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特開2024-100131シールド掘進機制御システムおよび制御方法
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  • 特開-シールド掘進機制御システムおよび制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100131
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】シールド掘進機制御システムおよび制御方法
(51)【国際特許分類】
   E21D 9/093 20060101AFI20240719BHJP
   G06N 20/00 20190101ALI20240719BHJP
   G06N 20/10 20190101ALI20240719BHJP
【FI】
E21D9/093 G
G06N20/00 130
G06N20/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003884
(22)【出願日】2023-01-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 土木学会第77回年次学術講演会講演概要集 発行日 令和4年8月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000002299
【氏名又は名称】清水建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 浩基
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼本 尚彦
(72)【発明者】
【氏名】陳 剣
(72)【発明者】
【氏名】山本 真哉
(72)【発明者】
【氏名】杉山 博一
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054AA01
2D054GA02
2D054GA13
2D054GA25
2D054GA56
(57)【要約】
【課題】少ないシールドジャッキ操作回数でも操作パラメータを得るための精度のよい学習モデルを作成可能であるとともに、モデルの過学習による精度低下を防止することができるシールド掘進機制御システムおよび制御方法を提供する。
【解決手段】シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとして作成される操作判定モデルにおいて、履歴テーブルは、シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、操作判定モデルは、履歴テーブルにおいて、操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものである。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘進状況のデータを入力値、シールドジャッキの操作の有無を出力値として機械学習させたモデルであって、前記掘進状況のデータに対応した操作判定値を出力する操作判定モデルと、
前記シールド掘進機から取得した前記掘進状況を示す特徴量に基づいて、前記シールドジャッキの操作パラメータを推定する操作予測モデルと、
前記操作判定モデルが出力した前記操作判定値に基づいて、前記操作予測モデルによる前記操作パラメータの推定を行わせる処理制御部とを備え、
前記履歴テーブルは、前記シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、前記シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、
前記操作判定モデルは、前記履歴テーブルにおいて、前記操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する前記操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものであることを特徴とするシールド掘進機制御システム。
【請求項2】
シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘進状況のデータを入力値、シールドジャッキの操作の有無を出力値として機械学習させたモデルであって、前記掘進状況のデータに対応した操作判定値を出力する操作判定モデルと、
前記シールド掘進機から取得した前記掘進状況を示す特徴量に基づいて、前記シールドジャッキの操作パラメータを推定する操作予測モデルと、
前記操作判定モデルが出力した前記操作判定値に基づいて、前記操作予測モデルによる前記操作パラメータの推定を行わせる工程とを有し、
前記履歴テーブルは、前記シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、前記シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、
前記操作判定モデルは、前記履歴テーブルにおいて、前記操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する前記操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものであることを特徴とするシールド掘進機制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工知能(AI)によるシールド掘進機の自動制御に好適なシールド掘進機制御システムおよび制御方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルを構築する際のシールド工事では、シールド掘進機を用いて地山を掘削しながら、シールド掘進機の後端部にリング状のセグメントを組み立てて設置し、このセグメントに反力をとってシールドジャッキが油圧操作により伸張することでシールド掘進機を推進させる方法が用いられている。シールドジャッキは通常、シールド掘進機の後方において周方向に間隔をあけて複数配置されている。オペレータは、職員からの掘進指示(書)に従い、各種計測器からのデータを監視しながら各シールドジャッキの使用の有無を選択することで、シールド掘進機に作用させる力点の位置を調整し、シールド掘進機の掘進方向を制御する。
【0003】
シールド掘進機の掘進方向の制御は、オペレータの熟練度などに左右され、オペレータの違いにより掘進精度にばらつきを生じるおそれがある。そこで、本特許出願人は、AIの手法をシールド掘進機の操作に取り入れることにより、オペレータの違いに関わらず掘進精度を一定に保つようにした特許文献1に記載の制御システムを提案している。この特許文献1の制御システムは、シールド掘進機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値としてシールド掘進機の操作確率を出力する操作判定モデルと、シールド掘進機から供給される掘削状況を示す特徴量を入力することにより、推定値としてシールド掘進機の操作パラメータ(力点位置)を出力する操作予測モデルと、操作判定モデルが所定の閾値以上の操作確率を出力した場合に、操作予測モデルに対して操作パラメータの推定を行わせる処理制御部とを備える。
【0004】
上記の操作判定モデルは、シールド掘進機から得られる掘削状況と、その掘削状況に対応するオペレータの操作とを対応付けた教師あり学習により作成される。オペレータがシールド掘進機を操作する頻度は通常、数十秒から数百秒に一回程度であることから、操作判定モデルは、常に操作しないことを正解とするモデルになる可能性がある。そこで、上記の操作判定モデルでは、学習時に操作有りレコードに適切な重み付けをすることでデータ数のバランスをとり、モデルの精度向上を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-17758号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シールドジャッキの操作回数は、オペレータの違いや、掘進する地山状況、線形により異なり、操作回数が非常に少ない場合がある。
【0007】
掘進初期のため全体の学習データ数が少ない場合や、オペレータの違いや地質状況に起因して学習データ中のシールドジャッキの操作回数も少ない場合には、未知のデータに対して予測精度が著しく低下する過学習モデルが生成されるおそれがある。
【0008】
機械学習における過学習は学習データ数が少ない場合に、特に上記の操作判定モデルにおいてはシールドジャッキ操作回数が少ない場合に生じるため、パラメータの調整等のみによって過学習モデルの生成を回避することは基本的に不可能である。このため、少ないシールドジャッキ操作回数でも操作パラメータを得るための精度のよい学習モデルを作成可能であるとともに、操作判定モデルの過学習による精度低下を防止する技術が求められていた。
【0009】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、少ないシールドジャッキ操作回数でも操作パラメータを得るための精度のよい学習モデルを作成可能であるとともに、モデルの過学習による精度低下を防止することができるシールド掘進機制御システムおよび制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るシールド掘進機制御システムは、シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘進状況のデータを入力値、シールドジャッキの操作の有無を出力値として機械学習させたモデルであって、前記掘進状況のデータに対応した操作判定値を出力する操作判定モデルと、前記シールド掘進機から取得した前記掘進状況を示す特徴量に基づいて、前記シールドジャッキの操作パラメータを推定する操作予測モデルと、前記操作判定モデルが出力した前記操作判定値に基づいて、前記操作予測モデルによる前記操作パラメータの推定を行わせる処理制御部とを備え、前記履歴テーブルは、前記シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、前記シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、前記操作判定モデルは、前記履歴テーブルにおいて、前記操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する前記操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものであることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るシールド掘進機制御方法は、シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘進状況のデータを入力値、シールドジャッキの操作の有無を出力値として機械学習させたモデルであって、前記掘進状況のデータに対応した操作判定値を出力する操作判定モデルと、前記シールド掘進機から取得した前記掘進状況を示す特徴量に基づいて、前記シールドジャッキの操作パラメータを推定する操作予測モデルと、前記操作判定モデルが出力した前記操作判定値に基づいて、前記操作予測モデルによる前記操作パラメータの推定を行わせる工程とを有し、前記履歴テーブルは、前記シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、前記シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、前記操作判定モデルは、前記履歴テーブルにおいて、前記操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する前記操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るシールド掘進機制御システムによれば、シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘進状況のデータを入力値、シールドジャッキの操作の有無を出力値として機械学習させたモデルであって、前記掘進状況のデータに対応した操作判定値を出力する操作判定モデルと、前記シールド掘進機から取得した前記掘進状況を示す特徴量に基づいて、前記シールドジャッキの操作パラメータを推定する操作予測モデルと、前記操作判定モデルが出力した前記操作判定値に基づいて、前記操作予測モデルによる前記操作パラメータの推定を行わせる処理制御部とを備え、前記履歴テーブルは、前記シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、前記シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、前記操作判定モデルは、前記履歴テーブルにおいて、前記操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する前記操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものであるので、少ないシールドジャッキ操作回数でも操作パラメータを得るための精度のよい操作判定モデル(学習モデル)を作成可能であるとともに、モデルの過学習による精度低下を防止することができるという効果を奏する。
【0013】
また、本発明に係るシールド掘進機制御方法によれば、シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘進状況のデータを入力値、シールドジャッキの操作の有無を出力値として機械学習させたモデルであって、前記掘進状況のデータに対応した操作判定値を出力する操作判定モデルと、前記シールド掘進機から取得した前記掘進状況を示す特徴量に基づいて、前記シールドジャッキの操作パラメータを推定する操作予測モデルと、前記操作判定モデルが出力した前記操作判定値に基づいて、前記操作予測モデルによる前記操作パラメータの推定を行わせる工程とを有し、前記履歴テーブルは、前記シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、前記シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、前記操作判定モデルは、前記履歴テーブルにおいて、前記操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する前記操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものであるので、少ないシールドジャッキ操作回数でも操作パラメータを得るための精度のよい操作判定モデル(学習モデル)を作成可能であるとともに、モデルの過学習による精度低下を防止することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明に係るシールド掘進機制御システムの実施の形態を示す概略構成図である。
図2図2は、本実施の形態のサンプリング前後の教師データテーブルの一部を例示する図である。
図3図3は、本発明に係るシールド掘進機制御方法の実施の形態を示す概略工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明に係るシールド掘進機制御システムおよび制御方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0016】
図1に示すように、本発明の実施の形態に係るシールド掘進機制御システム10は、上記の特許文献1の実施の形態と同様の構成を有しており、監視項目データ入力部11、操作判定部12、処理制御部13、操作予測部14、機械学習モデル生成部15、学習済みモデル記憶部16、教師データ記憶部17、操作状況データ記憶部18を備えている。
【0017】
本実施の形態は、土圧式シールド工法によるシールド掘進機を自動運転させる周知の自動運転システムに適用することを想定している。シールド掘進機は、自身を推進させるシールドジャッキを備えており、シールドジャッキの油圧制御により掘削方向および推進速度が制御される。シールド掘進機制御システム10は、制御対象であるシールド掘進機の状態(掘進状況)を示す監視項目の各々のデータ、シールドジャッキ操作の有無の各々を取得し、シールドジャッキを制御する制御データ(操作パラメータ)、操作を行うか否かの操作判定を機械学習モデルにより推定する。監視項目データは、シールドジャッキの操作の有無とともに、機械学習モデルに入力される説明変数としての特徴データ(特徴量)である。
【0018】
監視項目データ入力部11は、図示しない計時手段(タイマーなど)からの所定の測定周期の時間(例えば、1秒間)の経過を示す計時信号が供給されたタイミングにおいて、監視項目の各々のデータを計測値として、各部位に備えられた検出手段(センサおよび測定器など)それぞれから、監視項目データを取得する。また、監視項目データ入力部11は、操作状況データ記憶部18における監視項目データテーブルに対して、取得した監視項目データの計測値を順次書き込んで記憶させる。
【0019】
操作判定部12は、学習モデルである操作判定モデルを学習済みモデル記憶部16から読み込む。そして、操作判定部12は、読み出した操作判定モデルに対して、監視項目データ入力部11から供給される監視項目データの各々を特徴データとして入力し、推定操作判定値を推定する。
【0020】
処理制御部13は、操作判定部12から供給される推定操作判定値が、予め設定した操作閾値以上か否かの判定を行う。そして、処理制御部13は、推定操作判定値が操作閾値以上の場合、操作予測部14に対して、その監視項目データにより推定制御データの推定を行わせる。一方、処理制御部13は、推定操作判定値が操作閾値未満の場合、操作予測部14に対して、その監視項目データによる推定制御データの推定を行わせない。
【0021】
操作予測部14は、学習モデルである操作予測モデルを学習済みモデル記憶部16から読み込む。そして、操作予測部14は、読み出した操作予測モデルに対して、監視項目データ入力部11から供給される監視項目データの各々を特徴データとして入力し、推定制御データ(例えば、シールドジャッキの油圧制御のデータ、スクリューコンベアのスクリュー速度など)を推定する。
【0022】
機械学習モデル生成部15は、教師データ記憶部17に記憶されている、少なくとも監視項目データと、操作判定値と、制御データ(操作パラメータ)との組からなる教師データを用いて、機械学習を行い、操作判定モデルと操作予測モデルとを生成するものである。機械学習を行う際、回帰、木(決定木、回帰木など)、ニューラルネットワーク、遺伝的プログラミング、サポートベクタマシン、ディープラーニング、アンサンブル学習(勾配ブースティング、バギングなど)をはじめとして、一般的に用いられている技法のいずれを用いてもよい。
【0023】
学習済みモデル記憶部16は、機械学習モデル生成部15が生成した操作判定モデルおよび操作予測モデルを記憶するものである。教師データ記憶部17は、操作判定モデルおよび操作予測モデルを生成するための教師データを教師データテーブルにおいて記憶するものである。操作状況データ記憶部18は、時系列に監視項目データ入力部11から供給される監視項目データを操作状況データテーブルにおいてレコード単位で記憶するものである。
【0024】
教師データテーブルは、測定周期毎のレコードで構成される履歴テーブルであり、レコード番号に対応して、少なくとも、特徴データ、操作判定値、制御データ、重み、推定操作判定値の欄が設けられている。教師データテーブルは、取得した監視項目データの計測値を機械学習モデル生成部15が順次書き込むことによって作成される。なお、操作状況データ記憶部18に記憶される操作状況データテーブルは、教師データテーブルと同様の構成である。
【0025】
教師データテーブルにおけるレコード番号は、時系列の測定周期の順番を示している。特徴データは、監視項目データの各々である。操作判定値は、特徴データに対してシールドジャッキの操作を行ったか否かの判定値である。例えば、シールドジャッキ操作が行われたレコード(操作有りレコード)には操作有値として「1」が付与され、操作が行われないレコード(操作無しレコード)には操作無値として「0」が付与される。なお、操作有値、操作無値は、これ以外の数値を用いてもよい。制御データは、特徴データに対応して操作された操作量である。
【0026】
重みは、機械学習を行う際に、操作無しレコードのレコード数n0と、操作有りレコードのレコード数n1とのバランスを取るためのものである。操作無しレコードのレコード数n0が、操作有りレコードのレコード数n1に対して多いため、レコード数n0をレコード数n1で除算した数値を重みとして用いてもよい。この場合、操作無しレコードの重みを「1」とし、操作有りレコードの重みを「n0/n1」としてもよい。推定操作判定値は、教師データで学習させた操作判定モデルに対して、監視項目データを入力して推定された操作判定値である。
【0027】
教師データテーブル、操作状況データテーブルを用いて機械学習を行う際には、機械学習モデル生成部15は、操作状況データ記憶部18の操作状況データテーブルに対して、操作判定値が書き込まれたレコードを教師データとして、教師データ記憶部17の教師データテーブルに加えて機械学習を行い、操作判定モデルおよび操作予測モデルを生成する。操作判定モデルは、教師データテーブルにおいて、操作有りレコードに対応する時刻から所定時間(例えば、数秒程度)だけ遡った期間内に存在する操作無しレコードを操作有りレコードとして再ラベリングした教師データを用いて、操作判定値(操作の有無)を目的変数、監視項目データを説明変数として、上記の重みを考慮した学習により生成される。
【0028】
ここで、上記のように再ラベリングするのは、次のような理由による。すなわち、シールド掘進機で掘進中の監視項目の計測値は急に変化せず、シールド掘進機の進行に伴った速度で変化するため、シールドジャッキ操作を行うべきタイミングは、オペレータが実際にシールドジャッキ操作を行った時刻からある程度幅をもつことが予想される。そのため、例えば、図2(1)に示されるデータサンプリング前の教師データテーブル(操作判定値)に対して、図2(2)に示すように、実際にオペレータが操作したレコードから一定秒数nsmp前までを操作有りレコードとして再ラベリング(データサンプリング)を行い、これに基づいて機械学習を行う。これにより、操作有りデータの数を約nsmp倍に増加させることが可能である。このようにすれば、シールドジャッキの操作回数が少ない場合においても、操作パラメータを得るための精度のよい操作判定モデルを作成可能であり、操作判定モデルが過学習することによる精度低下を防ぐことができる。
【0029】
なお、図2(1)の例では、データサンプリングを行う前の時刻t=t、tのレコードが、操作有りレコード(操作有無=1)であり、これら以外のレコードが、操作無しレコード(操作有無=0)である。操作有無の値は、操作判定値を示している。これに対し、データサンプリングを行った後では、図2(2)のように、時刻t=t-nsmp~時刻t=tのレコードと、時刻t=t-nsmp~時刻t=tのレコードが、操作有りレコード(操作有無=1)として再ラベリングされる。
【0030】
操作予測モデルは、教師データテーブルを参照し、推定操作判定値が操作閾値を超えるレコードの監視項目データの各々を説明変数とし、それぞれ対応する制御データ(操作パラメータ)を目的変数とする学習により生成される。操作予測モデルの学習においても、上記の操作判定モデルの場合と同様に重みを考慮した学習を行う。
【0031】
上述のように、データサンプリングを実施してシールドジャッキ操作の有無に関して再ラベリングを行った学習データにおいても、基本的には操作有りデータが操作無しデータに対して極端に少ないことに変わらないため、常に操作しないことを正解とする学習モデルとなる可能性が高い。これを避けるために、図3に示すように、上記の特許文献1と同様に学習データの重み付けを行ったうえで操作判定モデルの学習を行う。すなわち、元の学習データ(データサンプリング前の教師データ)を入力して(ステップS1)、上記のデータサンプリングを実施した後(ステップS2)、上記の重みを設定し(ステップS3)、重みを設定した学習データを用いて操作判定モデルを作成する(ステップS4)。
【0032】
操作判定モデルのような2値分類を行う学習モデルの性能を評価する場合、一つの評価基準として再現率(操作判定モデルが「操作有り」と予測したデータのうちの何パーセントが正解したかを表す指標)を用いる。上述のようなデータサンプリングを実施した場合に、通常の再現率の計算を行うと操作判定モデルの性能を正しく評価することができない場合がある。そこで、次のような修正再現率を評価指標として用い、その数値が100%に近いほど良い操作判定モデルであると評価することができる。
【0033】
修正再現率=(操作判定モデルによる予測のうち正解した操作有りレコード数)/(データサンプリングを行う前の操作有りレコード数)×100% ・・・式(1)
【0034】
上記の式(1)の右辺において、分母は、データサンプリングを行う前の操作有りレコード数である。
分子は、操作判定モデルによる予測のうち正解した操作有りレコード数である。ただし、データサンプリングを行う前の操作有りレコードからnsmp以内で正解したレコードが複数ある場合には、それらを重複してカウントしない。
【0035】
上記のシールド掘進機制御システム10では、修正再現率を高めた操作判定モデルを用いることが好ましい。例えば、操作判定モデルを生成した後、その修正再現率を算定し、算定値が所定の閾値以上である操作判定モデルを使用してもよい。
【0036】
本実施の形態によれば、シールドジャッキの操作回数が少ない場合において、操作パラメータを得るための精度のよい操作判定モデルを作成可能であるとともに、工学的に合理的な手法で操作判定モデルが過学習することによる精度低下を防ぐことができる。これにより、シールド掘進機の自動運転システムの精度向上を図れる。
【0037】
また、データサンプリングを行った学習データを用いた操作判定モデルの評価指標として修正再現率を用いることで、データサンプリングにより生じてしまう「予測が正解した箇所の重複カウント」を防止し、正しい性能評価を行うことができる。
【0038】
学習データが少ない掘進初期段階であったり、オペレータの特性や地質状況、線形により操作自体が少ない場合においても操作判定モデルの学習が可能となるため、より多様な現場状況での操作判定モデルの適用が可能となる。
【0039】
以上説明したように、本発明に係るシールド掘進機制御システムによれば、シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘進状況のデータを入力値、シールドジャッキの操作の有無を出力値として機械学習させたモデルであって、前記掘進状況のデータに対応した操作判定値を出力する操作判定モデルと、前記シールド掘進機から取得した前記掘進状況を示す特徴量に基づいて、前記シールドジャッキの操作パラメータを推定する操作予測モデルと、前記操作判定モデルが出力した前記操作判定値に基づいて、前記操作予測モデルによる前記操作パラメータの推定を行わせる処理制御部とを備え、前記履歴テーブルは、前記シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、前記シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、前記操作判定モデルは、前記履歴テーブルにおいて、前記操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する前記操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものであるので、少ないシールドジャッキ操作回数でも操作パラメータを得るための精度のよい操作判定モデル(学習モデル)を作成可能であるとともに、モデルの過学習による精度低下を防止することができる。
【0040】
また、本発明に係るシールド掘進機制御方法によれば、シールド掘進機から取得した掘進状況のレコードが記録された履歴テーブルを教師データとし、前記掘進状況のデータを入力値、シールドジャッキの操作の有無を出力値として機械学習させたモデルであって、前記掘進状況のデータに対応した操作判定値を出力する操作判定モデルと、前記シールド掘進機から取得した前記掘進状況を示す特徴量に基づいて、前記シールドジャッキの操作パラメータを推定する操作予測モデルと、前記操作判定モデルが出力した前記操作判定値に基づいて、前記操作予測モデルによる前記操作パラメータの推定を行わせる工程とを有し、前記履歴テーブルは、前記シールドジャッキの操作を行った操作有りレコードと、前記シールドジャッキの操作を行わなかった操作無しレコードとを含み、前記操作判定モデルは、前記履歴テーブルにおいて、前記操作有りレコードに対応する時刻から所定時間だけ遡った期間内に存在する前記操作無しレコードを操作有りレコードとしてラベリングした教師データを用いて機械学習させたものであるので、少ないシールドジャッキ操作回数でも操作パラメータを得るための精度のよい操作判定モデル(学習モデル)を作成可能であるとともに、モデルの過学習による精度低下を防止することができる。
【0041】
なお、2015年9月の国連サミットにおいて採択された17の国際目標として「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)」がある。本実施の形態に係るシールド掘進機制御システムおよび制御方法は、このSDGsの17の目標のうち、例えば「9.産業と技術革新の基盤をつくろう」の目標などの達成に貢献し得る。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上のように、本発明に係るシールド掘進機制御システムおよび制御方法は、人工知能(AI)によるシールド掘進機の自動制御に有用であり、特に、モデルの過学習による精度低下を防止するのに適している。
【符号の説明】
【0043】
10 シールド掘進機制御システム
11 監視項目データ入力部
12 操作判定部
13 処理制御部
14 操作予測部
15 機械学習モデル生成部
16 学習済みモデル記憶部
17 教師データ記憶部
18 操作状況データ記憶部
図1
図2
図3