(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100242
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】車両用制動装置
(51)【国際特許分類】
B60T 7/12 20060101AFI20240719BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
B60T7/12 A
B60T13/74 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004088
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大塩 優介
(72)【発明者】
【氏名】平田 聡
【テーマコード(参考)】
3D048
3D246
【Fターム(参考)】
3D048BB41
3D048CC49
3D048HH18
3D048HH58
3D048RR11
3D048RR16
3D048RR21
3D048RR29
3D246BA08
3D246GB15
3D246GB20
3D246GC11
3D246GC16
3D246HA02A
3D246HA34A
3D246HA38A
3D246HB07A
3D246JB11
3D246JB26
3D246JB32
3D246JB43
3D246LA15Z
(57)【要約】
【課題】車両の停車中の制動力が必要以上に増加することを抑制する、簡素な構成の制動装置を提供する。
【解決手段】実施形態の車両用制動装置は、車輪に車両を停車させる制動力である停車制動力が付与されている状態で、変位制限部により摩擦材の変位を制限させて、駆動部により摩擦材の駆動を停止させる第1制御を、実行する第1制御部と、第1制御部による第1制御によって、摩擦材の変位が制限されて、摩擦材の駆動が停止されている状態で、変位制限部により摩擦材の変位の制限を解除させた上で、駆動部により摩擦材を変位させて、当該第1制御によって摩擦材の変位が制限されたときの停車制動力に基づく制動力を車輪に付与し、その状態で、変位制限部により摩擦材の変位を制限させ、駆動部により摩擦材の駆動を停止させる第2制御を、実行する第2制御部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の摩擦材を前記車両の車輪と共に回転する被摩擦部に押し当てることにより、前記車輪に制動力を付与する車両用制動装置であって、前記車輪に付与されている制動力が増加する増加方向と前記車輪に付与されている制動力が減少する減少方向とに前記摩擦材を変位させるべく、前記摩擦材を駆動する駆動部と、前記摩擦材の変位を制限する変位制限部と、を備えている車両用制動装置において、
前記車輪に前記車両を停車させる制動力である停車制動力が付与されている状態で、前記変位制限部により前記摩擦材の変位を制限させて、前記駆動部により前記摩擦材の駆動を停止させる第1制御を、実行する第1制御部と、
前期第1制御部による前記第1制御によって、前記摩擦材の変位が制限されて、前記摩擦材の駆動が停止されている状態で、前記変位制限部により前記摩擦材の変位の制限を解除させた上で、前記駆動部により前記摩擦材を変位させて、当該第1制御によって前記摩擦材の変位が制限されたときの前記停車制動力に基づく制動力を前記車輪に付与し、その状態で、前記変位制限部により前記摩擦材の変位を制限させ、前記駆動部により前記摩擦材の駆動を停止させる第2制御を、実行する第2制御部と、
を備えていることを特徴とする車両用制動装置。
【請求項2】
前記駆動部は電気モータを含み、
前記電気モータの回転角を検出する回転角検出部と、
前記電気モータにかかる負荷を検出する負荷検出部と、
前記摩擦材、前記被摩擦部が所定温度より低いと推定される状態で予め取得された前記回転角と前記負荷との関係である第1関係を記憶する記憶部と、を更に備え、
前記第1制御によって、前記車両の左右輪の両方の前記摩擦材の変位が制限されて、前記摩擦材の駆動が停止されている状態で、前記車両の左右輪の何れか一方の前記摩擦材において前記変位制限部による変位の制限を解除した後、一方の前記摩擦材を前記被摩擦部から離すように前記駆動部を駆動させ、その後、一方の前記摩擦材を前記被摩擦部に押し当てるように前記駆動部を駆動させた際の前記回転角と前記負荷との関係である第2関係と、前記第1関係とを比較した結果を基に前記第2制御の実施可否を判定する判定部と、
を備えていることを特徴とする請求項1に記載の車両用制動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用制動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ブレーキパッドをロータに押し付ける力(以下「クランプ力」という)が必要以上に増加することを抑制すべく、クランプ力がその上限値と下限値との間になるように、ブレーキパッドを駆動する電気モータを制御する制動装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記制御では、クランプ力の変化を監視する必要があり、構成が複雑化してしまっていた。
【0005】
そこで、本発明は、車両の停車中の制動力が必要以上に増加することを抑制する、簡素な構成の制動装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の車両用制動装置は、車両の摩擦材を前記車両の車輪と共に回転する被摩擦部に押し当てることにより、前記車輪に制動力を付与する車両用制動装置であって、前記車輪に付与されている制動力が増加する増加方向と前記車輪に付与されている制動力が減少する減少方向とに前記摩擦材を変位させるべく、前記摩擦材を駆動する駆動部と、前記摩擦材の変位を制限する変位制限部と、を備えている車両用制動装置において、前記車輪に前記車両を停車させる制動力である停車制動力が付与されている状態で、前記変位制限部により前記摩擦材の変位を制限させて、前記駆動部により前記摩擦材の駆動を停止させる第1制御を、実行する第1制御部と、前記第1制御部による前記第1制御によって、前記摩擦材の変位が制限されて、前記摩擦材の駆動が停止されている状態で、前記変位制限部により前記摩擦材の変位の制限を解除させた上で、前記駆動部により前記摩擦材を変位させて、当該第1制御によって前記摩擦材の変位が制限されたときの前記停車制動力に基づく制動力を前記車輪に付与し、その状態で、前記変位制限部により前記摩擦材の変位を制限させ、前記駆動部により前記摩擦材の駆動を停止させる第2制御を、実行する第2制御部と、を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、実施形態の電動制動装置の概略説明図である。
【
図2】
図2は、電動アクチュエータの概略説明図である。
【
図3】
図3は、実施形態の処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
次に図面を参照して本発明の例示的な実施形態について詳細に説明する。
図1は、実施形態の電動制動装置の概略説明図である。
まず、
図1を参照して、車両の車輪(例えば、後輪)に制動力を発生させる電動制動装置DSについて説明する。
電動制動装置DSは、車輪に制動トルクを付与することによって、車輪に制動力を発生させる。電動制動装置DSは、制動装置DB、及び、電動アクチュエータDNにて構成される。なお、以下の説明において、「MT」等の如く、同一記号を付された構成部材、要素、信号、特性等は同一機能のものである。
【0009】
≪制動装置DB≫
制動装置DBは、車輪(後輪)に設けられる。制動装置DBとして、公知のドラム型ブレーキ(例えば、リーディング・トレーリング式のもの)が採用される。制動装置DBによって、車両を減速する制動力(「減速制動力Fx」という)、及び、車両の停車状態を維持する制動力(「駐車制動力Fp」という)が発生される。減速制動力Fx、及び、駐車制動力Fpは、後述する電動アクチュエータ(単に、「アクチュエータ」ともいう)DNを動力源にして発生される。なお、減速制動力Fxはサービスブレーキに、駐車制動力Fpは駐車ブレーキに、夫々、利用される。
【0010】
制動装置DBは、車輪の側に固定される。制動装置DBは、バッキングプレートPL、ブレーキドラムBD、及び、ブレーキシューBSa、BSbを含んで構成される。
【0011】
制動装置DBは、非回転部材であるバッキングプレートPLと、内周側に摩擦面Mdを備え、車輪の回転軸Jkを中心として、車輪と一体となって回転するブレーキドラムBDとを含んでいる。バッキングプレートPLの直径方向に隔たった部位には、夫々、アンカ部材ANと電動アクチュエータDNとが固定されている。アンカ部材ANと電動アクチュエータDN(特に、後述の第1押圧部Pa、第2押圧部Pb)との間には、各々が円弧形状を有する一対のブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの摩擦面(内周面)Mdと対面する状態で設けられている。換言すれば、2つのブレーキシューBSa、BSbは、円筒状のブレーキドラムBDの摩擦面(内周面)Mdに沿って円弧状に伸ばされている。ブレーキシューBSa、BSbは、シューホールドダウンHDによって、バッキングプレートPLの面に沿って移動可能に取り付けられている。
【0012】
ブレーキシューBSa、BSbの外周面には、ブレーキライニングMS(摩擦材)が焼き付けられている。一対のブレーキシューBSa、BSbは、夫々、一方の端部Qa、Qbが電動アクチュエータDNに係合され、他方の端部がアンカ部材ANと当接して、拡開可能に支持される。
【0013】
一対のブレーキシューBSa、BSbの間には、戻し部材(例えば、戻しばね)RSが設けられる。戻し部材RSによって、ブレーキシューBSa、BSbの押圧が解除された場合には、ブレーキシューBSa、BSbが、ブレーキドラムBDの内周面Mdから離れるように移動される。
【0014】
また、一対のブレーキシューBSa、BSbの間には、図示しないアジャスタ付きストラットが設けられる。アジャスタ付きストラットによって、ブレーキライニングMSの摩耗に応じて、ブレーキライニングMSとドラムの摩擦面Mdとの隙間が調整される。
【0015】
ブレーキシューBSa、BSbの下端部は、アンカ部材ANを中心にして回転可能に、バッキングプレートPLの下方に支持される。電動アクチュエータDNは、バッキングプレートPLの上方に支持されている。電動アクチュエータDNは、押圧軸線Ja(後述)の方向(車両前後方向に一致)に突出可能な2つの可動部としての第1押圧部Pa、第2押圧部Pbを有している。第1押圧部Pa、第2押圧部Pbは、電気モータMTの動力によって、突出される。
【0016】
例えば、電気モータMTが正転方向に駆動されると、第1押圧部Pa、第2押圧部Pbは突出(押圧軸線Jaに沿っての拡張)される。これにより、ブレーキシューBSa、BSbの上端部(一方端部)Qa、Qbに押圧力Fsが付与され、ブレーキライニングMSが、ブレーキドラムBDの摩擦面(内周面)Mdに押圧される。ブレーキライニングMSと摩擦面(内周面)Mdとの摩擦によって、ブレーキドラムBDに制動トルクが付与され、車輪が制動される。つまり、電動アクチュエータDNを介して、ブレーキライニングMSが、ブレーキドラムBDの摩擦面(内周面)Mdに押圧され、摺接されることによって、ブレーキライニングMSとブレーキドラムBDとの間に摩擦力が生じる。この摩擦力によって、車輪に制動力が発生され、増加される。
【0017】
車輪の制動力が減少される際には、電気モータMTが逆転方向に駆動され、第1押圧部Pa、第2押圧部Pbの突出が収縮される。これにより、ブレーキシューBSa、BSbの上端部Qa、Qbに作用する押圧力Fsが減少され、ブレーキライニングMSとブレーキドラムBDとの間の摩擦力が減少される。なお、非制動時には、戻し部材RSによって、ブレーキシューBSa、BSbが引き戻されるため、ブレーキライニングMSは、摩擦面(内周面)Mdから離間されている。
【0018】
≪電動アクチュエータDN≫
図2は、電動アクチュエータの概略説明図である。
次に
図2を参照して、電動アクチュエータDNについて説明する。
電動アクチュエータDNは、ハウジングHG、電気モータMT、減速機GS、直動変換機構HN、駐車ブレーキ機構PK、及び、コントローラECUを備えている。
【0019】
ハウジングHGは、電気モータMT、減速機GS、及び、直動変換機構HNを支持するとともに、これら構成部材を覆っている。
電動アクチュエータDNは、ハウジングHGを介して、バッキングプレートPLに固定される。電動アクチュエータDNの一部(特に、回転部材BI、第1直動部材BO1、第2直動部材BO2、第1ストンPI1、第2ピストンPI2を含む、押圧軸線Ja周りの部材)は、バッキングプレートPLに対してブレーキシューBSa、BSbと同じ側に設けられる。
【0020】
一方、電動アクチュエータDNの他の部材(例えば、電気モータMT、車輪側コントローラECW)は、バッキングプレートPLに対してブレーキシューBSa、BSbとは反対側に設けられる。即ち、電動アクチュエータDNは、バッキングプレートPLを貫通するように配置されている。
【0021】
電気モータMTは、制動力Fx、及び、駐車制動力Fpを発生すために動力源である。電気モータMTは、コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUによって駆動される。電気モータMTとして、ブラシ付モータ、或いは、ブラシレスモータが採用される。電気モータMTが正転方向に駆動されると、押圧力Fsが増加され、制動力Fx、Fpが増加される。一方、電気モータMTが逆転方向に駆動されると、押圧力Fsが減少され、制動力Fx、Fpが減少される。電気モータMTには、電気モータMTのロータ(回転子)の位置(回転角)Kaを検出するよう、回転角センサKAが設けられる。
【0022】
減速機GSによって、電気モータMTの回転動力(モータ軸線Jm回りの電気モータMTの出力トルク)が減速される。減速機GSは、複数のギヤ(例えば、2段のギヤ列)にて構成される。電気モータMTの出力シャフトSMに、第1小径ギヤSK1が固定される。中間シャフトSCが設けられ、第1小径ギヤSK1にかみ合うように、中間シャフトSCに第1大径ギヤDK1が固定される。更に、中間シャフトSCには、第2小径ギヤSK2が固定される。第2小径ギヤSK2は、第2大径ギヤDK2にかみ合うように配置される。つまり、電気モータMTの回転動力は、「SK1→DK1→SK2→DK2」の動力伝達経路によって減速され、減速機GS(特に、第2大径ギヤDK2)を介して、直動変換機構HNに入力される。
【0023】
≪直動変換機構HN≫
直動変換機構HNによって、第2大径ギヤDK2の回転動力(即ち、電気モータMTの回転動力)が、直線動力に変換されて、ブレーキシューBSa、BSbに、押圧力Fsとして出力される。つまり、直動変換機構HNによって、電気モータMTの回転運動が、直線運動に変換される。直動変換機構HNは、回転部材BI、第1、第2直動部材BO1、BO2にて構成される。
【0024】
回転部材BIは、円筒形状を有する回転部材(ハウジングHGに対して回転可能な部材)であり、その外周部(円筒外周部)に第2大径ギヤDK2が固定される。つまり、回転部材BIは、電気モータMTによって回転駆動され、第2大径ギヤDK2と回転部材BIとは同軸である。回転部材BIの回転軸線が押圧回転軸線Jaと称呼される。
【0025】
回転部材BIの内周部(円筒内周部)には、めねじが形成されている。また、第1、第2直動部材BO1、BO2には、それぞれ外周におねじが形成されている。これにより、回転部材BIの回転を第1、第2直動部材BO1、BO2の直線運動に変換することができる。ここで、第1直動部材BO1と第2直動部材BO2とはねじのねじれ方向がそれぞれ反対になるように構成されている。対応するように、回転部材BIの内周部のねじも、回転部材BIの中央付近でねじれ方向が反対になるように構成されている。これにより、
図2において回転部材BIが回転すると、第1直動部材BO1は紙面左方向に変位するのに対し、第2直動部材BO2は紙面右方向に変位する。
【0026】
第1、第2直動部材BO1、BO2は、押圧軸線Ja回りの回転方向の動きが拘束された非回転部材であり、押圧軸線Jaに沿ってのみ移動が可能とされる直動部材である。ここで、回転運動の拘束は、第1、第2直動部材BO1、BO2が回転部材BIから突出している部分のBHの外周部の平面と、第1、第2ピストンPI1、PI2の内周部の平面との摺動接触(例えば、2つの平面での摺接である2面取り)によって達成される。或いは、回転運動の拘束は、スプライン機構、キー機構によって行われてもよい。
上記と同様に第1、第2ピストンPI1、PI2の外周部とハウジングHGの内周部とを構成することで、ハウジングHGに対して第1、第2ピストンPI1、PI2の回転を拘束できる。なお、第1、第2ピストンPI1、PI2には、押圧力を検出する図示しない押圧力センサFSが設けられてもよい。
【0027】
≪駐車ブレーキ機構PK≫
駐車ブレーキ機構PKによって、電気モータMTへの通電が停止されても、駐車制動力Fpが維持される。駐車ブレーキ機構PKは、ラチェット歯車RC、つめ部材TS、及び、ソレノイドSLにて構成される。電気モータMTの出力シャフトSMに、ラチェット歯車RCが固定される。
車両が停止している状態で駐車ブレーキ用スイッチSWが操作されると、電気モータMTに通電されることに起因して、押圧力Fsが増加する。押圧力が所定押圧力fpに到達すると、電気モータMTへの通電量は保持され、押圧力Fsが一定に保たれる。その後、ソレノイドSLが、コントローラECUによって制御され、ソレノイドSLと連動するつめ部材TSがラチェット歯車RCにかみ合わされる。ラチェット歯車RCは、作動方向を一方に制限するための方向性を有する歯を有している。このため、つめ部材TSとラチェット歯車RCとが一旦かみ合わされると、電気モータMTへの通電が停止されても、押圧力Fsが維持される(EPBロック)。
【0028】
≪コントローラECU≫
コントローラECU(電子制御ユニット)によって、電気モータMTが制御され、電動アクチュエータDNが駆動される。コントローラECUは、車体側コントローラECB、車輪側コントローラECW、及び、通信バスBSにて構成される。車体側コントローラECBは、車体の側に設けられたコントローラであり、車輪側コントローラECWは、車輪の側に設けられた(例えば、電動アクチュエータDNに内蔵された)コントローラである。車体側コントローラECB、及び、車輪側コントローラECWは、通信バスBSを介して、信号(検出値、演算値等)が、相互に、送受信可能なように接続されている。
コントローラECU(車体側コントローラECB、車輪側コントローラECW)には、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムと、が含まれている。マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、電気モータMTが制御される。更に、車輪側コントローラECWには、電気モータMTを駆動するよう、駆動回路DRが備えられる。駆動回路DRでは、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成されている。ブリッジ回路を介して、電気モータMTへの通電量が制御されることによって、電気モータMTが駆動される。なお、駆動回路DRには、電気モータMTの実際の通電量Iaを検出する通電量センサIA(図示せず)が備えられる。例えば、通電量センサIAとして、電流センサが採用され、電気モータMTへの供給電流Iaが検出される。
車体側コントローラECBには、制動操作量センサBA(例えば、制動操作部材BPの変位センサ)によって検出された制動操作量Ba(制動操作部材BPの操作量)、及び、駐車ブレーキ用スイッチSWの出力信号である駐車信号Sw(駐車ブレーキ用スイッチSWの操作状態を表す信号)が入力される。制動操作量Baに基づいて、サービスブレーキ(「通常制動」ともいう)の作動が行われ、駐車信号Swに基づいて駐車ブレーキの作動が行われる。
【0029】
≪サービスブレーキの作動≫
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPの操作が開始されると、制動操作量Baが「0」から増加される。車体側コントローラECBでは、予め設定された演算マップ、及び、制動操作量Baに基づいて、目標押圧力Ftが演算される。ここで、目標押圧力Ftは、実際の押圧力Fsの目標値である。目標押圧力Ftは、通信バスBSを介して、車体側コントローラECBから、車輪側コントローラECWに送信される。
【0030】
車輪側コントローラECWでは、目標押圧力Ftに基づいて、実際の押圧力Fs(押圧力センサFSの検出値)が、目標押圧力Ftに一致するように、電気モータMTが制御される。具体的には、予め設定された演算マップ、及び、目標押圧力Ftに基づいて、目標通電量Itが、目標押圧力Ftの増加に従って、増加するように演算される。また、目標押圧力Ftと実際の押圧力Fsとの偏差である押圧力hFが演算され、この押圧力偏差hFに応じて、目標通電量Itが調整される。ここで、目標通電量Itは、電気モータMTに対する通電量Iaの目標値である。目標通電量Itに基づいて、実際の通電量Ia(通電量センサIAの検出値)が目標通電量Itに一致するように駆動回路DRが制御され、電気モータMTが駆動される。
【0031】
電気モータMTが駆動されると、その回転が減速機GSを介して、直動変換機構HNの回転部材BIに伝達される。回転部材BIが回転することで、回転部材BIとねじで噛み合う第1直動部材BO1が
図2の紙面左方向に直線運動する。同様に、回転部材BIとねじで噛み合う第2直動部材BO2が
図2の紙面右方向に直線運動する。これにより、第1直動部材BO1の運動が第1ピストンPI1に、第2直動部材BO2の運動が第2ピストンPI2に伝達され、第1押圧部Pa、第2押圧部Pbが突出(電気モータMTが逆回転時は突出が収縮)される。これにより、≪制動装置DB≫にて記載した通り、車輪に制動力が付与(電気モータMTが逆回転時は制動力が減少)される。
【0032】
コントローラECUは、車輪に車両を停車させる制動力である停車制動力が付与されている状態で、変位制限部(駐車ブレーキ機構PK)により前記摩擦材の変位を制限させて、駆動部により摩擦材としてのブレーキライニングMSの駆動を停止させる第1制御を、実行する第1制御部として機能するとともに、第1制御部による第1制御によって、摩擦材の変位が制限されて、摩擦材の駆動が停止されている状態で、変位制限部により摩擦材の変位の制限を解除させた上で、駆動部により摩擦材を変位させて、当該第1制御によって摩擦材の変位が制限されたときの停車制動力に基づく制動力を車輪に付与し、その状態で、変位制限部により摩擦材の変位を制限させ、駆動部により前記摩擦材の駆動を停止させる第2制御を、実行する第2制御部と、して機能する。
【0033】
この結果、電気モータMT、直動変換機構HN等の駆動部による摩擦材としてのブレーキライニングMSの駆動を制御することにより、車輪に所望の制動力を付与することができる。
【0034】
また、コントローラECUによる第1制御によれば、車輪に停車制動力が付与されている状態で変位制限部により摩擦材の変位が制限されるため、電気モータMT、直動変換機構HN等の駆動部による摩擦材の駆動を停止したとしても、車両の停車状態を維持することができる。
【0035】
この場合において、変位制限部の仕様によっては、車輪に付与されている制動力が変化し得る。ここで、変位制限部の仕様とは、変位制限部による摩擦材の変位の制限に関する仕様をいう。
そこで、本実施形態では、コントローラECUによる第2制御によって、摩擦材の変位の制限を解除した上で、第1制御によって摩擦材の変位が制限されたときの停車制動力に基く制動力を車輪に付与し、その状態で、摩擦材の変位を制限し、摩擦材の駆動を停止するようにしている。
これにより、第1制御の実行後に、車輪に付与されている制動力が第1制御によって設定された停車制動力から変化したとしても、車輪に付与されている制動力を停車制動力に基く制動力に再設定することができる。
さらに本実施形態によれば、従来技術のように制動力を監視する必要がないため、制動装置の構成を簡素化することができる。
【0036】
さらに駆動部は電気モータMTを含み、電気モータMTの回転角を検出する回転角センサKA(回転角検出部に相当)と、電気モータMTにかかる負荷を検出する負荷検出部として機能する電気モータMTの電流センサと、車両電源が入った直後や最後に制動力を付与してから所定時間以上経過した後などのように、摩擦材、被摩擦材が所定温度より低いと推定される状態で予め取得された回転角と負荷との関係である第1関係を記憶する記憶部と、を更に備える。
【0037】
そして、第1制御によって、車両の左右輪の両方の前記摩擦材の変位が制限されて、摩擦材の駆動が停止されている状態で、車両の左右輪の何れか一方の摩擦材において変位制限部による変位の制限を解除した後、一方の摩擦材を被摩擦材から離すように駆動部を駆動させ、その後、一方の摩擦材を被摩擦部材に押し当てるように駆動部を駆動させた際の回転角と負荷との関係である第2関係と、第1関係とを比較した結果を基に第2制御の実施可否を判定する判定部と、を備えているようにしてもよい。
【0038】
上記構成において、左右輪の何れか一方の摩擦材とした理由は、左右輪両方の第2関係を同時に取得した場合、車両の停止を維持するための制動力を付与できなくなってしまうためである。また、ABS,ESCなどの制御ブレーキが介入しない限り、左右輪のブレーキの発熱度合いに大きな違いはないと考えられるため、左右輪の一方で判定した結果を左右輪の他方にも適応することが可能であるためである。
【0039】
さらに、上記構成において、車両が位置している路面の勾配を検出する路面勾配検出手段として機能する図示しない加速度センサを用い、路面勾配検出手段により路面の勾配が所定値以下であると判定された場合にのみ、判定部は、第1関係とを比較した結果を基に第2制御の実施可否を判定するようにすることも可能である。
【0040】
判定部は車両の左右輪の一方の制動力を一時的に解除するため、車両が勾配路に存在する場合、車体が傾いてしまうおそれがある。上記路面勾配検出手段によって、車両が平坦路に存在することを確認してから判定部による判定を行うことで、車体が傾くことを抑制することができる。
【0041】
以上の構成によれば、摩擦材、被摩擦材が所定温度より低いと推定される状態で予め取得された回転角と負荷との関係である第1関係を取得することで、電気モータの負荷が上昇し始める回転角を把握でき、この情報を温度情報の代わりとして使用することができる。
【0042】
したがって、第1制御の後に、車両の左右輪の何れか一方の摩擦材を変位可能になるよう変位制限部による制限を解除し、一方の摩擦材を被摩擦材から離す、すなわち制動力をゼロにした後に再度摩擦材を被摩擦部材に押し当てることで、現在の回転角と負荷との関係である第2関係を把握できる。
【0043】
そして、第1関係と第2関係を比較することで、温度を検出することなく把握できる。具体的には、ブレーキドラムBDが熱で膨張している場合、ブレーキドラムが冷めている場合に比べてモータ電流が所定値になる時点の回転角が小さくなることを利用する。他の例として、ブレーキドラムBDが熱で膨張している場合、ブレーキドラムBDが冷めている場合に比べて回転角に対するモータ電流の勾配が小さくなることを利用する。
【0044】
すなわち、温度の代替情報を使用して第2制御の実施可否を判定することで、第2制御を必要な場合のみ実施することができ、電気モータMTの耐久性を向上することができる。また、判定部による判定は常時行われるものではなく、第1制御の後にのみ実施されるため、常時温度推定を行うロジックと比較して演算負荷が低いという利点も得られる。
【0045】
ドラムブレーキとしての制動装置DBでは、熱によるブレーキドラム膨張→時間経過→冷却によるブレーキドラム収縮、といった経過をたどるため、過剰に制動力がかかってしまう「熱締まり」が発生する。また、ディスクブレーキの場合であっても、変位制限部(駐車ブレーキ機構PK)により前記摩擦材の変位を制限したときに、例えば、ブレーキパッドの温度が上がり切っていない場合、変位制限→時間経過→ブレーキパッド膨張、といった経過をたどるため、過剰に制動力がかかってしまう「熱締まり」が発生する可能性がある。そのため、本実施形態はドラムブレーキおよびキャリパブレーキいずれの場合でも対応可能である。
【0046】
次に実施形態の詳細動作例を説明する。
図3は、実施形態の処理フローチャートである。
まず、コントローラECUは、電気モータMTに通電し、押圧力Fsが増加させる(ステップS10)。次に、ソレノイドSLを駆動状態とし、ソレノイドSLに取り付けられたつめ部材TSをラチェット歯車RCにかみ合わせ、EPBロックとした際(ステップS11)のモータ電流値を電流センサにより検出し、記憶する(ステップS12)。同様にEPBロック時のモータ回転角を回転角センサKAにより取得し、記憶する(ステップS13)。
【0047】
このEPBロックの状態は、駆動部により摩擦材としてのブレーキライニングMSの駆動を停止させる第1制御に相当する。
【0048】
続いて、コントローラECUは、電気モータへの通電を終了しタイマカウントを開始する(ステップS14)。
さらにコントローラECUは、タイマカウントの開始からモータ回転角が動いたか否かを判断するに十分な所定時間t1が経過したか否かを判断する(ステップS15)。
【0049】
ステップS15の判断において、未だ所定時間t1が経過していない場合には(ステップS15;No)、コントローラECUは、待機状態となる。
【0050】
ステップS15の判断において、所定時間t1が経過した場合には(ステップS15;Yes)、コントローラECUは、ステップS12で記憶したモータ電流値に所定電流値α(>0)を加えた電流値を電気モータMTに対して印加する(ステップS16)。
【0051】
続いて、コントローラECUは、回転角センサKAによりモータ回転角を再び取得し、モータ回転角が所定角以上変化したか否かを判断する(ステップS17)。
【0052】
ステップS17の判断において、モータ回転角が所定角以上変化した、すなわち、つめ部材TSとラチェット歯車RCとのかみ合いが外れた場合(ステップS17;Yes)、ステップS19に遷移する。一方、ステップS17の判断において、モータ回転角が所定角以上変化しない場合(ステップS17;No)は、ステップS18にて電気モータに印加する電流値を増加し、ステップS17にてモータ回転角が所定角以上変化するまで電気モータの電流を増加する。その後、ステップS12で記憶した電流値を電気モータに印加する(ステップS19)。ステップS17がYesの時点でつめ部材TSとラチェット歯車RCとのかみ合いが外れているため、ステップS20では、ソレノイドSLに通電し駆動状態にすることでEPBロックする。その後、ステップS21で電気モータMTへの通電を終了し、ステップS22でソレノイドSLへの通電を終了する。
【0053】
以上の説明のように本実施形態によれば、従来技術のような軸力センサや温度取得手段または温度推定ロジックをもたなくても、同様の効果を発生させることが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
AN アンカ部材
BO1 第1直動部材
BO2 第2直動部材
BA 制動操作量センサ
BD ブレーキドラム
BI 回転部材
BS 通信バス
BSa ブレーキシュー
DB 制動装置
DK1 第1大径ギヤ
DK2 第2大径ギヤ
DN 電動アクチュエータ
DR 駆動回路
ECB 車体側コントローラ
ECU コントローラ
ECW 車輪側コントローラ
FS 押圧力センサ
GS 減速機
HD シューホールドダウン
HG ハウジング
hF 押圧力偏差
HN 直動変換機構
IA 通電量センサ
Ia 供給電流
Ja 押圧軸線
Jk 回転軸
Jm モータ軸線
KA 回転角センサ
MP マイクロプロセッサ
MS ブレーキライニング
MT 電気モータ
Md 摩擦面
PK 駐車ブレーキ機構
PL バッキングプレート
Pa 第1押圧部
Pb 第2押圧部
PI1 第2ピストン
PI2 第2ピストン
Qa 上端部
Qa 端部
RC ラチェット歯車
RS 部材
SC 中間シャフト
SK1 第1小径ギヤ
SK2 第2小径ギヤ
SL ソレノイド
SM 出力シャフト
SW 駐車ブレーキ用スイッチ
Sw 駐車信号
TS 部材