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特開2024-100250判定装置、判定方法、制御プログラム、および記録媒体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100250
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】判定装置、判定方法、制御プログラム、および記録媒体
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/18 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
F01N3/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004102
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】512093491
【氏名又は名称】株式会社アスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】中路 健
(72)【発明者】
【氏名】胡桃 良臣
【テーマコード(参考)】
3G091
【Fターム(参考)】
3G091AA18
3G091AB13
3G091BA07
3G091BA31
3G091EA05
3G091EA32
(57)【要約】
【課題】DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する。
【解決手段】判定装置(10)は、エンジン(1)の吸入空気量を取得する吸入空気量取得部(11)と、DPF(4)の差圧を取得する差圧取得部(12)と、吸入空気量および差圧との関係を用いて、DPF(4)が洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定部(14)と、判定部(14)が、前記DPFを洗浄すべき状態であると判定した場合、その旨を出力する出力部(15)とを備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンの排気経路に設けられたDPF(Diesel Particulate Filter)が洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定装置であって、
前記ディーゼルエンジンの吸入空気量を取得する吸入空気量取得部と、
前記ディーゼルエンジンからの排気が前記DPFを通過する前と通過した後との気圧の差である差圧を取得する差圧取得部と、
同時に取得した前記吸入空気量および前記差圧との組を用いて、前記DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定部と、
前記判定部が、前記DPFを洗浄すべき状態であると判定した場合、その旨を出力する出力部と、を備えた判定装置。
【請求項2】
前記判定部は、前記吸入空気量と前記差圧との組から導出される、該吸入空気量と該差圧との関係を示す回帰直線の傾きと第1閾値とを比較して、前記DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する、請求項1に記載の判定装置。
【請求項3】
前記判定部は、前記吸入空気量に対する前記差圧の変化量が第1閾値を超えた場合、前記DPFが洗浄すべき状態であると判定する、請求項2に記載の判定装置。
【請求項4】
前記判定部は、所定の間隔で前記回帰直線の傾きと閾値との比較を繰り返し行うものであり、
前記回帰直線の傾きが第1閾値を連続して所定回数超えた場合、または、
所定期間において、前記比較の回数に対する前記回帰直線の傾きが第1閾値を超えた回数が所定割合を超えた場合、
前記DPFが洗浄すべき状態であると判定する、請求項2に記載の判定装置。
【請求項5】
前記判定部は、前記回帰直線の傾きが前記第1閾値よりも小さい第2閾値を超えたとき、前記DPFが洗浄すべき状態に近付いていると判定する、請求項2に記載の判定装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記回帰直線の傾きが前記第2閾値を超え、かつ、以下の追加条件(1)~(5)の少なくとも何れかを満たしたとき、
(1)前記ディーゼルエンジンからの排気温度が第1所定時間内に第1所定温度以上変化した、
(2)前記DPFの通過前の排気の温度が通過後の排気の温度よりも高く、かつ、前記DPFの通過前と通過後との排気の温度差が第3閾値を超えた、
(3)前記DPFの通過前の排気の温度が通過後の排気の温度よりも低く、かつ、前記DPFの通過前と通過後との排気の温度差が第4閾値を超えた、
(4)前記DPFの通過前または通過後の排気の温度が第5閾値を超えた、
(5)前記ディーゼルエンジンの制御を行うECUにおいて、故障診断コードが出力された、
(6)前記DPFの自動再生が行われるまでの期間が、前回以前よりも短くなった状態が、一定期間続いた、
前記DPFが洗浄すべき状態であると判定する、請求項5に記載の判定装置。
【請求項7】
前記吸入空気量取得部および前記差圧取得部は、取得条件が満たされているときに限り、前記吸入空気量および前記差圧を取得する、請求項1に記載の判定装置。
【請求項8】
前記取得条件は、
前記ディーゼルエンジンがアイドリング状態ではない、
前記DPFの自動再生、手動再生、強制再生の何れもが行われていない、
前記DPFの温度が第6閾値以下である、
前記ディーゼルエンジンを備える車両のPTO(Power Take Off)が未使用である、
前記車両のラジエターの温度が第7閾値以上である、
の少なくとも何れかである、請求項7に記載の判定装置。
【請求項9】
ディーゼルエンジンの排気経路に設けられたDPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定方法であって、
前記ディーゼルエンジンの吸入空気量を取得する吸入空気量取得ステップと、
前記ディーゼルエンジンからの排気が前記DPFを通過する前と通過した後との気圧の差である差圧を取得する差圧取得ステップと、
同時に取得した前記吸入空気量および前記差圧との組を用いて、前記DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップで、前記DPFを洗浄すべき状態であると判定した場合、その旨を出力する出力ステップと、を含む判定方法。
【請求項10】
請求項1に記載の判定装置としてコンピュータを機能させるための制御プログラムであって、前記判定部としてコンピュータを機能させるための制御プログラム。
【請求項11】
請求項10に記載の制御プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンに用いられるDPF(Diesel Particulate filter)を洗浄するタイミングを判定する判定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ディーゼルエンジンが知られている。ディーゼルエンジンは、ガソリンを比較して発火点が低い軽油を燃料とし、高圧縮で高温となった空気に軽油を噴射することで自然発火してピストンを駆動させるものである。例えば、特許文献1には、ディーゼルエンジンの一例が記載されている。
【0003】
現在走行しているディーゼル自動車には、排出ガス規制に伴うPM低減のため、ディーゼル微粒子捕集フィルタ(DPF)が取り付けられている。DPFは、ディーゼルエンジンの排気ガスから、煤などを取り除く役割をもつ。
【0004】
DPFは、排気ガスから取り除いた煤によりフィルタが目詰まりしないように、煤を高温で燃焼して、詰まりを解消する再生処理を定期的に行う。しかし、DPFにより排気ガスから取り除かれる微粒子は煤のみではなく、アッシュも含まれる。アッシュは、カルシウム化合物・金属系添加剤であり、燃焼されないため再生処理を行っても堆積していく。アッシュが堆積するとDPFが目詰まりし、フィルタとしての機能が低下する。そこで、DPFからアッシュを取り除くため、DPFは定期的に洗浄することが求められる。ただし、通常、DPFは、酸化触媒と共に用いられるが、洗浄を行うと酸化触媒の能力が低減する。よって、頻繁に洗浄することは望ましくない。一方、洗浄が遅れると、アッシュが堆積し、DPFのひび割れ、溶損が発生し、DPFを交換する必要が出てくる。よって、DPFをどのタイミング洗浄するかは難しい問題となっている。
【0005】
現在では、以下のタイミングでDPFの洗浄を行うことが多い。(1)ディーゼル自動車を加速しようとしても、時速が上がらなくなった。(2)DPFの手動再生機能を促す表示の周期が短くなった。他には、(3)年に1度の自動車の定期点検の複数回に一回。しかし、(1)では、既にDPFが破損しており、交換が必要となることも多い。(2)では、そもそも、手動再生機能を促す表示の周期とDPFの詰まり具合とに相関関係がなく、意味のあるタイミングとは言えない。(3)では、洗浄が不要なタイミングであることも多く、酸化触媒を劣化させてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58-222916号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、従来技術では、DPFをいつ洗浄するかは、ユーザによって経験的に行われているような状態であり、DPFの洗浄タイミングを適切に知る方法は確立されていない。また、DPFの内部でどのような現象が発生しているのか明確にはなっておらず、DPFの詰まり具合を正確に把握するための技術も存在しない。
【0008】
本発明の一態様は、上記の問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、DPFが洗浄すべき状態にあるのか否かを適切に判定できる判定装置等を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、エンジンに吸入される吸入空気量とDPFの通過前後の差圧との関係を用いることにより、DPFが洗浄すべき状態であるのか否かを見分けることができることを見出した。
【0010】
そこで、前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る判定装置は、ディーゼルエンジンの排気経路に設けられたDPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定装置であって、前記ディーゼルエンジンの吸入空気量を取得する吸入空気量取得部と、前記ディーゼルエンジンからの排気が前記DPFを通過する前と通過した後との気圧の差である差圧を取得する差圧取得部と、同時に取得した前記吸入空気量および前記差圧との組を用いて、前記DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定部と、前記判定部が、前記DPFを洗浄すべき状態であると判定した場合、その旨を出力する出力部とを備える。
【0011】
また、本発明の一態様に係る判定方法は、ディーゼルエンジンの排気経路に設けられたDPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定方法であって、前記ディーゼルエンジンの吸入空気量を取得する吸入空気量取得ステップと、前記ディーゼルエンジンからの排気が前記DPFを通過する前と通過した後との気圧の差である差圧を取得する差圧取得ステップと、同時に取得した前記吸入空気量および前記差圧との組を用いて、前記DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップで、前記DPFを洗浄すべき状態であると判定した場合、その旨を出力する出力ステップとを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明の一態様によれば、吸入空気量と差圧とを用いて、DPFが洗浄すべき状態であるのか否かを判定するので、DPFが洗浄すべき状態であるのか否かを適切に判定できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態に係る判定装置を含むディーゼルエンジンシステムの全体概要を示す図である。
図2】判定装置の要部構成を示す機能ブロック図である。
図3】吸入空気量データおよび差圧データの例を示す図である。
図4】吸入空気量および差圧の時間的変化を示す図である。
図5】吸入空気量および差圧を2次元グラフにプロットしたときの回帰直線の例を示すグラフである。
図6】回帰直線の傾きの時間的変化の例を示す図である。
図7】通知例を示す図である。
図8】判定結果を表示する例を示す図である。
図9】判定装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔実施形態1〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。まず、図1を参照して、本実施形態に係る判定装置10を含むディーゼルエンジンシステム100について説明する。図1は、ディーゼルエンジンシステム100の全体概要を示す図である。ディーゼルエンジンシステム100は、例えば、トラック等の自動車に搭載されるエンジンシステムである。図1に示すように、ディーゼルエンジンシステム100は、エンジン1、エンジン1の排気経路に設けられたDPF装置2、エンジン1の排気経路から排気の一部の再度、エンジン1に取り込むためのEGRクーラ5、ECU(Electronic Control Unit)8、および判定装置10を含む。また、DPF装置2は、酸化触媒3およびDPF4を含む。
【0015】
また、ディーゼルエンジンシステム100には、DPF4を通過する排気の前後の気圧の差を計測する差圧センサ6、エンジン1に取り込まれる吸入空気量を計測するエアロフローセンサ7が取り付けられている。差圧センサ6、エアロフローセンサ7で計測されたそれぞれのデータは、エンジン1を電子的に制御するECU8に送信される。
【0016】
なお、ディーゼルエンジンシステム100のうち、判定装置10を除く部分は、従来のディーゼルエンジンシステムにより実現できるため、その詳細な説明は割愛する。
【0017】
次に図2を参照して判定装置10について説明する。図2は、判定装置10の要部構成を示す機能ブロック図である。図2に示すように、判定装置10は、吸入空気量取得部11、差圧取得部12、記憶部13、判定部14、および出力部15を含む。
【0018】
吸入空気量取得部11は、エンジン1に吸入される吸入空気量をエアロフローセンサ7から取得する。吸入空気量取得部11は、吸入空気量を周期的に取得するものであってよい。そして、取得した吸入空気量を取得日時とともに吸入空気量データ31として記憶部13に記憶させる。
【0019】
差圧取得部12は、エンジン1からの排気がDPF4を通過する前と通過した後との気圧の差である差圧を差圧センサ6から取得する。差圧取得部12は、差圧を周期的に取得するものであってよい。そして、取得した差圧を取得日時とともに差圧データ32として記憶部13に記憶させる。
【0020】
吸入空気量取得部11が吸入空気量を取得するタイミングと差圧取得部12が差圧を取得するタイミングとは同時、もしくは略同時刻である。よって、吸入空気量データ31と差圧データ32とにおける取得日時は同時刻または略同時刻となる。
【0021】
図3に、吸入空気量データ31および差圧データ32の例を示す。図3に示すように、例えば、吸入空気量データ31では、取得日時と吸入空気量(g/s)とが対応付けて記憶されている。同様に、差圧データ32では、取得日時と差圧(kPa)とが対応付けて記憶されている。図3に示す例では、「2022/8/1 6:00における吸入空気量が48(g/s)」、「2022/8/1 6:01における吸入空気量が48(g/s)」、「2022/8/1 6:02における吸入空気量が50(g/s)」、…、というように記憶されている。ここで、gはグラム、sは秒を示す。また、「2022/8/1 6:00における差圧が2.5(kPa)」、「2022/8/1 6:01における差圧が2.5(kPa)」、「2022/8/1 6:02における差圧が2.8(kPa)」、…、というように記憶されている。
【0022】
吸入空気量取得部11および差圧取得部12は、以下の取得条件1~5の少なくとも何れかが満たされる場合にのみ、吸入空気量および差圧を取得するものであってよい。
1.エンジン1がアイドリング状態ではない。例えば、車両のアクセルが踏まれている状態である。
2.DPF4の自動再生、手動再生、強制再生の何れもが行われていない。
3.DPF4の温度が300℃(第6閾値)以下である。
4.エンジン1を備える車両のPTO(Power Take Off)が未使用である。
5.エンジン1を備える車両のラジエターの温度が60℃(第7閾値)以上である。
【0023】
エンジン1がアイドリング状態である場合、DPF4の温度が高すぎる場合等は、DPF4の正確な状態を把握しにくい。そこで、上記の取得条件を設けることで、DPF4の状態を把握するために適切なデータを取得するということができる。
【0024】
図4に、吸入空気量取得部11が取得する吸入空気量、および差圧取得部12が取得する差圧の時間的変化を表わすグラフ例を示す。図4の401は、縦軸が吸入空気量(g/s)、横軸が時間を示す。また、図4の402は、縦軸が差圧(kPa)、横軸が時間を示す。
【0025】
判定部14は、吸入空気量取得部11が取得した吸入空気量と、差圧取得部12が取得した差圧との関係を用いて、DPF4の状態が、洗浄すべき状態にあるか否かの判定を行う。
【0026】
具体的には、判定部14は、判定時点までの所定期間に取得した吸入空気量と差圧との組から、吸入空気量と差圧との関係を示す回帰直線を導出する。そして、導出した回帰直線の傾きと予め設定された閾値(第1閾値)とを比較して、DPF4の状態が、洗浄すべき状態にあるか否かの判定を行う。所定期間は、判定時点の24時間前から判定時点まででもよいし、判定時点の12時間前からでもよいし、判定時点の6時間前からでもよい。また、判定日の前日または全営業日としてもよい。
【0027】
回帰直線は、次のように算出する。まず、縦軸を差圧、横軸を吸入空気量とした散布図に、所定期間内に、吸入空気量取得部11が取得した吸入空気量と、差圧取得部12が取得した差圧との組をプロットする。これにより、散布図上に、X座標が吸入空気量、Y座標が差圧を示す点(吸入空気量,差圧)が、複数プロットされることになる。複数の点からこれらの点の座標に基づく回帰直線を求めることは公知であるので、これにより、吸入空気量と差圧との関係を示す回帰直線を導出することができる。例えば、回帰直線は最小二乗法により導出できる。
【0028】
図5に回帰直線の例を示す。図5では、縦軸が差圧(kPa)、横軸が吸入空気量(g/s)である散布図に、所定期間内に取得された吸入空気量と差圧との組である点がプロットされている。そして、これらの点によって導出された回帰直線Lが示されている。この回帰直線Lを示す式が仮にy=ax+bであるとすると、回帰直線Lの傾きはaということになる。すなわち、傾きaは、吸入空気量に対する差圧の変化量ということができる。
【0029】
判定部14は、この傾きaが閾値を超える場合、DPF4の状態が、洗浄すべき状態であると判定する。例えば、回帰直線の傾きの推移が図6に示すようになったとする。ここで、閾値が0.04であり、傾きが閾値を超えたときに、DPF4の状態が洗浄すべき状態にあると判定する場合、Xの時点でDPF4の状態が、洗浄すべき状態にあると判定することになる。
【0030】
なお、判定部14は、傾きが閾値を超えた回数が1回ではなく、複数回、傾きが閾値を超えたか否かで判定を行ってもよい。すなわち、判定部14は、所定の間隔をあけて、判定を繰り返し、傾きが閾値を超えた回数が所定回数を超えた場合、DPF4の状態が、洗浄すべき状態にあると判定してもよい。また、連続して傾きが閾値を超えた回数が所定回数を超えた場合、DPF4の状態が、洗浄すべき状態にあると判定してもよい。また、所定期間において、傾きが閾値を超えた回数が所定回数を超えた場合、DPF4の状態が、洗浄すべき状態にあると判定してもよい。また、所定期間において、比較の回数に対する傾きが閾値を超えた回数の割合が閾値を超えた場合、DPF4の状態が、洗浄すべき状態にあると判定してもよい。
【0031】
また、傾きの変化の移動平均をとり、この移動平均が閾値を超えるか否かにより、DPF4が洗浄すべき状態にあるか否かを判定してもよい。
【0032】
判定部14が、判定を行うタイミングは、エンジン1が稼働している状態であれば、数分から数時間おきに行われてもよいし、1日1回行われるものであってもよい。1日1回、判定を行う場合、例えば、その日最初にエンジン1が始動されたときに行ってもよいし、予め決まった時刻に行ってもよい。
【0033】
また、判定部14は、DPF4が洗浄すべき状態であるか否かだけでなく、DPF4が洗浄すべき状態に近付いているか否かについても判定してもよい。これは、DPF4が洗浄すべき状態であると判定するときに用いた閾値よりも少し小さい閾値を設定することで判定できる。
【0034】
出力部15は、判定部14が、DPF4の状態が洗浄すべき状態にあると判定した場合、その旨を出力する。出力部15の出力先は、例えば、音、光等を用いて通知を行う通知部であってもよいし、運行管理者等が管理する管理装置であってもよい。
【0035】
また、出力部15は、判定部14による判定結果およびそのときの回帰直線の傾きを管理装置801(図8)に出力してもよい。すなわち、DPF4の状態が洗浄すべき状態にある旨のみではなく、判定部14が、DPF4の状態は洗浄すべき状態ではないと判定した旨も出力してよい。
【0036】
図7に通知部701の例を示す。図7に示す例は、通知部701が自動車のダッシュボードに設けられている例を示す。通知部701は、例えば、出力部15からの出力により点灯する。これにより、ドライバーは、DPF4が洗浄すべき状態であることを認識することができる。なお、通知部701は、点灯、消灯ではなく、色を変えることにより通知してもよいし点滅してもよい。例えば、常時、緑色に点灯し、出力部15から出力があったときは赤色に点灯するものであってもよい。また、DPF4が洗浄すべき状態に近付いていることについても判定する場合、DPF4が洗浄すべき状態に近付いている場合は、黄色に点灯してもよい。また、音を出力することにより通知してもよい。
【0037】
図8に、出力部15からの出力結果が管理装置801で表示される例を示す。図8に示す例では、運行管理者の管理装置801に、判定装置10の判定結果が表示されている。図8に示す表示例802では、日付ごとに、傾きと評価が表示されている。例えば、「2022/8/1」では傾きが「0.035」であり、評価は「○(緑)」である。「緑」は緑色で表示されていることを示す。また、「2022/8/7」では、傾きが「0.04」であり、評価は「○(赤)」である。ここでは、赤色表示が、DPF4が洗浄すべき状態であることを示している。よって、運行管理者は、この表示例802を確認することにより、2022/8/7に、DPF4が洗浄すべき状態となったことを認識することができる。
【0038】
運行管理者にも判定装置10の判定結果を認識させることで、ドライバーと運行管理者とで認識の相違が発生した場合でも、客観的に、DPF4がどのような状態であったのかを把握することができる。
【0039】
〔処理の流れ〕
次に、図9を参照して、判定装置10における処理の流れを説明する。図9は、判定装置10における処理の流れを示すフローチャートである。
【0040】
上述したように、判定装置10では、吸入空気量取得部11が吸入空気量を繰り返し取得して記憶部13に格納し、差圧取得部12が差圧を繰り返し取得して記憶部13に格納している。
【0041】
まず、判定部14は、記憶部13に格納されている吸入空気量データ31、差圧データ32のうち、所定期間に取得されたデータを取得する(S101、吸入空気量取得ステップ、差圧取得ステップ)。次に、判定部14は、取得した吸入空気量および差圧の組から回帰直線を導出する(S102)。そして、回帰直線の傾きが閾値を超えると(S103でYES、判定ステップ)、出力部15は、DPF4の状態が、洗浄すべき状態にある旨を出力する(S104、出力ステップ)。
【0042】
〔変形例〕
判定部14は、回帰直線の傾きのみではなく、他の条件も加えて、DPF4が洗浄すべき状態であるか否かの判定を行ってもよい。
【0043】
例えば、判定部14は、回帰直線の傾きが前記第1閾値よりも小さい第2閾値を超えたとき、DPF4が洗浄すべき状態に近付いていると判定してもよい。さらに、回帰直線の傾きが第2閾値を超え、かつ以下の追加条件1~5の少なくとも何れかが満たされたとき、DPF4が洗浄すべき状態であると判定してもよい。
1.エンジン1からの排気温度が大きく変化した。例えば、第1所定時間内に第1所定温度以上変化した。
2.DPF4の通過前の排気の温度が通過後の排気の温度よりも高く、かつ、DPF4の通過前と通過後との排気の温度差が80℃(第3閾値)を超えた。この場合、DPF4内部での燃焼が妨げられ、自動再生が十分行われていない状態である可能性がある。なお、DPF4の通過前と通過後との排気の温度差が80℃を超える状態が5分以上続いた場合に、DPF4が洗浄すべき状態にあると判定してもよい。
3.DPF4の通過前の排気の温度が通過後の排気の温度よりも低く、かつ、DPF4の通過前と通過後との排気の温度差が200℃(第4閾値)を超えた。この場合、DPF4の内部で、煤の異常燃焼が発生し、内部溶損を起こしている可能性がある。なお、DPF4の通過前と通過後との排気の温度差が200℃を超え、かつ、通過後の排気の温度が600℃以上の場合に、DPF4が洗浄すべき状態にあると判定してもよい。
3.DPF4の通過前または通過後の排気の温度が700℃(第5閾値)を超えた。
4.エンジン1の制御を行うECU8において、故障診断コードが出力された。例えば、ECU8において、DPF4高温異常、煤過堆積異常、EGR異常などの故障診断コード(DTC)が出力された場合。
5.DPF4の自動再生が行われるまでの走行距離が、前回以前よりも短くなった状態が、一定期間続いた。例えば、通常200kmに1回程度の行われていた自動再生が極端に短くなった場合。
【0044】
判定部14は、上記の追加条件に用いられるそれぞれのデータは、ECU8から取得可能である。よって、判定部14は、ECU8からこれらのデータを取得し、回帰直線の傾きに加えて、追加条件を満たすか否かにより、DPF4が洗浄すべき状態であるか否かを判定することができる。
【0045】
以上のように、本実施形態に係る判定装置10は、エンジン1の排気経路に設けられたDPF4が洗浄すべき状態であるか否かを判定するものである。そして、エンジン1の吸入空気量を取得する吸入空気量取得部11と、エンジン1からの排気がDPF4を通過する前と通過した後との気圧の差である差圧を取得する差圧取得部12と、同時に取得した吸入空気量および差圧との組を用いて、DPF4が洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定部14と、判定部14が、DPF4を洗浄すべき状態であると判定した場合、その旨を出力する出力部15とを備える。
【0046】
DPF4の洗浄が遅れると、DPF4のひび割れ、溶損等につながる。DPF4にこれらの事象が発生するとDPF4自体を交換する必要がある。DPF4は高価であり、ユーザは不要な交換は避けたいと考えるのが通常である。
【0047】
前記の構成によれば、DPF4が洗浄すべき状態であるのか否かを適切に判定できるので、ユーザがDPF4を洗浄するタイミングを失する機会を抑制できる。また、無駄に多くの洗浄を行ってしまうことも抑制できる。よって、DPF4洗浄回数を最小限に抑えることができる。さらに、洗浄のための費用と時間とを軽減できる。また、無用な交換を抑制できるので、新品部品の製造にかかわる二酸化炭素の削減にも寄与できる。
【0048】
また、DPF4の洗浄を適切なタイミングを行うことにより、DPF4の寿命を長くすることができ、DPF4の交換回数も削減できる。また、交換の為の費用と時間とを軽減できる。
【0049】
さらに、DPF4の問題により自動車そのものが停止してしまうことを抑制できるので、自動車が動かなくなることによる不都合を回避できる。例えば、荷物を搬送しているトラックが停止した場合、荷物を予定通り配送できなくなることにより、配送会社の信用の失墜、賠償責任等の問題が生じる危険性がある。このような危険の発生を事前に回避することができる。
【0050】
また、適切なタイミングでDPF4の洗浄を行っているにもかかわらず、DPF4の問題が発生する場合、DPF4以外に原因があると考えることができ、他の箇所の故障の発見等につなげることもできる。
【0051】
また、前記の通り、洗浄タイミングの最適化を図れることにより、脱炭素にもつながる。これは、例えば、国連が提唱する持続可能な開発目標(SDGs)の目標13「気候変動及びその影響を軽減するための緊急対策を講じる」等の達成にも貢献するものである。
【0052】
〔ソフトウェアによる実現例〕
判定装置10(以下、「装置」と呼ぶ)の機能は、当該装置としてコンピュータを機能させるためのプログラムであって、当該装置の各制御ブロック(特に判定部14)としてコンピュータを機能させるためのプログラムにより実現することができる。
【0053】
この場合、上記装置は、上記プログラムを実行するためのハードウェアとして、少なくとも1つの制御装置(例えばプロセッサ)と少なくとも1つの記憶装置(例えばメモリ)を有するコンピュータを備えている。この制御装置と記憶装置により上記プログラムを実行することにより、上記各実施形態で説明した各機能が実現される。
【0054】
上記プログラムは、一時的ではなく、コンピュータ読み取り可能な、1または複数の記録媒体に記録されていてもよい。この記録媒体は、上記装置が備えていてもよいし、備えていなくてもよい。後者の場合、上記プログラムは、有線または無線の任意の伝送媒体を介して上記装置に供給されてもよい。
【0055】
また、上記各制御ブロックの機能の一部または全部は、論理回路により実現することも可能である。例えば、上記各制御ブロックとして機能する論理回路が形成された集積回路も本発明の範疇に含まれる。この他にも、例えば量子コンピュータにより上記各制御ブロックの機能を実現することも可能である。
【0056】
また、上記で説明した処理を、AI(Artificial Intelligence:人工知能)に実行させてもよい。この場合、AIは上記制御装置で動作するものであってもよいし、他の装置(例えばエッジコンピュータまたはクラウドサーバ等)で動作するものであってもよい。
【0057】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、実施形態に開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0058】
〔まとめ〕
本開示の態様1に係る判定装置は、ディーゼルエンジンの排気経路に設けられたDPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定装置であって、前記ディーゼルエンジンの吸入空気量を取得する吸入空気量取得部と、前記ディーゼルエンジンからの排気が前記DPFを通過する前と通過した後との気圧の差である差圧を取得する差圧取得部と、同時に取得した前記吸入空気量および前記差圧との組を用いて、前記DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定部と、前記判定部が、前記DPFを洗浄すべき状態であると判定した場合、その旨を出力する出力部と、を備える。
【0059】
本開示の態様2に係る判定装置は、前記態様1において、前記判定部は、所定期間に取得された前記吸入空気量と前記差圧との組から導出される、該吸入空気量と該札との関係を示す回帰直線の傾きと第1閾値とを比較して、前記DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する。
【0060】
本開示の態様3に係る判定装置は、前記態様2において、前記判定部は、前記吸入空気量に対する前記差圧の変化量が第1閾値を超えた場合、前記DPFが洗浄すべき状態であると判定する。
【0061】
本開示の態様4に係る判定装置は、前記態様2において、前記判定部は、所定の間隔で前記回帰直線の傾きと閾値との比較を繰り返し行うものであり、前記回帰直線の傾きが第1閾値を連続して所定回数超えた場合、または、所定期間において前記回帰直線の傾きが第1閾値を超えた回数が所定割合を超えた場合、前記DPFが洗浄すべき状態であると判定する。
【0062】
本開示の態様5に係る判定装置は、前記態様2~4の何れかにおいて、前記判定部は、前記回帰直線の傾きが前記第1閾値よりも小さい第2閾値を超えたとき、前記DPFが洗浄すべき状態に近付いていると判定する。
【0063】
本開示の態様6に係る判定装置は、前記態様5において、前記判定部は、前記回帰直線の傾きが前記第2閾値を超え、かつ、以下の追加条件(1)~(5)の少なくとも何れかを満たしたとき、
(1)前記ディーゼルエンジンからの排気温度が第1所定時間内に第1所定温度以上変化した、
(2)前記DPFの通過前の排気の温度が通過後の排気の温度よりも高く、かつ、前記DPFの通過前と通過後との排気の温度差が第3閾値を超えた、
(3)前記DPFの通過前の排気の温度が通過後の排気の温度よりも低く、かつ、前記DPFの通過前と通過後との排気の温度差が第4閾値を超えた、
(4)前記DPFの通過前または通過後の排気の温度が第5閾値を超えた、
(5)前記ディーゼルエンジンの制御を行うECUにおいて、故障診断コードが出力された、
(6)前記DPFの自動再生が行われるまでの期間が、前回以前よりも短くなった状態が、一定期間続いた、
前記DPFが洗浄すべき状態であると判定する。
【0064】
本開示の態様7に係る判定装置は、前記態様1~6の何れかにおいて、前記吸入空気量取得部および前記差圧取得部は、取得条件が満たされているときに限り、前記吸入空気量および前記差圧を取得する。
【0065】
本開示の態様8に係る判定装置は、前記態様7において、前記取得条件は、前記ディーゼルエンジンがアイドリング状態ではない、前記DPFの自動再生、手動再生、強制再生の何れもが行われていない、前記DPFの温度が第6閾値以下である、前記ディーゼルエンジンを備える車両のPTO(Power Take Off)が未使用である、前記車両のラジエターの温度が第7閾値以上である、の少なくとも何れかである。
【0066】
本開示の態様9に係る判定方法は、ディーゼルエンジンの排気経路に設けられたDPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定方法であって、前記ディーゼルエンジンの吸入空気量を取得する吸入空気量取得ステップと、前記ディーゼルエンジンからの排気が前記DPFを通過する前と通過した後との気圧の差である差圧を取得する差圧取得ステップと、同時に取得した前記吸入空気量および前記差圧との組を用いて、前記DPFが洗浄すべき状態であるか否かを判定する判定ステップと、前記判定ステップで、前記DPFを洗浄すべき状態であると判定した場合、その旨を出力する出力ステップとを含む。
【0067】
本開示の各態様に係る判定装置は、コンピュータによって実現してもよく、この場合には、コンピュータを前記判定装置が備える各部(ソフトウェア要素)として動作させることにより前記判定装置をコンピュータにて実現させる判定装置10の制御プログラム、およびそれを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体も、本発明の範疇に入る。
【符号の説明】
【0068】
1 エンジン
2 DPF装置
3 酸化触媒
4 DPF
5 EGRクーラ
6 差圧センサ
7 エアロフローセンサ
8 ECU
10 判定装置
11 吸入空気量取得部
12 差圧取得部
13 記憶部
14 判定部
15 出力部
31 吸入空気量データ
32 差圧データ
100 ディーゼルエンジンシステム
図1
図2
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図9