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特開2024-100212フローサイトメータおよび試料の測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100212
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】フローサイトメータおよび試料の測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 15/1429 20240101AFI20240719BHJP
   G01N 15/14 20240101ALI20240719BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
G01N15/14 J
G01N15/14 C
G01N33/53 Y
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004034
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103034
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信久
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 雅己
(74)【代理人】
【識別番号】100189429
【弁理士】
【氏名又は名称】保田 英樹
(74)【代理人】
【識別番号】100213849
【弁理士】
【氏名又は名称】澄川 広司
(72)【発明者】
【氏名】小篠 正継
(72)【発明者】
【氏名】木西 基
(72)【発明者】
【氏名】クレア ヴァイア
(57)【要約】
【課題】標準試料を用いなくても測定試料中の測定対象物の濃度を得ることが可能なフローサイトメータを提供する。
【解決手段】フローセルと、測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料を前記フローセルへ所定量供給する試料供給部と、前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射する光源と、前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力する検出部と、前記信号に基づいて前記測定試料に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記所定量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得する解析部とを備えることを特徴とするフローサイトメータ。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フローセルと、
測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料を前記フローセルへ所定量供給する試料供給部と、
前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射する光源と、
前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力する検出部と、
前記信号に基づいて前記測定試料に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記所定量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得する解析部とを備えることを特徴とするフローサイトメータ。
【請求項2】
前記試料供給部は定量シリンジを備え、前記定量シリンジによって前記所定量の測定試料を供給する請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項3】
前記定量シリンジは、シリンジ容器とピストンとを有し、前記ピストンが所定量移動することにより前記所定量の測定試料を供給する請求項2に記載のフローサイトメータ。
【請求項4】
前記試料供給部は、前記測定試料を吸引する吸引ノズルと、前記吸引ノズルと前記フローセルと前記定量シリンジとを接続する流路を備え、前記定量シリンジの前記ピストンを引くことによって前記測定試料を前記流路に引き込み、前記ピストンを押すことによって前記測定試料を前記フローセルに供給する請求項3に記載のフローサイトメータ。
【請求項5】
前記解析部は、前記所定量に基づく測定試料の量であって、測定対象物の計数に使用された測定試料の量と前記測定対象物の数とに基づいて、前記濃度を取得する、請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項6】
前記試料供給部は、シース液によって満たされた流路に前記測定試料を吸引し、シース液が流れる前記フローセルに前記測定試料を供給し、
前記解析部は、前記所定量の測定試料のうち前記フローセルに最初に供給される第1の部分と、前記フローセルに最後に供給される第2の部分とを除く中間部分に含まれる前記測定対象物を計数し、前記所定量から前記第1の部分と第2の部分を除いた量に基づいて前記濃度を取得する、請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項7】
前記濃度を表示する表示部をさらに備える請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項8】
前記解析部は、前記検体中の前記測定対象物の濃度を取得する、請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項9】
前記解析部は、前記測定試料中の前記測定対象物の濃度を取得する、請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項10】
前記解析部は、前記測定対象物の測定結果として前記濃度を提示する第1のモードと、前記測定対象物の測定結果として前記測定対象物の計数値を提示する第2のモードとで、選択的に動作可能である請求項1に記載のフローサイトメータ。
【請求項11】
測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料をフローセルへ所定量供給するステップと、
前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射するステップと、
前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力するステップと、
前記信号に基づいて前記検体に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記所定量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得するステップと、
を備える試料の測定方法。
【請求項12】
フローセルと、
測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料を吸引し、吸引した前記測定試料を前記フローセルへ供給する定量シリンジと、
前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射する光源と、
前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力する検出部と、
前記信号に基づいて前記測定試料に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記測定対象物の計数に使用された前記測定試料の量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得する解析部と、を備えることを特徴とするフローサイトメータ。
【請求項13】
測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料を定量シリンジによってフローセルへ供給するステップと、
前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射するステップと、
前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力するステップと、
前記信号に基づいて前記検体に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記測定対象物の計数に使用された前記測定試料の量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得するステップと、
を備える試料の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、検体に含まれる測定対象物を測定するフローサイトメータおよび試料の測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞を含む検体を調製した測定試料に光を照射し、高速に測定する検体分析装置としてフローサイトメータが知られている。フローサイトメータは、層流の中を基本的に1列となって流れる粒子に光を照射し、個々の粒子に係る光学的な情報を取得する測定装置である。
【0003】
非特許文献1には、測定試料中の細胞を測定するフローサイトメータが開示されている。非特許文献1が開示する従来のフローサイトメータは、液状の測定試料を収容し空気を逃がさないための蓋がされた試料容器内に空気を導入し空気圧で測定試料の液面を押し下げることにより、測定試料をフローセルへ供給する。このようにしてフローセルに供給された測定試料の中の細胞から光学的な測定パラメータが取得される。フローサイトメータは、測定パラメータに基づいて細胞を2次元のヒストグラムにプロットし、全細胞のうち、ヒストグラム上の特定の領域に何%の細胞が含まれるかを表示する(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】フローサイトメトリー技術情報 FCMの原理入門講座 V.フロー系、[online]、ベックマン・コールター株式会社、[令和4年12月15日検索]、インターネット<URL: https://www.bc-cytometry.com/FCM/fcmprinciple_5.html>
【非特許文献2】フローサイトメトリー技術情報FCMの原理入門講座 VIII.データ処理系、[online]、ベックマン・コールター株式会社、[平成4年12月15日検索]、インターネット< https://www.bc-cytometry.com/FCM/fcmprinciple_8-1.html >
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
フローサイトメータを用いた検査の中には、検体や測定試料中の細胞の濃度を検査結果として提供する必要があるものが存在する。例えばHIV感染者の免疫力の指標とされているCD4陽性細胞は、感染者の血中濃度が200個/μLを下回ると様々な日和見感染症が発症しやすくなると言われており、その血中濃度に応じて異なる予防治療が行われる。
【0006】
従来のフローサイトメータは、環境温度や試料容器内の測定試料の液面の変化に伴ってフローセルに供給される量が変動するため、フローセルに供給した測定試料の量を正確に測ることができないため、例えば測定試料1μL中に目的とする細胞が何個含まれているかを求めることはできなかった。そのため、フローサイトメータを用いて例えばCD4細胞のような目的の細胞の濃度を求める場合、既知濃度のビーズを含む標準試料を測定試料と等量で混合し、混合液中のビーズの数に対する目的の細胞数の比を求めることで、目的細胞の濃度を求めていた。
【0007】
しかしながら、標準試料を用いた測定は混合液の調製に多くの手作業が伴い、測定試料の調製が煩雑であった。また、手作業が伴うことによって測定精度のばらつきが生じるという課題があった。例えば、標準試料は検体と混合する前に撹拌する必要があるが、撹拌が不十分であると標準試料中にビーズの濃度勾配が生じ、そのまま検体と混合されると正確な濃度換算ができず、測定精度のばらつきの原因となりえる。
【0008】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであり、標準試料を用いなくても目的の細胞の濃度を求めることが可能なフローサイトメータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、フローセルと、
測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料を前記フローセルへ所定量供給する試料供給部と、
前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射する光源と、
前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力する検出部と、
前記信号に基づいて前記測定試料に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記所定量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得する解析部とを備えることを特徴とするフローサイトメータを提供する。
【0010】
また、異なる観点からこの発明は、測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料をフローセルへ所定量供給するステップと、
前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射するステップと、
前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力するステップと、
前記信号に基づいて前記検体に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記所定量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得するステップと、
を備える試料の測定方法を提供する。
【0011】
また、異なる観点からこの発明は、フローセルと、
測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料を吸引し、吸引した前記測定試料を前記フローセルへ供給する定量シリンジと、
前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射する光源と、
前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力する検出部と、
前記信号に基づいて前記測定試料に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記測定対象物の計数に使用された前記測定試料の量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得する解析部と、を備えることを特徴とするフローサイトメータを提供する。
【0012】
また、異なる観点からこの発明は、測定対象物を含む検体と前記測定対象物に結合する標識抗体とを混合して調製された測定試料を定量シリンジによってフローセルへ供給するステップと、
前記フローセルを通過する前記測定試料に光を照射するステップと、
前記光が照射された前記測定試料に含まれる測定対象物由来の光を検出して信号を出力するステップと、
前記信号に基づいて前記検体に含まれる測定対象物を計数し、計数された前記測定対象物の数と前記測定対象物の計数に使用された前記測定試料の量とに基づいて、前記測定対象物の濃度を取得するステップと、
を備える試料の測定方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
この発明によるフローサイトメータでは、フローセルに所定量の測定試料を供給し、計数された測定対象物の数と所定量とに基づいて測定対象物の濃度を決定する。測定対象物の濃度を決定するために標準試料を使用する必要がない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】この発明の実施形態に係るフローサイトメータの図である。
図2】この実施形態によるフローサイトメータの流体回路を示す模式図である。
図3】この実施形態によるフローサイトメータの測定光学系を示す説明図である。
図4】この実施形態によるフローサイトメータの測定部の構成例を示す説明図である。
図5】この実施形態によるフローサイトメータの解析部の構成例を示すブロック図である。
図6A図4に示す測定部によって得られる測定データの説明図である。
図6B図6Aに示す測定データの構造を説明するための模式図である。
図7図5に示す解析部の制御部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図8図7に対応して測定部の制御部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。
図9図7のステップS18の詳細を説明するフローチャートである。
図10図5の表示部に表示される結果画面の一例を示す説明図である。
図11】実施の形態2において、図7に対応して解析部の制御部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。(前半)
図12】実施の形態2において、図7に対応して解析部の制御部が実行する処理の一例を示すフローチャートである。(後半)
図13】実施の形態2において、非定量モードで解析部がユーザに提供する操作画面の一例を示す説明図である。
図14】実施の形態4において解析部の制御部が表示させる精度管理設定画面の例を示す説明図である。
図15図14と異なる態様の精度管理設定画面の例を示す説明図である。
図16】実施の形態5において解析部の制御部が表示させる管理チャート画面の例を示す説明図である。
図17】実施の形態5において各ユーザの検体分析装置をサーバーと接続して外部精度管理を行う態様を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を用いてこの発明をさらに詳述する。なお、以下の説明は、すべての点で例示であって、この発明を限定するものと解されるべきではない。
【0016】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施形態に係るフローサイトメータ―100の図である。図1に示すフローサイトメータ100は、試料容器Tに収容された測定試料中に分散した粒子の数、個々の粒子の大きさ、構造、および粒子の特性をフローサイトメトリー法によって光学的に測定する装置である。光学的に検出された情報に基づいて、粒子の数、大きさや性状を得ることができる。
【0017】
測定試料は、測定対象物を含む検体と、蛍光標識された抗体を含む抗体試薬とを混合して調製される。測定試料は、さらに検体中の赤血球を溶血させる溶血試薬を含んでもよい。調製された測定試料は、試料容器Tに収容され、ユーザによって、図1に一点鎖線で示すようにフローサイトメータ―100のラック12にセットされる。
【0018】
検体は、血液(全血)であり、より詳しくは末梢血である。検体は、患者から採取される。測定対象物は血球細胞であり、より詳しくは白血球であり、より詳しくはリンパ球である。リンパ球には、CD3、CD4、CD8、CD16、CD19、CD45、CD56などの様々な細胞表面抗原(CD抗原)が発現し、発現する抗原の種類によって異なるサブタイプに分類できることが知られている。例えば、リンパ球にはT細胞、ヘルパーT細胞、キラーT細胞、B細胞、NK細胞と呼ばれるサブセットが存在する。T細胞は、CD3が陽性の細胞である。ヘルパーT細胞は、CD3陽性かつCD4陽性かつCD8陰性の細胞である。キラーT細胞は、CD3陽性かつCD8陽性かつ(CD4陰性)の細胞である。B細胞は、CD19陽性かつCD16陰性かつCD56陰性の細胞である。NK細胞は、CD3陰性かつCD16陽性またはCD56陽性かつCD19陰性の細胞である。これらのリンパ球サブセットを総称してTBNKといい、リンパ球サブセットの個数を調べる検査をTBNK検査という。TBNK検査は、例えば白血病タイピングに使用される。フローサイトメータ―100は、病院や検査施設等に設置され、このような細胞分類検査に用いられる。
【0019】
抗体試薬は、細胞の表面抗原に結合する標識抗体を含む試薬である。例えば、上述のTBNK検査に使用する抗体試薬は、リンパ球を5分類してそれぞれの個数を求めるために、蛍光標識されたCD3抗体、CD16/56抗体、CD4抗体、CD19抗体、CD8抗体、CD45抗体の7種類の抗体を含む。なお、CD45抗体は、リンパ球を含む白血球に発現するCD45抗原に特異的に結合する標識抗体であり、蛍光情報と散乱光情報を組み合わせて検体中のリンパ球をゲーティングするために用いられる。抗体試薬と検体とが混合されると、それぞれのリンパ球の表面抗原に標識抗体が特異的に結合する。それぞれの標識抗体は、励起されることによってそれぞれ異なる波長の蛍光を発する蛍光物質を含んでいる。抗体が結合した細胞(陽性細胞)では、抗体に標識された蛍光物質が、後述する光源からの光によって励起されることにより、異なる組み合わせの蛍光を発する。
【0020】
蛍光標識は、FITC、PE、PEcy5、PEcy7、APC、APCcy7の6種類である。これらの6種類の蛍光標識を用いる場合、例えばCD16/56抗体は、CD16抗体とCD56抗体を同じ蛍光標識によって標識することができる。
【0021】
図1に示すフローサイトメータ100は、測定部10と、測定部10に接続された情報処理装置である解析部50とを備えている。フローサイトメータ100の測定部10は、複数の試料容器Tを支持するラック12を有する。ラック12は、引き出し式の収納部13に設けられている。図1に示すようにラック12に試料容器Tを載せた収納部13が、測定部10から引き出された位置から測定部10の内部へ挿入されると、後述する試料供給部240の吸引ノズル248(図2参照)がアクセス可能な位置にラック12が位置する。測定部10は、ラック12に支持された試料容器T中の測定試料を吸引し、所定量の測定試料をフローセル230(図2参照)へ供給し、フローサイトメトリー法によって測定試料中の細胞からの光学的情報を取得し、光学的情報に基づく測定データを解析部50に提供する。解析部50は、測定部10から提供された測定データを解析し、測定データに基づいて目的の細胞を計数し、計数した細胞の個数と、フローセル230へ供給された測定試料の所定量とに基づいて、細胞の濃度を算出する。「所定量に基づいて細胞の濃度を算出する」とは、フローセル230に供給される測定試料の所定量の濃度算出の基礎とすることだけでなく、所定量を基準とする量を濃度算出の基礎とすることも含む。所定量を基準とする量とは、例えば所定量に対して一定の割合の量、例えば30%の量である。解析部50は、所定量に基づいて細胞の濃度を算出するために、測定部10に対して送信した測定条件に含まれる所定量の値を用いてもよいし、測定部10がフローセル230に実際に供給した測定試料の量を取得してもよい。
【0022】
図2は、測定部10が備える流体回路の一例を示す模式図である。図2に示す流体回路20は、フローセル230と、フローセル230に測定試料を供給する試料供給部240と、試料供給部240から供給された測定試料をフローセル230に向けて噴射する吐出ノズル231と、シース液を貯留するシース液チャンバ242と、シース液チャンバ242に陽圧を与える圧力装置243と、廃液チャンバ245を備える。
【0023】
試料供給部240は、測定試料を吸引する吸引ノズル248と、定量シリンジ244を備える。試料供給部240は、さらに、吸引ノズル248とフローセル230と定量シリンジ244とを接続する流路として主流路249を備える。フローセル230と吸引ノズル248との間には主流路249を開閉するバルブ247が設けられている。
【0024】
定量シリンジ244は、筒状のシリンジ容器の内部を移動するピストン244pを備える。ピストン244pは、モータ246の駆動力によって吸引方向および吐出方向へ移動する。ここで、吸引方向は、ピストン244pを定量シリンジ244から引き出す方向であり、吐出方向はその逆方向であってピストン244pを定量シリンジ244に挿入する方向である。図2において、モータ246はステッピングモータである。ただし、軸の位置(回転角度)を制御できるものであればそれに限るものでなく、例えばエンコーダ付きの直流モータが適用されてもよい。
【0025】
試料供給部240は、定量シリンジ244によってフローセル230へ所定量の測定試料を供給することができる。所定量とは、定量シリンジ244が1回のストロークで送り出す量であり、定量シリンジ244のシリンジ容器の中空断面積とピストン244pの移動量の積で求められる。測定項目がTBNKである場合の所定量は250μLである。ピストン244pの移動量はモータ246の回転量に比例し、モータ246の回転量は印加するパルス数によって制御できる。よって、モータ246に一定のパルス数を印加することで、所定量の測定試料がフローセル230へ供給される。
【0026】
流体回路20は、前述のバルブ247の他にバルブ241、250、257を備える。モータ246、圧力装置243および各バルブは、図4を参照して後述するインタフェース部43を介して、同じく後述する制御部41に電気的に接続されている。
【0027】
流体回路20によって試料容器T内の測定試料をフローセル230へ供給するときの動作について述べる。以下の動作は、いずれも図4を参照して後述する制御部41によって各部が制御されることによって実現される。まず吸引ノズル248が降下して、先端が試料容器Tの底部まで挿入され、主流路249のバルブ247が開く。吸引前の状態では主流路249はシース液で満たされている。モータ246が所定の回転量だけ駆動されてピストン244pが所定量だけ吸引方向へ移動する。その動作で定量シリンジ244の内部に陰圧が生成され、生成された陰圧によってシリンジ容器にシース液が吸引され、吸引ノズル248の先端から測定試料が吸引される。吸引された測定試料は、バルブ247を通過し、吸引ノズル248と定量シリンジ244の間の主流路249を満たす。
【0028】
主流路249が測定試料で満たされた後、主流路249のバルブ247が閉じられる。続いて、シース液チャンバ242とフローセル230を結ぶ流路のバルブ250が開き、圧力装置243が作動する。圧力装置243の作動により生じた圧力によって、シース液チャンバ242に収容されたシース液がフローセル230へ送出される。フローセル230の内部に、シース液の層流が形成される。フローセル230を通過したシース液は廃液チャンバ245に排出される。シース液の層流が形成された状態で、モータ246が駆動され、定量シリンジ244のピストン244pが吐出方向へ一定の速度で移動する。ピストン244pの移動に伴って、主流路249を満たしている測定試料が吐出ノズル231から時間あたり一定の量で吐出されフローセル230へ供給される。このときフローセル230へ供給される測定試料の量は、定量シリンジ244のシリンジ容器の中空断面積とピストン244pの吐出方向への移動量の積で求められる。即ち、モータ246の回転量に基づいて主流路249からフローセル230へ供給される測定試料の液量を正確に定量できる。なお、一つの測定試料ごとにフローセルへ供給する量が一定である限り、フローセルへ供給する測定試料の時間当たりの量は一定でなく、可変でもよい。時間あたりの供給量に関わらず、測定試料の供給を開始してから供給が終了するまでのピストン244pの移動量に基づいて測定試料の量を定量することが可能である。
【0029】
吐出ノズル231から吐出した測定試料は、周囲を流れるシース液によって細く絞られてフローセル230を通過する。そして、シース液と共に廃液チャンバ245へ排出される。シース液によって細く絞られた状態の測定試料に対して、後述する測定光学系30の光源から光が照射され、測定試料に含まれる粒子の光学測定が行われる。ピストン244pが吐出方向へ所定量だけ移動し終えると、フローセル230への測定試料の供給が終了する。
【0030】
図3は、測定部10が備える測定光学系30の構成例を示す図である。図3は、測定光学系30の平面視であり、フローセル230はその断面を示している。図3において、測定試料は紙面に対して垂直上方に向かってフローセル230内を流れる。
【0031】
測定光学系30は、光源20a、20b、20cと、検出器30a~30pと、を備える。光源20a~20cは、フローセル230を通過する測定試料に光を照射する。検出器30a~30pは、試料からの光を検出して電気信号に変換された検出信号を出力する。検出器30aは前方散乱光を検出する検出器であり、検出器30bは側方散乱光を検出する検出器である。検出器30aおよび検出器30bはフォトダイオードである。検出器30c、30d、30e、30f、30g、30h、30i、30j、30k、30l、30m、30n、30oおよび30pは、蛍光を検出する検出器である。検出器30c~30pは、光電子増倍管(PMT)である。
【0032】
光源20a~20cは、互いに異なる波長の光を照射する。光源20aは、約488nmに中心波長を有する光を照射する。光源20bは、約642nmに中心波長を有する光を照射する。光源20cは、約405nmに中心波長を有する光を照射する。光源20aから照射された光は、コリメートレンズ301a、ダイクロイックミラー303a、303b、集光レンズ302を透過してフローセル230に照射される。光源20bから照射された光は、コリメートレンズ301bを透過し、ダイクロイックミラー303aに反射され、ダイクロイックミラー303bを透過し、集光レンズ302を透過してフローセル230に照射される。光源20cから照射された光は、コリメートレンズ301cを透過し、ダイクロイックミラー303bに反射され、集光レンズ302を透過してフローセル230に照射される。
【0033】
フローセル230を通過する試料に由来する光の前方散乱光は、集光レンズ304a、ビームストッパー305a、ピンホール板305b、バンドパスフィルタ307aを透過して、検出器30aに入射する。
【0034】
フローセル230を通過する試料に含まれる粒子に由来する光の側方散乱光および蛍光は、集光レンズ304bにより集光される。検出器30bに入射する側方散乱光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308aおよび308bを透過し、ダイクロイックミラー308cに反射され、ダイクロイックミラー308d、308e、バンドパスフィルタ307bを透過して、検出器30bに入射する。
【0035】
検出器30c~30pの各々に入射する蛍光は、ダイクロイックミラー308a~308nにより互いに異なる波長帯に分けられる。検出器30cに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308aおよび308bを透過し、ダイクロイックミラー308cに反射され、ダイクロイックミラー308dを透過し、ダイクロイックミラー308eに反射され、バンドパスフィルタ307cを透過して、検出器30cに入射する。検出器30dに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308aおよび308bを透過し、ダイクロイックミラー308cに反射され、ダイクロイックミラー308dに反射され、バンドパスフィルタ307dを透過して、検出器30dに入射する。
【0036】
検出器30eに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308a、308b、308cおよび308fを透過し、バンドパスフィルタ307eを透過して、検出器30eに入射する。検出器30fに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308a、308bおよび308cを透過し、ダイクロイックミラー308fに反射され、ダイクロイックミラー308gに反射され、バンドパスフィルタ307fを透過して、検出器30fに入射する。
【0037】
検出器30gに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308a、308bおよび308cを透過し、ダイクロイックミラー308fに反射され、ダイクロイックミラー308g、バンドパスフィルタ307gを透過して、検出器30gに入射する。検出器30hに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308aに反射され、ダイクロイックミラー308bを透過し、ダイクロイックミラー308hに反射され、バンドパスフィルタ307hを透過して、検出器30hに入射する。
【0038】
検出器30iに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308aに反射され、ダイクロイックミラー308bおよび308hを透過し、ダイクロイックミラー308iに反射され、バンドパスフィルタ307iを透過して、検出器30iに入射する。検出器30jに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308aに反射され、ダイクロイックミラー308b、308hおよび308iを透過し、バンドパスフィルタ307jを透過して、検出器30jに入射する。
【0039】
検出器30kに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308bに反射され、ダイクロイックミラー308aを透過し、ダイクロイックミラー308jに反射され、ダイクロイックミラー308k、308lおよびバンドパスフィルタ307kを透過して、検出器30kに入射する。検出器30lに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308bに反射され、ダイクロイックミラー308aを透過し、ダイクロイックミラー308jに反射され、ダイクロイックミラー308kを透過し、ダイクロイックミラー308lに反射され、バンドパスフィルタ307lを透過して、検出器30lに入射する。
【0040】
検出器30mに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308bに反射され、ダイクロイックミラー308aを透過し、ダイクロイックミラー308jに反射され、ダイクロイックミラー308kに反射され、バンドパスフィルタ307mを透過して、検出器30mに入射する。検出器30nに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308bに反射され、ダイクロイックミラー308aを透過し、ダイクロイックミラー308j、308mおよびバンドパスフィルタ307nを透過して、検出器30nに入射する。
【0041】
検出器30oに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308bに反射され、ダイクロイックミラー308aを透過し、ダイクロイックミラー308jを透過し、ダイクロイックミラー308mに反射され、ダイクロイックミラー308nに反射され、バンドパスフィルタ307oを透過して、検出器30oに入射する。検出器30pに入射する蛍光は、集光レンズ304bからダイクロイックミラー308bに反射され、ダイクロイックミラー308aを透過し、ダイクロイックミラー308jを透過し、ダイクロイックミラー308mに反射され、ダイクロイックミラー308nを透過し、バンドパスフィルタ307pを透過して、検出器30pに入射する。
【0042】
各検出器30a~30pは、受光した光の強さに応じた検出信号を出力する。出力された検出信号は、後述の信号処理部40に送られ、検出信号から光強度などのパラメータが取得される。
【0043】
図4は、測定部10の構成を模式的に示すブロック図である。測定部10は、図2に示した流体回路20と、図3に示した測定光学系30と、信号処理部40と、制御部41と、記憶部42と、インタフェース部43と、インタフェース部44とを備える。
【0044】
信号処理部40は、図3に示す測定光学系30の検出器30a~30pから出力された信号を処理する回路である。信号処理部40は、測定光学系30の各検出器30a~30pが出力するアナログの検出信号を増幅する増幅部401と、増幅された検出信号をデジタル信号に変換するA/D変換部402と、A/D変換されたデジタル信号から個々の細胞の検出信号に基づいて特徴パラメータを抽出する波形処理部403とを備える。個々の細胞から抽出された特徴パラメータは、測定データとして記憶部42に格納される。
【0045】
制御部41はCPUである。制御部41は、記憶部42に記憶されたプログラムを実行することにより、流体回路20、測定光学系30、信号処理部40を制御する。なお、制御部41はプログラマブルFPGA又はASICであってもよい。制御部41は、インタフェース部44を介して解析部50と通信可能に接続されており、記憶部42に格納された測定データを解析部50に送信することができる。インタフェース部43は駆動回路として機能し、制御部41からの制御信号に応じて流体回路20の各部、例えば圧力装置243、モータ246、バルブ241、247、250、257や、測定光学系30の光源20a~20cを動作させる。
【0046】
図5は、解析部50の構成例を示すブロック図である。解析部50は、例えば、パーソナルコンピュータによって構成される。解析部50は、制御部51、メインメモリ52、バス53、記憶部54、インタフェース部55、表示部56および操作部57を備える。制御部51は、例えばCPUであり、バス53を介してメインメモリ52、記憶部54およびインタフェース部55と接続されている。制御部51は、インタフェース部55を介して測定部10と電気的に接続されている。測定部10との接続に適用されるインタフェースの一例は、USB(Universal Serial Bus)インタフェースである。制御部51が、記憶部54に予め格納された処理プログラムをメインメモリ52にロードして実行することで、制御部51が解析部50の各部を制御する。
【0047】
記憶部54は、制御部51が実行する解析プログラムや処理の実行に用いるデータを格納する。解析プログラムは、アプリケーションプログラムとして制御部51が実行することにより解析部50としての処理を行うプログラムを含む。記憶部54は、さらに測定部10に測定項目に応じた測定を実行させるための測定条件を記憶している。記憶部54は、さらに、測定部10から送信された測定データと、解析部50が測定データを用いて解析を行った結果のデータ(解析データともいう)を格納する。操作部57は、例えばキーボード、マウス、タッチパネルなどによって構成され、ユーザの操作に応じた信号を制御部51に入力する。表示部56は、例えば液晶ディスプレイであり、解析部50による解析データを表示する。
【0048】
図6Aは、測定部10によって得られる測定データの説明図である。図6Aでは、光L1が照射された細胞Cからの光学的情報を検出器が検出する様子を模式的に示している。代表例として検出器30aが検出する前方散乱光(FSC)の検出信号の波形を模式的に示している。他の検出器30b~30pが検出する側方散乱光および各波長の側方蛍光の検出信号についても同様である。図6Aに示すように、細胞Cがフローセル230を通過すると、細胞Cに照射される光L1の位置が経時的に変化することにより、検出器30aによって受光される前方散乱光の強度も経時的に変化し、1つの細胞に対応して1つのパルスを持つ波形状の検出信号が検出器30aから出力される。
【0049】
増幅部401は、検出器30aからの検出信号を増幅してA/D変換部402に入力する。A/D変換部402は、FSCの検出信号(電圧)が予め定められた閾値を超えると、細胞に対応する部分の波形信号に対して、所定のサンプリング期間にわたって所定の周期でデジタル信号に変換する。波形処理部403は、変換されたデジタル信号から個々の粒子の形態的特徴を表す特徴パラメータを算出する。特徴パラメータは、例えば、パルスのピーク高さ(強度ともいう)、パルス幅、パルス面積である。それぞれの特徴パラメータの算出方法は、例えば米国特許10261072に開示されている。上記のサンプリング期間では、同様の処理が他の検出器30b~30pからの側方散乱光および蛍光の検出信号についても行われる。すなわち、FSCの検出信号が閾値を超えてから所定のサンプリング期間が経過するまで、他の検出器30b~30pからの検出信号についてもA/D変換部402によるデジタル信号への変換と特徴パラメータの算出が行われる。1つの細胞に対応する検出信号FSC、SSC、FL1~FL14の特徴パラメータは、1つのデータセットとして対応づけられ、測定データとして記憶部42に記憶される。
【0050】
図6Bは、測定データのデータ構造を説明するための模式図である。図6Bでは、測定試料に含まれる複数の細胞の特徴パラメータのデータを表形式で示している。測定データは、個々の細胞に対応するデータセットからなり、図6Bでは一つの細胞のデータセットが1行に相当する。各行の先頭にはEvent Noが割り当てられ、フローセル230を通過した順に、1、2、3・・・nの値が入る。各列には、各細胞の特徴パラメータの値が格納される。例えば、「FSC_H」の列には、前方散乱光(FSC)の検出信号のピーク高さが格納される。「FSC_A」の列には、前方散乱光(FSC)の検出信号のパルス面積が格納される。図6Bにおいて、FSC、SSC、FL1~FL14は、検出信号の種類を表し、その後のアンダーバーに続くアルファベット(HまたはA)は特徴パラメータの種類を表す。Hはピーク高さ(Height)を表し、Aは面積(Area)を表す。測定試料に含まれるn個の細胞について作成されたデータセットは、1つの測定データとして、測定部10から解析部50へ送信される。
【0051】
≪フローサイトメータ100の動作≫
図7は、フローサイトメータ100の動作を示すフローチャートである。解析部50の制御部51は、実行すべき試料測定に係る測定項目および測定開始の指示を、操作部57を介してユーザから受け付ける(ステップS50)。測定項目は、例えばTBNKパネルである。測定項目および測定開始の指示を受け付けたら(ステップS50のYes)、制御部51は、測定部10の制御部41へ、測定条件を送り測定の開始を指示する(ステップS51)。
【0052】
測定部10の制御部41は、測定条件および測定開始の指示を受信したか否かを判定する(ステップS10)。受信している場合(ステップS10のYes)、制御部41は受信した測定条件を記憶部42に格納する(ステップS12)。測定条件を記憶部42に格納したら、制御部41は、試料容器Tから測定試料を吸引するよう流体回路20を制御する(ステップS15)。試料容器Tからの吸引工程は図2を参照して説明したとおりである。制御部41は、ピストン244pを吸引方向へ所定量移動させることで試料容器Tに収容された測定試料を所定量吸引する。吸引する測定試料の量は、例えば250μLである。測定試料の吸引を終えたら、制御部41は、吸引された測定試料をフローセル230へ供給するよう流体回路20を制御し、フローセル230を流れる測定試料に対して光学測定を行う測定光学系30を制御する(ステップS18)。
【0053】
ステップS18の詳細について、図8を参照して説明する。ステップS181において、制御部41は、圧力装置243を制御してフローセル230へのシース液の供給を開始する。制御部41は、光源20a~20cからフローセル230への照射を開始させる。
【0054】
ステップS182において、制御部41は、ピストン244pを所定の速度で吐出方向へ移動させることで、測定試料をフローセル230へ供給する。なお、この段階では光学測定は開始していない。フローセルへの供給を開始すると、制御部41は、測定試料のうち最初にフローセル230へ供給される部分(第1部分)の供給開始が完了したかを判定する(ステップS183)。第1部分は、測定試料の最初の10%(250μL中の25μL)である。第1部分の供給が完了したかどうかは、モータ246の回転量が所定量(25μLに対応する回転量)に達したかどうかに基づいて判定される。第1部分の供給が完了していない場合(ステップS183のNo)、制御部41は処理をステップ182に戻し、完了するまで判定を繰り返す。第1部分の供給が完了した場合、制御部41は、光学測定を開始する(ステップS184)。
【0055】
光学測定の開始は、照射された測定試料からの光(前方散乱光、側方散乱光、蛍光)の検出器30a~30pにおける受光量に応じた検出信号に基づいて測定データ(図6B)を構築する処理を開始することである。制御部41は、ステップS184において、検出器30a~30pによる検出信号の出力と、検出信号に基づく測定データの構築を開始する。光学測定の開始タイミングを測定試料の供給のタイミングから遅らせる理由は、第1部分、すなわち測定試料のうちの吐出ノズル231の近傍の部分はシース液と混ざって希釈されている可能性があるため、先頭部分を濃度算出の対象から除外することで、測定対象物の正確な濃度を測定できるようにするためである。なお、後述するように、測定試料のうち最後にフローセル230へ供給される部分(第2部分)もまた濃度算出の対象から除外される。これは第2部分もまたシース液によって希釈されている可能性があるためである。つまり、測定試料の光学測定は、最初にフローセル230に供給される第1部分と最後にフローセル230に供給される第2部分とを除いた、シース液によって希釈されていない中間部分に対して行われる。第2部分は測定試料中の最後の60%(250μL中の150μL)であり、中間部分は吸引した測定試料の全体から第1部分と第2部分を除いた残りの部分、つまり測定試料の30%(250μL中の75μL)である。ここでは検出器30a~30pによる検出信号の出力と測定データの構築を同時に開始する例を説明したが、検出器30a~30pによる検出信号の出力と信号処理部40による特徴パラメータの抽出を先に開始しておき、ステップS184において光学測定を開始するまで記憶部42へのデータの記憶を行わないことで光学測定の開始タイミングを制御してもよい。
【0056】
光学測定中は、測定試料中の細胞がフローセル230を通過するたびに図6Bに示す測定データの行が追加される。測定データは記憶部42に格納される。制御部41は、ステップS184において、中間部分の供給が完了したかどうかを判定する。中間部分の供給が完了したかどうかは、モータ246の回転量が所定量、すなわち第1部分の供給完了時の回転量にさらに75μLに対応する回転量を加えた量、に達したかどうかに基づいて判定される。制御部41は、中間部分の供給が完了していない場合(ステップS185のNo)、処理をステップ185に戻し、中間部分の供給が完了するまで測定試料の光学測定を継続する。中間部分の供給が完了した場合(ステップS185のYes)、制御部41は、ステップS186に処理を進める。
【0057】
ステップS186において、制御部41は、光学測定を停止する。より詳しくは、制御部41は、検出器30a~30pによる検出信号の出力と、検出信号に基づく測定データの構築を停止する。光学測定後もフローセル230への測定試料の供給は継続する。ステップS187において、測定試料の残りの部分、すなわち第2部分のフローセル230への供給が完了すると、制御部41はピストン244pを停止し、測定試料の供給が終了する。ステップS187の処理が終了すると、制御部41は、図7のステップS21へ処理を進める。
【0058】
図7に戻って、制御部41は、記憶部42に格納された測定データを解析部50の制御部51に送信する(ステップS21)。
【0059】
制御部51から測定データを受信すると(ステップS61)、制御部51は、取得した測定データの解析を行う。測定データの解析について、図9を参照し、TBNKパネルを測定する場合を例にとって説明する。
【0060】
まず、測定データに含まれる細胞が、側方散乱光強度面積(SSC_A)と第1蛍光面積に基づいてゲーティングされる(図9(A))。第1蛍光面積は、CD45に対応する蛍光である。この処理によって、白血球数が求められる。白血球のうちリンパ球は他の白血球に比べて側方散乱光が小さいため、白血球のゲートのうち側方散乱光の小さいエリアに集団を形成する。このリンパ球の集団をゲーティングすることによって、リンパ球数が求められる。
【0061】
次に、ゲーティングされたリンパ球のうち、第2蛍光面積に基づいてCD3陽性細胞とCD3陰性細胞が分類され、それぞれの細胞が計数される(図9(B))。
【0062】
次に、CD3陰性細胞が第5蛍光面積と第6蛍光面積に基づいてゲーティングされる(図9(C))。第5蛍光面積はCD16/56に対応する蛍光であり、第6蛍光面積はCD19に対応する蛍光である。この処理によって、CD3陰性細胞が、CD3-CD16/56+CD19-の細胞集団(NK細胞)と、CD3-CD16/56-CD19+の細胞集団(B細胞)とに分類され、それぞれの細胞集団が計数される。
【0063】
次に、CD3陽性細胞が第3蛍光面積と第4蛍光面積に基づいてゲーティングされる(図9(D))。第3蛍光面積はCD8に対応する蛍光であり、第4蛍光面積はCD4に対応する蛍光である。この処理によって、CD3陽性細胞が、CD3+CD4+CD8-の細胞集団(ヘルパーT細胞)と、CD3+CD4-CD8+の細胞集団(キラーT細胞)とに分類され、それぞれの細胞集団が計数される。
【0064】
各細胞の個数が求められると、制御部51は、フローセル230に供給された測定試料のうち細胞の計数に使用された測定試料の量P、すなわち中間部分の量と、細胞の個数Qと、測定試料の希釈倍率Dとに基づいて、検体中の細胞の濃度Cを算出する。検体中の細胞濃度は、次の式(1)に基づいて求められる。
【0065】
式(1)・・・ 検体中の細胞濃度C(個数/μL) = 細胞個数Q(個)/細胞の計数に使用された測定試料の量P(μL)×希釈倍率D
【0066】
希釈倍率Dは、検体(全血)に対する測定試料の希釈倍率である。上述したように、測定試料は、全血に抗体試薬と溶血試薬とを混合することによって調製される。測定試料中の細胞個数Qと、細胞の計数に使用された測定試料の量Pの積、すなわち測定試料中の細胞濃度に希釈倍率Dを乗じることで、検体中の細胞濃度を求めることができる。希釈倍率Dは測定項目に対応付けて予め記憶部54に記憶されている。制御部51は、測定指示された項目に応じて記憶部54に記憶されている希釈倍率Dを読み出して、上述した濃度算出に用いる。
【0067】
細胞の計数に使用される測定試料の量Pは、記憶部54に記憶され、ステップS51において制御部51が測定部10に送信する測定条件に含まれている。上述のとおり測定条件は測定項目に応じて予め決まっている。制御部51は、測定部10に送信した測定条件に含まれる測定試料の量Pを読み出して、上述した濃度算出に用いる。
【0068】
制御部51は、ステップS71におけるデータの解析を終えると、ステップS72において測定結果を表示部56に表示する。
【0069】
図10は、測定結果を表示する結果画面500を示す。結果画面500の結果表示ウィンドウ505は、測定対象物の濃度を表示する結果領域511、リサーチパラメータ領域512および描画領域513~516を含む。
【0070】
描画領域513には、測定試料の白血球の中からリンパ球を抽出するスキャッタグラムが表示される。描画領域514には、そのリンパ球のうちT細胞(CD3)について陰性(CD3-)と陽性(CD3+)を判定するスキャッタグラムが表示される。描画領域515には、T細胞のうちヘルパーT細胞(CD4)とキラーT細胞(CD8)の2パラメータについて、それぞれが陽性または陰性の組み合わせからなる合計4つの種類に対象を分類するスキャッタグラムが表示される。描画領域516には、B細胞(CD19)とNK細胞(CD16/56)の2パラメータについて、それぞれが陰性または陽性の組み合わせからなる合計4つの種類に対象を分類するスキャッタグラムが表示される。
【0071】
結果領域511には、描画領域514~516に示すスキャッタグラムに対応して分類されたリンパ球サブセットの濃度(個数/μL)が表示される。具体的には、CD3+の濃度、CD3+CD4+CD8-の濃度、CD3+CD4-CD8+の濃度、CD3-CD16/56+CD19-の濃度およびCD3-CD16/56-CD19+の濃度が表示されている。ここで示す濃度は、上述のとおり検体中の濃度、すなわち全血中の絶対濃度である。ユーザは、結果領域511に表示された濃度を確認することで、検体中の細胞濃度を知ることができる。
【0072】
リサーチパラメータ領域512には、白血球数(CD45陽性細胞)の濃度、リンパ球の濃度、CD3-の濃度、CD3+CD4+CD8-の濃度など、リサーチ項目に関する測定結果が表示される。
【0073】
以上説明したように、実施形態1のフローサイトメータ100は、定量シリンジ244を備え、ピストン244pの移動量に基づいてフローセル230に供給した測定試料の量を正確に測ることができる。フローサイトメータ100は、細胞の計数に使用した測定試料の量Pと、目的細胞の個数Qと、希釈倍率Dとに基づいて、検体中の目的細胞の濃度Cを求めることができる。したがって、フローサイトメータ100によれば、ユーザは標準試料を用いることなく検体中の細胞の濃度を調べることができる。
【0074】
なお、実施形態1のフローサイトメータ100では、細胞の計数に使用した測定試料の量Pと目的細胞の個数Qと希釈倍率Dとに基づいて検体中の目的細胞の濃度を求めたが、希釈倍率Dを用いなくてもよい。この場合、細胞の計数に使用した量Pと目的細胞の個数Qとに基づいて、測定試料中の目的細胞の濃度C0を求めてもよい(この場合、C=C0×Dの関係になる)。あるいは、検体中の目的細胞の濃度Cと、測定試料中の目的細胞の濃度C0の両方を求め、いずれか一方を結果画面500において選択的に表示してもよいし、両方を表示してもよい。
【0075】
(実施の形態2)
実施の形態1では、測定試料を定量してフローセルに供給し、測定を行って測定対象物の濃度を求めるフローサイトメータについて述べた。実施の形態2によるフローサイトメータでは、測定試料を定量する定量モードと、測定試料を定量しない非定量モードを備える。実施形態2によるフローサイトメータのハードウェア構成は、実施形態1と同様である。図11および図12は、実施の形態1の図7に対応して、この実施の形態で制御部51が実行する処理の一例を示すフローチャートである。図11および図12において、図7に対応する処理には同一の符号を付している。同一の処理については説明を簡略化または省略する。
【0076】
図11に示すように、制御部51は、測定項目のユーザによる設定および測定開始の指示を操作部57を介して受け付けると(ステップS50)、制御部51は、設定された測定項目が、定量モードで測定を行うべき項目か、あるいは非定量モードで測定を行うべき項目かを判定する(ステップS80)。定量モードで測定すべき項目であるか、非定量モードで測定すべき項目であるかは測定項目ごとに予め設定されており、制御部51は、ユーザによって設定された測定項目に応じて定量モードか非定量モードかを判定する。
【0077】
定量モードで測定を行うと判定した場合(ステップS80のYes)、制御部51は、制御部41へ設定された測定条件を送り、測定のモードが定量モードである旨を知らせ、測定の開始を指示する(ステップS81)。一方、非定量モードで測定を行うと判定した場合(ステップS80のNo)、制御部51は、制御部41へ設定された測定条件を送り、測定のモードが非定量モードである旨を知らせ、測定の開始を指示する(ステップS82)。
【0078】
図12のステップS60で、測定部10から測定データを取得すると、制御部51は、測定が定量モードで行われたものか否かに応じて、即ち図11のステップS80の判定結果に整合して(ステップS83)、取得した測定データの解析と測定結果の出力を行う。定量モードで測定を行った場合(ステップS83のYes)、図7のステップS71と同様に測定対象物の濃度の算出を含む解析処理を実行し、図7のステップS72と同様に測定対象物の濃度を含む、測定結果を表示部56に表示させて測定の処理を終了する。一方、非定量モードで測定を行った場合(ステップS83のNo)、取得した測定データから測定対象物の測定結果を得るための解析処理を実行し(ステップS84)、得られた測定結果を表示部56に表示させて(ステップS85)測定の処理を終了する。非定量モードでは、測定対象物の計数値として、測定対象試料から計数された全ての粒子のうち、ゲーティングによって特定された粒子の割合が求められる。
【0079】
この実施形態において制御部51は、定量モードの場合、実施の形態1の図10と同様の結果表示ウィンドウ505を結果画面500に表示させる。非定量モードの場合、結果表示ウィンドウ505に測定対象物の濃度を表示させない。図13は、非定量モードにおいて、制御部51が表示部56に表示させる操作画面の一例を示す説明図である。図13に示すように、制御部51は結果画面500の結果表示ウィンドウ505に、測定対象物の濃度を表示させずに、測定対象物の計数値やスキャッタグラム等を表示させる。測定対象物の計数値は、計数値領域518に表示される。計数値領域518は、測定試料中の検出された粒子数(#Events)、粒子数のうちゲーティングによって特定された粒子数(%Gated)を含む。スキャッタグラムにはゲーティングに使用された領域519が重ねて表示される。
【0080】
上述の構成において、制御部51は、選択された測定項目に係る測定を定量モードで開始したものの、実際に測定された測定対象物の数が推奨カウント数に満たない場合、測定を非定量モードに切り替えてもよい。即ち、測定対象物の濃度に代えて、非定量モードとしての測定結果を結果表示ウィンドウ505に表示させてもよい。あるいは、試料容器Tにまだ測定試料が残っている場合には、制御部51は追加的に吸引工程、供給工程および測定工程を実行するようにしてもよい。それらの工程を追加的に実行することで吸引ノズル248から残りの測定試料を吸引し、追加的に吸引した測定試料について測定を実行し、通常の測定と追加的に行った測定に係る情報を統合した測定結果を結果表示ウィンドウ505に表示させてもよい。言い換えると、通常は吸引工程と供給工程をあわせて1往復するピストン244pを複数回往復させて吸引と吐出を繰り返し、1回の吸引、吐出で推奨カウント数に達しない測定対象物の不足を複数回の吸引、吐出で補う。追加的な吸引工程、供給工程および測定工程の実行によって、定量モードでの測定を維持することができる。測定を最初からやり直す必要がなく、測定に要する手間、時間および測定試料の無駄を抑制できる。
【0081】
(実施の形態3)
実施の形態2で、非定量モードにおいて制御部41が実行する処理は定量モードと同様であると述べた。制御部41は、定量モードと非定量モードで異なる処理を行ってもよい。実施の形態1で述べたように、制御部41は、供給工程および測定工程の実行後、洗浄工程を実行して次の測定に備える。洗浄工程の実行によって主流路249の定量シリンジ244から吐出ノズル231に至る部分はシース液によって満たされる。洗浄工程の後、次の測定に係る吸引工程で試料容器Tから吸引された測定試料とシース液の境界部分に低濃度部分が存在する。また、その後の供給工程で、吐出ノズル231から流れる測定試料の先端部とシース液との境界部分に低濃度部分が存在する。測定試料の定量は、測定中のピストン244pの移動量とシリンジ容器の中空断面積との積で求められ、濃度の算出に用いられるところ(式(1)参照)、それは測定試料が一定の濃度であることを前提としている。
【0082】
定量モードにおいて正確な定量を行うために、制御部41は吐出ノズル231から流れる先端側の低濃度部がフローセル230を流れた後に測定を開始すると述べた。また、前述の吸引工程で生じる低濃度部(フローセル230への吐出時は後端側)の低濃度部がフローセル230を流れる前に測定を終了すると述べた。そのようにして、制御部41は、安定した濃度の領域で測定を行うように測定を行うことによって、測定対象物の濃度を正確に算出できるようにする。一方、測定試料の定量を行う必要がない非定量モードでは、先端側の濃度部および後端側の低濃度部を測定の対象に含めることで、それらを含めない場合に比べてより多くの測定試料を測定し、より多くの測定対象物を測定できるようにする。
【0083】
この実施形態によれば、定量モードの場合、制御部41は測定対象物の濃度に係る測定誤差をより少なくするようにフローセル230を流れる測定試料の濃度が安定した領域で測定を行うようにする。一方、非定量モードの場合、制御部41は測定に用いられない測定試料をより少なくするように測定の開始および終了のタイミングを制御する。
【0084】
(実施の形態4)
この実施形態において、制御部51は、精度管理モードを備えていてもよい。精度管理モードにおいて制御部51は、精度管理試料の測定を行う場合に精度管理用のターゲット値、上限値、下限値の設定を受け付ける画面を提供してもよい。図14は、測定対象物毎に、精度管理のターゲット値、上限値、下限値を設定する操作画面としての精度管理設定画面の例である。図14に示す精度管理設定画面540は、精度管理試料のロット番号を入力するロット番号入力欄541を含む。さらに、測定対象物(測定項目)、その測定対象物に対するターゲット値、上限値および下限値を設定する基準設定欄542を含む。ロット番号、ターゲット値、上限値および下限値は、例えば精度管理試料の容器、パッケージあるいは添付文書に記載された値をユーザが入力することにより設定される。あるいは、それらに記載された1次元コードや2次元コードを解析部50に接続されたリーダーで読み取ることによって設定されてもよい。
【0085】
図15は、図14と異なる態様の精度管理設定画面を示している。図15に示す精度管理設定画面550で、制御部51は、ターゲット値、上限値、下限値を設定すべき測定対象物(測定項目)を、定量モードの測定を行うものだけに絞り込み、絞り込まれた測定対象物を選択肢として表示させる。そして、表示された選択肢を選択するユーザの操作を受け付ける。選択肢は、例えば図15に示すように、プルダウンメニュー551の形式で提供されてもよい。この実施形態において、制御部51は、ユーザからの指示を受け付けて精度管理モードの測定を行う場合、精度管理試料に含まれる成分(測定対象物)の濃度を測定結果として出力する。それと共に、図14に示す画面で設定されたターゲット値、上限値、下限値との関係を出力する。
【0086】
図16は、精度管理モードにおいて制御部51が測定結果を履歴と共に表示させる管理チャート画面の一例を示す説明図である。図16に示す管理チャート画面560は、精度管理試料を用いて行った測定結果である測定対象物の濃度を、過去に精度管理試料を用いて行った濃度、即ち同一測定項目の履歴と共に表示させる。図16に示すグラフの縦軸は測定対象物の濃度であり、横軸は測定日である。最も右側の測定点561は今回の測定結果の濃度を示している。その他の点は、それまでに行った同一測定項目の測定結果を示している。そして、図14の基準設定欄542で設定されたターゲット値、上限値および下限値を併せて表示させている。図16の管理チャート画面は、測定項目がリンパ球(Lymp)の表示例であるが、他の測定項目、例えば図14の例に示すT cell、B cell、NK cellといった測定項目についても同様の管理チャート画面を制御部51が表示させる。
【0087】
ターゲット値、上限値、下限値に加えて、精度管理試料の測定結果が、それまでに行った精度管理試料の測定履歴の平均値±(標準偏差×2)の範囲に収まっているかを内部精度管理の指標にすることがある。場合によってはより広い範囲、例えば平均値±(標準偏差×3)の範囲を指標にすることもある。制御部51は、測定履歴の平均値±(標準偏差×2)の指標を上述のターゲット値、上限値、下限値に重畳して、あるいは切り替え可能に管理チャート画面に表示させてもよい。あるいは、任意の数をNとして、測定履歴の平均値±(標準偏差×N)の指標を管理チャート画面に表示させてもよく、その際のNはユーザ設定可能としてもよい。
【0088】
精度管理を行うユーザは、定期的に精度管理試料を用いて上述の精度管理用の測定を行う。そして、図16に示す管理チャート画面を参照して測定結果の履歴が上限および下限にほぼ収まるように検体分析装置を管理する。測定結果が上下限の範囲から逸脱することが多くなった場合、その要因を分析して必要な対応をとる。例えば、検体分析装置のメインテナンスを行ったり、測定に係る種々の設定値や測定方法の妥当性を検証したりすることで、前述の要因を見出し必要な対応をとる。
【0089】
以上で述べた精度管理試料の測定は、内部精度管理だけでなく、外部精度管理の場合にも適用され得る。外部精度管理に参加する各ユーザは、まず内部精度管理を行って高い精度の測定結果を得るように検体分析装置の運用管理をすることで、各ユーザの測定結果の平均値がより真値に近いものになる。外部精度管理を行うために、例えば図17に示すような構成態様が考えられる。異なるユーザの病院や検査施設等に設置された多数の検体分析装置、例えば図17に示すフローサイトメータ572~575を、ネットワーク576を介して外部精度管理サーバー571と接続する。各ユーザにおいて同じ種類、好ましくは同じロットの精度管理試料を用いて測定を行い、それらの測定結果を管理センターの外部精度管理サーバー571に集約する。管理センターは、集約された情報を各ユーザに提供し各ユーザは管理センターからの情報に基づき、そのユーザが使用する検体分析装置の外部精度管理を行なう。
【0090】
詳細には、外部精度管理サーバー571は、例えば、各ユーザの検体分析装置で同じロットの精度管理試料が測定された測定結果に基づいて、測定対象物(測定項目)毎に、測定された濃度の平均値、CV値を算出する。そして、算出された結果を各ユーザの検体分析装置に送信する。各ユーザは、外部精度管理サーバー571から受信した情報を参照して、それぞれのユーザが使用する検体分析装置の測定結果が、外部精度管理サーバー571から提供された情報と、どの程度の相違があるかを認識する。必要に応じて、外部精度管理サーバー571から提供された情報との誤差の要因を分析して必要な対応をとることができる。以上、検体分析装置の精度管理を行うユーザを支援する機能について述べた。
【0091】
この発明の態様には、上述した複数の態様のうちの何れかを組み合わせたものも含まれる。前述した実施の形態の他にも、この発明について種々の変形例があり得る。それらの変形例は、この発明の範囲に属さないと解されるべきではない。この発明には、特許請求の範囲と均等の意味および前記変形例のすべてが含まれるべきである。
【符号の説明】
【0092】
10:測定部、 12:ラック、 13:収納部、 20:流体回路、 20a,20b,20c:光源、 30:測定光学系、 30a,30b,30c,30d,30e,30f,30g,30h,30i,30j,30k,30l,30n,30o,30p:検出器、 40:信号処理部、 41,51:制御部、 42,54:記憶部、 43,44:インタフェース部、 50:解析部、 52:メインメモリ、 53:バス、 55:インタフェース部、 56:表示部、 57:操作部
100,572~575:フローサイトメータ
230:フローセル、 231:吐出ノズル、 240:試料供給部、 241,247,250:バルブ、 242:シース液チャンバ、 243:圧力装置、 244:定量シリンジ、 244p:ピストン、 245:廃液チャンバ、 246:モータ、 248:吸引ノズル、 249:主流路
301a,301b,301c:コリメートレンズ、 302,304a,304b:集光レンズ、 303a,303b,308a,308b,308c,308d,308e,308f,308g,308h,308i,308j,308k,308l,308m,308n:ダイクロイックミラー、 305a:ビームストッパー、 305b:ピンホール板、 307b,307c,307d,307e,307f,307g,307h,307i,307j,307k,307l,307m,307n,307o,307p:バンドパスフィルタ
401:増幅部、 402:A/D変換部、 403:波形処理部
500:結果画面、 505:結果表示ウィンドウ、 511:結果領域、 512:リサーチパラメータ領域、 513,514,515,516:描画領域、 518:計数値領域、 540,550:精度管理設定画面、 541:ロット番号入力欄、 542:基準設定欄、 551:プルダウンメニュー、 560:管理チャート画面、 561:測定点、 571:外部精度管理サーバー、 576:ネットワーク
T:試料容器
図1
図2
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図6A
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