。本発明はこれらの除去が厳格に求められない点においてもリサイクルの実効性を向上させる。かかる印刷塗膜やメッキなどを除去する場合には、その方法として2本のロール間で圧延する方法、加熱・加圧水、各種溶剤、酸・アルカリ水溶液などに接触させる方法、かかる除去部分を機械的に削り取る方法、超音波を照射する方法、およびブラスト処理する方法などを挙げることができ、これらを組み合わせて使用することもできる。
【0035】
<(1)ポリカーボネート樹脂組成物の一部または全部を有機溶媒に浸漬する工程>
本工程は、有機溶媒にポリカーボネート樹脂組成物を浸漬させ、攪拌下でポリカーボネート成分および難燃剤成分を有機溶媒層に抽出することが目的である。攪拌翼の形状、攪拌回転数、攪拌時間は、状況に応じて任意に選択することができる。
【0036】
本工程において、有機溶媒にポリカーボネート樹脂組成物を浸漬させる際の溶媒温度は10~80℃の範囲が好ましく、15~70℃の範囲がより好ましく、20~60℃の範囲がさらに好ましい。10℃未満の場合は抽出に要する攪拌時間が長くなり、処理効率が著しく劣ることがある。また、80℃を越えると、加熱のエネルギーが多く必要となり、さらに樹脂成分が着色し易くなり、品質の良いポリカーボネート樹脂成分が得られなくなることがある。また、本工程は常圧で行うことが好ましい。沸点以上においての加圧下での処理は圧力容器が必要となり、設備費がかかり経済的に不利となる。
【0037】
また、浸漬させる時間は、10分以上が好ましく、20分以上がより好ましく、30分以上がさらに好ましい。上記の時間以上浸漬されると、ポリカーボネート成分および難燃剤成分を有機溶媒層に抽出することができる。浸漬させる時間の上限は時に限定されないが、好ましくは240分以下、より好ましくは180分以下、さらに好ましくは150分以下で十分である。
【0038】
本工程において、有機溶媒の使用量は、ポリカーボネート樹脂組成物100重量部に対し、10重量部~3000重量部の範囲が好ましく、30重量部~2500重量部の範囲がより好ましく、50重量部~2000重量部の範囲がさらに好ましい。溶媒量が10重量部より少ないと、初期の浸漬が不十分で、さらに充分膨潤または溶解せず、定常状態までの時間が長くなることがある。また3000重量部より多いと、分離する工程に時間を要し、溶媒の回収コストが高くなることがある。
【0039】
本発明に用いる有機溶媒は、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、ジクロロエタンおよびクロロホルムからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒が好ましく、ジクロロメタンおよびテトラヒドロフランからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒がより好ましく、特にジクロロメタンが好ましい。これらの溶媒は、ポリカーボネートの良溶媒で、実際にポリカーボネート樹脂の製造工程において反応溶媒として用いられており、その後の工程に悪影響を及ぼさないからである。また、沸点が低いため、溶媒回収するエネルギーを節約することができるため好適である。
本工程において、ポリカーボネート樹脂組成物をあらかじめ有機溶媒に浸漬しておいてもよいし、全てを溶解させずに浸漬槽に投入してもよい。
【0040】
<(2)未溶解固体成分と有機溶媒溶液とを分離する工程>
本工程は、(1)の工程で有機溶媒に溶解しない未溶解固形成分を除去することを目的とする。未溶解成分の具体例としては、ドリップ防止剤、一部のスチレン系樹脂、顔料、強化材といったポリカーボネート樹脂組成物中の不溶分や、成形品外部に処理される塗印刷塗膜、シール、ラベル、化粧塗装膜、導電塗装、導電メッキ、金属蒸着等が挙げられる。これらの未溶解固形成分は分離後に再利用しても良い。
【0041】
本工程の分離方法としては、目的を達成しうる方法であれば特に限定されないが、濾過分離が好ましい。具体的な濾過方法は特に限定されないが、加圧濾過、減圧濾過、遠心濾過などが挙げられる。
【0042】
<(3)分離後の有機溶媒溶液からポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を固体として回収する工程>
本工程は、分離後の有機溶媒溶液からポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を固体(粉状体)として取得することを目的とする。本工程の具体的な粉状体の回収方法としては、目的を達成しうる方法であれば特に限定されないが、該有機溶媒溶液を公知の方法や装置を用いて加熱濃縮しながら造粒し、得られた粉状体を乾燥する方法が挙げられる。造粒法としては、例えば、貧溶媒法やニーダーを用いる方法、薄膜蒸発器を用いる方法、スプレードライヤーを用いる方法、スチームチューブドライヤーを用いる方法、フラッシュドライ法等が挙げられる。また、濃縮槽で濃縮して加熱溶融状態のまま押出しペレット化する方法、濃縮槽で濃縮して得られた固体を粉砕する方法、濃縮槽で濃縮して溶融状態のまま押出をして得たペレットを粉砕する方法などがある。貧溶媒法で用いる攪拌システムとしては、パドル翼撹拌、ヘリカル翼撹拌、ホモミキサー撹拌、ニーダー撹拌等が挙げられる。
【0043】
本工程で得られる粉状体の平均粒径は、好ましくは0.3~3.0mmの範囲であり、より好ましくは0.35~2.5mmの範囲であり、さらに好ましくは0.4~2.0mmの範囲である。上記範囲内の平均粒径であると、乾燥工程や押出し工程に供するにあたりハンドリング性に優れ、生産性が向上するため好ましい。
【0044】
本工程で得られる粉状体にはポリカーボネート樹脂成分に加え、さらに樹脂組成物に由来する難燃剤成分を含有する。ポリカーボネート樹脂成分と難燃剤成分の合計量は、粉状体全体の好ましくは70重量%以上であり、より好ましくは75重量%以上であり、さらに好ましくは80重量%以上である。
【0045】
また、粉状体にはポリカーボネート樹脂成分100重量部に対して、難燃剤成分を好ましくは5~50重量部、より好ましくは10~45重量部、さらに好ましくは15~40重量部含有する。上記範囲内であるとリサイクル材として適用が容易となる。
【0046】
<リサイクル方法>
本発明の樹脂組成物の粉状体を用いて、繰り返し樹脂組成物を製造、すなわちリサイクルするには、任意の方法が採用される。例えば得られた樹脂組成物の粉状体および任意に他の添加剤を、V型ブレンダー、ヘンシェルミキサー、メカノケミカル装置、押出混合機などの予備混合手段を用いて充分に混合した後、必要に応じて押出造粒器やブリケッティングマシーンなどによりかかる予備混合物の造粒を行い、その後ベント式二軸押出機に代表される溶融混練機で溶融混練し、その後ペレタイザーによりペレット化する方法が挙げられる。
【0047】
他に、各成分をそれぞれ独立にベント式二軸押出機に代表される溶融混練機に供給する方法や、各成分の一部を予備混合した後、残りの成分と独立に溶融混練機に供給する方法なども挙げられる。各成分の一部を予備混合する方法としては例えば、樹脂組成物の粉状体以外の成分を予め予備混合した後、樹脂組成物の粉状体に混合または押出機に直接供給する方法が挙げられる。
【0048】
押出機としては、原料中の水分や、溶融混練樹脂から発生する揮発ガスを脱気できるベントを有するものが好ましく使用できる。ベントからは発生水分や揮発ガスを効率よく押出機外部へ排出するための真空ポンプが好ましく設置される。また押出原料中に混入した異物などを除去するためのスクリーンを押出機ダイス部前のゾーンに設置し、異物を樹脂組成物から取り除くことも可能である。かかるスクリーンとしては金網、スクリーンチェンジャー、焼結金属プレート(ディスクフィルターなど)などを挙げることができる。溶融混練機としては二軸押出機の他にバンバリーミキサー、混練ロール、単軸押出機、3軸以上の多軸押出機などを挙げることができる。
【0049】
上記の如く押出された樹脂組成物は、直接切断してペレット化するか、またはストランドを形成した後かかるストランドをペレタイザーで切断してペレット化される。ペレット化に際して外部の埃などの影響を低減する必要がある場合には、押出機周囲の雰囲気を清浄化することが好ましい。更にかかるペレットの製造においては、光学ディスク用ポリカーボネート樹脂において既に提案されている様々な方法を用いて、ペレットの形状分布の狭小化、ミスカット物の低減、運送または輸送時に発生する微小粉の低減、並びにストランドやペレット内部に発生する気泡(真空気泡)の低減を適宜行うことができる。これらの処方により成形のハイサイクル化、およびシルバーの如き不良発生割合の低減を行うことができる。またペレットの形状は、円柱、角柱、および球状など一般的な形状を取り得るが、より好適には円柱である。かかる円柱の直径は好ましくは1~5mm、より好ましくは1.5~4mm、さらに好ましくは2~3.3mmである。一方、円柱の長さは好ましくは1~30mm、より好ましくは2~5mm、さらに好ましくは2.5~3.5mmである。
【0050】
本発明におけるリサイクル後の樹脂組成物は、通常上述の方法で得られたペレットを射出成形して各種製品を製造することができる。かかる射出成形においては、通常の成形方法だけでなく、適宜目的に応じて、射出圧縮成形、射出プレス成形、ガスアシスト射出成形、発泡成形(超臨界流体の注入によるものを含む)、インサート成形、インモールドコーティング成形、断熱金型成形、急速加熱冷却金型成形、二色成形、サンドイッチ成形、および超高速射出成形などの射出成形法を用いて成形品を得ることができる。これら各種成形法の利点は既に広く知られるところである。また成形はコールドランナー方式およびホットランナー方式のいずれも選択することができる。
【0051】
また本発明におけるリサイクル後の樹脂組成物は、押出成形により各種異形押出成形品、シート、フィルムなどの形で使用することもできる。またシート、フィルムの成形にはインフレーション法や、カレンダー法、キャスティング法なども使用可能である。さらに特定の延伸操作をかけることにより熱収縮チューブとして成形することも可能である。また、本発明のリサイクル後の樹脂組成物を回転成形やブロー成形などにより成形品とすることも可能である。
【0052】
また、リサイクル後の樹脂組成物として、リサイクルされたポリカーボネート樹脂成分および難燃剤成分を含み、ポリカーボネート樹脂成分100重量部に対して、難燃剤成分を5~50重量部含む樹脂組成物が好ましく、10~45重量部含む樹脂組成物がより好ましく、15~40重量部含む樹脂組成物がさらに好ましい。上記範囲内であると種々の部材として好適に使用される。
【実施例0053】
本発明について実施例および比較例を示してより具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら制限されるものではない。特記しない限り、実施例中の部は重量部であり、%は重量%である。なお、評価は下記の方法に従った。
【0054】
(1)ポリカーボネート樹脂(PC)および難燃剤の合計回収率
得られた粉状体の重量を測定し、下記の式を用いて算出した。
PCおよび難燃剤の合計回収率(%)=粉状体回収重量/(樹脂組成物中のPC重量+樹脂組成物中の難燃剤重量)×100
【0055】
(2)粉状体の平均粒径
日本粉体工業協会編「造粒便覧」1編、2章、2・4項の粒度測定法に準拠し、得られた粉状体を、13.2mm、8.0mm、4.75mm、2.8mm、1.7mm、1.0mm、0.71mm、0.5mm、0.3mm、0.18mmの目開きを持つ篩を使用して、篩い分けた後、重量を基準とした累積粒度分布グラフを作成し、累積重量が50%になるところの粒径を求め、これを平均粒径とした。
【0056】
(3)粉状体の組成分析
得られた粉状体を日本電子社製JNM-AL400のプロトンNMRにて分析し、各成分の含有量を算出した。得られた各成分の含有量比から、ポリカーボネート樹脂成分と難燃剤成分との合計量を求めた。
【0057】
(4)押出性評価
押出操作時のハンドリング性について、下記の基準で評価した。
〇:問題無く押出操作が可能である
×:高頻度でストランド切れが発生する
【0058】
(5)難燃剤含有量
溶融混錬し押出した後の樹脂組成物(ブレンド)ペレットについて、日本電子社製JNM-AL400のプロトンNMRにて、樹脂組成物に対する難燃剤の含有重量比を算出した。
【0059】
樹脂組成物の各成分は下記のとおりである。
[樹脂成分]
PC:芳香族ポリカーボネート樹脂[ビスフェノールAとホスゲンから常法によって作られた粘度平均分子量19,800のポリカーボネート樹脂粉末、帝人(株)製 パンライトL-1225WX]
ABS:ABS樹脂[日本A&L(株)製 クララスチックSXH-330(商品名)、ブタジエンゴム成分約17.5重量%、重量平均ゴム粒子径が0.40μm、乳化重合にて製造、滑剤(EBS)を含まない]
【0060】
[難燃剤]
ビスフェノールAビス(ジフェニルホスフェート)を主成分とするリン酸エステル(大八化学工業(株)製 CR-741(商品名))
[ドリップ防止剤]
PTFE(ダイキン工業(株)製 ポリフロンMP FA500B(商品名))
[強化材]
タルク(林化成(株)製 HST0.8(商品名)、平均粒径3.5μm)
【0061】
[樹脂組成物の製造]
(参考例1)
表1に示す組成で、樹脂成分、難燃剤、ドリップ防止剤、強化材の混合物をベント式二軸押出機[(株)テクノベル製KZW15-25MG]へ供給した。シリンダおよびダイス共に260℃にて溶融混練して押出し、ストランドを水浴後、カッターを通すことで樹脂組成物(ブレンド)ペレットを得た。
【0062】
[実施例1-1]
(浸漬工程)
樹脂組成物ペレット10部に対し、有機溶媒としてジクロロメタン(DCM)を90部添加し、10重量%の分散溶液とした。攪拌翼(パドル翼)を設置し、温度25℃条件下、60分、300rpmの条件で処理を行った。処理後の外観は、不溶分が分散している状態であった。
(分離工程)
真空ポンプに接続した吸引濾過装置に、ADVANTEC製定量濾紙No.5Cをセットした。吸引下、浸漬工程で処理した溶液を投下し、濾液と濾紙上の残渣成分とに分離した。残渣成分は主にABS樹脂成分とドリップ防止剤成分であった。
(固体回収工程)
ジャケット付ニーダー(混練機)に水5部を入れ、ジャケットに90℃以上の熱水を通して混練機内の水温を60℃とし、上記分離工程で得られた濾液100部を連続的に注加した。ニーダー(混練機)は44rpmで攪拌し、内部温水を50℃に保ちつつ溶液注加を終了した。注加終了後、ニーダー(混練機)内部の雰囲気温度を約50℃に維持しながら混錬して、脱溶媒と粉砕を行った。得られた粉状体の水スラリーを、蒸留槽に導入し熱水中70℃で30分間攪拌した後、遠心脱水機により粉状体を分離し、80℃で10時間熱風乾燥を行った。得られた粉状体を日本電子社製JNM-AL400のプロトンNMRにて分析したところ、ポリカーボネート樹脂成分と難燃剤成分の混合物であった。またプロトンNMRにより、スチレン成分も微量検出されたが、算出されるスチレン成分の含有量は0.1wt%以下であった。得られた粉状体に関して、ポリカーボネート樹脂成分と難燃剤成分の合計回収率、および平均粒径を測定した。評価結果を表1に示した。
【0063】
[実施例1-2]
(浸漬工程)
攪拌温度を38℃とした他は、実施例1-1と同様の手順で行った。
(分離工程)
実施例1-1と同様の手順で行った。
(固体回収工程)
実施例1-1と同様の手順で行った。評価結果を表1に示した。
【0064】
[実施例1-3]
(浸漬工程)
攪拌時間を120分とした他は、実施例1-1と同様の手順で行った。
(分離工程)
実施例1-1と同様の手順で行った。
(固体回収工程)
実施例1-1と同様の手順で行った。評価結果を表1に示した。
【0065】
[実施例1-4]
(浸漬工程)
用いる有機溶媒をテトラヒドロフラン(THF)とした他は、実施例1-1と同様の手順で行った。
(分離工程)
実施例1-1と同様の手順で行った。
(固体回収工程)
混練機内の水温を80℃とし、ニーダー(混練機)内部の雰囲気温度を約70℃に維持しながら混錬して、脱溶媒と粉砕を行った。その他の操作は、実施例1-1と同様の手順で行った。評価結果を表1に示した。
【0066】
[実施例1-5]
(浸漬工程)
攪拌温度を40℃とし、攪拌時間を40分とした他は、実施例1-4と同様の手順で行った。
(分離工程)
実施例1-4と同様の手順で行った。
(固体回収工程)
実施例1-4と同様の手順で行った。評価結果を表1に示した。
【0067】
[比較例1-1]
(浸漬工程)
用いる有機溶媒をメタノールとした他は、実施例1-4と同様の手順で行った。
(分離工程)
実施例1-4と同様の手順で行った。
(固体回収工程)
実施例1-4と同様の手順で行った。評価結果を表1に示した。
【0068】
[比較例1-2]
(浸漬工程)
用いる有機溶媒をトルエンとした他は、実施例1-4と同様の手順で行った。
(分離工程)
実施例1-4と同様の手順で行った。
(固体回収工程)
得られた濾液をエバポレーターにて溶媒を留去し、得られた固体成分を回収後、真空乾燥機で溶媒を乾燥させた。評価結果を表1に示した。
【0069】
[比較例1-3]
(浸漬工程)
ドリップ防止剤を含有しない樹脂組成物ペレット10部に対し、有機溶媒としてジクロロメタン(DCM)を90部添加し、10重量%の分散溶液とした。攪拌翼(パドル翼)を設置し、温度25℃条件下、60分、300rpmの条件で処理を行った。処理後の外観は、不溶分が確認されず、均一に分散している状態であった。
(分離工程)
真空ポンプに接続した吸引濾過装置に、ADVANTEC製定量濾紙No.5Cをセットした。吸引下、浸漬工程で処理した溶液を投下したところ、残渣成分は認められなかった。濾液側へ樹脂組成物の全ての成分が溶出し、特定の成分のみ抽出することはできなかった。
【0070】
【0071】
[実施例2-1]
実施例1-1で得られた樹脂粉状体をベント式二軸押出機[(株)テクノベル製KZW15-25MG]へ供給した。シリンダおよびダイス共に260℃にて溶融混練して押出し、ストランドを水浴後、カッターを通すことで樹脂組成物(ブレンド)ペレットを得た。得られた評価結果を表2に示した。
【0072】
[実施例2-2]
実施例1-4で得られた樹脂粉状体を用いた他は実施例2-1と同様の操作を行った。得られた評価結果を表2に示した。
【0073】
[比較例2-1]
新品のポリカーボネート樹脂(PC;帝人製パンライトL-1225WX)および難燃剤(CR-741)を表2に示す比率で混合した。ベント式二軸押出機[(株)テクノベル製KZW15-25MG]へ供給する際に、難燃剤が粘調性を示すため、供給変動が大きい様子が確認された。シリンダおよびダイス共に260℃にて溶融混練して押出し、ストランドを水浴後、カッターを通すことで樹脂組成物(ブレンド)ペレットを得た。その際、高頻度でストランド切れが発生した。得られた評価結果を表2に示した。
【0074】
本発明の回収方法から得られる粉状体(パウダー)を用いたリサイクルポリカーボネート樹脂組成物は、レンズ、コンパクトディスク等の光ディスク、建築材料、自動車部品、OA機器、カメラボディー等の用途として有用である。