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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100218
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】シリーズ電源
(51)【国際特許分類】
   H02M 1/08 20060101AFI20240719BHJP
   H02M 7/48 20070101ALI20240719BHJP
【FI】
H02M1/08 C
H02M7/48 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004052
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(74)【代理人】
【識別番号】100207859
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 尚人
(72)【発明者】
【氏名】蘭 明文
【テーマコード(参考)】
5H740
5H770
【Fターム(参考)】
5H740BA12
5H740HH05
5H740MM12
5H770BA01
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA41
5H770HA19Z
5H770JA07Z
5H770JA09X
5H770JA11W
5H770LA02Z
5H770LA10Z
(57)【要約】
【課題】シリーズ電源から給電対象部へと過電流が継続して供給されることを抑制できるシリーズ電源を提供する。
【解決手段】シリーズ電源50は、第1,第2スイッチ51,52と、第2スイッチ52のゲート及びグランドを電気的に接続する最低電位ダイオード70と、第1スイッチ51のゲート及び高圧電源10の正極側を電気的に接続する高電位側抵抗体61と、第1,第2スイッチ51,52のゲート同士を電気的に接続する低電位側抵抗体62とを備えている。最低電位ダイオード70のカソードは、第2スイッチ52のゲートに電気的に接続されている。シリーズ電源50は、第1スイッチ51に過電流が流れた場合に第1スイッチ51のゲート電荷を引き抜く引き抜き部として、ヒューズ81及び対象ダイオード91を備えている。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源(10)の出力電圧を降圧して給電対象部(Dr)に供給するシリーズ電源(50,150,190,200)において、
前記直流電源の正極側と前記給電対象部とを電気的に接続する経路を構成する複数のトランジスタ(51,52;51~53)と、
前記各トランジスタのうち最も低電位側のトランジスタである最低電位トランジスタ(52;53)のゲート、及びグランドを電気的に接続するツェナーダイオードである最低電位ダイオード(70)と、
前記各トランジスタのうち最も高電位側のトランジスタ(51)のゲート、及び前記直流電源の正極側を電気的に接続する抵抗体である高電位側抵抗体(61)と、
前記各トランジスタにおいて電位的に隣接する前記トランジスタのゲート同士を電気的に接続する抵抗体である低電位側抵抗体(62;62,63)と、
を備え、
前記最低電位ダイオードのカソードは、前記最低電位トランジスタのゲートに電気的に接続され、
前記各トランジスタのうち前記最低電位トランジスタ以外の少なくとも1つのトランジスタである対象トランジスタ(51;51,52)のゲートに電気的に接続され、前記対象トランジスタに過電流が流れた場合に前記対象トランジスタのゲート電荷を引き抜く引き抜き部(81,91;81,82,91,92;100,101;100,103)を備える、シリーズ電源。
【請求項2】
前記引き抜き部として、
前記対象トランジスタの低電位側端子、及び前記対象トランジスタの低電位側に隣接する前記トランジスタ(52;52,53)の高電位側端子を電気的に接続するヒューズ(81;81,82)と、
前記対象トランジスタの低電位側に隣接する前記トランジスタの高電位側端子、及び前記対象トランジスタのゲートを電気的に接続するツェナーダイオードである対象ダイオード(91;91,92)と、
を備え、
前記対象ダイオードのカソードは、前記対象トランジスタのゲートに電気的に接続されている、請求項1に記載のシリーズ電源(150)。
【請求項3】
前記ヒューズは、前記直流電源の出力電圧よりも低い耐電圧を有し、
前記対象ダイオードは、前記ヒューズの耐電圧以下のブレークダウン電圧を有している、請求項2に記載のシリーズ電源。
【請求項4】
前記引き抜き部として、
前記対象トランジスタ(51)の低電位側端子、及び前記対象トランジスタの低電位側に隣接する前記トランジスタ(52)の高電位側端子を電気的に接続する検出用抵抗体(100)と、
放電用トランジスタ(101,103)と、
を備え、
前記放電用トランジスタの制御端子は、前記検出用抵抗体の両端のうち高電位側に電気的に接続され、
前記放電用トランジスタの第1端子は、前記対象トランジスタのゲートに電気的に接続され、
前記放電用トランジスタの第2端子は、前記検出用抵抗体の両端のうち低電位側に電気的に接続され、
前記放電用トランジスタは、前記第2端子に対する前記制御端子の電圧差が閾値電圧以上になることによりオン状態とされ、前記電圧差が前記閾値電圧未満になることによりオフ状態とされる特性を有する、請求項1に記載のシリーズ電源(150)。
【請求項5】
前記最低電位トランジスタの低電位側端子及び前記グランドを電気的に接続するツェナーダイオードである制限ダイオード(102)を備え、
前記制限ダイオードのカソードは、前記最低電位トランジスタの低電位側端子に電気的に接続され、
前記制限ダイオードは、前記給電対象部の耐電圧以下のブレークダウン電圧を有している、請求項4に記載のシリーズ電源。
【請求項6】
前記最低電位トランジスタの低電位側端子と前記グランドとの間に設けられ、前記対象トランジスタに過電流が流れたことを検出する検出回路(111~113;130~133)を備える、請求項4に記載のシリーズ電源(190,200)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シリーズ電源に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1に記載されているように、直流電源の出力電圧を降圧して給電対象部に供給するシリーズ電源が知られている。シリーズ電源は、複数のトランジスタの直列接続体と、各トランジスタに対応する抵抗体と、ツェナーダイオードとを備えている。ツェナーダイオードは、各トランジスタのうち最も低電位側のトランジスタに対応して設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第5621314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
各トランジスタのうち最も低電位側のトランジスタのショート故障が発生し得る。この場合、シリーズ電源の出力電圧が大きく上昇し、シリーズ電源から給電対象部へと過電流が継続して供給される。その結果、給電対象部の故障が発生する懸念がある。
【0005】
本開示は、各トランジスタのうち最も低電位側のトランジスタのショート故障が発生した場合であっても、シリーズ電源から給電対象部へと過電流が継続して供給されることを抑制できるシリーズ電源を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示は、直流電源の出力電圧を降圧して給電対象部に供給するシリーズ電源において、
前記直流電源の正極側と前記給電対象部とを電気的に接続する経路を構成する複数のトランジスタと、
前記各トランジスタのうち最も低電位側のトランジスタである最低電位トランジスタのゲート、及びグランドを電気的に接続するツェナーダイオードである最低電位ダイオードと、
前記各トランジスタのうち最も高電位側のトランジスタのゲート、及び前記直流電源の正極側を電気的に接続する抵抗体である高電位側抵抗体と、
前記各トランジスタにおいて電位的に隣接する前記トランジスタのゲート同士を電気的に接続する抵抗体である低電位側抵抗体と、
を備え、
前記最低電位ダイオードのカソードは、前記最低電位トランジスタのゲートに電気的に接続され、
前記各トランジスタのうち前記最低電位トランジスタ以外の少なくとも1つのトランジスタである対象トランジスタのゲートに電気的に接続され、前記対象トランジスタに過電流が流れた場合に前記対象トランジスタのゲート電荷を引き抜く引き抜き部を備える。
【0007】
本開示のシリーズ電源は、複数のトランジスタ、最低電位ダイオード、高電位側抵抗体及び低電位側抵抗体を備えることにより、直流電源の出力電圧を降圧して給電対象部に供給する。
【0008】
ここで、各トランジスタのうち最も低電位側のトランジスタである最低電位トランジスタのショート故障が発生すると、直流電源の正極側と給電対象部とを電気的に接続する経路に過電流が流れる。この場合、引き抜き部により、対象トランジスタのゲート電荷が引き抜かれる。これにより、対象トランジスタをオフ状態に切り替えたり、対象トランジスタに流れる電流を制限したりすることができる。その結果、シリーズ電源から給電対象部へと過電流が継続して供給されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第1実施形態に係る制御システムの全体構成図。
図2】非常用電源の回路図。
図3】比較例1の回路図。
図4】比較例2の回路図。
図5】第1実施形態の変形例に係る非常用電源の回路図。
図6】第2実施形態に係る非常用電源の回路図。
図7】第2実施形態の変形例に係る非常用電源の回路図。
図8】第3実施形態に係る非常用電源の回路図。
図9】第4実施形態に係る非常用電源の回路図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面を参照しながら、複数の実施形態を説明する。複数の実施形態において、機能的に及び/又は構造的に対応する部分及び/又は関連付けられる部分には同一の参照符号、又は百以上の位が異なる参照符号が付される場合がある。対応する部分及び/又は関連付けられる部分については、他の実施形態の説明を参照することができる。
【0011】
<第1実施形態>
以下、本開示に係るシリーズ電源を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。本実施形態のシリーズ電源は、インバータ制御システムに適用される。
【0012】
図1に示すように、制御システムは、直流電源としての高圧電源10、インバータ20及び回転電機30を備えている。高圧電源10は、充放電可能な蓄電池であり、例えば、リチウムイオン蓄電池又はニッケル水素蓄電池である。回転電機30は、インバータ20を介して高圧電源10に接続されている。なお、高圧電源10及びインバータ20の間には、平滑コンデンサ11が設けられている。また、回転電機30は、例えば、永久磁石界磁型又は巻線界磁型の同期機である。
【0013】
インバータ20は、3相分の上,下アームスイッチSWを備えている。各相の上,下アームスイッチSWの接続点には、回転電機30の巻線31の第1端が接続されている。各相の巻線31の第2端は、中性点で接続されている。本実施形態のスイッチSWは、NチャネルMOSFETである。スイッチSWは、ボディダイオードを有している。なお、インバータ20が有するスイッチSWは、MOSFETに代えて、例えばIGBTであってもよい。この場合、IGBTにフリーホイールダイオードが逆並列接続されていればよい。また、巻線31の接続態様としては、星形結線に限らず、Δ結線であってもよい。
【0014】
インバータ20は、制御回路Dr(「給電対象部」に相当)を備えている。制御回路Drは、各スイッチSWに対応して個別に設けられている。制御回路Drによって各スイッチSWが駆動される。これにより、インバータ20の各相において、上アームスイッチSWと下アームスイッチSWとが交互にオン状態とされる。
【0015】
制御システムは、低圧電源12、絶縁電源40及び非常用電源50を備えている。低圧電源12は、高圧電源10よりも低い出力電圧(具体的には定格電圧)を有する充放電可能な蓄電池であり、例えば鉛蓄電池である。低圧電源12の出力電圧は、例えば、高圧電源10の出力電圧の1/10以下の電圧である。
【0016】
制御システムには、低圧領域と、低圧領域とは電気的に絶縁された高圧領域とが設けられている。低圧領域には、低圧電源12が設けられている。高圧領域には、高圧電源10、インバータ20、回転電機30及び非常用電源50が設けられている。絶縁電源40は、低圧領域と高圧領域とに跨って設けられている。
【0017】
絶縁電源40は、低圧電源12を電力供給源として生成した電力を各制御回路Drに供給する。図1には、絶縁電源40から各下アームスイッチSWに対応する制御回路Drに給電される例が示されている。各制御回路Drは、給電されることにより動作可能になっている。
【0018】
各制御回路Drへの給電は、通常、絶縁電源40によって行われる。一方、絶縁電源40による給電が不可能になった場合、各制御回路Drへの給電は、絶縁電源40に代えて非常用電源50によって行われる。例えば、制御システムが車両に搭載される場合、絶縁電源40による給電が不可能になる状況は、車両の衝突時である。絶縁電源40による給電が不可能になる場合であっても、非常用電源50がバックアップ電源として機能し、各制御回路Drの動作を継続できる。
【0019】
非常用電源50は、高圧電源10の出力電圧を降圧し、降圧した直流電圧を各制御回路Drに供給するシリーズ電源である。非常用電源50は、図2に示すように、第1スイッチ51、第2スイッチ52、高電位側抵抗体61、低電位側抵抗体62、最低電位ダイオード70、ヒューズ81及び対象ダイオード91を備えている。本実施形態において、第1スイッチ51及び第2スイッチ52は、電圧制御型の半導体スイッチング素子であり、具体的にはNチャネルMOSFETである。また、最低電位ダイオード70及び対象ダイオード91は、ツェナーダイオードである。第1スイッチ51、第2スイッチ52、高電位側抵抗体61、低電位側抵抗体62、最低電位ダイオード70、ヒューズ81及び対象ダイオード91は、例えば、制御基板に設けられている。なお、本実施形態において、第2スイッチ52が「対象トランジスタ」に相当する。
【0020】
第1スイッチ51の高電位側端子であるドレインには、高圧電源10の正極側が接続されている。第1スイッチ51の低電位側端子であるソースには、ヒューズ81の第1端が接続されている。ヒューズ81の第2端には、第2スイッチ52のドレインが接続されている。第1スイッチ51と第2スイッチ52とは、1つのヒューズ81によって接続されている。本実施形態において、ヒューズ81はマイクロヒューズである。
【0021】
第2スイッチ52のソースには、各制御回路Drが接続されている。第2スイッチ52のソース電圧が、非常用電源50の出力電圧として各制御回路Drに供給される。
【0022】
高電位側抵抗体61の第1端には、第1スイッチ51のドレイン及び高圧電源10の正極側が接続されている。高電位側抵抗体61の第2端には、低電位側抵抗体62の第1端と、第1スイッチ51の制御端子であるゲートとが接続されている。低電位側抵抗体62の第2端には、最低電位ダイオード70のカソードが接続されている。最低電位ダイオード70のアノードには、高圧領域のグランドが接続されている。最低電位ダイオード70のカソードには、第2スイッチ52のゲートが接続されている。なお、高圧電源10の負極側にも、高圧領域のグランドが接続されている。
【0023】
なお、本実施形態において、各抵抗体61,62は、例えば複数(例えば十数個)の抵抗体の直列接続体で構成されていてもよい。抵抗体は、例えばチップ抵抗体である。抵抗体が複数設けられているのは、各抵抗体61,62の両端における絶縁距離を確保し、制御基板における沿面放電を防止するためである。
【0024】
対象ダイオード91のカソードには、第1スイッチ51のゲートが接続されている。対象ダイオード91のアノードには、ヒューズ81の第2端と、第2スイッチ52のドレインとが接続されている。
【0025】
第2スイッチ52のソース電圧が、非常用電源50の出力電圧となる。第2スイッチ52のソース電圧Vs2は、「VD-Vth」の目標電圧に制御される。VDは、最低電位ダイオード70のブレークダウン電圧である。Vthは、第2スイッチ52の閾値電圧である。第2スイッチ52のゲート電圧が閾値電圧Vth以上となることにより、第2スイッチ52はオン状態となり、第2スイッチ52のゲート電圧が閾値電圧Vth未満となることにより、第2スイッチ52はオフ状態となる。
【0026】
第1スイッチ51のソース電圧Vs1は、「Vs1≒VD+R2/(R1+R2)×VH」となるように制御される。R1は高電位側抵抗体61の抵抗値であり、R2は低電位側抵抗体62の抵抗値である。VHは高圧電源10の出力電圧である。
【0027】
第1スイッチ51及び第2スイッチ52は、高圧電源10の出力電圧(具体的には定格電圧)と同じ耐電圧、又は高圧電源10の出力電圧(具体的には定格電圧)よりも高い耐電圧を有している。これは、各スイッチ51,52のいずれかのショート故障が発生した場合において、ショート故障が発生していない残りのスイッチが、高圧電源10の出力電圧によって故障しないようにするためである。
【0028】
ヒューズ81及び対象ダイオード91は、「引き抜き部」に相当し、第2スイッチ52のショート故障が発生した場合において、高圧電源10から非常用電源50へと流れる過電流を迅速に遮断するための構成である。
【0029】
第2スイッチ52がショート故障した場合、第1スイッチ51のソース電圧Vs1が高圧電源10の1/2程度の電圧となり、ヒューズ81に過電流が流れる。その結果、ヒューズ81が溶断し、第1スイッチ51のソース及び第2スイッチ52のドレイン間が電気的に遮断される。これにより、第1スイッチ51を介した過電流の流通が遮断される。
【0030】
ヒューズ81が溶断されると、高圧電源10から高電位側抵抗体61及び対象ダイオード91を介して第2スイッチ52へと電流が流れる。この際、高電位側抵抗体61により、対象ダイオード91に過電流は流れない。
【0031】
高圧電源10から高電位側抵抗体61及び対象ダイオード91を介して第2スイッチ52へと電流が流れると、対象ダイオード91において電圧ドロップが発生する。この場合、第1スイッチ51のゲート電荷が対象ダイオード91を介して第2スイッチ52側へと引き抜かれ、第1スイッチ51のゲート電圧が低下する。これにより、第1スイッチ51がオフ状態に切り替えられる。その結果、ヒューズ81の両端電圧は、対象ダイオード91のブレークダウン電圧にクランプされるとともに、高圧電源10の出力電圧は、第1スイッチ51のドレイン及びソース間に印加される。ただし、第1スイッチ51は、高圧電源10の出力電圧以上の耐電圧を有しているため故障しない。
【0032】
ここで、ヒューズ81は、高圧電源10の出力電圧よりも低い耐電圧を有している。ヒューズ81の耐電圧は、ヒューズ81が溶断した状態において、ヒューズ81の絶縁破壊によりヒューズ81が再導通することを防止できるヒューズ81の両端電圧の上限値である。ヒューズ81がこのような耐電圧を有しているのは、ヒューズ81の小型化を図るためである。一方、対象ダイオード91は、ヒューズ81の耐電圧と同じブレークダウン電圧、又はヒューズ81の耐電圧よりも小さいブレークダウン電圧を有している。これにより、ヒューズ81の両端電圧をヒューズ81の耐電圧以下にすることができる。その結果、ヒューズ81が溶断した状態において、ヒューズ81の両端のアーク放電の発生を防止し、ヒューズ81の再導通を防止することができる。
【0033】
以上説明した本実施形態によれば、第2スイッチ52のショート故障が発生した場合において、非常用電源50の出力電流を迅速に遮断することができる。また、電流を迅速に遮断する構成を、サイズが大きくて高価な高電圧用ヒューズではなく、サイズが小さくて安価なヒューズ81によって実現できる。
【0034】
これに対し、以下に説明する比較例1,2の場合では、以下に説明する不都合が生じてしまう。図3には、比較例1の非常用電源を示す。比較例1の非常用電源は、スイッチ151、抵抗体161、最低電位ダイオード170及び複数(3つを例示)のヒューズ181を備えている。各ヒューズ181はマイクロヒューズである。スイッチ151、抵抗体161、最低電位ダイオード170及び各ヒューズ181は、制御基板に設けられている。
【0035】
マイクロヒューズは、小型であるがためにヒューズ両端のギャップが狭い。このため、比較的低い電圧でギャップにアーク放電が発生しやすい。このため、比較例1では、ヒューズ181が複数設けられている。しかしながら、この場合、制御基板におけるヒューズ181の実装面積が増加してしまう。
【0036】
図4には、比較例2の非常用電源を示す。比較例2の非常用電源は、スイッチ151、抵抗体161、最低電位ダイオード170及び高電圧ヒューズ182を備えている。スイッチ151、抵抗体161、最低電位ダイオード170及び高電圧ヒューズ182は、制御基板に設けられている。
【0037】
高電圧ヒューズ182は、溶断後のアーク放電による再導通を防止するために、ギャップが広い。このため、高電圧ヒューズ182のサイズは大きくなり、制御基板における高電圧ヒューズ182の実装面積が増加してしまう。
【0038】
<第1実施形態の変形例>
・高圧電源10と制御回路Drとを電気的に接続するスイッチの数は、2つに限らず3つ以上であってもよい。図5には、スイッチが3つ設けられる例を示す。なお、図5に示す構成において、ヒューズ81を第1ヒューズと称し、対象ダイオード91を第1対象ダイオードと称し、低電位側抵抗体62を第1低電位側抵抗体と称すこととする。
【0039】
図5に示すように、非常用電源50は、第3スイッチ53、第2ヒューズ82、第2対象ダイオード92及び第2低電位側抵抗体63を更に備えている。本実施形態において、第3スイッチ53は、NチャネルMOSFETであり、「対象トランジスタ」に相当する。第1スイッチ51に対応して第1ヒューズ81及び第1対象ダイオード91が個別に設けられ、第2スイッチ52に対応して第2ヒューズ82及び第2対象ダイオード92が個別に設けられている。
【0040】
ちなみに、第1,第2スイッチ51,52のうち、いずれかに対応するヒューズ及び対象ダイオードが設けられていなくてもよい。
【0041】
・制御回路Drの上位制御装置は、非常用電源50から制御回路Drへの給電が停止されたと判定した場合、非常用電源50に異常が発生したと判定してもよい。
【0042】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。図6に示すように、本実施形態の非常用電源150では、第1スイッチ51のドレイン及びソース間に過電流が流れた場合において、第1スイッチ51のゲートから電荷を引き抜く構成が変更されている。
【0043】
非常用電源150は、引き抜き部として、検出用抵抗体100と、放電用トランジスタ101とを備えている。本実施形態において、放電用トランジスタ101は、NPN型のバイポーラトランジスタである。
【0044】
検出用抵抗体100の第1端には、第1スイッチ51のソースが接続されている。検出用抵抗体100の第2端には、第2スイッチ52のドレインが接続されている。放電用トランジスタ101の制御端子であるベースには、検出用抵抗体100の第1端が接続されている。放電用トランジスタ101の第1端子であるコレクタには、第1スイッチ51のゲートが接続されている。放電用トランジスタ101の第2端子であるエミッタには、検出用抵抗体100の第2端が接続されている。放電用トランジスタ101は、エミッタに対するベースの電圧差Vbeが放電用トランジスタ101の閾値電圧Vdth以上になることによりオン状態とされ、電圧差Vbeが閾値電圧Vdth未満になることによりオフ状態とされる特性を有する。
【0045】
非常用電源150は、制限ダイオード102を備えている。制限ダイオード102は、ツェナーダイオードである。制限ダイオード102のカソードには、第2スイッチ52のソースが接続され、制限ダイオード102のアノードには、高圧領域のグランドが接続されている。
【0046】
検出用抵抗体100及び放電用トランジスタ101は、第2スイッチ52のショート故障が発生した場合において、高圧電源10から非常用電源50へと流れる電流を第1スイッチ51及び第2スイッチ52の定格電流以下に制限しつつ、制御回路Drへの給電を継続するための構成である。
【0047】
第2スイッチ52のショート故障が発生した場合、高圧電源10から第1スイッチ51、検出用抵抗体100及び第2スイッチ52へと流れる電流が増加する。RDを検出用抵抗体100の抵抗値とする場合、検出用抵抗体100に流れる電流が「Vdth/RD」に到達すると、放電用トランジスタ101のエミッタに対するベースの電圧差Vbeが閾値電圧Vdth以上となり、放電用トランジスタ101がオン状態に切り替えられる。これにより、第1スイッチ51のゲートから放電用トランジスタ101を介して電荷が引き抜かれる。その結果、第1スイッチ51のゲート電圧が低下し、検出用抵抗体100に流れる電流は「Vdth/RD」に維持される。
【0048】
ここで、制限ダイオード102は、制御回路Drの耐電圧以下のブレークダウン電圧を有している。このため、非常用電源150から制御回路Drへの印加電圧が制御回路Drの耐電圧以下とされる。これにより、制御回路Drの故障の発生を抑制できる。
【0049】
以上説明した本実施形態によれば、第2スイッチ52のショート故障が発生した場合であっても、第1スイッチ51等に過電流が流れることを防止しつつ、非常用電源150から制御回路Drへの給電を継続できる。
【0050】
<第2実施形態の変形例>
放電用トランジスタは、NPN型のバイポーラトランジスタに限らず、例えば、図7に示すようにNチャネルMOSFETであってもよい。放電用トランジスタ103の制御端子であるゲートには、検出用抵抗体100の第1端が接続されている。放電用トランジスタ103の第1端子であるドレインには、第1スイッチ51のゲートが接続されている。放電用トランジスタ103の第2端子であるソースには、検出用抵抗体100の第2端が接続されている。放電用トランジスタ103は、ソースに対するゲートの電圧差Vgsが放電用トランジスタ103の閾値電圧以上になることによりオン状態とされ、電圧差Vgsが閾値電圧未満になることによりオフ状態とされる特性を有する。
【0051】
図7に示す構成によれば、第2スイッチ52のショート故障が発生した場合において、検出用抵抗体100に流れる電流は「Vdth2/RD」に維持される。なお、Vdth2は、放電用トランジスタ103の閾値電圧である。
【0052】
<第3実施形態>
以下、第3実施形態について、第2実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。図8に示すように、非常用電源190は、第2スイッチ52のショート故障が発生して第1スイッチ51に過電流が流れたことを検出する検出回路として、第2検出用抵抗体111、抵抗体112及び通知用トランジスタ113を備えている。本実施形態において、通知用トランジスタ113は、NPN型のバイポーラトランジスタである。なお、本実施形態において、検出用抵抗体100を第1検出用抵抗体と称すこととする。
【0053】
第2検出用抵抗体111の第1端には、制限ダイオード102のアノードと、通知用トランジスタ113の制御端子であるベースが接続されている。第2検出用抵抗体111の第2端には、高圧領域のグランドが接続されている。
【0054】
抵抗体112の第1端には、第2スイッチ52のソースと、制限ダイオード102のカソードとが接続されている。抵抗体112の第2端には、通知用トランジスタ113の第1端子であるコレクタが接続されている。通知用トランジスタ113の第2端子であるエミッタには、第2検出用抵抗体111の第2端が接続されている。抵抗体112の第2端の電圧は、通知信号Sgとして上位制御装置120に送信される。
【0055】
通知用トランジスタ113は、エミッタに対するベースの電圧差VAが通知用トランジスタ113の閾値電圧Veth以上になることによりオン状態とされ、電圧差VAが閾値電圧Veth未満になることによりオフ状態とされる特性を有する。
【0056】
第2スイッチ52のショート故障が発生した場合、高圧電源10から第1スイッチ51、第1検出用抵抗体100及び第2スイッチ52等を介して第2検出用抵抗体111へと流れる電流が増加する。REを第2検出用抵抗体111の抵抗値とする場合、第2検出用抵抗体111に流れる電流が「Veth/RE」に到達すると、通知用トランジスタ113がオン状態に切り替えられる。これにより、通知信号Sgの論理がHからLに反転する。上位制御装置120は、通知信号Sgの論理がLに反転したと判定した場合、非常用電源190に異常が発生したと判定し、高圧電源10から非常用電源190への給電を停止する処理を行う。給電停止処理は、例えば、高圧電源10と非常用電源190とを接続するスイッチ(例えばリレー)をオフ状態に切り替える処理とすればよい。
【0057】
ここで、「Veth/RE」は、第2実施形態で説明した「Vdth/RD」よりも小さい値であって、かつ、非常用電源190の正常時において第2検出用抵抗体111が取り得る両端電圧範囲の上限値よりも高い値である。「Veth/RE」<「Vdth/RD」であるため、第1スイッチ51に流れる電流を低減しつつ、非常用電源190に異常が発生した旨を上位制御装置120に通知することができる。
【0058】
<第3実施形態の変形例>
通知用トランジスタは、NPN型のバイポーラトランジスタに限らず、例えばNチャネルMOSFETであってもよい。この場合、通知用トランジスタの制御端子であるゲートには、制限ダイオード102のアノード及び第2検出用抵抗体111の第1端が接続されている。通知用トランジスタの第1端子であるドレインには、抵抗体112の第2端が接続されている。通知用トランジスタの第2端子であるソースには、第2検出用抵抗体111の第2端が接続されている。
【0059】
<第4実施形態>
以下、第4実施形態について、第3実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。図9に示すように、非常用電源200は、第2スイッチ52のショート故障が発生して第1スイッチ51に過電流が流れたことを検出する検出回路として、第2検出用抵抗体131、抵抗体132、保護ダイオード130及び通知用トランジスタ133を備えている。本実施形態において、通知用トランジスタ133は、PNP型のバイポーラトランジスタである。また、保護ダイオード130はツェナーダイオードである。なお、本実施形態において、検出用抵抗体100を第1検出用抵抗体と称すこととする。
【0060】
第2検出用抵抗体131の第1端には、保護ダイオード130のカソードと、通知用トランジスタ133の第1端子であるエミッタとが接続されている。保護ダイオード130のアノードには、第2スイッチ52のソースが接続されている。保護ダイオード130は、第2スイッチ52のゲート及びソース間の保護を目的としたスイッチである。
【0061】
第2検出用抵抗体131の第2端には、最低電位ダイオード70のカソードと、通知用トランジスタ133の制御端子であるベースとが接続されている。最低電位ダイオード70のアノードには、高圧領域のグランドが接続されている。
【0062】
通知用トランジスタ133の第2端子であるコレクタには、抵抗体132の第1端が接続されている。抵抗体132の第2端には、高圧領域のグランドが接続されている。抵抗体132の第1端の電圧は、通知信号Sgとして上位制御装置120に送信される。
【0063】
通知用トランジスタ133は、ベースに対するエミッタの電圧差VBが通知用トランジスタ133の閾値電圧Vfth以上になることによりオン状態とされ、電圧差VBが閾値電圧Vfth未満になることによりオフ状態とされる特性を有する。
【0064】
第2スイッチ52のショート故障が発生した場合、高圧電源10から第1スイッチ51、第1検出用抵抗体100、第2スイッチ52及び保護ダイオード130を介して第2検出用抵抗体131へと流れる電流が増加する。RFを第2検出用抵抗体131の抵抗値とする場合、第2検出用抵抗体131に流れる電流が「Vfth/RF」に到達すると、通知用トランジスタ133がオン状態に切り替えられる。これにより、通知信号Sgの論理がHからLに反転する。上位制御装置120は、通知信号Sgの論理がLに反転したと判定した場合、非常用電源200に異常が発生したと判定し、第3実施形態と同様に、高圧電源10から非常用電源200への給電を停止する処理を行う。
【0065】
ここで、「Vfth/RF」は、第2実施形態で説明した「Vdth/RD」よりも小さい値であって、かつ、非常用電源200の正常時において第2検出用抵抗体131が取り得る両端電圧範囲の上限値よりも高い値である。「Vfth/RF」<「Vdth/RD」であるため、第1スイッチ51に大きな電流が流れる期間を短縮しつつ、非常用電源200に異常が発生した旨を上位制御装置120に通知することができる。
【0066】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0067】
・第4実施形態において、通知用トランジスタは、PNP型のバイポーラトランジスタに限らず、例えばPチャネルMOSFETであってもよい。この場合、通知用トランジスタの制御端子であるゲートには、最低電位ダイオード70のカソードと、第2検出用抵抗体131の第2端とが接続されている。通知用トランジスタの第1端子であるソースには、第2検出用抵抗体131の第1端と、保護ダイオード130のカソードとが接続されている。通知用トランジスタの第2端子であるドレインには、抵抗体132の第1端が接続されている。
【0068】
・第2~第4実施形態において、高圧電源10と制御回路Drとを電気的に接続する経路を構成するスイッチの数が3つ以上であってもよい。
【0069】
・高圧電源10と制御回路Drとを電気的に接続する経路を構成するスイッチとしては、NチャネルMOSFETに限らず、例えば、高電位側端子であるコレクタ、低電位側端子であるエミッタ及び制御端子であるベースを有するNPN型のバイポーラトランジスタであってもよい。
【0070】
・本開示のシリーズ電源は、非常用電源として具体化されるものに限らず、例えば、一次側が高圧電源であるフライバック電源の起動回路として具体化されてもよい。
【符号の説明】
【0071】
10…高圧電源、50…非常用電源、51…第1スイッチ、52…第2スイッチ、61…高電位側抵抗体、62…低電位側抵抗体、70…最低電位ダイオード、81…ヒューズ、91…対象ダイオード、Dr…制御回路。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9