(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100357
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】2アーム式オートテンショナ
(51)【国際特許分類】
F16H 7/12 20060101AFI20240719BHJP
C08L 21/00 20060101ALI20240719BHJP
C08K 7/02 20060101ALI20240719BHJP
C08L 77/10 20060101ALI20240719BHJP
【FI】
F16H7/12 A
C08L21/00
C08K7/02
C08L77/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004304
(22)【出願日】2023-01-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005061
【氏名又は名称】バンドー化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】立石 宜大
(72)【発明者】
【氏名】北平 大河
【テーマコード(参考)】
3J049
4J002
【Fターム(参考)】
3J049AA01
3J049AB03
3J049BB05
3J049BB10
3J049BB13
3J049BC03
3J049BH02
3J049CA03
4J002AC071
4J002AC091
4J002AC111
4J002AC121
4J002BB151
4J002BD131
4J002BG101
4J002CK021
4J002CL062
4J002FA042
4J002FD010
4J002FD012
4J002FD140
4J002FD150
4J002GM00
(57)【要約】
【課題】2つ以上のプーリを有するベルトレイアウトで、駆動源を2箇所有するベルトシステム用の2アーム式オートテンショナにおいて、運転モード切替時の衝突音を低減する。
【解決手段】テンショナ本体15と、テンショナ本体15に揺動可能に連結される一対のアーム12,14と、一対のアーム12,14及びテンショナ本体15の一方のストッパ収容凹部20に嵌め込まれ、一対のアーム12,14及びテンショナ本体15の他方に衝突してアームの挙動を止めるストッパ31,32とを設ける。そして、ストッパ31,33を、短繊維が荷重方向に対して垂直方向且つストッパ収容凹部20の側壁のない方向に配向されるゴムよりなるものにする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つ以上のプーリを有するベルトレイアウトで、駆動源を2箇所有するベルトシステム用の2アーム式オートテンショナであって、
テンショナ本体と、
前記テンショナ本体に揺動可能に連結される一対のアームと、
前記一対のアーム及び前記テンショナ本体の少なくとも一方のストッパ収容凹部に嵌め込まれ、前記一対のアーム及び前記テンショナ本体の他方に衝突して前記アームの挙動を止めるストッパとを備え、
前記ストッパが、短繊維が荷重方向に対して垂直方向且つ前記ストッパ収容凹部の側壁のない方向に配向されるゴムよりなる
ことを特徴とする2アーム式オートテンショナ。
【請求項2】
前記ストッパが、JIS3号の3%モジュラスの列反比が14以上であるゴムよりなる
ことを特徴とする請求項1に記載の2アーム式オートテンショナ。
【請求項3】
前記ストッパが、ゴム100質量部に対して前記短繊維を最大で40質量部含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の2アーム式オートテンショナ。
【請求項4】
前記短繊維が、アラミド系短繊維である
ことを特徴とする請求項1に記載の2アーム式オートテンショナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2アーム式オートテンショナに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、テンショナアームに取り付けられ、基部の膨出部と衝突することで、テンショナアームの挙動を抑えるようにした熱可塑性ポリエステルエラストマーのストッパを有する2アーム式オートテンショナは知られている(例えば、特許文献1及び2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/20596号
【特許文献2】特表2019-525098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1及び2の2アーム式オートテンショナでは、衝突に対する耐久性を重視した熱可塑性ポリエステルエラストマーよりなるストッパであるため、硬すぎて運転モード切替時の衝突音が大きいという問題がある。
【0005】
一方で、柔らかいゴム材料でストッパを形成すると、メンテナンス作業などによりオイルが付着して膨らんでしまって本来の特性を維持できず、衝突音を十分に低減できないこともある。
【0006】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、2アーム式オートテンショナにおける、運転モード切替時の衝突音を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明では、最適な配向方向で短繊維をゴム製のストッパに含有させるようにした。
【0008】
また、オイルが付着した場合であっても、衝突音を低減できるストッパを用いるようにした。
【0009】
具体的には、第1の発明では、2つ以上のプーリを有するベルトレイアウトで、駆動源を2箇所有するベルトシステム用の2アーム式オートテンショナを対象とする。
【0010】
そして、上記2アーム式オートテンショナは、
テンショナ本体と、
前記テンショナ本体に揺動可能に連結される一対のアームと、
前記一対のアーム及び前記テンショナ本体の少なくとも一方のストッパ収容凹部に嵌め込まれ、前記一対のアーム及び前記テンショナ本体の他方に衝突して前記アームの挙動を止めるストッパとを備え、
前記ストッパは、短繊維が荷重方向に対して垂直方向且つ前記ストッパ収容凹部の側壁のない方向に配向されるゴムよりなる。
【0011】
上記の構成によると、衝突初期は、ゴム自体の弾性を生かして衝撃を吸収しつつ、その後は、含有する短繊維の補強により、延びを抑えて過度な変形を抑えることができる。なお、「垂直方向」は、厳密に荷重方向に対して90度という意味ではなく、±10°程度の傾きがあってもいいことを意味する。「ストッパ収容凹部の側壁のない方向」は、側壁がなくてストッパが変形しやすい方向である。
【0012】
第2の発明では、第1の発明において、
前記ストッパは、JIS3号の3%モジュラスの列反比が14以上であるゴムよりなる。
【0013】
ここで、「JIS3号の3%モジュラスの列反比」は、ゴム材料を圧延するときにロールに通す方向である列理方向と、この列理方向に垂直な反列理方向の、3%伸び時のJIS3号のモジュラスのデータをとったときの比を意味する。そして、列反比が14よりも小さいと短繊維が荷重方向に対して十分に適切な方向に配向されていないため、過度な変形を抑える効果を適切に発揮できないが、上記の構成によると、列反比が14以上に保たれているので、短繊維が荷重方向に対して十分な割合で適切な方向に配向されており、過度な変更を抑える効果が極めて効果的に発揮される。
【0014】
第3の発明では、第1の発明において、
前記ストッパは、ゴム100質量部に対して短繊維を最大で40質量部含有する構成とする。
【0015】
ストッパが短繊維をゴム100質量部に対して短繊維を最大で40質量部よりも多く含有すると、逆に剛性が高くなりすぎて衝突時の音が大きくなる。しかし、上記の構成によると、短繊維の含有量をゴム100質量部に対して短繊維を40質量部以下に抑えているので、適度な柔らかさが保たれ、衝突時の騒音低減効果が効果的に発揮される。
【0016】
第4の発明では、第1の発明において、
前記短繊維は、アラミド系短繊維とする。
【0017】
上記の構成によると、アラミド短繊維は、高強力、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性などの特性を持つ高機能繊維であるため、ゴムの補強材として適している。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明によれば、2アーム式オートテンショナにおける、運転モード切替時の衝突音を効果的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施形態に係る2アーム式オートテンショナを含むベルトレイアウトを示す正面図である。
【
図2】第2テンショナアームをテンショナ本体に取り付けた状態を示す背面図である。
【
図4A】第2テンショナアームを示す正面図である。
【
図4B】第2テンショナアームを示す背面図である。
【
図5】ストッパを示し、(a)が斜視図で、(b)が正面図で、(c)が平面図である。
【
図6】(a)がストッパに含有される短繊維の配向方向を示す斜視図で、(b)が短繊維の配向方向と耐久性との関係を示す表である。
【
図7】比較例及び実施例の材料配分を示す表である。
【
図8】短繊維の配向方向がDのときの、荷重に対する変位の非線形特性を示すグラフである。
【
図9】実施例に係る膨潤状態の寸法変化を調べる試験の結果を示すグラフである。
【
図10】実施例1及び2の材料配分及び列反比を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0021】
図1は、例えば、2つ以上のプーリを有するベルトレイアウトで、駆動源を2箇所有する、車両のエンジンEの補機を駆動するベルトシステム2を示す。エンジンEのクランク軸4aには、クランクシャフトプーリ4が回転一体に設けられており、ベルト3を介して2つ以上の補機(詳細図示せず)を駆動するようになっている。補機は、電動機/発電機ユニット(MGU)、空調圧縮機、ウォーターポンプ、パワーステアリングポンプ等を含むことができる。本実施形態では、エンジンEが第1駆動源で、MGUが第2駆動源となる。これら第1及び第2駆動源の駆動状況によって第1運転モードと第2運転モードとで切り替えられる。
【0022】
詳しくは図示しないが、本実施形態では、エンジンEはMGUである第1補機及び空調圧縮機である第2補機の2つの補機を有するが、補機は、3つ以上あってもよい。例えば、
図1に示すように、ベルト3は、クランクシャフトプーリ4、第1補機プーリ5及第2補機プーリ6に係合する。補機が増えると、対応するプーリにベルト3が係合することになる。
【0023】
通常の作動状態では、ベルトシステム2は、ベルトシステム2をエンジンEによって駆動する第1運転モードで作動可能であり、ベルト3により第1補機プーリ5を駆動する。この第1運転モードにおいて、第1ベルトスパン3aにおける張力は、第2ベルトスパン3bにおける張力よりも小さい。第1補機は、エンジンEに駆動されることから、例えば、車両のバッテリを充電するために、第1運転モードでオルタネータとして作動可能である。
【0024】
一方、第1補機が電動モータとして第2運転モードで作動する場合、第1補機プーリ5を駆動し、その結果、ベルト3を駆動する。この場合、逆に第2ベルトスパン3bの張力は、第1ベルトスパン3aの張力よりも小さくなる。
【0025】
図1に示すように、ベルトシステム2には、オートテンショナ10が設けられている。オートテンショナ10は、例えば、
図2、
図3A及び
図3Bに示すような、平面視略C字状のテンショナ本体15を備え、このテンショナ本体15が、第1補機又は何らかの被固定部材に対して締結等により取り付けられる。テンショナ本体15の材質は特に限定されないが、本実施形態ではアルミニウム合金などの金属製である。
【0026】
テンショナ本体15には、
図1及び
図2に示すように、長手方向中間部分に第1揺動軸挿通孔12aを有する第1テンショナアーム12と、長手方向中間部分に第2揺動軸挿通孔14aを有する第2テンショナアーム14とが、それぞれアーム揺動軸17をテンショナ本体15の揺動軸挿通孔15aにそれぞれ挿通させた状態で揺動可能に連結されている。
【0027】
そして、第1テンショナプーリ11が、第1テンショナアーム12の先端の第1プーリ軸11aを中心に回転自在に取り付けられている。また、第2テンショナプーリ13が、第2テンショナアーム14の先端の第2プーリ軸13aを中心に回転自在に取り付けられている。
【0028】
第1及び第2テンショナアーム12,14は、それぞれ、基端側に付勢部材固定端部12b,14bがそれぞれ突出形成され、両者に圧縮コイルバネに代表されるテンショナ付勢部材16が圧縮された状態で取り付けられている。これにより、第1及び第2テンショナプーリ11,13は、
図1に示すように、第1及び第2付勢方向X1,X2にそれぞれ付勢される。より具体的には、テンショナ付勢部材16は、テンショナ付勢力Fを第1及び第2テンショナアーム12,14に、それぞれの第1付勢方向X1及び第2付勢方向X2で付与することができるようになっている。
【0029】
テンショナ付勢部材16は、
図1に示した線形圧縮コイルバネだけではなく、捩りコイルバネ等で構成してもよい。
【0030】
図1に示す実施形態において、第1テンショナプーリ11及び第2テンショナプーリ13は、テンショナ付勢部材16によって第1及び第2付勢方向X1,X2にベルト3を押し付けると共に、ベルト3から反力を受けることで、ベルト3が緩まないように張力を保つ役割を果たしている。
【0031】
図2に示す実施形態において、オートテンショナ10は、第1付勢方向X1の反対方向(第1負荷停止方向)の第1テンショナアーム12の移動を制限するように配置されている第1ストッパ31を含む。同様に、オートテンショナ10は、第2付勢方向X2の反対方向(第2負荷停止方向)の第2テンショナアーム14の移動を制限するように配置されている第2ストッパ32を含む。
【0032】
テンショナ本体15は、第1ストッパ31の第1衝突面33及び第2ストッパ32の第2衝突面34に対向する位置に膨出した膨出部21をそれぞれ有する。これら一対の膨出部21が、運転モード切替時などに、それぞれ、第1テンショナアーム12に取り付けられた第1ストッパ31の第1衝突面33及び第2テンショナアーム14に取り付けられた第2ストッパ32の第2衝突面34と当接可能となっている。
【0033】
なお、オートテンショナ10に作用する力は、特許文献2等に詳しく記載されているが、ここでは省略する。
【0034】
ベルトシステム2は、第1運転モードでは、クランクシャフトプーリ4は、ベルト3を駆動し、(MGUなどの)第2駆動装置は、ベルト3を駆動せず、ベルト3の第1ベルトスパン3aの張力は、ベルト3の第2ベルトスパン3bの張力よりも小さい。また、ベルトシステム2は、第2駆動装置がベルト3を駆動する第2運転モードで作動することができる。一部の実例において、第2運転モード中(例えば、BAS事象中)、クランクシャフトプーリ4は、ベルト3を駆動しない。第2運転モード(例えば、ブースト事象中)の一部の実例において、クランクシャフトプーリ4は、第2駆動装置と連動してベルト3を駆動する。
【0035】
第1及び第2衝突面33,34は、ベルトシステム2が第1運転モードで作動する時間の少なくとも一部において、第2衝突面34が膨出部21に衝突し、第1衝突面33が膨出部21から離間する。一方、ベルトシステム2が第2運転モードで作動する時間の少なくとも一部において、第2衝突面34が膨出部21から離間し、第1衝突面33が膨出部21に衝突するように位置決めされている。また、一部の実施形態において、第1及び第2衝突面33,34は、ベルトシステム2が第1運転モードで作動する実質的に全ての時間において、第2衝突面34が膨出部21と当接し、第1衝突面33が膨出部21から離間するように位置決めされている。さらに、一部の実施形態において、第1及び第2衝突面33,34は、ベルトシステム2が第2運転モードで作動する時間の一部において、第2衝突面34が膨出部21と接触し、第2衝突面34が膨出部21から離間するように位置決めされている。
【0036】
-ストッパの構成-
図5(a)~
図5(c)に第2ストッパ32の形状を示す。本実施形態では、第1ストッパ31は、第2ストッパ32と同じ形状をしているので、その説明は省略するが、両者は、異なる大きさや形状を有していてもよい。
【0037】
第2ストッパ32は、
図5(b)における水平面で切断した形状が矩形型で、基端部32aから衝突面34に向かって徐々に幅が増加しており、衝突面34は、正面視で円弧状の曲面を有する。
図4Bに示すように、テンショナ本体のストッパ収容凹部20に嵌め込んだとき、基端部32a側がきっちりとストッパ収容凹部20に嵌まり込み、衝突面34側はストッパ収容凹部20内面との間に若干の隙間が保たれている。これは、衝突時の第2ストッパ32の潰れ代を保つ役割も果たす。
【0038】
ストッパ収容凹部20に嵌め込んだときにストッパ収容凹部20の周縁側となる側面は、面取り32bが施されている。これは、側面の角部が第2テンショナアーム14等のストッパ収容凹部に干渉なく挿入できるようにするためである。
【0039】
ストッパ31,32の形状自体は、本実施形態のものに限定されず、ストッパ収容凹部20の形状や大きさに合わせた形状を有していてもよい。
【0040】
本実施形態では、上述した第1運転モードと第2運転モードとの間の切替の際に第1テンショナアーム12の第1衝突面33が、テンショナ本体15の膨出部21に衝突し、又は、第2テンショナアーム14の第2衝突面34が、テンショナ本体15の膨出部21に衝突する。
【0041】
そして、本実施形態の特徴として、ストッパ31,32は、短繊維が荷重方向に対して垂直方向且つストッパ収容凹部20の側壁のない方向に配向されるゴムよりなる。ここで、垂直方向は、厳密に荷重方向に対して90度という意味ではなく、±10°程度の傾きがあってもいいことを意味する。「ストッパ収容凹部20の側壁のない方向」は、本実施形態では、ストッパ31,32の基端側が露出している、テンショナアーム12,14の厚さ方向(
図6(a)の配向方向D)であり、言い換えれば、ストッパ収容凹部20の側壁がなくて衝突面33,34に衝撃が加わったときにストッパ31,32が変形しやすい方向である。
【0042】
短繊維は、例えば、アラミド系短繊維である。本実施形態では、パラ系アラミド繊維であるケブラー(登録商標)で、具体的には、グレード名がK119、外径17.5μm、繊維長3.5mmである。他のアラミド短繊維としてはテクノーラ(登録商標)やコーネックス(登録商標)が挙げられる。アラミド短繊維は、高強力、耐熱性、寸法安定性、耐薬品性などの特性を持つ高機能繊維であるため、ゴムの補強材として適している。
【0043】
そして、ストッパ31,32は、ゴム100質量部に対して短繊維を最大で40質量部含有する。なお、配合は原料ゴム100グラムに対して、混合する物質のグラム数を示す単位phr(parts per hundred rubber)で表すと、短繊維を最大で40phr含有することになる。
【0044】
また、ストッパ31,32は、JIS3号の3%モジュラスの列反比が14以上であるゴムよりなる。ここで、「JIS3号の3%モジュラスの列反比」は、ゴム材料を圧延するときにロールに通す方向である列理方向と、この列理方向に垂直な反列理方向の3%伸び時のJIS3号のモジュラスのデータをとったときの比を意味する。
【0045】
-ストッパの作用-
本実施形態では、上述した第1運転モードと第2運転モードとの間の切替の際に第1テンショナアーム12の第1衝突面33が、テンショナ本体15の膨出部21に衝突し、又は、第2テンショナアーム14の第2衝突面34が、テンショナ本体15の膨出部21に衝突する。
【0046】
このとき、本実施形態では、短繊維が荷重方向に対して垂直方向且つストッパ収容凹部20の側壁のない方向(テンショナアームの厚さ方向、すなわち配向方向D)に配向されるゴムでストッパ31,32を構成しているので、衝突初期は、ゴム自体の弾性を生かして衝撃を吸収しつつ、短繊維の補強により、延びを抑えて過度な変形を抑えることができる。
【0047】
また、列反比が14よりも小さいと短繊維が荷重方向に対して十分に垂直方向に配向されていないため、過度な変形を抑える効果を適切に発揮できないが、本実施形態のストッパ31,32は、列反比が14以上に保たれているので、短繊維が荷重方向に対して十分に垂直方向に配向されており、過度な変更を抑える効果が極めて効果的に発揮される。
【0048】
さらに、ストッパ31,32が短繊維をゴム100質量部に対して短繊維を最大で40質量部よりも多く含有すると、逆に剛性が高くなりすぎて衝突時の音が大きくなる。しかし、本実施形態のストッパ31,32では、短繊維の含有量をゴム100質量部に対して短繊維を40質量部以下に抑えているので、適度な柔らかさが維持されており、衝突時の騒音低減効果が効果的に発揮される。
【0049】
-短繊維の配向方向についての実験-
ゴム製品の強度向上のためには、短繊維を加えることが有効であることが分かっている。そこで、本実施形態のようなストッパ31,32においては、どのような配向方向が最適かを調べるために実験を行った。
【0050】
図6(a)における矢印A~Dに短繊維を配向させたストッパを用意し、高温環境下で高荷重を繰り返し付与する実験を実施した。具体的な試験条件は、最大荷重が3000N、雰囲気温度が120℃、荷重付与周波数が20Hz、荷重付与回数が3×10
7である。なお、以下の比較例1~3及び実施例1に対応するストッパの材料配分を
図7に示す。
【0051】
図6(b)に示すように、荷重方向に沿う配向方向A(比較例1)については、永久ひずみが1.19mmでクラックが発生した。短繊維の長手方向(座屈方向)に荷重が加わるので、短繊維がストッパの強度向上にあまり寄与していないと考えられる。
【0052】
荷重方向に垂直で且つテンショナアームの厚さ方向に垂直な(ストッパ収容凹部20の側壁が並ぶ方向である)配向方向B(比較例2)については、永久ひずみが1.44mmでクラックが発生した。配向方向Bは、短繊維が、荷重が加わる方向の垂直には配向しているものの、ストッパ収容凹部20の側壁のない、厚さ方向(配向方向D)の変形を十分に抑制できていないためと考えられる。
【0053】
荷重方向に対して斜め方向の配向方向C(比較例3)については、短繊維の強度向上に対する寄与が最も低く、永久ひずみが1.52mmでクラックが発生した。
【0054】
そして、荷重方向に対して垂直且つテンショナアームの厚さ方向に沿う、配向方向Dについては、永久ひずみが0.78mmに抑えられ、クラックが発生しなかった。配向方向Bと同じ荷重方向に対して垂直ではあるが、この配向方向D(実施例1)は、ストッパ収容凹部20の側壁がなくて変形しやすいテンショナアームの厚さ方向に対するストッパの延びを短繊維が効果的に抑制できているため、クラックが発生しなかったと考えられる。
【0055】
そして、本実施形態に係る配向方向D(実施例1)のストッパ31,32場合、荷重に対する変位は、
図8に示すような非線形特性を示す。この特性が示すように、衝突初期は、ゴム自体の弾性を生かして衝撃を抑えながら、特にストッパ収容凹部20の側壁がなくて変形しやすい配向方向Dに沿う短繊維の補強により過度な変形を抑えることができることを確認できた。
【0056】
なお、比較例1~3及び実施例1の列反比は、
図6(b)に示すとおり、いずれも14.0である。
【0057】
また、本実施形態の別の特徴として、
図4Bに示すように、一対のアーム12,14及びテンショナ本体15の一方のストッパ収容凹部20の幅寸法W1(具体的には、ストッパ収容凹部20の一対の側壁が並ぶ方向の寸法)に対するストッパ31,32の幅寸法W2の比W2/W1は、1.0以上1.2以下である(1.0≦W2/W1≦1.2)。
【0058】
しかも、ストッパ31,32は、オイルに300時間浸漬した後の膨潤寸法変化率が0%以上0.5%以下である。
【0059】
すなわち、ストッパ収容凹部20の幅寸法に対するストッパ31,32の幅寸法の比が1.0よりも小さくなると(W2/W1<1.0)、ストッパ31,32が適切に保持されずストッパ収容凹部20から脱落してしまうおそれがあり、1.2よりも大きくなると(W2/W1>1.2)、ゴムの変形しろが不足し、衝突時の騒音低減効果が十分に発揮されない。しかし、本実施形態では、1.0≦W2/W1≦1.2に保たれているので、ストッパ31,32をストッパ収容凹部20に適切に保持できる上に、適度に変形して衝突時の騒音を適切に低減できる。
【0060】
この効果は、メンテナンス時などにオイルが付着した場合であっても、膨潤寸法変化率を0.5%以下に抑えていることで、嵌め込む前のストッパの幅寸法W2が増加したとしても、その増加率が低く抑えられている。このため、ストッパ収容凹部20に嵌め込んだときにも、耐油性が高くゴムの特性が保たれるので、衝突時の変形しろが保たれ、衝突音が低減される。
【0061】
このことは、実施例に係る、以下の実験により確かめられた。具体的には、
図9に示すように、第2テンショナアーム14のストッパ収容凹部20に第2ストッパ32を嵌め込んだ状態と同様の試験条件で、オイルに浸漬させた際の高さ寸法Hの変化率を調べた。ここで、高さ寸法Hというのは、
図5(b)の上下方向の寸法Hである。
【0062】
図10にEPDMの実施例1、H-NBRの実施例2及びCR(クロロプレンゴム)の比較例4について、材料配分及び列反比を示す。
【0063】
EPDM(実施例1)の場合、浸漬時間を増やしていくと、徐々に寸法変化率が上昇し、300時間で2.35%程度に上昇した。つまり、実施例1は、衝突時の騒音低減効果は十分発揮されたが、耐油性という面では不十分であるが、油のない環境での使用は可能である。一方、H-NBR(実施例2)であると、浸漬時間が300時間に増えても寸法変化率は0.28%程度に抑えられ、耐油性が高いことが確認できた。なお、CR(比較例4)は、その中間であるが、浸漬時間が300時間に増えても寸法変化率は0.75%程度であり、耐油性としては十分とは言えなかった。一方、図示はしないが、NBR、ウレタンゴム、アクリルゴムやフッ素ゴムでもH-NBRと同様に寸法変化率が低いことが知られている。
【0064】
以上を踏まえると、本実施形態では、ストッパ31,32は、EPDMなどに比べて耐油性の高い、NBR、H-NBR、ウレタンゴム、アクリルゴム又はフッ素ゴムが望ましい。
【0065】
以上説明したように、補機ベルトシステム2の場合、メンテナンス時にエンジンオイル等が付着する可能性があり、耐油性が低いとストッパ31,32が破損しやすくなるが、鉱物油に対する耐性が高い材料をストッパ31,32に用いることにより、その問題の発生が低減される。
【0066】
したがって、本実施形態に係る2アーム式オートテンショナ10によると、2アーム式オートテンショナ10における、運転モード切替時の衝突音を効果的に低減することができる。
【0067】
(その他の実施形態)
本発明は、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0068】
すなわち、上記実施形態では、ストッパ31,33を一対のアーム12,14にそれぞれ嵌め込み、テンショナ本体15の膨出部21に衝突させてアーム12,14の挙動を止めるようにしているが、逆にストッパをテンショナ本体に嵌め込み、一対のアームに衝突させてアームの挙動を止めるようにしてもよい。この場合も、テンショナ本体の厚さ方向に対応する、ストッパ収容凹部20の側壁がない配向方向Dに沿う方法に短繊維を配向させるとよい。しかし、テンショナ本体の設置スペースが限られる場合が多いことから、ストッパ31,32を一対のアーム12,14に嵌め込む方が設置スペースの面では有利である。
【0069】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物や用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【符号の説明】
【0070】
2 ベルトシステム
3 ベルト
3a 第1ベルトスパン
3b 第2ベルトスパン
4 クランクシャフトプーリ
4a クランク軸
5 第1補機プーリ
6 第2補機プーリ
10 オートテンショナ
11 第1テンショナプーリ
11a 第1プーリ軸
12 第1テンショナアーム
12a 第1揺動軸挿通孔
12b,14b 付勢部材固定端部
13 第2テンショナプーリ
13a 第2プーリ軸
14 第2テンショナアーム
14a 第2揺動軸挿通孔
15 テンショナ本体
15a 揺動軸挿通孔
16 テンショナ付勢部材
17 アーム揺動軸
20 ストッパ収容凹部
21 膨出部
31 第1ストッパ
32 第2ストッパ
32a 基端部
33 第1衝突面
34 第2衝突面
X1,X2 第2付勢方向