(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100203
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】光導波路型センサチップ、光導波路型センサ、及び光センサ測定システム
(51)【国際特許分類】
G01N 21/552 20140101AFI20240719BHJP
G01N 21/01 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01N21/552
G01N21/01 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004018
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】594164542
【氏名又は名称】キヤノンメディカルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田伏 千緒
(72)【発明者】
【氏名】桃崎 哲
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059BB11
2G059BB12
2G059BB13
2G059CC16
2G059EE01
2G059JJ30
2G059KK01
2G059LL03
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】広い濃度範囲おける被験物質濃度を高精度で得るための光信号を生成すること。
【解決手段】実施形態に係る光導波路型センサは、光導波路と、複数の検出エリアと、入射側回折格子と、出射側回折格子とを備える。光導波路は、ガラス基板の表面に形成される。複数の検出エリアはそれぞれ、光導波路の表面に形成され、被験物質と特異的に結合する第1物質が固定化される。入射側回折格子は、光導波路の各検出エリアの一端側に、光源からの光の伝搬角度を調節するために設けられる。出射側回折格子は、光導波路の各検出エリアの他端側に、光検出器への光の伝搬角度を調節するために設けられる。そして、光導波路型センサは、複数の検出エリア間において光導波路内で光の反射回数が異なるように構成される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の表面に形成される光導波路と、
前記光導波路の表面に形成され、被験物質と特異的に結合する第1物質が固定化された複数の検出エリアと、
前記光導波路の前記複数の検出エリアの一端側に、光源からの光の伝搬角度を調節するために設けられる入射側回折格子と、
前記光導波路の前記複数の検出エリアの他端側に、光検出器への光の伝搬角度を調節するために設けられる出射側回折格子と、
を備え、
前記複数の検出エリア間において前記光導波路内で前記光の反射回数が異なるように構成される、
光導波路型センサチップ。
【請求項2】
前記複数の検出エリア間において前記光の伝搬方向への前記検出エリアの長さと、前記入射側回折格子及び出射側回折格子のグレーティングピッチと、前記光導波路の前記複数の検出エリアの厚さとのうち少なくとも1つを異ならせることで、前記複数の検出エリア間において前記光導波路内で前記光の反射回数が異なるように構成される、
請求項1に記載の光導波路型センサチップ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の前記光導波路型センサチップと、
前記複数の検出エリアにそれぞれ対応し、前記光導波路に光を入射させる複数の光源と、
前記複数の検出エリアにそれぞれ対応し、前記光導波路から出射又は反射される光を受光して光信号を生成する複数の光検出器と、
を備える光導波路型センサ。
【請求項4】
請求項3に記載の前記光導波路型センサと、
前記光導波路型センサの前記複数の光検出器から光信号を取得する取得手段と、
前記取得手段によって取得された光信号から被験物質の濃度を算出するデータ処理手段と、
を備える光センサ測定システム。
【請求項5】
前記データ処理手段は、
前記複数の検出エリアのうち低感度仕様の第2検出エリアからの光信号に基づく光の減衰率が閾値以上の場合、当該第2検出エリアからの光信号に基づく光の減衰率に基づいて前記被験物質の濃度を算出し、
前記低感度仕様の第2検出エリアからの光信号に基づく光の減衰率が前記閾値未満の場合、前記複数の検出エリアのうち高感度仕様の第1検出エリアからの光信号に基づく光の減衰率に基づいて前記被験物質の濃度を算出する、
請求項4に記載の光センサ測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書及び図面に開示の実施形態は、光導波路型センサチップ、光導波路型センサ、及び光センサ測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
被験物質に対する抗体を用い、又は被験物質が抗体である場合にはその抗体に対する抗原若しくは抗体を用いて被験物質の濃度を測定する方法として、特許文献1に記載される方法がある。特許文献1に記載のような光導波路型センサチップにおいては、被験物質と特異的に結合する抗体等を固定化した微粒子と光導波路とを用いることによって、抗原抗体反応等によって光導波路表面に結合した微粒子のみに起因する吸光度を光導波路表面近傍のエバネッセント波によって検出することが可能となる。それにより余剰の検体や二次抗体を洗浄する手順を含まずに被験物質を定量することができる。
【0003】
光導波路型センサは、導波路内の光の反射回数に依存性して検出感度が向上するという性質があり、高感度検出に適しているが、一方で、被験物質の濃度に対するダイナミックレンジが小さく、高濃度領域での被験物質を定量的に検出することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本明細書及び図面に開示の実施形態が解決しようとする課題の一つは、広い濃度範囲おける被験物質濃度(例えば、抗原濃度)を高精度で得るための光信号を生成することである。ただし、本明細書及び図面に開示の実施形態により解決しようとする課題は上記課題に限らない。後述する各実施形態に示す各構成による各効果に対応する課題を他の課題として位置付けることもできる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態に係る光導波路型センサは、光導波路と、複数の検出エリアと、入射側回折格子と、出射側回折格子とを備える。光導波路は、ガラス基板の表面に形成される。複数の検出エリアはそれぞれ、光導波路の表面に形成され、被験物質と特異的に結合する第1物質が固定化される。入射側回折格子は、光導波路の各検出エリアの一端側に、光源からの光の伝搬角度を調節するために設けられる。出射側回折格子は、光導波路の各検出エリアの他端側に、光検出器への光の伝搬角度を調節するために設けられる。そして、光導波路型センサは、複数の検出エリア間において光導波路内で光の反射回数が異なるように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態に係る光導波路型センサチップを備える光導波路型センサを示す構成図。
【
図2】
図2は、実施形態に係る光導波路型センサチップを備える光導波路型センサの第1検出エリアの断面図。
【
図3】
図3は、複数の検出エリア間において導波路長を異ならせる場合の、実施形態に係る光導波路型センサチップの構成を示す断面図。
【
図4】
図4は、複数の検出エリア間において回折格子のグレーティングピッチを異ならせる場合の、実施形態に係る光導波路型センサチップの構成を示す断面図。
【
図5】
図5は、実施形態に係る光導波路型センサチップにおいて、定量検出可能領域のシミュレーションにおける代表的なパラメータを表として示す図。
【
図6】
図6は、
図5に示すパラメータを使用して定量検出可能領域のシミュレーション結果をグラフとして示す図。
【
図7】
図7は、実施形態に係る光センサ測定システムの構成及び機能を示すブロック図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照しながら、光導波路型センサチップ、光導波路型センサ、及び光センサ測定システムの実施形態について詳細に説明する。
【0009】
(光導波路型センサチップ及び光導波路型センサ)
図1は、実施形態に係る光導波路型センサチップ10を示す。光導波路型センサチップ10は、被験物質をカートリッジとも呼ばれる。光導波路型センサチップ10は、光源20と、光検出器30とともに光導波路型センサ1を構成する。なお、
図1の上段は、光導波路型センサ1の上面図を示し、下段は、光導波路型センサ1の第1検出エリアの断面図を示す。
【0010】
光導波路型センサ1の光導波路型センサチップ10は、ガラス基板11と、光導波路12と、保護膜13と、検出エリア14と、入射側回折格子15と、出射側回折格子16とを備える。
【0011】
光導波路12は、ガラス基板11の表面に硬化性樹脂をコートして形成される。例えば、光導波路12として平面光導波路を用いることができる。この平面光導波路は、例えばフェノール樹脂、エポキシ樹脂のような熱硬化性樹脂又は無アルカリガラスから形成することができる。詳細には、ここで用いる材料とは、所定の光の透過性を有する材料であって、特に、ポリスチレンを主たる構造とするエポキシ樹脂等であることが好ましい。平面光導波路への被測定検体の被験物質H(
図2に図示)と特異的に反応する第1物質F(
図2に図示)の固定化は、例えばシランカップリング剤等により疎水化処理した表面上に前記物質の疎水性相互作用により固定化する。第1物質Fは、例えば被測定検体の被験物質Hが抗原の場合、抗体を用いることができる。
【0012】
保護膜13は、光導波路12の表面に設けられ、撥水性を備える。
【0013】
検出エリア14は、複数の検出エリア(例えば、第1検出エリア141と第2検出エリア142)を備える。検出エリア141,142はそれぞれ保護膜13の開口部分に設けられ、特定の導波路長(光の伝搬方向への検出エリア141,142の長さ)Lを有する。検出エリア141,142はそれぞれ、膜状の樹脂材により形成された光導波路12の表面に形成される。検出エリア141,142にはそれぞれ、被験物質Hと特異的に結合する第1物質Fが固定化されている。以下、2つの検出エリアが備えられる場合について説明するがその場合に限定されず、複数の検出エリアは3つ以上であってもよい。3つ以上の検出エリアが備えられる場合、後述する回折格子15,16、光源20、光検出器30も検出エリアの数に合わせて3つ以上備えられることになる。
【0014】
入射側回折格子15は、複数の入射側回折格子(例えば、第1入射側回折格子151と第2入射側回折格子152)を備える。入射側回折格子151,152はそれぞれ、検出エリア141,142の一端側に設けられ、光源201,202からの光の伝搬角度を調節するための複数のグレーティングを特定のピッチで有する。
【0015】
出射側回折格子16は、複数の出射側回折格子(例えば、第1出射側回折格子161,第2出射側回折格子162)を備える。出射側回折格子161,162はそれぞれ、検出エリア141,142の他端側に設けられ、光検出器301,302への光の伝搬角度を調節するための複数のグレーティングを特定のピッチで有する。
【0016】
また、光導波路型センサ1の光源20は、複数の光源(例えば、第1光源201と第2光源202)を備える。光源201,202はそれぞれ、光導波路型センサチップ10の入射側回折格子151,152のグレーティングから光導波路12に光を入射させるために設けられる。光源201,202はそれぞれ、入射側回折格子151,152のグレーティングにそれぞれ光を入射させる。例えば、光源20は、赤色レーザダイオードである。
【0017】
光導波路型センサ1の光検出器30は、複数の光検出器(例えば、第1光検出器301と第2光検出器302)を備える。光検出器301,302はそれぞれ、出射側回折格子161,162のグレーティングから出射又は反射される光を受光する。光検出器301,302はそれぞれ、出射側回折格子161,162のグレーティングからそれぞれ出射される光を受光して光信号を生成する。例えば、光検出器301,302はそれぞれ、光を検知して電気信号に変換するフォトダイオードと、その電気信号に対して増幅処理を行う増幅器と、その電気信号をデジタル信号に変換するA/D(Analog to Digital)変換器とを備える。A/D変換器の出力信号を光信号と定義する。
【0018】
以上のような光導波路型センサ1の構成により、光源201,202でそれぞれ発生した光が光導波路12内を伝搬すると、検出エリア141,142の表面からエバネッセント光R(
図2に図示)がそれぞれ染み出す。ここで、光導波路12内を伝搬する光が減衰する概念について説明する。
図2は、光導波路12内を伝搬する光が減衰する概念を説明するための側面図を示す。
【0019】
第1検出エリア141の表面には、被験物質Hと特異的に結合する第1物質Fが固定化されている。被験物質Hとしては、例えば血液、血清、血漿、生体試料、食品等の中に含まれる蛋白質、ペプチド、遺伝子等が挙げられる。具体的には、被験物質Hとしては、インスリン、カゼイン、β―ラクトグロブリン、オボアルブミン、カルシトニン、C-ペプチド、レプチン、β-2-ミクログロブリン、レチノール結合タンパク、α-1-ミクログロブリン、α-フェトプロテイン、癌胎児性抗原、トロポニン-I、クルカゴン様ペプチド、インスリン様ペプチド、腫瘍増殖因子、繊維芽細胞増殖因子、血小板成長因子、上皮増殖因子、コルチゾール、トリヨードサイロニン、サイロキシン等のハプテンホルモン、ジゴキシン、テオフィリン等の薬物、細菌、ウイルス等の感染性物質、肝炎抗体、IgEの他、そばの主要タンパク質複合体、落花生のArah2を含む可溶性タンパク質等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
被験物質Hと特異的に結合する第2物質Gが固定化された検出用試薬Mによって捕捉された被験物質Hが第1検出エリア141の表面に接触すると、被験物質Hを介して検出用試薬Mが第1検出エリア141の表面に結合する。検出用試薬Mが第1検出エリア141の表面に結合すると、エバネッセント光Rが反射及び散乱され、光導波路12内を伝搬する光が減衰する。その結果、第1出射側回折格子161のグレーティングから出射される光(例えば、赤色レーザ光)を第1光検出器301のフォトダイオードで受光した際、その光の光強度が、固定化された検出用試薬Mの影響によって時間の経過に伴って低下する。
【0021】
第1光検出器301(
図1に図示)のフォトダイオードで受光した光の光強度の低下率は、光導波路12の表面に対して固定化される検出用試薬Mの量、つまり抗原抗体反応に関与する被測定検体溶液中の被験物質Hの濃度に比例する。したがって、被験物質Hの濃度が既知の被測定検体溶液において時間の経過に伴うレーザ光強度の低下曲線を作成し、この曲線の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、被験物質Hの濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線を予め作成する。時間とレーザ光強度の低下曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、被測定検体溶液中の被験物質Hの濃度を測定することができる。なお、第2検出エリア142における光導波路12内の光の減衰は、第1検出エリア141における光導波路12内の光の減衰と同様である。
【0022】
ここで、検出エリア141,142は、検出エリア141,142間において光導波路12内での光の反射回数が異なるように構成される。そのような構成とすることで、低濃度の被験物質Hに対する感度を維持したまま、高濃度の被験物質Hの定量性を確保することができるので、被験物質Hの濃度に対するダイナミックレンジを確保することができる。例えば、検出エリア141,142間において光導波路12内での光の反射回数が異なるように構成するために、検出エリア141,142間において導波路長Tと、回折格子151,161及び回折格子152,162のグレーティングピッチとのうち少なくとも一方を異ならせることで、光の反射回数が異なるように構成する。光の反射回数nは、以下の式(1)から求められる。式(1)において、Lは導波路長を示し、βは回折格子15,16のグレーティングにおける光の反射角を示し、tは光導波路12の厚さ(つまり、光導波路12の検出エリアの厚さ)を示す。
【数1】
【0023】
上記式(1)に示すように、導波路長Lと回折格子15,16における光の反射角βとのうち少なくとも一方を異ならせることで、検出エリア141,142間で光の反射回数nを異ならせることができる。また、上記式(1)のβとグレーティングピッチdとの関係は、次の式(2)から求められる。式(2)において、mは定数であり、λは光の波長を示す。
【数2】
【0024】
上記式(1)に示す回折格子15,16における光の反射角βを異ならせることは、上記式(2)のグレーティングピッチdを異ならせることに他ならない。
【0025】
図3は、検出エリア141,142間において導波路長Tを異ならせる場合の光導波路型センサチップ10の構成を示す断面図である。一方で、
図4は、検出エリア141,142間において回折格子15,16のグレーティングピッチを異ならせる場合の光導波路型センサチップ10の構成を示す断面図である。
【0026】
図3(A)は、導波路長L1を有する第1検出エリア141を示す。
図3(B)は、導波路長L2を有する第2検出エリア142を示す。
図3(B)に示す第2検出エリア142の導波路長L2は、
図3(A)に示す第1検出エリア141の導波路長L1より短い。そのため、導波路長L2の第2検出エリア142の反射回数は、導波路長L1の第1検出エリア141の反射回数より少なくなる。このような構成とすることで、検出エリア141,142間において光導波路12内での光の反射回数が異なるように構成することができる。なお、光導波路型センサチップ10は、検出エリア14における光導波路12内での光の反射回数が多いほど、高感度となる性質があるので、
図3(A)に示す題1検出エリア141は相対的に「高感度仕様」であり、
図3(B)に示す第2検出エリア142は相対的に「低感度仕様」である。
【0027】
図4(A)は、比較的長いグレーティングピッチを有する回折格子151,161を示す。
図4(B)は、比較的短いグレーティングピッチを有する回折格子152,162を示す。
図4(B)に示す回折格子152,162のグレーティングピッチは、
図4(A)に示す回折格子151,161のグレーティングピッチより短い。そのため、回折格子152,162のグレーティングピッチの第2検出エリア142の反射回数は、回折格子151,161のグレーティングピッチの第1検出エリア141の反射回数より少なくなる。このような構成とすることで、検出エリア141,142間において光導波路12内での光の反射回数が異なるように構成することができる。なお、光導波路型センサチップ10は、検出エリア14における光導波路12内での光の反射回数が多いほど、高感度となる性質があるので、
図4(A)に示す第1検出エリア141は相対的に「高感度仕様」であり、
図4(B)に示す第2検出エリア142は相対的に「低感度仕様」である。
【0028】
続いて、検出エリア141,142間において光導波路12内での光の反射回数が異なるように構成された場合の被験物質Hの定量検出可能領域をシミュレーションから算出する。
図5は、定量検出可能領域のシミュレーションにおける代表的なパラメータを表として示す図である。パラメータの入力値には、光導波路型センサチップ10を形成している各材料の仕様値を用いている。なお、
図5に示す「高感度仕様」は第1検出エリア141(
図3(A)及び(
図4(A)に図示)に対応し、「低感度仕様」は第2検出エリア142(
図3(B)及び(
図4(B)に図示)に対応する。
【0029】
例えば、「高感度仕様」である第1検出エリア141の導波路長の入力値は「20000μm」と長い。一方で、「低感度仕様」である第2検出エリア142の導波路長の入力値は「500μm」と短い。また、「高感度仕様」である第1検出エリア141の回折格子151,161のグレーティングピッチの入力値は「1060nm」と長い。一方で、「低感度仕様」である第2検出エリア142の回折格子152,162のグレーティングピッチの入力値は「940nm」と短い。なお、
図5において、導波路長とグレーティングピッチとの両方を異ならせる場合について図示するが、その場合に限定されるものではない。導波路長とグレーティングピッチとのうち少なくとも1つを異ならせればよい。
【0030】
図6に、
図5に示すパラメータを使用して定量検出可能領域のシミュレーション結果(導波路モデル)をグラフとして示す図である。光の反射回数が異なるように構成することで、
図6に示すように、被験物質H(
図2に図示)の濃度に対する光の減衰率が変化していることが分かる。そして、低感度仕様の場合、高濃度側の定量検出可能領域で分解能が高いことが分かる。そのため、被験物質Hが低感度仕様の定量検出可能領域の左端以上の比較的高濃度である場合(つまり、低感度仕様の第2検出エリア142からの光信号に基づく光の減衰率が閾値w以上の場合)には、定量検出可能領域が高濃度側に現れる低感度仕様の第2検出エリア142からの光信号に基づく減衰率に基づいて被験物質Hの濃度が算出されることが好適である。一方で、被験物質Hが低感度仕様の定量検出可能領域の左端未満の比較的低濃度である場合(つまり、低感度仕様の第2検出エリア142からの光信号に基づく光の減衰率が閾値w未満の場合)には、定量検出可能領域が低濃度側に現れる高感度仕様の第1検出エリア141からの光信号に基づく減衰率に基づいて被験物質Hの濃度を算出することが好適である。
【0031】
なお、上述では、検出エリア141,142において導波路長Lと回折格子15,16のグレーティングピッチとのうち少なくとも一方を異ならせることで検出エリア141,142間において光導波路12内での光の反射回数が異なるように構成する場合について説明したが、その場合に限定されるものではない。例えば、光導波路12の検出エリア141,142部分の厚さを異ならせることで光の反射回数が異なるように構成されてもよい。その場合、検出エリア141,142間において導波路長Lと、回折格子15,16のグレーティングピッチと、光導波路12の検出エリア141,142部分の厚さtとのうち少なくとも1つを異ならせることで光の反射回数が異なるように構成される。
【0032】
上記式(1),(2)を用いて説明したように導波路長L及び回折格子15,16のグレーティングピッチのみならず、光導波路12の検出エリア141,142部分の厚さtを異ならせることで、光の反射回数nを異ならせることができる。
【0033】
光導波路型センサチップ10及び光導波路型センサ1によれば、広い濃度範囲おける被験物質Hの濃度(例えば、抗原濃度)を高精度で得るための光信号を生成することができる。その光信号は後述する光センサ測定装置5(
図7に図示)に提供される。
【0034】
(光センサ測定システム)
光導波路型センサ1を備える光センサ測定システムについて説明する。
図7は、光センサ測定システムの構成及び機能を示すブロック図である。
【0035】
図7に示すように、光センサ測定システムSは、光導波路型センサ1と、光センサ測定装置5とを備える。光センサ測定装置5は、処理回路51と、メモリ52と、ディスプレイ53と、入力インターフェース54とを備える。
【0036】
処理回路51は、光センサ測定システムSの全体の動作を制御する。処理回路51は、専用又は汎用のCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processor Unit)、又はGPU(Graphics Processing Unit)の他、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、及び、プログラマブル論理デバイス等を意味する。プログラマブル論理デバイスとしては、例えば、単純プログラマブル論理デバイス(SPLD:Simple Programmable Logic Device)、複合プログラマブル論理デバイス(CPLD:Complex Programmable Logic Device)、及び、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA:Field Programmable Gate Array)等が挙げられる。
【0037】
また、処理回路51は、単一の回路によって構成されてもよいし、複数の独立した処理回路要素の組み合わせによって構成されてもよい。後者の場合、メモリ52は処理回路要素ごとに個別に設けられてもよいし、単一のメモリ52が複数の処理回路要素の機能に対応するプログラムを記憶するものであってもよい。なお、処理回路51は、処理部の一例である。
【0038】
メモリ52は、例えば、RAM(Random Access Memory)、フラッシュメモリ(Flash Memory)等の半導体メモリ素子、ハードディスク、光ディスク等によって構成される。メモリ52は、USB(Universal Serial Bus)メモリ及びDVD(Digital Video Disk)等の可搬型メディアによって構成されてもよい。メモリ52は、処理回路51において用いられる各種処理プログラム(アプリケーションプログラムの他、OS(Operating System)等も含まれる)や、プログラムの実行に必要なデータを記憶する。また、OSに、操作者に対するディスプレイ53への情報の表示にグラフィックを多用し、基礎的な操作を入力インターフェース54によって行うことができるGUI(Graphic User Interface)を含めることもできる。なお、メモリ52は、記憶部の一例である。
【0039】
ディスプレイ53は、各種の情報を表示する。例えば、ディスプレイ53は、処理回路51によって生成された画像データや、操作者からの各種操作を受け付けるためのGUI等を出力する。例えば、ディスプレイ53は、液晶ディスプレイやCRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ、OLED(Organic Light Emitting Diode)ディスプレイ等である。なお、ディスプレイ53は、表示部の一例である。
【0040】
入力インターフェース54は、技師等の操作者によって操作が可能な入力デバイスと、入力デバイスからの信号を入力する入力回路とを含む。入力デバイスは、マウス、キーボード、トラックボール、スイッチ、ボタン、ジョイスティック、操作面に触れることで入力操作を行うタッチパッド、表示画面とタッチパッドとが一体化されたタッチスクリーン、光学センサを用いた非接触入力回路、音声入力回路等によって実現される。入力デバイスが操作者から入力操作を受け付けると、入力回路は当該入力操作に応じた電気信号を生成して処理回路51に出力する。なお、入力インターフェース54は、入力部の一例である。
【0041】
処理回路51は、メモリ52、又は、処理回路51内のメモリ等の非一過性の記録媒体に記憶されたコンピュータプログラムを実行することで、
図7に示すように、取得機能511と、データ処理機能512とを実現する。なお、機能511~512の全部又は一部は、光センサ測定装置5のコンピュータプログラムの実行により実現される場合に限定されるものではなく、光センサ測定装置5にASIC等の回路として備えられる場合であってもよい。
【0042】
取得機能511は、光導波路型センサ1の光源201,202を制御して光導波路型センサチップ10の光導波路に光をそれぞれ入射させる機能と、光導波路型センサ1の光検出器301,302から光信号をそれぞれ取得する機能とを含む。
【0043】
データ処理機能512は、取得機能511によって取得された光検出器301,302光信号からそれぞれ被験物質の濃度(被験物質の存在自体を含む)を算出する機能を含む。データ処理機能512は、被験物質Hの濃度が既知の被測定検体溶液において時間の経過に伴うレーザ光強度の低下曲線を作成し、この曲線の所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、被験物質Hの濃度とレーザ光強度の低下率との関係を示す検量線(
図6に図示)を予め生成する。そして、データ処理機能512は、時間とレーザ光強度の低下曲線から所定の時間でのレーザ光強度の低下率を求め、このレーザ光強度の低下率を前記検量線と照合させることにより、被測定検体溶液中の被験物質の濃度を測定することができる。
【0044】
データ処理機能512は、低感度仕様の第2検出エリア142からの光信号に基づく光の減衰率が閾値w(
図6に図示)以上の場合、当該第2検出エリア142からの光信号に基づく光の減衰率に基づいて被験物質Hの濃度を算出する。一方で、データ処理機能512は、低感度仕様の第2検出エリア142からの光信号に基づく光の減衰率が閾値w未満の場合、高感度仕様の第1検出エリア141からの光信号に基づく光の減衰率に基づいて被験物質Hの濃度を算出する。なお、低感度仕様の定量検出可能領域の左端に対応する光の減衰率を閾値wとして設定したがその場合に限定されるものではない。閾値wは、低感度仕様の定量検出可能領域の左端に対応する光の減衰率と、高感度仕様の定量検出可能領域の右端に対応する光の減衰率との間に設定されればよい。
【0045】
光センサ測定システムSによれば、被験物質Hの濃度に対するダイナミックレンジを拡げることができるので、被験物質Hの低濃度領域に対する感度を維持したまま高濃度領域での被験物質Hを定量的に検出することができる。
【0046】
以上説明した少なくとも1つの実施形態によれば、広い濃度範囲おける被験物質濃度を高精度で得るための光信号を生成することができる。その光信号により、被験物質の濃度に対するダイナミックレンジを拡げ、高濃度領域での被験物質を定量的に検出することができる。
【0047】
なお、
図7に示す取得機能511は、取得手段の一例である。データ処理機能512は、データ処理手段の一例である。
【0048】
いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、実施形態同士の組み合わせ、実施形態と1又は複数の変形例との組み合わせを行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0049】
1…光導波路型センサ
10…光導波路型センサチップ
11…ガラス基板
12…光導波路
13…保護膜
14,141,142…検出エリア
15,151,152…入射側回折格子
16,161,162…出射側回折格子
20,201,202…光源
30,301,302…光検出器
S…光センサ測定システム
5…光センサ測定装置
51…処理回路
511…取得機能
512…データ処理機能