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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024010035
(43)【公開日】2024-01-23
(54)【発明の名称】フィコシアニンを含む酸組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/46 20160101AFI20240116BHJP
   A23L 2/58 20060101ALI20240116BHJP
   A23L 2/68 20060101ALI20240116BHJP
   A23L 2/38 20210101ALN20240116BHJP
   C07K 14/405 20060101ALN20240116BHJP
【FI】
A23L5/46 ZNA
A23L2/58
A23L2/68
A23L2/38 A
A23L2/38 B
C07K14/405
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023180342
(22)【出願日】2023-10-19
(62)【分割の表示】P 2021129656の分割
【原出願日】2016-09-22
(31)【優先権主張番号】1559072
(32)【優先日】2015-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(31)【優先権主張番号】1653525
(32)【優先日】2016-04-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(71)【出願人】
【識別番号】513127711
【氏名又は名称】フェルメンタル
(74)【代理人】
【識別番号】100094640
【弁理士】
【氏名又は名称】紺野 昭男
(74)【代理人】
【識別番号】100103447
【弁理士】
【氏名又は名称】井波 実
(74)【代理人】
【識別番号】100111730
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 武泰
(74)【代理人】
【識別番号】100180873
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 慶政
(72)【発明者】
【氏名】カニャク、オリヴィエ
(57)【要約】      (修正有)
【課題】スピルリナに由来するフィコシアニンは、5未満の酸性pHで不安定であり、着色が失われ、沈殿し、その利用が制限されるため、酸性pHで安定な新規フィコシアニンを提供する。
【解決手段】少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンとを含んでなる酸性組成物、特に酸性食品組成物であり、前記フィコシアニンが、フィコビリタンパク質であり、そのアポタンパク質が特定のアミノ酸配列のタンパク質またはその改変体を含んでなるものである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンとを含んでなる酸性組成物、特に酸性食品組成物。
【請求項2】
前記フィコシアニンが、フィコビリタンパク質であり、そのアポタンパク質が配列番号1または配列番号2のタンパク質またはその改変体を含んでなるものである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記フィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号1を含み、前記フィコシアニンのβ-サブユニットアポタンパク質が配列番号2またはその改変体を含んでなるものである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記α-サブユニットアポタンパク質が配列番号1からなり、前記β-サブユニットアポタンパク質が配列番号またはその改変体からなる、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記フィコシアニンと組み合わせて、アロフィコシアニンをさらに含んでなる、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
前記アロフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号3またはその改変体を含み、前記アロフィコシアニンのβ-サブユニットアポタンパク質が配列番号4またはその改変体を含んでなる、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記アロフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号3またはその改変体からなり、β-サブユニットアポタンパク質が配列番号4またはその改変体からなる、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
前記フィコシアニンが、イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類(または微細藻類)から抽出されたフィコシアニンである、請求項1~7のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
フィコシアニンが、イデユコゴメ(Cyanidiaceae)科またはガルディエリア(Galdieriaceae)科の藻類(または微細藻類)から抽出されたフィコシアニンである、請求項1~8のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記フィコシアニンが、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属またはガルディエリア(Galdieria)属の藻類(または微細藻類)から抽出されたフィコシアニンである、請求項1~9のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記フィコシアニンが、Cyanidioschyzon merolae 10D種、Cyanidioschyzon merolae DBV201種、Cyanidium caldarium種、Cyanidium daedalum種、Cyanidium maximum種、Cyanidium partitum種、Cyanidium rumpens種、Galdieria daedala種、Galdieria maxima種、Galdieria partita種、Galdieria sulphuraria種、優先的にはGaldieria sulphuraria種、Cyanidium caldarium種およびCyanidioschyzon merolae種の藻類(または微細藻類)から抽出されたフィコシアニンである、請求項1~10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
4以下のpHを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
2~4のpHを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
約2.5~3.5のpHを有する、請求項1~11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
前記フィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が3未満の等電点を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項16】
前記フィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が2.5未満の等電点を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項17】
前記フィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質が2.2未満の等電点を有する、請求項1~14のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項18】
固体である、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
フィコシアニン含有量が0.25mg/g~2.5mg/gである、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
液体である、請求項1~17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項21】
フィコシアニン含有量が2.5mg/L~2,500mg/Lである、請求項15に記載の組成物。
【請求項22】
請求項20または21のいずれかに記載の液体酸性組成物を含んでなる炭酸または非炭酸の飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの酸性pHに安定なフィコシアニンを含む酸性組成物、特に、酸性食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フィコシアニンは、これを添加した製品に青色を与える食品着色料である。スピルリナから抽出されたフィコシアニンは、現在のところ、米国FDAによって承認された唯一の天然青色色素である(FR Doc No:2013-19550)。フィコシアニンは、食品における青色色素の用途に、液体形態または粉末形態で販売されている。
【0003】
しかしながら、スピルリナに由来するフィコシアニンは、5未満の酸性pHで不安定であり、そのため着色が失われ、沈殿し、その利用が制限されるとの課題を有している。とりわけ、pH4付近で安定性の消失が起こる(スピルリナ由来のフィコシアニンLinablue(登録商標)の技術的な仕様;http://www.dlt-spl.co.jp/business/en/spirulina/linablue.htmlを参照)。
【0004】
その結果、スピルリナ由来のフィコシアニンを食品着色料として使用することができないか、あるいはその抗酸化特性ゆえに使用することができない、多くの酸性食品組成物、特に炭酸または非炭酸の飲料が存在する。
【0005】
酸性pHで安定な、特に、4未満の酸性pHで安定な新規フィコシアニンを見出す必要性が存在する。本明細書において、pH耐性または安定性とは、酸性pHへの最低でも10分間の暴露後における着色の消失が10%未満として測定されることである。pH安定性は、他の方法、例えば、酸性組成物中のフィコシアニンの時間の関数としての物理的特徴によって測定することができる。
【発明の概要】
【0006】
したがって、本発明は、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンを含んでなる酸性組成物、特に酸性食品組成物に関する。有利には、フィコシアニンは、アポタンパク質が配列番号1または配列番号2のタンパク質またはその改変体を少なくとも含むことができるフィコビリタンパク質であってもよい。
【0007】
本発明によれば、フィコシアニンは、具体的には、ガルディエリア科(Galdieriaceae)から抽出されたフィコシアニン、さらに具体的には、ガルディエリア属(Galdieria)から抽出されたフィコシアニンであってもよい。
【0008】
本発明の酸性組成物、特に酸性食品組成物は、固体またはペースト状、または液体、特に、場合により炭酸飲料であってもよい。
【0009】
酸性組成物、特に酸性食品組成物とは、本発明によれば、pHが4以下、有利にはpHが2~4、さらに有利には2.5~3.5の組成物を意味する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
フィコシアニンおよびアロフィコシアニンは、発色団と共有結合するアポタンパク質から構成されるαサブユニットとβサブユニットとを含むフィコビリタンパク質である。異なるフィコシアニンは、α-サブユニットアポタンパク質およびβ-サブユニットアポタンパク質の配列によって本質的に区別される。
【0011】
本発明の一つの特定の実施形態によれば、酸性組成物、特に、酸性食品組成物は、酸性pH耐性フィコシアニンを含み、そのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号1(寄託番号YP_009051179.1)を含み、β-サブユニットアポタンパク質が、配列番号2(寄託番号YP_009051180.1)またはその改変体を含む。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によれば、酸性組成物、特に、酸性食品組成物は、酸性pH耐性フィコシアニンを含み、そのα-サブユニットアポタンパク質が、配列番号1(寄託番号YP_009051179.1)からなり、β-サブユニットアポタンパク質が、配列番号2(寄託番号YP_009051180.1)またはその改変体からなる。
【0013】
本発明の別の実施形態によれば、酸性組成物、特に、酸性食品組成物は、フィコシアニンと組み合わせてアロフィコシアニンをさらに含んでいてもよい。
【0014】
有利には、上記アロフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質は、配列番号3(寄託番号YP_009051103.1)を含み、β-サブユニットアポタンパク質は、配列番号4(YP_009051104.1)またはその改変体を含む。
【0015】
本発明の別の好ましい実施形態によれば、上記アロフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質は、配列番号3(寄託番号YP_009051103.1)からなり、β-サブユニットアポタンパク質は、配列番号4(YP_009051104.1)またはその改変体からなる。
【0016】
タンパク質のアミノ酸組成は、そのアミノ酸組成に従って、タンパク質の異なる特性を与えることができる。タンパク質の特徴は、特に、そのアミノ酸組成およびその等電点(pI)に依存する。等電点は、タンパク質が正味の電荷をもたない溶液のpHであり、言い換えると、分子が電気的に中性であり、タンパク質が互いに引き寄せ合い、凝集し、沈殿するpHである。この等電点より高いpHでは、タンパク質は、負に帯電し、互いに反発する傾向がある。
【0017】
Patrickios and Yamasaki(Polypeptide Amino Acid Composition and Isoelectric Point. II.Comparison between Experiment and Theory.Analytical Biochemistry.231,1,1995:82-91.1995)に記載されるコンピュータによる手順を用いた種々のタンパク質の等電点の比較分析により、理論計算値と実験的に観察された酸性pH耐性との特定の相関関係が示される。
【0018】
本出願人により行われた試験によって、フィコシアニンの酸性pH耐性は、当該フィコシアニンのαサブユニットのアミノ酸配列と関係があることが示されている。また、フィコシアニンのαサブユニットのアミノ酸配列において、最初の26アミノ酸の同一性が特に重要であると考えられることに留意すべきである。このことは、具体的には、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属、またはガルディエリア(Galdieria)属の微細藻類の株、より具体的には、Galdieria sulphuraria株、Cyanidium caldarium株、およびCyanidioschyzon merolae株の培養によって得られるフィコシアニンの場合に当てはまる。
【0019】
したがって、有利には、本発明による組成物は、その少なくとも1つのアポタンパク質、特に、αサブユニットのアポタンパク質が、酸性pHで良好な安定性を可能にする低い等電点を有していてもよい少なくとも1つのフィコシアニンを含むことができる。
【0020】
低い等電点とは、3以下、優先的には2.5以下、さらに優先的には2.2以下の等電点を意味する。
【0021】
したがって、さらに有利には、本発明による組成物は、その少なくとも1つのアポタンパク質、特に、αサブユニットのアポタンパク質が、3以下、優先的には2.5以下、さらに優先的には2.2以下の等電点を有していてもよい少なくとも1つのフィコシアニンを含んでいてもよい。
【0022】
したがって、本発明の一つの特定の実施形態によれば、酸性組成物、具体的には、酸性食品組成物は、そのα-サブユニットアポタンパク質が低い等電点を有していてもよい少なくとも1つのフィコシアニンを含むことができ、より具体的には、そのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号1またはその改変体を含んでいてもよい少なくとも1つのフィコシアニンを含むことができる。
【0023】
したがって、本発明の別の特定の実施形態によれば、酸性組成物、具体的には、酸性食品組成物は、そのα-サブユニットアポタンパク質が低い等電点を有する少なくとも1つのフィコシアニン、より具体的には、そのα-サブユニットアポタンパク質が配列番号1または改変体からなる少なくとも1つのフィコシアニンを含む。
【0024】
改変体とは、本発明によれば、参照配列に対応するタンパク質配列、この場合において、参照配列の1つまたはそれ以上のアミノ酸の1つまたはそれ以上の置換、挿入または欠失によって改変され、当該参照配列と同じ機能特性を有する、配列番号1、配列番号2、配列番号3、または配列番号4によって表されるタンパク質を意味する。
【0025】
有利には、本発明において改変体は、フィコシアニンのαサブユニットと少なくとも83%の配列同一性を有し、フィコシアニンのβサブユニットと少なくとも82%の配列同一性を有する。
【0026】
優先的には、本発明において改変体は、α(配列番号1)サブユニットおよびβ(配列番号2)サブユニットと少なくとも90%の同一性を有する。
【0027】
同様に、アロフィコシアニンについて、改変体は、有利には、アロフィコシアニンのαサブユニットと少なくとも89%の配列同一性を有し、アロフィコシアニンのβサブユニットと少なくとも90%の配列同一性を有する。
【0028】
当業者は、一般的な方法を自由に用いた、特にBLASTPプログラムを用いた、タンパク質の配列同一性の測定方法を知っている(http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)。
【0029】
同様に、当業者は、上述の配列の改変体をどのように特定するか、そして、酸性pHにおける簡便な安定性試験によって、例えば、試験(例えば、実施例3に示される試験)を行うことによって、これらが同様な構造特性を保持していることをどのように確認するかを知っている。
【0030】
当業者は、その機能を実質的に変えることなく、少なくとも1つのアミノ酸の置換、挿入および/または欠失によってポリペプチドを改変することができることを知っている。
【0031】
例えば、あるアミノ酸を、所定の位置において化学的に等価な別のアミノ酸によって置換することは、タンパク質の特性に実質的に影響を与えない配列改変の既知の例である。
【0032】
これらの「保存的」置換は、以下のアミノ酸群の範囲内における交換として定義することができる。
- Ala、Ser、Thr、Pro、Gly
- Asp、Asn、Glu、Gln
- His、Arg、Lys
- Met、Leu、Ile、Val、Cys、および
- Phe、Tyr、Trp
【0033】
したがって、本発明のフィコシアニンおよび/またはアロフィコシアニンのアポタンパク質の改変体は、得られる改変体が参照タンパク質の特性および上述したホモロジー/同一性の割合を保持している限り、対応する参照配列に関して、特に、フィコシアニンのαサブユニットおよび/またはβサブユニットに関して1~30アミノ酸の差異を含んでいてもよい。
【0034】
さらに正確には、本発明によれば、
-置換、挿入および/または欠失から誘導される、本発明の酸性組成物に有用なフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質改変体は、得られる改変体が参照タンパク質の特性および上述した同一性の割合を保持している限りにおいて、対応する参照配列に関し、1~27アミノ酸の差異を含んでいてもよい。
-置換、挿入および/または欠失から誘導される、本発明の酸性組成物に有用なフィコシアニンのβ-サブユニットアポタンパク質改変体は、得られる改変体が参照タンパク質の特性および上述した同一性の割合を保持している限りにおいて、対応する参照配列に関し、1~30アミノ酸の差異を含んでいてもよい。
-置換、挿入および/または欠失から誘導される、本発明の酸性組成物に有用なアロフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質改変体は、得られる改変体が参照タンパク質の特性および上述した同一性の割合を保持している限りにおいて、対応する参照配列に関し、1~24アミノ酸の差異を含んでいてもよい。
-置換、挿入および/または欠失から誘導される、本発明の酸性組成物に有用なアロフィコシアニンのβ-サブユニットアポタンパク質改変体は、得られる改変体が参照タンパク質の特性および上述した同一性の割合を保持している限りにおいて、対応する参照配列に関し、1~20アミノ酸の差異を含んでいてもよい。
【0035】
より具体的には、本発明によれば、考慮される参照配列(フィコシアニンのαおよび/またはβサブユニットおよび/またはアロフィコシアニンのαおよび/またはβサブユニット)にかかわらず、上述したサブユニットの改変体は、有利には、得られる改変体が参照タンパク質の特性および上述した同一性の割合を保持している限りにおいて、対応する参照配列に関し、1~15アミノ酸の差異を含んでいてもよく、好ましくは、1~10アミノ酸の差異、特に、1、2、3、4、5、6、7、8、9または10アミノ酸の差異を含んでいてもよい。
【0036】
本発明によれば、酸性組成物、特に、酸性食品組成物において、単独で、またはアロフィコシアニンまたはその改変体と混合して、有用なフィコシアニンまたはその改変体は、目的とするフィコシアニンまたはその改変体を天然に発現する天然生物の培養によって、あるいは、フィコシアニンまたはその改変体を産生する能力について選択された、目的とするフィコシアニンまたはその改変体を発現するように遺伝子的に形質転換された生物の培養によって得ることができる。
【0037】
本発明の組成物において有用な目的とするフィコシアニンまたはその改変体を天然に発現する天然生物の例として、イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類(または微細藻類)が挙げられる。
【0038】
イデユコゴメ(Cyanidiales)目は、イデユコゴメ(Cyanidiaceae)科とガルディエリア(Galdieriaceae)科を含み、これらの科自身は、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属およびガルディエリア(Galdieria)属に細分化され、これらのメンバーは、特に、Cyanidioschyzon merolae 10D種、Cyanidioschyzon merolae DBV201種、Cyanidium caldarium種、Cyanidium daedalum種、Cyanidium maximum種、Cyanidium partitum種、Cyanidium rumpens種、Galdieria daedala種、Galdieria maxima種、Galdieria partita種およびGaldieria sulphuraria種を含む。とりわけ、Galdieria sulphuraria株(Cyanidium caldariumとも呼ばれる) UTEX番号2919が挙げられる。
【0039】
したがって、本発明の実施形態によれば、酸性組成物、特に、酸性食品組成物は、イデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類または微細藻類などの天然生物、特に、イデユコゴメ(Cyanidiaceae)科またはガルディエリア(Galdieriaceae科の藻類または微細藻類などの天然生物に由来する酸性pH耐性フィコシアニンを含む。
【0040】
より具体的には、本発明によれば、酸性組成物、特に、酸性食品組成物は、シアニディオシゾン(Cyanidioschyzon)属、シアニジウム(Cyanidium)属およびガルディエリア(Galdieria)属に属する天然生物、有利には、シアニジウム(Cyanidium)属およびガルディエリア(Galdieria)属の種から選択される天然生物に由来する酸性pH耐性フィコシアニンを含む。
【0041】
さらにより具体的には、本発明によれば、酸性組成物、特に、酸性食品組成物は、Cyanidioschyzon merolae 10D種、Cyanidioschyzon merolae DBV201種、Cyanidium caldarium種、Cyanidium daedalum種、Cyanidium maximum種、Cyanidium partitum種、Cyanidium rumpens種、Galdieria daedala種、Galdieria maxima種、Galdieria partita種、Galdieria sulphuraria種から選択される天然生物に由来する酸性pH耐性フィコシアニンを含む。
【0042】
本発明の酸性組成物、特に、酸性食品組成物の好ましい形態は、Galdieria sulphuraria、Cyanidium caldariumまたはCyanidioschyzon merolaeなどの天然微細藻類に由来する酸性pH耐性フィコシアニンを含む。さらに優先的には、酸性pH耐性フィコシアニンは、Galdieria sulphurariaおよびCyanidium caldariumから選択される天然微細藻類に由来する。
【0043】
フィコシアニンまたはその改変体を産生する能力について選択された、目的とするフィコシアニンまたはその改変体を発現するように形質転換された生物の例として、配列番号1および/または配列番号2および/または配列番号3および/または配列番号4のアポタンパク質を発現するように形質転換された微生物であって、発色団の産生およびアポタンパク質に対する発色団の結合に必要な生合成経路をも含む微生物が挙げられる。本発明の食品組成物に使用されるフィコシアニンおよび/またはアロフィコシアニンを産生するように改変することができる微生物として、特に、酵母が挙げられる。
【0044】
当業者は、本発明の組成物において有用なフィコシアニンを産生することができる天然および/または改変生物を培養するための方法の記載を従来技術から容易に見つけることができるであろう。
【0045】
例えば、イデユコゴメ(Cyanidiales)目のイデユコゴメ科(Cyanidiaceae)またはガルディエリア科(Galdieriaceae)の培養は、当業者によく知られており、有利には、混合栄養モードで行うことができ、色素の生合成には、通常、光が必要である。
【0046】
このような工業的培養は、有利には、大容積(すなわち、1,000リットル、10,000リットル、20,000リットル、100,000リットル)の発酵槽で行うことができる。培養は、当業者に知られている条件下で行うことができる。培養は、バッチモード、流加モードまたは連続モードで行うことができる。
【0047】
本発明の組成物に有用なフィコシアニンは、より具体的には、400nm~550nm、有利には420nm~500nm、優先的には430~480nm、さらに優先的には約455nmの波長を有する光を用いた、上述の混合栄養モードで培養されたイデユコゴメ(Cyanidiales)目の藻類の培養によって得られるバイオマスから抽出することができる。光は、上述の波長の光を含む広いスペクトルを有する「白色」光であってもよい。光は、有利には、上述の波長を含む狭いスペクトルの光であってもよい。
【0048】
混合栄養モードでイデユコゴメ目(Cyanidiales)バイオマスを工業的に調製するためのこのような方法と、そのようにして得られるバイオマスは、特に、2015年9月25日に出願された特許出願FR 15 59072号に記載され、その内容は参照することにより本明細書に組み込まれる。
【0049】
本発明の目的は、酸性pHでフィコシアニンが安定である組成物を提供することである。酸性組成物とは、本発明によれば、鉱物酸または有機酸とフィコシアニンとを含む任意の組成物を意味する。この組成物は、液体、流体、または粘状体、ペースト状体または固体であってもよく、酸性pHを有し、その中に酸性pH耐性フィコシアニンが組み込まれる。
【0050】
水性液体組成物の場合、pHは、通常の方法で測定される。非水性液体組成物の場合、またはペースト状または固体の組成物の場合、pHは、組成物を、鉱物酸または有機酸およびフィコシアニンを含む、当該組成物中に含まれる可溶性化合物を溶解するのに十分な量の水に溶解した後に測定される。
【0051】
有利には、本発明の組成物は、水性液体組成物、場合により、水溶液または水を含むペースト状もしくは固体の組成物に溶解するように設計されたゲル形態、またはペースト状もしくは固体の組成物である。本発明の別の有利な実施形態によれば、酸性組成物のペースト状または固体の組成物は、湿潤環境で使用され、および/または保存されることを意図している。
【0052】
本発明の組成物に有用な鉱物酸または有機酸は、当業者によく知られている。鉱物酸の例としては、特に、カルボン酸、リン酸、塩酸、硫酸、過塩素酸、スルホン酸および硝酸が挙げられる。有機酸の例としては、特に、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、有利には、クエン酸が挙げられる。
【0053】
酸性食品組成物とは、本発明によれば、ヒトまたは動物によって摂取されるように設計され、上の定義に含まれる任意の組成物を意味する。栄養補給酸性組成物は、本発明の範囲内において、酸性食品組成物の定義に含まれるものと扱われるべきである。
【0054】
本発明の酸性食品組成物は、当業者によく知られている。本発明の酸性食品組成物は、担体を含んでいてもよく、この担体は、ヒトまたは動物に有益な、酸性食品組成物の栄養供給または健康特性のために特定される活性化合物に関連する構成成分を含んでいてもよい。本発明の酸性食品組成物は、食品添加剤、例えば、テクスチャー付与剤、香味剤、防腐剤、または当業者によく知られている任意の成分も含んでいてもよい。担体は、水、および/またはタンパク質、および/または脂肪、および/または繊維、および/または糖類を含んでいてもよい。担体の成分は、構造的特性を有するだけではなく、一般的に、栄養補給物としても知られている。
【0055】
本発明の酸性食品組成物は、すぐに使えるものであってもよく、あるいは、食用の食品を調製するために固体、ペースト状または液体調製物に添加される食品添加物の形態であってもよい。
【0056】
食品組成物の場合、酸は、好ましくは、食品用に認可された酸味料のリストから選択され、特に、炭酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸および乳酸、より具体的にはクエン酸から選択される。
【0057】
本発明の非食品酸性組成物に関し、当該非食品酸性組成物は、特に、医薬品組成物、獣医薬品組成物または化粧品組成物であってもよく、また、このような組成物において既に知られ又は使用されている任意の添加剤および/または活性剤を含んでいてもよい。
【0058】
本発明の固体、液体またはペースト状の酸性組成物において、フィコシアニンは、例えば、粉末形態で組み込むことができる。したがって、この酸性組成物、特に、酸性食品組成物は、クリーム、ゲル、フォーム、ペーストなどの任意の既知の従来の形態であってもよい。固体食品組成物の例としては、ケーキまたはビスケット、料理用の乾燥食品、可溶性粉末、ゼラチン状固体組成物(ゼリー)、フォームなどが挙げられる。
【0059】
本発明によれば、上述の液体酸性組成物は、フィコシアニンが溶解した水性組成物であってもよい。この液体酸性組成物は、すぐに使える組成物または希釈用の液体濃縮物の形態、特に、摂取されるか、あるいは、調製または摂取のために固体食品に添加される、例えば、色を付与するためにケーキに適用される濃縮した液体「トッピング」組成物の形態であってもよい。これら濃縮した組成物の中には、シロップ、場合により、アルコールを含むシロップが含まれる。
【0060】
本発明の液体酸性組成物は、種々の粘度を有していてもよく、場合により、添加剤、例えば、増粘剤、ゲル化剤、および当業者に知られており、液体食品組成物の調製に典型的な他の構造添加剤を含んでいてもよい。
【0061】
本発明の特定の実施形態によれば、液体食品組成物は、場合により、炭酸酸性飲料であってもよい。特に、ソーダ、ジュース、スポーツドリンク、エナジードリンク、リカバリードリンクなどが挙げられる。これらの飲料の組成は、当業者によく知られており、特に、糖類、鉱物塩類、食品添加剤、溶存ガスなどを含んでいてもよい。本発明の飲料は、通常使用される着色料を、本発明の酸性pH耐性フィコシアニンによって完全に又は部分的に置き換えた、従来の酸性飲料である。
【0062】
本発明によれば、本発明の組成物中のフィコシアニン含有量は、当業者の実施行為に合致させることができる。
【0063】
例えば、フィコシアニンを使用して酸性組成物を着色する場合、この組成物中のフィコシアニン含有量は、着色に関する当業者の実施行為に合致させることができる。
【0064】
本発明の範囲内の液体酸性組成物において、フィコシアニン含有量は、2.5mg/L~2,500mg/L、優先的には25mg/L~300mg/Lであってもよい。
【0065】
すぐに使える飲料タイプの液体組成物において、フィコシアニン含有量は、一般的に25mg/L~300mg/L、優先的には50mg/L~100mg/Lであってもよい。
【0066】
使用前に希釈する用途の濃縮した液体組成物(例えば、シロップ)において、フィコシアニン含有量は、一般的に250mg/L~2,500mg/L、優先的には500mg/L~1,000mg/Lであってもよい。
【0067】
固体組成物において、フィコシアニン含有量は、一般的に0.01mg/g~10mg/g、優先的には0.1mg/g~5.0mg/g、さらに優先的には0.25mg/g~2.5mg/gであってもよい。
【0068】
本発明の利点の1つは、以下の実施例からわかるように、酸性pH耐性フィコシアニンによって付与される着色が、経時的に安定であるという事実にある。
【0069】
本発明の他の態様および特徴は、実施例および図面を読むことで明らかとなるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0070】
図1図1は、以下を含むGaldieria sulphurariaのフィコシアニンおよびアロフィコシアニンのアポタンパク質のアミノ酸配列を記載する: 配列番号1:YP_009051179.1:フィコシアニンのαサブユニット; 配列番号2:YP_009051180.1:フィコシアニンのβサブユニット; 配列番号3:YP_009051103.1:アロフィコシアニンのαサブユニット; 配列番号4:YP_009051104.1:アロフィコシアニンのβサブユニット。
図2図2は、スピルリナ由来のフィコシアニンLinablue(登録商標)の安定性曲線との関連で、Galdieria sulphuraria(UTEX2919)およびCyanidioschyzon merolae(ACUF 199)から抽出されたフィコシアニン(そのアポタンパク質配列は、配列番号1または改変体からなる)のpHの関数としての安定性曲線を示す: (-■-):Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)由来のフィコシアニン (・・・X・・・):Cyanidioschyzon merolae(ACUF 199)由来のフィコシアニン (--○--):Lina Blue(登録商標):Spirulina platensis(Arthrospira platensis)由来のフィコシアニン(ウェブサイトhttp://www.dlt-spl.co.jp/business/en/spirulina/linablue.htmlから得たデータ)。フィコシアニンの沈殿が現れるpH値を示している。
図3図3は、フィコシアニンを含む酸性飲料の経時的色変化を表す。W0、W2、W4およびW6:0週、2週、4週および6週。
【実施例0071】
実施例1:Galdieria sulphuraria UTEX番号2919からのフィコシアニンの産生および抽出
材料および方法
:Galdieria sulphuraria(Cyanidium caldariumとも呼ばれる) UTEX番号2919
【0072】
培地
混合栄養:30g/Lのグリセロール、8g/Lの(NHSO、1g/LのKHPO、716mg/LのMgSO、44mg/LのCaCl、3mL/LのFe-EDTAストック溶液(6.9g/LのFeSOおよび9.3g/LのEDTA-Na)および4mL/Lの微量金属溶液(3.09g/LのEDTA-Na;0.080g/LのCuSO・5HO;2.860g/LのHBO;0.040g/LのNaVO・4HO;1.820g/LのMnCl;0.040g/LのCoCl・6HO;0.220g/LのZnSO・7HO;0.017g/LのNaSeO;0.030g/Lの(NHMo24・4HO)。
【0073】
培養条件:
培養は、コンピュータ制御された自動化システムを備える、有効体積が1L~2Lのリアクターで行う。培養物のpHは、塩基(14%アンモニア溶液(wNH/w))および/または酸(4N硫酸溶液)を添加することによって制御する。培養温度は、37℃に設定する。培養物は、WO2014/174182号公報に記載の方法と同様の方法で、白色LEDまたは青色LED(455nm)のシステムを取り付けたバッフルによって照射される。800nmでの吸光度を測定することによって、異なる時間で細胞成長の追跡を行う。乾燥質量の測定は、濾過によって行われる。
【0074】
成長終了時の培養物の性能特徴を以下の表1にまとめる。
【表1】
【0075】
乾燥物質1グラムあたりの細胞内フィコシアニン含有量の測定は、リン酸緩衝液を水と置き換えつつ、Moonおよび共同研究者らによって記載された抽出およびアッセイ方法を用いて行った[Moonら、Korean J.Chem.Eng.、2014、1-6]。
【0076】
実施例2:フィコシアニンの抽出
Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)株および/またはCyanidioscyizon merolae(ACUF199)株を実施例1の条件下で培養した。
【0077】
次いで、Moonら、2014(前掲)に記載されるプロトコルの改変法に従って、フィコシアニンを抽出する。この改変は、フィコシアニンを可溶化するために使用されるリン酸緩衝液を脱イオン水と置き換えることからなる。
【0078】
このようにして、目的のフィコシアニンに加え、他の水溶性タンパク質を含む抽出物(「フィコシアニン抽出物」または「粗抽出物」とも呼ぶ)が得られる。フィコシアニン抽出物は、使用される抽出および/または精製方法に依存して、いくつかの可能な品質を有していてもよい。例えば、粗抽出物は、精製された抽出物中にみられる量よりも多くのフィコシアニン以外の水溶性タンパク質を含有してもよい。精製された抽出物とは、フィコシアニンを保持しつつ、水溶性タンパク質の一部が、超濾過、中空繊維濾過またはイオン交換クロマトグラフィー、当業者に知られている方法によって除去された粗抽出物を意味する。
【0079】
純度指数は、慣習的に、全タンパク質レベルの理想値を与える芳香族アミノ酸の比吸光度である280nmでの溶液の吸光度に対する618nmでの溶液の吸光度(フィコシアニンの比吸光度)の比率を計算することによって表される。この比が小さいほど、溶液中のフィコシアニン以外のタンパク質の量が多い。
【0080】
粗抽出物を、Spectrum(登録商標)Labs製のKrosFlo(登録商標)タンジェンシャルフローフィルトレーションシステムを用いて精製した。
【表2】
【0081】
実施例3:Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)株、Cyanidioschyzon merolae(ACUF199)株、およびSpirulina(Arthrospira) platensis株から抽出したフィコシアニンの、pHの関数としての安定性試験
Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)株およびCyanidioschyzon merolae(ACUF199)株を実施例1の条件下で培養した。
【0082】
DICライフテック株式会社(東京、日本)製の、Spirulina(Arthrospira) platensisから抽出されたフィコシアニンである商品LinaBlue(登録商標)のデータ(http://www.dlt-spl.co.jp/business/en/spirulina/linablue.html)を参照として採用することによって、試験を行う。
【0083】
実施例2で調製した、純度指数が2.12のフィコシアニンを用いてこれらの試験を行った。青色の測定は、ultraspec 2100 pro spectrophotometer(Amersham製)を用い、618nmでの吸光度を測定することによって行う。色の消失率は、参照条件(pH6)下でのサンプルの吸光度測定に対して計算される。
【0084】
酸性条件下での耐性試験のために、5%クエン酸溶液(Sigma 251275)をフィコシアニン調製物に加えることによって、pHを徐々に下げる。それぞれのpH値について、フィコシアニン溶液のサンプルを集め、pHを所望の値まで下げてから10分後、618nmでの吸光度を測定する。
【0085】
これらの試験の結果を図2に示す。
【0086】
Galdieria sulphuraria(UTEX番号2919)から抽出したフィコシアニン[(-■-)]は、Spirulinaから抽出したフィコシアニンと比較して、非常に良好なpH耐性を示し、pH2.75までで着色の消失は10%未満であり(pH3で元の着色の98.25%、pH2.75で92.4%を保持している)、pH2.5では消失が増大する(pH2.5で79%;pH2.25で75%;pH2で46%)。
【0087】
Cyanidioschyzon merolae(ACUF 199)株から抽出したフィコシアニン[(・・・X・・・)]は、Spirulinaから抽出したフィコシアニンと比較して、良好なpH耐性を示し、pH3で元の着色の90%超、pH2.75で70%;pH2.5で40%;pH2.25で23%;pH2で20%を保持する。
【0088】
Spirulina platensis株から抽出したフィコシアニン[(--○--)]は、pH4で元の着色の90%だけを示し、pH3.8で80%;pH3.6で60%;pH3.4で38%を示す。Spirulina platensisから抽出したフィコシアニンは、pH3.8で沈殿し始める。
【0089】
結論として、Galdieria sulphurariaまたはCyanidioschyzon merolaeのフィコシアニンは、Spirulinaから抽出したフィコシアニンよりも酸性pHに対する耐性が高い。
【0090】
実施例4-異なる微細藻類に由来するフィコシアニンおよびアロフィコシアニンのアポタンパク質配列の比較分析並びにそれらの等電点の測定
酸性pHに対する耐性の増加について、可能性のある原因を特定するために、種々の微生物、とりわけ微細藻類によって産生されるフィコシアニンおよびアロフィコシアニンのαサブユニットおよびβサブユニットの配列の比較を、データベースでアクセス可能な公開された配列(寄託番号を参照)に基づき、当業者に周知のBLASTPプログラムを用いて行ったこの比較は、Galdieria sulphuraria株の対応するサブユニットのアポタンパク質配列に関連して行われる。
【0091】
同時に、配列比較を行ったフィコシアニンおよびアロフィコシアニンのα-サブユニットアポタンパク質およびβ-サブユニットアポタンパク質の等電点を、PatrickiosおよびYamasaki(1995)によって記載されるコンピュータによる手順によって決定した。
【0092】
Galdieria sulphuraria株によって産生されるフィコシアニンおよびアロフィコシアニンは、これらの試験において参照とする。
【0093】
結果
配列比較およびpI計算の結果を以下の表3および表4に示す。
【表3】
【表4】
【0094】
配列および等電点の比較により、酸性pHに最も耐性があるフィコシアニンのαサブユニットは、3未満の等電点、およびGaldieria sulphurariaとの高い割合の配列同一性を有することが示される。
【0095】
実施例5:飲料における経時的安定性
UTEX番号2919株から抽出したフィコシアニンについて、フィコシアニンをレモネード飲料(pH2.95;実施例6の飲料1に記載されるもの)に加えることによって、酸媒体中での経時的安定性試験を行った。アポタンパク質配列が配列番号1の改変体からなるフィコシアニンを0.025%加えた後、この飲料を、人工光を用いた昼/夜サイクル(16時間/8時間)に室温で6週間さらした。
【0096】
618nmでの吸光度を測定するために、経時的に規則的なサンプルを採取する。0週(W0)、2週(W2)、4週(W4)、6週(W6)に一定量を採取し、100%の着色点を定めるために、618nmでの吸光度をultraspec 2100 pro spectrophotometer(Amersham製)で測定する。残った色は、初期の参照値の割合として表される。
【0097】
この実験の結果を図3に示す。光に長期間さらすと、色が経時的に着実に消失することが確認される。一方、6週間さらした後は、60%超の色が残っている。
【0098】
実施例6:フィコシアニンを含む液体形態での酸性飲料の例
フィコシアニンを含有する飲料は、以下の組成を有していてもよい:
飲料1-ソーダ飲料:
-炭酸水 適量(1L)
-糖類 70g
-クエン酸 1.5g
-天然有機フレーバー 4~8g
-実施例2で得られたフィコシアニン抽出物 適量 フィコシアニン100mg
この飲料のpHは2.95である。
飲料2-アスリートのための健康飲料
-天然水 適量(1L)
-グルコース 20g
-フルクトース 10g
-クエン酸 2.7g
-クエン酸ナトリウム 1.87g
-クエン酸カリウム 0.327g
-塩化マグネシウム 2.5mg
-塩化カルシウム 3mg
-天然有機フレーバー 4g
-実施例2で得られたフィコシアニン抽出物 適量 フィコシアニン150mg
この飲料のpHは3.5である。
【0099】
実施例6:フィコシアニンを含む可溶性粉末形態での酸性飲料
-糖類 70~100g
-クエン酸 1~1.5g
-天然有機フレーバー 4~8g
-実施例2で得られたフィコシアニン抽出物 適量(250mgのフィコシアニン)
このようにして調製された粉末(75~110g)を1Lの水に溶解し、青色の酸性飲料を得ることができる。
【0100】
実施例7:フィコシアニンを含む固体酸性組成物:酸性甘味料
-水 適量(1kg)
-糖類 800g
-クエン酸 1~2g
-実施例2で得られたフィコシアニン抽出物 適量 フィコシアニン2,500mg
【0101】
参考文献
- Moon et al., Korean J. Chem. Eng., 2014, 1-6
- Patrickios et Yamasaki, Polypeptide Amino Acid Composition and Isoelectric Point. II. Comparison between Experiment and Theory. Analytical Biochemistry. 231, 1, 1995: 82-91
- FR Doc No: 2013-19550
- WO 2014/174182
- FR 15 59072 filed on 25 September 2015
- http://www.dlt-spl.co.jp/business/en/spirulina/linablue.html
- http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi
図1
図2
図3
【配列表】
2024010035000001.xml
【手続補正書】
【提出日】2023-11-17
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの鉱物酸または有機酸と、少なくとも1つの酸性pH耐性フィコシアニンとを含んでなる酸性組成物、特に酸性食品組成物。