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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100196
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】多層プリント基板
(51)【国際特許分類】
   H05K 3/46 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
H05K3/46 N
H05K3/46 Z
H05K3/46 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004011
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】真田 圭
(72)【発明者】
【氏名】家壽 英里子
【テーマコード(参考)】
5E316
【Fターム(参考)】
5E316AA32
5E316AA35
5E316AA43
5E316BB02
5E316BB04
5E316BB06
5E316BB13
5E316BB16
5E316EE01
5E316FF01
5E316GG15
5E316GG28
5E316HH03
(57)【要約】
【課題】多層プリント基板において、インナービアホール(IVH)のインピーダンスが表層の配線パターンと整合していなくても、その配線パターンからレーザビアホール(LVH)を介してIVHに至る信号経路で生じる伝送信号の反射を低減できるようにする。
【解決手段】多層プリント基板1の内層側で2つ以上の誘電体層D3-D5を貫通し、この誘電体層を挟むパターン層P3、P5に形成された配線パターン16-18同士を導通させるIVH26と、IVHよりも表層側の誘電体層D1、D2に設けられ、その表裏面に積層されたパターン層P1、P2、P3の配線パターン12-14、14-16同士を導通させるLVH22、24とを備え、LVHの両端のパターン層において、LVHと周囲のグラウンドパターンとの間のクリアランスは、表層側に比べて内層側の方が小さい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の誘電体層(D1~D7)と複数のパターン層(P1~P8)が交互に積層された多層プリント基板であって、
前記多層プリント基板の内層側で2つ以上の前記誘電体層を貫通し、該2つ以上の前記誘電体層を挟む2つの前記パターン層に形成された配線パターン(16-18)同士を導通させるインナービアホール(26)と、
前記多層プリント基板において前記インナービアホールよりも表層側の前記誘電体層に設けられ、該誘電体層の表裏面に積層された前記パターン層の前記配線パターン(12-14、14-16)同士を導通させて、前記多層プリント基板の表層側の前記配線パターンと前記インナービアホールとの間の信号経路を形成するレーザビアホール(22、24)と、
を備え、前記レーザビアホールの両端に配置される複数の前記パターン層において、前記レーザビアホールの周囲のグラウンドパターンと前記レーザビアホールとの間のクリアランスは、前記レーザビアホールの表層側に比べて内層側が小さくなっている、多層プリント基板。
【請求項2】
請求項1に記載の多層プリント基板であって、
前記インナービアホールの前記レーザビアホールとは反対側に接続される前記配線パターンのインピーダンスは、前記インナービアホールのインピーダンスと整合されている、多層プリント基板。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の多層プリント基板であって、
前記レーザビアホールの内層側に接続される前記配線パターンのインピーダンスは、当該配線パターンの両端に接続される2つのビアホールのインピーダンスの中間に設定されている、多層プリント基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、多層プリント基板に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載される電子制御装置は、放射エミッションの要求が厳しいことから、内層配線を利用できる多層プリント基板を用いて構成される。この種の多層プリント基板は、より多層化が進み、より高密度の配線が行われるだけでなく、数GHzを超える高速な信号伝送も要求されている。
【0003】
この要求に応えるためには、各層の配線パターンとその配線パターン同士を接続するビアホールとのインピーダンスを整合させて、伝送信号の反射を抑制する必要がある。このため、特許文献1に記載のように、ビアホールの周囲にグラウンドビアを設け、ビアホールと周囲のグラウンドパターンとの間のクリアランスを調整することで、ビアホールのインピーダンスを配線パターンと整合させることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6535546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、多層プリント基板の一つであるビルドアップ基板の場合、レーザビアホール(以下、LVH)及びインナービアホール(以下、IVH)を用いて各層の配線パターン同士の接続が行われる。そして、LVH及びIVHは、各層の配線パターンと比較してインピーダンスが低くなる。
【0006】
特に、IVHは、ビアの径と絶縁層厚みの比率によりグラウンドとの電磁界結合が強く、LVHなどの他のビアホールに比べインピーダンスが小さくなる。このため、特許文献1に記載の手法では、配線制約が大きい割にインピーダンス向上効果が薄く、IVHを表層の配線パターンのインピーダンスと整合させるのが難しいという問題があった。
【0007】
本開示の1つの局面は、多層プリント基板において、IVHのインピーダンスが表層の配線パターンと整合していなくても、その配線パターンからLVHを介してIVHに至る信号経路で生じる伝送信号の反射を低減できるようにすること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の一局面の多層プリント基板は、複数の誘電体層(D1~D7)と複数のパターン層(P1~P8)が交互に積層されており、IVH(26)と、LVH(22、24)とを備える。なお、上述の通り、IVHは、インナービアホール(Inner Via Hole)を表し、LVHは、レーザビアホール(Laser Via Hole)を表す。
【0009】
IVHは、多層プリント基板の内層側で2つ以上の誘電体層を貫通し、その2つ以上の誘電体層を挟む2つのパターン層に形成された配線パターン(16-18)同士を導通させる。つまり、IVHは、所謂インタースティシャルビアホールのうち、内層と内層とを接続するベリードビアホールとも呼ばれるビアホールである。
【0010】
LVHは、IVHよりも表層側の誘電体層に設けられ、その誘電体層の表裏面に積層されたパターン層の配線パターン(12-14、14-16)同士を導通させて、多層プリント基板の表層側の配線パターンとIVHとの間の信号経路を形成する。
【0011】
そして、LVHの両端に配置される複数のパターン層において、LVHの周囲のグラウンドパターンとLVHとの間のクリアランスは、LVHの表層側に比べて内層側が小さくなっている。
【0012】
このため、本開示の多層プリント基板においては、LVHの表層側の入力部のインピーダンスを高く維持したまま、反対側の出力部のインピーダンスを低くすることができる。従って、表層の配線パターン-LVH間、及び、LVH-IVH間での伝送信号の反射を抑制することができる。
【0013】
つまり、本開示の多層プリント基板によれば、表層側の配線パターンからIVHに至る信号経路で、インピーダンス変化が緩やかになり、その信号経路で生じる伝送信号の反射損失を低減することができる。
【0014】
よって、本開示の多層プリント基板によれば、IVHのインピーダンスが表層側の配線パターンのインピーダンスと整合されていない状態でも、伝送信号の反射損失を低減することができる。従って、特許文献1に記載の多層プリント基板に比べて、製造条件や周辺配線の制約を緩くし、多層プリント基板設計時の自由度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態の多層プリント基板の構成を表す断面図である。
図2】配線パターンを介してIVHに接続されるLVHの両端のパターン層の形状を表す説明図である。
図3図2に示すLVHの両端のパターン層におけるLVHとグラウンドパターンとの間のクリアランスを表す斜視図である。
図4】LVH周囲のクリアランスの大きさを表す説明図である。
図5】表層の配線パターンとLVHとIVHとの接続の一例を表す説明図である。
図6図5に示す配線パターン、LVH、IVHのインピーダンスと反射損失との関係を表す説明図である。
図7】実施形態のLVHの表裏面でのクリアランスを同一にした場合のインピーダンスの変化を表す説明図である。
図8】実施形態のLVHの表裏面でのクリアランスを変化させた場合のインピーダンスの変化を表す説明図である。
図9】実施形態の多層プリント基板の表層からIVHに至る伝送経路で生じる反射損失を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[構成]
図1に示すように、本実施形態の多層プリント基板1は、N層の誘電体層D1~DNとN+1層のパターン層P1~PN+1とを有するビルドアップ基板である。ビルドアップ基板は、コアとなるプリント基板の上に、誘電体層Dとパターン層Pとを交互に積み上げることで製造される基板である。なお、本実施形態では、N=7の場合を例示する。
【0017】
図1に示すように、多層プリント基板1の表層となるパターン層P1には、電子部品10が実装されている。また、多層プリント基板1の内層側のパターン層P6には、電子部品10との間で高周波信号を送受信して信号処理を行う回路を構成する配線パターン18が形成されている。
【0018】
また、多層プリント基板1には、表層の電子部品10と内層の配線パターン18とを接続して、高周波信号の伝送経路を構成するために、LVH22、24及びIVH26が用いられる。
【0019】
IVH26は、多層プリント基板1の内層で、2つ以上の誘電体層、具体的には、誘電体層D3、D4、D5を貫通するように設けられている。そして、IVH26は、これら複数の誘電体層D3~D5の外層側及び内層側のパターン層P3、P6にそれぞれ形成された配線パターン16、18同士を導通させる。
【0020】
LVH22、24は、IVH26の表層側の誘電体層D1、D2をそれぞれ貫通し、各誘電体層D1、D2の表裏面に積層されたパターン層P1、P2、P3に形成されている、信号伝送用の配線パターン12-14、14-16同士をそれぞれ導通させる。
【0021】
なお、LVHは、1つの誘電体層Dを貫通し、その誘電体層Dを挟んで隣接する2つのパターン層P間を接続する埋め込みビアであり、穴開けにレーザが用いられる、周知のものである。
【0022】
このため、表層の電子部品10から出力された高周波信号は、表層の配線パターン12、LVH22、配線パターン14、LVH24、配線パターン16、IVH26を順に通って、内層の配線パターン18まで伝送される。
【0023】
この伝送経路で生じる高周波信号の反射を抑制して、高周波信号を低損失で伝送するには、伝送経路を構成する配線パターン12、14、16、LVH22、24、及び、IVH26と、配線パターン18のインピーダンスを、揃えるようにすればよい。
【0024】
しかし、IVH26は、複数の誘電体層Dを挟むように設けられることから、ビアの径と複数の誘電体層Dにて構成される絶縁層の厚みの比率により、LVH22、24に比べてインピーダンスが小さくなる。
【0025】
このため、IVH26のインピーダンスを、特許文献1に記載のように調整しても、表層の配線パターン12とインピーダンスを整合させることは難しい。
そこで、本実施形態では、IVH26のインピーダンスを調整するのではなく、IVH26のインピーダンスが低いことを前提として、表層の配線パターン12からIVH26に至る伝送経路で生じる反射を低減するようにしている。つまり、表層の配線パターン12とIVH26との間に配置されるLVH22、24のインピーダンスを緩やかに変化させることで、その伝送経路で生じる反射を低減するのである。
【0026】
そして、このために、本実施形態では、LVH22、24の両端側に配置されるパターン層P1、P2、P3において、LVH22、24とその周囲のグラウンドパターンとの間のクリアランスが、内層側ほど小さくなるように調整されている。
【0027】
例えば、図2図3は、パターン層P2、P3におけるLVH24とその周囲のグラウンドパターン32、33を表している。この図から明らかなように、LVH24とその周囲のグラウンドパターン32、33との間のアンチパッドAP1、AP2の大きさが、外装側のアンチパッドAP1に比べて、内層側のアンチパッドAP2が小さくなるように調整されている。
【0028】
具体的には、各パターン層P2、P3において、LVH24の中心からグラウンドパターン32、33までのアンチパッドAP1、AP2の径Φap1、Φap2が、Φap1>Φap2となるように設定されている。
【0029】
なお、図2図3は、パターン層P2、P3におけるLVH24とその周囲のグラウンドパターン32、33を表しているが、パターン層P1、P2におけるLVH22とその周囲のグラウンドパターンとの間のアンチパッドについても、同様に設定される。
【0030】
つまり、これらのアンチパッドの径は、パターン層P1のアンチパッドの方が、パターン層P2のアンチパッドよりも大きくなるように設定されている。
以下、このようにパターン層P1-P2、P2-P3において、LVH22、LVH24の周囲のアンチパッドの径を、表層側よりも内層側の方を小さくして、グラウンドパターンとの間のクリアランスの大きさを調整する理由について説明する。
【0031】
まず、LVHによって形成される層間線路のインピーダンスZoは、LVHのインダクタンスをL、LVHとグラウンドとの間の結合容量をCとすると、(1)式で表される。また、結合容量Cは、図4に示すように、LVHとグラウンドパターンとの距離をdとすると、(2)式で表される。
【0032】
【数1】
【0033】
なお、(2)式において、距離dは、図4に示すように、パターン層におけるLVHの径をΦvp、LVH周囲のアンチパッドAPの径をΦapとすると、「d=Φap-Φvp/2」として算出される。また、εは、誘電体層の比誘電率を表し、Sは、LVHの端部パターンの面積を表す。
【0034】
そして、(1)、(2)式から、アンチパッドAPの径Φapが小さくなると、距離dが小さくなり、結合容量Cが大きくなって、インピーダンスが小さくなることがわかる。
一方、図5に示すように、表層の配線パターンのインピーダンスをZ1、LVHのインピーダンスをZ2、IVHのインピーダンスをZ3とした場合、各インピーダンスZ1、Z2、Z3が不整合であると、接続部分で高周波信号の反射が生じる。
【0035】
この場合の反射係数γは、(3)式で表される。なお、(3)式は、表層の配線パターンとLVHとの接続部分での反射係数を表しているが、LVHとIVHとの接続部分での反射係数も同様に算出できる。
【0036】
【数2】
【0037】
この場合、接続部分での反射を抑制するには、LVH、IVHのインピーダンスZ2、Z3を、表層の配線パターンのインピーダンスZ1と整合させればよい。表層側のLVHのインピーダンスZ2は、図2に示すように、LVHの周囲にグラウンドビアホール44を設けたり、LVHとグラウンドパターンとの距離を調整することで、表層の配線パターと整合させることができる。
【0038】
しかし、更に内層側のIVHのインピーダンスZ2の周囲には、層毎にグラウンドパターンが存在することから、そのグラウンドパターンとの電磁界結合が強く、LVHに比べてインピーダンスが小さくなってしまう。
【0039】
このため、LVHのインピーダンスZ2を、表層の配線パターンのインピーダンスZ1と同じ85Ωに設定させることができたとしても、図6の上段に示すように、IVHのインピーダンスZ3は、インピーダンスZ1と整合させることができない。
【0040】
この場合、IVHのインピーダンスZ3が55Ωであるとすると、LVHとの接続部分での反射係数γは、0.214となり、配線パターンへの入力信号Vinが1000mVである場合、接続部分での反射信号Vrは、214mVとなる。
【0041】
これに対し、LVHのインピーダンスZ2を、表層の配線パターンのインピーダンスZ1とIVHのインピーダンスZ3との間の中間値、例えば70Ωに設定すると、表層の配線パターンとLVHとの接続部分でも反射が生じるようになる。
【0042】
そして、この場合、図6の下段に示すように、表層の配線パターンとLVHとの接続部分での反射係数γ1は0.096となり、その接続部分での反射信号Vr1は、96mVとなる。また、LVHとIVHとの接続部分での反射係数γ2は0.12となり、その接続部分での反射信号Vr2は、108mVとなる。
【0043】
従って、この場合、表層の配線パターンからLVHを介してIVHに至る伝送経路で生じる入力信号Vinの伝送損失は、Vr1+Vr2=204mVとなり、LVHのインピーダンスZ2を表層の配線パターンと整合させた場合に比べて、小さくなる。
【0044】
そこで、本実施形態では、LVH22、24のインピーダンスが、表層の配線パターン12のインピーダンスとIVH26のインピーダンスとの間の中間値で、しかも、表層側のLVH22に比べて内蔵側のLVH24の方が小さくなるように設定される。
【0045】
但し、この場合、パターン層P1-P2、P2-P3において、それぞれ、LVH22、24の両端部分の径と、周囲のアンチパッドAPの径を一致させると、図7に示すように、表層の配線パターンからIVHに至る伝送経路でインピーダンスが階段状に変化する。
【0046】
そこで、更に、本実施形態では、パターン層P1-P2、P2-P3において、LVH22、24の両端部分の径に対し、周囲のアンチパッドAPの径が、表層側から内層側にかけて段階的に小さくなるように設定される。
【0047】
つまり、パターン層P1-P2、P2-P3において、LVH22、24と周囲のグラウンドパターンとの間のクリアランスが、表層側から内層側にかけて段階的に小さくなるように設定するのである。
【0048】
この結果、図8に示すように、表層の配線パターン12からIVH26に至る伝送経路では、インピーダンスが、階段状に変化することなく、緩やかに変化するようになり、この伝送経路での高周波信号の反射を、より低減できるようになる。
【0049】
従って、図9に例示するように、伝送信号の波長がλである場合、表層の配線パターン12からIVH26に至る伝送経路の長さを「n×λ/2+λ/4」に設定することにより、伝送信号の反射損失を抑制して、伝送信号を低損失で伝送することが可能となる。
【0050】
なお、図9において、点線で示す反射特性は、比較例として、LVH22、24の両端部分周囲のクリアランスを同一にした場合の反射特性であり、本実施形態によれば、伝送信号の反射損失を5dB以上改善できることがわかる。
【0051】
ところで、本実施形態では、パターン層P1-P2、P2-P3において、LVH22、24の周囲のクリアランスを調整することで、IVH26までの伝送経路で生じる反射を抑制するが、伝送信号の反射はIVH26と配線パターン18との接続部分でも発生する。
【0052】
そして、図8に点線で示すように、配線パターン18のインピーダンスが、表層の配線パターン12と一致するように設定されていると、VH26と配線パターン18との接続部分で生じる反射が大きくなる。
【0053】
そこで、更に、本実施形態では、配線パターン18のインピーダンスが、IVH26のインピーダンスと整合するように、調整されている。
つまり、図2図4に示すように、本実施形態の多層プリント基板1において、LVH22、24及びIVH26を介して接続される配線パターン12、14、16、18は、2本のマイクロストリップラインを平行に配置した、平衡伝送用の配線パターンである。そして、この平衡伝送用の配線パターンの差動インピーダンスは、2つのマイクロストリップラインの線幅と、配線間隔とを変化させることにより調整できる。
【0054】
このため、内層の配線パターン18の差動インピーダンスは、各マイクロストリップラインの線幅及び配線間隔を調整することにより、各マイクロストリップラインが接続される2つのIVH26の差動インピーダンスと一致するように設定されている。
【0055】
この結果、本実施形態の多層プリント基板1においては、表層の配線パターン12からIVH26までの伝送経路で生じる反射を抑制することができるだけでなく、IVH26と配線パターン18との間で生じる反射についても抑制することができるようになる。
【0056】
[効果]
以上説明したように、本実施形態の多層プリント基板1によれば、パターン層P1~P3において、LVH22、24と周囲のグラウンドパターンとの間のクリアランスが、内層側ほど小さくなるように設定される。また、内層の配線パターン18の差動インピーダンスは、この配線パターン18を構成する2本のマイクロストリップラインが接続される2つのIVHの差動インピーダンスと整合するように調整されている。
【0057】
このため、本実施形態の多層プリント基板1においては、表層の配線パターン12から内層の配線パターン18に至る伝送経路で伝送信号が反射するのを抑制して、伝送信号の伝送特性を改善することができる。
【0058】
また、この伝送経路での反射損失を低減するために、LVH22、24及びIVH26のインピーダンスが表層側の配線パターンのインピーダンスと整合されていない状態であっても、伝送信号の反射損失を低減することができる。このため、本実施形態によれば、多層プリント基板1の製造条件や周辺配線の制約を緩くし、設計の自由度を高めることができる。
【0059】
[他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0060】
(a)例えば、上記実施形態の多層プリント基板1においては、パターン層P2、P3に、LVH22とLVH24、及び、LVH24とIVH26をそれぞれ接続する2つの配線パターン14、16が設けられている。
【0061】
この配線パターン14、16の長さは、極めて短くすることができる。しかし、この配線パターン14、16の差動インピーダンスが、各配線パターン14、16が接続されるLVH22、24及びIVH26の端部の差動インピーダンスから乖離していると、伝送信号の反射が大きくなってしまう。
【0062】
このため、配線パターン14の差動インピーダンスは、LVH22のパターン層P2側端部の差動インピーダンスと、LHV24のパターン層P2側端部の差動インピーダンスとの間の中間値となるように設定されてもよい。
【0063】
同様に、配線パターン16の差動インピーダンスは、LVH24のパターン層P3側端部の差動インピーダンスと、IHV26のパターン層P3側端部の差動インピーダンスとの間の中間値となるように設定されてもよい。
【0064】
このようにすれば、配線パターン14、16で生じる伝送信号の反射損失についても低減できるようになり、多層プリント基板1において、高周波信号である伝送信号をより低損失で伝送することができるようになる。
【0065】
なお、配線パターン14、16の差動インピーダンスの調整は、各配線パターン14、16を構成する2本のマイクロストリップラインの間隔を調整することにより行うことができる。
【0066】
(b)また、図1に示すように、配線パターン18のIVH26との接続部分とは異なる箇所には、IVHと2つのLHVを介して、配線パターン12とは異なる表層の配線パターンが接続されることがある。
【0067】
このように、配線パターン18に、表層の配線パターンと接続するためのIVHと2つのLHVが接続される場合には、各パターン層P1、P2、P3におけるLHV周囲のアンチパッドの径及びIVHのインピーダンスを、上記と同様に設定すればよい。
【0068】
つまり、このようにすれば、内層の配線パターンから表層の配線パターンに至る伝送経路で生じる伝送信号の反射損失を低減することができる。
(c)上記実施形態では、配線パターン12~18は、平衡伝送用の配線パターンであるものとして説明したが、配線パターン12~18は、一本のマイクロストリップラインにて構成される不平衡伝送用の配線パターンであってもよい。
【0069】
この場合、各配線パターン12~18に接続されるLVH22、24及びIVH26は、それぞれ1つ設けられることになり、LVH22、24及びIVH26を構成する2つのビアホールの間隔を調整する必要がないので、設計が容易になる。
【0070】
(d)上記実施形態では、表層の配線パターン12とIVH26との間には、2つのLVH22、24が設けられるものとして説明したが、配線パターン12とIVH26とを接続する、各層毎のLVHの数は、1つであっても、3つ以上であってもよい。
【0071】
(e)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0072】
(f)上述した多層プリント基板の他、当該多層プリント基板を構成要素とするシステム、多層プリント基板のインピーダンス調整方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0073】
1…多層プリント基板、10…電子部品、12~18…配線パターン、22,24…LVH(レーザビアホール)、26…IVH(インナービアホール)、32,33…グラウンドパターン、D1~D7…誘電体層、P1~P8…パターン層。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9