IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 小林 博の特許一覧

特開2024-100337カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムの作成方法
<>
  • 特開-カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムの作成方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100337
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムの作成方法
(51)【国際特許分類】
   C09C 1/48 20060101AFI20240719BHJP
   C01B 32/05 20170101ALI20240719BHJP
【FI】
C09C1/48
C01B32/05
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004270
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】512150358
【氏名又は名称】小林 博
(72)【発明者】
【氏名】小林 博
【テーマコード(参考)】
4G146
4J037
【Fターム(参考)】
4G146AA01
4G146AC02B
4G146AC07B
4G146AC09B
4G146AC20B
4G146AC22B
4G146AC28B
4J037AA02
4J037EE28
4J037EE29
4J037EE47
4J037FF05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】カーボンブラックのアグリゲートの集まりで、シートないしはフィルムを作成する方法、さらに、合成樹脂のシートないしはフィルムより高い機械的強度を有し、任意の大きさと形状と厚みからなるシートないしはフィルムを作成する方法を見出す。
【解決手段】メタノールに浸漬したカーボンブラックを限界の大きさに粉砕する。さらに、ホモジナイザー装置によって衝撃を繰り返し加え、粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させる。このアグリゲートの集まりを容器に充填し、アグリゲートの集まりからメタノールを気化し、切断されたアグリゲートが、重なり合って高い集積度で空隙を埋め尽くして析出し、切断されたアグリゲートの集まりの表面全体を均等に圧縮し、切断された全てのアグリゲート同士が、高い密度で摩擦圧接によって接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを、容器の底面に形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムの作成方法は、
カーボンブラックの集まりと、該カーボンブラックの集まりの重量より多い重量からなるメタノールを第一の容器に投入し、該メタノールを攪拌し、前記カーボンブラックの集まりが前記メタノール中に浸漬した第一の懸濁液を作成する、この後、該第一の懸濁液の表面全体を覆う第一の板材を、該第一の懸濁液の上に被せる、さらに、該第一の板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記メタノールに浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する、さらに、前記第一の板材を前記第一の懸濁液から引き上げ、前記第一の容器を加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働し、前記第一の容器に、前後、左右、上下の3方向の加速度を繰り返し加え、前記メタノール中に粉砕したカーボンブラックの集まりを再配列させる、この後、前記第一の板材を前記第一の懸濁液に再度被せ、該第一の板材の表面全体に前記圧縮荷重を再度均一に加え、前記メタノール中に浸漬したカーボンブラックの集まりの粉砕をさらに進める、さらに、前記第一の板材を前記第一の懸濁液から再度引き上げ、前記第一の容器に前記3方向の加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記第一の板材に前記圧縮荷重を加えた際に、該第一の板材に反発力が発生した時点で、前記メタノール中に浸漬したカーボンブラックの集まりにおける粉砕が完了したと判断し、前記一対の処理を停止する、この後、前記第一の板材を前記第一の容器から取り出す第一の工程と、
前記第一の容器内にホモジナイザー装置を配置させ、該ホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して、前記粉砕されたカーボンブラックの集まりに衝撃を繰り返し加え、該粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、前記メタノールを介して前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる第二の懸濁液を作成する第二の工程と、
作成するシートないしは作成するフィルムの大きさからなる底面を有する第二の容器に、前記第二の懸濁液の一部を、作成するシートないしは作成するフィルムの大きさと厚みとに応じた量として充填し、さらに、該充填した第二の懸濁液の重量より多い重量からなるメタノールを第二の容器に投入し、該メタノールを攪拌する、この後、該第二の容器を、第一の工程で用いた加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働させ、該第二の容器に、第一の工程で加えた同じ大きさからなる3方向の加速度を繰り返し加え、前記メタノールを介して前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりを、前記メタノール中に再配列させる、この後、前記メタノール中に分散したアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりの表面全体を覆う第二の板材を、該アグリゲートの集まりの表面の上に被せる、さらに、第二の容器を熱処理装置に移動させ、前記第二の板材の表面全体に、第一の工程で加えた圧縮荷重より大きな圧縮荷重を均一に加えながら、前記第二の容器をメタノールの沸点に昇温させ、前記メタノール中に分散したアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりから前記メタノールを気化させる、これによって、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりが、重なり合って積層し、さらに、該アグリゲートの集まりの全体が均等に圧縮され、アグリゲート同士が摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが、前記第二の容器の底面の形状として作成される第三の工程と、
前記第二の容器から前記第二の板材を取り出し、さらに、該第二の容器の底面の複数個所に、第一の工程で加えた加速度より大きな加速度からなる衝撃加速度を上下方向に同時に加え、前記シートないしは前記フィルムを前記第二の容器の底面から引き剥がし、該シートないしは該フィルムを前記第二の容器から取り出す第四の工程からなり、
前記した4つの工程を連続して実施する方法が、カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法である。
【請求項2】
請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが、アセチレンブラックからなるアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムであり、該アセチレンブラックからなるアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルム作成する方法は、請求項1に記載したカーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、請求項1に記載したアグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法に従って、アセチレンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法である。
【請求項3】
請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが、ケッチェンブラックからなるアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムであり、該ケッチェンブラックからなるアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルム作成する方法は、請求項1に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、請求項1に記載したアグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法に従って、ケッチェンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法である。
【請求項4】
請求項1に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを用いて、基材ないしは部品に前記シートないしは前記フィルムを接合する方法は、
請求項1に記載した方法で形成したシートないしはフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置し、該シートないしは該フィルムの表面の全体に圧縮荷重を均等に加え、該シートないしは該フィルムを圧縮し、該シートの裏面ないしは該フィルムの裏面が、前記基材ないしは前記部品と接触する部位に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって、前記シートないしは前記フィルムを、前記基材ないしは前記部品に接合させる方法であり、
ないしは、
請求項1に記載した方法で形成したシートないしはフィルムを所定の形状に切断し、該切断したシートないしは該切断したフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置し、該切断したシートないしは該切断したフィルムの表面の全体に圧縮荷重を均等に加え、該切断したシートないしは該切断したフィルムを圧縮し、該切断したシートの裏面ないしは該切断したフィルムの裏面が、前記基材ないしは前記部品と接触する部位に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって、前記切断したシートないしは前記切断したフィルムを、前記基材ないしは前記部品に接合させる方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦圧接でアグリゲート同士を接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを形成する方法に関わる。すなわち、メタノールに浸漬したカーボンブラックの集まりを圧縮し、粉砕したカーボンブラックの集まりに3方向の加速度を加え、粉砕したカーボンブラックの集まりを再配列させる。この圧縮応力を加える処理と3方向の加速度を加える処理とを繰り返し、カーボンブラックを限界の大きさに粉砕し、これによって、カーボンブラックを構成するアグリゲートが微細の長さに切断される。さらに、ホモジナイザー装置によって、粉砕したカーボンブラックに衝撃を繰り返し加え、粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、メタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりを作成する。このアグリゲートの集まりを容器に充填し、アグリゲートの集まりからメタノールを気化し、切断されたアグリゲートが、重なり合って高い集積度で空隙を埋め尽くして析出し、該切断されたアグリゲートの集まりの表面全体を均等に圧縮し、切断された全てのアグリゲート同士が、高い密度で摩擦圧接によって接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを、容器の底面に形成する。この後、容器の底面からシートないしはフィルムを引き剥がし、シートないしはフィルムを取り出す。
なお、カーボンブラックの全光線透過率が0%と小さく、シートないしはフィルムは優れた遮光性を持つ。従って、シートないしはフィルムに、紫外線が連続して照射しても、シートないしはフィルムは劣化しない。また、カーボンブラックは、黒体の熱放射との比率である熱放射率が0.95-0.97と高く、シートないしはフィルムは、放熱シートないしは放熱フィルムとして作用する。さらに、カーボンブラックの比抵抗は、金属の比抵抗より6桁大きいが、合成樹脂の比抵抗より13桁小さく、カーボンブラックの導電性に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備するシートないしはフィルムとしても作用する。なお、カーボンブラックの大気中での発火温度は、500℃を超えるため、前記した処理の際にアグリゲートは発火しない。また、炭素粒子の集まりからなるアグリゲートは耐食性に優れる。さらに、シートないしはフィルムは、容器の底面に底面の形状として形成されるため、任意の大きさと形状と厚みからなるシートないしはフィルムが作成できる。また、アグリゲートが容易に切断でき、シートないしはフィルムを任意の形状に切断できる。
なお、シートないしはフィルムは、極めて軽量な切断されたアグリゲートの集まりから構成されるが、高い集積度で軽量のアグリゲート同士が摩擦熱で接合するため、シートないしはフィルムは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより高い機械的強度を持つとともに、耐熱性と難燃性と耐食性とは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより優れる。また、切断された微細な長さの全てのアグリゲート同士が、高い密度で摩擦圧接によって接合するため、シートないしはフィルムに液体は表面張力で侵入できず、全ての液体をはじく撥水性を持つ。これによって、シートないしはフィルムを圧着した基材ないしは部品に、遮光性、放熱性、導電性のみならず、優れた腐食性がもたらされる。
いっぽう、本発明者は、カーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる薄膜ないしはフィルムを作成する発明を、特願2021-070055して出願している。この先願は、最初に、カーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、アルコールを介してアグリゲートが分散した該アグリゲートの集まりからなるペーストを作成する。該ペーストをスピンコーターのステージに滴下し、スピンコーターを高速回転させ、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる薄膜を、ステージの表面に形成する。ないしは、ペーストを押出機に充填し、さらに、ペーストを押出機からTダイに押出し、Tダイのリップから、ペーストをフィルムとして押し出し、さらに、フィルムを引き取り機で引き取った後に、巻き取り機でフィルムを巻き取る。
本発明は、重なり合って空隙を埋め尽くして積層した切断したアグリゲートの集まりを圧縮し、高い集積度でアグリゲート同士が摩擦熱で接合するため、シートないしはフィルムは、先願の薄膜ないしはフィルムに比べ、高い機械的強度と撥水性を持つ。また、シートないしはフィルムを、容器の底面に底面の形状として作成するため、シートないしはフィルムの大きさと形状は、先願の薄膜ないしはフィルムに比べ自由度が高い。
なお、JISの包装用語によれば、フィルムとは「厚さが250μm未満のプラスチックからなる膜状のもの」で、シートとは「厚さ250μm以上のプラスチックからなる薄い板状のもの」と規定されている。本発明においても、JISに則り、カーボンブラックのアグリゲートの集まりからなる幅が広く厚みが薄い膜状体について、厚さ250μm以上のものをシートとし、厚さが250μm未満のものをフィルムとする。
【背景技術】
【0002】
本発明に近い従来技術に、遮光性薄膜および遮光性フィルムと、放熱薄膜および放熱フィルムとがある。
例えば、遮光性フィルムの従来技術として特許文献1がある。つまり、液体飲料の容器の外側を遮光性シュリンクフィルムで覆い、液体飲料に対する光線の入射を防ぎ、光線の照射による液体飲料の機能性成分の劣化を抑制する。しかしながら、遮光性シュリンクフィルムの全光線透過率は、最も高いフィルムであっても92%台であり、紫外線が継続してフィルムに照射すると、液体飲料の劣化が緩やかに進む。
【0003】
また、放熱フィルムの従来技術として特許文献2がある。つまり、赤外線放射による放熱性に優れる熱放射層を、水不溶性無機化合物と耐熱性合成樹脂とを、伝熱性に優れる金属フィルム上に積層した。しかしながら、水不溶性無機化合物と耐熱性合成樹脂とからなる熱放射層の放射率は、0.8-0.9と低い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-201569号公報
【特許文献2】特開2014-193529号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、第一に、カーボンブラックのアグリゲートの集まりから、シートないしはフィルムを作成する方法を見出す。第二に、同じ厚みからなる合成樹脂のシートないしはフィルムより高い機械的強度を有し、さらに、任意の大きさと形状と厚みからなるシートないしはフィルムが作成でき、汎用的に使用可能なアグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法を見出す。第三に、簡単な方法でアグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成し、安価なシートないしはフィルムを実現する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムの作成方法は、
カーボンブラックの集まりと、該カーボンブラックの集まりの重量より多い重量からなるメタノールを第一の容器に投入し、該メタノールを攪拌し、前記カーボンブラックの集まりが前記メタノール中に浸漬した第一の懸濁液を作成する、この後、該第一の懸濁液の表面全体を覆う第一の板材を、該第一の懸濁液の上に被せる、さらに、該第一の板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、前記メタノールに浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する、さらに、前記第一の板材を前記第一の懸濁液から引き上げ、前記第一の容器を加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働し、前記第一の容器に、前後、左右、上下の3方向の加速度を繰り返し加え、前記メタノール中に粉砕したカーボンブラックの集まりを再配列させる、この後、前記第一の板材を前記第一の懸濁液に再度被せ、該第一の板材の表面全体に前記圧縮荷重を再度均一に加え、前記メタノール中に浸漬したカーボンブラックの集まりの粉砕をさらに進める、さらに、前記第一の板材を前記第一の懸濁液から再度引き上げ、前記第一の容器に前記3方向の加速度を再度繰り返し加える、こうした前記圧縮荷重を加える処理と前記加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、前記第一の板材に前記圧縮荷重を加えた際に、該第一の板材に反発力が発生した時点で、前記メタノール中に浸漬したカーボンブラックの集まりにおける粉砕が完了したと判断し、前記一対の処理を停止する、この後、前記第一の板材を前記第一の容器から取り出す第一の工程と、
前記第一の容器内にホモジナイザー装置を配置させ、該ホモジナイザー装置を稼働させ、前記メタノールを介して、前記粉砕されたカーボンブラックの集まりに衝撃を繰り返し加え、該粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させ、前記メタノールを介して前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなる第二の懸濁液を作成する第二の工程と、
作成するシートないしは作成するフィルムの大きさからなる底面を有する第二の容器に、前記第二の懸濁液の一部を、作成するシートないしは作成するフィルムの大きさと厚みとに応じた量として充填し、さらに、該充填した第二の懸濁液の重量より多い重量からなるメタノールを第二の容器に投入し、該メタノールを攪拌する、この後、該第二の容器を、第一の工程で用いた加振機の加振台の上に配置させ、該加振機を稼働させ、該第二の容器に、第一の工程で加えた同じ大きさからなる3方向の加速度を繰り返し加え、前記メタノールを介して前記アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりを、前記メタノール中に再配列させる、この後、前記メタノール中に分散したアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりの表面全体を覆う第二の板材を、該アグリゲートの集まりの表面の上に被せる、さらに、第二の容器を熱処理装置に移動させ、前記第二の板材の表面全体に、第一の工程で加えた圧縮荷重より大きな圧縮荷重を均一に加えながら、前記第二の容器をメタノールの沸点に昇温させ、前記メタノール中に分散したアグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりから前記メタノールを気化させる、これによって、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりが、重なり合って積層し、さらに、該アグリゲートの集まりの全体が均等に圧縮され、アグリゲート同士が摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが、前記第二の容器の底面の形状として作成される第三の工程と、
前記第二の容器から前記第二の板材を取り出し、さらに、該第二の容器の底面の複数個所に、第一の工程で加えた加速度より大きな加速度からなる衝撃加速度を上下方向に同時に加え、前記シートないしは前記フィルムを前記第二の容器の底面から引き剥がし、該シートないしは該フィルムを前記第二の容器から取り出す第四の工程からなり、
前記した4つの工程を連続して実施する方法が、カーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法である。
【0007】
つまり、以下に説明する極めて簡単な4つの工程における処理を連続して実施すると、全ての切断したアグリゲート同士が摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが作成できる。ここで、4つの工程における処理と、処理の作用効果を説明する。
第一の工程は、粉砕したカーボンブラックの集まりが、メタノールに浸漬した懸濁液を作成する工程である。最初に、カーボンブラックの集まりと、カーボンブラックの集まりの重量より多いメタノールを第一の容器に投入し、メタノールを攪拌し、カーボンブラックの集まりがメタノール中に浸漬した第一の懸濁液を作成する。つまり、メタノール中に浸漬したカーボンブラックの集まりを圧縮することで、カーボンブラックの集まりが容易に粉砕できる。この後、第一の懸濁液の表面全体を覆う第一の板材を、第一の懸濁液の上に被せ、第一の板材の表面全体に圧縮荷重を均一に加え、メタノールに浸漬したカーボンブラックの集まりを粉砕する。さらに、第一の板材を第一の懸濁液から引き上げ、第一の容器を加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働し、第一の容器に、前後、左右、上下の3方向の加速度を繰り返し加え、メタノール中に粉砕したカーボンブラックの集まりを再配列させる。つまり、カーボンブラックの集まりにおいて、カーボンブラックの大きさにバラツキがあり、破砕されたカーボンブラックの大きさにもバラツキがある。このため、破砕されたカーボンブラックの集まりに空隙が形成される。この空隙を埋めるため、粉砕したカーボンブラックの集まりを再配列させ、再度粉砕することで、全てのカーボンブラックの粉砕を進め、粉砕したカーボンブラックの大きさを均等に近づける。さらに、第一の板材を第一の懸濁液に再度被せ、第一の板材の表面全体に前記圧縮荷重を再度均一に加え、メタノール中に浸漬したカーボンブラックの集まりの粉砕をさらに進める。さらに、第一の板材を第一の懸濁液から再度引き上げ、第一の容器に前記3方向の加速度を再度繰り返し加える。こうした圧縮荷重を加える処理と加速度を加える処理とからなる一対の処理を繰り返し、第一の板材に圧縮荷重を加えた際に、第一の板材に反発力が発生した時点で、メタノール中に浸漬したカーボンブラックの集まりにおける粉砕が完了したと判断し、一対の処理を停止する。この後、第一の板材を第一の容器から取り出す。つまり、カーボンブラックの粉砕が進むと、粉砕したカーボンブラックを圧縮しても、微細になったカーボンブラックに圧縮応力が加わらないため、カーボンブラックの粉砕が行われず、第一の板材に反発力が発生する。この時点で、カーボンブラックの集まりにおける粉砕が完了したと判断する。この結果、カーボンブラックは、当初の1/25程度の大きさに近い大きさまで粉砕される。
なお、カーボンブラックの最小単位は、炭素粒子の1次凝集体であるアグリゲートである。このアグリゲートは、カーボンブラックにおいて、10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が、不規則で複雑な形状で数珠つなぎした構造(これをストラクチャーと呼ぶ)で結合した炭素粒子の集まりである。アグリゲートの大きさは100-500nmからなり、炭素粒子の数は100-1000個からなる。従って、アグリゲートは、極めて軽量で、また、切断できる。このアグリゲートは、ストラクチャーによって容易に絡み合い、炭素粒子の2次凝集体であり、アグリゲートの凝集塊であるアグロメレートを形成する。従って、カーボンブラックを破砕することで、アグロメレートも破砕され、アグロメレートの大きさも、当初の大きさの1/25に近い大きさに粉砕される。また、アグリゲートも切断され、0.2mm以下の長さに切断される。アグリゲートが切断されることで、第三の工程において、より高い集積度でアグリゲート同士がランダムに重なり合って空隙を埋めて積層し、重なり合って積層したアグリゲートの集まりを均等に圧縮することで、高い密度で集積したアグリゲートの集まりにおいて、全ての接触したアグリゲート同士が摩擦圧接で接合するため、シートないしはフィルムの機械的強度が増大する。
第二の工程は、粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲートの絡み合いを分離させる工程である。つまり、アグリゲート同士が摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成するため、粉砕されたカーボンブラックにおけるアグリゲート同士の絡み合いを分離させる。なお、アグリゲート同士の絡み合いは、単にアグリゲート同士が接触しているだけであり、絡み合いにおけるアグリゲート同士の接合力は弱い。つまり、カーボンブラックは、その多くがアグリゲートの凝集塊であるアグロメレートで構成され、大きなものは1mm近くまで及ぶ粉体になる。このため、アグロメレートの集まりをメタノール中に分散した懸濁液を作成することは困難で、また、アグロメレートの集まりからなるシートないしはフィルムを形成することはさらに困難である。この理由から、メタノール中でホモジナイザー装置を稼働させ、粉砕されたアグロメレートの集まりに衝撃波を継続して加え、アグリゲート同士が直接絡み合った部位を、衝撃波の照射で分離させ、分離した部位にメタノールを吸着させ、メタノールを介してアグリゲート同士を絡み合わせる。なお、カーボンブラックを物理的に限界の大きさまで粉砕したため、アグリゲートは0.2mm以下の長さに切断される。このため、衝撃波を継続して加えると、アグリゲート同士の絡み合いが容易に解除できる。これによって、メタノールを介して絡み合ったアグリゲートの集まりが、低粘度のメタノールに分散した第二の懸濁液が形成される。また、アグリゲートが0.2mm以下の長さに切断されているため、第三の工程で接触したアグリゲート同士を摩擦圧接で接合する際に、アグリゲートの接触部は、圧縮応力によって切断しない。
このため、第一の容器内にホモジナイザー装置を配置させ、ホモジナイザー装置を稼働させ、メタノールを介して、粉砕されたカーボンブラックの集まりに衝撃を繰り返し加える。ホモジナイザー装置をメタノール中で稼働させると、微細な衝撃波がメタノール中に発生し、衝撃波がメタノールの分子を励起させながら、メタノール中を移動する。いっぽう、メタノールの分子量は小さく、粘度が低いため、衝撃波によってメタノールの分子は励起されにくく、衝撃波のエネルギーが失われにくい。このため、メタノールに浸漬したアグロメレートの集まりに、メタノールを介して、微細な衝撃波が効率よく繰り返し照射される。これによって、アグリゲート同士が直接絡み合った部位にも、微細な衝撃波が繰り返し照射され、アグリゲートが極めて軽量な物質であるため、直接絡み合った部位が解除し、絡み合いが解除したアグリゲートの部位に、メタノールが吸着する。この結果、メタノールを介して絡み合ったアグリゲートの集まりが、メタノール中に分散する。
なお、アグリゲートが、不規則で複雑な形状で炭素粒子同士が数珠つなぎしたストラクチャーの構造を持ち、かつ、個々のアグリゲートの大きさと個々のアグリゲートのストラクチャーの形状が異なる。このため、ホモジナイザー装置が発する衝撃波をアグロメレートに繰り返し照射しても、アグリゲートの集まりにおいて、アグリゲート同士が直接絡み合う全ての部位が分離され、これによって、アグリゲートの集まりが1つ1つのアグリゲートに分離し、1つ1つに分離されたアグリゲートをメタノールに分散させることはできない。つまり、ホモジナイザー装置によるアグリゲート同士の絡み合いの分離は、あくまでも、アグリゲート同士が直接絡み合った部位に、メタノールを吸着させる処理である。この処理によって、メタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりが、メタノールに容易に分散する。従って、メタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりにおいては、絡み合ったアグリゲート同士は直接接合せず、メタノールを介して絡み合ったアグリゲートがメタノールに分散している。これによって、第三の工程において、アグリゲートの集まりを、均一にメタノール中に再配列させることが容易になる。
なお、ホモジナイザー装置として、超音波方式のホモジナイザー装置を用いると、切断されたアグリゲートの大きさより小さい気泡が、莫大な数からなる気泡として同時に発生し、この後、気泡が殆ど同時に消滅する。この気泡の発生と消滅とが、超音波の発生周期に応じて繰り返し起こり、低粘度のメタノール中で、気泡の発生と消滅とが繰り返される(この現象をキャビテーションという)。この気泡がはじける際の衝撃波が、低粘度のメタノール中に継続して発生し、衝撃波が殆ど吸収されずに、アグロメレートの細部にも継続して照射され、アグリゲート同士が直接絡み合った部位が短時間で分離し、分離した部位にメタノールが吸着する。従って、超音波方式のホモジナイザー装置は、超音波の発生周期に応じて、気泡の発生と消滅とを繰り返すため、短時間でアグリゲート同士が直接絡み合った部位を分離させる。
第三の工程は、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを、容器の底面の形状として作成する工程である。このため、最初に、作成するシートないしはフィルムの大きさからなる底面を有する第二の容器を用意する。次に、第二の工程で作成した懸濁液の一部を、作成するシートないしはフィルムの大きさと厚みとに応じた量として、第二の容器に充填する。さらに、懸濁液を均等に容器内で再配列させるため、充填した懸濁液の重量より多いメタノールを第二の容器に投入し、メタノールを攪拌する。さらに、容器を第一の工程で用いた加振機の加振台の上に配置させ、加振機を稼働させ、容器に、第一の工程で加えた同じ大きさからなる3方向の加速度を繰り返し加え、メタノールを介して絡み合ったアグリゲートの集まりを、メタノール中に再度再配列させる。この後、メタノールを介して絡み合ったアグリゲートの集まりの表面全体を覆う板材を、アグリゲートの集まりの表面の上に被せ、さらに、容器を熱処理装置に移動させ、板材の表面全体に第一の工程で加えた圧縮荷重より大きな圧縮荷重を均一に加えながら、容器をメタノールの沸点に昇温させる。これによって、アグリゲートの集まりからメタノールが気化し、絡み合ったアグリゲートの集まりが、高い集積度で重なり合って空隙を埋めて積層する。さらに、アグリゲートの集まりに圧縮荷重が加わると、絡み合った全てのアグリゲート同士の接触部が僅かに弾性変形し、接触部の面積が僅かに増大し、該アグリゲート同士の接触部に摩擦熱が発生し、アグリゲート同士が摩擦圧接で強固に接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが、容器の底面の形状として作成される。なお、カーボンブラックの大気中での発火温度は500℃を超える。いっぽう、摩擦熱は短時間発生し、アグリゲート同士の接触部位は僅かな体積であるため、摩擦熱は瞬間的に冷却する。このため、接触部位のアグリゲートの温度は、カーボンブラックの発火温度より著しく低い。なお、気化したメタノールを回収し、再利用する。
第四の工程は、シートないしはフィルムを容器の底面から引き剥がし、シートないしはフィルムを取り出す工程である。つまり、重なり合って空隙を埋めて積層したアグリゲートの集まりにおいて、全てのアグリゲートが、アグリゲート同士で接触している。このため、全てのアグリゲートにおいて、アグリゲート同士が接触部において摩擦熱で直接接合する。いっぽう、長さが0.2mm以下に切断されたアグリゲートは極めて軽量であり、全てのアグリゲート同士が摩擦熱で直接接合するため、アグリゲート同士が強固に接合する。従って、シートないしはフィルムは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより、引っ張り強度と圧縮強度が大きい。このため、シートないしはフィルムが容器の底面に形成されている容器の底面の複数個所に、上下方向の衝撃加速度を同時に加えると、シートないしはフィルムが損傷を受けることなく、容器の底面から剥がれる。この後、シートないしはフィルムを、容器からグラフェンシートが取り出す。
この結果、5段落に記載した3つの課題の全てを解決し、アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが作成できる。
次に、作成したシートないしはフィルムの作用効果を説明する。
第一に、作成したシートないしはフィルムは、高い密度で接合したアグリゲートの集まりで構成されるため、シートないしはフィルムは、全光線透過率が0%である優れた遮光性と、熱放射率が0.95-0.97からなる優れた熱放射率を兼備する。
第二に、カーボンブラックの比抵抗は、金属の比抵抗より6桁大きいが、合成樹脂の比抵抗より13桁小さいため、作成したシートないしはフィルムは、カーボンブラックの導電性に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備するシートないしはフィルムとして作用する。
第三に、高い密度で極めて軽量の全てのアグリゲート同士が摩擦熱で接合するため、シートないしはフィルムは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより高い機械的強度を持つとともに、耐熱性と難燃性と耐食性とは、合成樹脂のシートないしは合成樹脂のフィルムより優れる。
第四に、高い密度で全てのアグリゲート同士が摩擦熱で接合し、シートないしはフィルムの表面は、全ての液体が表面張力で侵入できず、全ての液体をはじく撥水性を持つ。
第五に、作成するシートないしはフィルムの大きさと形状は、第二の容器の底面の形状で決まるため、作成するシートないしはフィルムの大きさと形状は、自在に変えることができる。
第六に、作成するシートないしはフィルムの厚みは、第二の容器に充填する懸濁液の量で決まるため、作成するシートないしはフィルムの厚みは、自在に変えることができる。
第七に、シートないしはフィルムは、アグリゲートの集まりで構成され、アグリゲートにおける一次粒子が容易に切断できるため、アグリゲートが容易に切断でき、様々な大きさと様々な形状からなるシートないしはフィルムに加工できる。
第八に、カーボンブラックは安価な工業用素材で、メタノールは最も汎用的な有機溶剤である。さらに、シートないしはフィルムを作成する4つの工程は、極めて簡単な処理である。このため、安価な原料を用い、安価な加工費で安価なシートないしはフィルムが作成できる。
第九に、アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを安全に形成できる。つまり、カーボンブラックをメタノール中で処理するため、カーボンブラックが粉塵として飛散しない。また、熱処理はメタノールを気化するだけで、処理温度がカーボンブラックの大気中での発火温度より435℃以上低いため、アグリゲートの集まりは発火しない。
以上に説明したように、作成したシートないしはフィルムは、様々な優れた作用効果をもたらす。
【0008】
6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが、アセチレンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムであり、該アセチレンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルム作成する方法は、6段落に記載したカーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、6段落に記載したアグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法に従って、アセチレンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法である。
【0009】
つまり、カーボンブラックは、カーボンブラックの製造方法によって、カーボンブラックの特徴が大きく変わり、製造方法の名称でカーボンブラックが分類されている。この製造方法によって、カーボンブラックの性質が変わる。
ファーネスブラックは、油やガスを高温ガス中で不完全燃焼させて製造したカーボンブラックであり、燃焼させる原料により、オイルファーネスとガスファーネスとに細分化される。ファーネスブラックの中で、ケッチェンブラックは、原料として炭化水素からなるオイルを用い、オイルの不完全燃焼で、カーボンブラックを生成する。このケッチェンブラックは、カーボンブラックの中で、比表面積とDPB(ジブチルフタレート)の吸収量が最も大きく、導電性がアセチレンブラックに次いで高い。つまり、ケッチェンブラックは、ストラクチャーが円弧を描いて形成した中空体が存在するため、円弧状のストラクチャーを電子が移動することで、ケッチェンブラックの導電性が増える。
その他のカーボンブラックに、天然ガスを燃焼させ、チャンネル鋼に析出させたものを掻き集めたチャンネルブラックと、アセチレンガスを熱分解して得たアセチレンブラックと、蓄熱した炉の中でガスの燃焼と分解を繰り返して製造するサーマルブラックがある。
アセチレンブラックは、カーボンブラックの原料の中で、純度が最も高いアセチレンガスを使ってアセチレンブラックを生成するため、カーボンブラックの中で不純物が最も少なく、また、ストラクチャーと1次粒子とが最も発達している。このため、カーボンブラックの中で最も導電性が優れ、アセチレンブラックを用いたシートないしはフィルムは、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の性能が、他のカーボンブラックを用いたシートないしはフィルムより優れる。また、ストラクチャーと1次粒子とが最も発達しているため、アセチレンブラックのアグリゲートが絡まりやすく、一旦絡まったアグリゲートは分離しにくい。従って、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムは、シートないしはフィルムの機械的強度がさらに高まる。このため、アセチレンブラックは、6段落に記載したシートないしはフィルムを構成するカーボンブラックに適している。なお、アセチレンブラックとして、例えば、嵩密度が0.04g/cmで、電気抵抗率が0.21Ω・cmからなる粉状品がある。
従って、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、6段落に記載した方法に従って、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成すると、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合い、機械的強度が高まったシートないしはフィルムが作成できる。このシートないしはフィルムは、アセチレンブラックの導電性に基づく導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する。
なお、銅の比抵抗は1.68×10―6Ω・cmであり、アセチレンブックの比抵抗を前記した0.21Ω・cmとし、銅の比導電率を1.0とした場合、アセチレンブラックの比導電率は、8×10―6になる。また、アセチレンブラックの比透磁率は1.0である。いっぽう、電磁波の反射損失の度合いは比導電率/比透磁率になり、電磁波の吸収損失の度合いは比導電率・比透磁率になる。従って、アセチレンブラックの電磁波の反射損失の度合いと電磁波の吸収損失の度合いとは、いずれも8×10―6になる。いっぽう、鉄の比導電率は0.17で、比透磁率は100である。このため、鉄の電磁波の反射損失の度合いは1.7×10―3で、電磁波の吸収損失の度合いは17である。従って、アセチレンブラックは、金属の電磁波のシールド性能に及ばない。
さらに、帯電防止の性能は、表面抵抗で表わせられる。アセチレンブラックからなるシートないしはフィルムにおいて、厚みが1μmである場合は、表面固有抵抗が2.1×10Ω/□である。また、厚みが0.1μmである場合は、表面固有抵抗が2.1×10Ω/□である。従って、いずれの膜厚も帯電しにくいが、膜厚が薄いフィルムのほうが静電気を速やかに消散することができる。
【0010】
6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが、ケッチェンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムであり、該ケッチェンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルム作成する方法は、6段落に記載したカーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、6段落に記載したアグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法に従って、ケッチェンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを作成する方法である。
【0011】
つまり、カーボンブラックの中で、ケッチェンブラックは、一次粒子が最も小さく、単位質量当たりの一次粒子の数が最も多く、BET表面積が最も大きいため、カーボンブラックの中で、最も優れた遮光性を持つ。このため、カーボンブラックとしてケッチェンブラックを用いると、6段落に記載したアグリゲートの集まりからなるシートないしフィルムは、紫外線劣化防止の優れたシートないしフィルムとして作用する。さらに、ケッチェンブラックの熱放射率が0.97と高く、優れた放熱シートないし放熱フィルムとして作用する。
すなわち、ケッチェンブラックは、一次粒子径が30-40nmからなり、このため、単位質量当たりの一次粒子の数は1×10個/gに及び、BET表面積が1270m/gにも及ぶ。従って、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりからなるシートないしフィルムは、他のカーボンブラックのアグリゲートの集まりからなるシートないしフィルムより遮光性と放熱性が優れる。
【0012】
6段落に記載したカーボンブラックのアグリゲート同士を摩擦圧接で接合した該アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムを用いて、基材ないしは部品に前記シートないしは前記フィルムを接合する方法は、
6段落に記載した方法で形成したシートないしはフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置し、該シートないしは該フィルムの表面の全体に圧縮荷重を均等に加え、該シートないしは該フィルムを圧縮し、該シートの裏面ないしは該フィルムの裏面が、前記基材ないしは前記部品と接触する部位に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって、前記シートないしは前記フィルムを、前記基材ないしは前記部品に接合させる方法であり、
ないしは、
6段落に記載した方法で形成したシートないしはフィルムを所定の形状に切断し、該切断したシートないしは該切断したフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置し、該切断したシートないしは該切断したフィルムの表面の全体に圧縮荷重を均等に加え、該切断したシートないしは該切断したフィルムを圧縮し、該切断したシートの裏面ないしは該切断したフィルムの裏面が、前記基材ないしは前記部品と接触する部位に摩擦熱が発生し、該摩擦熱によって、前記切断したシートないしは前記切断したフィルムを、前記基材ないしは前記部品に接合させる方法である。
【0013】
6段落に記載した方法で形成したアグリゲートの集まりからなるシートを、ないしは、該シートを、所定の形状に切断したシートを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置させ、シートの表面全体に圧縮荷重を加えて均等に加えて圧縮すると、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからなるシートは僅かに弾性変形し、基材ないしは部品の表面の凹凸の凸部がシートと接触する全ての接触部位に、摩擦熱が短時間発生し、瞬間的に消滅する。この摩擦熱によって、シートが基材ないしは部品の表面に接合する。
同様に、6段落に記載した方法で形成したアグリゲートの集まりからなるフィルムを、ないしは、該フィルムを所定の形状に切断したフィルムを、基材ないしは部品の予め決めた位置に配置させ、フィルムの表面全体に圧縮荷重を加えて均等に圧縮すると、アグリゲート同士が絡み合った該アグリゲートの集まりからフィルムは僅かに弾性変形し、基材ないしは部品の表面の凹凸の凸部がフィルムと接触する全ての接触部位に、摩擦熱が短時間発生し、瞬間的に消滅する。この摩擦熱によって、フィルムが基材ないしは部品の表面に接合する。
なお、シートないしはフィルムは、アグリゲートの集まりで構成されたシートないしはフィルムである。いっぽう、アグリゲートが10-100nmの大きさからなる炭素粒子同士が数珠状に結合した炭素粒子の集まりであり、炭素粒子が容易に切断できるため、アグリゲートが容易に切断でき、シートないしはフィルムは任意の形状に切断できる。
つまり、基材ないしは部品の表面の凹凸は、大きさがサブミクロンと小さいが、シートないしはフィルムの表面と接触する凸部は莫大な数からなる。いっぽう、シートないしはフィルムは、アグリゲートの集まりからなり、アグリゲートは、圧縮応力によって僅かに弾性変形する。このため、基材ないしは部品の表面に配置したシートないしはフィルムを圧縮すると、シートないしはフィルムを構成するアグリゲートの集まりが僅かに弾性変形し、基材ないしは部品の表面の凹凸の凸部が、シートないしはフィルムと接触する全ての接触部位に、摩擦熱が瞬間的に発生する。この摩擦熱で、接触部位におけるシートないしはフィルムが、基材ないしは部品の表面の凹凸の凸部に接合する。接触部の凸部の数が莫大な数で、接触部位の間隔が僅かな距離で、さらに、一方の接触部を構成するアグリゲートが極めて軽量であるため、アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムが、基材ないしは部品の表面に強固に接合する。なお、カーボンブラックの大気中での発火温度は500℃を超える。いっぽう、摩擦熱は短い短時間で発生し、また、接触部位は極めて僅かな体積であるため、摩擦熱は瞬間的に冷却する。このため、接触部位におけるアグリゲートの温度は、カーボンブラックの発火温度より低い。
また、瞬間的に発生する摩擦熱と、この後、冷却する摩擦熱で、シートないしはフィルムを、基材ないしは部品の表面に接合する。このため、基材ないしは部品が、耐熱性の低い合成樹脂であっても、また、布帛、ないしは、不織布であっても、シートないしはフィルムが、基材ないしは部品の表面に接合する。さらに、7段落に記載したシートないしはフィルムの第三の作用効果で説明したように、作成するシートないしはフィルムの大きさと形状は、自在に変えることができる。また、7段落に記載したシートないしはフィルムの第五の作用効果で説明したように、シートないしはフィルムは、様々な大きさと様々な形状に切断できる。従って、アグリゲートの集まりからなるシートないしはフィルムは、様々な材質からなる基材ないしは部品に対し、さらに、様々な大きさと形状とからなる基材ないしは部品に対し、摩擦圧接という極めて簡単な手段で接合できる。
この結果、優れた遮光性を持つ様々な大きさと形状とからなるシートないしはフィルムが、様々な材質からなる基材ないしは部品の表面に形成される。また、優れた熱放射率を持つ様々な大きさと形状とからなるシートないしはフィルムが、様々な材質からなる基材ないしは部品の表面に形成される。さらに、カーボンブラックの導電性に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する様々な大きさと形状とからなるシートないしはフィルムが、様々な材質からなる基材ないしは部品の表面に形成される。
さらに、高い密度で全てのアグリゲート同士が摩擦熱で接合したシートないしはフィルムの表面は、全ての液体が表面張力で侵入できず、全ての液体をはじく撥水性を持つ。このため、シートないしはフィルムを圧着した基材ないしは部品に、優れた腐食性がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】ナイロン66の繊維からなる基布を、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなる2枚のフィルムで挟み、該基布をフィルムに接合した試料の側面を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
実施例1
実施例1では、カーボンブラックとしてアセチレンブラックを用い、アセチレンブラックのアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりからなるフィルムを作成する。
最初に、アセチレンブラック(デンカ株式会社の製品Li-100)の40gと、工業用1級メタノールの80gを容器に充填し、メタノールを攪拌して、アセチレンブラックをメタノールに浸漬させた。なお、アセチレンブラックは、平均粒径が35nmで、比表面積が68m/gで、ヨウ素吸着量が92mg/gからなる一次粒子で構成される。また、アセチレンブラックは、嵩密度が0.04g/mlで、電気抵抗率が0.21Ω・cmで、カーボンブラックの中で導電性が最も優れる。
この後、容器の上に平板を被せ、平板の上に2kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、重りと平板とを除き、容器を加振台の上に固定させ、容器に、前後、左右、上下の3方向の2Gからなる加速度を繰り返し加えた。こうした圧縮荷重を加える処理と加速度を加える処理とを、5回繰り返した後に、重りを平板の上に載せたが、平板の動きが全くなかったため、処理を停止した。
さらに、容器に超音波ホモジナイザー(ヤマト科学株式会社の製品LUH150)を容器内のメタノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を10分間加え、メタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりをメタノール中に分散した懸濁液を作成した。
この後、20cm×20cmの大きさの容器に、懸濁液の8gを充填し、さらに、メタノールの10gを投入し、メタノールを撹拌し、懸濁液を作成した。さらに、容器を前記の加振台の上に固定し、前記と同様に、容器に、前後、左右、上下の3方向の2Gからなる加速度を繰り返し加えた。この後、容器内の懸濁液の全体を覆う平板を懸濁液に被せ、平板の上に4kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、容器を65℃に昇温し、懸濁液からメタノールを気化させた。容器から重りと平板を除き、容器の底面の5か所に、0.3Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、容器の底面から黒みがかった色彩からなるフィルムを剥がした。
次に、フィルムを電子顕微鏡で観察した。電子顕微鏡は、JFEテクノリサーチ株式会社が所有する極低加速電圧SEMを用いた。この装置は、100ボルトからの極低加速電圧による表面観察が可能で、導電性の被膜を形成せずに直接フィルムの表面が観察できる。
最初に、フィルムの側面の観測結果から、フィルムの厚みは5μmであった。さらに、フィルムの表面の複数個所からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で黒みがかった物質の材質を分析した。濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、表面の複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、黒みがかった物質を構成する元素の種類を分析した。黒みがかった物質は炭素原子のみで構成されていた。
以上の観察結果から、作成したフィルムは、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりが1μm前後の厚みでフィルムを形成した。従って、作成したフィルムは、アセチレンブラックの性質に基づく優れた遮光性と優れた熱放射性とを兼備する。
次に、作成したフィルムの表面の複数個所の表面抵抗を、表面抵抗計によって測定した(例えば、シムコジャパン株式会社の表面抵抗計ST-4)。表面抵抗率は1.0Ωであったため、板はアセチレンブラックの抵抗率0.21Ω・cmに近い抵抗を有した。このため、作成したフィルムは、アセチレンブラックの抵抗率に基づき、導電性、電磁波シールド性、帯電防止の機能を兼備する薄膜としても作用する。
【0016】
実施例2
実施例2では、カーボンブラックとしてケッチェンブラックを用い、ケッチェンブラックのアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりからなるフィルムを形成する。
最初に、ケッチェンブラック(ライオン株式会社の製品EC600JD)の40gと、工業用1級メタノールの80gを容器に充填し、メタノールを攪拌して、ケッチェンブラックをメタノールに浸漬させた。なお、ケッチェンブラックは、平均粒子径が34nmと小さく、比表面積が1270m/gと大きく、優れた遮光性を示す。また、ケチェンブラックの粒子間の空隙を満たすに要するフタル酸ジブチルの量が495cm/100gと大きく、粒子の繋がりと粒子の凝集の程度が大きく、これによって、ケッチェンブラックのアグリゲートの絡み合いが進み、フィルムの機械的強度が増える。
この後、実施例1と同様に、容器の上に平板を被せ、平板の上に2kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、重りと平板とを除き、容器を加振台の上に固定させ、容器に、前後、左右、上下の3方向の2Gからなる加速度を繰り返し加えた。こうした圧縮荷重を加える処理と加速度を加える処理とを、5回繰り返した後に、重りを平板の上に載せたが、平板の動きが全くなかったため、処理を停止した。
さらに、実施例1と同様に、容器に超音波ホモジナイザーを容器内のメタノール中で稼働し、20kHzの超音波信号を10分間加え、メタノールを介してアグリゲート同士が絡み合ったアグリゲートの集まりをメタノール中に分散した懸濁液を作成した。
この後、20cm×20cmの大きさの容器に、懸濁液の12gを充填し、さらに、メタノールの15gを投入し、メタノールを撹拌し、懸濁液を作成した。さらに、実施例1と同様に、容器を前記の加振台の上に固定し、前記と同様に、容器に、前後、左右、上下の3方向の2Gからなる加速度を繰り返し加えた。この後、容器内の懸濁液の全体を覆う平板を懸濁液に被せ、平板の上に4kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。さらに、容器を65℃に昇温し、懸濁液からメタノールを気化させた。容器から重りと平板を除き、容器の底面の5か所に、0.3Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、容器の底面から黒みがかった色彩からなるフィルムを剥がした。
次に、実施例1と同様に、フィルムを電子顕微鏡で観察した。フィルムの側面の観測結果から、フィルムの厚みは10μmであった。さらに、フィルムの表面の複数個所からの反射電子線について、900-1000ボルトの間にあるエネルギーを抽出して画像処理を行い、画像の濃淡で黒みがかった物質の材質を分析した。濃淡が認められなかったので、単一原子から構成されていることが分かった。さらに、表面の複数個所からの特性エックス線のエネルギーとその強度を画像処理し、黒みがかった物質を構成する元素の種類を分析した。黒みがかった物質は炭素原子のみで構成されていた。
以上の観察結果から、作成したフィルムは、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりが10μm前後の厚みでフィルムを形成した。従って、作成したフィルムは、ケチェンブラックの性質に基づく優れた遮光性と優れた熱放射性とを兼備する。
さらに、フィルムの遮光性を、JIS-L-1055A法に基づいて測定した結果、99.99%の遮光率であり、優れた遮光フィルムであることが分かった。
また、フィルムの熱放射率を、フーリエ変換赤外分光光度計と放射測定ユニットからなる分析器(株式会社コベルコ科研が所有する設備)で測定した結果、熱放射率が0.97と高く、優れた放熱フィルムであることが分かった。
【0017】
実施例3
実施例3では、実施例1で作成したフィルムを、ナイロン66の繊維からなる基布に熱圧着させる。基布は、織り密度が2.54cmあたり55本で、目付が1mあたり216gで、厚みが0.32mmからなる。
最初に、22cm×22cm×1cm(厚み)からなる平板を2枚用意し、1枚の平板の上に、実施例1で作成したフィルムと、20cm×20cmの大きさに切断したナイロン66の繊維からなる基布と実施例1で作成したフィルムの順番で3枚を重ね合わせ、さらに、もう1枚の平板を重ね合わせ、1枚の平板の上に、10kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。この後、重りを取り除いた。さらに、下方の平板の底面の5か所に、0.3Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から試料を剥がした。また、残ったもう1枚の平板の底面の5か所に、0.3Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から試料を剥がし、試料を取り出した。
試料の表面の複数個所の表面抵抗を、実施例1で用いた表面抵抗計によって測定した。表面抵抗率は1.0Ω前後であったため、試料はアセチレンブラックの抵抗率0.21Ω・cmに近い抵抗を有した。
この後、4枚の試料を水洗し、表面の水を十分に振り落とした後に、再度、4枚の試料の表面の複数個所の表面抵抗を測定したが、表面抵抗率は1.0Ω前後と変わらなかった。なお、試料の表面は水が付着せず、はじいたため、表面から水が容易に取り除けた。
以上の結果から、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムが、基布の表面と強固に接合し、フィルムが一定の強度を伴って基布と一体化した。さらに、フィルムが微細なアグリゲートの集まりが高密度で接合した構成で形成されたため、フィルムの表面が撥水性を持ち、基布に水が浸透しなかった。このため、撥水性のフィルムが接合した基布は、酸やアルカリを始めとする様々な薬品に対し耐食性を持つ。さらに、基布にアセチレンブラックの導電性が付与された。図1に、試料の断面を拡大して模式的に示す。1はアセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムで、2はナイロン66の繊維からなる基布である。
従って、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムが、基布の表面に接合することで、基布に撥水性と導電性が、また、遮光性と放熱性が付与される。このため、撥水性、導電性、遮光性および放熱性が付与される基布は、ナイロン66の繊維からなる基布に限らない。いっぽう、布帛は、織物、編み物、直交ネット、直交積層ネットおよび多軸積層ネットからなる。このため、様々な材質からなる織物、編み物、直交ネット、直交積層ネットおよび多軸積層ネットからなる布帛に、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムを接合させることで、様々な材質からなる織物、編み物、直交ネット、直交積層ネットおよび多軸積層ネットからなる布帛に、撥水性、導電性、遮光性および放熱性が付与できる。
【0018】
実施例4
実施例4では、実施例1で作成したフィルムを、ポリエステルの長繊維からなる不織布に熱圧着させる。ポリエステルの長繊維からなる不織布として、株式会社東レが製造する商標がアクスターと呼ばれる製品の品番M2080-3Tを用いた。この不織布は、目付が80g/mで、厚さが0.36mmで、引張強力は縦が69Nであり横が83Nであり、通気量が5cc/cm・秒の特性を持つ。
最初に、22cm×22cm×1cm(厚み)からなる平板を2枚用意し、1枚の平板の上に、実施例1で作成したフィルムと、20cm×20cmの大きさに切断した不織布と実施例1で作成したフィルムの順番で3枚を重ね合わせ、さらに、もう1枚の平板を重ね合わせ、1枚の平板の上に、10kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。この後、重りを取り除いた。さらに、下方の平板の底面の5か所に、0.3Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から試料を剥がした。残ったもう1枚の平板の底面の5か所に、0.3Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板から試料を剥がし、試料を取り出した。
試料の表面の複数個所の表面抵抗を、実施例1で用いた表面抵抗計によって測定した。表面抵抗率は1.0Ω前後であったため、試料はアセチレンブラックの抵抗率0.21Ω・cmに近い抵抗を有した。
この後、4枚の試料を水洗し、表面の水を十分に振り落とした後に、再度、4枚の試料の表面の複数個所の表面抵抗を測定したが、表面抵抗率は1.0Ω前後と変わらなかった。なお、試料の表面は水が付着せず、はじいたため、表面から水が容易に取り除けた。
以上の結果から、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムが、不織布の表面と接合し、フィルムが一定の強度を伴って不織布と一体化した。さらに、フィルムが微細なアグリゲートの集まりが高密度で接合したため、フィルムの表面が撥水性を持ち、不織布に水が浸透しなかった。このため、撥水性のフィルムが接合した不織布は、酸やアルカリを始めとする様々な薬品に対し耐食性を持つ。さらに、不織布にアセチレンブラックの導電性が付与された。
従って、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりが、不織布の表面に接合することで、不織布に撥水性と導電性が付与され、また、遮光性と放熱性が付与される。このため、撥水性、導電性、遮光性および放熱性が付与される不織布は、ポリエステルの長繊維からなる不織布に限らない。いっぽう、不織布は、湿式、乾式および直接式による短繊維不織布および長繊維不織布からなる。このため、様々な材質からなる湿式、乾式および直接式による短繊維不織布および長繊維不織布からなる不織布に、アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムを接合させることで、様々な材質からなる湿式、乾式および直接式による短繊維不織布および長繊維不織布からなる不織布に、撥水性、導電性、遮光性および放熱性が付与できる。
【0019】
実施例5
実施例5では、実施例2で作成したフィルムを、合成樹脂の透明フィルムに熱圧着させる。透明フィルムとして、フィルム厚が50μmからなるアクリル樹脂の透明フィルム(例えば、三菱レイヨン株式会社の製品で品番HBS006)を用いた。
最初に、22cm×22cm×1cm(厚み)からなる2枚の平板を用意し、1枚の平板の上に、実施例2で作成したフィルムと、20cm×20cmの大きさに切断したアクリル樹脂の透明フィルムと実施例2で作成したフィルムの順番で3枚のフィルムを重ね合わせ、さらに、もう1枚の平板を重ね合わせた。1枚の平板の上に、10kgの重り9個を等間隔に離間させて載せた。この後、重りを取り除いた。さらに、下方の平板の底面の5か所に、0.3Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板からフィルムを剥がした。また、こう1枚の平板の底面の5か所に、0.3Gからなる上下方向の衝撃加速度を同時に加え、平板からフィルムを剥がし、フィルムを取り出した。
重ね合わせたフィルムの小片を、プラスチックフィルムの引張強度試験(ISO527-3:2012)に基づいて行った結果、引張強度は85±5MPaであった。この引張強度は、アクリル樹脂の透明フィルムの引張強度である50-60MPaより大きい。従って、実施例2で作成したケッチェンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルムは、5μmと厚みが薄いにも関わらず、50μmの厚みからなるアクリル樹脂の透明フィルムの引張強度より大きい。
従って、ケッチェンブラックのアグリゲートの集まりが、アクリル樹脂の透明フィルムの表面に接合することで、アクリル樹脂の透明フィルムより大きな引張強度がもたらされた。さらに、アクリル樹脂の透明フィルムに、撥水性と導電性が付与され、また、遮光性と放熱性が付与される。このため、撥水性、導電性、遮光性および放熱性が付与される合成樹脂のフィルムは、アクリル樹脂の透明フィルムに限らず、様々な材質からなる合成樹脂のフィルムに付与できる。
【符号の説明】
【0020】
1 アセチレンブラックのアグリゲートの集まりからなるフィルム 2 ナイロン66の繊維からなる基布
図1