(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100322
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/88 20190101AFI20240719BHJP
B29C 48/305 20190101ALI20240719BHJP
B29C 48/08 20190101ALI20240719BHJP
B29K 67/00 20060101ALN20240719BHJP
B29L 7/00 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
B29C48/88
B29C48/305
B29C48/08
B29K67:00
B29L7:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004236
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤後 友輔
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AA24
4F207AG01
4F207AH81
4F207AJ03
4F207AJ08
4F207AR06
4F207AR13
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL84
4F207KM16
(57)【要約】
【課題】キャストロール上に溶融樹脂を押出すことによるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法であって、フィルムのヘイズ低減と、キャストロールからの剥離性を両立可能な製造方法の提供。
【解決手段】ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料を溶融し、キャストロール上に押出して成形する工程を含む、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法。前記キャストロールは、シリコーン系樹脂表面層を有し、前記シリコーン系樹脂表面層の表面粗さRaが0.5μm以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料を溶融し、キャストロール上に押出して成形する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法であって、
前記キャストロールは、シリコーン系樹脂表面層を有し、
前記シリコーン系樹脂表面層の表面粗さRaが0.5μm以下である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記シリコーン系樹脂表面層は、金属溶射層またはセラミックス溶射層の上に形成されている、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記金属溶射層またはセラミックス溶射層を構成する材料が、炭化タングステン、酸化クロム、及びグレイアルミナからなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記キャストロールの表面温度が、前記フィルム原料の結晶化温度以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
溶融した前記フィルム原料を、Tダイから前記キャストロール上に押出すことを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含む樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の一種であるポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂は、海水中で生分解が進行しうる材料として注目されている。
【0003】
このようなポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を主成分とする樹脂フィルムの開発が検討されており、例えば、特許文献1では、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)系樹脂から構成される樹脂フィルムを、Tダイ押出成形にて製造することが記載されている。
【0004】
Tダイ押出成形では、押出機内で樹脂材料を溶融した後、押出機の出口に接続されたTダイから、フィルム状の溶融樹脂をキャストロール上に押出して、その後、複数のロールによって搬送されることで樹脂フィルムが製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
Tダイ押出成形において、キャストロールは、溶融樹脂を成形しつつ冷却して樹脂の固化を進める機能を有する。
キャストロールの表面粗さが大きい場合、得られるフィルム表面にロールの表面粗さが転写することによって、フィルムの外部ヘイズが増加してしまう。そのため、低ヘイズのフィルムを得るには、表面粗さが低いキャストロールを用いることが望ましい。
そこで、本願発明者は、鋼から構成されるロール本体の表面に硬質クロムめっきを施工し、その表面粗さRaを0.5μm以下に加工したキャストロールを使用してTダイ押出成形を試みた。
【0007】
しかし、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は結晶化温度が低いため、溶融樹脂を冷却しても固化が進行しにくい。そのため、前述した構成を有するキャストロールに対して溶融樹脂が張り付きやすく、キャストロールから剥離しにくくなるという課題が発生した。
【0008】
本発明は、上記現状に鑑み、キャストロール上に溶融樹脂を押出すことによるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法であって、フィルムのヘイズ低減と、キャストロールからの剥離性を両立可能な製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、キャストロールの最表面にシリコーン系樹脂表面層を形成すると共に、当該樹脂層の表面粗さRaを0.5μm以下に制御することによって、フィルムのヘイズ低減と、キャストロールからの剥離性を両立できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料を溶融し、キャストロール上に押出して成形する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法であって、
前記キャストロールは、シリコーン系樹脂表面層を有し、
前記シリコーン系樹脂表面層の表面粗さRaが0.5μm以下である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、キャストロール上に溶融樹脂を押出すことによるポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法であって、フィルムのヘイズ低減と、キャストロールからの剥離性を両立可能な製造方法を提供することができる。
本発明によると、キャストロールからの樹脂材料の剥離性が良好であるため、連続的な樹脂フィルムの製造方法において線速を向上させることが可能となり、長尺のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムを生産性良く製造することができる。
本発明の好適な態様によると、キャストロールの耐久性が良好なものとなり、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法を長時間にわたって安定して実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る製造方法について説明する概略図
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0014】
本開示に係る樹脂フィルムの製造方法は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料を溶融し、その溶融原料を、キャストロール上に押出して成形する工程を含む。まず、樹脂フィルムに含まれる原材料について説明する。
【0015】
(ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂)
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂は、単独のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂であってもよいし、2種以上のポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の組合せであっても良い。前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂としては、例えば、海水分解性を有する3-ヒドロキシアルカノエート構造単位(モノマー単位)及び/又は4-ヒドロキシアルカノエート構造単位を有する重合体が挙げられる。特に、3-ヒドロキシアルカノエート構造単位を有するポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂、具体的には下記一般式(1)で示される構造単位を含む樹脂が好ましい。
[-CHR-CH2-CO-O-] (1)
【0016】
一般式(1)中、RはCpH2p+1で表されるアルキル基を示し、pは1~15の整数を示す。Rとしては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、メチルプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の直鎖または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。pとしては、1~10が好ましく、1~8がより好ましい。
【0017】
前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂としては、特に微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂が好ましい。微生物から産生されるポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂においては、3-ヒドロキシアルカノエート単位が、全て(R)-3-ヒドロキシアルカノエート単位として含有される。
【0018】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシアルカノエート単位(特に、一般式(1)で表される単位)を、全構成単位の50モル%以上含むことが好ましく、60モル%以上含むことがより好ましく、70モル%以上含むことが更に好ましい。ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、重合体の構成単位として、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位のみを含むものであってもよいし、1種又は2種以上の3-ヒドロキシアルカノエート単位に加えて、その他の単位(例えば、4-ヒドロキシアルカノエート単位等)を含むものであってもよい。
【0019】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート(以下、3HBと称する場合がある)単位を含む単独重合体又は共重合体であってよい。特に、3-ヒドロキシブチレート単位は、全て(R)-3-ヒドロキシブチレート単位であることが好ましい。また、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂は、3-ヒドロキシブチレート単位と他のヒドロキシアルカノエート単位との共重合体であることが好ましい。
【0020】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の具体例としては、例えば、ポリ(3-ヒドロキシブチレート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシプロピオネート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート)(略称:P3HB3HV)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシバレレート-3-ヒドロキシヘキサノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)(略称:P3HB3HH)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘプタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシオクタノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシノナノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシウンデカノエート)、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)(略称:P3HB4HB)等が挙げられる。特に、樹脂フィルムの機械特性や生産性等の観点から、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)又はポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-4-ヒドロキシブチレート)が好ましく、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)がより好ましい。
【0021】
樹脂フィルムの機械特性と生産性を両立する観点から、前記ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂は、構成モノマーの種類及び/又は構成モノマーの含有割合が互いに異なる少なくとも2種類のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂の混合物であってもよい。具体的には、少なくとも1種の高結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂と、少なくとも1種の低結晶性のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂の混合物であってもよい。
【0022】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂を構成する全モノマー単位に占める3-ヒドロキシブチレート単位および他のヒドロキシアルカノエート単位の平均含有比率は、樹脂フィルムの機械特性と生産性を両立する観点から、3-ヒドロキシブチレート単位/他のヒドロキシアルカノエート単位=99/1~80/20(モル%/モル%)が好ましく、97/3~85/15(モル%/モル%)がより好ましい。
【0023】
ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂を構成する全モノマー単位に占める各モノマー単位の平均含有比率は、当業者に公知の方法、例えば国際公開2013/147139号の段落[0047]に記載の方法により求めることができる。平均含有比率とは、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂全体において全モノマー単位に占める各モノマー単位のモル割合を意味する。ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂が2種以上のポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)樹脂の混合物である場合、当該混合物全体に含まれる各モノマー単位のモル割合を意味する。
【0024】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の重量平均分子量は、特に限定されないが、樹脂フィルムの機械特性と生産性を両立する観点から、5万~300万が好ましく、10万~100万がより好ましく、12万~70万が更に好ましい。
【0025】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の重量平均分子量は、クロロホルム溶液を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(昭和電工製Shodex GPC-101)を用い、ポリスチレン換算により測定することができる。該ゲルパーミエーションクロマトグラフィーにおけるカラムとしては、重量平均分子量を測定するのに適切なカラムを使用すればよい。
【0026】
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の製造方法は特に限定されず、化学合成による製造方法であってもよいし、微生物による製造方法であってもよい。中でも、微生物による製造方法が好ましい。微生物による製造方法については、公知の方法を適用できる。例えば、3-ヒドロキシブチレートと、その他のヒドロキシアルカノエートとのコポリマー生産菌としては、P3HB3HVおよびP3HB3HH生産菌であるアエロモナス・キヤビエ(Aeromonas caviae)、P3HB4HB生産菌であるアルカリゲネス・ユートロファス(Alcaligenes eutrophus)等が知られている。特に、P3HB3HHに関し、P3HB3HHの生産性を上げるために、P3HA合成酵素群の遺伝子を導入したアルカリゲネス・ユートロファス AC32株(Alcaligenes eutrophus AC32,FERM BP-6038)(T.Fukui,Y.Doi,J.Bateriol.,179,p4821-4830(1997))等がより好ましく、これらの微生物を適切な条件で培養して菌体内にP3HB3HHを蓄積させた微生物菌体が用いられる。また前記以外にも、生産したいポリヒドロキシアルカノエート系樹脂に合わせて、各種ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂合成関連遺伝子を導入した遺伝子組み換え微生物を用いても良いし、基質の種類を含む培養条件の最適化をすればよい。
【0027】
(他の樹脂)
前記樹脂フィルムには、発明の効果を損なわない範囲で、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂以外の他の樹脂が含まれていてもよい。そのような他の樹脂としては、例えば、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンサクシネート、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸などの脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペートテレフタレート、ポリブチレンセバテートテレフタレート、ポリブチレンアゼレートテレフタレートなどの脂肪族芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。他の樹脂としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。
【0028】
前記他の樹脂の含有量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂100重量部に対して、例えば、100重量部以下であってよく、50重量部以下であることが好ましい。30重量部以下であってもよいし、10重量部以下であってもよいし、5重量部以下であってもよいし、1重量部以下であってもよい。他の樹脂の含有量の下限は特に限定されず、0重量部以上であって良い。
【0029】
前記樹脂フィルムは、発明の効果を阻害しない範囲で、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂と共に使用可能な添加剤を含んでもよい。そのような添加剤としては顔料、染料などの着色剤、活性炭、ゼオライト等の臭気吸収剤、バニリン、デキストリン等の香料、充填材、可塑剤、酸化防止剤、抗酸化剤、耐候性改良剤、紫外線吸収剤、結晶核剤、滑剤、離型剤、撥水剤、抗菌剤、摺動性改良剤等が挙げられる。添加剤としては1種のみが含まれていてもよいし、2種以上が含まれていてもよい。これら添加剤の含有量は、その使用目的に応じて当業者が適宜設定可能である。
以下、結晶核剤、滑剤、充填材、及び可塑剤について、さらに詳しく説明する。
【0030】
(結晶核剤)
前記樹脂フィルムは、結晶核剤も含んでもよい。結晶核剤としては、例えば、ペンタエリスリトール、ガラクチトール、マンニトール等の多価アルコール;オロチン酸、アスパルテーム、シアヌル酸、グリシン、フェニルホスホン酸亜鉛、窒化ホウ素等が挙げられる。中でも、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の結晶化を促進する効果が特に優れている点で、ペンタエリスリトールが好ましい。結晶核剤は、1種を使用してよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
結晶核剤の使用量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂100重量部に対して、0.1~5重量部が好ましく、0.5~3重量部がより好ましく、0.7~1.5重量部がさらに好ましい。
【0031】
(滑剤)
前記樹脂フィルムは、滑剤も含んでもよい。滑剤としては、例えば、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、N-ステアリルベヘン酸アミド、N-ステアリルエルカ酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスラウリル酸アミド、エチレンビスカプリン酸アミド、p-フェニレンビスステアリン酸アミド、エチレンジアミンとステアリン酸とセバシン酸の重縮合物等が挙げられる。中でも、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂への滑剤効果が特に優れている点で、ベヘン酸アミド又はエルカ酸アミドが好ましい。滑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
滑剤の使用量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂100重量部に対して、0.01~5重量部が好ましく、0.05~3重量部がより好ましく、0.1~1.5重量部がさらに好ましい。
【0032】
(充填材)
前記樹脂フィルムは、充填材を含有してもよい。充填材を含むことで、より高強度の樹脂フィルムとすることができる。前記充填材としては、無機充填材と有機充填材いずれでもあってよく、両者を併用してもよい。無機充填材としては特に限定されないが、例えば、珪酸塩、炭酸塩、硫酸塩、燐酸塩、酸化物、水酸化物、窒化物、カーボンブラック等が挙げられる。無機充填材は1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0033】
前記充填材の含有量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂100重量部に対して、例えば、1~100重量部程度であってよく、3~80重量部程度であることが好ましい。しかし、前記樹脂フィルムは、充填材を含有しなくともよい。
【0034】
(可塑剤)
前記樹脂フィルムは、可塑剤を含んでもよい。可塑剤としては、例えば、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、アジピン酸エステル系化合物、ポリエーテルエステル系化合物、安息香酸エステル系化合物、フタル酸エステル系化合物、イソソルバイドエステル系化合物、ポリカプロラクトン系化合物、二塩基酸エステル系化合物等が挙げられる。中でも、ポリ(3-ヒドロキシアルカノエート)系樹脂への可塑化効果が特に優れている点で、グリセリンエステル系化合物、クエン酸エステル系化合物、セバシン酸エステル系化合物、二塩基酸エステル系化合物が好ましい。グリセリンエステル系化合物としては、例えば、グリセリンジアセトモノラウレート等が挙げられる。クエン酸エステル系化合物としては、例えば、アセチルクエン酸トリブチル等が挙げられる。セバシン酸エステル系化合物としては、例えば、セバシン酸ジブチル等が挙げられる。二塩基酸エステル系化合物としては、例えば、ベンジルメチルジエチレングリコールアジペート等が挙げられる。可塑剤は、1種を使用してもよいし、2種以上使用してもよく、目的に応じて、使用比率を適宜調整することができる。
【0035】
可塑剤の含有量は、特に限定されないが、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂100重量部に対して、例えば、1~20重量部程度であってよく、2~15重量部程度であることが好ましい。しかし、前記樹脂フィルムは、可塑剤を含有しなくともよい。
【0036】
次に、本開示に係る樹脂フィルムの製造方法について説明する。
本開示に係る樹脂フィルムの製造方法は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料を溶融し、キャストロール上に押出して成形する工程を、少なくとも含む。
【0037】
フィルム原料を溶融させる際の条件は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が溶融する条件であればよいが、溶融したフィルム原料の温度を、例えば140~210℃程度とすればよい。
【0038】
前記成形工程は特に限定されないが、溶融したフィルム原料をTダイから押出すこと、即ちTダイ押出成形法により実施することが好ましい。Tダイ押出成形法によると、薄膜で、厚みが均一な樹脂フィルムを連続的に製造することができる。押出成形では、一軸押出機、二軸押出機などを適宜使用することができる。
【0039】
溶融したフィルム原料を、Tダイ等の吐出口から、キャストロール上に押出すことにより成形する。フィルム原料の溶融物は、キャストロールに接触して、キャストロールの表面に沿って移動しつつ、冷却される。これにより、前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の一部を結晶化させることが好ましい。
【0040】
前記キャストロールは、回転可能に構成された円筒状の部材であって、押出機から押出された固化していない溶融原料が最初に接触するロールである。前記キャストロールは、表面の温度を設定可能に構成されていることが好ましい。
【0041】
当該工程においては、前記キャストロールにタッチロールを対向させて、キャストロール上に押出された溶融物をタッチロールで挟み込んでもよい。しかし、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含む樹脂材料をキャストロールから容易に剥離できるよう、タッチロールを使用しないことが好ましい。
【0042】
また、溶融物をキャストロールへ安定的に接触させるために、エアナイフ、エアチャンバー、又は静電ピニングを用いてもよい。キャストロールとの接触面の反対側も効率的に冷却するために、キャストロールを水槽内に設置したり、エアチャンバーを用いてもよい。
【0043】
キャストロールの表面温度は適宜設定することができるが、キャストロールとの接触によってポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の結晶化を進めることができるよう、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料の結晶化温度以下であることが好ましい。具体的には、例えば、60℃以下であることが好ましく、40℃以下がより好ましく、30℃以下がさらに好ましい。更には、キャストロールの表面温度は、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料のガラス転移温度以下であることが特に好ましい。また、キャストロールの表面温度の下限は特に限定されないが、例えば、-30℃以上であることが好ましい。
前記結晶化温度とは、測定対象の樹脂含有原料をDSC測定で180℃まで昇温した後、10℃/minの速度で降温する時に現れる発熱ピークの頂点と定義する。
【0044】
本開示に係る製造方法では、前記キャストロールが、シリコーン系樹脂表面層を有する。キャストロールの最表面にシリコーン系樹脂層を有することによって、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含む樹脂材料の、キャストロールからの剥離性を改善することができる。
これに対し、キャストロールの最表面が金属やフッ素樹脂から構成されていると、前記樹脂材料がキャストロールから剥離しにくく、樹脂フィルムの生産性が低下する傾向がある。
【0045】
前記シリコーン系樹脂表面層を形成するために使用可能なシリコーン系樹脂として特に限定されないが、ポリジアルキルシロキサンや、該ポリジアルキルシロキサンにおけるアルキル基の少なくとも1つが、水素原子、炭素数1~6のアルコキシ基、炭素数6~10のアリール基、ビニル基等で置換されたシリコーン系樹脂等が挙げられる。
【0046】
シリコーン系樹脂の具体例としては、ポリジメチルシロキサン、ポリメチルフェニルシロキサン、ポリメチルハイドロジェンシロキサン、ポリメチルメトキシシロキサン、ポリメチルビニルシロキサンが挙げられる。シリコーン系樹脂としては1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
剥離性がより良好となるため、アルキル基が置換されていないポリジアルキルシロキサンが好ましく、ポリジメチルシロキサンが特に好ましい。
【0047】
前記シリコーン系樹脂表面層は、前記シリコーン系樹脂のみから構成されてもよいが、前記シリコーン系樹脂に加えて無機粒子を含んでもよい。無機粒子としては、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、酸化亜鉛、炭化ケイ素、窒素化ケイ素、酸化鉄等が挙げられる。無機粒子を使用する場合、その含有量は、シリコーン系樹脂表面層の10重量%以下であることが好ましく、7重量%以下がより好ましい。
【0048】
前記シリコーン系樹脂表面層は、前記シリコーン系樹脂及び任意の無機粒子以外にも、流動助剤、顔料、帯電助剤、脱ガス剤、増粘剤、沈降防止剤、タレ防止剤、分散剤、消泡剤、界面活性剤等を、発明の効果を奏する範囲内で適宜含んでもよい。
【0049】
前記シリコーン系樹脂表面層を形成する方法は特に限定されず、公知の手法を用いてロール表面に形成すればよいが、適切な溶媒にシリコーン系樹脂を溶解又は分散させて得たコーティング液をロール表面にコーティングすることが好ましい。
【0050】
前記コーティングは公知の機器を使用して実施することができ、例えばエアースプレーを用いてコーティングすることが可能である。コーティング後は、適宜乾燥させることが好ましい。また、焼成することによりシリコーン系樹脂を熱硬化させてより均一な樹脂層を形成してもよい。
【0051】
前記シリコーン系樹脂表面層の厚みは特に限定されないが、一例として、5μm~50μm程度であってもよい。
【0052】
本開示に係る製造方法では、シリコーン系樹脂表面層の表面粗さRaを、0.5μm以下に設定したキャストロールを使用する。これによって、低ヘイズのフィルムを製造することができる。
【0053】
前記表面粗さRaとは、算術平均粗さであり、JIS B0601(1982)に規定されている方法に従って測定することができる。
【0054】
前記表面粗さRaは、よりヘイズ値が低いフィルムを製造できるため、0.3μm以下であることが好ましく、0.2μm以下がより好ましく、0.1μm以下がさらに好ましい。
【0055】
前記表面粗さRaの下限は特に限定されず、例えば、0.01μm以上であってよいが、キャストロールからの樹脂材料の剥離性を改善し、フィルムの生産性を向上させるため、0.03μm以上であることが好ましく、0.05μm以上がより好ましく、0.07μm以上がさらに好ましい。
【0056】
シリコーン系樹脂表面層の表面粗さRaは、シリコーン系樹脂表面層の直下の層の表面粗さを予め低減しておくことや、シリコーン系樹脂表面層を形成した後にその表面を研磨することなどで、所定の値以下に制御することができる。
【0057】
前記シリコーン系樹脂表面層は、ロール本体の上に直接形成されてもよいが、金属溶射層またはセラミックス溶射層の直上に形成されていることが好ましい。シリコーン系樹脂表面層の直下に金属溶射層またはセラミックス溶射層を設けることで、シリコーン系樹脂表面層の付着強度が改善され、キャストロールの耐久性を高めることができる。そのため、成膜を長時間実施してもシリコーン系樹脂表面層が剥がれにくく、安定的に連続成膜を実施することができる。
【0058】
溶射とは、溶射材を加熱することで溶融またはそれに近い状態にした液滴または微粒子を、基材表面に高速で吹き付けて皮膜を形成する表面処理法のことをいう。
【0059】
前記溶射層を構成する材料としては金属またはセラミックスを使用できる。
前記金属としては、溶射が可能な金属であれば特に限定されないが、例えば、亜鉛、アルミニウム、ニッケル、銅、スズ、チタン、モリブデン、コバルト等の純金属や、前記金属にクロム、鉄、ホウ素、ケイ素、炭素を組み合わせた合金が挙げられる。
【0060】
前記セラミックスとしては、溶射が可能なセラミックスであれば特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化チタン、スピネル等が挙げられる。
【0061】
溶射層を構成する材料としては、耐摩耗性に優れていることから、炭化タングステン、酸化クロム、又はグレイアルミナが特に好ましい。
【0062】
溶射層の厚みは特に限定されず、使用する材料に応じて適宜設定することが可能であるが、例えば、セラミックス系の溶射材を用いる場合には0.3mm~0.5mm程度、炭化タングステンを用いる場合には0.1mm~0.2mm程度が適当である。
【0063】
また、溶射層の表面は、上述したシリコーン系樹脂表面層の表面粗さを達成できるよう、シリコーン系樹脂表面層を形成する前に、あらかじめ研磨しておいてもよい。
【0064】
前記溶射層は、ロール本体の表面に直接形成されていてもよいし、前記ロール本体の上に、クロムめっき(特に硬質クロムメッキ)やニッケルめっき等のめっきを施し、そのめっき表面に形成されてもよい。
【0065】
キャストロールのロール本体の材質は特に限定されず、例えば、一般鋼、特殊鋼、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属や、樹脂、炭素材、セラミックス等であってよい。
【0066】
図1に基づいて、本開示に係る樹脂フィルムの製造方法の一実施形態を説明する。
まず、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料を押出機中で溶融する。押出機の出口には、Tダイ(11)が下方に向けて接続されている。該Tダイ(11)からフィルム状の溶融樹脂(12)が下方に、連続的に押出される。
【0067】
Tダイ(11)の直下にはキャストロール(13)が配置されている。Tダイ(11)から押出されたフィルム状の溶融樹脂(12)は、その片面がキャストロール(13)に接触しながら搬送される。溶融樹脂(12)がキャストロール(13)に接触することで、樹脂が成形されつつ、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂の結晶化が進行して、樹脂フィルムに変換することができる。
【0068】
得られた樹脂フィルムは、必要に応じて、キャストロール(13)後に設置された単数又は複数のロールによって搬送されつつ、更に冷却してもよい。形成された長尺の樹脂フィルムを、巻取りロールを中心に巻き取りつつ製造することもできる。
以上によって、押出機とキャストロールを用いて、長尺で帯状の樹脂フィルムを連続的に製造することができる。
【0069】
また、本開示に係る樹脂フィルムの製造方法は、形成された樹脂フィルムを、フィルムの流れ方向(MD方向)、及び/又は、幅方向(TD方向)に延伸する工程を含んでも良い。当該延伸工程は、キャストロールを用いた製膜工程と連続的に実施することができる。
【0070】
製造された樹脂フィルムの厚みは特に限定されず、当該樹脂フィルムの使用目的に応じて、また、延伸工程を実施する場合には目的の延伸後の厚みや、延伸倍率、強度等を考慮して、適宜設定することができる。具体的には、(延伸されていない)樹脂フィルムの厚みは、例えば、1~1,000μmであることが好ましく、10~750μmがより好ましく、20~300μmがさらに好ましい。
【0071】
延伸後の樹脂フィルムの厚みも適宜設定可能であるが、該フィルムの均一な肉厚、外観、強度、軽量性等の観点から、10~200μmであることが好ましく、15~150μmがより好ましく、20~100μmがさらに好ましい。
【0072】
製造された樹脂フィルム(延伸フィルムを含む。以下同じ)の長さは特に限定されないが、例えば、1m以上であって良い。また、10m以上であってもよいし、100m以上であってもよい。長さの上限についても特に限定されないが、例えば、5000m以下であって良い。また、3000m以下であってもよい。
【0073】
製造された樹脂フィルムの幅は特に限定されないが、例えば、10mm以上であって良い。また、100mm以上であってもよい。幅の上限についても特に限定されないが、例えば、5000mm以下であって良い。また、3000mm以下であってもよい。
【0074】
製造された樹脂フィルムの用途は特に限定されず、容器や包装材として使用することができ、具体的には、包装用フィルム、ヒートシール性フィルム、ツイストフィルム等として好適に用いることができる。
【0075】
以下の各項目では、本開示における好ましい態様を列挙するが、本発明は以下の項目に限定されるものではない。
[項目1]
ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂を含むフィルム原料を溶融し、キャストロール上に押出して成形する工程、を含む、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法であって、
前記キャストロールは、シリコーン系樹脂表面層を有し、
前記シリコーン系樹脂表面層の表面粗さRaが0.5μm以下である、ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂フィルムの製造方法。
[項目2]
前記シリコーン系樹脂表面層は、金属溶射層またはセラミックス溶射層の上に形成されている、項目1に記載の製造方法。
[項目3]
前記金属溶射層またはセラミックス溶射層を構成する材料が、炭化タングステン、酸化クロム、及びグレイアルミナからなる群より選択される少なくとも1種である、項目2に記載の製造方法。
[項目4]
前記ポリヒドロキシアルカノエート系樹脂が、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)を含む、項目1~3のいずれか1項に記載の製造方法。
[項目5]
前記キャストロールの表面温度が、前記フィルム原料の結晶化温度以下である、項目1~4のいずれか1項に記載の製造方法。
[項目6]
溶融した前記フィルム原料を、Tダイから前記キャストロール上に押出すことを含む、項目1~5のいずれか1項に記載の製造方法。
【実施例0076】
以下に実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例
に何ら限定されるものではない。
【0077】
(表面粗さRaの測定方法)
表面粗さRaは、JIS B0601(1982)に規定されている方法に従って測定した。
【0078】
(実施例1)
SUS製の基材又はキャストロールの表面に、シリコーン系樹脂表面層を形成した後、研磨してその表面粗さRaを0.1μmに調節したものについて評価した。樹脂表面層を形成するのに使用した材料の入手先、及び名称を表1に記載した。
【0079】
(実施例2)
SUS製の基材又はキャストロールの表面にクロムめっきを施した後、さらに実施例1と同じシリコーン系樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを0.03μmに調節したものについて評価した。
【0080】
(実施例3)
SUS製の基材又はキャストロールの表面に、炭化タングステンの溶射層を形成した。その後、実施例1と同じシリコーン系樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを0.03μmに調節したものについて評価した。
【0081】
(実施例4)
SUS製の基材又はキャストロールの表面に、酸化クロムの溶射層を形成した。その後、実施例1と同じシリコーン系樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを0.03μmに調節したものについて評価した。
【0082】
(実施例5)
SUS製の基材又はキャストロールの表面にクロムめっきを施した後、酸化クロムの溶射層(厚み150~200μm)を形成した。その後、シリコーン系樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを0.1μmに調節したものについて評価した。
【0083】
(比較例1)
SUS製の基材又はキャストロールの表面にクロムめっきを施し、研磨してその表面粗さRaを0.1μmに調節したものについて評価した。
【0084】
(比較例2又は3)
SUS製の基材又はキャストロールの表面にクロムめっきを施した後、フッ素樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを0.03μm又は0.15μmに調節したものについて評価した。
【0085】
(比較例4又は5)
SUS製の基材又はキャストロールの表面にニッケルめっきを施した後、フッ素樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを0.08μm又は0.14μmに調節したものについて評価した。
【0086】
(参考例1)
SUS製の基材又はキャストロールの表面に、フッ素表面層を形成した後、研磨してその表面粗さRaを0.52μmに調節したものについて評価した。
【0087】
(参考例2)
SUS製の基材又はキャストロールの表面にクロムめっきを施した後、さらにシリコーン系樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを0.8μmに調節したものについて評価した。
【0088】
(参考例3)
SUS製の基材又はキャストロールの表面に、実施例4と同様に酸化クロムの溶射層を形成した。その後、シリコーン系樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを0.9μmに調節したものについて評価した。
【0089】
(参考例4)
SUS製の基材又はキャストロールの表面に、グレイアルミナの溶射層を形成した。その後、シリコーン系樹脂表面層を形成し、研磨してその表面粗さRaを1.2μmに調節したものについて評価した。
【0090】
(樹脂ペレット1)
樹脂ペレット1は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)100重量部に対して、滑剤としてベヘン酸アミド(日本精化社製:BNT-22H)0.5重量部、及びエルカ酸アミド0.5重量部、結晶核剤としてペンタエリスリトール1.0重量部を含むペレットである。樹脂ペレット1の結晶化温度Tcは、98℃である。
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は、平均含有比率3HB/3HH=94/6(モル%/モル%)、重量平均分子量が60万g/molであり、国際公開第2019/142845号の実施例1に記載の方法に準じて製造した。
【0091】
(樹脂ペレット2)
樹脂ペレット2は、ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)100重量部に対して、滑剤としてベヘン酸アミド(日本精化社製:BNT-22H)0.5重量部、及びエルカ酸アミド0.5重量部を含むペレットである。樹脂ペレット2の結晶化温度Tcは、65℃である。
前記ポリ(3-ヒドロキシブチレート-コ-3-ヒドロキシヘキサノエート)は、平均含有比率3HB/3HH=94/6(モル%/モル%)、重量平均分子量が60万g/molであり、国際公開第2019/142845号の実施例1に記載の方法に準じて製造した。
【0092】
(剥離性評価)
単軸押出機に樹脂ペレット1を投入して溶融させ、樹脂温度165℃の溶融樹脂を、単軸押出機の出口に接続されたT型ダイスから、ロール温度を20℃に設定したキャストロール上に吐出した。溶融樹脂がキャストロールに接する時に、ロールの反対側から、表1に示す表面処理を施工したテストピースを溶融樹脂に接触させて、テストピースに溶融樹脂が付着する程度に応じて剥離性を評価した。具体的には以下に示す基準で評価を行った。結果を表1に示す。
この時の成膜条件は、ライン速度1m/min、フィルム幅300mm、吐出量7kg/hであった。
前記テストピースは、50mm×50mm×2mmのSUS304製の基材表面に、表1に示す表面処理を施工したものである。
尚、本評価方法では、キャストロール自体には所定の表面処理を施工していない。代わりに、各表面処理を施工したテストピースを溶融樹脂に接触させて、該テストピースからの溶融樹脂の剥離のし易さを試験することで、各表面処理の剥離性を評価するものである。
【0093】
<剥離性の評価基準>
×:溶融樹脂がテストピースに付着して溶融樹脂を手繰り寄せられた
〇:溶融樹脂を手繰り寄せられないが、溶融樹脂にタック性はあった
◎:溶融樹脂を手繰り寄せられず、タック性もなかった
【0094】
(ヘイズ値の評価)
スガ試験機株式会社製ヘーズメーター「HZ-V3」を用い、厚さ270μmのフィルム試料を試験片ホルダーに取り付け、光学条件はダブルビーム方式を選択し、全光線透過率[Tt(%)]、及び、拡散透過率[Td(%)]を測定し、以下の式によりヘイズを算出した。
ヘイズ(%)=[Td/Tt]×100
【0095】
(成膜時の線速の評価)
単軸押出機に樹脂ペレット2を投入して溶融させ、樹脂温度165℃の溶融樹脂を、単軸押出機の出口に接続されたT型ダイスから、ロール温度を20℃に設定したキャストロール上に吐出し、フィルム幅300mm、吐出量7kg/hで成膜を行った。
前記キャストロールは、SUS製のロール本体に対し、表1に示す表面処理を施工したものである。
前記成膜は、線速1m/minで開始し、1m/minずつ線速を速くして実施した。その際、各線速毎に、キャストロールへの樹脂の張り付きの有無を確認し、樹脂がキャストロールに張り付かず支障なく剥がれる場合の最大の線速を決定した。その最大線速で製膜している時の、キャストロールと樹脂の接触時間を算出して、表1に記載した。
当該接触時間が短くなるほど、樹脂フィルムの生産性が高いことを意味する。
【0096】
(耐久性評価)
単軸押出機に樹脂ペレット2を投入して溶融させ、樹脂温度165℃の溶融樹脂を、単軸押出機の出口に接続されたT型ダイスから、ロール温度を20℃に設定したキャストロール上に吐出した。その際、キャストロールに溶融樹脂が接する時に、エアナイフから空気を吹き付けて、キャストロールに樹脂を押し付けつつ、フィルム幅300mm、吐出量7kg/hで成膜を行った。
前記キャストロールは、SUS製のロール本体に対し、表1に示す表面処理を施工したものである。
当該成膜を6時間以上継続した。この時、成膜開始時点と、成膜開始から6時間経過した時点それぞれで、上述した線速評価を実施した。その線速評価の結果に基づいて、キャストロールの耐久性を評価した。
【0097】
<耐久性の評価基準>
×:6時間経過後の線速評価が、製膜開始時点の線速評価よりも低下した
〇:6時間経過後の線速評価は、製膜開始時点の線速評価と差がなかった
【0098】
【0099】
表1より以下のことが分かる。
実施例5および比較例1はいずれも、キャストロールの表面粗さRaが0.5μm以下であったため、低ヘイズのフィルムが得られた。実施例1~4や比較例2~5でも、実施例5および比較例1と同程度の表面粗さRaを有するキャストロールを使用したため、同様に低ヘイズのフィルムが得られると考えられる。
しかし、シリコーン系樹脂表面層を有する実施例1~5では剥離性も良好であったのに対し、シリコーン系樹脂表面層を有していない比較例1や、シリコーン系樹脂ではなくフッ素樹脂表面層を有する比較例2~5では、剥離性が不十分であった。
【0100】
一方、参考例4は、表面粗さRaが0.5μmを超えるキャストロールを使用したため、フィルムのヘイズ値が実施例5および比較例1と比較して高くなった。参考例1~3でも同様に、得られるフィルムのヘイズ値は高くなると考えられる。
【0101】
また、フッ素樹脂を用いた比較例2~5と参考例1を比較すると、表面粗さRaが0.5μm以下になることで剥離性が悪化することが分かる。これに対し、シリコーン系樹脂を用いた実施例1~5と参考例2を比較すると、表面粗さRaが0.5μm以下になっても剥離性は低下していない。以上のことから、表面粗さRaが0.5μm以下であって且つ良好な剥離性を示すという効果は、フッ素樹脂表面層にはない、シリコーン系樹脂表面層に特有の効果であることが分かる。
【0102】
実施例5は、シリコーン系樹脂表面層を持たない比較例1よりも最大線速時のロール接触時間が短くなっており、シリコーン系樹脂表面層の存在によって生産性が高くなっていることが分かる。
【0103】
さらに、シリコーン系樹脂表面層の下に溶射層を形成した実施例5は、溶射層を形成していない実施例2と比較して、キャストロールの耐久性が良好であり、長時間にわたって安定して製膜できることが分かる。
尚、実施例3及び4は溶射層を有するため、これら実施例における耐久性は、実施例5の耐久性と同等に良好であると推測される。