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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100074
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】船舶推進機および船舶
(51)【国際特許分類】
   B63H 20/00 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
B63H20/00 823
B63H20/00 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003791
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104433
【弁理士】
【氏名又は名称】宮園 博一
(72)【発明者】
【氏名】野上 竜彦
(57)【要約】
【課題】ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することが可能な船舶推進機を提供する。
【解決手段】この船舶推進機102は、プロペラ5と、プロペラ5を駆動させる電気モータ6と、電気モータ6の駆動を制御するモータ制御部3と、モータ制御部3が収容されるケース1と、プロペラ5、電気モータ6およびケース1を一体的に左右方向に回動させるステアリング機構2と、モータ制御部3に一端80aが接続され、モータ制御部3に駆動電力を供給するプラス線8aおよびマイナス線8bからなる2つの電力線8と、を備え、2つの電力線8は、少なくともケース1内において、ステアリング機構2による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラと、
前記プロペラを駆動させる電気モータと、
前記電気モータの駆動を制御するモータ制御部と、
前記モータ制御部が収容されるケースと、
前記プロペラ、前記電気モータおよび前記ケースを一体的に左右方向に回動させるステアリング機構と、
前記モータ制御部に一端が接続され、前記モータ制御部に駆動電力を供給するプラス線およびマイナス線からなる2つの電力線と、を備え、
前記2つの電力線は、少なくとも前記ケース内において、前記ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置されている、船舶推進機。
【請求項2】
前記2つの電力線は、前記プロペラの推力の向きが船体の前後方向と平行になる中立状態において、前記ステアリング機構による回動時に、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有した状態で保持されている、請求項1に記載の船舶推進機。
【請求項3】
前記2つの電力線は、
前記ステアリング機構により前記中立状態から前記ケースが左右方向の一方に回動した場合に、互いに捩られた状態の前記2つの電力線の延びる方向から視て、前記2つの電力線の延びる方向に直交する方向に絞られながら捩り量が増加し、
前記ステアリング機構により前記中立状態から前記ケースが左右方向の他方に回動した場合に、互いに捩られた状態の前記2つの電力線の延びる方向から視て、前記2つの電力線の延びる方向に直交する方向に膨らみながら捩り量が減少するように構成されている、請求項2に記載の船舶推進機。
【請求項4】
前記ステアリング機構は、筒状のステアリング軸を含み、
前記2つの電力線は、前記ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で前記筒状のステアリング軸内を通されている、請求項1に記載の船舶推進機。
【請求項5】
前記筒状のステアリング軸は上下方向に延びており、
前記2つの電力線の捩られた部分は、前記筒状のステアリング軸の軸中心に沿って上下方向に直線状に延びている、請求項4に記載の船舶推進機。
【請求項6】
前記ケースは、アッパーケースと、前記アッパーケースの下方に配置され、前記モータ制御部が収容されるロワーケースとを含み、
前記ステアリング機構は、前記アッパーケースに対して、前記プロペラ、前記電気モータおよび前記ロワーケースを一体的に左右方向に回動させるように構成され、
前記2つの電力線の捩られた部分の上端部は、前記アッパーケース内に配置され、
前記2つの電力線の捩られた部分の下端部は、前記ロワーケース内に配置されている、請求項1に記載の船舶推進機。
【請求項7】
前記アッパーケース内の前記2つの電力線の前記捩られた部分の前記上端部を束ねて拘束する上側拘束部材と、
前記ロワーケース内の前記2つの電力線の前記捩られた部分の前記下端部を束ねて拘束する下側拘束部材と、をさらに備える、請求項6に記載の船舶推進機。
【請求項8】
前記下側拘束部材は、前記ロワーケースの内面に固定されている、請求項7に記載の船舶推進機。
【請求項9】
前記アッパーケースは、前記ステアリング機構が内部に配置される操舵ボックスと、前記操舵ボックスの上方に設けられるカウルとを含み、
前記カウル内に配置され、前記一端が前記モータ制御部に接続された前記2つの電力線の他端が接続されるターミナルケースをさらに備え、
前記上側拘束部材は、前記ターミナルケースに固定されている、請求項7に記載の船舶推進機。
【請求項10】
前記上側拘束部材および前記下側拘束部材は、ともに弾性変形可能な材料により形成されている、請求項7に記載の船舶推進機。
【請求項11】
前記下側拘束部材は、前記モータ制御部の上端と前記モータ制御部の下端との間の高さ位置に配置され、
前記2つの電力線は、前記下側拘束部材よりも下方側において、前記モータ制御部に向けて横方向に湾曲しながら延びている、請求項7に記載の船舶推進機。
【請求項12】
前記モータ制御部に接続され、前記モータ制御部に制御信号を伝達するように構成され、前記電力線よりも細い信号線をさらに備え、
前記信号線は、互いに捩られた状態で配置される前記2つの電力線に捩られることなく、前記2つの電力線に沿って配置され、
前記上側拘束部材および前記下側拘束部材は、前記2つの電力線に加えて、前記2つの電力線に前記信号線を束ねて拘束するように構成されている、請求項7に記載の船舶推進機。
【請求項13】
前記ケースの下部に取り付けられ、前記プロペラが内側に配置される筒状のダクトをさらに備え、
前記電気モータは、前記ダクトに設けられるステータと、前記プロペラに設けられるロータとを含む、請求項1に記載の船舶推進機。
【請求項14】
船体と、
前記船体に設けられる船舶推進機とを備え、
前記船舶推進機は、
プロペラと、
前記プロペラを駆動させる電気モータと、
前記電気モータの駆動を制御するモータ制御部と、
前記モータ制御部が収容されるケースと、
前記プロペラ、前記電気モータおよび前記ケースを一体的に左右方向に回動させるステアリング機構と、
前記モータ制御部に一端が接続され、前記モータ制御部に駆動電力を供給するプラス線およびマイナス線からなる2つの電力線と、を含み、
前記2つの電力線は、少なくとも前記ケース内において、前記ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置されている、船舶。
【請求項15】
前記2つの電力線は、前記プロペラの推力の向きが前記船体の前後方向と平行になる中立状態において、前記ステアリング機構による回動時に、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有した状態で保持されている、請求項14に記載の船舶。
【請求項16】
前記2つの電力線は、
前記ステアリング機構により前記中立状態から前記ケースが左右方向の一方に回動した場合に、互いに捩られた状態の前記2つの電力線の延びる方向から視て、前記2つの電力線の延びる方向に直交する方向に絞られながら捩り量が増加し、
前記ステアリング機構により前記中立状態から前記ケースが左右方向の他方に回動した場合に、互いに捩られた状態の前記2つの電力線の延びる方向から視て、前記2つの電力線の延びる方向に直交する方向に膨らみながら捩り量が減少するように構成されている、請求項15に記載の船舶。
【請求項17】
前記ステアリング機構は、筒状のステアリング軸を有し、
前記2つの電力線は、前記ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で前記筒状のステアリング軸内を通されている、請求項14に記載の船舶。
【請求項18】
前記筒状のステアリング軸は上下方向に延びており、
前記2つの電力線の捩られた部分は、前記筒状のステアリング軸の軸中心に沿って上下方向に直線状に延びている、請求項17に記載の船舶。
【請求項19】
前記ケースは、アッパーケースと、前記アッパーケースの下方に配置され、前記モータ制御部が収容されるロワーケースとを有し、
前記ステアリング機構は、前記アッパーケースに対して、前記プロペラ、前記電気モータおよび前記ロワーケースを一体的に左右方向に回動させるように構成され、
前記2つの電力線の捩られた部分の上端部は、前記アッパーケース内に配置され、
前記2つの電力線の捩られた部分の下端部は、前記ロワーケース内に配置されている、請求項14に記載の船舶。
【請求項20】
前記船舶推進機は、
前記アッパーケース内の前記2つの電力線の前記捩られた部分の前記上端部を束ねて拘束する上側拘束部材と、
前記ロワーケース内の前記2つの電力線の前記捩られた部分の前記下端部を束ねて拘束する下側拘束部材と、をさらに含む、請求項19に記載の船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、船舶推進機および船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プロペラを左右方向に回動させるステアリング機構を備える船舶推進機が知られている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
上記特許文献1には、ステアリング機構を備え、船尾に取り付けられた電動の船舶推進機が開示されている。上記船舶推進機は、プロペラの電気モータの駆動を制御するモータ制御部と、モータ制御部が収容されて船体の後方に配置されるハウジングと、電力ケーブルとを備えている。電力ケーブルは、船体側から船体の後方に配置されるハウジング内に導入されてモータ制御部に接続されている。ステアリング機構は、プロペラとともに、モータ制御部が収容されたハウジングを左右に回動させるように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2022-18647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1の船舶推進機を含む従来の船舶推進機の分野では、ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、モータ制御部に接続される電力ケーブルに捩りがない状態から捩りが生じた場合、電力ケーブルに比較的大きな負荷が作用することが知られている。このため、従来より、ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、モータ制御部に接続される電力ケーブルに掛かる負荷を軽減することが求められている。
【0006】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、この発明の1つの目的は、ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することが可能な船舶推進機および船舶を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の第1の局面による船舶推進機は、プロペラと、プロペラを駆動させる電気モータと、電気モータの駆動を制御するモータ制御部と、モータ制御部が収容されるケースと、プロペラ、電気モータおよびケースを一体的に左右方向に回動させるステアリング機構と、モータ制御部に一端が接続され、モータ制御部に駆動電力を供給するプラス線およびマイナス線からなる2つの電力線と、を備え、2つの電力線は、少なくともケース内において、ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置されている。
【0008】
上記第1の局面による船舶推進機では、上記のように、モータ制御部に駆動電力を供給するプラス線およびマイナス線からなる2つの電力線を設け、2つの電力線を、少なくともケース内において、ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置する。これによって、ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、少なくとも、左右方向の一方に回動させる場合には2つの電力線の捩り量を減少させることができるので、2つの電力線に負荷が掛るのを抑制することができる。したがって、従来のような左右方向のいずれに回動した場合でも電力線の捩り量が増加する(負荷が増加する)構成と比較して、ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することができる。
【0009】
上記第1の局面による船舶推進機では、好ましくは、2つの電力線は、プロペラの推力の向きが船体の前後方向と平行になる中立状態において、ステアリング機構による回動時に、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有した状態で保持されている。このように構成すれば、ステアリング機構により2つの電力線の捩りが絞まる方向(捩り量が増加する方向)に回動した場合、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有しているので、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することができる。
【0010】
この場合、好ましくは、2つの電力線は、ステアリング機構により中立状態からケースが左右方向の一方に回動した場合に、互いに捩られた状態の2つの電力線の延びる方向から視て、2つの電力線の延びる方向に直交する方向に絞られながら捩り量が増加し、ステアリング機構により中立状態からケースが左右方向の他方に回動した場合に、互いに捩られた状態の2つの電力線の延びる方向から視て、2つの電力線の延びる方向に直交する方向に膨らみながら捩り量が減少するように構成されている。このように構成すれば、2つの電力線の延びる方向に直交する方向において、2つの電力線を膨らませることによって、2つの電力線に作用する捩り力を軽減することができる。その結果、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷をより一層軽減することができる。
【0011】
上記第1の局面による船舶推進機では、好ましくは、ステアリング機構は、筒状のステアリング軸を含み、2つの電力線は、ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で筒状のステアリング軸内を通されている。このように構成すれば、2つの電力線が筒状のステアリング軸内を通されるので、ステアリング機構による回動時において、2つの電力線の一部のみが大きく変形するなど、ステアリング軸に沿った形状とは異なる形状になるような変形が2つの電力線に生じることを抑制することができる。
【0012】
この場合、好ましくは、筒状のステアリング軸は上下方向に延びており、2つの電力線の捩られた部分は、筒状のステアリング軸の軸中心に沿って上下方向に直線状に延びている。このように構成すれば、筒状のステアリング軸の軸中心に沿って上下方向に直線状に2つの電力線を配置することができるので、2つの電力線が屈曲部や湾曲部を有する場合と比較して、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷をより軽減することができる。
【0013】
上記第1の局面による船舶推進機では、好ましくは、ケースは、アッパーケースと、アッパーケースの下方に配置され、モータ制御部が収容されるロワーケースとを含み、ステアリング機構は、アッパーケースに対して、プロペラ、電気モータおよびロワーケースを一体的に左右方向に回動させるように構成され、2つの電力線の捩られた部分の上端部は、アッパーケース内に配置され、2つの電力線の捩られた部分の下端部は、ロワーケース内に配置されている。このように構成すれば、2つの電力線が、回動しないアッパーケースから回動するロワーケースに跨って配置される場合にも、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することができる。
【0014】
この場合、好ましくは、アッパーケース内の2つの電力線の捩られた部分の上端部を束ねて拘束する上側拘束部材と、ロワーケース内の2つの電力線の捩られた部分の下端部を束ねて拘束する下側拘束部材と、をさらに備える。このように構成すれば、上側拘束部材と下側拘束部材との間において、2つの電力線の捩り量を適切な捩り量に保持することができる。
【0015】
上記上側拘束部材と下側拘束部材と備える構成において、好ましくは、下側拘束部材は、ロワーケースの内面に固定されている。このように構成すれば、下側拘束部材により、ロワーケースの内面の位置まで、2つの電力線の捩られた部分の下端部の捩り量を適切な捩り量に保持することができる。
【0016】
上記上側拘束部材と下側拘束部材とを備える構成において、好ましくは、アッパーケースは、ステアリング機構が内部に配置される操舵ボックスと、操舵ボックスの上方に設けられるカウルとを含み、カウル内に配置され、一端がモータ制御部に接続された2つの電力線の他端が接続されるターミナルケースをさらに備え、上側拘束部材は、ターミナルケースに固定されている。このように構成すれば、上側拘束部材により、ターミナルケースの位置まで、2つの電力線の捩られた部分の上端部の捩り量を適切な捩り量に保持することができる。
【0017】
上記上側拘束部材と下側拘束部材とを備える構成において、好ましくは、上側拘束部材および下側拘束部材は、ともに弾性変形可能な材料により形成されている。このように構成すれば、上側拘束部材および下側拘束部材を弾性変形させることができるので、上側拘束部材および下側拘束部材により2つの電力線が傷つくことを回避することができる。
【0018】
上記上側拘束部材と下側拘束部材とを備える構成において、好ましくは、下側拘束部材は、モータ制御部の上端とモータ制御部の下端との間の高さ位置に配置され、2つの電力線は、下側拘束部材よりも下方側において、モータ制御部に向けて横方向に湾曲しながら延びている。このように構成すれば、下側拘束部材よりも下方側において、2つの電力をモータ制御部の比較的近くに配置して、2つの電力線をモータ制御部に容易に接続することができる。
【0019】
上記上側拘束部材と下側拘束部材とを備える構成において、好ましくは、モータ制御部に接続され、モータ制御部に制御信号を伝達するように構成され、電力線よりも細い信号線をさらに備え、信号線は、互いに捩られた状態で配置される2つの電力線に捩られることなく、2つの電力線に沿って配置され、上側拘束部材および下側拘束部材は、2つの電力線に加えて、2つの電力線に信号線を束ねて拘束するように構成されている。このように構成すれば、上側拘束部材と下側拘束部材との間において、信号線を2つの電力線に沿って配置することができる。その結果、上側拘束部材と下側拘束部材との間において、信号線が捩れにより部分的に変形して、信号線が2つの電力線の捩れの拡大縮小を阻害することを抑制することができる。
【0020】
上記第1の局面による船舶推進機では、好ましくは、ケースの下部に取り付けられ、プロペラが内側に配置される筒状のダクトをさらに備え、電気モータは、ダクトに設けられるステータと、プロペラに設けられるロータとを含む。このように構成すれば、電気モータがダクトおよびプロペラに設けられたダクト駆動方式の船舶推進機において、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することができる。
【0021】
この発明の第2の局面による船舶は、船体と、船体に設けられる船舶推進機とを備え、船舶推進機は、プロペラと、プロペラを駆動させる電気モータと、電気モータの駆動を制御するモータ制御部と、モータ制御部が収容されるケースと、プロペラ、電気モータおよびケースを一体的に左右方向に回動させるステアリング機構と、モータ制御部に一端が接続され、モータ制御部に駆動電力を供給するプラス線およびマイナス線からなる2つの電力線と、を含み、2つの電力線は、少なくともケース内において、ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置されている。
【0022】
上記第2の局面による船舶では、上記のように、モータ制御部に駆動電力を供給するプラス線およびマイナス線からなる2つの電力線を設け、2つの電力線を、少なくともケース内において、ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置する。これによって、ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、少なくとも、左右方向の一方に回動させる場合には2つの電力線の捩り量を減少させることができるので、2つの電力線に負荷が掛るのを抑制することができる。したがって、従来のような左右方向のいずれに回動した場合でも電力線の捩り量が増加する(負荷が増加する)構成と比較して、ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することが可能な船舶を提供することができる。
【0023】
上記第2の局面による船舶では、好ましくは、2つの電力線は、プロペラの推力の向きが船体の前後方向と平行になる中立状態において、ステアリング機構による回動時に、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有した状態で保持されている。このように構成すれば、ステアリング機構により2つの電力線の捩りが絞まる方向(捩り量が増加する方向)に回動した場合、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有しているので、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することができる。
【0024】
この場合、好ましくは、2つの電力線は、ステアリング機構により中立状態からケースが左右方向の一方に回動した場合に、互いに捩られた状態の2つの電力線の延びる方向から視て、2つの電力線の延びる方向に直交する方向に絞られながら捩り量が増加し、ステアリング機構により中立状態からケースが左右方向の他方に回動した場合に、互いに捩られた状態の2つの電力線の延びる方向から視て、2つの電力線の延びる方向に直交する方向に膨らみながら捩り量が減少するように構成されている。このように構成すれば、2つの電力線の延びる方向に直交する方向において、2つの電力線を膨らませることによって、2つの電力線に作用する捩り力を軽減することができる。その結果、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷をより一層軽減することができる。
【0025】
上記第2の局面による船舶では、好ましくは、ステアリング機構は、筒状のステアリング軸を有し、2つの電力線は、ステアリング機構による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で筒状のステアリング軸内を通されている。このように構成すれば、2つの電力線が筒状のステアリング軸内を通されるので、ステアリング機構による回動時において、2つの電力線の一部のみが大きく変形するなど、ステアリング軸に沿った形状とは異なる形状になるような変形が2つの電力線に生じることを抑制することができる。
【0026】
この場合、好ましくは、筒状のステアリング軸は上下方向に延びており、2つの電力線の捩られた部分は、筒状のステアリング軸の軸中心に沿って上下方向に直線状に延びている。このように構成すれば、筒状のステアリング軸の軸中心に沿って上下方向に直線状に2つの電力線を配置することができるので、2つの電力線が屈曲部や湾曲部を有する場合と比較して、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷をより軽減することができる。
【0027】
上記第2の局面による船舶では、好ましくは、ケースは、アッパーケースと、アッパーケースの下方に配置され、モータ制御部が収容されるロワーケースとを有し、ステアリング機構は、アッパーケースに対して、プロペラ、電気モータおよびロワーケースを一体的に左右方向に回動させるように構成され、2つの電力線の捩られた部分の上端部は、アッパーケース内に配置され、2つの電力線の捩られた部分の下端部は、ロワーケース内に配置されている。このように構成すれば、2つの電力線が、回動しないアッパーケースから回動するロワーケースに跨って配置される場合にも、ステアリング機構による回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することができる。
【0028】
この場合、好ましくは、船舶推進機は、アッパーケース内の2つの電力線の捩られた部分の上端部を束ねて拘束する上側拘束部材と、ロワーケース内の2つの電力線の捩られた部分の下端部を束ねて拘束する下側拘束部材と、をさらに含む。このように構成すれば、上側拘束部材と下側拘束部材との間において、2つの電力線の捩り量を適切な捩り量に保持することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、上記のように、ステアリング機構による左右方向へのプロペラの回動時において、モータ制御部に接続される電力線に掛かる負荷を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1】実施形態による船舶推進機を備えた船舶を右方側から示した側面図である。
図2】船舶推進機の回動時における2つの電力線の捩りについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。
【0032】
(船舶の構成)
図1および図2を参照して、実施形態による船舶推進機102を備える船舶100の構成について説明する。
【0033】
なお、各図において、船舶100の前進方向をFWDにより示す。船舶100の後進方向をBWDにより示す。船舶100の右舷(右方)方向をRにより示す。船舶100の左舷(左方)方向をLにより示す。
【0034】
また、各図において、上下方向をZにより示す。上方をZ1により示す。下方をZ2により示す。Z方向は、ステアリング軸23の軸中心αに沿った方向でもある。
【0035】
各図において、ステアリング機構2によるプロペラ5などの反時計回り(左回り)の回動方向をRO1により示し、時計回り(右回り)の回動方向をRO2により示す。
【0036】
船舶100は、船体101と、船舶推進機102とを備えている。
【0037】
船舶推進機102は、船体101のトランサムに後方から取り付けられ、船体101の外部に配置される船外機により構成されている。また、船舶推進機102は、電気モータ6によりプロペラ5を駆動させる電動式の推進機である。また、船舶推進機102は、電気モータ6がダクト4およびプロペラ5に一体的に設けられたダクト駆動方式の推進機である。
【0038】
船舶推進機102は、船体101側から船舶推進機102内に導入される電力供給線Pによって推進のため(プロペラ5を駆動させるため)の駆動電力が供給されるように構成されている。電力供給線Pは、プラス線P1とマイナス線P2とを含んでいる。電力供給線Pの一端は、船舶推進機102のターミナルケースTに接続されている。電力供給線Pの他端は、船体101内に配置されている。
【0039】
船舶推進機102は、推進機本体102aと、推進機本体102aを船体101に取り付けるブラケット102bとを備えている。
【0040】
推進機本体102aは、ケース1と、ターミナルケースTと、ステアリング機構2と、モータ制御部3(いわゆるモータコントロールユニット)と、ダクト4と、プロペラ5と、プロペラ5を駆動させる電気モータ6と、信号線7と、プラス線8aおよびマイナス線8bからなる2つの電力線8と、上側拘束部材9aと、下側拘束部材9bとを備えている。
【0041】
2つの電力線8は、一端80aがモータ制御部3に接続され、他端80bがターミナルケースTに接続されている。2つの電力線8は、モータ制御部3にプロペラ5を駆動させるための駆動電力を供給するように構成されている。モータ制御部3はステアリング機構2によって左右方向に回動する構成である一方、ターミナルケースTはステアリング機構2によって左右方向に回動することはない。
【0042】
本実施態では、2つの電力線8は、少なくともケース1(ロワーケース11)内において、ステアリング機構2による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置されている。要するに、2つの電力線8は、プロペラ5の推力の向きが船体101の前後方向と平行になる中立状態において2つの電力線8が互いに捩れた状態になるように、予め2つの電力線8を捩らせておくことによって、ステアリング機構2による回動時において、捩りによる過剰な負荷が掛ることがないように構成されている。
【0043】
(ケースの構成)
ケース1は、アッパーケース10と、アッパーケース10の下方に配置されたロワーケース11とを備えている。
【0044】
アッパーケース10は、ベース10aと、ベース10aに上方から取り付けられる着脱可能なカウル10bと、ベース10aに対して下方から固定された操舵ボックス10cとを含んでいる。
【0045】
ベース10aには、ブラケット102bが直接固定されている。ベース10aは、ブラケット102bを介して船体101に取り付けられている。したがって、アッパーケース10は、ベース10aおよびブラケット102bを介して、船体101に取り付けられており、ステアリング機構2により左右方向に回動することはない。ベース10aは、推進機本体102aの全体を支持している。ベース10a内には、ターミナルケースTが配置されている。
【0046】
カウル10bは、中空の蓋部材であり、ベース10a内のターミナルケースTなどを覆うことにより、保護している。カウル10bは、操舵ボックス10cの上方に設けられている。
【0047】
操舵ボックス10cは、ステアリング機構2が内部に配置されている。操舵ボックス10cは、前方側部分が丸みを有し、後方側部分が前方側部分よりも薄肉状に形成された流線形の形状に形成されている。
【0048】
ロワーケース11内には、モータ制御部3が配置されている。ロワーケース11は、ステアリング機構2のステアリング軸23に支持されている。ロワーケース11は、ステアリング軸23を介して、上方に位置する操舵ボックス10cに接続されている。
操舵ボックス10cの下部には、ダクト4が固定されている。
【0049】
(ターミナルケースの構成)
ターミナルケースTは、カウル10b内に配置されている。ターミナルケースTは、一端80aがモータ制御部3に接続された2つの電力線8の他端80bが接続されている。
【0050】
詳細には、ターミナルケースTには、端子Taと、端子Tbとが設けられている。端子Taには、船体101側から電力を供給するための電力供給線Pが接続されている。端子Tbには、2つの電力線8(の他端80b)が接続されている。
【0051】
端子Taと端子Tbとは、互いに電気的に接続されている。したがって、端子Taに接続される電力供給線Pと端子Tbに接続される2つの電力線8とは、互いに電気的に接続されている。要するに、プロペラ5を駆動させるための駆動電力は、電力供給線P、端子Ta、端子Tb、2つの電力線8、モータ制御部3の順に伝わり、モータ制御部3によって電気モータ6(プロペラ5)が駆動される。
【0052】
(ステアリング機構の構成)
ステアリング機構2は、プロペラ5、電気モータ6およびケース1(ロワーケース11)を一体的に左右方向に回動させるように構成されている。ステアリング機構2は、アッパーケース10に対して、プロペラ5、電気モータ6およびロワーケース11を一体的に左右方向に回動させるように構成されている。
【0053】
ステアリング機構2は、ステアリング制御部20(いわゆるステアリングコントロールユニット)と、ステアリングモータ21と、トルク伝達機構22と、ステアリング軸23とを備えている。
【0054】
ステアリング制御部20は、CPUやメモリなどにより構成されている。ステアリング制御部20は、ステアリングホイールなどからの操作信号に基づいて、ステアリングモータ21を駆動させて、プロペラ5などを左右方向に回動させる制御を行うように構成されている。
【0055】
トルク伝達機構22は、ステアリングモータ21のトルクをステアリング軸23に伝達してステアリング軸23を回動させるように構成されている。一例ではあるが、トルク伝達機構22は、ウォームギアなどの各種のギアを含んでいる。
【0056】
ステアリング軸23は、筒状に形成されている。筒状のステアリング軸23は、上下方向に延びている。すなわち、ステアリング軸23の軸中心αは、上下方向に延びている。ステアリング軸23は、アッパーケース10に対して回動可能な状態で、アッパーケース10に支持されている。
【0057】
ステアリング軸23の下端は、ロワーケース11の内部に配置されている。すなわち、ステアリング軸23の下端は、ロワーケース11の上面よりも下方の位置まで延びている。また、ステアリング軸23の下端は、モータ制御部3の上面よりも下方で、かつ、モータ制御部3の下面よりも上方に配置されている。すなわち、ステアリング軸23の下端は、モータ制御部3の側方に配置されている。
【0058】
(モータ制御部の構成)
モータ制御部3は、CPUやメモリなどにより構成されている。モータ制御部3は、上記の通り、ロワーケース11内に配置されている。また、モータ制御部3には、プラス線8aおよびマイナス線8bからなる2つの電力線8の一端80a(下端)が接続されている。また、モータ制御部3は、各種の配線C(電力を供給する配線および制御信号を送信する配線)を介して、ダクト4に設けられたステータ60に接続されている。
【0059】
(ダクトおよびプロペラの構成)
ダクト4は、ロワーケース11の下部に取り付けられている。ダクト4は、円筒状に形成されている。円筒状のダクト4の中心軸線は、水平方向に沿って延びている。プロペラ5は、回転中心軸線βがダクト4の中心軸線に一致するように、ダクト4の内側に配置されている。
【0060】
プロペラ5は、リム部50と、羽根部51とを含んでいる。リム部50は、ダクト4よりも一回り小さい円筒状に形成されている。リム部50は、ダクト4の円環状の内周面に沿って配置されている。羽根部51は、リム部50の内側に配置されている。羽根部51は、回転中心軸線βから放射状に延びるように複数設けられている。
【0061】
(電気モータの構成)
電気モータ6は、同期モータである。電気モータ6は、ステータ60と、ロータ61とを備えている。
【0062】
ステータ60は、ダクト4に一体的に設けられている。詳細には、ステータ60は、ダクト4を構成する樹脂により被覆された複数のステータコイルなどを含んでいる。ロータ61は、ステータ60の内側に配置されるインナーロータである。ロータ61は、プロペラ5のリム部50に一体的に設けられている。詳細には、ロータ61は、リム部50を構成する樹脂により被覆された複数の永久磁石などを含んでいる。電気モータ6は、ステータ60に通電されることにより、ロータ61(プロペラ5)を回転させるための回転磁界を発生させて、プロペラ5を回転するように構成されている。
【0063】
(信号線の構成)
信号線7は、筒状のステアリング軸23内を通されている。すなわち、信号線7は、2つの電力線8に沿ってカウル10b内からロワーケース11内に延びている。信号線7は、互いに捩られた状態で配置される2つの電力線8に対して捩られてはいない。信号線7は、ロワーケース11内でモータ制御部3に接続されている。信号線7は、モータ制御部3に電気モータ6を駆動制御するための制御信号を伝達するように構成されている。信号線7は、複数の細線の束により形成されている。一例ではあるが、信号線7は、16本の細線の束により構成されている。なお、図面では、信号線7を簡略化して1本の線として示している。
【0064】
信号線7は、2つの電力線8を構成するプラス線8aおよびマイナス線8bの各線よりも細い線である。一例ではあるが、信号線7の断面積は、プラス線8aおよびマイナス線8bの各断面積の約4分の1である。この場合、信号線7の直径は、プラス線8aおよびマイナス線8bの各直径の6分の1以下となる。要するに、信号線7は、2つの電力線8(プラス線8a、マイナス線8b)と比較して、捩りに起因する負荷に対して強い。一例ではあるが、信号線7を構成する1本の細線の断面積は、プラス線8aおよびマイナス線8bの各断面積の15分の1以上100分の1以下である。
【0065】
(上側拘束部材の構成)
上側拘束部材9aは、アッパーケース10(カウル10b)内に配置されている。上側拘束部材9aは、アッパーケース10内の2つの電力線8の捩られた部分の上端部81aを束ねて拘束するように構成されている。
【0066】
上側拘束部材9aは、カウル10b内のターミナルケースTの外面Tcに固定されている。一例ではあるが、上側拘束部材9aは、ネジなどの固定部材によりターミナルケースTの外面Tcに固定されている。
【0067】
上側拘束部材9aは、拘束する2つの電力線8を傷つけることがないように弾性変形可能な材料により形成されている。一例ではあるが、上側拘束部材9aは、ゴム製のグロメットにより形成されている。上側拘束部材9aを形成するゴム製のグロメットは、ステアリング機構2による回動時において、2つの電力線8の捩りを弾性変形することによって吸収するように構成されている。また、上側拘束部材9aは、2つの電力線8に加えて、2つの電力線8に信号線7を束ねて拘束するように構成されている。
【0068】
(下側拘束部材の構成)
下側拘束部材9bは、ロワーケース11内に配置されている。下側拘束部材9bは、モータ制御部3の上端3aとモータ制御部3の下端3bとの間の高さ位置に配置されている。下側拘束部材9bは、ロワーケース11内の2つの電力線8の捩られた部分の下端部81bを束ねて拘束するように構成されている。
【0069】
下側拘束部材9bは、ロワーケース11内において、ロワーケース11の内面11aに固定されている。一例ではあるが、下側拘束部材9bは、ネジなどの固定部材によりロワーケース11の内面11aに固定されている。
【0070】
下側拘束部材9bは、拘束する2つの電力線8を傷つけることがないように弾性変形可能な材料により形成されている。一例ではあるが、下側拘束部材9bは、ゴム製のグロメットにより形成されている。下側拘束部材9bを形成するゴム製のグロメットは、ステアリング機構2による回動時において、2つの電力線8の捩りを弾性変形することによって吸収するように構成されている。また、下側拘束部材9bは、2つの電力線8に加えて、2つの電力線8に信号線7を束ねて拘束するように構成されている。
【0071】
(プラス線およびマイナス線からなる2つの電力線の構成)
図2に示すように、2つの電力線8は、プロペラ5の推力の向きが船体101の前後方向と平行になる中立状態において、ステアリング機構2による回動時に、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有した状態で保持されている。中立状態とは、ステアリング機構2によりプロペラ5が左方および右方のいずれにも回動していない状態である。
【0072】
2つの電力線8は、ステアリング機構2による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で筒状のステアリング軸23内を通されている。2つの電力線8の捩られた部分は、筒状のステアリング軸23の軸中心αに沿って上下方向に直線状に延びている。
【0073】
2つの電力線8は、軸中心αに沿って下方に向かうにつれて、プラス線8aおよびマイナス線8bの各々の軸中心α周りの位相が反時計回り方向側に移るような捩り方向によって、互いに捩られている。なお、2つの電力線8の捩り方向は、上記とは逆方向であってもよい。
【0074】
2つの電力線8の捩られた部分の上端部81aは、アッパーケース内に配置され、アッパーケース内で上側拘束部材9aにより束ねられて拘束されている。2つの電力線8は、上側拘束部材9aよりも上方側では、互いに捩られてはいない。
【0075】
また、2つの電力線8の捩られた部分の下端部81bは、ロワーケース11内に配置され、ロワーケース11内で下側拘束部材9bにより束ねられて拘束されている。2つの電力線8は、下側拘束部材9bよりも下方側では、互いに捩られてはいない。2つの電力線8は、下側拘束部材9bよりも下方側において、モータ制御部3に向けて横方向に湾曲しながら延びている。
【0076】
ここで、ステアリング機構2による回動時における2つの電力線8の動きについて説明する。
【0077】
まず、ステアリング機構2によりプロペラ5などが左回りに回動する場合について説明する。すなわち、2つの電力線8の捩り量が増加する場合について説明する。2つの電力線8は、ステアリング機構2により中立状態からケース1(ロワーケース11)が左右方向の一方に回動した場合に、互いに捩られた状態の2つの電力線8の延びる方向から視て、2つの電力線8の延びる方向に直交する方向に絞られながら捩り量が増加するように構成されている。その結果、2つの電力線8の水平方向において、2つの電力線8は、幅Wから、幅Wよりも小さな幅W1に変化する(W1<W)。なお、ステアリング機構2による回動時に、2つの電力線8が延びる方向(Z方向)において、2つの電力線8の幅の変化は、2つの電力線8の捩られた部分の略全域で生じる。
【0078】
次に、ステアリング機構2によりプロペラ5などが右回りに回動する場合について説明する。すなわち、2つの電力線8の捩り量が減少する場合について説明する。2つの電力線8は、ステアリング機構2により中立状態からケース1(ロワーケース11)が左右方向の他方に回動した場合に、互いに捩られた状態の2つの電力線8の延びる方向から視て、2つの電力線8の延びる方向に直交する方向に膨らみながら捩り量が減少するように構成されている。その結果、2つの電力線8の水平方向において、2つの電力線8は、幅Wから幅Wよりも大きな幅W2に変化する(W<W2)。上記のように、2つの電力線8が膨らむことによって、2つの電力線8に加わる捩りの運動の一部が、曲げの運動に変換される。このため、2つの電力線を捩らせることなくストレートに配置した場合と比較して、2つの電力線8が単位長さ当たりに捩られる量を減らすことができる。なお、ステアリング機構2による回動時に、2つの電力線8が延びる方向(Z方向)において、2つの電力線8の幅の変化は、2つの電力線8の捩られた部分の略全域で生じる。
【0079】
(本実施形態の効果)
本実施形態では、以下のような効果を得ることができる。
【0080】
本実施形態では、上記のように、モータ制御部3に駆動電力を供給するプラス線8aおよびマイナス線8bからなる2つの電力線8を設け、2つの電力線8を、少なくともケース1内において、ステアリング機構2による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で配置する。これによって、ステアリング機構2による左右方向へのプロペラ5の回動時において、少なくとも、左右方向の一方に回動させる場合には2つの電力線8の捩り量を減少させることができるので、2つの電力線8に負荷が掛るのを抑制することができる。したがって、従来のような左右方向のいずれに回動した場合でも電力線の捩り量が増加する(負荷が増加する)構成と比較して、ステアリング機構2による左右方向へのプロペラ5の回動時において、モータ制御部3に接続される電力線8に掛かる負荷を軽減することができる。
【0081】
本実施形態では、上記のように、2つの電力線8は、プロペラ5の推力の向きが船体101の前後方向と平行になる中立状態において、ステアリング機構2による回動時に、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有した状態で保持されている。これによって、ステアリング機構2により2つの電力線8の捩りが絞まる方向(捩り量が増加する方向)に回動した場合、捩り量をさらに増加させることが可能な余裕を有しているので、ステアリング機構2による回動時において、モータ制御部3に接続される電力線8に掛かる負荷を軽減することができる。
【0082】
本実施形態では、上記のように、2つの電力線8は、ステアリング機構2により中立状態からケース1が左右方向の一方に回動した場合に、互いに捩られた状態の2つの電力線8の延びる方向から視て、2つの電力線8の延びる方向に直交する方向に絞られながら捩り量が増加し、ステアリング機構2により中立状態からケース1が左右方向の他方に回動した場合に、互いに捩られた状態の2つの電力線8の延びる方向から視て、2つの電力線8の延びる方向に直交する方向に膨らみながら捩り量が減少するように構成されている。これによって、2つの電力線8の延びる方向に直交する方向において、2つの電力線8を膨らませることによって、2つの電力線8に作用する捩り力を軽減することができる。その結果、ステアリング機構2による回動時において、モータ制御部3に接続される電力線8に掛かる負荷をより一層軽減することができる。
【0083】
本実施形態では、上記のように、ステアリング機構2は、筒状のステアリング軸23を含み、2つの電力線8は、ステアリング機構2による回動時の捩りを吸収可能なように互いに捩られた状態で筒状のステアリング軸23内を通されている。これによって、2つの電力線8が筒状のステアリング軸23内を通されるので、ステアリング機構2による回動時において、2つの電力線8の一部のみが大きく変形するなど、ステアリング軸23に沿った形状とは異なる形状になるような変形が2つの電力線8に生じることを抑制することができる。
【0084】
本実施形態では、上記のように、筒状のステアリング軸23は上下方向に延びており、2つの電力線8の捩られた部分は、筒状のステアリング軸23の軸中心αに沿って上下方向に直線状に延びている。これによって、筒状のステアリング軸23の軸中心αに沿って上下方向に直線状に2つの電力線8を配置することができるので、2つの電力線8が屈曲部や湾曲部を有する場合と比較して、ステアリング機構2による回動時において、モータ制御部3に接続される電力線8に掛かる負荷をより軽減することができる。
【0085】
本実施形態では、上記のように、ケース1は、アッパーケース10と、アッパーケース10の下方に配置され、モータ制御部3が収容されるロワーケース11とを含み、ステアリング機構2は、アッパーケース10に対して、プロペラ5、電気モータ6およびロワーケース11を一体的に左右方向に回動させるように構成され、2つの電力線8の捩られた部分の上端部81aは、アッパーケース10内に配置され、2つの電力線8の捩られた部分の下端部81bは、ロワーケース11内に配置されている。これによって、2つの電力線8が、回動しないアッパーケース10から回動するロワーケース11に跨って配置される場合にも、ステアリング機構2による回動時において、モータ制御部3に接続される電力線8に掛かる負荷を軽減することができる。
【0086】
本実施形態では、上記のように、アッパーケース10内の2つの電力線8の捩られた部分の上端部81aを束ねて拘束する上側拘束部材9aと、ロワーケース11内の2つの電力線8の捩られた部分の下端部81bを束ねて拘束する下側拘束部材9bと、をさらに備える。これによって、上側拘束部材9aと下側拘束部材9bとの間において、2つの電力線8の捩り量を適切な捩り量に保持することができる。
【0087】
本実施形態では、上記のように、下側拘束部材9bは、ロワーケース11の内面11aに固定されている。これによって、下側拘束部材9bにより、ロワーケース11の内面11aの位置まで、2つの電力線8の捩られた部分の下端部81bの捩り量を適切な捩り量に保持することができる。
【0088】
本実施形態では、上記のように、アッパーケース10は、ステアリング機構2が内部に配置される操舵ボックス10cと、操舵ボックス10cの上方に設けられるカウル10bとを含み、カウル10b内に配置され、一端80aがモータ制御部3に接続された2つの電力線8の他端80bが接続されるターミナルケースTをさらに備え、上側拘束部材9aは、ターミナルケースTに固定されている。これによって、上側拘束部材9aにより、ターミナルケースTの位置まで、2つの電力線8の捩られた部分の上端部81aの捩り量を適切な捩り量に保持することができる。
【0089】
本実施形態では、上記のように、上側拘束部材9aおよび下側拘束部材9bは、ともに弾性変形可能な材料により形成されている。これによって、上側拘束部材9aおよび下側拘束部材9bを弾性変形させることができるので、上側拘束部材9aおよび下側拘束部材9bにより2つの電力線8が傷つくことを回避することができる。
【0090】
本実施形態では、上記のように、下側拘束部材9bは、モータ制御部3の上端3aとモータ制御部3の下端3bとの間の高さ位置に配置され、2つの電力線8は、下側拘束部材9bよりも下方側において、モータ制御部3に向けて横方向に湾曲しながら延びている。これによって、下側拘束部材9bよりも下方側において、2つの電力をモータ制御部3の比較的近くに配置して、2つの電力線8をモータ制御部3に容易に接続することができる。
【0091】
本実施形態では、上記のように、モータ制御部3に接続され、モータ制御部3に制御信号を伝達するように構成され、電力線8よりも細い信号線7をさらに備え、信号線7は、互いに捩られた状態で配置される2つの電力線8に捩られることなく、2つの電力線8に沿って配置され、上側拘束部材9aおよび下側拘束部材9bは、2つの電力線8に加えて、2つの電力線8に信号線7を束ねて拘束するように構成されている。これによって、上側拘束部材9aと下側拘束部材9bとの間において、信号線7を2つの電力線8に沿って配置することができる。その結果、上側拘束部材9aと下側拘束部材9bとの間において、信号線7が捩れにより部分的に変形して、信号線7が2つの電力線8の捩れの拡大縮小を阻害することを抑制することができる。
【0092】
本実施形態では、上記のように、ケース1の下部に取り付けられ、プロペラ5が内側に配置される筒状のダクトをさらに備え、電気モータ6は、ダクトに設けられるステータ60と、プロペラ5に設けられるロータ61とを含む。これによって、電気モータ6がダクトおよびプロペラ5に設けられたダクト駆動方式の船舶推進機102において、ステアリング機構2による回動時において、モータ制御部3に接続される電力線8に掛かる負荷を軽減することができる。
【0093】
(変形例)
今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、さらに特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更(変形例)が含まれる。
【0094】
たとえば、上記実施形態では、船舶推進機を、船外機として構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船舶推進機を、船内機や船内外機として構成してもよい。
【0095】
また、上記実施形態では、船舶推進機を、ステアリング機構により推進機本体の一部(ロワーケース、ダクト)のみが左右方向に回動するように構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船舶推進機を、ステアリング機構により推進機本体の全体(ロワーケース、ダクト、アッパーケースなどを含む)が左右方向に回動するように構成してもよい。この場合、アッパーケース内にモータ制御部が収容されてもよい。
【0096】
また、上記実施形態では、上側拘束部材および下側拘束部材を、グロメットにより構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上側拘束部材および下側拘束部材を、インシュロックなどの他の拘束部材により構成してもよい。
【0097】
また、上記実施形態では、上側拘束部材および下側拘束部材により、2つの電力線に加えて、信号線も拘束した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、上側拘束部材および下側拘束部材により、2つの電力線のみを拘束してもよい。
【0098】
また、上記実施形態では、2つの電力線の他端をターミナルケースに接続した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、2つの電力線の他端をターミナルケースを介することなく、船体内に導入してもよい。
【0099】
また、上記実施形態では、船舶推進機が、上側拘束部材および下側拘束部材を備える例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、船舶推進機が、上側拘束部材および下側拘束部材の一方、または、上側拘束部材および下側拘束部材の両方を備えていなくてもよい。
【符号の説明】
【0100】
1 ケース
2 ステアリング機構
3 モータ制御部
3a (モータ制御部の)上端
3b (モータ制御部の)下端
5 プロペラ
6 電気モータ
7 信号線
8 電力線
8a プラス線
8b マイナス線
9a 上側拘束部材
9b 下側拘束部材
10 アッパーケース
10b カウル
10c 操舵ボックス
11 ロワーケース
11a (ロワーケースの)内面
23 ステアリング軸
60 (電気モータの)ステータ
61 (電気モータの)ロータ
80a (2つの電力線の)一端
80b (2つの電力線の)他端
81a (2つの電力線の捩られた部分の)上端部
81b (2つの電力線の捩られた部分の)下端部
100 船舶
101 船体
102 船舶推進機
T ターミナルケース
α (ステアリング軸の)軸中心
図1
図2