(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010008
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】キメラ神経毒
(51)【国際特許分類】
C12N 15/62 20060101AFI20240116BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240116BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240116BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240116BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240116BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240116BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240116BHJP
C07K 14/33 20060101ALI20240116BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20240116BHJP
A61K 38/16 20060101ALI20240116BHJP
A61P 25/00 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C07K19/00
C07K14/33
C12P21/00 Z
A61K38/16
A61P25/00
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023179513
(22)【出願日】2023-10-18
(62)【分割の表示】P 2022073033の分割
【原出願日】2017-05-05
(31)【優先権主張番号】1607901.4
(32)【優先日】2016-05-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
(71)【出願人】
【識別番号】517340507
【氏名又は名称】イプセン バイオファーム リミテッド
【氏名又は名称原語表記】IPSEN BIOPHARM LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110000774
【氏名又は名称】弁理士法人 もえぎ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュウ,サイ マン
(57)【要約】 (修正有)
【課題】特性が増強されたキメラ神経毒及び療法におけるその使用を提供する。
【解決手段】第2の神経毒由来のHCドメインに融合した第1の神経毒由来のLHNドメインを含むキメラ神経毒を提供する。ここで、(a)LHNドメインのC末端は、第1の神経毒のLHNドメインのC末端に位置するα-ヘリックスのC末端に対応し;(b)HCドメインのN末端は、第2の神経毒のLHNドメインのC末端に位置するα-ヘリックスのC末端アミノ酸残基のすぐC末端に対応し;かつ(c)第1及び第2の神経毒は異なっており、かつ、(i)第1及び第2の神経毒が、ボツリヌス神経毒(BoNT)の血清型A、B、C、D、E、FもしくはG又はテタヌス神経毒であり、但し、第1の神経毒がBoNT血清型Aである場合、第2の神経毒はBoNT血清型Bではなく、かつ、第1の神経毒がBoNT血清型Bである場合、前記第2の神経毒はBoNT血清型Cではない。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2の神経毒に由来するHCドメインに共有結合性に連結された第1の神経毒に由来するLHNドメインを含むキメラ神経毒: ここで、
(a)前記LHNドメインのC末端アミノ酸残基は、前記第1の神経毒においてLHNドメインのC末端に位置するα-ヘリックスのC末端アミノ酸残基に対応し;
(b)前記HCドメインのN末端アミノ酸残基は、前記第2の神経毒においてLHNドメインのC末端に位置するα-ヘリックスのC末端アミノ酸残基のすぐC末端側のアミノ酸残基に対応し; かつ
(c)前記第1および第2の神経毒は異なっており、かつ、(i)前記第1の神経毒が、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型B、血清型C、血清型D、血清型E、血清型Fもしくは血清型Gまたはテタヌス神経毒(TeNT)であり、かつ、(ii)前記第2の神経毒が、BoNT血清型A、血清型B、血清型C、血清型D、血清型E、血清型Fもしくは血清型GまたはTeNTである;
但し、
前記第1の神経毒がBoNT血清型Aである場合、前記第2の神経毒はBoNT血清型Bではなく、かつ、
前記第1の神経毒がBoNT血清型Bである場合、前記第2の神経毒はBoNT血清型Cではない。
【請求項2】
前記のBoNT/B神経毒に由来するHCドメインが、天然BoNT/B配列と比較して、ヒトSyt II受容体に対するBoNT/B神経毒の結合親和性を増大する効果を有する、HCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失を含む、請求項1に記載のキメラ神経毒。
【請求項3】
前記のHCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失が:
i) V1118M、Y1183M、E1191M、E1191I、E1191Q、E1191T、S1199Y、S1199F、S1199L、S1201V、E1191C、E1191V、E1191L、E1191Y、S1199W、S1199E、S1199H、W1178Y、W1178Q、W1178A、W1178S、Y1183C、Y1183Pおよびそれらの組合せからなる群から選択される置換突然変異; 又は
ii) E1191MおよびS1199L、E1191MおよびS1199Y、E1191MおよびS1199F、E1191QおよびS1199L、E1191QおよびS1199Y、E1191QおよびS1199F、E1191MおよびS1199W、E1191MおよびW1178Q、E1191CおよびS1199W、E1191CおよびS1199Y、E1191CおよびW1178Q、E1191QおよびS1199W、E1191VおよびS1199W、E1191VおよびS1199YまたはE1191VおよびW1178Qからなる群から選択される2つの置換突然変異、ここで、随意により、前記2つの置換突然変異は、E1191MおよびS1199Yである; 又は
iii) E1191M、S1199WおよびW1178Qである3つの置換突然変異;
を含む、請求項2に記載のキメラ神経毒。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか一項に記載のキメラ神経毒をコードするヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項6】
請求項4に記載のポリヌクレオチドまたは請求項5に記載のベクターを含む細胞。
【請求項7】
請求項1から3のいずれか一項に記載のキメラ神経毒を含む医薬組成物。
【請求項8】
前記組成物の、それを必要とする対象への治療的または美容的投与のための、請求項7に記載の医薬組成物および説明書を含むキット。
【請求項9】
請求項1から3のいずれか一項に記載のキメラ神経毒を製造する方法であって、請求項6に記載の細胞を、前記キメラ神経毒が産生される条件下で培養するステップを含む、方法。
【請求項10】
望まれないニューロン活性と関連する状態、痙攣性発声障害、痙性斜頚、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害、舌ジストニア、頸部ジストニア、手掌ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼障害、脳性麻痺、限局性痙縮、発声障害、痙攣性大腸炎、過敏性膀胱、アニスムス、四肢痙縮、チック、振戦、ブラキシズム、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害、筋緊張障害、筋肉群の不随意運動を特徴とする障害、流涙、発汗過多、過剰流涎、過剰胃腸分泌、分泌性障害、筋痙攣に由来する疼痛、頭痛疼痛、片頭痛および皮膚科状態からなる群から選択される状態の治療において使用するための、請求項1から3のいずれか一項に記載のキメラ神経毒。
【請求項11】
療法において使用するための、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項12】
望まれないニューロン活性と関連する状態、痙攣性発声障害、痙性斜頚、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害、舌ジストニア、頸部ジストニア、手掌ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼障害、脳性麻痺、限局性痙縮、発声障害、痙攣性大腸炎、過敏性膀胱、アニスムス、四肢痙縮、チック、振戦、ブラキシズム、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害、筋緊張障害、筋肉群の不随意運動を特徴とする障害、流涙、発汗過多、過剰流涎、過剰胃腸分泌、分泌性障害、筋痙攣に由来する疼痛、頭痛疼痛、片頭痛および皮膚科状態からなる群から選択される状態の治療において使用するための、請求項11に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特性が増強されたキメラ神経毒および療法におけるその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
クロストリジウム(Clostridia)属の細菌は、高度に強力な特異的なタンパク質毒素を産生し、これは、送達される神経およびその他の細胞を毒することができる。このようなクロストリジウム毒素の例として、C.テタニ(tetani)(TeNT)によって、およびC.ボツリヌス(botulinum)(BoNT)血清型A~Gによって産生される神経毒ならびにC.バラティ(baratii)およびC.ブチリカム(butyricum)によって産生されるものが挙げられる。
【0003】
クロストリジウム神経毒のうちいくつかは、公知の毒素の中で最も強力な毒素である。例として、ボツリヌス神経毒は、血清型に応じて0.5~5ng/kgの範囲のマウスの半致死量(LD50)値を有する。テタヌスおよびボツリヌス毒素の両方とも、冒されたニューロンの機能、具体的には、神経伝達物質の放出を阻害することによって作用する。ボツリヌス毒素は、神経筋接合部で作用し、末梢神経系においてコリン作動性伝達を阻害するが、破傷風菌毒素は、中枢神経系において作用する。
【0004】
天然では、クロストリジウム神経毒は、一本鎖ポリペプチドとして合成され、これがタンパク質分解による切断事象によって翻訳後修飾されて、ジスルフィド結合によって一緒につなげられた2つのポリペプチド鎖を形成する。切断は、鎖間ジスルフィド結合を提供するシステイン残基間に位置する、活性化部位と呼ばれることが多い特定の切断部位で起こる。毒素の活性形態は、この二本鎖形態である。2つの鎖は、およそ100kDaの分子量を有する重鎖(H鎖)およびおよそ50kDaの分子量を有する軽鎖(L鎖)と呼ばれる。H鎖は、N末端転位置構成成分(HNドメイン)およびC末端標的化構成成分(HCドメイン)を含む。切断部位は、L鎖および転位置ドメイン構成成分の間に位置する。HCドメインのその標的ニューロンとの結合およびエンドソームによる結合された毒素の細胞への内部移行後、HNドメインは、L鎖をエンドソーム膜を越えてサイトゾル中に転位置し、L鎖は、プロテアーゼ機能を提供する(非細胞傷害性プロテアーゼとしても知られる)。
【0005】
非細胞傷害性プロテアーゼは、SNAREタンパク質として知られる細胞内輸送タンパク質(例えば、SNAP-25、VAMPまたはシンタキシン)をタンパク質分解的に切断することによって作用する-Gerald K (2002) "Cell and Molecular Biology” (4th edition) John Wiley & Sons, Incを参照のこと。頭字語SNAREは、可溶性NSF付着受容体(Soluble NSF Attachment Receptor)に由来し、ここで、NSFは、N-エチルマレイミド感受性因子(N-ethylmaleimide-Sensitive Factor)を意味する。SNAREタンパク質は、細胞内小胞融合に、従って、小胞輸送による細胞からの分子の分泌に不可欠である。プロテアーゼ機能は、亜鉛依存性エンドペプチダーゼ活性であり、SNAREタンパク質に対して高い基質特異性を示す。したがって、ひとたび所望の標的細胞に送達されると、非細胞傷害性プロテアーゼは、標的細胞からの細胞性分泌を阻害可能である。クロストリジウム神経毒のL鎖プロテアーゼは、SNAREタンパク質を切断する非細胞傷害性プロテアーゼである。
【0006】
SNAREタンパク質の遍在性を考慮して、ボツリヌス毒素などのクロストリジウム神経毒は、広範な療法において成功裏に使用されてきた。
【0007】
例として、本発明者らは、いくつかの治療的および美容的または審美的適用においてニューロンの伝達を阻害するための、ボツリヌス神経毒(BoNT)、BoNT/A、BoNT/B、BoNT/C1、BoNT/D、BoNT/E、BoNT/FおよびBoNT/Gならびにテタヌス神経毒(TeNT)などのクロストリジウム神経毒の使用を説明する、William J. Lipham, Cosmetic and Clinical Applications of Botulinum Toxin (Slack, Inc., 2004)に言及する-例えば、市販のボツリヌス毒素製品は、現在、限局性痙縮、上肢痙縮、下肢痙縮、頸部ジストニア、眼瞼痙攣、片側顔面痙攣、腋窩の発汗過多、慢性片頭痛、神経因性排尿筋活動過剰、眉間の皴および重度の外眼角の皴を含む適応症の治療薬として承認されている。さらに、クロストリジウム神経毒療法は、神経筋障害を治療するために(US6,872,397を参照のこと)、子宮障害を治療するために(US2004/0175399を参照のこと)、潰瘍および胃食道逆流症を治療するために(US2004/0086531を参照のこと)、ジストニアを治療するために(US6,319,505を参照のこと)、眼の障害を治療するために(US2004/0234532を参照のこと)、眼瞼痙攣を治療するために(US2004/0151740を参照のこと)、斜視を治療するために(US2004/0126396を参照のこと)、疼痛を治療するために(US6,869,610、US6,641,820、US6,464,986およびUS6,113,915を参照のこと)、線維筋痛症を治療するために(US6,623,742、US2004/0062776を参照のこと)、腰痛を治療するために(US2004/0037852を参照のこと)、筋傷害を治療するために(US6,423,319を参照のこと)、副鼻腔炎性頭痛を治療するために(US6,838,434を参照のこと)、緊張性頭痛を治療するために(US6,776,992を参照のこと)、頭痛を治療するために(US6,458,365を参照のこと)、片頭痛疼痛の低減のために(US5,714,469を参照のこと)、心血管疾患を治療するために(US6,767,544を参照のこと)、パーキンソン病などの神経疾患を治療するために(US6,620,415、US6,306,403を参照のこと)、精神神経疾患を治療するために(US2004/0180061、US2003/0211121を参照のこと)、内分泌障害を治療するために(US6,827,931を参照のこと)、甲状腺障害を治療するために(US6,740,321を参照のこと)、コリン作動性影響下汗腺障害(cholinergic influenced sweat gland disorders)を治療するために(US6,683,049を参照のこと)、糖尿病を治療するために(US6,337,075、US6,416,765を参照のこと)、膵臓障害を治療するために(US6,261,572、US6,143,306を参照のこと)、骨腫瘍などの癌を治療するために(US6,565,870、US6,368,605、US6,139,845、US2005/0031648を参照のこと)、耳の障害を治療するために(US6,358,926、US6,265,379を参照のこと)、胃腸筋肉障害およびその他の平滑筋機能不全などの自律神経性障害を治療するために(US5,437,291を参照のこと)、皮膚細胞増殖性障害と関連する皮膚病変を治療するために(US5,670,484を参照のこと)、神経性炎症性障害の管理のために(US6,063,768を参照のこと)、脱毛を減少させ、発毛を刺激するために(US6,299,893を参照のこと)、下向きに曲がった口を治療するために(US6,358,917を参照のこと)、食欲を低減するために(US2004/40253274を参照のこと)、歯科治療および処置のために(US2004/0115139を参照のこと)、神経筋障害および状態を治療するために(US2002/0010138を参照のこと)、種々の障害および状態および関連する疼痛を治療するために(US2004/0013692を参照のこと)、喘息およびCOPDなどの粘液分泌過多に起因する状態を治療するために(WO00/10598を参照のこと)ならびに炎症、内分泌状態、外分泌状態、免疫学的状態、心血管の状態、骨の状態などの非神経性状態を治療するために(WO01/21213を参照のこと)記載されている。上記の刊行物のすべては、参照によりその全文が本明細書に組み込まれる。
【0008】
ヒトおよびその他の哺乳動物の治療的および美容的処置における、クロストリジウム神経毒(例えば、BoNTおよびTeNT)などの非細胞傷害性プロテアーゼの使用は、これらの毒素の特性から利益を受け得る疾患および病気の絶えず広がる範囲を拡大すると予測される。
【0009】
BoNTを含む現在承認されているすべての薬物/美容用調製物は、クロストリジウム株から精製された天然に存在する神経毒を含有している(DYSPORT(登録商標)、BOTOX(登録商標)またはXEOMIN(登録商標)の場合にはBoNT/AおよびMYOBLOC(登録商標)の場合にはBoNT/B)。
【0010】
組換え技術は、その配列及び/又は構造への修飾の導入によって神経毒の特性を変更するまたは最適化する可能性を提供する。特に、HCドメインまたはHCCサブドメインが、異なる神経毒に由来するHCドメインまたはHCCサブドメインによって置換されているキメラ神経毒が製造されている。
【0011】
「Rummel et al, 2011 (Exchange of the HCC domain mediating double receptor recognition improves the pharmacodynamic properties of botulinum neurotoxin. FEBS Journal, 278(23), 4506-4515)」では、AABB、AACCおよびBBAAキメラ(文字は、4種のドメインであるL、HN、HCN、HCCの各々の血清型起源を表す)を含む種々の活性全長ハイブリッド神経毒を作製した。AABBキメラは、マウス横隔神経片側横隔膜アッセイにおいてBoNT/Aよりも強力であるとわかり、一方で、AACCは、BoNT/Aの効力の10%しか保持しなかった。BBAAキメラは、BoNT/Aの効力の85%を保持しており、BoNT/Bと同等であった。
【0012】
「Wang et al, 2008 (Novel chimeras of botulinum neurotoxins A and E unveil contributions from the binding, translocation, and protease domains to their functional characteristics. Journal of Biological Chemistry, 283(25), 16993-17002)」では、AE(BoNT/A由来のLHNおよびBoNT/E 由来のHC)およびEA(BoNT/E由来のLHNおよびBoNT/A由来のHC)キメラ神経毒を作製し、AEキメラの場合には、可動性を増大するためにLHNとHCドメインの間にリンカーを加えた。両方とも、マウス横隔神経片側横隔膜アッセイならびにin vivoにおいて麻痺を引き起こすことができた。
【0013】
「Wang et al., 2012a (Longer-acting and highly potent chimaeric inhibitors of excessive exocytosis created with domains from botulinum neurotoxin A and B. Biochemical Journal, 444(1), 59-67)」では、AB(BoNT/A由来のLHNおよびBoNT/B由来のHC、フォールディングを改善するためにリンカーを有する)およびBA(BoNT/B由来のLHNおよびBoNT/A由来のHC)キメラ神経毒を作製した。ABキメラは、マウスにおいてBoNT/Aよりも長い神経筋麻痺を誘導した。BAキメラは、非神経性細胞からの開口分泌を低減できた。
【0014】
「Wang et al, 2012b (Novel chimeras of botulinum and tetanus neurotoxins yield insights into their distinct sites of neuroparalysis. The FASEB Journal, 26(12), 5035-5048)」では、ATx(BoNT/A由来のLH
NおよびTeNT由来のH
C)、TxA(TeNT由来のLH
NおよびBoNT/A由来のH
C)、ETx(BoNT/E由来のLH
NおよびTeNT由来のH
C)およびTxE(TeNT由来のLH
NおよびBoNT/E由来のH
C)キメラを作製した。これらの先行技術キメラ神経毒のタンパク質配列に関して提供された情報は、以下の表1にまとめられている:
【表1】
【0015】
しかし、改善された治療特性を可能にするキメラ神経毒の最適な設計は、依然として必要である。
【0016】
本発明は、特許請求の範囲に明記されるような、キメラ神経毒を提供することによって上記の問題を解決する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Rummel et al, 2011, Exchange of the HCC domain mediating double receptor recognition improves the pharmacodynamic properties of botulinum neurotoxin. FEBS Journal, 278(23), 4506-4515
【発明の概要】
【0018】
一態様では、本発明は、第2の神経毒に由来するHCドメインに共有結合性に連結された第1の神経毒に由来するLHNドメインを含むキメラ神経毒であって、第1および第2の神経毒が異なっており、LHNドメインのC末端アミノ酸残基が、第1の神経毒においてLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第1のアミノ酸残基に対応し、HCドメインのN末端アミノ酸残基が、第2の神経毒においてLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第2のアミノ酸残基に対応する、キメラ神経毒を提供する。
【0019】
第2の態様では、本発明は、本発明に従うキメラ神経毒をコードするヌクレオチド配列を提供する。
【0020】
第3の態様では、本発明は、本発明に従うヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。
【0021】
第4の態様では、本発明は、本発明に従うヌクレオチド配列またはベクターを含む細胞を提供する。
【0022】
第5の態様では、本発明は、本発明に従うキメラ神経毒を含む医薬組成物を提供する。
【0023】
第6の態様では、本発明は、療法において使用するための本発明に従うキメラ神経毒を提供する。
【0024】
第7の態様では、本発明は、審美的または美容的状態を処置するための本発明に従うキメラ神経毒の非治療的使用を提供する。
[項目1]
第2の神経毒に由来するHCドメインに共有結合性に連結された第1の神経毒に由来するLHNドメインを含むキメラ神経毒であって、
ここで、前記第1および第2の神経毒は異なっており、
前記LHNドメインのC末端アミノ酸残基は、前記第1の神経毒においてLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第1のアミノ酸残基に対応し、
前記HCドメインのN末端アミノ酸残基は、前記第2の神経毒においてLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第2のアミノ酸残基に対応する、キメラ神経毒。
[項目2]
前記第1の神経毒が、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型B、血清型C、血清型D、血清型E、血清型Fもしくは血清型Gまたはテタヌス神経毒(TeNT)であり、前記第2の神経毒が、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型B、血清型C、血清型D、血清型E、血清型Fもしくは血清型Gまたはテタヌス神経毒(TeNT)である、項目1に記載のキメラ神経毒。
[項目3]
前記の第1の神経毒に由来するLHNドメインが、
-BoNT/A1のアミノ酸残基1~872、
-BoNT/B1のアミノ酸残基1~859、
-BoNT/C1のアミノ酸残基1~867、
-BoNT/Dのアミノ酸残基1~863、
-BoNT/E1のアミノ酸残基1~846、
-BoNT/F1のアミノ酸残基1~865、
-BoNT/Gのアミノ酸残基1~864、または
-TeNTのアミノ酸残基1~880
に対応し、
前記の第2の神経毒に由来するHCドメインが、
-BoNT/A1のアミノ酸残基873~1296、
-BoNT/B1のアミノ酸残基860~1291、
-BoNT/C1のアミノ酸残基868~1291、
-BoNT/Dのアミノ酸残基864~1276、
-BoNT/E1のアミノ酸残基847~1251、
-BoNT/F1のアミノ酸残基866~1275、
-BoNT/Gのアミノ酸残基865~1297、または
-TeNTのアミノ酸残基881~1315
に対応する、項目1または2に記載のキメラ神経毒。
[項目4]
前記第1の神経毒がBoNT/Aであり、前記第2の神経毒がBoNT/Bである、項目1、2または3に記載のキメラ神経毒。
[項目5]
前記第1の神経毒がBoNT/A1であり、前記第2の神経毒がBoNT/B1である、項目4に記載のキメラ神経毒。
[項目6]
前記の第1の神経毒に由来するLHNドメインが、BoNT/A1のアミノ酸残基1~872に対応し、前記の第2の神経毒に由来するHCドメインが、BoNT/B1のアミノ酸残基860~1291に対応する、項目5に記載のキメラ神経毒。
[項目7]
前記のBoNT/B神経毒に由来するHCドメインが、天然BoNT/B配列と比較して、ヒトSyt II受容体に対するBoNT/B神経毒の結合親和性を増大する効果を有する、HCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失を含む、項目4、5または6に記載のキメラ神経毒。
[項目8]
前記のHCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失が、V1118M、Y1183M、E1191M、E1191I、E1191Q、E1191T、S1199Y、S1199F、S1199L、S1201V、E1191C、E1191V、E1191L、E1191Y、S1199W、S1199E、S1199H、W1178Y、W1178Q、W1178A、W1178S、Y1183C、Y1183Pおよびそれらの組合せからなる群から選択される置換突然変異を含む、項目7に記載のキメラ神経毒。
[項目9]
前記のHCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失が、E1191MおよびS1199L、E1191MおよびS1199Y、E1191MおよびS1199F、E1191QおよびS1199L、E1191QおよびS1199Y、E1191QおよびS1199F、E1191MおよびS1199W、E1191MおよびW1178Q、E1191CおよびS1199W、E1191CおよびS1199Y、E1191CおよびW1178Q、E1191QおよびS1199W、E1191VおよびS1199W、E1191VおよびS1199YまたはE1191VおよびW1178Qからなる群から選択される2つの置換突然変異を含む、項目7に記載のキメラ神経毒。
[項目10]
前記の2つの置換突然変異が、E1191MおよびS1199Yである、項目9に記載のキメラ神経毒。
[項目11]
前記のHCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失が、E1191M、S1199WおよびW1178Qである3つの置換突然変異を含む、項目7に記載のキメラ神経毒。
[項目12]
前記第1の神経毒がBoNT/Bであり、前記第2の神経毒がBoNT/Cである、項目1、2または3に記載のキメラ神経毒。
[項目13]
前記第1の神経毒がBoNT/B1であり、前記第2の神経毒がBoNT/C1である、項目12に記載のキメラ神経毒。
[項目14]
前記の第1の神経毒に由来するLHNドメインが、BoNT/B1のアミノ酸残基1~859に対応し、前記の第2の神経毒に由来するHCドメインが、BoNT/C1のアミノ酸残基868~1291に対応する、項目13に記載のキメラ神経毒。
[項目15]
項目1から14のいずれか一項に記載のキメラ神経毒をコードするヌクレオチド配列。
[項目16]
項目15に記載のヌクレオチド配列を含むベクター。
[項目17]
項目15に記載のヌクレオチド配列または項目16に記載のベクターを含む細胞。
[項目18]
項目1から14のいずれか一項に記載のキメラ神経毒を含む医薬組成物。
[項目19]
前記組成物の、それを必要とする対象への治療的または美容的投与のための、項目18に記載の医薬組成物および説明書を含むキット。
[項目20]
項目1から14のいずれか一項に記載のキメラ神経毒を製造する方法であって、項目17に記載の細胞を、前記キメラ神経毒が産生される条件下で培養するステップを含む、方法。
[項目21]
療法において使用するための、項目1から14のいずれか一項に記載のキメラ神経毒または項目18に記載の医薬組成物。
[項目22]
望まれないニューロン活性と関連する状態、例えば、痙攣性発声障害、痙性斜頚、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害、舌ジストニア、頸部ジストニア、手掌ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼障害、脳性麻痺、限局性痙縮およびその他の発声障害、痙攣性大腸炎、過敏性膀胱、アニスムス、四肢痙縮、チック、振戦、ブラキシズム、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害およびその他の筋緊張障害ならびに筋肉群の不随意運動を特徴とするその他の障害、流涙、発汗過多、過剰流涎、過剰胃腸分泌、分泌性障害、筋痙攣に由来する疼痛、頭痛疼痛、片頭痛および皮膚科状態からなる群から選択される状態の治療において使用するための、項目21に記載のキメラ神経毒または医薬組成物。
[項目23]
審美的または美容的状態を処置するための、項目1から14のいずれか一項に記載のキメラ神経毒の、または項目18に記載の医薬組成物の非治療的使用。
【発明を実施するための形態】
【0025】
一態様では、本発明は、第2の神経毒に由来するHCドメインに共有結合性に連結された第1の神経毒に由来するLHNドメインを含むキメラ神経毒であって、第1および第2の神経毒が異なっており、
・LHNドメインのC末端アミノ酸残基が、第1の神経毒においてLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第1のアミノ酸残基に対応し、
・HCドメインのN末端アミノ酸残基が、第2の神経毒においてLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第2のアミノ酸残基に対応する
キメラ神経毒を提供する。
【0026】
本明細書において、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、1以上を意味し得る。
【0027】
用語「神経毒」とは、本明細書において、ニューロンに入り、神経伝達物質放出を阻害する任意のポリペプチドを意味する。このプロセスは、神経毒の低または高親和性受容体との結合、神経毒の内部移行、神経毒のエンドペプチダーゼ部分の細胞質への転位置および神経毒基質の酵素的修飾を包含する。より詳しくは、用語「神経毒」は、ニューロンに入り、神経伝達物質放出を阻害する、クロストリジウム細菌によって産生される任意のポリペプチド(クロストリジウム神経毒)および組換え技術または化学的技術によって製造されたこのようなポリペプチドを包含する。毒素の活性形態は、この二本鎖形態である。2つの鎖は、およそ100kDaの分子量を有する重鎖(H鎖)およびおよそ50kDaの分子量を有する軽鎖(L鎖)と呼ばれる。好ましくは、第1および第2の神経毒は、クロストリジウム神経毒である。
【0028】
BoNT/A神経毒アミノ酸配列の一例は、配列番号1(UniProt受託番号A5HZZ9)として提供されている。BoNT/B神経毒アミノ酸配列の一例は、配列番号2(UniProt受託番号B1INP5)として提供されている。BoNT/C神経毒アミノ酸配列の一例は、配列番号3(UniProt受託番号P18640)として提供されている。BoNT/D神経毒アミノ酸配列の一例は、配列番号4(UniProt受託番号P19321)として提供されている。BoNT/E神経毒アミノ酸配列の一例は、配列番号5(UniProt受託番号Q00496)として提供されている。BoNT/F神経毒アミノ酸配列の一例は、配列番号6(UniProt受託番号Q57236)として提供されている。BoNT/G神経毒アミノ酸配列の一例は、配列番号7(UniProt受託番号Q60393)として提供されている。TeNT神経毒アミノ酸配列の一例は、配列番号8(UniProt受託番号P04958)として提供されている。前記神経毒のアミノ酸配列は、その他の神経毒の配列(すなわち、配列番号58~91)とともに以下の
図1のアラインメントに示されている。
【0029】
用語「キメラ神経毒」とは、本明細書において、第1の神経毒を起源とするLHNドメインおよび第2の神経毒を起源とするHCドメインを含む、またはからなる神経毒を意味する。
【0030】
用語「HCドメイン」とは、本明細書において、神経毒の、標的細胞の表面上に位置する受容体との結合を可能する、およそ50kDaの分子量を有する神経毒重鎖の機能的に別個の領域を意味する。HCドメインは、2つの構造的に別個のサブドメイン、その各々が、およそ25kDaの分子量を有する「HCNサブドメイン」(HCドメインのN末端部分)および「HCCサブドメイン」(HCドメインのC末端部分)からなる。
【0031】
用語「LHNドメイン」とは、本明細書において、HCドメインを欠き、エンドペプチダーゼドメイン(「L」または「軽鎖」)およびエンドペプチダーゼの細胞質への転位置に関与するドメイン(重鎖のHNドメイン)からなる神経毒を意味する。
【0032】
本明細書において、「第1の神経毒においてLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第1のアミノ酸残基」への言及は、LHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスのN末端残基を意味する。
【0033】
本明細書において、「第2の神経毒においてLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第2のアミノ酸残基」への言及は、LHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスのN末端残基に続くアミノ酸残基を意味する。
【0034】
「310ヘリックス」は、α-ヘリックス、β-シートおよび逆向ターンとともに、タンパク質およびポリペプチドにおいて見られる二次構造の一種である。310ヘリックス中のアミノ酸は、全ターンが各々、それらの間の分子内水素結合を分ける3個の残基および10個の原子によって完了される、右巻き(right-handed)ヘリックス構造中に配置される。各アミノ酸は、ヘリックス中の120°ターン(すなわち、ヘリックスは、ターンあたり3個の残基を有する)およびヘリックス軸に沿った2.0Å(=0.2nm)の平行移動に対応し、水素結合を作製することによって形成された環中に10個の原子を有する。最も重要なことに、アミノ酸のN-H基は、3個前のアミノ酸のC=O基と水素結合を形成し、この反復されるi+3→i水素結合形成が、310ヘリックスを規定する。310ヘリックスは、当業者が精通している構造生物学における標準概念である。
【0035】
この310ヘリックスは、実際のヘリックスを形成する4個の残基およびこれら4個の残基の各末端に1個存在する2つのキャップ(または移行)残基に対応する。用語「LHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックス」は、本明細書において、それら6個の残基からなる。
【0036】
構造解析および配列アラインメントを実施することによって、本発明者は、テタヌスおよびボツリヌス神経毒において、LHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスを同定した。この310ヘリックスは、そのN末端で(すなわち、LHNドメインのC末端部分で)α-ヘリックスによって、そのC末端(すなわち、HCドメインのN末端で)でβ鎖によって囲まれている。310ヘリックスの第1の(N末端)残基(キャップまたは移行残基)はまた、このα-ヘリックスのC末端残基に対応する。
【0037】
LHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスは、例えば、ボツリヌス神経毒の公的に入手可能な結晶構造、例えば、それぞれ、ボツリヌス神経毒A1およびB1の3BTA(http://www.rcsb.org/pdb/explore/explore.do?structureId=3BTA)および1EPW(http://www.rcsb.org/pdb/explore/explore.do?structureId=1EPW)から決定することができる。
【0038】
その他の神経毒におけるLHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの位置を決定するために、公的に入手可能であるコンピュータによるモデリングおよびアラインメントツール、例えば、相同性モデリングサーバーLOOPP(Learning, ObservingおよびOutputting Protein Patterns, http://loopp.org)、PHYRE(Protein Homology/analogY Recognition Engine, http://www.sbg.bio.ic.ac.uk/phyre2/)およびRosetta(https://www.rosettacommons.org/)、タンパク質重ね合わせサーバーSuperPose(http://wishart.biology.ualberta.ca/superpose/)、アラインメントプログラムClustal Omega(http://www.clustal.org/omega/)およびInternet Resources for Molecular and Cell Biologists(http://molbiol-tools.ca/)で列挙されているいくつかのその他のツール/サービスも使用できる。本発明者は、特に、「HN/HCN」接合部周囲の領域は、構造的に高度に保存されており、このことが、それを、種々の血清型を重ね合わせるのに理想的な領域にすることを見い出した。
【0039】
例えば、その他の神経毒におけるこの310ヘリックスの配列を調べるために、本発明者によって以下の方法論が使用された:
1.BoNT/A1結晶構造(3BTA.pdb)に基づいて、すべてのBoNT血清型およびTeNTの予測される構造を得るために、構造的相同性モデリングツールLOOP(http://loopp.org)を使用した、
2.このように得られた構造(pdb)ファイルを、HCNドメインのN末端およびその前の約80個の残基(HNドメインの一部である)のみを含み、それによって、構造的に高度に保存されている「HN/HCN」領域を保持するように編集した、
3.3BTA.pdb構造に各血清型を重ね合わせるために、タンパク質重ね合わせサーバーSuperPose(http://wishart.biology.ualberta.ca/superpose/)を使用した、
4.BoNT/A1のHCドメインの開始部分で310ヘリックスを位置付けるために、重ね合わされたpdbファイルを調査し、次いで、その他の血清型における対応する残基を同定した、
5.対応する残基が正しかったか否かを調べるために、すべてのBoNT血清型配列をClustal Omegaを用いてアラインした。
【0040】
この方法によって決定されたLH
N、H
Cおよび3
10ヘリックス(helix)ドメインの例は、表2に示されている。
【表2-1】
【表2-2】
【0041】
構造解析および配列アラインメントを使用して、本発明者は、LHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスに続くβ鎖は、すべてのボツリヌスおよびテタヌス神経毒において保存された構造であり、LHNおよびHCドメインを分ける310ヘリックスの第1の残基から出発した場合に8番目の残基(例えば、BoNT/A1の残基879で)で始まることを見い出した。
【0042】
代替定義に従えば、本発明の第1の態様は、第2の神経毒に由来するHCドメインに共有結合性に連結された第1の神経毒に由来するLHNドメインを含むキメラ神経毒であって、第1および第2の神経毒が異なっており、
・LHNドメインのC末端アミノ酸残基が、第1の神経毒においてHCドメインの始め(N末端)に位置するβ鎖からN末端側に向かって8番目のアミノ酸残基に対応し、
・HCドメインのN末端アミノ酸残基は、第2の神経毒においてHCドメインの始め(N末端)に位置するβ鎖からN末端側に向かって7番目のアミノ酸残基に対応する
キメラ神経毒を提供する。
【0043】
さらに別の定義によれば、本発明の第1の態様は、第2の神経毒に由来するHCドメインに共有結合性に連結された第1の神経毒に由来するLHNドメインを含むキメラ神経毒であって、第1および第2の神経毒が異なっており、
・LHNドメインのC末端アミノ酸残基が、第1の神経毒においてLHNドメインの末端(C末端)に位置するα-ヘリックスのC末端アミノ酸残基に対応し、
・HCドメインのN末端アミノ酸残基が、第2の神経毒においてLHNドメインの末端(C末端)に位置するα-ヘリックスのC末端アミノ酸残基のすぐC末端側のアミノ酸残基に対応する
キメラ神経毒を提供する。
【0044】
本発明に従うキメラ神経毒の設計プロセスの理論的根拠は、二次構造が損なわれず、それによって、三次構造および各ドメインの機能の任意の変化を最小にすることを確実にしようとすることであった。
【0045】
いくつかの先行技術キメラ神経毒では、おそらく、許容される発現および精製を確実にするためにLHNおよびHCドメインの間にリンカーが必要である(表1を参照のこと)。
【0046】
理論に捉われようとは思わないが、天然神経毒の三次構造を密接に模倣する三次構造を有するタンパク質の形態にキメラ神経毒を構造化することは、その溶解性を促進すると仮定される。
【0047】
理論に捉われようとは思わないが、キメラ神経毒中の310ヘリックスの4個の中心アミノ酸残基を破壊しないという事実が、キメラ神経毒の最適コンフォメーションを確実にし、それによって、キメラ神経毒がその機能をその全能力まで発揮することを可能にすることがさらに仮定される。
【0048】
実際、本発明者は、驚くべきことに、第1の神経毒の310ヘリックスの第1のアミノ酸残基および第2の神経毒の310ヘリックスの1つ進んだ第2のアミノ酸残基のみを保持することによって、可溶性および機能性キメラ神経毒の製造を可能にするだけでなく、さらに、その他のキメラ神経毒を上回る改善された特性、特に、増大された効力、増大された安全率及び/又はより長い作用持続期間につながることを見い出した。
【0049】
神経毒の望ましくない効果(投与部位から離れた神経毒の拡散によって引き起こされる)は、関連動物モデルにおける体重減少パーセントを測定することによって実験的に評価できる(例えば、体重減少が投与の7日以内に検出されるマウス)。逆に、神経毒の望ましい的確な効果は、指外転スコア(Digital Abduction Score)(DAS)アッセイ、筋肉麻痺の尺度によって実験的に評価できる。DASアッセイは、ゼラチンリン酸バッファー中で製剤化された20μLの神経毒のマウス腓腹筋/ヒラメ筋複合体への注射と、それに続くAokiの方法(Aoki KR、Toxicon第39巻:1815~1820頁;2001年)を使用する指外転スコアの評価によって実施してもよい。DASアッセイでは、マウスがその後肢を伸ばし、後指を外転する特徴的な驚愕反応を誘発するために、マウスを尾によって短時間吊り下げる。神経毒注射後、変動する指外転度を5段階評価でスコア化する(0=正常~4=指外転および下肢伸長の最大低減)。
【0050】
次いで、神経毒の安全率は、マウスの体重の10%低下(マウスにおいて投薬後最初の7日内のピーク効果で測定される)に必要な神経毒の量と、2のDASスコアに対して必要な神経毒の量の間の比として表され得る。したがって、高い安全率スコアは、望ましいものであり、望ましくないオフターゲットの効果をほとんど伴わずに、標的筋肉を効率的に麻痺させることができる神経毒を示す。
【0051】
高い安全率は、治療係数の増大を表すので、療法において特に有利である。言い換えれば、これは、既知クロストリジウム毒素治療薬と比較して低減された投与量を使用できること及び/又は何らかのさらなる効果を伴わずに増大した投与量を使用できることを意味する。さらなる効果を伴わずに、より高用量の神経毒を使用する可能性は、より高い用量が、通常、神経毒のより長い作用持続期間につながるので特に有利である。
【0052】
神経毒の効力は、マウス腓腹筋/ヒラメ筋複合体に投与された場合に所与のDASスコア、例えば、2のDASスコア(ED50用量)または4のDASスコアにつながる神経毒の最小の用量として表されることもある。神経毒の効力はまた、神経毒によるSNARE切断を測定する細胞アッセイにおけるEC50用量、例えば、キメラBoNT/AB神経毒によるSNAP-25切断を測定する細胞アッセイにおけるEC50用量として表されることもある。
【0053】
神経毒の作用持続期間は、所与の用量の神経毒、例えば、4のDASスコアにつながる神経毒の最小用量の、マウス腓腹筋/ヒラメ筋複合体への投与後に、0のDASスコアを回復するのに必要な時間として表されることもある。
【0054】
一実施形態では、第1の神経毒は、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型B、血清型C、血清型D、血清型E、血清型Fまたは血清型Gまたはテタヌス神経毒(TeNT)であり、第2の神経毒は、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型B、血清型C、血清型D、血清型E、血清型Fまたは血清型Gまたはテタヌス神経毒(TeNT)である。好ましい実施形態では、第1の神経毒は、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型Bまたは血清型Cであり、第2の神経毒は、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型Bまたは血清型Cである。
【0055】
種々のBoNT血清型は、特定の中和抗血清による不活性化に基づいて区別することができ、このような分類は、アミノ酸レベルでの配列同一性パーセンテージと相関する。所与の血清型のBoNTタンパク質は、アミノ酸配列同一性パーセンテージに基づいて異なるサブタイプにさらに分けられる。
【0056】
好ましくは、第1および第2の神経毒は、異なる血清型に由来するボツリヌス神経毒である。別の実施形態では、第1および第2の神経毒のいずれかは、ボツリヌス神経毒であり、もう一方の神経毒は、テタヌス神経毒である。
【0057】
XがLHNドメインであり、YがHCドメインであるものに従う「XY」表示を使用して、以下のキメラ神経毒は、本発明の実施形態である。
AB、AC、AD、AE、AF、AG、ATx、
BA、BC、BD、BE、BF、BG、BTx、
CA、CB、CD、CE、CF、CG、CTx、
DA、DB、DC、DE、DF、DG、DTx、
EA、EB、EC、ED、EF、EG、ETx、
FA、FB、FC、FD、FE、FG、FTx、
GA、GB、GC、GD、GE、GF、FTx、
TxA、TxB、TxC、TxD、TxE、TxF、TxG、
[ここで、A、B、C、D、E、F、GおよびTxは、それぞれ、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型B、血清型C、血清型D、血清型E、血清型F、血清型Gおよびテタヌス神経毒(TeNT)である]。
【0058】
さらに、上記のような同一「XY」表示を使用して、以下のキメラ神経毒は、本発明の好ましい実施形態である。
AB、AC、
BA、BC、
CA、CB、
[ここで、A、B、Cは、それぞれ、ボツリヌス神経毒(BoNT)血清型A、血清型Bおよび血清型Cである]。
【0059】
一実施形態では、第1の神経毒由来のLHNドメインは、
-配列番号1のアミノ酸残基1~872またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号2のアミノ酸残基1~859またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号3のアミノ酸残基1~867またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号4のアミノ酸残基1~863またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号5のアミノ酸残基1~846またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号6のアミノ酸残基1~865またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号7のアミノ酸残基1~864またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号8のアミノ酸残基1~880またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列
に対応し、
第2の神経毒に由来するHCドメインは、
-配列番号1のアミノ酸残基873~1296またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号2のアミノ酸残基860~1291またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号3のアミノ酸残基868~1291またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号4のアミノ酸残基864~1276またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号5のアミノ酸残基847~1251またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号6のアミノ酸残基866~1275またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号7のアミノ酸残基865~1297またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列、
-配列番号8のアミノ酸残基881~1315またはそれに対して少なくとも70%の配列同一性を有するポリペプチド配列
に対応する。
【0060】
2種以上の核酸またはアミノ酸配列間の「配列同一性パーセント」は、アラインされた配列によって共有される同一位置での同一ヌクレオチド/アミノ酸の数の関数である。したがって、同一性%は、アラインされた配列中のヌクレオチド/アミノ酸の総数によって除され、100が乗じられた、アラインメント中の各位置での同一ヌクレオチド/アミノ酸の数として算出され得る。配列同一性%の算出はまた、2種以上の配列のアラインメントを最適化するために導入されることが必要なギャップの数および各ギャップの長さを考慮することもある。2種以上の配列間の配列比較および同一性パーセントの決定は、特定の数学アルゴリズム、特に、当業者が精通するBLASTなどのグローバルアラインメント数的アルゴリズム(Needleman and Wunsch、J. Mol. Biol.第48巻(3号)、443~453頁、1972年)を使用して実施できる。
【0061】
第1または第2の神経毒は、モザイク神経毒であり得る。この関連において使用されるような用語「モザイク神経毒」とは、別の種のクロストリジウム神経毒(例えば、異なる血清型のクロストリジウム神経毒)に由来する少なくとも1つの機能的ドメインを含む天然に存在するクロストリジウム神経毒を指し、前記クロストリジウム神経毒は、通常、前記の少なくとも1つの機能的ドメインを含まない。モザイク神経毒の例として、天然に存在するBoNT/DCおよびBoNT/CDがある。BoNT/DCは、血清型DのL鎖およびHNドメインならびに血清型CのHCドメインを含むが、BoNT/CDは、血清型CのL鎖およびHNドメインならびに血清型DのHCドメインからなる。
【0062】
第1および第2の神経毒は、それだけには限らないが、以下に記載されるものを含む、修飾された神経毒およびその誘導体であり得る。修飾された神経毒または誘導体は、神経毒の天然(非修飾)形態と比較して修飾されている1個以上のアミノ酸を含有し得る、または毒素の天然(非修飾)形態には存在しない1個以上の挿入されたアミノ酸を含有し得る。例として、修飾されたクロストリジウム神経毒は、1以上のドメイン中に、天然(非修飾)クロストリジウム神経毒配列に対して修飾されたアミノ酸配列を有し得る。このような修飾は、神経毒の機能的態様、例えば、生物活性または持続性を修飾し得る。したがって、一実施形態では、第1の神経毒及び/又は第2の神経毒は、修飾された神経毒または修飾された神経毒誘導体である。
【0063】
修飾された神経毒は、標的細胞上の低または高親和性神経毒受容体と結合し、神経毒のエンドペプチダーゼ部分(軽鎖)を細胞の細胞質中に転位置し、SNAREタンパク質を切断する能力から選択される、神経毒の機能のうち少なくとも1つを保持する。好ましくは、修飾された神経毒は、これらの機能のうち少なくとも2つを保持する。より好ましくは、修飾された神経毒は、これら3つの機能を保持する。
【0064】
修飾された神経毒は、重鎖のアミノ酸配列中に1以上の修飾を有することがあり(修飾されたHCドメインなど)、前記の修飾された重鎖は、天然(非修飾)神経毒よりも高いまたは低い親和性をもって標的神経細胞と結合する。HCドメイン中のこのような修飾は、標的神経細胞のガングリオシド受容体及び/又はタンパク質受容体との結合を変更する、HCドメインのガングリオシド結合部位中の、またはタンパク質(SV2またはシナプトタグミン)結合部位中の残基を修飾することを含み得る。このような修飾された神経毒の例は、両方とも参照により本明細書に組み込まれるWO2006/027207およびWO2006/114308に記載されている。
【0065】
修飾された神経毒は、軽鎖のアミノ酸配列中に1以上の修飾、例えば、修飾されたLCのSNAREタンパク質特異性を変更または修飾し得る、基質結合または触媒ドメイン中の修飾を有し得る。このような修飾された神経毒の例は、両方とも参照により本明細書に組み込まれるWO2010/120766およびUS2011/0318385に記載されている。
【0066】
修飾された神経毒は、修飾された神経毒の生物活性及び/又は生物学的持続性を増大または減少させる1以上の修飾を含み得る。例えば、修飾された神経毒は、ロイシン-またはチロシン-ベースのモチーフを含むことがあり、前記モチーフは、修飾された神経毒の生物活性及び/又は生物学的持続性を増大または減少させる。適したロイシン-ベースのモチーフとして、xDxxxLL、xExxxLL、xExxxILおよびxExxxLM(xは、任意のアミノ酸である)が挙げられる。適したチロシン-ベースのモチーフとして、Y-x-x-Hy(Hyは、疎水性アミノ酸である)が挙げられる。ロイシン-またはチロシン-ベースのモチーフを含む修飾された神経毒の例は、参照により本明細書に組み込まれるWO2002/08268に記載されている。
【0067】
一実施形態では、第1または第2の神経毒は、配列番号1に対して少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する修飾されたBoNT/Aである。
【0068】
一実施形態では、第1または第2の神経毒は、配列番号2に対して少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する修飾されたBoNT/Bである。
【0069】
一実施形態では、第1または第2の神経毒は、配列番号3に対して少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する修飾されたBoNT/Cである。
【0070】
一実施形態では、第1または第2の神経毒は、配列番号4に対して少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する修飾されたBoNT/Dである。
【0071】
一実施形態では、第1または第2の神経毒は、配列番号5に対して少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する修飾されたBoNT/Eである。
【0072】
一実施形態では、第1または第2の神経毒は、配列番号6に対して少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する修飾されたBoNT/Fである。
【0073】
一実施形態では、第1または第2の神経毒は、配列番号7に対して少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する修飾されたBoNT/Gである。
【0074】
一実施形態では、第1または第2の神経毒は、配列番号8に対して少なくとも70%、好ましくは、少なくとも75%、80%、85%、90%、95%または99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する修飾されたTeNTである。
【0075】
一実施形態では、第2の神経毒は、BoNT/Bである。このようなキメラ神経毒は、「BoNT/XB神経毒」と本明細書において呼ばれる。
【0076】
好ましい実施形態では、第1の神経毒は、BoNT/Aであり、第2の神経毒は、BoNT/Bである。このようなキメラ神経毒は、「BoNT/AB神経毒」と本明細書において呼ばれる。より好ましくは、第1の神経毒は、BoNT/A1であり、第2の神経毒は、BoNT/B1である。より好ましくは、さらに、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、BoNT/A1のアミノ酸残基1~872に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、BoNT/B1のアミノ酸残基860~1291に対応する。1つの好ましい実施形態では、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、配列番号1のアミノ酸残基1~872に対応し、第2の神経毒由来のHCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基860~1291に対応する。言い換えれば、本発明の好ましいキメラ神経毒は、アミノ酸配列配列番号13を含む、またはからなる。
【0077】
BoNT/A血清型と比較して、天然BoNT/Bは、シナプス小胞上のその受容体の比較的多い存在量に関わらず、かなり効力が弱い。これは、げっ歯類(ラット/マウス)Syt IIと比較されるような、ヒトシナプトタグミンII(Syt II)中の毒素結合部位内の独特のアミノ酸変化による(Peng, L., et al., J Cell Sci, 125(Pt 13):3233-42 (2012); Rummel, A. et al, FEBS J 278:4506-4515 (2011).13,22)。この残基変化の結果として、ヒトSyt IIは、天然BoNT/Bに対して、ならびに天然BoNT/D-Cおよび/Gに対して大きく減少した結合を有する。これらの知見は、患者において同レベルの治療効果を達成するために、BoNT/A(異なる受容体と結合する)よりもかなり高い用量のBoNT/Bが必要であるという臨床的観察の説明を提供する。本発明のBoNT/XBまたはBoNT/AB神経毒の好ましい実施形態では、BoNT/B神経毒に由来するHCドメインは、天然BoNT/B配列と比較して、ヒトSyt IIに対するBoNT/B神経毒の結合親和性を増大する効果を有する、HCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失を含む。
【0078】
BoNT/B HCCサブドメイン中の適したアミノ酸残基置換、付加または欠失は、WO2013/180799に、およびまだ公開されていないPCT/US2016/024211に(両方とも参照により組み込まれる)開示されている。
【0079】
BoNT/B HCCサブドメイン中の適したアミノ酸残基置換、付加または欠失は、V1118M、Y1183M、E1191M、E1191I、E1191Q、E1191T、S1199Y、S1199F、S1199L、S1201V、E1191C、E1191V、E1191L、E1191Y、S1199W、S1199E、S1199H、W1178Y、W1178Q、W1178A、W1178S、Y1183C、Y1183Pおよびそれらの組合せからなる群から選択される置換突然変異を含む。
【0080】
BoNT/B HCCサブドメイン中の適したアミノ酸残基置換、付加または欠失は、E1191MおよびS1199L、E1191MおよびS1199Y、E1191MおよびS1199F、E1191QおよびS1199L、E1191QおよびS1199Y、E1191QおよびS1199F、E1191MおよびS1199W、E1191MおよびW1178Q、E1191CおよびS1199W、E1191CおよびS1199Y、E1191CおよびW1178Q、E1191QおよびS1199W、E1191VおよびS1199W、E1191VおよびS1199YまたはE1191VおよびW1178Qからなる群から選択される2つの置換突然変異の組合せをさらに含む。
【0081】
BoNT/B HCCサブドメイン中の適したアミノ酸残基置換、付加または欠失はまた、E1191M、S1199WおよびW1178Qである3つの置換突然変異の組合せを含む。
【0082】
好ましい実施形態では、BoNT/B HCCサブドメイン中の適したアミノ酸残基置換、付加または欠失は、E1191MおよびS1199Yである2つの置換突然変異の組合せを含む。言い換えれば、本発明の好ましいキメラ神経毒は、アミノ酸配列配列番号11または配列番号12を含む、またはからなる。
【0083】
別の好ましい実施形態では、第1の神経毒はBoNT/Cであり、第2の神経毒はBoNT/Bである。このようなキメラ神経毒は、本明細書において、「BoNT/CB神経毒」と呼ばれる。より好ましくは、第1の神経毒はBoNT/C1であり、第2の神経毒はBoNT/B1である。より好ましくは、さらに、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、BoNT/C1のアミノ酸残基1~867に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、BoNT/B1のアミノ酸残基860~1291に対応する。1つの好ましい実施形態では、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、配列番号3のアミノ酸残基1~867に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、配列番号2のアミノ酸残基860~1291に対応する。好ましい実施形態では、BoNT/B神経毒に由来するHcドメインは、天然BoNT/B配列と比較して、ヒトSyt IIに対するBoNT/B神経毒の結合親和性を増大する効果を有する、HCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失を含む。BoNT/B HCCサブドメイン中の適したアミノ酸残基置換、付加または欠失は、上記のとおりである。
【0084】
本発明のBoNT/XDC神経毒(第2の神経毒がモザイクBoNT/DCであるキメラ神経毒)の好ましい実施形態では、モザイクBoNT/DC神経毒に由来するHCドメインは、天然モザイクBoNT/DC配列と比較して、ヒトSyt IIに対するモザイクBoNT/DC神経毒の結合親和性を増大する効果を有する、HCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失を含む。
【0085】
本発明のBoNT/XG神経毒の好ましい実施形態では、BoNT/G神経毒に由来するHCドメインは、天然BoNT/G配列と比較して、ヒトSyt IIに対するBoNT/G神経毒の結合親和性を増大する効果を有する、HCCサブドメイン中の少なくとも1つのアミノ酸残基置換、付加または欠失を有する。
【0086】
本発明のその他の好ましい神経毒は、以下のとおりである。
【0087】
好ましい実施形態では、第1の神経毒はBoNT/Aであり、第2の神経毒はBoNT/Cである。このようなキメラ神経毒は、本明細書において、「BoNT/AC神経毒」と呼ばれる。より好ましくは、第1の神経毒はBoNT/A1であり、第2の神経毒はBoNT/C1である。より好ましくは、さらに、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、BoNT/A1のアミノ酸残基1~872に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、BoNT/C1のアミノ酸残基868~1291に対応する。1つの好ましい実施形態では、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、配列番号1のアミノ酸残基1~872に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、配列番号3のアミノ酸残基868~1291に対応する。
【0088】
別の好ましい実施形態では、第1の神経毒はBoNT/Bであり、第2の神経毒はBoNT/Aである。このようなキメラ神経毒は、本明細書において、「BoNT/BA神経毒」を指す。より好ましくは、第1の神経毒はBoNT/B1であり、第2の神経毒はBoNT/A1である。より好ましくは、さらに、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、BoNT/B1のアミノ酸残基1~859に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、BoNT/A1のアミノ酸残基873~1296に対応する。1つの好ましい実施形態では、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、配列番号2のアミノ酸残基1~859に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、配列番号1のアミノ酸残基873~1293に対応する。
【0089】
別の好ましい実施形態では、第1の神経毒はBoNT/Bであり、第2の神経毒はBoNT/Cである。このようなキメラ神経毒は、本明細書において、「BoNT/BC神経毒」と呼ばれる。より好ましくは、第1の神経毒はBoNT/B1であり、第2の神経毒はBoNT/C1である。より好ましくは、さらに、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、BoNT/B1のアミノ酸残基1~859に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、BoNT/C1のアミノ酸残基868~1291に対応する。1つの好ましい実施形態では、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、配列番号2のアミノ酸残基1~859に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、配列番号3のアミノ酸残基868~1291に対応する。言い換えれば、本発明の好ましいキメラ神経毒は、アミノ酸配列配列番号56を含む、またはからなる。
【0090】
別の好ましい実施形態では、第1の神経毒はBoNT/Cであり、第2の神経毒はBoNT/Aである。このようなキメラ神経毒は、本明細書において、「BoNT/CA神経毒」と呼ばれる。より好ましくは、第1の神経毒はBoNT/C1であり、第2の神経毒はBoNT/A1である。より好ましくは、さらに、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、BoNT/C1のアミノ酸残基1~867に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、BoNT/A1のアミノ酸残基873~1296に対応する。1つの好ましい実施形態では、第1の神経毒に由来するLHNドメインは、配列番号3のアミノ酸残基1~867に対応し、第2の神経毒に由来するHCドメインは、配列番号1のアミノ酸残基873~1296に対応する。
【0091】
本発明のキメラ神経毒は、組換え技術を使用して製造され得る。したがって、一実施形態では、本発明のキメラ神経毒は、組換えキメラ神経毒である。好ましい実施形態に従って、以下にさらに記載されるような、本発明の組換えキメラ神経毒をコードするヌクレオチド配列、前記ヌクレオチド配列を含むベクターおよび前記ベクターを含む細胞は、変更するべきところは変更して組換えであると呼ばれ得ることは、容易に理解されなければならない。
【0092】
別の態様では、本発明は、本発明のキメラ神経毒をコードするヌクレオチド配列、例えば、DNAまたはRNA配列を提供する。好ましい実施形態では、ヌクレオチド配列はDNA配列である。
【0093】
本発明の核酸分子は、当技術分野で公知の任意の適したプロセスを使用して作製され得る。したがって、核酸分子は、化学合成技術を使用して作製され得る。あるいは、本発明の核酸分子は、分子生物学技術を使用して作製され得る。
【0094】
本発明のDNA配列は、好ましくは、コンピュータで設計され、次いで、従来のDNA合成技術によって合成される。
【0095】
上記の核酸配列情報は、使用される予定の最終宿主細胞(例えば、大腸菌(E.coli))発現系に従ってコドンバイアスをかけるために随意により修飾される。
【0096】
別の態様では、本発明は、本発明のヌクレオチド配列を含むベクターを提供する。一実施形態では、核酸配列は、プロモーターおよびターミネーターを含むDNAベクターの一部として調製される。好ましい実施形態では、ベクターは、Tac、AraBAD、T7-LacまたはT5-Lacから選択されるプロモーターを有する。
【0097】
ベクターは、上記の核酸配列のin vitro及び/又はin vivo発現にとって適したものであり得る。ベクターは、一過性の及び/又は安定な遺伝子発現のためのベクターであり得る。ベクターは、調節エレメント及び/又は選択マーカーをさらに含み得る。前記ベクターは、ウイルス起源のもの、ファージ起源のものまたは細菌起源のものであり得る。例えば、前記発現ベクターは、pET、pJ401、pGEXベクターまたはその派生物であり得る。
【0098】
別の態様では、本発明は、本発明のヌクレオチド配列またはベクターを含む細胞を提供する。用語「細胞」は、本明細書において、用語「宿主細胞」または「細胞株」と同義的に使用され得る。適した細胞種として、原核細胞、例えば、大腸菌および酵母細胞、哺乳動物細胞、昆虫細胞などといった真核細胞が挙げられる。好ましくは、細胞は、大腸菌である。
【0099】
別の態様では、本発明は、本発明のキメラ神経毒を製造する方法を提供し、前記方法は、上記のような細胞を、前記キメラ神経毒が産生される条件下で培養するステップを含む。前記条件は、当業者に周知であり、従って、本明細書においてさらに詳細に記載される必要はない。好ましくは、前記方法は、培養物からキメラ神経毒を回収するステップをさらに含む。
【0100】
別の態様では、本発明は、本発明のキメラ神経毒を含む医薬組成物を提供する。好ましくは、医薬組成物は、キメラ神経毒を、医薬上許容される担体、賦形剤、アジュバント、噴射剤及び/又は塩から選択される少なくとも1種の構成成分と一緒に含む。
【0101】
別の態様では、本発明は、療法において使用するための本発明のキメラ神経毒または医薬組成物を提供する。より正確には、本発明は、医薬を製造するための、本明細書において記載されるようなキメラ神経毒または医薬組成物の使用に関する。言い換えれば、本発明は、それを必要とする対象を治療するための方法であって、前記対象に、有効量の、本明細書において記載されるようなキメラ神経毒または医薬組成物を投与するステップを含む方法に関する。「有効量」とは、キメラ神経毒または医薬組成物が、示される効果を提供するのに十分な量で投与されることを意味する。本明細書において、用語「対象」とは、好ましくは、ヒトまたは動物、より好ましくは、ヒトを指す。
【0102】
本発明のキメラ神経毒は、好ましくは、それを必要とする対象において、望まれないニューロン活性と関連する状態、例えば、痙攣性発声障害、痙性斜頚、喉頭ジストニア、顎口腔発声障害、舌ジストニア、頸部ジストニア、手掌ジストニア、眼瞼痙攣、斜視、片側顔面痙攣、眼瞼障害、脳性麻痺、限局性痙縮およびその他の発声障害、痙攣性大腸炎、過敏性膀胱、アニスムス、四肢痙縮、チック、振戦、ブラキシズム、肛門裂傷、アカラシア、嚥下障害およびその他の筋緊張障害ならびに筋肉群の不随意運動を特徴とするその他の障害、流涙、発汗過多、過剰流涎、過剰胃腸分泌、分泌性障害、筋痙攣に由来する疼痛、頭痛疼痛、片頭痛および皮膚科状態からなる群から選択される状態の治療において使用するのに適している。より正確には、本発明は、上記のような望まれないニューロン活性と関連する状態を治療するように意図される医薬を製造するための、本明細書において記載されるようなキメラ神経毒または医薬組成物の使用に関する。言い換えれば、本発明は、それを必要とする対象において、上記のような望まれないニューロン活性と関連する状態を治療する方法に関し、前記方法は、有効量の、本明細書に記載されるようなキメラ神経毒または医薬組成物を、前記対象に投与するステップを含む。
【0103】
別の態様では、本発明は、それを必要とする対象において、審美的または美容的状態を処置するための、本発明のキメラ神経毒の非治療的使用を提供する。言い換えれば、本発明は、それを必要とする対象において、審美的または美容的状態を処置する方法であって、前記対象に、有効量の、本明細書に記載されるようなキメラ神経毒または医薬組成物を投与するステップを含む方法に関する。本発明のこの態様によれば、処置されるべき対象は、好ましくは、上記のような望まれないニューロン活性と関連する状態を患っていない。より好ましくは、前記対象は、健常な対象、すなわち、任意の疾患を患っていない対象である。
【0104】
別の態様では、本発明は、上記のような、治療的または非治療的(美容的または審美的)方法において使用するための、または治療的または非治療的(美容的または審美的)使用のためのキットを提供し、前記キットは、前記方法または使用を実施するための、本発明の医薬組成物および説明書を含む。より正確には、本発明は、前記組成物の、それを必要とする対象への治療的または美容的投与のための、本発明の医薬組成物および説明書を含むキットに関する。本明細書において、用語「説明書」は、それを必要とする対象への前記組成物の治療的または美容的投与などの本発明の方法または使用を実施する方法を伝達するために使用され得る刊行物、記録、図または任意のその他の表現の媒体を指す。前記説明書は、例えば、前記組成物または前記キットを含む容器に添付されてもよい。
【0105】
本発明の改変キメラ神経毒は、経口、非経口、連続注入、吸入または局所適用用に製剤化され得る。注射に適した組成物は、溶液、懸濁液またはエマルジョンあるいは使用前に適したビヒクルに溶解もしくは懸濁される乾燥粉末の形態であり得る。
【0106】
局所的に送達される予定のキメラ神経毒の場合には、キメラ神経毒は、クリーム(例えば、局所適用用)として、または皮下注射用に製剤化され得る。
【0107】
局所送達手段として、エアゾールまたはその他のスプレー(例えば、ネブライザー)を挙げることができる。この関連で、キメラ神経毒のエアゾール製剤は、肺及び/又はその他の鼻腔及び/又は気管支もしくは気道経路への送達を可能にする。
【0108】
本発明のキメラ神経毒は、くも膜下腔内注射または罹患臓器の神経支配に関与している脊髄分節のレベルでの脊柱における硬膜外注射によって患者に投与され得る。
【0109】
好ましい投与経路は、腹腔鏡下及び/又は局在化された、特に筋肉内の注射によってである。
【0110】
本発明のキメラ神経毒の投与の投与量範囲は、所望の治療効果をもたらすものである。必要とされる投与量範囲は、キメラ神経毒または組成物の正確な性質、投与経路、製剤の性質、患者の年齢、患者の状態の性質、程度または重症度、あるとすれば禁忌症および主治医の判断に応じて変わることは認められよう。これらの投与量レベルの変動は、最適化のために標準的な経験的ルーチンを使用して調整することができる。
【0111】
流体投与形は、通常、キメラ神経毒および発熱物質不含滅菌ビヒクルを利用して調製する。改変クロストリジウム毒素を、使用されるビヒクルおよび濃度に応じて、ビヒクルに溶解または懸濁できる。溶液の調製では、キメラ神経毒を、ビヒクルに溶解し、溶液を、必要に応じて塩化ナトリウムの添加によって等張性にし、無菌技術を使用して滅菌フィルターを通す濾過によって滅菌し、その後、滅菌バイアルまたはアンプルに充填し、密閉できる。あるいは、溶液安定性が適当である場合には、その密閉容器中の溶液をオートクレーブ処理することによって滅菌してもよい。有利なことに、緩衝剤、可溶化剤、安定化剤、防腐剤または殺菌剤、懸濁剤または乳化剤およびまたは局所麻酔剤などの添加物を、ビヒクルに溶解してもよい。
【0112】
使用前に適したビヒクルに溶解もしくは懸濁される乾燥粉末は、滅菌領域において無菌技術を使用して予め滅菌した成分を滅菌容器中に充填することによって調製してもよい。あるいは、滅菌領域において無菌技術を使用して成分を適した容器中に溶解してもよい。次いで、製剤を凍結乾燥し、容器を無菌的に密閉する。
【0113】
筋肉内、皮下または皮内注射に適した非経口懸濁液は、滅菌構成成分を溶解する代わりに滅菌ビヒクルに懸濁することを除いて実質的に同一法で調製し、滅菌は濾過によっては達成され得ない。構成成分は、滅菌状態で単離してもよく、あるいは、単離後に、例えば、γ照射によって滅菌してもよい。
【0114】
本発明に従う投与は、微粒子カプセル封入、ウイルス送達システムまたは高圧エアゾールインピンジメントを含む種々の送達技術を利用してもよい。
【0115】
本開示は、本明細書において開示される例示的方法および材料によって制限されず、本明細書において記載されるものと同様のまたは同等の任意の方法および材料を、本開示の実施形態の実施または試験において使用できる。数的範囲は、範囲を規定する数字を含めたものである。特に断りのない限り、それぞれ、任意の核酸配列は、左から右に5’から3’配向に書かれており、アミノ酸配列は、左から右にアミノからカルボキシ配向に書かれている。
【0116】
値の範囲が提供される場合には、その範囲の上限と下限の間の介在する値は各々、文脈が明確に別のものを示さない限り、下限の単位の小数第1位まで具体的に開示されることは理解される。述べられた範囲中の任意の述べられた値または介在する値と、その述べられた範囲中の任意のその他の述べられたまたは介在する値の間のより小さい範囲は各々、本開示内に包含される。これらのより小さい範囲の上限および下限は、その範囲に独立に含まれることも、排除されることもあり、各範囲はまた、両限界のいずれかが、より小さい範囲中に含まれる、または両方とも含まれない、または両方とも含まれる場合、本開示内に包含され、述べられた範囲中の任意の具体的に排除される限界の影響下にある。述べられた範囲が、限界の一方または両方を含む場合には、それらの含まれる限界のいずれかまたは両方を排除する範囲も、本開示中に含まれる。
【0117】
本明細書においておよび添付の特許請求の範囲において、単数形「1つの(a)」、「1つの(an)」および「その(the)」は、文脈が明確に別のものを示さない限り、複数の言及を含むということは注記されなければならない。したがって、例えば、「クロストリジウム神経毒(a clostridial neurotoxin)」への言及は、複数のこのような候補物質を含み、「クロストリジウム神経毒(the clostridial neurotoxin)」への言及は、1種以上のクロストリジウム神経毒および当業者に公知のその同等物などへの言及を含む。
【0118】
本発明をここで、単に例として、以下の図面および実施例を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0119】
【
図1】
図1は、CLUSTAL Omega(1.2.1)マルチプル配列アラインメントツールを使用するBoNT/A1-8、/B1-8、/C、/D、/E1-12、/F1-7、/G、/「H」およびTeNTの配列アラインメントを示す図である。LH
NおよびH
Cドメインを分ける推定3
10ヘリックスの位置は、太字であり、下線が引かれた文字である。
【
図2】
図2は、精製された組換えBoNT/ABキメラ1、2および3A(それぞれ、配列番号9、10および11)のSDS PAGEを示す図である。レーンは、標識された「マーカー」(分子量マーカー)、「-DTT」(酸化されたBoNT/ABキメラサンプル)および「+DTT」(還元されたBoNT/ABキメラサンプル)である。
【
図3】
図3は、組換えBoNT/ABキメラ1、2および3A(それぞれ、配列番号9、10および11)によるラット脊髄ニューロンにおけるSNAP-25の切断を示す図である。培養ラット一次脊髄ニューロン(SCN)を、37℃、10% CO
2を有する加湿雰囲気中で、種々の濃度の組換えBoNT/ABキメラ1、2または3Aに対して24時間曝露させた。次いで、細胞を、DTTおよびベンゾナーゼを補給した1×NuPAGEバッファーを用いて溶解させた。サンプルを微量遠心管に移し、ヒートブロック上で90℃に5分間加熱し、-20℃で保存し、その後、ウエスタンブロットによってSNAP-25切断を解析した。SNAP-25を、SNAP-25(Sigma番号S9684)の全長および切断形態の両方を検出するポリクローナル抗体を使用して検出した。抗ウサギHRP(Sigma番号A6154)を二次抗体として使用した。
【
図4】
図4は、マウス指外転スコアリングアッセイを示す図である。マウスに、短い全身麻酔のもとで、1本の後肢の腓腹筋-ヒラメ筋複合筋中に注射し、筋肉衰弱化を、指外転スコア(DAS)を使用して0~4尺度で測定した。各用量のDAS最大値を決定し、用量に対してプロットし、データを4パラメータロジスティック方程式にフィッティングし、ED50およびDAS4につながる用量(DAS4用量)値を決定した。
【
図5】
図5は、精製組換えBoNT/ABキメラ3Bおよび3C(それぞれ、配列番号12および13)のSDS PAGEを示す図である。レーンは、標識された「マーカー」(分子量マーカー)、「-DTT」(酸化されたBoNT/ABキメラサンプル)および「+DTT」(還元されたBoNT/ABキメラサンプル)である。
【
図6】
図6は、ヒト誘導多能性幹細胞由来末梢ニューロン(PERI.4U-Axiogenesis、ドイツ)における組換えBoNT/AおよびBoNT/ABキメラ3Bおよび3C(それぞれ、配列番号1、12および13)によるSNAP-25の切断を示す図である。PERI.4U細胞を、37℃、5% CO
2を含有する加湿CO
2雰囲気中で、種々の濃度の組換えBoNT/AまたはBoNT/ABキメラ3Bまたは3Cに対して24時間曝露させた。次いで、細胞を、DTTおよびベンゾナーゼを補給した1×NuPAGEバッファーを用いて溶解させた。サンプルを微量遠心管に移し、ヒートブロック上で90℃に5分間加熱し、-20℃で保存し、その後、ウエスタンブロットによってSNAP-25切断を解析した。SNAP-25を、SNAP-25(Sigma番号S9684)の全長および切断形態の両方を検出するポリクローナル抗体を使用して検出した。抗ウサギHRP(Sigma番号A6154)を二次抗体として使用した。
【
図7】
図7は、マウス指外転スコアリングアッセイにおける経時的な筋肉衰弱化を示す図である。マウスに、短い全身麻酔のもとで、1本の後肢の腓腹筋-ヒラメ筋複合筋中に注射し、筋肉衰弱化を、指外転スコア(DAS)を使用して0~4尺度で測定した。注射の最初の4日の間に4のDASを誘導した最低用量を用いて注射した群の動物を、0のDAS(筋肉衰弱が観察されない)への筋肉衰弱の完全回復までモニタリングした。
【
図8】
図8は、精製組換えBoNT/BC(配列番号56)のSDS PAGEを示す図である。レーンは、標識された「マーカー」(分子量マーカー)、「-DTT」(酸化されたBoNT/BCキメラサンプル)および「+DTT」(還元されたBoNT/BCキメラサンプル)である。
【
図9】
図9は、ラット皮質ニューロンにおける、天然BoNT/B、BoNT/BCキメラおよび不活性組換えBoNT/B(それぞれ、配列番号2、56および57)によるVAMP-2の切断を示す図である。細胞を、37℃、5% CO
2を含有する加湿CO
2雰囲気中で、種々の濃度のBoNTに対して24時間曝露させた。細胞を、DTTおよびベンゾナーゼを補給した1×NuPAGEバッファーを用いて溶解させ、90℃に5分間加熱し、その後、-20℃で保存した。サンプルを、ポリクローナルウサギ抗VAMP-2(Abcam ab3347、1:1000)一次抗体およびHRPがコンジュゲートされた抗ウサギ二次抗体(Sigma番号A6154)を使用するウエスタンブロットによって、VAMP-2切断について解析した。
【
図10】
図10は、BoTest(登録商標)キット(BioSentinel)を使用する、天然BoNT/BおよびBoNT/BCキメラ(それぞれ、配列番号2および56)による、VAMP-2ペプチドリポーターの切断を示す図である。種々の濃度のBoNTを、リポーターとしてCFP-YFP FRET対を有するVAMP-2ペプチドとともに30℃で18時間インキュベートし、切断されていない対切断されたリポーター基質の割合を、528nmでのYFP蛍光強度の喪失および440nmでの励起後の485nmでのCFP蛍光の獲得として測定した。
【実施例0120】
以下の実施例は、本発明の特定の実施形態を例示するように働き、特許請求の範囲において定義される本発明の範囲を決して制限しない。
【0121】
実施例1 - クロストリジウム神経毒における310ヘリックスのマッピング
【0122】
すべてのBoNT血清型およびTeNTのアミノ酸配列は、公的データベース(例えば、www.uniprot.org or http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)から入手し、次いで、www.loopp.org.を使用してBoNT/A1の既知結晶構造(3BTA.pdb)上にモデル化した。これは、H
CNドメインのN末端部分およびその前の約80個の残基(H
NドメインのC末端部分)のみを保持するように編集された予測されたタンパク質構造をもたらした-このドメイン(「H
N/H
CN」)は、構造的に高度に保存されており、従って、それを種々の血清型を重ね合わせるのに最良の領域にする。次いで、各編集された構造を、http://wishart.biology.ualberta.ca/superpose/を使用して3BTA.pdb上に重ね合わせ、次いで、BoNT/A1のH
Cの開始部の顕著な3
10ヘリックスに対応する残基(
872NIINTS
876)およびその他の血清型中の対応する残基を同定した。これらを、Clustal Omega(www.ebi.ac.uk/Tools/msa/clustalo/)を用いて、すべてのBoNT血清型の配列アラインメントと照合した(
図1)。
【0123】
種々の神経毒間で構造的に同等なこの領域を同定することによって、ある神経毒のC末端の半分が、分子全体の二次構造を妨げることなく、別の神経毒のN末端の半分に移行し得る特定の点を同定することが可能であった。この点を、310ヘリックスの開始部であると選択した。
【0124】
結果は、上記の表2に示されている。
【0125】
実施例2 - BoNT/ABキメラのクローニング、発現および精製
【0126】
BoNT/ABキメラ構築物1、2、3A、3Bおよび3C(配列番号9~13)は、標準分子生物学技術を使用して、親の血清型分子をコードするDNAおよび適当なオリゴヌクレオチドから構築した。次いで、これらを、C末端His10-タグを伴うまたは伴わずにpJ401発現ベクター中にクローニングし、過剰発現のためにBLR(DE3)大腸菌細胞に形質転換した。これらの細胞を、1Lの、適当な抗生物質を補給した改変Terrific Broth(mTB)を含有する2Lのバッフル付三角フラスコ中、37℃および225RPM振盪で増殖させた。ひとたび、A600が>0.5を達成すると、インキュベーター温度を16℃に低下させ、次いで、1時間後に225RPM振盪で20時間、1mM IPTGを用いて誘導して、組換えBoNT/AB構築物を発現させた。
【0127】
回収された細胞を、超音波処理によって溶解し、4℃で1時間の4500RPMでの遠心分離によって清澄化した。次いで、組換えBoNT/ABキメラ分子を硫酸アンモニウムで抽出し、標準迅速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)技術によって精製した。これは、捕獲のための疎水性相互作用樹脂および中間精製ステップのための陰イオン交換樹脂を使用することを含んでいた。次いで、部分的に精製された分子を、エンドプロテアーゼLys-Cを用いてタンパク質分解性に切断して、活性二本鎖を得た。これを、第2の疎水性相互作用樹脂を用いてさらに精製して、最終BoNT/ABキメラを得た。
【0128】
デカヒスチジンタグ(H10)を有するBoNT/ABキメラ分子(キメラ1、2、3A)のために、捕獲ステップは、疎水性相互作用樹脂の代わりに固定化されたニッケル樹脂の使用を用いた。
【0129】
【0130】
実施例3 - BoNT/ABキメラ1、2および3Aの比較
【0131】
C末端His
10タグおよびE1191M/S1199Y二重突然変異を有するBoNT/ABキメラ1、2および3Aを、実施例1に記載されるように精製し(
図2)、機能活性について試験した。
【0132】
ラット脊髄ニューロンSNAP-25切断アッセイ
【0133】
ラット脊髄ニューロン(SCN)の一次培養物を調製し、96ウェル組織培養プレート中で3週間増殖させた(Masuyer et al., 2011, J. Struct. Biol. Structure and activity of a functional derivative of Clostridium botulinum neurotoxin B中に、およびChaddock et al., 2002, Protein Expr. Purif. Expression and purification of catalytically active, non-toxic endopeptidase derivatives of Clostridium botulinum toxin type A中に記載されるように)。BoNT/ABの段階希釈を、SCNフィーディング培地で調製した。処理されるべきウェルから増殖培地を集め、濾過した(0.2μmフィルター)。125μLの濾過培地を、各試験ウェルに戻した。次いで、プレートに125μLの希釈毒素を添加した(3連のウェル)。処理された細胞を、37℃、10%CO2で24±1時間インキュベートした。
【0134】
SNAP-25切断アッセイを使用するBoNT活性の解析
【0135】
処置後、BoNTを除去し、細胞をPBS(Gibco、英国)で1回洗浄した。細胞を、0.1Mジチオトレイトール(DTT)および250ユニット/mLのベンゾナーゼ(Sigma)を補給した1×NuPAGE溶解バッファー(Life Technologies)で溶解した。溶解物タンパク質をSDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロースメンブランに移した。メンブランを、切断されていないSNAP-25ならびにBoNT/Aエンドペプチダーゼによって切断されたSNAP-25を認識する、SNAP-25に特異的な一次抗体(Sigma番号S9684)を用いてプローブした。使用した二次抗体は、HRPがコンジュゲートされた抗ウサギIgG(Sigma番号A6154)であった。バンドを、増強された化学発光によって検出し、pXi6 Access(Synoptics、英国)を使用して画像処理した。バンドの強度を、GeneToolsソフトウェア(Syngene、英国、ケンブリッジ)を使用して決定し、各濃度のBoNTで切断されたSNAP-25のパーセンテージを算出した。データを4パラメータロジスティック方程式にフィッティングし、GraphPad Prismバージョン6(GraphPad)を使用してpEC50を算出した。
【0136】
以下の表4は、ラットSCN SNAP-25切断アッセイにおいてキメラ1、2および3Aについて決定されたpEC
50値を提供する。これらの結果は、3種のBoNT/ABキメラが、ラット脊髄ニューロン中に入り、その標的基質を切断する能力を保持していたことを示す。しかし、このアッセイでは、キメラ3Aは、キメラ1および2よりも強力であった(
図3も参照のこと)。
【表4】
【0137】
指外転スコアリング(DAS)アッセイ
【0138】
DASアッセイにおいてBoNT/ABキメラ1、2および3Aの活性を測定する方法は、尾によって短時間吊り下げた場合の、マウスの驚愕反応足指延展反射(startled response toe spreading reflex)に基づいている。この反射は、指外転スコア(DAS)としてスコア化され、後肢の腓腹筋-ヒラメ筋へのBoNTの投与後に阻害される。マウスを尾によって短時間吊り下げて、動物がその後肢を伸ばし、その後指を外転させる特徴的な驚愕反応を誘発する(Aoki et al. 1999, Eur. J. Neurol.; 6 (suppl. 4) S3-S10)。
【0139】
注射の当日に、酸素中イソフルラン3%を受け取る誘導チャンバー中でマウスに麻酔を施した。各マウスに、右後肢の腓腹筋-ヒラメ筋中にBoNT/ABキメラまたはビヒクル(0.2%ゼラチンを含有するリン酸バッファー)の筋肉内注射を与えた。
【0140】
神経毒注射後、変動する指外転度をゼロから4の尺度でスコア化した、0=正常および4=指外転および下肢伸長の最大低減。各用量での最大効果の平均を使用する非線形調整解析(nonlinear adjustment analysis)によってED50を決定した。使用した数的モデルは、4パラメータロジスティックモデルであった。
【0141】
投薬後第1日の間、2時間毎にDASを実施し、その後、1日あたり3回、4日間実施した。
【0142】
図4は、キメラ1、2および3A(それぞれ、配列番号9、10および11)のフィッティングされた曲線を示す。キメラ3A曲線は、左にシフトされ、これは、低用量のキメラ3Aが、キメラ1および2と比較して同様のDAS反応を達成したことを意味し、したがって、キメラ3Aは、マウスDASアッセイにおいてその他のものよりも強力であることを示す;各キメラの算出されたED50およびDAS4(最高スコア)につながる用量の値を提供する以下の表(表5)も参照のこと。
【0143】
以下の表5は、マウスDASアッセイにおいて組換えBoNT/A1(rBoNT/A1)およびキメラ1、2および3Aについて決定されたED
50およびDAS4を提供する。これらの結果は、3種のキメラのうち、キメラ3Aが、筋肉衰弱化の誘導において最高のin vivo効力を有することを示す。
図4および表5に示される研究は、Charles River実験室から入手したマウスにおいて実施した。
【表5】
【0144】
実施例4 - BoNT/ABキメラ3B、3CおよびBoNT/A1の比較
【0145】
それぞれ、E1191M/S1199Y二重突然変異の存在を伴うおよび伴わない、タグの付いていないBoNT/ABキメラ3Bおよび3C(配列番号12および13)を、実施例1に記載されるように精製し(
図5)、参照として組換えBoNT/A1(配列番号1)を使用して機能活性について試験した。
【0146】
ヒト多能性幹細胞SNAP-25切断アッセイ
【0147】
低温保存PERI.4U-細胞を、Axiogenesis(ドイツ、ケルン)から購入した。製造業者によって推奨されるように細胞の解凍およびプレーティングを実施した。手短には、細胞を含有するクライオバイアルを37℃の水浴中で2分間解凍した。穏やかに再懸濁した後、細胞を50mLチューブに移した。クライオバイアルを、1mLの、製造業者によって供給されたPeri.4U(登録商標)解凍培地で洗浄し、培地を50mLのチューブに細胞懸濁液に滴加して移し、その後、さらに2mLのPeri.4U(登録商標)解凍培地液滴を50mLチューブに添加した。次いで、血球算定器を使用して細胞をカウントした。この後、さらに6mLのPeri.4U(登録商標)解凍培地を細胞懸濁液に添加した。室温で260xg(例えば、1,100RPM)で6分間の遠心分離によって細胞ペレットを得た。次いで、細胞を、製造業者によって供給された完全Peri.4U(登録商標)培養培地で再懸濁した。細胞をcm2あたり50,000~150,000個細胞の密度で、ポリ-L-オルニチンおよびラミニンを用いてコーティングした細胞培養プレート上にプレーティングした。細胞を、37℃で加湿CO2雰囲気中で培養し、培養の間、培地を2~3日毎に完全に変更した。
【0148】
毒素処置のために、Peri.4U(登録商標)培養培地でBoNTの段階希釈を調製した。処置されるべきウェルから得た培地を集め、濾過した(0.2μmフィルター)。125μLの濾過された培地を各試験ウェルに戻した。次いで、125μLの希釈毒素をプレートに添加した(3連ウェル)。処置された細胞を、37℃、10%CO2で、48±1時間インキュベートした。
【0149】
SNAP-25切断アッセイを使用するBoNT活性の解析
【0150】
処置後、BoNTを除去し、細胞をPBS(Gibco、米国)で1回洗浄した。細胞を、0.1Mジチオトレイトール(DTT)および250ユニット/mLベンゾナーゼ(Sigma)を補給した1×NuPAGE溶解バッファー(Life Technologies)で溶解した。溶解物タンパク質をSDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロースメンブランに移した。メンブランを、切断されていないSNAP-25ならびにBoNT/Aエンドペプチダーゼによって切断されたSNAP-25を認識する、SNAP-25に特異的な一次抗体(Sigma番号S9684)を用いてプローブした。使用した二次抗体は、HRPがコンジュゲートされた抗ウサギIgG(Sigma番号A6154)であった。バンドを、増強された化学発光によって検出し、pXi6 Access(Synoptics、英国)を使用して画像処理した。バンドの強度を、GeneToolsソフトウェア(Syngene、英国、ケンブリッジ)を使用して調べ、各濃度のBoNTで切断されたSNAP-25のパーセンテージを算出した。データを4パラメータロジスティック方程式にフィッティングし、GraphPad Prismバージョン6(GraphPad)を使用してpEC50を算出した。
【0151】
図6は、キメラ3Bおよび3Cが、誘導ヒト多能性幹細胞におけるSNAP-25の切断においてrBoNT/A1よりも大きな効力を示したが、前者が有意に大きかったことを示す。これは、これらの細胞中に存在するヒトシナプトタグミンIIタンパク質受容体に対するキメラ3Bの親和性を増大する二重突然変異によって説明され得る(
図6、表6)。
【表6】
【0152】
指外転スコアリング(DAS)アッセイ-安全率
【0153】
DASアッセイにおいてBoNTの活性を測定する方法は、尾によって短時間吊り下げた場合の、マウスの驚愕反応足指延展反射に基づいている。この反射は、指外転スコア(DAS)としてスコア化され、後肢の腓腹筋-ヒラメ筋へのBoNTの投与後に阻害される。マウスを尾によって短時間吊り下げて、動物がその後肢を伸ばし、その後指を外転させる特徴的な驚愕反応を誘発する(Aoki et al. 1999, Eur. J. Neurol.; 6 (suppl. 4) S3-S10)。
【0154】
注射の当日に、酸素中イソフルラン3%を受け取る誘導チャンバー中でマウスに麻酔を施した。各マウスに、右後肢の腓腹筋-ヒラメ筋中にBoNTまたはビヒクル(0.2%ゼラチンを含有するリン酸バッファー)の筋肉内注射を与えた。
【0155】
神経毒注射後、変動する指外転度をゼロから4の尺度でスコア化した、0=正常および4=指外転および下肢伸長の最大低減。各用量での最大効果の平均を使用する非線形調整解析によってED50を決定した。使用した数的モデルは、4パラメータロジスティックモデルであった。
【0156】
すべての用量について、投薬後第1日の間、2時間毎にDASを実施し、その後、1日あたり3回、4日間実施した。ビヒクルおよび注射の最初の4日の間に4のDASを誘導した最低用量を用いて注射した群の動物を、その後、0のDAS(筋肉衰弱が観察されない)への筋肉衰弱の完全回復までモニタリングした。
【0157】
安全率を算出するために、研究期間を通じて、毒素注射の前日(D0)およびその後1日に1回、すべての動物を秤量した。各用量群の、平均体重、その標準偏差および標準誤差平均を毎日算出した。BoNTの安全率(-10%ΔBW/ED50)を得るために、研究の間の任意の時間で、用量群の平均体重が、その同一用量群のD0での平均体重の10%低い用量を、研究されているBoNTのED50によって除した。致死用量は、その用量群内の1匹以上の動物が死亡した用量と定義した。
【0158】
図7は、rBoNT/A1、キメラ3Bおよびキメラ3C(配列番号1、12および13)のマウス指外転スコアリングアッセイにおける経時的な筋肉衰弱化の期間を示し、キメラがより長い作用持続期間を有することを示す。
【0159】
以下の表7は、マウスDASアッセイにおいてrBoNT/A1およびキメラ3Bおよび3Cについて決定されたED
50およびDAS4用量を提供する。表はまた、0のDASへの筋肉衰弱の完全回復(筋肉衰弱が観察されない)までのDAS4用量の総作用持続期間も提供する。さらに、表は、上記で本明細書において定義されるようなマウス致死用量および安全率(-10%ΔBW/ED
50)を示す。rBoNT/A1と比較して、キメラ3Bおよび3Cは、より長い作用持続期間、より良好な安全率およびより高い致死用量を有する。
図7および表7に示される研究は、Janvier実験室から入手したマウスにおいて実施した。
【表7】
【0160】
実施例5 - BoNT/BCキメラの発現および精製ならびに機能活性の確認
【0161】
BoNT/BCキメラ4(配列番号56)を、異なる発現細胞株(BL21)を使用することおよびエンドプロテアーゼLys-Cではなくトリプシンを用いるタンパク質分解による切断を除いて、実施例2に記載されるようにクローニングし、発現させ、精製した(
図8)。
【表8】
【0162】
このキメラを、VAMP-2切断アッセイにおいて機能活性について試験した。
【0163】
ラット皮質ニューロンVAMP-2切断アッセイ
【0164】
ラット皮質ニューロンを調製し、37℃、5% CO2を含有する加湿雰囲気中で、125μLの、2% B27栄養補助剤、0.5mM GlutaMAX、1% 胎児ウシ血清(FBS)および100U/mLのペニシリン/ストレプトマイシンを含有するNeurobasal培地中、20000個細胞/ウェルの密度で、ポリ-L-オルニチン(PLO)コーティングされた96ウェルプレート上で維持した。インビトロでの培養日数4でさらに125μLの、2% B27、0.5mM GlutaMAXを含有するNeurobasal培地を添加した。3~4日毎に培地の半量を置換することによって細胞を維持した。インビトロでの培養日数11で、非神経性細胞の増殖を防ぐために、培地に1.5μMシトシンβ-D-アラビノフラノシド(AraC)を添加した。インビトロでの培養日数19~21で、皮質ニューロンを、37℃で一定濃度範囲のBoNT(30fM~3nM)を用いて24時間処置した。
【0165】
VAMP-2切断アッセイを使用するBoNT活性の解析
【0166】
細胞を、アッセイ培地(Neurobasal w/o フェノールレッド、2% B27、0.5mM GlutaMAX、10μM TFB-TBOA((3S)-3-[[3-[[4-(トリフルオロメチル)ベンゾイル]アミノ]フェニル]メトキシ]-L-アスパラギン酸で短時間洗浄し、その後、100μLの溶解バッファー(NuPage LDSサンプルバッファー、1mM DTTおよび1:500ベンゾナーゼ)中で溶解し、90℃で5分間加熱した。15μLの溶解物を、MESバッファーを用いて200Vで50分間12% Bis-Trisゲルで流した。タンパク質を、低MWプログラムを使用して、Transblot Turbo(Biorad)によってニトロセルロースメンブラン上に移した。メンブランを、PBST中、5%低脂肪乳を用いてブロッキングし、次いで、ウサギ抗VAMP-2(Abcam ab3347、1:1000)一次抗体、次いで、HRPがコンジュゲートした抗ウサギ二次抗体(Sigma番号A6154)を用いてプローブした。メンブランを、SuperSignal West Dura化学発光基質を用いて発色させ、Syngene PXiシステムを使用して可視化した。GeneToolsソフトウェア(Syngene)を使用してバンド濃度測定を解析し、対照ウェルに対して各濃度のBoNTでのVAMP-2切断パーセンテージを決定した。データを4パラメータロジスティック方程式にフィッティングし、Prismソフトウェア(GraphPad)を使用してpEC50を算出した。
【0167】
図9は、キメラ4が、ラット脊髄ニューロンと結合し、細胞質中に転位置し、その基質VAMP-2を特異的に切断できることを示す。参照点として、このキメラは、不活性の組換えBoNT/B1分子(E231QおよびH234Yに二重突然変異を有する、本明細書において、BoNT/B1(0)とも呼ばれる)(配列番号57)と比較して明確に機能的であり、天然BoNT/B1分子(配列番号2)とほぼ同程度に活性である(表9)。これは、BoNT/Bの、ラット細胞表面上に存在するシナプトタグミンおよび種々のガングリオシドとの高親和性結合によって説明され得るが、キメラ4中のCの結合ドメインは、より低い親和性でのみガングリオシドと結合すると知られている。これは、以下にさらに示されるような軽鎖プロテアーゼ活性アッセイから得られたデータによって支持される。
【表9】
【0168】
軽鎖プロテアーゼ活性アッセイ
【0169】
血清型Bの軽鎖活性を、BoTest(登録商標)(BioSentinel A1009)無細胞アッセイを、製造業者の説明書に従って使用して評価した。例えば、BoNTをBoTest反応バッファー(50mM HEPES-NaOH、5mM NaCl、10μM ZnCl2、0.1% Tween-20、0.1mg/ml BSA、pH7.1)で1.39nMに希釈し、5mM DTTを用いて室温で30分間還元した。200nMの最終濃度のVAMP-2ペプチドリポーター(50mM HEPES-NaOH、10mM NaCl、15%グリセロール中の、CFP-VAMP-2(33-94)-YFP)を、100μL/ウェルの最終アッセイ容量で、黒色Maxisorpプレート(Nunc)中で一定濃度範囲のBoNT(500fM~1.25nM、最終)と組み合わせた。プレートを密閉し、光から離して30℃で18時間インキュベートした。528nmでのCFPからYFPへのFRET蛍光の喪失および440nmでの励起後の485nmでのGFP蛍光のゲインを、BioTek Synergy HTプレートリーダーを使用して測定した。各BoNT濃度での切断されていないリポーター基質と切断されたリポーター基質の蛍光発光比を、4パラメータロジスティック方程式にフィッティングし、GraphPad Prismソフトウェアを使用してpEC50を算出した。
【0170】
軽鎖プロテアーゼ活性アッセイによって、キメラ4の軽鎖は、天然BoNT/B1の1種と同程度に活性であること(
図10および表10を参照のこと)、従って、上記で説明されたように、VAMP-2切断アッセイの結果は、ガングリオシドとのみ結合するキメラ4中のCの結合ドメインと比較して、BoNT/Bが、ラット細胞表面上に存在するシナプトタグミンおよび種々のガングリオシドに対してより高い親和性を有するという事実によって説明され得ることが確認される。
【表10】