(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100149
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】感知センサ
(51)【国際特許分類】
G01N 5/02 20060101AFI20240719BHJP
H03H 9/19 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01N5/02 A
H03H9/19 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003927
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000232483
【氏名又は名称】日本電波工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山口 貴士
【テーマコード(参考)】
5J108
【Fターム(参考)】
5J108AA04
5J108AA09
5J108BB02
5J108CC04
5J108CC05
5J108DD02
5J108EE03
5J108FF02
5J108FF09
5J108GG03
5J108GG18
(57)【要約】
【課題】配線基板上にATカットの水晶片を用いた感知素子としての水晶振動子を備える感知センサであって、配線基板と水晶片との熱膨張係数の差の影響を、従来に比べ軽減できる感知センサを提供する。
【解決手段】感知センサ10は、配線基板11と、この配線基板上に設けられATカットの水晶片13aを用いた感知素子としての水晶振動子13と、水晶片の配線基板とは反対面である第1面13b側に設けられ、前記第1面に被検査液を接触させるための流路形成部材15と、を備える感知センサである。然も、水晶片として、第1面が平坦で、第1面の反対面である第2面13cに第1面側に凹んだ凹部13dを有し、かつ、凹部底面と第1面との対向領域の少なくとも一部を振動部13eとしているメサ型水晶片を用いている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板と、この配線基板上に設けられATカットの水晶片を用いた感知素子としての水晶振動子と、前記水晶片の前記配線基板とは反対面である第1面側に設けられ、前記第1面に被検査液を接触させるための流路形成部材と、を備える感知センサにおいて、
前記水晶片として、前記第1面が平坦で、前記第1面の反対面である第2面に前記第1面側に凹んだ凹部を有し、かつ、前記凹部底面と前記第1面との対向領域の少なくとも一部を振動部としているメサ型水晶片を用いたことを特徴とする感知センサ。
【請求項2】
前記メサ型水晶片は、平面視で長方形状であり、前記凹部も平面視で長方形状であり、かつ、長辺が水晶のZ軸に対し-50~50度の範囲のメサ型の水晶片であることを特徴とする請求項1に記載の感知センサ。
【請求項3】
前記メサ型水晶片は、平面視で長方形状であり、前記凹部も平面視で長方形状であり、かつ、長辺が水晶のZ軸に対し-45~-15度の範囲、又は、15~45度の範囲のメサ型水晶片であることを特徴とする請求項1に記載の感知センサ。
【請求項4】
前記凹部の底面の少なくとも一部領域に、励振用電極の一方を設けてあり、
この励振用電極から前記凹部を囲う土手部の天面の一部に引出電極を引き出してあり、
前記天面の前記引出電極が引き出してある部分に、導電性接着剤の侵入を促すための凹凸部を設けてあることを特徴とする請求項1に記載の感知センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、厚み滑りモードで振動する水晶振動子を用いた感知センサに関する。
【背景技術】
【0002】
水晶振動子を利用した感知センサの一例が、例えばこの出願の出願人に係る特許文献1、特許文献2に開示されている。この感知センサは、配線基板と、この配線基板上に設けた感知素子としての水晶振動子と、この水晶振動子の配線基板とは反対側に設けられ、この水晶振動子に被検査液を接触させる流路形成部材と、を備えている。前記水晶振動子は、平面形状が円形状の平板のATカットの水晶片と、この水晶片の一方の面に互いは並んで設けられた第1電極及び第2電極と、他方の面に設けられ第1電極及び第2電極に対向する共通電極と、を備えた構造になっている。すなわち、1つの水晶片上に2つの水晶振動子を備えた構造になっている。然も、例えば共通電極の、第1電極及び第2電極の一方の電極と対向する領域上に、感知対象物を特異的に吸着する吸着膜を設けてあり、それ以外の領域に感知対象物が付着し難い阻害膜を設けるか(特許文献1の段落15、
図4)、又は電極膜のままとしてある(特許文献2の段落15、
図5)。
【0003】
この感知センサでは、流路形成部材に供給される被検査液中に、感知対象物例えば特定のウィルス等が入っていた場合、感知対象物は吸着膜に特異的に付着するので、吸着膜を設けてある側の水晶振動子の振動周波数は低下する。一方、阻害膜を設けてある側の、又は電極膜のままの水晶振動子の振動周波数は変化しない。従って、被検査液を投入した際の上記2つの水晶振動子の振動周波数を監視することで、感知対象物を感知できる(特許文献1の段落37、特許文献2の段落24等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-87720号公報
【特許文献2】特開2022-113542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した感知センサでは、流路形成部材を水晶片に押し付けて被検査液の液密性を確保している。従って、流路形成部材を水晶片に押し付けた状態では、水晶片は配線基板に押し付けられた状態になる。しかしながら、上記した従来の感知センサの場合、用いている水晶片は、平板状のものであるため(特許文献1の
図4等、特許文献2の
図5等)、配線基板と水晶片との熱膨張係数の違い等によって、水晶片に歪みが生じる場合や、反りが生じる場合があるという問題点があった。水晶片に歪みや反りが生じると、感知センサの測定信頼性を低下させる一因になるので、改善が望まれる。特許文献1、特許文献2各々では、配線基板の水晶片と対応する所定箇所に貫通孔を設け水晶片と配線基板との接触を避けること(特許文献1の段落14、特許文献2の段落16)、特許文献2では、歪みを抑制するパッドを設けることの対策が記載されている(特許文献2の請求項1等)が、他の改善手段も望まれる。
この出願は上記の点に鑑みなされたものであり、従ってこの発明の目的は、配線基板上にATカットの水晶片を用いた感知素子としての水晶振動子を備える感知センサであって、配線基板と水晶片との熱膨張係数の差の影響等を、従来に比べ軽減できる感知センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的の達成を図るため、この発明によれば、配線基板と、この配線基板上に設けられATカットの水晶片を用いた感知素子としての水晶振動子と、前記水晶片の前記配線基板とは反対面である第1面側に設けられ、前記第1面に被検査液を接触させるための流路形成部材と、を備える感知センサにおいて、
前記水晶片として、前記第1面が平坦で、前記第1面の反対面である第2面に前記第1面側に凹んだ凹部を有し、かつ、前記凹部底面と前記第1面との対向領域の少なくとも一部を振動部としているメサ型水晶片を用いたことを特徴とする。
【0007】
この発明を実施するに当たり、前記メサ型水晶片は、平面視で長方形状であり、前記凹部も平面視で長方形状であり、かつ、長辺が水晶のZ軸に対し-50~50度の範囲のメサ型の水晶片であることが好ましい。このように所定形状かつ所定角度の水晶片を用いると、そうしない場合に比べ、水晶片に対する外部応力の影響をより軽減できる。
【0008】
この発明を実施するに当たり、前記メサ型水晶片は、平面視で長方形状であり、前記凹部も平面視で長方形状であり、かつ、長辺が水晶のZ軸に対し-45~-15度の範囲、又は、15~45度の範囲のメサ型水晶片であることがより好ましい。このように所定形状かつ所定角度の水晶片を用いると、そうしない場合に比べ、水晶片に対する外部応力の影響を、より一層軽減できる。
【0009】
この発明を実施するに当たり、前記凹部の底面の少なくとも一部領域に、励振用電極の一方を設けてあり、この励振用電極から前記凹部を囲う土手部の天面の一部に引出電極を引き出してあり、前記天面の前記引出電極が引き出してある部分に、導電性接着剤の侵入を促すための凹凸部を設けてあることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
この発明の感知センサによれば、水晶片として、第1面が平坦で、第2面側に凹部を持つ所定のメサ型水晶片を用いているため、被検査液は水晶片の平坦面である第1面では水晶片に良好に接するので、被検査液の水晶片への接触を良好に行える。然も、当該水晶片は、凹部を設けてある第2面側、具体的には凹部の土手部の天面で、配線基板に接触する。従って、配線基板と水晶片との熱膨張係数の違いよって、配線基板及び又は水晶片が多少反ったとしても、反りの振動部への影響は、平板状の水晶片を配線基板に直接接触させていた従来構造に比べ、軽減できる。
また、水晶片として所定のメサ型水晶片を用いているので、凹部を囲う土手部が振動部の補強部としての役割をも示すので、平板状の水晶片を用いていた従来構造に比べ、水晶振動子の強度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施形態の感知センサ10の分解斜視図である。
【
図3】主に実施形態の感知センサ10に備わるメサ型水晶片13aを用いた水晶振動子13を説明するための斜視図である。
【
図4】試作した2種類の感知センサの温度に対する周波数変化のヒステリシスを説明するための図である。
【
図5】試作結果に基づいて水晶片の結晶軸に対する好ましい位置をシミュレージョンした結果を説明するための図である。
【
図6】主に、実施形態の感知センサ10に備わる配線基板11を説明するための斜視図である。
【
図7】他の実施形態の感知センサの、特にメサ型水晶片を説明するための斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照してこの発明の感知センサの実施形態について説明する。なお、説明に用いる各図はこの発明を理解できる程度に概略的に示してあるにすぎない。また、説明に用いる各図において、同様な構成成分については同一の番号を付して示し、その説明を省略する場合もある。また、以下の説明中で述べる形状、寸法、材質等はこの発明の範囲内の好適例に過ぎない。従って、本発明は以下の実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
1. 感知センサの全体構造
先ず、
図1及び
図2を参照して、実施形態の感知センサ10の全体構造について説明する。
図1は、実施形態の感知センサ10の分解斜視図、
図2は外観図である。なお、この実施形態は、本発明の特徴であるメサ型水晶片を特許文献1に開示された感知センサに適用した例である。
実施形態の感知センサ10は、配線基板11、感知素子としての水晶振動子13、流路形成部材15、被検査液吸収部材17、上ケース19及び下ケース21を備えている。
【0014】
配線基板11は、この場合、配線11a、外部接続端子11b、高さ調整部材11c及び櫛歯状の端子部11dを備えている。
配線基板11自体は、例えばガラスエポキシ基板等の任意の材料で構成できる。
配線基板11の配線11aは、詳細は後述するが、一端が水晶振動子13の励振用電極13f、13gの引出電極13h,13iに接続され、他端が外部接続端子11bに接続されている。
配線基板11の外部接続端子11bは、感知センサ10と、外部の発振回路や任意の測定器等(図示せず)とを接続するものである。なお、発振回路を、配線基板11上に設ける場合があっても良い。その場合は、外部接続端子11bは任意の測定装置との接続に使用する。
配線基板11の高さ調整部材11cは、配線11aの高さh1(
図6参照)と同じか、ほぼ同じ高さh2(
図6参照)を有するものであり、水晶振動子13で用いているメサ型水晶片13aを配線基板から配線の高さh1だけ浮かして、メサ型水晶片13aの櫛歯状の端子部11dに接する部分と配線基板11との間に空隙11e(
図6(B)参照)を生じさせるものである。
櫛歯状の端子部11dは、水晶振動子13の励振用電極13gの引出電極13h(詳細は後述する)と、配線11aとを導電性接着剤23(
図3(C)参照)によって接続する際に、導電性接着剤23を、メサ型水晶片13aの櫛歯状の端子部11dに接する部分の空隙11e(
図6(B)参照)下へ侵入し易くして、配線11aと励振用電極13gの引出電極13hとの接続を確保するものである。
【0015】
水晶振動子13は、感知素子としての役割を担うものであり、本発明の特徴であるメサ型水晶片を含むものである。水晶振動子13については、後述の第2項において詳細に説明する。
【0016】
流路形成部材15は、水晶片13aの第1の面に被検査液を接触させるためのもので、この場合、被検査液を一時的に溜める流路部15a、この流路部15aに被検査液を注入する注入口15b、及び、流路部15aの被検査液を回収する回収口15cを備えている。回収口15cに、被検査液吸収部材17の先端口17aを接続する。
流路形成部材15は、例えばシリコンゴム等の変質し難くかつ液密性に優れる弾性体で構成することが好ましい。また、被検査液吸収部材17は、例えば、液体吸収性を有した任意好適な材料、例えばスポンジ等で構成することが好ましい。流路形成部材15及び被検査液吸収部材17の詳細な構造は、例えば特許文献1に記載の構造を流用できる。
【0017】
上ケース19及び下ケース21は、配線基板11、水晶振動子13、流路形成部材15、及び、被検査液吸収部材17を収容するもので、例えばプラスチック等の任意好適な材料で構成してある。なお、この場合、上ケース19は、被検査液を注入するための開口部19aを備えている。開口部19aは、流路形成部材15の注入口15bに対応する位置に設けてある。
【0018】
上ケース19及び下ケース21間に、配線基板11、水晶振動子13、流路形成部材15、及び、被検査液吸収部材17を収容し、上ケース19及び下ケース21を所定通りに接合することによって、
図2に示す感知センサ10を構成できる。
この感知センサ10は、
図2に示したように、配線基板11の外部接続端子11bを含む一部分が、上ケース19及び下ケース21から出ていて、図示しない発振回路又は任意の測定装置に接続できる。
【0019】
2. 水晶振動子及びメサ型水晶片
次に、本発明の特徴である感知素子としての水晶振動子のメサ型水晶片について説明する。
図3(A)~(C)は、その説明図である。特に
図3(A)は、配線基板11と、水晶振動子13と、流路形成部材15とが積層されている様子を示した要部斜視図、
図3(B)は、水晶振動子13の特にメサ型水晶片13aの構造を説明する要部斜視図、
図3(C)は、感知センサ10の、
図3(A)のP-P線に沿う断面図である。
この発明の感知センサ10は、感知素子としての水晶振動子13に備わる水晶片13aとして、特に
図3(B)に示したように、第1面13bが平坦で、第1面13bの反対面である第2面13cに第1面13b側に凹んだ凹部13dを有し、かつ、凹部13d底面と第1面13bとの対向領域の少なくとも一部を振動部13eとしているメサ型水晶片を用いている。
【0020】
メサ型水晶片の平面形状や凹部の平面形状は、設計に応じて任意に選択できるが、この実施形態では、メサ型水晶片13aは、平面視で長方形状であり、凹部13dも平面視で長方形状としてある。このような形状の方が他の形状より、後述するシミュレージョン結果によれば、温度変化に対する周波数変化を小さくできて好ましい。
振動部13eの厚さt(
図3(C)参照)は、水晶振動子13に要求される振動周波数に応じた厚さにする。水晶片13a全体の厚さT(
図3(C)参照)は、T>tであるが、水晶片13aの反りを抑制できる厚み等を考慮した適正な厚さにする。これに限られないが、例えば、T≧2tとすることが出来る。水晶片13aの全体の大きさ、すなわち、長辺寸法及び短辺寸法、並びに、凹部13dの長辺寸法及び短辺寸法は、感知センサに要求される仕様を考量して決める。
【0021】
メサ型水晶片13aの凹部13dの底面に、励振用電極の一方の電極である第1電極13faと第2電極13fbとを並列配置してある。また、メサ型水晶片13aの第1面13bの、上記第1電極13faと第2電極13fbと対向する領域に、励振用電極の他方の電極である共通電極13gを配置してある。第1電極13faと第2電極13fb各々から凹部13dを囲う土手部の側壁を経由して土手部の天面の一部分に引出電極13hを設けてある。また、共通電極13gから第1面13bの端に至るように引出電極13iを設けてある。これら引出電極13h、13iは、配線基板11の配線11aに、この場合、導電性接着剤23(
図3(C)参照)によって接続してある。
共通電極13gの第1電極13fa又は第2電極13fbと対向する領域に、吸着膜13zを設けてある。なお、共通電極、第1電極、第2電極をメサ型水晶片13aの対向する主面のどちらに設けるかは任意であり、上記の例の逆でも良い。
この実施形態の場合、第1電極13faと第2電極13fb各々は、平面視で、両端の輪郭が半円となっている長方形状のものとしてあり、共通電極13gも平面視で一端の輪郭が第1電極及び第2電極と同様に半円となっている音叉状のものとしている。ただし、これら電極の形状は他の好適な形状でも良い。
【0022】
3.メサ型水晶片の水晶結晶軸に対する位置の検討
次に、メサ型水晶片の水晶の結晶軸に対する位置の好適な範囲を検討した結果について説明する。
3-1.試作
メサ型水晶片の水晶の結晶軸に対する位置の好適な範囲を検討するための第1試作として、外形形状が平面視で長方形状であり、凹部も平面視で長方形状であるメサ型水晶片であって、かつ、長辺が水晶のZ軸に対し平行であるメサ型水晶片、すなわちZ寸法がX寸法よりも長いメサ型水晶片を形成し、このメサ型水晶片を用いて第1試作の感知センサ1を作成した。
また、メサ型水晶片の水晶の結晶軸に対する位置の好適な範囲を検討するための第2試作として、外形形状が平面視で長方形状であり、凹部も平面視で長方形状であるメサ型水晶片であって、かつ、長辺が水晶のX軸に対し平行であるメサ型水晶片、すなわちX寸法がZ寸法よりも長いメサ型水晶片を形成し、このメサ型水晶片を用いて第2試作の感知センサ1を作成した。
なお、第1試作及び第2試作いずれも、水晶の結晶軸に対する方向が異なる以外は、メサ型水晶片の長辺寸法、短辺寸法は同じとしている。
【0023】
これら第1試作の感知センサ及び第2試作の感知センサ各々を温度槽に入れて槽内温度を変化させて水晶振動子の周波数温度特性であって、温度を上昇させその逆に温度を戻したときの温度特性の差すなわちヒステリシス特性を調べた。
図4はその結果を示す図であり、
図4(A)は第1試作のヒステリシス特性、
図4(B)は第2試作のヒステリシス特性である。いずれの図も、横軸に温度をとり、縦軸にある周波数で正規化した周波数変化率(ppm)をとって示してある。
図4(A)及び(B)を比較することで明らかなように、第1試作の方が第2試作に比べて、ヒステリシス特性が平坦に近く良好であることが分かる。すなわち、長辺が水晶のZ軸に対し平行であるメサ型水晶片の方が、長辺が水晶のZ軸に対し平行であるメサ型水晶片より、ヒステリシス特性が良好になる、すなわち周波数温度特性が温度の上昇及び下降に対しい変わり難いことが分かる。
【0024】
3-2.シミュレーション
上記の第1試作及び第2試作の結果から、メサ型水晶片の水晶の結晶軸に対するさらに好ましい位置を有限要素法によるシミュレーションによって検討した。シミュレーションに用いたモデルは、第1試作及び第2試作で用いたメサ型水晶片の形状を基に作成した。
このシミュレーション結果を
図5に示した。なお、
図5(A)は、面内回転角θを説明する図、
図5(B)は、横軸にモデルの長辺が水晶のZ軸と成す角度θ、すなわち水晶片を水晶のY軸を回転中心として面内回転させた角度θ、をとり、縦軸にある周波数で正規
化した周波数変化率(ppm)をとって示してある。
この
図5(B)から明らかなように、平面視で長方形状であり、凹部も平面視で長方形状であるメサ型水晶片の場合、長辺が水晶のZ軸に対し-50~50度の範囲のものであると、そうで無いものに比べ、周波数変化率が小さくなることが分かる。
さらに、平面視で長方形状であり、凹部も平面視で長方形状であるメサ型水晶片の場合、長辺が水晶のZ軸に対し-45~-15度の範囲、又は、15~45度の範囲のものであると、周波数変化率は一層小さくなることが分かる。
【0025】
4. 引出電極と配線との接続
次に、メサ型水晶片の引出電極と配線基板の配線との接続に関する好ましい構造例について説明する。
配線基板上に水晶片を接続する構造の場合、メサ型水晶片は配線基板になるべく平坦に接続した方が、配線基板と水晶との接触面積を広くできるため、メサ型水晶片に対する歪みや反りの影響が小さいと考えられる。それを可能とする構造として、例えば、以下の2つの構造がある。
4-1.第1の構造例
図6は、その第1の例を説明する図である。特に、
図6(A)は、配線基板11のメサ型水晶片との接続領域を拡大して示した斜視図、
図6(B)は、配線基板11を、
図6(A)のQ-Q線に沿って切った断面図、
図6(C)は、配線基板11とメサ型水晶片13aとを、導電性接着剤23で接続した部分の斜視図である。
図6に示した第1の構造例では、配線基板11のメサ型水晶片13aの第2面に接する領域であって、メサ型水晶片13aの引出電極13hを設けた以外の領域に、配線11aの高さh1と同じか又はほぼ同じ高さh2を持った高さ調整部材11cを備えている。然も、配線11aのメサ型水晶片13aと接続される側の端部は櫛歯状の端子部11dとしてある。そのため、第1の構造例では、
図6(B)に示したように、櫛歯状の端子部11dの櫛歯の間に空隙11eが生じている。
【0026】
この第1の構造例の場合、メサ型水晶片13aの第2面は高さ調整部材11cと接触するので、メサ型水晶片13aと配線基板とは、高さ調整部材11cが無い場合に比べて、平坦な状態で接触できる。然も、メサ型水晶片13aを配線基板11に接続する際に、導電性接着剤23をメサ型水晶片13aの側面から塗ると、導電性接着剤23は、櫛歯状の端子部11dの空隙11eに侵入し、メサ型水晶片13aの引出電極13hに接続する。よって、メサ型水晶片13aと配線基板とを、平坦な関係で接続できると共に、導電性接着剤23の引出電極13hとの接続も良好に行える。
この第1の構造例は、特許文献2においても例示されている構造であるが、メサ型水晶片13aを用いる本発明の場合は、メサ型水晶片13aの凹部13dを囲う土手部の天面を、高さ調整部材11cに接触させるため、特許文献2の場合に比べ、より有効な構造と言える。
【0027】
4-2.第2の構造例
図7は、メサ型水晶片の引出電極と配線基板の配線との第2の接続構造例を説明する図である。特に、
図7(A)は、メサ型水晶片13aの第2の例の特徴部分を示した斜視図、
図7(B)は、
図7(A)に示した部分での導電性接着剤の接続の様子を示した斜視図である。
この第2の構造例の場合、凹部13dを囲う土手部の、メサ型水晶片13aの引出電極13hを設けた部分と対向する領域に、導電性接着剤の侵入を促すための凹凸部13xを設けてある。すなわち、当該土手部分に第1面13bに向かう方向に凹凸部13xを設けてある。そして、引出電極13hを、凹凸部13x上に凹凸に倣って設けてある。
この第2の構造例の場合、メサ型水晶片13aの第2面は配線基板11の面に接触する。よって、第1の構造例と同様に、メサ型水晶片13aと配線基板11とは、平坦な状態で接触できる。然も、メサ型水晶片13aを配線基板11に接続する際に、導電性接着剤23をメサ型水晶片13aの側面から塗ると、導電性接着剤23は、凹凸部13xの凹部に沿って土手部側に侵入し、メサ型水晶片13aの引出電極13hに接続する。よって、メサ型水晶片13aと配線基板とを、平坦な関係で接続できると共に、導電性接着剤23の引出電極13hとの接続も良好に行える。この第2の構造例の場合、第1の構造例で必要であった高さ調整部材や櫛歯状の端子を不要にすることができる。
また、上記の第1の構造例、第2の構造例いずれの場合も、特許文献1や特許文献2で配線基板に設けていた貫通孔を不要にすることができる。
【0028】
上述した実施形態では、本発明の特徴であるメサ型水晶片を特許文献1に開示された感知センサに適用した例を説明したが、本発明の特徴であるメサ型水晶片を適用できる感知センサは特許文献1のものに限られず、感知素子として水晶振動子を用いている種々の感知センサに適用できる。
【符号の説明】
【0029】
10:実施形態の感知センサ 11:配線基板
11a:配線 11b:外部接続端子
11c:高さ調整部 11d:櫛歯状の端子部
11x:凹凸部
13:水晶振動子 13a:メサ型水晶片
13b:第1面 13c:第2面
13d:凹部 13e:振動部
13fa:第1電極 13fb:第2電極
13g:共通電極 13h:引出電極
15:流路形成部材
17:被検査液吸収部材 19:上ケース
21:下ケース 23:導電性接着剤
【手続補正書】
【提出日】2023-11-09
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
配線基板と、この配線基板上に設けられATカットの水晶片を用いた感知素子としての水晶振動子と、前記水晶片の前記配線基板とは反対面である第1面側に設けられ、前記第1面に被検査液を接触させるための流路形成部材と、を備える感知センサにおいて、
前記水晶片として、前記第1面が平坦で、前記第1面の反対面である第2面に前記第1面側に凹んだ凹部を有し、かつ、前記凹部底面と前記第1面との対向領域の少なくとも一部を振動部としているメサ型水晶片を用いたことを特徴とする感知センサ。
【請求項2】
前記メサ型水晶片は、平面視で長方形状であり、前記凹部も平面視で長方形状であり、かつ、長辺が水晶のZ軸に対し-50~50度の範囲のメサ型の水晶片であることを特徴とする請求項1に記載の感知センサ。
【請求項3】
前記メサ型水晶片は、平面視で長方形状であり、前記凹部も平面視で長方形状であり、かつ、長辺が水晶のZ軸に対し-45~-15度の範囲、又は、15~45度の範囲のメサ型水晶片であることを特徴とする請求項1に記載の感知センサ。
【請求項4】
前記凹部の底面の少なくとも一部領域に、励振用電極の一方を設けてあり、
この励振用電極から前記凹部を囲う土手部の天面の一部に引出電極を引き出してあり、
前記天面の前記引出電極が引き出してある部分に、導電性接着剤の侵入を促すための凹凸部を設けてあることを特徴とする請求項1に記載の感知センサ。
【請求項5】
前記メサ型水晶片は、前記凹部を囲う土手部の天面の一部分に至る引出電極を備え、
前記配線基板の前記メサ型水晶片の前記第2面に接する領域に、前記メサ型水晶片に至る配線であって、前記メサ型水晶片と接続される側の端部が櫛歯状の端子部となっている配線を備え、
前記配線基板の前記メサ型水晶片の第2面に接する領域であって、前記引出電極と対向する以外の領域に、前記配線の高さh1と同じか又はほぼ同じ高さh2を持った高さ調整部材を備え、
前記櫛歯状の端子部は、前記引出電極と対向する位置に及んでいること
を特徴とする請求項1に記載の感知センサ。