(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100214
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】広帯域円偏波平面アンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/24 20060101AFI20240719BHJP
H01Q 21/28 20060101ALI20240719BHJP
H01Q 19/10 20060101ALI20240719BHJP
H01Q 13/08 20060101ALI20240719BHJP
H01Q 1/52 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q21/28
H01Q19/10
H01Q13/08
H01Q1/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004038
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】藤本 孝文
【テーマコード(参考)】
5J020
5J021
5J045
5J046
【Fターム(参考)】
5J020AA03
5J020BA06
5J020BC03
5J020BC13
5J020CA04
5J020DA01
5J020DA02
5J020DA03
5J020DA07
5J021AA09
5J021AB06
5J021BA01
5J021HA04
5J021JA02
5J021JA06
5J021JA07
5J045AA02
5J045AA05
5J045AA16
5J045AB05
5J045CA04
5J045DA10
5J045GA04
5J045HA03
5J045LA03
5J045NA07
5J046AA04
5J046AA07
5J046AB03
5J046AB13
5J046UA02
(57)【要約】
【課題】一対の送受信アンテナを近接配置した場合でも、目標値に近いアンテナ特性が得られるようにした。
【解決手段】長方形状の誘電体基板20と、この誘電体基板と対向して配置された反射板60で構成される。誘電体基板の上面でその左右両端側に、所定間隔を隔てて一対の平面アンテナ素子10A、10Bが装荷される。平面アンテナ素子は、楕円パッチ導体30A、30Bと、この楕円パッチ導体に連接して設けられた給電用のストリップ線路42A、42Bとで構成される。誘電体基板の裏面には、この誘電体基板と近似する形状の接地導体板50が設けられる。この接地導体板は、一対の平面アンテナ素子と対応した位置に、パッチ導体とその一部が重なる形状をなす一対の対向導体部50A、50Bと、これら一対の対向導体部を連結する十字形状の連結導体部50Cとで構成される。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
長方形状の誘電体基板と、この誘電体基板と対向して配置された反射板で構成され、
上記誘電体基板の上面でその左右両端側に、所定間隔を隔てて一対の平面アンテナ素子が装荷され、
該平面アンテナ素子は、楕円パッチ導体と、この楕円パッチ導体に連接して設けられた給電用のストリップ線路とで構成され、
上記誘電体基板の裏面には、この誘電体基板と近似する形状の接地導体板が設けられ、
この接地導体板は、上記一対の平面アンテナ素子と対応した位置に、上記楕円パッチ導体とその一部が重なる形状をなす一対の対向導体部と、これら一対の対向導体部を連結する十字形状の連結導体部とで構成された
ことを特徴とする広帯域円偏波平面アンテナ。
【請求項2】
上記楕円パッチ導体は、楕円中心を基準にして傾斜して装荷されると共に、
上記ストリップ線路にはインピーダンス調整用の付加素子が装荷され、
この付加素子は、上記ストリップ線路の上記楕円パッチ導体とは反対側に装荷された
ことを特徴とする請求項1に記載の広帯域円偏波平面アンテナ。
【請求項3】
上記連結導体部は、長方形素子部と、この長方形素子部中央の上下端面よりそれぞれ突出した第1及び第2の矩形素子部とで構成されて、十字形状となされた
ことを特徴とする請求項1に記載の広帯域円偏波平面アンテナ。
【請求項4】
上記連結導体部を構成する長方形素子部と第2の矩形素子部を跨ぐようにスリットが形成された
ことを特徴とする請求項3に記載の広帯域円偏波平面アンテナ。
【請求項5】
上記反射板は、上記誘電体基板と対向して配置される反射板基板の裏面に装荷されると共に、上記誘電体基板の左右方向と同一方向に延びる短冊状素子板が、上記反射板基板の表面上であってその上方端縁に装荷されてなる
ことを特徴とする請求項1に記載の広帯域円偏波平面アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は広帯域円偏波平面アンテナに関する。詳しくは、特に7.25GHz~10.25GHz帯のUWB(Ultra Wide Band)ハイバンド無線通信等に用いることができるプリント基板型の広帯域円偏波平面アンテナに関する。
【背景技術】
【0002】
円偏波はGPS用の電波、衛星デジタル放送用の衛星電波、ETC用などの電波に使用されており、近年、WiFiに代表される無線LANや、中距離通信や移動体通信等に使用されるWiMAXやUWBなどの無線通信に対しても円偏波の利用が拡大してきている。これらの無線通信機器に実装される円偏波アンテナは、薄型・軽量が要求されるため、プリント基板等によって形成される平面アンテナが主流となりつつある。
【0003】
その中でも、広帯域で、円偏波を放射できる平面アンテナとして特許文献1が知られている。これはアンテナ素子として矩形パッチ素子(矩形パッチ導体)ではなく、楕円パッチ素子(楕円パッチ導体)を使用することで、目的の周波数帯域および帯域幅を有しながら円偏波を放射する平面アンテナを実現している。
【0004】
近年、特許文献1に示されているような広帯域特性を有すると共に円偏波を放射する平面アンテナを測距などのレーダーアンテナとして利用する技術が非特許文献1や非特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2016/0766389号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】UWBハイバンドにおける円偏波用プリント基板型モノポールアンテナに関する研究(映像メディア学会技術報告、2019年1月、vol.43、No2、p9~12)
【非特許文献2】Printed monopole antenna for circular polarization in UWB high band(電気・情報関係学会九州支部連合大会講演論文集、2019年9月、p100)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、広帯域で円偏波を発射する平面アンテナを生体観察用の測距レーダとして活用する理由としては、
(1)電磁波帯としてUWBバンドを用いると、広い周波数帯域に亘って電力が拡散され電力密度が低くなるため、人体への侵襲性が少ないこと、
(2)レーダ方式の場合、人体から反射する電波の偏波面が一定しないため、確実に測距するには、電波特性が直線偏波ではなく円偏波の方が対象物を正しく捉えられる、
などが挙げられる。
【0008】
さらに、生体観察用アンテナや自動車用アンテナなどの測距レーダでは、小型化が要求されるため、送信用アンテナと受信用アンテナは近接して配置することが望ましく、非特許文献1や非特許文献2のように同一基板上に僅かに離した状態で一対の平面アンテナが装荷されるのが一般的である。
【0009】
加えて、送信アンテナと受信アンテナを備える送受信一体型広帯域円偏波アンテナとしては、以下の特性を有するアンテナであるのが好ましい。
(1)UWBのハイバンド帯(7.25~10.25GHz)において、アンテナ給電点での反射係数(S11およびS22)が-10dB以下であること、
(2)アンテナの透過係数(S21およびS12)が-40dB以下であること、
(3)天頂方向における円偏波の軸比が3dB以下であること、
(4)天頂方向における利得が4dB以上であること、
これらの条件に加えて、送受信アンテナを並列配置したときの全体寸法が小さいことが望ましい。特に、生体用あるいは車載用の測距レーダとして使用する場合には、特に強く望まれる。
【0010】
上述した非特許文献1及び非特許文献2では、指向性が改善されて高利得化とアンテナ間のアイソレーションが改善されているが、未だ十分な推奨特性までには至っていない。例えば、利得が4dBに満たなかったり、UWBのハイバンド帯(7.25~10.25GHz)でSパラメータのうち透過係数S21やS12が目標とする-40dBより高くなっている。
そこで、この発明はこのような従来の課題を解決したものであって、一対の送受信アンテナを近接配置した場合でも、目標値に近いアンテナ特性が得られるようにした広帯域で円偏波を放射する円偏波平面アンテナを提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決するため、請求項1に記載したこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナは、
長方形状の誘電体基板と、この誘電体基板と対向して配置された反射板で構成され、
上記誘電体基板の上面でその左右両端側に、所定間隔を隔てて一対の平面アンテナ素子が装荷され、
該平面アンテナ素子は、楕円パッチ導体と、この楕円パッチ導体に連接して設けられた給電用のストリップ線路とで構成され、
上記誘電体基板の裏面には、この誘電体基板と近似する形状の接地導体板が設けられ、
この接地導体板は、上記一対の平面アンテナ素子と対応した位置に、上記パッチ導体とその一部が重なる形状をなす一対の対向導体部と、これら一対の対向導体部を連結する十字形状の連結導体部とで構成されたことを特徴とする。
【0012】
請求項2に記載したこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナを構成する上記楕円パッチ導体は、楕円中心を基準にして傾斜して装荷されると共に、上記ストリップ線路の上記楕円パッチ導体とは反対側にインピーダンス調整用の付加素子が装荷されたことを特徴とする。
【0013】
請求項3に記載したこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナにおける連結導体部は、長方形素子部と、この長方形素子部中央の上下端面よりそれぞれ突出した第1及び第2の矩形素子部とを有する十字形状の素子部として構成されたことを特徴とする。
【0014】
請求項4に記載したこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナにおける長方形素子部と第2の矩形素子部を跨ぐようにスリットが形成されたことを特徴とする。
【0015】
請求項5に記載したこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナを構成する反射板は、上記誘電体基板と対向して配置される反射板基板の裏面に装荷されると共に、上記誘電体基板の左右方向と同一方向に延びる短冊状素子板が、上記反射板基板の表面上であってその上方端縁に装荷されてなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
この発明の構成によれば、接地導体板を設けると共に、この接地導体板の中央部に設けた十字状の連結導体部の作用で、UWBのハイバンド帯でのSパラメータのうち透過係数
S21及びS12が目標とする-40dB以下に改善することができた。さらに、ストリップ線路の形状を台形化すると共に、ストリップ線路に付加素子としてインピーダンス整合素子を装荷することによって、UWBバンド帯での反射係数S11およびS22が目標値の-10dB以下となった。
【0017】
さらに、反射板基板に短冊状素子板を装荷することによって、UWB帯の全域に亘り軸比と利得を含めた全ての目標値をクリヤすることが可能になった。結果として、この発明は測距用レーダなどの送受信アンテナを装荷したときに要求されるアンテナ特性のほぼ全てを満足した平面アンテナを提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】この発明に係る広帯域円偏波平面アンテナの一例を示す平面図である。
【
図3】平面アンテナ素子を構成する誘電体基板の裏面に設けられる接地導体板の裏面図である。
【
図4】平面アンテナ素子単体の詳細を説明するための平面図である。
【
図6】この発明に係る広帯域円偏波平面アンテナの他の一例を示す平面図である。
【
図8】Sパラメータのうち、反射係数S11およびS22を示す特性図である。
【
図9】Sパラメータのうち、透過係数S21およびS12を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
続いて、この発明に係る広帯域円偏波平面アンテナの一例を説明する。
【実施例0020】
この発明では広帯域で円偏波を放射する平面アンテナを一対用い、一方を送信アンテナ、他方を受信アンテナとする測距レーダなどとして活用できる広帯域円偏波アンテナを実現する。
【0021】
楕円パッチ素子を使用して円偏波を放射できるようにした平面アンテナ単体(平面アンテナ素子)の基本構成をまず説明する。
この広帯域円偏波平面アンテナは、楕円パッチ導体と接地導体板のそれぞれから放射される電界の振幅の大きさが同じであり(条件1)、楕円パッチ導体から放射される電界と接地導体板側から放射される電界の位相が90°となる(条件2)ように構成されており、これによって広帯域な円偏波特性を実現している。
【0022】
条件1について説明する。楕円パッチ導体からはその長軸方向に沿った方向の向きを持つ電界が発生し、接地導体板からは、その対角線に沿った方向の向きを持つ電界が発生するので、ストリップ線路を含めた楕円パッチ導体の長さと接地導体板の対角線の長さがほぼ一致するように、両者の長さを選定すると、楕円パッチ導体から放射される電界の振幅と、接地導体板から放射される電界の振幅がほぼ一致する。
【0023】
条件2について説明する。楕円パッチ導体の長軸方向と接地導体板の対角線方向とをほぼ直交させることによって、両者から放射される電波はωt=90°だけずれる。そのため直交する2つの電界の位相は90°となって、円偏波を発生させることができる。楕円パッチ導体の長軸方向と接地導体板の対角線方向とをほぼ直交させるために、楕円パッチ導体は誘電体基板に対してαだけ傾斜させる。
【0024】
送信用アンテナと受信用アンテナは同一の構成であるので、その一方のみを詳細に説明する。
図4は円偏波用プリント基板型モノポールアンテナで構成された広帯域円偏波平面アンテナ10の一例を示す。
図5はその側面図である。
【0025】
この平面アンテナ10を構成する平面アンテナ素子10Aは矩形状の誘電体基板20(20A)を有し、その表面20a(
図5)に被着形成された(装荷された)パッチ導体30(30A)と、このパッチ導体30に接続されるストリップ線路42(42A)および
図5に示すように誘電体基板20の裏面20bに被着形成された接地導体板50とで構成される。
【0026】
誘電体基板20は長さがWで、厚みがhの矩形基板が使用される。その比誘電率をεrとする。この例では、誘電体基板20としてプリント基板が使用されている。
パッチ導体30(30A)は楕円パッチであり、長軸t1と短軸t2の長さによって楕円の形状が決まる。楕円パッチ導体30にはストリップ線路42(42A)が接続される。ストリップ線路42はマイクロストリップ線路が使用され、マイクロストリップ線路42の給電点Spを介して送受信信号が給電される。
マイクロストリップ線路42は台形をした短冊状で、その一部に付加素子としてのインピーダンス整合素子45(45A)が接続され、さらにマイクロストリップ線路42は誘電体基板20の端縁よりもわずかにs’だけ短くなされている。
【0027】
楕円パッチ導体30の中心(x0,y0)は、誘電体基板20の中心点Pよりも僅かに右上方(x、y方向)に位置している。長軸t1は、楕円パッチ導体30の中心(x0,y0)を基準にしてαだけ傾斜している。この例では、α=46°の場合を示す。長軸t1は、
図4では誘電体基板20の中心点Pを通っているが、必ずしも通らなくてよい。
【0028】
長軸t1の左下端よりも僅かに右側にシフトした楕円パッチ導体30の周端縁にマイクロストリップ線路42の端縁が位置するように両者の接続位置関係が選定されている。
【0029】
誘電体基板20の裏面20b側には、接地導体板50が被着形成されるが、この接地導体板50は表面20aに被着形成された楕円パッチ導体30とは重ならない位置であって、誘電体基板20よりも小さな面積を覆うように被着形成される。
【0030】
具体的には、接地導体板50は、誘電体基板20の1/2程度の面を覆うような面積(Gx×Gy)となされ、楕円パッチ導体30の下側周縁部に対応した接地導体板50は、楕円パッチ導体30の下側周縁の真下に位置し、下側周縁部に沿った形状(ほぼU字状)の切り込みが形成される。楕円パッチ導体30側から見たとき下側周縁部とのギャップg1及びg2はほぼゼロになる。
【0031】
マイクロストリップ線路42への給電は誘電体基板20の裏面20b側から行われる。そのため
図5に示すようにマイクロストリップ線路42が形成されている誘電体基板20には給電点用のスルホールが設けられ、裏面20b側から給電線70が取り付けられる。給電線70としては同軸ケーブルが使用され、その芯線(内部導体)70aがマイクロストリップ線路42に接続され、アース線(外部導体:網線)70bが接地導体板50に接続される。
【0032】
平面アンテナ素子10Aの単体が貼着された装荷部20Aは
図3のようにほぼ矩形状をなし、頂点q1,q2を結ぶ対角線の長さは、ほぼ上述したマイクロストリップ線路42の長さと楕円パッチ導体30Aの長軸t1の長さを合わせた長さとなるように選定される。
【0033】
図4のように楕円パッチ導体30Aをαだけ傾け、マイクロストリップ線路42の位置を、アンテナ中心Pから若干左側に離すと共に、楕円パッチ導体30Aの中心位置(x0,y0)をアンテナ中心Pから上方にずらし、楕円パッチ導体30Aの長軸t1が接地導体板50の対角線とほぼ直交するように、楕円パッチ導体30Aに関連した接地導体板50の大きさを選定することで平面アンテナ素子10Aが構成される。
図4では長軸t1と接地導体板50の対角線とのなす角は、図示の関係上直交していない。
【0034】
上述のように平面アンテナ素子10A単体の各寸法等を設定することにより、楕円パッチ導体30と接地導体板50のそれぞれから放射される電界の振幅の大きさが同じとなる(条件1)を満足し、また楕円パッチ導体30から放射される電界と接地導体板50側から放射される電界の位相が90°となる(条件2)を満足することになる。
その結果、楕円パッチ導体30Aと接地導体板50には反時計方向に回転する電流が流れるようになるので、楕円パッチ導体30Aおよび楕円パッチ導体30Aに沿った切り込みを設けた接地導体板50を使用することで、広帯域でかつ右回旋の円偏波の電波を放射する平面アンテナを実現できる。
この発明は上述の平面アンテナ素子10A単体の基本構成を踏襲して、近接配置された平面アンテナ素子の一方を送信アンテナとして、他方を受信アンテナとして使用したときのアンテナ特性の改善を図る。
【0035】
図1はこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナ10を測距レーダとして使用したときの平面図であり、
図2は
図1の下面側から見た側面図であり、
図3は
図1の裏面図である。
まず、平面アンテナ素子10A、10Bの長軸側下端に接続されるマイクロストリップ線路42(42A,42B)を台形状とし、さらにマイクロストリップ線路42の上方端縁に付加素子としてのインピーダンス整合素子45(45A、45B)が装荷される。
このマイクロストリップ線路42とインピーダンス整合素子45は共に、反射係数S11(=S22)を改善するために装荷されたものであり、諸種の実験によって、マイクロストリップ線路42を台形化すると共に、平面アンテナ素子10A、10Bを線路インピーダンスにマッチングさせるため、付加素子45を楕円パッチ導体30とは反対側にβだけ傾斜させてマイクロストリップ線路42に装荷する。
【0036】
付加素子45はインピーダンス整合素子として機能し、インピーダンスのマッチングが図れることによって、反射係数S11(=S22)が改善できることが判明した。この例では傾斜角β=50°の場合を示す。
なお、付加素子45を楕円パッチ導体30と同じ側に装荷すると、付加素子45と楕円パッチ導体30との距離が短くなり、付加素子45上の電流と楕円パッチ導体30上の電流との相互影響が大きくなると考えられる。相互影響が大きくなると、円偏波の軸比等に悪影響を及ぼす。相互影響を少なくするため付加素子45は図のように楕円パッチ導体30とは反対側に装荷されることになる。マイクロストリップ線路42やインピーダンス整合素子45のサイズなどは一例である。
【0037】
このような構成を採る平面アンテナ素子10A、10Bは、
図1に示すような誘電体基板20上に装荷される。誘電体基板20はほぼ長方形状であり、その中央上方側(y方向)に形成された切り込み部と下方側の突出部とによって左右に仕切られた両端が、それぞれ平面アンテナ素子10A、10Bの装荷部20A、20Bとして用いられる。中央より左右に折り曲げると一対の平面アンテナ素子10A、10Bが重なるように相互の位置関係が選定されている。
【0038】
誘電体基板20の裏面20b側に、これと対向して、金属製の反射板60が反射板基板62の裏面に取り付けられる。この反射板60は
図1および
図2から明らかなように誘電体基板20を十分にカバーする大きさの平板である。反射板60は天頂方向(z方向)の利得を改善するために設けられている。
【0039】
図3は誘電体基板20の裏面20bに形成された接地導体板50の一例を示す。接地導体板50は誘電体基板20とほぼ同じような形状の一枚構成の板体であって、左右一対の対向導体部50A、50Bと、これらを連結するための連結導体部50Cとで構成され、一対の対向導体部50A、50Bは装荷部20A、20Bに対応した位置に設けられる。
対向導体部50A、50Bは楕円パッチ導体30A、30Bの下端部(1/3程度)をカバーする程度の大きさを有すると共に、楕円パッチ導体30A、30Bの下部周縁とは重ならないようにくり抜かれている。したがって、楕円パッチ導体30A、30Bの周縁と同じ曲面を有するも対向導体部50A、50Bとのギャップg1、g2(
図4)はほぼゼロである。
【0040】
接地導体板50のほぼ中央部に位置する連結導体部50Cは、x方向に延びる長方形素子部55Aと、その中央部の上下に設けられた第1及び第2の矩形素子部55B,55Cとで構成され、全体として十字形の連結板となっている。長方形素子部55Aの中央には、第2の矩形素子部55Cに跨るように縦長に伸びるスリット57が形成されている。
図1に示す平面アンテナ10A、10Bから放射される電波の方向は、
図1のz方向(天頂方向)であるが、z方向へ放射される電界はx方向成分がy方向成分より弱い。スリット57を装荷することにより、スリット57の上下エッジ部にx(横)方向に流れる電流が強く生じ、この電流によりx方向の電界が放射され、x方向とy方向の電界の大きさの差が小さくなる。このため、軸比が改善され、利得が増加する。
【0041】
十字形状でスリット57を有する連結導体部50Cは、アンテナ特性のうち特に透過係数S21(S12)や反射係数S11(S22)を改善するために設けられている。これは一対の平面アンテナ素子10A、10Bを近接配置することに伴って発生するアイソレーション等の劣化を防止するためである。
【0042】
(実施例2)
図6は他の実施例である。この実施例2では、
図7に示すように反射板基板62の上面であって、その上方(y方向)端面側に、左右(x方向)に延びる帯状で金属製の短冊状素子板65が装荷される。短冊状素子板65は、後述するように特に、
図1のように構成することによって発生する軸比特性と利得特性を改善するために設けられている。
続いてこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナ10の諸特性について説明する。まず、実施例1と実施例2を含めた円偏波平面アンテナ10の諸元(パラメータ)についてその一例を説明する。
【0043】
<諸元例>
誘電体基板20の長さ(縦、横とも)W・・・18.525mm
誘電体基板20の厚みh・・・・・・1.6mm
誘電体基板20の比誘電率εr・・・3.3
楕円パッチ導体30の長軸t1・・・6.46mm
楕円パッチ導体30の短軸t2・・・2.47mm
楕円パッチ導体30の傾きα・・・46°
マイクロストリップ線路42の台形の幅・・・3.2mm
対向導体部50A、50Bの頂点q1からx方向の長さGx・・・17.81mm
対向導体部50A、50Bの頂点q1からy方向の長さGy・・・10.64mm
対向導体部50A、50Bの楕円中心までのx方向の長さx0・・・15.18mm
対向導体部50A、50Bの楕円中心までのy方向の長さy0・・・12.46mm
ギャップg1・・・0mm
ギャップg2・・・0mm
給電点Spまでのx方向の長さSX・・・9.2mm
給電点Spまでのy方向の長さSY・・・1.5mm
対向導体部50A、50Bの下端縁からのマイクロストリップ線路端縁42A,42B までの長さs’・・・0.63mm
インピーダンス整合素子45A、45Bの長さsx・・・3.0mm
インピーダンス整合素子45A、45Bの幅・・・0.5mm
インピーダンス整合素子45A、45Bのy軸からの傾きβ・・・50°
長方形素子部55Aの長さa・・・23.275mm
長方形素子部55Aの幅gh・・・4.3mm
第1の矩形素子部55Bの幅dx・・・6.375mm
第1の矩形素子部55Bの長さdy・・・6.575mm
第2の矩形素子部55Cの幅px・・・9.375mm
第2の矩形素子部55Cの長さpy・・・4.0mm
スリット57の幅Slx・・・3.0mm
スリット57の長さSly・・・6.8mm
誘電体基板20と反射板基板62との間隔b・・・8mm
【0044】
続いてこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナ10の諸特性について説明する。
図8は透過係数S21とS12の特性曲線図である。非特許文献1などでは曲線Sa(鎖線図示)に示すようにUWBハイバンド帯(7.25~10.25GHz)では、目標とする-40dBを上回ってしまう傾向が強い。
【0045】
これに対し接地導体板50の中央にスロット付きで十字形の連結導体部50Cを設けた場合には、曲線Sb(破線図示)のようにUWB帯の全域に亘って-40dBを下回る特性が得られた。これは、スロット付き十字形の連結導体部50Cを装荷したことによる効果であって、透過係数S21及びS12が共に改善されていることが判る。
【0046】
図9は反射係数S11及びS22を示す曲線図である。非特許文献1などでは曲線Sc(鎖線図示)のようにほぼ目標値である-10dB以下の特性が得られる。一方前記のように、スロット付き十字形の連結導体部50Cを装荷すると、反射係数S11及びS22が劣化した。そこで、マイクロストリップ線路42の形状を台形状に変更し、さらにこのマイクロストリップ線路42にインピーダンス調整用としての付加素子45を楕円パッチ導体30とは反対側に装荷した。
その結果、
図9曲線Sd(破線図示)のような反射係数S11及びS22が得られた。これによれば、目標となる-10dB以下を満足する値であることが判る。
【0047】
図10は軸比特性を示す。非特許文献1などでは接地導体板50に設けられた連結導体部50Cを、その中央に凸部を有する長方形素子で装荷しているが、このときの軸比特性は曲線Se(鎖線図示)のようにUWBの使用帯域内では十分な軸比特性となっている。
連結導体部50Cとして十字形に変更した場合には、曲線Sf(破線図示)のように、7.25~7.5GHz付近で3dB以上になり、目標値を僅かに超えてしまう。これは、連結導体部50Cを凸型から十字形に変更すると、x軸方向の電界強度が変化し、y軸方向との電界強度の差が大きくなるためである。
【0048】
そこで、実施例2では十字状の連結導体部50Cに変更すると共に、
図6のように短冊状素子板65を装荷した結果、
図10曲線Sg(実線図示)のように、目標値(3dB以下)を満足する軸比特性が得られるようになり、全帯域(7.25~10.25GHz)内で目標値を満足する特性が得られた。
【0049】
図11は利得特性を示す。非特許文献1などでは、特に天頂方向(z方向)の利得特性を向上させるために、反射板60を設けることで曲線Sh(鎖線図示)のように利得特性が4dB以上に改善する。実施例1のように十字状の連結導体部50Cに変更すると、曲線Si(破線図示)のようにUWBのハイバンド帯のうち特に高周波側(10.2~10.25GHz)で4dBを下回ってしまう結果となった。
そこで、実施例2では反射板60の上方端面に、長手方向(x方向)に延びる短冊状素子板65を装荷したもので、これによって曲線Sj(実線図示)のように高周波側でも4dB以上の目標値を確保できるようになった。
実施例2のように短冊状素子板65を装荷したときのその他のアンテナ特性についてさらに検証を行った。透過係数S21、S12については
図8曲線Sk(実線図示)のように、実施例1のときの特性(曲線Sb)と何ら遜色なく、むしろハイバンド帯の低周波側で改善することが判明した。
【0050】
同様に、反射係数S11,S22にあっては、
図9曲線Sl(実線図示)のように短冊状素子板65の装荷による影響は殆ど見られないことが確認された。
なお、
図1に示す平面アンテナ10A、10Bから放射される電波の方向は、
図1のz方向(天頂方向)であるが、z方向へ放射される電界はx方向成分がy方向成分より弱い。
図6のようにx方向と並行に短冊状素子板65を装荷すると、この短冊状素子板65に誘起される電流によってx方向の電界が放射され、x方向とy方向の電界の大きさの差が小さくなる。このため、軸比が改善され、利得が増加する。
【0051】
このように楕円型の平面モノポールアンテナを使用したこの発明に係る広帯域円偏波平面アンテナ10によれば、誘電体基板20としてプリント基板を使用した楕円型モノポールアンテナであるので、平面アンテナの製作が容易であると共に、薄型化および軽量化を実現できるので、アンテナ設置が簡単となり、携帯性にも優れている。加えて、アンテナ特性として動作周波数帯域幅は88.4%を達成できるので、広帯域アンテナを実現できると共に、天頂方向の放射指向特性も一様な利得特性が得られるため、アンテナの向きを考慮することなく使用できる。
【0052】
また動作周波数帯は、広帯域円偏波平面アンテナ10の諸元(パラメータ)を変化させることにより、任意に設定することができる。そのため、この発明に係る広帯域円偏波平面アンテナ10は、レーダ用アンテナを始めとして自動車衝突防止のためのレーダ用アンテナ、生体観察用アンテナ、ETC用アンテナ、衛星用アンテナなどに適用できると共に、本発明に係るモノポールアンテナを使用したこれら広帯域円偏波平面アンテナと送信回路および受信回路もしくはその一方を搭載したアンテナ装置に適用できる。
【0053】
図1では楕円パッチ導体30を誘電体基板20の直交軸に対して右側にαだけ傾けた実施例を説明したが、これとは逆に楕円パッチ導体30を誘電体基板20の直交軸に対して左側にαだけ傾けてもよい。この場合には、接地導体板50も逆向きとなり、
図1を裏返した形状となる。
この発明は、アンテナの向きを考慮する必要性がないので、レーダ用アンテナや自動車衝突防止用レーダ、衛星用を始めとして、生体観察や治療用などのアンテナ(広帯域円偏波平面アンテナ)およびこの広帯域円偏波平面アンテナを搭載したアンテナ装置に適用して効果がある。