IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本特殊陶業株式会社の特許一覧

特開2024-100344粉末複合材料、および粉末複合材料の製造方法
<>
  • 特開-粉末複合材料、および粉末複合材料の製造方法 図1
  • 特開-粉末複合材料、および粉末複合材料の製造方法 図2
  • 特開-粉末複合材料、および粉末複合材料の製造方法 図3
  • 特開-粉末複合材料、および粉末複合材料の製造方法 図4
  • 特開-粉末複合材料、および粉末複合材料の製造方法 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100344
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】粉末複合材料、および粉末複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 25/32 20060101AFI20240719BHJP
   B01J 35/39 20240101ALN20240719BHJP
【FI】
C01B25/32 B
C01B25/32 G
B01J35/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004285
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142745
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 世子
(74)【代理人】
【識別番号】100148275
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 聡
(72)【発明者】
【氏名】須藤 優
(72)【発明者】
【氏名】菱田 智子
(72)【発明者】
【氏名】粟野 真也
(72)【発明者】
【氏名】山田 嗣人
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169BA48A
4G169BB14A
4G169BB14B
4G169BC09A
4G169BC09B
4G169HA20
4G169HE12
(57)【要約】
【課題】水に溶解しやすく、光触媒機能などの機能性成分を含有する建材および塗料などの材料として好適に利用できる粉末複合材料、およびこのような粉末複合材料の製造方法を提供する。
【解決手段】粉末複合材料10は、リン酸四カルシウム(TeCP)粒子11、およびリン酸水素カルシウム(DCPA)粒子12を主成分として含む。この粉末複合材料10において、リン酸四カルシウム粒子11の表面の少なくとも一部には、反応層21が設けられている。粉末複合材料の製造方法は、リン酸四カルシウム(TeCP)、およびリン酸水素カルシウム(DCPA)を含有する原材料を粉砕し、得られた粉砕物を撹拌する工程を含む。この工程により、TeCP粒子の表面の少なくとも一部に反応層を形成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン酸四カルシウム粒子、およびリン酸水素カルシウム粒子を主成分として含み、
前記リン酸四カルシウム粒子の表面の少なくとも一部に反応層が設けられている、粉末複合材料。
【請求項2】
前記反応層の膜厚は、8nm以上180nm以下の範囲内である、請求項1に記載の粉末複合材料。
【請求項3】
前記反応層の膜厚は、8nm以上145nm以下の範囲内である、請求項2に記載の粉末複合材料。
【請求項4】
前記リン酸水素カルシウム粒子の表面の少なくとも一部にも、前記反応層が設けられている、請求項1に記載の粉末複合材料。
【請求項5】
光触媒成分をさらに含有する、請求項1から4の何れか1項に記載の粉末複合材料。
【請求項6】
リン酸四カルシウム、およびリン酸水素カルシウムを含有する原材料を粉砕し、得られた粉砕物を撹拌する工程を含み、
前記リン酸四カルシウムの粒子の表面の少なくとも一部に反応層を形成する、粉末複合材料の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、光触媒機能を有する建材および塗料などの材料として利用可能な粉末複合材料、およびこのような粉末複合材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工骨、人工歯などの医療用生体材料として、速硬性リン酸カルシウムセメントが知られている。このような速硬性リン酸カルシウムセメントとして、例えば、特許文献1には、(1)リン酸水素カルシウム粉末、又は(2)リン酸水素カルシウム粉末及びリン酸四カルシウム粉末を主成分とするリン酸カルシウムセメントが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11-11998号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような速硬性リン酸カルシウムセメントは、水添加後の硬化速度を制御したり、光触媒成分などの機能性成分を添加したりすることで、医療用生体材料以外の用途に利用できる可能性がある。
【0005】
そこで、本発明では、水に溶解しやすく、光触媒機能などの機能性成分を含有する建材および塗料などの材料として好適に利用できる粉末複合材料、およびこのような粉末複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一局面にかかる粉末複合材料は、リン酸四カルシウム粒子、およびリン酸水素カルシウム粒子を主成分として含む。この粉末複合材料において、前記リン酸四カルシウム粒子の表面の少なくとも一部に反応層が設けられている。
【0007】
上記の構成によれば、リン酸四カルシウム粒子の表面の少なくとも一部に反応層が設けられていることで、リン酸四カルシウム粒子の表面活性が上がり、水に溶解しやすい粉末複合材料を得ることができる。また、リン酸四カルシウム粒子の表面に反応層が形成されていることで、水と混合した後の硬化時間を短縮することができる。
【0008】
本発明の一局面にかかる粉末複合材料において、前記反応層の膜厚は、8nm以上180nm以下の範囲内であってもよい。
【0009】
上記の構成によれば、水添加時の粉末複合材料の硬化時間を、5分以上15分以下の範囲内とすることができる。
【0010】
本発明の一局面にかかる粉末複合材料において、前記反応層の膜厚は、8nm以上145nm以下の範囲内であることが好ましい。
【0011】
上記の構成によれば、水添加時の粉末複合材料の硬化時間を、10分以上15分以下の範囲内とすることができる。
【0012】
本発明の一局面にかかる粉末複合材料においては、前記リン酸水素カルシウム粒子の表面の少なくとも一部にも、前記反応層が設けられていてもよい。
【0013】
上記の構成によれば、リン酸水素カルシウム粒子の表面の少なくとも一部にも反応層が設けられていることで、リン酸水素カルシウム粒子の表面活性が上がり、より水に溶解しやすい粉末複合材料を得ることができる。
【0014】
本発明の一局面にかかる粉末複合材料は、光触媒成分をさらに含有していてもよい。この構成によれば、光触媒活性を有する粉末複合材料が得られる。光触媒活性を有する粉末複合材料は、除菌効果、防臭効果、およびセルフクリーニング効果などを有するため、塗料および建材などの材料として好適に利用されることができる。
【0015】
また、本発明のもう一つの局面にかかる粉末複合材料の製造方法は、リン酸四カルシウム、およびリン酸水素カルシウムを含有する原材料を粉砕し、得られた粉砕物を撹拌する工程を含み、前記リン酸四カルシウムの粒子の表面の少なくとも一部に反応層を形成するというものである。
【0016】
上記の製造方法によれば、リン酸四カルシウム粒子の表面の少なくとも一部に反応層が設けられている粉末複合材料を製造することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の一局面にかかる粉末複合材料は、リン酸四カルシウム粒子の表面の少なくとも一部に反応層が設けられていることで、リン酸四カルシウム粒子の表面活性が上がり、水に溶解しやすい状態とすることができる。また、リン酸四カルシウム粒子の表面に反応層が形成されていることで、粉末複合材料を水と混合した後の硬化時間を短縮することができる。そのため、本発明の一局面によれば、より取り扱いのしやすい水硬性の粉末複合材料を得ることができる。
【0018】
また、本発明のもう一つの局面にかかる粉末複合材料の製造方法によれば、リン酸四カルシウム粒子の表面活性が上がり、水に溶解しやすい状態の粉末複合材料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】一実施形態にかかる粉末複合材料を示す模式図である。
図2】実施例で製造した粉末複合材料の一部分を撮影したSEM写真である。
図3】一実施形態にかかる光触媒含有粉末塗料材料を示す模式図である。
図4】実施例で製造した粉末複合材料のTeCP粒子の表面付近の断面の状態を撮影したSTEM写真である。
図5】実施例および比較例で製造した粉末複合材料における反応層の膜厚と硬化時間との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
(粉末複合材料)
以下では、本発明にかかる粉末複合材料の一例である粉末複合材料10を例に挙げて説明する。
【0022】
粉末複合材料10は、例えば、光触媒機能などの活性機能を有する建材および塗料などの材料として利用可能な粉末状の材料である。図1には、粉末複合材料10に含まれる各含有成分を模式的に示す。
【0023】
粉末複合材料10は、リン酸四カルシウム(以下、TeCPとも呼ぶ)粒子11、およびリン酸水素カルシウム(以下、DCPAとも呼ぶ)粒子12を主成分として含む。ここで、「主成分として含む」とは、粉末複合材料10の全量を100重量%とした場合に、上記の2種類の材料の合計量が60重量%以上、好ましくは80重量%以上であることを意味する。
【0024】
TeCPおよびDCPAは、医療用生体材料などの原料として従来用いられている水硬性セメント材料の含有成分として用いられるものを適宜用いることができる。
【0025】
粉末複合材料10には、TeCPおよびDCPAという2種類の成分が主成分として含まれる。このように、TeCPおよびDCPAという2種類の材料を併用することで、水によって混練した場合に、硬化時間を短縮させることができる。なお、TeCPおよびDCPAの量比は特に限定されないが、重量比で8/2~2/8、好ましくは6/4~4/6、より好ましくは、TeCP:DCPA=2:1とすればよい。
【0026】
また、粉末複合材料10には、TeCPおよびDCPA以外の成分として、例えば、DSS(デキストラン硫酸ナトリウムイオウ)などが含まれていてもよい。また、粉末複合材料10を塗料の材料として使用する場合には、例えば、着色剤、バインダー、および接着剤などなどの塗料材料をさらに含んでいてもよい。
【0027】
TeCPおよびDCPAは、後述するように、例えば、ライカイ機、自動乳鉢、遠心ミルなどの粉砕撹拌処理装置を用いて混合粉砕処理されることで、細粒状の粉体である粉末複合材料10となる。
【0028】
図1などに示すように、粉末複合材料10に含まれるTeCP粒子11は、粉末複合材料10に含まれるDCPA粒子12よりも粒子径が大きい。TeCP粒子11の粒径は、例えば、10μm以上100μm以下の範囲内である。また、DCPA粒子12の粒径は、0.5μm以上5μm以下の範囲内である。ここでの粒径とは、各粒子におけるモード径を意味する。
【0029】
リン酸四カルシウム(TeCP)粒子11の表面の少なくとも一部には、反応層21が設けられている。この反応層21は、原材料の粉砕撹拌処理時のメカノケミカル反応によって形成される。また、図4に示すように、反応層21は、TeCP粒子11の基材部分と蒸着膜との間に存在する非晶質状の薄膜である。
【0030】
本実施形態にかかる粉末複合材料10においては、リン酸水素カルシウム粒子12の少なくとも一部にも、反応層21が設けられている(図1参照)。図1では、DCPA粒子12の一つを拡大して示している。
【0031】
なお、別の実施形態にかかる粉末複合材料では、DCPA粒子12の表面に反応層は形成されておらず、TeCP粒子11の表面の一部にのみ反応層21が形成されていてもよい。
【0032】
さらに別の実施形態にかかる粉末複合材料では、TeCP粒子11の表面に、TeCP粒子11よりも粒径の小さいDCPA粒子12の集合体が付着していてもよい。
【0033】
図2には、一実施例にかかる粉末複合材料10の一部分を撮影したSEM写真を示す。図2では、TeCP粒子の一部分(破線の四角枠部分)を拡大した写真も左側に(A)および(B)として示す。図2の(A)および(B)で示す拡大写真の破線枠で囲んだ部分は、TeCP粒子11の表面に付着しているDCPA粒子12の集合体である。
【0034】
粉末複合材料10は、水を添加することで硬化する性質(すなわち、水硬性)を有する。これは、粉末複合材料10に水を添加することで、材料中のTeCPおよびDCPAが水和反応し、ハイドロキシアパタイト(HAp)が形成されるためである。本実施形態にかかる粉末複合材料10は、TeCP粒子11などの表面に反応層21が形成されていることで、材料中のTeCP粒子11およびDCPA粒子12の表面活性が上がり、水に溶解しやすい状態になっている。そのため、より取り扱いのしやすい水硬性材料が得られる。また、反応層21が形成されていることで、水と混合した後の硬化時間を(例えば、20分以下に)短縮することができる。
【0035】
反応層21は、リン酸四カルシウム(TeCP)、およびリン酸水素カルシウム(DCPA)を含有する原材料を粉砕し、得られた粉砕物を撹拌する工程によって形成される。この工程は、例えば、ライカイ機、自動乳鉢、遠心ミルなどの粉砕撹拌処理装置を用いて行うことができる。
【0036】
この粉砕撹拌処理時の諸条件(例えば、装置の回転数、稼働時間(撹拌時間)、周囲の温度および湿度、容器の温度など)を適宜変更することで、形成される反応層21の膜厚を調整することができる。具体的には、上記の諸条件のうちの稼働時間(撹拌時間)を適宜変更して反応層21の膜厚を調整することで、水と混合した後の硬化時間を適切な時間に制御することができる。例えば、撹拌時間を15時間未満とすることで、反応層21の膜厚が大きくなり過ぎることを回避することができる。また、撹拌時間を3時間以上12時間以下とすることで、膜厚が8nm以上145nm以下の範囲内の反応層21を形成することができる。
【0037】
一例では、反応層21の膜厚は、8nm以上180nm以下の範囲内であることが好ましい。反応層21の形成工程において諸条件を適宜変更し、膜厚をこのような数値範囲内に調整することで、水添加時の粉末複合材料10の硬化時間を、5分以上15分以下の範囲内とすることができる。
【0038】
また、反応層21の膜厚は、8nm以上145nm以下の範囲内であることがより好ましい。反応層21の形成工程において諸条件を適宜変更し、膜厚をこのような数値範囲内に調整することで、水添加時の粉末複合材料10の硬化時間を、10分以上15分以下の範囲内とすることができる。
【0039】
上記のように、粉末複合材料10は水硬性を有することから、塗料、建材などの材料として利用可能性を有している。特に、反応層21の膜厚が上記のような範囲内に調整された粉末複合材料10は、例えば、水硬性塗料の材料として好適に利用することができる。これにより、水添加時の硬化時間を適切な時間に設定することのできる利便性の高い塗料が得られる。
【0040】
また、粉末複合材料10は、骨材料などの生体材料に利用することもできる。本実施形態にかかる粉末複合材料10は、添加する水の量を調整することでペースト状の形態になり得る。そのため、骨の補填材として好適に利用することができる。
【0041】
さらに、粉末複合材料10には、例えば、光触媒成分、および蛍光成分などの機能性成分が含まれていてもよい。このような機能性成分が含まれていることで、粉末複合材料10に何らかの活性機能を付与することができる。
【0042】
(光触媒成分を有する粉末複合材料)
続いて、光触媒成分を含有する粉末複合材料の一例である光触媒含有粉末塗料材料30を例に挙げて説明する。図3には、光触媒含有粉末塗料材料30に含まれる各含有成分を模式的に示す。
【0043】
光触媒含有粉末塗料材料30には、粉末複合材料10に含まれる成分(すなわち、リン酸四カルシウム(TeCP)粒子11、およびリン酸水素カルシウム(DCPA)粒子12)に加えて、光触媒成分31がさらに含まれている。
【0044】
なお、図3では図示を省略しているが、光触媒含有粉末塗料材料30中には、例えば、着色剤、バインダー、および接着剤などの塗料としての材料がさらに含まれていてもよい。
【0045】
光触媒成分31としては、例えば、二酸化チタン、チタン酸ストロンチウム、酸化タングステン、および金属酸化物(例えば、酸化亜鉛)などが挙げられる。この中でも、二酸化チタンが好適に用いられる(例えば、特許文献2(特開2004-76002号公報)参照)。
【0046】
光触媒含有粉末塗料材料30は、粉末複合材料10と同様に、水硬性を有する。また、光触媒含有粉末塗料材料30に含まれるTeCP粒子11などの表面には、反応層21が形成されている。反応層21が形成されていることで、材料中のTeCP粒子11などの表面活性が上がり、水に溶解しやすい状態になっている。そのため、より取り扱いのしやすい水硬性の塗料材料が得られる。また、反応層21が形成されていることで、水と混合した後の硬化時間を(例えば、20分以下に)短縮することができる。
【0047】
特に、光触媒含有粉末塗料材料30において、反応層21の膜厚を適宜調整することで、水添加時の硬化時間を適切な時間に設定することができる。これにより、利便性の高い塗料が得られる。光触媒含有粉末塗料材料30に含まれる各粒子(TeCP粒子11、DCPA粒子12など)の表面に形成される反応層21の膜厚は、8nm以上180nm以下の範囲内であることが好ましく、8nm以上145nm以下の範囲内であることがより好ましい。
【0048】
(粉末複合材料の製造方法)
続いて、粉末複合材料の製造方法について説明する。粉末複合材料の製造方法には、リン酸四カルシウム(TeCP)、およびリン酸水素カルシウム(DCPA)を含有する原材料を粉砕し、得られた粉砕物を撹拌する工程(以下、粉砕撹拌処理工程とも呼ぶ)が含まれる。
【0049】
粉砕撹拌処理工程を行う前には、原材料となるTeCPおよびDCPAを準備する工程が行われる。TeCPおよびDCPAは、医療用生体材料などの原料として用いられている水硬性セメントの材料として用いられるものなどを適宜用いることができる。
【0050】
リン酸四カルシウム(Ca(POO)としては、例えば、炭酸カルシウム粉末とリン酸水素カルシウム粉末との等モル混合物を所定形状に成形した後、1450~1550℃の温度範囲で焼成し、これを平均粒径が約100μm程度の粉末としたものなどを使用することができる。また、市販のリン酸四カルシウムを使用してもよい。
【0051】
リン酸水素カルシウムとして具体的には、例えば、リン酸一水素カルシウム(CaHPO)、リン酸二水素カルシウム(Ca(HPO)などが挙げられる。リン酸水素カルシウムは、リン酸水素カルシウム二水和物あるいは無水物等として市販されているものから製造することができる。また、市販のリン酸水素カルシウムを使用してもよい。
【0052】
TeCPおよびDCPAの配合比は特に限定されないが、重量比で8/2~2/8、好ましくは6/4~4/6、より好ましくは、TeCP:DCPA=2:1とすればよい。
【0053】
粉砕撹拌処理工程を行うことによって、リン酸四水素カルシウム(DCPA)の粒子の表面の少なくとも一部に反応層が形成される。この粉砕撹拌処理工程によって、リン酸水素カルシウム(DCPA)粒子の表面の少なくとも一部にも反応層を形成してもよい。粉砕撹拌処理工程は、例えば、ライカイ機、自動乳鉢、遠心ミルなどの粉砕撹拌処理装置を用いて行うことができる。
【0054】
この粉砕撹拌処理工程の諸条件(例えば、装置の回転数、稼働時間(撹拌時間)、周囲の温度および湿度、容器の温度など)を適宜変更することで、形成される反応層の膜厚を調整することができる。具体的には、上記の諸条件のうちの稼働時間(撹拌時間)を適宜変更して反応層の膜厚を調整することで、水と混合した後の硬化時間を適切な時間に制御することができる。
【0055】
粉砕撹拌処理工程を行った後には、粉末複合材料に添加されるTeCPおよびDCPA以外の含有成分が添加される。この添加工程で、例えば、光触媒成分31などの機能性成分を含有する材料が添加される。
【0056】
以上のようにして、例えば、粉末複合材料10、および光触媒含有粉末塗料材料30などの粉末複合材料が製造される。上記の製造方法によって製造される粉末複合材料は、反応層の膜厚を適宜調整することができるため、水を混合した際の硬化時間を適切な時間に制御することができる。
【0057】
〔実施例〕
以下、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、以下の実施例に限定はされない。
【0058】
本実施例では、先ず、リン酸四カルシウム(TeCP)およびリン酸水素カルシウム(DCPA)を原料として用いて、以下の方法で粉末複合材料を製造した。その後、得られた粉末複合材料を用いて硬化試験を行った。
【0059】
(粉末複合材料の製造方法)
市販のTeCP原料およびDCPA原料を、重量比でTeCP:DCPA=2:1の配合割合で使用した。この配合比で各原料をライカイ機(日陶科学株式会社社製、型番:自動乳鉢 ALM-360T)の乳鉢中に投入し、ライカイ機を稼働させ、粉砕撹拌処理を行い、粉末複合材料を製造した。ライカイ機の粉砕撹拌処理時間は、各実施例および各比較例で異なる時間に設定した。表1には、各実施例および各比較例の粉砕撹拌処理時間(撹拌時間(hr))を示す。
【0060】
ライカイ機の回転数および圧力は、装置の設定出力で行った。乳鉢の温度は、24℃±2℃の範囲内に設定した。また、処理時の周囲環境を、温度24℃±2℃の範囲内、かつ湿度60%以上の加湿雰囲気とした。
【0061】
なお、ライカイ機の処理を行うことなく、TeCP原料およびDCPA原料を同じ配合比で混合したものを比較例とした。
【0062】
各実施例および比較例で得られた粉末複合材料を走査電子顕微鏡(SEM)で観察した。また、各実施例および比較例で得られた粉末複合材料について、TeCP粒子の表面に形成された反応層を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で観察した。
【0063】
さらに、得られた電子顕微鏡の画像から反応層のサイズを測定し、以下の方法で反応層の膜厚を算出した。
膜厚=(反応層総面積)/(反応層長辺長さ)
【0064】
図4には、実施例6で得られた粉末複合材料に含まれるTeCP粒子の表面付近の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)で撮影した画像(透過像/100,000倍)を示す。なお、図2は、実施例3で得られた粉末複合材料の一部を走査電子顕微鏡(SEM)で撮影した画像(反射電子像/2,500倍)である。
【0065】
(硬化試験)
各実施例および比較例で得られた粉末複合材料に水を添加および混合して液状材料を得た。その後、得られた液状材料の硬化時間を測定した。
【0066】
硬化試験は、日本工業規格の「JIS T 6602歯科用リン酸亜鉛セメント」に準じて実施し、硬化時間を測定した。硬化試験の手順は、以下の通りである。
【0067】
(1)各実施例または各比較例で得られた粉末複合材料2gと、48wt%デキストラン硫酸ナトリウムイオウ5水溶液0.52gとを時計皿上で均一になるまで混錬する。
(2)得られた混錬体を、ガラス板上に置いた内径約10mm、高さ約5mmの円筒型に充填し、上面を平らにする。
(3)混錬開始から3分後に温度37±1℃、相対湿度95~100%の恒温恒湿器に静置する。
(4)一定時間経過後、質量300g、断面積1mmのビカー針を試験片の上面に静かに降ろす。
(5)この操作を針跡が付かなくなるまで繰り返し、試験片に針跡を残さなくなった時を混錬開始から起算して硬化時間とする。
【0068】
(結果)
表1には、各実施例および比較例で得られた粉末複合材料の反応層の膜厚(nm)と、硬化試験の硬化時間(min)と、粉砕撹拌処理の撹拌時間(hr)とを示す。図5には、各実施例および比較例で製造した粉末複合材料における反応層の膜厚と硬化時間との関係を示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1に示すように、ライカイ機による粉砕攪拌処理を行わなかった比較例1では、粉砕されたTeCP粒子などの表面に反応層が形成されなかった。一方、実施例1-6では、粉砕されたTeCP粒子などの表面に、膜厚の異なる反応層が形成された。これらの実施例の結果から、ライカイ機による粉砕攪拌処理時間が長くなるにしたがって、反応層の膜厚が大きくなることが確認された。また、ライカイ機による粉砕攪拌処理時間を15時間とした比較例2では、反応層の膜厚が200nm以上となり、硬化時間が非常に短くなる(具体的には、5分未満)となることが確認された。
【0071】
以上の結果より、ライカイ機による粉砕攪拌処理によってTeCP粒子などの表面に反応層が形成されることが確認された。この反応層は、ライカイ機による粉砕撹拌処理によって、TeCP原料およびDCPA原料が細かい粒子状となるとともに、この粉砕撹拌処理によって、TeCPおよびDCPAの結晶構造が変化して周囲の物質との化学反応が起こることで形成されると考えられる。
【0072】
また、図5に示すグラフから、反応層の膜厚は、硬化試験における硬化時間と相関を示すことが示唆された。具体的には、粒子表面に反応層を有する粉末複合材料は、反応層を有していない粉末複合材料と比較して、水と混合した後の硬化時間が短縮されることが確認された。また、反応層の膜厚が大きくなるほど、硬化時間が短くなる傾向にあることが確認された。
【0073】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、本明細書で説明した異なる実施形態の構成を互いに組み合わせて得られる構成についても、本発明の範疇に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
10 :粉末複合材料
11 :リン酸四カルシウム(TeCP)粒子
12 :リン酸水素カルシウム(DCPA)粒子
21 :反応層
30 :光触媒含有粉末塗料材料
31 :光触媒成分
図1
図2
図3
図4
図5