(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100289
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】歯科用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 6/887 20200101AFI20240719BHJP
A61K 6/15 20200101ALI20240719BHJP
A61K 6/17 20200101ALI20240719BHJP
A61K 6/831 20200101ALI20240719BHJP
【FI】
A61K6/887
A61K6/15
A61K6/17
A61K6/831
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004170
(22)【出願日】2023-01-13
(71)【出願人】
【識別番号】301069384
【氏名又は名称】クラレノリタケデンタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠生
(72)【発明者】
【氏名】亀谷 剛大
【テーマコード(参考)】
4C089
【Fターム(参考)】
4C089AA01
4C089BA12
4C089BA13
4C089BC02
4C089BC06
4C089BC12
4C089BD01
4C089BD02
4C089BE02
4C089CA03
4C089CA08
4C089CA10
(57)【要約】
【課題】良好なペースト性状を有し、硬化物が機械的強度及び研磨性に優れる歯科用硬化性組成物及びそれに用いる無機凝集フィラーを提供する。
【解決手段】重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及び無機凝集フィラー(C)を含み、
前記無機凝集フィラー(C)が、下記(c1)、(c2)及び(c3):
(c1)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が不定形(球状を除く)である;
(c2)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下である;
(c3)無機凝集フィラーの微小圧縮硬さが10~300MPaである;
を同時に満たす、歯科用硬化性組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及び無機凝集フィラー(C)を含み、
前記無機凝集フィラー(C)が、下記(c1)、(c2)及び(c3):
(c1)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が不定形(球状を除く)である;
(c2)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下である;
(c3)無機凝集フィラーの微小圧縮硬さが10~300MPaである;
を同時に満たす、歯科用硬化性組成物。
【請求項2】
前記無機凝集フィラー(C)の形状が、球状である、請求項1に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項3】
前記無機凝集フィラー(C)の含有量が、5~50質量%である、請求項1又は2に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項4】
前記無機凝集フィラー(C)の比表面積が、80m2/g以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項5】
一次粒子の平均粒子径が500nm以下である非凝集フィラー(D)をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項6】
前記非凝集フィラー(D)の含有量が、5~45質量%である、請求項5に記載の歯科用硬化性組成物。
【請求項7】
下記(c1)、(c2)及び(c3):
(c1)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が不定形(球状を除く)である;
(c2)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下である;
(c3)無機凝集フィラーの微小圧縮硬さが10~300MPaである。
を同時に満たす、歯科用無機凝集フィラー(C)。
【請求項8】
一次粒子の平均粒子径が650nm以下の無機粒子を溶媒中に分散させてなる分散液と、ケイ素、バリウム、アルミニウム又は3~11族の遷移金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含むバインダーとを混合して混合液を得る混合工程、当該混合液を乾燥して乾燥体を得る乾燥工程、及び当該乾燥体を焼成する焼成工程を含む、無機凝集フィラーの製造方法。
【請求項9】
前記混合工程において、無機粒子100質量部に対するバインダーの添加量が1~35質量部である、請求項8に記載の無機凝集フィラーの製造方法。
【請求項10】
前記バインダーが、下記一般式(1)
R1
nSiY4-n (1)
(式中、R1は炭素数1~25の置換又は無置換の炭化水素基であり、Yは炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~5のアシロキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは0~3の整数であり、但し、R1及びYが複数ある場合にはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシランカップリング剤である、請求項8又は9に記載の無機凝集フィラーの製造方法。
【請求項11】
前記乾燥工程が噴霧乾燥である、請求項8~10のいずれか一項に記載の無機凝集フィラーの製造方法。
【請求項12】
前記焼成工程において、焼成温度が一次粒子の溶融温度又は一次粒子を形成する主成分の融点温度の30~80%の温度である、請求項8~11のいずれか一項に記載の無機凝集フィラーの製造方法。
【請求項13】
前記焼成工程において、焼成温度が600~800℃である、請求項8~12のいずれか一項に記載の無機凝集フィラーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用硬化性組成物に関する。より詳細には、本発明は、良好なペースト性状を有し、硬化物が機械的強度及び研磨性に優れる歯科用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性単量体、無機フィラー及び重合開始剤から構成される歯科用硬化性組成物は、コンポジットレジンと呼ばれ、歯の欠損部や虫歯の充填修復材料として今日最も多用される歯科材料となっている。
このような歯科用硬化性組成物においては、以下のような特性が要求される。
重合硬化後の硬化物においては、天然歯と置換可能な十分な機械的強度、硬度、口腔内での噛み合わせに対する耐磨耗性、表面の滑沢性、天然歯との色調適合性、透明性等である。さらには、重合硬化前のペースト状態では、適度な流動性、賦形性を有する、歯科用インスツルメントに付着しない、べとつかない等、臨床医が扱いやすいこと(操作性が高い)が望まれる。
【0003】
このような歯科用硬化性組成物の特性は、それに用いられる無機フィラーの材質、形状、粒子径、さらには該フィラーの含有量の影響を受ける。
例えば、平均粒子径が1μm以上の粒子径の大きい無機フィラーを用いた場合、重合性単量体中への充填率を上げやすく、硬化物の十分な機械的強度と、高いペーストの操作性が得られるものの、仕上げ研磨しても十分な光沢が得られにくいという問題がある。
一方、平均粒子径が1μmより小さい無機超微粒子フィラーを用いた場合、硬化物の研磨滑沢性は改善されるものの、該無機超微粒子フィラーを重合性単量体へ混練した際に、ペーストの粘度上昇が著しく、フィラーの含有量を上げることが困難となり、硬化物の機械的強度が低くなったり、重合前のペースト状組成物がベトついたりして操作性が悪くなるという問題がある。
【0004】
このような事情により、硬化物の機械的強度、研磨滑沢性、及びペーストの操作性をバランスよく高めることは困難となっている。
【0005】
近年、歯科用コンポジットレジンの開発は、無機超微粒子を主要成分として研磨滑沢性を確保した上で、従来の問題とされるペーストのべたつき、及び/又は機械的強度の不足を改良する方法が検討されてきた(例えば、特許文献1、2)。
特許文献1には、0.01~0.05μmの平均粒子径の超微粒子シリカと重合性単量体とを混合して重合硬化させた後に粉砕して得られた、1~30μmの平均粒子径の有機-無機複合充填材を使用した歯科用コンポジットレジンが記載されている。
特許文献2には、平均粒子径0.05μm以上1μm以下の金属酸化物粒子を凝集させ、熱処理した歯科用複合修復材用充填材及び充填複合材料が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭63-88110号公報
【特許文献2】特開平7-196431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載された超微粒子シリカを有機-無機複合充填材として配合した歯科用コンポジットレジンでは、有機-無機複合充填材自身の粒子径が大きいことから、ペーストの著しい粘度上昇とベタつきが改善され、硬化物の機械的強度も向上している。
しかしながら、特許文献1では、実質的な無機充填材含有量を十分に高めることができず、さらに有機-無機複合充填材表面と、これと併せて用いられる重合性単量体とは、実質的に化学結合による一体化ができないことから、該充填材と重合性単量体界面との結合力が乏しく、該コンポジットレジンの硬化物の機械的強度には改善の余地があった。
【0008】
また、特許文献2に記載された歯科用複合修復材用充填材を配合した充填複合材料においても、同様に、実質的な無機充填材含有量を十分に高めることができず、硬化物の機械的強度には改善の余地があった。
【0009】
本発明は、良好なペースト性状を有し、硬化物が機械的強度及び研磨性に優れる歯科用硬化性組成物及びそれに用いる無機凝集フィラーを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、一次粒子の平均粒子径が特定の範囲内にあり、一次粒子の形状が不定形であり、特定の微小圧縮硬さを有する無機凝集フィラーを用いることによって、上記課題を解決できることを見い出し、この知見に基づいてさらに研究を進め、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明は、以下の発明を包含する。
[1]重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及び無機凝集フィラー(C)を含み、
前記無機凝集フィラー(C)が、下記(c1)、(c2)及び(c3):
(c1)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が不定形(球状を除く)である;
(c2)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下である;
(c3)無機凝集フィラーの微小圧縮硬さが10~300MPaである;
を同時に満たす、歯科用硬化性組成物。
[2]前記無機凝集フィラー(C)の形状が、球状である、[1]に記載の歯科用硬化性組成物。
[3]前記無機凝集フィラー(C)の含有量が、5~50質量%である、[1]又は[2]に記載の歯科用硬化性組成物。
[4]前記無機凝集フィラー(C)の比表面積が、80m2/g以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[5]一次粒子の平均粒子径が500nm以下である非凝集フィラー(D)をさらに含む、[1]~[4]のいずれかに記載の歯科用硬化性組成物。
[6]前記非凝集フィラー(D)の含有量が、5~45質量%である、[5]に記載の歯科用硬化性組成物。
[7]下記(c1)、(c2)及び(c3):
(c1)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が不定形(球状を除く)である;
(c2)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下である;
(c3)無機凝集フィラーの微小圧縮硬さが10~300MPaである。
を同時に満たす、歯科用無機凝集フィラー(C)。
[8]一次粒子の平均粒子径が650nm以下の無機粒子を溶媒中に分散させてなる分散液と、ケイ素、バリウム、アルミニウム又は3~11族の遷移金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含むバインダーとを混合して混合液を得る混合工程、当該混合液を乾燥して乾燥体を得る乾燥工程、及び当該乾燥体を焼成する焼成工程を含む、無機凝集フィラーの製造方法。
[9]前記混合工程において、無機粒子100質量部に対するバインダーの添加量が1~35質量部である、[8]に記載の無機凝集フィラーの製造方法。
[10]前記バインダーが、下記一般式(1)
R1
nSiY4-n (1)
(式中、R1は炭素数1~25の置換又は無置換の炭化水素基であり、Yは炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~5のアシロキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは0~3の整数であり、但し、R1及びYが複数ある場合にはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシランカップリング剤である、[8]又は[9]に記載の無機凝集フィラーの製造方法。
[11]前記乾燥工程が噴霧乾燥である、[8]~[10]のいずれかに記載の無機凝集フィラーの製造方法。
[12]前記焼成工程において、焼成温度が一次粒子の溶融温度又は一次粒子を形成する主成分の融点温度の30~80%の温度である、[8]~[11]のいずれかに記載の無機凝集フィラーの製造方法。
[13]前記焼成工程において、焼成温度が600~800℃である、[8]~[12]のいずれかに記載の無機凝集フィラーの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、良好なペースト性状を有し、硬化物が機械的強度及び研磨性に優れる歯科用硬化性組成物及びそれに用いる無機凝集フィラーを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の無機凝集フィラーの微小圧縮硬さの測定原理の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の各実施形態について、説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、メタクリルとアクリルの総称であり、これと類似の表現(「(メタ)アクリル酸」「(メタ)アクリロニトリル」等)についても同様である。
また、本明細書において、数値範囲(各成分の含有量、各成分から算出される値及び各物性等)の上限値及び下限値は適宜組み合わせ可能である。
【0015】
本発明のある実施形態としては、重合性単量体(A)、重合開始剤(B)、及び歯科用無機凝集フィラー(C)を含み、
歯科用無機凝集フィラー(C)が、下記(c1)、(c2)及び(c3):
(c1)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が不定形(球状粒子を除く)である;
(c2)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下である;
(c3)無機凝集フィラーの微小圧縮硬さが10Pa~300MPaである。
を同時に満たす、歯科用硬化性組成物が挙げられる。
【0016】
本発明の歯科用硬化性組成物が、良好なペースト性状を有し、硬化物が機械的強度及び研磨性に優れる理由としては、以下のように考えられる。
歯科用無機凝集フィラー(C)(以下、「クラスターフィラー」とも称する)が、一次粒子の形状が不定形であることで、樹脂成分である重合性単量体等と混練して歯科用硬化性組成物とした際に、歯科用無機凝集フィラー(C)に対する樹脂成分の高い密着性をもたらし、硬化物の機械的強度に優れる。
また、歯科用無機凝集フィラー(C)を構成する一次粒子の平均粒子径が小さいことで研磨性に優れる。
さらに、歯科用無機凝集フィラー(C)は、微小圧縮硬さが所定の値以上であることで、無機凝集フィラーと重合性単量体等とを混練してペースト状の歯科用硬化性組成物を得る製造工程において、混練時の剪断圧力等によって、凝集粒子の解砕が進みすぎることを抑制でき、凝集粒子を構成する一次粒子がばらばらに崩れることがなく、無機凝集フィラーの粒子径が小さくなることを抑制できる。その結果、歯科用硬化性組成物とした際に良好なペースト性状が得られる。
また、所定の微小圧縮硬さが高すぎる場合、前記混練時における剪断圧力によっても、凝集粒子がほとんど解砕されず、無機凝集フィラーの粒子径は大きいままであるが、その結果、歯科用硬化性組成物として硬化させた際にも硬化物から一次粒子の一部が崩れることがなく、研磨性に劣る。
これに対して、微小圧縮硬さが所定の値以下であることで、前記混練時においては剪断圧力によっても、凝集粒子がほとんど解砕されず、無機凝集フィラーの粒子径は大きいままであり、歯科用硬化性組成物を製造した後に、歯科用硬化性組成物の重合硬化後に硬化物を研磨する際には一次粒子の一部が研磨によって凝集粒子から崩れることができ、研磨性に優れる。
本発明では、特に、二次粒子である無機凝集フィラーの硬さに着目し、さらに微小圧縮硬さを特定の範囲とすることで、上記のように優れた効果を兼ね備えるものと考えられる。
【0017】
本明細書において、「微小圧縮硬さ」とは、JIS R 1639-5:2007に従って微小圧縮試験機によって測定される単一顆粒の圧壊強さの値である。微小圧縮試験機としては、株式会社島津製作所製の微小圧縮試験機(MCT-510、MCT-511、MCT-210、MCT-211)(MCTシリーズ)が挙げられる。
微小圧縮硬さは、
図1に示されるように、測定対象の無機粒子1の1粒1粒に圧子2を介して所定の試験力3(荷重:9.8~50mN)で負荷を与え、その変形量として圧縮変位4を自動計測し、評価した値であり、粒子径(mm)及び圧壊試験力(N)より導き出される。
【0018】
以下、本発明の歯科用硬化性組成物に用いられる各成分について、説明する。
【0019】
<重合性単量体(A)>
本発明の歯科用硬化性組成物に用いられる重合性単量体(A)には、ラジカル重合性単量体が好適に用いられる。
重合性単量体(A)におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、(メタ)アクリレート系重合性単量体、(メタ)アクリルアミド系重合性単量体、α-シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α-ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸等のエステル類、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ-N-ビニル誘導体、スチレン誘導体等が挙げられる。これらの中でも、硬化性の観点から(メタ)アクリレート系重合性単量体、(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が好ましい。
また、重合性単量体(A)は、酸性基を有する重合性単量体(A-1)、及び酸性基を有しない重合性単量体(A-2)に分類される。
【0020】
・酸性基を有する重合性単量体(A-1)
歯質に対する接着性を付与するために、酸性基を有する重合性単量体(A-1)が好ましい。本発明に用いられる酸性基を有する重合性単量体(A-1)としては、例えば、リン酸基、ピロリン酸基、チオリン酸基、ホスホン酸基、カルボン酸基、スルホン酸基等の酸性基を少なくとも1個有する重合性単量体が挙げられる。
酸性基を有する重合性単量体(A-1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
酸性基を有する重合性単量体(A-1)の具体例を下記する。
【0021】
リン酸基を有する重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔9-(メタ)アクリロイルオキシノニル〕ハイドロジェンホスフェート、ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3-ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル-2-ジハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-(2-ブロモエチル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシエチル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2-メタクリロイルオキシプロピル-(4-メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。
【0022】
ピロリン酸基を有する重合性単量体としては、ピロリン酸ビス〔2-(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ビス〔4-(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ビス〔6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ビス〔8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ビス〔10-(メタ)アクリロイルオキシデシル〕並びにこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩及びアミン塩が挙げられる。
【0023】
チオリン酸基を有する重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンチオホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンチオホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンチオホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンチオホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンチオホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンチオホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンチオホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンチオホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンチオホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンチオホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンチオホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンチオホスフェート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0024】
ホスホン酸基を有する重合性単量体としては、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノプロピオネート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノプロピオネート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシル-3-ホスホノアセテート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシル-3-ホスホノアセテート及びこれらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アンモニウム塩が挙げられる。
【0025】
カルボン酸基を有する重合性単量体としては、分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性(メタ)アクリル酸エステル、分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。
【0026】
分子内に1個のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体の例としては、(メタ)アクリル酸、N-(メタ)アクリロイルグリシン、N-(メタ)アクリロイルアスパラギン酸、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンフタレート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンマレート、O-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルチロシン、N-(メタ)アクリロイルフェニルアラニン、N-(メタ)アクリロイル-p-アミノ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-o-アミノ安息香酸、2-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、3-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、4-(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、N-(メタ)アクリロイル-5-アミノサリチル酸、N-(メタ)アクリロイル-4-アミノサリチル酸等及びこれらの化合物のカルボキシル基を酸無水物基化した化合物が挙げられる。
【0027】
分子内に複数のカルボキシル基又はその酸無水物基を有する一官能性重合性単量体の例としては、例えば、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキサン-1,1-ジカルボン酸、9-(メタ)アクリロイルオキシノナン-1,1-ジカルボン酸、10-(メタ)アクリロイルオキシデカン-1,1-ジカルボン酸、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、12-(メタ)アクリロイルオキシドデカン-1,1-ジカルボン酸、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデカン-1,1-ジカルボン酸、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメリテート、4-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメリテート、2-(メタ)アクリロイルオキシエチル-3’-(メタ)アクリロイルオキシ-2’-(3,4-ジカルボキシベンゾイルオキシ)プロピルサクシネート、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,2,6-トリカルボン酸無水物、6-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-2,3,6-トリカルボン酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルカルボニルプロピオノイル-1,8-ナフタル酸無水物、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルナフタレン-1,8-トリカルボン酸無水物等が挙げられる。
【0028】
スルホン酸基を有する重合性単量体としては、2-スルホエチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0029】
上述の酸性基を有する重合性単量体(A-1)の中でも、歯科用硬化性組成物として用いた場合に接着強さが良好である観点から、リン酸基を有する重合性単量体又はカルボン酸基を有する重合性単量体を含むことが好ましく、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルジハイドロジェンホスフェート、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルジハイドロジェンホスフェート、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェート、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテートアンハイドライド、4-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメリテート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデカン-1,1-ジカルボン酸、及び、2-メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェートとビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ハイドロジェンホスフェートの混合物がより好ましく、さらに、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16-(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20-(メタ)アクリロイルオキシイコシルジハイドロジェンホスフェートがさらに好ましく、硬化性とのバランスの観点から、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートが最も好ましい。
【0030】
本発明の歯科用硬化性組成物が酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含む場合、酸性基を有する重合性単量体(A-1)の含有量は、歯質に対する接着性の観点から、重合性単量体(A)100質量部中、1~40質量部であることが好ましく、2.5~35質量部であることがより好ましく、5~30質量部であることがさらに好ましい。
【0031】
・酸性基を有しない重合性単量体(A-2)
本発明における酸性基を有しない重合性単量体(A-2)としては、25℃の水に対する溶解度が10質量%未満である酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a);25℃の水に対する溶解度が10質量%以上である酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)が挙げられる。酸性基を有しない重合性単量体(A-2)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
・酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)
酸性基を有しない疎水性重合性単量体(A-2a)(以下、単に「疎水性重合性単量体(A-2a)」と称することがある)は、歯科用硬化性組成物の操作性、硬化物の機械的強度などを向上させる。
疎水性重合性単量体(A-2a)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリロイルオキシ基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。
疎水性重合性単量体(A-2a)とは、酸性基を有さず、かつ25℃の水に対する溶解度が10質量%未満の重合性単量体を意味する。
疎水性重合性単量体(A-2a)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
疎水性重合性単量体(A-2a)としては、例えば、疎水性の単官能性重合性単量体に加え、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体、三官能性以上の重合性単量体などの架橋性重合性単量体が例示される。
【0033】
疎水性の単官能性重合性単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、p-クミル-フェノキシエチレングリコールメタクリレート(CMP-1E)、m-フェノキシベンジルメタクリレート(通称「POBMA」)、ステアリルメタクリレート、ジシクロペンタニルメタクリレート、ブトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレートならびにこれらの混合物であり、これらの中でも、ベンジルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、CMP-1E、POBMA及びこれらの混合物が好ましい。
【0034】
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、2,2-ビス((メタ)アクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2-(4-(メタ)アクリロイルオキシジプロポキシフェニル)-2-(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。これらの中でも、2,2-ビス〔4-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(通称「Bis-GMA」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エトキシ基の平均付加モル数:2.6、通称「D-2.6E」)、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパンが好ましい。
【0035】
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、例えば、グリセロールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5-ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10-デカンジオールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジ(メタ)アクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド、N-メタクリロイルオキシプロピルアミドなどが挙げられる。これらの中でも、トリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(通称「3G」)、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(通称「UDMA」)、1,10-デカンジオールジメタクリレート(通称「DD」)、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート、N-メタクリロイルオキシエチルアクリルアミド(通称「MAEA」)が好ましい。
【0036】
三官能性以上の重合性単量体としては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラ(メタ)アクリレート、1,7-ジアクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラ(メタ)アクリロイルオキシメチル-4-オキサヘプタンなどが挙げられる。これらの中でも、N,N-(2,2,4-トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2-(アミノカルボキシ)プロパン-1,3-ジオール〕テトラメタクリレートが好ましい。
【0037】
上記の疎水性重合性単量体(A-2a)の中でも、硬化物の機械的強度及び操作性の観点で、芳香族化合物系の二官能性重合性単量体、及び脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体が好ましく用いられる。
芳香族化合物系の二官能性重合性単量体としては、Bis-GMA、D-2.6Eが好ましい。
脂肪族化合物系の二官能性重合性単量体としては、グリセロールジ(メタ)アクリレート、3G、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、DD、1,2-ビス(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)エタン、UDMA、MAEAが好ましい。
【0038】
上記の疎水性重合性単量体(A-2a)の中でも、歯科用硬化性組成物として用いた場合の歯質に対する接着性が良好である観点から、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、DD、MAEAがより好ましく、Bis-GMA、D-2.6E、3G、UDMA、MAEAがさらに好ましい。
【0039】
本発明の歯科用硬化性組成物が酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含む場合、本発明の歯科用硬化性組成物における疎水性重合性単量体(A-2a)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、20~99質量部が好ましく、40~95質量部がより好ましく、60~95質量部がさらに好ましい。疎水性重合性単量体(A-2a)の含有量が前記範囲内である場合は、歯科用硬化性組成物の歯質への濡れ性に優れ、酸性基を有する重合性単量体(A-1)との組み合わせによって所望の接着性が得られ、硬化物が所望の機械的強度を有する。
本発明の歯科用硬化性組成物が酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含まない実施形態では、歯科用硬化性組成物における疎水性重合性単量体(A-2a)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、50~100質量部が好ましく、60~100質量部がより好ましく、70~100質量部がさらに好ましい。
また、本発明の歯科用硬化性組成物が酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含まない実施形態では、歯科用硬化性組成物における疎水性重合性単量体(A-2a)の含有量は、歯科用硬化性組成物の全量100質量%中、硬化物の機械的強度、操作性の観点から、歯科用硬化性組成物の全量100質量%中、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
・酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)
本発明の歯科用硬化性組成物としては、重合性単量体(A)が酸性基を有しない親水性重合性単量体(A-2b)(以下、単に「親水性重合性単量体(A-2b)」と称することがある)を含むことが好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)は、歯科用硬化性組成物の歯質への濡れ性を向上させる。
親水性重合性単量体(A-2b)としては、酸性基を有さず重合性基を有するラジカル重合性単量体が好ましく、ラジカル重合が容易である観点から、重合性基は(メタ)アクリロイルオキシ基及び/又は(メタ)アクリルアミド基が好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)とは、酸性基を有さずかつ25℃の水に対する溶解度が10質量%以上のものを意味し、該溶解度が30質量%以上のものが好ましく、25℃において任意の割合で水に溶解可能なものがより好ましい。親水性重合性単量体としては、水酸基、オキシメチレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、アミド基などの親水性基を有するものが好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、1,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロライド、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート(オキシエチレン基の数:9以上)などの親水性の単官能性(メタ)アクリレート系重合性単量体;N-メチロール(メタ)アクリルアミド、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、N-メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N-エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、4-(メタ)アクリロイルモルホリン、N-トリヒドロキシメチル-N-メチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドなどの親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体などが挙げられる。
【0041】
これらの親水性重合性単量体(A-2b)の中でも、歯質に対する接着性の観点から、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2,3-ジヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、親水性の単官能性(メタ)アクリルアミド系重合性単量体が好ましく、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、N,N-ジメチルアクリルアミド及びN,N-ジエチルアクリルアミドがより好ましい。
親水性重合性単量体(A-2b)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0042】
本発明の歯科用硬化性組成物における親水性重合性単量体(A-2b)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、0~50質量部の範囲が好ましく、0~40質量部がより好ましく、0~30質量部がさらに好ましい。親水性重合性単量体(A-2b)の含有量は重合性単量体(A)100質量部中、0質量部であってもよい。親水性重合性単量体(A-2b)の含有量が前記範囲内である場合には接着性の向上効果が得られ、硬化物が所望の機械的強度を有する。
【0043】
酸性基を有しない重合性単量体(A-2)の含有量は、重合性単量体(A)100質量部中、50~99質量部が好ましく、60~97質量部がより好ましく、70~95質量部がさらに好ましい。
また、本発明の歯科用硬化性組成物が酸性基を有する重合性単量体(A-1)を含まない実施形態では、歯科用硬化性組成物における酸性基を有しない重合性単量体(A-2)の含有量は、歯科用硬化性組成物の全量100質量%中、硬化物の機械的強度、操作性の観点から、歯科用硬化性組成物の全量100質量%中、45質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、35質量%以下がさらに好ましく、30質量%以下であることが特に好ましい。
【0044】
<重合開始剤(B)>
重合開始剤(B)は水溶性光重合開始剤(B-1)、非水溶性光重合開始剤(B-2)、及び化学重合開始剤(B-3)に分類される。
重合開始剤(B)としては、水溶性光重合開始剤(B-1)のみを用いてもよく、非水溶性光重合開始剤(B-2)のみを用いてもよく、化学重合開始剤(B-3)のみを用いてもよく、水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)と化学重合開始剤(B-3)とを併用してもよい。
【0045】
・水溶性光重合開始剤(B-1)
水溶性光重合開始剤(B-1)は、親水的な歯面界面での重合硬化性が向上し、高い接着強さを実現できる。
水溶性光重合開始剤(B-1)は、25℃の水に対する溶解度が10g/L以上であり、15g/L以上であることが好ましく、20g/L以上であることがより好ましく、25g/L以上であることがさらに好ましい。同溶解度が10g/L以上であることで、接着界面部において水溶性光重合開始剤(B-1)が歯質中の水に十分に溶解し、重合促進効果が発現しやすくなる。
【0046】
水溶性光重合開始剤(B-1)としては、例えば、水溶性アシルホスフィンオキシド類;水溶性チオキサントン類;1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オンの水酸基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンの水酸基及び/又はフェニル基へ(ポリ)エチレングリコール鎖を導入したもの、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンのフェニル基へ-OCH2COO-Na+を導入したものなどのα-ヒドロキシアルキルアセトフェノン類;2-メチル-1[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-1-[(4-モルホリノ)フェニル]-1-ブタノンなどのα-アミノアルキルフェノン類のアミノ基を四級アンモニウム塩化したものなどが挙げられる。
【0047】
前記水溶性チオキサントン類としては、例えば、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1-メチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-4-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(3,4-ジメチル-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライド、2-ヒドロキシ-3-(1,3,4-トリメチル-9-オキソ-9H-チオキサンテン-2-イルオキシ)-N,N,N-トリメチル-1-プロパンアミニウムクロライドなどが使用できる。
【0048】
前記水溶性アシルホスフィンオキシド類としては、下記一般式(2)又は(3)で表されるアシルホスフィンオキシド類が挙げられる。
【0049】
【0050】
【0051】
式中、A1、A2、A3、A4、A5、及びA6は互いに独立して、C1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキル基又はハロゲン原子であり、Mは水素イオン、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+A8A9A10(式中、A8、A9、及びA10は互いに独立して、有機基又は水素原子)で示されるアンモニウムイオンであり、nは1又は2であり、ZはC1~C4の直鎖状若しくは分岐鎖状のアルキレン基であり、A7は-CH(CH3)COO(C2H4O)pCH3で表され、pは1~1000の整数を表す。
【0052】
A1、A2、A3、A4、A5、及びA6のアルキル基としては、C1~C4の直鎖状又は分岐鎖状のものであれば特に限定されず、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、2-メチルプロピル基、tert-ブチル基などが挙げられる。
A1、A2、A3、A4、A5、及びA6のアルキル基としては、C1~C3の直鎖状のアルキル基が好ましく、メチル基又はエチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
Zのアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基などが挙げられる。
Zのアルキレン基としては、C1~C3の直鎖状のアルキレン基が好ましく、メチレン基又はエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0053】
Mがピリジニウムイオンである場合のピリジン環の置換基としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、カルボキシル基、C2~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアシル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルキル基、C1~C6の直鎖状又は分岐鎖状のアルコキシ基などが挙げられる。
Mとしては、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、マグネシウムイオン、ピリジニウムイオン(ピリジン環が置換基を有していてもよい)、又はHN+A8A9A10(式中、記号は上記と同一意味を有する)で示されるアンモニウムイオンが好ましい。
アルカリ金属イオンとしては、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオン、セシウムイオンが挙げられる。
アルカリ土類金属イオンとしては、カルシウムイオン、ストロンチウムイオン、バリウムイオン、ラジウムイオンが挙げられる。
A8、A9、及びA10の有機基としては、前記ピリジン環の置換基と同様のもの(ハロゲン原子を除く)が挙げられる。
【0054】
これらの中でも、A1、A2、A3、A4、A5、及びA6がすべてメチル基である化合物が組成物中での保存安定性や色調安定性の点から特に好ましい。
一方、Mn+の例としては、Li+、Na+、K+、Ca2+、Mg2+、各種のアミンから誘導されるアンモニウムイオンが挙げられ、アミンの例としては、アンモニア、トリメチルアミン、ジエチルアミン、ジメチルアニリン、エチレンジアミン、トリエタノールアミン、N,N-ジメチルアミノメタクリレート、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、4-(N,N-ジエチルアミノ)安息香酸及びそのアルキルエステル、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジンなどが挙げられる。
A7において、接着性の観点から、pは1以上であり、2以上が好ましく、3以上がより好ましく、4以上がさらに好ましい。また、A7において、接着性の観点から、pは1000以下であり、100以下が好ましく、75以下がより好ましく、50以下がさらに好ましい。
【0055】
これらの水溶性アシルホスフィンオキシド類の中でも、Mn+がLi+である一般式(2)で表される化合物、及び、一般式(3)で表され、A7で表される基に相当する部分が分子量950であるポリエチレングリコールメチルエーテルメタクリレートから合成された化合物が特に好ましい。これらの化合物において、一般式(2)におけるA1、A2、及びA3、並びに一般式(3)におけるA1、A2、A3、A4、A5、及びA6は前記したとおりである。
【0056】
このような構造を有する水溶性アシルホスフィンオキシド類は、公知方法に準じて合成することができ、一部は市販品としても入手可能である。例えば、特開昭57-197289号公報や国際公開第2014/095724号などに開示された方法により合成することができる。水溶性光重合開始剤(B-1)は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
水溶性光重合開始剤(B-1)は、歯科用硬化性組成物に溶解されていても組成物中に粉末の形態で分散されていてもよい。
【0058】
水溶性光重合開始剤(B-1)を組成物中に粉末の形態で分散させる場合、その平均粒子径が過大であると沈降しやすくなるため、500μm以下が好ましく、100μm以下がより好ましく、50μm以下がさらに好ましい。一方、平均粒子径が過小であると粉末の比表面積が過大になって組成物への分散可能な量が減少するため、0.01μm以上が好ましい。すなわち、水溶性光重合開始剤(B-1)の平均粒子径は0.01~500μmの範囲が好ましく、0.01~100μmの範囲がより好ましく、0.01~50μmの範囲がさらに好ましい。
【0059】
各々の水溶性光重合開始剤(B-1)の粉末の平均粒子径は、粒子100個以上の電子顕微鏡写真をもとに画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View;マウンテック社製)を用いて画像解析を行った後に体積平均粒子径として算出することができる。
【0060】
水溶性光重合開始剤(B-1)を組成物中に粉末の形態で分散させる場合の開始剤の形状については、球状、針状、板状、破砕状など、種々の形状が挙げられるが、特に制限されない。水溶性光重合開始剤(B-1)は、粉砕法、凍結乾燥法、再沈殿法などの従来公知の方法で作製することができ、得られる粉末の平均粒子径の観点で、凍結乾燥法及び再沈殿法が好ましく、凍結乾燥法がより好ましい。
【0061】
水溶性光重合開始剤(B-1)の含有量は、得られる歯科用硬化性組成物の硬化性などの観点からは、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体(A)100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、歯質への接着性の点から、0.05~10質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。水溶性光重合開始剤(B-1)の含有量が0.01質量部以上である場合、接着界面での重合が十分に進行し、所望の接着性が得られる。一方、水溶性光重合開始剤(B-1)の含有量が20質量部以下である場合、十分な接着性が得られる。
【0062】
・非水溶性光重合開始剤(B-2)
本発明の歯科用硬化性組成物は、硬化性の観点から、水溶性光重合開始剤(B-1)以外に25℃の水への溶解度が10g/L未満である非水溶性光重合開始剤(B-2)(以下、非水溶性光重合開始剤(B-2)と称することがある。)を含むことが好ましい。
本発明に用いられる非水溶性光重合開始剤(B-2)は、公知の光重合開始剤を使用することができる。
非水溶性光重合開始剤(B-2)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0063】
非水溶性光重合開始剤(B-2)としては、水溶性光重合開始剤(B-1)以外の(ビス)アシルホスフィンオキシド類、チオキサントン類、ケタール類、α-ジケトン類、クマリン類、アントラキノン類、ベンゾインアルキルエーテル化合物、α-アミノケトン系化合物などが挙げられる。
【0064】
前記(ビス)アシルホスフィンオキシド類のうち、アシルホスフィンオキシド類としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキシド、2,4,6-トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキシド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ベンゾイルジ(2,6-ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。
ビスアシルホスフィンオキシド類としては、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-4-プロピルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジクロロベンゾイル)-1-ナフチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,5-ジメチルフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,5,6-トリメチルベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシドなどが挙げられる。
【0065】
前記チオキサントン類としては、例えば、チオキサントン、2-クロロチオキサンテン-9-オンなどが挙げられる。
【0066】
前記ケタール類としては、例えば、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
【0067】
前記α-ジケトン類としては、例えば、ジアセチル、ベンジル、dl-カンファーキノン、2,3-ペンタジオン、2,3-オクタジオン、9,10-フェナントレンキノン、4,4’-オキシベンジル、アセナフテンキノンなどが挙げられる。この中でも、可視光域に極大吸収波長を有している観点から、dl-カンファーキノンが特に好ましい。
【0068】
前記クマリン類としては、例えば、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-チエノイルクマリン、3-ベンゾイル-5,7-ジメトキシクマリン、3-ベンゾイル-7-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-6-メトキシクマリン、3-ベンゾイル-8-メトキシクマリン、3-ベンゾイルクマリン、7-メトキシ-3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3-(p-ニトロベンゾイル)クマリン、3,5-カルボニルビス(7-メトキシクマリン)、3-ベンゾイル-6-ブロモクマリン、3,3’-カルボニルビスクマリン、3-ベンゾイル-7-ジメチルアミノクマリン、3-ベンゾイルベンゾ[f]クマリン、3-カルボキシクマリン、3-カルボキシ-7-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-6-メトキシクマリン、3-エトキシカルボニル-8-メトキシクマリン、3-アセチルベンゾ[f]クマリン、3-ベンゾイル-6-ニトロクマリン、3-ベンゾイル-7-ジエチルアミノクマリン、7-ジメチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、7-ジエチルアミノ-3-(4-ジエチルアミノ)クマリン、7-メトキシ-3-(4-メトキシベンゾイル)クマリン、3-(4-ニトロベンゾイル)ベンゾ[f]クマリン、3-(4-エトキシシンナモイル)-7-メトキシクマリン、3-(4-ジメチルアミノシンナモイル)クマリン、3-(4-ジフェニルアミノシンナモイル)クマリン、3-[(3-ジメチルベンゾチアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3-[(1-メチルナフト[1,2-d]チアゾール-2-イリデン)アセチル]クマリン、3,3’-カルボニルビス(6-メトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-アセトキシクマリン)、3,3’-カルボニルビス(7-ジメチルアミノクマリン)、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジブチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾイミダゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリン、3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジオクチルアミノ)クマリン、3-アセチル-7-(ジメチルアミノ)クマリン、3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)、3,3’-カルボニル-7-ジエチルアミノクマリン-7’-ビス(ブトキシエチル)アミノクマリン、10-[3-[4-(ジメチルアミノ)フェニル]-1-オキソ-2-プロペニル]-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オン、10-(2-ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-[1]ベンゾピラノ[6,7,8-ij]キノリジン-11-オンなどの特開平9-3109号公報、特開平10-245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
【0069】
上述のクマリン類の中でも、特に、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)及び3,3’-カルボニルビス(7-ジブチルアミノクマリン)が好適である。
【0070】
前記アントラキノン類としては、例えば、アントラキノン、1-クロロアントラキノン、2-クロロアントラキノン、1-ブロモアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、1-メチルアントラキノン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシアントラキノンなどが挙げられる。
【0071】
前記ベンゾインアルキルエーテル化合物としては、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどが挙げられる。
【0072】
前記α-アミノケトン系化合物としては、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オンなどが挙げられる。
【0073】
これらの非水溶性光重合開始剤(B-2)の中でも、(ビス)アシルホスフィンオキシド類、α-ジケトン類、及びクマリン類からなる群より選択される少なくとも一種を用いることが好ましい。これにより、可視及び近紫外領域での光硬化性に優れ、ハロゲンランプ、発光ダイオード(LED)、キセノンランプのいずれの光源を用いても十分な光硬化性を示す歯科用硬化性組成物が得られる。
【0074】
非水溶性光重合開始剤(B-2)の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用硬化性組成物の硬化性などの観点から、本発明の歯科用硬化性組成物における重合性単量体(A)100質量部に対して、0.01~10質量部が好ましく、0.05~7質量部がより好ましく、0.1~5質量部がさらに好ましい。なお、非水溶性光重合開始剤(B-2)の含有量が10質量部以下である場合、硬化性が良好であり、研磨性により優れ、十分な機械的強度が得られる。
【0075】
水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)を併用する場合、本発明における水溶性光重合開始剤(B-1)と非水溶性光重合開始剤(B-2)の質量比〔(B-1):(B-2)〕は、好ましくは10:1~1:10であり、より好ましくは7:1~1:7であり、さらに好ましくは5:1~1:5であり、最も好ましくは3:1~1:3である。水溶性光重合開始剤(B-1)が質量比10:1より多く含有されると、歯科用硬化性組成物自体の硬化性が低下し、研磨性も低下し、高い機械的強度を発現させることが困難になる場合がある。一方、非水溶性光重合開始剤(B-2)が質量比1:10より多く含有されると、歯科用硬化性組成物自体の硬化性は高められるものの接着界面部の重合促進が不十分になり、高い機械的強度及び研磨性を発現させることが困難になる場合がある。
【0076】
・化学重合開始剤(B-3)
本発明の歯科用硬化性組成物は、化学重合開始剤(B-3)を含有することができ、有機過酸化物が好ましく用いられる。上記の化学重合開始剤に使用される有機過酸化物は特に限定されず、公知のものを使用することができる。
代表的な有機過酸化物としては、例えば、ケトンペルオキシド、ヒドロペルオキシド、ジアシルペルオキシド、ジアルキルペルオキシド、ペルオキシケタール、ペルオキシエステル、ペルオキシジカーボネートなどが挙げられる。これら有機過酸化物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
【0077】
前記ケトンペルオキシドとしては、メチルエチルケトンペルオキシド、メチルイソブチルケトンペルオキシド、メチルシクロヘキサノンペルオキシド及びシクロヘキサノンペルオキシド等が挙げられる。
【0078】
前記ヒドロペルオキシドとしては、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロペルオキシド、ジイソプロピルベンゼンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、t-ブチルヒドロペルオキシド及び1,1,3,3-テトラメチルブチルヒドロペルオキシド等が挙げられる。
【0079】
前記ジアシルペルオキシドとしては、アセチルペルオキシド、イソブチリルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド、デカノイルペルオキシド、3,5,5-トリメチルヘキサノイルペルオキシド、2,4-ジクロロベンゾイルペルオキシド及びラウロイルペルオキシド等が挙げられる。
【0080】
前記ジアルキルペルオキシドとしては、ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、1,3-ビス(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン及び2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン等が挙げられる。
【0081】
前記ペルオキシケタールとしては、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)-3,3,5-トリメチルシクロヘキサン、1,1-ビス(t-ブチルペルオキシ)シクロヘキサン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)ブタン、2,2-ビス(t-ブチルペルオキシ)オクタン及び4,4-ビス(t-ブチルペルオキシ)バレリックアシッド-n-ブチルエステル等が挙げられる。
【0082】
前記ペルオキシエステルとしては、α-クミルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシネオデカノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、2,2,4-トリメチルペンチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-アミルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、ジ-t-ブチルペルオキシイソフタレート、ジ-t-ブチルペルオキシヘキサヒドロテレフタラート、t-ブチルペルオキシ-3,3,5-トリメチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート及びt-ブチルペルオキシマレイックアシッド等が挙げられる。
【0083】
前記ペルオキシジカーボネートとしては、ジ(3-メトキシブチル)ペルオキシジカーボネート、ジ(2-エチルヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ビス(4-t-ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ジ-n-プロピルペルオキシジカーボネート、ジ(2-エトキシエチル)ペルオキシジカーボネート及びジアリルペルオキシジカーボネート等が挙げられる。
【0084】
これらの有機過酸化物の中でも、安全性、保存安定性及びラジカル生成能力の総合的なバランスから、ジアシルペルオキシドが好ましく用いられ、その中でもベンゾイルペルオキシドがより好ましく用いられる。
【0085】
化学重合開始剤(B-3)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の歯科用硬化性組成物は、水溶性光重合開始剤(B-1)及び/又は非水溶性光重合開始剤(B-2)と、化学重合開始剤(B-3)とを併用したデュアルキュア型の歯科用硬化性組成物としてもよい。
【0086】
<歯科用無機凝集フィラー(C)>
歯科用無機凝集フィラー(C)は、下記(c1)、(c2)及び(c3)を同時に満たす。
(c1)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が不定形(球状を除く)である。
(c2)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下である。
(c3)無機凝集フィラーの微小圧縮硬さが10~300MPaである。
【0087】
(c1)について、無機凝集フィラー(C)を構成する一次粒子の形状は、不定形(球状を除く)である。粉砕によって得られた破砕状であることによって、硬化物の機械的強度に優れる。
本明細書において、「不定形」とは、粒子の形状が、不規則な多数の角及び面を有しているものを意味する。「不定形」粒子は、球形粒子を含まない。
本明細書において、フィラーが「球状」であるとは、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内に観察される粒子が丸みを帯びており、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で割った平均均斉度が0.6以上であるフィラーを意味する。
無機凝集フィラー(C)を構成する一次粒子は、通常、破砕又は粉砕工程で得られる破砕状である。無機凝集フィラー(C)を構成する一次粒子が球状である場合、所望の硬化物の機械的強度が得られない。
【0088】
(c2)について、無機凝集フィラー(C)を構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下であり、600nm以下であることが好ましく、研磨性により優れ、ペースト性状がより良好である点から、500nm以下であることがより好ましく、450nm以下であることがさらに好ましく、400nm以下であることが特に好ましい。
また、無機凝集フィラー(C)を構成する一次粒子の平均粒子径は、1nm以上であることが好ましく、研磨性により優れる点から、5nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましく、30nm以上であることが特に好ましい。
【0089】
本明細書において、一次粒子の平均粒子径(以下、「平均一次粒子径」とも称する。)は、レーザー回折散乱法又は粒子の電子顕微鏡観察により求めることができる。具体的には、0.1μm以上の粒子径測定にはレーザー回折散乱法が、0.1μm未満の超微粒子の粒子径測定には電子顕微鏡観察が簡便である。0.1μmはレーザー回折散乱法により測定した値である。
レーザー回折散乱法は、例えば、0.2%ヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を分散媒に用いて体積基準でレーザー回折式粒子径分布測定装置(SALD-2300、株式会社島津製作所製)により測定できる。
電子顕微鏡観察には、走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製、SU3900等)を使用できる。電子顕微鏡観察は、粒子の電子顕微鏡写真を撮り、その写真の単位視野内に観察される粒子(200個以上)の粒子径を、画像解析式粒度分布測定ソフトウェア(Mac-View(株式会社マウンテック製))を用いて測定することにより求めることができる。このとき、粒子径は、粒子の最長の長さと最短の長さの算術平均値として求められ、粒子の数とその粒子径より、平均一次粒子径が算出される。
【0090】
(c3)について、無機凝集フィラー(C)の微小圧縮硬さは10~300MPaであり、研磨性により優れ、ペースト性状がより良好である点から、200MPa以下であることが好ましく、150MPa以下であることがより好ましく、90MPa以下であることがさらに好ましく、80MPa以下であることが特に好ましく、75MPa以下であることが最も好ましい。
無機凝集フィラー(C)の微小圧縮硬さは、ペースト性状がより良好である点から、12MPa以上であることが好ましく、15MPa以上であることがより好ましく、18MPa以上であることがさらに好ましく、20MPa以上であることが特に好ましい。
【0091】
無機凝集フィラー(C)は、所望の微小圧縮硬さの範囲とするために、バインダーで表面処理されたものであることが好ましい。無機凝集フィラー(C)の製造方法について、以下に説明する。
【0092】
<無機凝集フィラー(C)の製造方法>
無機凝集フィラー(C)の製造方法としては、一次粒子の平均粒子径が650nm以下の無機粒子を溶媒中に分散させてなる分散液と、ケイ素、バリウム、アルミニウム又は3~11族の遷移金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物を含むバインダーとを混合して混合液を得る混合工程、当該混合液を乾燥して乾燥体を得る乾燥工程、及び当該乾燥体を焼成する焼成工程を含む、無機凝集フィラーの製造方法が挙げられる。
【0093】
・混合工程
混合工程では、無機粒子を溶媒中に分散させてなる分散液と、金属酸化物を含むバインダーとを混合して混合液を得る。
【0094】
無機凝集フィラー(C)を構成する一次粒子の無機粒子の素材としては、石英、シリカ、アルミナ、複合酸化物(例えば、シリカ-チタニア-酸化バリウム、シリカ-ジルコニア、シリカ-チタニア、シリカ-アルミナ、シリカ-アルミナ-ジルコニア)、各種ガラス類(シリカを主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム等の酸化物を含有するもの;例えば、溶融シリカ、ランタンガラス、ホウケイ酸ガラス、ソーダガラス、ストロンチウムガラス、ガラスセラミック、アルミノシリケートガラス、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス、フルオロアルミノシリケートガラス、カルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムフルオロアルミノシリケートガラス、ストロンチウムカルシウムフルオロアルミノシリケートガラス、バリウムガラス(バリウムシリケートガラス、バリウムボロアルミノシリケートガラス、バリウムフルオロアルミノシリケートガラス等))、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウムなどが挙げられる。
これらの中でも、硬化物の機械的強度、透明性が優れる点で、石英、シリカ、シリカ-ジルコニア複合酸化物、バリウムガラス、酸化イッテルビウム、シリカコートフッ化イッテルビウムが好ましく、石英、シリカ、シリカ-ジルコニア複合酸化物、バリウムガラス、シリカコートフッ化イッテルビウムがより好ましい。
【0095】
一次粒子の無機粒子としては、市販品を使用してもよい。
市販品としては、例えば、アエロジル(登録商標)90、アエロジル(登録商標)130、アエロジル(登録商標)150、アエロジル(登録商標)200、アエロジル(登録商標)255、アエロジル(登録商標)300、アエロジル(登録商標)380、アエロジル(登録商標)OX50、アエロジル(登録商標)R972等のシリカ(以上、日本アエロジル株式会社製)、GM27884、8235(以上、SCHOTT社製)、商品コード「E-3000」(エステック社製)等のバリウムガラス、ストロンチウムボロシリケートガラス(E-4000、ESSTECH社製)、ランタンガラスセラミックス(GM31684、ショット社製)、フルオロアルミノシリケートガラス(GM35429、G018-091、G018-117、ショット社製)等が挙げられる。
【0096】
溶媒としては、水、有機溶媒などが挙げられる。
有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-メチル-2-プロパノール等のアルコール溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル等のエーテル溶媒;ヘキサン、シクロヘキサン等の非芳香族炭化水素溶媒;トルエン等の芳香族炭化水素溶媒;クロロホルム等の塩素系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル溶媒などが挙げられる。
溶媒は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0097】
無機粒子を溶媒中に分散させて分散液を得る。分散させる方法は、特に限定されず、公知の方法を使用できる。例えば、溶媒中での無機粒子の撹拌、超音波分散処理、ナノ分散処理等が挙げられる。
超音波分散処理、ナノ分散処理等には、公知の分散処理装置を使用できる。
一次粒子まで十分に分散させる点から、超音波分散処理と、ナノ分散処理とを組み合わせてもよい。後の工程におけるバインダーによる表面処理の効果を高めるために十分に分散させることが好ましいが、超音波分散処理の時間を長くする等によって十分に分散できる限り、分散処理の方法は限定されない。
溶媒中に分散させる無機粒子は、必要に応じて、粉砕処理及び/又は分級処理等によって、平均粒子径を所定の範囲としてもよい。
分散液の形態は、特に限定されず、無機粒子の割合等に応じて、スラリーであってもよい。
【0098】
前記分散液と、金属酸化物を含むバインダーとを混合して混合液を得る。
前記金属酸化物としては、ケイ素、バリウム、アルミニウム又は3~11族の遷移金属元素からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属酸化物が挙げられ、金属酸化物に含まれる金属原子を介して一次粒子同士を強固に結合でき、無機凝集フィラー(C)が所望の微小圧縮硬さを有するように調整しやすい点から、ケイ素、アルミニウム、ジルコニウムが好ましい。
前記金属酸化物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0099】
前記金属酸化物を含むバインダーとしては、下記一般式(1)
R1
nSiY4-n (1)
(式中、R1は炭素数1~25の置換又は無置換の炭化水素基であり、Yは炭素数1~4のアルコキシ基、炭素数1~5のアシロキシ基、ヒドロキシ基、ハロゲン原子又は水素原子を示し、nは0~3の整数であり、但し、R1及びYが複数ある場合にはそれぞれ、同一でも異なっていてもよい。)
で表されるシランカップリング剤が好ましい。
【0100】
R1の炭化水素基の炭素数としては、1~25であり、1~20であることが好ましく、炭素数1~15であることがより好ましく、炭素数1~12であることがさらに好ましい。
【0101】
R1の炭化水素基としては、直鎖状であってもよく、分枝鎖状であってもよい。
R1の炭化水素基としては、重合性基、又は重合性基を有する1価の有機基であることが好ましい。
前記重合性基の種類に特に制限はなく、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、メルカプト基、(メタ)アリル基、エポキシ基などが挙げられる。これらの中でも、機械的強度等の観点から、(メタ)アクリロイル基が好ましく、メタクリロイル基がより好ましい。
【0102】
R1の炭化水素基が重合性基を有する1価の有機基である場合、重合性基は1価の有機基と直接結合していてもよいし、酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む2価の基を介して結合していてもよい。すなわち、上記(メタ)アクリロイル基は(メタ)アクリロイルオキシ基を形成していてもよいし、(メタ)アクリルアミド基を形成していてもよい。
【0103】
R1が有する重合性基の数に特に制限はないが、1~4が好ましく、1又は2がより好ましく、1がさらに好ましい。R1が複数の重合性基を有する場合、それらは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0104】
R1は前記重合性基のみから形成されていてもよいし、前記官能基と有機基とが直接又は酸素原子、窒素原子等のヘテロ原子を含む2価の基を介するなどして間接的に結合したものであってもよい。
当該有機基に特に制限はなく、例えば、炭素数1~20のアルキル基、炭素数6~18のアリール基、炭素数7~26のアラルキル基などが挙げられる。
これらの中でも焼成によって脱水縮合した後に無機凝集フィラー(C)が所望の微小圧縮硬さを有するように、一次粒子同士を強固に結合できる点から、炭素数1~20のアルキル基が好ましく、炭素数1~12のアルキル基がより好ましく、炭素数3~11のアルキル基がさらに好ましい。
炭素数3~11のアルキル基としては、例えば、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-オクチル基、n-ウンデシル基などが挙げられ、n-プロピル基、n-ペンチル基、n-オクチル基、n-ウンデシル基が好ましく、n-プロピル基、n-オクチル基、n-ウンデシル基がより好ましい。
【0105】
R1の具体例としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、3-(メタ)アクリルアミドプロピル基、ビニル基、(メタ)アリル基、3-グリシドキシプロピル基などが挙げられ、(メタ)アクリロイルオキシメチル基、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、3-(メタ)アクリロイルオキシオクチル基、3-(メタ)アクリロイルオキシウンデシル基が好ましく、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル基、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチル基、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシル基がより好ましい。
【0106】
Yの炭素数1~4のアルコキシ基としては、直鎖状であってもよく、分枝鎖状であってもよい。
Yの炭素数1~4のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基などが挙げられる。
【0107】
Yの炭素数1~5のアシロキシ基としては、直鎖状であってもよく、分枝鎖状であってもよい。
Yの炭素数1~5のアシロキシ基としては、例えば、ホルミルオキシ基、アセトキシ基、n-プロピオニロキシ基、イソプロピオニロキシ基、n-ブタノイロキシ基、n-ペンタノイロキシ基などが挙げられる。
【0108】
Yのハロゲン原子としては、例えば、塩素原子、臭素原子、フッ素原子などが挙げられる。
【0109】
これらの中でも、Yはアルコキシ基であることが好ましく、炭素数1~5のアルコキシ基であることがより好ましく、メトキシ基、エトキシ基であることがさらに好ましい。
【0110】
nは0~3の整数であり、硬化物の機械的強度の観点などから、0、1又は2の整数であることが好ましく、nは0又は1であることがより好ましい。
なお、nが0又は1である場合において、複数存在するYは互いに同一であっても異なっていてもよく、nが2である場合において、複数存在するR1は互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0111】
シランカップリング剤の具体例としては、例えば、(メタ)アクリロイルオキシメチルトリメトキシシラン、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、4-(メタ)アクリロイルオキシブチルトリメトキシシラン、5-(メタ)アクリロイルオキシペンチルトリメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルトリメトキシシラン、7-(メタ)アクリロイルオキシヘプチルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、9-(メタ)アクリロイルオキシノニルトリメトキシシラン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジクロロメチルシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメトキシメチルシラン、12-(メタ)アクリロイルオキシドデシルトリメトキシシラン、13-(メタ)アクリロイルオキシトリデシルトリメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジイソプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメチルシロキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジヘキシロキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ-2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルメチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルメチルジメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ-p-フェニルエチルメチルジメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルメチルジエトキシシラン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルメチルジメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルメチルジメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルメチルジエトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルメチルジヘキシロキシシラン、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルメチルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルフェニルジメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルメチルジクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルエチルジクロロシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノイソプロポキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノトリメチルシロキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノヘキシロキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ-2-(2-ビニロキシエトキシ)エチルジメチルモノメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジメチルモノメトキシシラン、(メタ)アクリロイルオキシ-p-フェニルエチルジメチルモノメトキシシラン、6-(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジメチルモノエトキシシラン、10-(メタ)アクリロイルオキシデシルジメチルモノメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメチルモノメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメチルモノエトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメチルモノヘキシロキシシラン、20-(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジメチルモノメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジフェニルモノメトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルジメチルモノクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジメチルモノクロロシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジエチルモノクロロシラン等の(メタ)アクリロイル基含有シランカップリング剤;ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、ビニルメチルジクロロシラン、ビニルメチルジアセトキシシラン、ビニルメチルジ(2-メトキシエトキシ)シラン、ビニルジメチルモノメトキシシラン、ビニルジメチルモノエトキシシラン、ビニルジメチルモノクロロシラン、ビニルジメチルモノアセトキシシラン、ビニルジメチルモノ(2-メトキシエトキシ)シラン等のビニル基含有シランカップリング剤;3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルモノメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメチルモノエトキシシラン等のエポキシ基含有シランカップリング剤;アリルメチルジエトキシシラン、アリルジメチルモノエトキシシラン等のアリル基含有シランカップリング剤などが挙げられる。
また、シランカップリング剤はこれらが加水分解及び/又は縮合したものであってもよい。
バインダーは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、焼成によって脱水縮合した後に無機凝集フィラー(C)が所望の微小圧縮硬さを有するように、一次粒子同士を強固に結合できる点及び機械的強度等の観点から、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、8-(メタ)アクリロイルオキシオクチルトリメトキシシラン、11-(メタ)アクリロイルオキシウンデシルトリメトキシシラン及び、これらの加水分解物が好ましい。
【0112】
混合工程において、無機粒子100質量部に対するバインダーの添加量は、焼成によって脱水縮合した後に無機凝集フィラー(C)が所望の微小圧縮硬さを有するように、一次粒子同士を強固に結合でき、二次粒子径の制御がより容易である点から、1~35質量部であることが好ましく、1~28質量部であることがより好ましく、1~25質量部であることがさらに好ましい。
【0113】
また、混合工程において、反応点を増やす観点、多価金属を取り除き、保存安定性を高める観点から表面処理を行う前に、酸による処理(以下、単に「酸処理」と称することがある)を行ってもよい。
酸処理は、混合工程後に行ってもよいが、バインダーとの混合時に同時に行ってもよい。
【0114】
前記酸処理に用いられる酸としては、特に限定はなく、有機酸でも無機酸でもよい。
無機酸としては硫酸、塩酸、硝酸、スルホン酸などが挙げられる。有機酸としてはギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
前記酸処理の方法としては、フィラーと酸とが接触する方法であれば特に限定されないが、例えば、フィラーを酸性水溶液中で撹拌する方法が好ましい。
【0115】
前記酸処理に使用される酸性水溶液の濃度は、0.1~20質量%が好ましく、1~10質量%がより好ましい。
また、前記濃度の酸性水溶液の使用量は、フィラー100質量部に対して、10~1000質量部であることが好ましい。
【0116】
・乾燥工程
乾燥工程では、混合工程で得られた混合液を乾燥して乾燥体を得る。
乾燥の方法に特に制限はなく、例えば、噴霧乾燥(スプレードライ)、超臨界乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥、減圧乾燥などを採用することができる。このうち、乾燥時に二次粒子の粒子径を均一に制御しやすく、かつバインダーを加熱により縮合させやすい点などから、噴霧乾燥、超臨界乾燥及び凍結乾燥のうちのいずれかが好ましく、噴霧乾燥及び超臨界乾燥のうちのいずれかがより好ましく、噴霧乾燥がさらに好ましい。
【0117】
・焼成工程
焼成工程では、乾燥工程で得られた乾燥体を焼成する。
焼成温度は、金属酸化物に含まれる金属原子を介して一次粒子同士を強固に結合でき、無機凝集フィラー(C)が所望の微小圧縮硬さを有するように調整できる点から、600~800℃であることが好ましく、620~780℃であることがより好ましく、650~750℃であることがさらに好ましい。
焼成時間は、金属酸化物に含まれる金属原子を介して一次粒子同士を強固に結合でき、無機凝集フィラー(C)が所望の微小圧縮硬さを有するように調整できる点から、0.5~6時間であることが好ましく、1~5時間であることがより好ましく、1.5~4.5時間であることがさらに好ましい。
【0118】
前記焼成工程において、焼成温度が一次粒子の溶融温度又は一次粒子を形成する主成分(一番配合割合が多い成分)の融点温度の30~80%の温度であることが好ましい。
例えば、一次粒子を形成する主成分がSiO2の場合、SiO2の融点温度の30~80%の範囲内の温度であることが好ましく、融点温度の35~75%の範囲内の温度であることがより好ましく、融点温度の40~70%の範囲内の温度であることがさらに好ましい。
【0119】
歯科用無機凝集フィラー(C)の平均粒子径(二次粒子の平均粒子径)としては、ペーストの性状、及び硬化物の機械的強度を向上させる観点から、2~20μmであることが好ましく、4~18μmであることがより好ましく、5~15μmであることがさらに好ましい。
【0120】
本発明のある実施形態としては、下記(c1)、(c2)及び(c3):
(c1)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が不定形(球状を除く)である;
(c2)無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が650nm以下である;
(c3)無機凝集フィラーの微小圧縮硬さが10~300MPaである。
を同時に満たす、歯科用無機凝集フィラー(C)が挙げられる。
【0121】
歯科用無機凝集フィラー(C)は、歯科用硬化性組成物に用いた場合に、良好なペースト性状、優れた硬化物の機械的強度及び研磨性を付与することができる。
【0122】
歯科用無機凝集フィラー(C)は、構成する一次粒子の形状は、球状ではないものの、二次粒子としては、研磨時に粒子が抜け落ちた際に、表面の凹凸に起因する光の散乱が小さくなりやすい点から、球状であることが好ましい。ただし、乾燥工程の乾燥方法に応じて、二次粒子の形状は、球状でない場合であってもよい。二次粒子の形状が球状でない場合であっても、研磨の際に一次粒子が所望の範囲内で抜け落ちることによって、本発明の効果を奏することができる。
【0123】
歯科用無機凝集フィラー(C)は、歯科用硬化性組成物の全量100質量%中、硬化物の機械的強度に優れる点で、5~50質量%であることが好ましく、10~48質量%であることがより好ましく、15~45質量%であることがさらに好ましい。
【0124】
無機凝集フィラー(C)の比表面積は、硬化物の機械的強度に優れ、ペースト性状がより良好である点から、80m2/g以下であることが好ましく、75m2/g以下であることがより好ましく、70m2/g以下であることがさらに好ましい。
また、無機凝集フィラー(C)の比表面積は、ペースト性状がより良好である点から、10m2/g以上であることが好ましく、12m2/g以上であることがより好ましく、14m2/g以上であることがさらに好ましい。無機凝集フィラー(C)の比表面積は、ペーストの操作性などの調整を目的として、15m2/g以上、20m2/g以上とすることもできる。
【0125】
なお、無機凝集フィラー(C)のBET比表面積は、ガス吸着法を原理とする比表面積・細孔分布測定装置によって求めることができ、JIS Z 8830:2013又はISO 9277:2010に記載のBET法に準じて、測定できる。
具体的には、比表面積測定装置(商品名:BELSORP-mini-II、定容量式ガス吸着法(窒素吸脱着測定)、マイクロトラック・ベル株式会社製)によって100℃で2時間真空脱揮した後、吸着ガス:窒素、測定温度:77Kの条件でBET法に基づき測定できる。
【0126】
<非凝集フィラー(D)>
本発明の歯科用硬化性組成物は、ペーストの操作性を調整するために、また硬化物の機械的強度を高めるために、無機凝集フィラー(C)以外に、非凝集フィラー(D)を含むことが好ましい。
また、本発明の歯科用硬化性組成物は、ペーストの性状、無硬化物の機械的強度及び研磨性の点から、凝集フィラー(C)以外の凝集フィラーを含まないことが好ましい。
非凝集フィラー(D)としては、無機フィラー、有機フィラー、及び有機-無機複合フィラーが挙げられる。
非凝集フィラー(D)は、1種を単独で配合してもよく、2種以上を組み合わせて配合してもよい。
非凝集フィラー(D)について、以下に説明する。
【0127】
有機フィラーの素材としては、例えばポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル-メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、クロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン-酢酸ビニル共重合体、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられ、これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上の混合物として用いることができる。有機フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
得られる歯科用硬化性組成物の操作性及び機械的強度などの観点から、前記有機フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
【0128】
無機フィラーの素材としては、各種ガラス類〔シリカを主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素、アルミニウム等の酸化物を含有する。例えば、溶融シリカ、石英、ソーダライムシリカガラス、Eガラス、Cガラス、ボロシリケートガラス(パイレックス(登録商標)ガラス)等の一般的な組成のガラス粉末;バリウムガラス(GM27884、8235、SCHOTT社製、E-2000、E-3000、ESSTECH社製)、ストロンチウムボロシリケートガラス(E-4000、ESSTECH社製)、ランタンガラスセラミックス(GM31684、ショット社製)、フルオロアルミノシリケートガラス(GM35429、G018-091、G018-117、ショット社製)等の歯科用ガラス粉末〕、各種セラミック類、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア等の複合酸化物、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、フッ化イットリウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のフッ化カルシウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のフッ化イッテルビウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のフッ化イットリウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のリン酸カルシウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造の硫酸バリウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造の二酸化ジルコニウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造の二酸化チタン、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のヒドロキシアパタイトが挙げられる。これらの中でも、強度等の観点から、各種ガラス類、シリカ-チタニア、シリカ-ジルコニア等の複合酸化物、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のフッ化カルシウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のフッ化イッテルビウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のフッ化イットリウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のリン酸カルシウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造の硫酸バリウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造の二酸化ジルコニウム、シリカで表面をコートされたコアシェル構造の二酸化チタン、シリカで表面をコートされたコアシェル構造のヒドロキシアパタイトが好ましい。これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において、非凝集フィラー(D)に表面処理をする場合は、非凝集フィラー(D)の平均粒子径は、表面処理前の平均粒子径を意味する。
【0129】
無機フィラーの形状としては、不定形フィラー及び球状フィラーが挙げられる。
歯科用硬化性組成物の硬化物の機械的強度を向上させる観点からは、前記無機フィラーとして球状フィラーを用いることが好ましい。「球状」は前記したとおりである。
無機フィラーの平均粒子径は、無機凝集フィラー(C)と組み合わせた場合の歯科用硬化性組成物の操作性及び機械的強度及び研磨性の点から、1nm~2000nmが好ましく、5nm~1000nmがより好ましく、10nm~800nmがさらに好ましい。
【0130】
本発明で用いてもよい有機-無機複合フィラーとは、上述の無機フィラーに重合性単量体を予め添加し、ペースト状にした後に重合させ、粉砕することにより得られるものである。前記有機-無機複合フィラーとしては、例えば、TMPTフィラー(トリメチロールプロパンメタクリレートとシリカフィラーを混和、重合させた後に粉砕したもの)などを用いることができる。前記有機-無機複合フィラーの形状は特に限定されず、フィラーの粒子径を適宜選択して使用することができる。
得られる組成物の操作性及び機械的強度などの観点から、前記有機-無機複合フィラーの平均粒子径は、0.001~50μmであることが好ましく、0.001~10μmであることがより好ましい。
また、有機-無機複合フィラーを構成する無機フィラーの平均粒子径としては、650nm以下であることが好ましく、600nm以下であることがより好ましく、研磨性により優れ、ペースト性状がより良好である点から、500nm以下であることがさらに好ましく、450nm以下であることが特に好ましく、400nm以下であることが最も好ましい。
【0131】
なお、本明細書において、非凝集フィラー(D)の平均粒子径は、無機凝集フィラー(C)を構成する一次粒子の平均粒子径と同様の方法で測定できる。
【0132】
本発明の歯科用硬化性組成物は、異なった材質、平均粒子径、及び/又は形状を持つ2種以上のフィラーを、組み合わせて用いることが好ましい。
2種以上のフィラーを組み合わせることにより、フィラーが密に充填されるとともに、フィラーと重合性単量体、もしくはフィラー同士の相互作用点が増える。また、フィラーの種類により、剪断力の有無によるペーストの流動性をコントロール可能となる。
各粒子径のフィラーに異なる種類のフィラーが含まれていてもよい。また、本発明の効果を損なわない範囲内で、意図せずに、フィラー以外の粒子が不純物として含まれていてもよい。
【0133】
前記非凝集フィラー(D)は、歯科用硬化性組成物の流動性を調整するため、必要に応じて、シランカップリング剤などの公知の表面処理剤で予め表面処理してから用いてもよい。
シランカップリング剤としては、前記一般式(1)で表されるシランカップリング剤等が挙げられる。
【0134】
前記非凝集フィラー(D)の含有量が、研磨性に優れる点から、5~45質量%であることが好ましく、10~40質量%であることがより好ましく、15~40質量%であることがさらに好ましい。
【0135】
・重合促進剤
本発明の歯科用硬化性組成物は、重合開始剤(B)とともに重合促進剤を用いることができる。
本発明に用いられる重合促進剤としては、例えば、アミン類、スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸化合物、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、チオ尿素化合物などが挙げられる。
重合促進剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0136】
重合促進剤として用いられるアミン類は、脂肪族アミン及び芳香族アミンに分けられる。
脂肪族アミンとしては、例えば、n-ブチルアミン、n-ヘキシルアミン、n-オクチルアミンなどの第1級脂肪族アミン;ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、N-メチルエタノールアミンなどの第2級脂肪族アミン;N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、N-n-ブチルジエタノールアミン、N-ラウリルジエタノールアミン、2-(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N-メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N-エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレート、トリエタノールアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミンなどの第3級脂肪族アミンなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用硬化性組成物の硬化性及び保存安定性の観点から、第3級脂肪族アミンが好ましく、その中でもN-メチルジエタノールアミン及びトリエタノールアミンがより好ましく用いられる。
【0137】
また、芳香族アミンとしては、例えば、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-エチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-イソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-4-t-ブチルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジイソプロピルアニリン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-m-トルイジン、N,N-ジエチル-p-トルイジン、N,N-ジメチル-3,5-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-3,4-ジメチルアニリン、N,N-ジメチル-4-エチルアニリン、N,N-ジメチル-4-イソプロピルアニリン、N,N-ジメチル-4-t-ブチルアニリン、N,N-ジメチル-3,5-ジ-t-ブチルアニリン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸メチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸プロピル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸2-(メタクリロイルオキシ)エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸ブチルなどが挙げられる。これらの中でも、歯科用硬化性組成物に優れた硬化性を付与できる観点から、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-p-トルイジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル、4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸n-ブトキシエチル及び4-(N,N-ジメチルアミノ)ベンゾフェノンからなる群から選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0138】
スルフィン酸及びその塩、ボレート化合物、バルビツール酸化合物、トリアジン化合物、銅化合物、スズ化合物、バナジウム化合物、ハロゲン化合物、アルデヒド類、チオール化合物、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、及びチオ尿素化合物の具体例としては、国際公開第2008/087977号に記載のものが挙げられる。
【0139】
本発明に用いられる重合促進剤の含有量は特に限定されないが、得られる歯科用硬化性組成物の硬化性などの観点からは、歯科用硬化性組成物における重合性単量体(A)100質量部に対して、0.001~30質量部が好ましく、0.01~10質量部がより好ましく、0.05~20質量部がさらに好ましく、0.1~5質量部が特に好ましい。
重合促進剤の含有量が0.001質量部以上である場合、重合が十分に進行し、所望の硬化性が得られる。
一方、重合促進剤の含有量が30質量部以下である場合、十分な硬化性が得られる。
【0140】
<フッ素イオン放出性物質>
本発明の歯科用硬化性組成物は、さらにフッ素イオン放出性物質を含有してもよい。フッ素イオン放出性物質を含有することによって、歯質に耐酸性を付与することができる歯科用硬化性組成物が得られる。
フッ素イオン放出性物質としては、例えば、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、モノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化リチウム、フッ化イッテルビウムなどの金属フッ化物類などが挙げられる。上記フッ素イオン放出性物質は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0141】
また、本発明の歯科用硬化性組成物には、性能を低下させない範囲内で、公知の添加剤を含有することができる。
添加剤としては、重合禁止剤、酸化防止剤、顔料、染料、紫外線吸収剤、有機溶媒等の溶媒、増粘剤等が挙げられる。
添加剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
ある実施形態では、歯科用硬化性組成物における溶媒(例えば、水、有機溶媒)の含有量が歯科用硬化性組成物の全質量に基づいて、1質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましく、0.01質量%未満であることがさらに好ましい。
他の実施形態では、歯科用硬化性組成物は、本発明の効果を奏する観点から、実質的に水を含まないことが好ましい。歯科用硬化性組成物が実質的に水を含まないとは、歯科用硬化性組成物の総量に対して、水の含有量が1質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以下であることがより好ましく、0.01質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であってもよい。
【0142】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエーテル、ジブチルハイドロキノン、ジブチルハイドロキノンモノメチルエーテル、t-ブチルカテコール、2-t-ブチル-4,6-ジメチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチルフェノール、3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン等が挙げられる。
重合禁止剤の含有量は、歯科用硬化性組成物の単量体の総量100質量%において、0.001~1.0質量%が好ましい。
【0143】
また、本発明の歯科用硬化性組成物は、歯科医療の分野において、歯科用コンポジットレジン、歯科用セメントとして好適に用いられる。
【0144】
本発明は、本発明の効果を奏する限り、本発明の技術的思想の範囲内において、上記の構成を種々組み合わせた実施形態を含む。
【実施例0145】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。実施例において用いられる試験方法、材料などを以下にまとめて示す。
【0146】
<試験方法>
(無機凝集フィラーの平均粒子径の測定)
下記の各製造例で得られた無機凝集フィラーについて、水を分散媒とし、レーザー回折式粒度分布測定装置(商品名「SALD-2300」、株式会社島津製作所製)を用いて体積基準で平均粒子径を測定した。
【0147】
(無機凝集フィラー(二次粒子)及び一次粒子の形状の評価)
下記の各製造例で得られた無機凝集フィラー及びそれを構成する一次粒子について、形状は、顕微鏡観察で判断した。
顕微鏡には、走査型電子顕微鏡(商品名「SU3900」、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)を使用した。
【0148】
(無機凝集フィラーの微小圧縮硬さの測定)
下記の各製造例で得られた無機凝集フィラーについて、株式会社島津製作所製の微小圧縮試験機(商品名「MCT-510」)を用いて、JIS R 1639-5:2007に準拠して、微小圧縮硬さを測定した。具体的には、以下のとおりである。
下記の各製造例で得られた無機凝集フィラーのd50に相当するサイズの粒子塊に対して、荷重:5mN、速度:0.05mN/秒、平面圧子:Φ20μmの条件で加圧して、その際の破壊試験力P(N)および粒子径d(mm)より単一顆粒の圧壊強さCs(MPa)を計算した。
計算式は、Cs=2.48P/πd2であり、単一顆粒の圧壊強さCs(MPa)が微小圧縮硬さである。無機凝集フィラーごとに5回試験を行い、平均値を結果とした。
また、下記表1のX-3についてのみ、実験操作の時間短縮の点から、測定条件を、荷重:50mN、速度:0.5mN/秒、平面圧子:Φ20μmに変更して行った。
なお、条件を変更した測定結果は、変更前の条件と対比可能であり、条件の変更によって測定結果がかわるものではない。
【0149】
(硬化物の曲げ強さの測定)
各実施例及び比較例で得られた歯科用硬化性組成物を真空脱泡後、ステンレス製の金型(寸法2mm×2mm×25mm)に充填し、上下をスライドガラスで圧接し、歯科重合用LED光照射器(株式会社モリタ製、商品名「ペンキュアー2000」)で1点10秒、片面を5点ずつ、スライドガラスの両面に光を照射して硬化させて硬化物の試験片を得た。各実施例及び比較例について、硬化物を5本ずつ作製し、硬化物は、金型から取り出した後、37℃の蒸留水中に24時間保管した。各試験片について、JIS T 6514:2015及びISO4049:2019に準拠して、精密万能試験機(株式会社島津製作所製、商品名「オートグラフAG-I 100kN」)を用いて、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分の条件下で曲げ強さを3点曲げ試験で測定した。各試験片の測定値の平均値(n=5)を算出し、曲げ強さとした。
曲げ強さは、140MPa以上であることが好ましく、145MPa以上であることがより好ましく、150MPa以上であることがさらに好ましい。曲げ強さの上限に特に制限はなく、例えば、200MPa以上であってもよい。
【0150】
(硬化物の研磨性の評価)
ポリテトラフルオロエチレン製の型(内径10mm×厚さ2.0mm)に各実施例及び比較例で得られた歯科用硬化性組成物を充填し、歯科重合用LED光照射器(商品名「ペンキュアー2000」、株式会社モリタ製)で10秒間光照射を行った。硬化物を型から取り出し、上側の綺麗な平滑面を、乾燥条件下、#600研磨紙にて研磨した。
さらに、技工用エンジン(商品名「Volvere i7」、日本精工株式会社製)を使用し、湿潤条件下、歯科用ゴム製研磨材(商品名「コンポマスター」、株式会社松風製)を用いて回転速度約10,000rpmで5秒間研磨し、研磨面を作製した。
その後、この研磨面の光沢を光沢度計(商品名「VG8000」、測定角度:60°、日本電色工業株式会社製)を用いて測定し、鏡を100%とした時の割合(光沢度)を求め、これを硬化物の研磨性の指標とした。
光沢度は、50%以上であることが好ましく、55%以上であることがより好ましく、60%以上であることがさらに好ましく、65%以上であることが最も好ましい。
【0151】
(操作性の評価)
各実施例及び比較例で得られた歯科用硬化性組成物について、充填操作のしやすさの観点から、以下の基準に基づいて以下の操作を行い、操作性の評価を行った。
一定量(50mg程度)の歯科用硬化性組成物を、歯科用エキスカベーター(フィード株式会社製)を用いて練和紙の上に伸ばした。その後、同器具で複数回ペーストを練和紙上に押し広げた。
べたつきやぱさつきが少なく、充填操作がしやすいものについては「○」と判定し、そのうち特に充填操作性に優れるものについては「◎」と判定した。
一方、べたつき、又はぱさつきが強く充填操作が困難なものについては「×」と判定した。5回作製したなかで、4個以上が適合した場合に各判定を下した。
【0152】
(比表面積の測定)
比表面積はBET多点法にて測定した。
ガス吸着試験機(商品名「BELSORP-miniII」)および付属の前処理装置(商品名「BELPREP-vacII」)マイクロトラック・ベル株式会社製)を使用して、ガス吸着法による比表面積の測定を行った。
測定用サンプル管に、測定する粉体を200mg程度図り取り、前処理装置を用いて90℃に加温しながら3時間真空乾燥を行った。その後、ガス吸着試験機を用いて、粉体表面に吸着占有面積が分かっている窒素ガス分子を吸着させ、その吸着量から試料の比表面積を測定した。
また、測定結果を、飽和蒸気圧P0(kPa)に対する吸着平衡圧P(kPa)の比(P/P0)が0.05~0.3の範囲にある吸着側等温線上の5点を用いたBET多点法による解析した。
【0153】
<材料>
(重合性単量体(A))
D-2.6E:2,2-ビス(4-メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(エチレンオキシ基の平均付加モル数:2.6)
UDMA:2,2,4-トリメチルヘキサメチレンビス(2-カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
POBMA:m-フェノキシベンジルメタクリレート(共栄社化学株式会社製)
【0154】
(重合開始剤(B))
BPO:ベンゾイルペルオキシド
CQ:dl-カンファーキノン
TMDPO:2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド
【0155】
(重合促進剤)
PDE:4-(N,N-ジメチルアミノ)安息香酸エチル
【0156】
(重合禁止剤)
BHT:3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシトルエン
【0157】
(紫外線吸収剤)
TN326:「チヌビン326」(BASFジャパン株式会社製)
【0158】
(無機凝集フィラー(C))
無機凝集フィラー(C)としては、下記の製造例で得られたものを用いた。
【0159】
〔フィラーの製造例1〕無機凝集フィラー(C-1)の製造
市販のバリウムガラス(商品名「GM27884 NanoFine180」、平均粒子径:180nm、ショット社製)を♯150(目開き:108μm)でふるいにかけた後、♯255(目開き:57μm)でさらに細かくふるいにかけ、粗大粒子や不純物を除去した。その後、20%の濃度となるように水にガラス粉末を添加してスラリーを調整し、メカニカルスターラーで撹拌しながら、超音波を1~3時間程度照射して、凝集粒子を分散させた。
さらに、超高圧湿式微粒化装置(商品名「ナノヴェイタ(登録商標)L-AS」、吉田機械興業株式会社製)を用いて、より細かな粒子まで分散させたスラリーを作製した。
次に、得られたスラリーに含まれるバリウムガラスを100質量部として、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-503)11質量部、及び蒸留水50質量部、酢酸0.1質量部を丸底フラスコで1時間撹拌した溶液を、当該スラリーに添加し、1時間撹拌した。
前記撹拌により十分にフィラーの表面に3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランを反応させた後、スプレードライヤー(日本ビュッヒ株式会社製)を用いて噴霧乾燥し、造粒した。噴霧乾燥は、乾燥温度170℃、及び流量5g/minの条件で行った。
得られたフィラーを耐熱セラミックス皿に移し、電気炉(ヤマト科学株式会社製)を用いて700℃で2時間焼成した。
焼成後に得られたフィラーを任意の濃度で2-プロパノールに添加したスラリーを調製した。
当該スラリーを1時間撹拌した。
スラリー中のフィラーを100質量部として、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン11質量部、2-プロパノール50質量部、及び酢酸0.1質量部となる配合割合で、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2-プロパノール、及び酢酸を先に丸底フラスコで1時間撹拌し、得られた溶液を、前記スラリーに添加し、さらに1時間室温下で撹拌した。
2-プロパノールを減圧下で留去した後、40℃で16時間真空乾燥を行い、さらに90℃で3時間加熱し、表面処理された無機凝集フィラー(C-1)を得た。
【0160】
〔フィラーの製造例2〕無機凝集フィラー(C-2)の製造
市販のバリウムガラス(商品名「GM27884 NanoFine180」)をバリウムガラス(商品名「GM27884 UF0.4」、平均粒子径:400nm、ショット社製)に変更した以外は、無機凝集フィラー(C-1)と同様の方法で、無機凝集フィラー(C-2)を製造した。
【0161】
〔フィラーの製造例3〕無機凝集フィラー(C-3)の製造
3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン11質量部を3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン22質量部に変更した以外は、無機凝集フィラー(C-1)と同様の方法で、無機凝集フィラー(C-3)を製造した。
【0162】
〔フィラーの製造例4〕無機凝集フィラー(C-4)の製造
700℃での2時間の焼成を700℃で4時間の焼成に変更した以外は、無機凝集フィラー(C-1)と同様の方法で、無機凝集フィラー(C-4)を製造した。
【0163】
(非凝集フィラー(D))
非凝集フィラー(D)としては、下記の製造例で得られたものを用いた。
〔フィラーの製造例5〕非凝集フィラー(D-1)の製造
市販のバリウムガラス(商品名「GM27884 NanoFine180」、平均粒子径:180nm、ショット社製)100質量部、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン7質量部、及びトルエン173質量部を三口フラスコに入れ、2時間、室温下で撹拌した。トルエンを減圧下で留去した後、40℃で16時間真空乾燥を行い、さらに90℃で3時間加熱し、表面処理層が設けられた無機フィラーを得た。
得られた無機フィラー(非凝集フィラー(D-1))の平均粒子径は0.2μmであり、比表面積は35m2/gであった。
【0164】
〔フィラーの製造例6〕非凝集フィラー(D-2)の製造
平均粒子径が20nmの略球状の超微粒子シリカ(商品名「アエロジル(登録商標)130」、日本アエロジル株式会社製)100質量部に対して、40質量部の3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランで表面処理し、非凝集フィラー(D-2)を得た。
【0165】
(無機凝集フィラー(C)以外の無機凝集フィラー)
無機凝集フィラー(C)以外の無機凝集フィラーとしては、下記の製造例で得られたものを用いた。
【0166】
〔フィラーの製造例7〕無機凝集フィラー(X-1)の製造
市販のバリウムガラス(商品名「GM27884 NanoFine180」)をバリウムガラス(商品名「GM27884 UF0.7」、平均粒子径:700nm、ショット社製)に変更した以外は、無機凝集フィラー(C-1)と同様の方法で、無機凝集フィラー(X-1)を製造した。
【0167】
〔フィラーの製造例8〕無機凝集フィラー(X-2)の製造
市販のバリウムガラス(商品名「GM27884 NanoFine180」)を非凝集フィラー(D-2)に変更した以外は、無機凝集フィラー(C-1)と同様の方法で、無機凝集フィラー(X-2)を製造した。
【0168】
〔フィラーの製造例9〕無機凝集フィラー(X-3)の製造
700℃での焼成を900℃での焼成に変更した以外は、無機凝集フィラー(C-1)と同様の方法で、無機凝集フィラー(X-3)を製造した。
【0169】
〔フィラーの製造例10〕無機凝集フィラー(X-4)の製造
3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン11質量部をポリビニルアルコール(商品名「PVA-117」、株式会社クラレ製)11質量部に変更した以外は、無機凝集フィラー(C-1)と同様の方法で、無機凝集フィラー(X-4)を製造した。
【0170】
〔フィラーの製造例11〕無機凝集フィラー(X-5)の製造
WO01/030304号に記載のゾルゲル法で、クラスタ粒子充填剤を製造した。具体的には、以下のとおりである。
シリカナノサイズゾル(Nalco 1042ゾル)の5.0kg部分を量り取り、希硝酸を用いてゾルのpHを2.5に調節した。pH調節したゾルを2.95kgの酢酸ジルコニウムに徐々に添加し、1時間撹拌した。
スプレードライヤー(日本ビュッヒ株式会社製)を用いて噴霧乾燥し、造粒した。噴霧乾燥は、乾燥温度170℃、及び流量5g/minの条件で行った。得られた充填剤を550℃で4時間焼成した。次いで、焼成した充填剤を160時間ボールミルで粉砕して、無機凝集フィラー(X-5)を製造した。
【0171】
各製造例で得られたフィラーについて、製造条件と物性を表1に示す。
【0172】
【0173】
〔重合性単量体含有組成物の製造例1〕重合性単量体含有組成物(M-1)の製造
20質量部のD-2.6E、50質量部のUDMA及び30質量部のPOBMAに、化学重合開始剤としてBPOを0.5質量部、光重合開始剤としてCQを0.4質量部、TMDPOを0.5質量部、重合促進剤としてPDEを0.4質量部、重合禁止剤としてBHTを0.01質量部、紫外線吸収剤としてTN326を0.5質量部溶解させて、重合性単量体含有組成物(M-1)を調製した。
【0174】
[実施例1~5、及び比較例1~5]
前記製造例で得られた重合性単量体含有組成物(M-1)、無機凝集フィラー(C-1)~(C-4)、無機凝集フィラー(C)以外の無機凝集フィラー(X-1)~(X-5)、及び非凝集フィラー(D-1)~(D-2)を用いて、下記表2に示された組成比率で混練して均一にしたものを真空脱泡し、実施例1~5及び比較例1~5のペースト状の歯科用硬化性組成物を調製した。
調製した歯科用硬化性組成物について前記した各方法で特性を評価した。結果を下記表2に示す。
【0175】
【0176】
上記結果から、本発明の歯科用硬化性組成物は、使用時には、良好なペースト性状を有し、操作性に優れ、硬化物の機械的強度及び研磨性に優れることが確認できた。
【0177】
比較例1では、無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が大きすぎ、研磨性が劣っていた。
比較例2では、無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が球状であり、微小圧縮硬さも範囲外であり、硬化物の機械的強度が十分ではなかった。
比較例3では、微小圧縮硬さが範囲外であり、ペーストの性状が悪く、硬化物の研磨性が劣っていた。
比較例4では、無機凝集フィラーを構成する一次粒子の平均粒子径が大きすぎ、微小圧縮硬さも範囲外であり、ペーストの性状が悪く、硬化物の研磨性が劣っており、硬化物の機械的強度も十分ではなかった。
比較例5では、無機凝集フィラーを構成する一次粒子の形状が球状であり、微小圧縮硬さも範囲外であり、硬化物の機械的強度が十分ではなかった。