(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100213
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】光散乱体の非破壊測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/49 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
G01N21/49 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004035
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000214191
【氏名又は名称】長崎県
(71)【出願人】
【識別番号】523015954
【氏名又は名称】上田 重人
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100152272
【弁理士】
【氏名又は名称】川越 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【弁理士】
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】下村 義昭
(72)【発明者】
【氏名】上田 重人
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA01
2G059AA05
2G059BB11
2G059BB12
2G059CC09
2G059CC14
2G059CC16
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE11
2G059HH01
2G059HH06
2G059KK01
2G059KK03
2G059KK09
2G059LL01
2G059MM01
(57)【要約】
【課題】検量線を必要とせずに被検体内部の性状特性値を良好な測定精度で推定できる光散乱体の非破壊測定装置を提供する。
【解決手段】光散乱体の非破壊測定装置は、複数の波長光を発生する光源7と、光出射口を有し、光出射口から複数の波長光を光散乱体に向けて照射する光照射部と、光出射口の中心に対して互いに異なる距離の位置に受光口を有し、複数の波長光が被検体の内部を透過した後の反射光を受光する2つの受光部と、受光部の各々で受光した光の光強度を検出する光検出部50と、2つの受光部の光強度の比をとった反射率を算出し、被検体内部の性状特性値を算定する演算処理部30とを備える。演算処理部は、波長ごとの反射率を算出し、相対吸光度比を算出する。さらに、相対吸光度比に対応する、性状特性値を変数とする相対吸光度比の理論値を複数個取得し、理論値と相対吸光度比とが最も近似する条件における性状特性値を出力する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の波長光を発生する光源と、
前記複数の波長光を出射する光出射口を有し、前記光出射口から前記複数の波長光を光散乱体からなる被検体上の1箇所の照射領域に向けて照射する光照射部と、
前記光出射口の中心に対して互いに異なる距離の位置に受光口を有し、前記光出射口から照射された前記複数の波長光が前記被検体の内部を透過した後の反射光を受光する2つの受光部と、
前記受光部の各々で受光した光の光強度を検出する光検出部と、
2つの前記受光部の前記光強度の比をとった反射率を前記複数の波長ごとに算出し、前記反射率に基づいて前記被検体内部の性状特性値を算定する演算処理部と、
を備え、
前記複数の波長光は、複数の波長λi(i=1,2,…,n)の光を含み、
前記光検出部が、2つの前記受光部のうち、前記距離がρ1、ρ2(ただし、ρ1<ρ2)の2つの受光部で受光した反射光の波長λiにおける総受光量をそれぞれJ1i、J2iとして検出したときに、前記演算処理部が、
下記式(1)で表される前記波長λiごとの反射率Riを算出し、
下記式(2)で表される相対吸光度比γkを複数個算出し、
前記相対吸光度比γkに対応する、前記性状特性値を変数とする相対吸光度比の理論値γ^kを複数個取得し、
前記理論値γ^kと前記相対吸光度比γkとが最も近似する条件における前記性状特性値を出力する、
光散乱体の非破壊測定装置。
Ri=J2i/J1i …(1)
γk=ln(Rk+2/R1)/ln(R2/R1) …(2)
【請求項2】
前記演算処理部は、非線形の最小二乗法を用いて前記理論値γ^kと前記相対吸光度比γkとが最も近似する条件を特定する、
請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項3】
被検体の温度を測定する温度検出部をさらに備え、
前記演算処理部は、前記温度検出部で測定した被検体温度を直接用いて、前記性状特性値を算出する、
請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項4】
2つの前記受光部の前記受光口が前記距離ごとに偶数設けられ、かつ前記光出射口の中心を挟んで対向する対を形成するように配置されている、
請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項5】
2つの前記受光部の前記受光口が前記距離ごとに複数設けられ、それぞれ前記光出射口を中心とする同心円上に等間隔で配置されている、
請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項6】
2つの前記受光部の各受光口が、それぞれ前記光出射口を中心とする同心円と同一の円環状または前記同心円の一部を構成する円弧状である、
請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項7】
2つの前記受光部の前記受光口が前記距離ごとに複数設けられ、
前記光検出部は、複数の前記受光口に入射する光を前記距離ごとにまとめて検出するように構成されている、
請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項8】
2つの前記受光部の前記受光口が前記距離ごとに複数設けられ、
前記光検出部は、複数の前記受光口に入射する光をそれぞれ検出し、前記受光口の各々における光強度を演算することにより前記受光部ごとの光強度を検出するように構成されている、
請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項9】
前記光照射部の光出射口側の端部と、2つの前記受光部の受光口側の端部とが、それぞれの離間距離を固定する固定保持部材に一体に保持されている、
請求項1に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項10】
前記光照射部の光出射口および2つの前記受光部の受光口が、前記固定保持部材の表面またはその近傍の位置に整列して配置されている、
請求項9に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【請求項11】
前記固定保持部材のうち、前記光照射部の光出射口および2つの前記受光部の受光口が位置する前記表面が、光吸収性を備える、
請求項10に記載の光散乱体の非破壊測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光散乱体を被検体とし、その性状特性値を測定する光散乱体の非破壊測定装置に関する。例えば、光散乱体である生体を被検体とし、その水分、脂肪、蛋白質等の組成を測定する生体組成の非侵襲測定装置として好適となる光散乱体の非破壊測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば果物の糖度測定、食肉の脂肪や水分等の測定など、光散乱体からなる被検体の内部の性状に関する特性値を光学的に測定する種々の光散乱体の非破壊測定方法が知られている。
例えば、特許文献1には、被検対象の牛枝肉からの反射光を受光し、近赤外領域の波長に対する吸光度スペクトルを測定し、これらの吸光度スペクトルの2次微分値を演算し、この演算結果から脂肪や水分の含量を推定する牛肉の成分含量測定方法および測定装置が記載されている。ここで、吸光度スペクトルの2次微分値から牛肉の成分含量を推定するには、吸光度スペクトルの2次微分値と成分含量とを関連付ける検量線を重回帰分析等により予め作成し、前記検量線を用いて測定した吸光度スペクルの2次微分値の演算結果から成分含量を推定している。
【0003】
また、特許文献2には、測定部位に3つの異なる波長の光を照射し、測定部位内を透過したそれぞれの反射光を異なる距離をおいた2箇所で受光してその反射光量を検出し、検出した2箇所での同波長の反射光量の比である反射率を各波長で算出し、同各波長の反射率を用いて算出される相対吸光度比から果実の糖度等の被検体の性状特性値を推定する光散乱体の非破壊測定装置が記載されている。ここで、相対吸光度比から被検体の性状特性値を推定するには、相対吸光度比と性状特性値を関連付ける検量線を重回帰分析等によりあらかじめ作成し、前記検量線を用いて測定した相対吸光度比の演算結果から性状特性値を推定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9-119894号公報
【特許文献2】特開2007-271575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の技術で牛肉の成分含量を推定するには、吸光度の2次微分値の多項式で表された検量線をあらかじめ作成する必要がある。
特許文献2に記載の技術で被検体の性状特性値を推定する際も、相対吸光度比の多項式で表された検量線をあらかじめ作成する必要がある。
検量線を作成するためには、牛肉の水分や脂肪などの成分含量や果実糖度等の被検体の性状特性値を目的変数として吸光度の2次微分値、または相対吸光度比を説明変数とした多項式で表される検量線の回帰係数を重回帰分析等の統計処理で決定する必要がある。そのためには、サンプルを粉砕して成分含量などの目的変数を分析したり、成分含量などの性状特性値が測定精度の約10倍程度の範囲を有する50~100個のサンプルを準備したりする必要がある。しかしながら、上記のいずれも、ヒトを含む生体を被検体とする測定では難しく、サンプル破壊を伴う検量線の作成は実質的に不可能である。
このような事情から、特許文献1や2に記載の技術をヒト組織の成分測定に用いることは容易ではない。
【0006】
上記事情を踏まえ、本発明は、検量線を必要とせずに被検体内部の性状特性値を良好な測定精度で推定できる光散乱体の非破壊測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の波長光を発生する光源と、複数の波長光を出射する光出射口を有し、光出射口から複数の波長光を光散乱体からなる被検体上の1箇所の照射領域に向けて照射する光照射部と、光出射口の中心に対して互いに異なる距離の位置に受光口を有し、光出射口から照射された複数の波長光が被検体の内部を透過した後の反射光を受光する2つの受光部と、受光部の各々で受光した光の光強度を検出する光検出部と、2つの受光部の光強度の比をとった反射率を複数の波長ごとに算出し、反射率に基づいて被検体内部の性状特性値を算定する演算処理部とを備えた光散乱体の非破壊測定装置である。
複数の波長光は、複数の波長λi(i=1,2,…,n)の光を含む。
光検出部が、2つの受光部のうち、距離がρ1、ρ2(ただし、ρ1<ρ2)の2つの受光部で受光した反射光の波長λiにおける総受光量をそれぞれJ1i、J2iとして検出したときに、演算処理部は、下記式(1)で表される波長λiごとの反射率Riを算出し、下記式(2)で表される相対吸光度比γkを複数個算出する。
さらに、相対吸光度比γkに対応する、性状特性値を変数とする相対吸光度比の理論値γ^kを複数個取得し、理論値γ^kと相対吸光度比γkとが最も近似する条件における性状特性値を出力する。
Ri=J2i/J1i …(1)
γk=ln(Rk+2/R1)/ln(R2/R1) …(2)
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る光散乱体の非破壊測定装置は、検量線を必要とせずに被検体内部の性状特性値を良好な測定精度で推定できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の概略構成を示す模式図である。
【
図2】(a)は、同非破壊測定装置の受光部の側面図であり、(b)は、(a)のB-B線における断面図である。
【
図3】同非破壊測定装置の制御系の機能構成を示す機能ブロック図である。
【
図4】同非破壊測定装置の使用時の一過程を示す図である。
【
図5】(a)は、同非破壊測定装置の第一変形例における受光部の側面図であり、(b)は、(a)のB-B線における断面図である。
【
図6】(a)は、同非破壊測定装置の第二変形例における受光部の側面図であり、(b)は、同非破壊測定装置の第三変形例における受光部の側面図である。
【
図7】本発明の第二実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の概略構成を示す模式図である。
【
図8】(a)は、非破壊測定装置の測定例における反射率の実測値を示すグラフであり、(b)は、同測定例における相対吸光度比の実測値と、それを用いたフィッティングを示すグラフである。
【
図9】反射率の実測値を用いたフィッティングを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第一実施形態について、
図1から
図6を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置(以下、単に「非破壊測定装置」と称する。)の概略構成を示す模式的な構成図である。
【0011】
非破壊測定装置1は、
図1に示すように、外部から入射された光を散乱して外部に出射する光散乱体からなる被検体2の内部の性状特性値を光学的に測定する装置である。
非破壊測定装置1は、光源7と、光源制御部10と、センサプローブ3(固定保持部材)と、光検出部50と、信号処理部17と、中央制御ユニット18と、表示部19とを備えている。
【0012】
測定の対象となる被検体2としては様々なものがあり、青果物、生体などの動植物、食品、飲料物、土壌サンプル、その他、各種定量分析用検体、固体状・粉体状・ゼリー状・液体状等の試料などを例示できる。
測定する性状特性値としては、入射光に対する被検体の吸収の度合いと相関を有する性状を表す特性値であればよく、生体の水分量、脂肪量、蛋白質量、組織酸素飽和度、ヘモグロビン濃度、あるいは青果物の糖度や酸度、小麦粉の水分量や蛋白質量、ジャガイモなどのでんぷん濃度、土壌中の窒素などの肥料成分量等を例示できる。また、上記した様々な被検体の散乱係数も性状特性値となる。
非破壊測定装置1は、上述した性状特性値の1つを測定する装置であってもよいし、複数の性状特性値を切り替えて測定できる装置であってもよい。後者の場合、測定者は操作入力を行う操作部20(後述)から、測定する性状特性値や測定条件などをそれぞれの測定に応じて手動設定してもよいし、同一の被検体における複数の性状特性値を自動的に連続して行えるようにしてもよい。
以降の説明においては、一例として、生体や食肉の水分、脂肪、蛋白質を測定する非侵襲測定装置として用いた場合を中心に説明する。
【0013】
光源7は、複数の波長光を発生させる。例えば、生体や食肉の水分、脂肪、蛋白質等の非侵襲測定を行う場合、光源の波長は、600nm~1100nmの範囲から選択して設定できる。
一例において、光源7は、n種類の中心波長λ1、λ2、…、λnの光を発振する光源であり、波長可変レーザーを用いることができる。波長可変レーザーは測定に必要な波長域から特定の中心波長をもつレーザー光を選択的に発振することができる。また、上記の各中心波長の光を発振できる半導体レーザーや発光ダイオードなどを複数用いて光源7を構成することもできる。
【0014】
光源制御部10は、不図示の電源を備え、中央制御ユニット18からの制御信号に応じて、光源7から発振される光の波長と強度、及び発光タイミングを制御する。
本実施形態では、中央制御ユニット18からの制御信号に応じて中心波長λ1、λ2、…、λnの光を予め設定された強度と発光タイミングで順次出射する制御を行う。
結合レンズ9は、光源7から出射された光を集光し、照射光8として、後述する光ファイバケーブル4に光結合するための光学素子である。
【0015】
図2の(a)は、非破壊測定装置1の受光部を
図1におけるA視方向に見た側面図である。
図2の(b)は、(a)のB-B線における断面図である。
センサプローブ3は、
図2の(a)、(b)に示すように、光源7から出射した特定波長の照射光8を被検体2の被検体表面2aに導くとともに、被検体表面2aからの光を光検出部50に導くためのもので、光ファイバケーブル4、5、6の端部を固定した構成を有する。
【0016】
光ファイバケーブル4(光照射部)は、
図1、2に示すように、一方の端部に出射端面4a(光出射口)、他方の端部に入射端面4cを備える光ファイバ4bからなる。出射端面4aは、被検体表面2aに対向するプローブ端面3aと同一平面に整列した状態で固定されている。
光ファイバケーブル5、6(受光部)は、それぞれ一方の端部に入射端面5a、6a(受光口)、他方の端部に出射端面5c、6cを備える光ファイバ5b、6bからなり、センサプローブ3に取り付けられている。
各入射端面5a、6aは、出射端面4aの中心位置から、半径ρ
1と半径ρ
2の2つの同心円上にそれぞれ同じ同径方法に配置され、プローブ端面3aと同一平面上に整列されている。すなわち、半径ρ
1と半径ρ
2は、各入射端面5a、6aと出射端面4aの中心位置との距離に相当し、ρ
2>ρ
1である。
【0017】
光ファイバ4b、5b、6bの構成や材質は、伝送損失が少ないことが好ましいが、校正のための特性値、例えば、受光口のNAや、光ファイバの波長ごとの伝送損失特性などが分かっていれば、特に限定されない。例えば、マルチモードでも、シングルモードでもよいし、屈折率分布も適宜の分布でよい。また、ガラスファイバでも、プラスチックファイバでもよい。
また、光ファイバ4b、5b、6bは、それぞれ所定のコア径を持った芯線を1本、または複数本合わせてもよい。
【0018】
センサプローブ3は、少なくともプローブ端面3a上では、被検体表面2aからの光の反射光が測定ノイズとならないように、光吸収性を付与することが好ましい。光吸収性の程度は必要な測定精度にもよるが、例えば、生体の組成計測や青果物の糖度測定では、反射率で10%以下が好ましく、5%以下であることがより好ましい。
本実施形態では、このような良好な光吸収性を有する材質として、ポリアセタール素材の黒色グレードを採用している。
【0019】
光検出部50は、被検体表面2aからの光のうち、各入射端面5a、6aに入射して光ファイバ5b、6b内を伝搬し、出射端面5c、6cからまとめて出射された出射光11、12をそれぞれ集光する集光レンズ13、14と、それぞれの集光位置に受光面が配置された光検出器15、16とを有する。
波長光に十分な感度を有するフォトダイオードなどを光検出器15、16として使用できる。
【0020】
図3は、本発明の第1の実施形態に係る光散乱体の非破壊測定装置の制御系の機能構成について説明するための機能ブロック図である。
信号処理部17は、光検出器15、16からの検出出力を増幅し、予め設定された校正値に基づいて検出出力を校正して、入射端面5a、6aの受光範囲の総受光量に換算したデジタル信号に変換して、演算処理部30に送出する。
以下では、入射端面5aからの波長λ
i(i=1,2,…,n)に対応する総受光量をJ
1i、同じく入射端面6aからのものをJ
2i、とそれぞれ表記する。
ここで、それぞれに入射する出射光11、12の波長は、中央制御ユニット18から送出されるクロック信号に基づいて、光源制御部10が波長切り替えタイミングを自動的に判別して切り替える。
【0021】
中央制御ユニット18は、非破壊測定装置1の測定動作を制御する。中央制御ユニット18は、光源制御部10、信号処理部17、表示部19、および操作部20に電気的に接続され、それぞれとの間で種々の制御信号やデータの通信を行って、それぞれの動作を制御する。
中央制御ユニット18の機能ブロック構成は、
図3に示すように、装置制御部21、表示制御部22、および演算処理部30からなる。中央制御ユニット18は、それぞれの機能ブロックの動作を行う複数のハードウェアで構成してもよいが、CPU、メモリ、入出力インタフェース、適宜の記憶部などを備えるコンピュータで構成し、それぞれの機能ブロックの動作に対応するプログラムをこのコンピュータに実行させてもよい。
【0022】
装置制御部21は、測定者が操作する操作部20からの操作入力に応じて、光源制御部10、信号処理部17、演算処理部30、表示制御部22の動作を協調して制御し、測定の開始、終了、および測定動作などを行う。
装置制御部21は、光源制御部10、信号処理部17に対して複数の波長光の発光および検出処理を制御する制御信号を送出するとともに、それぞれの動作を同期させるクロック信号を送出する。
装置制御部21は、操作部20の操作入力に応じて測定する性状特性値を演算処理部30に通知し、演算処理部30の処理動作を初期設定する。
装置制御部21は、操作部20の操作入力や、演算処理部30から送出された測定結果などの情報を表示制御部22に送出し、表示部19に表示させる制御を行う。
【0023】
表示制御部22は、装置制御部21から送出された情報を表示部19に表示するための映像信号に変換する。
【0024】
本実施形態の演算処理部30は、反射率算出部31、相対吸光度比算出部32、性状特性値算定部33、およびデータ保持部34を有する。
反射率算出部31は、信号処理部17から送出されるJ1i、J2iから、上記式(1)にしたがって、反射率Riを算出する。
【0025】
相対吸光度比算出部32は、反射率算出部31で算出されたn種類の波長λiの反射率Riから、上記式(2)にしたがって、相対吸光度比γkを算出し、性状特性値算定部33に送出する。すなわち、下記の式(2a)、(2b)、…、(2m)のようにして、m個の相対吸光度比γk(k=1,2,…,m)を算出する。
γ1=ln(R3/R1)/ln(R2/R1)…(2a)
γ2=ln(R4/R1)/ln(R2/R1)…(2b)
γ3=ln(R5/R1)/ln(R2/R1)…(2c)
…
γm=ln(Rm+2/R1)/ln(R2/R1)…(2m)
【0026】
なお、上記説明では、Riの名称として、被検体表面2aに入射した光が被検体内部を透過して再び被検体表面2aに戻った反射光の光量比であることから「反射率」を採用しているが、ここでの反射光の光量比は、被検体2の内部を通って入射位置から離れた位置に透過した光量が検出されることから「透過率」と考えることもできる。
【0027】
性状特性値算定部33では、相対吸光度比の理論値γ^kを計算する。相対吸光度比の理論値γ^kの計算では、性状特性値を変数として扱い、被検体で測定した前記m個の相対吸光度比γk(k=1,2,…,m)とその理論値γ^kとが一致する条件で非線形の最小二乗法を用いて性状特性値を算出する。
非線形の最小二乗法としては、ガウス・ニュートン法やレーベンバーグ・マーカート法などの公知の解析アルゴリズムを用いることができる。
受光口が配置された同心円の半径ρ1、ρ2、及び被検体の各種組成の吸収係数はデータ保持部34に予め記憶させておいた値を用いる。
この演算において、被検体の温度Tmは性状特性値の一つとして変数として扱ってもよい。あるいは、反射率測定時、あるいはその前後に測定した温度を操作部20から別途入力した値を用いてもよい。あるいは、被検体の温度を測定する温度検出部を設けて、反射率測定と同時に被検体の温度を測定し、その値を性状特性値算定部に入力して用いてもよい。
【0028】
データ保持部34は、校正係数、受光口が配置された同心円の半径ρ1、ρ2、及び被検体の各種組成の吸収係数、境界条件を記憶する。データ保持部34は、例えばROM、外部記憶媒体、外部記憶部などの各種記憶部を用いて構成できる。
【0029】
上記構成を備えた、本実施形態に係る非破壊測定装置1の使用時の動作について説明する。
まず使用者は、
図4に示すように、センサプローブ3を被検体2の測定部位における被検体表面2aにプローブ端面3aを接触または略接触させた状態でセンサプローブ3を配置する。
図4は模式図のため、被検体表面2aを平面としているが、被検体表面2aは被検体2の形状により異なり、例えば腕や掌が測定部位である場合、凹凸や湾曲があることは当然である。また、
図4では、プローブ端面3aと被検体表面2aとの間に隙間を設けて図示しているが、このようにわずかの隙間を設けて略接触させる配置としてもよいし、完全に接触させてもよい。本実施形態では、出射端面4aをできるだけ被検体2に近づけることが好ましいが、被検体表面2aと入射端面5a、6aは必ずしも接触させなくてもよい。
【0030】
使用者が操作部20から、測定開始のための入力をすると、中央制御ユニット18は、光源制御部10を介して、光源7からn種類の中心波長λ1、λ2、…、λnのレーザー光を順次出射する。照射光8は、結合レンズ9によって光ファイバ4bの入射端面4cに光結合される。
照射光8は、各光ファイバ4bの内部を伝搬して、センサプローブ3のプローブ端面3a表面に配置された出射端面4aから被検体表面2aに向けて照射される。
【0031】
被検体表面2aに照射された光は、被検体表面2aで反射される反射光と、被検体2の内部に入射して内部を透過する透過光とに分かれる。
反射光は、被検体表面2aとプローブ端面3aとの間で反射を繰り返して減衰する。
透過光は、被検体2の内部の性状によって、散乱され、種々の光路を通って、再び被検体表面2aに到達した光の一部が被検体2の外部に出射され、各入射端面5a、6aの位置で、それぞれ光ファイバ5b、6bに入射する。
例えば、
図4に示すように、被検体2の内部に入射した光の一部である内部光25Aおよび26Aが、それぞれ入射端面5aおよび入射端面6aに入射する。
内部光25Aおよび26Aは、それぞれの光路において、出射端面4aと入射端面5a(6a)との間の被検体2の内部の性状と出射端面4aと入射端面5a(6a)との距離に応じて散乱を起こしつつ透過する。そのため、それぞれからの出射光の光強度は、出射端面4aと入射端面5a、及び6aとの間の被検体2の性状の情報を含んでいる。
【0032】
本実施形態では、このように、各入射端面5a、6aの配置位置に応じた被検体2の内部の性状の情報を含む光が、光ファイバ5b、6bによって伝送され、出射端面5c、6cからまとめて、それぞれ出射光11、12として出射される。そして、これら各出射光は、それぞれ集光レンズ13、14によって集光され、光検出器15、16で受光される。光検出器15、16は、受光した光強度に比例した検出出力信号を信号処理部17に送出する。
【0033】
信号処理部17では、光検出器15、16の検出出力を受信タイミングから波長ごとに識別し、それぞれの波長に応じて予め作成された校正情報に基づいて、波長λiごとの総受光量J1i、J2iに換算したデジタル信号に変換して、演算処理部30に送出する。
ここで、校正情報は、波長ごとの、光ファイバ5b、6bの伝送損失、集光レンズ13、14の透過率、光検出器15、16の感度特性を補正する補正係数などとして与えられる。
そして、波長ごとの総受光量J1i、J2iを、入射端面5a、6aのそれぞれの受光面積で除した光強度をそれぞれI1i、I2iとすると、J1i、J2iは、それぞれ下記式(4)、(5)により算出される。
J1i=I1i×A1…(4)
J2i=I2i×A2…(5)
ここで、A1、A2は、それぞれ入射端面5a、6aの受光面積である。
【0034】
反射率算出部31では、式(1)にしたがって、波長λiごとの反射率Riを算出し、各算出結果を相対吸光度比算出部32に送出する。
【0035】
相対吸光度比算出部32では、式(2)にしたがって、相対吸光度比γkを算出し、性状特性値算定部33に送出する。ここで式(2)に現れる2つの異なる波長λi、λj(i≠j)の反射率比Rj/Riは、式(1)の定義から下記式(6)で表される。
Rj/Ri=(J2j×J1i)/(J1j×J2i)…(6)
【0036】
式(4)、(5)の関係を用いると、式(6)は下記式(6a)で表せる。
Rj/Ri=(J2j×J1i)/(J1j×J2i)
=(A1×A2×I2j×I1i)/(A1×A2×I1j×I2i)
=(I2j×I1i)/(I1j×I2i)…(6a)
式(6a)から、2つの異なる波長の反射率比は入射端面5a、6aのそれぞれの受光面積で除した単位面積当たりの光強度I1i、I2i、及びI1j、I2jで表され、受光面積A1、A2には依存しないことがわかる。
【0037】
性状特性値算定部33では、相対吸光度比の理論値γ^
kを計算する。相対吸光度比の理論値γ^
kの計算では、性状特性値を変数として扱い、被検体で測定した前記m個の相対吸光度比γ
k(k=1,2,…,m)とその理論値γ^
kが一致する条件で非線形の最小二乗法を用いて、前記性状特性値を算出する。
以下、相対吸光度比の理論値γ^
kの計算方法を説明する。
図4に示した被検体2が、散乱係数μ
S’や吸収係数μ
aなどの性状特性値が空間的に一様に分布した光散乱体であると仮定すると、内部を透過して受光面5aで受光される反射光25Aの単位面積当たりの光強度の理論値I^
1は、理論的に下記式(7)で表される(T. J. Farrel et al., Med. Phys. 19 (1992) 879.)。
【0038】
【0039】
ここで、P0は出射端面4aから被検体2に照射される照射光の強度を表す。z0は被検体2の等価散乱係数μS’を用いてz0=1/μS’と表される。αとDは被検体2の吸収係数μaと等価散乱係数μS’を用いて、α=[3μa(μa+μS’)]0.5、D=1/3/(μa+μS’)とそれぞれ表される。また、r1はr1
2=z0
2+ρ1
2で表され、r2は境界条件Ωを用いてr2
2=(z0+4ΩD)2+ρ1
2で表され、ここでρ1は出射端面4aと入射端面5aの中心間の距離を表す。
なお、境界条件Ωは、下記式(8)で表される。
【0040】
【0041】
式(8)において、nrelは、被検体表面を境界として、光の入射前、つまりここでは空気の屈折率n1と、入射後、つまり被検体の屈折率n2との屈折率比であり、nrel=n2/n1で表される。空気の屈折率n1は1.00、鶏肉、豚肉、及び人間等の生体の屈折率n2は1.38-1.44の値(F.P. Bolin et al., Appl. Opt.28(1989)2297や、M. Ohmi et al., IEEE. Trans. Biomed. Eng.47(2000)1266等参照。)をとることから、屈折率比nrelは1.38~1.44となる。このため、生体における境界条件Ωは、式(8)より、3.1~3.5となる。
【0042】
一方、内部を透過して受光面6aで受光される反射光26Aの単位面積あたりの光強度の理論値I^2は、前記した光強度の理論値I^1を表す(7)式において、離間距離ρ1を離間距離ρ2に変更した式で与えられる。
【0043】
次に、被検体を動物や人間等の生体とした際の吸収係数μaについて説明する。本実施例では、水分、蛋白質、及び脂肪を合わせた体積分率を1.0(100%)と仮定し、脂肪の体積分率をkfで表す。したがって、脂肪を除く水分と蛋白質を合わせた体積分率kasはkas=1.0-kfで表される。
また、蛋白質と水はアルブミン水溶液として扱い、そのアルブミン濃度と温度をそれぞれ、Ca(w/v%)、Tm(℃)で表し、Tmは被検体の温度として扱う。生体に含まれる色素として、酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンを考慮し、それぞれの濃度をCHbO(mM)とCHb(mM)で表す。
上記定義から、生体での吸収係数μaは下記式(9)で表される。
【0044】
【0045】
式(9)において、μfは脂肪の吸収係数を表す。また、a0、a1、a2はアルブミン水溶液の吸収係数をアルブミン濃度Caと温度Tmの1次多項式で表すための係数である。μHbとμHbOは、それぞれ酸素化ヘモグロビンと脱酸素化ヘモグロビンの吸収係数である。
【0046】
ブタやニワトリ等の、ヒト以外の動物を被検体とする際の吸収係数μa’は、式(9)で表した吸収係数μaにミオグロビン色素の吸収係数を追加した下記式(10)で表すことができる。
【0047】
【0048】
式(10)において、μMbOとμMbは、それぞれ酸素化ミオグロビンおよび脱酸素化ミオグロビンの吸収係数を表す。また、CMbOとCMbは、それぞれ酸素化ミオグロビンおよび脱酸素化ミオグロビンの濃度(mM)を表す。
【0049】
また、式(7)の計算で必要な被検体の等価散乱係数μS’として、波長λの関数で表した下記式(11)を用いる。
【0050】
【0051】
反射率の理論値R^は、式(7)で得られるI^1、I^2を用いて下記式(12)で表される。
【0052】
【0053】
また、相対吸光度比の理論値γ^k(k=1,…,m、ただし、m=n-2)は、異なるn個の波長λi(i=1,…,n)での反射率の理論値R^iを用いて下記式(13)で計算できる。
【0054】
【0055】
相対吸光度比の理論値γ^kの計算では、上記した脂肪の体積分率kf、アルブミン濃度Ca、被検体の温度Tm(=アルブミン水溶液の温度)、酸素化ヘモグロビン濃度CHbO、脱酸素化ヘモグロビン濃度CHb、酸素化ミオグロビン濃度CMbO、脱酸素化ミオグロビン濃度CMb、等価散乱係数を決定するパラメータP1、P2を未知のパラメータとして扱う。これらの未知のパラメータはすべて被検体の性状特性値となり、相対吸光度比の測定値γkに対して非線形の最小二乗法により相対吸光度比の理論値γ^kが一致する条件で算定される。
非線形の最小二乗法としては、ガウス・ニュートン法やレーベンバーグ・マーカート法などの公知の解析アルゴリズムを用いることができる。
被検体の温度は別途、放射温度計などの測定手段を用いて測定した値を用いることができる。被検体の温度を既知とすることにより、上記の未知パラメータの数が減り、理論計算で算定される他の未知パラメータの推定精度が向上する。
また、相対吸光度比の理論値γ^kの計算に必要となる離間距離ρ1とρ2、境界条件Ωは既知として扱い、データ保持部34に予め記憶した値を用いる。
さらに、脂肪の吸収係数μf、アルブミン水溶液の吸収係数をアルブミン濃度と温度の1次多項式で表すための係数a0、a1、a2及びヘモグロビンの吸収係数μHbOとμHbやミオグロビンの吸収係数μMbOとμMbはすべて既知として扱い、波長λiの関数として前記データ保持部34に予め記憶した値を用いる。
【0056】
本実施形態では、プローブ端面3aと、出射端面4aおよび各入射端面5a、6aとが互いに同一平面上に整列しているため、被検体表面2aでの反射光の影響を低減することができる。
【0057】
本実施形態の変形例について説明する。
図5の(a)は、第1変形例に係る受光部を
図1におけるA視方向から見た側面図である。(b)は、(a)のB-B線における断面図である。
図6の(a)は、第2変形例に係る受光部を上記A視方向から見た側面図であり、(b)は、第3変形例に係る受光部を上記A視方向から見た側面図である。
第一ないし第三変形例は、センサプローブ3に代えて、それぞれセンサプローブ40、41、42を備える。これに伴い、光ファイバケーブル5、6の形状や構成も変わっている。
【0058】
図5に示す第一変形例のセンサプローブ40では、光ファイバケーブル5、6が、それぞれ一方の端部に入射端面5a、6a(受光口)、他方の端部に出射端面5c、6cを備える8つの光ファイバ5b、6bからなる。光ファイバケーブル5、6は、出射端面5c、6cが光ファイバの光軸方向の同一位置に配列した状態で一定の領域にまとめられて結束され、一方の端部側で、8つの入射端面5a、6aが離間し、それぞれの受光位置に配置されるようにセンサプローブ40に取り付けられている。
8つの入射端面5aは、出射端面4aの中心位置(光出射口中心)から、半径ρ
1の円周上の等分位置に配置され、それぞれプローブ端面40aと同一平面上に整列されている。また、8つの入射端面6aは、出射端面4aの中心位置(光出射口中心)から、半径ρ
2の円周上の等分位置に配置され、それぞれプローブ端面40aと同一平面上に整列されている。なお、ρ
2>ρ
1である。
【0059】
入射端面5a、6aの間の円周方向における配置位置は特に限定されないが、本実施形態では、出射端面4aを挟んで対向位置にある入射端面5a、5aと、同じく入射端面6a、6aとが、それぞれ同一の径方向上に整列して配置されている。
すなわち、各入射端面5a、6aは、出射端面4aに対してプローブ端面3a上で良好な対称性を有し、かつ入射端面5a、6aの円周方向に等間隔に配列されているこれにより、センサプローブ40においては、出射端面4aを中心とする同心円状の測定領域から散乱体内を通過した光を均等に受光することができる。
【0060】
ここで、入射端面5a、6aを構成する各受光口の面積が円周方向で同一とすると、波長λiの総受光量J1i、J2iは、それぞれ下記式(14)、(15)で算出される。
J1i=(I(1)
1i+I(2)
1i+…+I(8)
1i)×A …(14)
J2i=(I(1)
2i+I(2)
2i+…+I(8)
2i)×B …(15)
式(14)、(15)において、A、Bはそれぞれ、入射端面5a、6aの各受光口の受光面積である。また、I(k)
1i(k=1,2,…,8)、I(k)
2i(k=1,2,…,8)は、入射端面5a、6aの各受光口で受光される反射光の単位面積あたりの光強度を表す。
【0061】
次に、式(2)に現れる2つの異なる波長λi、λj(i≠j)の反射率比Ri/Rjは、式(1)の定義から下記式(16)で表される。
Ri/Rj=(J2j×J1i)/(J1j×J2i) …(16)
【0062】
式(14)、(15)式の関係を用いると、式(16)は下記式(16a)として表せる。
Rj/Ri=(J2j×J1i)/(J1j×J2i)
={A×B×(I(1)
2j+I(2)
2j+…+I(8)
2j)×(I(1)
1i+I(2)
1i+…+I(8)
1i)}/{A×B×(I(1)
1j+I(2)
1j+…+I(8)
1j)×(I(1)
2i+I(2)
2i+…+I(8)
2i)}
={(I(1)
2j+I(2)
2j+…+I(8)
2j)×(I(1)
1i+I(2)
1i+…+I(8)
1i)}/{(I(1)
1j+I(2)
1j+…+I(8)
1j)×(I(1)
2i+I(2)
2i+…+I(8)
2i)} …(16a)
【0063】
また、入射端面5a、6aの各受光口での単位面積あたりの光強度の平均値は、それぞれ下記式(17)、(18)で表される。
【0064】
【0065】
【0066】
式(16a)に式(17)、(18)を代入すると、式(16)で表される反射率比は下記式(16b)として表せる。
【0067】
【0068】
式(16a)および(16b)から、2つの異なる波長の反射率比は入射端面5a、6aのそれぞれの受光口での単位面積あたりの光強度の総和、あるいは平均値で表され、受光面積A、Bに依存しないことがわかる。
したがって、被検体2からの反射光を平均化して測定することにより、空間的に不均一な被検体2の性状特性値を平均化して測定することができる。
【0069】
第二変形例のセンサプローブ41は、
図6の(a)に示すように、センサプローブ3の入射端面5a、6aに代えて、各同心円に沿う円弧状の入射端面41a、41b(受光口)を備える。
入射端面41a、41bは、光ファイバ5b、6bの心線の数を増やして、円弧状の領域に配置して形成してもよいし、円弧状の断面形状を有する導光部材で形成して、光ファイバ5b、6bに導光してもよい。
この場合、例えば、入射端面41a、41bの円周方向の長さを、各同心円径に比例して同一に設定することにより、円周方向の受光面積比を共通にすることで、空間的に散乱特性が不均一な被検体2の内部からの反射光をより平均化することができる。
【0070】
第三変形例のセンサプローブ42は、
図6の(b)に示すように、センサプローブ3の入射端面5a、6aに代えて、それぞれの同心円上で円周方向に沿って開口するリング状の入射端面42a、42b(受光口)を備える。入射端面42a、42bは、光ファイバ5b、6bの心線の数を増やして、円周状に並べて配置することにより形成してもよいし、円弧状の断面形状を有する複数の導光部材を組み合わせて形成してもよい。さらに、円環状の断面形状を有する、ラッパあるいはメガホンのような形状の導光部材を用いて形成することもできる。
センサプローブ42は、同心円上のすべての被検体内部からの反射光を受光することができるので、性状特性値が空間的にどのような不均一性があっても、確実に被検体2からの透過光の不均一性を均等化することができる。
【0071】
本発明の第二実施形態について、
図7を参照して説明する。以降の説明において、既に説明したものと共通する構成については、同一の符号を付して重複する説明を省略する。
【0072】
図7は、本実施形態に係る非破壊測定装置100の概略構成を示す模式図である。
非破壊測定装置100は、
図7に示すように、光源7に代えて、光源51および結合レンズ9を備える。さらに、光ファイバケーブル4、光源制御部52、および信号処理部70を備えている。以下、第一実施形態と異なる点を中心に説明する。
【0073】
光源51は、近赤外領域の波長の光を含む白色光源であり、ハロゲンランプなどを採用することができる。ただし、測定に用いる波長光を含む波長分布を有する光源であれば、発光ダイオードでもよく、必ずしも白色光源でなくてもよい。
【0074】
光源制御部52は、中央制御ユニット18からの制御信号に応じて、光源51に電圧を供給し、所定の光量で点灯するよう制御する。本実施形態では、光源が白色光を発するため、波長を切り替える制御は行われない。
【0075】
図7に示す分光検出部61、62は、出射端面5c、6cから出射される出射光11、12を分光し、n種類の波長光の総受光量J
1i、J
2i(i=1,2,…,n)を取得する。すなわち、本実施形態は、複数の波長光の光強度を、受光口で受光した反射光から分光して取得する構成となっている。そのため、光源が1つであっても、複数の波長光を容易に取得できる。
そのための構成として、非破壊測定装置100は、回折格子53、54、および多チャンネル検出器55、56を有している。
【0076】
回折格子53、54は、それぞれ出射光11、12の分光を行う。分光の波長範囲は、n種類の波長λiの成分が取得できる範囲でよい。
多チャンネル検出器55、56は、回折格子53、54で回折された光の光路上で、回折角度に応じた位置に、それぞれ多数の光検出素子を配置し、それぞれの光検出出力を取得することで、分光スペクトルを取得する。多チャンネル検出器55,56としては、例えば、CCDやCMOS等のリニアアレイセンサを採用することができる。
【0077】
非破壊測定装置100の測定動作について、第一実施形態と異なる点を中心に説明する。
第一実施形態と同様に、被検体2の測定部位にセンサプローブ3を配置する。操作部20から、測定開始が入力されると、中央制御ユニット18は、光源制御部52を介して、光源51を点灯する。
測定に必要な波長域を有する白色光が照射光8として出射され、結合レンズ9によって、光ファイバ4bの入射端面4cに光結合される。さらに、出射端面4aから被検体表面2aに向けて照射される。
【0078】
被検体表面2aに照射された光は、被検体2の内部を透過しつつ被検体2の内部の性状によって散乱・吸収され、種々の光路を通って、再び被検体表面2aに到達した光の一部が被検体2の外部に出射され、各入射端面5a、6aの位置で、それぞれ光ファイバ5b、6bに入射する。このとき、各光ファイバに入射する光は、波長ごとに被検体2の内部の性状に応じて散乱・吸収され、内部の性状の情報を含むスペクトルを備えた光となっている。
【0079】
出射光11、12は、回折格子53、54により分光されて多チャンネル検出器55、56により受光される。分光検出部61、62は受光した光強度に比例した検出出力信号を信号処理部70に送出する。
【0080】
信号処理部70では、所定の露光時間と露光タイミングで多チャンネル検出器55、56を動作させるとともに、多チャンネル検出器55、56の検出出力を各チャンネルと波長とを対応させた反射スペクトルS1、S2に変換する。ここで、反射スペクトルS1、S2は、波長ごとの、光ファイバ5b、6bの伝送損失、回折格子53、54の反射率、多チャンネル検出器55、56の各チャンネルの波長感度特性などに応じて予め作成された校正情報に基づいて校正されている。
これにより、分光範囲のすべての波長について、総受光量J1i、J2iを算出することが可能となる。算出された総受光量J1i、J2iは反射率算出部31に送出される。
【0081】
反射率算出部31では、式(1)にしたがって、波長λiごとの反射率Riを算出し、相対吸光度比算出部32に各算出結果を送出する。
相対吸光度比算出部32では、式(2)にしたがって、m個の相対吸光度比γkを算出し、性状特性値算定部33に送出する。
性状特性値算定部33では、第一実施形態と同様の手順で、m個の相対吸光度比γk(k=1,2,…,m)とその理論値γ^kとが一致する条件で、非線形の最小二乗法を用いて性状特性値を算出する。
算出された性状特性値は、装置制御部21に送出される。装置制御部21は、表示制御部22を制御して、性状特性値を表示部19に出力する。
以上で、非破壊測定装置100による性状特性値の測定が終了する。
【0082】
本実施形態に係る非破壊測定装置100は、多チャンネル検出器55、56により分光スペクトルを取得して、受光口で受光した波長ごとの光強度を算出して反射率を求めるため、異なる波長光の照射を切り替える必要がない。これにより、多数の波長ごとの光強度を短時間にかつ同時に取得することができ、測定の精度と効率を向上することができる。
【0083】
以下では、センサプローブ40を備えた第一実施形態の第一変形例に係る非破壊測定装置を用いて行った生体組織の測定例について説明する。測定対象として鶏むね肉を用い、離間距離ρ1とρ2は、それぞれ3mmおよび6mmに設定した。
【0084】
図8の(a)は、対象組織における(1)式で表される反射率の実測値R
kを示すグラフである。
図8の(b)の実線は、反射率の実測値R
kを用いて(2)式で算出した相対吸光度比の実測値γ
kを示している。
図8の(b)にプロットされた各点は、(13)式で計算した、該当する波長における相対吸光度比の理論値γ^
kであり、理論値γ^
kが実測値γ
kに合うようにフィッティングしていくことを示している。理論値γ^
kの計算は、後述するように1nmピッチで行ったが、図では理論値γ^
kを実測値γ
kと区別しやすくするため、理論値γ^
kを5nmピッチで表示している。
【0085】
理論値γ^kの計算では、(10)式に表れる脂肪の体積分率kf、アルブミン濃度Ca、酸素化ミオグロビン濃度CMbO、脱酸素化ミオグロビン濃度CMbを変数として扱った。被検体である鶏肉は血抜きされているため、酸素化ヘモグロビン濃度CHbOと脱酸素化ヘモグロビン濃度CHbはいずれも0とした。被検体の温度Tmは測定した値を既知として用いた。散乱係数μS’は(11)式で表し、P1とP2を変数とした。
以上より、この測定において相対吸光度比の理論値γ^kを計算するために変数として扱う性状特性値の数は、全部で6個である。
【0086】
n種類の波長λi(i=1,2,…,n)は720nm~1000nmの範囲から1nmステップでn=281種類の波長を選択した。(2)式に現れる反射率R1とR2の波長は、λ1 980nm、λ2 1000nmとした。残りの波長の反射率R3~R281を用いたm=281-2=279個の相対吸光度比の実測値γkとその理論値γ^kが全体として最も近似する条件における前記6種類の性状特性値を非線形の最小二乗法を用いて算出し、測定値として採用した。非線形の最小二乗法として、ここでは公知のレーベンバーグ・マーカート法を用いた。
【0087】
上記の手法で対象組織の5か所で測定した脂肪の体積分率kf(%)およびアルブミン濃度Ca(w/v%)の推定値を表1に示す。
【0088】
【0089】
表1には、kfおよびCaに基づいて算出した、脂肪、水分、および蛋白質の推定重量比を併せて示している。
さらに、測定後に対象組織全体を破壊して所定の方法で分析した脂肪、水分、および蛋白質の実際の重量比も示す。脂肪についてはソックスレー抽出法、水分については常圧加熱乾燥法、蛋白質については燃焼法(窒素・蛋白質の換算係数=6.25)をそれぞれ用いた。
非破壊測定装置による推定重量比と実際の重量比との平均誤差は、脂肪0.5ポイント(最大誤差0.7ポイント)、水分0.8ポイント(最大誤差1.3ポイント)、蛋白質1.0ポイント(最大誤差1.3ポイント)であった。この測定により、検量線を用いることなく、高い測定精度を実現できることが示された。
【0090】
この例では、(9)式で表される境界条件Ωを鶏肉での値3.5に固定したが、ブタ、ニワトリなどの動物や、ヒトでとりうる境界条件の範囲内、つまりΩ=3.1~3.5の範囲内であれば、Ωの値をいずれに設定しても同様の測定精度が得られることを発明者らは確認している。
また、豚肉や牛乳等の他の対象物の測定においても、上記の例と同等の精度で行えることを確認している。
【0091】
他の手順例として、被検体の温度Tmを未知のパラメータとしつつ、上記と同じ手順で取得した脂肪の体積分率kf、アルブミン濃度Ca、ならびに脂肪、水分、および蛋白質の推定重量比を表2に示す。
【0092】
【0093】
表2において、非破壊測定装置による推定重量比と実際の重量比との平均誤差は、脂肪1.2ポイント(最大誤差1.5ポイント)、水分1.6ポイント(最大誤差2.5ポイント)、蛋白質2.7ポイント(最大誤差4.1ポイント)であり、表1よりも推定誤差は若干増加した。
これは、温度Tmを未知としたことにより、相対吸光度比の理論値γ^kを計算するための変数が増えたことに起因すると考えられるが、水分および蛋白質の推定重量比については、この手順でも十分な精度が保たれていることが確認できた。
【0094】
上記測定例では、相対吸光度比を用いたフィッティングを行っているが、本発明の有用性を示すため、他のフィッティングによる測定結果を示す。
図9は、実線で示す反射率の実測値R
kに対して、点で示すその理論値R^
kをフィッティングしていくことを示している。この手順で取得した脂肪の体積分率k
f、アルブミン濃度C
a、ならびに脂肪、水分、および蛋白質の推定重量比を表3に示す。
【0095】
【0096】
表3において、非破壊測定装置による推定重量比と実際の重量比との平均誤差は、脂肪0.8ポイント(最大誤差1.5ポイント)、水分7.1ポイント(最大誤差12.2ポイント)、蛋白質7.8ポイント(最大誤差13.8ポイント)であり、表2よりもさらに推定誤差が大きくなった。加えて、蛋白質および水分の誤差も許容できない程度まで大きくなっており、実用的な測定には適用できないと推測された。
【0097】
表1から表3に示した結果から、相対吸光度比を用いたフィッティングにより、検量線を用いずに光散乱体の非破壊測定を十分な精度で行えること、および温度Tmを未知とした場合でも十分な精度が維持されることが示された。これは、本発明に係る検討で初めて明らかになった知見である。
【0098】
本発明に係る非破壊測定装置は、検量線を必要としないことにより、ヒトを始めとする各種生体の組織の非破壊測定に良好に適用できる。
例えば、悪性腫瘍の手術後には、リンパ節郭清に起因するリンパ浮腫が発生する。これは、リンパ腺の機能消失に伴ってリンパ液の回収が行われなくなることによるが、本発明に係る非破壊測定装置で体組織を測定することで、組織における水分および蛋白質の絶対量の増加を、浮腫が視認可能となる前の段階でとらえることができる。これにより、浮腫の発生初期に適切な処置を行うことで、リンパ浮腫の重症化防止への寄与が期待できる。
【0099】
本発明において、好適なフィッティングを行うためには、相対吸光度比γkの算出に用いる2つの波長λ1、λ2と、フィッティングに用いる相対吸光度比γkと理論値γ^kの組の数が重要である。
2つの波長については、上記測定例における980nmおよび1000nmには限られず、例えば810nmおよび980nm等の他の組み合わせも可能であり、この組み合わせを用いた場合の非破壊測定装置による推定重量比と実際の重量比との平均誤差は、脂肪0.5ポイント(最大誤差0.9ポイント)、水分0.5ポイント(最大誤差0.6ポイント)、蛋白質0.9ポイント(最大誤差1.4ポイント)であった。
相対吸光度比γkと理論値γ^kの組の数については、例えばピッチとして15nm以下が好ましいが、相対吸光度比γkと理論値γ^kの組は、必ずしも等間隔で分布していなくてもよい。
【0100】
本発明の各実施形態について説明したが、本発明の技術範囲は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。以下にいくつか変更を例示するが、これらはすべてではなく、それ以外の変更も可能である。これらの変更が2以上適宜組み合わされてもよい。
【0101】
・上記説明では、非検体と接触するプローブ端面が平面である例を説明したが、プローブ端面は、被検体の形状に合わせた湾曲面であってもよい。また、プローブ端面を変形可能な柔軟な材質で構成し、被検体に押し当てたときにその形状に合わせて変形することができるようにしてもよい。このようにすると、光出射口、受光口を被検体に近接させやすくなるため、測定ノイズが低減され、測定精度の向上が期待できる。
【0102】
・上記説明では、同一の円周上にある複数の受光口からの光を1つの光検出部で検出する例を示したが、各受光口の光を別々の光検出器で検出し、その検出出力を演算処理してもよい。例えば、総和をとったり、平均したりしてもよい。
上述した各実施形態では、各受光口の大きさを変えると、受光面積が円周方向に不均等な開口面積の和となるため、反射率を求めるのに必要なI1i、I2iを求めることができなくなってしまうが、各受光口の光を別々の光検出器で検出する場合は、各光検出部の各受光口の大きさが異なっていてもよい。すなわち、各受光口の光を別々の光検出器で検出し、各受光口に対応する開口面積で規格化した光強度を求めて、それらの総和または平均値をとれば、反射率を求めるのに必要なI1i、I2iが得られる。
【0103】
測定した反射率に基づいて取得される相対吸光度比γkの数mは、上述したように最大で測定した反射率を取得した波長の数nから2を減じた数となるが、必ずしもmが最大数でなくてもよい。ただし、最大数とすることで最も高い精度が得られることは当然である。
【符号の説明】
【0104】
1、100 光散乱体の非破壊測定装置
2 被検体
3、40、41、42 センサプローブ(固定保持部材)
4 光ファイバケーブル(光照射部)
4a 出射端面(光出射口)
5、6 光ファイバケーブル(受光部)
5a、6a 入射端面(受光口)
7 光源
30 演算処理部
41a、41b、42a、42b 入射端面(受光口)
50 光検出部