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特開2024-100186ポリエステル容器及びポリエステルプリフォーム
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  • 特開-ポリエステル容器及びポリエステルプリフォーム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100186
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ポリエステル容器及びポリエステルプリフォーム
(51)【国際特許分類】
   B65D 1/02 20060101AFI20240719BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20240719BHJP
   B29B 11/14 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B65D1/02 110
B65D1/02 ZAB
B32B27/36
B29B11/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004000
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(72)【発明者】
【氏名】江口 誠
(72)【発明者】
【氏名】関根 章智
【テーマコード(参考)】
3E033
4F100
4F201
【Fターム(参考)】
3E033AA02
3E033AA08
3E033AA10
3E033AA20
3E033BA17
3E033BA18
3E033BB08
3E033DA03
3E033DB01
3E033DD03
3E033FA01
3E033FA02
3E033FA03
4F100AA17B
4F100AA37B
4F100AB10B
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100BA02
4F100CA30A
4F100EH66B
4F100GB16
4F100JA04A
4F100JA07A
4F100JL16A
4F100YY00A
4F201AA24
4F201AA50
4F201AG07
4F201AH55
4F201AR06
4F201BA03
4F201BC02
4F201BC25
4F201BD06
4F201BM14
4F201BP32
(57)【要約】
【課題】環境負荷を低減でき、且つ衛生性に優れるポリエステル容器を提供する。
【解決手段】本発明によるポリエステル容器は、ポリエステル樹脂層を備え、前記ポリエステル樹脂層が、ケミカルリサイクルポリエステルを含み、前記ポリエステル樹脂層のGPCの測定から得た分子量分布曲線における分子量1000以下の領域の面積割合が、全ピーク面積の1.05%以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂層を備えるポリエステル容器であって、
前記ポリエステル樹脂層が、ケミカルリサイクルポリエステルを含み、
前記ポリエステル樹脂層のGPCの測定から得た分子量分布曲線における分子量1000以下の領域の面積割合が、全ピーク面積の1.05%以下である、ポリエステル容器。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂層における前記ケミカルリサイクルポリエステルの含有量が、50質量%以上95質量%以下である、請求項1に記載のポリエステル容器。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂層が、バージンポリエステルを更に含む、請求項1又は2に記載のポリエステル容器。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂層における前記バージンポリエステルの含有量が、5質量%以上50質量%以下である、請求項3に記載のポリエステル容器。
【請求項5】
前記バージンポリエステルに対する前記ケミカルリサイクルポリエステルの質量比が、1.0以上19.0以下である、請求項3に記載のポリエステル容器。
【請求項6】
前記ポリエステル樹脂層におけるポリエステルの含有量が、90質量%以上100質量%以下である、請求項1又は2に記載のポリエステル容器。
【請求項7】
前記ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の融点が、248.0℃以上である、請求項1又は2に記載のポリエステル容器。
【請求項8】
前記ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の結晶化温度が、185℃以上である、請求項1又は2に記載のポリエステル容器。
【請求項9】
前記ケミカルリサイクルポリエステルが、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレートである、請求項1又は2に記載のポリエステル容器。
【請求項10】
前記ポリエステル樹脂層が、添加剤を含む、請求項1又は2に記載のポリエステル容器。
【請求項11】
表面に蒸着膜を備える、請求項1又は2に記載のポリエステル容器。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のポリエステル容器の製造に用いる、ポリエステルプリフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル容器及びポリエステルプリフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、その機械的特性、化学的安定性、耐熱性、透明性等に優れ、且つ安価であることから、容器をはじめ、各種産業用途に広く使用されている。ポリエステルは、ジオール単位とジカルボン酸単位とを重縮合して得られ、例えばポリエチレンテレフタレートは、エチレングリコールとテレフタル酸とを原料として、これらをエステル化反応させた後に重縮合反応させて製造されている。これらの原料は化石燃料である石油から生産され、例えば、エチレングリコールはエチレンから、テレフタル酸はキシレンから工業的に生産されている。
【0003】
近年、二酸化炭素排出削減等の環境負荷の低減を目的として、化石燃料ポリエステルに代え、使用済みの容器に含まれるポリエステルをメカニカルリサイクルして得られたポリエステル(メカニカルリサイクルポリエステル)を用いて、容器を製造することが行われている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、容器は充填されていた内容物や保管環境により、その汚染の程度にはバラツキがある。メカニカルリサイクルポリエステルを用いた容器は、消費者が衛生面を懸念することも考えられる。そのため、衛生性の観点から、ケミカルリサイクルポリエステルの使用が検討されている。ケミカルリサイクルポリエステルは、使用済みの容器に含まれるポリエステルをモノマーレベルまで分解し、汚染物質の除去を行った後に、再度重合することにより得られるため、より衛生性に優れる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-007175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一方、ケミカルリサイクルポリエステルを容器に用いても、依然として内容物が汚染され、内容物の風味が損なわれることがあった。即ち、ケミカルリサイクルポリエステルの衛生性には改善の余地があった。
本発明者らは、ケミカルリサイクルポリエステルを容器に用いる場合であっても、低分子量成分の含有量が少ない樹脂組成物を用いることで、低分子量成分の内容物への溶出を抑制でき、衛生性をより向上できることを見出した。
【0007】
従って、本発明の目的は、環境負荷を低減でき、且つ衛生性に優れるポリエステル容器を提供することである。
また、本発明の別の目的は、かかるポリエステル容器の製造に用いる、ポリエステルプリフォームを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポリエステル樹脂層を備えるポリエステル容器であって、
前記ポリエステル樹脂層が、ケミカルリサイクルポリエステルを含み、
前記ポリエステル樹脂層のGPCの測定から得た分子量分布曲線における分子量1000以下の領域の面積割合が、全ピーク面積の1.05%以下である、ポリエステル容器である。
【0009】
本発明によるポリエステル容器において、前記ポリエステル樹脂層における前記ケミカルリサイクルポリエステルの含有量が、50質量%以上95質量%以下であってもよい。
【0010】
本発明によるポリエステル容器において、前記ポリエステル樹脂層が、バージンポリエステルを更に含んでもよい。
【0011】
本発明によるポリエステル容器において、前記ポリエステル樹脂層における前記バージンポリエステルの含有量が、5質量%以上50質量%以下であってもよい。
【0012】
本発明によるポリエステル容器において、前記バージンポリエステルに対する前記ケミカルリサイクルポリエステルの質量比が、1.0以上19.0以下であってもよい。
【0013】
本発明によるポリエステル容器において、前記ポリエステル樹脂層におけるポリエステルの含有量が、90質量%以上100質量%以下であってもよい。
【0014】
本発明によるポリエステル容器において、前記ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の融点が、248.0℃以上であってもよい。
【0015】
本発明によるポリエステル容器において、前記ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の結晶化温度が、185℃以上であってもよい。
【0016】
本発明によるポリエステル容器において、前記ケミカルリサイクルポリエステルが、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレートであってもよい。
【0017】
本発明によるポリエステル容器において、前記ポリエステル樹脂層が、添加剤を含んでもよい。
【0018】
本発明によるポリエステル容器は、表面に蒸着膜を備えてもよい。
【0019】
本発明は、前記ポリエステル容器の製造に用いる、ポリエステルプリフォームである。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、環境負荷を低減でき、且つ衛生性に優れるポリエステル容器を提供できる。
また、本発明は、かかるポリエステル容器の製造に適した、ポリエステルプリフォームを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明によるポリエステル容器の一実施形態を示す概略半断面図である。
図2】本発明によるポリエステルプリフォームの一実施形態を示す概略半断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[ポリエステル容器]
本発明によるポリエステル容器は、ポリエステル樹脂層を備える。また、ポリエステル樹脂層が、ケミカルリサイクルポリエステルを含む。
【0023】
本明細書において、「容器」とは、物品を収容する成形体を意味する。容器としては、例えば、圧縮成形体、射出成形体、ブロー成形体及び熱成形体等の成形体が挙げられる。具体的な容器としては、例えば、ボトル、バイアル瓶、カップ、トレー及びパック等が挙げられる。
【0024】
本明細書において、「ポリエステル」とは、ジオール化合物とジカルボン酸化合物との重縮合反応により得られるものである。
ジカルボン酸化合物としては、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、エイコサン二酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-スルホイソフタル酸ナトリウム、フェニルインダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン及びこれらのエステル誘導体等が挙げられる。
ジオール化合物としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ブタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジエタノール、デカヒドロナフタレンジメタノール、デカヒドロナフタレンジエタノール、ノルボルナンジメタノール、ノルボルナンジエタノール、トリシクロデカンジメタノール、トリシクロデカンジエタノール、テトラシクロドデカンジメタノール、テトラシクロドデカンジエタノール、デカリンジメタノール、デカリンジエタノール、5-メチロール-5-エチル-2-(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-1,3-ジオキサン、シクロヘキサンジオール、ビシクロヘキシル-4,4’-ジオール、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、2,2-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)シクロヘキシル)プロパン、シクロペンタンジオール、3-メチル-1,2-シクロペンタンジオール、4-シクロペンテン-1,3-ジオール、アダマンタンジオール、パラキシレングリコール、ビスフェノールA、ビスフェノールS、スチレングリコール、トリメチロールプロパン及びペンタエリスリトール等が挙げられる。
また、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリエステルは、ジカルボン酸化合物及びジオール化合物以外のモノマーを含んでいてもよい。
【0025】
また、本明細書において、「ケミカルリサイクルポリエステル」とは、使用済みのポリエステル(例えば、化石燃料ポリエステル、バイオマスポリエステル、ケミカルリサイクルポリエステル及びメカニカルリサイクルポリエステルからなる群から選択される少なくとも1種のポリエステル)の容器等を回収し、粉砕、洗浄、異物分別等を行った後にフレーク又はペレット状にし、例えば、それを、エチレングリコールを用いて解重合してビス-β-ヒドロキシエチルテレフタレート(BHET)まで分解し、BHETを原料として再度ポリエステルを重合したポリエステルである。なお、分解方法等についてはこれに限定されるものではない。
【0026】
本発明の特性を損なわない範囲において、ポリエステル樹脂層は、ケミカルリサイクルポリエステル以外のポリエステルを含んでいてもよい。ケミカルリサイクルポリエステル以外のポリエステルとしては、メカニカルリサイクルポリエステル、バージンポリエステル、化石燃料ポリエステル、バイオマスポリエステル等が挙げられる。中でも、バージンポリエステルを含むことが好ましい。
【0027】
「メカニカルリサイクルポリエステル」とは、使用済みのポリエステル(例えば、化石燃料ポリエステル、バイオマスポリエステル、ケミカルリサイクルポリエステル及びメカニカルリサイクルポリエステルからなる群から選択される少なくとも1種のポリエステル)の容器等を回収し、粉砕、洗浄、異物分別等を行った後にフレーク又はペレット状に再生したポリエステルである。
「バージンポリエステル」とは、リサイクルがされていないポリエステルを意味する。
「化石燃料ポリエステル」とは、化石燃料由来のジオールをジオール単位とし、化石燃料由来のジカルボン酸をジカルボン酸単位とするポリエステルである。
「バイオマスポリエステル」とは、ジオール単位としてバイオマス由来のエチレングリコールを含み、ジカルボン酸単位として化石燃料由来のジカルボン酸を含むポリエステル、又はジオール単位としてバイオマス由来のエチレングリコール及び化石燃料由来のジオールを含み、ジカルボン酸単位として化石燃料由来のジカルボン酸を含むポリエステルである。
大気中の二酸化炭素には、C14が一定割合(105.5pMC)で含まれているため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物、例えばとうもろこし中のC14含有量も105.5pMC程度であることが知られている。また、化石燃料中にはC14が殆ど含まれていないことも知られている。従って、ポリエステル中の全炭素原子中に含まれるC14の割合を測定することにより、バイオマス由来の炭素の割合を算出することができる。ポリエチレンテレフタレートを例にとると、ポリエチレンテレフタレートは、2炭素原子を含むエチレングリコールと8炭素原子を含むテレフタル酸とがモル比1:1で重合したものであるため、エチレングリコールとしてバイオマス由来のもののみを使用した場合、ポリエステル中のバイオマス由来成分の重量比率は31.25%であるため、バイオマス度の理論値は31.25%となる。具体的には、ポリエチレンテレフタレートの構成単位の分子量は192であり、そのうちバイオマス由来のエチレングリコールに由来する部分の分子量は60であるため、60÷192×100=31.25となる。
【0028】
ポリエステル樹脂層におけるケミカルリサイクルポリエステルの含有量は、50質量%以上95質量%以下であることが好ましく、60質量%以上90質量%以下であることがより好ましく、70質量%以上85質量%以下であることが更に好ましい。
【0029】
ポリエステル樹脂層におけるバージンポリエステルの含有量は、5質量%以上50質量%以下であることが好ましく、10質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、15質量%以上30質量%以下であることが更に好ましい。
【0030】
バージンポリエステルに対するケミカルリサイクルポリエステルの質量比(ケミカルリサイクルポリエステル/バージンポリエステル)は、1.0以上19.0以下であることが好ましく、1.5以上9.0以下であることがより好ましく、2.3以上5.7以下であることが更に好ましい。
【0031】
ポリエステル樹脂層におけるポリエステルの含有量は、90質量%以上100質量%以下であることが好ましく、95質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0032】
ポリエステル樹脂層に含まれるケミカルリサイクルポリエステルの中でも、透明性の観点及び原料である使用済みポリエチレンテレフタレート容器の回収が容易であるという観点から、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
また、ポリエステル樹脂層は、ケミカルリサイクルポリエステルを2種以上含んでいてもよい。
【0033】
本発明の特性を損なわない範囲において、ポリエステル樹脂層は、ポリエステル以外の樹脂を含んでいてもよい。ポリエステル以外の樹脂としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン、ビニル樹脂、セルロース樹脂及びアイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0034】
ポリエステル樹脂層において、ポリエステル以外の樹脂の含有量は、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更に好ましく、含まれないことが特に好ましい。
【0035】
また、本発明の特性を損なわない範囲において、ポリエステル樹脂層は、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、例えば、酸素吸収剤、可塑剤、紫外線安定化剤、酸化防止剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、摩擦低減剤、スリップ剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤、アンチブロッキング剤及び着色剤が挙げられる。添加剤の含有量は、ポリエステル樹脂層全体に対して、5質量%以上50質量%以下が好ましく、10質量%以上20質量%以下がより好ましい。
【0036】
ポリエステル樹脂層のGPC(ゲル浸透クロマトグラフィー:Gel Permeation Chromatography)の測定から得た分子量分布曲線における分子量1000以下の領域の面積割合は、全ピーク面積の1.05%以下である。このようなポリエステル樹脂層は、分子量1000以下の成分(以下、「低分子量成分」ともいう。)の含有量が低減されているため、ポリエステル容器に充填される内容物への低分子量成分の混入を抑制でき、ポリエステル容器の衛生性を改善することができる。
また、分子量1000以下の領域の面積割合が、全ピーク面積の1.00%以下であることが好ましく、0.90%以下であることがより好ましい。
衛生性の観点からは、分子量1000以下の領域の面積割合は、全ピーク面積に対してより小さいほうが好ましいが、分子量1000以下の領域の面積割合は、例えば、全ピーク面積の0.01%以上であってもよい。
【0037】
GPCの測定から得た分子量分布曲線における分子量1000以下の領域の面積割合が、全ピーク面積の1.05%以下であるポリエステル樹脂層は、ポリエステル樹脂層におけるケミカルリサイクルポリエステルの含有量を適宜調整すること、ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の原料であるモノマー及びオリゴマーの種類を適宜選択すること、並びに/又はモノマー及びオリゴマーの含有量を適宜調整すること、等により製造できる。
【0038】
ポリエステル樹脂層のGPCの測定は、JIS K 7252-1:2008に準拠して行う。
具体的には、ポリエステル樹脂層を10mg切り出し、30mLバイアル瓶内にて秤量する。このバイアル瓶内に、HFIP/クロロホルム混合液を加え、12時間静置し、溶解させる。
静置後、クロロホルムを加えて希釈し、0.1%溶液に調製する。
この溶液を、0.45μmの親水性PTFEメンブレンフィルターカートリッジ(メルクミリポア社製Millex-LH)を用いてろ過し、得られたろ液に対し、以下の条件において、GPC測定を行う。
(測定条件)
・使用カラム:アジレント・テクノロジー(株)製、2本のPLgel 5μ MIXED(7.5mm×300mm)
・カラム温度:40℃
・移動相:クロロホルム(富士フイルム和光純薬(株)製、液体クロマトグラフィー用)
・流量:1.0mL/min
・注入量:2.5μL
・検出:254nm(紫外可視検出器)
・カラム較正:単分散ポリスチレン(アジレント・テクノロジー(株)製、PS-1)
・分子量較正:相対的較正法(ポリスチレン換算)
・装置:515 HPLCポンプ、717plus自動注入装置、紫外可視光線検出器(ウォーターズ(株)製)
【0039】
ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の融点は、275.0℃以下であることが好ましく、265.0℃以下であることがより好ましく、260.0℃以下であることが更に好ましい。これにより、ポリエステル容器の製造の際に、低い温度で射出成形を行うことができる。即ち、ポリエステル容器の加工適性を向上できる。
【0040】
ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の融点は、248.0℃以上であることが好ましく、248.5℃以上であることがより好ましく、249.0℃以上であることが更に好ましい。これにより、ポリエステル容器の耐熱性を向上できる。
【0041】
ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の結晶化温度は、196℃以下であることが好ましく、195℃以下であることがより好ましい。これにより、ポリエステル容器の製造の際に、低い温度で射出成形を行うことができる。即ち、ポリエステル容器の加工適性を向上できる。
ポリエステル樹脂層を構成する樹脂の結晶化温度は、185℃以上であることが好ましく、190℃以上であることがより好ましい。これにより、ポリエステル容器の耐熱性を向上できる。
【0042】
本明細書において、「融点」及び「結晶化温度」は、示差走査熱量測定(Differential Scanning Calorimetry:DSC)により、JIS K 7121:2012に準拠して以下のようにして測定する。
まず、(1)試料(5mg)を20℃から300℃まで、10℃/minの速度で、昇温する。(2)次いで、300℃において5分間保持する。(3)次いで、300℃から20℃まで、-10℃/minの速度で、降温する。(4)次いで、20℃において5分間保持する。(5)再度、20℃から300℃まで、10℃/minの速度で、昇温する。これにより、融解曲線を得る。
この融解曲線の降温段階におけるメインピークを結晶化温度とし、2回目の昇温段階におけるメインピークを融点とする。
【0043】
一実施形態において、ジカルボン酸化合物として、例えば、イソフタル酸等を含む化合物を用いることにより、樹脂の融点及び結晶化温度を調節できる。
【0044】
なお、ポリエステル樹脂層が2種以上の樹脂からなる混合樹脂で構成される場合は、「融点」及び「結晶化温度」とは、混合樹脂の融点及び結晶化温度を意味する。また、ポリエステル樹脂層が樹脂以外の材料(例えば、添加剤)を含む場合は、「融点」及び「結晶化温度」とは、樹脂以外の材料を含んだ状態の樹脂混合物の融点及び結晶化温度を意味する。
【0045】
以下、図1を例示して、本発明によるポリエステル容器の構造の一実施形態を説明する。
【0046】
図1は、本発明によるポリエステル容器10の一実施形態を示す概略半断面図である。ポリエステル容器10は、図1に示すように、口部11と、首部12と、肩部13と、胴部14と、底部15とを備える。
【0047】
一実施形態において、口部11は、図1に示すように、キャップが螺着されるネジ部16と、ネジ部16下にカブラ17と、カブラ17下にサポートリング18とを備える。
【0048】
一実施形態において、首部12は、図1に示すように、サポートリング18と肩部13との間に位置しており、略均一な径を持つ略円筒形状を有している。また、一実施形態において、肩部13は、首部12側から胴部14側に向けて径が徐々に拡大する円筒形状を有する。
【0049】
一実施形態において、胴部14は、図1に示すように、肩部13と底部15との間に位置している。また、一実施形態において、胴部14は、図1に示すように、胴部14が内側に窪んだパネル部21を備える。このような構成とすることにより、ポリエステル容器内に加熱された内容物を充填する場合及び/又は内容物の充填後にポリエステル容器を加熱する場合に、内圧の増減によるポリエステル容器の変形を防止できる。
【0050】
一実施形態において、底部15は、図1に示すように、中央に位置する陥没部19と、陥没部19の周囲に設けられた接地部20とを備え、この接地部20において胴部14と連接している。このような構成とすることにより、ポリエステル容器内に加熱された内容物を充填する場合及び/又は内容物の充填後にポリエステル容器を加熱する場合に、内圧の増減によるポリエステル容器の変形を防止できる。
なお、一実施形態において、「底部」とは、ポリエステル容器を自立させた場合の接地部から内側の部分を意味する。
【0051】
ポリエステル容器の強度の観点からは、ポリエステル容器の胴部における断面の厚さは、好ましくは0.05mm以上であり、より好ましくは0.10mm以上である。
一方、ポリエステルの使用量低減の観点からは、ポリエステル容器の胴部における断面の厚さは、好ましくは0.54mm以下であり、より好ましくは0.50mm以下である。
なお、ポリエステル容器の胴部における断面の厚さは、厚さが最も薄くなる箇所を意味する。
【0052】
本発明によるポリエステル容器において、質量に対する容量の比(容量/質量)は、ポリエステル容器の成形性の観点から、好ましくは5mL/g以上であり、より好ましくは8mL/g以上である。
一方、容量/質量は、ポリエステル容器の強度の観点から、好ましくは50mL/g以下であり、より好ましくは45mL/g以下である。
【0053】
本発明によるポリエステル容器は、単層構造を有してもよく、2層以上の多層構造を有してもよい。また、ポリエステル容器が多層構造を有する場合には、各層は、同一の組成でも、異なる組成でもよい。
【0054】
一実施形態において、ポリエステル容器は、その表面に蒸着膜を備えてもよい。これにより、ポリエステル容器のガスバリア性を向上できる。なお、蒸着膜は、ポリエステル容器の内側表面に位置しても、外側表面に位置してもよいが、好ましくは内側表面に位置する。
【0055】
蒸着膜としては、例えば、アルミニウム等の金属、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、酸化ホウ素、酸化ハフニウム若しくは酸化バリウム等の無機酸化物、ヘキサメチルジシロキサン等の有機珪素化合物、又はDLC(Diamond Like Carbon)膜等の硬質炭素膜から構成される、蒸着膜を挙げることができる。
なお、DLC膜からなる硬質炭素膜とは、iカーボン膜又は水素化アモルファスカーボン膜(a-C:H)とも呼ばれる硬質炭素膜のことで、SP結合を主体にしたアモルファスな炭素膜のことである。
【0056】
また、蒸着膜の厚さは、特に限定されるものではなく、例えば、1nm以上150nm以下とすることができる。
【0057】
蒸着膜の形成は、従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、真空蒸着法、スパッタリング法及びイオンプレーティング法等の物理気相成長法(Physical Vapor Deposition法、PVD法)、並びにプラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法及び光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)が挙げられる。
なお、蒸着層の厚さは、例えば、ポリエステル容器の胴部において測定でき、厚さが最も薄くなる箇所を意味する。
【0058】
[ポリエステルプリフォーム]
本明細書において、「ポリエステルプリフォーム」とは、ポリエステル容器をブロー成形する前の予備成形体である。
本発明によるポリエステルプリフォームは、本発明によるポリエステル容器の製造に用いるものである。従って、本発明によるポリエステルプリフォームは、ポリエステル樹脂層中に、ケミカルリサイクルポリエステルを含む。ポリエステルプリフォームをこのような構成とすることにより、本発明によるポリエステル容器を製造できる。
なお、本発明によるポリエステルプリフォームに含まれるケミカルリサイクルポリエステルは、本発明によるポリエステル容器と同様のものを使用できる。
【0059】
以下、図2を参照して、本発明によるポリエステルプリフォームの構造の一実施形態を説明する。
【0060】
図2は、本発明によるポリエステルプリフォーム30の一実施形態を示す概略半断面図である。ポリエステルプリフォーム30は、図2に示すように、口部31と、口部31に連結された胴部32と、胴部32に連結された底部33とを備える。このうち口部31は、ポリエステル容器10の口部11に対応するものであり、口部11と略同一の形状を有している。また、胴部32は、ポリエステル容器10の首部12、肩部13及び胴部14に対応するものであり、略円筒形状を有している。底部33は、ポリエステル容器10の底部15に対応するものであり、略半球形状を有している。
【0061】
口部31は、図示しないキャップが螺着されるポリエステル容器10のネジ部16に対応するネジ部34と、ネジ部34の下方に設けられ、ポリエステル容器10のカブラ17に対応するカブラ35と、カブラ35の下方に設けられ、ポリエステル容器10のサポートリング18に対応するサポートリング36とを備える。口部31の形状は、従来公知の形状でもよい。
【0062】
本発明によるポリエステルプリフォームの胴部における断面の厚さは、好ましくは1.3mm以上であり、より好ましくは1.7mm以上である。一方、ポリエステルプリフォームの胴部における断面の厚さは、好ましくは4.7mm以下であり、より好ましくは4.0mm以下である。
ポリエステルプリフォームの胴部における断面の厚さを上記範囲とすることにより、本発明によるポリエステル容器を製造できる。
なお、ポリエステルプリフォームの胴部における断面の厚さは、厚さが最も薄くなる箇所を意味する。
【実施例0063】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0064】
[実施例1]
ペットリファインテクノロジー(株)製のポリエステル樹脂であるKP-123(商品名、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレートの含有量:72質量%)を溶融した後、射出成形機を用いて溶融物を射出し、図2に示すポリエステルプリフォームを作製した。ポリエステルプリフォームの胴部の厚さは3.5mmであり、目付量は22gであった。
【0065】
次いで、上記ポリエステルプリフォームを110℃に加熱し、ブロー成形金型内において、二軸延伸ブロー成形を行い、図1に示す内容量が500mLのポリエステル容器を作製した。ポリエステル容器の胴部における断面の厚さは0.28mmであった。
【0066】
[実施例2]
実施例1で使用したKP-123 70質量%に、新光合成繊維社製のポリエステル樹脂である5015W(商品名、ケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレートの含有量:0質量%)30質量%を加えた混合樹脂を準備した。混合樹脂におけるケミカルリサイクルポリエチレンテレフタレートの含有量は、50質量%であった。
実施例1で使用したKP-123の代わりに、この混合樹脂を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル容器を作製した。
【0067】
[比較例1]
実施例1で使用したKP-123の代わりに、実施例2で使用した5015Wを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステル容器を作製した。
【0068】
<低分子量成分の構成比率の測定>
実施例1及び2並びに比較例1において作製したポリエステル容器それぞれにおいて、ポリエステル容器の高さ方向の中央部付近からポリエステル樹脂層を10mg切り出し、30mLバイアル瓶内にて秤量した。このバイアル瓶内に、HFIP/クロロホルム混合液を加え、12時間静置し、溶解させた。
静置後、クロロホルムを加えて希釈し、0.1%溶液に調製した。
この溶液を、0.45μmの親水性PTFEメンブレンフィルターカートリッジ(メルクミリポア社製Millex-LH)を用いてろ過し、得られたろ液に対し、以下の条件において、GPC測定を行った。
得られた分子量分布曲線において、分子量1000以下の領域の面積割合を求めた。分子量1000以下の領域の面積割合が小さいほど、低分子量成分の含有量が小さく、ポリエステル容器が衛生性に優れていることを表す。結果を表1に示す。
(測定条件)
・使用カラム:アジレント・テクノロジー(株)製、2xPLgel 5μ MIXED(7.5mm×300mm)
・カラム温度:40℃
・移動相:クロロホルム(富士フイルム和光純薬(株)製、液体クロマトグラフィー用)
・流量:1.0mL/min
・注入量:2.5μL
・検出:254nm(紫外可視検出器)
・カラム較正:単分散ポリスチレン(アジレント・テクノロジー(株)製、PS-1)
・分子量較正:相対的較正法(ポリスチレン換算)
・装置:515 HPLCポンプ、717plus自動注入装置、紫外可視光線検出器(ウォーターズ(株)製)
【0069】
<融点の測定>
実施例1及び2並びに比較例1において作製したポリエステル容器において、それぞれポリエステル樹脂層を5mgずつ切り出し、試料を得た。
この試料を、20℃から300℃まで、10℃/minの速度で、昇温し、300℃において5分間保持した。次いで、300℃から20℃まで、-10℃/minの速度で、降温した。次いで、20℃において5分間保持した。再度、20℃から300℃まで、10℃/minの速度で、昇温した。これにより、融解曲線を得た。
この融解曲線において、2回目の昇温段階におけるメインピークを融点とした。結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
上記表1からも明らかなように、本発明によるポリエステル容器は、ポリエステル樹脂層がケミカルリサイクルポリエステルを含み、且つ低分子量成分の含有量が小さいことで、環境負荷を低減できるとともに、衛生性に優れることが分かる。
【符号の説明】
【0072】
10:ポリエステル容器
11:口部
12:首部
13:肩部
14:胴部
15:底部
16:ネジ部
17:カブラ
18:サポートリング
19:陥没部
20:接地部
21:パネル部
30:ポリエステルプリフォーム
31:口部
32:胴部
33:底部
34:ネジ部
35:カブラ
36:サポートリング
図1
図2