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特開2024-100126ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100126
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/21 20060101AFI20240719BHJP
   C07C 39/17 20060101ALI20240719BHJP
   C07C 41/18 20060101ALI20240719BHJP
   C07C 37/50 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
C07C43/21 CSP
C07C39/17
C07C41/18
C07C37/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003875
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】597065329
【氏名又は名称】学校法人 龍谷大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】岩澤 哲郎
【テーマコード(参考)】
4H006
【Fターム(参考)】
4H006AA01
4H006AA02
4H006AC26
4H006BA09
4H006BA37
4H006BB11
4H006BB12
4H006FC56
4H006FE13
4H006GP03
(57)【要約】
【課題】ジベンゾ[g,p]クリセンの2つのベイ領域に五員環を導入したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体、および、その製造方法を提供する。
【解決手段】1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のsp炭素原子を介して5員環を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体に関する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のsp炭素原子を介して5員環を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体。
【請求項2】
3位、6位、11位、14位に置換基が存在しない請求項1に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体。
【請求項3】
5員環を構成するsp炭素原子が2個のアリール基を有する請求項1または2に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体。
【請求項4】
アリール基が酸素含有置換基を有する請求項3に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体。
【請求項5】
下記式
【化1】
、または、
【化2】
で表される請求項4に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体。
【請求項6】
(a)3位、6位、11位、14位に、分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を有し、8位または9位、1位または16位に、ハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、カルボニル化合物を反応させて、ハロゲノ基をエステル基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する工程、
(b)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを加水分解して、エステル基をカルボキシ基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する工程、
(c)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γのカルボキシ基を酸ハライド基に変換して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δを合成する工程、
(d)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δをルイス酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行って環化して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体εを合成する工程、
(e)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体εと芳香族化合物を酸性条件下で反応させて、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ζを合成する工程、
(f)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ζの3位、6位、11位、14位に有する分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を除去し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ηを合成する工程、
を含む請求項2に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の製造方法。
【請求項7】
さらに、
(g)工程(f)で得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ηを脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化する工程を含む請求項6に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン、および4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンは、以下の化学式に示すように、6個の六員環と2個の五員環を有しており、バックミンスターフラーレンC60の部分構造に相当するバッキーボウル分子である。
【0003】
【化1】
【0004】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン、および4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンは、典型的な非平面性のπ共役系構造を有する多環芳香族炭化水素(PAHs)として知られ、炭素数28個の比較的小さな有機分子である。C60の断片構造(フラグメント)であることから、C60と似たような有機エレクトロニクス材料・有機半導体材料としての性質を持つのではないかと目されている。また、C60の部分構造であることから様々な炭素材料としての可能性も有すると期待されている。しかしながら、これまでにこれらの実質的な合成に関する報告は皆無であり、誘導体さえ報告されていない。過去の合成例においては、バッキーボウルと言えば1966年のコランニュレン、1984年のトルキセン、および2003年のスマネンの合成報告(たとえば特許文献1)が最もよく知られている。コランニュレンとスマネンと同じ時期に、学界や産業界に影響を与えるようなバッキーボウルの報告はほとんど見当たらない。材料展開という視点において、それらの可能性は滞っている。
【0005】
非特許文献1には、一方のベイ領域が5員環構造となったインデノクリセン誘導体が開示されている。しかしながら、両方のベイ領域が5員環構造のクリセン誘導体は開示されていない。また、開示された方法では、両方のベイ領域に5員環構造を導入することは不可能である。
【0006】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体、および4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体は、下記化学式に示すように、ジベンゾ[g,p]クリセンのベイ領域と言われる箇所(1位・8位・9位・16位の炭素原子周辺)に二つの五員環を形成することで得られる。この反応では、対称性良く二炭素を増炭することが鍵となる。しかしながら、ジベンゾ[g,p]クリセンは、フィヨルド領域と呼ばれる4位、5位、12位、13位の炭素原子に結合した水素原子が大きな立体反発を生むため、ベイ領域をメチレン架橋することは非常に困難である。実際、これまでに、2箇所のベイ領域に五員環を形成して架橋した報告は皆無である。
【0007】
【化2】
【0008】
4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンは、4位と11位にベンジル位型のメチレン基を有するため、官能基を取り付けることでさまざまな誘導体へと変換することができる。ただし、現在のところ、そもそも4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンが報告されていないため、メチレン基を活性化して官能基を置換することが難しいという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-67446号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Ito,H.;Itami,K.,Angew.Chem.,Int.Ed.2017,56,12224-12228.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、4,11-ジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンの4位と11位に置換基を有する誘導体を合成し、新物質としてのC60断片を合成することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の合成方法について検討を進めたところ、8位または9位、1位または16位にハロゲノ基を、3位、6位、11位、14位にアルキル基等を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体と、カルボニル化合物を反応させて、ハロゲノ基をエステル基に変換して環化すれば、2つのベイ領域に五員環を導入したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体を合成でき、アルキル基等を容易に除去できることを見出した。
【0013】
加えて、本発明者らは、8位または9位、1位または16位にハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、芳香族ケトン化合物を反応させて、ハロゲノ基をジアリールヒドロキシ基に変換して環化すれば、2つのベイ領域に五員環を導入したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体を合成でき、3位、6位、11位、14位に存在するアルキル基等を容易に除去することも見出した。これらの新たな発見によって、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明(1)は、1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のsp炭素原子を介して5員環を形成したジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体である。
【0015】
本発明(2)は、3位、6位、11位、14位に置換基が存在しない本発明(1)に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体である。
【0016】
本発明(3)は、5員環を構成するsp炭素原子が2個のアリール基を有する本発明(1)または(2)に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体である。
【0017】
本発明(4)は、アリール基が酸素含有置換基を有する本発明(3)に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体である。
【0018】
本発明(5)は、下記式
【化3】
、または、
【化4】
で表される本発明(4)に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体である。
【0019】
また、本発明(6)は、
(a)3位、6位、11位、14位に、分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を有し、8位または9位、1位または16位に、ハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、カルボニル化合物を反応させて、ハロゲノ基をエステル基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する工程、
(b)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを加水分解して、エステル基をカルボキシ基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する工程、
(c)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γのカルボキシ基を酸ハライド基に変換して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δを合成する工程、
(d)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δをルイス酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行って環化して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体εを合成する工程、
(e)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体εと芳香族化合物を酸性条件下で反応させて、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ζを合成する工程、
(f)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ζの3位、6位、11位、14位に有する分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を除去し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ηを合成する工程、
を含む本発明(2)~(5)のいずれかに記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の製造方法である。
【0020】
本発明(7)は、
(g)工程(f)で得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ηを脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化する工程を含む本発明(6)に記載のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の製造方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体は、ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン骨格を有する新たなバッキーボウルである。また、ジベンゾクリセン骨格には嵩高い置換基を有していないため、分子構造の嵩高さが抑えられ、分子間相互作用を期待した素材の開発を見込むことができるとともに、フェノール性水酸基の反応性を利用した素材の開発が期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体は、ジベンゾ[g,p]クリセンの1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のsp炭素原子を介して5員環を形成したことを特徴とする。
【0023】
ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンは、下記化学式
【化5】
で表される化合物である。各炭素の置換位置を図中に示す。ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンの骨格構造は、ジベンゾ[g,p]クリセンの1位と16位の炭素原子、および、8位と9位の炭素原子が、それぞれ1個のsp炭素原子を介して5員環構造を形成した化合物である。ここで、ジベンゾ[g,p]クリセンは、下記化学式
【化6】
で表される化合物である。各炭素の置換位置を図中に示す。
【0024】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体は、3位、6位、11位、14位に、置換基を有していないことが好ましい。
【0025】
5員環を構成するsp炭素原子は置換基を有していることが好ましい。置換基としては、アリール基、アルキル基、アリル基、アルケニル基、および、アルキニル基などが挙げられる。なかでも、アリール基が好ましい。
【0026】
アリール基の炭素数は6~14が好ましい。例えば、フェニル基、ナフチル基、アントリル(anthryl)基などが挙げられる。アリール基は、酸素含有置換基を有することが好ましい。酸素含有置換基としては、ヒドロキシ基、アルコキシ基、エステル基などが挙げられる。
【0027】
アルキル基、アルケニル基、アルキニル基の炭素数は3~12が好ましく、3~8がより好ましい。例えば、iso-プロピル、n-プロピル、iso-ブチル、n-ブチル、tert-ブチル、n-ブチル、2,2-ジメチルプロピル、n-ペンチル、iso-ヘキシル、n-ヘキシル、iso-ヘプチル、n-ヘプチル、iso-オクチル、n-オクチル、iso-ノニル、n-ノニル、iso-デシル、n-デシル、iso-ウンデシル、n-ウンデシル、iso-ドデシル、n-ドデシル等が挙げられる。アルケニル基は、前記アルキル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニル基は、前記アルキル基の内部または末端に三重結合を有する基である。
【0028】
アリール基、アルキル基、アリル基、アルケニル基、および、アルキニル基は、他の置換位置に置換基を有していても良い。他の置換基としては、アリール基、アルキル基、アリル基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基などが挙げられる。アリール基、アルキル基、アリル基、アルケニル基、アルキニル基については、前述したとおりである。
【0029】
アルキルエーテル基としては、置換基を有していてもよい直鎖状又は分枝状のアルキルエーテル基が挙げられる。アルキルエーテル基の炭素数は1~12が好ましく、1~8がより好ましい。例えば、メチルエーテル基、エチルエーテル基、n-プロピルエーテル基、iso-プロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基、n-ヘプチルエーテル基、n-オクチルエーテル基、n-ノニルエーテル基、n-デシルエーテル基、n-ウンデシルエーテル基、n-ドデシルエーテル基等が挙げられ、メチルエーテル基、エチルエーテル基、n-プロピルエーテル基、n-ブチルエーテル基、2―メチルプロピルエーテル基、n-ペンチルエーテル基、2,2-ジメチルプロピルエーテル基、n-ヘキシルエーテル基が好ましい。アルケニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に二重結合を有する基であり、アルキニルエーテル基は、前記アルキルエーテル基の内部または末端に三重結合を有する基である。
【0030】
ポリオキシアルキレン基としては、アルキレンジオールの単独重合体または共重合体の末端の水素を取った置換基である。このような置換基を導入することで、水または水溶性有機溶媒に溶解しやすくなる。ポリオキシアルキレンとしては、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン等が挙げられる。重合度は、ポリエチレングリコールの場合には4~450が好ましく、ポリエチレンオキシドの場合には450~10000が好ましい。
【0031】
前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の中でも、4,4’,11,11’-テトラアリールジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセンが好ましく、下記式
【化7】

、または、
【化8】
で表される化合物がより好ましい。
【0032】
たとえば(化1)の化合物を脱メチル化すると、(化2)の化合物を合成することができる。これらのジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体やジヒドロジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体は、たとえば以下に説明する本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の製造方法により作製することができる。
【0033】
本発明の前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の製造方法は、
(a)3位、6位、11位、14位に、分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を有し、8位または9位、1位または16位に、ハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αと、カルボニル化合物を反応させて、ハロゲノ基をエステル基に変換させ、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する工程、
(b)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを加水分解し、エステル基をカルボキシ基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する工程、
(c)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γのカルボキシ基を酸ハライド基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δを合成する工程、
(d)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δをルイス酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行って環化して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体εを合成する工程、
(e)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体εと芳香族化合物を酸性条件下で反応させて、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ζを合成する工程、および、
(f)ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ζの3位、6位、11位、14位に有する分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を除去し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ηを合成する工程
を含むことを特徴とする。
【0034】
工程(a)
工程(a)で使用する3位、6位、11位、14位に、分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を有し、8位または9位、1位または16位に、ハロゲノ基を有するジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αにおいて、ハロゲンとしては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。なかでも、リチウム-ハロゲン交換反応が容易であることから臭素またはヨウ素が好ましい。他の炭素原子に、アルキル基、アリル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲノ基、水酸基、アルキルエーテル基、ポリオキシアルキレン基、アミド基、および、アミノ基などの置換基を有していても良い。具体的なジベンゾ[g,p]クリセン誘導体としては、たとえば
【化9】
などが挙げられる。
【0035】
前記ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は、たとえば以下の製造方法によって作製することができる。
(x)分岐構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基と、ハロゲノ基を有する9―フルオレノン誘導体を二量化し、スピロケトン誘導体を作製する工程、
(y)得られたスピロケトン誘導体を還元してスピロアルコール誘導体を作製する工程、および、
(z)得られたスピロアルコール誘導体を脱水し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体を得る工程
【0036】
9-フルオレノン誘導体における分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基等の置換基、ハロゲノ基は、前述した置換基と同じ置換基である。また、これらの置換基の置換位置は、目的とするジベンゾ[g,p]クリセン誘導体に対応する置換位置に置換されている必要がある。
【0037】
工程(x)におけるフルオレノン誘導体の二量化方法は特に限定されず、亜リン酸トリアルキルなどの酸素親和性の高いルイス塩基試薬の存在下で行う方法が挙げられる。亜リン酸トリアルキルなどの活性化試薬は2当量以上が好ましい。反応温度は特に限定されず、90~200℃が好ましい。
【0038】
工程(y)におけるスピロケトン誘導体の還元法は特に限定されず、水素化ホウ素ナトリウム、水素化アルミニウムリチウム、水素ガスを用いた接触還元法などが挙げられる。
【0039】
工程(z)におけるスピロアルコール誘導体の脱水法は特に限定されず、二塩化エチルアルミニウム、三塩化アルミニウム、濃塩酸、塩酸、メタンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、濃硫酸、希硫酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などが挙げられる。
【0040】
工程(a)で使用するカルボニル化合物としては、ジアルキルカーボネート化合物が挙げられる。ジアルキルカーボネート化合物としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなどが挙げられる。これらのジアルキルカーボネート化合物とジベンゾ[g,p]クリセン誘導体αをn-BuLi、メチルリチウム、フェニルリチウム、ノルマルヘキシルリチウムなどの有機リチウム化合物の存在下でリチウムハロゲン交換反応させて、ハロゲノ基をエステル基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βを合成する。
【0041】
工程(b)
工程(a)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体βは、加水分解し、エステル基をカルボキシ基に変換して、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γを合成する。加水分解は、酸または塩基の存在下で行うことが好ましい。塩基としては、t-BuOK、t-BuONa、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウムなどが挙げられる。
【0042】
工程(c)
工程(b)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体γは、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミドなどのアミド系試薬の存在下において、チオニルクロライドなどのハロゲン化剤と反応させて、カルボキシ基を酸ハライド基に変換し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δを合成する。
【0043】
工程(d)
工程(c)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体δは、三塩化アルミニウムや三フッ化ホウ素や三塩化鉄やゼロ価鉄などのルイス酸、または、塩酸や硫酸やメタンスルホン酸やトリフルオロ酢酸などのブレンステッド酸の存在下でフリーデルクラフツ反応を行って環化し、2つのベイ領域に5員環を形成したジベンゾ[g,p]クリセン誘導体εを合成することができる。
【0044】
工程(e)
工程(d)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体εを、メタンスルホン酸、トルエンスルホン酸、トリフルオロ酢酸、塩酸、濃硫酸、希硫酸などのブレンステッド酸が存在する酸性条件下で、芳香族化合物と反応させることによって、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ζを合成することができる。芳香族化合物としては、フェノール、アニソール、フェニルアリルエーテル(アリルエーテルベンゼン)などが挙げられる。なかでも、水酸基含有置換基を有する芳香族化合物が好ましい。
【0045】
工程(f)
工程(e)で得たジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ζを、酸の存在下で反応させることによって、3位、6位、11位、14位に有する分岐構造または直鎖構造を有するアルキル基、アルケニル基、および、アルキニル基からなる群から選択される置換基を除去し、ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ηを合成することができる。酸としては、三塩化アルミニウム、二塩化エチルアルミニウム、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化鉄、ゼロ価鉄などのルイス酸、および、メタンスルホン酸、二塩化エチルアルミニウム、三塩化アルミニウム、濃塩酸、塩酸、パラトルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸などのブレンステッド酸が挙げられる。
【0046】
本発明の前記ジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の製造方法は、さらに、(g)工程(f)で得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ηを脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化する工程を含むことが好ましい。
【0047】
工程(g)
工程(f)で得られたジベンゾ[g,p]クリセン誘導体ηを脱アルキル化、脱アルケニル化または脱アルキニル化することにより、エーテル基を水酸基に変換することができる。脱アルキル化等を行う方法としては、三臭化ホウ素、三塩化アルミニウム、二塩化エチルアルミニウム、三フッ化ホウ素、三臭化ホウ素、三塩化鉄、ゼロ価鉄などのルイス酸と反応させる方法が挙げられる。
【0048】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体は、高分子材料、高耐熱性樹脂、光機能性材料、有機エレクトロニクス材料、化学センサー材料、高機能炭素材料、分子ナノカーボン材料、グラフェンナノリボン材料の分野に適用される。具体的には、低伝送損失基板材料、低誘電・光接着ポリイミド樹脂用原料、リソグラフィー用材料、レジスト材料、有機EL用材料、接着剤等の樹脂用材料、スーパーエンジニアリングプラスチック用材料、有機半導体材料、有機態様電池用材料、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。特に、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子や、その前駆体の化合物として応用可能である。また、屈折率が高く、プラスチックレンズなどの光学材料として応用可能である。
【実施例0049】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0050】
実施例において、禁水反応はアルゴンまたは窒素雰囲気下で行なっており、特に断りのない限り実験は禁水条件で実施した。購入した無水溶媒・試薬は、改めて精製して純度を向上させることなく使用した。薄層クロマトグラフィーとしてMerck silica 60F254を使用し、カラムクロマトグラフィーとしてシリカゲル60(関東化学(株)製)を用いた。高分解能質量測定(HRMS)として飛行時間型質量分析法(MALDI-TOFまたはLCMS-IT-TOF)または直接質量分析法(DART-MS)のいずれかを用いた。
【0051】
H-NMR、13C-NMRスペクトルについては、5mmのQNPプローブを用い、それぞれ400MHz、100MHzで測定した。化学シフト値はδ(ppm)で示しており、それぞれの溶媒中での基準値はH-NMR:CHCl(7.26),CHCl(5.32)、DMSO(2.50);13C-NMR:CDCl(77.0)、DMSO(39.5)としている。分裂のパターンは、s:単一線、d:二重線、t:三重線、q:四重線、m:多重線、br:幅広線で示す。
【0052】
【化10】
【0053】
合成例1
4-ブロモ-2、7-ジ-tert-ブチルフルオレノン(化合物10)の合成
空気下、200mLの一径フラスコに4-ブロモフルオレン(5.72g,16mmol)とピリジン(32mL)と塩化鉄(III)六水和物(864mg,3.2mmol)を加えた。tert-ブチルペルオキシド(6.6mL,48mmol,70%水溶液)を滴下後、80℃に昇温した。反応1時間後、さらにtert-ブチルペルオキシド(2.2mL,16mmol)を滴下し、原料の完全消失を確認した。反応溶液をシリカゲルとセライトを詰めたグラスフィルターで濾過、除媒濃縮後、得られた黄色固体を塩化メチレンに溶かし抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮後、黄色の粗生成物5.83gを得た。これをイソプロピルアルコールで再結晶操作を行い、化合物10を5.22g(88%)の黄色の結晶として得た。
【0054】
化合物10の分析データ
Rf value 0.37(Hexane/EtOAc=19/1);
H-NMR(400MHz,CDCl)8.18(d,J=8.0Hz,1H),7.73(d,J=2.0Hz,1H),7.66(d,J=1.7Hz,1H),7.56(d,J=1.7Hz,1H),7.55(dd,J=8.0,2.0Hz,1H),1.35(s,9H),1.33(s,9H)ppm;
13C-NMR(100MHz,CDCl)193.6,154.2,153.1,141.4,140.2,137.3,136.3,134.8,131.9,123.1,121.9,120.9,117.3,35.33,35.30,31.4,31.3ppm;
MS(DART-TOFMS)m/z:371[MH]
IR(neat):2960,1714(C=O),1606,1475,1360,1148,826,778,563cm-1
HRMS(DART-TOFMS)calcd for C2124BrO:371.1011[MH],found:371.1009;
Anal.Calcd for C2123BrO:C,67.93;H,6.24.Found:C,67.73;H,6.10.
【0055】
合成例2
スピロケトン誘導体(化合物11、化合物iso-11)の合成
空気下、一径フラスコに化合物10(4-ブロモ-2、7-ジ-tert-ブチルフルオレノン)(6.68g,16mmol)と亜リン酸トリエチル(6.2mL,36mmol)を加え、室温下のオイルバスに浸し175℃に昇温した。60時間撹拌後、60℃に自然降温した。水道水(6.5mL,360mmol)を添加後、再び80℃に昇温した。2時間撹拌後、減圧濾取し、水と冷メタノールで洗浄した。200mLの一径フラスコにメタノールを加え、95℃で加熱還流した。30分撹拌後、室温に自然降温、減圧濾取し、冷メタノールで洗浄した。加熱真空乾燥後、黄白色の粗生成物を5.17g(79%,異性体比50:50)得た。その内500mgを用いてシリカゲルクロマトグラフィーを行い、化合物11を209mg(28%)、化合物iso-11を178mg(33%)の白色固体として得た。化学構造は、X線結晶構造解析により決定した。
【0056】
化合物11の分析データ
Rf value 0.70(Hexane/Toluene=1/1);
H-NMR(400MHz,CDCl)8.72(d,J=8.5Hz,1H),8.42(d,J=8.3Hz,1H),7.82(dd,J=8.5,2.3Hz,1H),7.72(d,J=2.3Hz,1H),7.65(d,J=2.0Hz,1H),7.50(d,J=1.6Hz,1H)7.42(dd,J=8.3,2.0Hz,1H),6.84(d,J=1.6Hz,1H),6.82(d,J=1.8Hz,1H),6.66(d,J=1.8Hz,1H),1.32(s,9H),1.15(s,9H),1.13(s,9H),1.09(s,9H)ppm;
13C-NMR(100MHz,CDCl)198.3,152.5,152.1,152.0,151.4,148.0,145.8,140.7,138.0,137.3,134.9,132.9,132.6,130.6,130.5,129.7,128.6,125.3,125.1,124.9,123.4,122.4,122.2,120.7,116.6,70.3,35.1,35.0(two peaks are overlapped),34.9,31.5,31.4,31.3,31.1ppm;
MS(DART-TOF)m/z:727[MH]
IR(neat):2959,1702(C=O),1454,1362,1229,829,753cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd for C4247BrO:727.1973 [H],found:727.1971;
Anal.Calcd for C4246BrO:C,69.42;H,6.38.Found:C,69.35;H,6.34.
【0057】
化合物iso-11の分析データ
Rf value 0.74(Hexane/Toluene=1/1);
H-NMR(400MHz,CDCl)8.55(d,J=8.3Hz,1H),8.44(d,J=8.3Hz,1H),8.03(d,J=2.0Hz,1H),7.71(d,J=2.0Hz,1H),7.52(d,J=1.5Hz,1H),7.43(dd,J =8.3,2.0Hz,1H),7.41(d,J=8.3,2.1Hz,1H),7.04-7.03(m,2H),6.82(d,J=2.1Hz,1H),1.30(s,9H),1.19(s,9H)1.18(s,9H),1.14(s,9H)ppm;
13C-NMR(100MHz,CDCl)198.0,152.8,152.3,151.9,151.2,147.2,144.9,138.1,138.0,137.7,137.4,136.1,134.0,130.5,128.9,128.8,125.2,125.1,124.9,124.4,123.4,122.9,122.7,119.5,116.6,69.9,35.1(four peaks are overlapped),31.52,31.45,31.3,31.1ppm;
MS(DART-TOF)m/z:727[MH]
IR(neat):2959,1699(C=O),1447,1362,1234,1157,830,746,695cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd for C4247BrO:727.1973[MH],found:727.1988;
Anal.Calcd for C4246BrO:C,69.42;H,6.38.Found:C,69.59;H,6.41.
【0058】
合成例3
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物12、iso-12)混合物の合成
空気下、二径フラスコに化合物iso-11(541mg,0.74mmol)、トルエン(3.0mL)、メタノール(0.6mL)を加え、45℃に昇温した。水素化ホウ素ナトリウム(28mg,0.74mmol)を20分かけて添加後、30分間攪拌した。アセトン(0.5mL)を加え、30分間攪拌後、室温に自然降温した。有機層を水で洗浄し、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮を経て黄白色の粗生成物520mgを得た。得られた粗生成物は精製することなくそのまま次のステップに供した。
【0059】
得られた粗生成物(250mg、0.34mmol)のトルエン(2.5mL)溶液にヘキサフルオロ-2-イソプロパノール(2.5mL)と濃塩酸(0.02mL,0.21mmol,35%水溶液)を加えた。1時間攪拌後、0℃で飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えて反応停止操作を行った。得られた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮を行い、白色の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、白色固体の混合物(化合物12:化合物iso-12=91:9)を221mg(91%)で得た。
【0060】
【化11】
【0061】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【0062】
合成例4
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物14、iso-14)混合物の合成
アルゴン雰囲気下、二径フラスコに、合成例3で合成した化合物12(3.20g,4.5mmol)と無水ジエチルエーテル(80mL)を加えた。ノルマルブチルリチウム(10.4mL,16.2mmol,1.56Mヘキサン溶液)を-78℃下で5分かけて滴下し、15分間撹拌後、炭酸ジメチル(1.9mL,22.5mmol)を加えた。反応溶液を30分間撹拌後、室温へ昇温した後にさらに2時間攪拌を行い、1M塩酸を加えて反応停止操作を行った。水層に対してトルエンで抽出操作を行い、飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、3.23gの粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、1.75g(58%,異性体比57:43)の化合物14を白色固体として得た。
化合物14の分析データ
M.p.250℃.
H-NMR(400MHz,CDCl)8.78(d,J=2.0Hz,2H),8.62(d,J=2.0Hz,2H),8.61(d,J=2.0Hz,2H),8.45(d,J=2.0 Hz,2H),8.04(d,J=8.6Hz,2H),8.03(d,J=8.6Hz,2H),7.86(d,J=2.0Hz,2H),7.81(d,J=2.0Hz,2H),7.59(dd,J=2.0,8.6Hz,4H),4.05(s,6H),4.04(s,6H),1.47-1.40(m,72H)ppm.
13C-NMR(100MHz,CDCl)173.3,173.1,150.3,150.2,149.1,149.0,131.2,130.84,130.80,130.3,130.21,130.18,130.1,129.0,128.1,127.49,127.46,127.2,127.1,127.01,127.0,126.9,126.7,126.0,125.6,125.2,124.8,124.0,123.8,53.07,53.05,35.52,35.47(two peaks are overlapped),35.43,31.84,31.82(two peaks are overlapped),31.80ppm.
MS(DART-TOF)m/z:669[MH]
IR(neat):2952,1718(C=O),1599,1432,1240,1141,882cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C4653[MH]:669.3944,found:669.3924.
【0063】
合成例5
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物15、iso-15)混合物の合成
アルゴン雰囲気下、一径フラスコにカリウムターシャリーブトキシド(12.0g,107mmol)と無水テトラヒドロフラン(150mL)を加えた。この反応溶液に、0℃下にて蒸留水(0.49mL,27.3mmol)を加え、5分撹拌後、化合物14(8.29g,12.4mmol)を加えた。反応溶液を70℃まで昇温し、1時間撹拌後、3M塩酸で反応停止操作を行った。水層に対して酢酸エチルで抽出操作を行い、合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥後、化合物15(異性体比52:48)を定量的に得た。
【0064】
化合物15の分析データ
H-NMR(400MHz,CDCl)8.70(d,J=1.8Hz,2H),8.55(d,J=1.8Hz,2H),8.54(d,J=1.8Hz,2H),8.40(d,J=1.8Hz,2H),8.34(d,J=8.6Hz,2H),8.32(d,J=8.6Hz,2H),7.89(d,J=1.8Hz,2H),7.84(d,J=1.8Hz,2H),7.53(dd,J=8.6,1.8Hz,4H),1.42-1.35(m,72H)ppm.
MS(DART-TOF)m/z:639[M-H]
IR(neat):3060,2952,2630(COOH),1690(C=O),1249,886,714cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C4447[M-H]:639.3474,found:639.3460.
【0065】
合成例6
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物16、iso-16)混合物の合成
アルゴン雰囲気下、化合物15(9.61g,15mmol)の塩化チオニル(96mL,1.3mol)溶液に、室温下でDMFを少量加えた。反応溶液を30分間攪拌後に除媒し、真空乾燥後、化合物16(異性体比50:50)を定量的に得た。
【0066】
化合物16の分析データ
H-NMR(400MHz,CDCl)8.86(d,J=1.9Hz,2H),8.63(d,J=1.9Hz,2H),8.62(d,J=1.9Hz,2H),8.41(d,J=1.9Hz,2H),8.25(d,J=8.6Hz,4H),8.04(d,J=1.9Hz,2H),7.98(d,J=1.9Hz,2H),7.69(dd,J=8.6,1.9Hz,4H),1.50-1.41(m,72H)ppm.
13C-NMR(100MHz,CDCl)172.2,172.1,151.5,151.2,149.5,149.3,135.7,135.3,131.7,130.4,130.3,130.22,130.17,129.9,129.2,129.1,128.9,128.8,126.5,126.3,126.2,126.1,126.0,125.8,125.4,125.3,124.8(two peaks are overlapped),124.5,35.7,35.63,35.61,35.57,31.78(two peaks are overlapped),31.75(two peaks are overlapped)ppm.
MS(DART-TOF)m/z:676[M]
IR(neat):2956,1770(C=O),933,742,727,607cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C4446Cl[M]:676.2875,found:676.2862.
【0067】
合成例7
2,6,9,13-tetra-tert-butyldiindeno[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]chrysene-4,11-di-one(2,6,9,13-テトラ-ターシャリー-ブチルジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン-4,11-ジ-オン)(化合物17)の合成
アルゴン雰囲気下、一径フラスコに原料の化合物16(6.37g,9.4mmol)と無水塩化メチレン(86mL)を加えた。この溶液に、0℃下で三塩化アルミニウム(3.76 g,28.2mmol)を加え、30分間攪拌後、水を加えて反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してクロロホルムで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、真空乾燥後、6.03gの粗生成物を得た。シリカゲルを用いたカラム精製操作を行い、5.22g(92%)の化合物17を黄色固体として得た。
【0068】
化合物17の分析データ
M.p.>350℃.
H-NMR(400MHz,CDCl)9.06(s,4H),8.06(s,4H),1.57(s,36H)ppm.
13C-NMR(100MHz,CDCl)194.7,153.4,137.8,133.8,128.8,127.9,127.0,121.7,36.6,32.3ppm.
MS(DART-TOFMS)m/z:605[MH]
IR(neat):2952,1714(C=O),1363,1204,877,774cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C4445[MH]:605.3420,found:605.3397.
Anal.Calcd.for C4444;C,87.38;H,7.33.Found: C,87.46;H,7.25.
【0069】
【化16】
【0070】
合成例8
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物18)の合成
アルゴン雰囲気下、原料ジケトン体(化合物17、2.4g,4.0mmol)のアニソール(23mL)懸濁液に、室温下でメタンスルホン酸(1.6mL,24mmol)を加えた。反応溶液を120℃で8時間攪拌後、0℃下で飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(45mL)を15分かけて加え、反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してトルエンで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、粗生成物を得た。シリカゲルによる濾過カラム精製操作を行い、化合物18を2.8gの白黄色固体として得た(72%収率)。
【0071】
化合物18のデータ
Rf value 0.40(hexane/EtOAc,4:1);
M.p.286℃(dec.);
H-NMR(400MHz,CDCl)9.09(s,4H),7.77(s,4H),7.29(d,J=9.0Hz,8H),6.80(d,J=9.0Hz,8H),3.76(s,12H),1.55(s,36H)ppm;
13C-NMR(100MHz,CDCl)158.6,151.3,150.3,138.5,134.5,130.2,129.7,127.7,121.5,121.0,113.9,67.1,55.5,36.5,32.7ppm;
MS(DART-TOF)m/z:1002[MH]
IR(neat):2949,1603,1503,1244,1173,1025cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C7273[MH]:1001.5509,found:1001.5497;
Anal.Calcd.for C7272;C,86.36;H,7.25.Found:C,86.37;H,6.97.
【0072】
実施例1
ジベンゾ[g,p]クリセン誘導体(化合物1)の合成
アルゴン雰囲気下、化合物18(2.5g,2.5mmol)のベンゼン(50mL)曇状溶液に、室温下で三塩化アルミニウム(3.2g,24mmol)を加えた。反応溶液を30分攪拌後、0℃下で3M塩酸水溶液(60mL)を5分かけて加え、反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対してトルエンで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、粗生成物を得た。シリカゲルによる濾過カラム精製操作を行い、化合物1を1.6gの白黄色固体として得た(83%)。
【0073】
化合物1のデータ
Rf value 0.45(hexane/EtOAc,2:1);
M.p.>350℃;
H-NMR(400MHz,CDCl)9.05(d,J=8.2Hz,4H),7.81(dd,J=8.2,7.3Hz,4H),7.71(d,J=7.3Hz,4H),7.27(d,J=8.8Hz,8H),6.79(d,J=8.8Hz,8H),3.76(s,12H)ppm;
13C-NMR(100MHz,CDCl)158.8,150.6,137.9,136.4,129.5,129.4,128.5,128.4,125.3,122.9,114.0,66.8,55.5ppm;
MS(DART-TOF)m/z:608[M-OMe-OMe-PhOMe],777[MH]
IR(neat):3006,2830,1606,1505,1247,1173,1033,753,722,593cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C5641[MH]:777.3005,found:777.3002.
【0074】
実施例2(化合物2の合成)
アルゴン雰囲気下、化合物1(1.4g,1.8mmol)の無水塩化メチレン(15mL)溶液に、三臭化ホウ素(11mL,11mmol,1.0M塩化メチレン溶液)を0℃下で10分かけて滴下した。反応溶液を15分間撹拌後、室温に自然昇温させ、さらに1時間撹拌した。0℃下、蒸留水で反応停止操作を行った。有機層を分離し、水層に対して酢酸エチルで抽出操作を行った。合わせた有機層を飽和食塩水で洗浄、芒硝乾燥、除媒濃縮、真空乾燥を行い、茶白色の粗生成物を得た。シリカゲルを用いた濾過カラム精製を行い、化合物2を930mgの薄茶色固体として得た(72%収率)。
【0075】
化合物2のデータ
Rf value0.55(hexane/EtOAc,1:4);
M.p.>350℃;
H-NMR(400MHz,DMSO-d)9.35(s,4H,-OH),9.09(d,J=8.4Hz,4H),7.90(dd,J=8.4,7.2Hz,4H),7.80(d,J=7.2Hz,4H),7.08(d,J=8.7Hz,8H),6.67(d,J=8.7Hz,8H)ppm;
13C-NMR(100MHz,DMSOd)156.2,150.3,135.24,135.17,128.8,128.7.128.3,127.1,124.7,123.2,115.2,66.0ppm;
MS(DART-TOF)m/z:721[MH]
IR(neat):3523(OH),3472(OH),2956,1506,1170,832,784,725,592,517cm-1
HRMS(DART-TOF)calcd.for C7273[MH]:721.2379,found:721.2386.
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体は、高分子材料、高耐熱性樹脂、光機能性材料、有機エレクトロニクス材料、化学センサー材料、高機能炭素材料、分子ナノカーボン材料、グラフェンナノリボン材料の分野に適用可能である。具体的には、低伝送損失基板材料、低誘電・光接着ポリイミド樹脂用原料、リソグラフィー用材料、レジスト材料、有機EL用材料、接着剤等の樹脂用材料、スーパーエンジニアリングプラスチック用材料、有機半導体材料、有機態様電池用材料、フレキシブルプリント基板等が挙げられる。特に、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子や、その前駆体の化合物として応用可能である。また、屈折率が高く、プラスチックレンズなどの光学材料として応用可能である。また、カイロオプティカル(Chiroptical)特性を有する材料開発に対して、本発明のジベンゾ[g,p]クリセン誘導体は適用可能である。また、本発明のジインデノ[7,1,2-ghi:7’,1’,2’-pqr]クリセン誘導体の製造方法は、薄膜トランジスターの正孔輸送物質や有機発光ダイオードの発光素子として有用なジベンゾ[g,p]クリセン誘導体の製造方法として適用可能である。
【0077】
本発明の最も重要な要素は、C60断片である化合物1と2を化合物18の脱tert-Bu化と脱メチル化によってシンプルな液相条件下にて新規合成したことである。その主たる効果は、以下の通りである。
(1)合成法がシンプルな液相法であるため、量的供給を簡単に行うことができること
(2)Tert-Bu基の除去によって分子構造の嵩高さが抑えられ、分子間相互作用を期待した素材の開発を見込むことができること
(3)フェノール性水酸基の反応性を利用した素材の開発を見込むことができること。