(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010026
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】医薬製剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240116BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240116BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20240116BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20240116BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20240116BHJP
A61P 19/02 20060101ALI20240116BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20240116BHJP
A61P 17/06 20060101ALI20240116BHJP
C07K 16/00 20060101ALI20240116BHJP
C07K 14/715 20060101ALI20240116BHJP
C07K 19/00 20060101ALI20240116BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240116BHJP
C12N 15/13 20060101ALI20240116BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240116BHJP
【FI】
A61K39/395 N ZNA
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/26
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P17/06
C07K16/00
C07K14/715
C07K19/00
C12N15/12
C12N15/13
C12N15/62 Z
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180119
(22)【出願日】2023-10-19
(62)【分割の表示】P 2021080160の分割
【原出願日】2017-10-19
(31)【優先権主張番号】62/411,458
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】500049716
【氏名又は名称】アムジエン・インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】弁理士法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】モニカ・ゴス
(72)【発明者】
【氏名】ニコール・ボール
(57)【要約】 (修正有)
【課題】エタネルセプト医薬組成物の製剤、緩衝液の除去方法、及びエタネルセプト医薬組成物の製剤方法を提供する。
【解決手段】75mM~150mMのNaCl、5mM~100mMのアルギニン、0.5%~2%(w/v)スクロース、及び40mg/mL~100mg/mLのエタネルセプトを含む医薬組成物であって、前記医薬組成物は、2.0mM未満の全追加緩衝剤を含み、かつ前記組成物のpHは、6.1~6.5である、医薬組成物とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
75mM~150mMのNaCl、5mM~100mMのアルギニン、0.5%~2%(w/v)スクロース、及び40mg/mL~100mg/mLのエタネルセプトを含む医薬組成物であって、前記医薬組成物は、2.0mM未満の全追加緩衝剤を含み、かつ前記組成物のpHは、6.1~6.5である、医薬組成物。
【請求項2】
1.5mM未満の全追加緩衝剤を含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
1.0mM未満の全追加緩衝剤を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
0.5mM未満の全追加緩衝剤を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
0.25mM未満の全追加緩衝剤を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
0.1mM以下の全追加緩衝剤を含む、請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記アルギニンは、L-アルギニンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記L-アルギニンは、L-アルギニン塩酸塩である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記L-アルギニンは、L-アルギニン塩基である、請求項7に記載の医薬組成物。
【請求項10】
制御された室温(CRT)で2週間保存されたとき、6.1~6.5のpHを維持する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
制御された室温(CRT)で2週間保存されたとき、約6.2~約6.3のpHを維持する、請求項10に記載の医薬組成物。
【請求項12】
約25℃で保存されたとき、少なくとも2週間は5.8~6.7のpHを維持し、サイズ排除クロマトグラフィーを使用して評価すると、前記全エタネルセプトの6%未満が高分子量形態で凝集する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
約25℃での前記貯蔵の間、少なくとも2週間は、約6.1~約6.5のpHを維持する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項14】
約25℃での前記貯蔵の間、少なくとも2週間は、約6.2~約6.4のpHを維持する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
約25℃で2週間の貯蔵後、疎水性相互作用クロマトグラフィーを用いて評価すると、前記エタネルセプトの全量の28%未満がミスフォールド形態である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
約180~約420ミリ重量モル浸透圧の重量オスモル濃度を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
約250~約350ミリ重量モル浸透圧の重量オスモル濃度を有する、請求項16に記載の医薬組成物。
【請求項18】
約290~約310ミリ重量モル浸透圧の重量オスモル濃度を有する、請求項17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
約300~約310ミリ重量モル浸透圧の重量オスモル濃度を有する、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
約50mg/mLのエタネルセプト、約120mMのNaCl、約25mMのL-アルギニン塩酸塩、約1%(w/v)のスクロース及び水から実質的になる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項21】
約50mg/mLのエタネルセプト、約120mMのNaCl、約25mMのL-アルギニン塩酸塩、約1%(w/v)のスクロース及び水からなる、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項22】
ポリソルベート20をさらに含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項23】
前記ポリソルベート20の濃度(w/v)は、約0.001%~約0.1%である、請求項22に記載の医薬組成物。
【請求項24】
前記ポリソルベート20の濃度(w/v)は約0.005%、約0.01%又は約0.015%である、請求項23に記載の医薬組成物。
【請求項25】
追加の緩衝剤を含まず、6.1~6.5のpHを有するエタネルセプト医薬組成物の製造方法であって、追加の緩衝剤を含むエタネルセプト製剤を、追加の緩衝剤を含まない溶液に交換する工程を含み、得られる医薬組成物は40mg/mL~100mg/mLのエタネルセプトを含み、前記追加の緩衝剤を含むエタネルセプト製剤及び前記追加の緩衝剤を含まない溶液は、それぞれ6.1~6.5のpHを有する、方法。
【請求項26】
前記交換工程は透析ろ過を使用する、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
前記追加の緩衝剤を含まない溶液は、等張である、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
前記追加の緩衝剤を含まない溶液は、スクロース、アルギニン及びNaClを含有する、請求項25に記載の方法。
【請求項29】
前記追加の緩衝剤を含まない溶液は、75mM~150mMのNaCl、5mM~100mMのアルギニン及び0.5%~2%(w/v)のスクロースを含有する、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
前記追加の緩衝剤を含まない溶液は、約120mMのNaCl、約25mMのアルギニン、約1%のスクロース、及び水から実質的になる、請求項28に記載の方法。
【請求項31】
前記医薬組成物をろ過する工程をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項32】
前記医薬組成物を薬剤製品形態へと等分する工程をさらに含む、請求項25に記載の方法。
【請求項33】
前記追加の緩衝剤を含むエタネルセプト製剤は、75mM~150mMのNaClを含み、前記追加の緩衝剤を含まない溶液は、75mM~150mMのNaClを含み、前記医薬組成物は、75mM~150mMのNaClを含み、前記方法はNaCl除去工程を含まない、請求項25に記載の方法。
【請求項34】
前記追加の緩衝剤を含むエタネルセプト製剤は、約120mMのNaClを含み、前記追加の緩衝剤を含まない溶液は、約120mMのNaClを含み、前記医薬組成物は約120mMのNaClを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
塩除去工程を含まない、請求項25に記載の方法。
【請求項36】
75mM~150mMのNaCl、5mM~100mMのアルギニン、0.5%~2%(w/v)スクロース、及び40mg/mL~100mg/mLのエタネルセプトを含む医薬組成物であって、2.0mM未満の全追加緩衝剤を含み、前記組成物のpHは、6.1~6.5であり、前記医薬組成物は請求項25に記載の方法を使用して製造される医薬組成物。
【請求項37】
薬剤製品形態の請求項1に記載の医薬組成物と、保存及び使用のための説明書とを含むキット。
【請求項38】
請求項1に記載の医薬組成物を含有する単一用量容器。
【請求項39】
バイアル、シリンジ、又は自己注射器である、請求項38に記載の単一用量容器。
【請求項40】
50.0mg/mLのエタネルセプト、120mMの塩化ナトリウム、25mMのL-アルギニン塩酸塩及び1.0%(w/v)のスクロースからなる水性製剤を含む、請求項38に記載の単一用量容器。
【請求項41】
単一用量容器の調製方法であって、約単一用量の請求項1に記載の医薬組成物を、無菌条件下で前記単一用量容器に充填する工程を含む方法。
【請求項42】
関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、又は乾癬を有する患者の治療方法であって、前記患者に請求項1に記載の医薬製剤を投与することを含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は2016年10月21日に出願された米国仮特許出願第62/411,458号の利益を主張するものであり、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、エタネルセプト医薬組成物の製剤に関する。本発明はまた、緩衝液を除去する方法、及びエタネルセプト医薬組成物の製剤方法に関する。
【背景技術】
【0003】
タンパク質薬剤の製剤は、製薬科学者に多くの課題を提示することができる。タンパク質薬剤を安定化し、タンパク質の分解、凝集、ミスフォールディングなどによる劣化に耐性を有する製剤を見出されなければならない。特に、既知のタンパク質と実質的に異なる改変タンパク質については、適切な安定条件を見出すことが課題となり得る。また、タンパク質薬剤を、患者にとって便利な形式にすることも望ましい。所望の特性には、周囲温度及び冷蔵温度での安定性、長期保存に対する適合性、適切な投薬回数及び量、ならびに投与時の不快感の最小化が含まれる。
【0004】
エタネルセプトは、ヒトIgG1のFc部分に連結されたヒト75キロダルトン(p75)腫瘍壊死因子受容体(TNFR)の細胞外リガンド結合部分からなる二量体融合タンパク質である。エタネルセプトのFc成分は、IgG1のCH2ドメイン、CH3ドメイン及びヒンジ領域を含むが、CH1ドメインは含まない。哺乳動物細胞中で発現されると、それは、TNF受容体の2つのドメインとホモ二量体複合体を形成する。したがって、それは、抗体及び可溶性TNF受容体のいずれとも異なる人工タンパク質であり、それ故、どちらとも異なる劣化経路を辿る。エタネルセプトはENBREL(登録商標)(Amgen Inc、Thousand Oaks、CA)として市販されており、中等度から重度の活動性関節リウマチ、2歳以上の患者の中等度から重度の活動性多関節性若年性特発性関節炎(JIA)、成人における慢性の中等度から重度のプラーク乾癬(PsO)、成人の乾癬性関節炎(PsA)、及び活動性強直性脊椎炎(AS)の治療が認められている。エタネルセプトが最初に入手できたのは、注射の直前に再構成する必要のある凍結乾燥製剤としてであった。
【0005】
凍結乾燥製品を注射用水で再構成したとき、この製剤は、約25mg/mLで、10mMのトリスHCl、4%のマンニトール、1%のスクロースであり、pHは7.4である。しかしながら、この製剤は貯蔵に対して安定ではない。エタネルセプトの液体製剤は、タンパク質を安定化するためにアルギニンを使用して達成できることが見出された(米国特許第7,648,702号明細書を参照されたい)。例示的な液体製剤は、50mg/mLのエタネルセプト、25mMのリン酸緩衝液、25mMのL-アルギニン塩酸塩、100mMのNaCl、1%のスクロースの、pH6.3の水溶液からなる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書では、エタネルセプトの、新規で改良された製剤が提供される。特に、本発明は、安定であり、追加の緩衝剤が存在しなくても、制御された室温(CRT)で長期間、液体として便利に保存することができるエタネルセプトを含有する医薬組成物を提供する。さらに、本発明の医薬組成物を対象に注射するとき、それらはまた、市販の従来の製剤と比較して、注射痛をかなりの程度減少させることを示した。したがって、これらの医薬組成物は患者にとってより便利であり、有利である。
【0007】
本発明の別の態様は、エタネルセプトの医薬調製物を所望のpHで、しかし最終製剤中に追加の緩衝剤が存在しない状態で製剤化する方法を提供する。
【0008】
別の態様では、本発明はエタネルセプト、NaCl、アルギニン、及びスクロースを含む医薬組成物であって、実質的に追加の緩衝剤を含まず、かつpHが6.1~6.5である組成物を提供する。一実施形態では、制御された室温(CRT)で2週間保存すると、医薬組成物はpHを6.1~6.5に維持することができる。別の実施形態では、エタネルセプト濃度は40mg/mL~100mg/mLである。別の実施形態では、医薬組成物は等張である。別の実施形態では、医薬組成物は、20mMから150mMのNaCl、5mMから100mMのアルギニン、及び0.5%から2%(w/v)のスクロースを含む。別の実施形態では、医薬組成物は界面活性剤を含む。別の実施形態では、界面活性剤はポリソルベート20、ポリソルベート80、又はポロキサマー188である。別の実施形態では、界面活性剤は0.001%~0.1%の濃度(w/v)のポリソルベート20である。別の実施形態では、界面活性剤は0.001%~0.1%の濃度(w/v)のポリソルベート80である。別の実施形態では、界面活性剤は0.01%~0.3%の濃度(w/v)のポリソルベート188である。別の実施形態では、医薬組成物は、約25℃で保存すると、少なくとも2週間は5.8~6.7のpHを維持し、かつサイズ排除クロマトグラフィーを使用して評価すると、全エタネルセプトの6%未満が高分子量形態で凝集している。別の実施形態では、医薬組成物は約6.1~約6.5のpHを維持する。別の実施形態では、疎水性相互作用クロマトグラフィーを使用して評価すると、エタネルセプトの全量の28%未満はミスフォールド形態である。別の実施形態では、医薬組成物は実質的に、約40~100mg/mLのエタネルセプト、約120mMのNaCl、約25mMのアルギニン、約1%のスクロース、及び水からなる。別の実施形態では、医薬組成物は実質的に、約40~100mg/mLのエタネルセプト、約120mMのNaCl、約25mMのアルギニン、約1%のスクロース、約0.01%のポリソルベート20及び水からなる。
【0009】
別の態様では、本発明は、追加の緩衝剤を除去し、かつpHを6.1~6.5に維持するための、エタネルセプト医薬組成物の製剤方法であって、エタネルセプト製剤をpH6.1~6.5の追加の緩衝剤を含む製剤に製剤化する工程と、追加の緩衝剤を含む製剤を、追加の緩衝剤を含まない、pHが5.6~6.5の製剤と交換する工程と、得られた医薬製剤を回収する工程とを含む方法を提供する。一実施形態では、交換工程は透析ろ過を使用する。別の実施形態では、追加の緩衝剤を含まない製剤は等張である。別の実施形態では、追加の緩衝剤を含まない製剤は、スクロース、アルギニン及びNaClを含有する。別の実施形態では、追加の緩衝剤を含まない製剤は、20mM~150mMのNaCl、5mM~100mMのアルギニン、及び0.5%~2%(w/v)のスクロースを含む。別の実施形態では、追加の緩衝剤を含まない製剤は、実質的に、約120mMのNaCl、約25mMのアルギニン、約1%のスクロース、及び水からなる。別の実施形態では、エタネルセプト医薬組成物を製剤化する方法は、ポリソルベートを添加する工程をさらに含む。別の実施形態では、ポリソルベートは0.001%~0.1%の濃度(w/v)のポリソルベート20である。別の実施形態では、エタネルセプト医薬組成物を製剤化する方法は、医薬組成物をろ過する工程をさらに含む。別の実施形態では、エタネルセプト医薬組成物を製剤化する方法は、医薬組成物を薬剤製品形態へと等分する工程をさらに含む。
【0010】
別の態様では、本発明は薬剤製品形態の上記エタネルセプト医薬組成物と、保存及び使用のための説明書とを含むキットを提供する。
【0011】
別の態様では、本発明はエタネルセプト、NaCl、アルギニン、スクロース、リン酸緩衝液及びベンジルアルコールを含む医薬組成物であって、pHが6.1~6.5である組成物を提供する。一実施形態では、ベンジルアルコールは0.1%~5.0%の濃度(v/v)である。別の実施形態では、ベンジルアルコールの濃度は約0.9%である。別の実施形態では、エタネルセプトを含む医薬組成物は0.001%~0.1%の濃度(w/v)でポリソルベート20をさらに含む。別の実施形態では、ポリソルベート20の濃度は約0.004%である。別の実施形態では、エタネルセプトを含む医薬組成物は、実質的に、約40~100mg/mLのエタネルセプト、約25mMのアルギニン、約100mMの塩化ナトリウム、約1%の濃度(w/v)のスクロース、約25mMのリン酸緩衝液、及び約0.9%の濃度(v/v)のベンジルアルコールからなる。別の実施形態では、エタネルセプトを含む医薬組成物は、実質的に、約40~100mg/mLのエタネルセプト、約25mMのアルギニン、約100mMの塩化ナトリウム、約1%の濃度(w/v)のスクロース、約25mMのリン酸緩衝液、約0.9%の濃度(v/v)のベンジルアルコール、及び約0.004%の濃度(w/v)のポリソルベート20からなる。
【0012】
別の態様では、本発明は上記のエタネルセプトを含む医薬組成物を含有する単一用量容器を提供する。一実施形態では、医薬組成物は実質的に、約40~100mg/mLのエタネルセプト、約25mMのアルギニン、約100mMの塩化ナトリウム、約1%の濃度(w/v)のスクロース、約25mMのリン酸緩衝液、及び約0.9%の濃度(v/v)のベンジルアルコールからなる。別の実施形態では、医薬組成物は実質的に、約40~100mg/mLのエタネルセプト、約25mMのアルギニン、約100mMの塩化ナトリウム、約1%の濃度(w/v)のスクロース、約25mMのリン酸緩衝液、約0.9%の濃度(v/v)のベンジルアルコール、及び約0.004%の濃度(w/v)のポリソルベート20からなる。別の実施形態では、単一用量容器はバイアル、シリンジ、又は自己注射器である。別の実施形態では、単一用量容器は、50.0mg/mLのエタネルセプト、120mMの塩化ナトリウム、25mMのL-アルギニン、1.0%(w/v)のスクロースからなる水性製剤を含む。
【0013】
別の態様では、本発明は上記のエタネルセプトを含む医薬組成物を含有する単一用量容器を調製する方法であって、無菌条件下でほぼ単一用量の医薬組成物を単一用量容器に充填する工程を含む方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、実施例3のエタネルセプトの安定性分析で、SECによって検出されたパーセントHMW(ピークB)を示す。
【
図2】
図2は、実施例3のエタネルセプトの安定性分析で、dSECによって検出されたパーセントLMWを示す。
【
図3】
図3は、実施例3のエタネルセプトの安定性分析で、HICによって検出されたパーセントピーク3を示す。
【
図4】
図4は、実施例4のステンレス鋼製冷凍容器貯蔵エタネルセプトの安定性分析で、HICによって検出されたパーセントピーク3を示す。
【
図5】
図5は、実施例4のステンレス鋼製冷凍容器貯蔵エタネルセプトの安定性分析で、dSECによって検出されたパーセントLMWを示す。
【
図6】
図6は、実施例4のステンレス鋼製冷凍容器貯蔵エタネルセプトの安定性分析で、SECによって検出されたパーセントピークBを示す。
【
図7】
図7は、実施例4の凍結融解エタネルセプトの安定性分析で、SECによって検出されたパーセントピークBを示す。
【
図8】
図8は、実施例6の分析で、調整したAEX中間体プールの、制御された室温(CRT)でのpHの安定性を示す。
【
図9】
図9は、実施例6の分析で、UF/DFプールのpH(A)及び導電率(B)のCRTでの安定性を示す。
【
図10】
図10は、実施例6の分析で、SAS溶液中で製剤化されたエタネルセプトのpH(A)及び導電率(B)の安定性を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、エタネルセプトの改良された医薬組成物を提供する。本明細書では、「医薬組成物」という語句は、それを必要とする患者への注射及び/又は投与に適したポリペプチド製剤を指すものと理解される。より詳しくは、医薬組成物は実質的に無菌であり、レシピエントに対して過度な毒性又は感染性を有するいかなる薬剤も含まない。エタネルセプトは、ヒトIgG1のFcドメイン(TNFR:Fc)に融合したp75TNF受容体の可溶性形態である。市販のエタネルセプトは、ENBREL(登録商標)(Immunex Inc.,Thousand Oaks,CA)として知られている。エタネルセプトは、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)哺乳動物細胞発現系において組換えDNA技術によって生産される。これは934のアミノ酸からなり、約150キロダルトンの見掛け分子量を有する(Physicians Desk Reference,2002,Medical Economics Company Inc.)。CHO細胞で発現された完全配列を以下に示す。しかしながら、あまり重要でない改変及び欠失を(10%まで)この配列に施すことは可能であり得、そして本発明の範囲内で使用できることを理解すべきである。
【化1】
【化2】
【0016】
本発明はエタネルセプトを含むが、追加の緩衝剤は実質的に含まない医薬組成物を提供する。「追加の緩衝剤」という語句は、エタネルセプト自体以外のエタネルセプト組成物又は製剤の成分であって、組成物又は製剤の緩衝能に有意に寄与する成分を指す。エタネルセプト自体、下記の条件下で、pHを6.1~6.5、特に約6.2~6.3に維持するのに必要な全ての緩衝作用を提供することが本明細書で示されている。下記実施例1で示すように、このpH範囲は、エタネルセプト製剤の所望の安定特性(6%未満の高分子量凝集体及び28%未満のミスフォールド及びクリップされた種)を維持するのに有効であることがわかった。
【0017】
「追加の緩衝剤を実質的に含まない」という語句は、エタネルセプト以外の緩衝剤が0.5mM未満であることを意味する。「全追加緩衝剤」という語句は、エタネルセプト自体以外の、組成物又は製剤の緩衝能に有意に寄与する、エタネルセプト組成物又は製剤の全ての成分を集合的に指す。いくつかの実施形態では、本発明による医薬組成物は、2.0mM未満の全追加緩衝剤、1.5mM未満の全追加緩衝剤、1.0mM未満の全追加緩衝剤、0.5mM未満の全追加緩衝剤、0.25mM未満の全追加緩衝剤、0.1mM未満の全追加緩衝剤、又は0.05mM未満の全追加緩衝剤を含む。典型的な医薬組成物では、追加の緩衝剤を、多くの場合5.0mM以上の濃度で使用して、pHを所望の範囲に維持する。種々のよく知られている追加の緩衝剤は、ヒスチジン、リン酸カリウム、クエン酸ナトリウム又はクエン酸カリウム、マレイン酸、酢酸アンモニウム、トリス-(ヒドロキシメチル)-アミノメタン(トリス)、様々な形態の酢酸塩及びジエタノールアミンである。緩衝能がpH6.2又はその近傍であるという理由で、1つの一般的な緩衝剤はリン酸ナトリウムである。リン酸ナトリウムは、エタネルセプトの現在市販の液体製剤で使用されている緩衝剤である(液体製剤の所望のpHが6.3であるので)。本明細書に記載の発明では、エタネルセプト医薬製剤中に、リン酸ナトリウムを実質的に含まない。驚くべきことに、いかなる追加の緩衝剤も実質的に含まれていないにもかかわらず、本発明の医薬組成物のpHは、長期保存後でさえも、6.1~6.5の間に維持される。さらに驚くべきことに、対象(例えば、ヒト対象又は患者)に注射するとき、追加の緩衝剤を実質的に含まない医薬組成物は、現在の市販の緩衝製剤よりも有意に痛みの軽減をもたらす。リン酸塩は中性に近いpH緩衝能を有すること、及び(例えば、クエン酸緩衝液と比較して)痛みの少ない緩衝成分の1つと考えられることから、医薬組成物の緩衝剤としてしばしば選択されるが、本発明者らはpH6.3付近のリン酸緩衝液は注射時に痛みをもたらすと断定した。
【0018】
それが使用される文脈から別の意味であることが明らかでない限り、「製剤溶液」又は「製剤緩衝液」は、それ自体はエタネルセプトを含まず、エタネルセプトを含む製剤を作るために使用される溶液又は緩衝液である。
【0019】
典型的には、本発明の医薬組成物中のエタネルセプト濃度は、水性製剤(例えば、溶媒としての水)中、約40mg/mL~約200mg/mLである。より好ましくは、エタネルセプト濃度は、約40mg/mL~約100mg/mL、より一層好ましくは約40mg/mL~約75mg/mL、及び任意選択により約50mg/mLである。
【0020】
本発明の医薬組成物はまた、アルギニンを含む。アルギニンは、液体製剤中でエタネルセプトの安定化に実質的に寄与することが示されている(参照により本明細書に組み込まれる米国特許第7,648,702号明細書を参照されたい)。薬学的に適切な形態のアルギニンが市販されている。一般的には、L-アルギニン(例えば、L-アルギニンHCl又はL-アルギニン塩基)が、医薬製剤に使用されるアルギニンである。6.0~6.6のpH範囲内、特に約6.2~6.3のpHでは、アルギニンは製剤の緩衝能に有意に寄与しないと認識されている。したがって、それは、本発明のエタネルセプト製剤又は組成物中で、追加の緩衝剤ではない。本発明の組成物中のアルギニンの濃度は、好ましくは約1mM~約1M、より好ましくは約10mM~約200mM、あるいは約5mM~約100mM、より好ましくは約10mM~約100mM、より一層好ましくは約15mM~約75mM、さらにより一層好ましくは約25mMである。したがって、本発明の一態様では、医薬組成物は約50mg/mL~75mg/mLのエタネルセプト及び約25mMのアルギニンを含み、この医薬組成物は追加の緩衝剤を実質的に含まず、組成物のpHは6.0~6.6である。本明細書では、「約」という用語は、記載された製剤の成分濃度に、所与の値の10%まで(10%を含む)の変動があり得ることを意味すると理解される。例えば、製剤が約10mg/mLのポリペプチドを有する場合、これは、製剤が記載されたポリペプチドを9~11mg/mL有し得ることを意味すると理解される。
【0021】
医薬組成物は、賦形剤が追加の緩衝剤でなく、特にリン酸塩緩衝剤でない限り、追加の賦形剤を含有し得る。本発明の追加の賦形剤の例には、スクロース、ラクトース、グリセロール、キシリトール、ソルビトール、マンニトール、マルトース、イノシトール、トレハロース、グルコースなどの糖/ポリオール;血清アルブミン(ウシ血清アルブミン(BSA)、ヒトSA又は組換えHA)、デキストラン、PVA、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ポリエチレンイミン、ゼラチン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)などのポリマー;多価アルコール、(例えば、PEG、エチレングリコール及びグリセロール)ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジメチルホルムアミド(DMF)などの非水性溶媒;プロリン、L-セリン、アラニン、グリシン、塩酸リシン、サルコシン及びガンマ-アミノ酪酸などのアミノ酸、ならびに界面活性剤が含まれるが、これらに限定されない。
【0022】
本発明のいくつかの好ましい実施形態では、賦形剤は、NaCl及び/又はスクロースを含む。NaClは医薬組成物中に約5mM~約200mM、より好ましくは約20mM~約150mM、より一層好ましくは約80mM~約140mMの濃度で存在し得る。スクロースは、約0.5%~約2%(w/v)のスクロース、より好ましくは約0.8%~約1.2%(w/v)のスクロース、さらにより好ましくは約1%(w/v)のスクロース濃度まで添加し得る。
【0023】
医薬組成物の重量オスモル濃度は、活性成分の安定性を最大にし、また投与時に患者に与える不快感を最小にするよう調節することが好ましい。医薬組成物が血清と等張であること、すなわち、同一又は類似の重量オスモル濃度を有することが一般に好ましく、これは、浸透圧調節剤の添加によって達成される。血清は、キログラム当たり約300+/-50ミリ重量モル浸透圧/キログラムであり、したがって、等張医薬組成物の重量オスモル濃度は、約180~約420ミリ重量モル浸透圧であると考えられる。いくつかの実施形態では、この範囲は約250~約350ミリ重量モル浸透圧であろう。
【0024】
浸透圧調節剤は、溶液の重量オスモル濃度に寄与する分子であると理解される。重量オスモル濃度を調節するのに適した浸透圧調節剤の例としては、アミノ酸(例えば、アルギニン、システイン、ヒスチジン及びグリシン)、塩(例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム及びクエン酸ナトリウム)及び/又は糖類(例えば、スクロース、グルコース及びマンニトール)が挙げられるが、これらに限定されない。製剤中の浸透圧調節剤の濃度は、好ましくは約1mM~1M、より好ましくは約10mM~約200mMである。いくつかの実施形態では、NaCl及びスクロースの濃度は、等張医薬組成物を生成するよう調節される。下で例として示すいくつかの実施形態では、医薬組成物は、約40~100mg/mLのエタネルセプト、約120mMのNaCl、約25mMのアルギニン、約1%のスクロース、及び水を含有する。特に、医薬組成物は、実質的に、約50~100mg/mLのエタネルセプト、約120mMのNaCl、約25mMのアルギニン、約1%のスクロース、約0.01%のポリソルベート20及び水からなり得る。
【0025】
任意選択により、本発明の医薬組成物は、界面活性剤を含み得る。界面活性剤は、溶液/表面に誘導された応力を低減する薬剤である。界面活性剤の例としては、ポリソルベート20、ポリソルベート40、ポリソルベート60、及びポリソルベート80などのポリソルベート(例えば、TWEEN-20(登録商標)(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO)又はTWEEN-80(登録商標)(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO))、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレンコポリマー、ポロキソマー188(例えば、PLURONIC(登録商標)F-68(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO))、又はポロキソマー407(例えば、PLURONIC(登録商標)F-127(Sigma-Aldrich,St.Louis,MO))などのポロキサマー、CHAPS、モノラウレート、あるいは上記の任意の組み合わせが挙げられる。好ましい界面活性剤はポリソルベート20である。例えば、ポリソルベート20は、約0.001%~約0.03%の濃度(w/v)で医薬組成物に含めることができる。例として下に示す特定の実施形態では、ポリソルベート20は、0.01%又は約0.004%の濃度(w/v)で医薬製剤に含めることができる。
【0026】
医薬組成物の試験
下記の実施例は、製剤がpHを所望の範囲に維持することができるかどうかを、当業者がどのようにして決定することができるかを説明する。基本的には、医薬組成物は試験容器(ガラスバイアル、ガラスシリンジ、プラスチックシリンジ、ステンレス鋼製容器、又は医薬組成物に適した任意の様式の滅菌デバイスであり得る)中で製剤化して保存し、pHを時間0で評価し、その後、必要に応じて、示された時間で評価する。通常、試験条件は医薬組成物の貯蔵の必要性を予測し、それらの条件に重点を置くであろう。例えば、本発明の製剤は、制御された室温(CRT)下で、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも8週間、少なくとも12週間、及び少なくとも24週間、所望のpHを維持することができる。CRTはUSPによって定義され、20℃~25℃(68°F~77°F)の通常の慣用の作業環境を包含し;25℃以下であると計算される平均動力学的温度をもたらし;かつ、薬局、病院、及び倉庫で経験される15℃~30℃(59°F~86°F)の間の偏位を許可する、サーモスタットで維持された温度を有する。
【0027】
一態様では、本発明の医薬組成物は特定の品質特性を示す。これらの品質特性の試験についても、実施例として下で説明する。例えば、本発明の医薬組成物は、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて評価した場合、高分子量形態に凝集したエタネルセプトの含有量が、全エタネルセプトの6%未満である。別の例を挙げれば、本発明の医薬組成物は、疎水性相互作用クロマトグラフィーを使用して評価した場合、ミスフォールド形態のエタネルセプトの含有量が、エタネルセプトの全量の28%未満である。
【0028】
本発明の医薬組成物は、pH及び/又は他の注目すべき品質特性(最小の高分子量形態及び最小のミスフォールド形態)を、以下の温度及び延長された期間、すなわち(1)-30℃(凍結)で少なくとも4週間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも6ヶ月間、少なくとも12ヶ月間、及び少なくとも36ヶ月間、(2)1回の凍結/融解サイクル、2回までの凍結/融解サイクル、3回までの凍結/融解サイクル、及び5回までの凍結/融解サイクルで、(3)4℃(冷蔵温度)で、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも8週間、少なくとも12週間、少なくとも24週間、及び少なくとも52週間、(4)25℃(室温)で、少なくとも2週間、少なくとも4週間、少なくとも8週間、少なくとも12週間、少なくとも24週間、及び(5)40℃(加速安定性試験)で少なくとも2週間維持することによって、安定性を保持することができる。
【0029】
本発明の医薬組成物はまた、対象者への注射の際に、痛みを軽減するという驚くべき結果を示す。この特性は、Gallagher et al,2002,Am.J.Em.Med.v20;i4:287-290によって確証された、ビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて評価することができる。熟練した医療専門家が注射により薬剤を投与し、各注射後30秒以内に、対象者が100mmのビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて注射痛の程度を評価した。VASの13~16mmの差は、臨床的に意味があるとみなされる。この手法を用いて、リン酸塩を含まないプラセボ製剤は、pH6.3のリン酸塩を含有するプラセボ製剤、ならびにpH6.3のエタネルセプト及びリン酸塩の両方を含有する現在の市販製剤よりも、痛みを有意に軽減することが実証された。
【0030】
本発明の医薬組成物及び方法で使用されるエタネルセプトの製造及び精製は、任意の標準的な方法によって行うことができる。一般に、エタネルセプトはCHO細胞中で組換えにより発現され、培地中に分泌される。培地を回収し、ろ過し、例えば種々のクロマトグラフィー手法を用いて精製する。例えば、プロテインAは、エタネルセプトなどのFcドメイン含有ポリペプチドの精製に使用することができ、最初の処理工程として有利である。イオン交換カラムによる分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカによるクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSET(商標)によるクロマトグラフィー、アニオン又はカチオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラムなど)によるクロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、及びアフィニティークロマトグラフィー、ならびに既知の、又は今後発見される精製手法の任意の組み合わせなどの、ポリペプチド精製の他の手法。有用な製造及び精製手法の例は、米国特許第7,294,481号明細書(Fung)、同第7,452,695号明細書(Van Ness et al.)、同第7,122,641号明細書(Vedantham et al.)、同第7,157,557号明細書(Sassenfeld et al.)、同第7,300,773号明細書(Drapeau et al.)、同第8,163,522号明細書(Brockhaus et al.)、及び同第7,648,702号明細書(Gombotz et al.)に見出すことができる。
【0031】
本発明の方法
本発明はまた、緩衝液を除去し、かつpHを標的範囲に維持するための、エタネルセプト医薬組成物を製剤化する方法であって、標的範囲の緩衝製剤形態にエタネルセプトを製剤化する工程と、緩衝製剤を、その標的範囲内の、又は標的範囲のすぐ下の非緩衝製剤に交換する工程と、得られたエタネルセプトの医薬製剤を回収する工程とを含む方法を提供する。下に例示する好ましい実施形態では、本方法は、緩衝液を除去し、かつpHを6.0~6.6に維持するための、エタネルセプト医薬組成物を製剤化する方法であって、エタネルセプト製剤をpH6.0~6.6で緩衝製剤形態に製剤化する工程と、緩衝製剤をpH5.6~6.5の非緩衝製剤に交換する工程と、得られた医薬製剤を回収する工程とを含む方法を提供する。pHを6.1~6.5に維持するエタネルセプトの非緩衝組成物を得るには、出発の緩衝エタネルセプト製剤と非緩衝製剤の両方のpHの調整を確実に行うことが重要である。例えば、出発の緩衝エタネルセプト製剤がpH7.2である場合、それは、HClなどの強酸で6.1~6.5の範囲内に調整されるであろう。同様に、交換に使用される非緩衝製剤は、pH5.6~6.5に滴定されるべきである。交換用に使用される非緩衝製剤は、緩衝剤を有しないので、滴定の間、注意を払うべきである。
【0032】
緩衝製剤を非緩衝製剤と交換するために、当業者は、当該技術分野でよく知られている様々な緩衝液交換手法を使用することができる。透析は、比較的大きなタンパク質製剤から不要な比較的小さな分子を除去するために、半透膜を介した選択的拡散を利用する。一実施形態では、不要分子の濃度が所望の倍数に減少するまで、連続的に平衡化を行う。例えば、1,000,000倍以上の濃度減少を達成するために、各回100倍以上の希釈で、3回の連続平衡を行うことができる。限外ろ過及び透析ろ過は、半透膜を使用する点で透析と同様である。しかし、透析の受動的拡散とは異なり、限外ろ過及び透析ろ過は、種々の手法を使用して溶液を強制的に膜に通すことを含む。圧力及び遠心分離が一般に使用される。緩衝液交換のさらに別の方法は、ゲルろ過又はサイズ排除クロマトグラフィーを使用して実施することができる。例えばイオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、及び混合モードクロマトグラフィーなど、多くの他のクロマトグラフィー技術があり、これらもまた十分に当業者の技能の範囲内で、緩衝液交換を達成するために使用することができる。
【0033】
緩衝製剤が非緩衝製剤に交換された後、本発明の方法は、得られた医薬製剤を回収する工程を含む。この時点で、全ての緩衝液が実質的に除去されているが、pHは依然として所望のレベルに維持されている。エタネルセプトを含有する医薬組成物では、pHは6.0~6.6に維持される。
【0034】
医薬製剤は、必要に応じてさらに処理し得る。例えば、界面活性剤を加えることができる。別の例では、粒子を除去することが望ましい場合、医薬組成物をろ過することができる。あるいは、又はさらに、本発明の方法はまた、医薬組成物を薬剤製品形態に等分することを含む。このような薬剤製品形態は、患者又は医療提供者による最終使用のために流通される。本発明の医薬組成物は非経口投与、すなわち、皮下、筋肉内、静脈内、腹腔内、脳脊髄内、関節内、滑液嚢内、及び/又は髄腔内投与に特に有用である。非経口投与は、ボーラス注射又は持続注入により行うことができる。注射用の医薬組成物は、単位用量形態、例えば、アンプル又は多用量容器で提供され得る。医薬組成物は、所望であれば、活性成分を含有する1つ以上の単位用量形態を含有し得るバイアル、パック又はディスペンサー装置に入れて提供され得る。一実施形態では、ディスペンサー装置は、注射の準備が整った、単一用量の液体製剤を有する注射器を含むことができる。別の実施形態では、医薬組成物は、再使用可能な自己注射器と共に使用するために、カセット成分に等分される。本発明のさらに別の態様では、医薬組成物は、装着型注射装置内に、又は装着型注射装置と共にパッケージ化して提供することができる。さらに別の実施形態では、医薬組成物は、無針注射装置に適した薬剤製品形態に等分することができる。
【0035】
医薬組成物はまた、デポー製剤として好適なフォーマットに等分することができる。そのような長期作用性製剤は埋め込み(例えば、皮下又は筋肉内)によって、又は筋肉内注射によって投与され得る。したがって、例えば、製剤は、好適なポリマーもしくは疎水性材料(例えば、許容可能な油中のエマルジョンとして)、又はイオン交換樹脂により改変することができ、あるいは難溶性誘導体、例えば、難溶性塩として変えることができる。
【0036】
別の実施形態では、本発明は本発明の医薬組成物を含むキット又は容器に関する。キットはまた、医薬組成物の保存及び使用のための説明書を伴うことができる。容器は例えば、使い捨て容器、すなわち、本発明の単一用量の製剤を入れる容器であり得る。使い捨て容器は、容器から規定量の単一用量を確実に患者に投与することができるように、単一用量に加えて十分な余分を含み得るが、容器が第2の用量を投与するために使用できるほどの余分はないことは認識されている。本発明のいくつかの態様での使用に適した容器の例(それらが使い捨て容器又は繰り返し使用の容器であるかどうかにかかわらず)として、バイアル、シリンジ、及び自己注射器が挙げられる。好適な自己注射器の例としては、米国特許第8,177,749号明細書、同第8,052,645号明細書及び同第8,920,374号明細書、米国特許出願第12/993163号明細書、同第13/269750号明細書、同第13/454531号明細書、同第14/112479号明細書、同第14/777255号明細書及び同第14/777259号明細書、ならびに国際公開第2014/0089393号パンフレット、同第2016/033496号パンフレット及び同第2016/033507号パンフレット(これらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に見出されるものが挙げられる。
【0037】
本発明のエタネルセプト含有組成物及び製剤、ならびに本明細書に記載のシリンジ、自己注射器、キットなどは、エタネルセプト治療が有効な病気の患者の治療に使用することができる。このような病気の例としては、関節リウマチ、乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、及び乾癬が挙げられる。エタネルセプトによる患者の治療方法は、例えば、米国特許第7,915,225号明細書、同第8,119,605号明細書、同第8,410,060号明細書、同第8,722,631号明細書及び同第8,119,604号明細書(これらの各々は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる)に記載されている。
【0038】
本発明は、以下の実施例を参照することにより、より完全に理解されるであろう。しかしながら、実施例は、本発明の範囲を限定するものと解釈されるべきではない。
【実施例0039】
実施例1:各種製剤の安定性試験
この実施例は50mg/mLのエタネルセプトに対するpH及び緩衝液の影響を実証し、リン酸緩衝液を添加しない高濃度(100mg/mL)溶液の安定性を評価する。以下の製剤を試験した。
【0040】
【0041】
材料:50mg/mLのEnbrel原薬を含有するPASS(25mMのリン酸緩衝液、25mMのL-アルギニン、100mMのNaCl、1%のスクロース)を、この研究に使用した。酢酸塩及び緩衝液を含まない製剤については、材料を透析して新しい製剤(ポリソルベートなし)とし、10,000MWCOのcentriprepを用いて50mg/mLに濃縮した。50_SAS_100NaClの試料も100mg/mLに濃縮した(100_SAS_100NaCl)。ベンジルアルコールを、現在の製剤に加えて最終濃度を0.9%にした。ポリソルベート20の1%ストック溶液を新たに調製し、全ての製剤に加えて最終濃度を0.004%とした。全ての製剤を、1mLの長いBDガラスシリンジに、0.5mLの容量まで手動で満たし、その後、ASPUバキュームストッパー装置を使用して栓をした。
【0042】
方法:Mettler Inlab MicroProbeと組み合わせたMettler Toledo SevenEasy pHメーターを用いてpHを測定した。測定前に、試料を室温にまで温めた。重量オスモル濃度は、Advanced Osmometer Model 3900を用いて測定した。各測定は250μLの試料を用いて行い、290重量オスモル濃度標準を試験して、システムが適切に動作していることを確認した。Chromeleon 7.2ソフトウェアと共に、Agilent 1100 HPLCを使用してサイズ排除HPLCを実施した。Chromeleon 7.2ソフトウェアと共に、Agilent 1100 HPLCを使用して変性サイズ排除HPLCを実施した。
【0043】
結果:全ての製剤のpHを24週間にわたって維持した。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
結論:25℃及び40℃での長期保存の間、比較的低いpHの製剤、A45SuT、A52SuT、及びA58SuTは、変性サイズ排除クロマトグラフィーを用いて分析したところ、望ましくないレベルの、低分子量の、分解又はクリップされた種を示した。25℃と40℃で保存した高濃度製剤100_SAST_100NaClは、サイズ排除クロマトグラフィーを用いて分析したところ、高分子量凝集体の増加を示し始めたが、4℃では、現在の市販製剤と類似の挙動であった。PASST+BeOH(これは0.004%ポリソルベート20と0.9%ベンジルアルコールの添加によって改変した現在の市販製剤である)は、4℃と25℃の両方で現在の市販製剤と類似の挙動であったが、40℃の高温で保存した場合、その後期の時点では、SE-HPLCの分析により高分子量種の増加を示した。しかしながら、50_SAST_100NaCl製剤は、リン酸緩衝液の非存在下でさえ、全ての温度で、現在の市販製剤と同等の高分子量及び低分子量種の濃度を維持した。
【0052】
実施例2:疼痛研究
この試験は、単施設、無作為化、一重盲検、クロスオーバーデザインであり、これには48人の健康な男性及び女性が6種の溶液の単回SC注射を受けた。
【0053】
各群に無作為に割り付けた8人の被験者からなる6つの固有の群に、熟練した医療専門家によって試験製剤(以下の表9に詳述する)を投与した。前腹壁の各四半部に注射を施し、約1時間おいて投与した。各注射後30秒以内に、被験者は100mmのビジュアルアナログスケール(VAS)を用いて注射痛の程度を評価した。最初の注射の開始から最初の注射の30日後まで、有害事象を収集した。2日目(6回目の注射の24時間後)及び31日目(±2日)に、安全性のフォローアップのための電話をかけた。
【0054】
【0055】
統計的方法:全ての分析は、少なくとも1種の溶液を受けた全ての被験者からなる安全性分析セットについて行った。溶液間の15mmの差(α=0.05、両側)を検出するための93.4%の検出力を提供するために、48人の被験者(1群当たり8人)の標本サイズを選択した。VASの13~16mmの差は、臨床的に意味があるとみなされる(Gallagher et al,2002,Am.J.Em.Med.v20;i4:287-290)。
【0056】
要約統計量(平均、SD、標準誤差[SE]、中央値、最小値、最大値)を、溶液別のVASスコアについて計算した。分散分析(ANOVA)モデルを用いてVASスコアを分析したが、これには独立変数として群、溶液、及び期間が含まれ、変量効果として群内の被験者が含まれた。多重比較のための調整は行わなかった。
【0057】
一次及び二次比較のVASスコアの平均差、対応する95%信頼区間(95%CI)、及びp値を得た。
【0058】
【0059】
結論:溶液C(ベンジルアルコールを含む非製品の特定のプラセボ)及び溶液D(リン酸ナトリウムを含まない非製品の特定のプラセボ)の両者は、溶液B(エタネルセプトプラセボ;p<0.001)よりも有意に低い平均VASスコアを有し、これらの2つの溶液で比較的低い注射部位疼痛を示した。溶液CとDとの間、溶液B(エタネルセプトプラセボ)と溶液F(活性エタネルセプト)との間、又は異なる注射容量(0.51及び1.0mL)の間で、平均VASスコアに有意差は見られなかった。溶液A(陰性疼痛対照)は、他の全ての溶液と比較して、疼痛は最小であった。7人の被験者に1件以上の有害事象が認められた。全ての有害事象は、CTCAEグレード1の重篤でない注射部位反応であった。
【0060】
実施例3:製剤候補の長期安定性試験
いくつかの新しい製剤候補中のエタネルセプトの安定性を観察するために、50mg/mLで長期研究を行った。4℃、25℃及び40℃で貯蔵した後、SE-HPLC、HIC HPLC、dSEC HPLC、及び粒子状物質(HIAC)を使用して、1mLのステークガラス針シリンジ(staked glass needle syringe)中の1mL充填物について安定性を評価した。重量オスモル濃度及びタンパク質濃度を時刻ゼロでのみ試験し、pHは、pHドリフトがないことを確認するために、時刻ゼロ及び12週間の貯蔵後に試験した。研究の結果、試験した製剤は、40℃の加速温度で12週後に、また2~8℃の推奨貯蔵及び25℃の加速温度で24週後に、現在の市販製剤との類似性を維持していることが示された。
【0061】
【0062】
材料:50mg/mLのEnbrel原薬を含有するPASS(25mMリン酸緩衝液、25mMのL-アルギニン、100mMのNaCl、1%のスクロース)をこの研究に使用した。50mg/mLの材料をPASS及びSAS_100NaCl(25mMのL-アルギニン、100mMのNaCl、1%のスクロース)中に透析ろ過し、その後約75mg/mLまで限外ろ過した。UF/DF後のPASS及びSAS材料を対応する溶液で希釈することによって、50mg/mL製剤を調製した。濃縮NaClストック溶液を使用して75mg/mLのSAS材料を希釈して、最終濃度を120mM NaClとすることにより、SAST_120NaClを調製した。ポリソルベート20の1%ストック溶液を新たに調製し、全ての製剤に加えて最終濃度を0.010%とした。全ての製剤を、1mLの長いBDガラスシリンジに、1mLの容量まで手動で満たし、その後、ASPUバキュームストッパー装置を使用して栓をした。
【0063】
方法:Mettler Inlab MicroProbeと組み合わせたMettler Toledo SevenEasy pHメーターを用いてpHを測定した。測定前に、試料を室温にまで温めた。全ての試料について、280nMの吸光度によるタンパク質の濃度測定を、DropSense96 UV/Vis Lab Chip DSシステムを使用して室温で行った。各試料を、製剤溶液がブランクの場合を含めて、少なくとも3回(それぞれ3μL)反復して、何も加えずに測定した。Advanced Osmometer Model 3900を使用して重量オスモル濃度を測定した。各測定は250μLの試料を用いて行い、290mOsmの重量オスモル濃度標準を試験して、システムが適切に動作していることを確認した。Chromeleon 7.2ソフトウェアと共に、Agilent 1100 HPLCを使用してサイズ排除HPLCを実施した。Chromeleon 7.2ソフトウェアと共に、Agilent 1100 HPLCを使用し、215nmの吸収で疎水性相互作用HPLCを実施した。Chromeleon 7.2ソフトウェアと共に、Agilent 1100 HPLCを使用して変性サイズ排除HPLCを実施した。HRLD-150レーザー及びPharm Specソフトウェアを装備したHACH HIAC/Royco粒子カウンターシステムを使用して、サブビジブル粒子の分析を行った。全ての試料をPASS製剤緩衝液で25mg/mLにまで希釈した。試料を完全に混合し、キャップを外し、分析前に75torrで2時間脱気した。各1.0mL(風袋容量なし)の4回の分析を行い、最初の分析を廃棄し、残りの3回の分析を平均した。2、5、10、及び25μmの粒子径データは、全ての時点で収集した。結果は希釈を反映しており、1ミリリットル当たりの累積カウントとして報告する。
【0064】
結果及び考察:全ての製剤のpHを、全ての温度で、時刻ゼロ及び12週後に測定した。時間又は貯蔵温度の関数として、いかなる傾向も観察されなかった。全ての試料について測定されたpH値を表12に示す。4℃で52週間の貯蔵、25℃で24週間の貯蔵、又は40℃で12週間の貯蔵の後、pHのドリフトは観察されなかった;全ての試料は、6.3の標的pHから+/-0.2pH単位の許容基準を満たした。
【0065】
【0066】
全ての製剤のタンパク質濃度を時刻ゼロで試験した。全ての試料のタンパク質濃度の結果を表13に示す。全ての試料は許容基準を満たした。
【0067】
【0068】
重量オスモル濃度を、時刻ゼロでのみ試験した。全ての試料の重量オスモル濃度の結果を表14に示す。全ての製剤は、それらの標的重量オスモル濃度であった。緩衝液濃度及び賦形剤濃度に違いがあるので、重量オスモル濃度が、各種の製剤間で同じであるとは予想されなかった。
【0069】
【0070】
SE-HPLCを行い、製剤条件、時間及び温度の関数として凝集レベルを観察した。ピークBは、生成した高分子量種(凝集体)の量である。結果は、4℃及び25℃で、PASST対照と緩衝液を含まない製剤との間でピークBに差異を示さず、40℃、12週後にわずかな差異が観察された(
図1)。ピークBは、これらの製剤のSE-HPLCによって検出された全凝集体を表す。4℃で52週間の貯蔵、25℃で24週間の貯蔵、及び40℃で12週間の貯蔵後、全ての試料は許容可能範囲に留まった(ピークB≦6%)。
【0071】
変性SE-HPLCを使用してクリップ種LMWを測定した。結果は、52週後の製剤間の、HMW種、主ピーク、LMWに関して同様の傾向を示した(
図2)。
【0072】
ミスフォールドした凝集体の変化を、HIC HPLCにより観察した。試験した全ての温度での結果は、PASST対照と緩衝剤を含まない製剤との間でピーク3に差異を示さなかった(
図3)。4℃で52週間の貯蔵、25℃で24週間の貯蔵、及び40℃で12週間の貯蔵後、全ての試料は許容可能な範囲(ピーク1≦5%、ピーク2≧70%、ピーク3≦28%)に留まった。
【0073】
光遮蔽粒子計数法(HIAC)により、サブビジブル粒子を測定した。結果は過去のPFSデータと一致し、12週後の全温度で、製剤間の結果は類似していた。各時点で3つのプールされたシリンジを含む単一のバイアルが使用され、シリコーン油滴への寄与に関して高いレベルのシリンジ間変動性が存在するので、このデータセットからは傾向を確立することができなかった。
【0074】
結論:いくつかの新しい改質候補及び現在の市販製剤にポリソルベートを添加したものの長期安定性を、4℃、25℃及び40℃で評価した。SE-、dSEC、又はHIC HPLC分析によって、及び光遮蔽によって、4℃で52週間後及び25℃で24週間後の製剤間に有意差は観察されなかったが、40℃で12週間後には、HPLC分析によってわずかな差が観察された。pHのドリフトは観察されず、全ての製剤は許容範囲内に留まった。研究の結果は、50mg/mLのSAST_120NaCl及びSAST_100NaCl製剤は、2℃~8℃の推奨貯蔵温度で12週後も安定であり、現在の市販製剤と類似していることを示した。
【0075】
実施例4:ステンレス鋼製容器中のトップの改質候補の凍結/融解及び長期安定性
3種の新しい製剤候補中のエタネルセプトの安定性を観察するために、50mg/mLで凍結/融解のサイクル研究を行った。現在市販の製剤PASS(25mMのリン酸緩衝液、25mMのL-アルギニン、100mMのNaCl、1%のスクロース)と比較した製剤は、SAST_100NaCl(25mMのL-アルギニン、100mMのNaCl、1%のスクロース、0.010%のポリソルベート20)、SAS_120NaCl(25mMのL-アルギニン、120mMのNaCl、1%のスクロース)、及びSAST_120NaCl(25 mMのL-アルギニン、120 mMのNaCl、1%のスクロース 0.010%のポリソルベート20)であった。55mLステンレス鋼製凍結容器中で、-30℃~4℃のサイクルを行った場合の凝集に対する安定性を、SE-HPLCを用いて凍結/融解サイクル5回まで評価した。
【0076】
さらに、ある新しい製剤候補中のエタネルセプトの安定性を観察するために、50mg/mLで長期研究を行った。現在市販の製剤PASS(25mMのリン酸緩衝液、25mMのL-アルギニン、100mMのNaCl、1%のスクロース)と比較した製剤は、SAST_120NaCl(25mMのリン酸緩衝液、25mMのL-アルギニン、100mMのNaCl、1%のスクロース、0.010%のポリソルベート20)であった。10mL及び55mLのステンレス鋼製凍結容器に保存した場合の安定性を、SE-HPLC、HIC HPLC、dSEC HPLC、及び粒子状物質(HIAC)を使用して評価した。貯蔵温度及び時点は、36ヶ月までは-30℃であり、12ヶ月までは4℃であった。52週目の結果を本明細書に示す。
【0077】
結果:全ての製剤のpHは、52週の時点で、及び5サイクルの凍結/融解を通して、一貫性を維持した。
【0078】
【0079】
【0080】
SAST_120NaCl製剤中で、>2及び>5μm粒子にわずかな増加があったが、>10μm粒子については、HIACによって傾向は観察されなかった。
図4、
図5、及び
図6に示すように、HIC、dSEC、又はSECによって、製剤間に有意差は観察されなかった。5回の凍結融解サイクルに曝露した後で、製剤間の有意な変化はSECで観察されなかった。
図7を参照されたい。
【0081】
結論:これまでの研究の結果は、-30℃及び4℃のステンレス鋼製冷凍容器中で52週間貯蔵した後も、試験した新しい製剤が現在の市販製剤との類似性を維持することを示した。
【0082】
実施例5:SAS及びPASS溶液への交換
これらの実施例の目的は、TMS(トリス、マンニトール、スクロース)中のエタネルセプトの異なる調製物を試験製剤(L-アルギニン、スクロース、NaCl)中に透析し、最終pHを標的pHと比較することであった。
【0083】
材料:エタネルセプト:25mg/mL、TMS(10mMのトリスHCl、4%のマンニトール、1%のスクロース、pH7.4)中;透析のためのSAS_100NaCl溶液(100mMのNaCl、25mMのL-アルギニンHCl、1%のスクロース、pH6.3);PASS緩衝液(25mMのリン酸塩、100mMのNaCl、25mMのL-アルギニンHCl、1%のスクロース、pH6.3);10,000MWCOのcentriprep;3~12mLのSlide-A-Lyzer透析カセット、10,000MWCO;Mettler Toledo MP220 pHメーター、及びMettler Toledo InLab MicroProbe。
【0084】
方法:UF/DFの例を挙げれば、TMS中の25mg/mLのエタネルセプトを、30K MWCOのPellicon 3カセットを使用した、Millipore Pellicon-2 mini systemによる限外ろ過によって約50mg/mLに濃縮した。その後、この材料を、SAS_100NaCl又はPASS溶液に対して7ダイアボリュームで透析ろ過し、続いて、限外ろ過によって100mg/mLまで濃縮した。透析の例を挙げれば、10,000MWCOのcentriprepを用い、TMS中の25mg/mLのエタネルセプトを50mg/mLに濃縮した。SAS透析溶液の場合と同様に、Mettler Toledo MP220pHメーター及びInLab MicroProbeを使用して、TMS中の50mg/mL試料のpHを測定した。その後、10,000MWCOのslide-a-lyzer透析カセットを使用してこの材料を透析した。TMS中の50mg/mLのエタネルセプト9.5mLをカセットに加え、1000mLのSAS100と交換した。3回の交換を行い、1,000,000倍の交換を達成した。1日目の午後5時に最初の交換を行い、一晩継続した。2回目の1,000mL交換は、2日目の午前8時30分であった。3回目の最終交換は、2日目の午後12時30分であった。2日目の午後5時に、タンパク質を透析カセットから取り出し(11mLを取り出し)、同じくMettler Toledo MP220pHメーターでpHを測定した。測定されたpHは6.98であった。
【0085】
結果:
結果の要約を下記の表17に示す。
【0086】
【0087】
結論:pH7.56の交換前溶液から、PASS緩衝液中へ試料を限外ろ過/透析ろ過すると、目標pHである6.34が達成された。しかし、SAS_100NaCl溶液中へ試料を限外ろ過/透析ろ過した場合、達成された透析後材料のpHは6.98であり、これは予想よりも高く、最終目標のpH6.3に近くはなかった。SAS_100NaClへの交換法として透析を使用しても、同じ結果が得られた。
【0088】
実施例6:UF/DFプール
はじめに:この研究後に選択された製剤溶液は、SAS(120mMの塩化ナトリウム、25mMのL-アルギニン、1%のスクロース、pH6.3)と名付けられ、リン酸緩衝液は添加されていない。前の実施例で、pH7.56の試料中のエタネルセプトから出発する場合、透析するか、又はUF/DFを使用するかでは、標的pH6.3の達成は困難であると示されたことから、SAS製剤への交換の異なる方法が必要であった。異なる最終UF/DF出発材料を利用した以下の2つの方法を評価した:1)出発材料としてカラム3(AEX)中間体プール、及び2)出発材料としてPASS製剤緩衝液(PASS DS中間体プール)中のEnbrel原薬。それぞれの方法は以下に記載され、50g/LのSAS製剤化エタネルセプトを製造するための、最終UF/DF単位操作工程の開発を、SAS製剤溶液の調製、最終UF/DFの負荷調整及び処理を含めて要約する。
【0089】
方法:SAS製剤溶液は、120mMの塩化ナトリウム、25mMのL-アルギニン、1%のスクロース、pH6.3から構成される。10NのNaOHを用い、SAS製剤溶液をpH6.3にまで滴定した。特定のpH範囲に達するのに必要な滴定液の容量は、4.4μL/L-SAS製剤溶液であった。SAS最終UF/DF単位操作の実行中、膜をSAS製剤溶液10L/m2で平衡化した後、透過液のpHは、SAS製剤溶液のpHよりも、WFIのpHに近い値を維持した。特定の理論に束縛されるものではないが、これはSAS製剤溶液の緩衝能が低いためであると考えられる。SAS製剤溶液調製の範囲から予測した透過液の、膜平衡後の導電率範囲は、12~16mS/cmである。平衡後pHがSAS製剤溶液のpHよりも高いことは、予想されることであり、膜が平衡化されていないことを懸念すべきではなく、又はそのことを示すべきものでもない。
【0090】
AEX中間体プール出発材料:AEX中間体プールをUF/DFタンクの不透過成分タンクに移す前に、2MのHClを使用して、プールを目標pH6.3(許容範囲6.2~6.4)に調整した。特定のpH範囲に達するのに必要な滴定液の容量は、約2.8mL/LのAEX中間体プールであった。
【0091】
出発材料としてAEX中間体プールを使用し、SAS最終UF/DF単位操作工程の開発中に実施した8つの例を表18に示す。調整したAEX中間体プールのpH及びSAS製剤溶液のpHの、2つのパラメータを調べた。最初の3回の実験は、pH、導電率、重量オスモル濃度、タンパク質濃度、及び生成物品質について分析した。実験4~7は、製剤溶液pHの影響、及びUF/DFプールのpHに対する負荷pHの影響を決定するために、pH、導電率、重量オスモル濃度、及びタンパク質濃度についてのみ測定した。
【0092】
【0093】
結果:出発材料としてAEX中間体プールを用いて生成した、最終SAS UF/DFプールについての生成物品質結果を表19に示す。実験1の工程収率は許容基準外であったが、これはベンチスケール処理の不自然な結果である可能性が最も高く、研究の結論にとって重要ではないと考えられた。上述したように、3つ全ての最終UF/DF SAS実験も、SEC及びHIC分析を使用して、生成物品質の許容基準に適合した。
【0094】
【0095】
調整AEX中間体プールの安定性
調整したAEX中間体プールは、制御された室温(CRT)で52.6時間まで保管することができる。保管中のプールのpHを
図8に示す。
【0096】
UF/DFプールの安定性
AEX中間体プールを出発材料として使用して生成された最終UF/DF SASプールは、CRTで96.3時間まで保管することができる。保管中のpH及び導電率を
図9A及びBに示す。96.3時間の保管中、pH及び導電率は許容範囲内に留まる。
【0097】
PASS DS中間体プール出発材料:PASS DS中間体プールは既に許容可能なpH範囲内にあるので、PASS DS中間体プールをUF/DFの不透過成分タンクに移す前に調整する必要はない。さらに、出発材料は50mg/mLのPASS製剤化Enbrel DSであり、既に透析ろ過を行うのに正しい濃度であるので、プールを50g/Lに濃縮する必要はない。
【0098】
出発材料源を評価するために、SAS最終UF/DF単位操作工程の開発中に行われた一例を表20に示す。この例は出発材料としてDS PASS中間体プールを利用し、pH、導電率、重量オスモル濃度、タンパク質濃度、及び生成物品質について分析した。
【0099】
【0100】
結果:出発材料としてPASS DS中間体プールを用いて生成した、最終SAS UF/DFプールについての生成物品質結果を表21に示す。実験1の工程収率は許容基準外であったが、これはベンチスケール処理の不自然な結果である可能性が最も高く、研究の結論にとって重要ではないと考えられた。上述したように、最終SAS UF/DFプールも、SEC及びHIC分析を使用して、生成物品質の許容基準に適合した。
【0101】
【0102】
PASS DS中間体プールの安定性
この中間体プールは既に目標pH(6.3)にあるので、SAS溶液によるUF/DF処理の前に、このPASSプールを調整する必要はない。プールの状態はEnbrel PASS DSから変えられなかったので、この中間体プールではプール保管研究を実施しなかった。プールは25℃で96時間まで保管することができる。
【0103】
UF/DFプールの安定性
PASS DS中間体プールを出発材料として生成された、最終UF/DF SASプールは、CRTで96.3時間まで保管することができる。保管中のpH及び導電率を
図9A及びBに示す。96.3時間の保管中、pH及び導電率は許容範囲内に留まる。
【0104】
SAS製剤溶液の安定性
SAS製剤溶液は、CRTで28日間まで保管することができる。pH及び導電率を
図10A及びBに示す。非常に小さなヘッドスペースを有する小規模ステンレス鋼製安定性チャンバ内で42日間保管した場合、SAS製剤溶液はpHを5.6~6.5内に維持することが示された。35日目及び42日目の時点で沈殿が観察された。21日目の時点の測定値5.09は、その後の時点では提案された許容基準内にあるという事実によって、外れ値のようである。
【0105】
結論:最終的なUF/DFの単位操作は、50g/LのSAS製剤製品を製造することができ、以下のプロセス推奨の下で、現在市販のPASS製剤製品と比較して、一貫した製品品質を達成することができる:1)出発材料としてAEX中間体プール又はPASS DS中間体プールを利用し、2)SAS溶液はCRTで少なくとも28日間保管することができ、pHを5.6~6.5に保ち、3)調整AEX中間体プールは、CRTで少なくとも52.6時間保管することができ、pHを6.3±0.1に保ち、4)SAS製剤化UF/DFプールは、CRTで少なくとも96.3時間保管することができ、pHを6.1~6.5に保ち、導電率を10~14mS/cmSに保つ。
【0106】
実施例7:等張代替製剤
この実施例の目的は、40℃、75mg/mLでエタネルセプト安定性に対するアルギニン、スクロース又は塩化ナトリウムの増加した濃度が凝集に与える影響を決定することである。リン酸緩衝液を添加せずに、等張製剤を維持するために、これらの賦形剤の濃度をそれぞれ増加させた。さらに、ヒスチジンを、リン酸塩置換用緩衝液として評価した。試験した製剤を表22に要約する。
【0107】
【0108】
材料50mg/mLのPASS(25mMのリン酸緩衝液、25mMのL-アルギニン、100mMのNaCl、1%のスクロース)中のEnbrel原薬をこの研究に使用した。材料を透析して新しい製剤(ポリソルベートなし)とし、30,000MWCOのcentriprepを用い、75mg/mLを使用することにまで濃縮した。ポリソルベート20の1%ストック溶液を新たに調製し、全ての製剤に加えて最終濃度を0.01%とした。全ての製剤を、1mLの長いBDガラスシリンジに、1.0mLの容量まで手動で満たし、その後、ASPUバキュームストッパー装置を使用して栓をした。
【0109】
方法:Mettler MicroProbeと組み合わせたMettler Toledo pHメーターを用いてpHを測定した。測定前に、試料を室温にまで温めた。重量オスモル濃度は、Advanced Osmometer Model 3900を用いて測定した。各測定は250μLの試料を用いて行い、290重量オスモル濃度標準を試験して、システムが適切に動作していることを確認した。Chromeleon 7.2ソフトウェアと共に、Agilent 1100 HPLCを使用してサイズ排除HPLCを実施した。
【0110】
結果:濃度、pH及び重量オスモル濃度を表23に示す。表24に示すように、リン酸塩を含まない全ての製剤の、40℃、75mg/mLにおける凝集速度は、市販製剤組成物と類似しており、L-アルギニン、スクロース及びNaClの濃度は増加した。さらに、緩衝液としてリン酸塩の代わりにヒスチジンを使用すると、40℃での凝集速度が増加した。
【0111】
【0112】
【0113】
実施例8:各種濃度のポリソルベート20を有する製剤の安定性
SAS製剤中、ポリソルベート20が、0、0.005、0.01及び0.015%の場合に、50mg/mLのエタネルセプトの安定性を観察するために長期研究を行った。さらに、100mg/mLの、エタネルセプトのSAST高濃度製剤を試験した。4℃、25℃及び40℃で貯蔵後、SE-HPLC、dSEC HPLC、及びの粒子状物質(HIAC)を使用して、1mLのステークガラス針シリンジ中の1mL充填物について安定性を評価した。時刻ゼロでのみ、重量オスモル濃度、pH、及びタンパク質濃度を試験した。試験の結果は、試験した50mg/mL製剤が、推奨される2~8℃、ならびに25℃及び40℃の加速温度で24週間後に、現在の市販製剤との類似性を維持したことが示された。100mg/mLのSAST製剤は、pH及びサブビジブル粒子に関して50mg/mL製剤と同等の挙動を示した;SECによる凝集レベルの差異はタンパク質濃度に起因すると考えられた。
【0114】
【0115】
材料:TMS(10mMのトリス緩衝液、4%のマンニトール、1%のスクロース)中の、25mg/mLのEnbrel原薬をこの研究に使用した。SAS製剤に使用したバルクをpH6.3に滴定した。材料を約50mg/mLのエタネルセプトに限外ろ過し、その後、PASS(25mMのリン酸塩、25mMのL-アルギニン、120mMのNaCl、1%のスクロース)又はSAS(25mMのL-アルギニン、120mMのNaCl、1%のスクロース)に対して、50mg/mLのエタネルセプトで透析ろ過を行った。次いで、高濃度群用の材料を100mg/mLのエタネルセプトに限外ろ過した。ポリソルベート20の1%ストック溶液を新たに調製し、表25に示す最終濃度まで製剤に加えた。全ての製剤を、1mLの長いBDガラスシリンジに、1mLの容量まで手動で満たし、その後、ASPUバキュームストッパー装置を使用して栓をした。
【0116】
結果と考察:時刻ゼロ、40℃で12週間後、ならびに4℃及び25℃で24週間後に全ての製剤のpHを測定した。時間又は貯蔵温度の関数としての傾向は観察されなかった。全ての試料について測定したpHを表26に示す。40℃で12週間の貯蔵、又は4℃及び25℃で24週間の貯蔵の後、pHのドリフトは観察されず、全ての試料は、6.3の標的pH±0.2pH単位の許容基準を満たした。全ての製剤のタンパク質濃度及び重量オスモル濃度を時刻ゼロで試験した。全ての試料のタンパク質濃度及び重量オスモル濃度の結果を表26に示す。
【0117】
【0118】
SE-HPLCを行い、製剤条件、時間及び温度の関数として凝集レベルを観察した。ピークBは、生成した高分子量種(凝集体)の量である。結果は、全ての温度、それぞれのタンパク質濃度で、PASS対照と緩衝剤を含まない製剤の間でピークBに差がないことを示した(表27~29)。ピークBは、これらの製剤のSE-HPLCによって検出された全凝集体を表す。4℃及び25℃で24週間の貯蔵後、ならびに40℃で2週間の貯蔵後、全ての50mg/mL試料は許容可能性を維持した(ピークB≦6%)。
【0119】
光遮蔽粒子計数法(HIAC)により、サブビジブル粒子を測定した。結果は過去のPFSデータと一致し、24週後の全温度にわたる製剤間で類似していた(表30)。
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
結論:0~0.015%のポリソルベート濃度を有する50mg/mLエタネルセプトでの改質候補、及び現在の市販製剤の長期安定性を、4℃、25℃及び40℃で評価し、100mg/mLエタネルセプトの高濃度群もSAS010T製剤について試験した。SE-、dSEC、又はHIC HPLC分析及び光遮蔽によって、24週間後の、それぞれのタンパク質濃度の製剤間に有意差は観察されなかった。pHのドリフトは観察されず、全ての製剤は許容範囲内に留まった。研究の結果は、50mg/mLのSAST_120NaCl製剤は、2℃~8℃の推奨貯蔵温度で24週間後も安定であり、現在の市販製剤と類似していることを示した。
【0125】
実施例9:プラスチックシリンジ中の製剤の安定性
COPプラスチック製の、シリコーン油を含まないプレフィルドシリンジシステム中における、50mg/mLエタネルセプトのPASS及びSAS製剤中のエタネルセプト安定性を、ガラス製のシリコーン処理したプレフィルドシリンジと比較して観察するために、長期研究を行った。4℃、25℃及び40℃で貯蔵後、SE-HPLC、pH、及びの粒子状物質(HIAC)を使用して、各種シリンジシステム中の1mL充填物について安定性を評価した。時刻ゼロでのみ、タンパク質濃度を試験した。
【0126】
材料:25mg/mLエタネルセプトで、エタネルセプト原薬を含有するTMS(10mMのトリス緩衝液、4%のマンニトール、1%のスクロース)をこの研究に使用した。SAS製剤に使用したバルクをpH6.3に滴定した。材料を約50mg/mLのエタネルセプトに限外ろ過し、その後、PASS(25mMのリン酸塩、25mMのL-アルギニン、120mMのNaCl、1%のスクロース)又はSAS(25mMのL-アルギニン、120mMのNaCl、1%のスクロース)に対して、50mg/mLのエタネルセプトで透析ろ過を行った。全ての製剤を、1mLの長いBDガラス製シリンジ又は1mLのCOPプラスチック製のシリコーン油を含まないシリンジ(COP_A及びCOP_B)に、1mLの容量まで手動で満たし、その後、バキュームストッパー装置を使用して栓をした。
【0127】
方法:Mettler Inlab MicroProbeと組み合わせたMettler Toledo SevenEasy pHメーターを用いてpHを測定した。測定前に、試料を室温にまで温めた。全ての試料に対する、280nMの吸光度を用いたタンパク質の濃度測定は、Nano Dropシステムを使用して室温で行った。Chromeleon 7.2ソフトウェアと共に、Agilent 1100 HPLCを使用してサイズ排除HPLCを実施した。HRLD-150レーザー及びPharm Specソフトウェアを装備した、HACH HIAC/Royco粒子カウンターシステムを使用して、サブビジブル粒子の分析を行った。全ての試料をPASS製剤緩衝液で25mg/mLにまで希釈した。試料を完全に混合し、キャップを外し、分析前に75torrで2時間脱気した。各1.0mL(風袋容量なし)の4回の分析を行い、最初の分析を廃棄し、残りの3回の分析を平均した。2、5、10、及び25μmの粒子径データは、全ての時点で収集した。結果は希釈を反映しており、1mL当たりの累積カウントとして報告される。
【0128】
結果と考察:プラスチック製のシリコーン油を含まないシリンジ中の安定性は、ガラス製のシリコーン処理したシリンジ中の安定性と類似している。全ての製剤のタンパク質濃度を時刻ゼロで試験した。全製剤のpHは、時刻ゼロで測定し、40℃で12週間後に、4℃及び25℃で24週間後に測定した。時間又は貯蔵温度の関数として、何らの傾向も観察されず、全ての試料は、6.3の標的pH±0.2pH単位の許容基準を満たした。全ての試料に対するタンパク質濃度、及びpHの測定値を表31に示す。
【0129】
【0130】
SE-HPLCを行い、製剤条件、時間及び温度の関数として凝集レベルを観察した。ピークBは、生成した高分子量種(凝集体)の量である。結果は、ガラス製シリンジとCOPプラスチック製のシリコーンオイルを含まないシリンジとの間で、ピークBの差異を示さなかった(表32~34)。ピークBは、これらの製剤のSE-HPLCによって検出された全凝集体を表す。4℃及び25℃で24週間保存した後、全ての試料は許容可能性を維持した(ピークB≦6%)。
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
光遮蔽粒子計数法(HIAC)により、サブビジブル粒子を測定した。BDガラスシリンジに充填された製剤の結果は、過去のPFSデータと一致したが、サブビジブル粒子はシリコーン油を含まないプラスチック製シリンジで減少した(表35)。
【0135】
【0136】
結論:ガラス製のシリコーン処理したシリンジ及びCOPシリコーン油を含まないシリンジに保存された、50mg/mLエタネルセプトのSAS製剤及び現在の市販エタネルセプト製剤の長期安定性を、4℃、25℃及び40℃で評価した。24週間後のシリンジタイプの関数としての製剤間に、SE-HPLCによる有意差は観察されなかった。pHのドリフトは観察されず、全ての製剤は許容範囲内に留まった。サブビジブル粒子は、COPシリコーン油を含まないプラスチック製シリンジ中で減少し、ガラス製シリンジ中に保存された場合には、過去のPFS結果と一致した。研究の結果は、50mg/mLエタネルセプトのSAS製剤は、各種シリンジ中で、2℃~8℃の推奨貯蔵温度で24週間後も安定であり、現在の市販製剤と類似していることを示した。
75mM~150mMのNaCl、5mM~100mMのアルギニン、0.5%~2%(w/v)スクロース、及び40mg/mL~100mg/mLのエタネルセプトを含む医薬組成物であって、前記医薬組成物は、2.0mM未満の全追加緩衝剤を含み、かつ前記組成物のpHは、6.1~6.5である、医薬組成物。