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  • 特開-真空管回路 図1
  • 特開-真空管回路 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100297
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】真空管回路
(51)【国際特許分類】
   H01J 21/20 20060101AFI20240719BHJP
   H03F 1/54 20060101ALI20240719BHJP
   H01J 19/16 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
H01J21/20
H03F1/54
H01J19/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004179
(22)【出願日】2023-01-14
(71)【出願人】
【識別番号】523016700
【氏名又は名称】實川 資朗
(74)【代理人】
【識別番号】100211719
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 和真
(72)【発明者】
【氏名】實川 資朗
【テーマコード(参考)】
5J500
【Fターム(参考)】
5J500AA01
5J500AC58
5J500AC92
5J500AF14
5J500AH46
5J500AQ04
5J500AT01
(57)【要約】
【課題】放射線レベルが高い環境においても、安定的に且つ高い耐久性で使用できる電子回路を提供する。
【解決手段】本開示の真空管回路1は、一対のカソード110及びプレート120を含んで構成される真空管100を複数有する真空管群10と、熱電子を放出するヒーターであって、更にカソード110から熱電子を放出させるために該カソードを加熱するヒーター20と、を備える。そして、ヒーター20は、真空管群10に含まれる複数のカソード110に対して熱電子を入射可能な程度の大きさに形成される。このヒーター20は、一つのヒーターハウジング21に包含されてもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のカソード及びプレートを含んで構成される真空管を複数有する真空管群と、
熱電子を放出するヒーターであって、更に前記カソードから熱電子を放出させるために該カソードを加熱するヒーターと、
を備え、
前記ヒーターは、前記真空管群に含まれる複数の前記カソードに対して熱電子を入射可能な程度の大きさに形成される、
真空管回路。
【請求項2】
前記ヒーターは、一つのヒーターハウジングに包含される、
請求項1に記載の真空管回路。
【請求項3】
前記真空管群は、平面状に形成された前記真空管が絶縁基板上に並列して配置されることで集積回路を構成し、
前記一つのヒーターハウジングは、前記真空管群の上方に配置され、集積化された前記真空管の前記カソード夫々に対して、前記ヒーターを介して熱電子を入射させる、
請求項2に記載の真空管回路。
【請求項4】
前記真空管において、前記カソードの前記プレート側の端部には突起部が設けられる、
請求項1に記載の真空管回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、集積回路用の真空管回路に関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタの開発によって電子回路の小型化が進み、現在では、集積回路のナノ単位での集積化が可能になっている。一方で、宇宙分野や原子力分野での技術発展をささえるべく、このような分野で使用可能な電子機器の重要性が近年益々高まっている。
【0003】
ここで、電子機器の放射線下での使用限界は、能動素子の耐放射線性により決まり、例えば、耐放射線性が比較的高いとされる接合型FETを用いたとしても、原子炉内部での電子機器の使用は数時間から数日に限定される。そこで、電子回路におけるトランジスタを真空管に置き換えることが考えられる。
【0004】
例えば、特許文献1には、フィラメント、グリッド、アノードを有する直熱型の真空管を用いた回路が開示されている。この技術では、直熱型の真空管を用いた回路において、フィラメントの電位を利用した信号処理回路が作成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-136483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
宇宙分野や原子力分野において放射線下で電子機器を使用する際、その環境における安定性や劣化による使用限界が問題となり得る。そのため、電子機器の耐放射線性を向上させるための能動素子の改良が重要になるが、一般的な電子機器で用いられている半導体素子の劣化は酸化物領域などの絶縁破壊によるもので、構造的にその改良が容易ではない。そこで、このような半導体素子よりも耐放射線性が高い真空管を能動素子に用いることが考えられる。
【0007】
ここで、カソードから熱電子を放出させる真空管においては、ヒーターに電流を流すことでカソードを高温にして熱電子を放出させることから、カソードとヒーターとが対になって真空管が構成される。そうすると、このような真空管を複数用いて電子回路を構成しようとした場合、カソードと対になる各ヒーターの寿命が、電子回路の耐久性の懸念となり得る。また、複数の真空管夫々がヒーターを備えることで、電子回路を小型化することが困難となる。一方、ヒーターを用いない冷陰極型の真空管では、放射線による影響(雑音等)が問題となり得る。
【0008】
本開示の目的は、放射線レベルが高い環境においても、安定的に且つ高い耐久性で使用できる電子回路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の真空管回路は、一対のカソード及びプレートを含んで構成される真空管を複数有する真空管群と、熱電子を放出するヒーターであって、更に前記カソードから熱電子を放出させるために該カソードを加熱するヒーターと、を備える。そして、前記ヒーターは、前記真空管群に含まれる複数の前記カソードに対して熱電子を入射可能な程度の大きさに形成される。
【0010】
上記の真空管回路では、真空管群が有する複数のカソードに対して熱電子を入射させるとともに、真空管群が有する複数のカソードから熱電子を放出させるために該複数のカソードを加熱するヒーターによって、カソードが加熱されることで放出される熱電子だけでなく、ヒーターとカソードの間に加えた電圧により加速されて入射された熱電子に起因する反射電子や二次電子も、真空管を機能させる電子線の発生に用いることができる。これにより、カソードとヒーターとが対になった従来までの構造によらず真空管を構成することができ、真空管を複数用いて電子回路を構成し易くなる。つまり、従来までの構造に対してヒーターの数を減ずることで、電子回路を小型化することでき、また、ヒーターの寿命が電子回路の耐久性の懸念となる事態を抑制することができる。そして、このような真空管群を用いた電子回路は、一般的な半導体素子を用いた場合と比べて放射線下で劣化し難いため、以て、放射線レベルが高い環境においても、安定的に且つ高い耐久性で使用することができる。
【0011】
そして、上記の真空管回路において、前記ヒーターは、一つのヒーターハウジングに包含されてもよい。ここで、上記のヒーターハウジングは、真空管群に含まれる複数のカソードに対して熱電子を入射可能な程度の大きさに形成されるヒーターを包含するものである。そのため、ヒーターをカソードやプレートに対して大型化することができ、以て、ヒーターの耐久性を高めることができる。そして、この場合、前記真空管群は、平面状に形成された前記真空管が絶縁基板上に並列して配置されることで集積回路を構成し、前記一つのヒーターハウジングは、前記真空管群の上方に配置され、集積化された前記真空管の前記カソード夫々に対して、前記ヒーターを介して熱電子を入射させてもよい。
【0012】
また、本開示の真空管回路では、前記真空管において、前記カソードの前記プレート側の端部に突起部が設けられてもよい。これによれば、突起部とプレートとの間の微小なギャップにおける電界強度を高めることができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、放射線レベルが高い環境においても、電子回路を安定的に且つ高い耐久性で使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施形態における真空管回路の概略構成を示す図である。
図2】実施形態における一つの真空管において、カソードとプレートとの間に電位を加えたときの電流-電圧特性を示す図である。
図3】突起部の電子顕微鏡写真を例示する図である。
図4】本開示の真空管回路において、カソードとプレートとの間にグリッドが設けられた態様の電子顕微鏡写真を例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて、本開示の実施の形態を説明する。以下の実施形態の構成は例示であり、本開示は実施形態の構成に限定されない。
【0016】
本実施形態における真空管回路について、図1を参照しながら説明する。図1は、本実施形態における真空管回路の概略構成を示す図である。本実施形態に係る真空管回路1は、真空管100を複数有する真空管群10と、ヒーター20と、を備える。
【0017】
真空管群10は、図1(a)に示すように、一対のカソード110及びプレート120を含んで構成される真空管100を複数有する。
【0018】
ここで、真空管群10は、平面状に形成された真空管100が絶縁基板30上に並列して配置されることで集積回路を構成することができる。このとき、各真空管100のカソード110及びプレート120に引出し線が設けられることで、真空管100が集積された電子回路が形成され得る。なお、カソード110やプレート120は、例えば、絶縁基板30上に形成された金属蒸着膜である。そして、これら素子は、例えば、0.01mm角に形成される。
【0019】
ヒーター20は、熱電子を放出する。更に、ヒーター20は、カソード110から熱電子を放出させるために該カソード110を加熱する。なお、ヒーター20及びカソード110には、熱電子を放出させるための仕事関数の小さい酸化物等が塗布され得る。
【0020】
ここで、一般的に、カソードから熱電子を放出させる真空管においては、カソードとヒーターとが対になって真空管が構成される。そうすると、このような真空管を複数用いて電子回路を構成しようとした場合、カソードと対になる各ヒーターの寿命が、電子回路の耐久性の懸念となり得る。また、複数の真空管夫々がヒーターを備えることで、電子回路を小型化することが困難となる。
【0021】
そこで、本開示では、上記のヒーター20が、真空管群10に含まれる複数のカソード110に対して熱電子を入射可能な程度の大きさに形成される。詳しくは、本実施形態の真空管回路1では、このような大きさに形成されるヒーター20が、一つのヒーターハウジング21に包含され、該ヒーターハウジング21が真空管群10の上方に配置される。そうすると、集積化された真空管100のカソード110夫々に対して、ヒーターハウジング21に包含されたヒーター20からの熱電子を入射させることが可能になる。
【0022】
そして、以上に述べたように構成される真空管回路1では、図1(b)に示すように、ヒーター20とカソード110との間に、例えば、100V~300Vの電圧が印加され、ヒーター20からの熱電子が加速される。なお、図1(b)は、真空管群10に含まれる一つの真空管100を模式的に示す図である。
【0023】
本開示の真空管回路1では、上記の如く電圧が印加されると、ヒーター20から熱電子が放出される。また、電流を流されたヒーター20が発熱することで、カソード110を加熱する。そして、カソード110が加熱され高温になると、カソード110から熱電子が放出され、カソード110からの該熱電子がプレート120に入射されることになる。また、上述したヒーター20からの熱電子はカソード110に入射され、該熱電子の一部が、反射電子としてカソード110から放出されプレート120に入射される。また、ヒーター20からカソード110に熱電子が入射されると、カソード110から二次電子が放出され、該電子がプレート120に入射される。
【0024】
そして、このとき、図1(b)に示すように、カソード110とプレート120との間に電位を加えると、真空管の2極管特性が観測されることになる。
【0025】
図2は、本実施形態における一つの真空管100において、カソード110とプレート120との間に電位を加えたときの電流-電圧特性を示す図である。図2に示すように、電流-電圧特性は、電圧が0付近を境として非直線な挙動を示しており、真空管の2極管特性を表していることが判る。
【0026】
このように、本開示の真空管回路によれば、真空管群10が有する複数のカソード110に対して熱電子を入射させるとともに、真空管群10が有する複数のカソード110から熱電子を放出させるために該複数のカソード110を加熱するヒーター20によって、カソード110が加熱されることで放出される熱電子だけでなく、ヒーター20とカソード110の間に加えた電圧により加速されてカソード110に入射された熱電子に起因する反射電子や二次電子も、真空管を機能させる電子線の発生に用いることができる。これにより、カソードとヒーターとが対になった従来までの構造によらず真空管を構成することができ、真空管を複数用いて電子回路を構成し易くなる。つまり、従来までの構造に対してヒーターの数を減ずることで、電子回路を小型化することでき、また、ヒーターの寿命が電子回路の耐久性の懸念となる事態を抑制することができる。そして、このような真空管群10を用いた電子回路は、一般的な半導体素子を用いた場合と比べて放射線下で劣化し難いため、以て、放射線レベルが高い環境においても、安定的に且つ高い耐久性で使用することができる。
【0027】
更に、真空管群10に含まれる複数のカソード110に対して熱電子を入射可能な程度の大きさに形成される上記のヒーター20が、一つのヒーターハウジング21に包含されることで、カソード110やプレート120に対して大型のヒーター20とすることができ、以て、ヒーター20の耐久性を高めることができる。
【0028】
ここで、本実施形態の真空管回路1では、真空管100において、カソード110のプレート120側の端部に突起部111が設けられてもよい。
【0029】
そして、この突起部111は、上記の図1に示したように、カソード110の端部から延在する突起であって、プレート120に対向するように配置される。また、このような突起部111も、金属蒸着膜によって1μmオーダーで微小に形成され得る。
【0030】
ここで、図3は、突起部111の電子顕微鏡写真を例示する図である。図3に示すように、突起部111は、カソード110の端部から1μmオーダーで突起するように形成され、対向するプレート120との間に微小なギャップを形成する。
【0031】
そして、このような突起部111が設けられることによれば、該突起部111とプレート120との間の微小なギャップにおける電界強度を高めることができる。更に、このような突起部111は、カソード110によって加熱され易くなり、上記の電界強度に貢献する。
【0032】
また、上記の図1に示したように、プレート120は、絶縁カバー121によって被覆されてもよい。上述したように、本実施形態の真空管回路1では、ヒーターハウジング21が真空管群10の上方に配置される。そのため、ヒーター20からの熱電子が、カソード110を経由することなく直接プレート120にも入射される虞がある。そこで、ヒーター20からの熱電子のプレート120への入射を制限するために、絶縁カバー121によってプレート120の一部(例えば、カソード110側の端部以外の部分)を被覆することができる。これにより、プレート120へ入射する、ヒーター20からの熱電子の量を減じることができる。
【0033】
なお、ヒーター20からの熱電子のプレート120への入射を制限するための態様として、プレート120が、絶縁基板30に形成された溝の中に配置されてもよい。また、プレート120が、カソード110に対して小型に形成されてもよい。これらによっても、プレート120へ入射する、ヒーター20からの熱電子の量を減じることができる。
【0034】
以上に述べた真空管回路1によれば、放射線レベルが高い環境においても、電子回路を安定的に且つ高い耐久性で構成することができる。
【0035】
なお、本開示の真空管回路において、グリッドが設けられてもよい。そして、このようなグリッドが設けられた態様では、真空管の3極管特性が観測されることになる。
【0036】
ここで、図4は、本開示の真空管回路において、カソード110とプレート120との間にグリッド130が設けられた態様の電子顕微鏡写真を例示する図である。このような態様によれば、真空管の3極管動作が実現され得る。
【符号の説明】
【0037】
1・・・・・真空管回路
10・・・・真空管群
100・・・真空管
110・・・カソード
120・・・プレート
20・・・・ヒーター
21・・・・ヒーターハウジング
図1
図2
図3
図4