(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100157
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】血小板由来組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/19 20150101AFI20240719BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240719BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240719BHJP
A61P 7/00 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K35/19
A61K9/08
A61K47/02
A61P7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023003939
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】513066111
【氏名又は名称】株式会社細胞応用技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】藤田 千春
【テーマコード(参考)】
4C076
4C087
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB11
4C076CC14
4C076DD23
4C076DD26
4C076FF12
4C076FF36
4C087AA10
4C087BB38
4C087DA21
4C087MA17
4C087MA66
4C087NA03
4C087NA10
4C087ZA52
(57)【要約】
【課題】血小板由来成分が他の薬剤と混合した際に、フィブリンが生成されない方法を提供することを目的とする。
【解決手段】血小板由来成分であるPRPを製造する際、通常であれば血漿で希釈し、投与量を調整する。本発明は、血漿成分を取り除き、蒸留水、輸液剤、薬剤などの人や動物にそのまま投与できる溶媒で調整することを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血小板由来組成物の溶媒が血漿以外である血小板由来組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の血小板由来組成物であって、
前記溶媒が、蒸留水、輸液剤、又は薬剤である血小板由来組成物。
【請求項3】
血小板由来組成物を製造する方法であって、
(1)採血した血液を遠心分離する工程と、
(2)遠心分離した後の血液から血漿を除去する工程と、
(3)遠心分離した後の血液から血漿を除去した後に血漿以外の溶媒で希釈する工程と、
を含む血小板由来組成物を製造する方法。
【請求項4】
請求項3に記載の血小板由来組成物を製造する方法であって、(3)の後工程に、
(4)血小板を活性化又は破砕する工程と、
(5)血小板由来組成物を凍結乾燥する工程と、
を含む血小板由来組成物を製造する方法。
【請求項5】
請求項4に記載の血小板由来組成物を製造する方法であって、(4)と(5)の間に血小板由来組成物をフィルターに通す工程
を含む血小板由来組成物を製造する方法。
【請求項6】
請求項3から5のいずれかに記載の血小板由来組成物を製造する方法であって、前記血漿以外の溶媒が、人や動物に投与できる溶媒の蒸留水、輸液剤又は薬剤である、
血小板由来組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血小板由来組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療において、血小板由来成分である多血小板血漿(「PRP」)の利用が期待されている(下記特許文献1)。血小板由来成分である多血小板血漿の溶媒には血漿が含まれており、他の薬剤と混合した際に、血漿が他の薬剤と反応することでフィブリンが生成される問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そこで本発明は、血小板由来成分と他の薬剤を混合した際に、フィブリンが生成されない方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
血小板由来成分であるPRPを製造する際、通常であれば血漿で希釈し、投与量を調整する。一方、本発明は、血漿成分を取り除き、血漿以外の例えば蒸留水、輸液剤又は薬剤などの人や動物にそのまま投与できる溶媒で調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明は、血小板由来成分と他の薬剤を混合した際に、フィブリンが生成されない方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に、本発明に係る血小板由来組成物及びその製造方法の一実施形態について説明する。
【0008】
本発明の一実施形態に係る血小板由来組成物は、血小板由来組成物の溶媒が血漿以外である血小板由来組成物である。また、本実施形態において、そのような血小板由来組成物を製造する方法は、以下の工程を含む。
(1)採血した血液を遠心分離する工程、
(2)遠心分離した後の血液から血漿を除去する工程、
(3)遠心分離した後の血液から血漿を除去した後に血漿以外の溶媒で希釈する工程。
【0009】
血小板は、血液に含まれる細胞成分の一種である。血小板は、細胞の再生を促す種々の成分が含まれていることから、骨、血管、皮膚などの再生促進機能を有することが知られている。血液中の血小板を高濃度に集めたものをPRPといい、各種の再生医療に用いられている。また、集めた血小板を破壊し、血小板が持つ成長因子だけ集めて治療に用いる方法も再生医療として用いられている。
【0010】
血液中の血小板を集める方法や血小板の成長因子だけを集める方法は、様々な方法が報告されており、本実施形態においてその方法は限定されない。どのような方法、状態であっても血小板を用いていれば血小板由来組成物とする。例えば、患者血液を遠心分離することで、赤血球層、バッフィーコート、血小板・血漿層に分離され、血小板・血漿層を別の容器に移すことで血小板由来組成物を得ることができる。
【0011】
血小板由来組成物の原料となる血小板としては、例えばPRPが挙げられる。PRPは、例えば、PRPを適用する患者から採血した血液を遠心分離することによって調製することができる。遠心分離の条件は公知の条件を採用することができる。また、血小板由来組成物の原料となる血小板は、iPS細胞、ES細胞や脂肪組織由来間葉系幹細胞などの幹細胞由来から分化させた血小板であってもよい。
【0012】
工程(1)において患者血液を遠心分離することで、赤血球層、バッフィーコート、血小板・血漿層に分離され、血小板・血漿層を別の容器に移し、2回目の遠心分離を行うことで血小板の沈渣を得ることができる。このように血小板と血漿とを分離して、工程(2)において容易に血漿成分を除去することができ、その後の工程(3)において、血小板を任意の溶媒で溶かすことができる。
【0013】
溶媒は、血漿以外の溶媒であり、例えば蒸留水、輸液剤又は薬剤であれば良く、人や動物にそのまま投与できる溶媒であることが好ましい。
【0014】
輸液剤は、補充輸液剤と維持輸液剤がある。
【0015】
補充輸液剤は、生理食塩水、リンゲル液、乳酸/酢酸/重炭酸加リンゲル液、代用血漿剤、血漿製剤である。維持輸液剤は、糖・電解質輸液製剤、糖・電解質・アミノ酸キット製剤、アミノ酸製剤、脂肪乳剤、微量栄養素製剤がある。
【0016】
薬剤は、ミノキシジルがある。
【0017】
本実施形態において、上記工程(3)の後に以下の工程をさらに含むことが好ましい。
(4)血小板を活性化又は破砕する工程、
(5)血小板由来組成物を凍結乾燥する工程。
【0018】
血小板に対する活性化又は破砕としては、塩化カルシウムなどの薬剤を添加して血小板を活性化させる方法、超音波破砕や凍結融解による方法、エタノールや界面活性剤を添加する方法などが例示される。超音波破砕による方法は、超音波破砕機や超音波洗浄機などを用いて行うことができる。例えば、超音波破砕機を用いてPRPに対して破砕を施す場合、調製したPRPを、シリンジで抜き取ってスピッツや真空採血管に移し替え、氷冷下、連続的又は間欠的に、10秒間~5分間行えばよい。超音波洗浄機を用いる場合、室温下、1分間~30分間行えばよい。さらに、調製したPRPに20%~100%エタノールを添加し、強く攪拌したのちに血小板膜を凝固させ破砕を行う。この際に血小板に含まれる成長因子もエタノール分画されるが、エタノールを、減圧エバポレートで乾燥させたのちに、等張性溶液で再び懸濁することで、立体構造を回復させて活性を回復させてもよい。また、凍結融解においてPRPを破砕する場合は、-4℃~-20℃程度の氷温で緩徐に凍結し水の結晶構造の構築による容積の増大による血小板膜の破砕を試みても、-20℃以下-196℃までの低温から超低温において急速凍結しても良い。いずれの場合も、37℃~40℃程度の微温湯で急速に解凍する、もしくは室温から4℃程度で緩徐に解凍することで血小板膜の効率的な破砕につながる。なお、血小板に対して活性化又は破砕を施すと、血小板の細胞膜も破壊されるが、血小板が破砕されても、血小板に含まれる各種の成長因子やエクソソームの量が低下することはないため、血小板が持つ成長因子だけ集めて治療に用いることができる。
【0019】
血小板由来組成物の凍結乾燥は、シリンジ又はバイアル瓶に所定の量の血小板由来組成物を入れ、ガス透過性の滅菌バックに封入し、血小板由来組成物に対してできるだけ温和な条件、例えば-4~-20℃で血小板由来組成物を3~24時間予備凍結させてから、シリンジ又はバイアル瓶を凍結乾燥機の処理室に収容し、例えば60mTorr以下の圧力に5分以内に到達させて10~48時間凍結乾燥処理することで行うことが望ましい。
【0020】
本実施形態において、工程(4)と工程(5)の間に血小板由来組成物をフィルターに通す工程をさらに含んでもよい。
【0021】
血小板由来組成物にフィルターを通す場合の濾過方式は、遠心、加圧又は吸引でよい。フィルターの孔径は0.22μm、0.45μm又は100μmのフィルター孔径でよく、好ましくは、マイコプラズマ属の細菌の除去を目的とする場合には、孔径0.1μm以下のフィルターがよい。フィルターの材質は、親水性ポリテトラフルオエチレン(PTFE)、親水性ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリエーテルスルホン(PES)でよい。
【0022】
このようにして得られた血小板由来組成物を、治療に用いることができる。血小板由来組成物を用いた治療は、血液中に含まれる血小板の成長因子が持つ組織修復能力を利用し、治癒を目指す再生医療である。例えば、難治性皮膚潰瘍や褥瘡(床ずれ)、熱傷、糖尿病患者の下肢の壊死又は壊疽、歯科の歯槽骨や歯肉の再生促進のためにこれらの患部に血小板由来組成物を投与すればよい。また、軟骨や筋肉の損傷部位に血小板由来組成物を投与してもよい。外科手術の際に患部に血小板由来組成物を投与してもよい。変形性関節症やリウマチ、半月板損傷、上腕骨外側上顆炎の患部に血小板由来組成物を投与してもよい。顔や首などの皮膚のしわ改善や発毛促進のために患者に血小板由来組成物を投与してもよい。不妊治療として子宮内膜に血小板由来組成物を投与してもよい。
【実施例0023】
以下、本発明について実施例を挙げてより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0024】
ACD溶液入り真空採血管(日本ベクトンディッキンソン株式会社)を用い、1名の健常者から6本(全血量60ml)の採血を行い、転倒混和後、室温下200Gで15分間の遠心分離を行った。遠心分離で得られた上清(血小板血漿)を滅菌チューブ1本に集め混和した後、滅菌スピッツ3本(試料1、試料2、試料3)に分注した。室温下1200Gで15分間遠心分離を行い、沈渣を残し、上清(Platelet Poor Plasma;以下PPP)を別の滅菌スピッツに分取した。
【0025】
試料1の沈渣には生理食塩水(大塚製薬株式会社)を2ml、試料2の沈渣にはリン酸緩衝液(株式会社トーホー)を2ml、試料3の沈渣にはPPPを2ml添加後、凍結融解し、沈渣を分散・混和した。室温下1200Gで5分間程度遠心分離を行い上清を回収し、それぞれを1mlずつ2本の2.5ml容量シリンジ(テルモ株式会社)に分注し、凍結した。
【0026】
試料1、試料2、試料3のそれぞれ1本ずつを凍結乾燥し、試料1―FD、試料2―FD、試料3―FDとして凍結保管を行った。凍結保管した各試料を室温で解凍した後、試料1、試料2、試料3には、ミノキシジルとして2%minox(MesoMedica)を0.5mlずつ添加し、混和した。試料1―FD、試料2―FD、試料3―FDについては2%minox(MesoMedica)1mlを用い、粉末状の試料を混和した。
【0027】
2%minox添加後の各試料の状態を以下の表1に示す。
【0028】
【0029】
ACD溶液入り真空採血管(日本ベクトンディッキンソン株式会社)を用い、1名の健常者から6本(全血量60ml)の採血を行い、転倒混和後、室温下200Gで15分間の遠心分離を行った。遠心分離で得られた上清(血小板血漿)を滅菌チューブ1本に集め混和した後、滅菌スピッツ6本(試料a、試料b、試料c、試料d、試料e、試料f)に分注した。室温下1200Gで15分間遠心分離を行い、沈渣を残し、上清(Platelet Poor Plasma;以下PPP)を別の滅菌スピッツに分取した。
【0030】
試料aの沈渣には注射用水(大塚製薬株式会社)を1ml、試料bの沈渣には生理食塩水(大塚製薬株式会社)を1ml、試料cの沈渣には輸液剤であるラクテックを1ml、試料dの沈渣には輸液剤であるビカーボンを1ml、試料eの沈渣にはPPPを1ml、試料fの沈渣には2%minox(MesoMedica)を1ml添加後、凍結融解し、沈渣を分散・混和した。室温下1200Gで5分間程度遠心分離を行い上清を回収し、それぞれを1mlずつ2.5ml容量シリンジ(テルモ株式会社)に分注し、凍結乾燥を行った後、凍結保管した。試料fに関しては、溶解したが、凍結することができなかったため、凍結乾燥を行うことができなかった。凍結乾燥した各試料を室温で解凍した後、試料a、試料b、試料c、試料d、試料eに2%minox(MesoMedica)を0.5mlずつ添加し、混和した。
【0031】
2%minox添加後の各試料の状態を以下の表2に示す。
【0032】
【0033】
以上の結果から、血小板由来組成物の溶媒に血漿成分を含む場合はミノキシジルを添加することでフィブリンがされてゲル化する(試料3及び試料e)一方で、溶媒として血漿成分を含まない注射用水、生理食塩水、輸液剤等を用いた場合はミノキシジルを添加してもフィブリンが生成されずに溶解できることが明らかとなった。従って、本発明によると、血小板由来成分と他の薬剤を混合してもフィブリンを生成させないようにすることができる。