(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024100358
(43)【公開日】2024-07-26
(54)【発明の名称】水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を基材とする耐水性成形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08H 1/06 20060101AFI20240719BHJP
C08L 89/04 20060101ALI20240719BHJP
C08K 3/011 20180101ALI20240719BHJP
C08L 101/16 20060101ALN20240719BHJP
【FI】
C08H1/06 ZBP
C08L89/04
C08K3/011
C08L101/16
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023004305
(22)【出願日】2023-01-16
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.TWEEN
2.BRIJ
3.TRITON
(71)【出願人】
【識別番号】592005788
【氏名又は名称】山内 清
(72)【発明者】
【氏名】山内清
【テーマコード(参考)】
4J002
4J200
【Fターム(参考)】
4J002AD001
4J002BG012
4J002BG032
4J002CD012
4J002CD022
4J002CD032
4J002CD052
4J002CD062
4J002CD112
4J002CD122
4J002ER006
4J002FD142
4J002FD146
4J002GA01
4J002GG00
4J200AA27
4J200BA30
4J200DA17
4J200EA07
(57)【要約】
【課題】獣毛、羽毛、哺乳動物の蹄や角等のケラチン含有物質から製造される水不溶性のS-スルホン化ケラチンタンパク質を基剤として使って、機械的物性と耐水性に優れるが土中で崩壊する特徴を有する成形物を製造する方法を提供すること。
【解決手段】 水不溶性のS-スルホン化ケラチンタンパク質に結着剤や可塑剤等を加え、さらにイソシアネート基あるいはエポキシ基あるいはカルボン酸基を有する物質を添加して、必要ならば染料、顔料、磁性粉等を混ぜて、得られる混練物を加熱高圧成形する。また、必要ならば、成形物をラミネート加工処理、あるいはアルデヒドもしくはタンニンなどを用いて架橋処理する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
人髪、獣毛、羽毛、蹄、角や甲羅のケラチンタンパク質のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計数の10%以上80%未満がS-スルホン化システイン残基として存在するところの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を含有するケラチンタンパク質に架橋剤及び他の添加剤を混合して得られる配合物を加熱加圧成形することを特徴とする成形物を製造する方法。配合物中の架橋剤及び他の添加剤の量は全体重量の80重量%未満である。
【請求項2】
人髪、獣毛、羽毛、蹄、角や甲羅のケラチンタンパク質のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計数の10%以上80%未満がS-スルホン化システイン残基として存在するところの水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を含有するケラチンタンパク質が粉末もしくは繊維で平均サイズが0.1μm以上のものである請求項1記載の成形物を製造する方法。
【請求項3】
請求項1記載の架橋剤が次の物質群A,又は物質群B,又は物質群Cから選ばれる請求項1記載の成形物を製造する方法。
物質群A:ヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4-トリレン ジイソシアネートプレポリマーアダクト体のイソシアネート基を2個以上有する物質であり、単独で使用するか、2種以上を併用して用いられる。
物質群B:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂等のエポキシ基を2個以上有する物質であり、単独で使用するか、2種以上を併用して用いられる。
物質群C:(メタ)アクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸のエステル体のモノマーと(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーとの共重合体、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーとスチレン、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等のモノマーとの共重合体、さらに、エチレンモノマー、プロピレンモノマーに(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーが共重合した共重合体等のカルボン酸基を2個以上有する物質であり、単独で使用するか、2種以上を併用して用いられる。
【請求項4】
請求項1に記載している他の添加剤がシランカップリング剤、ポリサルファイドポリマ、卵白、大豆蛋白、小麦タンパク、グルテン、成分無調整豆乳、成分無調整牛乳、大豆おから、ゼラチン、カゼイン、小麦や燕麦等のふすま、水溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質、グリセロール、マルチトール、グリコールモノステアレート、大豆レシチン、卵黄レシチン、ポリ乳酸、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ナイロン6、亜鉛華、合成ウルトラマリン、バリウムフェライトであり、単独で使用するか、2種以上を併用して用いる請求項1記載の成形物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、獣毛、羽毛、哺乳動物の爪や蹄や角等から製造される水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を基材として用いる耐水性成形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
羊毛等の獣毛、羽毛、哺乳動物の爪、角、蹄の主要成分はケラチンと呼ばれる構造性のタンパク質であり、システイン残基とハーフシスチン残基が全アミノ酸残基量の5-20%も占めていてジスルフィド結合(S-S結合)で3次元的に架橋しているため、他の蛋白質やセルロース等の天然高分子に比べて、耐水性や機械的強度に優れる(非特許文献1)。
【0003】
これらケラチンタンパク質を原料に使っていろいろな成形物の製造が報告されている。鳥獣類の蹄、角、爪、うろこ、甲羅、獣毛、羽毛、頭髪の粉末や繊維をゼラチン等のタンパク質、デンプン、天然ゴム、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂等を混合して20-200℃で600-1000MPaにて高圧成形するもの(特許文献1),羽毛から羽弁部(Barb,Vane)を取り出し裁断したものに溶解状態のポリ(エチレン)を混ぜて140-160℃にて約6MPaで加圧して一体化するもの(非特許文献2)、羊毛、毛髪、獣毛を粉砕し、蒸留水を加え、120-140℃で20MPaにて焼結装置を用いて高圧成形するか、130-160℃で10-30MPaにてホットプレスするもの(特許文献2)、人毛、獣毛、羽毛等の高等動物の体毛を水性媒体中、2-メルカプトエタノールなどを使って還元処理した後、可溶部を除去し、得られたシステイン残基に富むところの不溶部を原料としてフィルム、シート、カプセル、スポンジ等の成形物を製造するもの(特許文献3)、羊毛を二亜硫酸ナトリウム(Na2S2O5)/尿素/ドデシル硫酸の水溶液で処理し、その水溶液部から水溶性のS-スルホン化ケラチンを抽出して精製したものに(収率、約30%)、poly(ethylene-oxide)を加えてフィルムを調製するもの(非特許文献3),同様にケラチン含有天然物から水溶性S-スルホン化ケラチンを抽出して、その水溶液を平板上にキャストして乾燥することでケラチンの薄膜を調製したり、溶液を押し出してケラチン繊維や発泡体等を作るもの(特許文献4,非特許文献4)、同様に、羊毛を5M尿素とドデシル硫酸ナトリウムの水性溶液中にて二亜硫酸ナトリウムで処理して水溶性のS-スルホ化ケラチンを抽出分離し凍結乾燥により粉体とし、この粉体をフィルムにしたりスポンジにしたもの(非特許文献5、非特許文献6),あるいはポリ乳酸との複合体を調製したもの(非特許文献7)、同様に、水溶性S-スルホン化ケラチンの水溶液をキャスト法でフィルムを、また凍結乾燥法で発泡体を製造するもの(特許文献5),動物由来のケラチンからS-スルホン化ケラチンを水溶性物質として既知の方法(特許文献6,特許文献7)で抽出して凍結乾燥等で固体状態にしてヒドロキシアパタイト等、あるいはゼラチン等の蛋白質、ロジン、天然ゴム、エポキシ樹脂やポリウレタン樹脂等の石油系樹脂や架橋剤を添加して高圧成形物を製造するもの(特許文献8)、べっ甲端材粉末や羽毛粉末を金型に入れて前者は水の存在下で100℃で40MPa程度にて、後者はそのまま140-160 ℃で10-30 MPaにて加圧して製品化するもの(非特許文献8、非特許文献9),羽毛を2-25cmに細片化して硫化ナトリウム(Na2S)で処理することで水に可溶な還元型であるケラチンに誘導しキャスト法でフィルムを得るもの(非特許文献10),羽毛の細片物とグリコール等の可塑剤と亜硫酸ナトリウムの混合物を、そのまま、90-120℃に加熱したスクリュー押し出し機に入れてペレットを調製し、ついで、ペレットを110℃、24MPa程度で熱プレスや押出成形機でシートや管状物を調製するもの(非特許文献11、非特許文献12)等である。
【0004】
このようにケラチンタンパク質の有効利用めざす非特許文献や特許文献が多いが、獣毛、羽毛、豚等の哺乳動物の蹄や角等の膨大な産出量に比して、ケラチンタンパク質は充分に活用されているとはいえない。すなわち、食用肉を採取した残りの鳥類の羽毛は米国だけで毎年140万トン、世界全体ではその約5倍の770万トンと推定されているが、一部は羽根枕、羽根布団等の芯材等として利用されているものの、多くは動物の餌や農地の肥料等に使われているか廃棄されるか焼却されている。羽根布団や羽根枕等も、古くなれば、多くが粗大ゴミ/燃やすゴミとして廃棄されるか焼却処分されている現状である。一方、獣毛の代表としての羊毛(洗い上がり)は服、絨毯等の生活資材として世界で毎年110万トンほどが生産されているが、破れたり古くなったりして、使用後にリサイクルされる量はわずかであり、ほとんどが廃棄、焼却されている(非特許文献13、非特許文献14)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5-320358号公報
【特許文献2】特開2015-160850号公報
【特許文献3】特許第3518691号公報
【特許文献4】特開2009-1015号公報
【特許文献5】米国特許出願公開第2005/0053743号明細書
【特許文献6】国際公開第2003/011894号
【特許文献7】国際公開第2003/018673号
【特許文献8】特許第4551761号公報
【特許文献9】特願第2021-132470号
【特許文献10】国際公開第2003/011894号
【特許文献11】特開2006-342063号公報
【特許文献12】特開2006-282637号公報
【特許文献13】特表2020-515568号公報
【特許文献14】米国特許第3567363号公報明細書
【特許文献15】特開2009-001015号公報
【特許文献16】特開2009-001015号公報
【特許文献17】特開2019-142999号公報
【特許文献18】特開2000−256615号公報
【特許文献19】特開2010−24386号公報
【特許文献20】国際公開第2016/199794号
【特許文献21】特開2010−254764号公報
【特許文献22】特開2018−002900号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A. Yamauchi, K. Yamauchi, Protein based films and coatings, Ed., A. Gennadios,(米),2002, CRC Press,Boca Ration,p.253-273
【非特許文献2】J. R. Barone, W. F. Schmidt, C. F. E. Liebner, Composites Sci. Tech., (米), 2005, Vol. 65, p.683-692
【非特許文献3】C.Tonin, A. Aluigi, C. Veneis, A. Varesano, A. Montarsolo, F. Ferrero, J. Thermal Anal. Calorimetry,(米), 2007, Vol.89, p.601-608
【非特許文献4】“平成21年度ウールケラチン研究レポート”、愛知県産業技術研究所 尾張繊維技術センター
【非特許文献5】K. Katoh, M. Shibayama, T. Tanabe, K. Yamauchi, Biomaterials, (米), 2004, Vol.25, p. 2265-2272
【非特許文献6】K. Katoh, T. Tanabe, K. Yamauchi, Biomaterials, (米), 2004, Vol.25, p. 4255-426
【非特許文献7】S. Iwai, H. Yoshimura, H. Fujita, ”愛知県産業技術研究所研究報告“、2006
【非特許文献8】東京都立産業技術研究所報告、第2号134-137(1999)
【非特許文献9】Y. Kawahara, H. Ohnishi, S. Asakawa, H. Wakizaka, J. Macromol. Sci., Part B,(米), 2021, Vol.60, p. 571-588
【非特許文献10】N. Ramakrishnan, S. Sharma, A. Gupta, B. Y. Alashwal, Internat. J. Biol. Macromolecules, (米), 2018, Vol. 111, p. 352
【非特許文献11】A. Ullah, J. Wu, Macromol. Mater. Eng., (米), 2013, Vol. 298, p.153-162
【非特許文献12】T. McGauran, M. Harris, N. Dunne, B. M. Smyth, E. Cunningham, ACS Sustainable Chem. Eng., (米), 2022, Vol.10, p. 486–494
【非特許文献13】”Statistics, Food and Agricultural Organization of USA”, (米)2015
【非特許文献14】(白)、IWTO market information,2021年
【非特許文献15】H. Zahn, Parfumerie und Kosmetik,(独), 1984, Vol. 65, p. 507-594
【非特許文献16】菅原亮、川相みずえ、鈴木敏幸,J.Soc.Cosmet.Chem.Jpn,1999, Vol. 33, p.364-369
【非特許文献17】E. Fortunati. A. Alugi、 I. Armentano, F. Morena, C. Emiliani, C. Martini, S. Martino, C. Santulli, C. Torre, I. M. D. Puglia, Mat. Sci. Eng. C. (伊), 2015, Vol. 47, p. 394-406.
【非特許文献18】R.J. Denning, G. N. Freeland, C.B. Guisse, Textile Res. J., (米),1994, Vol.64, p. 413-422
【非特許文献19】A. Yamauchi, K. Yamauchi, J. Cosmet. Sci., (米),2018, Vol. 69, p.9-33
【非特許文献20】Chemtechnique Diagnosis, Patent Information Sheet; Polymeric diphenylmethane diisocyanate (PMDI), online, 令和4年4月28日検索、www.Chemotechnique.se/get_pdf.php?
【非特許文献21】岩崎忠晴、最近のポリウレタン樹脂の応用技術動向(1)、色材、1994,Vol.67,p.370-378
【非特許文献22】継国英義、狩野雅史、岡崎晴彦、色材、1969,Vol.42,p.16-20
【非特許文献23】材料科学振興財団,[令和4年3月10日検索]インターネット<mst.or.jp/Portals/0/case/pdf/c0561.pdf>
【非特許文献24】H. Distler, Angew. Chem. Internat. Edit., (独), 1967, Vol. 6, p. 544-553p
【非特許文献25】J.M. Anderson,“Mechanisms of reactions of bunte salts and related compounds”, Ph.D. thesis,(米),1967,Oregon State University
【非特許文献26】A. Vasconcelos, G. Freddi, A.C-Paulo, Biomacromolecules,(米), 2005, Vol. 9, p.1299-1305
【非特許文献27】I.A. Ansari, G. C. East, D. J. Johnson, J. Text. Inst.(英),2003, Vol. 94 Part 1, p.16-36
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
S-スルホン化ケラチンタンパク質を使用する成形物の製造に関する従来の特許文献(4,5,6,7,8等)や非特許文献(3,4、5,6,7等)では水溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を扱っている。しかし、水溶性物質であるが故に、製造と実用について、問題がないわけではない。一つには調製が多段階の複雑な工程となり、そのため収率が50%以下、多くは30%程度、であること、二つには水溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質が高価格品になり、化粧品原料等の高付加価値製品の製造に適用が制限されることである。反面、非特許文献11や非特許文献12は羽毛を粉砕し二亜硫酸ナトリウムとプロピレン グリコールと水を混ぜて2軸押出機の中で加圧加熱しながらペレットを作り、これを熱プレスや押し出し成形機を使ってシートや管状物(チューブ)を得る方法について述べている。しかし、成形物は水中で50-94重量%も吸水膨潤し、最大破断強度は3.4MPa程度、水浸漬後(可塑剤が失われて)の乾燥体は7.2MPa程度であり耐水性と機械的強度において実用に問題がないとはいえない。
【0008】
一方、本発明者は、すでに、羊毛、羽毛等の獣毛、哺乳動物の蹄や角等のケラチンを含有する物質(以下、本明細書ではケラチン含有物質と称する)を原料に使って、水に不溶であることを特徴とする“水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質”、すなわちケラチンタンパク質中のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計数の10%以上80%未満が-[C(=O)CH(CH2-S-SO3
- M+)NH]-(化学式1)で表されるタンパク質を短い工程でしかも高収量で調製している(特許文献9)。なお、化学式1にて、―S-SO3
-基はブンテ塩基もしくはS-スルホネート基とも呼ばれる。M+は陽イオンである。
【0009】
この度の本発明では、この水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を基材として用いて、大豆タンパク、麦ふすま、ナイロン、ポリ乳酸等を混ぜ、さらに架橋剤としてイソシアネート基あるいはエポキシ基あるいはカルボン酸基を有する物質を添加し、必要ならばマンニトール等のポリオールを可塑剤として加え、混練して、加熱加圧成形することによって、耐水性に優れるところのフィルム(厚さ、0.25mm未満)、シート(厚さ、0.25mm以上)、容器等の成形物を提供することを課題としている。さらには、成形物は水分のある土中で崩壊することに着目して環境汚染にたいして低負荷の製品を提供することも課題としている。
【0010】
すなわち、本発明の成形物製造法では水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を基材として利用することが特徴である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は水に不溶であることを特徴とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を基材として、イソシアネート基あるいはエポキシ基あるいはカルボン酸基を有する物質を混練し、必要なら大豆タンパク等のタンパク質、おから、マンニトール等を加えて、加熱加圧を基本とする成形加工によって耐水性が向上したフィルム、シート、カップ等の成形物を製造することができることを見いだした。また、これら成形物にポリマー薄膜を貼り合わせて(ラミネート加工)、あるいは耐水性の樹脂をコーティングすることによって、あるいはグルタルアルデヒドやタンニンで処理することによっても耐水性を上げることができた。これら成形物は機械的強度が大きいばかりでなく、水に対する膨潤度も低く、また、多くの石油系合成高分子製品とは異なり、土中、水中では大方が崩壊することを見いだして本発明を完成するにいたった。
【発明の効果】
【0012】
項i.本発明では、人髪、獣毛、羽毛、哺乳類の蹄や角、爬虫類の甲羅等のゲラチン含有物質を原料として、さらには獣毛を使っている製品(布、糸、衣服、毛布、絨毯、カーテン等)、羽毛を使っている製品(布団、枕、衣服、クッション等)、蹄や角や甲羅を使っている製品(肥料、装飾品等)を、新古の状態を問わず、原料として用いて
図1で例示するフィルム、シート、容器等を製造できる。
項2.本発明による成形物はイソシアネート基あるいはエポキシ基あるいはカルボン酸基を有する物質を加えた混練物を成形することで、膨潤度を抑えることができる。例を挙げれば、厚さが約0.35mmのシートを25℃の水に24時間浸漬後の膨潤は35重量%以下である。ちなみに、天然のケラチン物質である人髪、羊毛の膨潤度は水中でそれぞれ27重量%、36重量%であり(非特許文献15)、人の爪と足の角質層を、相対湿度40%にて24時間、放置した場合の水分含有量はそれぞれ25重量%、48重量%と報告されている(非特許文献16)。また、混練物に公知の染料、顔料、磁性粉を含ませることで着色又は磁性の性質を持たせることができる。
項3.項2で記している成形物にポリマー薄膜を貼り合わせることによって、あるいはウレタン樹脂やエポキシ樹脂やアクリル樹脂を塗布またはコーティングすることによって、あるいはホルムアルデヒドやグルタルアルデヒドで処理することによって、耐水性を有するフィルムやシートや容器等の成形物を製造することができる。
項4.本発明によって製造されるタンパク質を主成分とする成形物は土中で崩壊するので自然環境の保全に寄与できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本出願に係わる成形物(短冊に切り出したシート、葉状物、カップ)を例示する写真である。(1a)左半分:羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質とナイロン6の混練物ら得られたシート(実施例7);右半分:ポリ(エチレン)フィルム(厚さ、0.005mm)でラミネートされているもの;(1b)左半分:白、茶、黒色が混合した羽毛のブンテ塩と羊毛ブンテ塩とイソシアネート硬化剤の混練物から成形されたシート(実施例12);右半分:ポリ乳酸フィルム(厚さ、0.02mm)でラミネートされている;(1c)羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と水性エポキシ樹脂を原料とした葉状の成形物(実施例10);(1d)羊毛の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と水性エポキシ樹脂を使ったカップ状成形物(実施例9)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明では水に溶解しないことを特徴とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を基材として利用する。なお、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の原料は牛、馬、羊等の獣毛,鶏やガチョウ(グース)やアヒル(ダック)等の鳥類から採取される羽毛、ダウン、あるいは牛、羊、豚、馬等の獣類の蹄、角等のケラチン含有物質であり、新古を問わず使うことができる。また、これらケラチン含有物質物質を使って製造された衣類、布団、装飾品等も、新古にかかわらず、あるいは汚染あるいは形状の状態を問わず、使って製造されている。これらケラチン含有物質は入手されたそのままの状態で、必要なら汚れを除きもしくは洗浄した上で、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の調製に用いられるか、あるいはカッター、ミル、ブレンダー等を用いて、羊毛、羽毛などの繊維状物なら数センチ以下、好ましくは10cm未満に細片化し、蹄や角ならば数mm以下、好ましくは3mm以下の平均粒径に細かくして使用される。今回の発明では、調製された水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を、単離分離されたそのままの繊維や粒子などの状態で、特段の細片化処理せずに、そのまま使うか、あるいはカッター、ミル、ブレンダー等を用いて、あるいは凍結粉砕することによって、粉末もしくは繊維もしくは粒状物で平均サイズが0.1μm以上数mm程度にしたものが用いられる。ここで使用される平均サイズなる語は、粒状物では平均粒径を、また繊維状物ではその平均長径を意味する。
【0015】
本発明おいて使用する界面活性剤はケラチン含有物質を洗浄するため、あるいはイソシアネート基もしくはエポキシ基もしくはカルボン酸基を有する化合物を水性媒体中に分散するために使うものであり、デシルアンモニウム ブロマイド等のカチオン型界面活性剤、ドデシル硫酸ナトリウム、スルホコハク酸エステル塩等のアニオン型界面活性剤、1-(ジメチルドデシルアンモニオ)プロパン-1-スルホネート等の両イオン型界面活性剤、Tween20,Tween80,TritonX-100、NP-40,BriJ35,オクチルグルコシド、ドデシルマルトシド、ポリオキシエチレンノニ ルフェニルエーテル等やジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、1-(2-メトキシ-2-メチルエトキシ)-2-プロパノール等の非イオン性の界面活性剤であるが、ケラチン含有物質の洗浄やイソシアネート基やエポキシ基やカルボン酸基を有する化合物の分散を助けるものならどのような界面活性剤でも使うことができる。
【0016】
本発明において使用する水は工業用水、家庭用水、地下水、蒸留水、限外濾過水である。また、水と次項[0014]に挙げる有機溶媒との混合溶媒でもよい。有機溶媒の水に対する割合は70重量%未満である。
【0017】
本発明において使用する有機溶媒もしくは両親媒性溶媒はメタノールやエタノールや1-プロパノール、2-プロパノール等の低級アルコール、1-(2-メトキシ-2-メチルエトキシ)-2-プロパノール、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジ−n−プロピルエーテル、プロピレングリコールジイソプロピルエーテル、プロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールジイソブチルエーテル、プロピレングリコールジアリルエーテル、プロピレングリコールジフェニルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールジイソブチルエーテル、ジプロピレングリコールアリルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジ−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコールジイソブチルエーテル、トリプロピレングリコールジアリルエーテル、ブチレングリコールジメチルエーテル、ブチレングリコールジエチルエーテル、ブチレングリコールジ−n−ブチルエーテル、2−ブトキシエチルジエトキシエチルエーテル、2−ブトキシエチルトリエトキシエーテル、2−ブトキシエチルテトラエトキシエチルエーテル等のグリコールエーテル系有機溶剤、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノ−n−ブチルエーテルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のアセテート系有機溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルアミルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、3-エトキシプロピオン酸エチル等のエステル系有機溶媒等である。これらは1種でまたは2種以上組み合わせ使用することができる。
【0018】
成形物の製造にあたって使用する決着剤なる語とは成形物の機械的強度を上げる決着効果を果たすほか、繊維間や粒子の間を埋める充填効果を示す物質のことを意味している。このような決着剤としては大豆粉、及びsoy protein flours, soy protein isolates, soy protein concentrates等として販売されている大豆タンパク質、大豆蛋白の7Sと11Sグロブリン等である。さらに決着剤として、大豆おから、小麦強力粉や小麦中力粉や小麦薄力粉や小麦全粒粉等の小麦タンパク、成分無調整豆乳、成分無調整牛乳、卵白、ゼラチン、カゼイン、グルテン、小麦や燕麦のふすま、米ぬか等も使うことができる。さらに、魚のすり身、大豆粕、菜種粕、菜種や綿実に由来する油粕、動物用のタンパク質を含むところの上市されている配合飼料も使うことが出来る。また、水に溶解するのが特徴であるところの公知の水溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質(例えば、特許文献10,特許文献11,特許文献12、特許文献13、特許文献14、特許文献15、特許文献16、非許文献4、非特許文献5,非特許文献6、非特許文献17、非特許文献18等に記載の物質)も分子量の大小にかかわらず、使うことができる。また、チオコールLP(商品名、東レ・ファインケミカル株式会社)等のポリサルファイドポリマ、クラフトリグニン、リグノスルホネート、オルガノソルブリグニン、セルロース、デンプン、エステル化デンプン、キトサン、ポリ(ビニル アルコール)、ポリ乳酸,乳酸とグリコール酸のコポリマー、グリコール酸とカプロラクトンのコポリマー等のグリコール酸コポリマー、酢酸セルロース、ナイロン6等のナイロン樹脂等の高分子も分子量の大小にかかわらず使用できる。さらには、ポリ(エチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(メタクリル酸メチル)、ポリ(アクリル酸メチル)、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(酢酸ビニル)、エチレン酢酸ビニルコポリマー等の高分子も分子量の大小にかかわらず使うことができる。
【0019】
項[0018]で挙げている結着剤として働く物質は単独で使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。例えば、豆乳とおからとの混合物、ポリ乳酸と卵白の混合物等である。結着剤の単独添加量もしくは合計添加量は成形物の性質に応じて調節されるが成形物の全体重量の3%以上から80%未満、より好ましくは10%から50%の範囲である。
【0020】
本発明での成形物に柔軟性を与える必要がある場合は次に挙げる可塑剤を添加する;砂糖、ショ糖、サクロース、ソルビトール、マンニトール、ジグリセロール、エリスリトール、グリセロール、エチレン グリコール、プロピレン グリコール、マルチトール、ラクチトール、トレハロース、キシリトール等のポリオール化合物、グリコール モノステアレート、エチレン グリコール モノステアレート、酒石酸ジエチル等のエステル、乳酸、2-ヒドロキシプロピオン酸等のヒドロキシカルボン酸、さらに、大豆レシチン、卵黄レシチン等の脂質である。これら可塑剤の添加量は成形物の性質に応じて調節されるが成形物の全体重量の5%以上から30%未満の範囲内である。
【0021】
本発明においては、洗浄獣毛はそのまま用いることができる。しかし、太い獣毛繊維を使って調製した水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を使う場合、次項の[0022]から[0028]に挙げる架橋剤(イソシアネート基もしくはエポキシ基物質もしくはカルボン酸基を有する物質)と一様に分散しないことがある。このような場合は、蛋白分解酵素を使って原料の獣毛繊維の表面のクチクル組織を削ってから(非特許文献19)、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を調製して使うことにより均一性に優れるフィルムやシートが得られる。好適な酵素はパパイン、ペプシン、トリプシンである。
【0022】
イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基は化学的に反応性が高く、アミノ基、メルカプト基、水酸基等と結合することが広く知られている。本発明で用いるイソシアネート基もしくはエポキシ基もしくはカルボン酸基を複数有する物質は項[0023]から項[0028]に挙げる物質であり、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の基材や大豆タンパク質、卵白、おから、セルロース等に存在する多数のアミノ基、もしくは/又は水酸基、もしくは/又はメルカプト基等と加熱することによって、多重に反応して架橋剤として働き、成形物の耐水性や機械的強度を上げる効果を示すものである。
【0023】
イソシアネート基を有する物質: 1分子に少なくとも2個のイソシアネート基を有する物質であり、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロン ジイソシアネート等の環状脂肪族ジイソシアネート類、2,4-トリレンジイソシアネート、4,4´−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタン−4,4´,4´´−トリイソシアネート、1,3,5−トリイソシアナトベンゼン、2,4,6−トリイソシアナトトルエン、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)等の芳香族ジイソシアネート、2,4-トリレン ジイソシアネートプレポリマーアダクト体、ジフェニルメタンジイソシアネートのオリゴマー[すなわち、4,4’-MDIとイソシアネート基で置換されているフェニル環を有する物質と2,2’ー異性体を含んでいる物質の混合物である非特許文献20や非特許文献21に記載の物質]、4,4´−ジメチルジフェニルメタン−2,2´,5,5´−テトライソシアネート等の3個以上のイソシアネート基を持つポリイソシアネート化合物等もしくは上記した各有機ポリイソシアネート同士の環化重合体(特許文献17)等である。文献(特許文献18,特許文献19,特許文献20,特許文献21)でも知られている物質、すなわち、イソシアネート化合物から誘導されるところの1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する化合物を含む成分でその成分の一部として酸基を有するポリイソシアネート化合物を含む物質も使うことができる。なお、1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する上記のオリゴマーやポリマーに関しては、水不溶性スルホン化ケラチンと混練する都合上、分子量は340以上5000未満であり、粘度(25℃)は100mPa・s以上2Pa・s未満の物質が好適である。
【0024】
さらには、上市されている塗料やニスにはイソシアネート基を有する物質を含むものがあり、これらもイソシアネート基を有する物質として用いることができる。例示すれば、水性高耐久性2液ウレタンニスの硬化剤(商品名、株式会社アサヒペン)、051-4F16(商品名、ロックペイント株式会社), Retan PG80III(商品名、関西ペイント株式会社)、Desmodur N3600(商品名、Bayer社、ドイツ)等やイソシアネート基を有するポリマーから誘導された水性のウレタンニス(商品名、水性ウレタンニス、和信ペイント株式会社;商品名、水性ウレタンニス、日本ペイント株式会社)等である。
【0025】
エポキシ基を有する物質:3,4-エポキシシクロヘキシルメチル 3,4-エポキシシクロヘキサンカルボキシラート、2,2-ビス[4-グリシジルオキシ]フェニル]プロパン、4,4‘-イソプロピリデンフェノールグリシジルエーテル、1,2-エポキシ-4-エポキシエチルシクロヘキサン、3-エポキシエチル-7-オキサビシクロ-「4,1,0」ヘプタン、4-ビニル-1-シクロヘキセンジ エポキシド、ジペンテン-ジポキシド、4-ビニルシクロヘキセン ジオキシド、1,2,5,6-ジエポキシシクロオクタン等のエポキシ化合物、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、臭素化ビスフェノールA型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビスフェノールAF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、オルソクレゾールノボラック型等のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ポリグリコール型エポキシ樹脂、さらに、これらのエポキシ樹脂中のエポキシ基又は水酸基がアミノ化剤、アシル化剤、シリル化剤等で処理することで変性されたエポキシ樹脂等である。これらのエポキシ樹脂は単独で用いてもよく、あるいは2種以上を組み合わせて用いることもできる。なお、基材の水不溶性スルホン化ケラチンはアミノ基、水酸基、カルボン酸基を有していてエポキシ樹脂の硬化を助けるのでエポキシ樹脂用の硬化剤を使わないことができる。
【0026】
さらには、上市されている塗料やニスにはエポキシ樹脂を含むものがあり、これらもエポキシ基を有する物質として用いることができる。例えばセロキサイド 2021P(株式会社ダイセル)などのジエポキシ化合物、さらにエポキシ樹脂を含有しているところの水性エポキシ強力防水塗料用シーラー(商品名)の基材や水性エポキシ強力防水塗料(商品名)の基剤(以上、株式会社アサヒペン製)、jER液状BPA型、JER828、jER828EL、jER828XA、JER834(以上、三菱ケミカル株式会社製);EPICLON840、EPICLON840-S、EPICLON850、EPICLON850-S、EPICLON850-CRP、EPICLON850-LC(以上、DIC株式会社製)、YDF-170、YDF-170N、YDF-2001、YDF-2004、YDF-2005(以上、日鉄ケミカル&マテリアル株式会社製)、デナコールEX612、デナコールEX-614、デナコールX-614(B)、デナコールEX-313,デナコールEX-314,デナコールEX-421、デナコールEX-512,デナコールEX-521,デナコールEX-1610,デナコールEX-810,デナコールEX-810P,デナコールEX-811、デナコールEX-850、デナコールEX-851,デナコールEX-821,デナコールEX-830,デナコールEX-832,デナコールEX-841,デナコールEX-861,デナコールEX-214L,デナコールEX-920,デナコールEX-201-1M(以上、ナガセケムテックス株式会社製)、リカレジンBPO-20E、リカレジンHBE-100、リカレジンBEO-60E(以上、新日本理化株式会社製)等のエポキシ樹脂等を使うことができる。さらに、D.E.R 331,D.E.R 332,D.E.R 324,D.E.R 325,D.E.R 330,D.E.R 337、D.E.R 362,D.E.R 383(以上、Dow Plastics株式会社製)、Epon828(昭和シェル石油株式会社製)、EHPE3150(株式会社ダイセル)、U-Quick101(上野製薬株式会社製)、ELR-130、ELR-120(以上、住友化学工業株式会社製)、ショーダイン-500、ショーダイン-540(以上、昭和電工株式会社製)、エポライト100MF,N-200(以上、共栄社油脂化学工業株式会社製)、チノックス221(チッソ株式会社製)等である。
【0027】
カルボン酸基を有する物質:(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸メチルカルビトール、(メタ)アクリル酸エチルカルビトール等のモノマーに(メタ)アクリル酸、(メタ)メタクリル酸等のカルボン酸基を有するモノマーを共重合させたコポリマーもしくはアイオノマーが挙げられる。これらに加えて、上記の(メタ)アクリル酸エステルに対して、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸等のカルボン酸系モノマーを共重合させたコポリマーもしくはアイオノマー、さらにスチレンやα−メチルスチレン等のスチレン系モノマー、アクリロニトリル、酢酸ビニル、塩化ビニル等を共重合させたコポリマー等である。さらに、特許文献21等に記載のグリシジル(メタ)アクリレート、β-メチルグリシジル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート、3,4-エポキシシクロヘキシルプロピル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等のモノマーと2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と炭素数2~8の2価アルコールとのモノエステル化物との共重合体、エチレンモノマー、プロピレンモノマー等に(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸等の不飽和カルボン酸のモノマーが共重合したコポリマーもしくはアイオノマー等も用いることができる。なお、これら重合体をエマルジョンにして用いる場合は、重合体の数平均分子量が100,000から500,000ダルトンの範囲が好ましく、水溶性樹脂においては5,000から50,000ダルトンの範囲が望ましい。
【0028】
さらに、カルボン酸基を有する物質である水性ニス(不揮発分42%; 商品名:水性ニス、株式会社アサヒペン)や水溶性樹脂溶液であるジョンクリル450、ジョンクリル7610、ジョンクリル60(以上、BASFジャパン株式会社製)、TWA−1P、AT−002(以上、松本油脂製薬株式会社製)、プライマルSF−016(ローム・アンド・ハース・ジャパン株式会社製)、TOCRYLBCX2636、TOCRYLBCX2636(以上、東洋インキ社株式会社製)等の市販品も使うことができる。
【0029】
上記にて挙げたイソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基を有する物質は水性の分散体として市販されているものはそのままで使用できるが、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基を有する油性の物質は項[0015]で示す界面活性剤の水溶液や項[0017]で示す両親媒性溶媒に溶解あるいは分散した状態でも使うことができる。また、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基を有する物質は成分無調整豆乳や成分無調整牛乳と激しく電気モーターやホモジナイザーや超音波槽を使って攪拌することで分散(エマルジョン)状態にしてから使用してもよい。溶解あるいは分散させた場合のイソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基を有する物質の濃度は5重量%以上、より好ましくは15重量%以上80重量%未満である。なお、イソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基を有する物質を溶解するかあるいはエマルジョン状態に変えたものは、水もしくは両親媒性溶媒の水酸基との反応による失活を抑えるために、溶液もしくはエマルジョンを調製する場合は0℃から50℃の範囲で行うのが好ましい。また、溶液もしくはエマルジョンの調製に要する時間を含む20分以内に、好ましくは10分以内に、温度は0℃から60℃の範囲内に遂行し、調製された溶液もしくはエマルジョンを水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質もしくは水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と架橋剤及び/又は結着剤及び/又は可塑剤及び/又は項[0030]記載の物質の混合物にすみやかに投入して混練することが望ましい。項[0023]から[0028]にて記している架橋剤であるイソシアネート基もしくはエポキシ基もしくはカルボン酸基を有する物質が成形物の全重量に占める割合は3重量%以上75重量%未満、より好ましくは10重量%以上30重量%未満である。
【0030】
基材の水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質自体の色は成形物の色に大きく影響するが、上記のイソシアネート基もしくはエポキシ基もしくはカルボン酸基を有する物質に公知の顔料や染料、例えば、カーボンブラック、酸化チタン、合成ウルトラマリン、アルミン酸ストロンチウム (SrAl2O4系) 等の顔料、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドンレッド、インダンスレンオレンジ、イソインドリノン系イエロー等の染料等を添加して成形物の色や発色を任意に調整することができる。また、公知のアミノシランやエポキシシラン等のシランカップリング剤も配合することができる。さらに、γ-Fe2O3,Co被着Fe2O3,Fe3O4,Co-Cr,Co-Ni,Baフェライト,Sr-フェライト等の公知の磁性粉、モリブデン-酸化チタンや酸化銅等の公知の抗ウイルス粉末を混ぜて使うことができる。
【0031】
その他の架橋剤: 成形工程で製造されるフィルム、シートや容器は、ホルムアルデヒドやグルタルアルデヒド等のアルデヒド化合物の3重量%以上40重量%未満、より好ましくは5重量%以上15重量%未満、の水溶液、あるいはミモザ、チェスナット、オーク、ヘムロック、ケブラチョ、ミラボラム、タラ、ガンビア等の植物タンニン類の水溶液を使うことによって架橋処理することができる。これらタンニンの水溶液の濃度は3重量%以上30重量%未満、より好ましくは5重量%以上15重量%未満、であり、なお、タンニン処理は鉄(III)イオン、銅(II)イオン、クロム(III)イオン等の遷移金属イオンの酢酸塩、硫酸塩、塩素物塩等の存在下で使うのが好ましい。これら遷移金属塩の全液中での濃度(overall concentration)は1µM以上20mM未満である。また、金属架橋剤としてミョウバン等のアルミニウム塩を水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質及び/又は架橋剤及び/又は他の添加剤から成る配合物もしくは混合物に加えてもよい。この場合の金属架橋剤の使用量は成形物の1重量%以上15重量%未満である。
【0032】
本発明での成形物は水や有機溶媒に不溶であるため、構造についての詳細な解析は困難であるものの、成形物を熱水(85-100℃)に1時間以上、浸漬しても成形物の重量減少は、水溶性のポリオール等の可塑剤の溶け出し分を除けば、極めて少ないことから、イソシアネート基やエポキシ基について報告された既知の反応例を参考にすると、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質中や結着剤のタンパク質中のアミノ基や水酸基等と反応してこれらのタンパク質と樹脂が反応し結合して一体化したと考えられる。反応によるイソシアネート基やエポキシ基の消費は赤外スペクトルでの特有の吸収バンド、それぞれ2260,910cm-1、の吸光度が他のバンド(例えば反応によっても吸光度が変化しないフェニル基の1600cm-1バンドやメチレン基の2950cm-1バンド)の吸光度に比して減少ししていることで推定された(非特許文献22や非特許文献23)。もちろん、S-スルホン化ケラチンタンパク質のようなブンテ塩は、100℃以上の高温、1MPa以上の加圧下での加熱水分子(水の沸点は125℃以上)の作用によって、Ker-SHとNaHSO4を与え(非特許文献24,非特許文献25)、このSH基がイソシアネート基やエポキシ基と親核的に反応していることも考えられる。一方、カルボン酸基を有する物質を使って調製されるシート等の成形物の膨潤度の低下は、水溶性アクリルニス膜や塗料膜の耐水性化メカニズムと同じく、乾燥に起こるカルボン酸基とタンパク側鎖の水酸基やアミノ基との間の脱水縮合反応に主因すると思われる。
【0033】
成形法:本発明で成形されるフィルム、シート、カップ等の成形物は、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質のみに、あるいは水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と他の添加剤(結着剤、可塑剤、染料、顔料、磁性粉等)の混合物に、シアネート基やエポキシ基やカルボン酸基を有する物質を配合し混練したものを加熱加圧する工程を基本として製造される。結着剤を使う場合なら、特に2種以上の結着剤を使う場合は、その水溶液あるいは分散液がpH5-pH10にて凝固しないことを確かめておくことが好ましい。また、水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質と結着剤がpH5-pH10にて分離しないかあるいは凝固しないことを確かめておくことが好ましい。上記の混練物は板状、細片状やペレット状にしてから加熱、加圧と冷却の各工程を経て成形されるが、プレス成形法、圧縮成形法、射出成形法、押し出し成形の最も適した成形法が選ばれる。なお、混練物に適当量(3重量%以上30重量%未満)の水をあらかじめ含浸させておくと、成形での流動性を上げまた展性を上げることができる。成形での加熱温度は70℃以上280℃未満であり。各成形法では圧力は最も適した値が選ばれるが、成形物1cm2当たり50N以上1500N未満、すなわち、面圧は0.5MPaから15MPaの間である。成形物中に気泡を生じさせないために、加熱加圧中に圧を一時的に開放して脱泡を行う操作をするか、あるいは水の100℃以下に冷却してから加圧を解放して成形物を取り出してもよい。なお、成形物の端くずや形状等が歪んでしまった成形物は砕片化にして上記の混合物に加えて再混練してリサイクル使用することができる。また、最初に厚いシートを製造し、これを適当な形状に型抜きするか、もしくは切り整えて金型に仕込むことでフィルムや皿等の任意の形状に成形することもできる。さらには、成形後に成形物をホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド、植物タンニン等の架橋剤の水溶液で処理してもよい。
【0034】
以下に、フィルム、シート、カップ等成形物の製造法およびフィルム、シートの機械的物性、膨潤度、土壌中での崩壊について実施例を挙げる。基材(水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質)と結着剤と可塑剤と架橋剤であるイソシアネート基、エポキシ基、カルボン酸基を有するところの物質の組み合わせと重量比については一つの実施形態として示しているのであって、実施例で示す組み合わせと重量比にのみに限定されるものではない。実施例での成形は平面プレス法を主にしているが、加熱を開始してから最終までの温度はサーモコントローラで制御され、最終の加熱温度に達してから圧力を保持しながら20秒から2分間保持した。プレスの加熱速度は特に断らない限り通常は毎分30℃又は40℃である。最終の加熱温度や加熱速度は一つの実施形態として示しているのであって、実施例のみに限定されるものではない。また、面圧(MPa)はプレスによる荷重(kgf)を雌金型の片面の面積(cm2)で除した値から求めたが、面圧値も実施例のみに限定されるものではない。なお、雌金型の縁は幅2mm深さ1.5mmの溝が数カ所設けてあり、プレス中に金型に納まりきれない余分の半溶融状態の被加熱加圧物はこの溝から押し出されて外部に逃げるができる。成形物の機械的物性(最大破断強度、最大破断伸度、ヤング率)は、サン科学(株)のCR-300レオメーターを使って、長方形(幅13mm、長さ80mm)に型抜きした試験片(厚さ0.20mm - 1.0mm)を10mm/分の引張速度でRH60-70%、温度23-25℃にて、各試料の処女試験片について3回程度の測定を行いベスト値を採用した。引っ張り初期は応力とひずみはほぼ直線関係にあった。最大破断伸度(%)、初期弾性域におけるヤング率、膨潤度(%)と溶出度(%)はそれぞれ次の数式で求めた;参照[数1],[数2]、[数3]、[数4]。なお、膨潤度は水温25℃の水に24時間、浸漬したときを基本としており、溶出度で補正していない。文中のmmはミリメートル、mLはミリリットルの意味である。
(数1)
最大破断伸度(%)=100x(破断時の長さ-初期の長さ)/初期の長さ
(数2)
ヤング率=初期の応力/応力によって生じたひずみ
(数3)
膨潤度(%)=100x(浸漬後の重量-浸漬前の重量/浸漬前の重量
(数4)
溶出度(%)=100x(浸漬前の乾燥重量 -膨潤した成形物の乾燥重量)/浸漬前の乾燥重量
【実施例0035】
羊毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の調製。ウールトップの製造での副産物であるくず(メリノ羊毛とコリデール羊毛の混合物、100g)を水で洗浄し、水を加えて、全量を約1L(リットル)とした。加熱して85-97℃に達してから、二亜硫酸ナトリウム(30g)を入れ、同温度で30分間、時々攪拌しながら、エヤーポンプで空気を吹き込みながら、加熱した。この操作でウール繊維は当初のボリューム感を失いクタクタの状態になった。室温まで冷却後、不溶物をステンレス製ふるいでわけ取り、水で洗浄し、再び水を加え,3M苛性ソーダ水溶液を加えることでpHが6.5-8.5になるように調節した。遠心して固形物を風乾して水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を得た;収量、約94g。これをミルで粉末状にした。当該S-スルホン化ケラチンタンパク質のアミノ酸分析によるとシステイン、ハーフシスチン残基以外のアミノ酸残基は洗浄した原料羊毛の値に準じていた。一方、S-スルホネート基(―S―SO3
-)の含量はFTIRスペクトルでのS-O伸縮振動吸収バンド(1201cm-1と1023cm-1)の面積増減をS-エチルチオスルホ酸ナトリウム(C2H5S-SO3
- Na+)を標準試料に使って比較することで概算したところ(参考:非特許文献26)、原料の羊毛繊維のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計値(全アミノ酸残基の12.1%)の60±10%がS-スルホシステイン残基(化学式1)となっていることが示唆された。
羽毛を原料とする水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質の調製。廃棄処分の羽枕から取り出した羽毛を(ホワイトグース、100g)を陰イオン界面活性剤の水溶液で、続いて水で洗浄し、最後に水を加えて、全量を約1L(リットル)とした。 加熱して85-97℃に達してから、二亜硫酸ナトリウム(30g)を入れ、同温度で20分間、時々攪拌しながら、エヤーポンプで空気を吹き込みながら、加熱した。この操作で羽毛は当初のボリューム感を失いクタクタの状態になった。室温まで冷却後、不溶物をステンレス製ふるいでわけ取り、水で洗浄し、再び水を加え,3M苛性ソーダ水溶液を加えることでpHが6.5-8.5になるように調節した。遠心して固形物を風乾して水不溶性S-スルホン化ケラチンタンパク質を得た;収量、約85g。これをミルでほぐして白色粉末状とした。当該S-スルホン化ケラチンタンパク質のアミノ酸分析によるとシステイン、ハーフシスチン残基以外のアミノ酸残基は洗浄した原料羊毛の値に準じていた。一方、S-スルホネート基(―S―SO3
-)の含量を実施例1に記す方法で概算したところ、原料の羽毛のシステイン残基とハーフシスチン残基の合計値(全アミノ酸残基の約6%)の40±10%がS-スルホシステイン残基(化学式1)となっていることが示唆された。