(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100201
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】一液型エポキシ樹脂塗料組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 163/00 20060101AFI20240719BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20240719BHJP
C09D 7/61 20180101ALI20240719BHJP
【FI】
C09D163/00
C09D7/20
C09D7/61
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004016
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206335
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 和宏
(72)【発明者】
【氏名】城座 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】谷口 康人
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DB221
4J038DB281
4J038DB391
4J038GA01
4J038GA08
4J038JA17
4J038JA25
4J038JA55
4J038KA06
4J038KA08
4J038MA13
4J038NA03
4J038NA04
4J038PB05
4J038PB06
4J038PB07
4J038PB09
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】特化則に対応して、芳香族化合物を含まない有機溶媒を用いるハイソリッドタイプであって、塗料性能として相溶性、塗膜性能としてウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性に優れた一液型エポキシ樹脂塗料組成物を提供する。
【解決手段】アミン変性エポキシ樹脂(A1)、イソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)およびアクリル変性エポキシ樹脂(A3)から選択される少なくとも一種類の変性エポキシ樹脂(A)と、顔料(B)と、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)とを含む塗料組成物であって、前記溶剤(C)は、グリコールエーテル系溶剤およびアルコール系溶剤を含み、前記溶剤(C)の含有量が、前記塗料組成物に対して40質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミン変性エポキシ樹脂(A1)、イソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)およびアクリル変性エポキシ樹脂(A3)から選択される少なくとも一種類の変性エポキシ樹脂(A)と、
顔料(B)と、
芳香族化合物を含有しない溶剤(C)と
を含む塗料組成物であって、
前記溶剤(C)は、グリコールエーテル系溶剤およびアルコール系溶剤を含み、
前記溶剤(C)の含有量が、前記塗料組成物に対して40質量%以下である、一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項2】
前記塗料組成物の固形分に占める顔料(B)の質量割合が、60質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項3】
前記塗料組成物の固形分に占める顔料(B)の質量割合が、75質量%~85質量%である、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項4】
前記顔料(B)は、吸油量が10ml/100g以上40ml/100g以下の体質顔料(B1)を含む、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項5】
前記溶剤(C)は、エステル構造を有する溶剤を含む、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項6】
前記グリコールエーテル系溶剤は、前記溶剤(C)に対する質量比率が、1/7以上1/2以下である、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項7】
前記塗料組成物は、エポキシエステル樹脂(E)をさらに含む、請求項1に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項8】
前記エポキシエステル樹脂(E)に対する前記変性エポキシ樹脂(A)の質量比率(変性エポキシ樹脂(A)/エポキシエステル樹脂(E))が、40/60以上90/10以下の範囲である、請求項7に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項9】
前記エポキシエステル樹脂(E)に対する前記変性エポキシ樹脂(A)の質量比率(変性エポキシ樹脂(A)/エポキシエステル樹脂(E))が、40/60以上70/30以下の範囲である、請求項7に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項10】
前記塗料組成物の固形分に占める、前記変性エポキシ樹脂(A)と前記エポキシエステル樹脂(E)の合計値の質量割合が、5質量%以上25質量%以下である、請求項7に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【請求項11】
前記塗料組成物の固形分に占める、前記変性エポキシ樹脂(A)と前記エポキシエステル樹脂(E)の合計値の質量割合が、15質量%以上20質量%以下である、請求項7に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一液型エポキシ樹脂塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、エポキシ樹脂を含む塗料は優れた耐薬品性、耐食性、付着性を有するとして鋼製建具用の塗料として使用されてきた。しかし、昨今では、鋼製建具の保護と美観の付与だけではなく、自然環境への汚染防止、省資源化、人的健康の保護といった社会的要請に対応した高い機能を有する塗料が求められている。
【0003】
その一つに、塗装時における塗料中の固形分が70質量%以上と高く、塗装外観性および塗装作業性を改善させた、いわゆるハイソリッドタイプの塗料が求められている。その中でも、短時間で膜厚を確保しやすいことや、地球環境への負荷を低減するため、有機溶剤の含有量が少ないハイソリッドタイプの一液型エポキシ樹脂塗料が求められている。しかし、塗布後完全に乾燥していない状態で降雨等により水滴が付着した場合、その水滴の跡が乾燥後も残ってしまい、外観品質を劣化させるという問題(ウォータースポット性)があった。
【0004】
また、ハイソリッドタイプの塗料であっても、有機溶剤が含まれることから、鋼製建具に塗料を塗布する作業者や鋼製建具を使用する利用者は、有機溶剤の化学物質から健康障害を受けるおそれがある。これを予防するために、例えば、「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」(化審法)、特定化学物質障害予防規則(特化則)が制定され、様々な規制が設けられている。特に、特化則では、作業者に職業がん、皮膚炎、神経障害などを発症させるおそれのある特定化学物質を定めており、これらの特定化学物質を規制することが求められている。
【0005】
そこで、これらの従来の問題を解決するために、例えば、特許文献1は、耐薬品性、防錆性があり、非鉄金属に対しても優れた密着性を有するアミン変性エポキシ樹脂を用いた塗料用バインダーが開示されている。この中で、キシレンやシクロヘキサノンを用いた樹脂固形分30質量%前後の組成を有する塗料組成物が記載されている。
また、特許文献2は、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアミン類、乾性油脂肪酸を反応して得られる変性エポキシ樹脂と脂肪族炭化水素溶剤を含有した防錆性、耐衝撃性、密着性に優れた塗料組成物を開示している。
また、特許文献3は、変性エポキシ樹脂、エポキシエステル樹脂、顔料ならびに溶剤を含み、溶剤の含有量が40%以下である塗料組成物を開示している。
【0006】
しかしながら、特許文献1では、キシレンやシクロヘキサノンのベンゼン環を有する芳香族化合物の有機溶剤を用いた樹脂固形分30質量%前後であって、ハイソリッドタイプの塗料に対応していないという問題がある。また、実施例はビスフェノールA型エポキシ樹脂のみであり、さらに、ウォータースポットに対応していないという問題がある。
特許文献2では、樹脂が50質量%前後だが顔料は多くなく、塗料中の固形分が70質量%以上であるハイソリッドタイプの塗料に対応していないという問題がある。また、用いる弱溶剤系が、特化則に対応していないという問題がある。
また、特許文献3では、ハイソリッドタイプの塗料であるが、芳香族化合物等のような特定化学物質を含有しない溶剤を用いることについては十分に検討がなされていないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001-164180号公報
【特許文献2】特開2004-231853号公報
【特許文献3】特開2020-152877号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特化則に対応したことで、芳香族化合物を含有しない溶剤は、これまでの検討が不十分なこともあり、従来の一液型エポキシ樹脂に対して相溶性が非常に劣っているという課題がある。
また、溶剤の比率を高くして相溶できたとしても、従来のハイソリッドタイプの一液型エポキシ樹脂塗料組成物と比較して、ウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性が低下するという課題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、特化則に対応して芳香族化合物を含有しない溶剤に対して、塗料組成物の樹脂の種類およびその組み合わせにより、ハイソリッドタイプであっても塗料性能として相溶性に優れた一液型エポキシ樹脂塗料組成物を提供することである。
さらに、本発明の目的は、ハイソリッドタイプであって粘度が低く塗装性に優れていて、さらに、形成した塗膜性能としてウォータースポット性、防錆性および耐ブロッキング性に優れた一液型エポキシ樹脂塗料組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
以下に、本発明の特徴を列記する。
(1)アミン変性エポキシ樹脂(A1)、イソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)およびアクリル変性エポキシ樹脂(A3)から選択される少なくとも一種類の変性エポキシ樹脂(A)と、
顔料(B)と、
芳香族化合物を含有しない溶剤(C)と
を含む塗料組成物であって、
前記溶剤(C)は、グリコールエーテル系溶剤およびアルコール系溶剤を含み、
前記溶剤(C)の含有量が、前記塗料組成物に対して40質量%以下である、一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(2)前記塗料組成物の固形分に占める顔料(B)の質量割合が、60質量%以上90質量%以下である、(1)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(3)前記塗料組成物の固形分に占める顔料(B)の質量割合が、75質量%~85質量%である、(1)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(4)前記顔料(B)は、吸油量が10ml/100g以上40ml/100g以下の体質顔料(B1)を含む、(1)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(5)前記溶剤(C)は、エステル構造を有する溶剤を含む、(1)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(6)前記グリコールエーテル系溶剤は、前記溶剤(C)に対する質量比率が、1/7以上1/2以下である、(1)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(7)前記塗料組成物は、エポキシエステル樹脂(E)をさらに含む、(1)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(8)前記エポキシエステル樹脂(E)に対する前記変性エポキシ樹脂(A)の質量比率(変性エポキシ樹脂(A)/エポキシエステル樹脂(E))が、40/60以上90/10以下の範囲である、(7)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(9)前記エポキシエステル樹脂(E)に対する前記変性エポキシ樹脂(A)の質量比率(変性エポキシ樹脂(A)/エポキシエステル樹脂(E))が、40/60以上70/30以下の範囲である、(7)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(10)前記塗料組成物の固形分に占める、前記変性エポキシ樹脂(A)と前記エポキシエステル樹脂(E)の合計値の質量割合が、5質量%以上25質量%以下である、(7)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
(11)前記塗料組成物の固形分に占める、前記変性エポキシ樹脂(A)と前記エポキシエステル樹脂(E)の合計値の質量割合が、15質量%以上20質量%以下である、(7)に記載の一液型エポキシ樹脂塗料組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、芳香族化合物を含有しない溶剤に対して、塗料組成物の樹脂の種類およびその組み合わせにより、ハイソリッドタイプであっても塗料性能として相溶性に優れ、かつ、粘度が低く塗装性に優れていて、さらに、形成した塗膜性能としてウォータースポット性、防錆性および耐ブロッキング性に優れた一液型エポキシ樹脂塗料組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物を詳細に説明する。
【0013】
<一液型エポキシ樹脂塗料組成物>
本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、少なくとも、アミン変性エポキシ樹脂(A1)、イソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)およびアクリル変性エポキシ樹脂(A3)から選択される少なくとも一種類の変性エポキシ樹脂(A)、顔料(B)、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)を含む塗料組成物であって、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)は、少なくともグリコールエーテル系溶剤およびアルコール系溶剤を含み、かつ、塗料組成物に対して40質量%以下の含有量である。
【0014】
<変性エポキシ樹脂(A)>
本発明のハイソリッドタイプの一液型エポキシ樹脂塗料組成物では、エポキシ樹脂が用いられ、特に、変性エポキシ樹脂(A)が用いられる。本発明に使用することができるエポキシ樹脂は、一液型でも二液型でもよいが、初期乾燥性が良好であり、常温乾燥が可能であるため、また、塗装等の作業性に優れていることから一液型塗料組成物に用いられる。
本発明の変性エポキシ樹脂(A)は、アミン変性エポキシ樹脂(A1)、イソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)およびアクリル変性エポキシ樹脂(A3)から選択される少なくとも一種類が選択される。
【0015】
<<アミン変性エポキシ樹脂(A1)>>
アミン変性エポキシ樹脂(A1)は、エポキシ樹脂にアミン類を反応させて製造される。エポキシ樹脂は、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族型エポキシ樹脂等があり、いずれのエポキシ樹脂でもよいが、ここでは、接着剤や塗料として用いられ、付着性、防錆性に優れるビスフェノールF型エポキシ樹脂(以下、単に「ビスフェノール型エポキシ樹脂」と記す。)が好ましい。
この未変性のビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基がアミン類により開環されて、樹脂中にアミノ基が導入される。かかるアミノ基の導入により、密着性が一層向上し、塗料の塗膜の密着性を向上させることができる。
【0016】
アミン変性エポキシ樹脂(A1)の未変性のビスフェノール型エポキシ樹脂としては、ビスフェノール類とエピクロルヒドリンまたはβ-メチルエピクロルヒドリン等のハロエポキシドとの反応により得られるものがあげられる。ビスフェノール類としてはフェノールまたは2,6-ジハロフェノールとホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アセトン、アセトフェノン、シクロヘキサノン、ベンゾフェノン等のアルデヒド類もしくはケトン類との反応物の他、ジヒドロキシフェニルスルフィドの過酸による酸化、ハイドロキノン同士のエーテル化反応等により得られるものがあげられる。ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、得られるアミン変性エポキシ樹脂(A1)の分子量や製造作業性などを考慮して、3000以下のものが好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量が3000を大きく超える場合は、得られるアミン変性エポキシ樹脂(A1)の分子量が増大し、相溶性が低下する。
【0017】
また、アミン変性エポキシ樹脂(A1)の構成成分であるアミン類としては、アルカノールアミン類、脂肪族アミン類、芳香族アミン類、脂環族アミン類、芳香核置換脂肪族アミン類等の各種のアミン類があげられ、これらは1種または2種以上を適宜選択して使用できる。かかるアミン類を具体的に示すと、アルカノールアミン類としてはジエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、ジ-2-ヒドロキシブチルアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、N-ベンジルエタノールアミン等があげられ、脂肪族アミン類としてはエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、パルミチルアミン、オレイルアミン、エルシルアミン等の一級アミン類やジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の二級アミン類があげられ、芳香族アミン類としてはトルイジン類、キシリジン類、クミジン(イソプロピルアニリン)類、ヘキシルアニリン類、ノニルアニリン類、ドデシルアニリン類等があげられ、脂環族アミン類としてはシクロペンチルアミン類、シクロヘキシルアミン類、ノルボニルアミン類があげられ、芳香核置換脂肪族アミン類としてはベンジルアミン、フェネチルアミン等があげられる。これらのアミン類のなかでも、炭素数2以上20以下のものが好ましい。
【0018】
<<イソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)>>
また、本発明で用いるイソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)は、同様に、ビスフェノール型エポキシ樹脂の構成成分にイソシアネート類を反応させて製造される。イソシアネート類としては、脂肪族系イソシアネート、脂環族系イソシアネートおよび芳香族系イソシアネートの他、それらの変性体が挙げられる。脂肪族系イソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、リジントリイソシアネート等が挙げられ、脂環族系イソシアネートとしては、例えば、イソホロンジイソシアネートが挙げられる。芳香族系イソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス(イソシアネートフェニル)チオホスフェート等が挙げられる。イソシアネート変性体としては、例えば、ウレタンプレポリマー、ヘキサメチレンジイソシアネートビューレット、ヘキサメチレンジイソシアネートトリマー、イソホロンジイソシアネートトリマー等が挙げられる。
【0019】
ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、得られるイソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)の分子量や製造作業性などを考慮して、3000以下のものが好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量が3000を大きく超える場合は、得られるイソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)の分子量が増大し、相溶性が低下する。
【0020】
<<アクリル変性エポキシ樹脂(A3)>>
また、本発明で用いるアクリル変性エポキシ樹脂(A3)は、同様に、ビスフェノール型エポキシ樹脂の構成成分にアクリレート系単量体を重合させて製造される。アクリレート系単量体としてはアクリロイルオキシ基又はメタクリロイルオキシ基を1つ以上有するモノマー等が挙げられる。具体的には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-,i-又はt-ブチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸n-オクチル、アクリル酸デシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-,i-又はt-ブチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸デシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸シクロヘキシル等のアクリル酸又はメタクリル酸の炭素数1~18のアルキルエステル又はシクロアルキルエステル;2-ヒドロキシエチルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート等のアクリル酸又はメタクリル酸のC2~C8ヒドロキシアルキルエステル等の単量体が挙げられ、これらは単独若しくは2種以上組み合わせて使用することができる。ここで、ビスフェノール型エポキシ樹脂とアクリレート系単量体との共重合反応には、例えばベンゾイルパーオキサイド、tert-ブチルパーオクトエイト、2,2-アゾビスイソブチロニトリル、2,2-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)等の公知各種の有機過酸化物やアゾ化合物を用いることができる。
【0021】
ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量は、得られるアクリル変性エポキシ樹脂(A3)の分子量や製造作業性などを考慮して、3000以下のものが好ましい。ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ当量が3000を大きく超える場合は、得られるアクリル変性エポキシ樹脂(A3)の分子量が増大し、相溶性が低下する。
【0022】
本発明の変性エポキシ樹脂は、市販品として入手することが可能である。例えばEPICLONシリーズ(H-304-40、H-403-45,H-408-40、H-601-55、9052-40MT、H-360、EXA-192、EXA-123、H-353、7070-40K、7070-50M、P-439、H-301-35PX、H-303-45M、H-304-40、EXA-8403、EXA-8415、EXA-8528、EXA-8486)(以上、DIC(株)製変性エポキシ樹脂)、アラキードシリーズ(9201N、9203N、9205、9208、9212)、モデピクス408、KA-1492、KA-1494D、KA-1439A,KA-1435R、KA-1474B、KA-1433J(以上、荒川化学工業(株)製変性エポキシ樹脂)、エポキーシリーズ(810ST、811、813、814、818、861、863、864、871T、872、877、891、878、879)(以上、三井化学(株)製変性エポキシ樹脂)等が挙げられる。
【0023】
変性エポキシ樹脂(A)は、塗料組成物の固形分(塗布、乾燥、硬化後に塗膜として機能する成分で、測定条件:130℃40分で乾燥させて測定する)の4質量%以上20質量%以下含有され、好ましくは6質量%以上15質量%以下である。塗料組成物における固形分のうち変性エポキシ樹脂(A)が4質量%未満では、ウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性が低下し、20質量%を超えると相溶性が低下する。
また、変性エポキシ樹脂(A)は、相溶性、ウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性に対して、重量平均分子量は10000以上100000以下であることが好ましく、20000以上50000以下であることが好ましい。数平均分子量が10000未満では、ウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性が低下する。また、数平均分子量が100000を超えると、相溶性が低下する。
なお、本発明において、重量平均分子量は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)で測定した値であり、標準物質にはポリスチレンを使用している。
【0024】
また、塗料組成物の変性エポキシ樹脂(A)のガラス転移点(Tg)、軟化点(Ts)は特に限定されるものではないが、ガラス転移点(Tg)が高すぎると防錆性、ウォータースポット性が低下し、ガラス転移点(Tg)が低すぎると耐ブロッキング性が低下する。したがって、ガラス転移点(Tg)は、20℃以上110℃以下の範囲が好ましく、さらに、60℃以上85℃以下の範囲がより好ましい。ガラス転移点(Tg)が60℃以上85℃以下と高い高分子の変性エポキシ樹脂(A)により、耐ブロッキング性に優れた高硬度な塗膜を形成することができる。
また、軟化点(Ts)が高すぎると防錆性、ウォータースポット性が低下し、ガラス転移点(Tg)が低すぎると耐ブロッキング性が低下する。したがって、軟化点(Ts)は80℃以上150℃以下の範囲が好ましい。
ガラス転移点(Tg)は、JIS K 7121に準じ、示差走査熱量計(DSC)によって測定する。
軟化点(Ts)は、JIS K 2351に基づく環球法によって測定する。
【0025】
<顔料(B)>
本発明の塗料組成物は、顔料(B)を含有する。顔料(B)としては、優れたウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性を併せ持つ塗膜を形成するため、少なくとも体質顔料(B1)を含有することが必要であり、さらに必要に応じて、着色顔料(B2)、防錆顔料(B3)、光輝顔料(B4)を含むことができる。
【0026】
<<体質顔料(B1)>>
体質顔料(B1)は、白色ないし無色の顔料である。屈折率が低いため、展色剤に混和しても隠蔽性にほとんど影響を与えないことから、増量剤として着色力や光沢、強度、使用感などの調整に使われる。体質顔料(B1)は、公知の材料が使用でき、例えば、沈降性硫酸バリウム、シリカ、クリストバライト、炭酸カルシウム、アルミナ、ミョウバン、白土、水酸化マグネシウム、および酸化マグネシウムなどが挙げられる。また、体質顔料(B1)は、箔のような薄く平らな形状をした顔料(鱗片状顔料)であってもよく、その具体例としては、ガラスフレーク、タルク、マイカ、カオリンクレーなどが挙げられる。
【0027】
鱗片状の体質顔料(B1)は、その形状から、水、酸素、塩化物等の腐食因子の侵入を阻害する効果や、塗膜の内部応力を小さくする効果を示す。塗膜の内部応力を小さくすることにより、基材に対する塗膜の付着性を更に向上できる。また、本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、常温での1回の塗装で乾燥膜厚35~45μmの塗膜を形成することを目的としており、塗膜の内部応力を低減できる鱗片状顔料の使用は非常に有効である。なお、鱗片状顔料は、本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物に使用される顔料の一部又は全部であってもよい。
【0028】
<<着色顔料(B2)>>
本発明の塗料組成物は、体質顔料(B1)の他に着色顔料(B2)、防錆顔料(B3)、光輝顔料(B4)を含むことがある。
着色顔料(B2)としては、その組成から無機顔料と有機顔料に大別される。無機顔料としては、酸化チタン、ベンガラ、黄色酸化鉄、カーボンブラック等、有機顔料としては、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ナフトールレッド、キナクリドンレッド、ベンズイミダゾロンイエロー、ハンザイエロー、ベンズイミダゾロンオレンジ、およびジオキサジンバイオレット等が挙げられる。
【0029】
<<防錆顔料(B3)>>
防錆顔料としては、公知の材料が使用でき、亜鉛粉末、酸化亜鉛、メタホウ酸バリウム、珪酸カルシウム、リン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、バナジン酸/リン酸混合顔料等が挙げられる。
【0030】
<<光輝顔料(B4)>>
光輝顔料としては、公知の材料が使用でき、その具体例としては、亜鉛、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、アルミニウム等の金属を箔のような薄く平らな形状をした鱗片状金属顔料や、タルク又はマイカを酸化チタン等の金属酸化物で表面処理したパール顔料が挙げられる。なお、鱗片状金属顔料には、ステンレス等の合金の顔料も含まれる。これら光輝顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0031】
また、本発明の塗料組成物に含まれる顔料(B)は、吸油量が10ml/100g以上40ml/100g以下の体質顔料(B1)を含んでいる。
ここで、吸油量は、JIS規格(JIS K 5101-13-1)による亜麻仁油を用いた精製あまに油法で測定する。
顔料(B)の吸油量が40ml/100gを超えて大きいと、顔料の表面積が大きく、かつ表面形状が複雑になることから、塗料性能として相溶性、塗膜性能としてウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性が向上する。吸油量が10ml/100g未満と小さいと、特に、防錆性、耐ブロッキング性が大きく低下する。さらに、15ml/100g以上30ml/100g以下の範囲が好ましい。
【0032】
また、本発明の塗料組成物において、塗膜形成成分の固形分中における顔料の含有量は、60質量%以上90質量%以下であることが好ましい。さらに、75質量%以上85質量%以下であることが好ましい。また、顔料の各成分として体質顔料(B1)は、顔料(B)の55質量%以上90質量%以下、好ましくは65質量%以上85質量%以下、着色顔料(B2)は3質量%以上30質量%以下、好ましくは5質量%以上20質量%以下、防錆顔料(B3)は1質量%以上15質量%以下、好ましくは5質量%以上10質量%以下含有させることができる。この範囲とすることにより高濃度な塗料組成物であって、塗膜性能としてウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性を向上させ、強度の高い塗膜を得ることができる。
【0033】
<芳香族化合物を含有しない溶剤(C)>
通常は、有機化合物の溶解性の高い芳香族を含有する溶剤(D)を、塗料組成物に用いられている。しかしながら、本発明の塗料組成物は、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)であって、グリコールエーテル系溶剤およびアルコール系溶剤を含む溶剤を用いていて、塗料性能として相溶性、塗膜性能としてウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性に優れた一液型エポキシ樹脂塗料組成物を提供する。
芳香族系溶剤は、ベンゼン環があることで水に溶けにくいが、有機化合物の溶解性が高く、沸点が低いことで揮発性が高いために塗装の作業効率を高くすることができる。しかし、人体に有害で発がん性があるために、作業者に職業がん、皮膚炎、神経障害などを発症させる危険性がある。したがって、本発明の芳香族化合物を含有しない溶剤(C)は、芳香族化合物を含む溶剤を含有せず、アルコール系溶剤およびグリコールエーテル系溶剤を含有することで、変性エポキシ樹脂(A)との溶解性を高め塗料性能の相溶性を有し、塗膜性能としてウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性を向上させることができる。
【0034】
アルコール系溶剤は、分子内に水酸基を有する溶剤であり、具体的には、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、ノルマルプロピルアルコール、イソブチルアルコール、ノルマルブチルアルコール、2-エチルブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、シクロヘキサノール、メチルアミルアルコール、フェノールなどの1価アルコールや、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの2価アルコールが挙げられる。
【0035】
また、グリコールエーテル系溶剤は、分子内に水酸基とエーテル基の両方を有する溶剤であり、具体的には、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1-メトキシ-2-プロパノール)、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、エチレングリコールモノプロピルエーテルなどが挙げられる。
【0036】
なお、芳香族系溶剤としては、芳香族化合物を含有する溶剤であり分子内に共鳴状態にあるベンゼン環を有する化合物で、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ナフタレン、スチレンモノマー、C9芳香族炭化水素混合物~C11芳香族炭化水素混合物などが挙げられる。
【0037】
さらに、本発明の芳香族化合物を含有しない溶剤(C)は、エステル構造を有する溶剤を含有することができる。エステル構造を有する溶剤は、分子内にR-C(=O)-OR’(R,R’はアルキル基など)を有する。アルコール系溶剤およびグリコールエーテル系溶剤には、任意の割合で混ざり合う。具体的には、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどが挙げられる。したがって、変性エポキシ樹脂(A)との相溶性を高めることができる。
【0038】
本発明における芳香族化合物を含有しない溶剤(C)の含有量は、塗料組成物に対して40質量%以下である。本発明の芳香族化合物を含有しない溶剤(C)の含有量が、40質量%を超えると相溶性が向上するが、ウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性が低下する。また、塗装作業で乾燥するまでの作業時間が長くなり、作業効率が低下する。さらに、塗布作業者が溶剤を吸収する可能性が高くなり、健康被害の可能性が高くなる。本発明の芳香族化合物を含有しない溶剤(C)の含有量の下限は、塗料組成物に対して塗布作業が不可能な粘度になる含有量である。
このように、本発明における芳香族化合物を含有しない溶剤(C)を、アミン変性エポキシ樹脂(A1)、イソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)およびアクリル変性エポキシ樹脂(A3)から選択される少なくとも一種類の変性エポキシ樹脂(A)と顔料(B)とを含有させることで、塗料性能・塗膜性能の優れた塗料組成物を得ることができる。
【0039】
また、グリコールエーテル系溶剤は、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)に対する質量比率が、1/7以上1/2以下である。グリコールエーテル系溶剤は、アルコール系溶剤に比べてヒドロキシ基を介する水素結合が多く、分子間力が強いために、分子量の割に融点や粘度が高く、かつ、溶剤としてエポキシ樹脂を溶解しやすい。したがって、グリコールエーテル系溶剤が、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)に対して1/7未満では、アルコール系溶剤が多くなり、樹脂の溶解性が悪くなり、防錆性、耐ブロッキング性が低下する。グリコールエーテル系溶剤が、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)に対して1/2を超えるとウォータースポット性が低下する。
【0040】
<エポキシエステル樹脂(E)>
また、本発明の塗料組成物は、エポキシエステル樹脂(E)を含むことが好ましい。本発明のエポキシエステル樹脂(E)とは、エポキシ樹脂のエポキシ基に脂肪酸を反応させて変性したものが好ましい。エポキシエステル樹脂(E)は、例えば、エポキシ樹脂と脂肪族酸などの酸との付加物、さらにこの付加物とイソシアネ-ト化合物やヒドロキシカルボン酸との反応生成物、さらにそのビニル変性物等が挙げられる。
本発明でのエポキシエステル樹脂(E)は、重量平均分子量は10000以上100000以下であることが好ましく、20000以上50000以下であることが好ましい。重量平均分子量が10000未満ではウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性が低下する。また、100000を超えると相溶性が低下する。
【0041】
本発明のエポキシエステル樹脂(E)のガラス転移点(Tg)、軟化点(Ts)は特に限定されないが、ガラス転移点は-20℃以上100℃以下、より好ましくは-10℃以上60℃以下、さらに好ましくは0℃以上40℃以下である。軟化点は、-20℃以上100℃以下、より好ましくは-20℃以上70℃以下、更に好ましくは-10℃以上40℃以下である。
【0042】
本発明で使用するエポキシエステル樹脂(E)は、5以上100以下の酸価を有するものが挙げられるが、なかでも15以上40以下の酸価を有するものが好ましく、20以上35以下の酸価を有するものがより好ましい。
【0043】
エポキシエステル樹脂(E)に対する前記変性エポキシ樹脂(A)の質量比率(変性エポキシ樹脂(A)/エポキシエステル樹脂(E))は、40/60以上90/10以下の範囲であり、好ましくは40/60以上70/30以下の範囲である。この範囲とすることにより、ウォータースポットの発生を抑制しつつ、塗料固形分を増やしてハイソリッド化を可能にする。
また、本発明では、塗料組成物の固形分に占める、変性エポキシ樹脂(A)とエポキシエステル樹脂(E)の合計値の質量割合が、5質量%以上25質量%以下であり、15質量%以上20質量%以下であることが好ましい。
【0044】
<エポキシ樹脂(F)>
本発明の塗料組成物において、密着性を向上させるために低分子量のエポキシ樹脂(F)を含有させることがある。この低分子量のエポキシ樹脂(F)としてはビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族型エポ キシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂等を挙げることができる。このエポキシ樹脂(F)は、本発明の塗料組成物の固形分の2~7質量%含有させる。
【0045】
低分子量のエポキシ樹脂(F)は、変性エポキシ樹脂(A)とエポキシエステル樹脂(E)との質量の合計量100に対して、5以上20以下の範囲で含有させる、未変性で、分子量も小さいことから、この比率が20を超えるとウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性が低下する。この比率が5未満では、相溶性が低下する。
また、低分子量のエポキシ樹脂(F)は、重量平均分子量が300以上1000以下の範囲にあり、好ましくは、500以上900以下の範囲にある。これによって、塗料性能として相溶性、塗膜性能としてウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性を向上させることができる。しかし、重量平均分子量が300未満では防錆性、耐ブロッキング性が低下し、重量平均分子量が1000を超えるとウォータースポット性が低下する。
【0046】
<その他の添加剤(G)>
本発明の塗料組成物は、その他の添加剤として、他の樹脂、艶消し剤、可撓性付与剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、粘性調整剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、成膜助剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電性滑剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。
【0047】
<<沈降防止剤(G1)>>
本発明の沈降防止剤は、塗料主剤組成物が有機溶剤を含む場合に、塗料主剤組成物中に分散した光拡散性粒子が沈降するのを防止するために用いられる。
沈降防止剤としては、公知のものを使用できる。また、上述の帯電防止剤やアンチブロッキング剤(脂肪酸アミド等)を沈降防止剤として用いることもできる。沈降防止剤は1種を単独で用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0048】
<<消泡剤(G2)>>
本発明の消泡剤(G2)としては、シリコン系消泡剤、非シリコン系消泡剤が挙げられる。シリコン系消泡剤は、界面活性を有するポリシロキサン又はその変性物を含む消泡剤であり、非シリコン系消泡剤は、ポリシロキサン又はその変性物を含まない消泡剤である。シリコン系消泡剤としては、ポリシロキサン、フッ素変性シロキサン、アミノ変性シロキサン、アルキル変性シロキサン等が挙げられる。非シリコン系消泡剤としては、高級アルコール系、高級アルコール誘導体系、脂肪酸系等が挙げられる。特にローラーで塗装したときの仕上がり外観の点から、消泡剤(G2)はフッ素変性シリコン系消泡剤であることが好ましい。
前記消泡剤(G2)の含有量は、主剤に含まれる樹脂成分100質量部に対して、0.05~5.0質量部の範囲内にあることが好ましく、より好ましくは0.1~3.5質量部の範囲内である。
【0049】
<<表面調整剤(G3)>>
本発明の表面調製剤としては特に限定されず、例えば、フッ素系添加剤、セルロース系添加剤等を挙げることができる。上記フッ素系添加剤は、表面張力を低下させて濡れ性を高めることにより、FRP素材に塗布するときのハジキを防止する作用を有する。上記フッ素系添加剤の具体例としては、例えば、メガファックF-558(大日本インキ化学工業社製)等を挙げることができる。
【0050】
これら添加剤(G)により、本発明の塗料組成物の相溶性、ウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性をさらに向上させることができる。本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物において、これらの添加剤(G)は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。添加剤(G)の含有量は、本発明の塗料組成物において、0.1~10質量%であることが好ましい。
【0051】
<一液型エポキシ樹脂塗料組成物の製造方法>
本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、例えば、バインダー樹脂、顔料及び溶剤と、必要に応じて適宜選択される各種添加剤とを配合して撹拌、混練することにより調製する。その際には、SGミル等を使用し、できるだけ均一に分散させることが好ましい。
【0052】
<塗布方法>
本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物を塗布する方法としては、特に制限されず、公知の塗布方法、例えば、ディッピング法、スピンコート法、フローコート法、ロールコート法、スプレーコート法、ブレードコート法及びエアーナイフコート法等が挙げられる。
【0053】
<一液型エポキシ樹脂塗料組成物の用途>
本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、スプレー塗装やディッピング塗装に用いることができるが、例えば、塗装対象として建築物や構築物等の構造物、車両(自動車等)、家具、建具、電子機器(家電機器等)やそれらの部品の金属基材表面に塗膜を有するものが挙げられる。金属基材としては、特に限定されるものではないが、その形状は、例えば板状、シート状、箔状等である。また、該基材を構成する金属としては、鉄鋼、亜鉛めっき鋼、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等が挙げられ、中でも、鉄鋼が好ましい。さらに、金属基材としては各種表面処理、例えば酸化処理が施されてもよい。一例として、アルマイト処理、リン酸塩処理、クロメート処理、ノンクロメート処理等の方法で鉄鋼、アルミニウムに酸化処理を施した基材を用いることができる。また、金属基材には、金属薄膜を表面に備える各種プラスチック基材(その形状は、例えば3次元の構造を持つ筐体及びフィルム等がある)も含まれる。金属の成膜には、蒸着、スパッタ、メッキ法等が利用できる。金属薄膜としては、アルミニウム、錫、亜鉛、金、銀、白金、ニッケル等の金属の薄膜が挙げられる。
本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物の塗布量は、塗布される基材の種類や用途に応じて変えることができる。
【実施例0054】
<実施例1~25、比較例1~7の調製>
表1に示す配合(数値は質量部である)によって、アミン変性エポキシ樹脂(A1)、イソシアネート変性エポキシ樹脂(A2)およびアクリル変性エポキシ樹脂(A3)から選択される少なくとも一種類の変性エポキシ樹脂(A)、顔料(B)と芳香族化合物を含有しない溶剤(C)およびその他の原料を予め混合した後に、ビーズミルにて分散処理を施した。この分散処理の混合物に、変性エポキシ樹脂(A)とアクリル樹脂を撹拌しながら加えた後、その他の原料も同様に撹拌しながら加え、一液型エポキシ樹脂塗料組成物(実施例1~25、比較例1~7)を得た。
NVとは、樹脂中における不揮発分(%)のことである。なお、不揮発分は、塗料組成物を、測定条件:130℃、40分で乾燥させた際に残存する成分をいう。
【0055】
使用した原料の詳細および配合例を表1に示す。
(A-1)変性エポキシ樹脂溶液(商品名:KA-1494D、荒川化学工業社製、NV:50%、溶剤成分:プロピレングリコールモノメチルエーテル30%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30%、シクロヘキサノン20%、酢酸プロピル20%)
(A-2)変性エポキシ樹脂溶液(商品名:モデピクス408、荒川化学工業社製、NV:40%、溶剤成分:プロピレングリコールモノメチルエーテル30%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート30%、シクロヘキサノン20%、酢酸プロピル20%)
(A-3)変性エポキシ樹脂溶液(商品名:アラキード9212、荒川化学工業社製、NV:40%、溶剤成分:キシレン50%、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート20%、シクロヘキサノン20%、nブタノール10%)
(E-1)エポキシエステル樹脂溶液(NV:40%、合成例1より)
(F-1)エポキシ樹脂溶液(三菱化学社製エポキシ樹脂jER834(重量平均分子量500)をキシレンで希釈したもの。キシレン含有量10質量%。)
(F-2)エポキシ樹脂溶液(三菱化学社製エポキシ樹脂jER834(重量平均分子量:500)を酢酸ブチルで希釈したもの。酢酸ブチル含有量:20%)
(F-3)エポキシ樹脂溶液(三菱化学社製エポキシ樹脂jER1001(重量平均分子量:900)を酢酸ブチルで希釈したもの。酢酸ブチル含有量:40%)
(F-4)液状エポキシ樹脂溶液(三菱化学社製エポキシ樹脂jER828(重量平均分子量:370)、NV:100%)
【0056】
(B1-1)体質顔料(商品名:TF重炭、丸尾カルシウム社製、炭酸カルシウム、吸油量:23ml/100g)
(B1-2)体質顔料(商品名:沈降性硫酸バリウム、堺化学工業社製、吸油量:20ml/100g)
(B1-3)体質顔料(商品名:タルクS、日本滑石精錬社製、タルク、吸油量:25ml/100g)
(B2―1)着色顔料(商品名:TITONE R-5N、堺化学工業社製、酸化チタン、吸油量:20ml/100g)
(B3―1)防錆顔料(商品名:ジンクホスフェートPZ20、SNCZ社製、リン酸亜鉛)
【0057】
(C-1)芳香族化合物を含有しない溶剤(酢酸ブチル)
(C-2)芳香族化合物を含有しない溶剤(n-ブチルアルコール)
(C-3)芳香族化合物を含有しない溶剤(プロピレングリコールモノメチルエーテル)
(D-1)芳香族化合物を含有する溶剤(キシレン)
(D-2)芳香族化合物を含有する溶剤(C9~C11芳香族混合物)
【0058】
(G1-1)沈殿防止剤(商品名:ディスパロンPF920、楠本化成社製、酸化ポリオレフィン系沈殿防止剤、NV:20%)
(G2-1)消泡剤(商品名:フローレンAC300HF、共栄社化学社製、アクリル系消泡剤、NV:77%)
(G3-1)表面調整剤(信越シリコーン社製シリコーンオイル系表面調整剤 商品名:KF-69(NV:100%)を酢酸ブチルで希釈したもの。酢酸ブチル含有量:99%)
【0059】
ここで、エポキシエステル樹脂溶液(NV:40%)の合成例1について説明する。
<合成例1>
攪拌機、温度計、還流冷却器、脱水装置及び窒素ガス導入管を備えた反応容器にエポキシ樹脂(jER1004、三菱ケミカル社製)36質量部、大豆油24質量部、酢酸ブチル15質量部、プロピレングリコールモノメチルエーテル12質量部を仕込み、窒素雰囲気下で加熱攪拌し、250℃で酸価が3mgKOH/g以下に達するまで反応を行った後、冷却した。次に、酢酸ブチル13質量部を仕込み、目的とするエポキシエステル樹脂溶液(E-1)(不揮発分:60%)を得た。
【0060】
表1は、配合処方に従って調製した実施例1~25を示している。
表2は、配合処方に従って調製した比較例1~7を示している。
【0061】
【0062】
【0063】
<塗料性能・塗膜性能の評価>
実施例1~25および比較例1~7の塗料性能として、相溶性を評価した。
また、実施例1~25および比較例1~7の試験板(塗装体)における塗膜性能として、ウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性を評価した。試験板は、ノンクロメート処理を施した亜鉛めっき鋼板上に、調製した一液型エポキシ樹脂塗料組成物を、エアースプレーを用いて、乾燥膜厚が一様に塗装し、一定の温度で、一定の時間乾燥させて、試験塗膜を形成した。
評価方法を以下に説明する。
また、表3は、実施例1~25の評価結果を示している。
さらに、表4は、比較例1~7の評価結果を示している。
【0064】
<<相溶性>>
塗料配合と同量の変性エポキシ樹脂(A)溶液とエポキシエステル樹脂(E)溶液、エポキシ樹脂(F)を、同じく塗料配合と同量の芳香族化合物を含有しない溶剤(C)と芳香族化合物を含有する溶剤(D)の混合液に入れ撹拌したのち、25℃24時間静置した。その後目視で分離の確認を行った。評価基準は以下の通りである。
○:溶剤に溶解し、24時間後であっても分離しない。
×:溶剤に溶解するが、24時間後に分離する。または溶解しない。
【0065】
<<ウォータースポット性>>
乾燥後膜厚が30μm以上40μm以下となるようエアースプレーを用いて塗装を行った。塗装後、23℃、50%RH環境下で1時間静置する。その後、塗膜表面にスポイトを用いて2mlのイオン交換水を滴下し、蒸発を防ぐため50ml容量程度のポリカップをかぶせる。滴下して18時間経過後、水滴を除去し塗膜表面に白化等の変色跡が見られるかどうかを確認し、以下の基準で評価した。
○:ウォータースポット跡が全く残らない。
△:ウォータースポット跡がわずかに残る。
×:ウォータースポット跡が著しく残る。
-:塗料内の樹脂と溶剤の相溶性が悪いため評価ができない。
【0066】
<<防錆性>>
防錆性は、耐塩水性試験で評価した。
耐塩水試験は、試験板の上に形成した塗膜表面にカッターナイフでクロスカットを入れた。試験塗板を35℃で240時間塩水噴霧試験に供し、錆の発生を観察し、カット部からの異常幅を次の基準で評価した。
○:クロスカット部以外に錆、膨れが認められず、錆はカット部より1mm未満。
△:クロスカット部以外に錆、膨れが認められず、錆はカット部より1~3mm以内。
×:塗膜全体に錆・フクレが認められる。
-:塗料内の樹脂と溶剤の相溶性が悪いため評価ができない。
【0067】
<<耐ブロッキング性>>
100×100×0.3mmのブリキ板2枚に、専用シンナーを用いて規定の希釈量に調整した塗料組成物を乾燥後膜厚が30~40μmとなるようエアースプレーを用いて塗装を行った。23℃、50%RH環境下で2時間静置後、2枚の塗装面同士を重ね合わせ、均等になるようにして20kgの荷重(0.2kg/cm2)を1時間かけた。その後塗板同士をはがし、表面の塗膜の剥がれ、粘着の有無を以下の基準で評価した。
○:剥がれ、粘着なく塗膜表面に跡が残らない。
△:板端部などで若干の塗膜の剥がれが認められる。
×:塗膜全体で塗膜の剥がれが認められる。
-:塗料内の樹脂と溶剤の相溶性が悪いため評価ができない。
【0068】
【0069】
【0070】
表3に示す結果から、実施例1~25の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、相溶性、ウォータースポット性、防錆性のいずれも評価が「〇」または「△」で、実用上の問題はなかった。
【0071】
表4に示す結果から、比較例1の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、変性エポキシ樹脂(A)を含まないことにより、エポキシエステル樹脂(E)に対する変性エポキシ樹脂(A)の質量比率(変性エポキシ樹脂(A)/エポキシエステル樹脂(E))が,0/100であり、24時間後であっても分離せず、相溶性は「〇」であったが、その他の塗膜性能のウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性が「×」であった。
【0072】
比較例2の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、固形分中における変性エポキシ樹脂(A)、エポキシエステル樹脂(E)の合計量が多く、かつ、顔料(B)を含まない。また、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)の含有量が40%を超えている。
これにより、相溶性、防錆性は「〇」であったが、その他の塗膜性能のウォータースポット性、耐ブロッキング性が「×」であった。
【0073】
比較例3の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、芳香族化合物を含有する溶剤を用いた変性エポキシ樹脂(A―3)を含有することにより、相溶性が「×」であったが、その他の塗膜性能のウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性も「×」であった。
【0074】
比較例4の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)を含有せず、芳香族化合物を含有する溶剤(D)を含有することで、グリコールエーテル系溶剤と芳香族化合物を含有する溶剤(C)に対する質量比率が発明の範囲外である。これにより、相溶性が「×」であったが、その他の塗膜性能のウォータースポット性、防錆性も「×」であった。
【0075】
比較例5の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)でグリコールエーテル系溶剤を含有しないことで、グリコールエーテル系溶剤と芳香族化合物を含有する溶剤(C)に対する質量比率が発明の範囲外である。これにより、相溶性が「×」であったが、その他の塗膜性能のウォータースポット性、防錆性も「×」であった。
【0076】
比較例6の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)でアルコール系溶剤を含有しない。これにより、相溶性が「×」であったが、その他の塗膜性能のウォータースポット性も「×」であった。
【0077】
比較例7の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、芳香族化合物を含有しない溶剤(C)を含有しているが、含有量が40質量%を超えている。これにより、耐ブロッキング性が「×」であった。
【0078】
これらの実施例1~25および比較例1~7の結果から、本発明の一液型エポキシ樹脂塗料組成物は、相溶性、ウォータースポット性、防錆性、耐ブロッキング性についても実用上問題がないことが分かった。