(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100082
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】車軸駆動装置
(51)【国際特許分類】
B60K 17/12 20060101AFI20240719BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20240719BHJP
B60K 5/04 20060101ALI20240719BHJP
B60L 9/18 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B60K17/12
H02K7/116
B60K5/04 E
B60L9/18 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003804
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】松田 匡史
(72)【発明者】
【氏名】土屋 裕之
【テーマコード(参考)】
3D042
3D235
5H125
5H607
【Fターム(参考)】
3D042AA06
3D042AB02
3D042AB03
3D042BE01
3D042BE02
3D235AA01
3D235BB17
3D235CC12
3D235DD13
5H125AA01
5H125AB01
5H125FF01
5H125FF03
5H607AA12
5H607BB01
5H607BB05
5H607CC03
5H607DD03
5H607EE34
5H607EE36
(57)【要約】
【課題】車軸を駆動する車軸駆動装置において、モータと減速機とデファレンシャルギアとを配置する具体的構成を提供する。
【解決手段】車軸駆動装置(20)は、車両の左右の車輪にそれぞれ接続される左右の車軸(13,14)と、複数の磁極を有する磁石部(34)を備えた円筒状のロータ(31)と、磁石部に対向して配置された複数相のコイル(37A,37B)を有する円筒状のステータ(36)と、ロータの回転を減速して左右の車軸に伝達する減速機(50)と、左右の車軸の回転差を吸収するデファレンシャルギア(70)と、を備える。ロータ及びステータに対して径方向内側に、減速機及びデファレンシャルギアが配置され、ロータ及びステータの軸方向において、ロータ及びステータの範囲内に減速機及びデファレンシャルギアが配置され、減速機とデファレンシャルギアとが軸方向に並んでいる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(10)の左右の車輪(11,12)にそれぞれ接続される左右の車軸(13,14)と、
複数の磁極を有する磁石部(34)を備えた円筒状のロータ(31)と、
前記磁石部に対向して配置された複数相のコイル(37A,37B)を有する円筒状のステータ(36)と、
前記ロータの回転を減速して前記左右の車軸に伝達する減速機(50)と、
前記左右の車軸の回転差を吸収するデファレンシャルギア(70)と、
を備える車軸駆動装置(20)であって、
前記ロータ及び前記ステータに対して径方向内側に、前記減速機及び前記デファレンシャルギアが配置され、
前記ロータ及び前記ステータの軸方向において、前記ロータ及び前記ステータの範囲内に前記減速機及び前記デファレンシャルギアが配置され、
前記減速機と前記デファレンシャルギアとが前記軸方向に並んでいる、車軸駆動装置。
【請求項2】
前記磁石部は、極異方配向又はハルバッハ配向であり、前記ロータの外周面に取り付けられており、
前記ロータは、前記ステータの径方向内側に配置され、前記減速機及び前記デファレンシャルギアのケース(32,33)を兼ねている、請求項1に記載の車軸駆動装置。
【請求項3】
前記軸方向において、前記車軸駆動装置の中心に前記デファレンシャルギアが重なっている、請求項1又は2に記載の車軸駆動装置。
【請求項4】
前記ロータは、前記ステータの径方向内側に配置され、
前記軸方向において、前記ロータの前記減速機に対して前記デファレンシャルギアと反対側の部分(33a)を回転可能に支持する第1ベアリング(81)と、
前記軸方向において、前記ロータの前記デファレンシャルギアに対して前記減速機と反対側の部分(32b)を回転可能に支持する第2ベアリング(82)と、
前記軸方向において、前記デファレンシャルギアの前記減速機と反対側の端部(71a)を回転可能に支持する第3ベアリング(83)と、
を備える、請求項1又は2に記載の車軸駆動装置。
【請求項5】
前記ロータは、前記軸方向の一端(32a)が開口した円筒部(32)と、前記円筒部の開口を塞ぐように前記円筒部に組み付けられた円板部(33)とを備えている、請求項2に記載の車軸駆動装置。
【請求項6】
前記コイルに流す電流を制御する回路(39)が、前記ロータ及び前記ステータに対して径方向外側に配置されている、請求項1又は2に記載の車軸駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車軸を駆動する車軸駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータ及びマグネットに対して径方向内側に配置され、ロータの回転を減速して出力軸へ伝達する減速機、を備えた減速機付モータがある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の減速機付モータを、車両の左右の車輪に接続された車軸を回転させる車軸駆動装置として用いる場合、左右の車輪の回転差を吸収するデファレンシャルギア(差動装置)を設けることが望ましい。その場合、モータと減速機とデファレンシャルギアとを、具体的にどのように配置するかが問題となる。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、車軸を駆動する車軸駆動装置において、モータと減速機とデファレンシャルギアとを配置する具体的構成を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の手段は、
車両(10)の左右の車輪(11,12)にそれぞれ接続される左右の車軸(13,14)と、
複数の磁極を有する磁石部(34)を備えた円筒状のロータ(31)と、
前記磁石部に対向して配置された複数相のコイル(37A,37B)を有する円筒状のステータ(36)と、
前記ロータの回転を減速して前記左右の車軸に伝達する減速機(50)と、
前記左右の車軸の回転差を吸収するデファレンシャルギア(70)と、
を備える車軸駆動装置(20)であって、
前記ロータ及び前記ステータに対して径方向内側に、前記減速機及び前記デファレンシャルギアが配置され、
前記ロータ及び前記ステータの軸方向において、前記ロータ及び前記ステータの範囲内に前記減速機及び前記デファレンシャルギアが配置され、
前記減速機と前記デファレンシャルギアとが前記軸方向に並んでいる。
【0007】
上記構成によれば、左右の車軸は、車両の左右の車輪にそれぞれ接続される。このため、左右の車軸を駆動することにより、車両の左右の車輪を駆動することができる。円筒状のロータは、複数の磁極を有する磁石部を備えている。円筒状のステータは、前記磁石部に対向して配置された複数相のコイルを有している。このため、複数相のコイルが通電されることにより、ロータを回転させることができる。減速機は、前記ロータの回転を減速して前記左右の車軸に伝達する。デファレンシャルギアは、前記左右の車軸の回転差を吸収する。このため、ロータの回転を減速して左右の車軸ひいては左右の車輪に伝達するとともに、左右の車輪の回転差を吸収することができる。
【0008】
ここで、前記ロータ及び前記ステータに対して径方向内側に、前記減速機及び前記デファレンシャルギアが配置されている。このため、円筒状のロータ及び円筒状のステータの径方向内側の空間を利用して、前記減速機及び前記デファレンシャルギアを配置することができ、車軸駆動装置を小型化することができる。前記ロータ及び前記ステータの軸方向において、前記ロータ及び前記ステータの範囲内に前記減速機及び前記デファレンシャルギアが配置されている。このため、前記減速機及び前記デファレンシャルギアを配置したとしても、車軸駆動装置の軸方向の長さが前記ロータ及び前記ステータの長さよりも長くなることを避けることができる。さらに、前記減速機と前記デファレンシャルギアとが前記軸方向に並んでいる。このため、前記減速機と前記デファレンシャルギアとが径方向に並んでいる場合と比較して、車軸駆動装置の径方向の大きさが拡大することを抑制することができる。
【0009】
第2の手段では、前記磁石部は、極異方配向又はハルバッハ配向であり、前記ロータの外周面に取り付けられており、前記ロータは、前記ステータの径方向内側に配置され、前記減速機及び前記デファレンシャルギアのケース(32,33)を兼ねている。
【0010】
上記構成によれば、前記磁石部は、極異方配向又はハルバッハ配向であり、前記ロータの外周面に取り付けられている。極異方配向又はハルバッハ配向の磁石部は、磁気回路を形成する軟磁性部材等のコアバックが必要ないため、磁石部を取り付ける部材に対する厚みや形状の制約が少なくなる。したがって、ロータの外周面に磁石部を直接取り付けることができる。さらに、前記ロータは、前記ステータの径方向内側に配置され、前記減速機及び前記デファレンシャルギアのケースを兼ねている。このため、磁石部を保持する機能と、前記減速機及び前記デファレンシャルギアを収納するケースの機能とを、ロータに持たせることができる。その結果、車軸駆動装置の構成を簡潔にすることができるとともに、車軸駆動装置の分品点数を削減することができる。
【0011】
一般的に、デファレンシャルギアの重量は、減速機の重量よりも大きい。このため、ロータ及びステータの軸方向において、車軸駆動装置の中心からデファレンシャルギアが離れていると、車軸駆動装置の駆動状態が不安定になるおそれがある。
【0012】
この点、第3の手段では、前記軸方向において、前記車軸駆動装置の中心に前記デファレンシャルギアが重なっている。こうした構成によれば、前記ロータ及び前記ステータの軸方向において、重量が大きいデファレンシャルギアを車軸駆動装置の中心近くに配置することができる。したがって、車軸駆動装置の駆動状態を安定させることができる。
【0013】
前記減速機と前記デファレンシャルギアとが前記軸方向に並んでいる構成では、車軸駆動装置の前記軸方向の長さが長くなりやすい。
【0014】
この点、第4の手段では、前記ロータは、前記ステータの径方向内側に配置され、前記軸方向において、前記ロータの前記減速機に対して前記デファレンシャルギアと反対側の部分(33a)を回転可能に支持する第1ベアリング(81)と、前記軸方向において、前記ロータの前記デファレンシャルギアに対して前記減速機と反対側の部分(32b)を回転可能に支持する第2ベアリング(82)と、前記軸方向において、前記デファレンシャルギアの前記減速機と反対側の端部(71a)を回転可能に支持する第3ベアリング(83)と、を備える。
【0015】
上記構成によれば、前記減速機と前記デファレンシャルギアとが前記軸方向に並んでいる構成において、ロータにおける前記減速機に対して前記デファレンシャルギアと反対側の部分を第1ベアリングにより支持し、ロータにおける前記デファレンシャルギアに対して前記減速機と反対側の部分を第2ベアリングにより支持することができる。このため、ロータの軸方向の長さが長くなりやすい構成において、ロータを安定して回転可能に支持することができる。さらに、デファレンシャルギアにおいて減速機と接続される側と反対側の端部を第3ベアリングにより回転可能に支持することができ、デファレンシャルギアの回転を安定させることができる。
【0016】
第5の手段では、前記ロータは、前記軸方向の一端(32a)が開口した円筒部(32)と、前記円筒部の開口を塞ぐように前記円筒部に組み付けられた円板部(33)とを備えている。こうした構成によれば、前記ロータが前記減速機及び前記デファレンシャルギアのケースを兼ねている場合であっても、円筒部の開口からロータの内部へ前記減速機及び前記デファレンシャルギアを収納することができる。その後、円筒部に円板部を組み付けることにより、円筒部の開口を塞いで車軸駆動装置を組み立てることができる。
【0017】
前記減速機と前記デファレンシャルギアとが前記軸方向に並んでいる構成では、車軸駆動装置の前記軸方向の長さが長くなりやすい。
【0018】
この点、第6の手段では、前記コイルに流す電流を制御する回路(39)が、前記ロータ及び前記ステータに対して径方向外側に配置されている。こうした構成によれば、車軸駆動装置の前記軸方向の長さが長くなりやすい構成において、上記回路が減速機及びデファレンシャルギアに対して前記軸方向に配置される場合と比較して、車軸駆動装置の前記軸方向の長さが長くなることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、車両の左右の車輪にそれぞれ接続される左右の車軸を駆動する車軸駆動装置に具現化した一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0021】
図1に示すように、車両10は、左右の車輪11,12を備えている。左右の車輪11,12には、それぞれ左右の車軸13,14が接続されている。車輪11,12は、それぞれ車軸13,14の回転により回転する。左右の車軸13,14は、水平方向に延び、かつ同軸上に設けられており、不図示の懸架装置により回転自在に支持されている。
【0022】
車軸駆動装置20は、上記車軸13,14、回転電機30、減速機50、及び差動装置70等を備えている。減速機50は、回転電機30のロータの回転を減速して左右の車軸13,14に伝達する。そして、回転電機30のロータの回転により、左右の各車輪11,12に対してそれぞれ回転動力が付与される。差動装置70(デファレンシャルギア)は、左右の車軸13,14(すなわち車輪11,12)の回転差を吸収する。車軸駆動装置20は、例えば車両10の車体部(例えば車体フレーム)に固定されている。
【0023】
車両10は、例えば前側車輪と後側車輪とを有する4輪車両であり、前側車輪及び後側車輪のいずれかに車軸駆動装置20が設けられている。つまり、前側車輪及び後側車輪の一方が駆動輪、他方が従動輪である。ただし、車両10において前側車輪及び後側車輪の両方に車軸駆動装置20が設けられている構成であってもよい。また、車両10は、左右一対の車輪11,12を1組のみ有する車両、又は同車輪11,12を3組以上有する車両であってもよい。
【0024】
次に、車軸駆動装置20の詳細な構成を説明する。
図2は車軸駆動装置20の斜視図であり、
図3は車軸駆動装置20の縦断面図である。
図3は、車軸駆動装置20において車軸13,14の回転中心軸C1を含む縦断面図の上側半分である。
【0025】
回転電機30は、インナロータ式の表面磁石型回転電機であり、基本構成として、ロータ31、ステータ36、及びインバータユニット39を有している。回転電機30において、極数や、相数、各部材の寸法(大きさ)については適宜の設定が可能である。
【0026】
ロータ31は、第1ギアケース32、第2ギアケース33、及び磁石部34等を備えている。
【0027】
第1ギアケース32(円筒部)は、円筒状に形成されている。第1ギアケース32は、軸方向の一端32aが開口しており、他端に底部32bを備えている。第2ギアケース33(円板部)は、円板状に形成され、第1ギアケース32の開口を塞ぐように、詳しくは開口のうち車軸13以外の部分を塞ぐように第1ギアケース32に組み付けられている。第2ギアケース33は、軸方向に突出する円筒状の軸部33aを備えている。軸部33aには、車軸13が挿通されている。ロータ31は、円筒状に形成されたステータ36の径方向内側に配置されている。ロータ31は、減速機50及び差動装置70のギアケース(ケース)を兼ねている。ギアケースは、第1ギアケース32と第2ギアケース33とに分割されている。
【0028】
第1ギアケース32(ロータ31)の外周面には、環状の磁石部34が取り付けられている。第1ギアケース32は、磁石保持部材としての機能を有する。磁石部34は、円環状をなしており、ロータ31の周方向に沿って極性が交互に変わるように配置された複数の永久磁石により構成されている。つまり、磁石部34は、周方向に複数の磁極を有している。永久磁石は、例えば接着により第1ギアケース32に固定されている。
【0029】
磁石部34は、それぞれ極異方性磁石でありかつ極性が互いに異なる第1磁石及び第2磁石を有しており、極異方性配向である。第1磁石及び第2磁石ではそれぞれ、d軸側(d軸寄りの部分)とq軸側(q軸寄りの部分)とで磁化容易軸の向きが相違しており、d軸側では磁化容易軸の向きがd軸に平行な方向に近い向きとなり、q軸側では磁化容易軸の向きがq軸に直交する方向に近い向きとなっている。そして、この磁化容易軸の向きに応じた配向により円弧状の磁石磁路が形成されている。
【0030】
ステータ36は、ロータ31の径方向外側に設けられている。ステータ36は、略筒状(環状)に巻回形成された多相(例えば6相)のステータ巻線37A,37Bと、ベース部材としてのステータコア38とを備えている。ステータ巻線37A,37B(コイル)は、所定のエアギャップを挟んで円環状の磁石部34に対向するように配置されている。ステータ36は、全体として円筒状に形成されている。
【0031】
ステータ36は、スロットレス構造とステータ巻線37A,37Bの扁平導線構造とを有することを特徴としている。すなわち、ステータコア38は、軸方向に複数の電磁鋼板が積層され、かつ径方向に所定の厚さを有する円筒状をなしており、ステータコア38においてロータ31側となる径方向内側にステータ巻線37A,37Bが組み付けられている。
【0032】
インバータユニット39は、複数の半導体モジュール、制御基板、及びコンデンサモジュール等を備えている。これら電気部品により、インバータ回路が構成されている。インバータ回路により、ステータ巻線37A,37B等の各相巻線に対して相ごとに電流を流してロータ31を回転させる力行機能と、車軸13,14の回転に伴い流れるステータ巻線37A,37B等の3相交流電流により発電電力を出力する発電機能とが実現される。すなわち、インバータ回路(回路)は、ステータ巻線37A,37B等の各相巻線に流す電流を制御する。例えば、コンデンサモジュールは、複数の平滑用コンデンサを備えている。半導体モジュールは、例えばMOSFETやIGBT等の半導体スイッチング素子を有する。インバータユニット39は、直方体状のケースを備えており、ロータ31及びステータ36に対して径方向外側に取り付けられている(配置されている)。なお、インバータユニット39は、力行機能のみを有するものであってもよい。
【0033】
次に、差動装置70について説明する。
【0034】
差動装置70は、回転電機30に一体的に設けられており、具体的には、回転電機30においてステータ36及びロータ31の径方向内側に組み付けられている。より詳しくは、回転電機30は、ロータ31の内側に、軸方向に延びる円柱状空間を有しており、その円柱状空間内に差動装置70が配置されている。この場合、回転電機30においては、いずれも車軸13,14を中心とする同軸上に、径方向外側から順にステータ36、ロータ31が設けられ、さらにその径方向内側に差動装置70が設けられている。差動装置70は、ロータ31(ステータ36)の軸方向(以下、単に「軸方向」という)において、ステータ巻線37A,37B(ステータ36)及びロータ31の範囲内、特にステータコア38及び磁石部34の範囲内に配置されている。
【0035】
差動装置70の重量は、減速機50の重量よりも大きい。このため、軸方向において、車軸駆動装置20の中心から差動装置70が離れていると、車軸駆動装置20の駆動状態が不安定になるおそれがある。そこで、軸方向において、差動装置70は減速機50よりも車軸駆動装置20の中心寄りに配置されている。具体的には、軸方向において、車軸駆動装置20の中心に差動装置70が重なっている。すなわち、差動装置70は、回転電機30(車軸駆動装置20)の重心付近に配置されている。
【0036】
差動装置70は、デフケース71と、デフケース71内に設けられた複数のピニオンギアと、同じくデフケース71内に設けられ、左右の各車軸13,14にそれぞれ結合されている一対のサイドギア等を備える周知の構成である。デフケース71は、有底円筒状に形成されている。各ピニオンギアは、デフケース71の回転時において、デフケース71と共に車軸13,14を軸中心として回転する。各サイドギアは、それぞれピニオンギアと噛み合っている。そして、例えば車両10においてカーブ路の内側になる車輪と外側になる車輪とで回転速度差が生じる場合に、各ピニオンギアが、車軸13,14の軸方向に直交する方向を軸中心として回転する。これにより、デフケース71の回転が、各サイドギアで互いに異なる回転速度で振り分けられて伝えられる。
【0037】
デフケース71(本体)は、ベアリング83を介して固定体80により回転可能に支持されている。固定体80(支持部材)は、車体フレーム等に固定されており、回転しない部材である。固定体80は、円筒状の大径部80aと、大径部80aよりも径が小さい円筒状の小径部80bとを備えている。ベアリング83(第3ベアリング)は、例えば玉軸受である。詳しくは、ベアリング83は、固定体80の大径部80aの内周面と、デフケース71の外周面との間に配置されている。ベアリング83は、軸方向においてデフケース71(差動装置70)の減速機50と反対側の端部71aを、固定体80の大径部80aに対して回転可能(大径部80aと相対回転可能)に支持している。
【0038】
固定体80の小径部80bの外周面と、ロータ31の第1ギアケース32の底部32bの内周面との間には、ベアリング82が設けられている。ベアリング82(第2ベアリング)は、例えば玉軸受である。ベアリング82は、第1ギアケース32の底部32b(軸方向においてロータ31の差動装置70に対して減速機50と反対側の部分)を、固定体80の小径部80bに対して回転可能(小径部80bと相対回転可能)に支持している。
【0039】
ロータ31の第2ギアケース33の軸部33aは、ベアリング81により回転可能に支持されている。ベアリング81(第1ベアリング)は、例えば玉軸受である。ベアリング81は、ロータ31の第2ギアケース33の軸部33a(軸方向においてロータ31の減速機50に対して差動装置70と反対側の部分)を、回転可能に支持している。
【0040】
ステータ36及びロータ31の内周側に形成される環状空間に、ロータ31の回転を所定の減速比で減速する減速機50が設けられている。減速機50は、ロータ31及び差動装置70に接続されており、ロータ31の回転を所定の減速比で減速して差動装置70、ひいては車軸13,14に伝達する。回転電機30においては、いずれも車軸13,14を中心とする同軸上に、径方向外側から順にステータ36、ロータ31が設けられ、さらにその径方向内側に減速機50が設けられている。減速機50は、軸方向において、ステータ巻線37A,37B(ステータ36)及びロータ31の範囲内に配置され、特にステータコア38及び磁石部34の範囲内に一部が配置され残りの部分が範囲外に配置されている。軸方向において、車軸駆動装置20の中心に減速機50は重なっていない。差動装置70と減速機50とは、車軸13,14を中心とする同軸上に軸方向に並んで配置されている。
【0041】
回転電機30では、ロータ31の回転は減速機50により減速されてデフケース71側に伝えられる。減速機50は、内歯を有するリングギアと、外歯を有するサンギアと、リングギア及びサンギアの間に配置され、これら各ギアに噛み合う複数のピニオンギアと、複数のピニオンギアを回転可能に支持するキャリアと、を有する周知の遊星歯車機構である。ロータ31の回転時には、サンギアの回転に応じて各ピニオンギアが回転するとともに、そのピニオンギアの回転に伴いキャリアと共にデフケース71が一体回転する。そして、回転電機30の回転、すなわちロータ31の回転が減速機50にて定められた所定の減速比で減速され、減速後の回転速度でデフケース71と共に車軸13,14が回転する。この場合、リングギアが固定された状態で、サンギアの回転(すなわちロータ31の回転)に対してキャリアが減速回転する。
【0042】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0043】
・左右の車軸13,14は、車両10の左右の車輪11,12にそれぞれ接続されている。このため、左右の車軸13,14を駆動することにより、車両10の左右の車輪11,12を駆動することができる。円筒状のロータ31は、複数の磁極を有する磁石部34を備えている。円筒状のステータ36は、磁石部34に対向して配置された複数相のステータ巻線37A、37B等(コイル)を有している。このため、複数相のステータ巻線37A、37B等が通電されることにより、ロータ31を回転させることができる。減速機50は、ロータ31の回転を減速して左右の車軸13,14に伝達する。差動装置70は、左右の車軸13,14の回転差を吸収する。このため、ロータ31の回転を減速して左右の車軸13,14ひいては左右の車輪11,12に伝達するとともに、左右の車輪11,12の回転差を吸収することができる。
【0044】
・ロータ31及びステータ36に対して径方向内側に、減速機50及び差動装置70が配置されている。このため、円筒状のロータ31及び円筒状のステータ36の径方向内側の環状空間を利用して、減速機50及び差動装置70を配置することができ、車軸駆動装置20を小型化することができる。ロータ31及びステータ36の軸方向において、ロータ31及びステータ36の双方の範囲内に減速機50及び差動装置70が配置されている。このため、減速機50及び差動装置70を配置したとしても、車軸駆動装置20の軸方向の長さがロータ31及びステータ36の長さよりも長くなることを避けることができる。さらに、減速機50と差動装置70とが、車軸13,14を中心とする同軸上に軸方向に並んでいる。このため、減速機50と差動装置70とが径方向に並んでいる場合と比較して、車軸駆動装置20の径方向の大きさが拡大することを抑制することができる。
【0045】
・磁石部34は、極異方配向であり、ロータ31の第1ギアケース32の外周面に取り付けられている。極異方配向の磁石部34は、磁気回路を形成する軟磁性部材等のコアバックが必要ないため、磁石部34を取り付ける部材に対する厚みや形状の制約が少なくなる。したがって、ロータ31の第1ギアケース32の外周面に磁石部34を直接取り付けることができる。さらに、ロータ31は、ステータ36の径方向内側に配置され、減速機50及び差動装置70のギアケース(ケース)を兼ねている。このため、磁石部34を保持する機能と、減速機50及び差動装置70を収納するケースの機能とを、ロータ31に持たせることができる。その結果、車軸駆動装置20の構成を簡潔にすることができるとともに、車軸駆動装置20の分品点数を削減することができる。
【0046】
・軸方向において、車軸駆動装置20の中心に差動装置70が重なっている。こうした構成によれば、ロータ31及びステータ36の軸方向において、重量が減速機50よりも大きい差動装置70を、車軸駆動装置20の中心近くに配置することができる。したがって、車軸駆動装置20の駆動状態を安定させることができる。
【0047】
・減速機50と差動装置70とが軸方向に並んでいる構成では、車軸駆動装置20の軸方向の長さが長くなりやすい。この点、ロータ31における減速機50に対して差動装置70と反対側の部分である軸部33aをベアリング81により支持し、ロータ31における差動装置70に対して減速機50と反対側の部分である底部32bをベアリング82により支持している。このため、ロータ31の軸方向の長さが長くなりやすい構成において、ロータ31の軸方向の両端部を回転可能に支持することができ、ロータ31を安定して回転可能に支持することができる。さらに、差動装置70のデフケース71において減速機50と接続される側と反対側の端部71aをベアリング83により回転可能に支持しており、差動装置70の回転を安定させることができる。
【0048】
・ロータ31は、軸方向の一端32aが開口した第1ギアケース32(円筒部)と、第1ギアケース32の開口を塞ぐように第1ギアケース32に組み付けられた第2ギアケース33(円板部)とを備えている。こうした構成によれば、ロータ31が減速機50及び差動装置70のケースを兼ねている場合であっても、第1ギアケース32の開口からロータ31の内部へ減速機50及び差動装置70を収納することができる。その後、第1ギアケース32に第2ギアケース33を組み付けることにより、第1ギアケース32の開口を塞いで車軸駆動装置20を組み立てることができる。
【0049】
・ステータ巻線37A、37Bに流す電流を制御する回路であるインバータユニット39(インバータ回路)が、ロータ31及びステータ36に対して径方向外側に配置されている。こうした構成によれば、車軸駆動装置20の軸方向の長さが長くなりやすい構成において、インバータユニット39が減速機50及び差動装置70に対して軸方向に配置される場合と比較して、車軸駆動装置20の軸方向の長さが長くなることを抑制することができる。
【0050】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0051】
・インバータユニット39を、減速機50及び差動装置70に対して軸方向に配置することもできる。
【0052】
・磁石部34は、磁化方向を径方向とする第1磁石と、磁化方向を周方向とする第2磁石とを有し、周方向に所定間隔で第1磁石が配置されるとともに、周方向において隣り合う第1磁石の間に第2磁石が配置されたハルバッハ配向であってもよい。この場合も、磁気回路を形成する軟磁性部材等のコアバックを必要としない。また、磁石部34が極異方性配向及びハルバッハ配向のいずれでもなく、軟磁性部材等のコアバックを備えた構成を採用することもできる。
【0053】
・ベアリング81又はベアリング82を省略して、ロータ31を方持ち支持することもできる。
【0054】
・軸方向において、車軸駆動装置20の中心に減速機50が重なっている構成を採用することもできる。また、軸方向において、車軸駆動装置20の中心に、差動装置70と減速機50との間に配置された部材が重なっている構成を採用することもできる。
【0055】
・差動装置70のケースと減速機50のケースとが別体である構成を採用することもできる。減速機50は、平行軸歯車減速機や、ヘリカル減速機等、遊星歯車機構以外の減速機であってもよい。
【0056】
・磁石部34がロータ31の内周面に取り付けられ、磁石部34に径方向内側で対向するステータ巻線37A,37B(コイル)をステータ36が備えたアウタロータ式の回転電機とすることもできる。この場合であっても、ロータ31及びステータ36に対して径方向内側に、減速機50及び差動装置70を配置すればよい。これにより、円筒状のロータ31及び円筒状のステータ36の径方向内側の環状空間を利用して、減速機50及び差動装置70を配置することができ、車軸駆動装置20を小型化することができる。そして、上記実施形態と同様に、ロータ31及びステータ36の軸方向において、ロータ31及びステータ36の双方の範囲内に減速機50及び差動装置70を配置するとよい。また、減速機50と差動装置70とを、車軸13,14を中心とする同軸上に軸方向に並べて配置するとよい。
【0057】
なお、上記実施形態及びその変更例を、組み合わせ可能な範囲で組み合わせて実施することもできる。
【0058】
以下、上述した実施形態及び変更例から抽出される特徴的な構成を記載する。
[構成1]
車両(10)の左右の車輪(11,12)にそれぞれ接続される左右の車軸(13,14)と、
複数の磁極を有する磁石部(34)を備えた円筒状のロータ(31)と、
前記磁石部に対向して配置された複数相のコイル(37A,37B)を有する円筒状のステータ(36)と、
前記ロータの回転を減速して前記左右の車軸に伝達する減速機(50)と、
前記左右の車軸の回転差を吸収するデファレンシャルギア(70)と、
を備える車軸駆動装置(20)であって、
前記ロータ及び前記ステータに対して径方向内側に、前記減速機及び前記デファレンシャルギアが配置され、
前記ロータ及び前記ステータの軸方向において、前記ロータ及び前記ステータの範囲内に前記減速機及び前記デファレンシャルギアが配置され、
前記減速機と前記デファレンシャルギアとが前記軸方向に並んでいる、車軸駆動装置。
[構成2]
前記磁石部は、極異方配向又はハルバッハ配向であり、前記ロータの外周面に取り付けられており、
前記ロータは、前記ステータの径方向内側に配置され、前記減速機及び前記デファレンシャルギアのケース(32,33)を兼ねている、構成1に記載の車軸駆動装置。
[構成3]
前記軸方向において、前記車軸駆動装置の中心に前記デファレンシャルギアが重なっている、構成1又は2に記載の車軸駆動装置。
[構成4]
前記ロータは、前記ステータの径方向内側に配置され、
前記軸方向において、前記ロータの前記減速機に対して前記デファレンシャルギアと反対側の部分(33a)を回転可能に支持する第1ベアリング(81)と、
前記軸方向において、前記ロータの前記デファレンシャルギアに対して前記減速機と反対側の部分(32b)を回転可能に支持する第2ベアリング(82)と、
前記軸方向において、前記デファレンシャルギアの前記減速機と反対側の端部(71a)を回転可能に支持する第3ベアリング(83)と、
を備える、構成1~3のいずれか1つに記載の車軸駆動装置。
[構成5]
前記ロータは、前記軸方向の一端(32a)が開口した円筒部(32)と、前記円筒部の開口を塞ぐように前記円筒部に組み付けられた円板部(33)とを備えている、構成2に記載の車軸駆動装置。
[構成6]
前記コイルに流す電流を制御する回路(39)が、前記ロータ及び前記ステータに対して径方向外側に配置されている、構成1~5のいずれか1つに記載の車軸駆動装置。
【符号の説明】
【0059】
10…車両、11…車輪、12…車輪、13…車軸、14…車軸、20…車軸駆動装置、31…ロータ、34…磁石部、36…ステータ、37A…ステータ巻線、37B…ステータ巻線、50…減速機、70…差動装置。