(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001002
(43)【公開日】2024-01-09
(54)【発明の名称】試験測定装置及び測定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 13/02 20060101AFI20231226BHJP
G01R 13/20 20060101ALI20231226BHJP
【FI】
G01R13/02
G01R13/20 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023101933
(22)【出願日】2023-06-21
(31)【優先権主張番号】63/353,960
(32)【優先日】2022-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】18/210,583
(32)【優先日】2023-06-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】391002340
【氏名又は名称】テクトロニクス・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】TEKTRONIX,INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】カン・タン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・ジェイ・ピカード
(57)【要約】
【課題】機械学習に必要なデータをより効率的に取得する。
【解決手段】試験測定装置70は、1つ以上の被試験デバイス(DUT)74から信号を受信するための1つ以上のポート73と、1つ以上のプロセッサ72とを有し、1つ以上のプロセッサ72は、信号から波形を取得する処理と、波形からパターン波形を導出する処理と、パターン波形について線形応答の抽出を実行する処理と、抽出された線形応答のデータ表現を含む1つ以上のデータ表現を機械学習ネットワーク90に提供する処理と、機械学習ネットワーク90から測定値の予測値を受ける処理とを1つ以上のプロセッサ72に行わせるプログラムを実行するように構成される。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
1つ以上の被試験デバイス(DUT)から信号を受けるように構成された1つ以上のポートと、
1つ以上のプロセッサと
を具え、
該1つ以上のプロセッサが、
上記信号から波形を取得する処理と、
上記波形からパターン波形を導出する処理と、
上記パターン波形について線形応答の抽出を実行する処理と、
抽出された上記線形応答のデータ表現を含む1つ以上のデータ表現を機械学習システムに提供する処理と、
上記機械学習システムから測定値の予測値を受ける処理と
を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するように構成される試験測定装置。
【請求項2】
上記機械学習システムが、回帰型ニューラル・ネットワーク、長・短期記憶ニューラル・ネットワーク及び1次元畳み込みニューラル・ネットワークの中の1つ以上を採用する請求項1の試験測定装置。
【請求項3】
上記機械学習システムが、2次元データを処理するニューラル・ネットワークを採用し、上記1つ以上のデータ表現を提供する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムが、抽出された上記線形応答及び少なくとも1つのヒストグラムを含む2次元データ・セットを提供する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを含む請求項1の試験測定装置。
【請求項4】
上記2次元データが、抽出された上記線形応答の振幅及びヒストグラム中のヒット数のうちの1つに対応する暗さを有する画素を含む請求項3の試験測定装置。
【請求項5】
上記1つ以上のデータ表現を上記機械学習システムに提供する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムが、上記1つ以上のデータ表現を上記機械学習システムに提供する前に上記1つ以上のデータ表現を正規化する処理と、上記機械学習システムから受けた測定値の予測値を非正規化する処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを含む請求項1の試験測定装置。
【請求項6】
上記1つ以上のプロセッサが、選択された測定に関して上記機械学習システムをトレーニングする処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するように更に構成される請求項1の試験測定装置。
【請求項7】
上記機械学習システムをトレーニングする処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムが、シミュレートされた波形に基づく上記データ表現と上記選択された測定に関して得られる測定値とから成るシミュレートされたトレーニング・データを上記機械学習システムに供給する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを含む請求項6の試験測定装置。
【請求項8】
波形の測定を行う方法であって、
試験測定装置において上記波形を取得する処理と、
上記波形からパターン波形を導出する処理と、
上記パターン波形について線形応答の抽出を行う処理と、
抽出された上記線形応答のデータ表現を含む1つ以上のデータ表現を機械学習システムに提供する処理と、
上記機械学習システムから測定値の予測値を受ける処理と
を具える測定方法。
【請求項9】
線形応答の抽出を行う処理は、線形フィット・パルス、インパルス応答及びステップ応答のうちの1つの抽出を行う処理を含む請求項8の測定方法。
【請求項10】
上記1つ以上のデータ表現は、上記波形のアイ・ダイアグラムの表現のユニット・インターバルの中心における垂直ヒストグラム、上記ユニット・インターバルの中心付近の2つの垂直ヒストグラム及び上記アイ・ダイアグラムの交差レベルのエッジにおける水平ヒストグラムの中の1つ以上を含む請求項8の測定方法。
【請求項11】
上記1つ以上のデータ表現を提供する処理は、上記波形のアイ・ダイアグラムの表現のアイの中心における垂直ヒストグラムから構成される1次元データ・セットを提供する処理を含む請求項8の測定方法。
【請求項12】
上記1つ以上のデータ表現を提供する処理は、2次元画像を提供する処理を含み、上記2次元画像は、抽出された上記線形応答及び少なくとも1つのヒストグラムを含む請求項8の測定方法。
【請求項13】
上記少なくとも1つのヒストグラムは、上記波形のアイ・ダイアグラムの表現のアイの中心における垂直ヒストグラム、上記アイ・ダイアグラムのユニット・インターバルの中心付近の2つのヒストグラムのペア及び上記アイ・ダイアグラムのエッジ交差レベルにおける水平ヒストグラムの中から選択される少なくとも1つを含む請求項12の測定方法。
【請求項14】
上記1つ以上のデータ表現を上記機械学習システムに提供する前に上記1つ以上のデータ表現を正規化する処理と、上記機械学習システムから測定値の予測値を受けた後に上記測定値を非正規化する処理とを更に具える請求項8の測定方法。
【請求項15】
選択された測定に関して上記機械学習システムをトレーニングする処理を更に具える請求項8の測定方法。
【請求項16】
シミュレートされた波形に基づく上記1つ以上のデータ表現と上記選択された測定に関して得られる測定値とから成るシミュレートされたトレーニング・データを使用する処理を更に具える請求項15の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試験測定装置及びシステムに関し、特に、試験測定システムの機械学習コンポーネントに関する。
【背景技術】
【0002】
機械学習(ML:Machine Learning)技術は、複雑な測定の速度を大幅に向上させることができる。測定速度の向上は、生産スループットの向上につながる。高速信号の試験では、測定結果を得るのに、信号のアイ・ダイアグラムを機械学習で使用している。例えば、S. Varughese, A. Melgar, V. A. Thomas, P. Zivny, S. Hazzard, S. E. Ralph, "Acceleration Assessments of Optical Components using Machine Learning: TDECQ as Demonstration Example," in Journal of Lightwave Technology, vol.39, no.1, pp.64-72, 2021年(以下「ヴァルギース(Varughese)」又は非特許文献1)を参照されたい。フル・パターン波形又は部分パターン波形も、測定用の機械学習に使用される。ヴァルギースを参照ください。2022年5月18日に出願された米国特許第17/747,954号明細書(以下「'954出願」又は特許文献1)に記載されているように、ショート・パターン波形データベースも機械学習に導入されており、その内容は、参照により、本願に組み込まれる。本開示は、測定のための機械学習に用いることができる新しいタイプのデータ(抽出線形フィット・パルス)を記載する。
【0003】
信号速度が上がった場合、システムの性能を向上させるために、トランスミッタ(送信機)とレシーバ(受信機)において、イコライザ(等化処理回路)が広く使用されている。例えば、PCIe(Peripheral Component Interconnect Express)第6世代(Gen6)のレシーバは、CTLE(Continuous Time Linear Equalization:連続時間線形等化処理)フィルタに加えて、16タップのDFE(Decision Feedback Equalizer:判定帰還型イコライザ)を有している。レシーバにイコライザがある場合、測定の一部は、等化処理された信号に対して実行される。例えば、PCIe第6世代では、等化処理波形のアイ・ダイアグラムに基づいて、アイの高さとアイ幅の測定値が定義される。別の例では、100G/400GのIEEE802.3規格では、26ギガ・ボー(GBaud)及び53ギガ・ボーのPAM4光信号の主要な合格/不合格基準として、TDECQ(transmitter and dispersion eye closure)の測定が指定されている。TDECQ測定には、5タップFFE(フィード・フォワード・イコライザ)が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2022/0373598号明細書
【特許文献2】特開2022-179459号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】S. Varughese, A. Melgar, V. A. Thomas, P. Zivny, S. Hazzard and S. E. Ralph, "Accelerating Assessments of Optical Components Using Machine Learning: TDECQ as Demonstrated Example," in Journal of Lightwave Technology, vol. 39, no.1, pp. 64-72, 2021
【非特許文献2】「IEEE 802.3ba 40Gb/s and 100Gb/s Ethernet Standard,」、IEEE、[online]、[2023年6月21日検索]、インターネット<http://www.ieee802.org/3/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
複雑で時間のかかる測定の場合、機械学習技術を使用すると、測定速度を大幅に向上させることができる。機械学習で使用されるデータに含まれる情報は、機械学習の結果に影響する。'954出願は、機械学習用のショート(短い)パターン波形を含むデータを説明している。その利点は、データに時系列情報(time sequence information)があることである。しかし、選択されるショート・パターンは、データ・パターン全体の一部分にのみ出現する。
【0007】
従って、本発明の実施形態は、これら及び他の問題に取り組むものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
機械学習技術は、上述のように、測定速度を大幅に向上させることができる。米国特許出願第17/747,954号明細書('954出願)は、機械学習のためのショート・パターン波形を含むデータを記載している。その利点は、データに時系列情報があることである。しかし、選択されるショート・パターンは、データ・パターン全体の一部分にのみ出現する。これは、面倒な問題を引き起こす可能性がある。
【0009】
特定の条件では、選択されたショート・パターンの十分な外観を得るために、長い波形が含まれることがある。本願の実施形態は、抽出された線形応答の手法を使用する。線形フィット・パルス・ベースの手法では、波形内の全てのサンプルを使用するため、波形のショート・パターンやデータ・パターンを選択する制約がなく、機械学習に必要なデータの取得がより効率的である。
【0010】
イコライザを必要とする測定の場合、イコライザは、時系列のサンプルで動作するため、より正確な結果を得るには、ニューラル・ネットワークへの入力データに、時系列情報(time sequence information)が含まれる必要がある。通常のアイ・ダイアグラムのデータは、シンボル間の時系列情報を失っている。フル・パターン波形のサイズが大きいと、ニューラル・ネットワークのトレーニングが遅くなり、また、機械学習モデルに適合させるのが難しくなる。ショート・パターン波形データ・セットは、波形の一部分のみを使用するため、効率が低下する可能性がある。
【0011】
本願の説明では、線形フィット・パルスを、波形から抽出された線形応答の一例として使用することがある。その他の線形応答としては、インパルス応答やステップ応答などがある。線形フィット・パルス抽出技術は、測定値とイコライザを適応させる処理に使用されてきている。線形フィット・パルスには、時系列情報が含まれ、これは、全てのデータで共通している。時系列情報は、シンボル間干渉を反映する。時系列情報は、FFEタップ、DFEタップ、CTLEなどの等化処理パラメータを決定するのに有益である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、4値パルス振幅変調(PAM4)波形の一例を示す。
【
図2】
図2は、PAM4波形から得られるアイ・ダイアグラムの一例を示す。
【
図3】
図3は、PAM4波形から抽出した線形フィット・パルスの一例を示す。
【
図4】
図4は、アイ・ダイアグラムの中央における垂直ヒストグラムの一例を示す。
【
図5】
図5は、アイ・ダイアグラムでのヒストグラムの位置を示す。
【
図6】
図6は、抽出されたパルスと垂直ヒストグラムとを含む画像の実施例を示す。
【
図7】
図7は、4つの波形から抽出された線形フィット・パルスと垂直ヒストグラムとを含む画像の実施形態を示す。
【
図8】
図8は、抽出された線形フィット・パルスをベースとする機械学習モデルの実施形態を示す。
【
図9】
図9は、試験セットに関するラベル対機械学習の予測値のグラフ表示を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、波形10の一例を示し、
図2は、波形のアイ・ダイアグラムを示し、アイの中心が、12において示されている。
図3は、波形全体から抽出した線形フィット・パルス14を示している。
【0014】
測定要件に応じて、他のデータを抽出された線形応答と共に使用して機械学習システムに提供することもできる。例えば、信号対ノイズ比(SNR)測定は、
図4に示されるように、アイの中心における垂直ヒストグラムを使用しても良い。
図1~
図3において、y軸は、波形の振幅を表示している。
図4において、x軸は、ボルトを単位とする振幅を示し、y軸は、ヒット数を示す。x軸上でゼロ・ヒットを示す3つの位置、即ち、約-0.2V、0V及び0.2Vの振幅は、
図2のアイ・ダイアグラムに示す3つのアイ開口部の位置、例えば、アイ開口部12に対応する。
【0015】
機械学習方法の様々な選択肢に対して、抽出された線形フィット・パルスと垂直ヒストグラムを適切な形式にアレンジできる。例えば、線形応答と垂直ヒストグラムは、どちらも1次元ベクトルで構成されており、これは、1次元データ・セットとして扱うことができ、1次元データを処理できるニューラル・ネットワークに供給できる。こうしたニューラル・ネットワークとしては、例えば、回帰型(recurrent:リカレント)ニューラル・ネットワーク(RNN)、長・短期記憶(LSTM:long short-term memory)、1次元畳み込みニューラル・ネットワーク(CNN:convolutional neural network)などがある。データ・セットは、表形式のデータとして編成することもできる。
【0016】
図5は、アイ中心の両側の垂直ヒストグラムに適した位置16及び18と、それぞれアイの中心上にある水平ヒストグラムに適した位置20、22及び24を示す。
【0017】
別の実施形態は、データを2次元画像に配置し、2次元CNNモデルを使用する。利用可能な別の2次元ニューラル・ネットワークとしては、残差ニューラル・ネットワーク(ResNet:residual neural network)がある。
図6は、
図3に示すような波形から抽出された抽出線形フィット・パルスを、機械学習システムに提供するデータ表現として示している。下部の灰色の線30は、抽出された線形フィット・パルスを表し、領域32のように色が暗いほど、線形フィット・パルスにおいて、振幅より高いことを意味する。上部の灰色の線36は、
図4に示す垂直ヒストグラムを表し、バーに現れる色が暗いほど、より多数のヒット数又は発生数を表す。画素の暗さは、抽出されたパルスの振幅と、ヒストグラム上の発生数(ヒット数)を表す。'954出願のショート・パターン波形アプリケーションとは対照的に、この2次元画像はスペースが限られているため、複数のショート・パターンを詰め込む(fit)ようにして使用されたものである。本願の実施形態は、224×224の2次元画像中の224本のラインの夫々を、その画素の暗さによって、振幅を表すのに利用できる。これにより、画像は、長いパルス応答やアイ・ダイアグラムの複数の異なる位置での垂直又は水平スライスから取得された複数のヒストグラムに収容できる。
【0018】
波形データを取得して処理できるオシロスコープ又は他の装置などの試験測定装置は、これらのデータ表現を機械学習システムに提供しても良い。機械学習システムは、試験測定装置に常駐しても良いし、測定装置に接続される独立したコンピューティング・デバイスに常駐しても良い。実施形態は、1つ以上のプロセッサによって実行されるプログラムの形態をとってもよく、プロセッサは、1つ以上のデバイス上に存在しても良い。
【0019】
CNNのトレーニングには、大規模なトレーニング・データ・セットが必要である。一実施形態では、シミュレーションで、このデータ・セットを生成する。
図7に示す画像は、データ表現38、40、42及び44として、異なる線形フィット・パルス及び異なる垂直ヒストグラムを有する4つの異なる信号を表す。
【0020】
図8は、抽出された線形フィット・パルス及び垂直ヒストグラムの表現を入力データ50として使用すると共に、入力層52を有するCNNモデルを使用する機械学習システムの一実施形態を示す。CNNは、複数の隠れ層54と、1つの出力層56とを有していても良い。多くの既存のディープ・ラーニングCNNモデルは、測定値、送信チューニングの支援及びイコライザの適応を提供できる。ニューラル・ネットワークは、様々な構造を持つことができる。事前に学習済みの深層学習ネットワークモデルを使用すると、転移学習(transfer learning)を実行できる。一実施形態では、最後のフルに接続された層のみが、線形フィット・パルスを有するデータ・セットでトレーニングされても良い。1つ以上のプロセッサは、この実施形態では、ニューラル・ネットワークに供給されるデータ・セットを正規化する。その結果は、次いで、非正規化(de-normalize)される。例えば、ラベル値は、ニューラル・ネットワークのトレーニング用に正規化される。ニューラル・ネットワークのトレーニングが完了し、トレーニング済みのネットワークが予測を実行すると、その予測結果は非正規化されるが、これは、正規化の逆マッピングである。
【0021】
データ・セットは、特定のデータ表現を測定値に関連付ける学習をするように機械学習システムをトレーニングするために、上記のデータ表現と、このデータ表現に関連する既知の測定値とから構成されても良い。これにより、機械学習システムは、実際の測定を実行するよりも、はるかに迅速に測定値を電子デバイスに提供できる。
【0022】
波形から抽出された線形応答を使用して、その波形を生成しているデバイスに関連する測定を行う実施形態には、いくつかのステップがある。リアルタイム又は等価時間オシロスコープなどの試験測定装置で波形をアクイジション(波形データを取得)する。次に、この測定装置は、ソフトウェア又はハードウェアのクロック・リカバリを実行して、パターン波形を決定する。
【0023】
次いで、測定装置は、「IEEE 802.3ba 40Gb/s 及び 100Gb/s イーサネット(登録商標)規格 , 2010年(この内容は、参照することによって、本開示に組み込まれる)」に記載されているフィッティング・アルゴリズムによって、線形フィット・パルス抽出などの線形応答の抽出を実行する。速度を改善するために、フィッティング・アルゴリズムを波形の一部分、例えば、約10,000シンボルをカバーする部分に適用しても良い。フィッティング・アルゴリズムは、全てのシンボルを使用するため、10,000シンボルを使用すると、正確な線形フィット・パルス又はその他の線形応答を取得するのに十分なデータが得られる。また、パターン波形を複数繰り返した平均は、ノイズを低減し、より正確な線形応答を得るのに有益である。
【0024】
トレーニングされた機械学習システムは、抽出された線形応答に対してのみ動作させても良いが、各波形に関するもっと多数のデータ表現を提供することもできる。これらには、測定に関連する情報を提供する他のタイプのデータが含まれる。例えば、UIの中央にある垂直ヒストグラムは、SNR測定用に選択される。UIの中央付近にある2つの垂直ヒストグラムは、TDECQ測定用に選択される。ジッタ測定では、エッジ交差レベルの水平ヒストグラムが選択される。複数の垂直ヒストグラム、複数の水平ヒストグラム、並びに、垂直ヒストグラム及び水平ヒストグラムの組み合わせも使用できる。
【0025】
次に、プロセスは、機械学習のニューラル・ネットワークに適合するデータ表現を選択する。例えば、抽出された線形フィット・パルスと垂直ヒストグラムは、
図6に示す2次元画像で表される。抽出された線形フィット・パルスと1次元ヒストグラムは、1次元データ・セットで表すこともできる。試験測定装置のユーザ・インタフェースは、ユーザがデータ表現を選択可能としても良い。線形フィット・パルス応答に加えて、インパルス応答、ステップ応答などの他の線形応答も使用できる。線形フィット・パルス・データ・セットは、機械学習用に選択したショート・パターン波形データ・セットと組み合わせることができる。
【0026】
上記の説明は、トレーニング済みの機械学習システムの使用に焦点を当てている。プロセスの一部は、上述したように、機械学習システムのトレーニングが含まれても良い。一実施形態では、シミュレーションを実行して、複数の波形及びこれらに関連する測定値を収集し、トレーニング・データ・セットを提供しても良い。
【0027】
本開示技術の実施形態による一例では、CNNモデルが、SNR測定を実行するようにトレーニングされる。そのデータは、シミュレーションから生成される。転移学習は、事前にトレーニングされたResNet34に基づいて実行される。この問題は、回帰問題として設定される。Pytorch パッケージと fast.ai パッケージが、モデルのトレーニングと試験に使用される。試験結果が
図9に示されるが、全ての予測値が、目標とする結果(ラベル)から+/-0.25dBの範囲内である。試験セットの2乗平均平方根誤差(RMSE)は、0.108dBである。目標する結果の範囲が34dBから40dBの場合、この範囲に対するRMSEは、約0.108/6=1.8%である。実線62は、完璧な予測を表し、破線58及び60は、±0.25dBの境界を表す。
【0028】
機械学習システムは、1つ以上のプロセッサ上で動作するプログラムによるモデルの形態をとり得る。上述したように、実施形態は、プロセッサに様々なタスクを実行させるプログラム(コード)を実行する1つ以上のプロセッサを有していても良い。
図10は、光トランスミッタ74をDUTとする場合における試験セットアップの一実施形態を示す。この試験セットアップは、オシロスコープ70などの試験測定装置を有していても良い試験測定システムを含む。試験測定装置70は、測定装置プローブ76を介して、DUT74から信号を受信する。光トランスミッタの場合、プローブは、典型的には、光電変換器78に結合された試験ファイバを有し、光電変換器78が、1つ以上のポート73を介して試験測定装置に信号を供給する。差動シグナリングには、2つのポートが使用されても良く、シングルエンドのチャンネル・シグナリングには、1つのポートが使用される。信号は、測定装置によってサンプリング及びデジタル化され、波形になる。もし試験測定装置70が、例えば、サンプリング・オシロスコープから構成される場合には、クロック・リカバリ・ユニット(CRU)80が、データ信号からクロック信号をリカバリしても良い。リアルタイム・オシロスコープでは、ソフトウェアのクロック・リカバリを使用しても良い。
【0029】
試験測定装置は、プロセッサ72によって表される1つ以上のプロセッサ、メモリ82及びユーザ・インタフェース86を有する。メモリは、プロセッサによって実行されると、プロセッサにタスクを実行させるプログラム(コード)の形式で実行可能な命令を記憶できる。試験測定装置のユーザ・インタフェース86によって、ユーザは、設定の入力、試験の設定など、測定装置70をインタラクティブに操作できる。試験測定装置は、基準イコライザ及び分析モジュール84も有していても良い。
【0030】
本願の実施形態は、深層学習ネットワークのような機械学習ネットワーク90の形態で、機械学習を利用する。機械学習ネットワークは、機械学習ネットワークを使ってプログラムされたプロセッサを、試験測定装置の一部として、又は、試験測定装置がアクセスするプロセッサとして有していても良い。試験装置の能力及びプロセッサが進化したら、72などの1つ以上のプロセッサが、両方のプロセッサを有していても良い。
【0031】
本開示技術の態様は、特別に作成されたハードウェア、ファームウェア、デジタル・シグナル・プロセッサ又はプログラムされた命令に従って動作するプロセッサを含む特別にプログラムされた汎用コンピュータ上で動作できる。本願における「コントローラ」又は「プロセッサ」という用語は、マイクロプロセッサ、マイクロコンピュータ、ASIC及び専用ハードウェア・コントローラ等を意図する。本開示技術の態様は、1つ又は複数のコンピュータ(モニタリング・モジュールを含む)その他のデバイスによって実行される、1つ又は複数のプログラム・モジュールなどのコンピュータ利用可能なデータ及びコンピュータ実行可能な命令で実現できる。概して、プログラム・モジュールとしては、ルーチン、プログラム、オブジェクト、コンポーネント、データ構造などを含み、これらは、コンピュータその他のデバイス内のプロセッサによって実行されると、特定のタスクを実行するか、又は、特定の抽象データ形式を実現する。コンピュータ実行可能命令は、ハードディスク、光ディスク、リムーバブル記憶媒体、ソリッド・ステート・メモリ、RAMなどのコンピュータ可読記憶媒体に記憶しても良い。当業者には理解されるように、プログラム・モジュールの機能は、様々な実施例において必要に応じて組み合わせられるか又は分散されても良い。更に、こうした機能は、集積回路、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)などのようなファームウェア又はハードウェア同等物において全体又は一部を具体化できる。特定のデータ構造を使用して、本開示技術の1つ以上の態様をより効果的に実施することができ、そのようなデータ構造は、本願に記載されたコンピュータ実行可能命令及びコンピュータ使用可能データの範囲内と考えられる。
【0032】
開示された態様は、場合によっては、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア又はこれらの任意の組み合わせで実現されても良い。開示された態様は、1つ以上のプロセッサによって読み取られ、実行され得る1つ又は複数のコンピュータ可読媒体によって運搬されるか又は記憶される命令として実現されても良い。そのような命令は、コンピュータ・プログラム・プロダクトと呼ぶことができる。本願で説明するコンピュータ可読媒体は、コンピューティング装置によってアクセス可能な任意の媒体を意味する。限定するものではないが、一例としては、コンピュータ可読媒体は、コンピュータ記憶媒体及び通信媒体を含んでいても良い。
【0033】
コンピュータ記憶媒体とは、コンピュータ読み取り可能な情報を記憶するために使用することができる任意の媒体を意味する。限定するものではないが、例としては、コンピュータ記憶媒体としては、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、読み出し専用メモリ(ROM)、電気消去可能プログラマブル読み出し専用メモリ(EEPROM)、フラッシュメモリやその他のメモリ技術、コンパクト・ディスク読み出し専用メモリ(CD-ROM)、DVD(Digital Video Disc)やその他の光ディスク記憶装置、磁気カセット、磁気テープ、磁気ディスク記憶装置やその他の磁気記憶装置、及び任意の技術で実装された任意の他の揮発性又は不揮発性の取り外し可能又は取り外し不能の媒体を含んでいても良い。コンピュータ記憶媒体としては、信号そのもの及び信号伝送の一時的な形態は除外される。
【0034】
通信媒体とは、コンピュータ可読情報の通信に利用できる任意の媒体を意味する。限定するものではないが、例としては、通信媒体には、電気、光、無線周波数(RF)、赤外線、音又はその他の形式の信号の通信に適した同軸ケーブル、光ファイバ・ケーブル、空気又は任意の他の媒体を含んでも良い。
【0035】
加えて、本願の説明は、特定の特徴に言及している。本明細書における開示には、これらの特定の特徴の全ての可能な組み合わせが含まれると理解すべきである。ある特定の特徴が特定の態様又は実施例に関連して開示される場合、その特徴は、可能である限り、他の態様及び実施例との関連においても利用できる。
【0036】
また、本願において、2つ以上の定義されたステップ又は工程を有する方法に言及する場合、これら定義されたステップ又は工程は、状況的にそれらの可能性を排除しない限り、任意の順序で又は同時に実行しても良い。
【0037】
開示された本件の上述のバージョンは、記述したか又は当業者には明らかであろう多くの効果を有する。それでも、開示された装置、システム又は方法のすべてのバージョンにおいて、これらの効果又は特徴のすべてが要求されるわけではない。
実施例
【0038】
以下では、本願で開示される技術の理解に有益な実施例が提示される。この技術の実施形態は、以下で記述する実施例の1つ以上及び任意の組み合わせを含んでいても良い。
【0039】
実施例1は、試験測定装置であって、1つ以上の被試験デバイス(DUT)から信号を受けるように構成された1つ以上のポートと、1つ以上のプロセッサとを具え、該1つ以上のプロセッサが、上記信号から波形を取得する処理と、上記波形からパターン波形を導出する処理と、上記パターン波形について線形応答の抽出を実行する処理と、抽出された上記線形応答のデータ表現を含む1つ以上のデータ表現を機械学習システムに提供する処理と、上記機械学習システムから測定値の予測値を受ける処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するように構成される。
【0040】
実施例2は、実施例1の試験測定装置であって、上記機械学習システムは、1次元データを処理するニューラル・ネットワークを採用し、上記1つ以上のデータ表現を提供する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムが、上記波形のアイ・ダイアグラム表現のアイの中心における垂直ヒストグラムを含む1次元データ・セットを提供する処理を1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを含む。
【0041】
実施例3は、実施例1又は2のいずれかの試験測定装置であって、上記機械学習システムが、回帰型ニューラル・ネットワーク、長・短期記憶ニューラル・ネットワーク及び1次元畳み込みニューラル・ネットワークの中の1つ以上を採用する。
【0042】
実施例4は、実施例1から3のいずれかの試験測定装置であって、上記機械学習システムが、2次元データを処理するニューラル・ネットワークを採用し、上記1つ以上のデータ表現を提供する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムが、抽出された上記線形応答及び少なくとも1つのヒストグラムを含む2次元データ・セットを提供する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを含む。
【0043】
実施例5は、実施例1から4のいずれかの試験測定装置であって、上記2次元データが、抽出された上記線形応答の振幅及びヒストグラム中のヒット数のうちの1つに対応する暗さを有する画素を含む。
【0044】
実施例6は、実施例1から5のいずれかの試験測定装置であって、上記機械学習システムは、2次元畳み込みニューラル・ネットワーク及び残差ニューラル・ネットワークのうちの1つ以上を採用する。
【0045】
実施例7は、実施例1から6のいずれかの試験測定装置であって、上記1つ以上のデータ表現を上記機械学習システムに提供する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムが、上記1つ以上のデータ表現を上記機械学習システムに提供する前に上記1つ以上のデータ表現を正規化する処理と、上記機械学習システムから受けた測定値の予測値を非正規化する処理とを上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを含む。
【0046】
実施例8は、実施例1から7のいずれかの試験測定装置であって、上記1つ以上のプロセッサは、選択された測定に関して上記機械学習システムをトレーニングする処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを実行するように更に構成されている。
【0047】
実施例9は、実施例8の試験測定装置であって、上記機械学習システムをトレーニングする処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムが、シミュレートされた波形に基づく上記データ表現と上記選択された測定に関して得られる測定値とから成るシミュレートされたトレーニング・データを上記機械学習システムに供給する処理を上記1つ以上のプロセッサに行わせるプログラムを含む。
【0048】
実施例10は、波形の測定を行う方法であって、試験測定装置において上記波形を取得する処理と、上記波形からパターン波形を導出する処理と、上記パターン波形について線形応答の抽出を行う処理と、抽出された上記線形応答のデータ表現を含む1つ以上のデータ表現を機械学習システムに提供する処理と、上記機械学習システムから測定値の予測値を受ける処理とを具える。
【0049】
実施例11は、実施例10の方法であって、線形応答の抽出を行う処理は、線形フィット・パルス、インパルス応答及びステップ応答のうちの1つの抽出を行う処理を含む。
【0050】
実施例12は、実施例10又は11のいずれかの方法であって、上記1つ以上のデータ表現は、上記波形のアイ・ダイアグラムの表現のユニット・インターバルの中心における垂直ヒストグラム、上記ユニット・インターバルの中心付近の2つの垂直ヒストグラム及び上記アイ・ダイアグラムの交差レベルのエッジにおける水平ヒストグラムの中の1つ以上を含む。
【0051】
実施例13は、実施例10から12のいずれかの方法であって、上記1つ以上のデータ表現は、抽出された上記線形応答の振幅及びヒストグラム中のヒット数の中の1つに対応する暗さを有する画素を含む。
【0052】
実施例14は、実施例10から13の方法であって、上記1つ以上のデータ表現を提供する処理は、上記波形のアイ・ダイアグラムの表現のアイの中心における垂直ヒストグラムから構成される1次元データ・セットを提供する処理を含む。
【0053】
実施例15は、実施例10から14の方法であって、上記1つ以上のデータ表現を提供する処理は、2次元画像を提供する処理を含み、上記2次元画像は、抽出された上記線形応答及び少なくとも1つのヒストグラムを含む。
【0054】
実施例16は、実施例15の方法であって、上記少なくとも1つのヒストグラムは、上記波形のアイ・ダイアグラムの表現のアイの中心における垂直ヒストグラム、上記アイ・ダイアグラムのユニット・インターバルの中心付近の2つのヒストグラムのペア及び上記アイ・ダイアグラムのエッジ交差レベルにおける水平ヒストグラムの中から選択される少なくとも1つを含む。
【0055】
実施例17は、実施例10から16の方法であって、上記1つ以上のデータ表現を上記機械学習システムに提供する前に上記1つ以上のデータ表現を正規化する処理と、上記機械学習システムから測定値の予測値を受けた後に上記測定値を非正規化する処理とを更に具える。
【0056】
実施例18は、実施例10から16の方法であって、選択された測定に関して上記機械学習システムをトレーニングする処理を更に具える。
【0057】
実施例19は、実施例18の方法であって、シミュレートされた波形に基づく上記1つ以上のデータ表現と上記選択された測定に関して得られる測定値とから成るシミュレートされたトレーニング・データを使用する処理を更に具える。
【0058】
実施例20は、実施例10から19の方法であって、上記測定は、信号対ノイズ比、TDECQ(transmitter dispersion eye closure quaternary)及びジッタの中の1つを含む。
【0059】
説明の都合上、本発明の具体的な実施例を図示し、説明してきたが、本発明の要旨と範囲から離れることなく、種々の変更が可能なことが理解できよう。従って、本発明は、添付の請求項以外では、限定されるべきではない。
【符号の説明】
【0060】
70 試験測定装置
72 プロセッサ
73 ポート
74 光トランスミッタ(被試験デバイス:DUT)
76 試験ファイバ/プローブ
78 光電変換器
80 クロック・リカバリ・ユニット(CRU)
82 メモリ
84 基準イコライザ及び分析モジュール
86 ユーザ・インタフェース
90 機械学習ネットワーク
【外国語明細書】