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特開2024-100155ハブユニット軸受及び制動用回転体付ハブユニット軸受
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  • 特開-ハブユニット軸受及び制動用回転体付ハブユニット軸受 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100155
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ハブユニット軸受及び制動用回転体付ハブユニット軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20240719BHJP
   F16C 19/18 20060101ALI20240719BHJP
   F16J 15/3232 20160101ALI20240719BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/78 E
F16C19/18
F16J15/3232 201
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003935
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】勝田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 康誉
【テーマコード(参考)】
3J006
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J006AE23
3J006AE30
3J006AE42
3J006CA01
3J216AA02
3J216AA14
3J216AB03
3J216AB38
3J216BA02
3J216BA23
3J216BA24
3J216CA01
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB13
3J216CC03
3J216CC18
3J216CC38
3J216CC68
3J216DA01
3J216FA03
3J701AA02
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701AA72
3J701BA73
3J701BA78
3J701DA09
3J701EA01
3J701EA49
3J701FA31
3J701FA60
3J701GA03
3J701XB12
3J701XB13
(57)【要約】
【課題】シールリングによる密封性を確保しつつ、組立作業の作業性の向上を図れる、ハブユニット軸受を提供する。
【解決手段】ハブ3に備えられた回転フランジ11を、全体が略円輪板形状をなし、複数の薄肉部19と該薄肉部19よりも軸方向内側に張り出した複数の厚肉部20とを、円周方向に交互に有するものとし、厚肉部20に備えられた取付孔21を挿通したスタッド6を、外周面の輪郭形状が円形で、かつ、厚肉部20の軸方向内側面に突き当てられた頭部23を有するものとする。シールリング5を構成する堰部42を、複数の頭部23の内接円直径と同じか又は該内接円直径よりもわずかに小さい外径を有しており、頭部23の軸方向内側の端面23aよりもわずかに軸方向内側に配置され、かつ、回転フランジ11の軸方向内側面と対向する平面状の対向面44を有するものとする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する、ハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された、複数個の転動体と、
前記外輪の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出した堰部を有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ、シールリングと、
前記回転フランジに対して車輪及び制動用回転体を固定するための複数本の結合部材と、を備え、
前記回転フランジは、全体が略円輪板形状をなし、複数の薄肉部と、前記薄肉部よりも軸方向内側に張り出した複数の厚肉部とを、円周方向に交互に有しており、
前記複数の厚肉部のそれぞれは、前記結合部材を挿通する取付孔を有しており、
前記複数本の結合部材のそれぞれは、外周面の輪郭形状が円形で、かつ、前記厚肉部の軸方向内側面に突き当てられた頭部を有しており、
前記堰部は、複数の前記頭部のそれぞれの径方向内側の端部を通る内接円直径と同じか又は前記内接円直径よりもわずかに小さい外径を有しており、前記頭部の軸方向内側の端面よりもわずかに軸方向内側に配置され、かつ、前記回転フランジの軸方向内側面と対向する平面状の対向面を有する、
ハブユニット軸受。
【請求項2】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する、ハブと、
前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された、複数個の転動体と、
前記外輪の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出した堰部を有し、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ、シールリングと、
前記回転フランジに対して車輪及び制動用回転体を固定するための複数本の結合部材と、
軸方向内側面に平面状の重ね合わせ面を有し、かつ、前記重ね合わせ面を前記回転フランジの軸方向外側面に重ね合わせた状態で、前記複数本の結合部材により前記回転フランジに固定された制動用回転体と、を備え、
前記回転フランジは、それぞれが放射方向に伸長し、かつ、それぞれに前記結合部材を挿通する取付孔が形成された、複数のフランジ片を有しており、
前記結合部材は、外周面の輪郭形状が円形で、かつ、前記フランジ片の軸方向内側面に突き当てられた頭部を有しており、
前記堰部は、複数の前記頭部のそれぞれの径方向内側の端部を通る内接円直径と同じか又は前記内接円直径よりもわずかに小さい外径を有しており、前記頭部の軸方向内側の端面よりもわずかに軸方向内側に配置され、かつ、前記回転フランジの軸方向内側面及び前記重ね合わせ面のそれぞれと対向する平面状の対向面を有する、
制動用回転体付ハブユニット軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハブユニット軸受及び制動用回転体付ハブユニット軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車輪は、ハブユニット軸受により、懸架装置に対して回転自在に支持される。ハブユニット軸受は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有するハブと、複列の外輪軌道と複列の内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備える。外輪は、懸架装置に支持固定される。ハブの回転フランジには、車輪のホイール及び制動用回転体が結合固定される。
【0003】
なお、ハブユニット軸受に関して、軸方向外側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向外側をいい、軸方向内側とは、車両に組み付けた状態での車両の幅方向中央側をいう。
【0004】
ハブユニット軸受は、外部からの泥水などの侵入を防止するため、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐシールリングをさらに備える。
【0005】
図9は、特開2017-198316号公報(特許文献1)に記載された従来構造のハブユニット軸受100に組み込まれた、転動体設置空間101の軸方向外側の開口を塞ぐシールリング102を示している。
【0006】
シールリング102は、外輪103の内周面とハブ104の外周面との間に存在する転動体設置空間101の軸方向外側(図9の右側)の開口を塞ぐ。
【0007】
シールリング102は、外輪103の軸方向外側の端部に固定された金属製で円環状の芯金105と、該芯金105に結合固定された弾性材製のシール材106とを有する。
【0008】
芯金105は、全体が円環状に構成されており、外輪103の軸方向外側の端部に圧入により支持固定されている。
【0009】
芯金105は、シール嵌合筒部107と、外向鍔部108と、補強筒部109と、支持板部110とを備える。
【0010】
シール嵌合筒部107は、外輪103の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定されている。外向鍔部108は、シール嵌合筒部107の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がり、外輪103の軸方向外側の端面に沿って径方向外側に伸長している。補強筒部109は、円筒形状を有し、外向鍔部108の径方向外側の端部から軸方向内側に向けて伸長している。支持板部110は、略クランク形の断面形状を有し、径方向外側の端部がシール嵌合筒部107の軸方向内側の端部につながっている。
【0011】
シール材106は、全体が円環状に構成されており、芯金105の表面に加硫成形接着されている。
【0012】
シール材106は、3本のシールリップ111a~111cと、堰部112と、庇リップ113とを備える。
【0013】
3本のシールリップ111a~111cは、支持板部110により補強されたシール材106の径方向内側部に備えられている。3本のシールリップ111a~111cは、それぞれの先端部が、ハブ104に備えられた回転フランジ114の軸方向内側面又はハブ104の軸方向中間部外周面に全周にわたり摺接している。
【0014】
堰部112は、シール材106の径方向外側の端部に備えられており、外輪103の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出している。堰部112は、外輪103の軸方向外側の端面よりも軸方向外側に配置された円環状の堰部本体115と、該堰部本体115から軸方向内側(図9の左側)に向けて伸長した、円筒形状の覆い部116とを有する。
【0015】
堰部本体115は、外向鍔部108の径方向外側の端部により補強されている。覆い部116は、補強筒部109により補強されている。覆い部116は、外輪103の外周面の軸方向外側の端部を覆っている。覆い部116の内周面には、径方向内側に向けて突出した円環形状のリップ部117が備えられている。リップ部117の先端部は、外輪103の外周面に対し締め代を持って接触している。
【0016】
庇リップ113は、円筒形状を有している。庇リップ113の軸方向内側の端面は、堰部本体115の軸方向外側の端面につながっている。庇リップ113の軸方向外側の端面は、回転フランジ114の軸方向内側面に全周にわたり近接対向している。
【0017】
車両の走行中、外輪103の周囲には、車輪及び制動用回転体の回転に起因して、回転気流が発生する。路面から跳ね上げられた泥水は、その回転気流に取り込まれて、水滴の状態で外輪103の周囲を周回する。車両が停止し、回転気流が収まると、回転気流とともに外輪103の周囲を周回していた水滴は、ハブユニット軸受100の上部において、外輪103の外周面及び回転フランジ114の軸方向内側面に落下する。
【0018】
堰部112は、外輪103の外周面に落下し、かつ、該外周面に沿って軸方向外側に流れてきた水滴を堰き止めることで、該水滴が外輪103の軸方向外側の端面と回転フランジ114の軸方向内側面との間に侵入することを防ぐ。
【0019】
庇リップ113は、路面から跳ね上げられた泥水などの異物が、外輪103の軸方向外側の端面と回転フランジ114の軸方向内側面との間に直接侵入することを防ぐ。これにより、シールリップ111a~111cを保護し、シールリップ111a~111cの耐久性の向上を図る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2017-198316号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
従来構造のシールリング102を、外輪103の軸方向外側の端部に圧入により組み付けるには、シール材106のうちで外向鍔部108を覆った部分の軸方向外側面に備えられた平面状の被押圧面118を、押圧治具により軸方向に押し込む方法が採られている。
【0022】
ただし、従来構造のシールリング102は、堰部112の軸方向外側の端面から軸方向に伸長した庇リップ113を備えているため、庇リップ113の分だけ、被押圧面118の径方向幅が小さくなるとともに、適正な径方向位置に被押圧面118を配置できなくなる可能性がある。したがって、シールリング102の組み付け作業の作業性が低下し、ハブユニット軸受の組立作業の作業性が低下する可能性がある。
【0023】
特に従来構造のシールリング102は、堰部112の内周面にリップ部117を備えているため、シールリング102を押圧治具により押し込む際に、リップ部117の捲れを考慮する必要があり、組み付け作業が困難である。このため、庇リップ113の存在が、シールリング102の組み付け作業の作業性をさらに低下させる可能性がある。
【0024】
ところで、ハブユニット軸受の組立工場においては、シールリングは、棒巻き包装されて軸方向に積み重ねられた状態で定配装置にセットされる。そして、シールリングは、切り出し治具により1個ずつ分離して取り出され、外輪の軸方向外側の端部に組み付けられる。
【0025】
ただし、従来構造のシールリング102は、軸方向に積み重ねた状態で、隣り合う2つのシールリング102同士の間で、覆い部116の軸方向端面と庇リップ113の軸方向端面とが突き当たるため(特許文献1の図3参照)、切り出し治具を、隣り合う2つのシールリング102同士の間に径方向外側から挿入することが難しくなる。したがって、定配装置からシールリング102を1個ずつ分離して取り出す作業が困難になり、ハブユニット軸受の組立作業性が低下する可能性がある。
【0026】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、シールリングによる密封性を確保しつつ、組立作業の作業性の向上を図れる、ハブユニット軸受及び制動用回転体付ハブユニット軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明の一態様のハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シールリングと、複数本の結合部材とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する。
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
前記シールリングは、前記外輪の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出した堰部を有しており、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
前記複数本の結合部材は、前記回転フランジに対して車輪及び制動用回転体を固定するために用いられる。
前記回転フランジは、全体が略円輪板形状をなし、複数の薄肉部と、前記薄肉部よりも軸方向内側に張り出した複数の厚肉部とを、円周方向に交互に有している。
前記複数の厚肉部のそれぞれは、前記結合部材を挿通する取付孔を有している。
前記複数本の結合部材のそれぞれは、外周面の輪郭形状が円形で、かつ、前記厚肉部の軸方向内側面に突き当てられた頭部を有している。
前記堰部は、複数の前記頭部のそれぞれの径方向内側の端部を通る内接円直径と同じか又は前記内接円直径よりもわずかに小さい外径を有しており、前記頭部の軸方向内側の端面よりもわずかに軸方向内側に配置され、かつ、前記回転フランジの軸方向内側面と対向する平面状の対向面を有している。
【0028】
本発明の一態様にかかる制動用回転体付ハブユニット軸受は、外輪と、ハブと、複数個の転動体と、シールリングと、複数本の結合部材と、制動用回転体とを備える。
前記外輪は、内周面に複列の外輪軌道を有する。
前記ハブは、外周面に複列の内輪軌道を有し、かつ、前記外輪よりも軸方向外側に位置する部分に径方向外側に突出した回転フランジを有する。
前記複数個の転動体は、前記複列の外輪軌道と前記複列の内輪軌道との間に転動自在に配置されている。
前記シールリングは、前記外輪の外周面の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出した堰部を有しており、前記外輪の内周面と前記ハブの外周面との間に存在する転動体設置空間の軸方向外側の開口を塞ぐ。
前記複数本の結合部材は、前記回転フランジに対して車輪及び制動用回転体を固定するために用いられる。
前記制動用回転体は、軸方向内側面に平面状の重ね合わせ面を有し、かつ、前記重ね合わせ面を前記回転フランジの軸方向外側面に重ね合わせた状態で、前記複数本の結合部材により前記回転フランジに固定されている。
前記回転フランジは、それぞれが放射方向に伸長し、かつ、それぞれに前記結合部材を挿通する取付孔が形成された、複数のフランジ片を有している。
前記複数本の結合部材のそれぞれは、外周面の輪郭形状が円形で、かつ、前記フランジ片の軸方向内側面に突き当てられた頭部を有している。
前記堰部は、複数の前記頭部のそれぞれの径方向内側の端部を通る内接円直径と同じか又は前記内接円直径よりもわずかに小さい外径を有しており、前記頭部の軸方向内側の端面よりもわずかに軸方向内側に配置され、かつ、前記回転フランジの軸方向内側面及び前記重ね合わせ面のそれぞれと対向する平面状の対向面を有している。
【発明の効果】
【0029】
本発明の一態様にかかるハブユニット軸受及び制動用回転体付ハブユニットによれば、シールリングによる密封性を確保しつつ、組立作業の作業性の向上を図れる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受を示す断面図である。
図2図2は、図1の部分拡大図である。
図3図3は、図1の右側から見た端面図である。
図4図4は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受から外輪及び転動体を省略して示す、図1のA-A線断面に相当する模式図である。
図5図5(A)及び図5(B)は、カルマン渦の発生原理及び回転フランジの回転に伴って発生する回転気流を説明するために示す、図4の部分拡大図である。
図6図6は、実施の形態の第1例にかかるハブユニット軸受に組み込むシールリングを軸方向に積み重ねた状態を示す断面図である。
図7図7は、実施の形態の第2例を示す、図1に相当する図である。
図8図8は、実施の形態の第2例を示す、図4に相当する図である。
図9図9は、従来構造のハブユニット軸受に組み込まれたシールリングを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
[実施の形態の第1例]
実施の形態の第1例について、図1図6を用いて説明する。
【0032】
本発明のハブユニット軸受は、各種構造のハブユニット軸受に適用可能であるが、本例では、従動輪用のハブユニット軸受に適用した場合について説明する。
【0033】
本例のハブユニット軸受1は、外輪2と、ハブ3と、複数個の転動体4a、4bと、シールリング5と、複数本のスタッド6とを備える。本例では、スタッド6が、特許請求の範囲に記載した結合部材に相当する。
【0034】
なお、ハブユニット軸受1に関する以下の説明中、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側に位置する図1及び図2の左側を、軸方向外側といい、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側に位置する図1及び図2の右側を、軸方向内側という。
【0035】
外輪2は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。外輪2は、内周面に、複列の外輪軌道7a、7bを有する。さらに、外輪2は、軸方向中間部に、径方向外側に向けて突出した静止フランジ8を有する。静止フランジ8は、径方向中間部の円周方向複数箇所に、軸方向に貫通する支持孔9を有する。
【0036】
本例では、支持孔9は、ねじ孔により構成されている。外輪2は、懸架装置のナックルに備えられた通孔を挿通した支持ボルトを、静止フランジ8の支持孔9に軸方向内側から螺合することで、懸架装置に対し支持固定され、車輪が回転する際にも回転しない。
【0037】
ハブ3は、外輪2の径方向内側に、該外輪2と同軸に配置されている。ハブ3は、外周面に複列の内輪軌道10a、10bを有する。さらに、ハブ3は、外輪2よりも軸方向外側に位置する部分に、径方向外側に突出した回転フランジ11を有する。また、ハブ3は、軸方向外側の端部に、円筒状のパイロット部12を有する。
【0038】
ハブ3は、外周面のうち、軸方向外側の内輪軌道10aと回転フランジ11との間に位置する部分に、溝肩部13を有する。溝肩部13は、回転フランジ11の軸方向内側面の径方向内側の端部につながっており、かつ、軸方向外側の内輪軌道10aにつながっている。溝肩部13は、円筒面状に構成されている。
【0039】
本例の回転フランジ11は、全体が略円輪板形状をなし、複数の薄肉部19と複数の厚肉部20とが円周方向に交互に設けられた、いわゆるスキャロップフランジである。
【0040】
回転フランジ11は、根元部14と、肉厚変化部15とを有する。
【0041】
根元部14は、回転フランジ11の径方向内側部に備えられており、軸方向厚さが円周方向に関して変化しない。肉厚変化部15は、回転フランジ11の径方向外側部に備えられており、軸方向厚さが円周方向に関して変化する。
【0042】
根元部14の軸方向内側面と肉厚変化部15の軸方向内側面とは、根元部14に備えられた径方向外側を向いた段部16によってつながっている。本例では、肉厚変化部15を含む回転フランジ11の軸方向外側面は、ハブ3の中心軸に直交する円輪状の平面により構成されている。
【0043】
根元部14は、軸方向内側面に、径方向内側から順に、曲面部17と、平面部18と、段部16とを有する。
【0044】
曲面部17は、根元部14の軸方向内側面の径方向内側の端部に備えられており、凹円弧形の断面形状を有する。曲面部17は、ハブ3の外周面に備えられた溝肩部13につながっている。平面部18は、根元部14の軸方向内側面の径方向中間部に備えられており、ハブ3の中心軸に直交する円輪状の平面により構成されている。段部16は、根元部14の軸方向内側面の径方向外側の端部に備えられている。段部16は、平面部18の径方向外側の端部から軸方向外側に向けて伸長する、径方向外側を向いた略円すい筒面により構成されている。図示の例では、段部16と平面部18との境界部の外径は、外輪2の軸方向外側の端部の外径とほぼ同じである。
【0045】
肉厚変化部15は、複数の薄肉部19と複数の厚肉部20とを円周方向に交互に有している。薄肉部19及び厚肉部20の数は任意であるが、本例では、肉厚変化部15は、薄肉部19と厚肉部20とを5つずつ有している。また、薄肉部19と厚肉部20とは、円周方向に交互にかつ等ピッチで配置されている。このため、薄肉部19及び厚肉部20のそれぞれは、円周方向に関する位相を72度ずつずらして配置されている。
【0046】
厚肉部20のそれぞれは、根元部14から放射方向に伸長している。厚肉部20のそれぞれは、薄肉部19よりも軸方向厚さが大きく、薄肉部19よりも軸方向内側に張り出している。厚肉部20の軸方向内側面は、ハブ3の中心軸に直交する平面により構成されている。厚肉部20のそれぞれは、軸方向内側から見て、径方向外側に向かうほど円周方向幅が徐々に小さくなった略台形状を有している。
【0047】
厚肉部20のそれぞれは、スタッド6を挿通する取付孔21を有している。取付孔21は、厚肉部20のそれぞれの径方向中間部を軸方向に貫通した貫通孔である。本例では、取付孔21は、円筒孔により構成されている。
【0048】
薄肉部19は、円周方向に隣り合う厚肉部20同士を接続している。薄肉部19のそれぞれは、軸方向内側から見て、径方向外側に向かうほど円周方向幅が徐々に大きくなった略扇形状を有している。
【0049】
厚肉部20の軸方向厚さに対する薄肉部19の軸方向厚さの比は、特に限定されるものではないが、径方向位置が、後述する堰部42の径方向外側の端部と一致する部分において、1/3以上、2/3以下、好ましくは、1/2以上、3/5以下とすることができる。
【0050】
薄肉部19の軸方向内側面は、径方向外側に向かうほど軸方向外側に向かう方向に傾斜した傾斜面により構成されている。本例では、薄肉部19の軸方向内側面は、径方向内側の端部が凹円弧形の断面形状を有し、それ以外の部分、すなわち、径方向中間部及び径方向外側の端部が、直線状の断面形状を有する。
【0051】
厚肉部20に備えられた取付孔21には、スタッド6が圧入状態でセレーション嵌合されている。
【0052】
複数本のスタッド6は、車輪を構成するホイール及びディスクやドラムなどの制動用回転体を、回転フランジ11に結合するために用いられる。スタッド6は、取付孔21のそれぞれに1本ずつ圧入することにより、回転フランジ11に支持固定されている。
【0053】
スタッド6のそれぞれは、軸部22と、頭部23とを有する。
【0054】
軸部22は、外周面の軸方向外側の端部乃至中間部に雄ねじ部24を有し、かつ、外周面の軸方向内側の端部にセレーション部25を有する。
【0055】
頭部23は、軸部22と一体に備えられており、軸部22の軸方向内側に設けられている。頭部23は、軸部22よりも大きい外径寸法を有している。本例では、頭部23は、頭部本体26と、面取り部27とを有している。
【0056】
頭部本体26は、円柱形状を有しており、円筒面状の外周面を有している。このため、頭部本体26の外周面の輪郭形状は、円形である。また、面取り部27は、円すい台形状を有しており、円すい筒面状の外周面を有している。このため、面取り部27の外周面の輪郭形状についても、円形である。なお、頭部は、外周面の輪郭形状が円形状であれば、全体を円柱形状とすることもできるし、全体を円すい台形状とすることもできる。頭部23の軸方向寸法は、特に限定されるものではないが、例えば、3mm以上7mm以下である。
【0057】
スタッド6のそれぞれは、軸部22を取付孔21に軸方向内側から挿入して、セレーション部25を取付孔21に軸方向内側から圧入することで、回転フランジ11に支持固定されている。この状態で、雄ねじ部24は、回転フランジ11の軸方向外側面よりも軸方向外側に突出している。また、頭部23の軸方向外側の端面は、回転フランジ11を構成する厚肉部20の軸方向内側面に突き当てられている。これにより、回転フランジ11に対するスタッド6の軸方向位置が規制されている。
【0058】
ブレーキディスクなどの制動用回転体及び車輪のホイールは、それぞれの中心部に備えられた中心孔に、パイロット部12を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔に、スタッド6を挿通した状態で、スタッド6の先端部に不図示のハブナットを螺合することにより、回転フランジ11に結合固定される。
【0059】
本例では、ハブ3は、内輪28とハブ輪29とを組み合わせてなる。
【0060】
内輪28は、軸受鋼などの硬質金属により構成されている。内輪28は、外周面に、軸方向内側の内輪軌道10bを有する。
【0061】
ハブ輪29は、中炭素鋼などの硬質金属により構成されている。ハブ輪29は、軸方向外側の内輪軌道10aと、回転フランジ11と、パイロット部12とを備える。
【0062】
ハブ輪29は、軸方向外側の内輪軌道10aよりも軸方向内側に位置する部分に、軸方向外側に隣接する部分よりも外径が小さく、内輪28が外嵌される小径段部30を有する。さらに、ハブ輪29は、小径段部30の軸方向外側の端部に、軸方向内側を向いた段差面31を有し、かつ、小径段部30の軸方向内側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がったかしめ部32を有する。
【0063】
ハブ3は、ハブ輪29の小径段部30に内輪28を外嵌し、かつ、ハブ輪29の段差面31とかしめ部32との間で内輪28を軸方向両側から挟持することにより、内輪28とハブ輪29とを結合固定することで構成されている。なお、ハブ輪のうちで内輪の軸方向内側の端部から突出した軸方向内側の端部にナットを螺合することで、ハブ輪と内輪とを結合することもできる。
【0064】
本例のハブユニット軸受1は、従動輪用のハブユニット軸受であるため、ハブ3は、中実に構成されている。ただし、本発明の一態様のハブユニット軸受は、駆動輪用のハブユニット軸受に適用することもできる。この場合、ハブは、中心部に、軸方向に貫通するスプライン孔を有する。スプライン孔には、エンジンや電動モータを駆動源として回転駆動される駆動軸の先端部が、スプライン係合される。自動車の走行時には、駆動軸によりハブを回転駆動することで、ハブの回転フランジに結合固定された車輪及び制動用回転体を回転駆動する。
【0065】
転動体4a、4bは、軸受鋼などの鉄合金製あるいはセラミックス製で、複列の外輪軌道7a、7bと複列の内輪軌道10a、10bとの間に、それぞれ複数個ずつ、保持器33a、33bにより保持された状態で転動自在に配置されている。これにより、ハブ3は、外輪2の径方向内側に回転自在に支持される。
【0066】
本例のハブユニット軸受1は、軸方向外側列の転動体4aのピッチ円直径と、軸方向内側列の転動体4bのピッチ円直径とが等しい、等径PCD型の構造を備える。ただし、本発明の一態様のハブユニット軸受は、軸方向外側列の転動体のピッチ円直径が、軸方向内側列の転動体のピッチ円直径よりも大きい又は小さい、異径PCD型のハブユニット軸受に適用することもできる。また、本例のハブユニット軸受1では、転動体4a、4bとして玉を使用しているが、玉に代えて円すいころを使用することもできる。
【0067】
シールリング5は、外輪2の軸方向外側の端部に取り付けられ、外輪2の内周面とハブ3の外周面との間に存在する転動体設置空間34の軸方向外側の開口を塞いでいる。
【0068】
シールリング5は、外輪2の軸方向外側の端部に固定された金属製で円環状の芯金35と、該芯金35に結合固定された弾性材製のシール材36とを有する。
【0069】
芯金35は、軟鋼板などの金属板をプレス加工により曲げ形成することで、全体を円環状に構成されている。芯金35は、外輪2の軸方向外側の端部に締り嵌めで内嵌固定されたシール嵌合筒部37と、シール嵌合筒部37の軸方向外側の端部から径方向外側に向けて折れ曲がり、外輪2の軸方向外側の端面に沿って径方向外側に伸長した外向鍔部38と、シール嵌合筒部37の軸方向内側の端部から径方向内側に略U字形に折り返され、かつ、軸方向外側の端部が径方向内側に向けて伸長した支持板部39とを備える。芯金35は、外向鍔部38の軸方向内側面を、シール材36の一部(後述するガスケット部43)を介して、外輪2の軸方向外側の端面に当接させることにより、外輪2に対する芯金35の軸方向位置が規制されている。
【0070】
本例では、外向鍔部38の径方向外側の端部は、外輪2の軸方向外側の端部よりもわずかに径方向外側に突出しており、自由端となっている。図示の例では、外向鍔部38の径方向外側の端部は、外輪2の軸方向外側の端部よりも、芯金35の板厚と同程度分だけ径方向外側に突出させている。これにより、後述の被押圧面48の径方向幅を広く確保して、外輪2の軸方向外側の端部にシールリング5を圧入により組み付けやすくしている。ただし、外向鍔部の径方向外側の端部は、被押圧面48の確保に支障がでない限り、外輪の軸方向外側の端部よりも径方向内側に配置することもできる。
【0071】
シール材36は、ゴムの如きエラストマーなどの弾性材料により構成(例えば加硫成形)されており、芯金35に結合固定されている。シール材36は、シール基部40と、シールリップ41a、41b、41cと、堰部42とを備える。本例のシールリング5は、庇リップを備えていない。なお、図1及び図2には、シール材36の各部の形状を、自由状態で示している。
【0072】
シール基部40は、芯金35の表面のうち、外向鍔部38の軸方向内側面の径方向外側部、及び軸方向外側面と、シール嵌合筒部37の内周面と、支持板部39の軸方向外側面、内周面、及び軸方向内側面の径方向内側部とを覆うように、芯金35に結合固定されている。シール基部40のうち、外向鍔部38の軸方向内側面の径方向外側部を覆う部分には、ガスケット部43が備えられている。ガスケット部43は、外輪2の軸方向外側の端面に弾性的に当接することにより、外輪2と芯金35との間部分を通じて、外部空間から転動体設置空間34に泥水などの異物が侵入することを防ぐとともに、転動体設置空間34内に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防いでいる。
【0073】
シールリップ41a、41b、41cのそれぞれは、先端部を、回転フランジ11の軸方向内側面又はハブ3の外周面の軸方向中間部に摺接させている。本例では、シール材36は、3本のシールリップ41a、41b、41cを有する。ただし、シールリップの本数は、3本よりも少なくあるいは多くすることもできる。
【0074】
3本のシールリップ41a、41b、41cのうち、最も径方向外側のシールリップ41aは、シール基部40のうちで支持板部39の径方向内側部の軸方向外側面を覆う部分から軸方向外側かつ径方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、回転フランジ11を構成する根元部14の平面部18に先端部を摺接させている。径方向外側から2番目のシールリップ41bは、シール基部40のうちで支持板部39の径方向内側部の軸方向外側面を覆う部分から軸方向外側に向かう方向に伸長し、かつ、回転フランジ11を構成する根元部14の曲面部17に先端部を摺接させている。最も径方向内側のシールリップ41cは、シール基部40のうちで支持板部39の内周面を覆う部分から軸方向内側かつ径方向内側に向かう方向に伸長し、かつ、溝肩部13の外周面に先端部を摺接させている。
【0075】
堰部42は、シール基部40のうちで外向鍔部38の径方向外側部を覆う部分から径方向外側に突出しており、シールリング5の径方向外側の端部に備えられている。堰部42は、外輪2の軸方向外側の端部よりも径方向外側に突出している。堰部42は、外輪2の外周面に沿って軸方向外側に流れてきた泥水を堰き止めることで、該泥水が外輪2の軸方向外側の端面と回転フランジ11の軸方向内側面との間に侵入することを防止する。
【0076】
堰部42は、外向鍔部38の径方向外側の端部を覆っている。本例では、堰部42は、径方向内側の端部のみが、外向鍔部38の径方向外側の端部を覆っている。このため、堰部42は、径方向内側の端部のみが、外向鍔部38の径方向外側の端部により補強されている。
【0077】
堰部42は、径方向全長にわたり軸方向寸法がほぼ一定であり、円輪板状に構成されている。堰部42の軸方向厚さT42は、芯金35(のうちで堰部42により覆われた外向鍔部38の径方向外側部)の板厚t35の2倍程度である(T42≒2t35)。
【0078】
本例では、堰部42の外径寸法D42を、外輪2の軸方向外側の端部における外径よりも十分に大きく、複数本のスタッド6のそれぞれの頭部23の径方向内側の端部を通る内接円直径d23と同じか又は該内接円直径d23よりもわずかに小さくしている(D42≦d23)。具体的には、内接円直径d23と外径寸法D42との差(d23-D42)を、0mm以上4mm以下、好ましくは1mm以上3mm以下としている。
【0079】
本例の堰部42は、軸方向外側面に、庇リップを備えておらず、代わりに、複数本のスタッド6のそれぞれの頭部23の軸方向内側の端面23aよりもわずかに軸方向内側に配置され、かつ、回転フランジ11の軸方向内側面と対向する平面状の対向面44を有している。対向面44は、ハブ3の中心軸に直交する平面である。また、対向面44は、回転フランジ11の軸方向内側面のうち、根元部14の段部16、厚肉部20の軸方向内側面の径方向内側部、及び、薄肉部19の軸方向内側面の径方向内側部に、それぞれ対向している。
【0080】
本例では、対向面44と頭部23の軸方向内側の端面23aとの軸方向距離を、堰部42の軸方向厚さT42よりも小さくしている。なお、対向面44と頭部23の端面23aとの軸方向距離は、特に限定されるものではないが、例えば、2mm以下、好ましくは0.5mm以上1.5mm以下とすることができる。
【0081】
本例では、堰部42の外径寸法D42を頭部23の内接円直径d23と同じか又は該内接円直径d23よりもわずかに小さくし、かつ、堰部42の軸方向外側面に備えられた対向面44を、頭部23の軸方向内側の端面23aよりもわずかに軸方向内側に配置している。これにより、堰部42の外周縁部を複数の頭部23のそれぞれに近接させ、かつ、対向面44と回転フランジ11の軸方向内側面との間に、軸方向両側が仕切られた環状の仕切空間45を形成している。
【0082】
本例では、上述のようなシールリング5を設置することで、外輪2の軸方向外側の端面と回転フランジ11の軸方向内側面との間を通じて、外部空間から泥水などの異物が転動体設置空間34に侵入したり、転動体設置空間34に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。
【0083】
本例のハブユニット軸受1は、転動体設置空間34の軸方向内側の開口部を塞ぐ有底円筒状の軸受キャップ46をさらに備える。これにより、該開口部を通じて、外部空間の異物が転動体設置空間34に侵入したり、転動体設置空間34に封入されたグリースが外部空間に漏洩したりすることを防止している。なお、軸受キャップ46に代えて、組み合わせシールリングにより、転動体設置空間34の軸方向内側の開口を塞ぐこともできる。
【0084】
本例のハブユニット軸受1によれば、シールリング5による密封性を確保しつつ、組立作業の作業性の向上を図れる。
すなわち、本例のハブユニット軸受1は、庇リップを省略する代わりに、シールリング5を構成する堰部42の外径寸法及び軸方向位置を工夫することで、回転フランジ11の回転方向に関してスタッド6の頭部23の後方側に発生するカルマン渦を利用して、回転フランジ11の軸方向内側面に付着するなどした泥水等の異物を外部に排出できるため、シールリング5による密封性を確保できる。
【0085】
以下、本例のハブユニット軸受1により、シールリング5の密封性を確保できる理由を具体的に説明する。
本例では、スタッド6の頭部23は、輪郭形状が円形の外周面を有しており、厚肉部20の軸方向内側面から軸方向内側に突出して配置されている。このため、図5(A)に示すように、ハブ3が回転する際に、回転フランジ11の回転方向に関して頭部23の後方側には、カルマン渦が発生する。具体的には、スタッド6のピッチ円直径とスタッド6の中心線との交点Oを通る接線のうち、回転フランジ11の回転方向に関して後方側を向いた接線TLを挟んで、径方向外側と径方向内側に2列のカルマン渦が発生する。
【0086】
カルマン渦は、風速が数m/s~数十m/sの条件下で発生しやすいことが知られており、カルマン渦が発生しやすい風速は、車両走行時における、スタッド6のピッチ円直径上での頭部23の移動速度と重なる。このため、回転フランジ11が回転した際に、回転フランジ11の回転方向に関して頭部23の後方側には、カルマン渦が発生しやすくなる。
【0087】
また、接線TLの径方向内側に発生するカルマン渦は、図5(A)に示した例では、時計回りに回転しながら渦中心に気流が流れ、渦全体としては、ハブ3の中心から離れるように径方向外側に向かって移動しようとする。ただし、カルマン渦は、それ自体では径方向や接線方向にほとんど移動せず、軸方向に広がって減衰する傾向がある。
【0088】
一方で、本例では、回転フランジ11を、薄肉部19と厚肉部20とを円周方向に交互に有するスキャロップフランジとしているため、円周方向に隣り合う1対の厚肉部20同士間に、薄肉部19の軸方向内側面によって軸方向外側が閉じられた中間空間47が形成される。そして、該中間空間47に、回転フランジ11の回転に伴って、図5(A)に矢印Xで示したような回転気流が発生する。つまり、回転フランジ11が回転した際に、円周方向に隣り合う1対の厚肉部20のうち、回転フランジ11の回転方向に関して後方側の厚肉部20は、該厚肉部20の回転方向前方側を向いた側面によって、中間空間47に存在する空気を径方向外側に向けて押し出す。また、回転フランジ11の回転方向に関して前方側の厚肉部20が通過すると、該厚肉部20の回転方向方向後側を向いた側面に沿って、中間空間47に径方向外側から空気が取り込まれる。これにより、中間空間47には、図5(A)に矢印Xで示したような、略U字形の回転気流が発生する。
【0089】
したがって本例では、図5(B)に示すように、回転フランジ11の回転方向に関して頭部23の後方側に発生するカルマン渦は、回転フランジ11の回転に伴って発生する回転気流に乗り、矢印Xで示したように略U字形に移動する。つまり、回転フランジ11の回転方向に関して前方側の厚肉部20の円周方向側面に沿って径方向内側に移動した後、根元部14の段部16に沿って円周方向に移動し、回転フランジ11の回転方向に関して後方側の厚肉部20に沿って径方向外側に移動する。
【0090】
特に本例では、堰部42の外径寸法及び軸方向位置を工夫することで、堰部42の外周縁部を複数の頭部23のそれぞれに近接させ、かつ、堰部42の対向面44と回転フランジ11の軸方向内側面との間に、軸方向両側が仕切られた環状の仕切空間45を形成している。このため、回転気流に乗って仕切空間45にまで移動したカルマン渦が、軸方向に広がって減衰することを抑制できる。これにより、カルマン渦の強さを維持することができるため、回転フランジ11の軸方向内側面に付着するなどした泥水等の異物を、カルマン渦の渦中心に集めつつ、カルマン渦ごと回転気流に乗せて、回転フランジ11の径方向外側へと排出することができる。したがって本例では、シールリング5から、回転フランジ11の軸方向内側面にその先端部を近接対向させた円筒形状を有する庇リップを省略した場合にも、シールリング5による密封性を確保することができる。
【0091】
また、本例のシールリング5は、庇リップを備えていないため、堰部42の軸方向外側面に、押圧治具によって押圧可能な被押圧面48の径方向幅H48を十分に広く確保できる。また、該被押圧面48を適正な径方向位置に配置することができる。したがって、シールリング5の組み付け作業の作業性を向上でき、ハブユニット軸受1の組立作業の作業性を向上できる。
【0092】
また、図6に示すように、本例のシールリング5は、軸方向に積み重ねた状態で、隣り合う2つのシールリング5の堰部42同士の間に隙間を形成することができる。このため、定配装置の切り出し治具49を、隣り合う2つのシールリング5同士の間に径方向外側から容易に挿入することができる。したがって、定配装置からシールリング5を1個ずつ分離して取り出す作業を容易に行うことができる。この結果、この面からも、ハブユニット軸受1の組立作業の作業性を向上できる。
【0093】
さらに、堰部42の外径寸法D42を、頭部23の内接円直径d23と同じか又は該内接円直径d23よりもわずかに小さくしているため、スタッド6の取り付け作業及び交換作業に支障が生じることを回避できる。
【0094】
[実施の形態の第2例]
実施の形態の第2例について、図7及び図8を用いて説明する。
【0095】
本例の制動用回転体付ハブユニット軸受は、ハブユニット軸受1aと、制動用回転体であるブレーキロータ50とを備える。なお、制動用回転体として、ブレーキロータ以外に、ブレーキドラムを採用することもできる。
【0096】
ハブユニット軸受1aは、外輪2と、ハブ3aと、複数個の転動体4a、4bと、シールリング5と、複数本のスタッド6とを備える。本例では、ハブユニット軸受1aのうち、ハブ3aを構成する回転フランジ11aの構造のみを、実施の形態の第1例の構造から変更している。
【0097】
回転フランジ11aは、根元部14と、放射フランジ部51とを有する。
【0098】
放射フランジ部51は、複数のフランジ片52から構成されている。本例では、放射フランジ部51は、5つのフランジ片52を有している。複数のフランジ片52は円周方向に等間隔に配置されている。
【0099】
フランジ片52のそれぞれは、根元部14から放射方向に伸長している。フランジ片52の軸方向内側面は、ハブ3aの中心軸に直交する平面により構成されている。フランジ片52のそれぞれは、軸方向内側から見て、径方向外側に向かうほど円周方向幅が徐々に小さくなった略台形状を有している。
【0100】
フランジ片52のそれぞれは、スタッド6を挿通する取付孔21を有している。取付孔21は、フランジ片52のそれぞれの径方向中間部を軸方向に貫通した貫通孔である。
【0101】
ブレーキロータ50は、鋳鉄などの金属材料から造られており、クランク形の断面形状を有している。ブレーキロータ50は、径方向内側部に取付部53を有しており、径方向外側部にディスク部を有している。
【0102】
取付部53は、回転フランジ11aに対し支持固定される部分であり、軸方向内側面に、回転フランジ11aの軸方向外側面に重ね合わされる平面状の重ね合わせ面54を有する。また、取付部53は、円周方向等間隔複数箇所(図示の例では5箇所)に、通孔55を有している。
【0103】
ブレーキロータ50は、それぞれの中心部に備えられた中心孔56に、パイロット部12を挿通し、かつ、それぞれの径方向中間部の円周方向複数箇所に備えられた通孔55に、スタッド6の軸部22を挿通した状態で、スタッド6の先端部に不図示のハブナットを螺合することにより、回転フランジ11aに結合固定される。このようにブレーキロータ50を回転フランジ11aに結合固定した状態で、取付部53の重ね合わせ面54は、フランジ片52のそれぞれの軸方向外側面に重ね合わされる。また、重ね合わせ面54のうちで、フランジ片52から円周方向の位相が外れた部分は、軸方向内側に露出し、フランジ片52の軸方向内側面よりも軸方向外側に位置している。
【0104】
また、本例では、シールリング5を構成する堰部42の対向面44と、回転フランジ11aの軸方向内側面及び重ね合わせ面54との間に、軸方向両側が仕切られた環状の仕切空間45aが形成される。
【0105】
以上のような本例の場合にも、実施の形態の第1例の構造と同様に、円周方向に隣り合う1対のフランジ片52同士の間に、ブレーキロータ50の重ね合わせ面54により軸方向外側が閉じられた中間空間47aを形成することができる。そして、該中間空間47aに、回転フランジ11aの回転に伴って略U字形の回転気流を発生させることができる。
【0106】
このため、回転フランジ11aの回転方向に関して頭部23の後方側に発生するカルマン渦を、回転フランジ11aの回転に伴って発生する回転気流に乗せて、仕切空間45aにまで移動させることができる。したがって、カルマン渦が、軸方向に広がって減衰することを抑制できるので、泥水等の異物を、カルマン渦の渦中心に集めつつ、カルマン渦ごと回転気流に乗せて、回転フランジ11aの径方向外側へと排出することができる。
その他の構成及び作用効果については、実施の形態の第1例と同じである。
【0107】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明の技術思想は、実施の形態で説明した構造に限定されない。例えば、シールリングを構成する堰部の形状及びシールリップの本数などについては、適宜変更することができる。具体的には、堰部を、前記特許文献1に記載した従来構造のように、円環形状を有する堰部本体と、外輪の外周面を覆う円筒形状の覆い部とから構成することもできる。また、覆い部の内周面に、外輪の外周面に対して締め代を持って接触するリップ部を設けることもできる。
【符号の説明】
【0108】
1、1a ハブユニット軸受
2 外輪
3、3a ハブ
4a、4b 転動体
5 シールリング
6 スタッド
7a、7b 外輪軌道
8 静止フランジ
9 支持孔
10a、10b 内輪軌道
11、11a 回転フランジ
12 パイロット部
13 溝肩部
14 根元部
15 肉厚変化部
16 段部
17 曲面部
18 平面部
19 薄肉部
20 厚肉部
21 取付孔
22 軸部
23 頭部
23a 端面
24 雄ねじ部
25 セレーション部
26 頭部本体
27 面取り部
28 内輪
29 ハブ輪
30 小径段部
31 段差面
32 かしめ部
33a、33b 保持器
34 転動体設置空間
35 芯金
36 シール材
37 シール嵌合筒部
38 外向鍔部
39 支持板部
40 シール基部
41a~41c シールリップ
42 堰部
43 ガスケット部
44 対向面
45 仕切空間
46 軸受キャップ
47 中間空間
48 被押圧面
49 切り出し治具
50 ブレーキロータ
51 放射フランジ部
52 フランジ片
53 取付部
54 重ね合わせ面
55 通孔
56 中心孔
100 ハブユニット軸受
101 転動体設置空間
102 シールリング
103 外輪
104 ハブ
105 芯金
106 シール材
107 シール嵌合筒部
108 外向鍔部
109 補強筒部
110 支持板部
111a、111b、111c シールリップ
112 堰部
113 庇リップ
114 回転フランジ
115 堰部本体
116 覆い部
117 リップ部
118 被押圧面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9