(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100272
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】アンテナ装置
(51)【国際特許分類】
H01Q 19/06 20060101AFI20240719BHJP
【FI】
H01Q19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004138
(22)【出願日】2023-01-13
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】504205521
【氏名又は名称】国立大学法人 長崎大学
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】藤本 孝文
【テーマコード(参考)】
5J020
【Fターム(参考)】
5J020AA02
5J020BB00
5J020BC06
5J020BD01
5J020BD02
5J020DA02
(57)【要約】
【課題】強度減衰しない距離が有限な非回折波の電波を生成するアンテナ装置であって、設計が容易で製造費用が安価なアンテナ装置を提供する。
【解決手段】アンテナ装置100は、電界の向きが一様な電波を放射する導波管アンテナ10と、導波管アンテナ10から放射された電波を減衰させる電波遮蔽部22と、導波管アンテナ10から放射された電波を通過させるスリット部24と、を有する電波吸収体20Aと、電波吸収体20Aのスリット部24を通過した電波を集束させて非回折波を得る凸レンズ30と、を備え、電波吸収体20Aのスリット部24を通過した電波は、スリット部24に対応した円環状であって、電界強度が一様かつ電界の向きが一様である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電界の向きが一様な電波を放射するアンテナと、
前記アンテナから放射された前記電波を吸収する遮蔽部と、前記アンテナから放射された前記電波を通過させるスリット部と、を有する電波吸収体と、
前記電波吸収体の前記スリット部を通過した前記電波を集束させて非回折波を得る凸レンズと、を備え、
前記電波吸収体の前記スリット部を通過した前記電波は、前記スリット部に対応した形状であって、電界強度が一様かつ電界の向きが一様である、
アンテナ装置。
【請求項2】
前記電波吸収体は、導電率の高い非金属材料からなる、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項3】
前記電波吸収体は、柱体で構成され、
前記スリット部は、前記柱体の第1面と当該第1面とは反対側の第2面との間を貫通する、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【請求項4】
前記スリット部は、平面視で円環状である、
請求項3に記載のアンテナ装置。
【請求項5】
前記スリット部において、内半径をaとし、外半径をbとしたとき、
遮蔽率a/bが0.8以上である、
請求項1に記載のアンテナ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非回折波の電波を生成するアンテナ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
非回折波は、通常の電磁波が距離の2乗に比例して強度が減衰するのに対し、距離による減衰が生じない電磁波であり、光工学分野における波動方程式の1つの解として、非特許文献1にて報告された。その後、非特許文献2では、同じく光波を対象として、強度減衰しない距離が有限である場合の例として、円環状開口を有する絞りとレンズを組み合わせた系が提案されている。しかしながら、電波は、光波用に設計された系では透過してしまうため機能しない。そこで、ミリ波帯の電波を対象とした研究として、非特許文献3では、同心円状の複数のフラクタル形状を重畳させた円錐レンズを用いること、非特許文献4では、同心円状で深さの異なる複数の溝を有するレンズを用いることが提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】J.Durnin,"Exact solution for nondiffracting bems.I.The scalar theory”,Optical Society of America,Vol.4,No.4,pp.651-654,April 1987
【非特許文献2】T.Fujimoto,Y.Maemura,"Design of Optical Lens for Quasi-diffraction -free beam using Particle Swarm Optimization”,Computer and Computing Science,Vol.111,pp.246-250,Oct.2015
【非特許文献3】Y.Z.Yu et al.,"Properties of Approximate Bessel Beams at Millimeter Wavelengths Generated by Fractal Conical Lens”Progress In Electrimagnetics Reserch,PIER 87,pp.105-115,2008
【非特許文献4】W.Dou et al.,"Diffraction-Free Bessel Beams st mm-and Submm-Eavebands”,IEICE Trans.Electron.,Vol.E92-C,No.9,pp.1130-1136,Sep.2009
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来における非特許文献3及び4で提案されているレンズは、いずれも形状が複雑であるため、正確に設計するのが困難、製造費用が高価になるという問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、強度減衰しない距離が有限な非回折波の電波を生成するアンテナ装置であって、設計が容易で製造費用が安価なアンテナ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明は、
電界の向きが一様な電波を放射するアンテナと、
前記アンテナから放射された前記電波を減衰させる遮蔽部と、前記アンテナから放射された前記電波を通過させるスリット部と、を有する電波吸収体と、
前記電波吸収体の前記スリット部を通過した前記電波を集束させて非回折波を得る凸レンズと、を備え、
前記電波吸収体の前記スリット部を通過した前記電波は、前記スリット部に対応した形状であって、電界強度が一様かつ電界の向きが一様である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、構成要素であるアンテナ、スリット部を有する電波吸収体、凸レンズのいずれも単純な形状であるため、強度減衰しない距離が有限な非回折波の電波を生成するアンテナ装置を、設計容易かつ安価に提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施の形態に係るアンテナ装置の概略構成を示す斜視図である
【
図2A】本実施の形態に係るアンテナ装置の導波管アンテナの背面図である。
【
図2B】本実施の形態に係るアンテナ装置の導波管アンテナの左側面図である。
【
図3A】本実施の形態に係るアンテナ装置の電波吸収体の正面図である。
【
図4A】本実施の形態に係るアンテナ装置の凸レンズの正面図である。
【
図4B】本実施の形態に係るアンテナ装置の凸レンズの左側面図である。
【
図5】本実施の形態に係る導波管アンテナから放射された点波源である電波により非回折波が生成されるまでの流れを説明するための図である。
【
図6A】第1変形例に係るアンテナ装置の電波吸収体の断面図である。
【
図6B】第2変形例に係るアンテナ装置の電波吸収体の断面図である。
【
図7】導波管アンテナの貫通孔の出口側から1mmの地点における電界の強度分布及び電界の向きを示す図である。
【
図8A】電波吸収体の後面上の電界の強度分布及び電界の向きを示す図である。
【
図8B】電波吸収体の後面上のX方向における電界の強度分布を示す図である。
【
図9】凸レンズ通過後における伝搬方向の電界の強度分布を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、各図において、各部材の縮尺は実際とは異なる場合がある。また、各図では、3軸方向(x軸方向、y軸方向、z軸方向)の3次元直交座標系を用いる。本実施の形態では、各部材における高さ方向がy軸方向及び重力方向に対応し、幅方向がx軸方向に対応し、厚さ(奥行き)方向及び電波の伝搬方向がz軸方向に対応している。
【0010】
<実施の形態>
[アンテナ装置100の構成例]
図1は、本実施の形態に係るアンテナ装置100の概略構成を示す斜視図である。
図2Aはアンテナ装置100の導波管アンテナ10の背面図、
図2Bはアンテナ装置100の導波管アンテナ10の左側面図である。
図3Aはアンテナ装置100の電波吸収体20Aの正面図、
図3Bは
図3Aに示す電波吸収体20AのA-A’線断面図である。
図4Aはアンテナ装置100の凸レンズ30の正面図、
図4Bはアンテナ装置100の凸レンズ30の左側面図である。なお、
図1及び
図3Aでは、便宜上電波透過材26Aを省略して図示している。
【0011】
本実施の形態に係るアンテナ装置100は、例えば所定の通信距離における高速、大容量無線通信を実現するための装置である。アンテナ装置100は、例えば、工場内の複数ロボットの協調制御や、NC加工機等の複数の工作機械の制御部の集約等に使用される。アンテナ装置100は、
図1等に示すように、導波管アンテナ10と、電波吸収体20Aと、凸レンズ30と、を備える。
【0012】
導波管アンテナ10は、
図1、
図2A及び
図2Bに示すように、導波管本体12と、電波を放射する給電部16と、を有する。導波管本体12は、z軸方向に延びる細長の直方体形状からなる。また、導波管本体12は、中空構造であって、孔14を有する。孔14は、電波が伝搬される空間であり、導波管本体12の前壁12a側で閉じ、後壁12b側に開いた開口14aが形成されており、電波は開口14aから放射される。給電部16は、一端部が導波管本体12の底壁12cに取り付けられ、他端部がケーブル(図示省略)に接続されている。ケーブルは、所定周波数の電流を生成するための電源部(図示省略)に接続されている。電波の伝搬モードには、電界が一様な向きを示すTE10モードが採用される。給電部16から放射される電磁波は、主偏波(例えば垂直偏波)がそれに直交する副偏波(水平偏波)よりも強度が大きく、主偏波の電界が一様な向きであって主偏波の電界強度も一様となっている。なお、本実施の形態において、電界の強度及び電界の向きが一様とは、電界の強度及び電界の向きが所定の地点において一定である場合を意味する。
【0013】
電波吸収体20Aは、
図1に示すように、導波管アンテナ10の後方(出口側)に配置され、導波管アンテナ10から放射された電界の強度分布を制御する。電波吸収体20Aは、
図3A及び
図3Bに示すように、電波遮蔽部22と、スリット部24と、を有する。本実施の形態において、電波遮蔽部22及びスリット部24の寸法や材料等は、以下に示す条件を満たすように設計される。
(1)スリット部24を通過する電波の電界強度が一様であること
(2)スリット部24を通過する電波の電界の向きが一様であること
(3)電波遮蔽部22とスリット部24とを通過する電波の電界強度の差ができるだけ大きいこと
なお、電波遮蔽部22及びスリット部24の寸法の詳細については後述する。
【0014】
電波遮蔽部22は、直方体形状であって、導電率の高い非金属材料からなる。導電率の高い非金属材料としては、例えば、炭素焼結体(練炭)が挙げられる。電波遮蔽部22は、スリット部24以外の領域に入射した電波を吸収して透過波を減少させる。なお、電波遮蔽部22の形状は、直方体に限定されることはなく、例えば円柱状であってもよいし、三角柱であってもよい。電波遮蔽部22のz軸方向の厚みは、電波遮蔽部22の導電率σに基づいて設定される。例えば、導電率σが小さい材料を使用する場合には、電波の吸収率が小さくなるため、スリット部24の出口側の電界強度とそれ以外の電界強度との強度差を大きくするために、電波遮蔽部22の厚みを厚く設定する。これに対し、導電率σが大きい材料を使用する場合には、電波の吸収率が大きくなるため、電波遮蔽部22のz軸方向の厚みを薄く設定する。ただし、電波遮蔽部22の厚みを薄くし過ぎると、導体としての特性が強くなり、スリット部24の出口での電界の向き及び電界強度が一様にならない場合があるため、導電率σとの関係において電波遮蔽部22の厚みを一定以上とすることが好ましい。
【0015】
スリット部24は、電波遮蔽部22の前壁22a(導波管アンテナ10に対向する面)から後壁22bに向かって貫通している。スリット部24は、例えば平面視形状が円環状であり、導波管アンテナ10から放射された電界から電界の向きが一様で電界強度が一様な円環状の電界を生成する。本実施の形態においてスリット部24は、電波遮蔽部22に形成した円柱状の貫通孔200に、貫通孔200の直径よりも小さい直径の円柱体210を挿入することで形成される。つまり、スリット部24は、
図3Bに示すように、貫通孔200の孔壁と円柱体210の周壁との間の空間(空隙)により構成される。
【0016】
ここで、
図3A及び
図3Bに示すように、スリット部24(電波吸収体20A)の中心軸をC1、スリット部24の内半径をa、外半径をbとしたとき、遮蔽率a/bは0.8以上であり、より好ましくは0.9以上とすることが好ましい。スリット部24の中心軸C1は、後述する凸レンズ30の中心軸C2と同軸上に配置される。遮蔽率を0.8以上とすることで非回折波の伝搬距離を長くでき、遮蔽率を0.9以上とすることでさらに非回折波の伝搬距離を長くすることができる。すなわち、スリット部24の遮蔽率が大きい場合には、スリット幅が狭くなり、円環状のスリット部24の円周方向に点波源が並んだ場合と同等となるので、伝搬距離の長い非回折波の電波を生成できる。これに対し、スリット部24の遮蔽率が小さい(例えば、0.7以下)場合には、スリット幅が広くなり、円環状のスリット部24の円周方向に点波源が並ぶとともに径方向にも点波源が複数並んだ場合と同等となる。そのため、径方向の複数の点波源から放射される電波により回折が生じることで、非回折波の電波を生成できない場合や、非回折波の電波の伝搬距離が短くなる場合がある。
【0017】
なお、本実施の形態では、スリット部24の入口側の半径(内半径及び外半径)と出口側の半径(内半径及び外半径)とを同一に設定したが、この形状に限定されることはない。例えば、スリット部24の入口側の半径と出口側の半径とを異なる径により構成してもよい。具体的には、スリット部24をテーパー状の円錐形状とし、入口側の半径を出口側の半径よりも大きく構成してもよいし、逆に入口側の半径を出口側の半径よりも小さく構成してもよい。すなわち、スリット部24における入口側の半径と出口側の半径が異なっていてもスリット部24の円環状の各出口から凸レンズ30の中心軸C2上の中心(主点)までの距離が同一となればよい。このような場合でも、スリット部24の出口側から、電界強度が一様で、電界の向きが一様な電波を放射させることができる。
【0018】
電波吸収体20Aの前壁22a及び後壁22bのそれぞれには、
図3Bに示すように、スリット部24の空隙(幅)を保持するための電波透過材26A,26Aが貼り付けられている。具体的には、貫通孔200の孔壁と貫通孔200内に挿入される円柱体210の周壁との間に空隙ができるように、電波遮蔽部22の前壁22a及び後壁22bのそれぞれに電波透過材26A,26Aが貼り付けられる。電波透過材26には、導電性の低い材料、いわゆる電気絶縁体を用いることができる。電気絶縁材料としては、例えば、発泡スチロール、紙、塩化ビニール等が挙げられる。
【0019】
凸レンズ30は、
図1、
図4A及び
図4B等に示すように、薄肉レンズにより構成され、電波吸収体20Aの後方(射出側)に配置されている。凸レンズ30は、電波吸収体20Aのスリット部24を通過した点波源の電波を平面波に変換する。点波源の電波が凸レンズ30を通過すると、複数の平面波が発生し、平面波同士の合成が発生する。合成される平面波の強弱は、点波源からの波の経路差によって決定される。凸レンズ30の中心軸C2(
図5参照)では、電波吸収体20Aのスリット部24を通過した経路差=0となる波の合成が発生するので、波の減衰が発生せず、回折現象を起こしていないように見える非回折波が発生する。
【0020】
[アンテナ装置100の機能例]
図5は、電波吸収体20Aから放射された点波源である電波により非回折波が生成されるまでの流れを説明するための図である。
電源部から給電部16に電流が供給されると、導波管アンテナ10内をTE10モードの電波が伝搬され、導波管アンテナ10の孔14から電界ベクトルの向きが一様である電波が放射される。導波管アンテナ10から放射された電波は、電波吸収体20Aの表面に入射する。電波吸収体20Aの前壁22a側のスリット部24に入射した電波は、
図5に示すように、スリット部24内を通過して電波吸収体20Aの後壁22bのスリット部24から射出される。ここで、スリット部24の幅は非常に小さい(遮蔽率a/b≧0.8、より好ましくは0.9程度)ので、スリット部24を通過した電波の電界分布は点波源の集合であると考えることができる。一方、電波吸収体20Aのスリット部24以外の電波遮蔽部22に入射した電波は、吸収されて透過波が減少され、電波吸収体20Aの後壁22b側からはほぼ放射されない。
【0021】
電波吸収体20Aのスリット部24から放射された点波源としての電波は、凸レンズ30に入射する。凸レンズ30に入射した電波は、凸レンズ30を通過することで平面波に変換される。凸レンズ30の中心軸C2の中心部分では、電波吸収体20Aのスリット部24を通過した円環状の電波同士が合成されるのでエネルギーの大きい波が生成される。このようにして、本実施の形態では、電波の強度が一定距離の間減衰しない非回折波を生成することができる。
【0022】
[電波吸収体20Aの変形例]
次に、電波吸収体20Aの第1変形例について説明する。
図6Aは、第1変形例に係るアンテナ装置100の電波吸収体20Bの断面図である。
図6Aに示すように、電波透過材26Bは、平面視でスリット部24と同一の円環状からなり、所定の厚みを有する。電波透過材26B,26Bは、スリット部24の入口付近及び出口付近のそれぞれに装着される。第1変形例の電波吸収体20Bによれば、少ない材料でスリット部24の空隙を保持できるので、低コスト化を図ることができる。
【0023】
次に、電波吸収体20Aの第2変形例について説明する。
図6Bは、第2変形例に係るアンテナ装置100の電波吸収体20Cの断面図である。
図6Bに示すように、電波透過材26Cは、平面視でスリット部24と同一の円環状からなり、電波遮蔽部22と同一の厚みを有する。この場合、スリット部24は空隙ではなく、電波透過材26Cで充填されたものとなるが、電波吸収体20Cとの透過率の差が大きければ所望の機能を満たすことができる。第2変形例の電波吸収体20Cによれば、スリット部24すなわち電波透過材26Cを樹脂成型で形成できるので、低コスト化を図ることができる。
【0024】
以上説明したように、本実施の形態によれば、構成要素である導波管アンテナ10、スリット部24を有する電波吸収体20A等、凸レンズ30のいずれも単純な形状であるため、強度減衰しない距離が有限な非回折波の電波を生成するアンテナ装置100を、設計容易かつ安価に提供することが可能となる。また、本実施の形態によれば、電波吸収体20Aに遮蔽率が0.8以上となるスリット部24を設けるので、電界の向きの一様性に乱れのない、電界強度が一様かつ電界の向きが一様となるような点波源の電波を生成することができる。また、スリット部24を円環状とすることで、円環状の点波源である電波を凸レンズ30の中心軸C2上にて合成できるので、より大きな波に変換でき、電波の強度が一定距離の間減衰しない非回折波を生成できる。
【0025】
<実施例>
上記実施の形態に係るアンテナ装置を使用して凸レンズ通過後の電界強度分布のシミュレーションを実施した。電波の周波数は100GHzとした。
【0026】
導波管内での伝搬モードとしては、電界が一様な向きを示すTE10モードを採用した。また、導波管の各寸法は、
図2A及び
図2Bに示すように、90GHz~120GHzにおいてTE10モードのみを伝搬できるように以下のように設計した。
導波管の高さw=1.25mm
導波管の幅v=1.67mm
導波管の奥行l=3.0mm(電波の1波長分)
【0027】
電波吸収体の材料には、炭素焼結体を使用した。電波吸収体の各寸法は、
図3A及び
図3Bに示すように、以下のように設計した。
電波吸収体の高さd=20mm
電波吸収体の幅c=20mm
電波吸収体の厚さj=10mm(電波の波長の約3倍)
スリット部の内半径a=0.9mmおよび1.8mm
スリット部の外半径b=1.0mmおよび2.0mm
スリット部の遮蔽率(a/b)=0.9
電波吸収体の導電率σ=5[S/m]
電波吸収体の比誘電率εr=1.0
【0028】
凸レンズには、薄肉レンズを使用した。凸レンズの各寸法は、
図4A及び
図4Bに示すように、以下のように設計した。
凸レンズの高さh=25mm
凸レンズの厚さt=4.832mm
比誘電率εr=49
tanσ(損失係数)=0.0041
電波吸収体から凸レンズまでの焦点距離f=10.88mm(
図5参照)
【0029】
まず、上記構成のアンテナ装置を使用して、導波管アンテナの貫通孔の出口側から所定の地点における電波の電界分布及び電界の向きを検証した。
図7は、導波管アンテナの貫通孔の出口側から1mmの地点における電界の強度分布及び電界の向きを示す。
【0030】
図7に示すように、導波管アンテナの貫通孔の出口部分では、電界の向きが上下方向に揃っており、電界強度が全域で略45dBとなった。これらの結果から、導波管アンテナから放射される電波は、電界強度が一様であってかつ電界の向きが一様であることが確認された。
【0031】
次に、上記構成のアンテナ装置を使用して、電波吸収体の出口側の後面上における電波の電界強度分布及び電界の向きを検証した。
図8Aは電波吸収体の後面上の電界の強度分布及び電界の向きを示し、
図8Bは電波吸収体の後面上のX方向における電界の強度分布を示す。
図8Aおよび
図8Bは、スリット部の内半径a=0.9mm、スリット部の外半径b=1.0mmとした場合である。
図8Aの左側縦軸はy軸方向における位置であり、右側縦軸は電界強度であり、横軸はx軸方向における位置である。また、
図8Bの縦軸は電界強度であり、横軸はx軸方向における位置である。また、
図8Aの電界の向きは位相0度の場合を示す。
【0032】
図8A及び
図8Bに示すように、電波吸収体の後面側において、スリット部では電界が-23dBV/mとなり、スリット部以外の電波遮蔽部では-50dBV/mとなった。これらの結果から、スリット部の後面上の電界と電波遮蔽部の後面上の電界との強度差が約30dBとなり、スリット部の出口部分において他の電波遮蔽部よりも電波の電界強度が大きくなることが確認された。また、
図8Aに示すように、スリット部の出口部分での電界の向きが上下方向に揃っており、電界強度もスリット部の出口部分の電界強度が同一となった。これらの結果から、スリット部から放射される電波は、電界強度が一様であってかつ電界の向きが一様であることが確認された。
【0033】
次に、上記構成のアンテナ装置を使用して、凸レンズ通過後における電界強度の分布を検証した。
図9は、凸レンズ透過後における伝搬方向の電界の強度分布を示す。
図9は、スリット部の内半径a=1.8mm、スリット部の外半径b=2.0mmとした場合である。
図9の縦軸は電界強度であり、横軸は焦点距離10.88mmで規格化した値(焦点距離の倍数)である。
【0034】
図9に示すように、凸レンズ通過後の電界強度は、焦点距離の5倍を少し超えた地点で減衰した。この結果から、凸レンズから放射された電波は、焦点距離の5倍の地点まで-20dB~-30dBの電界強度(波の形)を保っており、凸レンズから約60mmまでの距離において電界強度の減衰がほとんどないことが確認された。これは、波長の20倍相当になり、焦点距離の約5倍の地点まで電波は非回折波に近い性質を示していると考えられる。
【符号の説明】
【0035】
10 導波管アンテナ(アンテナ)
20 電波吸収体
22 電波遮蔽部(遮蔽部)
22a 前壁(第1面)
22b 後壁(第2面)
24 スリット部
30 凸レンズ
100 アンテナ装置